特許第6326558号(P6326558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6326558被験物質又は物品が皮膚に与える影響を評価する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6326558
(24)【登録日】2018年4月20日
(45)【発行日】2018年5月16日
(54)【発明の名称】被験物質又は物品が皮膚に与える影響を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20180507BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20180507BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180507BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20180507BHJP
【FI】
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Q
   G01N33/50 Z
   G01N21/64 Z
   A61B5/10 300Q
【請求項の数】38
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-547589(P2017-547589)
(86)(22)【出願日】2017年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2017015797
【審査請求日】2017年9月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】布施 千絵
(72)【発明者】
【氏名】森崎 尚子
(72)【発明者】
【氏名】菅田 慶一
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−247570(JP,A)
【文献】 特開2005−189011(JP,A)
【文献】 特開2005−034424(JP,A)
【文献】 特開2007−151899(JP,A)
【文献】 特開2013−134087(JP,A)
【文献】 ZHAI, H. et al.,Hydration vs. skin permeability to nicotinates in man,Skin Research and Technology,Blackwell Munksgaard,2002年 2月,Vol.8/No.1,pp.13-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/64
A61B 5/00
A61B 5/06−5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触した状態を所定時間維持する接触工程、
前記接触工程に続く、皮膚の任意の深さにおける角層の断面画像を取得する、接触後状態の取得工程、
前記の、接触後状態の取得工程において取得した角層の断面画像より、皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積とを取得する、接触後の皮丘領域の情報取得工程、及び
前記皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を演算する、開口部面積比演算工程、
を有する、被験物質又は物品のヒトの皮膚のバリア機能への影響を評価する方法であって、
皮丘領域面積に対する開口部面積の比率と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を基準値として設定し、
取得した皮丘領域面積に対する開口部面積の比率と基準値とを比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、評価方法。
【請求項2】
前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間が、1時間以上6時間以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、
皮膚の深さ方向における、皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を測定し、
測定した開口部面積の比率と、皮膚のバリア機能とを関連付け、
皮膚の任意の深さにおける開口部面積の比率と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの開口部面積の比率を、前記基準値として設定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性をさらに測定し、指標物質の浸透性の結果から前記基準値を設定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた後のヒトの角層の構造データを取得し、
被験物質又は物品の接触後の角層の構造データと基準データとを比較することで、被験物質又は物品が、ヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷前に、ヒトの角層の角層厚、及び角層の断面写真を取得し断面写真より得られる皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積との比率である、皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2についての初期構造データを取得し、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷終了直後に、角層厚及び皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2の構造データの取得と、指標物質を皮膚に適用して該指標物質の浸透度の測定を行い、
角層厚についての水又は水溶液の負荷前の初期構造データから水又は水溶液の負荷終了直後の角層厚についての構造データへの変化、及び/又は皮丘領域の開口部面積比についての水又は水溶液の負荷前の初期構造データから水又は水溶液の負荷終了直後の皮丘領域の開口部面積比についての構造データへの変化と、指標物質の浸透度から、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性を決定し、
指標物質の浸透性が亢進するときの前記構造データを、皮膚バリア機能の基準データとする、
被験物質又は物品の評価方法。
【請求項7】
前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間が、1時間以上6時間以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
被験物質又は物品の接触前後に取得した皮膚の角層の角層厚及び/又は皮丘領域の開口部面積比の構造データを、前記基準データと比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、
請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を深さ方向に計測し、皮膚表面から、顆粒層の細胞核とその周囲に局在するミトコンドリアに由来する斑点が確認されるまでの距離を、前記角層厚として決定する、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の1.8倍以上増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の2.2倍の増加より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
皮膚表面から、最大で20μmの深さまでの範囲で、角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、3%以上の値の変化量で増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項1〜9及び13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率の変化量が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、8%の増加より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項1〜9及び13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
皮膚の物質浸透性が変化するときの角層の角層厚、及び角層の断面写真を取得し断面写真より得られる皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積との比率である、皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2それぞれの状態を基準状態と設定し、
被験物質又は物品をヒトの皮膚に1時間以上6時間以下接触させ、
接触前後の皮膚の角層の角層厚及び開口部面積比から選ばれる1又は2状態の変化の情報を取得し、
取得した情報に含まれる、角層の角層厚及び/又は開口部面積比の状態の変化、各基準状態と比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、
被験物質又は物品の評価方法。
【請求項17】
水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、
皮膚の角層構造を測定し、
測定した皮膚の角層構造と、皮膚のバリア機能とを関連付け、
皮膚の角層構造と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮膚の角層構造を、前記基準データ又は基準状態として設定する、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性をさらに測定し、指標物質の浸透性の結果から前記基準状態を設定する、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を計測する、請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記角層構造として角層厚を測定する、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を深さ方向に計測し、皮膚表面から、顆粒層の細胞核とその周囲に局在するミトコンドリアに由来する斑点が確認されるまでの距離を、前記角層厚として決定する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の1.8倍以上増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の2.2倍の増加より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項25】
前記角層構造として皮丘領域内の開口部を計測する、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を計測し、皮丘領域内の開口部の有無を計測し、又は角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
皮膚表面から、最大で20μmの深さまでの範囲で、角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、3%以上の値の変化量で増加した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率の変化量が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、8%の増加よりも小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
皮膚の角層構造を非侵襲的に計測する、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
被験物質又は物品を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒトの皮膚で評価する、請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記被験物質又は物品の接触後の皮膚の角層構造が、基準以上の変化量で変化した場合、バリア機能は低下したと評価する、請求項1〜10、13、16〜22、25〜27、30及び31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記被験物質又は物品の接触後の皮膚の角層構造の変化量が、基準より小さい場合、バリア機能は変化していないと評価する、請求項1〜10、13、16〜22、25〜27及び30〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
2光子励起顕微鏡、多光子励起顕微鏡、In vivo共焦点レーザー顕微鏡、光干渉断層計、又は超音波断層撮影装置を用いて角層構造を計測する、請求項1〜9、11〜19、21、23〜25及び27〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記被験物質が、水若しくは水蒸気、皮膚化粧料、皮膚保湿剤若しくは皮膚外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、並びに生体由来の分泌物若しくは排泄物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記物品が、吸収性物品、蒸気温熱具、創傷保護材、マスク、又はゴム手袋である、請求項1〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記吸収性物品が生理食塩水又は擬似尿を含有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
被験物質又は物品のヒトの皮膚への接触による皮膚の角層の角層厚、及び角層の断面写真を取得し断面写真より得られる皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積との比率である、皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2と、皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、関連性に関する情報に基づき、被験物質又は物品の接触による角層の角層厚及び/又は開口部面積比の変化から、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質又は物品が皮膚に与える影響を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、体内からの水分や生体成分の損失、並びに外部からの異物の進入を防ぐ機能を有している。このような機能は一般に、「皮膚のバリア機能」と呼ばれている。皮膚のバリア機能は主に、皮膚の最外層に存在する角層が担っている。
【0003】
健常な皮膚の一般的性質として、角層の水分量は皮膚表面で約20%〜30%であることが知られている。深さ方向へ進むにつれ徐々に水分量は増加し、表皮では水分量は約70%となる。そして、角層は人の目に触れる部分であるため、化学物質などの異物が皮膚に侵入した場合、炎症などの肌トラブルが一目瞭然で認識される。
また、おむつ、生理用品などの吸収性物品や、創傷保護材、マスク、ゴム手袋などで皮膚を被覆又は閉塞し、皮膚を湿潤状態におくと、皮膚トラブルが生じる場合がある。実際に多くの女性は、生理用品の使用期間中に、かゆみやかぶれ等の皮膚トラブルに悩んでいる。また、赤ちゃんのおむつかぶれも頻度高く認められている。このような皮膚トラブルも、汗、尿、経血などの水分が皮膚に接触することで、角層が水和、膨潤し、皮膚のバリア機能が低下するためと考えられている。
これとは逆に、医薬品、医薬部外品、化粧料を皮膚に塗布してケアする場合、これらに含まれる有効成分を角層に十分に浸透させることが重要である。
このように、角層に対する物質の浸透性は、医療分野や美容分野において非常に重要な要素の1つである。
【0004】
これまでに、ヒトの前腕内側に過剰な水分を含むガーゼやおむつを貼付した場合、皮膚の水分量が増加して角層が膨潤し、その結果ニコチン酸メチルの物質透過性が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。このような現象に基づき、皮膚のバリア機能の評価方法として、ニコチン酸メチルを皮膚に塗布し評価する方法が汎用されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。この方法では、ニコチン酸メチルが有する血管拡張作用により誘導される紅斑に基づき、皮膚のバリア機能を評価する。
しかし紅斑は、血流、外気温度、体温上昇、体温降下、身体の動き、発汗、被験者の皮膚色など、皮膚機能以外の要因によっても影響を受ける。よって、前述の方法ではバリア機能の評価結果が様々な要因(制御された環境や状況を除く)に左右されるおそれがあった。また、ニコチン酸メチルは血管拡張作用を有するため、被験者の皮膚にニコチン酸メチルを塗布すること自体、負担である可能性も考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Skin Res. Technol., 2002, vol. 8(1), p. 13-18
【非特許文献2】Contact Dermatitis, 1991, vol. 25(1), p. 35-38
【非特許文献3】Pharmaceutical Research, 2000, vol. 17(2), p. 141-147
【発明の概要】
【0006】
本発明は、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触した状態を所定時間維持する接触工程、
前記接触工程に続く、皮膚の任意の深さにおける角層の断面画像を取得する、接触後状態の取得工程、
前記の、接触後状態の取得工程において取得した角層の断面画像より、皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積とを取得する、接触後の皮丘領域の情報取得工程、及び
前記皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を演算する、開口部面積比演算工程、
を有する、被験物質又は物品のヒトの皮膚のバリア機能への影響を評価する方法に関する。
【0007】
また本発明は、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた後のヒトの角層の構造データを取得し、
被験物質又は物品の接触後の角層の構造データと基準データとを比較することで、被験物質又は物品が、ヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷前に、ヒトの角層の初期構造データを取得し、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷終了直後に、角層厚、及び角層の断面写真を取得し断面写真より得られる皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積との比率である、皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2の構造データの取得と、指標物質を皮膚に適用して該指標物質の浸透度の測定を行い、
初期構造データから水又は水溶液の負荷終了直後の構造データへの変化と、指標物質の浸透度から、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性を決定し、
前記関連性が変化したときの前記構造データを、皮膚バリア機能の基準データとする、
被験物質又は物品の評価方法に関する。
【0008】
さらに本発明は、被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
皮膚の物質浸透性が変化するときの角層の内部構造の状態を基準状態と設定し、
被験物質又は物品をヒトの皮膚に1時間以上6時間以下接触させ、
接触前後の皮膚の角層構造の変化の情報を取得し、
取得した情報を基準状態と比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、
被験物質又は物品の評価方法に関する。
【0009】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の好ましい実施態様を説明するフローチャートである。
図2】角層構造における開口部面積比の算出方法を説明する図である。
図3】皮膚への水分負荷前の2光子励起顕微鏡を用いて計測した角層の構造の変化を示す、皮膚の深さ方向の連続写真(図面代用写真)である。なお図3において、白抜きの矢印は細胞核を示す。
図4】皮膚への水分の負荷量が0.20mL/cm2の場合における、2光子励起顕微鏡を用いて計測した角層の構造の変化を示す、皮膚の深さ方向の連続写真(図面代用写真)である。なお図4において、白抜きの矢印は細胞核を示す。
図5】2光子励起顕微鏡を用いて撮影した、皮膚角層の図面代用写真である。図5(a)は、皮膚への水分負荷前の顕微鏡写真であり(皮膚表面からの深さ:4.8μm)、図5(b)は、皮膚への水分負荷量が0.02mL/cm2の場合の顕微鏡写真であり(皮膚表面からの深さ:8.4μm)、図5(c)は、皮膚への水分負荷量が0.04mL/cm2の場合の顕微鏡写真であり(皮膚表面からの深さ:8.4μm)、図5(d)は、皮膚への水分負荷量が0.20mL/cm2の場合の顕微鏡写真である(皮膚表面からの深さ:8.4μm)。なお図5(c)及び(d)において、白抜きの矢印は開口部(穴状構造)の存在部位を示す。
図6】皮膚への水分の負荷後における、紅斑スコアの変化量と、角層厚の変化量とのプロット図である。
図7】皮膚への水分の負荷後における、紅斑スコアの変化量と、角層表面から12μmの深さにおける開口部面積比の変化量とのプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非侵襲的で、被験者に対して負担が少なく安全、簡便かつ短時間に、被験物質又は物品が皮膚バリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法を提供する。
【0012】
従来より、皮膚の最表層に位置する角層の水分による膨潤状態(水和状態)が皮膚のバリア機能に影響し、それに伴い皮膚への物質の透過性も変化することが考えられていた。よって、被験物質又は物品が皮膚と接触することによって生じる角層の水和状態を把握できれば、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能にどのような影響を与えるかを、被験者に負担が少なく、様々な要因による影響を受けずに評価できるものと期待される。
しかし、皮膚への物質透過性変化と、その際の皮膚内部の構造との関係性について、詳細には解明されていなかった。
【0013】
そこで本発明者らは、生きたヒト皮膚における物質の透過性と、皮膚の最表面に位置する角層の構造との間の関連性について検討を行った。その結果、角層の微細構造と、皮膚への物質の透過性との間で高い関連性があることを生きたヒトにおいて初めて見出した。そして、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた前後での、非侵襲的に計測した生きたヒトの皮膚の角層構造の変化から、被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価できることを見い出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0014】
本発明では、角層の微細構造と皮膚のバリア機能との関連性に基づき、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の角層構造から皮膚のバリア機能を評価する。よって本発明によれば、被験物質又は物品が皮膚に与える影響を安全、簡便かつ短時間に知ることができる。
【0015】
本発明では、図1に示すように、被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ(S1)、被験物質又は物品の接触前後に角層構造の変化の情報を取得し(S2)、取得した情報から、前記被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価する(S3)。ここで、皮膚のバリア機能に与える影響の解析と評価は、角層構造と皮膚のバリア機能との関連性に基づいて行われる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本明細書において「バリア機能」とは、皮膚外部から内部への物質の浸透性を指す。
本明細書において「被験物質」とは、皮膚との接触や皮膚への適用により、皮膚内へ浸透する物質(例えば、化合物、化学物質、色素、生体由来の分泌物や排泄物、保湿剤、外用剤、化粧料)をいう。なお「被験物質」及び後述する「指標物質」には、水溶性成分や疎水性成分も包含される。物質の具体例としては、水若しくは水蒸気、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号(タートラジン)、赤色215号(ローダミンBステアレート)、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、尿、汗、経血、便、擬似尿、擬似経血、擬似便、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分が挙げられる。
【0017】
まず、被験物質又は物品の皮膚への接触前後で、バリア機能の評価を行う部位の角層の構造を計測する。角層構造は、非侵襲的に計測することが好ましい。この場合、被験者に対して負担が少なく、安全に皮膚のバリア機能を評価できる。
角層の構造を非侵襲的に計測する方法は、常法から適宜選択することができる。例えば、2光子励起顕微鏡、多光子励起顕微鏡、In vivo共焦点レーザー顕微鏡、光干渉断層計(OCT)、超音波断層撮影装置などを用いる方法が挙げられる。
【0018】
本発明では、2光子励起顕微鏡などの、角層の構造を非侵襲的に計測できる装置を用いて、角層の内部構造、特に角層厚、皮丘領域に存在する開口部や、皮丘領域面積に対する開口部面積の比率など、を計測する。
ヒトの皮膚に水分を負荷すると、角質細胞が膨潤した観察像や、また細胞間脂質の間にも水分が貯留した像が観察されていた。しかしこれまでの研究結果はいずれも皮膚片が必要であり非侵襲に皮膚内部の構造を観察することはできなかった。
このような知見に対して、本発明者らは、角層厚や開口部などの角層の内部構造の変化が、皮膚の外部から内部への物質の浸透性の亢進に大きく寄与していることを生きたヒトではじめて見出した。後述の実施例でも示すように、角層の内部構造がある一定状態であれば、物質浸透性は亢進しない。しかし、角層の内部構造がある一定状態から変化すると、物質浸透性が亢進する。そこで本発明では、皮膚の物質浸透性が変化するときの角層の内部構造の状態を「基準状態」と設定し、設定した基準状態を指標として皮膚のバリア機能を評価できることをはじめて見出した。なお、後述の実施例では、指標物質の代表例として、水溶性物質であるニコチン酸メチルの浸透性の評価を行った。角層の内部構造がある一定状態(基準状態)から変化すると、皮膚内への物質が分配されやすくなり、物質が皮膚により浸透すると考えられる。
そして、本発明によれば、非侵襲的に計測した角層の内部構造から、前述の角層細胞や細胞間脂質の間で変化した現象を生きたヒトでかつ非侵襲で捉えることができる。
【0019】
本発明において、被験物質又は物品が皮膚バリア機能に与える影響を評価するための、角層の内部構造の基準状態は適宜設定することができる。以下、本発明における基準状態の設定方法ついて、具体例に基づき説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
まず、水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、各水負荷量での皮膚の角層構造を常法により計測する。次に、測定した皮膚の角層構造と、皮膚のバリア機能との関連付けを行う。
そして、皮膚の角層構造と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認された状態に達したときの皮膚の角層構造を「基準状態」として設定する。「基準状態」の設定方法としては、皮膚外部から内部への前記指標物質の浸透性から設定する方法が挙げられる。前述の皮膚への水負荷試験に続いて皮膚への指標物質の負荷試験を行って指標物質の浸透性を常法により測定し、指標物質の浸透性に変化がみられたときの皮膚の角層構造を「基準状態」とすることができる。
本発明おいて、皮膚への浸透性を評価するための指標物質は、適宜選択することができる。例えば、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分が挙げられる。
【0020】
本発明の好ましい態様として、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときや、バリア機能が一定の状態に達したときの、皮膚の任意の深さにおける皮丘領域面積に対する開口部面積の比率(以下、「開口部面積比」ともいう)を前記基準状態とすることが好ましい。
本明細書において「開口部」とは、皮膚の表面から計測したとき角層内部に立体的に存在する球体、楕円球(以下、「穴状構造」ともいう)を皮膚表面と平行な横断面から計測される、長径が2μm〜50μmの円状や楕円状の断面をいう。穴状構造は主に、角層上層から中層に存在する、角層内部の穴状や楕円状の構造体を指す。
なお、穴状構造は、2光子励起顕微鏡を用いて、撮影間隔を1.2μmとして、角層を皮膚の深さ方向に連続撮影した画像(例えば、図4参照)から、穴状構造は連続した円又は楕円として計測される。
【0021】
角層に水分を負荷すると、角質細胞は膨潤し、角層厚が増加する。水負荷がより強い条件では角層厚が更に増加するとともに角層構造に変化が生じ、穴状構造が形成される。
水分の負荷による穴状構造の形成に関与する主な因子としては水分の負荷時間や水分量が挙げられる。これらの因子を調整することで穴状構造の形成を制御できる。具体的には、後述の実施例の方法に従うと、常温で一定以上の水分量を1時間以上ヒトの皮膚へ負荷した場合、角層の構造などが乱れ、その結果として穴状構造又はその断面である開口部が形成される。
水負荷を解除した後、一定時間経過後は2光子励起顕微鏡で角層を観察すると穴状構造又は開口部は観察されない。穴状構造の形成は角層において可逆的な変化である。
図4に示す、角層を皮膚の深さ方向に2光子励起顕微鏡で連続撮影した画像から、深さ方向の画像の撮影間隔は1.2μmであることを踏まえると、穴状構造は連続した円又は楕円、すなわち開口部として観察される。
【0022】
本発明において、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときや、バリア機能が一定の状態に達したときの、角層厚を前記基準状態とすることもできる。
本発明の別の好ましい態様として、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときや、バリア機能が一定の状態に達したときの角層構造の厚さ(以下、「角層厚」ともいう)を前記基準状態とすることが好ましい。本発明によれば、角層厚の変化を測定することで、定量的かつ客観的に皮膚のバリア機能に与える影響を評価できる。
2光子励起顕微鏡で角層構造を深さ方向に計測し、一定の深さに達すると、黒い円状の細胞核とその周囲を取り囲む白い斑点が出現する。この斑点は顆粒層の細胞核の周囲に局在するミトコンドリア由来の蛍光である。よって、細胞核と周囲の白い斑点の有無で角層と顆粒層とを区別でき、角層表層から顆粒層が検出されるまでの領域の距離を角層厚とすることができる。
【0023】
さらに本発明において、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときや、バリア機能が一定の状態に達したときの基準状態の指標として、前記開口部面積比と角層厚とを組合せて用いてもよい。
【0024】
後述の実施例でも示すように、角層厚の変化と皮膚のバリア機能とは強い関連性を有し、角層厚が増加すると物質の皮膚への浸透性が亢進する。
本発明の好ましい態様では、上述のような角層厚の変化とバリア機能との関連性に基づいて、被験物質又は物品の接触による角層厚の変化を計測し、計測結果から、被験物質又は物品の接触により皮膚のバリア機能に与える影響を評価する。
例えば、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の皮膚を対象とし、被験物質又は物品の接触前の角層厚に対する被験物質又は物品の一定時間接触後の角層厚の変化量の基準値を、1.8倍、好ましくは2.0倍、より好ましくは2.2倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の角層厚が前記基準値以上増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下した、と評価できる。これに対して、角層厚の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。
【0025】
後述の実施でも示すように、開口部面積比も、皮膚のバリア機能に影響する。
本発明では、2光子励起顕微鏡などを用いて開口部の有無や開口部面積比を計測又は算出することが好ましい。バリア機能との関連性を有する開口部面積比を算出することで、定量的かつ客観的に皮膚のバリア機能に与える影響を評価できる。
本明細書において、開口部面積比は、角層の構造を非侵襲的に計測できる装置により得られた画像から皮溝で囲まれる皮丘全体の面積を画像処理ソフトウェアで算出する。次に、その皮丘内に含まれる開口部の全面積を算出する。そして、皮丘全体の面積に占める、開口部の総面積の割合を100分率で計算し、開口部面積比を算出する。
【0026】
角層構造における開口部面積比の算出方法を、図2を参照して具体的に説明する。ここで、図2(a)は、皮膚表面からの深さが4.8μmの角層の内部構造を、2光子励起顕微鏡を用いて撮影した画像であり、図2(b)は、皮膚表面からの深さが8.4μmの角層の内部構造を、2光子励起顕微鏡を用いて撮影した画像である。
まず、皮膚の深さ方向に連続で撮影した画像から角層の微細構造を3次元的にとらえ、およそ角層表層での角層が始まる領域と角層下層での顆粒層がはじまる領域を認識することで、角層の領域を区別する。そして、角層の表層、特に角層の領域が始まる画像ではまず皮溝と皮丘を区別する(図2の上段参照)。角層表層は不均一に起伏しているため、対物レンズの窓材には皮丘部分のみが密着しやすく、皮溝部分は対物レンズには密着しにくくコンタクト剤が存在する層となり構造等が存在しない、すなわち蛍光物質が存在しないため、計測することができない。一方で対物レンズと密着した皮丘は蛍光物質が存在するため計測可能であることから、皮丘と皮溝を区別できる。そして、皮溝と皮丘との境界線を点線で、皮丘の領域の中に含まれる開口部を実線で、それぞれ囲む(図2の下段参照)。
次に、点線で囲んだ内部の面積の総和(皮丘全体の面積)と、実線で囲んだ部分の面積の総和(開口部の総面積)とを、それぞれ常法により算出する。そして、皮丘全体の面積に占める、開口部の総面積の割合を100分率で計算し、開口部面積比を算出する。
【0027】
本発明において開口部面積比を算出する範囲は、皮膚表面からの深さが、最大20μmまでの間の任意の深さとするのが望ましい。ただし、角層の深いところでは、励起光が減衰する。あるいは励起光による自家蛍光を検出する感度が低下する。そのため、皮膚表面からの深さが好ましくは15μmまで、より好ましくは12μmまで、の範囲がより望ましい。一方、皮膚の表面に近い、角層の浅いところでは、開口部(穴状構造)の形成が少ない。そのため、開口部面積比の算出は、皮膚表面からの深さが好ましくは6μmまで、より好ましくは9μmまでの範囲で、最低限行うことが望ましい。
【0028】
後述の実施例でも示すように、開口部面積比と皮膚のバリア機能とは強い関連性を有し、開口部面積比が増加するとニコチン酸メチルなどの指標物質の皮膚への浸透性が亢進する。
本発明では、上述のような角層構造とバリア機能との関連性に基づいて、被験物質又は物品の接触前後の角層構造を計測し、角層構造の変化から皮膚のバリア機能に与える影響を評価する。
例えば、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の皮膚を対象とし、皮膚表面から所定の深さまで(好ましくは皮膚表面(0μm)から最大で20μmの深さまで、好ましくは最大で15μmの深さまで、より好ましくは最大で12μmまで、かつ、少なくとも6μmの深さまで、好ましくは9μmの深さまで)における、被験物質又は物品の接触後の開口部面積比の変化量の基準値を、3%、好ましくは4.5%、より好ましくは8%に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の、皮膚表面から所定の深さにおける開口部面積比が前記基準値以上増加した場合に、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進し、被験物質又は物品の接触によりバリア機能は低下した、と評価することができる。これに対して、開口部面積比の変化量が前記基準値より小さい場合、被験物質又は物品の接触によってもバリア機能は変化していないと評価できる。
【0029】
また、通常健常者の皮膚には穴状構造は計測されない場合が多いので、被験物質又は物品の接触前の開口部面積比を0%とし、被験物質又は物品の接触後の開口部面積比を開口部面積比の変化量としてもよい。
【0030】
本発明で用いる物品としては、例えば、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、蒸気温熱具、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク、ゴム手袋などが挙げられる。
また、前記被験物質としては、水若しくは水蒸気、化粧料、保湿剤若しくは外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び生体由来の分泌物や排泄物である尿、汗、経血、便などが挙げられる。なお、本発明において、擬似尿、擬似汗、擬似経血、擬似便などは生体由来の分泌物や排泄物に含まれる。
さらに、皮膚への被験物質又は物品の接触時間も適宜設定することができる。例えば、前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間は、1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、さらに好ましくは3時間程度、である。
【0031】
本発明の評価方法は前述のように、被験物質又は物品の接触前後の皮膚の角層構造を計測し、角層構造と皮膚のバリア機能との関連性に基づいて、計測した角層構造の変化から、被験物質又は物品の接触により皮膚のバリア機能、特に物質の浸透性に与える影響を評価する。
【0032】
また、前述の、角層構造とバリア機能との関連性に基づいて、非侵襲的に計測した角層構造から、角層の状態を知ることができる。
例えば、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の皮膚を対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を比較する。そして、被験物質又は物品の接触前後の角層厚の変化量の基準値を、1.8倍、好ましくは2.0倍、より好ましくは2.2倍に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の角層厚が前記基準値以上増加した場合に、角層のバリア機能が低下したと評価できる。
あるいは、皮膚を洗浄し、最低20分間順化した後の健常者の皮膚を対象とし、皮膚表面から初期の角層厚12μm程度までの任意の深さにおける、被験物質又は物品の接触前後の開口部面積比を測定する。そして、被験物質又は物品の接触前後の開口部面積比を比較する。そして、被験物質又は物品の接触前後の開口部面積比の変化量の基準値を、3%、好ましくは4.5%、より好ましくは8%に設定する。そして、実際に測定した被験物質又は物品の接触後の開口部面積比が前記基準値以上増加した場合に、角層のバリア機能が低下したと評価できる。
【0033】
本発明の評価方法を利用して、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、皮膚化粧料若しくは外用剤、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク若しくはゴム手袋、蒸気温熱具などの製品の性能を評価することができる。
例えば、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋については、これらの着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品の性能(例えば、水分(濡れ)の吸収性、水蒸気(蒸れ)の外部への発散性、皮膚トラブルの起こしやすさ)を、安全で簡便に短時間で評価できる。なお、吸収性物品の評価の際には、生理食塩水や擬似尿などを含ませた吸収性物品を評価に用いてもよい。
本発明により物品の着用や適用後の角層構造の変化を評価すれば、ヒトの皮膚に本実施例で使用したニコチン酸メチルなどの物質を塗布する必要なく、物質の透過性を評価することができる。具体的には、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋について、現行品と改良品との比較の際に、装着前後の角層厚や角層の穴状構造から物質透過性を推し量ることができる。このようにすれば、吸収性物品などの開発を効率よく行うことができる。
また、皮膚の水和状態を利用して、化粧料、外用剤などに含まれる有効成分を皮膚に浸透させることができることが報告されている(例えば、J. Invest. Dermatol., 1963, vol. 41, p. 307-311参照)。よって、化粧料、外用剤、蒸気温熱具などの皮膚への塗布、貼付又は着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品に含まれる有効成分などの皮膚への透過性を、安全で簡便に短時間で評価できる。
【0034】
本発明の、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステムは、被験物質又は物品の接触による皮膚の角層構造と皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、関連性に関する情報に基づき、被験物質又は物品の接触による角層構造の変化から、前記影響を評価する。
本発明のシステムはいわゆるコンピュータであり、例えば、バスで相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インタフェース等を有する。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。入出力インタフェースは、表示装置や入力装置等のようなユーザインタフェース装置と接続される。入出力インタフェースは、ネットワークを介して他のコンピュータと通信を行う通信装置等と接続されてもよい。
【0035】
本発明の評価方法及び評価システムは、ヒトの皮膚、好ましくは、被験物質又は物品を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒト(健常者)の皮膚、を対象とすることが好ましい。
【0036】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の評価方法、及び評価システムを開示する。
【0037】
<1>被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触した状態を所定時間維持する接触工程、
前記接触工程に続く、皮膚の任意の深さにおける角層の断面画像を取得する、接触後状態の取得工程、
前記の、接触後状態の取得工程において取得した角層の断面画像より、皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積とを取得する、接触後の皮丘領域の情報取得工程、及び
前記皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を演算する、開口部面積比演算工程、
を有する、被験物質又は物品のヒトの皮膚のバリア機能への影響を評価する方法。
【0038】
<2>前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間が、1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、より好ましくは3時間程度、である、前記<1>項に記載の方法。
<3>皮丘領域面積に対する開口部面積の比率と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を基準値として設定し、
被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ、皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を取得し、
取得した皮丘領域面積に対する開口部面積の比率と基準値とを比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、
前記<1>又は<2>項に記載の評価方法。
<4>水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、
皮膚の深さ方向における、皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を測定し、
測定した開口部面積の比率と、皮膚のバリア機能とを関連付け、
皮膚の任意の深さにおける開口部面積の比率と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの開口部面積の比率を、前記基準値として設定する、前記<3>項に記載の方法。
<5>皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性をさらに測定し、指標物質の浸透性の結果から前記基準値を設定する、前記<3>又は<4>項に記載の方法。
<6>前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<5>項に記載の方法。
【0039】
<7>被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させた後のヒトの角層の構造データを取得し、
被験物質又は物品の接触後の角層の構造データと基準データとを比較することで、被験物質又は物品が、ヒトの皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷前に、ヒトの角層の初期構造データを取得し、
水又は水溶液のヒトの皮膚への負荷終了直後に、角層厚、及び角層の断面写真を取得し断面写真より得られる皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積との比率である、皮丘領域の開口部面積比から選ばれる1又は2の構造データの取得と、指標物質を皮膚に適用して該指標物質の浸透度の測定を行い、
初期構造データから水又は水溶液の負荷終了直後の構造データへの変化と、指標物質の浸透度から、指標物質の浸透度と水又は水溶液の負荷量との関連性を決定し、
前記関連性が変化したときの前記構造データを、皮膚バリア機能の基準データとする、
被験物質又は物品の評価方法。
【0040】
<8>前記被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させる時間が、1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、より好ましくは3時間程度、である、前記<7>項に記載の方法。
<9>皮膚の物質浸透性が変化するときの角層の内部構造の状態を基準状態と設定し、
被験物質又は物品の接触前後に取得した皮膚の角層の構造データを、前記基準状態と比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する、
前記<7>又は<8>項に記載の方法。
<10>前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<7>〜<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11>2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を深さ方向に計測し、皮膚表面から、顆粒層の細胞核とその周囲に局在するミトコンドリアに由来する斑点が確認されるまでの距離を、前記角層厚として決定する、前記<7>〜<10>のいずれか1項に記載の方法。
<12>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の1.8倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは2.2倍以上増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<7>〜<11>のいずれか1項に記載の方法。
<13>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の2.2倍、好ましくは2倍、より好ましくは1.8倍、の増加より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<7>〜<11>のいずれか1項に記載の方法。
<14>皮膚表面から、最大で20μmの深さまで、好ましくは最大で15μmの深さまで、より好ましくは最大で12μmまで、かつ、少なくとも6μmの深さまで、好ましくは9μmの深さまで、の範囲で、角層構造における皮丘領域の開口部面積比を算出する、前記<1>〜<10>のいずれか1項に記載の方法。
<15>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域の開口部面積比を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域の開口部面積比が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域の開口部面積比に対して、3%以上、好ましくは4.5%以上、より好ましくは8%以上の値の変化量で増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<1>〜<10>及び<14>のいずれか1項に記載の方法。
<16>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から12μmの深さにおける、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域の開口部面積比を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域の開口部面積比の変化量が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域の開口部面積比に対して、8%、好ましくは4.5%、より好ましくは3%の増加より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<1>〜<10>及び<14>のいずれか1項に記載の方法。
【0041】
<17>被験物質又は物品が皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、被験物質又は物品の評価方法であって、
皮膚の物質浸透性が変化するときの角層の内部構造の状態を基準状態と設定し、
被験物質又は物品をヒトの皮膚に1時間以上6時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下、より好ましくは2.5時間以上3.5時間以下、より好ましくは3時間程度、接触させ、
接触前後の皮膚の角層構造の変化の情報を取得し、
取得した情報を基準状態と比較し、
比較結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価する、
被験物質又は物品の評価方法。
【0042】
<18>水の負荷量を変えて皮膚への水負荷試験を行い、
皮膚の角層構造を測定し、
測定した皮膚の角層構造と、皮膚のバリア機能とを関連付け、
皮膚の角層構造と皮膚のバリア機能との関連性から、皮膚のバリア機能に変化が確認されるときの皮膚の角層構造を、前記基準データ又は基準状態として設定する、
前記<17>項に記載の方法。
<19>皮膚のバリア機能の変化を確認するために、皮膚外部から内部への指標物質の浸透性をさらに測定し、指標物質の浸透性の結果から前記基準状態を設定する、前記<17>又は<18>項に記載の方法。
<20>前記指標物質が、ニコチン酸メチル、ニコチン酸ヘキシル、乳酸、黄色4号、赤色215号、カフェイン、ユビナール、カロテノイド、レチノール、並びに、皮膚保湿剤、皮膚外用剤、皮膚化粧料若しくは蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<19>項に記載の方法。
<21>2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を計測する、前記<17>〜<20>のいずれか1項に記載の方法。
<22>前記角層構造として角層厚を測定する、前記<17>〜<21>のいずれか1項に記載の方法。
<23>2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を深さ方向に計測し、皮膚表面から、顆粒層の細胞核とその周囲に局在するミトコンドリアに由来する斑点が確認されるまでの距離を、前記角層厚として決定する、前記<22>項に記載の方法。
<24>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の1.8倍以上、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.2倍以上増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<22>又は<23>項に記載の方法。
<25>健常者の皮膚を評価対象とし、被験物質又は物品の接触前後の角層厚を計測し、被験物質又は物品の接触後の角層厚が、被験物質又は物品の接触前の角層厚の2.2倍、好ましくは2倍、より好ましくは1.8倍、の増加より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<22>又は<23>に記載の方法。
<26>前記角層構造として皮丘領域内の開口部を計測する、前記<17>〜<21>のいずれか1項に記載の方法。
<27>2光子励起顕微鏡を用いて角層構造を計測し、皮丘領域内の開口部の有無を計測し、又は角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、好ましくは角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、前記<26>項に記載の方法。
<28>皮膚表面から、最大で20μmの深さまで、好ましくは最大で15μmの深さまで、より好ましくは最大で12μmまで、かつ、少なくとも6μmの深さまで、好ましくは9μmの深さまで、の範囲で、角層構造における皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出する、前記<26>又は<27>項に記載の方法。
<29>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さ、好ましくは皮膚表面から12μmの深さ、における、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、3%以上、好ましくは4.5%以上、より好ましくは8%以上、の値の変化量で増加した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<26>〜<28>のいずれか1項に記載の方法。
<30>健常者の皮膚を評価対象とし、皮膚表面から所定の深さ、好ましくは皮膚表面から12μmの深さ、における、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を算出し、被験物質又は物品の接触後の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率の変化量が、被験物質又は物品の接触前の皮丘領域面積に対する開口部面積の比率に対して、8%、好ましくは4.5%、より好ましくは3%、の増加より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<26>〜<28>のいずれか1項に記載の方法。
【0043】
<31>皮膚の角層構造を非侵襲的に計測する、前記<1>〜<30>のいずれか1項に記載の方法。
<32>被験物質又は物品を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒトの皮膚で評価する、前記<1>〜<31>のいずれか1項に記載の方法。
<33>前記被験物質又は物品の接触後の皮膚の角層構造が、基準以上の変化量で変化した場合、バリア機能は低下した、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、と評価する、前記<3>〜<11>、<14>、<17>〜<23>、<26>〜<28>、<31>及び<32>のいずれか1項に記載の方法。
<34>前記被験物質又は物品の接触後の皮膚の角層構造の変化量が、基準より小さい場合、バリア機能は変化していない、好ましくは皮膚外部から内部への物質の浸透性は亢進していない、と評価する、前記<3>〜<11>、<14>、<17>〜<23>、<26>〜<28>及び<31>〜<33>のいずれか1項に記載の方法。
<35>2光子励起顕微鏡、多光子励起顕微鏡、In vivo共焦点レーザー顕微鏡、光干渉断層計、又は超音波断層撮影装置を用いて角層構造を計測する、前記<1>〜<10>、<12>〜<20>、<22>、<24>〜<26>及び<28>〜<34>のいずれか1項に記載の方法。
<36>前記被験物質が、水若しくは水蒸気、皮膚化粧料、皮膚保湿剤若しくは皮膚外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分若しくは薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、並びに生体由来の分泌物若しくは排泄物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記<1>〜<35>のいずれか1項に記載の方法。
<37>前記物品が、吸収性物品(好ましくは脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、若しくは吸収パット)、蒸気温熱具、創傷保護材(好ましくは絆創膏、ガーゼ、若しくは包帯)、マスク、又はゴム手袋である、前記<1>〜<35>のいずれか1項に記載の方法。
<38>前記吸収性物品が生理食塩水又は擬似尿などを含有する、前記<37>項に記載の方法。
【0044】
<39>被験物質又は物品のヒトの皮膚への接触による皮膚の角層構造と皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、関連性に関する情報に基づき、被験物質又は物品の接触による角層構造の変化から、被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
試験例1 水分負荷前後のニコチン酸メチルの透過性と、角層構造の測定
(1)紅斑スコアの測定
健常な男性、女性10名(20代〜40代)を被験者とした。前腕内側に異なる量の水分を負荷し、水分負荷後のニコチン酸メチルの透過性を評価した。測定は、24〜25℃、相対湿度40〜50%の環境可変室で、20〜30分順化した後に行った。
【0047】
2.5cm×2.5cmのメンバンカット綿(白十字社製)に、脱脂綿1cm2当たりの水分負荷量が0mL(0mL/cm2)、0.02mL(0.02mL/cm2)、0.04mL(0.04mL/cm2)、0.20mL(0.20mL/cm2)となるように蒸留水を含ませ、これを前腕内側にのせ透湿性絆創膏(商品名:スキナゲート)で周囲を固定し3時間貼付した。メンバンカット綿から水分が漏れるのを防ぐため、メンバンカット綿の皮膚と接しない面はドレッシング材(商品名:テガダームTM トランスペアレント ドレッシング)で覆い、貼付中に皮膚が蒸れるのを防ぐためドレッシング材は注射針29G(TERUMO, Japan)で1cm2当たり8個、穴をあけた。メンバンカット綿を貼付している間、試験参加者には運動や屋外での長時間の作業は禁止した。
【0048】
メンバンカット綿を除去した直後に、0.007質量%ニコチン酸メチル水溶液5.0μLを含ませた、直径5mmにくり抜いたろ紙(商品名:Advantec No2)を試験部位に15秒間負荷した。ニコチン酸メチルの負荷から30分後に、生じた紅斑を下記の評価基準に従い目視判定を行った。
目視判定により得られた紅斑スコアから、各水分負荷量でのニコチン酸メチルの透過性を評価した。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
その結果を表1に示す。

(評価基準)
スコア0 :反応なし。
スコア0.5:若干紅い。
スコア1 :ろ紙の面積の半分以上紅い。
スコア2 :ろ紙を当てた面積がはっきり紅い。
スコア3 :ろ紙の面積より大きく紅い。
スコア4 :紅みがろ紙の面積より大きく、腫れている。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、水分の負荷量が0.00mL/cm2又は0.02mL/cm2の場合と比較して、0.04mL/cm2又は0.20mL/cm2の水分を負荷することで、ニコチン酸メチルによる紅斑スコアが有意に上昇した。すなわち、一定量以上の水分を皮膚に負荷することで、ニコチン酸メチルの皮膚への透過性が有意に亢進した。
本試験例の健常なヒトの前腕において、水分の負荷量が少なくとも0.04mL/cm2の場合に皮膚バリア機能が低下していると判断することができる。よって、水分負荷量が0.04mL/cm2の場合の皮膚の状態を、皮膚のバリア機能を評価するための基準状態とすることができる。
【0051】
負荷されたニコチン酸メチルが皮膚へ浸透又は通過し、末梢血管に働きかけ血管拡張作用を示すと、皮膚上で紅斑が観察される。表1に示すように、水分負荷前の皮膚(水分負荷量:0mL/cm2)では、ニコチン酸メチルを負荷しても紅斑は観察されにくい。これは、ニコチン酸メチルが皮膚内へ浸透されにくく、末梢血管まで到達できないためと考えられる。すなわち、水分負荷前の皮膚では、バリア機能が維持されていると推察できる。一方、一定量以上の水分負荷後の皮膚では、ニコチン酸メチルの負荷によって紅斑が観察される。この結果から、水分を負荷することでニコチン酸メチルが皮膚へ浸透又は通過した、すなわち皮膚のバリア機能が低下したと判断できる。
【0052】
(2)2光子励起顕微鏡を用いた角層構造の計測
2.5cm×2.5cmのメンバンカット綿(白十字社製)に、脱脂綿1cm2当たりの水分負荷量が0.02mL(0.02mL/cm2)、0.04mL(0.04mL/cm2)、0.20mL(0.20mL/cm2)となるように蒸留水を含ませ、これを前記(1)項に記載の方法と同様の方法で前記被験者の前腕内側に3時間貼付した。
メンバンカット綿の貼付前と、メンバンカット綿の除去直後に、メンバンカット綿を貼付した部位の皮膚の角層構造を2光子励起顕微鏡(商品名:DermaInspect、JenLab社製)で計測した。対物レンズとカバーガラスのそれぞれの界面の密接な光学的接触(optical contact)のため、対物レンズに油浸オイル(Immersol 518, ZEISS)を滴下し、対物レンズとカバーガラスを密着させた。次に、同様の理由でカバーガラスにJohnson’s baby ベビーオイル(ジョンソン&ジョンソン)を5μL〜10μL程度滴下した後、皮膚を密着させた。角層はケラチンなどの自家蛍光を検出し、顆粒層まで撮影した。
【0053】
角層は主に450nmにピークを持つケラチンなどの自家蛍光により白く見える。角層の表層では角層の領域が白く、すなわち皮丘が計測される。一方、皮丘以外の部位はコンタクトが存在する層、すなわち自家蛍光が存在しないため黒く計測され、すなわち皮溝と識別できる。
深さ方向に計測がすすむにつれ、皮丘の面積が増加する。さらに内部に進み深さ方向の連続画像を取得していくと、細胞核が黒く見え、その周囲にミトコンドリア由来のNADHの自家蛍光が粒状に見える。すなわち、細胞核やNADHの自家蛍光が検出された部位を顆粒細胞と識別できる。このようにして、顆粒層まで撮影を行った。
【0054】
なお、2光子励起顕微鏡の測定条件は以下の通りである。
励起光 780nm
1画像あたりの取得時間 3.7秒
画像のピクセル寸法 256×256ピクセル
視野 120×120μm
1部位につき近傍の3視野計測
深さ方向の連続画像のステップ間隔 1.2μm
【0055】
水分の負荷量が0mL/cm2の場合(水分負荷前または水負荷なし)と、0.20mL/cm2の場合について、2光子励起顕微鏡を用いて、皮膚の深さ方向の角層の構造計測を行った。水分負荷前の結果を図3に、0.20mL/cm2の場合の結果を図4に、それぞれ示す。
図3及び4に示すように、水分負荷の前後で、角層内部の構造に穴状構造などの変化が見られた。角層は、主に450nmにピークを有するケラチンなどの自家蛍光により、白く見える。さらに内部に進み連続画像を取得していくと細胞核が黒く見え、その周囲にはミトコンドリア由来のNADHの自家蛍光が粒状に見え、顆粒細胞が出現する。水分負荷前はケラチンなどの自家蛍光が皮丘全体に均一に計測されるのに対し、水分負荷後では皮丘領域内に黒く抜けた開口部が計測された。
【0056】
さらに、水分負荷量が0mL/cm2、0.02mL/cm2、0.04mL/cm2、0.20mL/cm2の場合の、皮膚表面から所定の深さの角層、水負荷の場合では深さ4.8μmと、それ以外の場合ではおよそ水負荷前の深さに該当する部位の深さ8.4μmの構造を撮影した、2光子励起顕微鏡写真を図5に示す。
図5に示すように、水分負荷量が0mL/cm2又は0.02mL/cm2の場合、開口部はほとんど確認されなかった。そして、負荷する水分量の増加に伴い、角層内部の構造に変化が見られた。特に、表1に示したように水分負荷前と比較して皮膚のバリア機能が低下し、物質透過性が変化した水分負荷量0.04mL/cm2の場合では、図5(c)の白矢印で示したような開口部が計測された。
さらに、水分負荷量をより多くすると、サイズのより大きい開口部が、高頻度で明瞭に計測された(図5(d)参照)。その大きさは、水分負荷量が0.04mL/cm2の場合では、およそ直径3μm〜10μm、Z方向(皮膚の深さ方向)の大きさはおよそ2.4μm〜3.6μmであった。水分負荷量が0.20mL/cm2の場合では、およそ直径3μm〜30μm、Z方向の大きさはおよそ2.4μm〜7.5μm、主には3.6μm〜4.8μmであった。
よって、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するための指標として、角層に存在する開口部の有無を用いることができる。
【0057】
さらに、水分負荷による角層厚の変化についても、測定を行った。
前述のように、角層は主に450nmにピークを持つケラチンなどの自家蛍光により白く見える。さらに内部に進み2光子励起顕微鏡により深さ方向の連続画像を取得していくと、細胞核が黒く見え、その周囲にミトコンドリア由来のNADHの自家蛍光が粒状に見え、顆粒細胞が出現する。
そこで、2光子励起顕微鏡により撮影した深さ方向の連続画像から、目視により角層の始まりと顆粒層が出現する地点を判断し、角層厚を算出した。例えば、図3に示す連続写真では、角層の始まりを1枚目の顕微鏡写真(深さ0μm)とし、顆粒層の出現を連続画像の12枚目(深さ13.2μm)以降と判断し、その差の枚数に連続画像の深さ方向の測定間隔である1.2μmを掛け合わせ、角層厚13.2μmと算出した。
その結果を表2に示す。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、負荷する水分量に応じて、角層厚が変化した。具体的には、水分負荷量が0.02mL/cm2では、水分負荷後の角層厚は水分負荷前と比較して1.34倍に増加した。同様に、前述の基準状態とした、水分負荷量が0.04mL/cm2では、水分負荷後の角層厚は水分負荷前と比較して1.90倍に増加し、水分負荷量が0.20mL/cm2では2.18倍に増加した。
よって、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するための指標として、角層厚を用いることができる。
【0060】
さらに、水分負荷前後の角層厚の変化量についても算出した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、負荷する水分量に応じて、角層厚の変化量が変化した。具体的には、物質の浸透性が亢進していない水負荷量0.02mL/cm2の場合の角層厚の変化量と比べて、より物質浸透性が亢進した水負荷量0.04mL/cm2以降では、角層厚の変化量が大きく増加したことがわかった。
よって、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するための指標として、角層厚の変化量も用いることができる。
【0063】
次に、角層表面から12μmまでの深さにおける開口部面積比を算出した。
2光子励起顕微鏡により得られた画像から、図2を参照して前述したような、一般的な方法に準じて、皮溝で囲まれる皮丘全体の面積を画像処理ソフトウェア(ImageJ)で算出した。次に、皮丘内に含まれる開口部(穴状構造)の面積を算出した。開口部が複数ある場合は、全ての開口部の面積を合算した。そして、皮丘全体の面積に占める、開口部の総面積の割合を100分率で計算し、開口部面積比を算出した。そして、各水分負荷量において、水分負荷後の開口部面積比の変化量((水分負荷後の開口部面積比)−(水分負荷前の開口部面積比))を算出した。
その結果を表4に示す。統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、水分負荷後の皮膚表面から12μmまでの、角層における開口部面積比は、水分の負荷量に依存的して増加した。すなわち、負荷する水分量に応じて、皮膚の角層の構造が変化した。
よって、本発明の評価方法における基準値として、開口部面積比も用いることができる。
【0066】
(3)紅斑スコアと、角層構造とのプロット図の作成
水分含有脱脂綿処理前後のニコチン酸メチルの透過性を示す紅斑スコアの変化値と、角層厚の変化量、又は角層表面から12μmまでの深さにおける開口部面積比の変化量とのプロット図を作成した。角層厚の変化量についての結果を図6に、開口部面積比の変化量についての結果を図7に、それぞれ示す。
図6及び7に示すように、水の負荷量が少ないと、角層厚の変化量は少なく、開口部面積比は低く、紅斑スコアも極めて低い。一方、水の負荷量がある一定値以上増えると、角層厚の変化量や開口部面積比が増え、紅斑スコアも増える傾向が認められる。
【0067】
よって、2光子励起顕微鏡などで非侵襲的に計測した皮膚の角層構造から、水負荷量がある一定値以上増加すると物質の透過性が増えることがわかった。すなわち、2光子励起顕微鏡などで非侵襲的に計測した皮膚の角層構造から、基準状態における角層構造との比較により、皮膚のバリア機能を評価することができる。
【0068】
試験例2 吸収性物品の性能比較試験
(1)皮膚への水分の負荷
健常な女性1名(30代)を被験者とし、吸収性物品が前腕内側の皮膚へ与える影響を評価した。測定は24〜25℃、相対湿度40〜50%の環境可変室で、20〜30分順化した後に行った。
【0069】
(2)2光子励起顕微鏡を用いた角層構造の計測
2種類の吸収性物品(吸収性物品A及び吸収性物品B)を5.0cm×5.0cmに切断して試験片を調製し、それぞれに生理食塩水3.0mLを注入し(0.12mL/cm2試験片面積)、これらを前腕内側に3時間貼付した。なお、吸収性物品Aは市販の使い捨ておむつであり、吸収性物品Bは市販の綿製のおむつである。
試験片の貼付による角層厚の変化を、試験例1と同様、2光子励起顕微鏡で測定した。さらに、角層表面からの深さ12μmまでにおける開口部面積比を、試験例1と同様、2光子励起顕微鏡で測定し、角層表面からの深さ12μmまでにおける開口部面積比の変化量を算出した。
角層厚の変化量の結果を表5に、開口部面積比の変化量の結果を表6に、それぞれ示す。
【0070】
【表5】
【0071】
表5に示すように、吸収性物品Aの貼付後は貼付前と比較して、角層厚は1.21倍増加した。これに対して、吸収性物品Bの貼付後の角層厚は、貼付前と比較して2.0倍増加した。よって、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合の方が、角層厚の増加量が大きかった。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の角層厚は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm2の場合の角層厚の増加分(1.90倍)よりも小さかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の角層厚の増加分は、前記基準値よりも大きいので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0072】
【表6】
【0073】
表6に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合、角層における開口部面積比が増加していた。
また、吸収性物品Aを貼付した場合の開口部面積比の変化量は、試験例1において基準値とした、水分負荷量が0.04mL/cm2の場合の開口部面積比の変化量(4.52±3.4(%))よりも少なかった。よって、吸収性物品Aを貼付しても、バリア機能は変化していないと評価できる。一方、吸収性物品Bを貼付した場合の開口部面積比の変化量は、前記基準値よりも多いので、吸収性物品Bを貼付するとバリア機能は低下すると評価できる。
【0074】
(3)物質透過性の評価
試験片を除去した直後に、0.007質量%の濃度のニコチン酸メチル水溶液を15秒、試験片を貼付した皮膚に負荷し、ニコチン酸メチル処理から20分後の紅斑スコアを試験例1と同様にして目視判定した。
その結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表7に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合と比較して、吸収性物品Bを貼付した場合紅斑スコアが上昇し、ニコチン酸メチルの透過性が亢進していた。
【0077】
上記結果に示すように、吸収性物品Aを貼付した場合、角層厚の増加量、開口部面積比の変化量はいずれも、基準値に比べて小さいと評価できた。よって、吸収性物品Aを貼付した場合は、水溶性物質の透過性が低いと判断される。吸収性物品Aを貼付して水溶性物質の透過性を実際に判定したところ、皮膚の外側から内側への水溶性物質の透過性が低かった。すなわち吸収性物品Aは、上記結果から、水溶性物質の皮膚への透過性は亢進されず、皮膚トラブルを起こしにくい吸収性物品であると言える。
【0078】
一方、吸収性物品Bを貼付した場合、角層厚の増加量、開口部面積比の変化量はいずれも、基準値に比べて大きいと評価できた。よって、吸収性物品Bを貼付した場合は、水溶性物質の透過性が高いと判断される。吸収性物品Bを貼付して水溶性物質の透過性を実際に判定したところ、皮膚の外側から内側への水溶性物質の透過性が上昇していたことがわかった。すなわち吸収性物品Bは、上記結果から、水溶性物質の皮膚への透過性が亢進され、皮膚トラブルを起こしやすい吸収性物品であると言える。
【0079】
以上より、本発明の方法に従って被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触させ、接触前後の皮膚の角層構造の変化を計測した結果から、前記被験物質又は物品が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価する方法として有効であることが確認できた。
【0080】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【要約】
被験物質又は物品をヒトの皮膚に接触した状態を所定時間維持する接触工程、
前記接触工程に続く、皮膚の任意の深さにおける角層の断面画像を取得する、接触後状態の取得工程、
前記の、接触後状態の取得工程において取得した角層の断面画像より、皮丘領域面積と皮丘領域内の開口部面積とを取得する、接触後の皮丘領域の情報取得工程、及び
前記皮丘領域面積に対する開口部面積の比率を演算する、開口部面積比演算工程、
を有する、被験物質又は物品のヒトの皮膚のバリア機能への影響を評価する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7