(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却装置の作動時間における前記コイル部の最低温度と、前記冷却装置の停止時間における前記コイル部の最高温度との差は、10K以上である、請求項1に記載の超電導マグネット。
前記コイル部は、前記コイル部の通電電流を変化させるときの最大電流を通電した場合における発熱量が10W以下である、請求項1または請求項2に記載の超電導マグネット。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0013】
(1) この発明に従った超電導マグネットは、超電導線が巻き回されることによって形成されたコイル部を含む超電導コイルと、コイル部を伝導冷却するための冷却装置と、コイル部に電流を供給する電源と、コイル部の通電電流を制御するとともに、冷却装置の起動および停止を制御可能に構成された制御装置とを備える。制御装置は、冷却装置を停止させた状態においてコイル部の通電電流を変化させる一方で、コイル部の通電電流を一定値に保った状態において冷却装置を起動させる。
【0014】
この構成によれば、冷却装置の運転に伴なう振動の無い状態で、超電導コイルが変動磁場を発生するため、この変動磁場を利用することにより、高精度の磁化特性の測定を簡易な構成で実現できる。
【0015】
(2) 上記超電導マグネットにおいて、好ましくは、冷却装置の作動時間におけるコイル部の最低温度と、冷却装置の停止時間におけるコイル部の最高温度との差は、10K以上である。
【0016】
この構成によれば、冷却装置の冷却能力によって冷却装置を停止させることができる時間が制限されるのを回避することができる。
【0017】
(3) 上記超電導マグネットにおいて、好ましくは、コイル部は、コイル部の通電電流を変化させるときの最大電流を通電した場合における発熱量が10W以下である。
【0018】
これによれば、冷却装置の停止時間において、コイル部にクエンチが発生するのを防止することができる。
【0019】
(4) 上記超電導マグネットにおいて、より好ましくは、コイル部は、コイル部の通電電流を変化させるときの最大電流を通電した場合における発熱量が2W以下である。
【0020】
これによれば、冷却装置の停止時間において、コイル部にクエンチが発生するのをより確実に防止することができる。
【0021】
(5) この発明に従う測定装置は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の超電導マグネットを備え、超電導コイルが発生する変動磁場を利用して被測定対象の磁化特性を測定する。
【0022】
この構成によれば、冷却装置の運転に伴なう振動の無い状態で、超電導コイルが変動磁場を発生するため、この変動磁場を利用することにより、高精度の磁化特性の測定を簡易な構成で実現できる。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明については繰り返さない。
【0024】
(超電導マグネットの構成)
図1は、本発明の実施の形態に従う超電導マグネットの構成を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1の超電導マグネットが有する超電導コイルの構成を概略的に示す図であり、
図3の線II−IIに沿う断面図である。
図3は、
図2の超電導コイルの構成を概略的に示す上面図である。
【0025】
図1を参照して、本実施の形態に従う超電導マグネット100は、超電導コイル91と、断熱容器111と、冷却装置121と、ホース122と、コンプレッサ123と、ケーブル131と、電源132と、制御装置140とを備える。断熱容器111は超電導コイル91を収めている。本実施の形態においては、磁場が印加される試料(図示せず)を収めるための磁場印加領域SCが断熱容器111内に設けられている。
【0026】
図2および
図3を参照して、超電導コイル91は、コイル部10と、冷却ヘッド20と、伝熱部30と、芯部81とを有する。伝熱部30は伝熱板群31および固定具32を有する。伝熱板群31は伝熱板31a〜31eから構成されている。
【0027】
コイル部10は、超電導線が巻き回されることによって形成されており、磁束MFを発生させるためのものである。またコイル部10は、磁束MFが通過する端部(
図2における上端または下端)を有する。またコイル部10は、ダブルパンケーキコイル11a〜11nを有する。ダブルパンケーキコイル11a〜11nは、この順に並ぶように積層されている。軸方向Aa(
図2)は積層方向に対応しており、径方向Arは積層方向に垂直な方向に対応している。
【0028】
ダブルパンケーキコイル11a〜11nの各々は、互いに積層された2つのパンケーキコイル(図示せず)を有する。2つのパンケーキコイルの各々は、帯状の形状を有する酸化物超電導線が巻き回されることによって形成されている。たとえば、酸化物超電導線は、その延在方向に延びるビスマス(Bi)系超電導体と、この超伝導体を被覆するシースとを有する。シースは、たとえば銀や銀合金により形成されている。酸化物超電導線は、帯状面に垂直な磁場が印加されるほど交流損失が増大するような特性を有する。
【0029】
冷却装置121は、たとえばギフォード・マクマホン式冷凍機、パルス管冷凍機またはスターリング冷凍機であって、ホース122を通じて、冷媒を圧縮するコンプレッサ123に接続されている。コンプレッサ123で高圧に圧縮された冷媒(たとえば、ヘリウムガス)は冷却装置121に供給される。この冷媒が冷却装置121内部のモータにより駆動されるディスプレーサによって膨張されることにより、冷却装置121に内設された蓄冷材が冷却される。膨張することにより低圧となった冷媒はコンプレッサ123に戻されて再び高圧化される。
【0030】
冷却ヘッド20は、コイル部10を冷却するためのものであり、冷却可能な端部21と、端部21および冷却装置121とをつなぐ接続部22とを含む。
【0031】
伝熱板群31の各々はコイル部10に取り付けられている。固定具32は冷却ヘッド20の端部21に取り付けられている。固定具32は伝熱板群31を把持している。伝熱板群31のうち固定具32に把持されている部分において、伝熱板31a〜伝熱板31eは互いに直接積層されている。このような構造によって、伝熱部30はコイル部10および冷却ヘッド20を互いに繋いでいる。
【0032】
コイル部10と冷却ヘッド20との間の相対位置は、様々な要因によって変動し得る。この要因は、たとえば、熱膨張収縮の差異、冷却ヘッド20を駆動するためのコンプレッサ123(
図1)による振動、コイル部10とコイル部10によって磁界が印加される試料との磁気的相互作用などである。この変動に起因してコイル部10から冷却ヘッド20へ荷重が加わり得る。冷却ヘッド20が耐え得る荷重は、たとえば100(N)程度までである。
【0033】
コイル部10と、伝熱板群31のコイル部10に取り付けられた部分とは、伝導板とパンケーキコイルとが交互に積層された構成を有している。伝熱板31aは、コイル部10の両端において、ダブルパンケーキコイル11aおよび11mの各々の位置に取り付けられている。伝熱板31bは、ダブルパンケーキコイル11aおよび11bの間と、ダブルパンケーキコイル11mおよび11lの間との各々の位置に取り付けられている。伝熱板31cは、ダブルパンケーキコイル11bおよび11cの間と、ダブルパンケーキコイル11lおよび11kの間との各々の位置に取り付けられている。伝熱板31dは、ダブルパンケーキコイル11cおよび11dの間と、ダブルパンケーキコイル11kおよび11jの間との各々の位置に取り付けられている。伝熱板31eは、ダブルパンケーキコイル11eおよび11fの間と、ダブルパンケーキコイル11jおよび11iの間と、ダブルパンケーキコイル11fおよび11gの間との各々の位置に取り付けられている。
【0034】
言い換えると、伝熱板31a〜31eはこの順に、コイル部10のより端部に近い位置に取り付けられている。また伝熱板31a〜31eのそれぞれは、コイル部10における互いに離れた位置に取り付けられている。
【0035】
伝熱板31aは、積層板であってもよく、好ましくは、同一の厚さを有する単層板が積層されることによって形成されている。あるいは伝熱板31aは、単層板であってもよい。伝熱板31b〜31dの各々も同様である。伝熱板31a〜31dの各々の厚さは、コイル部10の端部(
図2における上端または下端)に近いほど大きい。伝熱板31a〜31dとして積層板が用いられる場合、伝熱板31a〜31dの厚さは、たとえば、各積層板を構成する単層板11の数によって調整することができる。この場合、伝熱板31a〜31dの各々の積層数は、コイル部10の端部に近いほど大きい。
【0036】
伝熱板31a〜31eの材料は、熱伝導率および可撓性が大きい材料が好ましく、たとえばアルミニウム(Al)または銅(Cu)である。Al(またはCu)の純度は99.9%以上が好ましい。伝熱板31a〜31eは、固定具32まで延びることができるように、折曲部FDを有してもよい。
【0037】
固定具32は、部材32aおよび32bと、ねじ34aおよび34bとを有する。ねじ34aは、部材32aおよび32bの間の隙間を調整することができるように設けられている。部材32aおよび32bの間の隙間に伝熱板群31が挟まれており、かつねじ34aが締め付けられていることによって、伝熱板群31が固定具32に把持されている。すなわち伝熱板31a〜31eが共に固定具32に把持されている。ねじ34bは、部材32aおよび32bの各々が冷却ヘッド20の端部21の側面SDを締め付けることができるように設けられている。これにより固定具32は冷却ヘッド20の端部21に取り付けられている。
【0038】
本実施の形態に従う超電導マグネット100は、被測定対象の電磁気的特性評価を行なうときに使用する測定装置に適用することが可能である。このような測定装置としては、たとえば、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)やBHカーブトレーサなどがある。一例として、振動試料型磁力計においては、超電導コイル91により磁場を発生させて、磁場印加領域SC(
図1)に設置した被測定対象を一定振幅、一定周波数にて振動させる。これにより、被測定対象の磁化の程度を検出コイルに誘起する磁気誘導電圧として取り込み測定する。また、BHカーブトレーサにおいては、超電導コイル91により磁場を発生させて、被測定対象の磁化曲線(外部磁場と被測定対象の磁化との関係を示す)を測定する。
【0039】
制御装置140は、上述した被測定対象の磁化特性の測定時において、予め設定された磁場発生パターンに従って超電導コイル91に磁場を発生させるために、コイル部10に通電する電流を制御する。一例として、制御装置140は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部とを含むマイクロコンピュータを主体として構成される。
【0040】
このコイル部10の通電電流の制御に加えて、制御装置140は、冷却装置121の起動および停止をも制御する。具体的には、制御装置140は、コンプレッサ123の動作を停止することにより冷却装置121の冷却ヘッド20を停止(オフ)させる。また、制御装置140は、コンプレッサ123を駆動することにより、停止している冷却ヘッド20を起動(オン)する。
【0041】
ここで、冷却装置121が作動中であるときには、コンプレッサ123およびディスプレーサなどが発生する機械的な振動が超電導コイル91や被測定対象に伝わり、信号ノイズを発生させることがある。このような信号ノイズは、高感度および高精度化が進んでいる測定装置の高性能化を阻害する要因となる。
【0042】
そこで、本実施の形態に従う超電導マグネット100では、超電導コイル91に発生させる磁場パターンに応じて、冷却装置121の起動および停止を制御する。より具体的には、超電導コイル91が発生する磁場を変化させている状態において、冷却装置121を停止させる。冷却装置121を停止させた状態において超電導コイル91に変動磁場を発生させることにより、振動の無い状態で被測定対象の磁化特性を測定することができる。これにより、被測定対象の電磁気的特性評価を高精度に行なうことが可能となる。なお、超電導コイル91が発生する磁場が定常状態であるときには、冷却装置121を作動させてコイル部10を冷却する。
【0043】
(超電導マグネット100の制御構成)
以下、被測定対象の磁化特性の測定時における制御装置140の制御処理手順について説明する。
【0044】
図4は、被測定対象の磁化特性の測定時における、コイル部10の通電電流および発生磁場、コイル部10の温度(コイル温度とも称する)、ならびに冷却装置121の作動/停止の時間変化を示す図である。
【0045】
図4を参照して、磁化特性の測定時には、所定の磁場発生パターンに従ってコイル部10に磁場を発生させるために、コイル部10の通電電流を制御する。
図4では、磁場発生パターンの一例として、α[T]→−α[T]→α[T]の順で強度が変化する磁場を1サイクルとする(α>0とする)。制御装置140は、この1サイクルの周期でコイル部10に変動磁場が発生するように、コイル部10の通電電流を変化させる。
【0046】
この1サイクルには、磁場を変化させない、すなわちコイル部10の通電電流を一定値に保つためのインターバルが設けられている。具体的には、時刻t1から時刻t2までの間にコイル部10の通電電流を変化させることによって磁場をα[T]から0[T]に変化させた後、時刻t2から時刻t3までの間をインターバルとして、通電電流を一定値(電流値=0)に保つことによって磁場を一定値(0[T])に固定させる。なお、本発明において、通電電流を一定値に保つとは、通電電流がある値に厳密に一致している場合に限定されず、当該値を中心とする許容範囲(たとえば±10%)に収まっている状態とも含んでいる。
【0047】
次に、インターバルが終了した時刻t3から時刻t4までの間にコイル部10の通電電流を再び変化させることによって、磁場を0[T]から−α[T]を経て0[T]に変化させ、その後、時刻t4から時刻t5までの間をインターバルとして、通電電流を一定値(電流値=0)に保つことによって磁場を0[T]に固定させる。最後に、時刻t5から時刻t6までの間に通電電流を変化させて磁場を0[T]からα[T]に変化させる。
【0048】
制御装置140は、上述した1サイクルにおいて、コイル部10が変動磁場を発生している時間に冷却装置121を停止(オフ)させる一方で、コイル部10の磁場を一定値に固定している時間(インターバルに相当)に冷却装置121を作動(オン)させる。これにより、コイル部10の温度(コイル温度)は、1サイクルのうち、コイル部10が変動磁場を発生している時間(時刻t1からt2、時刻t3からt4、時刻t5からt6)において上昇し、インターバル(時刻t2からt3、時刻t4からt5)において低下する。
【0049】
このように、変動磁場の1サイクル内に、磁場を変化させないインターバルを設け、このインターバルにのみ冷却装置121を作動させる構成とすることにより、コイル部10の冷却性能を低下させることなく、実質的に、コイル部10が発生する変動磁場を振動のない状態で用いることができる。これにより、磁化特性の測定時の信号ノイズの発生を防止できるため、被測定対象の電磁気的特性評価を高精度に行なうことが可能となる。
【0050】
なお、
図4では、変動磁場の1サイクル内に、磁場を変化させないインターバルを設ける構成について説明したが、
図5に示すように、サイクルと次のサイクルとの間にインターバルを設けるようにしてもよい。
【0051】
図5は、被測定対象の磁化特性の測定時における、コイル部10の通電電流、発生磁場および発熱量、コイル温度、ならびに冷却装置121の作動/停止の時間変化を示す図である。
【0052】
図5では、磁場発生パターンを、0[T]→α[T]→−α[T]→α[T]→0[T]の順で強度が変化する磁場を1.5サイクルとする。制御装置140は、この1.5サイクルの周期でコイル部10に変動磁場が発生するように、コイル部10の通電電流を変化させる。
【0053】
この1.5サイクルと次の1.5サイクルとの間には、磁場を変化させない、すなわちコイル部10の通電電流を一定値に保つためのインターバルが設けられている。具体的には、時刻t=0から時刻t11までの間にコイル部10の通電電流を変化させることによって0[T]→α[T]→−α[T]→α[T]→0[T]の順で磁場を変化させた後、時刻t11から時刻t12までの間をインターバルとして、通電電流を一定値(電流値=0)に保つことによって磁場を0[T]に固定させる。次に、インターバルが終了した時刻t12から時刻t13までの間にコイル部10の通電電流を再び変化させることによって、磁場を変化させ、その後、時刻t13から時刻t14までの間をインターバルとして、通電電流を一定値(電流値=0)に保つことによって磁場を0[T]に固定させる。さらに、時刻t14から時刻t15までの間に通電電流を変化させて磁場を変化させる。
【0054】
制御装置140は、上述した1.5サイクル(すなわち、コイル部10が変動磁場を発生している時間)に冷却装置121をオフさせる一方で、コイル部10の磁場を固定している時間(インターバルに相当)に冷却装置121をオンさせる。これにより、コイル部10の温度(コイル温度)は、1.5サイクルの時間(時刻t=0からt11、時刻t12からt13、時刻t14からt15)において上昇し、インターバル(時刻t11からt12、時刻t13からt14)において低下する。
【0055】
このように、変動磁場のサイクル間に、磁場を変化させないインターバルを設け、このインターバルに冷却装置121を作動させる構成とすることにより、コイル部10の冷却性能を低下させることなく、変動磁場を振動のない状態で用いることができる。
【0056】
ここで、
図4および
図5において、コイル部10に変動磁場を発生させている時間は、冷却装置121がオフ状態となっている。このため、コイル部10の一部が常伝導転移した部分に電圧が生じることによってコイル部10に発熱が生じると、コイル部10が常伝導化してクエンチに至る可能性がある。クエンチの発生を防止するためには、インターバル中にコイル部10を十分に冷却できるだけの冷却能力が必要となる。また、インターバル中の冷却装置121の冷却能力が低いと、変動磁場を発生させる時間を短くせざるを得なくなり、磁化特性の測定が困難となる。たとえば、冷却装置121のオン時間におけるコイル部10の最低温度と、冷却装置121のオフ時間におけるコイル部10の最高温度との差は、10K以上であることが好ましい。
【0057】
また、クエンチの発生を防止するためには、上述したインターバル中の冷却装置121の冷却能力に加えて、変動磁場を発生しているときのコイル部10の発熱量を抑える必要がある。クエンチを抑制するために、好ましくは、コイル部10は、コイル部10の通電電流を変化させるときの最大電流を通電した場合における発熱量が10W以下である。より好ましくは、コイル部10は、コイル部10の通電電流を変化させるときの最大電流を通電した場合における発熱量が2W以下である。なお、ビスマス系超電導線で形成したコイル部10を有する超電導マグネット100の運転実験においては、運転温度が30K以上になると、コイル部10の発熱の影響を受けてコイル部10の磁気的特性が低下することが確認された。
【0058】
図6は、本実施の形態に従う超電導マグネット100の制御処理手順を説明するフローチャートである。なお、
図6に示すフローチャートは、制御装置140において予め格納したプログラムを実行することで実現できる。
【0059】
図6を参照して、まず、被測定対象の磁化特性を測定するために、ステップS01により、制御装置140は、記憶部に予め格納された磁場発生パターンを読み出す。この磁場発生パターンは、
図4および
図5に例示したように、磁場を変化させる1サイクル内、またはサイクルと次回のサイクルとの間に、磁場を変化させないインターバルを設けた構成となっている。制御装置140は、この磁場発生パターンに従ってコイル部10に磁場を発生させるように、コイル部140の通電電流を制御する。
【0060】
具体的には、制御装置140は、ステップS02により、被測定対象の磁化特性の測定を開始した時点からの経過時間の計時を開始する。制御装置140は、ステップS03により、磁場発生パターンを参照することにより、測定開始からの経過時間に基づいて、コイル部10が変動磁場を発生しているか否かを判定する。
【0061】
コイル部10が変動磁場を発生しているときには(ステップS03のYES判定時)、制御装置140は、ステップS04により、コンプレッサ123の動作を停止することにより、冷却装置121を停止(オフ)させる。また、制御装置140は、ステップS05により、コイル部10の通電電流を変化させることにより、コイル部10が発生する磁場を変化させる。ステップS06により、コイル部10が発生する変動磁場を利用して被測定対象の磁化特性が測定される。
【0062】
これに対して、コイル部10が変動磁場を発生していないときには(ステップS03NO判定時)、制御装置140は、ステップS07により、コンプレッサ123を作動することにより、冷却装置121を作動(オン)させる。また、制御装置140は、ステップS08により、コイル部10の通電電流を一定値に保つことにより、コイル部10が発生する磁場を固定させる。
【0063】
制御装置140は、被測定対象の磁化特性の測定中、ステップS03からS08までの処理を繰り返し実行する。このようにして、振動の無い状態で、変動磁場を用いた磁化特性の測定が行なわれる。
【0064】
この発明の実施の形態に従う超電導マグネットによれば、コイル部の磁場発生パターンに、変動磁場を発生させる時間と磁場を変化させないインターバルとを設け、変動磁場を発生させる時間では冷却装置を停止させた状態においてコイル部の通電電流を変化させる一方で、インターバルではコイル部の通電電流を一定値に保った状態において冷却装置を起動させる。これにより、コイル部の冷却性能を低下させることなく、振動の無い状態で変動磁場を用いて被測定対象の磁化特性を測定することができる。よって、被測定対象の電磁気的特性評価を高精度に行なうことが可能となる。
【0065】
以上に関して、さらに以下の付記を開示する。
<付記>
(付記1)高温超電導線を巻き回して形成した超電導コイルを備える超電導マグネットの運転方法であって、上記超電導コイルを形成する高温超電導線の長さ方向に1cm以下の分解能で全長を測定した臨界電流の最低値を用いて、上記超電導マグネットの運転電流を決定する、超電導マグネットの運転方法
(付記2)上記臨界電流を磁気的に測定する、付記1記載の超電導マグネットの運転方法。
【0066】
高温超電導線を巻き回して形成した超電導コイルを備える高温超電導マグネットが開発されている。高温超電導線が超電導になる温度(臨界温度)は、(Bi,Pb)
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10で表されるビスマス系超電導線が110Kであり、YBa
2Cu
3O
7で表されるイットリウム系超電導線が90Kである。このため、これらの高温超電導線を用いた超電導マグネットにおいて、冷却温度は、液体ヘリウム温度(4K)から液体窒素温度(77K)までに及ぶ広い温度幅を有している。また、高価な液体ヘリウムを冷媒に使わずに、20K前後の冷却ヘッドによって直接的に超電導コイルを伝導冷却できることから、冷凍機の運転スイッチをオンするだけで冷却できるという簡便さがある。これらの利便性から、高温超電導マグネットのいろいろな用途への使用が検討されている。
【0067】
通常、高温超電導マグネットの運転電流は、そのマグネットの運転温度と、超電導コイルに用いた高温超電導線が感じる最大磁場とを条件として、高温超電導線の全長の臨界電流に応じて決定される。この高温超電導線の全長の臨界電流は、高温超電導線をリールからリールへ移動させて、その途中で液体窒素中に浸漬させるとともに、液体窒素中に浸漬させた高温超電導線において、予め定められた長さの区間の臨界電流を4端子法で測定する。この区間の長さは、装置によって異なるが、測定を合理的に行なう観点から、1mから10m程度の範囲内に設定されることが多い。このように、1mから10m程度の長さ単位で全長の臨界電流を測定し、得られた臨界電流の最低値に基づいて運転電流を決めていた。
【0068】
より具体的には、たとえば、イットリウム系超電導線を用いた超電導マグネットにおいて、液体窒素温度での4mごとの臨界電流が110Aから120Aとなる場合には、臨界電流の最低値である110Aを用いて運転電流を決定する。すなわち、臨界電流の最低値である110Aを、超電導マグネットの運転温度および超電導線が感じる最大磁場の条件下での臨界電流に換算することによって運転電流を決定する。
【0069】
しかしながら、上記のような手法で運転電流を決定した場合、超電導マグネットの運転中に高温超電導線の一部において温度が上昇してしまい、高い信頼性で超電導マグネットを運転することができないという問題があった。
【0070】
このような問題に対して種々の検討を行なった結果、発明者は、磁気的に臨界電流を測定する手法であるホール素子を用いた、0.1cmごとの分解能を持つ測定装置を使って、上記と同様の超電導線を評価した結果、超電導線のほとんどの部分は液体窒素温度での臨界電流が110Aから120Aであるのに対して、一部において液体窒素温度での臨界電流が80Aとなる部分が存在しており、この部分が超電導マグネットの信頼性を低下させていることを見出した。そこで、発明者は、液体窒素温度での臨界電流として最低値である80Aを用いて超電導マグネットの運転電流を決定した。この結果、超電導マグネットを、何ら支障を生じることなく運転することが可能であった。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。