特許第6326862号(P6326862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6326862膜電極接合体、燃料電池、及び膜電極接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6326862
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】膜電極接合体、燃料電池、及び膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20180514BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180514BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20180514BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180514BHJP
【FI】
   H01M8/1004
   H01M4/86 M
   H01M8/0273
   H01M8/10 101
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-35896(P2014-35896)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-162308(P2015-162308A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東 希実子
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−210588(JP,A)
【文献】 特開2012−018793(JP,A)
【文献】 特開2010−244871(JP,A)
【文献】 特開2008−071542(JP,A)
【文献】 特開2007−173225(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137240(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0298302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
H01M 4/86 − 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に対向して触媒層が配置され、該触媒層の周囲にガスケット部材が配置された膜電極接合体であって、
前記触媒層の表面の周縁部の形状は、前記触媒層の中央から離れる方向に向かって高さが下がる段差を有する階段状の形状であり、
前記ガスケット部材は、前記触媒層の表面の周縁部の上に重なり、
前記触媒層は、前記電解質膜の表面上で枠状に配置され、前記階段状の段差の低位の段となる第一の触媒層部と、前記第一の触媒層部の枠内に配置され、前記階段状の段差の高位の段となる第二の触媒層部と、を備え、
前記第二の触媒層部と前記第一の触媒層部とが重なる部分の幅、及び前記ガスケット部材と前記第一の触媒層部とが重なる部分の幅は共に、0.05mm以上0.5mm以下の範囲内であり、
前記第一の触媒層部と前記第二の触媒層部は材料組成が同じであることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記ガスケット部材は、前記触媒層の階段状の段差のうち少なくとも一段の上に重なることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記電解質膜の両面に配置された前記第一の触媒層部のうち、燃料極側に配置された前記第一の触媒層部と、空気極側に配置された前記第一の触媒層部とは、それぞれ枠の幅の許容範囲が異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記第一の触媒層部の高さは、前記第二の触媒層部の高さの3分の2以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記ガスケット部材は、少なくとも一方面に粘着層又は接着層を備えるフィルムから成ることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記電解質膜の端部は、露出していることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の膜電極接合体を用いた燃料電池。
【請求項8】
電解質膜の両面に対向して触媒層が配置され、該触媒層の周囲にガスケット部材が配置された膜電極接合体の製造方法であって、
前記触媒層の表面の周縁部の形状が前記触媒層の中央から離れる方向に向かって高さが下がる段差を有する階段状の形状となるように前記触媒層を配置する工程と、
前記触媒層の表面の周縁部の上に重なるように前記ガスケット部材を配置する工程と、を備え、
前記触媒層を配置する工程では、前記電解質膜の表面上で枠状に配置され、前記階段状の段差の低位の段となる第一の触媒層部と、前記第一の触媒層部の枠内に配置され、前記階段状の段差の高位の段となる第二の触媒層部とを備える前記触媒層を配置し、
前記第二の触媒層部及び前記ガスケット部材は共に、前記第一の触媒層部の上に重なり、
前記第二の触媒層部と前記第一の触媒層部とが重なる部分の幅、及び前記ガスケット部材と前記第一の触媒層部とが重なる部分の幅は共に、0.05mm以上0.5mm以下の範囲内であり、
前記第一の触媒層部と前記第二の触媒層部は材料組成が同じであることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
前記触媒層の前記階段状の段差のうち少なくとも一段の上に乗り上げるように前記ガスケット部材を配置する工程と、を備えることを特徴とする請求項8に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記第一の触媒層部は、触媒層インクの塗布及び乾燥により形成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子形燃料電池の膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の一対策として、燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素やメタン等の還元性ガスを、酸素や空気等の酸化性ガスにより酸化する反応において、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換し、電気を得るものである。原料となり得る物質が豊富に存在することや、発電による排出物が水のみであることから、クリーンなエネルギーとされる。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形等に分類される。特に、高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての利用が期待されている。
【0004】
高分子形燃料電池は、高分子電解質膜の一方の面に燃料極(アノード触媒層)と、他方の面に空気極(カソード触媒層)とを、対向するように設けた構造体を有する。このような構造体を膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と呼ぶ。発電の際には、燃料極側に水素を含む燃料ガス、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給する。供給された燃料ガスは、アノード触媒層にて、プロトン及び電子になる。プロトンはアノード触媒層内の高分子電解質及び高分子電解質膜を通り、カソード触媒層側に移動する。電子は、外部回路を通り、同じくカソード触媒層に移動する。カソード触媒層においては、プロトン、電子及び外部から供給される酸化剤ガスが反応し、水が生成される。以上のように燃料極及び空気極において化学反応が起こり、電荷が発生し、電池として機能する。
【0005】
膜電極接合体の作製には、一般に、湿式塗工や転写法が用いられる。触媒層を構成する材料と、適当な溶媒又は分散媒から成るスラリー(slurry)とを、電解質膜に直接塗布する方法は、複雑な装置を必要とせず、触媒層の密着性に優れ、発電性能及び耐久性に有利な膜電極接合体を与えることが知られる。しかし、この方法では、電解質膜のスラリー溶媒による膨潤、及びその後の乾燥による収縮が避けられず、触媒層を所望の形状につくることが非常に難しい。
【0006】
転写法では、加熱や加圧による電解質膜の変形はあるものの、湿式塗工における変形よりは小さい。しかしながら、電解質膜と触媒層の密着が弱く、加えて、転写時の位置合わせに工夫を要する。
また、膜電極接合体では、電解質膜において触媒層が形成された領域と、触媒層が形成されない領域の厚みの差によるガスの漏洩、及び電解質における触媒層が形成されない領域の集中的な劣化を防ぐため、電解質膜上、触媒層の外側にガスケット部材を設けた構成が頻繁に見られる。
【0007】
触媒層を凡そ設計どおりの形に形成し、且つ簡便にガスケット部材付き膜電極接合体を作製するために、特許文献1に記載の方法が提案されている。特許文献1には、開口部を有するマスキング部材を電解質膜上に配置して、触媒層用スラリーを電解質膜に直接塗布する方法が示されている。この方法によれば、マスキング部材とガスケット部材とを積層することにより、ガスケット部材付き膜電極接合体を簡易的に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4737924号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ガスケット部材と触媒層との間の隙間を完全になくすことはできない。この隙間のように電解質膜が露出した領域があると、発電に伴う劣化が加速され、耐久性が低下することが知られている。
本発明は、電解質膜の露出がなく、耐久性に優れ、且つ外観や触媒と電解質膜との密着に問題のない膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る膜電極接合体は、電解質膜の両面に対向して触媒層が配置され、当該触媒層の周囲にガスケット部材が配置された膜電極接合体である。触媒層の表面の周縁部の形状は、当該触媒層の中央から離れる方向に向かって高さが下がる形状である。ガスケット部材は、触媒層の表面の周縁部の上に重なる(乗り上げる)。
例えば、触媒層は、表面の周縁部に、当該触媒層の中央から離れる方向に向かって高さが下がる階段状の段差を有する。ガスケット部材は、触媒層の階段状の段差のうち少なくとも一段の上に重なる。具体的には、触媒層は、電解質膜の表面上で枠状に配置される第一の触媒層部と、第一の触媒層部の枠内に配置される第二の触媒層部とを備える。第二の触媒層部及びガスケット部材はそれぞれ、第一の触媒層部の上に重なる。別の視点では、触媒層の周縁部には、低位の段となる第一の触媒層部と、高位の段となる第二の触媒層部から成る高さ方向の段差があり、ガスケット部材が第一の触媒層部の上に重なる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、第一の触媒層部の上にガスケット部材を重ねて配置することにより、電解質膜の露出に起因する耐久性低下を回避するだけでなく、触媒層形成の位置精度を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態による燃料電池セルの分解斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による膜電極接合体の上面、側面及び下面である。
図3】第一の触媒層部、及び第二の触媒層部の形成領域を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態による膜電極接合体の、製造過程の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態に係る膜電極接合体を用いた高分子形燃料電池の構成の一例を示す。
図1に示されるように、高分子形燃料電池は、膜電極接合体1と、拡散層2、3と、セパレータ4、5とを備える。
【0014】
セパレータ4、5は、導電性を有し、且つガスを透過しない材料より成る。例えば、耐食処理が施された金属板又は焼成カーボン等のカーボン系材料等である。セパレータ4、5はそれぞれ、空気極及び燃料極の拡散層2、3と面して配置され、それぞれの反応ガス流通用の流路41、51となる櫛型構造を備える。この櫛型構造を備える面に対向する面に、冷却水流路を有することも多い。酸化剤ガス及び燃料ガス等の反応ガスは、まずセパレータ4、5の反応ガス流路41、51を通る。流路41、51を通るうちに、反応ガスは拡散層2、3を介して、膜電極接合体1に供給される。拡散層2、3は、導電性が高く、反応ガスの拡散性が高い材料から成る。例えば、金属フィルム、導電性高分子、カーボン材料等が挙げられる。特に、カーボンペーパ等の多孔質導電体材料が好ましい。拡散層2、3の厚みは、50um〜1000um程度が好ましい。拡散層2、3は、セパレータ4、5と反対側の面において、膜電極接合体1を挟んで対向している。
【0015】
図2に、膜電極接合体1の上面、側面及び下面の一例を示す。
図2に示されるように、膜電極接合体1では、電解質膜10の両面に燃料極触媒層6及び空気極触媒層7が形成されている。このとき、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7は、第一の触媒層部61、71、及び第二の触媒層部62、72により形成されている。また、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7の周縁部を囲むように隙間を空けずにガスケット部材8、9が配置されている。
【0016】
電解質膜10は、イオン伝導性の高い材用であれば、特に限定されない。多くの場合、パーフルオロスルホン酸系や炭化水素系の固体高分子電解質膜が用いられる。具体的には、デュポン(Du Pont)(登録商標)のナフィオン(Nafion)(登録商標)、ジャパンゴアテックス(登録商標)のゴアセレクト(Gore−Select)(登録商標)、旭硝子(登録商標)のフレミオン(Flemion)(登録商標)等が挙げられる。電解質膜10の厚みは、特に限定されないが、10um〜200umが好ましい。10umより薄いと破損しやすく、また扱いにくくなる。200umより厚いと膜抵抗が大きくなり、性能に問題を生じる。
【0017】
燃料極触媒層6の第一の触媒層部61及び第二の触媒層部62と、空気極触媒層7の第一の触媒層部71及び第二の触媒層部72はそれぞれ、触媒粒子と電解質とから成る。
上記の触媒粒子には、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、酸化物や複酸化物等が使用できる。触媒粒子は単体で用いても良く、導電性担体に担持させて用いるとなお良い。導電性担体は、微粒子状で導電性及び化学的耐性を有するものであり、一般的にカーボン粒子が用いられる。例えば、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。カーボン粒子の粒径は10〜1000nm程度が好ましい。10nmより小さいと電子伝導パスが形成されにくくなり、また1000nmより大きいと燃料極触媒層6及び空気極触媒層7の厚みが増して抵抗が増加してしまう。
【0018】
また、上記の電解質は、イオン伝導性を有するものであれば良い。電解質膜10と同質の材料を用いると、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7と電解質膜10との密着性が高められ、より好ましい。
ガスケット部材8、9には、厚みが均一であること、及び圧力を加えられた際の変形が小さいことが求められ、フィルムから成るものが好適である。フィルムから成るガスケット部材とは、フィルムの少なくとも一方面に粘着層又は接着層を備えるものである。なお、一方面にのみ粘着層又は接着層を備えている場合、他方面に離型層を備えていても良い。粘着層又は接着層は、フィルムと電解質膜10の間に具備され、界面のガスシール性を向上させる。離形層は、例えばガスケット部材を貼り付けた後に、このガスケット部材をマスクとして第二の触媒層部を湿式塗布形成す場合に、ガスケット部材表面に付着した塗布された触媒スラリーの除去を容易にする。ガスケット部材8、9の材料としては、圧力を加えられても変形しにくいものが良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等の高分子材料が挙げられる。これらを単独で用いても良く、また組み合わせて用いても良い。
【0019】
図3に、第一の触媒層部61、71、及び第二の触媒層部62、72の形成領域の一例を示す。
図3に示すように、第一の触媒層部61、71は、電解質膜10上の、触媒層が形成されるべき領域Xの輪郭(枠)を描くように、その内側「x」mmから外側「y」mmの領域に形成される。例えば、「x」は、第二の触媒層部62、72が第一の触媒層部61、71の上に乗り上げ可能な幅の長さである。また、「y」は、ガスケット部材8、9が第一の触媒層部61、71の上に乗り上げ可能な幅の長さである。すなわち、「x+y」は、第一の触媒層部61、71により形成された枠の幅の長さである。ここでは、枠の形状を四角形(正方形)としているが、実際には四角形(正方形)に限定されない。「x」及び「y」の範囲はともに0.05〜0.5mmである。0.05mmより小さいと所定の位置にのみ精度良く触媒層スラリーを塗布することが難しい。また、0.5mmより大きいと塗布スラリー量が多く電解質膜の膨潤、乾燥に伴う寸法変化が無視できないほどに大きくなり、膜電極接合体1の歪みを生じる。また、空気極は燃料極より過電圧が大きいため、空気極に燃料極より多量の触媒層を形成する構成も知られる。このとき、「x」及び「y」の範囲はともに、燃料極において0.05〜0.35mm、空気極において0.15〜0.5mmであると、より好ましい。燃料極では、固形分濃度の低いスラリーを用いる必要があり、x+y=0.7mmを超える範囲に塗布すると溶媒による膨潤が起こりやすい。また、空気極では、燃料極と同じ機構を用いて、より固形分濃度の高いスラリーを、x+y=0.3mmを下回る範囲に塗布することは難しいが、x+y=0.3mmであれば特別な工夫を施さずとも、容易に形成することができる。すなわち、「x」及び「y」については、燃料極において0.05〜0.35mm且つx+y≦0.7mm、空気極において0.15〜0.5mm且つ0.3mm≦x+yの条件を満たすようにする。
【0020】
本実施形態では、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7は、第一の触媒層部61、71及び第二の触媒層部62、72を用いて、高さ方向に階段状の段差を形成する。第一の触媒層部61、71は、上記の階段状の段差の低位の段(ここでは電解質膜10側から見て一段目)となる。第二の触媒層部62、72は、上記の階段状の段差の高位の段(ここでは電解質膜10側から見て二段目)となる。したがって、第一の触媒層部61、71の高さは、第二の触媒層部62、72の高さよりも小さい。具体的には、第一の触媒層部61、71の高さは、第二の触媒層部62、72の高さの3分の2(2/3)以下が好ましい。この高さは、第二の触媒層部62、72やガスケット8、9が乗り上げても圧着やセルの締め付けによって段差がなくなる程度、又は十分に小さくなる程度の高さである。
【0021】
図4に、膜電極接合体1の製造過程の一例を示す。
例えば、図4に示されるように、電解質膜10に、第一の触媒層部61、71を形成した後、第二の触媒層部62、72を形成し、ガスケット部材8、9を貼り合せることで、膜電極接合体1を製造する。若しくは、電解質膜10に第一の触媒層部61、62を形成した後、先にガスケット部材8、9を設け、その後に第二の触媒層部62、72を形成することで、膜電極接合体1を製造しても良い。
【0022】
第一の触媒層部61、71の形成方法としては、例えば上述の触媒粒子、担体及び電解質の混合物を分散させたスラリーを電解質膜10に直接湿式塗布する方法や、転写基材又は拡散層2、3に塗工した後に転写により形成する方法がある。好ましくは、前者の湿式塗布、特に所定位置への塗布がより容易であるディスペンサ印刷法やインクジェット印刷法が良い。湿式塗布は、触媒層と電解質膜との密着性に優れるため、境界となり劣化しやすい端部の形成に適している。また、第一の触媒層部領域を小さくすることで、膨潤収縮を抑えることが可能である。
【0023】
第二の触媒層部62、72の形成方法は、特に問わない。転写であっても、既に形成された第一の触媒層部とは材料組成同じ又は似通うため密着が良く、端部から触媒層が剥がれる現象を抑止できる。
第一の触媒層部61、71及び第二の触媒層部62、72を形成するためのスラリーの溶媒又は分散媒は、特に限定されない。好ましくは、電解質を溶解又は分散できるものが良い。一般的には、水、アルコール類、ケトン類、アミン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類や、これらを種々の割合で混合したものが良く用いられる。
【0024】
第一の触媒層部61、71及び第二の触媒層部62、72の形成工程には、必要に応じて乾燥工程を設ける。その乾燥工程における乾燥方法は、特に限定されない。例えば、乾燥方法として、温風乾燥、赤外乾燥、減圧乾燥が挙げられる。
(変形例)
上記の実施形態では、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7は、第一の触媒層部61、71及び第二の触媒層部62、72を用いてそれぞれ2段の段差を形成しているが、実際には第三の触媒層部等を用いて3段以上の段差を形成しても良い。この場合、高位の段となる触媒層部は、直前の低位の段となる触媒層部の上に重なるものとする。すなわち、燃料極触媒層6及び空気極触媒層7はそれぞれ、複数の触媒層部により階段状の段差を形成する。ガスケット部材8、9は、当該階段状の段差のうち、少なくとも一段の上に乗り上げていれば良い。
【0025】
以上、本実施形態による膜電極接合体1及びこれを備えた燃料電池セルについて説明したが、膜電極接合体1は燃料電池セルのみに適用されるものではない。以下、本実施形態の実施例(試作品)とその比較例(比較対象品)について詳細に説明するが、実際には本実施形態は以下の実施例のみに限定されない。
【実施例】
【0026】
触媒層用スラリーとして、白金担持カーボンと水とを混合した後、これに2−プロパノールと電解質を加えて撹拌して得たものを用いた。白金担持カーボンとして、田中貴金属(登録商標)の「TEC10E50E」を用いた。電解質として、和光純薬工業(登録商標)の「Nafion(登録商標)分散液」を用いた。
(中間物A)
電解質膜10の両面の中央部に、サイズ50mm×50mmの正方形の輪郭を描くように、ディスペンサ印刷法により触媒層用スラリーを塗布し、更に80℃の炉内で乾燥させ、第一の触媒層部61、71を形成した。電解質膜10として、デュポン(登録商標)の「Nafion(登録商標)211CS」を用いた。サイズ50mm×50mmの正方形の輪郭は、触媒層が形成されるべき領域Xの輪郭である。塗布の線幅(第一の触媒層部61、71の枠幅)「x+y」は0.5mmであり、50mm×50mmの正方形の外側「y」は0.25mm、内側「x」は0.25mmである。これを中間物Aとする。
【0027】
(実施例1)
中間物Aの中央部50mm×50mmの範囲に、ドクターブレードコート法により触媒層用スラリーを塗布し、更に80℃の炉内で乾燥させ、第二の触媒層部62、72を形成した。その後、ガスケット部材8、9として、50mm×50mmの正方形の開口部を有する粘着層付PETフィルムを、この開口部の中心が中間物Aの両面中央部50mm×50mmの範囲の中心に位置するように貼り付けたものを実施例1とする。実施例1では、第一の触媒層部61、71が中間物Aの中央部50mm×50mmの範囲の外側「y」に0.25mmはみ出しており、第二の触媒層部62、72が中間物Aの中央部50mm×50mmの範囲に収まっているため、触媒層6、7は階段状の段差を形成している。
【0028】
(実施例2)
また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルムに、触媒層スラリーを塗布し乾燥させたものを転写基材として、中間物Aの両面中央部50mm×50mmの範囲に、熱プレスにより第二の触媒層部62、72を形成した。その後、ガスケット部材8、9として、50mm×50mmの正方形の開口部を有する粘着層付PETフィルムを、この開口部の中心が中間物Aの両面中央部50mm×50mmの範囲の中心に位置するように貼り付けたものを実施例2とする。実施例2では、第一の触媒層部61、71が中間物Aの中央部50mm×50mmの範囲の外側「y」に0.25mmはみ出しており、第二の触媒層部62、72が中間物Aの中央部50mm×50mmの範囲に収まっているため、触媒層6、7は階段状の段差を形成している。
【0029】
(比較例1)
上記の電解質膜10の両面に、ガスケット部材8、9として、50mm×50mmの正方形の開口部を有する粘着層付PETフィルムを貼り付けた。このガスケット部材8、9付き電解質膜10に、ドクターブレードコート法により触媒層用スラリーを塗布し、更に80℃の炉内で乾燥して第二の触媒層部62、72を形成し、得られたものを比較例1とする。比較例1は、中間物Aではなく電解質膜10に直接、触媒層用スラリーを塗工・乾燥して第二の触媒層部62、72を形成しているため、第一の触媒層部61、71を有していない。すなわち、比較例1では、触媒層6、7は階段状の段差を形成していない。
【0030】
(比較例2)
エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルムに、触媒層スラリーを塗布し乾燥させたものを転写基材として、上記の電解質膜10の両面中央部50mm×50mmの範囲に、熱プレスにより第二の触媒層部62、72を形成した。その後、ガスケット部材8、9として、50mm×50mmの正方形の開口部を有する粘着層付PETフィルムを、この開口部の中心が電解質膜10の両面中央部50mm×50mmの範囲の中心に位置するように貼り付けたものを比較例2とする。比較例2は、中間物Aではなく電解質膜10に直接、熱プレスにより第二の触媒層部62、72を形成しているため、第一の触媒層部61、71を有していない。すなわち、比較例2では、触媒層6、7は階段状の段差を形成していない。
【0031】
(比較結果)
触媒層6、7の周縁部を光学顕微鏡で確認すると、実施例1及び2では触媒層6、7とガスケット部材8、9との間に、電解質膜10の露出部がなかったが、比較例1及び2では最も幅の狭い部分でも0.08mmの間隙があり、電解質膜10の露出が確認できた。なお、実施例1及び2でも、表面側(電解質膜10と逆側)では触媒層6、7とガスケット部材8、9との間に間隙が見られた。
【0032】
また、比較例1では電解質膜10の露出部に、しわが見られた。これはスラリー中の溶媒による膨潤とその乾燥による収縮に起因すると思われる。実施例1、2及び比較例2では、しわが見られなかった。湿式塗工による実施例1及び2においてしわが発生しなかったのは、外側の塗布は溶媒量が少ないために、膨潤収縮の影響が十分に小さく抑えられたものと考える。
【0033】
触媒層6、7の密着に関して、微粘着テープ(パナプロテクトHTA、パナック)を用いて、剥離試験を行った。触媒層6、7の四隅と中央部において、10mm×10mmの微粘着テープを指の腹で貼り、45度の角度を保ちながら引張り剥がし、触媒層6、7が剥離するかどうかを見た。その結果、実施例1、2及び比較例1では剥離されなかったが、比較例2では、四隅のうち二箇所で触媒層6、7の剥がれが起き、端部の密着が弱いことが確認できた。
【0034】
これら膜電極接合体1の両面に、拡散層2、3を配置して、市販のJARI標準セルを用いてOCV耐久試験を実施した。拡散層2、3として、独SGL(登録商標)の「SIGRACET(登録商標) 35BC」を使用した。セル温度は100℃として、燃料極に加湿水素、カソードに加湿酸素を供給した。耐久時間が25時間を超えるものを可(○)、超えないものを不可(×)として、本試験結果を以下の表1に示す。
【0035】
【表1】
実施例1、2は可であり、比較例1、2はいずれも不可であった。このことから、本実施形態に係る膜電極接合体1は、外観、触媒層6、7と電解質膜10との密着性、及び耐久性に優れることが示された。
【符号の説明】
【0036】
1…膜電極接合体、2…拡散層、3…拡散層、4…セパレータ、41…ガス流路、5…セパレータ、51…ガス流路、6…燃料極触媒層、61…燃料極の第一の触媒層部、62…燃料極の第二の触媒層部、7…空気極触媒層、71…空気極の第一の触媒層部、72…空気極の第二の触媒層部、8…ガスケット、9…ガスケット、10…電解質膜
図1
図2
図3
図4