(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<全体構成>
図1に、本実施形態に係る駆動力伝達装置10の模式図を示す。駆動力伝達装置10は、入力シャフト12、出力シャフト14、伝達部材16、制御部19、及び速度センサ21A,21B,21Cを備える。駆動力伝達装置10は、例えば、車両の内燃機関等の駆動源から、駆動輪に駆動力を伝達する際の変速手段として用いられる。
【0015】
入力シャフト12による駆動力は、伝達部材16のクラッチ部材22を介して伝達部材16の弾性部材18に伝達される。このとき、入力シャフト12の運動エネルギが弾性部材18の弾性エネルギに変換される。クラッチ部材22の解放後、伝達部材16のブレーキ部材24によって伝達部材16の振動子20がケーシング等の固定部17に係合される。このとき、弾性部材18の伸縮に応じて出力シャフト14が押し回される。このようにして弾性部材18の弾性エネルギが出力シャフト14の運動エネルギとして伝達される。
【0016】
<各構成の詳細>
入力シャフト12は、図示しない駆動源により回転駆動させられる。出力シャフト14は、入力シャフト12と離間するようにして設けられるとともに、当該入力シャフト12と同軸上に設けられる。出力シャフト14は、例えば
図1に示すように中空形状であって、その内部に入力シャフト12が配置されるものであってもよいし、後述する
図2のように、入力シャフト12と同軸上に並んで配置されるものであってもよい。
【0017】
伝達部材16は、入力シャフト12の駆動力を、弾性部材18を介して出力シャフト14に伝達する。なお、
図1では、伝達部材16が出力シャフト14上に2つ設けられているが、この形態に限らない。例えば伝達部材16は一つであってもよい。また、径方向のバランスを取るために(カウンタウェイトとして)、軸対象に複数の伝達部材16を設けてもよい。伝達部材16は、弾性部材18、振動子20、クラッチ部材22及びブレーキ部材24を備える。
【0018】
弾性部材18は、出力シャフト14に一端が連結されるとともに、他端に振動子20が連結される。弾性部材18は、出力シャフト14の軸心から外れた位置に、軸周回りに配置される。例えば、出力シャフト14の軸方向端面に、円環状のスロット(リングスロット)を形成するとともに、このスロット内に弾性部材18を配置する。スロットがガイドとなって、弾性部材18は出力シャフト14の軸周に沿って伸縮(弾性振動)させられる。弾性部材18は、例えばコイルばねから構成されてよい。
【0019】
弾性部材18の振動周期は、駆動源の最大回転周期よりも短くなるように形成されていることが好適である。例えば、駆動源を内燃機関として、その最大回転数(最大許容回転数)が6000rpm(=100Hz)であった場合、100Hzより高い固有振動数を備える弾性部材18を備えることが好適である。このようにすることで、後述するように、入力シャフト12の一回転中に、複数回に亘って、出力シャフト14に駆動力を伝達することが可能となる。
【0020】
振動子20は、弾性部材18に連結されており、弾性部材18の伸縮に伴って出力シャフト14の軸周方向に沿って往復運動させられる。振動子20は、例えば金属等の剛性材料からなり、弾性部材18とともにスロットに沿って往復移動するような錘から構成されてもよいし、後述する
図2のように、出力シャフト14と同軸上に配置されるとともに、弾性部材18の伸縮に伴って軸周りに回動する伝達シャフトであってもよい。
【0021】
クラッチ部材22は、振動子20と入力シャフト12とを係合させる係合手段である。後述するように、クラッチ部材22は、振動子20と入力シャフト12の角速度が等しいときに両者を係合可能となっている。
【0022】
クラッチ部材22は、振動子20と入力シャフト12との係合/解放を高速に行えるものから構成される。例えば、弾性部材18(振動子20)の振動数よりも短いサイクルで係合/解放を行えるものであることが好適である。また、制御部19の制御信号に応じて速やかに係合/解放を行えるものであることが好適である。このことから、クラッチ部材22は、例えば、係合/解放の動作を電磁石への電力の断続をもって行う、電磁クラッチであってよい。
【0023】
ブレーキ部材24は、振動子20をケーシングなどの固定部17(非回転部材)に係合させる。後述するように、ブレーキ部材24は、振動子20と出力シャフト14の角速度が等しいときに、振動子20を固定部17に係合可能となっている。
【0024】
クラッチ部材22と同様に、ブレーキ部材24も、振動子20の固定/解放を高速に行えるものから構成されることが好適である。加えて、制御部19の制御信号に応じて速やかに係合/解放を行えるものであることが好適である。このことから、ブレーキ部材24は、例えば、固定/解放の動作を、電磁石への電力の断続をもって行う、電磁ブレーキから構成される。
【0025】
速度センサ21Aは、入力シャフト12の角速度(回転速度)を測定する。速度センサ21Bは、振動子20の角速度を測定する。速度センサ21Cは、出力シャフト14の角速度を測定する。これらの速度センサ21A〜21Cは、それぞれの測定値を制御部19に送信する。
【0026】
制御部19は、入力シャフト12、振動子20、及び出力シャフト14の角速度に応じて、クラッチ部材22及びブレーキ部材24の動作を制御する。制御部19は、CPU等の演算回路やハードディスク等の記憶手段を備えたコンピュータであってよく、当該コンピュータは、後述するクラッチ部材22及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを制御する制御プログラムが記憶されたコンピュータや、組み込みコンピュータであってよい。動作制御プログラムの実行により、コンピュータは、駆動伝達装置の制御部19として機能する。また、制御部19は、速度センサ21Aから入力シャフト12の角速度が入力され、速度センサ21Bから振動子20の角速度が入力され、また速度センサ21Cから出力シャフト14の角速度が入力される入力インターフェイスを備える。
【0027】
制御部19は、係合及び解放信号を出力することにより、クラッチ部材22及びブレーキ部材24の係合及び解放を制御する。例えば、電磁クラッチ及び電磁ブレーキの電磁石の導通及び遮断を係合信号及び解放信号によって制御する。
【0028】
<駆動力伝達装置の具体的な構成例>
図2に、駆動力伝達装置10の具体的な構成を例示する。入力シャフト12、伝達シャフト26、及び出力シャフト14が同軸上に並んで配置されている。入力シャフト12及び伝達シャフト26は、軸受28を介してベース30に回転可能に支持されている。
【0029】
入力シャフト12には、径方向に張り出すようにして、フランジ32が形成されている。このフランジ32を挟むようにして、クラッチ部材22が設けられる。クラッチ部材22は、可動部22Aと励磁部22Bを備える。
【0030】
励磁部22Bは、図示しない電源から励磁電流が送られ、これにより磁束を生じさせる。励磁部22Bは、円環状の部材であって、入力シャフト12や伝達シャフト26とは離間するようにして、ベース30に固定される。
【0031】
可動部22Aは、金属等の磁性材料から構成された円環状の部材であって、励磁部22Bから生じた磁束に応じて移動可能となっている。可動部22Aは、軸方向に当該可動部22Aに螺入する締結部34を介して、伝達シャフト26に連結されている。締結部34の軸部36の長さは、伝達シャフト26の入力側フランジ38の軸方向厚さよりも長く形成されている。このような構造を備えることで、可動部22Aは、伝達シャフト26に対して軸周方向には固定され、また、軸方向には移動可能となっている。励磁部22Bに磁束が生じると、可動部22Aが軸方向に引き寄せられて、入力シャフト12のフランジ32と係合する。
【0032】
伝達シャフト26は、入力側フランジ38、中間フランジ40、及び出力側フランジ42を備える。これらのフランジは、入力シャフト12から出力シャフト14に向かって、軸方向に沿ってそれぞれ伝達シャフト26に形成されている。入力側フランジ38に設けられたクラッチ部材22の可動部22Aが入力シャフト12と係合すると、伝達シャフト26は入力シャフト12と同期回転する。
【0033】
出力側フランジ42には、弾性部材18が連結されている。弾性部材18は、出力シャフト14の軸周りに設けられた円環状のスロット44に配置されており、スロット44の延設方向に沿った一端が出力側フランジ42と連結され、他端が出力シャフト14に連結されている。伝達シャフト26が入力シャフト12と係合されているとき、伝達シャフト26は弾性部材18を縮めるように付勢する。
【0034】
中間フランジ40には、ブレーキ部材24が設けられる。ブレーキ部材24は、クラッチ部材22と同様に、中間フランジ40を挟むようにして、可動部24A及び励磁部24Bを備える。可動部24Aは、ベース30に対して軸方向にのみ移動可能となっている。励磁部24Bに磁束が生じると、可動部24Aが軸方向に引き寄せられて、伝達シャフト26と係合する。これにより、伝達シャフト26の回転が止められる。
【0035】
入力シャフト12から出力シャフト14への駆動力の伝達は、以下のようにして行われる。まず、クラッチ部材22によって入力シャフト12と伝達シャフト26を係合させることで、両者が同期回転する。この同期回転によって、伝達シャフト26に連結された弾性部材18が縮められる。さらにクラッチ部材22を解放してブレーキ部材24により伝達シャフト26を固定することで、弾性部材18は出力シャフト14に弾性エネルギを伝達する。その結果、入力シャフト12から出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0036】
<駆動力伝達装置の動作の詳細>
次に、
図3〜
図5を用いて、駆動力伝達装置10による駆動力の伝達について説明する。なお、以下では、入力シャフト12の回転速度は、出力シャフト14の回転速度よりも速いものとする。
図3に示すように、弾性部材18は予め軸周回りに付勢されており、その弾性により、出力シャフト14の軸周方向に沿って伸縮させられる。これに伴って振動子20も出力シャフト14の軸周方向に沿って往復移動させられる。
【0037】
なお、駆動力の伝達時に、弾性部材18を振動状態とするために、伝達前の段階(待機段階)で、弾性部材18を付勢状態にしておくことが好適である。例えば、後述する
図5の破線で示すように、弾性部材18を縮めた状態で、振動子20及び出力シャフト14を固定させておく。
【0038】
図4に示すように、クラッチ部材22は、振動子20の往復運動の周期と同期して、入力シャフト12と振動子20とを係合させる。すなわち、弾性部材18の振動周期と同期して、入力シャフト12の駆動力を出力シャフト14に伝達する。
【0039】
弾性部材18の振動周期と同期させて駆動力の伝達を行うことで、入力シャフト12の回転周期に依存しない駆動力の伝達を行うことができる。さらに、振動周期が駆動源の最大回転周期よりも短い弾性部材18を用いることで、入力シャフト12の1回転中に複数回に亘り、駆動力の伝達を行うことが可能となる。加えて、駆動力の伝達は間欠的に行われるが、この間欠的な伝達が高速(高周波数)で行われることで、例えばPWM制御のような、滑らかな駆動力の伝達が可能となる。
【0040】
また、上記係合は、振動子20の角速度と入力シャフト12の角速度が等しいときに行われる。振動子20の角速度は、弾性部材18の弾性エネルギに応じて変化し、振動子20が振動する一周期のうち、角速度の極値を除いて2回、入力シャフト12と振動子20の角速度が等しくなる。この2回のうちのいずれかのタイミングで、クラッチ部材22は入力シャフト12と振動子20とを係合させる。角速度の等しいときに係合を行うことで、すべりによる損失の発生を防止できる。
【0041】
クラッチ部材22によって入力シャフト12と振動子20とが係合されると、
図4上段から下段に示すように、入力シャフト12と出力シャフト14の速度差(入力シャフト角速度>出力シャフト角速度)に応じて、弾性部材18が縮められて、当該弾性部材18の弾性エネルギが蓄積される。すなわち、入力シャフト12の運動エネルギが、弾性部材18の弾性エネルギに変換される。
【0042】
さらに
図5に示すように、クラッチ部材22を解放するとともに、ブレーキ部材24によって振動子20を固定する。このとき、弾性部材18は、蓄積した弾性エネルギを出力シャフト14に伝達する。言い換えると、振動子20の固定に伴い、縮められた弾性部材18は、自然長に伸張するために、出力シャフト14を回転させる(押し回す)。以上のようにして、入力シャフト12から出力シャフト14に駆動力が伝達される。
【0043】
また、クラッチ部材22と同様に、ブレーキ部材24による係合は、振動子20の角速度と出力シャフト14の角速度が等しいときに行われる。角速度の等しいときに係合を行うことで、すべりによる損失の発生を防止できる。
【0044】
弾性部材18を介した、入力シャフト12から出力シャフト14への駆動力の伝達は、以下のように数値で表すことができる。例えば、入力シャフト12の角速度と出力シャフト14の角速度との比が5:3である場合、クラッチ部材22の係合中の差動分である2/5の入力エネルギは、弾性エネルギとして弾性部材18に保存され、残りの3/5のエネルギが出力シャフト14に伝達される。
【0045】
図6には、上述した駆動伝達に伴う、入力シャフト12、振動子20、及び出力シャフト14の速度変化が例示されている。また、
図7には、
図6のタイムチャートに加えて、これと同期した、弾性部材18の変位、クラッチ部材22の係合によるトルク(LU1トルク)、ブレーキ部材24の係合によるトルク(LU2トルク)、及び弾性部材18によるばね伝達トルクのタイムチャートが示されている。
【0046】
図6,7の第1フェーズ(phase1)で示すように、振動子20はクラッチ部材22及びブレーキ部材24から解放され、出力シャフト14の軸周方向に沿って往復運動(単振動)する。このとき、振動子20の最大角速度は、入力シャフト12の角速度よりも高くなる。
【0047】
図6,7の第2フェーズ(phase2)で示すように、振動子20の角速度と入力シャフト12の角速度が等しいときに、クラッチ部材22によって入力シャフト12と振動子20が係合される。係合中は振動子20と入力シャフト12とが等速度となる。
【0048】
図6,7の第3フェーズ(phase3)で示すように、弾性部材18に弾性エネルギを蓄積させた(縮めた)のち、クラッチ部材22による係合を解放する。クラッチ部材22及びブレーキ部材24に解放され単振動する第3フェーズにて振動子20の角速度が出力シャフト14と等しくなったときに、ブレーキ部材24によって振動子20が固定部17に係合され、
図6,7の第4フェーズ(phase4)で示すように、振動子20の角速度は0となる。弾性部材18の弾性エネルギが出力シャフト14に伝達された後に、ブレーキ部材24が解放され振動子20は再び往復運動する(第1フェーズ)。
【0049】
<駆動力伝達装置の動作を表すモデル式>
制御部19の記憶部には、上述の第1から第4フェーズのモデル式が記憶されている。このモデル式では、駆動力伝達装置の動作時の摩擦による損失を無視して、振動子20及び弾性部材18の運動をばね・マス系の運動と捉える。まず第1フェーズについて、振動子20の変位x(t)及び振動子20の角速度W(t)は、下記数式(1)及び数式(2)のように表すことができる。
【0052】
ここで、W
outは出力シャフト14の角速度、tは時刻、A
1は第1フェーズにおける弾性部材18の振幅、α
1は初期位相を表している。また、ωは振動子20の慣性I
mと弾性部材18の捩り剛性kを用いた下記数式(3)で求められる固有角振動数である。
【0054】
第1フェーズの始点t
0及び終点t
1における振動子20の角速度の条件として、数式(2)を用いて、下記数式(4)及び数式(5)が導き出される。
【0057】
ここで、W
inは入力シャフト12の角速度を表している。上記の式から、振幅A
1、初期位相α-
1、及び時刻t
1は、以下の数式(6)から数式(8)のように表される。
【0061】
次に、第2フェーズ(t
1〜t
2)では、クラッチ部材22による係合のため、入力シャフト12と振動子20は同期しながら回転する。このことから、下記数式(9)及び数式(10)が導かれる。
【0064】
第3フェーズ(t
2〜t
3)では、振動子20はクラッチ部材22及びブレーキ部材24から解放されるため、第1フェーズと同様に単振動する。このことから、下記数式(11)及び数式(12)が導かれる。
【0067】
ここで、A
2は第3フェーズにおける振動子20(及び弾性部材18)の振幅、α
2は第3フェーズにおける初期位相を表している。第3フェーズの始点t
3及び終点t
4において、下記数式(13)及び数式(14)が成り立つ。
【0070】
上記数式から、第3フェーズにおける振動子20の振幅A
2、初期位相α
2、及び時刻t
3は、以下の数式(15)、数式(16)及び数式(17)から求めることができる。
【0074】
第4フェーズでは、ブレーキ部材24により振動子20が固定されることから、下記数式(18)及び数式(19)が導かれる。
【0077】
さらに、ばね・マス系単振動の1周期分の運動を終え、時刻t
4において最初のばね捩り角に戻るとすると、下記数式(20)が得られる。
【0079】
次に、第1フェーズから第4フェーズに至るまでの弾性部材18の伝達トルクを示す数式について説明する。伝達トルクは、各フェーズの振動子20の変位を時間積分したものに弾性部材18のばね剛性kを掛けることで求められる。第1フェーズから第4フェーズに至るまでの各フェーズの平均伝達トルクをそれぞれT
sp#Ave1、T
sp#Ave2、T
sp#Ave3、T
sp#Ave4で示すと、下記数式(21)〜数式(24)が求められる。
【0084】
数式(21)から数式(24)の各フェーズの平均伝達トルクから、ばね・マス系の1周期間の平均伝達トルクは下記数式(25)のように表される。
【0086】
<駆動力伝達装置の制御(1)>
制御部19は、上記数式をもとにして、出力シャフト14から所望のトルクを取り出すための制御を行う。具体的には、制御部19は、クラッチ部材22及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを制御することで、出力シャフト14から得られる出力トルクを制御する。すなわち、制御部19は、クラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1、解放タイミングである時刻t
2、ブレーキ部材24の係合タイミングである時刻t
3、解放タイミングである時刻t
4を求め、これに応じたクラッチ部材22及びブレーキ部材24の係合/解放制御を行うことで、出力トルク制御を行う。時刻t
1〜t
4の導出は、第1から第4フェーズまでの平均伝達トルクの要求値を第1〜第4フェーズのモデル式に代入することによって求めることができる。
【0087】
図8には、当該制御におけるフローチャートが例示されている。制御部19は、時刻t
0において、振幅A
1、初期位相α
1、及びクラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1を求める(S10)。
【0088】
具体的には、速度センサ21Cから送られた出力シャフト14の角速度W
out、速度センサ21Bから送られた振動子20の位置x(t
0)、及び数式(3)により予め求められた固有角振動数ωを数式(6)に代入することで、振幅A
1を求める。振幅A
1が求められると、数式(7)から初期位相α
1-が求められる。さらに振幅A
1及び初期位相α
1が求められると、数式(8)より時刻t
1が求められる。
【0089】
次に制御部19は、数式(22)を用いてクラッチ部材22の解放タイミングである時刻t
2を求める(S12)。具体的には、数式(22)に第2フェーズの平均伝達トルクの要求値T
sp#Ave2、時刻t
1、振幅A
1、初期位相α
1、入力シャフト12の角速度W
in及び出力シャフト14の角速度W
outを代入することで、時刻t
2を求める。
【0090】
次に制御部19は、数式(15)〜数式(17)を用いて、振幅A
2、初期位相α
2、及びブレーキ部材24の係合タイミングである時刻t
3を求める(S14)。数式(15)について、右辺の各パラメータは求められているので、これを解くことで振幅A
2が求められる。振幅A
2が求められると、数式(16)から初期位相α
2が求められる。初期位相α
2が求められると、数式(17)から時刻t
3が求められる。
【0091】
さらに制御部19は、数式(20)を用いて、ブレーキ部材24の解放タイミングである時刻t
4を求める(S16)。
【0092】
その後制御部19は、クラッチ部材22の係合タイミングt
1及び解放タイミングt
2に基づいてクラッチ部材22に対して係合信号及び開放信号を出力する。また、ブレーキ部材24の係合タイミングt
3及び解放タイミングt
4に基づいてブレーキ部材24に対して係合信号及び解放信号を出力する(S18)。
【0093】
時刻t
4に至ると、制御部19は時刻t
4=t
0として(S20)、速度センサ21A,21B,21Cから、入力シャフト12の角速度W
in、振動子20の位置及び出力シャフト14の角速度W
outを受信して、上述の数式にこれらの値を代入する。以下前周期と同様にして、クラッチ部材22の係合/解放タイミング及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを求める。
【0094】
<駆動力伝達装置の制御(2)>
上述した制御プロセスにおいては、時刻t
0から時刻t
1の間に、平均伝達トルクの要求値T
sp#Ave*を満たす、時刻t
1〜t
4、振幅A
1,A
2、初期位相α
1,α
2を求めている。時刻t
0から時刻t
1までが短期間である場合、これらの算出が間に合わなくなるおそれがある。そこで、一部のパラメータの導出に際して、前周期のパラメータを用いるようにして、演算負荷を軽減させるようにしてもよい。
【0095】
図9には、上記制御のタイムチャートが例示されている。ここでは、第1フェーズから第4フェーズまでの周期B(前周期)、さらにそれに続く周期A(現周期)と、周期Bの第3フェーズから周期Aの第2フェーズまでに跨る周期Cが示されている。
【0096】
制御部19は、周期Bの第3フェーズ及び第4フェーズの振幅A
2、初期位相α
2、時刻t
0、t
2、t
3、t
4を用いて、周期Aにおける振幅A
1、初期位相α-
1、時刻t
1、t
2を求める。さらにその後、求められた振幅A
1、初期位相α-
1、時刻t
1、t
2を用いて残りの振幅A
2、初期位相α-
2、時刻t
3、t
4を求める。
【0097】
図10には、上記制御におけるフローチャートが例示されている。制御部19は、周期Aにおける時刻t
0において、振幅A
1、初期位相α
1、及びクラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1を求める(S30)。
【0098】
具体的には、周期Bにおける時刻t
4(=周期A,Cにおける時刻t
0)及び出力シャフト14の角速度W
outと数式(6)から、振幅A
1が求められる。さらに振幅A
1及び出力シャフト14の角速度W
outと数式(7)から、初期位相α
1が求められる。続いて入力シャフト12の角速度W
in、出力シャフト14の角速度W
out、初期位相α
1、振幅A
1、及び周期Bにおける時刻t
4(=周期A,Cにおける時刻t
0)と数式(8)から、クラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1が求められる。
【0099】
続いて、制御部19は、クラッチ部材22の解放タイミングである時刻t
2を求める(S32)。ここでは、数式(22)及び数式(25)から導き出された下記数式(26)〜(29)を用いる。
【0101】
上記数式(26)〜(29)において、各パラメータのサフィックスBは周期Bの値を示している。
【0102】
時刻t
2が求められた後は、周期Cから周期Aに視点を切り替えて、制御部19は、周期Aの第3フェーズ及び第4フェーズに関するパラメータである、振幅A
2、初期位相α
2、及びブレーキ部材24の係合タイミングである時刻t
3を求める(S34)。
【0103】
具体的には、時刻t
2と数式(15)から、振幅A
2が求められる。振幅A
2が求められると、数式(16)から、初期位相α
2が求められる。振幅A
2及び初期位相α
2が求められると、数式(17)から時刻t
3が求められる。
【0104】
さらに制御部19は、数式(24)及び数式(25)から導き出された下記数式(30)〜数式(33)を解くことで、ブレーキ部材24の解放タイミングである時刻t
4を求める(S36)。
【0106】
その後制御部19は、クラッチ部材22の係合タイミングt
1及び解放タイミングt
2に基づいてクラッチ部材22に対して係合信号及び開放信号を出力する。また、ブレーキ部材24の係合タイミングt
3及び解放タイミングt
4に基づいてブレーキ部材24に対して係合信号及び解放信号を出力する(S38)。
【0107】
時刻t
4に至ると、制御部19は時刻t
4=t
0として(S40)、速度センサ21A,21B,21Cから、入力シャフト12の角速度W
in、振動子20の位置及び出力シャフト14の角速度W
outを受信して、上述の数式にこれらの値を代入する。以下前周期と同様にして、クラッチ部材22の係合/解放タイミング及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを求める。
【0108】
<駆動力伝達装置の制御(3)>
本制御では、演算負荷を軽減させるために、第3フェーズを省略(無視)する近似を行った上で、第1、第2、及び第4フェーズのモデル式をもとに、クラッチ部材22の係合/解放タイミング及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを求める。
図7や
図9に示されるように、全周期に占める第3フェーズの割合は他のフェーズと比較して短い。このため、第3フェーズを省略しても実際の制御には影響が少ないとの仮定のもと、本制御を行う。
【0109】
本制御を行うに当たり、予め制御部19では、時刻t
2≒t
3とする処理を行う。また、1周期の平均伝達トルクを求める際に第3フェーズのトルク分を無視する。加えて、数式(18)について、出力シャフトの角速度W
out<<ωA
2として、(ω(t
3−t
0)+α
2)≒0とする。さらに、数式(15)について、(W
out−W
in)<<ω、cos(ω(t
1−t
0)+α
1)≒1として、振幅A
2≒A
1+(t
2−t-
1)(W
in−W
out)とする。
【0110】
上記の簡略化により、平均伝達トルクT
sp#Aveの要求値を満たす時刻t
2は、下記数式(34)〜数式(37)により求めることができる。
【0112】
図11には、本制御におけるフローチャートが例示されている。制御部19は、周期Aにおける時刻t
0において、数式(6)から数式(8)を用いて、振幅A
1、初期位相α
1、及びクラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1を求める(S50)。
【0113】
続いて、制御部19は、数式(34)〜数式(37)を解いて、クラッチ部材22の解放タイミングである時刻t
2を求める(S52)。さらに制御部19は、時刻t
2と数式(15)〜数式(17)から、振幅A
2、初期位相α
2、及びブレーキ部材24の係合タイミングである時刻t
3を求める(S54)。加えて制御部19は、数式(20)を用いて、ブレーキ部材24の解放タイミングである時刻t
4を求める(S56)。
【0114】
その後制御部19は、クラッチ部材22の係合タイミングt
1及び解放タイミングt
2に基づいてクラッチ部材22に対して係合信号及び開放信号を出力する。また、ブレーキ部材24の係合タイミングt
3及び解放タイミングt
4に基づいてブレーキ部材24に対して係合信号及び解放信号を出力する(S58)。
【0115】
時刻t
4に至ると、制御部19は時刻t
4=t
0として(S60)、速度センサ21A,21B,21Cから、入力シャフト12の角速度W
in、振動子20の位置及び出力シャフト14の角速度W
outを受信して、上述の数式にこれらの値を代入する。以下前周期と同様にして、クラッチ部材22の係合/解放タイミング及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを求める。
【0116】
<駆動力伝達装置の制御(4)>
本制御では、上記とは異なる近似、簡略化により、演算負荷の軽減を図る。まず、数式(16)、数式(17)、及び数式(23)から、下記数式(38)が得られる。
【0118】
また、第1フェーズ及び第3フェーズの時間の合計は、ばね・マス系の周期にほぼ等しいとみなすことができることから、下記数式(39)が得られる。
【0120】
また、上述した制御(3)と同様にして、数式(18)について、出力シャフトの角速度W
out<<ωA
2として、(ω(t
3−t
0)+α
2)≒0とする。さらに、数式(15)について、(W
out−W
in)<<ω、cos(ω(t
1−t
0)+α
1)≒1として、振幅A
2≒A
1+(t
2−t-
1)(W
in−W
out)とする。
【0121】
これらの数式及び数式(20)、数式(22)、数式(24)、数式(25)より、下記数式(40)〜数式(43)が導き出される。この数式を解くことで、クラッチ部材22の解放タイミングである時刻t
2が求められる。
【0123】
図12には、本制御におけるフローチャートが例示されている。制御部19は、周期Aにおける時刻t
0において、数式(6)から数式(8)を用いて、振幅A
1、初期位相α
1、及びクラッチ部材22の係合タイミングである時刻t
1を求める(S70)。
【0124】
続いて、制御部19は、数式(40)〜数式(43)を解いて、クラッチ部材22の解放タイミングである時刻t
2を求める(S72)。さらに制御部19は、時刻t
2と数式(15)〜数式(17)から、振幅A
2、初期位相α
2、及びブレーキ部材24の係合タイミングである時刻t
3を求める(S74)。加えて制御部19は、数式(20)を用いて、ブレーキ部材24の解放タイミングである時刻t
4を求める(S76)。
【0125】
その後制御部19は、クラッチ部材22の係合タイミングt
1及び解放タイミングt
2に基づいてクラッチ部材22に対して係合信号及び開放信号を出力する。また、ブレーキ部材24の係合タイミングt
3及び解放タイミングt
4に基づいてブレーキ部材24に対して係合信号及び解放信号を出力する(S78)。
【0126】
時刻t
4に至ると、制御部19は時刻t
4=t
0として(S80)、速度センサ21A,21B,21Cから、入力シャフト12の角速度W
in、振動子20の位置及び出力シャフト14の角速度W
outを受信して、上述の数式にこれらの値を代入する。以下前周期と同様にして、クラッチ部材22の係合/解放タイミング及びブレーキ部材24の係合/解放タイミングを求める。