【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は操舵角をドライバ入力と独立して設定自在な操舵手段としての電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0010】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオンが噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0011】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2、ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン軸(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0012】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動パワーステアリングモータ(電動モータ)12が連設されており、この電動モータ12にてステアリングホイール4に加える操舵トルクのアシスト、及び、設定された目標旋回量(例えば、目標ヨーレート)となるような操舵トルクの付加が行われる。電動モータ12は、後述する操舵制御部20から制御出力値としての目標トルクTpがモータ駆動部21に出力されてモータ駆動部21により駆動される。
【0013】
操舵制御部20は、ドライバの操舵力を補助する電動パワーステアリング制御機能、車両を目標進行路に沿って走行させるレーンキープ制御機能、車線の車線区画線(左右白線)からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御機能等を有して構成され、本実施の形態では、車線逸脱防止制御機能の構成について説明する。
【0014】
操舵制御部20には、車線区画線(左右白線)を検出し、車線区画線から車線情報と、車線に対する車両の姿勢角・位置情報を取得する車線検出手段としての前方認識装置31が接続され、車速Vを検出する車速センサ32、操舵角(実舵角)θpを検出する操舵角センサ33、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34、車線のカント角θcaを検出するカント角検出センサ35が接続されている。
【0015】
前方認識装置31は、例えば、車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像する1組のCCDカメラと、このCCDカメラからの画像データを処理するステレオ画像処理装置とから構成されている。
【0016】
前方認識装置31のステレオ画像処理装置における、CCDカメラからの画像データの処理は、例えば以下のように行われる。まず、CCDカメラで撮像した自車両の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求め、距離画像を生成する。
【0017】
白線データの認識では、白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差とに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、本実施の形態では、例えば、
図4に示すように、ステレオカメラの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をX軸(左方向を「+」)、車高方向をY軸(上方向を「+」)、車長方向(距離方向)をZ軸(前方向を「+」)とする。このとき、X−Z平面(Y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車両の車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を所定に近似して連結することによって表現される。尚、本実施の形態では、車線の形状を1組のCCDカメラからの画像を基に認識する例で説明したが、他に、単眼カメラ、カラーカメラからの画像情報を基に求めるものであっても良い。
【0018】
また、カント角検出センサ35は、例えば、以下の(1)式により、カント角θcaを算出するようになっている。
θca=sin
−1((G’−G)/g) …(1)
ここで、Gは横加速度センサ(図示せず)で検出した横加速度値で、G’は、例えば、以下の(2)式により算出される計算横加速度値で、gは重力加速度である。
G’=(1/(1+As・V
2))・(V
2/Lw)・θp …(2)
ここで、Asは車両固有のスタビリティファクタで、Lwはホイールベースである。
【0019】
尚、カント角θcaは、他に、図示しないナビゲーションシステムの地図情報等から得られるものであっても良い。
【0020】
そして、操舵制御部20は、上述の車線区画線位置情報、各センサ信号を基に、車線の幅方向の車両位置(車線幅方向車両横位置)xvを算出し、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを算出し、該目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標ヨーモーメントMztを算出し、目標ヨーモーメントMztに応じて電動パワーステアリング装置1に出力する制御量としての目標トルクTpを算出し、車両が車線逸脱方向に向いている場合、ヨーレートγが目標ヨーレートγtを超えている場合は目標トルクTpに付加する操舵系の摩擦トルクを補償する摩擦補償トルクTfricを0とする一方、ヨーレートγが目標ヨーレートγtを超えていない場合はヨーレートγが目標ヨーレートγtに近づく方向に摩擦補償トルクTfricを付加すると共に、車両が車線逸脱方向に向いていない場合、ヨーレートγが目標ヨーレートγtに近づく方向に摩擦補償トルクTfricを付加して補償し、この摩擦補償された目標トルクTpをモータ駆動部21に出力する。また、車線逸脱予想時間Tttlcは、警報制御装置40に対しても出力され、警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。このように、操舵制御部20は、逸脱予想手段、目標旋回量算出手段、制御量補正手段、制御補正変更手段の機能を有して構成されている。尚、本実施の形態においては、目標ヨーレートγt、及び、目標ヨーモーメントMztを目標旋回量とし、ヨーレートセンサ34からのヨーレートγを実際の旋回量としている。
【0021】
以下、
図2のフローチャートを基に、操舵制御部20で実行される車線逸脱防止制御を説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、前方認識装置31で取得した左右白線の近似処理を実行する。
【0022】
自車両の左側の白線は最小自乗法により、以下の(3)式により近似される。
x=AL・z
2+BL・z+CL …(3)
また、自車両の右側の白線は最小自乗法により、以下の(4)式により近似される。
x=AR・z
2+BR・z+CR …(4)
ここで、上述の(3)式、(4)式における、「AL」と「AR」は、それぞれの曲線における曲率を示し、左側の白線の曲率κは、2・ALであり、右側の白線の曲率κは、2・ARである。また、(3)式、(4)式における、「BL」と「BR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における傾きを示し、「CL」と「CR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における位置を示す(
図4参照)。
【0023】
次いで、S102に進み、自車両の対車線ヨー角θyawを、以下の(5)式により算出する。
θyaw=(BL+BR)/2 …(5)
【0024】
次に、S103に進み、車線の中央からの自車両位置である車線幅方向車両横位置xvを、以下の(6)式により算出する。
xv=(CL+CR)/2 …(6)
【0025】
次いで、S104に進み、車線車両間距離Lを、以下の(7)式により算出する。
L=((CL−CR)−TR)/2−xv …(7)
ここで、TRは車両のトレッドであり、本発明の実施の形態では、タイヤ位置を車線逸脱判定の基準に用いるものとする。
【0026】
次に、S105に進み、車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを、例えば、以下の(8)式により算出する。
Tttlc=L/(V・sin(θyaw)) …(8)
【0027】
そして、S106に進み、上述の車線逸脱予想時間Tttlcが警報制御装置40に出力され、この警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。
【0028】
次に、S107に進み、車線からの逸脱を防止する目標ヨーレートγtを、以下の(9)式により算出する。
γt=−θyaw/Tttlc …(9)
【0029】
次いで、S108に進み、上述のS107で算出した目標ヨーレートγtを基に、車線からの逸脱を防止するのに必要な車両に付加する目標ヨーモーメントMztを、以下の(10)式により算出する。
Mzt=Kp・(γt−γ)+Ki・∫(γt−γ)
+Kd・d(γt−γ)/dt …(10)
ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインである。
【0030】
次に、S109に進み、後述の
図3のフローチャートで説明する、操舵系フリクション補償処理を行って、操舵系摩擦補償トルクTfricを算出する。
【0031】
そして、S110に進んで、以下の(11)式により目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。
Tp=K・Mzt+Tfric …(11)
ここで、Kは予め設定しておいたトルク変換ゲインである。
【0032】
次に、上述のS109で実行される操舵系フリクション補償処理を、
図3のフローチャートで説明する。
まず、S201で、自車両の対車線ヨー角θyawが逸脱方向か否か判定し、逸脱方向ではない場合は、S202に進み、ヨーレートの絶対値|γ|と目標ヨーレートの絶対値|γt|を比較する。
【0033】
この判定の結果、|γ|≦|γt|の場合は、S203に進み、左旋回時(符号「+」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて増加させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に+Tfcを設定する(Tfric=+Tfc)一方、右旋回時(符号「−」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて減少させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に−Tfcを設定(Tfric=−Tfc)してルーチンを抜ける。尚、Tfcは、予め実験、演算等により設定しておいた正の補償トルクの値であり、実舵角θp、操舵トルクから推定される摩擦トルクの推定値等により可変設定される値でも良い。
【0034】
また、S202の判定の結果、|γ|>|γt|の場合は、S204に進み、左旋回時(符号「+」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて減少させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に−Tfcを設定する(Tfric=−Tfc)一方、右旋回時(符号「−」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて増加させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に+Tfcを設定(Tfric=+Tfc)してルーチンを抜ける。
【0035】
上述のS201の判定の結果、自車両の対車線ヨー角θyawが逸脱方向と判定し、逸脱防止制御が実行されていると判定した場合は、S205に進み、ヨーレートの絶対値|γ|と目標ヨーレートの絶対値|γt|を比較する。
【0036】
S205の判定の結果、|γ|≦|γt|の場合は、S206に進み、上述のS203と同様、左旋回時(符号「+」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて増加させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に+Tfcを設定する(Tfric=+Tfc)一方、右旋回時(符号「−」)の場合にはヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに向けて減少させるべく、摩擦補償トルクTfricの値に−Tfcを設定(Tfric=−Tfc)してルーチンを抜ける。
【0037】
また、S202の判定の結果、|γ|>|γt|の場合は、S207に進み、ヨーレートγの値を目標ヨーレートγtに近づけるべく、ヨーレートの絶対値が減少する方向に行う補償を禁止して、換言すれば、ステアリングを切り戻す方向に制御する摩擦補償トルクTfricによる補償を禁止するべく、摩擦補償トルクTfricの値を0としてルーチンを抜ける。
【0038】
上述の車線逸脱防止制御での、ヨーレートセンサ34からのヨーレートγ(実ヨーレートγ)、目標ヨーレートγt、設定される摩擦補償トルクTfricの一例を、
図5のタイムチャートで説明する。尚、本
図5の説明では、左旋回(「+」符号)方向の目標ヨーレートγtがに入力される例を示している。
【0039】
まず、
図5(a)に示すように、車両が車線からの逸脱方向にヨー角θyawが向いている状態で、逸脱防止制御が作動し、
図5(b)に示すように、時刻t1で目標ヨーレートγが入力されると、これにより実ヨーレートγが上昇される。
【0040】
図5(a)に示すように、車両が車線からの逸脱方向に向いているため、
図5(b)に示すように、時刻t5までは、逸脱防止制御により目標ヨーレートγtが入力されるが、この時刻t1〜時刻t5までの間で、時刻t1〜時刻t2の間はγ≦γtとなり、時刻t2〜時刻t3の間はγ>γtとなり、時刻t3〜時刻t4の間はγ≦γtとなり、時刻t4〜時刻t5の間はγ>γtとなる。
【0041】
図5(a)に示すように、時刻t5以降は、車両は車線からの逸脱方向に向いていないため、逸脱防止制御による目標ヨーレートγtの入力はなくなって、
図5(b)に示すように、時刻t5〜時刻t6の間はγ>γtとなり、時刻t6〜時刻t7の間はγ≦γtとなり、時刻t7以降はγ>γtとなっている。
【0042】
こうした、
図5(b)に示す目標ヨーレートγtと実ヨーレートγの関係において、本実施の形態では、基本的に、操舵系の摩擦トルクを補償するため、
図5(c)に示すように、時刻t5以降の摩擦補償トルクTfricのように、実ヨーレートγが目標ヨーレートγtに近づく方向に摩擦補償トルクTfricを付加して、操舵系の摩擦トルクを補償し、ドライバが感じるフリクション感を安定させ、操舵フィーリングを向上できるようになっている。
【0043】
しかしながら、時刻t1〜時刻t5の間のような、車両が車線から逸脱方向に向いており逸脱防止制御が作動するような場合には、γ≦γtとなるステアリングを切り増し方向に制御する場合にのみ摩擦補償トルクTfricを付加し、γ>γtとなるようなステアリングを戻し方向に制御する場合は、摩擦補償トルクTfricを0とする。このように、ステアリングを切り増し方向に制御する場合にのみ摩擦補償トルクTfricを付加することにより、ステアリングの切り過ぎを生じること無く、ステアリングを切り増し方向に制御する場合と切り戻し方向に制御する場合の摩擦補償トルクTfricの付加で生じる無用な操舵トルクの変動を防止し、操舵トルクのハンチングが生じてドライバの操舵感が悪化することを確実に防止できるようになっている。