特許第6328033号(P6328033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6328033
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】電子体温計
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/00 20060101AFI20180514BHJP
   G01K 1/16 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
   G01K7/00 341Z
   G01K1/16
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-227059(P2014-227059)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-90466(P2016-90466A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507351883
【氏名又は名称】シチズン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【弁理士】
【氏名又は名称】伊坪 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100161089
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 良一
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀樹
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−189408(JP,A)
【文献】 実開昭61−165437(JP,U)
【文献】 実開平4−124433(JP,U)
【文献】 特開昭61−215928(JP,A)
【文献】 実開昭51−161177(JP,U)
【文献】 特開2012−150039(JP,A)
【文献】 実開平3−85039(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に腋下に収まる本体部と、
前記本体部を覆うカバーと、
前記カバーにより前記本体部の周囲に形成される空気層と、
前記本体部から前記カバーより外側に突出し、前記本体部が腋下に挟まれたときに腋下内の皮膚に接触して温度を検知する検温部と、
を有し、
前記空気層の形成により全体の熱伝導率を前記本体部より低くしたことを特徴とする電子体温計。
【請求項2】
前記カバーは前記本体部を中心とする円環状の空気袋であり、
前記空気層は前記空気袋内の空気である、請求項1に記載の電子体温計。
【請求項3】
前記カバーは、前記空気袋の空気量を調整可能に構成される、請求項2に記載の電子体温計。
【請求項4】
前記カバーは、前記空気層と前記本体部を間に挟む、ヒュームドシリカ含有材による固形断熱材で構成された1対の板状部材である、請求項1に記載の電子体温計。
【請求項5】
前記カバーは、前記空気層と前記本体部を間に挟むポリマー系の断熱シートである、請求項1に記載の電子体温計。
【請求項6】
前記カバーを前記本体部に固定し、前記本体部に対する前記カバーの位置を変化させることで前記空気層の厚さを調整可能な柱状部材をさらに有する、請求項4または5に記載の電子体温計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子体温計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、腋下に挟んで使用する水銀体温計は細長い本体形状を有し、電子体温計も水銀体温計を踏襲した細長い本体形状を有している。体温計を正しく使用するには、腋下の窪みの中心部に検温部の先端が当たるように、鉛直方向に対して30〜45度程度の斜め下方向から体温計を腋下に挟んで固定する必要がある。しかしながら、細長い形状では腋下に挟んだ際の安定性に欠けるため、体温計が使用者の腋下に安定して固定されるようにするための様々な改良が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、腋下の窪み部分に全体がはめ込まれる大きさであって、全体の形状を、一般的な細長い形状ではなく円盤状またはだ円盤状にした電子体温計が記載されている。特許文献2には、本体形状を腋の下の窪みに合わせた任意の曲線形偏平体とし、感温部を腋窩動脈部の肌に密着するように曲線形偏平体の外郭の一端に設けた電子体温計が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、平板形状の本体部と、本体部の一方の端部に形成され、円弧または楕円弧形状の外周面を有し、その外周面上に複数の感温部が設けられた測定部とを備える電子体温計が記載されている。この電子体温計は、温度センサや検出回路を複数設ける必要があるため製造コストは高くなるが、検温部を面積の広い楕円形状とすることで、挟みやすさを改善している。
【0005】
また、特許文献4には、温度センサを内蔵した測温部材に、スポンジ、弾性ゴムなどの柔軟性を有する材料から成るキャップ部材を被せて腋窩に対するフィット感を向上させた電子体温計が記載されている。特許文献5には、使用者が体温計を腋下に挟んだときに冷たく感じないように、測温部を除く筐体のほぼ全体が起毛素材または発泡素材で形成された電子体温計が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−189408号公報
【特許文献2】実開昭63−146730号公報
【特許文献3】特開2011−022094号公報
【特許文献4】特許第5345488号公報
【特許文献5】実用新案登録第3158630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に高齢者には、毎日の健康チェックに体温を測る人が多い。しかしながら、高齢者や痩せている人は、皮下脂肪が少なく筋力も弱いことが多いため、上記の通り、測定中に細長い体温計を安定して挟み続けることが難しいという問題がある。
【0008】
図5は、一般的な細長い体温計による測定温度の時間変化の例を示すグラフである。グラフの横軸は体温計が腋下に挿入されてからの経過時間t(秒)を示し、縦軸は体温計の検温部からの出力温度T(℃)を示す。実線のグラフは、体温計が腋下に正しく固定され正常に測定できた場合の結果を示し、破線のグラフは、体温計が腋下に正しく固定されず正常に測定できなかった場合の結果を示す。2つのグラフを比較すると、体温計が正しく固定されなかった場合には温度上昇が不安定になることがわかる。痩せている人の場合には、例えば5回の測定のうち1〜2回程度の頻度で、体温計が正しく固定されず、破線のグラフに示すように温度上昇が不安定になる。特に、体温計が予測式の電子体温計である場合には、腋下への挿入直後の温度上昇カーブから、数分後の温度上昇が飽和した時点での体温値を予測しているため、温度上昇が不安定になると、正しい予測値が得られなかったり、エラーになったりする。
【0009】
一方、体温計本体を楕円形状などの腋下の窪み部分に収まる形状とすれば、安定した保持は可能になる。しかしながら、この場合には、従来の細長い体温計に比べて皮膚と体温計本体との接触面積が増えるため、皮膚から体温計本体への伝熱量が大きくなって、体温計を挿入したことにより皮膚温自体が低下してしまうという問題がある。
【0010】
図6は、体温計の形状による測定温度の時間変化の違いの例を示すグラフである。グラフの横軸は体温計が腋下に挿入されてからの経過時間t(秒)を示し、縦軸は体温計の検温部からの出力温度T(℃)を示す。実線のグラフは、一般的な細長い体温計で測定した結果を示し、破線のグラフは、特許文献1,2の電子体温計のように皮膚と本体との接触面積を増やした体温計で測定した結果を示す。図6のグラフから、皮膚との接触面積が大きい体温計では、細長い体温計と比べて温度上昇の立ち上がり方が小さいことがわかる。このため、皮膚との接触面積が大きい予測式の電子体温計では、特に室温が低く本体が冷えている場合には、皮膚温度が本体側に逃げることにより適切な温度上昇にならず、正しい予測値が得られなくなる。
【0011】
そこで、本発明は、痩せている人にとっても腋下に挟みやすくするとともに、本体部の接触による皮膚温の変動量を低減させた電子体温計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の体温計は、使用時に腋下に収まる本体部と、本体部を覆うカバーと、カバーにより本体部の周囲に形成される空気層と、本体部からカバーより外側に突出し、本体部が腋下に挟まれたときに腋下内の皮膚に接触して温度を検知する検温部とを有し、空気層の形成により全体の熱伝導率を本体部より低くしたことを特徴とする。
上記のカバーは本体部を中心とする円環状の空気袋であり、空気層は空気袋内の空気であることが好ましい。
上記のカバーは、空気袋の空気量を調整可能に構成されることが好ましい。
上記のカバーは、空気層と本体部を間に挟む、ヒュームドシリカ含有材による固形断熱材で構成された1対の板状部材であることが好ましい。
上記のカバーは、空気層と本体部を間に挟むポリマー系の断熱シートであることが好ましい。
また、上記の電子体温計は、カバーを本体部に固定し、本体部に対するカバーの位置を変化させることで空気層の厚さを調整可能な柱状部材をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記の電子体温計によれば、痩せている人にとっても腋下に挟みやすくなるとともに、本体部の接触による皮膚温の変動量を低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電子体温計1の斜視図、正面図および底面図である。
図2】電子体温計1による測定温度の時間変化の例を示すグラフである。
図3】電子体温計2の外観を示す模式図である。
図4】電子体温計3の外観を示す模式図である。
図5】一般的な細長い体温計による測定温度の時間変化の例を示すグラフである。
図6】体温計の形状による測定温度の時間変化の違いの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、電子体温計について説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態に限定されないことを理解されたい。
【0016】
図1(A)〜図1(C)は、それぞれ電子体温計1の斜視図、正面図および底面図である。電子体温計1は、本体部10と、本体部10の側面を覆うカバー20とを有する。
【0017】
本体部10は、一般的な細長い電子体温計の本体とは異なり、カバー20に合わせて形成される専用の体温計本体部であり、使用時に腋下に全体が収まる形状および大きさを有する。本体部10は、例えば、長さ20mm程度、幅10mm程度の大きさの円筒形であり、その表面に検温部11、表示部12およびスイッチ13を有する。また、本体部10は、一般的な電子体温計と同様に、その内部に、図示しない制御部や、使用者に検温完了を報知するための圧電ブザーなどを有する。本体部10の材質は、例えば一般的な電子体温計と同じABSであり、その外装厚は2mm、熱伝導率は0.22W/mK程度である。
【0018】
検温部11は、本体部10の上面に設けられ、図1(B)に示すように電子体温計1を正面から見たときに、本体部10からカバー20より外側に突出する。検温部11は、サーミスタなどの感熱素子である体温センサと、その体温センサによる測定データから被測定部位の温度を検知する検知回路とを有する。検温部11の外装は、例えば熱伝導率が18W/mK程度のSUS(特殊用途用ステンレス鋼板)で構成される。検温部11は、本体部10が腋下に挟まれたときに、腋下内の皮膚に接触して皮膚の温度を検知し、その温度値を本体部10内の制御部に順次出力する。
【0019】
一般に、腋下内には腋毛が存在しこの部分の個人差が大きいため、例えば検温部にキャップ部材を被せるなどして検温部の表面積を大きくすると、腋毛を介して皮膚から熱伝導されることになり、測定値が腋毛の影響を大きく受けてしまう。一方、従来の細長いセンサキャップであれば、腋毛内に食い込むように皮膚に接触するため、測定値は腋毛の影響を受けにくくなる。そこで、電子体温計1では、検温部11は一般的な電子体温計と同様に細長く残したままで、検温部11以外の部分の形状を、腋下に安定して固定されるように工夫する。
【0020】
表示部12とスイッチ13は、カバー20で覆われていない本体部10の底面に設けられる。表示部12は、測定中である旨や体温の測定値などを表示する。スイッチ13は、電子体温計1の電源のオン/オフや検温開始の操作などを行うためのスイッチである。
【0021】
電子体温計1が予測式である場合には、本体部10内の制御部は、検温部11から取得した温度値の変化率に基づき、検温部11が熱平衡状態になり温度上昇が安定状態に達したか否かを判定する。制御部は、温度上昇が安定状態に達したと判定すると検温を完了し、本体部10内の圧電ブザーを駆動させて使用者に検温完了を報知するとともに、測定された温度値を表示部12に表示させる。
【0022】
カバー20は、本体部10の側面を覆い、本体部10の周囲に空気層21を形成することで全体の熱伝導率を本体部10より低くする。電子体温計1のカバー20は、例えば熱伝導率が0.41W/mKで厚さ0.3mm程度の薄いポリエチレンビニールであり、本体部10を中心とする円環状の空気袋を形成する。すなわち、カバー20は、空気層21を内包して本体部10を取り囲む浮き輪のような形状を有する。空気層21の厚さは10mm程度、熱伝導率は0.0241W/mkである。ビニール層の熱伝導率はあまりよくないが、カバー20自体の厚さより空気層21の厚さの比率を大きくすることで、空気層21を含むカバー20全体の熱伝導率は小さくなる。
【0023】
また、カバー20は、浮き輪のように使用者が空気を充填する仕様とし、空気袋の空気量を調整可能に構成される。カバー20の表面には、使用者がどれだけ空気を入れればよいかがわかるように、内部の空気量に応じて見かけの形状が変化するマーキングを設けてもよい。
【0024】
楕円形状などとした体温計を腋下に挟む場合には、本体の大きさを使用者の腋下の窪みの大きさに合わせないと、使用時に脈が押し殺されてしまい、適切な体温測定ができなくなる。仮に本体部10を羊毛、起毛素材または発泡素材などで覆えば、それらの熱伝導率は小さいので接触による皮膚温低下を抑えることはできるが、本体の大きさを柔軟に変化させることは難しい。使用者の体型や年齢によって腋下の大きさは異なるので、羊毛などのカバー付きの体温計とする場合には、体格差を吸収するために大きさの異なるカバーを複数用意し、使用者に合った大きさのものに適宜交換する必要がある。しかしながら、電子体温計1では、空気袋の空気量を可変にすることで、電子体温計1全体の大きさを使用者の体型に合うように調整することができ、使用者の体格差の影響を抑えることができる。
【0025】
以下では、電子体温計1の伝熱量について考察する。
【0026】
一般的に、電子体温計の本体は、厚さ2mm程度のABSまたはエラストマーで形成される。その熱伝導率は、ABSが0.19〜0.34W/mKであり、エラストマーも同等の0.22W/mK程度である。全体が腋下に収まる形状であり、熱伝導率が0.22W/mK、片面の外装厚が0.002mの電子体温計が0.0006mの面積で皮膚と接触すると仮定し、腋下に挿入する前の本体温度が20℃、測定対象の腋下皮膚温が人間の平均的体温の36.7℃であるという条件で皮膚から本体への伝熱量E(W)を計算すると、次のようになる。
E=(A/B)×C×D
=(0.0006/0.002)×0.22×(36.7−20.0)
=1.1022(W)
ここで、Aは本体の接触面積(m)、Bは本体外装の厚み(m)、Cは熱伝導率(W/mK)、Dは皮膚と本体の温度差(℃)である。電子体温計を腋下に挟んだ直後の温度低下を無視できるレベルに低減させるためには、この1/10以下に伝熱量を抑える必要がある。
【0027】
電子体温計1の外装は、カバー20のビニール層、空気層21、本体部10のABSの3層で構成される。それぞれの厚さをt(m)、t(m)およびt(m)とおき、熱伝導率をλ(W/mK)、λ(W/mK)およびλ(W/mK)とおくと、電子体温計1全体の片面の厚さtおよび合成熱伝導率λは、次のようになる。
t=t+t+t
=0.0003+0.01+0.002(m)
=0.0123(m)
λ=t/((t/λ)+(t/λ)+(t/λ))
=0.0123/((0.0003/0.41)+(0.01/0.0241)+(0.002/0.22))(W/mK)
=0.029(W/mk)
【0028】
上記と同様に、接触面積が0.0006m、腋下に挿入する前の本体温度が20℃、測定対象の腋下皮膚温が人間の平均的体温の36.7℃であるという条件で皮膚から本体への伝熱量E(W)を計算すると、次のようになる。
E=(A/t)×λ×D
=(0.0006/0.0123)×0.029×(36.7−20.0)(W)
=0.0234(W)
ここで、Aは本体の接触面積(m)、Dは皮膚と本体の温度差(℃)である。したがって、電子体温計1では、本体部をABSのみで構成した場合に比べて、伝熱量Eを約1/47に抑えることができる。
【0029】
図2は、電子体温計1による測定温度の時間変化の例を示すグラフである。グラフの横軸は電子体温計1が腋下に挿入されてからの経過時間t(秒)を示し、縦軸は電子体温計1の検温部11からの出力温度T(℃)を示す。実線のグラフは、一般的な細長い体温計で測定した結果を示し、破線のグラフは、電子体温計1で測定した結果を示す。図2のグラフから、どちらの体温計でも温度上昇の立ち上がり方はほとんど同じであることがわかる。すなわち、電子体温計1では、断熱材として機能する空気層21付きのカバー20で本体部10を囲むことにより、皮膚との接触面積を増やしても、接触による皮膚温の変動が抑えられ、細長い体温計を使用した場合と同様の温度上昇カーブが得られる。
【0030】
図3(A)〜図3(C)は、電子体温計2の外観を示す模式図である。このうち、図3(A)および図3(B)は、それぞれ電子体温計2の正面図および上面図を示し、図3(C)は、電子体温計2の大きさの調整について説明する図である。
【0031】
電子体温計2は、本体部10と、本体部10の側面を覆うカバー30とを有する。本体部10は上記した電子体温計1のものと同じであり、電子体温計1と電子体温計2はカバーのみが異なる。そこで、以下では、電子体温計2について、カバー30の形状および機能を中心に説明し、電子体温計1と重複する部分については説明を省略する。
【0032】
カバー30は、本体部10の側面を覆い、本体部10の周囲に空気層31を形成することで全体の熱伝導率を本体部10より低くする。電子体温計2のカバー30は、空気層31と本体部10を間に挟む、ヒュームドシリカ含有材による固形断熱材で構成された1対の板状部材である。ヒュームドシリカは、空気分子の運動を規制する微細なマイクロポア構造を有した超微細粒子で形成された、起毛とも発泡とも異なる断熱材であり、0.021W/mkという空気並みに低い熱伝導率を有する。各板状部材の厚さは、例えば2mmとする。空気層31の厚さは10mm程度、熱伝導率は0.0241W/mkである。
【0033】
また、カバー30は、長さを収縮可能な支柱32を介して本体部10に固定される。支柱32は、柱状部材の一例であり、本体部10に対するカバー30の位置を変化させることで空気層31の厚さを調整可能にする機能を有する。例えば使用者が1対のカバー30を互いに外側に引っ張ると、図3(C)に破線33で示すように支柱32の長さが拡大して、空気層31の厚さが大きくなる。逆に、例えば使用者が1対のカバー30を互いに押し込むと、支柱32の長さが収縮して、空気層31の厚さが小さくなる。なお、図3(B)では各板状部材に2本ずつの支柱32が設けられた形態を示しているが、支柱32の本数は何本でもよい。また、一方の板状部材の支柱32だけ長さを収縮可能であってもよく、両方の板状部材の支柱32が長さを収縮可能であってもよい。
【0034】
このように、電子体温計2では、体温計全体の厚さを使用者の体型に応じた挟み易い大きさに調整することができる。また、支柱32を用いることで、電子体温計2では、空気袋の膨らみを調整する電子体温計1よりも、体温計全体の厚さを調整しやすくなるという利点もある。
【0035】
電子体温計2の外装は、カバー30の一方の板状部材、空気層31、本体部10のABSの3層で構成される。それぞれの厚さをt(m)、t(m)およびt(m)とおき、熱伝導率をλ(W/mK)、λ(W/mK)およびλ(W/mK)とおくと、電子体温計2全体の片面の厚さtおよび合成熱伝導率λは、次のようになる。
t=t+t+t
=0.002+0.01+0.002(m)
=0.014(m)
λ=t/((t/λ)+(t/λ)+(t/λ))
=0.014/((0.002/0.021)+(0.01/0.0241)+(0.002/0.22))(W/mK)
=0.027(W/mk)
【0036】
上記と同様に、接触面積が0.0006m、腋下に挿入する前の本体温度が20℃、測定対象の腋下皮膚温が人間の平均的体温の36.7℃であるという条件で皮膚から本体への伝熱量E(W)を計算すると、次のようになる。
E=(A/t)×λ×D
=(0.0006/0.014)×0.027×(36.7−20.0)(W)
=0.0193(W)
ここで、Aは本体の接触面積(m)、Dは皮膚と本体の温度差(℃)である。したがって、電子体温計2では、本体部をABSのみで構成した場合に比べて、伝熱量Eを約1/52に抑えることができる。
【0037】
なお、電子体温計2は、正面から見たときに、検温部11が本体部10からカバー30より外側に突出し、腋毛内に食い込むように皮膚に接触して腋毛の影響を受けにくくするという点も、電子体温計1と同様である。
【0038】
図4(A)〜図4(C)は、電子体温計3の外観を示す模式図である。このうち、図4(A)および図4(B)は、それぞれ電子体温計3の正面図および側面図を示し、図4(C)は、電子体温計3の大きさの調整について説明する図である。
【0039】
電子体温計3は、本体部10と、本体部10の側面を覆うカバー40とを有する。このうち、本体部10は上記した電子体温計1のものと同じであり、電子体温計1と電子体温計3はカバーのみが異なる。そこで、以下では、電子体温計3について、カバー40の形状および機能を中心に説明し、電子体温計1と重複する部分については説明を省略する。
【0040】
カバー40は、本体部10の側面を覆い、本体部10の周囲に空気層41を形成することで全体の熱伝導率を本体部10より低くする。電子体温計3のカバー40は、空気層41と本体部10を間に挟むようにU字型に折り曲げられた断熱シートであり、ポリマー系の材料により構成される。ポリマー系の断熱シートは、起毛とも発泡とも異なる断熱材であり、0.014〜0.023W/mkという空気並みに低い熱伝導率を有する。電子体温計3では、ポリマー系の断熱シートとして、例えば、厚さが0.5mm、熱伝導率が0.023W/mkのものを用いる。空気層41の厚さは10mm程度、熱伝導率は0.0241W/mkである。
【0041】
また、カバー40は、長さを収縮可能な支柱42を介して本体部10に固定される。支柱42は、柱状部材の一例であり、本体部10に対するカバー40の位置を変化させることで空気層41の厚さを調整可能にする機能を有する。例えば使用者が両側のカバー40を互いに外側に引っ張ると、図4(C)に破線44で示すように支柱42の長さが拡大して、空気層41の厚さが大きくなる。逆に、例えば使用者が両側のカバー40を互いに押し込むと、支柱42の長さが収縮して、空気層41の厚さが小さくなる。なお、図4(B)では本体部10の両側に1本ずつの支柱42が設けられた形態を示しているが、支柱42の本数は何本でもよい。また、一方の板状部材の支柱42だけ長さを収縮可能であってもよく、両方の板状部材の支柱42が長さを収縮可能であってもよい。
【0042】
このように、電子体温計3では、U字型の開き量を調整可能にすることにより、体温計全体の厚さを使用者の体型に応じた挟み易い大きさに調整することができる。また、支柱42を用いることで、電子体温計3では、空気袋の膨らみを調整する電子体温計1よりも、体温計全体の厚さを調整しやすくなるという利点もある。
【0043】
なお、断熱シートによるカバー40は、電子体温計2のヒュームドシリカによるカバー30と比べて強度が弱いため、電子体温計3では、本体部10の両側に、図4(A)に示すようなフレーム43が設けられる。フレーム43は、カバー40の外周に沿った部分と、支柱42からカバー40の外周に向けて延びる部分とを有する。フレーム43とカバー40とを貼り付けることにより、電子体温計3では、カバー40の強度を確保する。
【0044】
電子体温計3の外装は、カバー40の一方の断熱シート、空気層41、本体部10のABSの3層で構成される。それぞれの厚さをt(m)、t(m)およびt(m)とおき、熱伝導率をλ(W/mK)、λ(W/mK)およびλ(W/mK)とおくと、電子体温計3全体の片面の厚さtおよび合成熱伝導率λは、次のようになる。
t=t+t+t
=0.0005+0.01+0.002(m)
=0.0125(m)
λ=t/((t/λ)+(t/λ)+(t/λ))
=0.0125/((0.0005/0.023)+(0.01/0.0241)+(0.002/0.22))(W/mK)
=0.028(W/mk)
【0045】
上記と同様に、接触面積が0.0006m、腋下に挿入する前の本体温度が20℃、測定対象の腋下皮膚温が人間の平均的体温36.7℃であるという条件で皮膚から本体への伝熱量E(W)を計算すると、次のようになる。
E=(A/t)×λ×D
=(0.0006/0.0125)×0.028×(36.7−20.0)(W)
=0.0193(W)
ここで、Aは本体の接触面積(m)、Dは皮膚と本体の温度差(℃)である。したがって、電子体温計3では、本体部をABSのみで構成した場合に比べて、伝熱量Eを約1/49に抑えることができる。
【0046】
なお、電子体温計3は、正面から見たときに、検温部11が本体部10からカバー40より外側に突出し、腋毛内に食い込むように皮膚に接触して腋毛の影響を受けにくくするという点も、電子体温計1と同様である。
【0047】
以上説明したように、電子体温計1〜3では、腋下に収まる形状の本体部10にカバー20,30,40をかぶせることにより、全体が腋下にフィットする形状になり、挟み易さが改善される。また、電子体温計1〜3では、熱伝導率が小さいカバー20,30,40で空気層21,31,41を形成することにより、数mm厚のABSやエラストマーの本体部を直接皮膚に接触させた場合よりも体温計全体の合成熱伝導率が小さくなるため、接触による皮膚温の変動量が低減される。さらに、電子体温計1〜3では、空気層21,31,41の厚さを調整可能にすることにより、簡易な構成で、大きさの変化にも対応することができる。
【0048】
なお、上記したカバー20,30,40とは別に、羊毛またはそれに等価な合成繊維のカバーで本体部10の側面を覆ってもよい。この場合、複数の大きさのカバーを用意し、使用者の体型に合わせてカバーを交換可能にするとよい。羊毛などのカバーを用いても、電子体温計1〜3と同様に、皮膚から体温計への伝熱量を、ABSやエラストマーの数十分の一程度に抑えることが可能である。
【0049】
また、例えば発泡スチロール、発泡ポリウレタンなどの熱伝導率の小さい他の材料で本体部10を覆ってもよい。ただし、耐久性の悪い材質を用いる場合には使い捨てカバーの形態になるため、本体部10のカバーの材質としては耐久性の高いものが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1,2,3 電子体温計
10 本体部
11 検温部
12 表示部
13 スイッチ
20,30,40 カバー
21,31,41 空気層
32,42 支柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6