(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.実施形態
本発明の一実施形態に係る車椅子9の構成について、図を参照しながら説明する。
1−1.全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る車椅子9の側面図である。この車椅子9は、電動車椅子として構成され、一対の駆動輪1には図示しないモータの動力が伝達されるようになっている。図示しないが、車椅子9に着席した利用者が操作する操作ボックスが設けられており、操作ボックスの操作子を操作することにより、車椅子9は前進、後進、左右への旋回、姿勢の調整など任意の動きができるようになっている。以下、図において、車椅子9の右方向を+x、前方向を+y、上方向を+zとするxyz右手系座標空間を用いて説明する。以下の図に示す座標記号のうち、内側が白い円の中に黒い円を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表している。空間においてx成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。同様に、y、z成分についても、+y方向、−y方向、+z方向、−z方向を定義する。なお、車椅子9を旋回させるときは、左右の駆動輪1への回転量に差を持たせて旋回させるようになっている。
【0016】
駆動輪1は、左右に間隔をあけて1つずつ設けられており、それぞれタイヤ10、ハブ11およびプレート12を有する。タイヤ10はハブ11の外周に設けられており、その半径はr1[m]である。ハブ11はモータを有しており、
図1が示すyz平面上の点P1で示される軸を中心にタイヤ10を回転させる。プレート12は、yz平面上の点P1と異なる点P4で示される軸によってハブ11と連結されており、ハブ11に対してこの軸を中心に回転するように構成されている。プレート12には、例えばボルトなどによりレール44が固定されている。レール44は、棒状の部材であり左右一対にそれぞれ設けられている。したがって、各駆動輪1は、同じ側のレール44の荷重を受けてそれぞれ地面に接し、回転可能に設けられている。なお、レール44には、後述する姿勢調整機構40が取り付けられているが
図1において省略する。
【0017】
左右一対のレール44には、バックサポートフレーム42が、外側すなわち右のレール44Rには右側から、左のレール44Lには左側からそれぞれ取り付けられている。バックサポートフレーム42は、レール44に沿って移動可能に構成されている。
図1に示した状態において、レール44はz軸に平行になっているので、この場合、バックサポートフレーム42は上下に移動可能である。左右一対のバックサポートフレーム42には布が張られ、この布により利用者の背部が支持される。左右一対のバックサポートフレーム42からはそれぞれアームサポート43が前方に伸びている。アームサポート43は、その利用者の前腕部を支持する部材である。
【0018】
バックサポートフレーム42には、アームサポート43よりも下の位置から前方に向かって板材が突出しており、この板材には軸受けとなる穴が設けられている。シートフレーム41は、左右一対に設けられた棒状の部材であって、それぞれの一端がこの穴の中心である点P6を中心に回転可能なようにバックサポートフレーム42に支持されている。つまり、シートフレーム41は、前後方向に傾斜可能に設けられている。左右一対のシートフレーム41の間には例えば布製のシート4が張られ、このシート4の上に利用者が座る。したがって、シート4は、左右一対の駆動輪1の間にある空間の上に配置されている。
【0019】
上述したとおり、バックサポートフレーム42にシートフレーム41が設けられ、シートフレーム41によってシート4が形成されるので、レール44は、シート4の左右側面から地面に向かって延びている。そして、バックサポートフレーム42がレール44に沿って移動可能に構成されているため、レール44は、シート4の荷重がかかる位置を長手方向に移動可能にする。ここで、座面とは、シート4が利用者の体を支える面であって、その利用者の体とシート4とが接している面をいう。座面は、利用者が座ることによってシート4に形成され、地面に対して平行な姿勢、すなわち、水平な姿勢に近づくほど、利用者がシート4から滑り落ち難くなる。
【0020】
上述した操作ボックスの操作子に対する利用者の操作を受けて、図示しない駆動機構によりバックサポートフレーム42が、レール44に沿って−z方向に移動すると、シート4は2つの駆動輪1の間にある空間に移動し接地面Gまで移動する。つまり車椅子9は、シート4を接地させる座椅子の状態に変形する。これにより、利用者の乗り降りの負担が軽減される。なお、バックサポートフレーム42に対する点P6の位置は上述した位置に限られないが、利用者が座ったときの股関節の位置にあると、シート4などの姿勢を変化させた時の利用者の負担が軽減されるので望ましい。また、バックサポートフレーム42の上方には、利用者の頭部を支持するヘッドレスト(図示せず)を設けてもよい。
【0021】
レール44の後方(−y方向)には支持部材46が設けられている。この支持部材46にはリンク31が連結されている。リンク31の上端には、yz平面を回転可能なようにリンク34がボルト止めされている。また、リンク31の下端には、yz平面を回転可能なようにリンク32がボルト止めされている。リンク33は、リンク31に対向するようにリンク34およびリンク32にそれぞれボルト止めされている。これらのリンク31〜34を含んで構成されるリンク機構3は4節のリンク機構である。
【0022】
リンク機構3のリンク33にはヨーク21の一端が支持されており、このヨーク21の他端には後輪2の車軸を受ける軸受けが設けられている。この軸受けを介してヨーク21には後輪2が取り付けられている。このように取り付けられた後輪2は、駆動輪1の後方に配置される。なお、この後輪2の半径はr2[m]である。
【0023】
ハブ11には、前方に向かって延びる板材50が設けられている。この板材50には、ヨーク51の一端が連結されており、ヨーク51の他端には前輪5の車軸を受ける軸受けが設けられている。つまり、この板材50は、駆動輪1と前輪5とを連結する連結部材である。この前輪5の半径はr5[m]である。また、
図1に示す点P5は、前輪5の回転軸が通る点である。ヨーク51には、利用者の足底部を支持する部材としてフットサポート45が設けられている。
【0024】
1−2.姿勢調整機構
図2は、姿勢調整機構40の構成を説明するための図である。
図2には、姿勢調整機構40、レール44および駆動輪1などのx方向およびz方向の配置が示されている。なお、
図2において、フットサポート45、支持部材46、リンク機構3、後輪2、ヨーク21、前輪5、およびヨーク51を省略する。
【0025】
図2に示すように、レール44の長手方向はz軸に平行になっている。姿勢調整機構40は、アクチュエータ400、およびリンク401、リンク402を有する。リンク401は、その両端がそれぞれ左右一対のレール44にボルト止めされている。レール44とリンク401の端部とはxz平面上の点P401を通るy方向に伸びたボルトによりつながれている。リンク401は、レール44に対してこの点P401を中心としてxz平面を回転可能なように構成されている。
【0026】
また、リンク402は、リンク401の下方(−z方向)に配置されており、その両端がそれぞれ左右一対のレール44にボルト止めされている。レール44とリンク402の端部とはxz平面上の点P402を通るy方向に伸びたボルトによりつながれている。リンク402は、レール44に対してこの点P402を中心としてxz平面を回転可能なように構成されている。
【0027】
アクチュエータ400は、電磁力によりシリンダーの中空に収められたピストンを移動させることで全長が伸縮するアクチュエータである。アクチュエータ400は、レール44およびリンク401、リンク402で形成される平行四辺形のうち、1つの対角線に沿って対向する2つの頂点を連結しており、伸縮することによってこの平行四辺形の形を変形させて、左右一対のレール44の位置を調整する。アクチュエータ400は、上述した操作ボックスの操作子に対する利用者の操作に応じて駆動する。
【0028】
図3は、接地面Gが右に傾斜しているときの車椅子9の姿勢を説明する図である。
図3に示すようにアクチュエータ400が伸びると、アクチュエータ400の両端がそれぞれ接続する点においてレール44とリンク401との角度、およびレール44とリンク402との角度がいずれも鋭角になる。そのため、利用者から見て左側のレール44(以下、レール44Lという)は、右側のレール44(以下、レール44Rという)よりも+z方向に配置される。
【0029】
接地面Gが右に傾斜している状態とは
図3に示すように、利用者にとって右側(+x方向)が低く、左側(−x方向)が高くなるように傾斜している状態をいう。このとき、この傾斜角に応じてアクチュエータ400が伸びることで、レール44Lがレール44Rよりも高い位置(+z方向)に配置される。つまり、アクチュエータ400、リンク401およびリンク402は、レール44Rの下端がレール44Lの下端よりもシート4から遠くなるように、これらを駆動させる。アクチュエータ400を伸ばす程度を調整することで、例えば、左右の駆動輪1は、いずれも重力方向に沿って接地面Gに接地する。レール44は、プレート12を介して駆動輪1のハブ11に対して平行に支持されているので、駆動輪1が重力方向に沿って立つと、レール44も重力方向に沿った姿勢となる。したがって、左右一対のレール44にそれぞれ取り付けられたバックサポートフレーム42も重力方向に沿った姿勢となり、シートフレーム41を介して支持されるシート4によって形成される座面はその左右方向に関して水平な姿勢を維持することとなる。
【0030】
図4は、接地面Gが左に傾斜しているときの車椅子9の姿勢を説明する図である。この場合、アクチュエータ400は縮んでいるので、アクチュエータ400の両端がそれぞれ接続する点において、レール44とリンク401との角度、およびレール44とリンク402との角度は、いずれも鈍角になる。そのため、利用者から見て左側のレール44Lは、右側のレール44Rよりも−z方向に配置される。
【0031】
接地面Gが左に傾斜している状態とは
図4に示すように、利用者にとって右側(+x方向)が高く、左側(−x方向)が低くなるように傾斜している状態をいう。このとき、この傾斜角に応じてアクチュエータ400が縮むことで、レール44Lがレール44Rよりも低い位置に配置される。つまり、アクチュエータ400、リンク401およびリンク402は、レール44Lの下端がレール44Rの下端よりもシート4から遠くなるように、これらを駆動させる。アクチュエータ400を縮める程度を調整することで、例えば、左右の駆動輪1は、いずれも重力方向に沿って接地面Gに接地する。その結果、レール44およびバックサポートフレーム42も重力方向に沿った姿勢となり、シートフレーム41を介して支持されるシート4によって形成される座面はその左右方向に関して水平な姿勢を維持することとなる。
【0032】
この姿勢調整機構40によって各レール44の下端のシート4に対する距離を調整することで、利用者と車椅子9とを合わせた重心の位置を車椅子9が転倒し難くなるように調整することができる。つまり、姿勢調整機構40の上述した機能により、各駆動輪1が地面に接する接地点のいずれかが回転中心とならないように、これら接地点の間にあるいずれかの位置に上記の重心を移動させることができる。
【0033】
1−3.前輪接地機構
図5は、
図2に示した矢視V−Vからプレート12、ハブ11、タイヤ10を見た図であり、前輪接地機構の構成を説明するための図である。
図5における二点鎖線で示した図形は、レール44、後輪2およびリンク機構3のyz平面上の位置を示したものである。3本のボルト120は、それぞれレール44をプレート12に固定する。シャフト121は、点P4を通りx軸に沿って伸びる棒状の部材であり、yz平面の点P4を中心にしてプレート12がハブ11に対して回転可能なようにハブ11とプレート12とを連結する。
【0034】
2本のボルト110は、ハブ11に設けられたボルトである。このボルト110は、ハブ11からx軸方向に沿って伸びており、プレート12に設けられた長穴122を通ってプレート12を貫通している。この長穴122は、yz平面の点P4を中心とする円弧に沿って伸びた形状を有する。ボルト110にはプラスチック製のワッシャがプレート12を+x方向および−x方向の両側から挟むように通されており、プレート12から見てハブ11の反対側に突出したボルトにナットが締結されている。このナットがワッシャを介してプレート12をx軸方向に沿って挟むため、プレート12のx軸方向のブレが抑制される。
【0035】
なお、ボルト110の数は2本に限られず、1本であってもよいし、3本以上であってもよい。ボルト110は、2本以上であることが望ましく、これらのボルト110とyz平面においてシャフト121とが一直線上に並ばないことが望ましい。ボルト110とシャフト121とが一直線上に並ぶと、その直線を軸としてプレート12が回転する可能性があるためである。また、ワッシャの材質はプラスチックに限られないが、摩擦の低いプラスチック製のワッシャを用いることにより、シャフト121を中心としたプレート12の回転が滑らかになる。
【0036】
水平な接地面Gの前方(+y方向)に段差がないときには、
図5(a)に示すように、駆動輪1の中心軸に相当する点P1とプレート12の回転中心に相当する点P4とを結ぶyz平面上の直線が、例えば水平になっている。
【0037】
一方、接地面Gの前方に接地面Gよりも高い地面G
1があるときには、
図5(b)に示すように、前輪5が地面G
1に乗り上げるのに伴ってプレート12がハブ11に対して点P4を中心として時計回りに回転する。ここで
図5(b)に示した後輪2と駆動輪1とが接地面Gに接地しており、リンク機構3が
図5(a)に示した状態から伸縮していないため、接地面Gに対するレール44の姿勢は
図5(a)に示した状態から変化していない。したがって、接地面Gに対するプレート12の姿勢も変化していない。そして、前輪5が地面G
1の上に乗り上げているので、板材50を介して前輪5に繋がっているハブ11の接地面Gに対する姿勢は地面G
1の位置に応じて変化する。この場合、ハブ11はプレート12に対して点P4を中心として反時計回りに回転する。これにより、車椅子9は、駆動輪1と後輪2とが設置する接地面Gの前方に、接地面Gよりも高い地面G
1があるとき、レール44の姿勢を変えることなく、前輪5を駆動輪1や後輪2よりも高い位置に持ち上げるので、駆動輪1、後輪2および前輪5のいずれもが接地する。なお、ハブ11のこの回転は、ボルト110が長穴122の下側の端に当たることにより止まる。
【0038】
また、接地面Gの前方に接地面Gよりも低い地面G
2があるときには、
図5(c)に示すように、前輪5が地面G
2に降りるのに伴ってハブ11はプレート12に対して点P4を中心として時計回りに回転する。その結果、車椅子9は、駆動輪1と後輪2とが設置する接地面Gの前方に、接地面Gよりも低い地面G
2があるとき、レール44の姿勢を変えることなく、前輪5が駆動輪1や後輪2よりも低い位置に下がるので、駆動輪1、後輪2および前輪5のいずれもが接地する。なお、ハブ11のこの回転は、ボルト110が長穴122の上側の端に当たることにより止まる。
【0039】
つまり、シャフト121は、駆動輪1の回転軸(
図5に示す点P1を通るx軸方向に平行な軸)と異なり且つ当該回転軸に平行な軸(
図5に示す点P4を通るx軸方向に平行な軸)を中心に回転可能なように、プレート12を駆動輪1に対して支持する。
【0040】
図6は、前輪5が縁石Sを乗り上げる様子を示した図である。駆動輪1および後輪2の位置が変化しないとレール44の前後方向の傾きも変化しない。そのとき、車椅子9の前方に縁石Sがあると前輪5がこの縁石Sを乗り上げることとなる。上述したように、駆動輪1と前輪5とは、それぞれの回転中心と異なる位置に回転中心を有するプレート12によって支持されている。したがって、前輪5が縁石Sを乗り上げても駆動輪1が浮き上がることがない。
【0041】
また、
図7は、前輪5が乗り越えた縁石Sを駆動輪1が乗り上げる様子を示した図である。このような場合でも、駆動輪1と前輪5とは、点P4を支点としてプレート12により支持されているので、駆動輪1は、前輪5および後輪2を接地させたまま縁石Sを乗り上げることができる。
【0042】
なお、y成分に関して点P4は、点P1と前輪5の回転軸である点P5との間に配置されていることが望ましい。すなわち、点P4は、点P1より前方、且つ点P5より後方にあることが望ましい。これにより点P4は、レール44の荷重を受けて、この荷重を駆動輪1および前輪5の各接地点に分散させることができる。また、これにより、駆動輪1および前輪5の各接地点を結ぶ線は、点P4を回転中心として回転し、シート4に対して前後に傾斜可能となる。この場合、プレート12は、駆動輪1の回転軸に平行な軸であって、この駆動輪1の回転軸よりも前方、且つ、前輪5の回転軸よりも後方に位置する軸であるシャフト121を中心に、前輪5と駆動輪1とを連結する板材50に対してレール44を回転可能に支持する。また、点P4を中心としてプレート12を回転可能に支持する機構を左右のハブ11にそれぞれ独立して有しているため、車椅子9は、例えば縁石などの障害物のために前後左右に段差があっても、シート4の姿勢を変えることなく左右の駆動輪1、後輪2および前輪5をそれぞれ接地させながら移動することができる。
【0043】
1−4.座面姿勢調節機構
図8は、利用者が車椅子9に乗った状態の一例を示す側面図である。
図8に示す状態において、レール44は、接地面Gに対して垂直な姿勢となっている。このとき、駆動輪1の接地点を点P10とし、後輪2の接地点を点P20とすると、駆動輪1と後輪2との間の距離(以下、車輪間距離という)は、点P10と点P20との間の距離となる。
図8におけるこの距離はk8[m]である。そして、この状態において、レール44に取り付けられたバックサポートフレーム42とシートフレーム41とが成す角度は、α[°]である。
【0044】
図9は、車輪間距離を拡げたときの車椅子9の状態を示す側面図である。図示しない駆動装置などによりリンク機構3の所定部位に力が加えられると、これによってリンク機構3が変形し、車輪間距離は、
図8に示したk8[m]よりも長いk9[m]になる(k9>k8)。リンク機構3の変形に伴って、レール44は後ろに傾く。このとき、バックサポートフレーム42とシートフレーム41とが成す角度を、
図8に示したα[°]に保つと、利用者は、背部と大腿部との角度を保ったままの姿勢で後傾する。
【0045】
図10は、車輪間距離を拡げるとともに座面姿勢調節機構を動かしたときの車椅子9の状態を示す側面図である。座面姿勢調節機構とは、yz平面上の点P6を中心にバックサポートフレーム42に対してシートフレーム41を回転させる機構である。この座面姿勢調節機構は、図示しないが、例えば、バックサポートフレーム42の背面に取り付けられたシリンダーの中空に沿ってシートフレーム41に連結したピストンを移動させることにより、バックサポートフレーム42に対してシートフレーム41を回転させる。
【0046】
車輪間距離がk8[m]よりも拡げられたときに座面姿勢調節機構がシートフレーム41を前傾させると、バックサポートフレーム42とシートフレーム41とが成す角度は、
図8に示したα[°]よりも大きいβ[°]となる(β>α)。β[°]を調節することにより、車椅子9は、利用者の大腿部の接地面Gに対する姿勢を変えずに背部のみを後傾させる。すなわち、車椅子9は、リンク機構3に加えて座面姿勢調節機構を有しているので、
図9に示したティルト状態に変形可能であるとともに、
図10に示したリクライニング状態に変形することも可能である。
【0047】
2.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
(変形例1)上述の実施形態において、ヘッドレストの詳細について説明しなかったが、以下に示す構成のヘッドレスト7を用いてもよい。
図11は、ヘッドレスト7の一例を示す図である。ヘッドレスト7は、支持板71、アタッチメント72、およびクッション73とを有する。支持板71の右側端からは右支持柱71Rが、左側端からは左支持柱71Lがそれぞれ下方に向かって伸びている。右支持柱71Rは、右側のバックサポートフレーム42に取り付けられ、左支持柱71Lは、左側のバックサポートフレーム42に取り付けられている。したがって、支持板71は、左右一対のバックサポートフレーム42に対して固定されている。
図11に示す支持板71の面F1には、接着性の繊維が貼られている。ここで、接着性の繊維とは、例えば面ファスナーである。
【0048】
アタッチメント72は、左右一対の部材である。右側のアタッチメント72をアタッチメント72Rといい、左側のアタッチメント72をアタッチメント72Lという。各アタッチメント72は、接着性の繊維が片側の面に貼りつけられた板金であり、その片側の面を外側にして折り曲げられた形状を有する。
図11に示すアタッチメント72の面F2および面F3には、接着性の繊維が貼られている。アタッチメント72は、外力を受けると上記の折り曲げ角度が変化してその外力を吸収する。外力を吸収する程度は、アタッチメント72の材質の剛性に応じて決まる。クッション73は、綿やスポンジなどの緩衝材を備えた部材である。クッション73の前面側の面F5は、利用者の後頭部を支える。クッション73の背面側の面F4には、接着性の繊維が貼られている。
【0049】
アタッチメント72の面F2を支持板71の面F1に接着し、アタッチメント72の面F3をクッション73の面F4に接着することで、クッション73は、支持板71に固定される。アタッチメント72は、
図11に示す矢印Dc方向に回転させることで、面F2に対する面F3の傾きの方向や角度を変化させる。また、アタッチメント72Rとアタッチメント72Lの距離は自由に変えることができるので、利用者は、各アタッチメント72の面F3の間隔を自由に設定することができる。面F1と面F2、および面F3と面F4とは、脱着可能になっているので、利用者は、障害の部位や体圧のかかる方向に応じてクッション73の姿勢を自由に決めることができる。
【0050】
(変形例2)上述の実施形態において、リンク機構3および姿勢調整機構40には4節のリンクを用いたが、リンク機構3および姿勢調整機構40には、4節以上の節を有するリンクを用いてもよい。また、上述の実施形態において、リンク機構3は、擬似直線運動をするリンクを用いたが、直線運動(厳正直線運動)をするリンクを用いてもよい。例えば、この様なリンクとしてポースリエ(Peaucellier)の機構やブリカード(Bricard)の機構などを用いてもよい。
【0051】
また、リンク機構3や姿勢調整機構40には、他の運動伝達機構を用いてもよい。例えば、スライダ・クランク機構や、ワイヤ、チェーン、ロープによる運動伝達機構等を用いてもよい。要は、リンク機構3は、駆動輪1と後輪2との距離を変化させることができればよく、姿勢調整機構40は、左右一対のレール44の一方を、他方に対して平行な姿勢を保ったままそのレール44の延びる方向に移動させることができればよい。
【0052】
(変形例3)上述の実施形態において、リンク機構3が変形することにより、駆動輪1と後輪2との距離が大きいときはこの距離が小さいときに比べて後傾の度合いが強くなるようにレール44の後傾姿勢を調整していたが、他の機構により、この調整を行わせてもよい。
【0053】
例えば、車椅子9に、駆動輪1と後輪2との距離の測定部を設け、モータによって傾斜するレール44の傾斜角をこの測定部の測定結果に応じて制御してもよい。ここで駆動輪1と後輪2との距離とレール44の後傾の度合いとは比例関係であってもよいし、他の関数によって表される関係であってもよく、また、連続関数によって表される関係であってもよいし、離散関数によって表される関係であってもよい。後傾の度合いが離散的に変化するように制御する場合には、距離と後傾の度合いを対応付けたテーブルを制御装置のROM(Read Only Memory)やEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの記憶装置に記憶させておき、これを参照することにより上述の制御を行ってもよい。
【0054】
(変形例4)上述の実施形態において、姿勢調整機構40のアクチュエータ400は、上述した操作ボックスの操作子に対する利用者の操作を受けて、接地面Gの傾斜角に応じて伸縮することで、左右のレール44の位置を調整し、各駆動輪1を重力方向に沿って接地面Gに接地させていたが、姿勢調整機構40は自動で制御されてもよい。例えば、車椅子9は、接地面Gの傾斜角を測定する測定部81と、この測定部81による測定結果に応じて姿勢調整機構40を制御する制御部82とを有していてもよい。
【0055】
この場合、測定部81は、光ファイバジャイロ、リング・レーザ・ジャイロ等のジャイロセンサを備えており、基板の角速度を測定することにより、車椅子9の姿勢の変化を検知する。接地面Gに沿って駆動輪1、後輪2、および前輪5が転がるので、接地面Gの傾斜角の変化は、車椅子9の姿勢の変化に現れる。したがって車椅子9の姿勢の変化を検知することによって、測定部81は、接地面Gの傾斜角を測定する。
【0056】
図12は、この変形例における制御を説明するブロック図である。制御部82は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM、RAM(Random Access Memory)を有しており、測定部81による測定結果に応じてアクチュエータ400に供給する電流を調整することで、その伸縮を制御してもよい。同様に、座面姿勢調節機構によるシートフレーム41の傾斜角の調節も、上記の測定部81による測定結果に応じて制御部82が制御してもよい。
【0057】
また、上記の測定部81は、接地面Gの傾斜角を測定するのではなく、車椅子9が受けている加速度の方向と大きさを測定してもよい。この場合、測定部81は、静電容量型加速度センサやピエゾ抵抗型加速度センサ等を備えており、x,y,zの3軸方向の加速度を測定する。制御部82は、測定部81が測定した加速度の方向と大きさに応じて車椅子9の姿勢を安定させるように、姿勢調整機構40または座面姿勢調節機構を制御すればよい。
【0058】
(変形例5)上述の実施形態において、座面姿勢調節機構は、バックサポートフレーム42に対して左右一対のシートフレーム41を同じ傾斜角で傾斜させていたが、左右別々に傾斜させてもよい。例えば障害の部位によって利用者の体圧がかかりやすい部位は異なるので、シート4を左右対称の姿勢にすると却って利用者に負担がかかる場合がある。左右のシートフレーム41をそれぞれ独立して傾斜させることで、車椅子9は、利用者の負担を軽減する乗車姿勢を実現する。
【0059】
(変形例6)上述の実施形態において、車椅子9は電動車椅子として構成されたが、手動車椅子として構成してもよい。この場合には駆動輪1には利用者の腕から回転力が与えられる。すなわち、車椅子9は、力を受けて回転する一対の駆動輪を備えていればよい。また、手動車椅子として構成した場合にも、車椅子9を旋回させるときは、左右の駆動輪1への回転量に差を持たせて旋回させるようにすればよい。