特許第6328080号(P6328080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6328080紙カップ原紙およびそれを用いた飲料用の紙カップ、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ、氷菓子・アイス用の紙カップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6328080
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】紙カップ原紙およびそれを用いた飲料用の紙カップ、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ、氷菓子・アイス用の紙カップ
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20180514BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20180514BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20180514BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20180514BHJP
   B65D 3/06 20060101ALI20180514BHJP
   B65D 3/28 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
   D21H19/20 Z
   B32B27/10
   D21H27/00 E
   D21H27/30 C
   B65D3/06 B
   B65D3/28 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-146803(P2015-146803)
(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-25444(P2017-25444A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】大藤 利通
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀司
(72)【発明者】
【氏名】波多野 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】志賀 志津也
(72)【発明者】
【氏名】太田 勝人
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−188982(JP,A)
【文献】 特開2002−294597(JP,A)
【文献】 実開昭58−157631(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/20
B32B 27/10
B65D 3/06
B65D 3/28
D21H 27/00
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主原料として形成したシート状の基材層と、前記基材層の一方の面上に設けられて紙カップとして成形されたときに内面となる樹脂フィルム層と、前記樹脂フィルム層とは反対側の前記基材層の他方の面上に設けたコーティング層と、前記コーティング層上に設けた印刷層とを有する紙カップ原紙において、
トップカール処理に用いるカール用油脂が、前記反対側である紙カップの外側から前記基材層内に浸透することを防止する耐油層が設けてあり、
前記耐油層は、前記基材層と前記コーティング層との間に新たに配備した耐油性の追加耐油層である、ことを特徴とする紙カップ原紙。
【請求項2】
前記耐油層は、前記基材層および前記コーティング層の少なくとも一方の層に耐油処理を施すことで、耐油性の層として形成したものを更に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の紙カップ原紙。
【請求項3】
前記基材層は複数のパルプ層を積層して形成してある積層型パルプ層であって、該積層型パルプ層は着色パルプ層を含んでいる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の紙カップ原紙。
【請求項4】
前記耐油層は、フッ素樹脂とアクリル樹脂との群より選択される耐油剤に基づいて形成されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の紙カップ原紙。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の紙カップ原紙を用いて製造してある、ことを特徴とする、飲料用の紙カップ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の紙カップ原紙を用いて製造してある、ことを特徴とする、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の紙カップ原紙を用いて製造してある、ことを特徴とする、氷菓子・アイス用の紙カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、お茶、コーヒ、ジュース、ビール、酒など種々の飲料を飲むときに用いる紙カップ、或いは、ゼリー状の食品やヨーグルトを収容する紙カップ(以下、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ)、そして氷菓子やアイスクリームを収容する紙カップ(以下、氷菓子・アイス用の紙カップ)を製造するのに好適な紙カップ原紙、そして、これを用いて製造される飲料用の紙カップ、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップおよび氷菓子・アイス用の紙カップに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は紙カップの一般的な製造工程について開示すると共に、これより以前の紙カップで胴部を形成する側壁シートの貼り合せ部分(シール部)の断面がカップ内に保持した内容物(飲料)と接触することによって発生する内容物の汚染やシートの強度低下などの不都合を指摘して、この不都合を解消した紙カップ製造技術を提案している。特許文献1では、前記の不都合を解消するため、紙カップ原紙の支持体(紙を含む基材)の外面及び内面の両面に、ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂との共押出しフィルムを配置した構造を提案している。
【0003】
また、特許文献2は即席麺や即席スープなどに用いる紙カップについて開示している。このような即席麺等に用いる紙カップは、飲料用の紙カップとは層構成が相当に異なる。即席麺等に用いる紙カップは、その内部に内容物(即席麺やスープなど)を収納、保持した状態で製品化され、熱湯を注いで使用することを想定し設計されるものである。その為に、即席麺等に用いる紙カップ原紙は、防湿性などと共に熱湯を注いだ時にも安定であるなど、より厳しい要求がある。これにより、即席麺等に用いる紙カップ原紙は、一般的な飲料用紙カップ、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ、氷菓子・アイス用の紙カップ用の原紙と比較して、ゴム層などを含んでより多層、より厚めの重厚構造となるので、同じ紙カップでも両者の基本設計は全く異なるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2508896号公報
【特許文献2】特開2003−261130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者等は、飲料用の紙カップを製造したとき、次のような不具合が発生する場合があることに着目した。
飲料用の紙カップは、一般に、次のような工程を経て製造される。片面に予めポリエチレン等の樹脂フィルム層をラミネート(貼合)した紙カップ原紙を打ち抜いて扇形状に成形し、扇形状両端の直線部を上記樹脂フィルム層が内面となるように貼り合せる。更に底部に円形の底板を挿入し圧着してカップ形状に成形する。そして、最後に、カップの口元となる上端部を外側に巻き込むトップカール処理によってカール部分(以下、トップカール部と称する)を成形して飲料用紙カップとしている。
ここで、上記トップカール処理はカップの口元に植物性オイル、シリコンオイル、流動パラフィンなどのカール処理用の油脂(以下、カール用油脂と称す)を塗布しながら行っている。ところが、トップカール処理の直後にトップカール部の外周部に油染みの様な痕(以下、浸透痕と称する)が発生する場合があった。図1は、この浸透痕の様子を説明するために示した模式図であり、紙カップPCは口元にトップカール部TCが形成されている。上記浸透痕PMは、紙カップの外側、口元の周辺に油染みのように発生する。このように浸透痕が発生した紙カップは、安全性面からは特に問題は無いものの、意匠性を著しく損ねてしまうので製品としてそのまま出荷するのは問題となる。
【0006】
上記浸透痕は、上記カール用油脂がカップ原紙の基材層(パルプ層)に接して浸透することにより発生すると、本発明者等は推測した。前述したように基材層の片面側(紙カップの内面側)にはポリエチレン等がラミネートされているので、この面に付着したカール用油脂は浸透痕にならない。これに対して、紙カップの外面側に付着したカール用油脂は基材層に接触すると浸透して浸透痕を発生させる。この浸透痕は拡散することにより徐々に薄くなり、一定以上の時間が経過すると自然消失することも確認された。
しかし、紙カップ原紙に用いる基材層としてコーティング層を有し複数層から成る板紙を使用する場合も多い。このように基材層がコーティング層を有すると、発生した浸透痕の消失までの上記時間が延びる傾向がある。さらに、紙カップ原紙に遮光性を付与する目的で着色パルプ層が設けられている場合もある。この場合には発生した浸透痕が特に顕著に目立ってしまう。
発生した浸透痕は消失するものであるが、その消失までには時間を要するので、この時間を待つと製品としての紙カップの出荷が遅れ、保管期間が長くなる。この状態は、結果として紙カップの製造コスト増加の要因となる。
【0007】
そして、更に、紙カップは製造工程中に浸透痕を発生させる場合がある。製造後の飲料用の紙カップは複数のカップを重ねた状態(スタック状態)で保管するのが一般的である。このような保管形態では、下側の紙カップの中に、上に位置する紙カップを収納する状態で重ねられる。このときに、例えば下側の紙カップの内面側(樹脂フィルム層側)の口元周辺にカール用油脂が付着しているという場合もある。この場合、上側の紙カップの口元周辺の外側面(ポリエチレン等の樹脂フィルム層のない面)が下側の紙カップ内面のカール用油脂に接触する。これにより、上に位置する紙カップに浸透痕が発生する。このように発生した浸透痕は、紙カップ同士が密接して重なり合っているので、消失までに更に長時間を要することになる。
【0008】
さて、前述した引用文献1に開示の技術では、基材の内外両面に樹脂フィルム層を備えた紙カップ原紙を用いて紙カップが製造される。よって、上記浸透痕の問題を発生させないことが期待できる。しかしながら、引用文献1の紙カップ原紙は、基材の内外の両面に樹脂フィルム層を設けた構造となるので製造コストが増加し、また原紙厚みも増加するため柔軟性が低下して組立性が劣るなど、他の問題を招来する。
そして、引用文献2に開示の技術は前述したように、即席麺などを収納することを予定した層構成が多層、複雑である重厚な紙カップに係るものである。飲料用の紙カップを製造するのに、引用文献2に記載の紙カップ原紙のスペックを採用するのは現実的でなく、いわゆるオーバースペックとなり、やはり製造コスト増加が問題となる。
上記では一例として飲料用の紙カップについて説明をしたが、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップや氷菓子・アイス用の紙カップの場合についても同様の問題がある。
【0009】
よって、本発明の目的は、飲料用に好適であって、シンプルな構成でカール用油脂の浸透痕の発生を抑制できると共に、加工適正や印刷適性にも優れた紙カップ原紙を提供すること、更には、これを用いた飲料用、ゼリー・ヨーグルト用、そして氷菓子・アイス用の紙カップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、パルプを主原料として形成したシート状の基材層と、前記基材層の一方の面上に設けられて紙カップとして成形されたときに内面となる樹脂フィルム層と、前記樹脂フィルム層とは反対側の前記基材層の他方の面上に設けたコーティング層と、前記コーティング層上に設けた印刷層とを有する紙カップ原紙において、トップカール処理に用いるカール用油脂が、前記反対側である紙カップの外側から前記基材層内に浸透することを防止する耐油層が設けてあり、前記耐油層は、前記基材層と前記コーティング層との間に新たに配備した耐油性の追加耐油層である、ことを特徴とする紙カップ原紙により達成することができる。
【0011】
前記耐油層は、前記基材層および前記コーティング層の少なくとも一方の層に耐油処理を施すことで、耐油性の層として形成したもの(すなわち、基材層自身あるいはコーティング層自身を耐油層とするもの)を更に含むこととしてもよい。
【0013】
前記基材層は複数のパルプ層を積層して形成してある積層型パルプ層であって、該積層型パルプ層は着色パルプ層を含んでいてもよい。
【0014】
前記耐油層は、フッ素樹脂とアクリル樹脂との群より選択される耐油剤に基づいて形成することができる。
【0015】
また、上記の目的は、上記した紙カップ原紙の何れかを用いて製造した飲料用の紙カップ、ゼリー・ヨーグルト用の紙カップ、そして氷菓子・アイス用の紙カップによっても達成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、シンプルな構成で、カール用油脂の浸透痕の発生を抑制できると共に、紙カップの加工適正や印刷適性にも優れた紙カップ原紙を提供できる。そして、この本発明紙カップ原紙を用いて製造した飲料用の紙カップは、浸透痕が無く、美観に優れた紙カップとして提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】紙カップに発生する浸透痕の様子を説明するために示した模式図である。
図2】本発明に係る一例となる紙カップ原紙の層構成を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る紙カップ原紙と、この紙カップ原紙により製造される、一形態例となる飲料用の紙カップの好適な実施形態について説明する。
図2は、本発明に係る一例となる紙カップ原紙1の層構成を拡大して示した図である。図2において、左側が紙カップの内側、右側が外側となるようにして層構成例を示している。紙カップ原紙1は、パルプを主原料として形成したシート状の基材層2と、この基材層の一方の面上(図2では左の面)に設けられて紙カップとして成形されたときに内面となる樹脂フィルム層3と、この樹脂フィルム層3とは反対側の基材層2の他方の面上に設けたコーティング層4と、このコーティング層4上に設けた印刷層5とを備えた構造を基本とし、更に、上記基材層2と上記コーティング層4との間に追加耐油層6が設けてある。
【0019】
上記基材層2は、木材パルプを主原料として製造されたシート材を用いて形成されている層である。ここでのパルプとしては、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等、従来において公知であるパルプを単独で、或いは任意の配合率で混合したものを採用することができる。本発明が意図する飲料用紙カップの場合には、針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプとを含むパルプを用いるのが好ましい。例えば、本発明に係る紙カップ原紙1の基材層2は図2で例示しているように、表層2−1、芯層2−2そして裏層2−3の3層を抄き合わせた白板紙を採用することができる。このような板紙は公知である多層抄紙機械により得ることができる。例示している3層に限らず、5層、7層など3層以上の板紙を用いてもよい。なお、このように基材層2に板紙を用いて積層型パルプ層としたときには、紙カップとして成形したときの不透明性を得るため等の理由で、必要に応じてその一部を着色パルプ層としてもよい。
【0020】
上記基材層2を構成する基材には、必要に応じて、湿潤紙力向上剤、填料、サイズ剤、乾燥紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色顔料等を適宜、適量にて添加してもよい。湿潤紙力向上剤は通常用いられる公知のものの中から選択して使用することができるが、例えばポリアミド・ポリアミン系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、メラミン系樹脂等から選択するのが望ましい。このような湿潤紙力向上剤の配合量は、パルプに対して湿潤紙力向上剤0.1〜0.7wt%程度とするのが適当である。配合量が0.7wt%を越えても添加量に見合う効果が得られ難くコストアップとなり、また離解性が低下して、本発明の紙カップ原紙を後に古紙として再利用することが困難となることが予想されるからである。また、湿潤紙力向上剤の配合量が0.1wt%未満では十分な湿潤紙力を得難いものとなる。
【0021】
基材層2の内側に配置する樹脂フィルム層3は、周知のラミネート加工装置(貼合処理装置)を用いて基材層2の片面にポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂などの樹脂を貼り付けることによって形成できる。
また、樹脂フィルム層3とは反対側のコーティング層4は、例えば顔料コート層とすることができ、例えば顔料100に対して、バインダが5〜50wt%としてあるコート剤を塗布して形成することできる。顔料としては例えば炭酸カルシウムやカオリンなど、バインダとしては例えばSB(スチレン・ブタジエン)ラテックスやでん粉などを採用することができる。
そして、コーティング層4上には、更に印刷層5が設けてある。この印刷層5は例えばグラビア印刷用インキにより形成することができる。
【0022】
そして、本発明に係る紙カップ原紙1は、上記した原紙基本構造に加えて、前述した浸透痕の発生を防止するための新規構成を備えているので、この点について更に説明する。
図2に示すように、例示の紙カップ原紙1では基材層2とコーティング層4との間に、基材層2内にカール用油脂が浸透することを防止する耐油層として、追加耐油層6が設けてある。このような新規の耐油層は例えばでん粉およびPVA(ポリビニルアルコール)を主体とした樹脂層に耐油剤を添加した層として形成することができる。ここでの耐油剤としては、例えばフッ素樹脂とアクリル樹脂との群から選択したものを好適に用いることができ、より好ましくは加工中に耐油層にダメージ(折り曲げや加熱)がある事を考慮し、樹脂自身に撥油性のあるダイキン工業製ユニダインTG-8111や旭硝子製アサヒガードE060等のフッ素系耐油樹脂を用いる事がより好ましい。
【0023】
図2に示した追加耐油層6は耐油層の単なる一例と理解すべきものである。本発明の紙カップ原紙1に設ける耐油層については、前述した浸透痕の発生を予防できるものであれば、耐油層を設ける箇所については特に限定する必要はなく、図2で例示の様に新規な耐油層を設けてもよいし、既存の層を耐油処理することにより耐油層に仕立ててもよい。更には、紙カップ原紙1内に複数の耐油層が併存している構成であってもよい。
【0024】
すなわち、耐油層は、基材層2とコーティング層4との間に新たに配備した耐油性の層としてもよい。また、耐油層は、基材層2およびコーティング層4の少なくとも一方の層に耐油処理を施すことで、その層自身を耐油性層としたものでもよい。
ここで、最も効果的な耐油層の設計は、基材層2とコーティング層4との間に新たに配備した耐油性の追加耐油層6と、基材層2に耐油処理を施して形成した耐油性の基材層とを含む耐油層複合型の形態である。これは、図2で例示している層構成で、更に基材層2に耐油処理を施したものとなる。図2の基材層2は表層2−1、芯層2−2、裏層2−3を備える板紙であるので、表面に近い表層2−1に先ず耐油処理を施すことが好ましい。そして、必要により、更に芯層2−2、裏層2−3に耐油処理を施せば、基材層2をより好ましい耐油層に形成できる。
【0025】
上記で説明した本発明に係る紙カップ原紙は、従来と同様の紙カップ製造工程により、飲料用の紙カップに成形することができる。なお、本紙カップ原紙の坪量は特に限定されるものではないが、例えば180g/m2以上350g/m2以下であるものが好ましい。
上記構成の紙カップ原紙1を扇形に打ち抜き、樹脂フィルム層3が内側となるようにしてヒートシール処理をして円筒状とし、次いで、別途で底面用として用意された円形の紙カップ原紙を、樹脂フィルム層が内側となるようにして円筒内の底部に挿入して圧着する。最後に、口元にカール用油脂を付けて、トップカール処理をして口元となる上部にトップカール部を形成して、本発明に係る飲料用の紙カップを製造できる。
なお、このような紙カップの製造に際しては、本発明の紙カップ原紙は重厚でないシンプルな構成であるので加工適性にも優れるので効率良く生産できる。
【実施例】
【0026】
以下、更に、本発明の実施例について説明する。
本発明の紙カップ原紙の構成例についてのデータを示したものが下記表1である。そして、この表1に示す紙カップ原紙を基に、耐油層を適宜に変更して紙カップ原紙を作製し、これを用いて製造した紙カップを実施例1〜4として評価した。更に、その比較例1についても評価した。その結果についてまとめたものが表2である。
【0027】
【表1】
表中における詳細は下記の通りである。
・PVA: 株式会社クラレ クラレポバールPVA117
・耐油剤: ダイキン工業株式会社 ユニダインTG−8111
・中性サイズ剤: 星光PMC株式会社 AD-1640
・湿潤紙力増強剤: 星光PMC株式会社 WS4024
【0028】
表2は、下記構成の紙カップ原紙で製造した紙カップの実施例1〜4と、比較例1の紙カップについて評価した結果である。紙カップを評価した項目の内で、ここでは印刷適性と外観(浸透痕の有無)とにより、製品となる紙カップの適・不適を判断した。
なお、表2に示した評価項目は、下記の基準に準拠して測定したものである。
・坪量(g/m2):JIS P 8124
・厚さ(μm) :JIS P 8118
・コッブ吸水度(表/裏・60分)(g/m2):JIS 8140
・耐油度:J.TAPPI UM−557
・印刷適性:JIS−5701Kに準じてRIテスター(Rotay Ink. Taster)で印刷し、インキ着肉性を測定した。◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
・外観:トップカール処理後の浸透痕の発生状況を目視により観察し、◎(優)、○(良)、△(可)、×(不可)の4段階で評価した。
・印刷適性、外観の何れかが×(不可)である場合には、紙カップとしては不適合である。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例1〜3から確認できるように、耐油層として追加耐油層6が設けてある場合や基材層2を構成するパルプに耐油処理を施した場合に、浸透痕の発生を予防する効果があることを確認できる。そして、実施例1で示すように新規な追加耐油層6を設けると共に、基材層2を耐油処理して基材層2自身を耐油層とする処理が極めて有効であることが確認できる。そして、本発明の紙カップ(紙カップ原紙)にはコーティング層4が設けられているため、優れた印刷適正となる。
実施例4はコーティング層4に耐油剤を使用して耐油層としている。その為、この場合のコーティング層4は油分を含むインキの受理性が若干、低下するので印刷ムラの発生が懸念され、印刷適性がやや劣るものの、平滑性が向上するので最終的な印刷評価としては△となる。よって、本発明の紙カップ(紙カップ原紙)とすることができる。
一方、比較例1は、耐油層を含まないため、前述した浸透痕が発生するので外観の評価が×となる。
【0031】
以上のように浸透痕を防止し、印刷適性や加工性のよい、本発明の紙カップ原紙を用いて製造される紙カップは浸透痕の無い、外観が綺麗な紙カップとして提供できる。そして、例えば、紙カップ原紙の基材層中に着色パルプを配置していたような場合でも、浸透痕が発生しないので、綺麗な紙カップとして提供できる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
PC 紙カップ
TC トップカール部
PM 浸透痕
1 紙カップ原紙
2 基材層
3 樹脂フィルム層
4 コーティング層
5 印刷層
6 追加耐油層
図1
図2