特許第6328088号(P6328088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6328088
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20180514BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/32
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-218981(P2015-218981)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-91752(P2017-91752A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 智行
【審査官】 澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/063914(WO,A1)
【文献】 特開2013−33670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 − 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と接地電極とを備え、
前記中心電極と前記接地電極とのうちの少なくとも一方の電極は、
電極母材と、
他方の電極との間に間隙を形成する放電面を有する貴金属チップと、
前記電極母材と前記貴金属チップとの間に配置され、前記貴金属チップ側に位置する本体部と、前記本体部より大径で前記電極母材側に位置する鍔部と、を有する中間部材と、
前記中間部材の前記本体部と前記貴金属チップとの間に形成された第1溶融部と、
前記中間部材の前記鍔部と前記電極母材との間において、少なくとも前記貴金属チップの軸線と交差する位置に形成された第2溶融部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記貴金属チップの軸線を含む断面において、
前記貴金属チップの径をTwとし、
前記第1溶融部と前記中間部材との境界と、前記第2溶融部と、の最短距離をS1とし、
前記第1溶融部と前記中間部材との境界と、前記第2溶融部との最長距離をS2とするとき、
1.0mm≦Tw≦1.2mm、かつ、(S2−S1)≦0.3mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
0.2mm≦S1≦0.4mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパークプラグであって、
前記断面において、
前記第1溶融部と前記貴金属チップの境界と、前記第2溶融部と、の最短距離をT1とし、
前記第1溶融部と前記貴金属チップの境界と、前記第2溶融部と、の最長距離をT2とするとき、
{(T2−T1)−(S2−S1)}≦0.4mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記電極母材、および、前記貴金属チップは、前記接地電極の母材、および、チップであることを特徴とする、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において燃料ガスに点火するためのスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において燃焼ガスに点火するためにスパークプラグでは、中心電極と接地電極との間で火花を放電するための間隙が形成される。ここで、接地電極の電極母材上に中間部材を介して貴金属チップを取り付けたスパークプラグが知られている(例えば、特許文献1)。中間部材は、貴金属チップを電極母材に直接に取り付ける場合に生じ得る不具合の発生を低減するために用いられる。例えば、中間部材を介することで、貴金属チップの使用量を低減することができる。
【0003】
特許文献1の技術では、中間部材を溶接により電極母材に接合する際に、中間部材と電極母材との間に形成されるナゲットの寸法と、電極母材の配置面から貴金属チップの端面までの高さと、貴金属チップの最大幅と、の関係を規定することによって、電極母材と中間部材との接合強度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−33670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、耐消耗性の向上の観点から貴金属チップの大径化が求められている。貴金属チップが大径化すると、貴金属チップと中間部材との間にレーザ溶接によって接合する際に、貴金属チップと中間部材との間に形成される溶融部にかかる応力が大きくなりやすい。この結果、貴金属チップと中間部材との接合強度の確保が困難になる可能性がある。このために、電極母材と中間部材との接合強度だけでなく、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上する技術が求められている。
【0006】
本明細書は、スパークプラグの耐消耗性を向上しつつ、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]中心電極と接地電極とを備え、
前記中心電極と前記接地電極とのうちの少なくとも一方の電極は、
電極母材と、
他方の電極との間に間隙を形成する放電面を有する貴金属チップと、
前記電極母材と前記貴金属チップとの間に配置され、前記貴金属チップ側に位置する本体部と、前記本体部より大径で前記電極母材側に位置する鍔部と、を有する中間部材と、
前記中間部材の前記本体部と前記貴金属チップとの間に形成された第1溶融部と、
前記中間部材の前記鍔部と前記電極母材との間において、少なくとも前記貴金属チップの軸線と交差する位置に形成された第2溶融部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記貴金属チップの軸線を含む断面において、
前記貴金属チップの径をTwとし、
前記第1溶融部と前記中間部材との境界と、前記第2溶融部と、の最短距離をS1とし、
前記第1溶融部と前記中間部材との境界と、前記第2溶融部との最長距離をS2とするとき、
1.0mm≦Tw≦1.2mm、かつ、(S2−S1)≦0.3mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【0009】
上記構成によれば、最長距離S2と最短距離S1との差(S2−S1)が、(S2−S1)≦0.3mmを満たす。この結果、貴金属チップの径Twが比較的大きな場合、具体的には、1.0mm≦Tw≦1.2mmである場合であっても、中間部材と電極母材とを溶接する際に第1溶融部にかかる局所的な応力を抑制できる。したがって、貴金属チップの径Twの大径化によって耐消耗性を向上しつつ、中間部材と電極母材とを溶接する際に、第1溶融部にクラックが発生することを抑制して、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載のスパークプラグであって、
0.2mm≦S1≦0.4mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【0011】
上記構成によれば、最短距離S1が、0.2mm以上であるので、抵抗溶接時のモーメントによって第1溶融部にかかる応力を抑制できる。また、最短距離をS1が、0.4mm以下であるので、貴金属チップと中間部材との溶接時の温度差を抑制して、第1溶融部にかかる熱応力を抑制できる。この結果、中間部材と電極母材とを溶接する際に、第1溶融部にクラックが発生することを、さらに効果的に抑制することができる。したがって、さらに、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上することができる。
【0012】
[適用例3]適用例1または2に記載のスパークプラグであって、
前記断面において、
前記第1溶融部と前記貴金属チップの境界と、前記第2溶融部と、の最短距離をT1とし、
前記第1溶融部と前記貴金属チップの境界と、前記第2溶融部と、の最長距離をT2とするとき、
|(T2−T1)−(S2−S1)|≦0.4mmを満たすことを特徴とする、スパークプラグ。
【0013】
{(T2−T1)−(S2−S1)}が小さいほど、第1溶融部にかかる局所的な応力を抑制できる。上記構成によれば、{(T2−T1)−(S2−S1)}を0.4mm以下とすることで、第2溶融部にかかる局所的な応力を抑制できる。この結果、中間部材と電極母材とを溶接する際に、第2溶融部にクラックが発生することを、さらに、抑制することができる。したがって、さらに、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上することができる。
【0014】
[適用例4]適用例1から3のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記電極母材、および、前記貴金属チップは、前記接地電極の母材、および、チップであることを特徴とする、スパークプラグ。
【0015】
上記構成によれば、より燃焼室の中心部に近いために高温になりやすいために、貴金属チップと中間部材との接合強度が求められる接地電極において、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグやスパークプラグ用の電極、スパークプラグを搭載する内燃機関や、そのスパークプラグを用いた点火装置、該点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のスパークプラグ100の断面図である。
図2】スパークプラグ100の先端近傍を示す図である。
図3】接地電極30の製造方法の説明図である。
図4】第3評価試験の評価結果を示すグラフである。
図5】変形例の突出部35を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態
A−1.スパークプラグの構成
以下、本発明の実施の態様を実施形態に基づいて説明する。図1は本実施形態のスパークプラグ100の断面図である。図1の一点破線は、スパークプラグ100の軸線CLを示している。軸線CLと平行な方向(図1の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線CLと垂直な平面上に位置し、軸線CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。図1における下側を、スパークプラグ100の先端側と呼び、図1における上側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0019】
このスパークプラグ100は、内燃機関に取り付けられて、内燃機関の燃焼室内において、燃料ガスの着火のために用いられる。スパークプラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、を備える。
【0020】
絶縁碍子10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、絶縁碍子10を貫通する貫通孔12(軸孔)を有する略円筒形状の部材である。絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部15と、脚長部13とを備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、スパークプラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。段部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
【0021】
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にスパークプラグ100を固定するための円筒状の金具である。主体金具50は、軸線CLに沿って貫通する挿入孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁碍子10の外周に配置される。すなわち、主体金具50の挿入孔59内に、絶縁碍子10が挿入・保持されている。絶縁碍子10の先端は、主体金具50の先端より先端側に突出している。絶縁碍子10の後端は、主体金具50の後端より後端側に突出している。
【0022】
主体金具50は、スパークプラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8(8mm)、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
【0023】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0024】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6、7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。金属製の環状の板パッキン8を介して、主体金具50の取付ネジ部52の内周に形成された段部56(金具側段部)によって、絶縁碍子10の段部15(絶縁碍子側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
【0025】
中心電極20は、軸線方向に延びる棒状の中心電極本体21と、中心電極本体21の先端に接合された円柱状の中心電極チップ29と、を備えている。中心電極本体21は、絶縁碍子10の貫通孔12の内部の先端側の部分に配置されている。中心電極本体21は、電極母材21Aと、電極母材21Aの内部に埋設された芯部21Bと、を含む構造を有する。電極母材21Aは、例えば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金、本実施形態では、NCF600で形成されている。芯部21Bは、電極母材21Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金、本実施形態では、銅で形成されている。
【0026】
また、中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、絶縁碍子10の段部16に支持されている。脚部25の先端部分、すなわち、中心電極本体21の先端は、絶縁碍子10の先端より先端側に突出している。中心電極チップ29については後述する。
【0027】
接地電極30は、主体金具50の先端に接合された接地電極母材31と、接地電極母材31の先端部31Aの後端側の表面31Sから、中心電極チップ29に向かって突出する突出部35と、を備えている。接地電極30については、後述する。
【0028】
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子金具40のキャップ装着部41は、絶縁碍子10より後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、絶縁碍子10の貫通孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示外)が接続されたプラグキャップが装着され、火花放電を発生するための高電圧が印加される。
【0029】
絶縁碍子10の貫通孔12内において、端子金具40の先端(脚部43の先端)と中心電極20の後端(頭部23の後端)との間には、火花発生時の電波ノイズを低減するための抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。貫通孔12内において、抵抗体70と中心電極20との隙間は、導電性シール60によって埋められている。抵抗体70と端子金具40との隙間は、導電性シール80によって埋められている。導電性シール60、80は、例えば、B23−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0030】
A−2. スパークプラグ100の先端部分の構成:
上記のスパークプラグ100の先端近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。図2は、スパークプラグ100の先端近傍を示す図である。図2(A)には、スパークプラグ100の先端近傍を軸線CLが含まれる特定面で切断した断面が示されている。図2(B)には、図2(A)の断面における突出部35の近傍の拡大図が示されている。
【0031】
中心電極チップ29は、略円柱形状を有しており、例えば、レーザ溶接を用いて、すなわち、レーザ溶接によって形成される溶融部27を介して、中心電極本体21の先端(脚部25の先端)に接合されている(図2(A))。溶融部27は、中心電極チップ29の成分と、中心電極本体21の成分と、が溶融凝固した部分である。中心電極チップ29は、高融点の貴金属を主成分とする材料で形成されている。中心電極チップ29は、例えば、白金(Pt)を用いて形成されている。これに代えて、中心電極チップ29は、イリジウム(Ir)、あるいは、白金やイリジウムを主成分とする合金を用いて形成されていても良い。
【0032】
接地電極母材31は、断面が四角形の湾曲した棒状体である。接地電極母材31の後端部31Bは、主体金具50の先端面50Aに接合されている。これによって、主体金具50と接地電極母材31とは、電気的に接続される。接地電極母材31の先端部31Aは、自由端である。
【0033】
接地電極母材31は、例えば、NCF601などのニッケル合金を用いて形成されている。接地電極母材31には、ニッケル合金より熱伝導率が高い金属、例えば、銅や銅を含む合金を用いて形成された芯材が埋設されていても良い。
【0034】
突出部35は、貴金属チップ351と、中間部材353と、第1溶融部352と、を備えている。
【0035】
貴金属チップ351は、軸線方向に延びる略円柱形状を有しており、白金を用いて形成されている。これに代えて、貴金属チップ351は、イリジウム(Ir)、あるいは、白金やイリジウムを主成分とする合金を用いて形成されていても良い。貴金属チップ351の後端面は、中心電極チップ29の先端側の放電面29Aとの間で、間隙G(火花ギャップ)を形成する放電面351Bである。貴金属チップ351の先端面は、第1溶融部352と接している。貴金属チップ351の径(放電面351Bの直径)をTwとする。貴金属チップ351の径Twが大きいほど、貴金属チップ351のボリュームを大きくできるので、スパークプラグ100の耐消耗性を向上できる。
【0036】
中間部材353は、本体部353Aと、本体部353Aより先端側、すなわち、接地電極母材31側に位置する鍔部353Bと、を備えている。中間部材353は、例えば、ニッケルを主成分とする合金、例えば、ニッケルに、アルミニウム(Al)やケイ素(Si)を添加した合金を用いて形成されている。本体部353Aは、軸線方向に延びる略円柱形状を有している。本体部353Aの後端面は、第1溶融部352と接している。本体部353Aの径は、貴金属チップ351の径Twとほぼ等しい、すなわち、径Twと同じ、あるいは、径Twよりわずかに大きい。鍔部353Bは、本体部353Aおよび貴金属チップ351の外径より大きな外径Fwを有する円盤状の部分である。したがって、鍔部353Bは、本体部353Aより先端側において、本体部353Aの外周面より径方向の外側に延出する部分を含んでいる。
【0037】
第1溶融部352は、レーザ溶接によって、貴金属チップ351と中間部材353との間に形成されている。第1溶融部352は、貴金属チップ351の成分と中間部材353の成分とが溶融凝固した部分である。換言すれば、第1溶融部352を介して、中間部材353の本体部353Aの後端側に、貴金属チップ351が接合されている。図2(B)の例では、第1溶融部352は、突出部35の全周に亘って形成されており、軸線CLと交差する位置にも形成されている。
【0038】
突出部35の先端面35S、すなわち、中間部材353の鍔部353Bの先端面35Sは、接地電極母材31の先端部31Aの表面31Sに、抵抗溶接によって接合されている。そして、鍔部353Bの先端面35Sと、接地電極母材31の表面31Sと、の間において、少なくとも貴金属チップ351の軸線CLと交差する位置には、第2溶融部354が形成されている。第2溶融部354は、抵抗溶接によって、中間部材353の成分と、接地電極母材31の成分と、が溶融凝固した部分であり、ナゲットとも呼ばれる。
【0039】
第2溶融部354は、抵抗溶接の条件によって、様々な大きさおよび形状を有し得る。図2(B)の第2溶融部354は、全体として円盤形状を有している。そして、第2溶融部354と中間部材353との境界面の形状は、後端側に凸である椀形状を有し、第2溶融部354と接地電極母材31との境界面の形状は、先端側に凸である椀形状を有している。
【0040】
このように、中間部材353を挟んで、貴金属チップ351を、接地電極母材31に固定することによって、比較的高価な材料で形成される貴金属チップ351の使用量を増大することなく、貴金属チップ351を含む突出部35の突出長Dh(図2(B))を長くすることができる。突出長Dhを長くすることによって、間隙Gに発生した火花によって着火された燃料ガスの燃焼の拡大が、接地電極母材31によって妨げられることを抑制できる。この結果、スパークプラグ100の着火性能を向上することができる。
【0041】
ここで、図2(B)の断面において、第1溶融部352と中間部材353との境界BL1と、第2溶融部354と、の間の最短距離をS1とし、境界BL1と、第2溶融部354と、の間の最長距離をS2とする。最短距離S1は、境界BL1上の点のうち第2溶融部354との距離が最も短い点と、第2溶融部354と、の間の距離と言うことができる。最長距離S2は、境界BL1上の点のうち第2溶融部354との距離が最も長い点と、第2溶融部354と、の間の距離と言うことができる。図2(B)の例では、境界BL1上の点のうち第2溶融部354との距離が最も短い点は、境界BL1と軸線CLとの交点と、境界BL1と突出部35の外周面との交点と、の間に位置する点である。また、境界BL1上の点のうち第2溶融部354との距離が最も長い点は、境界BL1と軸線CLとの交点である。
【0042】
また、図2(B)の断面において、第1溶融部352と貴金属チップ351との境界BL2と、第2溶融部354と、の間の最短距離をT1とし、境界BL2と、第2溶融部354と、の間の最長距離をT2とする。最短距離T1は、境界BL2上の点のうち第2溶融部354との距離が最も短い点と、第2溶融部354と、の間の距離と言うことができる。最長距離T2は、境界BL2上の点のうち第2溶融部354との距離が最も長い点と、第2溶融部354と、の間の距離と言うことができる。図2(B)の例では、境界BL2上の点のうち第2溶融部354との距離が最も短い点は、境界BL1と軸線CLとの交点である。また、境界BL2上の点のうち第2溶融部354との距離が最も長い点は、境界BL1と突出部35の外周面との交点である。
【0043】
A−3. 接地電極30の製造方法
図3は、接地電極30の製造方法の説明図である。先ず、製造者は、溶接前の円柱形状の貴金属チップ351と、溶接前の中間部材353と、を準備する。溶接前の中間部材353は、軸線CLに沿って延びる円柱形状の本体部353Aと、本体部353Aの先端側に配置された鍔部353Bと、凸部353Cと、を備えている。凸部353Cは、中間部材353の先端面35Sと、軸線CLと、の交点に位置し、先端面35Sから先端側に突出している。
【0044】
製造者は、貴金属チップ351と中間部材353とを、レーザ溶接を用いて接合する。先ず、図3(A)に示すように、中間部材353の鍔部353Bが締め具Cpを用いて固定され、中間部材353の本体部353Aの後端面上に、貴金属チップ351が配置される。そして、貴金属チップ351の後端面が、所定の押圧部材Prを用いて押圧された状態で、貴金属チップ351と本体部353Aとの接触部分に対して、径方向の外側から内側に向かって、軸線CLと略垂直なレーザLzが照射される。レーザLzは、例えば、ファイバーレーザ照射装置などの照射装置を用いて、貴金属チップ351と本体部353Aとの接触部分に照射される。そして、レーザLzの照射装置に対して、貴金属チップ351と本体部353Aとが、軸線CLを中心に、相対的に回転されることによって、貴金属チップ351と本体部353Aとの接触部分の全周に亘って、レーザLzが照射される。これによって、図2(B)に示す形状の第1溶融部352が形成されて、貴金属チップ351と本体部353Aとが接合される。
【0045】
このとき、レーザLzのエネルギー、集光位置、貴金属チップ351と本体部353Aとの回転速度、押圧部材Prによる圧力などの条件を調整することによって、第1溶融部352の形状を制御することができる。例えば、回転速度を速く、かつ、レーザLzのエネルギーを強くすることによって、第1溶融部352の軸線CL上における厚さと、外周面における厚さと、の差を小さくすることができる。
【0046】
次に、図3(B)に示すように、製造者は、貴金属チップ351が接合された中間部材353(すなわち、突出部35)を、棒状の接地電極母材31の表面31Sに、抵抗溶接によって固定する。このとき、筒状の溶接用電極Wdによって、鍔部353Bの後端側の面が押圧された状態で、接地電極母材31と中間部材353との間に、溶接のための電流を流すことによって、抵抗溶接が行われる。接地電極母材31の表面31Sと、凸部353Cと、が接触した状態から、抵抗溶接が開始されるので、最初に、凸部353Cに電流が集中する。このために、凸部353Cと、接地電極母材31のうち中間部材353と接触する部分と、が溶融して、第2溶融部354が形成される。その後に、中間部材353の先端面35Sが、接地電極母材31の表面31Sに接触して、中間部材353の先端面35Sと接地電極母材31とが抵抗溶接される。これにより、接地電極30が製造される。
【0047】
このとき、凸部353Cの形状やサイズ、および、抵抗溶接の電流の大きさ、溶接用電極Wdに圧力などの抵抗溶接の条件を調整することによって、第2溶融部354の大きさおよび形状を制御することができる。例えば、凸部353Cの軸線方向の長さが長いほど、第2溶融部354の軸線方向の長さが長くなり、凸部353Cの軸線方向と垂直な方向の長さが長いほど、第2溶融部354の軸線方向と垂直な方向の長さが長くなる。
【0048】
この抵抗溶接のときに、鍔部353Bが押圧されることによって、図3(B)に示すように、第2溶融部354(第2溶融部354は、図3(B)の凸部353Cの位置に形成される)を中心としたモーメントMTが、突出部35の内部に発生する。このモーメントは、例えば、突出部35における軸線CLと垂直な断面を、後端側(図3(B)の上側)に凸である椀形状に、しならせるように作用する力である。貴金属チップ351の径Twが、比較的大きい場合には、このモーメントMTによって、第1溶融部352の外周面にクラックが発生しやすくなる。
【0049】
そこで、本実施形態のスパークプラグ100では、貴金属チップの径Twを比較的大きな値、具体的には、1.0mm≦Tw≦1.2mmとし、かつ、上述した最長距離S2と最短距離S1との差分(S2−S1)が、0.3mm以下となるように構成された。すなわち、本実施形態のスパークプラグ100は、1.0mm≦Tw≦1.2mm、かつ、(S2−S1)≦0.3mmを満たす。具体的には、最長距離S2と最短距離S1との差分(S2−S1)が小さいほど、中間部材353と第1溶融部352との境界BL1において、モーメントMTのばらつきを抑制して、モーメントMTを均一にできる。この結果、貴金属チップの径Twが比較的大きな場合、具体的には、1.0mm≦Tw≦1.2mmである場合であっても、中間部材353と接地電極母材31とを溶接する際に第1溶融部352にかかる局所的な応力を抑制して、中間部材353と第1溶融部352との境界BL1において、モーメントMTによるしなりを抑制できる。したがって、貴金属チップ351の径Twの大径化によって耐消耗性を向上しつつ、中間部材353と接地電極母材31とを溶接する際に、第1溶融部352にクラックが発生することを抑制して、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度を向上することができる。
【0050】
さらに、最短距離S1は、0.2mm≦S1≦0.4mmを満たすことが好ましい。最短距離S1が短いほど、すなわち、モーメントMTによるしなりの曲率半径が小さくなるので、特に、第1溶融部352の外周面にかかる応力が大きくなりやすい。このために、最短距離S1が0.2mm未満であると、第1溶融部352にクラックが発生しやすくなる。また、貴金属チップ351と比較して、ニッケル合金である中間部材353は、熱伝導率が低い(すなわち、熱引きが悪い)。このために、最短距離S1が0.4mmを超えると、抵抗溶接によって発生した熱が中間部材353にこもって、中間部材353が高温になりやすい。これに対して、貴金属チップ351は熱伝導率が高いために、中間部材353ほど高温にはならない。このために、貴金属チップ351と中間部材353との温度差によって生じる熱応力によって、第1溶融部352にクラックが発生しやすくなる。0.2mm≦S1≦0.4mmを満たす場合には、抵抗溶接時のモーメントによって第1溶融部352にかかる応力を抑制できるとともに、貴金属チップ351と第1溶融部352との抵抗溶接時の温度差を抑制して、第1溶融部352にかかる熱応力を抑制できる。この結果、中間部材と電極母材とを溶接する際に、第1溶融部352にクラックが発生することを、さらに効果的に抑制することができる。したがって、さらに、貴金属チップと中間部材との接合強度を向上することができる。
【0051】
さらに、上述した最短距離S1、最長距離S2と、最短距離T1、最長距離T2とは、|(T2−T1)−(S2−S1)|≦0.4mmを満たすことが、さらに好ましい。中間部材353と第1溶融部352との境界BL1と同様に、最長距離T2と最短距離T1との差分(T2−T1)が小さいほど、貴金属チップ351と第1溶融部352との境界BL2においても、モーメントMTのばらつきを抑制して、モーメントMTを均一にできる。このために、差分(T2−T1)が小さいほど、貴金属チップ351と第1溶融部352との境界BL2において、モーメントMTによるしなりを抑制できる。したがって、(T2−T1)と(S2−S1)との差分の絶対値|(T2−T1)−(S2−S1)|が小さいほど、境界BL1におけるモーメントMTによるしなりと、境界BL2におけるモーメントMTによるしなりと、の差を小さくすることができる。この結果、モーメントMTによって、第1溶融部352にかかる応力をさらに抑制することができる。したがって、中間部材353と接地電極母材31とを溶接する際に、第1溶融部352にクラックが発生することをさらに抑制して、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度をさらに向上することができる。
【0052】
さらに、上記実施形態のように、上述したS1、S2の関係、S1の範囲、および、S1、S2、T1、T2の関係は、接地電極30について満たされることが、特に好ましい。接地電極30は、中心電極20より先端側に位置するので、より燃焼室の中心部に近く、高温になりやすい。このために、接地電極30では、中心電極20より貴金属チップと中間部材との接合強度が求められる。したがって、上記実施形態では、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度が求められる接地電極30において、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度を向上することができる。
【0053】
A−4.第1評価試験
スパークプラグのサンプルを用いて、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度の評価試験が実行された。第1評価試験では、表1に示すように、上述した最長距離S2と最短距離S1との差分(S2−S1)と、貴金属チップ351の径Twと、の少なくとも一方が互いに異なる66種類のサンプルが用いられた。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、66種類のサンプルにおいて、差分(S2−S1)は、0.1mm未満、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmのいずれかとされている。また、貴金属チップ351の径Twは、0.8mm、0.85mm、0.9mm、0.95mm、1mm、1.05mm、1.1mm、1.15mm、1.2mm、1.25mm、1.3mmのいずれかとされている。
【0056】
各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
レーザ溶接前の貴金属チップ351の厚さTh(図3(A)):0.4mm
レーザ溶接前の中間部材353の本体部353Aの厚さFh(図3(A)):0.3mm
突出部35の突出長Dh(図2(B)):0.85mm
【0057】
試験者は、表1の径Twの貴金属チップ351と、径Twの本体部353Aを有する中間部材353と、を準備して、レーザ溶接の条件を変更しながら、様々な形状の第1溶融部352を有する突出部35を備える接地電極30を作成した。試験者は、軸線CLを含む面で接地電極30を切断した断面にて、差分(S2−S1)を測定した。そして、試験者は、差分(S2−S1)が所望の値となるレーザ溶接の条件を特定し、当該条件を用いてサンプルを作成した。
【0058】
第1評価試験では、各サンプルの第1溶融部352の表面を顕微鏡によって観察して、クラックの有無が調べられた。そして、クラックが発見された場合には、当該クラックの中心を通り、かつ、軸線CLを含む面で、サンプルの接地電極30を切断した断面において、クラックの径方向の長さ(深さ)が測定された。クラック無し、あるいは、クラックの長さが0.1mm未満であるサンプルの評価を「A」とし、クラックの長さが0.1mm以上0.15mm以下であるサンプルの評価を「B」とし、クラックの長さが0.15mm以上であるサンプルの評価を「C」とした。A、B、Cの順に、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度が優れている。
【0059】
表1に示すように、径Twが1.1mm以下であるサンプルでは、差分(S2−S1)が0.5mm以下である全てのサンプルの評価は、「A」であった。径Twが1.15mmであるサンプルでは、差分(S2−S1)が0.5mmであるサンプルの評価は、「B」であり、差分(S2−S1)が0.4mm以下であるサンプルの評価は、「A」であった。径Twが1.2mmであるサンプルでは、差分(S2−S1)が0.4mmおよび0.5mmであるサンプルの評価は、「B」であり、差分(S2−S1)が0.3mm以下であるサンプルの評価は、「A」であった。径Twが1.25mmであるサンプルでは、差分(S2−S1)が0.5mmであるサンプルの評価は、「C」であり、差分(S2−S1)が0.3mmおよび0.4mmであるサンプルの評価は、「B」であり、差分(S2−S1)が0.2mm以下であるサンプルの評価は、「A」であった。径Twが1.3mmであるサンプルでは、差分(S2−S1)が0.4mmおよび0.5mmであるサンプルの評価は、「C」であり、差分(S2−S1)が0.3mmであるサンプルの評価は、「B」であり、差分(S2−S1)が0.2mm以下であるサンプルの評価は、「A」であった。
【0060】
以上から、少なくとも1.0mm≦Tw≦1.2mmの範囲では、(S2−S1)≦0.3mmを満たすことが好ましいことが確認できた。こうすれば、第1溶融部352にクラックが発生することを抑制して、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度を向上することができる。
【0061】
また、Twが1.25mmおよび1.3mmである場合には、(S2−S1)≦0.2mmを満たすことが好ましいことが解った。
【0062】
A−5.第2評価試験
第2評価試験では、表2に示すように、最長距離S2と最短距離S1との差分(S2−S1)が0.2mmに固定され、さらに、厳しい評価が行われた。第2評価試験では、貴金属チップ351の径Twと、最短距離S1と、の少なくとも一方が互いに異なる81種類のサンプルが用いられた。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すように、81種類のサンプルにおいて、最短距離S1は、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.25mm、0.3mm、0.35mm、0.4mm、0.45mm、0.5mmのいずれかとされている。また、貴金属チップ351の径Twは、0.8mm、0.85mm、0.9mm、0.95mm、1mm、1.05mm、1.1mm、1.15mm、1.2mmのいずれかとされている。
【0065】
最短距離S1は、レーザ溶接前の貴金属チップ351の厚さThと、レーザ溶接前の中間部材353の本体部353Aの厚さFhを調整することによって変更された。
【0066】
第2評価試験では、第1評価試験と同様に、各サンプルについて、クラックの有無と、クラックの径方向の長さ(深さ)が測定された。クラック無しであるサンプルの評価を「A」とし、クラックの長さが0.01未満であるサンプルの評価を「B」とし、クラックの長さが0.01mm以上0.05mm以下であるサンプルの評価を「C」とし、クラックの長さが0.05mm以上であるサンプルの評価を「D」とした。A、B、C、Dの順に、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度が優れている。
【0067】
表2に示すように、径Twが1.0mm未満であるサンプルでは、最短距離S1の値に関わらずに、全てのサンプルの評価は、「B」以上であった。これは、径Twが1.0mm未満であるサンプルでは、上述したモーメントMTによるしなりの程度が、比較的小さいからであると考えられる。
【0068】
径Twが1.0mm以上1.2mm未満であるサンプルでは、最短距離S1の値が、0.2mm未満であるサンプル、すなわち、最短距離S1が、0.1mm、0.15mmであるサンプルの評価は、「C」以下であった。また、径Twが1.0mm以上1.2mm未満であるサンプルでは、最短距離S1の値が、0.4mmを超えるサンプル、すなわち、最短距離S1が、0.45mm、0.5mmであるサンプルの評価は、「C」以下であった。
【0069】
これに対して、径Twが1.0mm以上1.2mm未満であるサンプルでは、最短距離S1の値が、0.2mm以上0.4mm以下であるサンプルの評価は、「B」以上であった。以上のことから、スパークプラグ100において、0.2mm≦S1≦0.4mmを満たすことが、さらに好ましいことが確認できた。
【0070】
さらに、詳しくみると、径Twが1mmのサンプルでは、最短距離S1が0.25mm、0.3mmであるサンプルの評価は、「A」であった。したがって、径Twが1.0mmである場合には、最短距離S1が0.25mm、0.3mmであることが、特に好ましいことが解った。また、径Twが1.05mmのサンプルでは、最短距離S1が0.3mmであるサンプルの評価は、「A」であった。したがって、径Twが1.05mmである場合には、最短距離S1が0.3mmであることが、特に好ましいことが解った。
【0071】
A−6.第3評価試験
第3評価試験では、以下のサンプル群が準備され、さらに、厳しい評価が行われた。
サンプル群A1:Tw=1.0mm、S1=0.3mm、(S2−S1)=0.3mm
サンプル群A2:Tw=1.0mm、S1=0.3mm、(S2−S1)=0.1mm
サンプル群B1:Tw=1.1mm、S1=0.4mm、(S2−S1)=0.3mm
サンプル群B2:Tw=1.1mm、S1=0.4mm、(S2−S1)=0.25mm
サンプル群C1:Tw=1.2mm、S1=0.2mm、(S2−S1)=0.3mm
サンプル群C2:Tw=1.2mm、S1=0.2mm、(S2−S1)=0.05mm
【0072】
各サンプル群について、上述した|(T2−T1)−(S2−S1)|の値が、それぞれ、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmである5個のサンプルが準備された。これらのサンプルは、レーザ溶接の条件を、細かく変更しながら、様々な形状の第1溶融部352を有する突出部35を備える接地電極30を作成することによって、準備された。
【0073】
第3評価試験では、サンプルの先端部近傍(貴金属チップ351の近傍)の加熱と冷却とのサイクルを3000回繰り返す冷熱試験が行われた。1回のサイクルでは、各サンプルの先端部近傍を、バーナーで2分間に亘って加熱し、続けて、2分間に亘って空気中で冷却した。2分間の加熱によって、貴金属チップ351の放電面351Bの温度が目標温度である摂氏1000度に到達するように、放射温度計を用いて測定が行われ、当該測定結果に基づいてバーナーの強度が調節された。
【0074】
冷熱試験後の各サンプルの接地電極30が、軸線CLを含む断面で切断され、当該断面において酸化スケールの発生率が測定された。具体的には、図2(B)に示す第1溶融部352と中間部材353との境界BL1と、貴金属チップ351と第1溶融部352との境界BL2と、のそれぞれにおいて、酸化スケールが発生している部分が特定された。これらの境界において、接合が維持されている部分には、酸化スケールが発生せず、剥離が発生している部分には、酸化スケールが発生する。そして、境界の全長に対する酸化スケールが発生している部分の割合が、酸化スケールの発生率として算出された。酸化スケールの発生率が低いほど、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度が優れている。
【0075】
図4は、第3評価試験の評価結果を示すグラフである。図5(A)には、サンプル群A1の評価結果(四角印)と、サンプル群A2の評価結果(丸印)と、が示されている。図5(B)には、サンプル群B1の評価結果(四角印)と、サンプル群B2の評価結果(丸印)と、が示されている。図5(C)には、サンプル群C1の評価結果(四角印)と、サンプル群C2の評価結果(丸印)と、が示されている。
【0076】
図5に示すように、全てのサンプル群において、|(T2−T1)−(S2−S1)|の値が、0.5mmであるサンプルの酸化スケールの発生率は、50%を超えていた。これに対して、全てのサンプル群において、|(T2−T1)−(S2−S1)|の値が、0.4mm、0.3mm、0.2mm、0.1mmであるサンプルの酸化スケールの発生率は、50%未満であった。以上のことから、スパークプラグ100では、|(T2−T1)−(S2−S1)|≦0.4mmを満たすことが、より好ましいことが確認された。
【0077】
さらに、詳しくみると、全てのサンプル群において、|(T2−T1)−(S2−S1)|の値が、小さくなるに連れて、ほぼ直線的に酸化スケールの発生率が低下した。そして、|(T2−T1)−(S2−S1)|が0.1mmのサンプルでは、酸化スケールの発生率は、ほぼ0%であった。したがって、|(T2−T1)−(S2−S1)|の値が、小さくなるほど、貴金属チップ351と中間部材353との接合強度が顕著に向上することが解った。すなわち、|(T2−T1)−(S2−S1)|≦0.4mmを満たす範囲内において、|(T2−T1)−(S2−S1)|はより小さいことが好ましいことが解った。すなわち、|(T2−T1)−(S2−S1)|は、0.3mm以下であることがさらに好ましく、0.2mm以下であることが、特に好ましく、0.1mm以下であることが最も好ましい。
【0078】
B.変形例
(1)図2に示す突出部35は、一例であって、これに限られない。例えば、突出部35において、第1溶融部352は、図2に示す形状に限らず、様々な形状を有し得る。図5は、変形例の突出部35を示す図である。図5(A)の突出部35の第1溶融部352は、軸線CL上における厚さと、外周面上における厚さと、の差が、ほとんどないために、第1溶融部352の厚さは、径方向の位置に関わらずに、ほぼ一定である。この例では、最短距離S1を定義する境界BL1上の点は、境界BL1と軸線CLとの交点であり、最長距離S2を定義する境界BL1上の点は、境界BL1と外周面との交点である。また、最短距離T1を定義する境界BL2上の点は、境界BL2と軸線CLとの交点であり、最長距離T2を定義する境界BL2上の点は、境界BL2と外周面との交点である。
【0079】
図5(B)の突出部35の第1溶融部352は、図2(B)の第1溶融部352と比較して、後端側に位置している。すなわち、図5(B)の第1溶融部352は、接地電極母材31の表面31Sから、より離れた位置にある。このように、第1溶融部352の軸線方向の位置は、任意に変更され得る。
【0080】
図5(C)の突出部35の第1溶融部352は、軸線CLと交差する位置には、形成されていない。すなわち、この例では、レーザ溶接の溶接深さは、軸線CLにまで到達していない。このように、第1溶融部352は、貴金属チップ351の先端側の面の全体と接触していなくても良く、貴金属チップ351の先端側の面の一部は、第1溶融部352を介さずに、中間部材353と直接接触していても良い。この例では、最短距離S1を定義する境界BL1上の点は、境界BL1上の点のうち、軸線CLと最も近い点であり、最長距離S2を定義する境界BL1上の点は、境界BL1上の点のうち、軸線CLと外周面との間にある点である。また、最短距離T1を定義する境界BL2上の点は、境界BL2上の点のうち、軸線CLと最も近い点であり、最長距離T2を定義する境界BL2上の点は、境界BL2と外周面との交点である。
【0081】
(2)上記実施形態では、突出部35は、接地電極30に用いられているが、突出部35は、中心電極20に用いられても良い。すなわち、突出部35が、中心電極20の脚部25(中心電極母材)の先端面に抵抗溶接されていても良い。すなわち、中心電極20は、貴金属チップと中間部材と中心電極母材とを備え、貴金属チップと中間部材との間に第1溶融部が形成され、中間部材と中心電極母材との間に第2溶融部が形成されていても良い。この場合であっても、電極チップの径Twが、1.0mm≦Tw≦1.2mmの範囲では、最短距離S1と最長距離S2とは、(S2−S1)≦0.3mmを満たすことが好ましい。
【0082】
(3)上記実施形態では、接地電極30と、中心電極20とは、スパークプラグ100の軸線CLの方向に対向して、火花放電を発生させるためのギャップ(間隙)を形成している。これに代えて、接地電極30と中心電極20とは、軸線CLとは垂直な方向に対向して、火花放電を発生させるためのギャップを形成してもよい。
【0083】
(4)上記実施形態のスパークプラグ100の一般的な構成、例えば、主体金具50、中心電極20、絶縁碍子10の材質は、様々に変更可能である。また、主体金具50、中心電極20、絶縁碍子10の細部の寸法は、様々に変更可能である。例えば、主体金具50の材質は、亜鉛めっきまたはニッケルめっきされた低炭素鋼でも良いし、めっきがなされていない低炭素鋼でも良い。また、絶縁碍子10の材質は、アルミナ以外の様々な絶縁性セラミックスでもよい。
【0084】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0085】
5...ガスケット、6...リング部材、8...板パッキン、9...タルク、10...絶縁碍子、12...貫通孔、13...脚長部、15...段部、16...段部、17...先端側胴部、18...後端側胴部、19...鍔部、20...中心電極、21...中心電極本体、21A...電極母材、21B...芯部、23...頭部、24...鍔部、25...脚部、27...溶融部、29...中心電極チップ、29A...放電面、30...接地電極、31...接地電極母材、31A...先端部、31B...後端部、35...突出部、35S...先端面、40...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43...脚部、50...主体金具、50A...先端面、51...工具係合部、52...取付ネジ部、53...加締部、54...座部、56...段部、58...圧縮変形部、59...挿入孔、60...導電性シール、70...抵抗体、80...導電性シール、100...スパークプラグ、351...金属チップ、351B...放電面、352...第1溶融部、353...中間部材、353A...本体部、353B...鍔部、353C...凸部、354...第2溶融部
図1
図2
図3
図4
図5