特許第6328393号(P6328393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6328393軸受特性の計算サービス方法・装置および利用者端末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6328393
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】軸受特性の計算サービス方法・装置および利用者端末
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20180514BHJP
【FI】
   G06F17/50 612H
   G06F17/50 680Z
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-184021(P2013-184021)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-52823(P2015-52823A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】坂口 智也
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−309837(JP,A)
【文献】 特開平09−189601(JP,A)
【文献】 特開2012−168000(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/119520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算サービス装置が、利用者端末からコンピュータネットワークを介して送信された要求情報に従って、運転条件下の転がり軸受の特性を計算し、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス方法であって、
前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、
前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる、ことを特徴とする軸受特性の計算サービス方法。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受特性の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性における前記転がり軸受に関するばね定数として、転動体のばね定数が含まれ、この転動体のばね定数は、前記転がり軸受の転動体と内輪および外輪との2つの接触部の接触ばねを置き換えた一つの等価なばね定数である軸受特性の計算サービス方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の軸受特性の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性に、前記転がり軸受の転動体のばねの接触角、または半径方向とアキシアル方向のばね定数が含まれる軸受特性の計算サービス方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の軸受特性の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性に、前記要求情報で要求された運転条件下の変数を用いた関数、または表、またはグラフの形式で表した軸受特性を含む軸受特性の計算サービス方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の軸受特性の計算サービス方法において、前記要求情報で要求する運転条件は、所定の入力フォーマットで記載されている軸受特性の計算サービス方法。
【請求項6】
利用者端末からコンピュータネットワークを介して要求情報により要求された、運転条件下の転がり軸受の特性を計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス装置であって、
前記コンピュータネットワークから前記要求情報を受信する要求情報受信手段と、この受信した要求情報に従い、前記種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算する軸受特性計算手段と、この計算された軸受特性を前記コンピュータネットワークを介して前記利用者端末へ送り返す軸受特性送信手段とを備え、
前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、
前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる、
ことを特徴とする軸受特性の計算サービス装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の軸受特性の計算サービス方法によって得られた前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する、計算サービス方法利用の解析方法。
【請求項8】
請求項7に記載の計算サービス方法利用の解析方法であって、前記転がり軸受または転動体のばね定数を、想定される転がり軸受の運転状態から、一旦は定数と仮定し、前記機械に生じる力および外力を与えて前記機械の全体の構造解析を行い、この構造解析で得られた軸受の運転状態が、先に仮定した運転状態と一致するまで、逐次、前記転がり軸受または転動体のばね定数を修正しながら、計算を繰り返し、このばね定数を決定し、このばね定数の決定の後に前記機械の全体の振動および騒音の少なくとも一方の解析を行う計算サービス方法利用解析方法。
【請求項9】
請求項6に記載の軸受特性の計算サービス装置にコンピュータネットワークを介して接続された利用者端末であって、
前記コンピュータネットワークを介して前記計算サービス装置へ前記要求情報を送信する要求情報送信手段、計算サービス装置から前記計算された軸受特性を受信する軸受特性受信手段、およびこの軸受特性受信手段で受信した軸受特性を利用して解析を行う解析手段を有し、
前記解析手段は、前記計算サービス装置によって計算されて前記軸受特性受信手段で受信した前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する、
計算サービス利用の利用者端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の軸受特性の計算サービス方法は、計算サービス装置が、利用者端末からコンピュータネットワークを介して送信された要求情報に従って、運転条件下の転がり軸受の特性を計算し、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス方法であって、
前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、
前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる、ことを特徴とする。
なお、ここで言う「運転条件」は、軸受レイアウトなどの機械への軸受の設置形態や、荷重条件、温度条件などを含む広義の運転条件である。また、「一つ以上の変数に対応した複数の結果」とは、例えば、軸受のアキシアル荷重が範囲で要求される場合では、その荷重範囲を一例として5分割した各荷重点での転がり軸受の軸受のばね定数あるいは転動体のばね定数である。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受が組み込まれた各種機械の振動および騒音を解析で求めるには、外側のケースを代表に各種部品の弾性変形を考慮すること、また、いくつかの部品の剛体モードの運動を考慮する必要がある(非特許文献1)。そのため、部品の弾性変形およびそれらの部品の運動の自由度を考慮できる有限要素法による解析が行われている(特許文献1)。しかし、転動体を有限要素でモデル化すると計算コストが増すため、転動体をばねに置き換えることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−198073号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田中英一郎、歯車装置の振動・騒音解析手法と設計への適用、機械設計、第49巻第8号(2005年6月号)
【非特許文献2】シェフラー(Schaeffler)、(BEARINX-online Shaft Calculation)SchaefflerTechnologiesAG&CO.KGlssued:2012,12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有限要素法による厳密な解析や転動体をばねに置き換えた解析では、いずれの場合も、転がり軸受の内部形状を入力する必要がある。また、わずかな隙間もばね定数に大きく影響するため、入力する軸受の内部形状は、正確である必要がある。しかし、軸受の内部形状の詳細を把握しているのは、軸受メーカーのみである。
そのため、軸受メーカーでは、WEB画面上で、軸受の型式と運転条件を入力すると軸受のばね定数を求めるサービスが行われている(非特許文献2)。
しかし、このサービスでは、一つの運転条件の軸受のばね定数を得ることができるが、自動化は難しく、機械装置の中に組み込まれた複数の軸受に対する種々の運転条件下でのばね定数を得るには、多大な時間や工数を要す。
このように、軸受諸元を把握している軸受メーカが、種々の運転条件下での軸受のばね定数を求め、この結果をもとに、軸受メーカ以外の技術者が機械の振動を精度よくかつ効率的に解析することは、容易でなかった。
加えて、機械の振動解析で一般に用いられる有限要素法解析においては、軸受部のモデル化は転動体のみをばねに置き換える方が好ましいが、この転動体のばね定数(ここでは、転動体と内輪および外輪との2つの接触部の接触ばねを置き換えた一つの等価なばね定数を意味する)を計算するサービスは提供されていないため、軸受内部諸元の詳細を知ることのできない非軸受メーカーの技術者は、転動体をばねに置き換えた有限要素モデルでの解析は不可能であった。
【0006】
この発明の目的は、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となるばね定数等の軸受特性が得られて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析できる軸受特性の計算サービス方法および計算サービス装置を提供することである。
この発明の他の目的は、この発明の軸受特性の計算サービス方法および計算サービス装置を利用することで、軸受特性の計算に必要な内部諸元を知らなくても、精度の良い解析を行える解析方法および利用者端末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の軸受特性の計算サービス方法は、利用者端末からコンピュータネットワークを介して計算サービス装置に要求情報により要求された、運転条件下の転がり軸受の特性を、前記計算サービス装置により計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス方法であって、
前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、
前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれることを特徴とする。
なお、ここで言う「運転条件」は、軸受レイアウトなどの機械への軸受の設置形態や、荷重条件、温度条件などを含む広義の運転条件である。また、「一つ以上の変数に対応した複数の結果」とは、例えば、軸受のアキシアル荷重が範囲で要求される場合では、その荷重範囲を一例として5分割した各荷重点での転がり軸受の軸受のばね定数あるいは転動体のばね定数である。
【0008】
前記計算サービス装置は、例えば転がり軸受メーカーに設置され、前記利用者端末は転がり軸受を用いた機械を製造するメーカ等の非軸受メーカーに設置される。また、前記計算サービス装置は、例えば、オペレータによる操作を行うことなく、前記要求情報を受けて前記軸受特性の計算およびその軸受特性の計算結果を送信する自動計算サービス装置とされる。なお、ここで言う前記利用者端末は、単独の情報処理装置に限らず、前記計算サービス装置に接続された情報処理装置と、この情報処理装置に接続された解析用の情報処理装置とを含むものであっても良い。
【0009】
この方法によると、ウェブ(WEB)または電子メール等の情報ネットワークとなるコンピュータネットワークを介して、前記計算サービス装置を備えた転がり軸受メーカーが、転がり軸受の軸受ばね定数や転動体のばね定数を、少なくとも1つ以上の運転条件下において算出し、その結果を非軸受メーカーの技術者の利用者端末に送信し、利用者端末によって機械の振動や騒音の解析を行う。
これにより、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特に転がり軸受に関するばね定数を知ることができて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析できるようになる。
上記の結果、機械の振動・騒音問題を事前に予測し対策した設計が可能となり、開発の期間短縮やコスト低減につながる。あるいは、より低振動・低騒音な機械を、高精度な解析を行うことで、開発できる。
【0010】
この発明の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性における前記転がり軸受に関するばね定数として、転動体のばね定数が含まれ、この転動体のばね定数は、前記転がり軸受の転動体と内輪および外輪との2つの接触部の接触ばねを置き換えた一つの等価なばね定数であっても良い。
転動体のばね定数は、転がり軸受を備えた機械の振動・騒音の解析に重要な情報であるが、転がり軸受の内部諸元がわからなければ知ることができない。そのため、計算サービス装置で計算する軸受特性に転動体のばね定数が含まれることで、この軸受特性の計算サービス方法がより効果的に利用できる。
【0011】
この発明の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性に、前記転がり軸受の転動体のばねの接触角、または半径方向とアキシアル方向のばね定数が含まれていても良い。
これら前記転がり軸受の転動体のばねの接触角や、半径方向とアキシアル方向のばね定数についても、転がり軸受を備えた機械の振動・騒音の解析に重要な情報であるが、転がり軸受の内部諸元がわからなければ知ることができない。そのため、計算サービス装置で計算する軸受特性に前記転動体のばねの接触角、半径方向とアキシアル方向のばね定数が含まれることで、この発明の軸受特性の計算サービス方法がより効果的に利用できる。
【0012】
この発明の計算サービス方法において、前記送り返す軸受特性に、前記要求情報で要求された運転条件下の変数を用いた関数、または表、またはグラフの形式で表した軸受特性を含むようにしても良い。
要求情報で要求された運転条件下の変数を用いた関数、表、グラフの形式で軸受特性が送り返されると、その転がり軸受を用いた機械の解析がより容易に精度良く行える。
【0013】
この発明の計算サービス方法において、前記要求情報で要求する運転条件は、所定の入力フォーマットで記載されていても良い。
運転条件が所定の入力フォーマットで記載されていると、前記計算サービス装置による計算を、無人で自動計算することが可能となる。
【0014】
この発明の軸受特性の計算サービス装置1は、利用者端末2からコンピュータネットワーク3を介して要求情報により要求された、種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す装置であって、
前記コンピュータネットワーク3から前記要求情報を受信する要求情報受信手段18と、この受信した要求情報に従い、前記種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算する軸受特性計算手段15と、この計算された軸受特性を前記コンピュータネットワーク3を介して前記利用者端末2へ送り返す軸受特性送信手段19とを備え、
前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、
前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる、
ことを特徴とする。
【0015】
この構成の計算サービス装置によると、この発明の計算サービス方法につき前述したと同様に、ウェブ(WEB)または電子メール等の情報ネットワークとなるコンピュータネットワーク3を介して、前記計算サービス装置1を備えた転がり軸受メーカーが、転がり軸受の軸受ばね定数や転動体のばね定数を、少なくとも1つ以上の運転条件下において算出し、その結果を非軸受メーカーの技術者の利用者端末2に送信することができる。
これにより、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特に転がり軸受に関するばね定数を知ることができて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析できるようになる。
上記の結果、機械の振動・騒音問題を事前に予測し対策した設計が可能となり、開発の期間短縮やコスト低減につながる。あるいは、より低振動・低騒音な機械を、高精度な解析を行うことで、開発できる。
【0016】
この発明の計算サービス方法利用の解析方法は、この発明の上記いずれかの軸受特性の計算サービス方法によって得られた前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する方法である。
このように、この発明の計算サービス方法を利用して解析を行うことで、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特に、転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を知ることができて、前記転がり軸受を装備した機械につき、有限要素法による解析が行える。これにより、機械の振動・騒音問題を事前に予測し対策した設計が可能となり、開発の期間短縮やコスト低減につながる。あるいは、より低振動・低騒音な機械を、高精度な解析を行うことで、開発できる。
【0017】
この発明の計算サービス方法利用の解析方法において、前記転がり軸受または転動体のばね定数を、想定される転がり軸受の運転状態から、一旦は定数と仮定し、前記機械に生じる力および外力を与えて前記機械の全体の構造解析を行い、この構造解析で得られた軸受の運転状態が、先に仮定した運転状態と一致するまで、逐次、前記転がり軸受または転動体のばね定数を修正しながら、計算を繰り返し、このばね定数を決定し、このばね定数を決定の後に前記機械の全体の振動および騒音の少なくとも一方の解析を行うようにしても良い。
この方法によると、前記転がり軸受または転動体のばね定数を適切に修正し、機械の全体の振動、騒音の解析をより一層精度良く行うことができる。
【0018】
この発明の利用者端末2は、この発明の軸受特性の計算サービス装置1にコンピュータネットワーク3を介して接続された端末であって、
前記コンピュータネットワーク3を介して前記計算サービス装置1へ前記要求情報を送信する要求情報送信手段8a、計算サービス装置1から前記計算された軸受特性を受信する軸受特性受信手段8b、およびこの軸受特性受信手段で受信した軸受特性を利用して解析を行う解析手段20を有し、
前記解析手段20は、前記計算サービス装置1によって計算されて前記軸受特性受信手段8bで受信した前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する。
この利用者端末2によると、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特に、転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を知ることができて、前記転がり軸受を装備した機械につき、有限要素法等による詳細な解析が行える。
【発明の効果】
【0019】
この発明の軸受特性の計算サービス方法は、計算サービス装置が、利用者端末からコンピュータネットワークを介して送信された要求情報に従って、運転条件下の転がり軸受の特性を計算し、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス方法であって、前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれるため、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特に転がり軸受に関するばね定数を知ることができて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析することができる。
【0020】
この発明の軸受特性の計算サービス装置は、利用者端末からコンピュータネットワークを介して要求情報により要求された、種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末に送り返す軸受特性の計算サービス装置であって、前記コンピュータネットワークから前記要求情報を受信する要求情報受信手段と、この受信した要求情報に従い、前記種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算する軸受特性計算手段と、この計算された軸受特性を前記コンピュータネットワークを介して前記利用者端末へ送り返す軸受特性送信手段とを備え、前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれるため、この装置を利用する者が、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特にばね定数を知ることができて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析することができる。
【0021】
この発明の計算サービス方法利用の解析方法は、この発明の上記いずれかの軸受特性の計算サービス方法によって得られた前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する方法であるため、この発明の軸受特性の計算サービス方法ないしは計算サービス装置を利用することで、軸受特性の計算に必要な内部諸元を知らなくても、精度の良い解析を行える。
【0022】
この発明の利用者端末は、この発明の軸受特性の計算サービス装置にコンピュータネットワークを介して接続された利用者端末であって、前記コンピュータネットワークを介して前記計算サービス装置へ前記要求情報を送信する要求情報送信手段、計算サービス装置から前記計算された軸受特性を受信する軸受特性受信手段、およびこの軸受特性受信手段で受信した軸受特性を利用して解析を行う解析手段を有し、前記解析手段は、前記計算サービス装置によって計算されて前記軸受特性受信手段で受信した前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析するため、この発明の軸受特性の計算サービス方法ないしは計算サービス装置を利用することで、軸受特性の計算に必要な内部諸元を知らなくても、軸受の運転条件の範囲を示す変数に対応した複数の計算結果となる軸受特性、特にばね定数を知ることができて、有限要素法による精度の良い解析を行える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の一実施形態に係る軸受特性の計算サービス方法における計算サービス装置と利用者端末との関係を示す説明図である。
図2】その計算サービス装置及び利用者端末の概念構成を示すブロック図である。
図3】同計算サービス装置で扱う入力フォーマット例のイメージ図である。
図4】同入力フォーマットをそれぞれ設けた軸受配列の例を示す説明図である。
図5】解析軸受の座標系の説明図である。
図6】同軸受の玉中心に設定した座標系の説明図である。
図7】荷重の作用前後における内輪軌道の曲率中心、外輪軌道の曲率中心、および玉の曲率中心の関係を示す説明図である。
図8】玉の等価なばね定数Kbrの計算例を示す図である。
図9】アンギュラ玉軸受における転動体を等価ばねに置き換えたモデルの説明図である。
図10】円すいころ軸受における転動体を等価ばねに置き換えたモデルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。図1に示すように、この軸受特性の計算サービス方法は、利用者端末2からコンピュータネットワーク3を介して計算サービス装置1に要求情報により要求された、種々の運転条件下の転がり軸受の特性を、前記計算サービス装置1により計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末2に送り返す軸受特性の計算サービス方法であって、前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる。
【0025】
前記コンピュータネットワーク3は、電話回線網等を利用したインターネット等の広域のコンピュータ通信の通信網である。前記計算サービス装置1は、例えば転がり軸受メーカーに設置され、前記利用者端末2は、転がり軸受を用いた機械を製造するメーカ等の非軸受メーカーに設置される。また、前記計算サービス装置1は、例えば、オペレータによる操作を行うことなく、前記要求情報を受けて前記軸受特性の計算およびその軸受特性の計算結果を送信する自動計算サービス装置とされる。
【0026】
図2に示すように、計算サービス装置1は、利用者端末2からコンピュータネットワーク3を介して要求情報により要求された、種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算して、この計算結果となる軸受特性を利用者端末2に送り返す装置である。この計算サービス装置1は、前記コンピュータネットワーク1から前記要求情報を受信する要求情報受信手段18と、この受信した要求情報に従い、前記種々の運転条件下の転がり軸受の特性を計算する軸受特性計算手段15と、この計算された軸受特性を前記コンピュータネットワーク3を介して前記利用者端末2へ送り返す軸受特性送信手段19とを備える。計算サービス方法につき前述したように、前記要求情報に含まれる運転条件の内、少なくとも一つ以上の変数は範囲であり、前記送り返す軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果であって、前記転がり軸受に関するばね定数が含まれる。
【0027】
前記計算サービス装置1は、コンピュータとこれに実行され、または利用されるプログラム、データ等のソフトウェアにより構成される。計算サービス装置1を構成するコンピュータは、汎用の高速演算処理が可能なものであっても、パーソナルコンピュータであっても良く、また互いに通信可能に接続された複数のコンピュータで構成されるものであっても良い。
【0028】
前記利用者端末2は、前記計算サービス装置1にコンピュータネットワーク3を介して接続された端末であって、前記計算サービス装置1へ前記要求情報を送信する要求情報送信手段8a、計算サービス装置1から前記計算された軸受特性を受信する軸受特性受信手段8bを有する。利用者端末2は、この他に、軸受特性受信手段2bで受信した軸受特性を利用して解析を行う解析手段20を有していても良い。
この解析手段20は、前記計算サービス装置1によって計算されて前記軸受特性受信手段8aで受信した前記転がり軸受またはこの転がり軸受の転動体のばね定数を用い、前記転がり軸受を装備した機械の振動および騒音の少なくとも一方を有限要素法により解析する手段である。
【0029】
前記利用者端末2は、単独の情報処理装置に限らず、前記計算サービス装置1に接続された情報処理装置と、この情報処理装置に接続された解析用の情報処理装置とを含むものであっても良い。利用者端末2は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型の携帯情報処理端末、またはスマートフォンと呼ばれる多機能携帯電話など、電子メールによる送受などの、コンピュータネットワーク3により情報通信が可能な情報処理装置であれば良い。利用者端末2が前記解析手段20を有するものである場合、単独の機器で構成する場合はパーソナルコンピュータ等とされるが、計算サービス装置1との送受を行うタブレット型の携帯情報処理端末または多機能携帯電話と、これに接続されて前記解析手段20を有するパーソナルコンピュータ等で構成しても良い。
【0030】
利用者端末2から計算サービス装置1への前記要求情報の送信や、計算サービス装置1から利用者端末2への軸受特性の送り返しは、電子メールによる他、ウェブページ(WEB画面)上での入力による方法であっても良いが、ここでは、電子メール4による例につき、具体的に説明する。利用者端末2から送信する前記要求情報は電子メール4の添付ファイル5に記述する。また、計算サービス装置1から返信する電子メール4の添付ファイル5Bに、前記軸受特性を記述する。この場合、計算サービス装置1は、複数の利用者端末2からコンピュータネットワーク3を介して送られる電子メール4に添付された添付ファイル5から情報を得て、軸受特性の計算を行い、軸受特性の計算結果を前記添付ファイル5に追記して、または別の添付ファイルとして返信するサービスを行うことになる。また、この例では、前記要求情報は、所定の入力フォーマットに従って行う。
【0031】
電子メールを用いる場合の具体例を説明する。利用者端末2は、フォーマット記憶手段6、情報入力手段7、およびメール送受手段8を有する。メール送受手段8は、前記要求情報送信手段8aおよび軸受特性受信手段8bを構成する。
フォーマット記憶手段6は、添付ファイル5の入力フォーマット9を記憶した手段である。添付ファイル5は、自動計算サービスを受けるための必要なデータを記述したファイルであるが、この実施形態では、表計算ソフトウェアで扱う表形式のファイル、例えばマイクロソフト社のエクセル(登録商標)のファイル等であって、情報記入欄10と、認証情報11とを含むものとされる。情報記入欄10には、前記軸受の運転情報を含む軸受に関する所定項目の入力値等や文字が記入され、また後に図3と共に説明するように、軸受の配列形式を示す図が表示される。
【0032】
計算サービス装置1で取扱可能な入力フォーマット9は、軸受の配列形式毎に定められた複数種類のものがあるが、フォーマット記憶手段6は、その全ての種類の入力フォーマット9を記憶したものであっても、また一つだけを記憶したものであっても良い。認証情報11は、例えば所定の英数字によるコード等からなり、添付ファイル5には通常の表示モードで表示させた場合には非表示となるように、入力フォーマット9に記述される。入力フォーマット9は、この自動計算サービス装置1を有する企業等から、可搬の記憶媒体により、またはウェブページからのダウンロードによって利用者端末2に与えられる。
【0033】
情報入力手段7は、添付ファイル5の入力フォーマット9に情報を入力する処理およびその入力の支援を行う手段である。情報入力手段7は、利用者端末2の備える液晶表示装置等の画像表示部に入力フォーマット9を表示させ、記入欄にキーボード等から文字等の入力を行わせるものであっても、また前記画像表示部に複数の事項を表示してマウス等のポインティングディバイスやタッチパネル等からオペレータにより選択させるものであっても良い。情報入力手段7は、この他に、入力フォーマット9を複数の種類からオペレータの入力等に従って選択させる手段を含む。
【0034】
メール送受手段8は、通信網3を介して電子メール4の送信および受信を行う手段であり、添付ファイル5を添付する機能を有する。なお、電子メール4の送受は、具体的には各利用者端末2とこの利用者端末2が利用可能なメールサーバ12との間、およびこの自動計算サービス装置1とこの自動計算サービス装置1が利用可能なメールサーバ12との間で行われ、通信網3を介する電子メール4の送受はメールサーバ12の相互間で行われる。
【0035】
計算サービス装置1は、メール受信手段13、入力項目判定手段14、軸受特性計算手段15、送信ファイル作成手段16、およびメール送信手段17を有する。前記メール受信手段13および入力項目判定手段14により、前記要求情報受信手段18が構成される。また、前記送信ファイル作成手段16およびメール送信手段17により前記軸受特性送信手段19が構成される。
【0036】
メール受信手段13は、自動計算サービスの専用のメールアドレスを有し電子メール4を受信する手段である。メール送信手段17は、電子メール4における送信元メールアドレスのドメインが、登録されたドメインである場合のみ、前記入力項目判定手段14に前記添付ファイル5を渡す振り分け機能を有する。入力項目判定手段14へは、電子メール4ごと渡すようにしても、添付ファイル5のみを渡すようにしても良い。電子メール4のメールアドレスは、「(ユーザ名称)@(ドメイン)」の形式で記述されている。その「(ドメイン)」の部分を登録手段(図示せず)に登録しておき、登録されたドメインの電子メール4を、自動計算サービスを受ける正当な電子メール4として、他のメールと振り分ける。なお、メール受信手段13は、登録されたドメインの電子メール4のみを受信するようにしても良い。
【0037】
入力項目判定手段14は、メール受信手段13で受信された電子メール4に添付されたファイル5が、自動計算サービスの対象となるファイルであることを示す前記認証情報11を有し、かつ自動計算対象となる軸受についての所定項目の情報が所定の入力フォーマット9で記述されていると言う条件を充足する否かを判定する。入力項目判定手段14は、入力項に不備や不足があれば、エラーメッセージを付した電子メール4を、前記メール送信手段17により送信元へ返信させる。入力項目判定手段14は、前記のように軸受の配列形式毎に定められた複数種類の入力フォーマット9に対応したものとされ、入力フォーマット9を構成する適宜の情報から、入力フォーマット9の種類の判別を行う。
【0038】
送信ファイル作成手段16は、軸受特性計算手段15で計算した結果となる軸受特性を前記受信ファイル5に追記し、または前記受信ファイル5とは別のファイルに記述する形式で送信用のファイル5Bを作成する手段である。
【0039】
メール送信手段17は、送信ファイル作成手段16は、作成された送信用のファイル5Bを前記受信した電子メール4の送信元メールアドレス、または前記電子メール4で指定された送信先メールアドレスへ送信用の電子メール4に添付して送信する手段である。
【0040】
図3は、入力フォーマット9の一例を示すイメージ図である。入力フォーマット9は、実際には同図よりも記述する項目が多いものとして運用されるが、同図では理解し易いように代表的な項目のみを示している。
同図の入力フォーマット9は、前述のように表計算ソフトウェアで扱う表形式のファイルに適用したフォーマットであり、入力項目を示す文言として「軸受型番」、「軸受レイアウト」、「回転輪」、「回転速度」、「アキシアル予圧荷重」、「ラジアル荷重」の各文言が記述され、これら各文言の記載部分と並べて入力値を記入する入力ボックス21〜24が示されている。「軸受型番」、「軸受レイアウト」および「回転輪」には、入力ボックス21にその情報を入力する。「回転速度」、「アキシアル予圧荷重」および「ラジアル荷重」には、下限、上限およびその分割数の3列の入力ボックス22、23、24に、計算したい範囲を入力する。もしも下限または上限のいずれか一方にしか入力されない場合は、その変数は固定値とみなす。
【0041】
また、この入力フォーマット9は、工作機械の主軸を支持する軸受の所定の配列形式に対応しており、その配列形式が主軸と共に図として表示されている。この配列形式を示す図には符号A〜Fが表示され、各入力ボックス21〜24内には、配列形式のどの部分に対応する値であるかを分かり易くするために、前記符号A〜Fが記入されている。この入力ボックス内に、該当する値または型番等の情報を入力する。なお、前記配列形式におけるどの軸受であるかを特定する情報も入力して添付ファイル5を作成する。
【0042】
なお、計算サービス装置1で計算したばね定数などの軸受特性についても、定められた出力フォーマット(図示せず)に従って記載することが好ましい。この出力するばね定数などの軸受特性は、前記範囲を示す一つ以上の変数に対応した複数の結果とする。
具体例を挙げると、入力条件において指示した全ての運転条件に対して、軸受のばね定数を整理した表である。また、この表は一つの範囲を示す変数に対して、一つ作成する。範囲を示す変数がn個あり、かつ各変数とも5水準で計算することが要求された場合は、5^(n−1) 個の表が作成される。
【0043】
図4は、この計算サービス装置1で扱う主軸レイアウト群、すなわち軸受の配列形式の例を示す。図4の中の符号「1」〜「4」は、配列形式の種類示す識別符号である。各軸受の配列形式は、軸受の種類を示す絵図の組み合わせによって表示されている。
【0044】
次に、計算サービス装置1の軸受特性計算手段15が行う軸受特性の計算、特に、軸受に関するばね定数の計算方法について説明する。
【0045】
玉軸受の軸受ばね定数および玉の等価ばね定数の計算方法につき説明する。
外輪基準で内輪に並進変位と傾きがある場合の軸受剛性を検討する。
解析軸受の座標系を図5に示す。α0は荷重零の場合の接触角、点Oは内輪の荷重作用点である。内輪に対し、Z方向にアキシアル荷重Fa、-Y方向にラジアル荷重Fr、および、モーメント荷重MXが作用し、Z方向およびY方向に変位δiZおよびδiY、そして傾き角αiXが生じる場合を想定する。玉中心に設定したo-zy座標系を図6に示す。ここで、Qは軌道輪からの転動体荷重、αは接触角であり、下付き添字iは内輪、oは外輪、jは番号jの玉に関することを表す。図6には、荷重が軌道から玉に作用する荷重を併記したが、玉の遠心力により、外輪の接触角は内輪よりも小さい。
内輪の変位に対して、番号jの玉と軸受中心軸となす平面において、内輪軌道溝の曲率中心の変位は、次式のように書き表される。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、dyjは内輪軌道溝の曲率中心のy方向変位、dzjは内輪軌道溝の曲率中心のz方向変位、lgiは軸受の荷重作用点から内輪軌道溝の曲率中心までの軸方向距離、yjはY軸に対するj番の玉の角度、Rgiは内輪中心から内輪軌道溝の曲率中心までの距離である。
軸受荷重が作用する前の状態と後の状態のそれぞれにおいて、玉の遠心力を考慮した場合の内輪軌道の曲率中心Ogi1j、Ogi2j、外輪軌道の曲率中心Ogojおよび玉の中心Ob1j、Ob2jは、図7に示す関係がある。ここで、yb2j、zb2j、ygi2jおよびzgi2jは、それぞれ、OgojからOb2jおよびOgi2jまでのy方向およびz方向の距離であり、下付き添字1は軸受荷重が作用する前の状態、2は軸受荷重が作用した後の状態に関することを表す。図7より、接触角αijおよびαojは、次式で表される。
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、dHijは内輪軌道とj番の玉の弾性接近量、dHojは外輪軌道とj番の玉の弾性接近量、riは内輪軌道溝の曲率半径、roは外輪軌道溝の曲率半径、Rbは玉の半径である。ygi2jおよびzgi2jは、初期の接触角a0および内輪軌道溝の曲率半径の中心の変位dyj、dzjに対し、次式の関係を持つ。
【0050】
【数3】
式(7)および(8)を、式(5)および(6)に代入すれば、次式のように書き表される。
【0051】
【数4】
【0052】
また、図7より、次式の関係が成り立つ。
【数5】
【0053】
玉には、図6に示すように軌道からの荷重QijおよびQojが作用する。これに玉の遠心力を加えると、玉に作用するyj方向およびzj方向の力は以下のように表される。
【数6】
【0054】
ここで、mは玉の質量、Rpは玉の公転軌道の半径、wcは玉の公転角速度である。一定の速度で回転する軸受では、玉の運動が定常状態とみなせるため、力の釣り合い状態を仮定できる。よって、式(13)および(14)は以下のように表される。
【数7】
【0055】
軌道と玉の弾性接近量δHijおよびδaHojは、ヘルツ理論により以下の関係が成立する。
【数8】
【0056】
ここで、KHijおよびKHojはヘルツ接触の非線形ばね定数であり、接触角aijおよびaojの関数である。式(15)および(16)に式(17)を代入すれば、以下となる。
【数9】
【0057】
式(3)、(4)(9)および(10)を用い、式(18)および(19)の接触角の三角関数を消去すれば、次式を得る。
【数10】
【0058】
収束計算を必要とするが、式(11)、(12)、(20)および(21)の非線形連立方程式より、各玉の安定位置yb2j、zb2j、弾性接近量δHijおよびδHojを求めることができる。軸受全体での安定位置を求めるには、式(22)から(24)に示す内輪の力とモーメントの釣り合い式を連立して解く必要がある。これにより、内輪の変位δiZおよびδiYそして傾き角αiXを求められる。
【0059】
【数11】

ここで、Frはラジアル荷重、Faはアキシアル荷重、Mxはモーメント荷重である。
【0060】
軸受のラジアル剛性Krは、アキシアル剛性Kaおよびモーメント剛性Ktは、次式で与えられる。上述の計算により得られた、軸受内部の玉の位置や接触状態から、式(25)の計算に必要な変数の値を得ることができる。ばね定数を計算するための偏微分式については、説明を省略する。なお、発明者では、軸受のばね定数の計算値と実験値の一致を幾つかの事例で確認している。
【0061】
【数12】
【0062】
つぎに、内輪および外輪軌道と玉の接触ばねを一つのばねで表す等価ばねのばね定数Kbjの計算方法を記す。
式(17)より、内輪側および外輪側のそれぞれの接触角方向への接触ばねの線形ばね定数KLij、KLojは次式で与えられる。
【数13】
【0063】
ころ軸受の場合は、ころと軌道面の接触部を、長さ方向に分割した多数のスライス領域ごとに軌道輪の変位や傾きに応じた弾性接近量を求め、ころ中心のラジアル方向・アキシアル方向の変位およびチルト角を、ころに作用する力とモーメントのつり合い式から収束計算により求めれば、最終的に軸受に生じる反力を得ることができる。この結果から、前述の玉軸受の場合と同様に、軸受のばね定数ならびに、転動体の等価なばね定数を求めることができる。
【0064】
よって、内輪側および外輪側の線形ばねが直列に配置された等価ばねのラジアル方向成分Kbrjおよびアキシアル方向成分Kbajは、次式となる。
【数14】
【0065】
転動体ばねの計算例を以下に示す。次式は、半径方向およびアキシアル方向の転動体の線形ばね定数KbrjおよびKbajを表す関数の一形態である。
【0066】
【数15】
【0067】
ここで、ωは内外輪間の相対回転角速度、δbHj は接触角方向の内輪側と外輪側の弾性接近量の総和、δbHj|4.2GPaは接触圧力が4.2GPaのときの接触角方向の内輪側と外輪側の弾性接近量の総和、cr0j〜cr6jはラジアル方向のばね定数を表すための定数、ca0j〜ca6jはアキシアル方向のばね定数を表すための定数であり、下付き添え字j はj 番目の玉に関することを表す。δbHj|4.2GPaは別途、計算により求めた定数である(4.2GPaは、軸受利用時の接触圧力の上限値であるため、この場合の弾性接近量で無次元化すれば、無次元の弾性接近量は絶えず1以下となり、種々の運転条件下において、その他の変数の特徴を比較しやすいと考え採用した)。cr0j〜cr6jおよびca0j〜ca6jは、玉の等価なばね定数を数値計算により各種条件で求めた結果を上記の数式で回帰した場合の係数であり、最小自乗法などにより求めればよい。
【0068】
上記は、転動体の内外輪との弾性接近量と回転速度で回帰した関数の場合であるが、別の関数であってもよい。上記の式で回帰されたばね定数Kbrの計算例を図8に示す。
式の方が一般に扱いやすいが、数値計算結果を表の形式とし、その結果から、欲しい運転条件でのばね定数を補間して求めてもよい。
【0069】
上記より、転がり軸受の転動体を代表するばね定数がえられれば、軸受が組み込まれている機械の振動の解析は、以下の手順で行える。 図2に示す利用者端末2の解析手段20は、このような解析を行う。
機械全体の主要部品の力学的な有限要素モデルを構築する。
軸受内の転動体は、上記のばねに置き換える。ただし、例えば図10図11に示すように、ばねkは半径方向と軸方向の成分を有する。図10は複列アンギュラ玉軸受の例であり、図11は円すいころ軸受の例である。
ばねkを固定する軌道面の表面には、ヘルツの接触楕円が生じると予想される範囲にリジッド要素(図示せず)を取付つけ、このリジッド要素とばねkを結合する。ただし、接触角が変化する場合に対応するには、リジッド要素とばねkの結合部には回転の自由度を残しておくのが好ましい。
上記の転動体の等価ばねkのばね定数は、内外軌道面のばねの結合部の距離に応じて変化するように、関数の形で与えるのが好ましい。この場合、転動体ばね定数は、軸受の内外輪間変位に対して、絶えず正しいばね定数が計算に反映されることになる。
上記の状態で、固有値解析や、運転時の励振力に対する応答解析を行えば、機械の振動を解析できる。
対象物の周りの空気も含めて解析を試みれば、騒音も解析できる。
【0070】
転動体のばね定数が、有限要素モデルの中に関数の形で与えることができない場合について、以下に記す。
(S1)転動体を代表するばね定数が一定値として入力する必要がある場合、まず、推定される軸受荷重から、転動体ばねのばね定数を求め、有限要素モデルに導入する。
(S2)解析したい加振力の最大値または平均値などを代表の加振力とし、機械の有限要素モデルの構造解析を行う。
(S3)上記で得られた軸受全体の荷重が、最初に推定した軸受荷重と一致していない場合、構造解析で得られた軸受荷重が軸受に作用するとみなして、転動体ばね定数を求め、有限要素モデルに導入する。
(S4)後は、(S2)にもどり、再計算を繰り返す。
(S5)上記(S3)で、ばね定数を推定する際に参照した軸受荷重と、構造解析で得られた軸受荷重が一致すれば、与えた転動体ばね定数は正しいものとみなせる。
(6)次に、有限要素モデルの固有値解析や応答解析を行えば、機械の振動を解析できる。また、対象物の周りの空気も含めて解析を試みれば、騒音も解析できる。
【0071】
この軸受特性の計算サービス方法によると、コンピュータネットワーク3を介して、計算サービス装置1を備えた転がり軸受メーカーが、転がり軸受の軸受ばね定数や転動体のばね定数を、少なくとも1つ以上の運転条件下において算出し、その結果を非軸受メーカーの技術者の利用者端末2に送信し、利用者端末によって機械の振動や騒音の解析を行う。このため、転がり軸受の内部諸元がわからない非軸受メーカーの技術者であっても、転がり軸受の軸受特性、特に転がり軸受に関するばね定数を知ることができて、転がり軸受を備えた機械の振動や騒音を高精度にかつ効率的に解析できるようになる。
上記の結果、機械の振動・騒音問題を事前に予測し対策した設計が可能となり、開発の期間短縮やコスト低減につながる。あるいは、より低振動・低騒音な機械を、高精度な解析を行うことで、開発できる。
【0072】
転動体のばね定数は、転がり軸受を備えた機械の振動・騒音の解析に重要な情報であるが、転がり軸受の内部諸元がわからなければ知ることができない。そのため、計算サービス装置で計算する軸受特性に転動体のばね定数が含まれることで、この軸受特性の計算サービス方法がより効果的に利用できる。前記転がり軸受の転動体のばねの接触角、または半径方向とアキシアル方向のばね定数についても、転がり軸受を備えた機械の振動・騒音の解析に重要な情報であるが、転がり軸受の内部諸元がわからなければ知ることができない。そのため、計算サービス装置で計算する軸受特性に前記転動体のばねの接触角、半径方向とアキシアル方向のばね定数が含まれることで、この発明の軸受特性の計算サービス方法がより効果的に利用できる。
【0073】
また、上記のように運転条件が所定の入力フォーマットで記載されていると、計算サービス装置1による計算を、上記のように無人で自動計算することが可能となる。
【0074】
この実施形態では、電子メール4の添付ファイル5で技術情報の送受を行うため、ウェブサイトの入力画面で入力する場合と同様に、利用者が任意時に任意の場所で自己の情報処理端末を用いて軸受性能の自動計算サービスを利用できる。しかも、ウェブサイトの入力画面等に入力された技術情報を送受するもの比べて、情報漏洩に対するセキュリティが確保し易い。また、添付ファイル5は、電子メール4の送信時よりも前の任意時に作成しておき、確認することができ、コピーも行えるため、入力の操作性や確認性からも利用し易い。添付ファイル5によるが、入力フォーマット9を定めておくことで、性能評価の計算を行う性能評価手段15により必要事項を自動で間違いなく読み出すことができる。
前記添付ファイル9は認証情報11を有するものとするため、利用権限のあるものに制限でき、高度な技術計算を行う性能評価手段15の負荷が過剰になることが回避できる。
【0075】
前記入力項目判定手段14は、軸受の配列形式毎に定められた複数種類の入力フォーマット9に対応していて、前記性能評価手段15は、前記入力フォーマット9毎に定められた計算式より前記評価を行うため、次の利点が得られる。すなわち、軸受の配列形式が異なると、個々の軸受に作用する荷重等の条件が異なり、計算方法も異なる。そのため計算対象となる軸受の配列形式が特定されることが必要であるが、添付ファイル5に軸受の配列形式の区別の情報を入力した上で、各軸受の情報を記述するには、内容が煩雑となる。配列形式毎に入力フォーマット9が定められていると、配列形式を添付ファイル5が簡素で分かり易いものとなる。
【0076】
前記添付ファイル5は、表計算ソフトウェアで扱う表形式のファイルであるため、軸受について情報を記述する所定項目が多くても、整然と記述および読出しができ、かつ表示できる。また、軸受の配列形式を示す図を含むことで、配列形式の選択間違いが生じ難く、配列の中の軸受の特定も行い易い。
特に、前記軸受が工作機械の主軸を支持する複数の軸受である場合は、配列形式がある程度の種類数に定まっており、配列を構成する軸受数が多い上、配列中の位置によって軸受に作用する荷重や軸受形式も異なるため、軸受の配列形式を示す図を含の表形式のファイルであることが、使用に便利である。
【0077】
前記メール受信手段13は、電子メール4における送信元メールアドレスのドメインが登録されたドメインである場合のみ、前記入力項目判定手段14に前記添付ファイル5を処理させるようにしたため、次の利点が得られる。すなわち、入力項目判定手段14は、認証情報11により添付ファイル5の認証を行うが、その前に、前記メール受信手段13で電子メール4が正当なサービスの利用の権限がある者のメールであるか否かを判定し、正当な権限がある電子メール4だけを受け付けることで、入力項目判定手段14に無駄な処理を行わせなくても済む。ドメインは限られた範囲のユーザを纏めて示す情報であり、かつメールアドレスの一部であるため、これを用いることで、サービスの利用の正当な権限を示すメールか否かの判断が容易にかつ適切に行える。
【符号の説明】
【0078】
1…計算サービス装置
2…利用者端末
3…コンピュータネットワーク
4…電子メール
5,5B…ファイル
6…フォーマット記憶手段
7…情報入力手段
8…メール送受手段
8a…要求情報送信手段
8b…軸受特性受信手段
9…入力フォーマット
10…情報記入欄
13…メール受信手段
14…入力項目判定手段
15…軸受特性計算手段
16…送信ファイル作成手段
17…メール送信手段
18…要求情報受信手段
19…軸受特性送信手段
k…ばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10