(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のドライブシャフトに使用される動力伝達軸としてのシャフトは、その種類を構造面で大別すると、中実の棒材から加工された中実シャフトと、鋼管などから加工された中空シャフトに分けられる。近年、自動車の足回りの軽量化、捩じり剛性やNVH特性の向上といった機能面での必要性から中空シャフトが用いられる場合が増えている。
【0003】
図1に中実シャフトを用いた自動車の前輪用ドライブシャフトを示す。ドライブシャフト30は、駆動車輪側(図中左側:以下、アウトボード側ともいう)に配置される固定式等速自在継手1と、デフ側(図中右側:以下、インボード側ともいう)に配置される摺動式等速自在継手31と、両等速自在継手1、31をトルク伝達可能に連結する中実シャフト12とを主要な構成とする。図示のように、前輪用ドライブシャフト30では、車輪が操舵されるので、通常、アウトボード側(車輪側)には、大きな作動角が取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手1が使用され、インボード側(デフ側)には、最大作動角は比較的小さいが作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手31が使用される。
【0004】
固定式等速自在継手1は、いわゆるツェッパ型等速自在継手であり、この等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とし、摺動式等速自在継手31は、いわゆるダブルオフセット型等速自在継手であり、この等速自在継手31は、外側継手部材32、内側継手部材33、ボール34および保持器35を主な構成としている。中実シャフト12の両端に形成した雄スプライン(セレーションも含まれる。以下、同じ)19、49は、固定式等速自在継手1の内側継手部材3に形成した雌スプライン17と、摺動式等速自在継手31の内側継手部材33に形成した雌スプライン47にそれぞれ連結される。
【0005】
図13に、中空シャフトを用いた自動車の前輪用ドライブシャフトを示す。このドライブシャフト60では、アウトボード側には前述と同様、固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手1が使用されている。固定式等速自在継手1は
図1と同じであるので説明を省略する。インボード側には、摺動式等速自在継手であるトリポード型等速自在継手61が使用されている。トリポード型等速自在継手61は、外側継手部材62、内側継手部材としてのトリポード部材63とローラ64を主な構成とし、トリポード部材63に形成した3本の脚軸65にローラ64が回転自在に嵌合され、ローラ64は外側継手部材62に形成されたトラック溝66に転動自在に収容されている。中空シャフト72の両端に形成した雄スプライン19、79は、固定式等速自在継手1の内側継手部材3に形成した雌スプライン17と、摺動式等速自在継手61のトリポード部材63に形成した雌スプライン77にそれぞれ連結されている。
【0006】
中実シャフト又は中空シャフトを問わず、シャフトに形成された雄スプラインの反軸端側の端部(根元部)の形状には種々のタイプが存在し、例えば、
図25aに示すように、動力伝達軸100に形成した雄スプライン101の歯底(谷部ともいう)102をそのまま動力伝達軸100の外周面に抜いた形状(以下、切抜け形状ともいう)や、
図25bに示すように、雄スプライン101の歯底102を滑らかに拡径させて動力伝達軸100の外周面につなげた形状(以下、切上り形状ともいう)等がある。このうち、切上り形状の場合、拡径面105aにより応力緩和効果があり、動力伝達軸の強度を向上させ得ることが知られている。
【0007】
また、切上り形状には、スプラインの拡径部105の軸方向領域で歯底102の円周方向幅を反軸端側で拡大させた形状(以下、槍形形状ともいう)や、拡径部の軸方向領域で谷部の円周方向幅を一定にした形状(以下、舟形形状ともいう)等がある。このような槍形形状や舟形形状において、拡径面105aとこれに隣接する歯面104との隅部のエッジを鈍化させる鈍化部を設けることにより、隅部に発生する応力集中を緩和し、これにより動力伝達軸の静的強度ならびに疲労強度の向上を図るものが特許文献1に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、環境問題に対する関心の高まりから、例えば自動車では排ガス規制の強化や燃費向上等が強く求められており、それらの対策の一環として、ドライブシャフト、プロペラシャフト等の動力伝達軸にもさらなる軽量化・強度向上が強く求められている。
【0010】
このような要求を満たす一例として、切上り形状の一つである槍形形状を
図17および
図18に示す。
図17に示すように、内側継手部材103の雌スプライン117とシャフト112の雄スプライン119が嵌合する。シャフト112のスプライン切上り部(以下、拡径部ともいう)120に隣接する反軸端側に内側継手部材103の端部面取部103aが当接する嵌合基準面124が設けられている。槍形形状は、
図18に示すように、雄スプライン119の拡径部120の軸方向領域で歯底119bの周方向幅が反軸端側に向かうに連れ拡大するように形成されている。槍形形状では、
図17に示すように、歯面119aを拡径部120の軸方向領域まで確保できるため、応力集中しやすい嵌合端117aの軸方向位置を、歯底119bを結んだスプライン小径Fに比べて径の大きい拡径部120に設定でき、シャフト112および雄スプライン119の強度アップが可能である。しかし、この槍形形状の雄スプライン119は、後述するように加工面や製造コスト面に改良の余地があることが判明した。
【0011】
このように、動力伝達軸のスプラインは、その精度および強度を確保しつつ、加工を容易にし、製造コストを抑制することが重要であるが、特許文献1は、このような点に着目したものではない。
【0012】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたものであって、その目的とするところは、スプラインの精度および強度を確保しつつ、加工を容易にし、製造コストを抑制することを可能にする動力伝達軸およびスプライン加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討および試験評価し、以下の知見を見出した。
【0014】
[スプラインの根元形状]
前述したように、雄スプラインの根元形状には大きく分けて、切上り形状と切抜け形状があるが、このうち、雄スプラインの根元に接続する軸部寸法を、スプライン小径より大きくできる切上り形状が強度的に有利である。そして、上記の切上り形状の一つである槍形形状は、
図17および
図18に基づいて前述したように、雄スプライン119の歯面119aを拡径部120の軸方向領域まで確保できるため、応力集中しやすいスプライン嵌合端117aの軸方向位置を、スプライン歯底119bを結んだスプライン小径Fに比べて径の大きい拡径部120の軸方向領域に設定でき、シャフト112および雄スプライン119の強度アップが可能となる。この点に着目し、切上り形状を有する槍形形状のスプライン119を検討対象とした。
【0015】
[スプラインの成形方法]
さらに、雄スプライン119は、歯面119aと歯底119bから構成される隅部がR形状であると強度的に有利である。しかし、このような隅部がR形状をした雄スプライン119を転造加工すると、加工中のラックとワークとの動きから、歯元(歯面のうち、ピッチ円直径より歯底119b寄りの範囲)や歯底119b付近の形状が乱れやすい。さらに、薄肉の中空シャフトの場合には、中空シャフトが楕円変形し、転造加工の適用が難しい。この点、プレス成形の場合、金型形状が転写により隅部のR形状を精度良く加工することができる。この点に着目し、スプラインの成形方法としては、プレス成形を検討対象とした。
【0016】
[検討と試験評価]
前述した検討を踏まえて、切上り形状を有する槍形形状の雄スプラインをプレス成形するというコンセプトに沿って、精度、強度、加工性の向上および製造コストの抑制を図るスプラインを究明するために種々検討、試験評価を行った。具体的には、
図19〜24に示すように、槍形形状のスプラインについて、種々のプレス加工用ダイスやシャフトの試作品を製作し、試験評価した。
【0017】
(1)試験評価1:スプライン下径をスプライン大径より小さくしたシャフト試作品のプレス成形
現行の転造加工では、シャフト半製品のスプライン下径をスプライン大径より小さくした仕様のものを、転造加工によりスプライン大径を膨らませて成形している。まず、この仕様を基に試験評価した。
図19に示すように、プレス加工前のシャフト試作品112aのスプライン下径Gaを成形後のスプライン大径Eより小さくしたものを製作した。このシャフト試作品112aでは、スプライン大径Eを膨らませて成形するため余肉の盛り上がり(以下、肉盛りともいう)が予想されたので、
図20に示す肉盛り抑制部125を内周面に設けたダイス122aを用いてプレス成形した。この場合、スプライン下径Gaと肉盛り抑制部125との隙間が大きくなり、プレス成形後のシャフト試作品112a’の根元部Hに大きな肉盛り123が発生し、その低減も困難なことが判明した。また、この肉盛りの問題に加えて、スプライン大径Eが大きく引っ張られて、割れの発生や歯先119cの高さが不揃いとなる問題が判明した。なお、上記のスプライン下径Gaと肉盛り抑制部125との隙間が大きくなる理由は、スプライン119の拡径部120と嵌合基準面124との軸方向距離が、肉盛り抑制部125の軸方向長さよりも短く設定された形状による。これに伴い、肉盛り抑制部125と嵌合基準面124の外径Iとの干渉を避けるため、肉盛り抑制部125の寸法は、外径Iより若干大きく設定する必要があり、その結果、スプライン下径Gaと肉盛り抑制部125との隙間が大きくなる。
【0018】
(2)試験評価2:スプライン下径をスプライン大径より大きくしたシャフト試作品のプレス成形
上記の問題の対策として、
図21に示すように、プレス加工前のシャフト試作品112bのスプライン下径Gbを成形後のスプライン大径Eより大きくしたものを製作した。このシャフト試作品112bを、
図22に示す肉盛り抑制部を設けないダイス122bを用いてプレス成形した。この場合、プレス成形後のシャフト112b’は、歯底119bを成形する際に押し出される肉が、
図22に白抜き矢印で示すように、ダイス122bの進行方向(図の右方向)へ押し出されるため、根元部Hに大きな肉盛り123が発生しやすいことが判明した。
【0019】
(3)試験評価3:スプライン下径をスプライン大径より大きくしたシャフト試作品を肉盛り抑制部のあるダイスによりプレス成形〕
前記問題の対策として、試験評価2で用いたシャフト試作品112bと同じもの(スプライン下径Gb>スプライン大径E)を用いて、
図23に示すように、肉盛り抑制部125を設けたダイス122cにより肉盛り123をつぶすようにプレス加工を行った。しかし、加工荷重が大きくなり、金型寿命の低下が懸念されることが判明した。また、スプラインのプレス加工が終了したシャフト112b”は、
図24a示すように、根元部H(
図22参照)に肉盛り123が生じ、また、スプライン下径加工時に形成した嵌合基準面124の予備加工面124’にも変形が及ぶ状態となった。前述した試験評価2と同様に、
図23に白抜き矢印で示すように、歯底119bにあたる部分の肉が、ダイス122cの拡径部成形面126(歯底幅が反軸端側に向けて拡大する)に沿ってダイス122cの進行方向(図の右方向)に押し出され、肉盛り抑制部125を設けても、
図24bのように、径方向の張り出し変形をスプライン嵌合に支障のない範囲に抑えることができないことが判明した。したがって、
図24bの肉盛り123および嵌合基準面124の外周部位Jの拡大図である
図24cにクロスハッチングで示した部分を除去する必要があり、後加工としての旋削加工を省略できないことが判明した。
【0020】
以上の試験評価1〜3により、従来の槍形形状のスプラインでは、相手部材の雌スプラインと肉盛りが干渉し、正しく嵌合できない可能性がある。このため、旋削加工等により肉盛りを除去する後加工が必要となり、製造コストの抑制が困難であることが判明した。そして、これらの知見を基に種々検討した結果、槍形形状のスプラインの新たな形状コンセプトを着想し、本発明に至った。
【0021】
本発明は、外周に雄スプラインが形成され、この雄スプラインの歯底の反軸端側に、歯底の外径寸法を徐々に大きくさせた拡径部を有する動力伝達軸において、前記スプラインの歯底の周方向幅を拡径部の軸方向領域まで略一定に形成し、前記拡径部の軸方向領域に、前記スプラインの歯底と歯面とを接続する面取り部を設けて、歯溝幅を縮小する構成とし、前記歯底、歯面および面取り部がプレス成形された面で形成されており、前記動力伝達軸のスプラインの拡径開始位置(P1)と歯溝幅縮小開始位置(P2)との軸方向寸法(C)、および歯溝幅縮小開始位置(P2)と拡径終了位置(P3)との軸方向寸法(D)の関係をC>Dとし
、前記スプラインの拡径開始位置(P1)と歯溝幅縮小開始位置(P2)とを結ぶ直線(K)と、前記スプラインの歯底の軸方向輪郭線とのなす角度(θ1)を25°〜40°としたことを特徴とする。
【0022】
また、動力伝達軸のスプライン加工方法としての本発明は、外周に雄スプラインが形成され、この雄スプラインの歯底の反軸端側に、歯底の外径寸法を徐々に大きくさせた拡径部を有する動力伝達軸のスプライン加工方法において、前記スプライン加工方法は、雄スプラインをダイスによりプレス加工するものであって、前記ダイスは、雄スプラインの歯底を成形する歯底成形面と歯面を成形する歯面成形面を有し、前記歯底成形面の周方向幅を前記拡径部の軸方向領域まで略一定に形成され、前記拡径部の軸方向領域に、前記歯底成形面と歯面成形面とを接続する面取り部を成形する面取り部成形面を設けて歯溝幅を縮小する成形面の構成とし、前記ダイスを用いてプレス加工することにより、前記スプラインの拡径開始位置(P1)と歯溝幅縮小開始位置(P2)との軸方向寸法(C)と、歯溝幅縮小開始位置(P2)と拡径終了位置(P3)との軸方向寸法(D)の関係をC>Dとし
、前記スプラインの拡径開始位置(P1)と歯溝幅縮小開始位置(P2)とを結ぶ直線(K)と、前記スプラインの歯底の軸方向輪郭線とのなす角度(θ1)を25°〜40°としたことを特徴とする。
【0023】
上記の構成により、歯底を成形するために押し出された余肉のうち、ダイスの進行方向
(前方)に押し出される余肉が略一定幅の歯底により抑制されると共に成形時の肉が面取
り部によりスムーズに流動するので肉盛りや加工荷重を抑制できる。また、相手部材のス
プライン嵌合端の軸方向位置を雄スプラインの拡径部の軸方向領域の十分奥側に確保でき
るので、動力伝達軸およびスプラインの強度を向上させることができる。さらに、肉盛り
が抑制されることで、槍形形状で必要であった肉盛りや嵌合基準面の後加工を省略するこ
とができる。したがって、動力伝達軸のスプラインの精度および強度を確保しつつ、加工
を容易にし、製造コストを抑制することができる。
スプラインの拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2とを結ぶ直線Kと、上記スプラインの歯底の軸方向輪郭線とのなす角度θ1は25°〜40°とされている。角度θ1が25°未満では、面取り部の後退傾斜角が小さくなりすぎるので、加工荷重や肉盛りの抑制が十分ではない。ここで、後退傾斜角とは、拡径部の軸方向領域で溝底の中心線に直交する断面における面取り部と溝底とがなす角α(図5(b)参照)を指し、溝底に対して面取り部が軸端方向へ傾斜したものを意味する。以下、本明細書において同じ意味で用いる。一方、角度θ1が40°を越えると、相手部材のスプライン嵌合端の軸方向位置を雄スプラインの拡径部の軸方向領域の奥側に十分確保できないので、動力伝達軸およびスプラインの強度が不十分で槍形形状の有利性が享受できなく、好ましくない。
【0024】
上記スプラインの歯先をプレス成形のダイスで成形されていない面とすることが望ましい。この場合には、上記の面取り部の作用と相俟って、プレス成形の加工荷重をさらに抑制することができる。
【0026】
上記の面取り部を平面あるいは湾曲した凹面で形成することができる。これにより、成形時の肉が面取り部によりスムーズに流動するので肉盛りや加工荷重を抑制できる。
【0027】
上記の面取り部と歯底あるいは歯面との接続部分の隅部をR形状にすることが望ましい。これにより、スプラインの嵌合端部の応力集中を一層緩和することができる。
【0028】
上記の動力伝達軸を等速自在継手に連結される中空シャフトとすることにより、薄肉で転造加工が困難な中空シャフトのスプラインを高精度に形成することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、スプラインの精度および強度を確保しつつ、加工を容易にし、製造コストを抑制することを可能にする動力伝達軸およびスプライン加工方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸を適用した自動車用ドライブシャフトを示す部分的縦断面図である。
【
図2】上記ドライブシャフトのアウトボード側固定式等速自在継手を示す部分的縦断面図である。
【
図3】上記の固定式等速自在継手とシャフトとのスプライン嵌合部を拡大した部分的縦断面図である。
【
図4】上記のシャフトの雄スプラインを示す斜視図である。
【
図5b】
図5aにおける二点鎖線Rを含む断面図である。
【
図6a】
図5aのS1−S1線における横断面図である。
【
図6b】
図5aのS2−S2線における横断面図である。
【
図6c】
図5aのS3−S3線における横断面図である。
【
図6d】
図5aのS4−S4線における横断面図である。
【
図7】上記の雄スプラインの成形前後の寸法を示す説明図である。
【
図8】本発明のスプライン加工方法についての実施形態を示す部分的縦断面図である。
【
図11a】上記のスプライン加工方法におけるプレス成形工程の概要を示す部分的縦断面図で、途中位置まで前進した状態を示す図である。
【
図11b】上記のスプライン加工方法におけるプレス成形工程の概要を示す部分的縦断面図で、後退した状態を示す図である。
【
図11c】上記のスプライン加工方法におけるプレス成形工程の概要を示す部分的縦断面図で、前進終了時の状態を示す図である。
【
図12】上記のプレス成形工程における成形状態を示す部分的縦断面図である。
【
図13】本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸を中空シャフトに適用した自動車用ドライブシャフトを示す部分的縦断面図である。
【
図14】上記の中空シャフトを拡大した部分的縦断面図である。
【
図15】本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸を固定式等速自在継手のステム軸に適用した自動車の駆動車輪用軸受装置を示す部分的縦断面図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態に係る動力伝達軸の雄スプラインを示す斜視図である。
【
図17】本発明に至る過程における技術的な知見を説明するスプライン嵌合部の部分的縦断面図である。
【
図19】試験評価したシャフトの雄スプラインの成形前のスプライン下径と成形後のスプライン寸法を示す説明図である。
【
図20】試験評価したシャフトのプレス成形工程における成形状態を示す部分的縦断面図である。
【
図21】試験評価したシャフトの雄スプラインの成形前のスプライン下径と成形後のスプライン寸法を示す説明図である。
【
図22】試験評価したシャフトのプレス成形工程における成形状態を示す部分的縦断面図である。
【
図23】試験評価したシャフトのプレス成形工程における成形状態を示す部分的縦断面図である。
【
図24a】スプラインのプレス加工終了時のシャフトを示す部分的縦断面図である。
【
図24b】
図24aのシャフトの旋削加工が必要な部分を示す部分的縦断面図である。
【
図25a】従来技術の動力伝達軸の一部分を示す図である。
【
図25b】従来技術の動力伝達軸の一部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸および本発明のスプライン加工方法についての実施形態を
図1〜
図15に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の動力伝達軸が適用された自動車の前輪用ドライブシャフトを示し、
図2は、前記ドライブシャフトのアウトボード側の固定式等速自在継手を示す。
【0033】
図1に示すように、ドライブシャフト30は、駆動車輪側(図中左側:以下、アウトボード側ともいう)に配置される固定式等速自在継手1と、デフ側(図中右側:以下、インボード側ともいう)に配置される摺動式等速自在継手31と、両等速自在継手1、31をトルク伝達可能に連結する本実施形態の動力伝達軸としての中実シャフト12とを主要な構成とする。図示のように、前輪用ドライブシャフト30では、車輪が操舵されるので、通常、アウトボード側(車輪側)には、大きな作動角が取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手1が使用され、インボード側(デフ側)には、最大作動角は比較的小さいが作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手31が使用される。
【0034】
固定式等速自在継手1は、ツェッパ型等速自在継手であり、この等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とし、摺動式等速自在継手31は、ダブルオフセット型等速自在継手31であり、この等速自在継手31は、外側継手部材32、内側継手部材33、ボール34および保持器35を主な構成としている。中実シャフト12の両端に形成した雄スプライン(セレーションも含まれる。以下、同じ)19、49は、固定式等速自在継手1の内側継手部材3に形成した雌スプライン17と、摺動式等速自在継手31の内側継手部材33に形成した雌スプライン47にそれぞれ連結される。固定式等速自在継手1の外周面とシャフト12の外周面との間、および摺動式等速自在継手31の外周面とシャフト12の外周面との間に、それぞれ、蛇腹状ブーツ13、42が装着され、ブーツバンド14、15、45、46により締付け固定されている。継手内部には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0035】
図2に、アウトボード側の固定式等速自在継手1を拡大した部分的縦断面を示す。外側継手部材2のマウス部2aの球状内周面8には、8本のトラック溝6が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のステム部20には、車輪用軸受装置のハブ輪(図示省略)と連結される雄スプライン21と、締め付けナット(図示省略)が螺合する雄ねじ22が形成されている。内側継手部材3の球状外周面9には、外側継手部材2のトラック溝6と対向するトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のトラック溝6と内側継手部材3のトラック溝7との間にトルクを伝達する8個のボール4が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材2の球状内周面8と内側継手部材3の球状外周面9との間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。内側継手部材3の内周面16には雌スプライン17が形成され、この雌スプライン17にシャフト12の雄スプライン19が嵌合され、嵌合基準面24と止め輪18により軸方向に固定されている。
【0036】
外側継手部材2の球状内周面8と嵌合する保持器5の球状外周面10、および内側継手部材3の球状外周面9と嵌合する保持器5の球状内周面11の曲率中心は、いずれも、継手中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材2のトラック溝6の曲率中心Aと、内側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Bは、継手中心Oに対して軸方向に等距離f1でオフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度(作動角)を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。トラック溝6、7の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝6、7とボール4は、接触角(30°〜45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝6、7の溝底より少し離れたトラック溝6、7の側面側で接触している。
【0037】
本実施形態の動力伝達軸の雄スプラインの形状を
図3〜
図6に基づいて説明する。雄スプラインの根元部の形状は、アウトボード側の固定式等速自在継手とインボード側の摺動式等速自在継手において同様であるので、以降の説明では、固定式等速自在継手の場合を例として説明する。当該内容は、インボード側の摺動式等速自在継手のスプラインでも同様であるので、インボード側摺動式等速自在継手の場合についての説明を省略する。
【0038】
図3は、
図2における内側継手部材3とシャフト12とのスプライン嵌合部を拡大した部分的縦断面図であり、
図4は、シャフトの雄スプラインの根元部を示す斜視図である。
図3および
図4に示すように、動力伝達軸としてのシャフト12の軸端(図面の左側)に雄スプライン19が形成され、内側継手部材3の内周面16に雌スプライン17が形成され、両スプライン17、19が嵌合している。シャフト12に形成された雄スプライン19の歯底(谷部)19bは、反軸端側(軸端から離れる側をいう。図面の右側)の根元には滑らかに拡径させてシャフト12の外周面につなげた拡径部(切上り部)23が形成されている。拡径部23の反軸端側に嵌合基準面24が形成され、内側継手部材3に形成した面取り部3aと当接して、内側継手部材3に対するシャフト12の押し込み側の軸方向位置を規制している。シャフト12の引き抜き側は、止め輪18(
図2参照)により規制している。
【0039】
図4に示すように、雄スプライン19の歯底19bの周方向幅cは、拡径部23の軸方向領域まで略一定に形成されている。拡径部23の軸方向領域には、スプライン19の歯面19aと歯底19bとを接続する三角形状の面取り部25が設けられ、面取り部25と歯面19aとの接続稜線aおよび面取り部25と歯底19bとの接続稜線bが形成されている。図示では、接続稜線a、bをそれぞれ1本の実線で表記しているが、接続稜線a、bの所(隅部)を適宜のR形状(丸み)とすることができる。スプライン19の歯先(山部)19cは、接続稜線aの位置から反軸端側に縮径しシャフト12の外周面につながる。
【0040】
図3および
図4に示すように、面取り部25と歯面19aとの接続稜線aと、面取り部25と歯底19bとの接続稜線bとは、拡径部23の軸端側端部に位置する歯底19bで交わる。この交点が雄スプライン19の拡径開始位置P1となる。接続稜線aと歯先19cとの交点は、歯溝幅縮小開始位置P2となり、この歯溝幅縮小開始位置P2から反軸端側に向けて歯溝幅dは縮小していく。接続稜線bとシャフト12の外周面との交点は、拡径終了位置P3となる。
【0041】
図4に示すように、歯面19aは拡径開始位置P1から歯溝幅縮小開始位置P2まで歯面19aの幅(高さ)を縮小しながら延在する。したがって、
図3に示すように、内側継手部材3のスプライン嵌合端17aの軸方向位置を、シャフト12の雄スプライン19の歯底19bを結んだスプライン小径Fに比べて径の大きい拡径部23の軸方向領域に設定でき、シャフト12および雄スプライン19の強度アップが可能となる。
【0042】
図3に示すように、本実施形態では、拡径開始位置P1から歯溝幅縮小開始位置P2までの軸方向寸法をCと、歯溝幅縮小開始位置P2から拡径終了位置P3までの軸方向寸法をDとの関係は、C>Dに設定されている。軸方向寸法Cが軸方向寸法D以下に小さくなると、内側継手部材3のスプライン嵌合端17aの軸方向位置をシャフト12の雄スプライン19の拡径部23の軸方向領域の奥側(図の右側)での嵌合を十分確保することができない。したがって、シャフト12および雄スプライン19の強度が不十分となり、槍形形状の有利性が享受できなくなる。
【0043】
また、スプラインの拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2とを結ぶ直線Kと、スプラインの歯底19bの軸方向輪郭線とのなす角度はθ1となり、スプラインの拡径開始位置P1と拡径終了位置P3とを結ぶ直線Lと、スプラインの歯底19bの軸方向輪郭線とのなす角度はθ2となる。ここで、本明細書および特許請求の範囲において、角度θ1は、スプラインの拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2とを結ぶ直線Kを、シャフト12の軸線と歯底19bの中心線を含む平面M(
図5a参照)に投影したときに、直線Kと歯底19bの軸方向輪郭線とのなす角度と定義する。同様に、角度θ2は、スプラインの拡径開始位置P1と拡径終了位置P3とを結ぶ直線Lを、シャフト12の軸線と歯底19bの中心線を含む平面Mに投影したときに、直線Lと歯底19bの軸方向輪郭線とのなす角度と定義する。したがって、例えば、歯面19aのインボリュート曲線や拡径部23の表面の形態などにより、接続稜線a、bは極僅かに湾曲状態になるので、直線Kと接続稜線aおよび直線Lと接続稜線bとは、完全に一致するものではない。しかし、
図3では、簡便的に符号K、aおよびL、bを併記して図示している。一方、
図4では、図を煩雑化させないため直線K、Lの図示を省略した。
【0044】
角度θ2は、切上り形状の実績を考慮して20°程度とした。一方、角度θ1は、スプライン嵌合の状態や加工荷重、肉盛りの抑制を考慮して、25°以上40°以下とした。角度θ1が25°未満では、面取り部25の後退傾斜角が小さくなりすぎるので、加工荷重や肉盛りの抑制が十分ではなく、一方、角度θ1が40°を越えると、拡径部23の軸方向領域の奥側で歯面19aの幅の減少量が大きくなりすぎるので、内側継手部材3のスプライン嵌合端17aの軸方向位置をシャフト12の雄スプライン19の拡径部23の軸方向領域の奥側での嵌合を十分確保することができない。したがって、シャフト12および雄スプライン19の強度が不十分となり、槍形形状の有利性が享受できなくなる。
【0045】
次に、雄スプラインの拡径部の軸方向領域における断面形状の詳細を
図5および
図6に基づいて説明する。
図5aは、一対の歯先間の平面図であり、
図5bは、
図5aにおける歯溝幅縮小開始位置P2を通り、溝底の中心線に直交する断面(二点鎖線Rを含む断面)を示す図である。
図6は、
図5aのS1−S1線〜S4−S4線の各横断面図である。本実施形態の動力伝達軸のスプラインは、槍形形状をベースにしているが、拡径部23の軸方向領域に面取り部25を設けているので、歯底19bの周方向幅cは、拡径部23の軸方向領域まで略一定に形成されている。ただし、歯底19bの周方向幅cは、拡径部23の軸方向領域と軸端側で全く同一にしてもよいし、拡径部23の拡径開始位置P1から拡径終了位置P3に向けて周方向幅cを適宜の寸法で拡げても、あるいは逆に適宜の寸法で縮小してもよい。要は、周方向幅cの寸法は、スプライン嵌合の状態や加工荷重、肉盛りの抑制を考慮して、適宜設定することができる。平面Mは歯底19bの中心線とシャフト12の軸線を含む平面であり、
図3に基づいて前述したスプラインの拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2とを結ぶ直線Kおよびスプラインの拡径開始位置P1と拡径終了位置P3とを結ぶ直線Lを投影した平面Mを指す。
【0046】
図5aにおいて、S1−S1線は拡径開始位置P1を示し、つづいて、S2−S2線は拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2との中間位置を、S3−S3線は歯溝幅縮小開始位置P2を、およびS4−S4線は歯溝幅縮小開始位置P2と拡径終了位置P3との中間位置をそれぞれ示している。そして、
図6aは、
図5aのS1−S1線における横断面を示し、つづいて、
図6bはS2−S2線における横断面を、
図6cはS3−S3線における横断面を、および
図6dはS4−S4線における横断面をそれぞれ示している。
図5bは、歯溝幅縮小開始位置P2を通り、溝底19bの中心線に直交する断面(二点鎖線Rを含む断面)を示すものであるが、この図の面取り部25と溝底19bとがなす角αが後退傾斜角であり、溝底19bに対して面取り部25が軸端方向(図面左側)へ傾斜している。
【0047】
図6aに示すS1−S1線における横断面では、歯底19bから歯先19cまでのスプライン側面の全域が歯面19aとなっており、軸端(図の左側)から同じ横断面で形成されている。
図6bに示すS2−S2線における横断面は、拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2との中間に位置し、溝底19bが拡径すると共にスプライン19の側面が面取り部25と歯面19aとから形成される。この歯面19aが残存する所に内側継手部材3のスプライン嵌合端17aが位置し、スプライン嵌合が可能となる。
図6cに示すS3−S3線における横断面では、スプライン19の側面は面取り部25のみとなり、この状態で、溝底19bがさらに拡径して、
図6dに示すS4−S4線における横断面となる。
【0048】
図4および
図5では、雄スプライン19をシャフト12の軸線に平行な直線状のものを図示したが、これに限られず、シャフト12の軸線に対して、わずかな捩れ角(例えば、5′程度)を与えることができる。この場合、相手部材である内側継手部材3の雌スプライン17との嵌合部の一部を締め代とすることができるので、回転方向のガタを抑制することができる。
【0049】
雄スプライン19の構成は以上に述べたとおりであるが、次に、本発明のスプライン加工方法についての実施形態を
図7〜
図12に基づいて説明する。
【0050】
図7は、プレス成形前後のシャフトの端部の形状を示す概要図である。実線がプレス成形前のシャフト半製品を示し、二点鎖線がプレス成形後の雄スプラインの形状を示す。図示のように、本実施形態では、プレス成形前のシャフト半製品12’のスプライン下径Gは、プレス成形後のスプライン大径Eより小さくしたものを用いる。この理由は後述する。プレス成形前のシャフト半製品12’には、スプライン下径Gの反軸端側に嵌合基準面24が形成されている。プレス成形後の雄スプライン19の歯底19bには反軸端側に拡径部23が形成される。
【0051】
図7に示すシャフト半製品12’をプレス成形する。その概要を
図8および
図9に基づいて説明する。
図8はプレス成形の状態を示す部分的縦断面図であり、
図9は、
図8のN−N線における横断面図である。そして、
図9bは
図9aにおける部分Qの拡大図である。
【0052】
雄スプライン19の成形は、
図8に示すように、加工治具であるダイス26を用いて行う。ダイス26は、
図9に示すように、内周面26cにスプライン成形面27が形成されている。
図8に示すように、シャフト半製品12’の軸端を支持部28で支持した状態で、二点鎖線で示すダイス26の位置から前進させて、ダイス26に前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を付与する。このとき、前進量を後退量より大きくする。これにより、ダイス26をシャフト半製品12’に軸端側から反軸端側に向けて徐々に押し込み、ダイス26によりシャフト半製品12’に軸端側からスプライン根元部19dに向けて雄スプライン19を徐々に形成していく。
【0053】
上記のプレス成形に使用するダイス26は、
図9a、
図9bに示すように、ダイス26の内周面26cを雄スプラインの大径Eよりも大きく設定している。したがって、プレス成形において、スプライン下径G(
図7参照)から膨らませた歯先19cは、ダイス26の内周面26cよりも内径側に位置する設定としている。これにより、前述した面取り部25の作用と相俟って、加工荷重をさらに抑制することができる。
【0054】
ダイス26の内周面26cのスプライン成形面を
図10に示す。
図10は、スプラインの根元部付近のダイス26の内周面26cを示す斜視図である。ダイス26の内周面26cには、雄スプライン19の歯底19bを成形する歯底成形面26b、歯面19aを成形する歯面成形面26a、歯底成形面26b’と歯面成形面26aとを接続する面取り部成形面26dとから構成されている。歯底成形面26bは、雄スプライン19の拡径部23を成形する拡径部成形面26b’を備えている。このような各成形面26a、26b、26b’、26dの構成により、ダイス26の拡径部成形面26b’を含む歯底成形面26bの周方向幅は略一定に形成され、また、拡径部23の軸方向領域に、歯底成形面26b(拡径部成形面26b’)と歯面成形面26aとを接続する面取り部を成形する面取り部成形面26dを設けることにより歯溝幅を縮小する成形面の構成となる。各成形面26a、22b、26b’および内周面26cが接続される隅部は適宜のR形状(丸み)に形成されている。このダイス26の内周面26cには肉盛り抑制部を設けていない。
【0055】
次に、プレス成形の過程を
図11に基づいて具体的に説明する。
図11a、
図11b、
図11cの順に時間が経過した状態を示す。
図11において、白抜き矢印がダイス26の動作方向を示しており、図の右向きの白抜き矢印は前進を示し、逆に、図の左向きの白抜き矢印は後退を示している。すなわち、
図11aおよび
図11cは、ダイス26の軸方向振動における前進時を示しており、
図11bは、ダイス26の軸方向振動における後退時を示している。
【0056】
まず、
図11aに示すように、シャフト半製品12’の軸端を支持部28で支持した状態で、軸端側からダイス26を白抜き矢印の方向に前進させ、スプライン19を軸方向の途中位置まで成形する。つづいて、
図11bに示すように、ダイス26を白抜き矢印の方向に後退させ、その後、またダイス26を前進させる。このように、ダイス26に前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を付与する。このとき、前進量を後退量より大きくする。これにより、ダイス26をシャフト半製品12’に軸端側から反軸端側に向けて徐々に押し込み、ダイス26によりシャフト半製品12’に軸端側からスプライン根元部19dに向けて雄スプライン19を徐々に形成していく。
【0057】
そして、
図11cに示すように、スプライン根元部19dに所定の拡径部23が形成されたところで、プレス成形が終了する。
図11では、説明を簡略化するために、
図11aの途中位置までの前進時と、
図11bの後退時および
図11cの前進終了時の代表的な3つの状態を示したが、実際には、前進と後退の運動を交互に繰り返す軸方向振動を数十回加えて、スプライン19を成形する。なお、シャフト半製品12’は、スプライン19の成形後に、止め輪溝およびブーツ溝が加工され、熱処理工程などを経て完成品となる。
【0058】
本実施形態では、ダイス26の拡径部成形面26b’を含む歯底成形面26bの周方向幅は略一定に形成されているため、歯底19bを成形するために押し出された余肉のうち、ダイス26の進行方向(前方)に押し出される分が抑制されると共に、後退傾斜した面取り部成形面26dにより成形時の肉がスムーズに流動するので、
図12に示すように前方への肉盛りが抑制される。また、後退傾斜した面取り部成形面26dの方向に押し出された肉により歯面19aが張り出すように形成されるので、プレス成形前のシャフト半製品12’のスプライン下径G(
図7参照)をスプライン大径Eより小さく設定しても、精度のよい歯面19aが成形可能であり、加工荷重も抑制できる。また、肉盛りが抑制されることで、槍形形状で必要であった肉盛りや嵌合基準面の後加工を省略することができる。
【0059】
次に、本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸を自動車の前輪用ドライブシャフトの中空シャフトに適用した例を
図13に示す。このドライブシャフト60では、アウトボード側には
図1と同様、固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手1が使用されている。固定式等速自在継手1は
図1および
図2と同じであるので、同じ機能を有する部位には同一の符号を付して説明を省略する。インボード側には、摺動式等速自在継手であるトリポード型等速自在継手61が使用されている。
【0060】
トリポード型等速自在継手61は、外側継手部材62、内側継手部材としてのトリポード部材63とローラ64を主な構成とし、トリポード部材63に形成した3本の脚軸65にローラ64が回転自在に嵌合され、ローラ64は外側継手部材62に形成されたトラック溝66に転動自在に収容されている。本実施形態に係る動力伝達軸としての中空シャフト72は、その両端に形成した雄スプライン19、79が、固定式等速自在継手1の内側継手部材3に形成した雌スプライン17と、摺動式等速自在継手61のトリポード部材63に形成した雌スプライン77にそれぞれ連結されている。
【0061】
中空シャフト72は、
図14に示すように、軸方向の全長にわたって中空の筒状部材で、軸方向の中間部に大径部80と、この大径部80よりも軸方向両端側に小径部81b、82bと、軸方向中間部側の小径部81a、82aと、これらの小径部81a、81bおよび82a、82bの間に最小軸径部83、84とを有している。大径部80と小径部81a、82aとの間、小径部81a、81b、82a、82bと最小軸径部83、84との間は、テーパ部85a、85b、85c、86a、86b、86cを介して連続している。小径部81b、82bの両端部には等速自在継手1、61の内側継手部材3、63に連結されるスプライン19、79と、内側継手部材1、61を軸方向に固定するための止め輪18、78を装着する止め輪溝87、88が形成されている。小径部81a、82aには、ブーツを固定するためのブーツ溝89、90が形成されている。
【0062】
中空シャフト72は次のような方法で加工される。例えば、中空シャフト72の軸方向中間部の大径部80は鋼管の形状になっており、小径部81a、81b、82a、82b、最小軸径部83、84およびテーパ部85a、85b、85c、86a、86b、86cは、鋼管をその軸心回りに回転させながら、高速度で直径方向に打撃して縮径させるスウェージング加工や鋼管をダイスに軸方向に押し込むことで縮径させるプレス加工により成形される。その後、小径部81b、82bの両端部にスプライン19、79が成形される。スプライン19、79の成形後に、止め輪溝87、88およびブーツ溝89、90が加工される。
図14に示すように中空シャフト72は薄肉であるので、スプラインを転造加工した場合、中空シャフト72が楕円変形し転造加工の適用が難しい。
【0063】
しかし、この中空シャフト72においても、本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸で前述したように、スプライン19の歯底19bの周方向幅cを拡径部23の軸方向領域まで略一定に形成し、拡径部23の軸方向領域に、スプライン19の歯底19bと歯面19aとを接続する面取り部25を設けて、歯溝幅dを縮小する構成とし、歯底19b、歯面19aおよび面取り部25がプレス成形された面で形成されており、動力伝達軸のスプライン19の拡径開始位置P1と歯溝幅縮小開始位置P2との軸方向寸法C、および歯溝幅縮小開始位置P2と拡径終了位置P3との軸方向寸法Dの関係をC>Dに設定されている。したがって、この中空シャフト72の雄スプライン19(79)においても、精度のよい歯面が成形可能であり、拡径部の軸方向領域の奥側での嵌合により強度が向上し、かつ加工荷重も抑制できる。また、肉盛りが抑制されることで、槍形形状で必要であった肉盛りや嵌合基準面の後加工を省略することができ、中空シャフトに好適である。
【0064】
この中空シャフト12のスプラインの構成、作用等やスプラインの加工方法は、動力伝達軸についての第1の実施形態およびスプライン加工方法についての実施形態と同様であるので、これらの実施形態で前述した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0065】
次に、本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸を固定式等速自在継手のステム部に適用した駆動車輪用軸受装置を
図15に示す。この場合も、固定式等速自在継手1は、ツェッパ型等速自在継手であり、この等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成としている。この固定式等速自在継手1は、6個のボール4を組み込んだものであるが、基本的な構成は
図1および
図2と同じであるので、同じ機能を有する部位には同一の符号を付して、固定式等速自在継手1については要点のみを説明をする。
【0066】
車輪用軸受装置141は、外方部材142、ハブ輪143、内輪144、転動体としてのボール145および保持器146を主な構成とし、所謂、第3世代と称される構成を備えている。以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図15の左側)、中央寄りとなる側をインナー側(
図15の右側)という。外方部材142は、内周に複列の外側軌道面147、147が一体に形成され、外周に車体のナックル(図示省略)に取り付けるための車体取付フランジ142aが一体に形成されている。内方部材151は、ハブ輪143と内輪144とから構成されている。ハブ輪143は、その外周に外方部材142の複列の外側軌道面147、147の一方(アウター側)に対向する内側軌道面149が直接形成され、アウター側の端部に車輪(図示省略)を取り付けるための車輪取付フランジ148が一体に形成されている。ハブ輪143の外周には内側軌道面149から軸方向にインナー側に延びる円筒状の小径段部150が形成され、この小径段部150に内輪144が所定の締め代で圧入されている。内輪144の外周には、外方部材142の複列の外側軌道面147、147の他方(インナー側)に対向する内側軌道面149が形成されている。外方部材142の外側軌道面147、147と内方部材151の内側軌道面149、149との間に複数のボール145、145が組み込まれ、ボール145は保持器146に周方向所定間隔で収容されている。外方部材142と内方部材151との間に形成される環状空間の開口部にはシール155、156が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0067】
ハブ輪143の小径段部150に圧入された内輪144は、小径段部150の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締め部157により、所定の軸受予圧が付与された状態でハブ輪143に対して軸方向に固定されている。
【0068】
ハブ輪143の内周面158には雌スプライン159が形成されている。この雌スプライン159に等速自在継手1のステム部20に形成された雄スプライン21が嵌合し、ナット91を雄ねじ22に螺合させて締付け固定されている。
【0069】
このステム部20に形成された雄スプライン21も、本発明の第1の実施形態に係る動力伝達軸と同様に、スプライン21の歯底の周方向幅を拡径部の軸方向領域まで略一定に形成し、拡径部の軸方向領域に、スプラインの歯底と歯面とを接続する面取り部を設けて、歯溝幅を縮小する構成とし、歯底、歯面および面取り部がプレス成形された面で形成されており、スプライン21の拡径開始位置と歯溝幅縮小開始位置との軸方向寸法を、歯溝幅縮小開始位置と拡径終了位置との軸方向寸法より大きく設定されている。したがって、このステム部20の雄スプライン21においても、精度のよい歯面が成形可能であり、かつ加工荷重も抑制できる。
【0070】
前述した駆動車輪用軸受装置に連結される等速自在継手は、固定式等速自在継手を例示したが、これに限られず、摺動式等速自在継手を適用することもできる。雄スプライン21のスプラインの構成、作用等やスプラインの加工方法については、動力伝達軸についての第1の実施形態およびスプライン加工方法についての実施形態と同様であるので、これらの実施形態で前述した内容を準用し、説明を省略する。
【0071】
本発明の第2の実施形態に係る動力伝達軸を
図16に基づいて説明する。本実施形態の動力伝達軸は、第1の実施形態の動力伝達軸と比べて、スプライン根元部の面取り部の形態および接続稜線が異なる。その他の構成は、第1の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位に同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0072】
本実施形態においても、雄スプライン19の歯底19bの周方向幅cは、拡径部23の軸方向領域まで略一定に形成されている。拡径部23の軸方向領域には、スプライン19の歯面19aと歯底19bとを接続する面取り部25が設けられ、面取り部25と歯面19aとの接続稜線aおよび面取り部25と歯底19bとの接続稜線bが形成されている。
【0073】
第1の実施形態と異なる点は、面取り部25が湾曲した凹面で形成されていることと、接続稜線a、bの隅部をR形状にしたことである。面取り部25を湾曲した凹面で形成したことにより、スプライン19の歯面19aや歯底19bとの接続部が滑らかになり、プレス成形時に余肉が一層スムーズに流動するので、加工荷重および肉盛りの抑制において有利になる。また、接続稜線a、bで示す隅部をR形状に形成することにより、スプラインの嵌合端部の応力集中を一層緩和することができる。
【0074】
第2の実施形態においても、スプラインのその他の構成、作用やスプラインの加工方法については、動力伝達軸についての第1の実施形態およびスプライン加工方法についての実施形態と同様であるので、これらについて前述した内容を全て準用し、説明を省略する。
【0075】
以上の各実施形態では、本発明の動力伝達軸が適用される固定式等速自在継手としてツェッパ型等速自在継手を例示したが、これに限られず、アンダーカットフリー型等速自在継手や、交差溝タイプの等速自在継手、カウンタートラック形式の等速自在継手などにも適用することができる。また、摺動式等速自在継手として、ダブルオフセット型等速自在継手とトリポード型等速自在継手を例示したが、これに限られず、クロスグルーブ型等速自在継手などにも適用することができる。固定式等速自在継手として、ボールの個数は6個と8個のものを示したが、これに限定されるものではなく、3〜5個、8個や10個以上でも実施することができる。
【0076】
また、以上の実施形態では、本発明の動力伝達軸として、自動車用のドライブシャフト、等速自在継手のステム軸を例示したが、これに限られず、プロペラシャフトや他の駆動軸にも適宜適用することができる。
【0077】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。