(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のタイヤは、加硫後のゴム物性が、70℃におけるtanδが0.12以下、0℃におけるtanδが0.40以上、及び、ガラス転移温度が−20℃以下であるゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するものである。
【0020】
このように、加硫後の状態で、70℃におけるtanδ、0℃におけるtanδ、及び、ガラス転移温度が所定の範囲を満たすゴム組成物をタイヤ部材に適用することで、低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能がバランス良く改善されたタイヤを提供することができる。
【0021】
本発明におけるゴム組成物は、加硫後のゴム組成物において、70℃におけるtanδが0.12以下である。該70℃におけるtanδは、粘弾性測定により70℃における加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定することにより得られる測定値であり、当該値が0.12以下であることにより、優れた低燃費性が得られる。上記70℃におけるtanδとしては、0.11以下が好ましい。なお、下限は特に限定されず、小さければ小さいほどよい。
【0022】
上記加硫後のゴム組成物は、0℃におけるtanδが0.40以上である。該0℃におけるtanδは、粘弾性測定により0℃における加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定することにより得られる測定値であり、当該値が0.40以上であることにより、優れたウェットグリップ性能が得られる。上記0℃におけるtanδとしては、0.45以上が好ましく、0.47以上がより好ましく、0.50以上が更に好ましい。なお、上限は特に限定されず、大きければ大きいほどよい。
【0023】
なお、上記粘弾性測定は、粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で行われたものである。
【0024】
上記加硫後のゴム組成物は、ガラス転移温度が−20℃以下である。該ガラス転移温度は、示差走査熱量測定により測定される値であり、当該値が−20℃以下であることにより、優れた氷上グリップ性能が得られる。上記ガラス転移温度としては、−25℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。下限は特に限定されず、小さければ小さいほどよい。
【0025】
なお、上記示差走査熱量測定は、JIS K7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)により行われたものである。
【0026】
加硫後のゴム組成物において、上記所定の範囲を満たす、70℃におけるtanδ、0℃におけるtanδ、及び、ガラス転移温度は、後述する所定のゴム成分、所定のシリカ、可塑剤を所定量配合することにより、付与することが可能であり、特に、ゴム成分の配合が重要である。
【0027】
また、上記70℃におけるtanδは、ゴム成分の種類や配合量を変更することで調整することができる。他の手段としては、シリカの物性(窒素吸着比表面積など)や配合量を変更することにより調整することも可能である。上記0℃におけるtanδは、シリカの物性(窒素吸着比表面積など)や配合量を変更することで調整することができる。他の手段としては、ゴム成分の種類や配合量を変更することにより調整することも可能である。また、上記ガラス転移温度は、シリカの物性(窒素吸着比表面積など)や配合量を変更することで調整することができる。他の手段としては、ゴム成分の種類や配合量を変更することにより調整することも可能である。
【0028】
なお、加硫後のゴム組成物の、70℃におけるtanδ、0℃におけるtanδ、及び、ガラス転移温度は、後述の実施例に記載する方法で測定できる。
【0029】
本発明におけるゴム組成物は、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、可塑剤とを含むことが好ましい。
【0030】
そして、上記ブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中20〜40質量%であり、上記スチレンブタジエンゴムの含有量が、ゴム成分100質量%中50〜80質量%であり、上記シリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して40〜100質量部であり、上記可塑剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して10〜30質量部であることが好ましい。これにより、より好適に上記加硫後のゴム物性を満たすゴム組成物が得られる。
【0031】
更に、上記ゴム組成物は、下記数式を満たすことが好ましい。これにより、より好適に上記加硫後のゴム物性を満たすゴム組成物が得られる。
【0033】
上記数式中、Aは、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Bは、ブタジエンゴムのシス含量(質量%)を表す。Cは、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Dは、スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量(質量%)を表す。Eは、スチレンブタジエンゴムのビニル含量(モル%)を表す。Fは、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)を表す。Gは、シリカの窒素吸着比表面積(m
2/g)を表す。Hは、ゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量(質量部)を表す。eはネイピア数を表し、logは自然対数を表す。
【0034】
本発明におけるゴム組成物をこのようなゴム組成物とすることにより、加硫後の状態で、70℃におけるtanδ、0℃におけるtanδ、及び、ガラス転移温度が上記所定の範囲を満たすゴム組成物を得ることができる。このようなゴム組成物をタイヤ部材に用いると、タイヤの低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能をバランス良く改善することができるが、低燃費性、ウェットグリップ性能、氷上グリップ性能は相互に両立するのが困難な性能であるにもかかわらず、低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能をバランス良く改善できる、というこの効果は、上記ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリカ、可塑剤をそれぞれ特定量で組み合わせ、更に上記数式を満たすように配合することで得られる相乗的な効果である。
【0035】
上記スチレンブタジエンゴムとしては、特に制限されず、スチレン、1,3−ブタジエン等の原料モノマーの配合を適宜設定して、乳化重合や、溶液重合、アニオン重合等公知の方法を用いることで調製することができ、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらスチレンブタジエンゴムは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、後述する下記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムと、下記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムとを併用する形態が、低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能を特にバランス良く改善できる点で好ましい形態の1つである。
【0036】
上記スチレンブタジエンゴムとしては、ゴムの主鎖及び/又は末端が変性剤により変性されたものであってもよいし、例えば四塩化スズ、四塩化ケイ素等の多官能型の変性剤により変性されて一部に分岐構造を有するものであってもよい。なかでも、主鎖及び/又は末端(より好ましくは、末端)が、シリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたものであることが好ましい。このような変性剤で変性され、シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを用いることで、特に低燃費性とウェットグリップ性能とのバランスを優れたものとすることができる。
【0037】
上記シリカと相互作用する官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、炭化水素基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、低燃費性、ウェットグリップ性能の向上効果が高いという理由から、1,2,3級アミノ基、エポキシ基、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシシリル基)、炭化水素基が好ましい。
【0038】
上記シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムとしては、下記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴム(S変性SBR)が好ましい。
【0040】
上記式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R
4及びR
5は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R
4及びR
5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。
【0041】
上記S変性SBRとしては、なかでも、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式(1)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴム(S変性S−SBR(特開2010−111753号公報に記載の変性SBR))が好適に用いられる。
【0042】
上記式(1)において、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、R
1、R
2及びR
3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)。R
4及びR
5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3である。また、R
4及びR
5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4〜8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。好ましい化合物を使用することにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0043】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、前述の性能を良好に改善できる点から、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムとしてはまた、下記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムも好ましい形態の1つである。
【0046】
上記式(2)中、R
11、R
12、R
13、R
16、R
17及びR
18は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R
14及びR
15は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R
14及びR
15は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。p、q、rは整数を表す。
【0047】
上記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムとしては、なかでも、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式(2)で表される化合物により変性されたスチレンブタジエンゴムが好適に用いられる。
【0048】
上記式(2)において、優れた低燃費性、破壊特性が得られるという点から、R
11、R
12及びR
13としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)。R
14及びR
15としてはアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が好適である。R
16、R
17及びR
18としてはアルキル基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)。pは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3である。qは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは2である。rは、好ましくは0〜5、より好ましくは0〜3、更に好ましくは0である。また、R
14及びR
15が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、6〜10員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。好ましい化合物を使用することにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0049】
上記式(2)で表される化合物の具体例としては、N−〔3−(トリメトキシシリル)−プロピル〕−N,N′−ジエチル−N′−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミンなどが挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物(変性剤)によるスチレンブタジエンゴムの変性方法としては、従来公知の手法を使用でき、例えば、スチレンブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性できる。具体的には、溶液重合によるスチレンブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、スチレンブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法などが挙げられる。
【0051】
上記スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量としては、低燃費性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。
なお、上記スチレンブタジエンゴムとして2種以上のスチレンブタジエンゴムを併用する場合には、各スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量を質量で重み付けした平均の結合スチレン量(平均結合スチレン量)が上記範囲内であることが好ましい。
【0052】
上記スチレンブタジエンゴムのビニル含量としては、低燃費性の観点から、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましい。また、60モル%以下が好ましく、58モル%以下がより好ましい。
なお、上記スチレンブタジエンゴムとして2種以上のスチレンブタジエンゴムを併用する場合には、各スチレンブタジエンゴムのビニル含量を質量で重み付けした平均のビニル含量(平均ビニル含量)が上記範囲内であることが好ましい。
【0053】
上記スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは20万以上、より好ましくは30万以上、更に好ましくは50万以上である。一方、Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは150万以下、より好ましくは130万以下、更に好ましくは100万以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0054】
上記スチレンブタジエンゴムの含有量(スチレンブタジエンゴムとして2種以上のスチレンブタジエンゴムを併用する場合には、それらの合計含有量)は、ゴム成分100質量%中50〜80質量%であることが好ましい。上記スチレンブタジエンゴムの含有量がこのような範囲であると、本発明の効果を充分に発揮できる。上記含有量として、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。また、該含有量は、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0055】
特に、上記スチレンブタジエンゴムとして、上記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムと、上記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムとを併用する場合の、上記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムの含有量としては、ゴム成分100質量%中、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。また、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましい。一方、上記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムの含有量としては、ゴム成分100質量%中、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。上記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムと、上記式(2)で表される化合物(変性剤)により変性されたスチレンブタジエンゴムとを併用する場合に、これらスチレンブタジエンゴムの含有量が上記範囲内であることにより、本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0056】
上記ブタジエンゴムとしては、特に制限されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、JSR(株)製のBR51、T700、BR730等の高シス含有量のブタジエンゴム(高シスBR)や、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらブタジエンゴムは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、低燃費性、耐摩耗性が良好であるという理由から、ブタジエンゴムのシス含量は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
なお、ブタジエンゴムのシス含量は赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0057】
上記ブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。なお、ビニル含量の下限は特に限定されず、0モル%でもよい。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0058】
また、上記ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万以上、より好ましくは40万以上である。一方、Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは100万以下、より好ましくは90万以下、更に好ましくは60万以下である。上記範囲内であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
また、上記ブタジエンゴムの分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、2.5〜5が好ましく、3〜4.5がより好ましい。
【0059】
なお、本明細書において、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムのビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)、並びに、スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量は、
1H−NMR測定により算出される。また、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、実施例で示す方法により、求めることができる。
【0060】
上記ブタジエンゴムは、ゴムの主鎖及び/又は末端が変性剤により変性されたものであってもよいし、例えば四塩化スズ、四塩化ケイ素等の多官能型の変性剤により変性されて一部に分岐構造を有するものであってもよい。中でも、上記ブタジエンゴムにおける主鎖及び/又は末端(より好ましくは、末端)が、シリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたものであってもよい。
【0061】
上記シリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたブタジエンゴムとしては、上述のシリカと相互作用する官能基を有する変性剤により変性されたスチレンブタジエンゴムの骨格成分であるスチレンブタジエンゴムをブタジエンゴムに置き換えたものを使用すればよい。なかでも、上記シリカと相互作用する官能基を有する変性ブタジエンゴムとしては、上記式(1)で表される化合物(変性剤)により変性されたブタジエンゴム(S変性BR)が好ましい。該S変性BRとしては、特開2010−111753号公報などに記載されているものが挙げられる。
【0062】
上記式(1)で表される化合物(変性剤)によるブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、ブタジエンゴムと該化合物とを接触させることで変性でき、具体的には、リチウム化合物などの重合開始剤を用いたアニオン重合によるブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に該化合物を所定量添加し、ブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と該化合物とを反応させる方法などが挙げられる。
【0063】
上記ブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中20〜40質量%であることが好ましい。上記ブタジエンゴムの含有量がこのような範囲であると、本発明の効果を充分に発揮できる。上記ブタジエンゴムの含有量としては、20〜35質量%がより好ましい。
【0064】
上記ゴム成分は、スチレンブタジエンゴム、及び、ブタジエンゴムに加えて、更に、その他のゴム成分を含んでいてもよい。
【0065】
上記その他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などが挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、タイヤの各部材において必要な性能を容易に確保できるという理由から、NR、ENRのようなジエン系ゴムが好ましい。これらのゴムは、ゴムの主鎖及び/又は末端が変性剤により変性されたものであってもよく、また一部が多官能型、例えば四塩化スズ,四塩化ケイ素のような変性剤を用いることにより分岐構造を有しているものであってもよい。
なお、ゴム種、各ゴム種の配合量は、適用部材などに応じて適宜選択すればよい。
【0066】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0067】
上記ゴム成分が上記その他のゴム成分を含有する場合、ゴム成分100質量%中のその他のゴム成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。該その他のゴム成分の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。
【0068】
本発明におけるゴム組成物はシリカを含有することが好ましい。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。上記シリカとしては、具体的には、エボニック・デグサ社製のウルトラシル360、ウルトラシルVN3、ウルトラシルVN3−G;東ソー・シリカ社製のVN3、AQ、ER、RS−150;ローディア社製のZ40、RP80(Zeosil 1085GR)、ローディア社製のZeosil 115GR、Zeosil 1115MP、Zeosil 1165MP、Zeosil 1205MP等を用いることができる。
これらシリカは1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
シリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、好ましくは40m
2/g以上、より好ましくは50m
2/g以上、更に好ましくは100m
2/g以上、特に好ましくは150m
2/g以上である。40m
2/g未満では、補強効果が小さく、耐摩耗性や破壊強度が低下する傾向がある。また、ウェットグリップ性能も低下する傾向がある。シリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、好ましくは400m
2/g以下、より好ましくは300m
2/g以下、更に好ましくは250m
2/g以下、特に好ましくは200m
2/g以下である。400m
2/gを超えると、シリカが分散しにくくなり、低燃費性や加工性が悪化する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D1993−03に準じてBET法で測定される値である。
【0070】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましい。より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは60質量部以上である。ウェットグリップ性能、氷上グリップ性能の観点から70質量部以上であることが特に好ましい。40質量部未満であると、シリカを配合した効果が充分に得られず、低燃費性、耐摩耗性、操縦安定性、ウェットグリップ性能が悪化するおそれがある。また、シリカの含有量は、100質量部以下であることが好ましい。より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。100質量部を超えると、加工性、低燃費性、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0071】
本発明では、シリカとして、1種類のシリカを単独で使用してもよいが、下記条件を満たすシリカ(A)及びシリカ(B)を併用してもよい。シリカ(A)とシリカ(B)とを併用することにより、加工性を更に向上させることができ、低燃費性も更に良好なものとなる。
【0072】
シリカ(A)の窒素吸着比表面積(N
2SA)は好ましくは155m
2/g以上、より好ましくは160m
2/g以上、更に好ましくは165m
2/g以上である。155m
2/g未満では、シリカ(B)とブレンドすることによる加工性、低燃費性の向上が充分とはならないおそれがある。また、シリカ(A)のN
2SAは好ましくは400m
2/g以下、より好ましくは360m
2/g以下、更に好ましくは300m
2/g以下、特に好ましくは250m
2/g以下、最も好ましくは200m
2/g以下である。400m
2/gを超えると、加工性が悪化するだけでなく、転がり抵抗も充分に低減させられない傾向がある。
【0073】
シリカ(A)としては特に限定されず、例えば、ローディア社製のZeosil 1205MP、エボニック・デグサ社製のウルトラシルVN3、ウルトラシルVN3−Gなどとして入手できる。
【0074】
シリカ(A)としては、1種のみを用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
シリカ(A)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上が好ましく、35質量部以上がより好ましい。ウェットグリップ性能、氷上グリップ性能の観点から50質量部以上が特に好ましい。30質量部未満では、充分なゴム強度が得られない傾向がある。また、シリカ(A)の含有量は70質量部以下が好ましく、65質量部以下がより好ましい。70質量部を超えると、ゴム強度は向上しても、加工性が悪化する傾向がある。
【0076】
シリカ(B)のN
2SAは好ましくは125m
2/g以下、より好ましくは120m
2/g以下である。125m
2/gを超えると、シリカ(A)とブレンドすることによる効果が小さい。また、シリカ(B)のN
2SAは好ましくは20m
2/g以上、より好ましくは30m
2/g以上、更に好ましくは50m
2/g以上である。20m
2/g未満では、得られるゴム組成物のゴムの硬度や強度が低下する傾向がある。
【0077】
シリカ(B)としては特に限定されず、たとえば、エボニック・デグサ社製のウルトラシル360、ローディア社製のZ40、RP80(Zeosil 1085GR)、ローディア社製のZeosil 115GR、Zeosil 1115MPなどとして入手できる。
【0078】
シリカ(B)としては、1種のみを用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
シリカ(B)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。5質量部未満では、転がり抵抗を充分に低減させられない傾向がある。また、シリカ(B)の含有量は30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。30質量部を超えると、転がり抵抗を低減させることはできても、加工性、ゴムの硬度や強度が低下する傾向がある。
【0080】
本発明におけるゴム組成物は可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては特に限定されないが、オイル、液状ポリマー(液状ジエン系重合体)、液状樹脂などが挙げられる。これら可塑剤は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、オイル、液状ポリマー、及び液状樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、加工性やウェットグリップ性能の観点からオイルが特に好ましい。
【0081】
なお、上記可塑剤は、環境の面から、多環式芳香族含有量(PCA)が3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。該多環式芳香族含有量(PCA)は、英国石油学会346/92法に従って測定される。
【0082】
上記オイルとしては、特に限定されず、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイル、TDAE、MES等の低PCA(多環式芳香族)プロセスオイル、植物油脂、及びこれらの混合物等、従来公知のオイルを使用できる。なかでも、耐摩耗性及び破壊特性の点では、アロマ系プロセスオイルが好ましい。上記アロマ系プロセスオイルとしては、具体的には、出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAHシリーズ等が挙げられる。
【0083】
上記液状ポリマー(液状ジエン系重合体)とは、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.0×10
3〜2.0×10
5であることが好ましく、3.0×10
3〜1.5×10
4であることがより好ましい。1.0×10
3未満では、グリップ性能の向上効果がなく、充分な耐久性が確保できないおそれがある。一方、2.0×10
5を超えると、重合溶液の粘度が高くなり過ぎ生産性が悪化したり、破壊特性が低下したりするおそれがある。
なお、本明細書において、液状ジエン系重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0084】
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。
【0085】
上記液状樹脂としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジン樹脂、またはこれらの水素添加物などが挙げられる。
【0086】
上記芳香族ビニル重合体とは、α−メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂であり、スチレンの単独重合体、α−メチルスチレンの単独重合体、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体などが挙げられる。
上記クマロンインデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれていてもよいモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
上記インデン樹脂とは、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
上記テルペン樹脂とは、αピネン、βピネン、カンフェル、ジペテンなどのテルペン化合物を重合して得られる樹脂や、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料として得られる樹脂であるテルペンフェノールに代表されるテルペン系樹脂である。
上記ロジン樹脂とは、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、またはこれらのエステル化合物、または、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂である。
【0087】
上記可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましい。より好ましくは15質量部以上である。また、30質量部以下であることが好ましい。より好ましくは25質量部以下である。上記可塑剤の含有量がこのような範囲であると、本発明の効果を充分に発揮できる。
【0088】
本発明におけるゴム組成物には、前記成分以外にも、カーボンブラックなどの補強剤;シランカップリング剤;伸展油;硫黄などの加硫剤;チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤などの加硫促進剤;ステアリン酸、酸化亜鉛などの加硫活性化剤;ジクミルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどの充填剤;加工助剤;老化防止剤;滑剤などの従来ゴム工業で使用される配合剤を用いることができる。
【0089】
本発明におけるゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。
上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、EPC、MPC、CCなどのチャンネルカーボンブラック;SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF、ECFなどのファーネスカーボンブラック;FT、MTなどのサーマルカーボンブラック;アセチレンカーボンブラックなどが例示される。
これらカーボンブラックは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、5〜200m
2/gが好ましく、下限は50m
2/gがより好ましく、80m
2/gが更に好ましく、85m
2/gが特に好ましい。一方、上限は150m
2/gがより好ましく、130m
2/gが更に好ましく、120m
2/gが特に好ましい。
また、上記カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、5〜300ml/100gが好ましく、下限は80ml/100gがより好ましく、100ml/100gが更に好ましく、110ml/100gが特に好ましい。一方、上限は180ml/100gがより好ましく、140ml/100gが更に好ましい。カーボンブラックのN
2SAやDBP吸収量が上記範囲の下限未満では、補強効果が小さく耐摩耗性、破壊特性が低下する傾向がある。また、上記範囲の上限を超えると、分散性が悪く、ヒステリシスロスが増大し低燃費性が低下する傾向があり、加工性が悪化するおそれがある。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820−93に準拠して測定され、DBP吸収量は、ASTM D2414−93に準拠して測定される。
【0091】
上記カーボンブラックの市販品としては、三菱化学社製のダイアブラックN339、ダイアブラックI、東海カーボン社製のシースト6、シースト7HM、シーストKH、エボニック・デグサ社製のCK3、Special Black 4A等を用いることができる。
【0092】
本発明におけるゴム組成物がカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。1質量部未満では、充分な補強性が得られないおそれがある。また、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、60質量部以下が更に好ましく、30質量部以下が更により好ましく、15質量部以下が特に好ましい。90質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0093】
本発明におけるゴム組成物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。
上記シランカップリング剤としては、従来からシリカと併用されているシランカップリング剤を用いることができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。商品名としてはSi69、Si75、Si3630(エボニック・デグサ社製)、NXT、NXT−LV、NXTULV、NXT−Z(モメンティブ社製)などが例示される。
これらシランカップリング剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0094】
本発明におけるゴム組成物がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましい。0.5質量部未満では、シリカを充分に分散させることが困難になり、低燃費性、破壊特性が悪化する傾向がある。他方、20質量部を超えて添加しても、シリカの分散を更に向上させる効果は得られず、コストが不必要に増大する傾向がある。また、スコーチタイムが短くなり、混練りや押し出しでの加工性が悪化する傾向がある。上記シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1.5質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上が更に好ましい。また、該含有量は、シリカ100質量部に対して、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下が更に好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0095】
本発明におけるゴム組成物は、酸化亜鉛を含有することが好ましい。
上記酸化亜鉛としては、特に制限されないが、例えば、東邦亜鉛(株)製の銀嶺R、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛などのゴム工業で従来から使用される酸化亜鉛や、例えば、ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2などの平均粒子径が200nm以下である微粒子酸化亜鉛などを用いることができる。
【0096】
本発明におけるゴム組成物が酸化亜鉛を含む場合、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上である。1.0質量部未満であると、加硫戻りにより、充分な硬度(Hs)が得られないおそれがある。また、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.7質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下である。3.7質量部を超えると、破断強度が低下する傾向がある。
【0097】
本発明におけるゴム組成物は、下記数式を満たすことが好ましい。
【0099】
上記数式中、Aは、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Bは、ブタジエンゴムのシス含量(質量%)を表す。Cは、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Dは、スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量(質量%)を表す。Eは、スチレンブタジエンゴムのビニル含量(モル%)を表す。Fは、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)を表す。Gは、シリカの窒素吸着比表面積(m
2/g)を表す。Hは、ゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量(質量部)を表す。eはネイピア数を表し、logは自然対数を表す。
【0100】
なお、本発明におけるゴム組成物がブタジエンゴムを2種類以上併用する場合には、上記数式中のAは2種類以上のブタジエンゴムの合計含有量(質量%)を表し、上記数式中のBは各ブタジエンゴムのシス含量を質量で重み付けした平均のシス含量(平均シス含量〔質量%〕)を表す。
本発明におけるゴム組成物がスチレンブタジエンゴムを2種類以上併用する場合には、上記数式中のCは2種類以上のスチレンブタジエンゴムの合計含有量(質量%)を表し、上記数式中のDは各スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量を質量で重み付けした平均の結合スチレン量(平均結合スチレン量〔質量%〕)を表し、上記数式中のEは各スチレンブタジエンゴムのビニル含量を質量で重み付けした平均のビニル含量(平均ビニル含量〔モル%〕)を表す。
本発明におけるゴム組成物がシリカを2種類以上併用する場合には、上記数式中のFは2種類以上のシリカの合計含有量(質量%)を表し、上記数式中のGは各シリカの窒素吸着比表面積を質量で重み付けした平均の窒素吸着比表面積(平均窒素吸着比表面積〔m
2/g〕)を表す。
また、本発明におけるゴム組成物が可塑剤を2種類以上併用する場合には、上記数式中のHは2種類以上の可塑剤の合計含有量(質量%)を表す。
【0101】
本発明におけるゴム組成物が上記数式を満たすためには、ゴム組成物に配合する、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリカの種類及び配合量、並びに、可塑剤の配合量を適宜設定すればよい。
【0102】
本発明におけるゴム組成物を製造する方法としては、一般的な方法を用いることができ、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オーブンロールなどで上記各成分を混練りし、その後、当該混練り物を加硫する方法等により製造できる。
【0103】
本発明におけるゴム組成物は、キャップトレッド、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、サイドウォール、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、ランフラット補強層、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等のタイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド、特にキャップトレッドとして好適に用いられる。このように、本発明におけるゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有するタイヤにおいて、該タイヤ部材が、トレッドであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0104】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法により製造される。すなわち、上記各種成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(例えば、トレッド)の形状に合わせて押出し加工し、他のタイヤ部材と共に、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、本発明のタイヤが得られる。このように、ゴム組成物を得る混練工程と、前記混練工程で得られた前記ゴム組成物を用いて生タイヤを成形する成形工程と、前記成形工程で得られた生タイヤを加硫する加硫工程とを含むタイヤの製造方法であって、前記ゴム組成物が、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、シリカと、可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中の前記ブタジエンゴムの含有量が20〜40質量%であり、ゴム成分100質量%中の前記スチレンブタジエンゴムの含有量が50〜80質量%であり、ゴム成分100質量部に対する前記シリカの含有量が40〜100質量部であり、ゴム成分100質量部に対する前記可塑剤の含有量が10〜30質量部であり、かつ、下記数式を満たすタイヤの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0106】
上記数式中、Aは、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Bは、ブタジエンゴムのシス含量(質量%)を表す。Cは、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Dは、スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量(質量%)を表す。Eは、スチレンブタジエンゴムのビニル含量(モル%)を表す。Fは、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)を表す。Gは、シリカの窒素吸着比表面積(m
2/g)を表す。Hは、ゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量(質量部)を表す。eはネイピア数を表し、logは自然対数を表す。
【0107】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤ、エアレス(ソリッド)タイヤいずれであってもよいが、空気入りタイヤであることが好ましい。また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に乗用車用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0108】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0109】
以下で製造するポリマーの物性については次のように測定した。
【0110】
〔重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)〕
下記の条件(1)〜(8)でゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を測定した。
(1)装置:東ソー(株)製のGPC−8000シリーズ
(2)分離カラム:東ソー(株)製のTSKgel SuperMultiporeHZ−M
(3)測定温度:40℃
(4)キャリア:テトラヒドロフラン
(5)流量:0.6mL/分
(6)注入量:5μL
(7)検出器:示差屈折計
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
【0111】
〔ビニル含量及び結合スチレン量〕
日本電子(株)製JNM−ECAシリーズのNMR装置を用いて測定した。
【0112】
<末端変性剤1の作製>
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン)(アヅマックス(株)製)を23.6g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を100mlにして作製した。
【0113】
<製造例1(SBR1の作製)>
充分に窒素置換した30L耐圧容器に、n−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を540g、ブタジエンを1460g、テトラメチルエチレンジアミンを17mmol加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウム(関東化学(株)製)を10.5ml加えた後、50℃に昇温し、3時間撹拌した。次に0.4mol/Lの四塩化ケイ素/ヘキサン溶液を3.5mL加え、30分撹拌を行った。次に上記末端変性剤1を30mL追加し、30分間撹拌を行った。反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.2gを溶かしたメタノール(関東化学(株)製)2mLを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBR(SBR1)を得た。得られたSBR1の結合スチレン量は28質量%であった。Mwは717000であり、ビニル含量は60モル%であった。
【0114】
<末端変性剤2の作製>
窒素雰囲気下、250mlメスフラスコにN−〔3−(トリメトキシシリル)−プロピル〕−N,N′−ジエチル−N′−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミンを120mmol入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を250mlにして作製した。
【0115】
<製造例2(SBR2の作製)>
充分に窒素置換した30L耐圧容器に、n−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を200g、ブタジエンを1800g、テトラメチルエチレンジアミンを1.1mmol加え、40℃に昇温した。次に、1.6Mブチルリチウム(関東化学(株)製)を1.8ml加えた後、50℃に昇温し、3時間撹拌した。次に上記末端変性剤2を4.1mL追加し、30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール(関東化学(株)製)15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.1gを添加後、TDAE2000gを添加し、10分間撹拌を行った。その後、スチームストリッピング処理によって重合体溶液から凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBR(SBR2)を得た。得られたSBR2の結合スチレン量は10質量%であった。Mnは11万、Mwは21万であり、ビニル含量は40モル%であった。
【0116】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
SBR1:製造例1で作製したSBR1
SBR2:製造例2で作製したSBR2
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(シス含量:97質量%、ML
1+4(100℃):40、Mw/Mn:3.3)
シリカ1:エボニック・デグサ社製のウルトラシルVN3(N
2SA:175m
2/g)
シリカ2:ローディア社製のZeosil 1115MP(N
2SA:115m
2/g)
シランカップリング剤:エボニック・デグサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(N
2SA:114m
2/g、平均一次粒子径:22nm)
可塑剤:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAH−24
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製の酸化亜鉛3種
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N′−ジフェニルグアニジン)
【0117】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で10分間プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した。
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0118】
(粘弾性測定)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%、並びに、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。
【0119】
(ガラス転移温度(Tg))
加硫ゴム組成物の試験片について、JIS K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で中間点ガラス転移温度を測定した。
【0120】
(転がり抵抗試験)
転がり抵抗試験機を用い、試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100とした時の指数(転がり抵抗指数)で表示した。指数は大きい方が低燃費性が良好である。
【0121】
(ウェットグリップ性能)
各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数(ウェットスキッド性能指数)で表し、数字が大きいほどウェットスキッド性能(ウェットグリップ性能)が良好である。指数は次の式で求めた。
(ウェットスキッド性能指数)=(比較例1の制動距離)÷(各配合の制動距離)×100
【0122】
(氷上グリップ性能)
上記試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着し、下記条件下で氷上を実車走行し、氷上グリップ性能を評価した。氷上グリップ性能評価としては、具体的には、上記車両を用いて氷上を走行し、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止させるまでに要した停止距離(氷上制動停止距離)を測定し、下記式により指数表示した(氷上グリップ性能指数)。指数が大きいほど、氷上での制動性能(氷上グリップ性能)が良好である。
(氷上グリップ性能指数)=(比較例1の制動停止距離)/(各配合の制動停止距離)×100
(氷上)
試験場所:北海道旭川テストコ−ス
気温 :−1〜−6℃
【0123】
【表1】
【0124】
表1中、指数とは、下記数式により求められる値を表している。
【0125】
【数6】
【0126】
上記数式中、Aは、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Bは、ブタジエンゴムのシス含量(質量%)を表す。Cは、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量(質量%)を表す。Dは、スチレンブタジエンゴムの結合スチレン量(質量%)を表す。Eは、スチレンブタジエンゴムのビニル含量(モル%)を表す。Fは、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量(質量部)を表す。Gは、シリカの窒素吸着比表面積(m
2/g)を表す。Hは、ゴム成分100質量部に対する可塑剤の含有量(質量部)を表す。eはネイピア数を表し、logは自然対数を表す。
【0127】
表1の結果から、加硫後の状態で、70℃におけるtanδ、0℃におけるtanδ、及び、ガラス転移温度が所定の範囲を満たすゴム組成物を用いた実施例では、低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能がバランス良く改善されることが明らかとなった。
更に、実施例、比較例における、上記数式により求められる指数と総合性能との関係をプロットした図を
図1に示す。
図1から、上記数式により求められる指数が上記数式を満たすことにより、低燃費性、ウェットグリップ性能及び氷上グリップ性能の性能バランスを特に顕著に改善できることが分かる。