【実施例】
【0062】
以下に、本発明の代表的な実施例と比較例とを挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
0.1mol/Lの硫酸ニッケル水溶液、0.1mol/Lの硫酸マンガン水溶液を準備した。前記硫酸ニッケル水溶液及び前記硫酸マンガン水溶液をニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=0.35:0.65となるように混合して、混合溶液を得た。1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を準備した。密閉型反応槽に水を8L入れ、窒素ガスを流通させながら40℃に保持した。前記混合溶液と前記炭酸ナトリウム水溶液とを、撹拌しながら、前記反応槽に、5mL/mimの速度で連続的に滴下した。同時に、pH=8.00(±0.01)となるように、前記炭酸ナトリウム水溶液を滴下した。反応中は濃縮装置により濾液のみを系外に排出し、固形分は反応槽に滞留させながら、500rpmで20時間攪拌した。反応後、共沈生成物のスラリーを採取した。採取したスラリーを濾過、水洗した。水洗後、120℃で一晩乾燥させ、共沈前駆体の粉末を得た。
【0064】
得られた共沈前駆体は、ICP発光分光分析で測定したところ(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0065】
前記方法に従い、得られた正極活物質を正極とし、リチウム箔を負極としたコインセルを組んだ。このコインセルを用いて前記条件(1)で充放電を行い、5サイクル目の放電での電圧Vと電池容量Qとに基づき、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いた。このグラフを
図1に示す。
【0066】
図1のグラフより、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。これらの値を以下に示す。
|a|=171mAhg
−1V
−1
|b|=257mAhg
−1V
−1
|c|=64mAhg
−1V
−1
r=0.13
【0067】
また、前記条件(1)における1サイクル目の放電のエネルギー密度及び前記条件(2)に基づいて求められるエネルギー密度維持率は、各々以下のとおりであった。
エネルギー密度:944Wh/kg
エネルギー密度維持率:96.3%
【0068】
また、前記条件(2)に基づいて充放電を行った際の、各サイクル回数での放電電圧を測定し、サイクル回数と平均放電電圧との関係をグラフに表した。このグラフを
図2に示す。
【0069】
<実施例2>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.35:0.05:0.60となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0070】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Co
0.05Mn
0.60)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.25となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で850℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0071】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0072】
<実施例3>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.310:0.055:0.635となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0073】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.310Co
0.055Mn
0.635)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.375となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0074】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0075】
<実施例4>
実施例1と同様にして、共沈前駆体の粉末を得た。得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、リチウム複合酸化物粒子粉末を得た。
【0076】
その後、得られたリチウム複合酸化物粒子粉末100gを、30℃に保持した50mLの純水に攪拌しながら投入し、中間焼成物のスラリーとした。次に、硫酸アルミニウム濃度が1.0mol/Lとなるように調整した該硫酸アルミニウム水溶液6mLを、該中間焼成物のスラリーに滴下し、濾過、水洗後、120℃で乾燥した。これを、電気炉を用いて、空気流通下で400℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。正極活物質に対する硫酸アルミニウムの表面処理量は、0.31wt%であった。
【0077】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0078】
<実施例5>
実施例1において、pH=8.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0079】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0080】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0081】
<実施例6>
実施例2において、pH=7.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例2と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0082】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Co
0.05Mn
0.60)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.25となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で850℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0083】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0084】
<実施例7>
実施例3において、pH=9.00(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例3と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0085】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.310Co
0.055Mn
0.635)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.375となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0086】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0087】
<実施例8>
実施例1において、pH=9.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、リチウム複合酸化物粒子粉末を得た。
【0088】
その後、得られたリチウム複合酸化物粒子粉末と硫酸アルミニウム水溶液とを用い、実施例4と同様にして正極活物質を得た。正極活物質に対する硫酸アルミニウムの表面処理量は、0.31wt%であった。
【0089】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0090】
<比較例1>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.35:0.10:0.55となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0091】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Co
0.10Mn
0.55)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0092】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0093】
<比較例2>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.42:0.05:0.53となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0094】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.42Co
0.05Mn
0.53)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で910℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0095】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0096】
<比較例3>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.20:0.13:0.67となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0097】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.20Co
0.13Mn
0.67)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.40となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0098】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0099】
また、前記条件(2)に基づいて充放電を行った際の、各サイクル回数での放電電圧を測定し、サイクル回数と平均放電電圧との関係をグラフに表した。このグラフを
図2に示す。
【0100】
<比較例4>
実施例1において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=0.25:0.10:0.65となるように、硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液の混合溶液を加えたほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0101】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.25Co
0.10Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.35となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で830℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0102】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0103】
<比較例5>
比較例1において、pH=7.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、比較例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0104】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Co
0.10Mn
0.55)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0105】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0106】
<比較例6>
比較例2において、pH=9.00(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、比較例2と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0107】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.42Co
0.05Mn
0.53)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.20となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で910℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0108】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0109】
<比較例7>
比較例3において、pH=9.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、比較例3と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0110】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.20Co
0.13Mn
0.67)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.40となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0111】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0112】
<比較例8>
比較例4において、pH=8.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、比較例4と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0113】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.25Co
0.10Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.35となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で830℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0114】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0115】
<比較例9>
実施例1と同様にして、共沈前駆体の粉末を得た。得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で830℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0116】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0117】
<比較例10>
実施例2と同様にして、共沈前駆体の粉末を得た。得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Co
0.05Mn
0.60)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.25となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で1100℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0118】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0119】
<比較例11>
実施例3において、pH=6.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例3と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。
【0120】
得られた共沈前駆体は、(Ni
0.310Co
0.055Mn
0.635)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Co+Mn)=1.375となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で880℃にて5時間焼成し、正極活物質を得た。
【0121】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0122】
<比較例12>
実施例1において、pH=13.50(±0.01)となるように、炭酸ナトリウム水溶液を反応槽に滴下したほかは、実施例1と同様にして共沈前駆体の粉末を得た。得られた共沈前駆体は、(Ni
0.35Mn
0.65)CO
3(炭酸塩前駆体化合物)であった。リチウムと該共沈前駆体との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.30となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、リチウム複合酸化物粒子粉末を得た。
【0123】
その後、得られたリチウム複合酸化物粒子粉末と硫酸アルミニウム水溶液とを用い、実施例4と同様にして正極活物質を得た。正極活物質に対する硫酸アルミニウムの表面処理量は、0.31wt%であった。
【0124】
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にしてコインセルを組み、横軸に電圧Vをとり、縦軸にdQ/dV値をとったグラフを描いて、|a|、|b|及び|c|を求め、ピーク強度比rを算出した。また、実施例1と同様にして、エネルギー密度及びエネルギー密度維持率を求めた。これらの値を後の表2に示す。
【0125】
以下の表1に、正極活物質の組成(前記組成式(I)中のα、x、y、z、及びNiの平均価数。x+y+z=1、Liの平均価数=+1価、Coの平均価数=+3価、Mnの平均価数=+4価、Oの平均価数=−2価と仮定)、Li/(Ni+Co+Mn)(Coは任意)、炭酸塩前駆体化合物の合成時のpH、焼成温度、並びにアルミニウム化合物による表面処理量を纏めて示す。また表2に、|a|、|b|、|c|、r、エネルギー密度、及びエネルギー密度維持率を纏めて示す。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
実施例1〜4で得られた正極活物質は、いずれもエネルギー密度が880Wh/kg〜1100Wh/kgであり、エネルギー密度維持率が93%以上であった。また、実施例1〜4のpH条件を変更した実施例5〜8で得られた正極活物質も、いずれもエネルギー密度が880Wh/kg〜1100Wh/kgであり、エネルギー密度維持率が93%以上であった。このことにより、本発明に係る正極活物質は、ピーク強度比rの値が本発明の範囲に入ることによって、すなわち、0<r≦0.25を満たすことによって、エネルギー密度が高いにも関わらず、エネルギー密度維持率も高い値を示すことが分かった。しかも、本発明に係る正極活物質は、レアメタルで高価なCoの含有率が低く、コストの面からも有利な優れた正極材料である。
【0129】
一方、比較例1、2、5、及び6ではLi/(Ni+Co+Mn)の値が小さく、得られた正極活物質はいずれも、ピーク3を有さず、ピーク強度比r=0である。このような正極活物質は、エネルギー密度が880Wh/kg未満と低く、エネルギー密度維持率も高くない。比較例3及び7ではLi/(Ni+Co+Mn)の値が大きく、比較例4及び8では焼成温度が低く、得られた正極活物質はいずれも、ピーク3のピークトップのdQ/dV値|c|が大きく、ピーク強度比rが0.25を超える。このような正極活物質は、エネルギー密度は高いものの、エネルギー密度維持率が非常に低い。
【0130】
比較例9では焼成温度が低く、得られた正極活物質は、ピーク3のピークトップのdQ/dV値|c|が大きく、ピーク強度比rが0.25を超える。このような正極活物質は、エネルギー密度は高いものの、エネルギー密度維持率が非常に低い。逆に比較例10では焼成温度が高く、得られた正極活物質は、ピーク3を有さず、ピーク強度比r=0である。このような正極活物質は、エネルギー密度が880Wh/kg未満と低く、エネルギー密度維持率も高くない。
【0131】
比較例11では炭酸塩前駆体化合物の合成時のpHが低く、得られた正極活物質は、ピーク3を有さず、ピーク強度比r=0である。このような正極活物質は、エネルギー密度が880Wh/kg未満と低い。比較例12では炭酸塩前駆体化合物の合成時のpHが高く、得られた正極活物質は、ピーク3を有さず、ピーク強度比r=0である。このような正極活物質も、エネルギー密度が880Wh/kg未満と低い。
【0132】
このように、高電池容量の材料を得ようとしたり、ピーク強度比rが小さくなるように電圧降下が小さい材料を得ようとしても、高エネルギー密度と高エネルギー密度維持率と
の両立が可能な材料を得ることはできない。
【0133】
また、
図2に示されるように、実施例1で得られた正極活物質は、充放電を繰り返しても放電電圧の降下が小さい。一方、比較例3で得られた正極活物質は、充放電を繰り返すにつれて放電電圧が大きく降下している。
【0134】
本発明で重要なことは、前記のように高エネルギー密度と高エネルギー密度維持率とを両立でき、その条件を満たすためのパラメータを発見し、実際に合成するに至ったことにある。
【0135】
以上の結果から、本発明に係る正極活物質は、充放電を繰り返した時の電圧降下が小さく、エネルギー密度が大きく、かつ、エネルギー密度維持率も高く、非水電解質二次電池用の正極活物質として有効であることが確認された。