特許第6329350号(P6329350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6329350-剥離部材 図000002
  • 特許6329350-剥離部材 図000003
  • 特許6329350-剥離部材 図000004
  • 特許6329350-剥離部材 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6329350
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】剥離部材
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20180514BHJP
【FI】
   G03G15/20 530
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-179510(P2013-179510)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-49288(P2015-49288A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和夫
【審査官】 平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−145958(JP,U)
【文献】 特開平09−281810(JP,A)
【文献】 特開2002−091222(JP,A)
【文献】 特開2003−343522(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0246323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/14− 15/16
G03G 15/00− 15/02
G03G 21/16
B65H 29/54− 29/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置のローラから用紙を剥離する剥離部材であって、
前記ローラに先端部を接触または近接させる剥離シートと、該剥離シートを支持する支持部材とを有し、
前記剥離シートの前記先端部は、前記剥離シートの一長辺側の端部であり、
前記剥離シートおよび前記支持部材の少なくとも一方に、他方との係合部を有し、該係合部はそれぞれの長手方向に沿って前記長手方向の幅の1/30から1/10の間隔で離間して複数個設けられ、
前記剥離シートは、通紙方向上流側の先端部またはその近傍に、前記係合部である引掛け爪が反通紙面側に突出して設けられており、
前記引掛け爪は、前記剥離シートのシート面の一部に、前記先端部の側の辺を残して切り込みを入れ、該切込みで形成された片を前記辺で反通紙面側に略垂直に折り曲げ、さらに該片の一部を該剥離シートと水平に通紙方向下流側に略垂直に折り曲げたカギ状であり、
前記引掛け爪を前記支持部材の板状部分の通紙方向上流側の最端部に嵌め込み嵌合させることで、前記剥離シートの前記先端部が前記支持部材に固定され
前記剥離シートは通紙面から凹んだ形状の段部Aを有し、前記支持部材は前記段部Aと嵌合する段部Bを有し、前記段部Aと前記段部Bとが締結部材により締結され、
前記支持部材の前記板状部分の通紙方向下流側の端部に、該板状部分を反通紙面側に略垂直に折り曲げた折り曲げ部を有し、前記剥離シートの通紙方向下流側の端部に、該シートを反通紙面側に折り曲げた折り曲げ部を有し、これらの折り曲げ部を重ね合せていることを特徴とする剥離部材。
【請求項2】
前記剥離シートは、その反通紙面と前記引掛け爪とで前記支持部材の前記板状部分を挟み込み、前記板状部分と重ねられた状態で固定されていることを特徴とする請求項1記載の剥離部材。
【請求項3】
前記段部Aは前記締結部材が前記通紙面から突出しない高さに凹んだ形状であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の剥離部材。
【請求項4】
前記剥離シートは、前記先端部の少なくとも通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなり、
前記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項記載の剥離部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置に設置される各種ローラから用紙を剥離する剥離部材に関し、特に定着ローラなどの定着部材用の剥離部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置には、感光ドラム上に形成された静電潜像をトナーなどの現像剤を用いて用紙上に現像し、その後定着させるために各種のローラが設けられている。現像部には感光ドラムや、乾式電子写真装置を除いて、オイル塗布ローラなどがあり、定着部には定着ローラや加圧ローラなどを有している。従来、感光ドラム、定着ローラ、加圧ローラなどには、用紙がローラに巻き付き円滑な動作の妨げになるのを防ぐために分離爪が設けられている。この分離爪は、その先端をローラの外周面に摺接させながら用紙の端をすくい上げることにより、ローラに用紙が巻き付くことを防いでいる。この分離爪のローラとの接触部の幅は約1〜10mmであり、1本のローラに対して4〜16個配置されている。分離爪はローラに対し局部的に接触しているため、どうしてもローラを部分的に摩耗させてしまい良好な画像が得られなくなる。また、用紙に対しても局部的に接触するため、用紙に転写された現像剤を掻き取りやすく、さらに掻き取った現像剤が分離爪にも付着することによって用紙が汚れやすくなる場合があった。
【0003】
このような問題に対して、電子写真装置のローラに線接触できる剥離部材として、ローラから用紙を剥離する、金属薄板からなる剥離シートを、レーザースポット溶接により金属製の支持部材に接合してなる剥離部材が提案されている(特許文献1参照)。この剥離部材は、剥離シートによるローラとの線接触が可能であり、該ローラの局部的な摩耗などを防止できる。
【0004】
また、定着ローラなどの表面に傷を付けることを防止し、二次転写不良などを防ぐ剥離装置として、定着ローラに近接させる先端部を所定の曲率半径を有する構造とした剥離ガイド部材と、これを支持するサポート部材とを備えた剥離装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−91222号公報
【特許文献2】特開2003−122171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の剥離ガイド部材は、合成樹脂の射出成形体であり、その先端部は、表面側および裏面側に補強用の複数のリブが設けられ、定着ローラに向けて肉厚が薄くなるようにテーパ状に形成されている。剥離ガイド部材の先端部にリブを設けて補強した構造とすることで、該先端部の変形を防止し直線性を担保して、定着ローラ表面に対して精度よく近接させている。また、垂直方向および水平方向の複数の位置決め部を一体に有し、これらの部分でサポート部材と位置決めして固定されている。しかしながら、この剥離ガイド部材では、上述の先端部や位置決め部が複雑構造となり、剥離装置の小型(コンパクト)化が困難であり、設計レイアウトの自由度に大きな制約が生じる。また、さらなる電子写真装置の小型化への対応が困難である。
【0007】
一方、特許文献1の剥離部材は、薄板である剥離シートを金属製ベースプレートである支持部材により支持して該剥離シート先端部の精度を担保する構造であるため、簡易な形状であり、薄型化や小型化が可能である。また、支持部材と剥離シートとがレーザースポット溶接により接合されているので、剥離シートと支持部材とを接着剤により接合する場合と比較して、接合力が熱的に安定する。このため、薄板である剥離シートを用いながら、この剥離シートの波打ち現象の発生を抑制できる。なお、波打ち現象とは、剥離シートと支持部材とが、部分的に剥がれて剥離シートに波打ちを生じ、用紙がスムーズに剥離できない状態となる現象をいう。
【0008】
しかしながら、支持部材にレーザースポット溶接で剥離シートを溶接するには、レーザー照射装置や専用治具などの設備が必要になり、製造コストが高くなる。また、剥離シートと支持部材の材質によっては、十分な接合強度を確保した溶接が困難であり、波打ち現象を抑制できないおそれがある。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、剥離シートとその支持部材からなる構成の剥離部材において、剥離シートと支持部材とを均一に安価に固定でき、かつ、剥離シートの波打ち現象を抑制でき、優れた用紙剥離性能を発揮できる剥離部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の剥離部材は、電子写真装置のローラから用紙を剥離する剥離部材であって、上記ローラに先端部を接触または近接させる剥離シートと、該剥離シートを支持する支持部材とを有し、上記剥離シートの先端部は上記剥離シートの一長辺側の端部であり、上記剥離シートおよび上記支持部材の少なくとも一方に、他方との係合部を有し、該係合部はそれぞれの長手方向に沿って離間して複数個設けられ、上記剥離シートの上記先端部が、上記係合部による形状的な係合により上記支持部材に固定されていることを特徴とする。
【0011】
ここで「近接する」とは、用紙がローラに巻き付くことを防止できる程度に、剥離シートの一辺がローラに接近配置されていることをいう。なお、電子写真装置のローラとは、例えば、感光ドラム、定着ローラ(ベルトロールを含む)、加圧ローラなどである。
【0012】
上記係合部は、上記長手方向の幅の1/10以下の間隔で離間して配置されていることを特徴とする。
【0013】
上記係合部は、上記剥離シートの反通紙面側に突出して設けられた引掛け爪であり、上記剥離シートの上記先端部は、上記引掛け爪を上記支持部材の一部に引掛けることで上記支持部材に固定されていることを特徴とする。また、上記支持部材は板状部分を有し、上記剥離シートは、その反通紙面と上記引掛け爪とで上記板状部分を挟み込み、上記板状部分と重ねられた状態で固定されていることを特徴とする。
【0014】
上記剥離シートは通紙面から凹んだ形状の段部Aを有し、上記支持部材は上記段部Aと嵌合する段部Bを有し、上記段部Aと上記段部Bとが締結部材により締結され、上記段部Aは上記締結部材が上記通紙面から突出しない高さに凹んだ形状であることを特徴とする。
【0015】
上記剥離シートは、上記先端部の少なくとも通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなり、上記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の剥離部材は、電子写真装置のローラに先端部(一長辺側の端部)を接触または近接させる剥離シートと、この剥離シートを支持する支持部材とを有し、該剥離シートおよび支持部材の少なくとも一方に、他方との係合部を有し、該係合部はそれぞれの長手方向に沿って離間して複数個設けられ、剥離シートの先端部が上記係合部による形状的な係合により支持部材に固定されているので、レーザー溶接のような専用治具やレーザー発生装置が不要であり、安価に剥離部材を製造できる。また、レーザー溶接品と同様に熱的に安定するとともに、接着剤を用いる場合に部分的に剥がれる等の部位による結合力のばらつきがなくなり、長期間維持にわたり剥離シートの先端部を支持部材に均一に安定して固定できる。このため、剥離シートの波打ち現象を抑制して用紙をスムーズに剥離できるなど、優れた用紙剥離性能を発揮できる
【0017】
また、上記係合部は、各部材の長手方向の幅の1/10以下の間隔で離間して配置されているので、より安定して剥離シートの先端部を支持部材に固定できる。
【0018】
また、上記係合部は、剥離シートの反通紙面側に突出して設けられた引掛け爪であり、剥離シートの先端部が、引掛け爪を支持部材の一部に引掛けることで支持部材に固定されているので、剥離シートの通紙面は突起の無いフラットな面を維持することができ、用紙剥離性能の低下を防止できる。この構成において、さらに、支持部材が板状部分を有し、剥離シートがその反通紙面と引掛け爪とで該板状部分を挟み込み、板状部分と重ねられた状態で固定されているので、支持部材の板状部分と剥離シートとが平面部同士を重ねた状態で密接して固定され、剥離シートの先端部の水平精度を高く維持できる。
【0019】
また、上記剥離シートは、その先端部の少なくとも通紙面にシリコーン系粘着剤を介して非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなるので、剥離シートに強固に接着でき、定着温度においても接着効果が維持でき、高温耐久性に優れる。また、粘着剤によるクッション効果も期待できる。さらに、この非粘着性樹脂フィルムは、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであるので、トナーの付着防止効果が非常に高く、用紙との低摩擦特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】剥離部材を用いた定着装置の概要図である。
図2】本発明の剥離部材の一例を示す斜視図である。
図3図2の剥離部材の一部拡大図および組立斜視図である。
図4図2の剥離部材のボルト部位の断面図(端面図)および引掛け爪部位の断面図(端面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の剥離部材を用いた定着装置を図1に基づいて説明する。図1は剥離部材を用いたヒートローラ方式の定着装置の概要図である。定着装置は、ヒータ6aが内蔵され、矢印A方向に回転する定着ローラ6と、この定着ローラ6に接触して矢印B方向に回転する加圧ローラ7と、定着ローラ6および加圧ローラ7が接触して形成されるニップ部8の付近に配置される剥離部材1とから構成される。用紙9上に形成されたトナー像がニップ部8で定着されて定着された画像となる。ニップ部8を通過した用紙9を定着ローラ6から剥離できるように、剥離部材1を構成する剥離シート2の先端部2eが、定着ローラ6に接触または近接する位置に配置されている。
【0022】
本発明の剥離部材の一例を図2に基づいて説明する。図2は剥離部材の斜視図である。図2に示すように、剥離部材1は、平面形状が略長方形である剥離シート2と、剥離シート2をその長手方向にわたって支持固定する支持部材3とを備えてなる。図中の黒矢印が通紙方向であり、剥離シート2および支持部材3の長手方向と通紙方向とは直交している。剥離シート2において、支持部材3に支持固定される面が反通紙面、その反対面が通紙面となる。剥離部材1は、非粘着性樹脂フィルム4が貼付された剥離シート2の先端部2eを、定着ローラなどの各種ローラに接触または近接する位置に配置して、ローラから剥がれた用紙の端部を拾い取る(図1参照)。剥離シート2の先端部2eは、通紙方向上流側であり、該剥離シートの一長辺側の端部である。本発明の剥離部材は、剥離シート2の先端部2eが、接着剤や溶接を用いずに、長手方向に沿って離間して複数個設けられた係合部(引掛け爪2a)による形状的な係合により支持部材3に固定されていることを特徴としている。
【0023】
剥離シートおよび支持部材を図3に基づいて説明する。図3は、図2の一部を拡大した斜視図およびその組立斜視図である。図3に示すように、支持部材3は、板状部分3aと、その平板面から凹んだ形状の段部3b(段部B)とを有する。段部3bは、剥離シート2をボルトなどの締結部材で固定するための穴3cを有する。また、板状部分3aの通紙方向下流側の端部に、該板状部分3aを反通紙面側に略垂直に折り曲げた折り曲げ部3dを有する。折り曲げ部3dにより、用紙剥離時に必要となる剛性を確保できる。図3の支持部材3は、剥離シート2よりも厚い一枚の金属厚板を用い、これを折り曲げて折り曲げ部3dを形成し、プレス加工により段部3bを形成している。
【0024】
剥離シート2は、薄板からなる長尺平板である。図3に示すように、剥離シート2は、通紙方向上流側の先端部2eまたはその近傍に、支持部材との係合部である引掛け爪2aを有する。引掛け爪2aは、反通紙面側に突出して設けられている。また、剥離シート2は、通紙方向下流側に、その平板面から凹んだ形状の段部2b(段部A)を有する。段部2bは、支持部材3の段部3bに対応する位置(嵌合可能な位置)に設けられている。段部2bは、支持部材3とボルトなどの締結部材で固定するための穴2cを有し、該段部2bは締結部材の締結時の上端位置が通紙面から突出しない高さに凹んだ形状である。また、剥離シート2の通紙方向下流側の端部に、該シートを反通紙面側に折り曲げた折り曲げ部2dを有する。折り曲げ部2dにより、非粘着性樹脂フィルム4の貼付時に必要となる剛性を確保できる。図3の剥離シート2は、支持部材3よりも薄い一枚の金属薄板を用い、これを折り曲げて折り曲げ部2dを形成し、プレス加工により引掛け爪2aおよび段部2bを形成している。
【0025】
引掛け爪2aは、シート面の一部に、先端部2e側の辺を残して略四角状に切り込みを入れ、該片を反通紙面側に略垂直に折り曲げ、さらにこれをシートと水平に通紙方向下流側に略垂直に折り曲げたカギ状としている。この引掛け爪2aを、支持部材3の板状部分3aの端部3eに嵌め込み嵌合させることで、剥離シート2の先端部2eが支持部材3に固定される。
【0026】
係合部である引掛け爪の形状は、支持部材の一部と係合可能(引掛け可能)な形状であれば特に限定されず、図3に示すものと近い構造で平面略三角状のカギ状や、支持部材側も含めた任意の相補的な嵌合形状とできる。 また、すべての係合部が同じ形状である必要はなくサイズや形状を適宜変化させてもよい。さらに、本発明における係合部は、剥離シートと支持部材の少なくともいずれか一方に設ければよく、図3等に示すものに限定されずに、支持部材側に引掛け爪を設ける構成としてもよい。係合部は、少なくとも剥離シートの通紙面側に突出しない構造とすることで、用紙剥離性能の低下を防止できる。
【0027】
係合部である引掛け爪2aは、長手方向に沿って離間して複数個設けられている。また、図2および図3では、各引掛け爪2aは、先端部2eの末端2fからの距離が一定に、すなわち末端2fに対して平行に設けられている。引掛け爪2aの個数は、機械的強度を考慮して可能な範囲で、多い方が好ましい。また、引掛け爪2a同士の間隔は、機械的強度を考慮して可能な範囲で、狭い方が好ましい。係合部である引掛け爪2aを、長手方向に沿って、かつ、末端2fに対して平行に複数個設け、さらに、引掛け爪2a同士の間隔を狭くして、その個数を多くすることで、剥離シート2の先端部2eが支持部材3により安定して固定される。なお、先端部2eの剛性を維持するため、引掛け爪2aの長手方向幅は、下記の長手方向で隣り合う引掛け爪同士の間隔よりも小さいことが好ましい。
【0028】
長手方向で隣り合う引掛け爪2a同士の間隔としては、各引掛け爪2aをすべて同じ形状とし、剥離シートの長手方向の幅の1/10以下の間隔とすることが好ましい。例えば、剥離シートの長手方向幅が300mmである場合には、間隔を30mm以下とする。また、各間隔は、等間隔とすることが好ましい。上記間隔の下限については、金属薄板を材質とする場合のプレス精度や機械的強度を考慮すれば、剥離シートの長手方向の幅の1/30以上とすることが好ましい。なお、ここでの間隔とは、引掛け爪の中心位置(剥離シートの長手方向での中心位置)の長手方向間の距離をいう。
【0029】
剥離シート2は、ローラの軸方向長さと略同じ長さの接触幅Lを有している(図2参照)。接触幅が大きいことによってローラに対する単位面積当たりの接触圧力が小さくなりローラ表面の局部的な摩耗が防止できる。なお、ローラの軸方向長さと略同じ長さとは、上記効果が得られる程度の長さをいい、具体的には少なくともローラの軸方向長さの半分程度以上であって、ローラの軸方向長さと同じか僅かに長ければよい。
【0030】
また、剥離シート2の先端部2eの末端2fの厚さ方向を、エッジのない曲面とすることが好ましい。この端部の厚さ方向を曲面とすることで、定着ローラなどに対して定圧以上の圧接状態になった場合でも定着部材の表面を傷付けることがない。上記曲面は金属薄板からなる剥離シートを所定形状に加工した後で機械加工してもよいが、カッティングと同時に加圧成形することができるプレスカットにより加工することが望ましい。
【0031】
剥離シートは、その先端部の少なくとも通紙面に、用紙剥離性能が向上するように、潤滑性被膜を塗布するか、または非粘着性樹脂フィルムを貼付することが好ましい。特に、非粘着性樹脂フィルムを貼付することが用紙剥離性能と高温耐久性に優れるため好ましい。図3に示す例では、非粘着性樹脂フィルム4が、剥離シート2の先端部2eを覆うように通紙面から反通紙面にわたり貼付されている。図3では、非粘着性樹脂フィルム4が引掛け爪2aを覆い、段部2bの手前までの範囲に貼付されているが、必要に応じて段部間も含めて貼付してもよい。剥離シート2は、予め非粘着性樹脂フィルム4が貼付された状態で、支持部材3と固定される。
【0032】
剥離シートと支持部材との固定構造を図3(最下図)と図4に基づいて説明する。図4(a)は剥離部材のボルト部位の断面図(端面図)を、図4(b)は剥離部材の引掛け爪部位の断面図(端面図)をそれぞれ示す。図3および図4(b)に示すように、支持部材3の板状部分3aの端部3eに、剥離シート2の引掛け爪2aを嵌め込んで嵌合させる。また、図3および図4(a)に示すように、剥離シート2の段部2bが支持部材3の段部3bに嵌合されて、両穴(2cと3c)を通してボルト5で締結される。これにより、剥離シート2は、その反通紙面と引掛け爪2aとで板状部分3aを挟み込み、板状部分3aと重ねられた状態で、支持部材3に固定される。なお、各図に示すように、剥離シート2の先端部2eは、その全部または一部が支持部材3から突出して固定される。
【0033】
剥離部材1では、ボルト締結により、剥離シート2を支持部材3に対して全体的に強固に固定しつつ、係合部である引掛け爪2aにより、剥離シート2の先端部2eを支持部材に固定して、剥離性能に大きな影響を与える剥離シート先端部の水平精度を高く維持している。このため、優れた用紙剥離性能を発揮できる。また、剥離シートや支持部材として後述の任意の材料を用いた場合でも、安定した固定が可能である。
【0034】
剥離シートの材質および厚さについて詳細に説明する。
剥離シートの材質としては、上述の金属薄板とする場合、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス鋼などを使用できる。特に、ステンレス鋼であれば錆びることがなく、加工が容易であり安価なため好ましい。金属薄板とすることで、高い剛性を確保しやすい。また、プレス加工や絞り加工により、係合部や段部を容易に成形できる。
【0035】
剥離シートの厚さは50μm〜500μmの範囲が好ましい。50μm未満では剥離力が確保されないおそれや、ジャミング時に変形するおそれがある。500μmをこえると剥離すべき用紙が、シートの先端部に突き当たり、ジャミングの発生原因となるおそれがある。より好ましい剥離シートの厚さは、100μm〜400μmである。
【0036】
支持部材の材質としては、上述の金属厚板とする場合、剥離シートと同様に鉄、アルミニウム、銅、ステンレス鋼などを使用できる。剥離シートと同様の理由でステンレス鋼が好ましい。また、支持部材を構成する金属厚板の厚さは、剥離シートを取付ける取付強度を十分に確保するために、800μm以上が好ましい。
【0037】
剥離シートおよび支持部材を金属板とする場合、それぞれ、長手方向が金属板の圧延方向に対して直角方向となるように切り出した金属板を使用することが好ましい。これにより、各金属板の使用時の変形を防止できる。
【0038】
また、剥離シートおよび支持部材を樹脂成形体としてもよい。樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂などの液晶樹脂(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂などの結晶性樹脂、あるいは、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリフェニルサルフォン(PPSU)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂などの非晶性樹脂を使用できる。樹脂成形体とすることで、射出成形などにより複雑形状の係合部を容易に形成できる。なお、各部材の厚さや形状は、金属板の場合と同様にできる。
【0039】
剥離シートと支持部材とは、使用温度範囲(室温〜200℃)における平均線膨張係数が略同一である材料を用いることが好ましい。剥離シートの先端部は、係合部による形状的な係合(嵌合)により固定されるため、定着部での高温条件下では膨張によるズレ等が生じるおそれがある。剥離シートと支持部材との線膨張係数を極力合わせることで、これを抑制できる。好ましくは、剥離シートと支持部材とで同一材料を用いる。
【0040】
剥離シートに貼付する非粘着性樹脂フィルムについて詳細に説明する。
非粘着性樹脂フィルムは、現像剤の付着が防止できる程度に非粘着性特性を有する樹脂フィルムであり、具体的には純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムを指す。なお、本発明における接触角は、室温23−26℃、湿度50−60%の雰囲気下で、樹脂フィルム表面に純水5μlを滴下し、滴下1秒後の接触角を、ゴニオメーター式測定器(エルマ光学社製:接触角測定器G−1)を用いて測定した値である。純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂フィルム(81度)、ポリプロピレン樹脂フィルム(91度)、および、PTFE樹脂(115度)、PFA樹脂(109度)、FEP樹脂(114度)、ETFE樹脂(96度)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(84度)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂(85度)、ポリビニリデンフルオライド樹脂(82°)、ポリビニルフルオライド樹脂(80度)などの公知のフッ素樹脂からなるフィルムが使用できる。
【0041】
特に、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、またはETFE樹脂からなるフッ素樹脂フィルムは、接触角が96度以上でありカラートナー(ポリエステル系バインダー樹脂を用いたトナーなど)に対する非粘着性にも優れており、また、耐熱性も十分に有する。
【0042】
フッ素樹脂フィルムとしては、フッ素樹脂が100%もしくは主成分のフィルム(シート)であり、ビレットからのスカイブ品やペースト押出しによるもの、溶融押出しによるもの等を用いることができる。トナーに対する非粘着性を低下させないためには、フッ素樹脂フィルムは、配合材を含まないナチュラル材であることが好ましい。なお、トナーに対する非粘着特性を確保可能な範囲であれば、非粘着性樹脂フィルムをケッチェンブラックやアセチレンブラックなどのカーボン微粉末を配合した非粘着性樹脂から形成することによって、静電気による用紙剥離性能の低下を防止することもできる。
【0043】
フッ素樹脂などの非粘着性樹脂フィルムの厚さは10μm〜200μmの範囲が好ましく、より好ましい範囲は40μm〜80μmである。10μm未満の厚さでは、現像剤との摩擦によって破れが生じるおそれや、僅かな摩耗によって剥離シートが露出するおそれがある。また、剥離シートへの貼付工程で皺になりやすく、取り扱いが困難になる。200μmをこえる厚さになると用紙剥離性能が低下する。
【0044】
剥離シートへの非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤、特に、シリコーン系粘着剤を貼付面に介在させて行なうことが好ましい。例えば、剥離シートへの貼付面にシリコーン系粘着剤が予め付けられた非粘着性樹脂フィルムを用いる。シリコーン系粘着剤を介在させることで、剥離シートに強固に接着され定着温度においても接着効果が維持でき、粘着剤によるクッション効果も期待できる。その他、接着効果を高めるため、剥離シートへの貼付面に、例えば、コロナ放電処理、スパッタエッチング処理、プラズマエッチング処理、金属ナトリウムによるTOS処理、紫外線照射処理などの表面処理を施すことが望ましい。
【0045】
シリコーン系粘着剤としては、例えば、SiO単位と(CHSiO単位とからなる共重合体とジオルガノポリシロキサン生ゴムを縮合させて得た粘着剤が挙げられる。このシリコーン系粘着剤を用いることにより、非粘着性樹脂フィルムを剥離シートに強固に接着可能であり、定着温度(例えば、200℃以上)においても接着効果が維持できる。また、粘着剤層を薄くすることができ、粘着剤層によって剥離部材の厚さが剥離機能を損なうほど厚くなることがない。シリコーン系粘着剤層の厚さは5μm〜50μmの範囲の厚さであればよい。5μmより薄いと接着効果が十分に得られない。また、50μmより厚いと剥離部材の厚さが相対的に厚くなることにより用紙剥離性能が低下するおそれがある。
【0046】
また、剥離シートへの非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤を介在させずに行なうこともできる。例えば、金属薄板からなる剥離シートの貼付面をプラズマエッチング処理などで粗面化した後、非粘着性樹脂フィルムを加熱圧着する方法が挙げられる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
厚さ200μmのステンレス(SUS304CSP)からなる金属薄板を接触幅(L)となる長さ310mm、幅25mmにカットして、その内幅5mm長さ310mmを直角に曲げた。曲げた側の金属薄板の7ヶ所にボルトの頭が、完全に金属薄板の20mm幅の面より出ない程度に凹み段部を設け、凹み段部の底面にボルト穴を設けた。反対側の切断面から5mmの位置にカギ状の引掛け爪を20mm間隔で16個設けた剥離シートとなる金属薄板を準備した。この剥離シートの切断面に生じたバリを丁寧に取り除き、ローラと接触する部位となる角部を曲率半径R0.01mm〜R0.03mm程度に丸めた。
【0048】
この剥離シートの先端部にフッ素樹脂フィルムを貼付けた。フッ素樹脂フィルムとしては、厚さ50μmのPTFE樹脂フィルム(NTN精密樹脂社製ベアリーFL3090)を準備し、金属薄板に貼付する表面に対して金属ナトリウムのアンモニア溶液に浸漬するエッチング処理を行なった。このフッ素樹脂フィルムのエッチング処理面に、ジメチルポリシロキサン生ゴムを含むシリコーン系粘着剤溶液(信越化学社製KR101)を均一に塗布し120〜200℃で加熱乾燥した。その後室温まで自然冷却を行ない、約30μmのシリコーン系粘着剤層を形成した。
【0049】
フッ素樹脂フィルムを粘着剤層を有する表面を表向きにして皺にならないように平滑な板上に敷き、次に面取りされた剥離シートを石油ベンジンで十分に脱脂した後、フッ素樹脂フィルムの中央部に角部を丸めたローラ接触部を配置した。このローラ接触部を境界としてフィルムを剥離シート表面に貼付した。このようにしてローラ接触部および裏表面にフッ素樹脂フィルムをシリコーン系粘着剤を介して接着した剥離シートを得た。なお、剥離シートの全厚さは230μmである。
【0050】
次に、厚さ1mmの金属薄板と同じステンレス材を長さ310mm、幅35mmにカットして、その内幅10mm長さ310mmを直角に曲げた。次に曲げた側で、金属薄板に設けた7ヶ所の穴と同じ位置に、バーリング、タップ加工を施し、支持部材を製作した。この支持部材に剥離シートの引掛け爪を嵌め込み嵌合後、ボルトで固定して、図1に示す形状の剥離部材を得た。
【0051】
この剥離部材を試験用複写機(定着温度190℃、A4複写速度57枚/分)の定着部にセットし、画像比率30%のラインチャートを原稿とし、A4普通紙を用いて、5000枚の連続通紙による複写試験を30000枚まで行なった。5000枚毎に試験機を止め、複写済みの用紙を目視によって画像低下の有無を確認した。さらに、剥離部材を定着部から取り外し、フッ素樹脂フィルムの摩耗、トナー付着の有無および定着ローラの摩耗状況を確認した。
【0052】
試験の結果、実施例1の剥離部材は、30000枚の通紙試験終了まで画像低下がみられず、通紙試験終了後に確認したフッ素樹脂フィルムには損傷はなかった。また、剥離シート部分にトナーの付着はなく、さらに定着ローラの摩耗も認められなかった。
【0053】
[比較例1]
実施例1で用いた剥離シートにおいて、その引掛け爪を形成していないものと、実施例1で用いた支持部材とを、シリコンゴム系接着剤である信越化学製RTV−KE1800ABCにて相互に接合し、実施例1と同一の評価試験を行なった。試験の結果、剥離シートの接合部全体が剥がれてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の剥離部材は、剥離シートとその支持部材からなる構成の剥離部材において、剥離シートと支持部材とを均一に安価に固定でき、優れた用紙剥離性能を発揮できるので、電子写真装置に設置される定着ローラなどの各種ローラから用紙を剥離するための剥離部材として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 剥離部材
2 剥離シート
3 支持部材
4 非粘着性樹脂フィルム
5 ボルト
6 定着ローラ
7 加圧ローラ
8 ニップ部
9 用紙
図1
図2
図3
図4