(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6329411
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20180514BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
F04C2/10 341E
F04C2/10 341G
F04C15/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-62198(P2014-62198)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-183631(P2015-183631A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】石井 卓哉
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−316674(JP,A)
【文献】
特開2014−051964(JP,A)
【文献】
特許第4215160(JP,B2)
【文献】
特開平06−272683(JP,A)
【文献】
特開2009−030570(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0078131(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内歯を有するアウタロータ内に、複数の外歯を有するインナロータが、前記外歯が前記内歯に噛み合い、かつ、偏心する状態で回転自在に収容され、前記内歯と前記外歯との間に、液体を吸入する吸入側容積室と、この吸入側容積室に吸入した液体を吐出する吐出側容積室とが形成されるトロコイドを有する内接歯車ポンプであって、
前記インナロータに固定される駆動シャフトと、前記トロコイドを収容する凹部が形成されたケーシングと、該ケーシングの前記凹部を閉塞するカバーとを有し、
前記カバーおよび前記ケーシングから選ばれる少なくとも一方の部材が、前記駆動シャフトを回転自在に支持する滑り軸受を有し、前記駆動シャフトと前記滑り軸受との摺動部に前記トロコイドの収容空間内の前記液体を該内接歯車ポンプの外部へ一部排出するための液体排出溝を有することを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
前記滑り軸受として、前記駆動シャフトの外周面を支持するラジアル滑り軸受を有し、前記液体排出溝が、前記駆動シャフトの外周面および前記ラジアル滑り軸受の内周面から選ばれる少なくとも一方のラジアル摺動面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記ラジアル摺動面の液体排出溝は、該摺動面の軸方向両端に連通する溝であることを特徴とする請求項2記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記駆動シャフトは、本体部と該本体部よりも小径の先端部とを有する段差状の軸であり、該先端部が前記インナロータに固定され、
前記滑り軸受として、前記駆動シャフトの本体部の段差面を支持するスラスト滑り軸受を有し、前記液体排出溝が、前記駆動シャフトの本体部の段差面および前記スラスト滑り軸受の軸受面から選ばれる少なくとも一方のスラスト摺動面に形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の内接歯車ポンプ。
【請求項5】
前記スラスト摺動面の液体排出溝は、該摺動面の内外径に連通する溝であることを特徴とする請求項4記載の内接歯車ポンプ。
【請求項6】
前記駆動シャフトは、前記インナロータに挿入固定されており、該駆動シャフトと前記インナロータとの固定部に、該固定部を軸方向に貫通する貫通溝が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の内接歯車ポンプ。
【請求項7】
前記内接歯車ポンプが、スクロール型コンプレッサの摺動部に前記液体を供給するためのポンプであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の内接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油や水、薬液などの液体を圧送する内接歯車ポンプ(トロコイドポンプ)に関する。
【背景技術】
【0002】
内接歯車ポンプ(トロコイドポンプ)は、トロコイド歯形を有するアウタロータおよびインナロータがケーシング内に密閉された状態で収容され、駆動シャフトの回転に伴い、駆動シャフトに固定されたインナロータとアウタロータが回転し、液体を吸入して吐出するように作用するポンプである。この種のポンプとして、例えば、特許文献1が提案されている。
【0003】
図7および
図8に基づき、従来の内接歯車ポンプの一例を示す。
図7は従来の内接歯車ポンプの組み立て斜視図を、
図8(a)は
図7の内接歯車ポンプの断面図を、
図8(b)は他の形態の内接歯車ポンプの断面図をそれぞれ示す。
図7に示すように、このポンプ21は、複数の内歯を有する環状のアウタロータ22内に、複数の外歯を有するインナロータ23が収容されてなるトロコイド24を主体としている。このトロコイド24は、フランジ付き円柱状のケーシング25に形成された円形のトロコイド収容凹部25aに回転自在に収容されている。ケーシング25には、トロコイド収容凹部25aを閉塞するカバー26が固定されている。
図8(a)に示すように、ケーシグ25とカバー26とは、機器本体の固定プレート28に固定ねじ30で締結固定されている。ケーシング25とカバー26との合わせ面は、機械加工面であり、面シールされている。
【0004】
トロコイド24は、インナロータ23の外歯が、アウタロータ22の内歯に噛み合い、かつ、偏心した状態で、インナロータ23がアウタロータ22内に回転自在に収容されて構成される。各ロータが互いに接触する仕切点間に、トロコイド24の回転方向に応じて、吸入側および吐出側の容積室が形成される。インナロータ23の軸心には、図示しないモータなどの駆動源によって回転させられる駆動シャフト31(
図7では省略)が貫通して固定されている。カバー26には軸受32が圧入され、駆動シャフト31を支持している。駆動シャフト31が回転してインナロータ23が回転すると、外歯がアウタロータ22の内歯に噛み合うことによりアウタロータ22が同一方向に連れ回りし、この回転によって容積が増大し、負圧となる吸入側容積室に吸入口から液体が吸入される。この吸入側容積室は、トロコイド24が回転することによって容積が減少して内圧が上昇する吐出側容積室に変わり、ここから、吸入された液体が吐出口に吐出される。
【0005】
吸入側容積室に連通する吸入口には、必要に応じてケーシング25から伸びた液体吸入ノズル27が設けられている(
図8(b))。該ノズル27を含めた、吸入側容積室までの液体吸入経路の任意の場所に、吸入した液体の異物を除去するための金属製や樹脂製のメッシュフィルタ29が取り付けられている。メッシュフィルタ29は、スポット溶接固定や、Cリングなどで物理固定されている。また、メッシュフィルタ29や液体吸入ノズル27は、ゴムパッキンを介在させてシール性を担保しつつ取り付けられている。
【0006】
軸受32には転がり軸受、メタルブッシュ(銅、錫、鉛などの合金)やポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂巻きブッシュなどの滑り軸受が使用可能である。この中でも、安価な滑り軸受が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4215160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スクロール型コンプレッサのように、圧縮部や、駆動シャフトを支持する滑り軸受などの摺動部に潤滑油を送ることを目的とした内接歯車ポンプの場合、摺動部の潤滑状態は高速回転よりも低速回転の方が油膜形成され難いため、低速回転で必要な吐出流量を確保する設計としている。内接歯車ポンプにおいては、駆動シャフトの回転に伴い吐出する液体の流量が回転数にほぼ比例するため、上述の設計上、高速回転では流量が増加して油が供給過剰な状態となり、コンプレッサの効率面などから逆に好ましくない。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、駆動シャフトの高速回転時の液体の吐出流量を抑制した内接歯車ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内接歯車ポンプは、複数の内歯を有するアウタロータ内に、複数の外歯を有するインナロータが、上記外歯が上記内歯に噛み合い、かつ、偏心する状態で回転自在に収容され、上記内歯と上記外歯との間に、液体を吸入する吸入側容積室と、この吸入側容積室に吸入した液体を吐出する吐出側容積室とが形成されるトロコイドを有する内接歯車ポンプであって、上記インナロータに固定される駆動シャフトと、上記トロコイドを収容する凹部が形成されたケーシングと、該ケーシングの上記凹部を閉塞するカバーとを有し、上記カバーおよび上記ケーシングから選ばれる少なくとも一方の部材が、上記駆動シャフトを回転自在に支持する滑り軸受を有し、該駆動シャフトと該滑り軸受との摺動部に上記トロコイドの収容空間内(単に「ポンプ内部」ともいう)の上記液体を一部排出するための液体排出溝を有することを特徴とする。
【0011】
上記滑り軸受として、上記駆動シャフトの外周面を支持するラジアル滑り軸受を有し、上記液体排出溝が、上記駆動シャフトの外周面および上記ラジアル滑り軸受の内周面の少なくとも一方のラジアル摺動面に形成されていることを特徴とする。また、上記ラジアル摺動面の液体排出溝は、該摺動面の軸方向両端に連通する溝であることを特徴とする。
【0012】
上記滑り軸受として、上記駆動シャフトの端面を支持するスラスト滑り軸受を有し、上記液体排出溝が、駆動シャフトの端面および上記スラスト滑り軸受の軸受面の少なくとも一方のスラスト摺動面に形成されていることを特徴とする。また、上記スラスト摺動面の液体排出溝は、該摺動面の内外径に連通する溝であることを特徴とする。
【0013】
上記駆動シャフトは、上記インナロータに挿入固定されており、該駆動シャフトと上記インナロータとの固定部に、該固定部を軸方向に貫通する貫通溝が形成されていることを特徴とする。
【0014】
上記内接歯車ポンプが、スクロール型コンプレッサの摺動部に上記液体を供給するためのポンプであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の内接歯車ポンプは、トロコイドを収容する凹部が形成されたケーシング、および、ケーシングの凹部を閉塞するカバーの少なくとも一方の部材が、駆動シャフトを回転自在に支持する滑り軸受を有し、駆動シャフトと滑り軸受との摺動部に液体排出溝を有するので、駆動時に該液体排出溝を通って、ポンプ内部の液体を一部排出でき、高速回転時の液体の供給過剰を抑制できる。また、駆動シャフトの回転時に液体排出溝が液体を吸引する力を発生し、回転数に対する吐出流量の傾きを緩やかにできる。さらに、軸受摺動面にも液体が多く供給されるため、摺動面の冷却効果、潤滑状態の向上により、低摩擦低摩耗特性も得られる。
【0016】
ラジアル摺動面の液体排出溝が、該摺動面の軸方向両端に連通する溝であり、また、スラスト摺動面の液体排出溝が、該摺動面の内外径を連通する溝であるので、液体排出性能に優れ、上記効果がより向上する。
【0017】
駆動シャフトがインナロータに挿入固定されており、駆動シャフトとインナロータとの固定部に、該固定部を軸方向に貫通する貫通溝が形成されているので、ポンプ内部の液体を上記軸受の摺動面に排出する流路となる。
【0018】
以上のような仕様により、本発明の内接歯車ポンプは、エアコン用スクロール型コンプレッサの摺動部に液体を供給するためのポンプとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の内接歯車ポンプの一例を示す軸方向断面図である。
【
図2】ラジアル摺動面に形成された液体排出溝を示す図である。
【
図4】スラスト摺動面に形成された液体排出溝を示す図である。
【
図5】インナロータの内周に形成された貫通溝を示す図である。
【
図6】回転数と吐出流量の関係を示す概念図である。
【
図7】従来の内接歯車ポンプの組み立て斜視図である。
【
図8】従来の内接歯車ポンプの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の内接歯車ポンプの一実施形態を
図1に基づき説明する。
図1は、スクロール型コンプレッサに用いる内接歯車ポンプの軸方向断面図である。
図1に示すように、内接歯車ポンプ1は、環状のアウタロータ2内にインナロータ3が収容されたトロコイド4と、このトロコイド4を回転自在に収容する円形の凹部(トロコイド収容凹部)5aが形成されたケーシング5と、ケーシング5のトロコイド収容凹部5aを閉塞するカバー6とを有する。カバー6は、トロコイド収容凹部5aが開口するケーシング5の上面の外形に合致する形状である。ケーシング5とカバー6とは、固定ねじ8により、機器本体の固定プレート10に締結固定されている。また、インナロータ3の回転中心に同軸で固定された駆動シャフト9を有している。
【0021】
インナロータ3の外歯はアウタロータ2の内歯よりも1つ少なく、インナロータ3は、上記外歯が上記内歯に内接して噛み合う偏心した状態で、アウタロータ2内に収容されている。各ロータが互いに接触する仕切点間には、トロコイド4の回転方向に応じて、吸入側および吐出側の容積室が形成される。ケーシング5のトロコイド収容凹部5aの底面5bには、吸入側の容積室に連通する吸入口が形成されている。ロータ下部の吐出側の容積室に連通する吐出口から、駆動シャフト9の中心部の吐出流路9aを通して、図中上方の圧縮部(図示省略)に液体が圧送される(図中二点鎖線矢印)。
【0022】
内接歯車ポンプ1では、駆動シャフト9によってトロコイド4が回転することにより、容積が増大して負圧となる吸入側容積室に、吸入口から液体がポンプ内部に吸入される。この吸入側容積室は、トロコイド4が回転することによって容積が減少して内圧が上昇する吐出側容積室に変わり、この吐出側容積室から、吸入された液体が吐出口に吐出される。上記のポンプ作用が、トロコイド4の回転によって連続的に行われ、液体が連続的に圧送される。さらに、吸入された液体によって各容積室の密閉性が高められる液体シール効果によって、各容積室間に生じる差圧が大きくなり、大きなポンプ作用が得られる。
【0023】
駆動シャフト9は、カバー6に設けられたラジアル滑り軸受11およびスラスト滑り軸受12により、回転自在に支持されている。円筒状のラジアル滑り軸受11により駆動シャフト9のラジアル荷重を受け、円盤状のスラスト滑り軸受12により駆動シャフト9のスラスト荷重を受けている。駆動シャフト9は、本体部9bと、本体部9bよりも小径の先端部9cとを有する段差状の軸であり、先端部9cがインナロータ3に固定される。ラジアル滑り軸受11は、その内周面で駆動シャフト9の先端部9cの外周面を回転自在に支持している。スラスト滑り軸受12は、その軸受面(駆動シャフト側の円盤表面)で駆動シャフト9の本体部9bの端面を支持している。なお、
図1では、カバー6に滑り軸受を設けているが、ケーシング5に設ける形態としてもよい。また、カバー、ケーシングをそのまま滑り軸受としてもよい。また、
図1では、ラジアル滑り軸受とスラスト滑り軸受の両方を設けているが、いずれか一方のみを設ける形態としてもよい。
【0024】
内接歯車ポンプ1は、駆動シャフト9と滑り軸受11、12との摺動部にトロコイドの収容空間内の液体を一部排出するための液体排出溝を有する。駆動時にこの液体排出溝を通って、トロコイドの収容空間内(ポンプ内部)の液体を空間外部に一部排出できる(図中一点鎖線矢印)。上記の摺動部は、駆動シャフト9とラジアル滑り軸受11とのラジアル摺動部と、駆動シャフト9とスラスト滑り軸受12とのスラスト摺動部であり、これら摺動部のいずれか一方または両方に上記液体排出溝を形成する。液体排出効果に優れることから、両方に形成することが好ましい。なお、液体排出溝を形成しない摺動部においても、少量の液体は摺動面に介在する。
【0025】
ラジアル滑り軸受11としては、摺動面(内周面)に液体排出溝を形成可能であれば、メタルブッシュ(銅、錫、鉛などの合金)、焼結軸受(鉄、銅系など)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂巻きブッシュ、ポリエーテルエーテルケトン樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂の樹脂軸受などの任意の材質の滑り軸受を使用できる。また、スラスト滑り軸受12としては、上記したラジアル滑り軸受と同様の材質の滑り軸受を使用できる。各滑り軸受は、圧入などにより固定される。
【0026】
ラジアル摺動部に液体排出溝を形成する場合、該溝は、駆動シャフト9の外周面およびラジアル滑り軸受11の内周面の少なくとも一方のラジアル摺動面に形成できる。
図1では、ラジアル滑り軸受11は、駆動シャフト9の先端部9cの外周面を支持しているが、ラジアル滑り軸受位置はこれに限定されず、駆動シャフト9の本体部9bの外周面を支持する形態としてもよい。また、スラスト摺動部に液体排出溝を形成する場合、該溝は、駆動シャフト9の端面およびスラスト滑り軸受12の軸受面の少なくとも一方のスラスト摺動面に形成できる。
図1では、駆動シャフト9の本体部9bの端面を支持しているが、スラスト軸受位置はこれに限定しない。
【0027】
ラジアル摺動面に形成される液体排出溝は、形状は特に限定されないが、駆動シャフトと滑り軸受との相対回転時にポンプ内部の液体を吸引して外部に排出する作用を有する溝であることが好ましい。ラジアル摺動面に形成される液体排出溝の平面形状としては、例えば
図2に示すような、軸方向に平行な直線溝(
図2(a))や螺旋溝(
図2(b))が挙げられる。図中の黒塗り部分が液体排出溝である。
図2では、ラジアル滑り軸受11の内周面に上記の液体排出溝11aを形成している。特に、螺旋溝において、螺旋回転方向を駆動シャフトの回転方向と同じにすることで、駆動シャフトが回転した際にポンプ内部の液体を吸引し、外部へ排出する効果を有するため好ましい。また、ラジアル摺動面の液体排出溝は、該摺動面の軸方向両端に連通(貫通)する溝であることが好ましい。このような連通溝とすることで、液体を排出しやすく、よりスムーズな液体排出が可能となる。
【0028】
液体排出溝を液体が通過することで、ラジアル摺動面が冷却され、かつ、該摺動面へ液体が供給されるため、ラジアル滑り軸受の摩擦摩耗特性が向上する。溝幅、溝深さは液体の流れ方向の入口(吸入するポンプ内部側)を広く、出口(排出側)を狭くすることで動圧が発生し、閉塞した摺動面に液体が押込まれるため、摩擦係数を下げることもできる。
【0029】
ラジアル滑り軸受11において、ラジアル摺動面に形成される液体排出溝11aの断面形状としては、例えば
図3に示すような、角溝(
図3(a)、(d))、R溝(
図3(b))、V溝(
図3(c))などが挙げられる。ラジアル滑り軸受に加わる荷重に比べて動圧効果による液膜の負荷容量が小さく、ラジアル滑り軸受と駆動シャフト間を完全に非接触にすることは困難である。したがって、ラジアル滑り軸受と駆動シャフトは当接して摺動し、混合潤滑状態となる。このように液膜によって完全に非接触支持できない場合、溝断面形状において楔形状(末狭まり形状)を有するV溝やR溝の方が角溝に比べて楔効果によって動圧を発生させやすいため、角溝よりもV溝、R溝が好ましい。更には、楔形状の空間内に満たされた液体は、すきまの小さい部分程圧力が高まるため、断面形状としてすきまの小さい領域を多く有するV溝がR溝よりも好ましい。V溝の角度は特に限定されず、軸回転方向に対して対称な溝である必要はなく、
図3(f)に示すように、回転により摺動面に液体の流れ込む側の摺動面と溝の角度が鋭角の方が好ましい。R溝についても同様であり、
図3(e)に示すように、回転により摺動面に液体の流れ込む側の傾斜が緩い方が好ましい。液体排出溝の本数は多いほど動圧を発生させやすいが、摺動面の面圧が高くなるため、使用条件を考慮し設定すればよい。
【0030】
スラスト摺動面に形成される液体排出溝は、形状は特に限定されないが、上記同様に、駆動シャフトと滑り軸受との相対回転時にポンプ内部の液体を吸引して外部に排出する作用を有する溝であることが好ましい。スラスト摺動面に形成される液体排出溝の具体的な平面形状としては、例えば
図4に示すような、ヘリングボーン(
図4(a)〜(c)、(e))、放射状(
図4(d))、スパイラル(
図4(f))などが挙げられる。図中の黒塗り部分が液体排出溝である。
図4では、スラスト滑り軸受12の軸受面(駆動シャフト側の円盤表面)に液体排出溝12aを形成している。また、流路を複雑することで吸引作用がある形状でもよい。いずれの形状も図に示す形状と軸受回転方向により、内径面と駆動シャフトの外周面との隙間からポンプ内部の液体を吸引して、スラスト摺動面に導入し、さらに該液体を外径側に圧送できる。この外径側から直接に、または、ポンプの軸受形態によってはラジアル滑り軸受の液体排出溝を通って、外部に液体を排出できる。これらの形状は、単独あるいは併用してもよい。平面形状としては、動圧を発生させ、かつ液体をスムーズに排出できるスパイラルが好ましい。また、スラスト摺動面の液体排出溝は、摺動面の内外径を連通(貫通)する溝であることが好ましい。連通溝とすることで、液体を内径から外径に排出しやすく、よりスムーズな液体排出が可能となる。
【0031】
図4(a)〜(c)などのヘリングボーンにおける溝の折り返し位置は、適宜設定できる。
図4(a)〜(c)に示す形状と軸受回転方向では、折り返し位置が円周外側に行くほど、内径側から外径側に向かう力が大きくなる。また、
図4(d)および
図4(e)の形状は、内径から外径までの溝流路が、内径と外径とを中心から放射状の直線や曲線で結ぶ場合よりも長くなるように形成している。具体的には、スラスト滑り軸受の円盤軸受面の半径方向略中央位置に該円盤と同心の円周溝を設けて、内径から円周溝までの内径側溝と、円周溝から外径までの外径側溝とが、円周溝上の重ならない円周位置で該円周溝に連結された形状を有する。さらに、内径側溝と円周溝との連結位置と、外径側溝と円周溝との連結位置とが、円周方向で交互に略等間隔で配された形状となっている。
【0032】
液体排出溝を液体が通過することで、スラスト摺動面が冷却され、かつ、該摺動面へ液体が供給されるため、スラスト滑り軸受の摩擦摩耗特性が向上する。溝幅、溝深さ、溝の断面形状については、上述のラジアル摺動面における場合と同様である。
【0033】
スクロール型コンプレッサに用いる内接歯車ポンプでは、上述のとおり、インナロータとアウタロータの回転により吸引された液体が、ロータ下部から駆動シャフトの中心部の吐出流路を通して上部に圧送される。このとき、インナロータと駆動シャフトとの隙間は小さいため、高速回転時に液体が多量に通過できない。そのため、ポンプ内部の液体を滑り軸受の摺動面に送る流路として、駆動シャフトとインナロータとの固定部に、該固定部を軸方向に貫通する貫通溝を形成することが好ましい。駆動シャフトはインナロータの中央部に挿入固定されるので、例えば、インナロータの内周もしくは駆動シャフトの外周のいずれか一方に、両者の固定幅を貫通する貫通溝を形成する。
図5に示す例では、インナロータ3の内周(駆動シャフト固定側)に貫通溝3aを形成している。貫通溝3aは、インナロータの上面から下面まで軸方向に沿って貫通した溝であり、その軸方向長さはインナロータの軸方向厚みと等しい。
【0034】
本発明の内接歯車ポンプにおいて、カバー、ケーシングには、金属(鉄、ステンレス鋼、焼結金属、アルミニウム合金など)、樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびこれらに充填剤を配合した樹脂組成物など)が使用可能であり、金属と樹脂の複合成形品であってもよい。また、アウタロータ、インナロータには、焼結金属(鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系など)を使用することが好ましく、特に価格面からは鉄系が好ましい。しかし、水、薬液などを圧送するトロコイドポンプにおいては、防錆能力が高いステンレス系などを採用すればよい。
【0035】
図6に内接歯車ポンプにおける回転数と吐出流量の関係を示す概念図を示す。従来の構造の内接歯車ポンプ(例えば、
図8(a)参照)における滑り軸受は、トロコイドの収容空間内から駆動シャフト周囲の隙間を通って漏れる液体により潤滑がなされる。この軸受部分でオイルシールされるため、外部への液体の漏れは微量である。また、スクロール型コンプレッサなどの内接歯車ポンプでは、低速回転で必要な吐出流量を確保する設計とするため、上記した従来の構造のままでは、高速回転時に流量が増加し、油が供給過剰な状態となりやすい(
図6の比較例)。これに対して、本発明の内接歯車ポンプでは、滑り軸受と駆動シャフトとの摺動部に上述の液体排出溝を設けているので、駆動シャフトの回転時に、液体排出溝が液体を吸引する力を回転速度に応じて発生し、該液体排出溝を通してポンプ内部の液体を外部に一部排出できる。これにより、回転数に対する吐出流量の傾きを緩やかにでき、高速回転時の液体の供給過剰を抑制できる(
図6の実施例)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の内接歯車ポンプは、高速回転時の液体流量を抑制し、かつ、冷却効果・潤滑状態の向上により機能面でも安定しているので、油や水、薬液などの液体を圧送する内接歯車ポンプ(トロコイドポンプ)として利用できる。特に、代替フロン、炭酸ガス等を冷媒とする電気給湯機、ルームエアコン、カーエアコン用のスクロール型コンプレッサの摺動部に液体を供給するためのポンプとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 内接歯車ポンプ
2 アウタロータ
3 インナロータ
4 トロコイド
5 ケーシング
6 カバー
7 金属製フィルタ
8 固定ねじ
9 駆動シャフト
10 機器本体の固定プレート
11 ラジアル滑り軸受
12 スラスト滑り軸受