(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金型変形工程は、前記第1金型モデルを、加硫時の温度に基づいて熱膨張させて前記第2金型モデルの形状を計算する工程を含む請求項1記載のタイヤのシミュレーション方法。
前記タイヤ形状取得工程は、前記タイヤの形状を有限個の要素で離散化して、加硫時のタイヤモデルの形状を計算する工程を含む請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
前記コンピュータが、予め定められた熱収縮条件に基づいて、前記加硫時のタイヤモデルを熱収縮させたタイヤモデルの形状を計算する工程をさらに含む請求項5乃至9のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、金型の成形面で加硫されたタイヤの形状を、コンピュータを用いて取得するための方法である。本実施形態では、生タイヤを変形させた加硫時のタイヤモデルの形状が計算される。
【0021】
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dが含まれる。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
【0022】
図2は、本実施形態の生タイヤ2の断面図である。
図3(a)は、カーカスプライの部分斜視図である。
図3(b)は、ベルトプライの部分斜視図である。
図2及び
図3に示されるように、本実施形態の生タイヤ2は、複数本のコード11が未加硫のゴム12で被覆された補強材3を有している。本実施形態の補強材3は、トレッド部2aからサイドウォール部2bをへてビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されたベルト層7とを含んでいる。
【0023】
図2に示されるように、カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。
【0024】
図3(a)に示されるように、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75度〜90度の角度θ1で配列されたカーカスコード6cと、これらのカーカスコード6cを被覆する未加硫のゴム(トッピングゴム)6dとを含んで構成されている。カーカスコード6cは、一対のビードコア5、5(
図2に示す)間をのびている。本実施形態のカーカスコード6cとしては、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、又は、アラミドなどの有機繊維コード等が採用されている。
【0025】
図2に示されるように、ベルト層7は、少なくとも2枚、本実施形態ではタイヤ半径方向で重ね合わされた内側ベルトプライ7Aと、外側ベルトプライ7Bとを含む2枚のベルトプライから構成されている。
【0026】
図3(b)に示されるように、各ベルトプライ7A、7Bは、タイヤ周方向に対して、例えば10度〜40度の角度θ2で傾斜するベルトコード7c、7cと、これらのベルトコード7cを夫々被覆する未加硫のゴム(トッピングゴム)7d、7dとを含んで構成されている。内側ベルトプライ7Aのベルトコード7c、及び、外側ベルトプライ7Aのベルトコード7cは、互いに交差する向きに重ね合わされている。ベルトコード7c、7cは、カーカスコード6c(
図3(a)に示す)のタイヤ半径方向外側、かつ、トレッド部2a(
図2に示す)の内部に配されている。本実施形態のベルトコード7cとしては、例えば、アラミド又はレーヨン等の高弾性の有機繊維コードや、スチールコード等が採用される。
【0027】
図2に示されるように、生タイヤ2には、未加硫のゴム部材4が設けられている。ゴム部材4は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配される未加硫のトレッドゴム4a、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴム4b、カーカス6の内側に配されるインナーライナーゴム4c、及び、本体部6aと折返し部6bとの間でビードコア5からトレッドゴム4a側にのびるビードエーペックスゴム4dが含まれている。なお、ゴム部材4には、上述したカーカスプライ6Aのトッピングゴム6d、及び、ベルトプライ7A、7Bのトッピングゴム7d、7dが含まれている。
【0028】
図4は、生タイヤ2の成形方法を説明する断面図である。本実施形態の成形方法では、従来の成形方法と同様に、先ず、円筒状のドラム(図示省略)に、未加硫のインナーライナーゴム4c、カーカスプライ6A、ビードコア5、未加硫のビードエーペックスゴム4d、及び、未加硫のサイドウォールゴム4bが巻回される。これにより、円筒状のケーシング13(2点鎖線で示す)が形成される。
【0029】
次に、ケーシング13を形成したドラムよりも大きな径を有するドラム(図示省略)に、未加硫のトレッドゴム4aとベルトプライ7A、7Bとが巻回される。これにより、円筒状のトレッドリング14が形成される。
【0030】
次に、ビードコア5を把持するビード保持部15によって、ビードコア5、5の軸方向距離を減じながら、ケーシング13がトロイド状に膨出(シェーピング)される。このケーシング13の外周面は、その半径方向外側に予め待機させておいたトレッドリング14の内周面に貼り付けられる。これにより、
図2に示した生タイヤ2が形成される。
【0031】
図5は、生タイヤ2の加硫工程を説明する断面図である。加硫工程では、先ず、従来のタイヤの製造方法と同様に、生タイヤ2が金型16に投入される。
【0032】
金型16は、生タイヤ2の成形面16sを有する複数のセグメント17と、複数のセグメント17をその外側から締め付ける型締め部18と、生タイヤ2を成形面16sに押圧する風船状のブラダー19とを含んで構成されている。
【0033】
セグメント17は、生タイヤ2のトレッド部2a(
図2に示す)を成形するトレッドセグメント17a、サイドウォール部2b(
図2に示す)を成形する一対のサイドセグメント17b、17b、及び、ビード部2c(
図2に示す)を成形する一対のビードセグメント17c、17cを含んで構成されている。
【0034】
型締め部18は、トレッドセグメント17aのタイヤ半径方向外側に配置されるトレッドモールド18a、トレッドモールド18aをタイヤ半径方向内側に押圧可能なコンテナ部18b、及び、一対のサイドセグメント17b、17bのタイヤ軸方向外側に配置される一対のサイドプレート18c、18cを含んで構成されている。このような型締め部18は、コンテナ部18bをタイヤ軸方向(図において下方)に移動させることにより、トレッドモールド18aを介して、セグメント17をタイヤ半径方向内側に締め付けることができる。
【0035】
このような金型16を用いた加硫工程では、先ず、セグメント17とブラダー19との間に生タイヤ2が配置され、型締め部18によって、セグメント17が締め付けられる。そして、膨張したブラダー19によって、金型16の成形面16sに生タイヤ2が押圧されて、加熱される。これにより、生タイヤ2が加硫成形され、タイヤ(図示省略)が製造される。
【0036】
セグメント17は、加熱による熱膨張、及び、型締め部18やブラダー19による押圧等によって変形するため、加硫前の金型16の断面形状(成形面16sの形状)と、加硫時の金型16の断面形状(成形面16sの形状)とが異なる。従来のシミュレーション方法では、加硫前金型の断面形状に基づいて、タイヤモデルの形状が求められていた。このため、求められたタイヤモデルの形状と、実際の加硫成形後のタイヤの形状とが異なり、シミュレーションの精度を向上させることが難しいという問題がある。本実施形態のシミュレーション方法では、加硫時の条件に基づいて変形計算した金型モデルに基づいて、タイヤモデルの形状が求められている。
図6は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0037】
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、
図2に示した金型16に入れる前の生タイヤ2をモデル化した生タイヤモデル23が入力される(生タイヤモデル入力工程S1)。
図7は、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0038】
本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1では、先ず、生タイヤ2の未加硫のゴム部材4をモデル化したゴムモデル31が入力される(工程S11)。
図8は、ケーシングモデルの部分斜視図である。
図9は、カーカスプライモデルの一部を示す分解斜視図である。
【0039】
工程S11では、先ず、ドラム(図示省略)に巻回された未加硫のケーシング13(
図4に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、未加硫のサイドウォールゴム4b、インナーライナーゴム4c、ビードエーペックスゴム4d、及び、カーカスプライ6Aのトッピングゴム6dが、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)される。これにより、
図8及び
図9に示されるように、サイドウォールゴムモデル31b、インナーライナーゴムモデル31c、ビードエーペックスゴムモデル31d及びカーカストッピングゴムモデル32が設定される。カーカストッピングゴムモデル32は、タイヤ半径方向内側に配置される内側トッピングゴムモデル32iと、外側に配置される外側トッピングゴムモデル32oとを含んでいる。
【0040】
図10は、トレッドリングモデルの部分斜視図である。
図11は、ベルトプライモデルの一部を示す分解斜視図である。工程S11では、ドラム(図示省略)に巻回された未加硫のトレッドリング14(
図4に示す)の輪郭(例えば、CADデータ)に基づいて、未加硫のトレッドゴム4a、及び、ベルトプライ7A、7Bのトッピングゴム7d、7dが、有限個の要素G(i)でモデル化(離散化)される。これにより、
図10及び
図11に示されるように、トレッドゴムモデル31a及びベルトトッピングゴムモデル34、34が設定される。各ベルトトッピングゴムモデル34、34も、カーカストッピングゴムモデル32と同様に、内側トッピングゴムモデル34i、34iと、外側トッピングゴムモデル34o、34oとをそれぞれ含んで構成されている。
【0041】
要素G(i)としては、例えば、3次元のソリッド要素が採用されている。ソリッド要素は、複雑な形状を表現するのに適した4面体要素が好ましいが、これ以外にも5面体要素や6面体要素でもよい。また、各要素G(i)には、要素番号、節点35の番号、節点35の座標値、及び、未加硫ゴムの材料特性(例えば、密度、弾性率、損失正接、減衰係数又は等方性の熱膨張率等)などの数値データが定義される。これらのゴムモデル31は、コンピュータ1に記憶される。
【0042】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1は、補強材3のコードをモデル化したコードモデルが入力される(コードモデル入力工程S12)。
図12は、コードモデル入力工程S12の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0043】
本実施形態のコードモデル入力工程S12では、先ず、
図2に示したカーカスコード6cをモデル化したカーカスコードモデルが入力される(工程S121)。
図9に示されるように、本実施形態の工程S121では、先ず、コンピュータ1に、各カーカスコード6c(
図3(a)に示す)をビーム要素F(i)(i=1、2、…)でモデル化したカーカスコードモデル21(コードモデル20)が入力される。本実施形態では、
図3(a)に示したカーカスコード6cの配列を含む設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、各カーカスコード6cに沿って、複数のビーム要素F(i)が割り当てられる。このようなビーム要素F(i)の割り当ては、例えば、メッシュ化ソフトウェアやプリプロセッサを用いることにより、容易に行うことができる。
【0044】
ビーム要素F(i)は、線状に定義された1次元要素である。ビーム要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法を適宜採用できるが、本実施形態では、有限要素法が採用される。このようなビーム要素F(i)では、2次元のシェル要素や3次元のソリッド要素とは異なり、各コード11(
図3(a)に示す)に作用する長手方向の引張や圧縮を計算することができる。ビーム要素F(i)は、節点24の座標値、カーカスコード6cの材料特性(例えば、弾性率、及び、コード11の長手方向に沿った熱膨張率等)を含む数値データが定義される。
【0045】
本実施形態のビーム要素F(i)の弾性率は、引張方向の弾性率Ee及び圧縮方向の弾性率Ecが含まれる。引張方向の弾性率Eeは、圧縮方向の弾性率Ecよりも大に設定される。このような弾性率は、有機繊維コードの特性に基づくものである。これにより、カーカスコードモデル21を、有機繊維コードで形成されたカーカスコード6c(
図3に示す)の特性に近似させることができる。
【0046】
引張方向の弾性率Ee及び圧縮方向の弾性率Ecについては、引張方向の弾性率Eeが、圧縮方向の弾性率Ecよりも大であれば、カーカスコード6cの材料特性に応じて、適宜設定することができる。本実施形態では、引張方向の弾性率Eeが、圧縮方向の弾性率Ecの1.1倍〜2.0倍に設定される。カーカスコードモデル21は、コンピュータ1に記憶される。
【0047】
次に、本実施形態のコードモデル入力工程S12では、
図2に示したベルトコード7cをモデル化したベルトコードモデル27が入力される(工程S122)。
図11に示されるように、本実施形態の工程S122では、
図3(b)に示した内側ベルトプライ7A及び外側ベルトプライ7Bのベルトコード7c、7c(
図3(b)に示す)の配列を含む数値データ(例えば、CADデータ)に基づいて、各ベルトコード7cに沿って、複数のビーム要素F(i)が割り当てられる。これにより、内側ベルトプライ7Aの各ベルトコード7cをモデル化した内側ベルトコードモデル27a(コードモデル20)、及び、外側ベルトプライ7Aの各ベルトコード7cをモデル化した外側ベルトコードモデル27bが設定される。ビーム要素F(i)は、
図9に示したカーカスコードモデル21に用いられたビーム要素F(i)と同様のものが採用されている。ビーム要素F(i)は、節点24の座標値、ベルトコード7cの材料特性(例えば、弾性率、及び、コード11の長手方向に沿った熱膨張率等)を含む数値データが定義される。
【0048】
本実施形態のビーム要素F(i)の弾性率は、カーカスコードモデル21のビーム要素F(i)と同様に、引張方向の弾性率Ee及び圧縮方向の弾性率Ecが定義される。引張方向の弾性率Eeは、圧縮方向の弾性率Ecよりも大に設定される。これにより、各ベルトコードモデル27a、27bを、有機繊維コードで形成されたベルトコード7cの特性に近似させることができる。また、引張方向の弾性率Eeと、圧縮方向の弾性率Ecとの比Ee/Ecは、ベルトコード7cの材料特性に応じて、適宜設定することができる。比Ee/Ecは、カーカスコードモデル21と同様に、上記範囲に設定されるのが望ましい。各ベルトコードモデル27a、27bは、コンピュータ1に記憶される。
【0049】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1は、ビードコア5をモデル化したビードコアモデルが入力される(工程S13)。
図8に示されるように、本実施形態の工程S13では、ドラム(図示省略)に巻回された未加硫のケーシング13(
図4に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、ビードコア5が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素H(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)される。これにより、ビードコアモデル37が設定される。要素H(i)は、要素G(i)と同様のものが採用され、ビードコア5の材料特性(例えば、等方性の熱膨張率を含む)などの数値データが定義される。これらのビードコアモデル37は、コンピュータ1に記憶される。
【0050】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1では、コンピュータ1に、ケーシング13(
図4に示す)をモデル化したケーシングモデルが設定される(工程S14)。
図8及び
図9に示されるように、本実施形態の工程S14では、サイドウォールゴムモデル31b、インナーライナーゴムモデル31c、ビードエーペックスゴムモデル31d、カーカストッピングゴムモデル32及びカーカスコードモデル21に、固定条件を含む境界条件が設定される。これにより、ケーシング13(
図4に示す)をモデル化した円筒状のケーシングモデル36を設定することができる。
【0051】
カーカスコードモデル21は、カーカストッピングゴムモデル32i、32o間に固定される。これにより、カーカスプライモデル25(補強材モデル29)が設定される。このようなケーシングモデル36は、コンピュータ1に記憶される。
【0052】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1では、コンピュータ1に、トレッドリング14(
図4に示す)をモデル化したトレッドリングモデルが設定される(工程S15)。
図10及び
図11に示されるように、本実施形態の工程S15では、トレッドゴムモデル31a、ベルトトッピングゴムモデル34、34、及び、ベルトコードモデル27a、27bに、固定条件を含む境界条件が設定される。これにより、トレッドリング14をモデル化した円筒状のトレッドリングモデル39を設定することができる。
【0053】
各ベルトコードモデル27a、27bは、ベルトトッピングゴムモデル34i、34o間に固定される。これにより、一対のベルトプライモデル30A、30B(補強材モデル29)が設定される。トレッドリングモデル39は、コンピュータ1に記憶される。
【0054】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1では、コンピュータ1に、ケーシングモデル36とトレッドリングモデル39との間に、境界条件が設定される(工程S16)。
図13は、本実施形態の生タイヤモデル40を設定する工程を説明する断面図である。境界条件は、ケーシングモデル36のタイヤ半径方向の外面36oと、トレッドリングモデル39のタイヤ半径方向の内面39iとの接触を含んでいる。このような境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
【0055】
次に、本実施形態の生タイヤモデル入力工程S1では、コンピュータ1が、ケーシングモデル36と、トレッドリングモデル39とを一体化させる(工程S17)。工程S17では、先ず、ケーシングモデル36を半径方向外側に膨出させる変形計算が実施される。本実施形態では、先ず、ケーシングモデル36の内面36iに等分布荷重w1が定義される。さらに、ケーシングモデル36のビード部36b、36bのタイヤ軸方向の距離W1を減じる変形計算が実施される。これにより、ケーシングモデル36が半径方向外側に膨出した変形状態が計算される。このケーシングモデル36の膨出により、ケーシングモデル36の外面36oと、トレッドリングモデル39の内面39iとを接触させることができる。
【0056】
ケーシングモデル36やトレッドリングモデル39等の変形計算は、各要素F(i)、G(i)及びH(i)(
図8乃至
図11に示す)の形状や材料特性などに基づいて、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、例えば、JSOL社製のLS-DYNAなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。
【0057】
次に、工程S17では、トレッドリングモデル39の外面39oに、等分布荷重w2が定義される。これにより、トレッドリングモデル39がケーシングモデル36の外面36oに沿うように変形する状態が計算される。次に、工程S17では、ケーシングモデル36の外面36oと、トレッドリングモデル39の内面39iとの相対移動を防ぐ境界条件が設定され、ケーシングモデル36とトレッドリングモデル39とを一体化させることができる。そして、各等分布荷重w1、w2の定義が削除されることにより、
図2に示した生タイヤ2をモデル化した生タイヤモデル40が設定される。このような生タイヤモデル40は、コンピュータ1に記憶される。
【0058】
工程S17では、ケーシングモデル36及びトレッドリングモデル39の変形により、カーカスプライモデル25(
図9に示す)及びベルトプライモデル30A、30B(
図11に示す)も変形する。本実施形態のカーカスコードモデル21及びベルトコードモデル27a、27bは、ビーム要素F(i)でそれぞれモデル化されているため、例えば、2次元のシェル要素等でモデル化された従来のモデルとは異なり、独立して変形することができる。従って、生タイヤモデル40は、生タイヤ成形時の補強材3の変形に伴うコード11(
図3に示す)の角度又は間隔の変化を再現することができる。
【0059】
さらに、本実施形態のカーカスコードモデル21及びベルトコードモデル27a、27bは、上記のような引張方向の弾性率Ee及び圧縮方向の弾性率Ecが定義されているため、カーカスコード6c及びベルトコード7cの伸びの変化を、精度よく再現することができる。従って、シミュレーション方法は、生タイヤ2の形成工程を、精度良く再現することができる。
【0060】
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータに、加硫前の金型を有限個の要素でモデル化した第1金型モデルが入力される(工程S2)。
図14は、第1金型モデルの部分斜視図、
図15は、第1金型モデルの側面図である。
【0061】
本実施形態では、加硫前の金型16(
図5に示す)の設計データ(例えば、CADデータ)に基づいて、金型16が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素J(i)(i=1、2、…)でモデル化(離散化)される。これにより、金型16のセグメント17、型締め部18、及び、ブラダー19をそれぞれモデル化した複数のセグメントモデル47、型締めモデル48及び、ブラダーモデル49を含む第1金型モデル46が設定される。
【0062】
本実施形態では、
図5に示したトレッドセグメント17a、一対のサイドセグメント17b、17b、及び、一対のビードセグメント17cが、要素J(i)でモデル化されている。これにより、
図14及び
図15に示されるように、セグメントモデル47は、トレッドセグメントモデル47a、サイドセグメントモデル47b、47b、及び、ビードセグメントモデル47cが含んで構成されている。
【0063】
さらに、
図5に示した型締め部18のトレッドモールド18a、コンテナ部18b及び一対のサイドプレート18c、18cが、要素J(i)でモデル化されている。これにより、
図14及び
図15に示されるように、型締めモデル48は、トレッドモールドモデル48a、コンテナモデル48b及び一対のサイドプレートモデル48c、48cを含んで構成されている。これらのモデルには、互いにすり抜けるのを防ぐための境界条件が設定されている。
【0064】
要素J(i)は、
図8に示した要素G(i)と同様のものが採用され、
図5に示した金型16の材料特性(例えば、等方性の熱膨張率等を含む)などの数値データが定義される。第1金型モデル46は、コンピュータ1に記憶される。
【0065】
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、加硫時の条件に基づいて、第1金型モデル46の加硫時の形状である第2金型モデル51を計算する(金型変形工程S3)。
図16は、金型変形工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0066】
本実施形態の金型変形工程S3では、先ず、第1金型モデル46を、加硫時の温度に基づいて熱膨張させる(熱膨張工程S31)。熱膨張工程S31では、予め定められた熱膨張条件に基づいて、熱膨張した第1金型モデル46の形状が計算される。熱膨張条件としては、常温(例えば、25℃)、加硫温度(例えば、180℃)、及び、常温から加硫温度までの単位温度上昇分(例えば、10℃〜20℃)を含んでいる。
図17は、本実施形態の熱膨張工程S31の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0067】
本実施形態の熱膨張工程S31では、先ず、
図14に示した第1金型モデル46の要素J(i)に設定された常温に、単位温度上昇分が加算される(工程S311)。これにより、第1金型モデル46の要素J(i)の温度を、単位温度上昇分だけ高くすることができる。
【0068】
次に、熱膨張工程S31では、温度上昇による各要素J(i)の膨張力が計算される(工程S312)。各要素J(i)の膨張力は、予め定められた等方性の熱膨張率に基づいて計算される。従って、工程S312では、方向に依存することなく、要素J(i)の温度に応じて、要素J(i)の体積を等方膨張させることができる。
【0069】
次に、熱膨張工程S31では、各要素J(i)の剛性と、各要素J(i)の膨張力とを用いて、これらが釣り合うように、各要素J(i)の節点52の変位量が計算される(工程S313)。これにより、単位温度上昇分だけ熱膨張したときの第1金型モデル46の各節点52の位置が設定される。各座標値は、コンピュータ1に記憶される。
【0070】
次に、熱膨張工程S31では、現在の第1金型モデル46の要素J(i)の各節点52の温度が、加硫温度と同一であるか否かが判断される(工程S314)。工程S314では、各節点52の温度が加硫温度であると判断された場合(工程S314で「Y」)、次の工程S32が実施される。一方、各節点52の温度が加硫温度でないと判断された場合(工程S314で「N」)は、工程S311〜工程S314が再度実行される。これにより、常温から加硫温度まで熱膨張した第1金型モデル46を計算することができる。熱膨張した第1金型モデル46は、コンピュータ1に記憶される。熱膨張工程S31での一連の処理は、各種のソフトウェアを利用して行うことができ、例えば、解析アプリケーションソフト(「ABAQUS」)等)を用いて行われる。
【0071】
次に、本実施形態の金型変形工程S3は、第1金型モデル46の複数のセグメントモデル47を、第1金型モデル46の型締めモデル48で締め付けて変形させる(工程S32)。本実施形態の工程S32では、
図15に示されるように、コンテナモデル48bを、加硫前の位置から加硫時の締め付け位置まで、タイヤ軸方向(図において、下方側)に移動させる。これにより、コンテナモデル48bが、トレッドモールドモデル48aを介して、セグメントモデル47をタイヤ半径方向内側に押圧した状態が計算される。このような押圧により、セグメントモデル47が変形した状態を計算することができる。なお、コンテナモデル48bによる締め付け力は、実際の金型のコンテナ部18bの締め付け力に基づいて設定されている。
【0072】
第1金型モデル46の変形計算は、各要素J(i)の形状や材料特性などに基づいて、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。このような変形計算は、生タイヤ2の変形計算と同様に、市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算することができる。この変形計算は、第1金型モデル46の変形が収束するまで実施される。
【0073】
次に、本実施形態の金型変形工程S3は、第1金型モデル46の成形面46sをブラダーモデル49で押圧して変形させる(ブラダー押圧工程S33)。
図18は、本実施形態のブラダー押圧工程S33の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0074】
図15に示されるように、本実施形態のブラダー押圧工程S33では、先ず、セグメントモデル47の成形面46sを、ブラダーモデル49の外面49oによって押圧させる(工程S331)。工程S331では、第1金型モデル46内に生タイヤモデル40を配置しない状態で、ブラダーモデル49の半径方向の内面49iに、等分布荷重w3が定義される。等分布荷重w3は、加硫時において、ブラダー19を膨出させる高圧空気の圧力に相当するものである。これにより、工程S331では、ブラダーモデル49の外面49oの少なくとも一部が、セグメントモデル47の成形面46sに当接して押圧する状態が計算される。ブラダーモデル49の押圧により、セグメントモデル47の変形が計算される。このブラダーモデル49及びセグメントモデル47の変形計算も、微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとに実施される。
【0075】
次に、本実施形態のブラダー押圧工程S33では、ブラダーモデル49及びセグメントモデル47の変形が収束したか否かが判断される(工程S332)。工程S332では、ブラダーモデル49及びセグメントモデル47の変形が収束したと判断された場合(工程S332で「Y」)、次の工程S333が実施される。一方、ブラダーモデル49及びセグメントモデル47の変形が収束していないと判断された場合(工程S332で「N」)は、単位時間Txを一つ進めて(工程S334)、工程S331、及び、工程S332が再度実施される。従って、ブラダー押圧工程S33は、ブラダーモデル49及びセグメントモデル47の変形を確実に収束させることができる。
【0076】
次に、本実施形態のブラダー押圧工程S33では、セグメントモデル47の形状が復元しないように、
図14に示したセグメントモデル47の各要素J(i)の節点52が、変形不能に固定される(工程S333)。これにより、セグメントモデル47の形状は、等分布荷重w3が解除されても、ブラダーモデル49の押圧により変形した状態を維持することができる。
【0077】
本実施形態の金型変形工程S3は、熱膨張した第1金型モデル46を、型締めモデル48で締め付けて、さらに、ブラダーモデル49で押圧して変形させることにより、第1金型モデル46の加硫時の形状である第2金型モデル51が計算されている。このような第1金型モデル46の変形計算は、加硫時の金型16(
図5に示す)に実際に生じている変形に基づくものである。従って、第2金型モデル51の成形面51sを、加硫時の金型16の成形面16sに効果的に近似させることができる。
【0078】
なお、本実施形態の金型変形工程S3では、熱膨張工程S31、複数のセグメントモデル47を型締めモデル48で締め付ける工程S32、及び、ブラダー押圧工程S33が実施されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、金型16(
図5に示す)に応じて、工程S31〜工程S33から選択される少なくとも1つの工程のみ、又は、2つの工程のみが実施されることにより、第2金型モデル51の形状が計算されてもよい。これにより、第2金型モデル51の成形面51sを、加硫時の金型16の成形面16sに近似させつつ、計算時間を短縮することができる。
【0079】
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、第2金型モデル51の形状に基づいて、加硫時のタイヤの形状を計算する(タイヤ形状取得工程S4)。本実施形態では、第2金型モデル51の形状に基づいて生タイヤモデル40を変形させ、加硫時のタイヤモデルの形状が計算される。
図19は、本実施形態のタイヤ形状取得工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0080】
本実施形態のタイヤ形状取得工程S4では、先ず、生タイヤモデル40(
図13に示す)と第2金型モデル51(
図15に示す)との間に境界条件が定義される(工程S41)。境界条件としては、生タイヤモデル40と第2金型モデル51との接触を含んでいる。これにより、生タイヤモデル40と第2金型モデル51とが接触しても、互いにすり抜けるのを防ぐことができる。このような境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
【0081】
次に、タイヤ形状取得工程S4では、第2金型モデル51の内部に、生タイヤモデル40が配置される(工程S42)。
図20は、タイヤモデルに接触したブラダーモデルを示す断面図である。
【0082】
工程S42では、先ず、第2金型モデル51を分解し、ブラダーモデル49と、ビードセグメントモデル47cとで、生タイヤモデル40のビード部23cを挟んで保持する。本実施形態のビードセグメントモデル47cは、サイドセグメントモデル47bと一体に固定されている。
【0083】
次に、一対のビードセグメントモデル47c、47cをタイヤ軸方向に接近させて、ビード部23cのタイヤ軸方向の距離が減じられる。そして、ブラダーモデル49の内面49iに、等分布荷重w3が定義される。これにより、工程S42では、ブラダーモデル49を半径方向外側に膨出させて、ブラダーモデル49の外面49oを、生タイヤモデル40の内面40iに接触させることができる。ブラダーモデル49の膨出により、生タイヤモデル40を半径方向外側に膨出させることができる。
【0084】
図21は、第2金型モデルの内部に配置されたタイヤモデルを示す断面図である。工程S42では、膨出した生タイヤモデル40のタイヤ半径方向外側において、サイドセグメントモデル47bに、トレッドセグメントモデル47a、及び、型締めモデル48(図示省略)が接続される。これにより、第2金型モデル51の内部に、膨出した生タイヤモデル40を配置することができる。
【0085】
次に、タイヤ形状取得工程S4では、セグメントモデル47の内面47iに、生タイヤモデル40の外面40oを接触させる(工程S43)。本実施形態では、ブラダーモデル49をさらに膨出させて、セグメントモデル47の成形面47s(第2金型モデル51の成形面51s)に、生タイヤモデル40の外面40oを接触させる。工程S43において、生タイヤモデル40のゴムモデル31の要素G(i)には、未加硫ゴムの材料特性が定義されている。このため、ブラダーモデル49の膨出によって、生タイヤモデル40は、セグメントモデル47の成形面47sに沿って柔軟に変形することができる。
【0086】
生タイヤモデル40の変形により、カーカスプライモデル25及びベルトプライモデル30A、30Bも変形する。本実施形態のカーカスコードモデル21(
図9に示す)及びベルトコードモデル27a、27b(
図11に示す)は、ビーム要素F(i)でそれぞれモデル化されているため、それぞれ独立して変形することができる。従って、生タイヤモデル40は、加硫中の補強材3の変形に伴うコード11(
図3に示す)の角度又は間隔の変化を、精度よく再現することができる。
【0087】
しかも、本実施形態のカーカスコードモデル21及びベルトコードモデル27a、27bは、上記のような引張方向の弾性率Ee及び圧縮方向の弾性率Ecが定義されているため、加硫時のカーカスコード6c及びベルトコード7cの伸びの変化を精度よく再現することができる。従って、シミュレーション精度を向上させることができる。
【0088】
本実施形態のセグメントモデル47は、上記工程S333において、変形不能に固定されているため、セグメントモデル47の成形面47sに、生タイヤモデル40が押し付けられても変形することがない。このため、第2金型モデル51の成形面51sを、加硫時の金型16の成形面16sに近似させたまま、生タイヤモデル40の変形を計算することができる。
【0089】
次に、タイヤ形状取得工程S4では、生タイヤモデル40の変形が収束したか否かが判断される(工程S44)。工程S44では、生タイヤモデル40の変形が収束したと判断された場合(工程S44で「Y」)、次の工程S45が実施される。一方、生タイヤモデル40の変形が収束していないと判断された場合(工程S44で「N」)は、単位時間Txを一つ進めて(工程S46)、工程S43、及び、工程S44が再度実施される。従って、タイヤ形状取得工程S4は、生タイヤモデル40の変形を確実に収束させることができ、第2金型モデル51の成形面51s(即ち、加硫時のタイヤの形状)に沿って変形した生タイヤモデル40を求めることができる。
【0090】
次に、タイヤ形状取得工程S4では、ゴムモデル31の各要素G(i)に、加硫ゴムの材料特性が定義される(工程S45)。加硫ゴムの材料特性としては、例えば、密度、弾性率、損失正接、減衰係数、又は、等方性の熱膨張率が含まれる。これにより、生タイヤモデル40の各ゴムモデル31は、復元力が高い加硫ゴムとして定義され、生タイヤモデル40を、加硫時のタイヤモデル53として設定することができる。加硫時のタイヤモデル53は、第2金型モデル51から取り出される。
図22は、加硫時のタイヤモデル53を示す断面図である。加硫時のタイヤモデル53は、コンピュータ1に記憶される。
【0091】
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、
図22に示した加硫時のタイヤモデル53を熱収縮させたタイヤモデルの形状が計算される(熱収縮工程S5)。熱収縮工程S5では、予め定められた熱収縮条件に基づいて、加硫時のタイヤモデル53を熱収縮させたタイヤモデル56の形状が計算される。熱収縮条件としては、加硫温度、常温、及び、加硫温度から常温までの単位温度低下分(例えば、10℃〜20℃)を含んでいる。
図23は、本実施形態の熱収縮工程S5の処理手順を示すフローチャートである。
【0092】
熱収縮工程S5では、先ず、タイヤモデル53の要素G(i)及びビーム要素F(i)に設定された加硫温度から単位温度低下分が減じられる(工程S51)。これにより、タイヤモデル53の各要素G(i)、F(i)の温度を、単位温度低下分だけ低下させることができる。
【0093】
次に、熱収縮工程S5では、温度低下による各要素の収縮力が計算される(工程S52)。ゴムモデル31の各要素G(i)の収縮力は、単位温度低下分、及び、熱膨張率に基づいて計算される。この収縮力は、方向に依存することなく体積が等方収縮する方向に作用する。また、ビーム要素F(i)の収縮力は、単位温度低下分、及び、熱膨張率に基づいて計算される。この収縮力は、長手方向に収縮する方向に作用する。
【0094】
次に、熱収縮工程S5では、各要素F(i)、G(i)の剛性と、各要素F(i)、G(i)の収縮力とを用いて、これらが釣り合うように各要素F(i)、G(i)の節点24、35の変位量が計算される(工程S53)。これにより、単位温度低下分だけ熱収縮したときのタイヤモデル53の各節点24、35の位置が設定される。各座標値は、コンピュータ1に記憶される。
【0095】
次に、熱収縮工程S5では、現在のタイヤモデル53の各節点24、35の温度が、常温と同一か否かが判断される(工程S54)。工程S54では、各節点24、35の温度が常温であると判断された場合(工程S54で「Y」)、次の工程S6が実施される。一方、各節点24、35の温度が常温でないと判断された場合(工程S54で「N」)は、工程S51〜工程S54が再度実行される。これにより、加硫温度から常温まで冷却して熱収縮したタイヤモデル53を計算することができる。このような熱収縮したタイヤモデル53は、コンピュータ1に記憶される。熱収縮工程S5での一連の処理は、熱膨張工程S31と同一のソフトウェアを用いて計算することができる。
【0096】
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、加硫時のタイヤモデル53をさらに熱収縮させたタイヤモデル56の形状を計算することができるため、熱収縮後のタイヤモデル56の形状を、実際の加硫後のタイヤに近似させることができる。
【0097】
本実施形態の熱収縮工程S5では、タイヤモデル53が加硫温度から常温まで冷却した状態が計算されたが、これに限定されるわけではない。例えば、ポストキュアインフレート(PCI)装置によってタイヤモデル53が冷却した状態が計算されてもよい。PCI装置は、タイヤに内圧を充填し、冷媒を用いて、タイヤを急速に冷却するものである。
【0098】
この実施形態の熱収縮工程S5では、加硫時のタイヤモデル53に内圧が充填された状態を計算した後に、工程S51〜工程S54と同様に、加硫温度から冷媒の温度まで冷却した状態が計算されるのが望ましい。これにより、熱収縮工程S5では、タイヤモデル56の形状を、PCI装置を用いて冷却されたタイヤの形状に、精度よく近似させることができる。
【0099】
さらに、この実施形態の熱収縮工程S5では、冷媒の温度まで冷却した状態のタイヤモデル56を、冷媒の温度から常温までさらに冷却した状態が計算されるのが望ましい。これにより、熱収縮工程S5では、PCI装置を用いて冷却されたタイヤを、さらに自然冷却させた状態が計算されるため、タイヤモデル56の形状を、実際のタイヤの形状により精度よく近似させることができる。
【0100】
次に、コンピュータ1により、熱収縮後のタイヤモデル56の形状が良好か否か判断される(工程S6)。工程S6では、熱収縮後のタイヤモデル56の形状が良好であると判断された場合(工程S6で「Y」)、シミュレーション方法の一連の処理が終了する。一方、熱収縮後のタイヤモデル56の形状が良好でないと判断された場合(工程S6で「N」)は、タイヤの設計因子を変更して(工程S7)、工程S1〜工程S6が再度実行される。このように、本実施形態のシミュレーション方法では、形状が良好な熱収縮後のタイヤモデル56を精度良く作成できるため、例えば、転動シミュレーション、又は、加硫工程を経たタイヤの仕上がり具合(転がり抵抗、摩耗予測等)の解析に、タイヤモデル56を用いることができる。
【0101】
本実施形態のタイヤ形状取得工程S4では、生タイヤモデル40を用いて、加硫時のタイヤモデル53の形状が計算されるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、第2金型モデル51の成形面51sで特定される加硫時のタイヤの形状に基づいて、タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデルが設定されてもよい。これにより、この実施形態のタイヤ形状取得工程S4では、前実施形態のような生タイヤモデル40の変形計算を行うことなく、加硫時のタイヤモデル53を求めることができるため、計算時間を大幅に短縮することができる。また、この加硫時のタイヤモデル53は、上述した熱収縮工程S5に基づいて熱収縮させた状態が計算されるのが望ましい。これにより、熱収縮後のタイヤモデル56の形状を、実際の加硫後のタイヤに近似させることができる。
【0102】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0103】
図6に示す処理手順に従って、加硫前の金型を有限個の要素でモデル化した第1金型モデルを設定し、第1金型モデルの加硫時の形状である第2金型モデルが計算された。さらに、
図2に示す基本構造を有する生タイヤを、有限個の要素でモデル化した生タイヤモデルが入力された。そして、生タイヤモデルの外面が第2金型モデルの成形面に接触するように、生タイヤモデルを変形させた加硫時のタイヤモデルの形状が計算された(実施例1及び実施例2)。
【0104】
実施例1の生タイヤモデルは、補強材のコードをビーム要素でモデル化した補強材モデルが設定された。実施例2の生タイヤモデルは、補強材を2次元のシェル要素等でモデル化した補強材モデルが設定された。
【0105】
また、比較のために、加硫前の金型の成形面に基づいて、有限個の要素でモデル化した加硫時のタイヤモデルが計算された(比較例)。なお、比較例のタイヤモデルは、実施例2と同様に、補強材を2次元のシェル要素等でモデル化した補強材モデルが設定された。
【0106】
実施例1、実施例2及び比較例の加硫時のタイヤモデルを、熱収縮させるシミュレーションが実施され、加硫後のタイヤモデルが求められた。そして、実施例1、実施例2及び比較例の各加硫後のタイヤモデルのタイヤ外径と、金型を用いて実際に製造されたタイヤ(実験例)のタイヤ外径とが比較された。なお、シミュレーションに用いられたソフトウェアやパラメータ等は、明細書に記載の通りである。テスト結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
テストの結果、実施例1及び実施例2のタイヤ外径は、比較例のタイヤ外径に比べて、実験例のタイヤ外径に近似しうることが確認できた。従って、実施例1及び実施例2のシミュレーション方法は、加硫されたタイヤの形状を精度よく再現できることが確認できた。さらに、実施例1は、補強材のコードがビーム要素でモデル化されているため、2次元のシェル要素等でモデル化された実施例2に比べて、実験例のタイヤ外径に近似しうることが確認できた。