特許第6329448号(P6329448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6329448
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20180514BHJP
【FI】
   C02F1/58 H
   C02F1/58 M
   C02F1/58 J
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-138029(P2014-138029)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2016-13533(P2016-13533A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 英二
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 裕一郎
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−227898(JP,A)
【文献】 特開2000−176241(JP,A)
【文献】 特開平09−276875(JP,A)
【文献】 特開2011−200848(JP,A)
【文献】 特開2010−221151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 − 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水と鉄塩とをpH6.5〜8.0の条件下で反応させ、生成した鉄化合物含有析出物に前記セレンを吸着させる第1処理工程と、
前記第1処理工程後の前記鉄化合物含有析出物を含む排水とアルカリ剤とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第2処理工程と、
前記第2処理工程後の前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第1固液分離工程と、を備えることを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記第1固液分離工程により分離した前記汚泥を前記第1処理工程に返送することを特徴とする請求項1記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記第1固液分離工程により分離した前記処理水と、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムのうち少なくともいずれか一方とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第3処理工程と、
前記第3処理工程後の前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を、前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第2固液分離工程と、を備え、
前記第2固液分離工程により分離した前記汚泥を前記第1処理工程に返送することを特徴とする請求項1又は2記載の排水処理方法。
【請求項4】
マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水と鉄塩とをpH6.5〜8.0の条件下で反応させ、生成した鉄化合物含有析出物に前記セレンを吸着させる第1処理槽と、
前記第1処理槽から排出される前記鉄化合物含有析出物を含む排水とアルカリ剤とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第2処理槽と、
前記第2処理槽から排出される前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第1固液分手段と、を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項5】
前記第1固液分離手段により分離した前記汚泥を前記第1処理槽に返送する第1返送手段を備えることを特徴とする請求項4記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記第1固液分離手段により分離した処理水と、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムのうち少なくともいずれか一方とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第3処理槽と、
前記第3処理槽から排出される前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を、前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第2固液分離手段と、を備え、
前記第2固液分離手段により分離した前記汚泥を前記第1処理槽に返送する第2返送手段を備えることを特徴とする請求項4又は5記載の排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水の処理方法及び処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄分が含まれている重油や石炭等を燃料として使用する火力発電所等においては、公害防止等の目的で、排煙ガス中の硫黄酸化物を脱硫することが行われている。このような排煙脱硫方法にはさまざまな技術が提案されている。その中で、水酸化マグネシウム等のマグネシウム系吸収剤を使用する排煙脱硫装置が知られている。この排煙脱硫装置から排出される排水には、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩を主体にした水溶性塩類が多量に含まれており、また、排水基準項目として挙げられているフッ化物イオン、セレン等も含まれている。したがって、フッ化物イオン、セレン等を基準値以下となるように除去してから、公共用水域へと放流する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、排煙脱硫排水中のフッ素イオン(フッ化物イオン)を処理する方法が提案されている。具体的には、排煙脱硫排水中の懸濁物質を固液分離し、次いで固液分離した液に水酸化ナトリウムを添加してpH9以上とし、生成した沈殿物にフッ素イオンを吸着させ、固液分離することで、排水中からフッ素イオンを除去している。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、排煙脱硫排水中のセレンを処理する方法が提案されている。具体的には、鉄金属を充填した塔に、pH3以上の排煙脱硫排水を通水して、鉄金属と排水を接触させ、鉄金属から生成した鉄水酸化物にセレンを吸着させ、固液分離することで、排水中からセレンを除去している。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、排水中の6価セレンを処理する方法が提案されている。具体的には、排水のpHを6以下に調整しながら、鉄イオンを添加して、次いで金属を添加した後、アルカリ剤を添加してpHを8〜10に調整して、得られた水酸化物を固液分離することで、排水中から6価セレンを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−176241号公報
【特許文献2】特許3385137号公報
【特許文献3】特許3524618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排水中のフッ化物イオン及びセレンを除去する方法としては、例えば、特許文献1及び2の組み合わせ、又は特許文献1及び3の組み合わせが考えられる。
【0008】
しかし、特許文献1及び2の組み合わせでは、鉄金属から鉄水酸化物を得るための酸及びアルカリ剤が必要であったり、セレンを除去するための多量の鉄金属が必要であったり、また、それに伴う汚泥発生量(析出物発生量)も多くなったりして、処理コスト等の問題から現実的な組み合わせとは言えない。
【0009】
また、特許文献1及び3の組み合わせでは、マグネシウムイオンを含む排水において、鉄析出物とマグネシウム析出物が同時に生成されるため、密度の低い析出物が生成し、得られる汚泥(析出物)の沈降性が悪いという問題があり、現実的な組み合わせとは言えない。
【0010】
本発明の目的は、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含む排水処理において、フッ化物イオン及びセレンを安定に処理しながら、沈降濃縮性の高い汚泥を得ることが可能な排水処理方法及び処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の排水処理方法は、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水と鉄塩とをpH6.5〜8.0の条件下で反応させ、生成した鉄化合物含有析出物に前記セレンを吸着させる第1処理工程と、前記第1処理工程後の前記鉄化合物含有析出物を含む排水とアルカリ剤とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第2処理工程と、前記第2処理工程後の前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第1固液分離工程と、を備える。
【0012】
また、前記排水処理方法において、前記第1固液分離工程により分離した前記汚泥を前記第1処理工程に返送することが好ましい。
【0013】
また、前記排水処理方法において、前記第1固液分離工程により分離した前記処理水と、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムのうち少なくともいずれか一方とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第3処理工程と、前記第3処理工程後の前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を、前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第2固液分離工程と、を備え、前記第2固液分離工程により分離した前記汚泥を前記第1処理工程に返送することが好ましい。
【0014】
また、本発明の排水処理装置は、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水と鉄塩とをpH6.5〜8.0の条件下で反応させ、生成した鉄化合物含有析出物に前記セレンを吸着させる第1処理槽と、前記第1処理槽から排出される前記鉄化合物含有析出物を含む排水とアルカリ剤とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第2処理槽と、前記第2処理槽から排出される前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を前記鉄化合物含有析出物及び前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第1固液分手段と、を備える。
【0015】
また、前記排水処理装置において、前記第1固液分離手段により分離した前記汚泥を前記第1処理槽に返送する第1返送手段を備えることが好ましい。
【0016】
また、前記排水処理装置において、前記第1固液分離手段により分離した処理水と、水酸化ナトリウム及び水酸化カルシウムのうち少なくともいずれか一方とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物に前記フッ化物イオンを吸着させる第3処理槽と、前記第3処理槽から排出される前記マグネシウム化合物含有析出物を含む排水を、前記マグネシウム化合物含有析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離する第2固液分離手段と、を備え、前記第2固液分離手段により分離した前記汚泥を前記第1処理槽に返送する第2返送手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含む排水処理において、フッ化物イオン及びセレンを安定に処理しながら、沈降濃縮性の高い汚泥を得ることが可能な排水処理方法及び処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る排水処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る排水処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示す排水処理装置1は、第1処理槽10、第2処理槽12、第1凝集剤反応槽14、第1固液分離槽16、を備える。また、排水処理装置1は、鉄塩タンク18、鉄塩供給ライン20を備える鉄塩添加装置、pH調整剤タンク22、pH調整剤ライン24を備えるpH調整剤添加装置、第1アルカリ剤タンク26、第1アルカリ剤供給ライン28を備えるアルカリ剤添加装置、第1凝集剤タンク30、第1凝集剤供給ライン32を備える凝集剤添加装置を備える。
【0021】
第1処理槽10には排水ライン34が接続されている。第1処理槽10と第2処理槽12との間、第2処理槽12と第1凝集剤反応槽14との間、第1凝集剤反応槽14と第1固液分離槽16との間は、不図示の排水ラインにより接続されている。第1固液分離槽16には処理水ライン36及び汚泥排出ライン38が接続されている。鉄塩供給ライン20の一端は第1処理槽10に接続され、他端は鉄塩タンク18に接続され、pH調整剤ライン24の一端は第1処理槽10に接続され、他端はpH調整剤タンク22に接続されている。第1アルカリ剤供給ライン28の一端は第2処理槽12に接続され、他端は第1アルカリ剤タンク26に接続されている。第1凝集剤供給ライン32の一端は第1凝集剤反応槽14に接続され、他端は第1凝集剤タンク30に接続されている。
【0022】
本実施形態に係る排水処理装置1の動作の一例について説明する。
【0023】
本実施形態の処理対象排水は、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水であれば特に制限されるものではないが、上記排水としては例えば、排煙脱硫排水等が挙げられる。排煙脱硫排水は、例えば、排ガス中の硫黄酸化物を水酸化マグネシウム等のマグネシウム系吸収剤で、吸収除去する排煙脱硫装置から排出される排水である。
【0024】
マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含有する排水(以下、原水と称する場合がある)は、排水ライン34を通り第1処理槽10に供給される。鉄塩タンク18内の鉄塩が鉄塩供給ライン20から第1処理槽10に供給されると共に、pH調整剤タンク22内のpH調整剤がpH調整剤ライン24を通して、第1処理槽10に供給され、第1処理槽10内のpHが6.5〜8.0の範囲に調整される。第1処理槽10内では、鉄水酸化物(Fe(OH)、Fe(OH)等)や鉄酸化物(FeO、Fe等)等の鉄化合物を含む析出物が生成され、その生成された析出物に主にセレンが吸着される(第1処理工程)。次に、第1処理槽10内の排水はセレンが吸着された鉄化合物を含む析出物と共に、第2処理槽12に供給される。そして、第1アルカリ剤タンク26内のアルカリ剤が第1アルカリ剤供給ライン28から第2処理槽12に供給される。この際、第2処理槽12内では、マグネシウム水酸化物(Mg(OH)等)やマグネシウム酸化物(MgO等)等のマグネシウム化合物を含む析出物が生成され、その生成された析出物に主にフッ化物イオンが吸着される(第2処理工程)。析出物の形成メカニズムは明らかではないが、まず、セレンが吸着された鉄化合物を含む析出物を核としてマグネシウム化合物が析出し、そのマグネシウム化合物を含む析出物表面にフッ化物イオンが吸着すると考えられる。このように第2処理工程後には、マグネシウム化合物を含む析出物と鉄化合物を含む析出物が一体となり、密度の高い析出物が形成されると考えられる。このため、後段の固液分離処理において、上記析出物を含む汚泥の沈降濃縮性が向上すると考えられる。一方、第2処理工程を第1処理工程より先に行う場合、すなわちマグネシウム化合物を含む析出物を生成してフッ化物イオンを吸着した後に、鉄化合物を含む析出物を生成した場合では、鉄塩添加時に酸性の鉄塩によりマグネシウム化合物を含む析出物が溶解し、マグネシウム化合物を含む析出物に吸着していたフッ化物イオンが溶出し、処理水中のフッ化物イオン濃度が高くなる。また、フッ化物イオンの溶出を抑制しようとすると、より多くのアルカリ剤を添加する必要があり、析出物が増え、汚泥発生量が増大する。さらに、鉄化合物を含む析出物を核とした析出物にならないため、沈降濃縮性の低い汚泥となる。
【0025】
次に、第2処理槽12内の排水は、セレンが吸着された鉄化合物を含む析出物及びフッ化物イオンが吸着されたマグネシウム化合物を含む析出物と共に、第1凝集剤反応槽14に供給される。そして、第1凝集剤タンク30内の凝集剤が凝集剤供給ライン32から第1凝集剤反応槽14に供給される。第1凝集剤反応槽14では、セレン及びフッ化物イオンが吸着された析出物がフロック化される。そして、第1凝集剤反応槽14内の排水は、フロック化された析出物(セレン及びフッ化物イオンが吸着された析出物)と共に第1固液分離槽16に供給され、第1固液分離槽16内で、セレン及びフッ化物イオンが吸着された析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離され、処理水は処理水ライン36から系外へ排出され、汚泥は汚泥排出ライン38から系外へ排出される(固液分離処理工程)。
【0026】
以下に、本実施形態の各処理工程の詳細を説明する。
【0027】
<第1処理工程>
第1処理工程は、原水と鉄塩とをpH6.5〜8.0の条件下で反応させ、生成した鉄化合物を含む析出物にセレンを吸着させる工程である。反応pHは6.5〜8.0の範囲であればよいが、汚泥の沈降濃縮性、セレンの除去率等の点で、原水のpHは7.0〜7.5の範囲が好ましい。原水のpHが上記範囲を満たすことにより、マグネシウム化合物を含む析出物の生成を抑え、鉄塩を鉄化合物として析出させ、その析出物にセレンを効率的に吸着させることが可能となる。一方、原水のpHが6.5未満であると、第1処理工程での鉄化合物の析出が少なく、第2処理工程の反応で核となる析出物が少なくなり、第2反応工程で密度の比較的低い析出物が生成すると考えられ、上記範囲を満たす場合と比較して、沈降濃縮性の低い汚泥が発生する。また、原水のpHが8.0を超えると、鉄化合物を含む析出物とマグネシウム化合物を含む析出物が同時に生成し、鉄化合物を含む析出物が核とならない比較的密度の低い析出物が生成すると考えられ、上記範囲を満たす場合と比較して、沈降濃縮性の低い汚泥が発生すると共にセレンの除去率も低下する。
【0028】
本実施形態では、鉄塩を添加しながら、または鉄塩を必要量添加した後に、pH調整剤を第1処理槽10に供給して、反応pHが6.5〜8.0の範囲に調整される。但し、鉄塩は酸性を示すため、鉄塩を添加する前の原水のpHを6.5〜8.0に調整しても、鉄塩を添加することで、原水のpHが6.5未満になる場合がある。その際には、鉄塩を添加しながら又は鉄塩を添加した後に、原水のpHが6.5〜8.0の範囲となるように再度pH調整を行う必要がある。したがって、pH調整は、鉄塩を添加しながら又は鉄塩添加後に行われることが望ましい。反応pHは、第1処理槽10内に設置したpH計(不図示)により測定される。なお、反応pHの調整は、例えば、以下のように行われる。例えば、作業者が、pH計の値を見ながら、pH調整剤ライン24に設けたバルブ(不図示)を開閉してpH調整剤を供給することで行われる。また、例えば、pH計及びpH調整剤ライン24に設けた電磁バルブ(不図示)と電気的に接続された制御部を設け、pH計によるpH値を受けた制御部が、そのpH値に基づいて、電磁バルブの開閉を制御することで行われる。
【0029】
原水のpH調整には、塩酸等の酸剤又は水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ剤等のpH調整剤等が用いられる。
【0030】
本実施形態で使用される鉄塩は、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等が挙げられる。排水中のセレンの形態が4価セレン(SeO2−)のみであれば、いずれの鉄塩を使用しても良いが、6価セレン(SeO2−)を含む場合には、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等の2価鉄塩が好ましい。2価鉄塩を用いることにより、6価セレンが4価セレンに還元され、4価セレンが鉄化合物を含む析出物に吸着されるものと考えられる。
【0031】
鉄塩の添加量は、原水中のセレン濃度、要求される処理水中のセレン濃度などによって適宜設定されるものであり、特に制限されるものではないが、例えば、原水中のセレン濃度が、排水基準値(0.1mg/L)より少し高い程度(0.2〜0.3mg/L程度)であれば、鉄塩の添加量は例えば100〜500mgFe/L程度が目安となる。
【0032】
第1処理工程における原水と鉄塩との反応時間は、鉄化合物を含む析出物を十分に析出させる時間が確保されていれば特に制限されるものではないが、例えば、10分〜60分の範囲とすることが好ましい。反応時間が10分未満であれば、鉄化合物を含む析出物の生成が十分に行われずに第2処理工程に移行するため、セレンの除去率が低下する場合があり、60分を超えると、大きな容量の第1処理槽10が必要となるため、実用上好ましくない場合がある。また、鉄化化合物を含む析出物の生成効率の点で、第1処理槽10内に撹拌機を設置し、原水と鉄塩とを撹拌しながら反応させることが好ましい。
【0033】
<第2処理工程>
第2処理工程は、第1処理工程後のセレンを吸着した鉄化合物含有析出物を含む排水とアルカリ剤とを反応させ、生成したマグネシウム化合物含有析出物にフッ化物イオンを吸着させる工程である。
【0034】
本実施形態で使用されるアルカリ剤は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等が挙げられるが、フッ素除去率の点で、水酸化カルシウムが好ましい。水酸化カルシウムを使用することで、フッ化物イオンがフッ化カルシウムとして析出されるため、水酸化ナトリウムを使用した場合と比較して、フッ素除去率が向上する。また、フッ化カルシウムが第1処理工程及び第2処理工程で生成した析出物に付着するため、水酸化ナトリウムを使用した場合と比較して、汚泥の沈降濃縮性が向上する場合がある。
【0035】
アルカリ剤の添加量は、フッ化物イオンを除去するのに十分なマグネシウム化合物を含む析出物を形成することが可能な量であればよい。アルカリ剤の添加量は、原水のマグネシウムイオン濃度やフッ化物イオン濃度、要求される処理水中のフッ化物イオン濃度により適宜設定される。アルカリ剤の添加量は、アルカリ剤として水酸化カルシウムを使用した場合、100〜300mgF/Lの原水であれば、例えば2000〜4000mg/Lとすることが好ましい。
【0036】
第2処理工程での排水のpHは、9以上とすることが好ましく、9.0〜10.0の範囲とすることが好ましく、9.2〜9.7の範囲とすることが更により好ましい。9.0未満の場合には、マグネシウム化合物を含む析出物が十分に生成されず、フッ化物イオンの除去率が低下する場合があり、10.0を超える場合には、マグネシウム化合物の析出量が多大となり、汚泥発生量が過大となる場合がある。
【0037】
第2処理工程における排水とアルカリ剤との反応時間は、マグネシウム化合物を含む析出物を十分に析出させる時間が確保されていれば特に制限されるものではないが、例えば、10分〜60分の範囲とすることが好ましい。反応時間が10分未満であれば、マグネシウム化合物を含む析出物の生成が十分に行われずに固液分離処理工程に移行するため、フッ化物イオンの除去率が低下する場合があり、60分を超えると、大きな容量の第2処理槽12が必要となるため、実用上好ましくない場合がある。また、マグネシウム化化合物を含む析出物の生成効率の点で、第2処理槽12内に撹拌機を設置し、排水とアルカリ剤とを撹拌しながら反応させることが好ましい。
【0038】
本実施形態のように、第1処理工程後に第2処理工程を行うことで、前述したように、鉄化合物を含む析出物とマグネシウム化合物を含む析出物とが付着した析出物が得られる。このため、セレン及びフッ化物イオンを効率的に除去しながら、沈降濃縮性の高い汚泥が得られる。一方、第2処理工程の後、第1処理工程を行う場合、すなわち、先にマグネシウム化合物を含む析出物を生成させた後鉄塩を添加すると、フッ素イオンを吸着していたマグネシウム析出物の一部が溶解するため、フッ化物イオンの除去率が低下する場合があり、またはアルカリ剤添加量が増大する場合がある。ひいては、前述したように鉄化合物を含む析出物を核とする密度の高い析出物が生成せず、沈降濃縮性の低い汚泥となる場合がある。また、第2処理工程を設けず、第1処理工程のみを行う排水処理の場合において、反応pHを6.5〜8.0に調整した場合には、マグネシウム化合物を含む析出物が生成されないため、フッ化物イオンの除去率が著しく低下する場合がある。また、第2処理工程を設けず、第1処理工程のみを行う排水処理の場合において、反応pHを6.5未満に調整した場合もマグネシウム化合物を含む析出物が生成されないため、フッ化物イオンの除去率が著しく低下する場合がある。反応pHを8.0超に調整した場合には、鉄化合物を含む析出物とマグネシウム化合物を含む析出物が同時に生成し、鉄化合物を含む析出物を核とする密度の高い析出物が形成されにくいため、沈降濃縮性の悪い汚泥となる場合がある。
【0039】
<固液分離処理工程>
固液分離処理工程では、第2処理工程後の排水に、凝集剤を添加し、排水中の析出物をフロック化させた後、固液分離処理を行うことが望ましい。凝集剤は、従来公知の無機凝集剤や高分子凝集剤等が用いられる。
【0040】
本実施形態の固液分離処理では、排水からフッ化物イオン及びセレンを吸着した析出物を沈降分離して、該析出物を含む汚泥と処理水とに分離する固液分離槽(沈殿槽)を例に説明したが、フッ化物イオン及びセレンを吸着した析出物を含む汚泥と処理水とに分離するものであれば、これに限定されるものではなく、例えば、膜ろ過装置等であってもよい。固液分離された析出物を含む汚泥は系外に排出され、例えば、濃縮・脱水して廃棄処分される。
【0041】
図2は、本実施形態に係る排水処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図2に示す排水処理装置2において、図1に示す排水処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示す排水処理装置2は、汚泥返送ライン40を備えており、汚泥返送ライン40の一端は汚泥排出ライン38に接続され、他端は、第1処理槽10に接続されている。第1処理工程及び第2処理工程を経て、固液分離槽16により得られる汚泥はアルカリ性を示す。このため、図2に示す排水処理装置2では、固液分離処理された汚泥(フッ化物イオン及びセレンを吸着した析出物)を汚泥返送ライン40から第1処理槽10に供給することで、第1処理槽10内のpHを6.5〜8.0の範囲に調整するアルカリ剤として利用することが可能となる。その結果、第1処理工程において、pH調整に使用されるアルカリ剤の量を低減することが可能となる。また汚泥を循環させることにより、フッ化物イオンの除去率が向上する場合がある。
【0042】
図3は、本実施形態に係る排水処理装置の構成の他の一例を示す模式図である。図3に示す排水処理装置3において、図1に示す排水処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図3に示す排水処理装置3は、第3処理槽42、第2凝集剤反応槽44、第2固液分離槽46、を備える。第2アルカリ剤タンク48、第2アルカリ剤供給ライン50を備えるアルカリ剤添加装置、第2凝集剤タンク52、第2凝集剤供給ライン54を備える第2凝集剤添加装置を備える。
【0043】
処理水ライン36の一端は第1固液分離槽16に接続され、他端は第3処理槽42に接続されている。また第3処理槽42と第2凝集剤反応槽44との間、第2凝集剤反応槽44と第2固液分離槽46との間は、不図示の排水ラインにより接続されている。第2固液分離槽46には最終処理水ライン56及び汚泥排出ライン58が接続されている。汚泥返送ライン40の一端は汚泥排出ライン58に接続され、他端は、第1処理槽10に接続されている。
【0044】
第1固液分離槽16から排出される処理水は、処理水ライン36を通り、第3処理槽42へ供給される。第2アルカリ剤タンク48内のアルカリ剤が第2アルカリ剤供給ライン50を通り、第3処理槽42へ供給される。第3処理槽42では、処理水とアルカリ剤とが反応して、処理水中に残存するマグネシウムイオンがマグネシウム化合物を含む析出物として析出し、処理水中に残存するフッ化物イオンを吸着する(第3処理工程)。これにより、よりフッ化物イオン濃度の低い処理水が得られる。
【0045】
第3処理工程で使用するアルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。また、第3処理工程でのアルカリ剤の添加量は、フッ化物イオンを除去するのに十分なマグネシウム化合物を含む析出物を形成できる量であればよく、最終処理水ライン56から排出される処理水中のフッ化物イオン濃度を確認しながら、アルカリ剤の添加量を調整することが望ましい。
【0046】
第3処理槽42内の排水は、フッ化物イオンが吸着されたマグネシウム化合物を含む析出物と共に、第2凝集剤反応槽44に供給される。そして、第2凝集剤タンク52内の凝集剤が第2凝集剤供給ライン54から第2凝集剤反応槽44に供給される。第2凝集剤反応槽44では、フッ化物イオンが吸着された析出物がフロック化される。そして、第2凝集剤反応槽44内の排水は、フロック化された析出物と共に第2固液分離槽46に供給され、第2固液分離槽46内で、フッ化物イオンが吸着された析出物を含む汚泥と処理水とに固液分離される。処理水は最終処理水ライン56から系外へ排出される。また、汚泥は汚泥排出ライン58から系外へ排出され(固液分離処理工程)、また、汚泥返送ライン40を通り第1処理槽10に供給される。
【0047】
図3に示す排水処理装置3では、第2固液分離槽46で固液分離処理された汚泥(フッ化物イオンを吸着した析出物)が、汚泥返送ライン40を通り第1処理槽10に供給され、原水のpHを6.5〜8.0の範囲に調整することに利用される。これにより、第1処理工程において、pH調整に使用されるアルカリ剤の量を低減することが可能となる。また汚泥を循環させることにより、フッ化物イオンの除去率が向上する場合がある。図3に示す排水処理装置3では、第2固液分離槽46に汚泥返送ライン40を設けたが、第1固液分離槽16に設けてもよく、また第1固液分離槽16及び第2固液分離槽46の両方に設けても良い。
【0048】
各排水処理装置では、例えば、フッ化物イオン濃度50〜300mg/L、セレン濃度0.1〜1.0mg/L、マグネシウムイオン濃度2000〜15000mg/Lの範囲の排水に対して、フッ化物イオン及びセレンを排水基準以下(フッ化物イオン濃度15mg/L以下、セレン濃度0.1mg/L以下)とすることが可能であり、また沈降濃縮性の高い汚泥が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図1に示す処理装置を用いて、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレン(4価)を含む模擬排水の処理を行った。模擬排水は、上記特許文献1に記載の脱硫排水水質を参考に調整したものである。ただしセレンについては、排水基準値よりも十分に高い値となるよう調整した。模擬排水の組成及びpHを表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1の処理は以下の通り行った。模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを400mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを7.5に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1800mgCa/Lとなるように添加した(このとき排水のpHは9.2であった)。排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。次に、高分子凝集剤(オルガノ社製オルフロックM−4020)を5mg/L添加し、10分間撹拌し、凝集処理を行った。凝集処理後の排水中のSS濃度をガラス繊維ろ紙ろ過により測定した。
【0053】
次に、凝集処理後の排水を固液分離槽で沈降分離させ、30分後、固液分離槽内の処理水を採取し、pHをpH計(東亜DKK社製、HM-30P)、フッ化物イオン濃度をランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法、セレン濃度をICP質量分析法により測定した。また、固液分離槽内に堆積した汚泥体積比(処理水量に対する汚泥の体積%)を分離槽壁面に刻んだ目盛により測定した。上記各処理は、排水を40℃に維持した状態で行った。実施例1の薬品添加量及び排水pHを表2にまとめた。
【0054】
【表2】
【0055】
(比較例1−1)
模擬排水1000mLに水酸化カルシウムスラリーを1800mgCa/Lとなるように添加し、排水pHを9.2に調整した後、15分間撹拌しながら排水と水酸化カルシウムとを反応させた(アルカリ反応工程)。次に、塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加した後、水酸化カルシウムを400mgCa/Lとなるように添加し、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(鉄塩反応工程)。このときの排水のpHは9.2であった。次に、高分子凝集剤(オルガノ社製、M−4020)を5mg/L添加し、10分間撹拌し、凝集処理を行った。凝集処理後の排水中のSS濃度を測定した。
【0056】
次に、凝集処理後の排水を固液分離槽で沈降分離させ、30分後、固液分離槽内の処理水を採取し、pH、フッ化物イオン濃度、セレン濃度を測定した。また、固液分離槽内に堆積した汚泥の汚泥体積比(処理水量に対する汚泥の体積%)を測定した。上記各処理は、排水を40℃に維持した状態で行った。比較例1−1の薬品添加量及び排水pHを表3にまとめた。なお、各項目の測定法及び測定機器は実施例1と同じである。
【0057】
(比較例1−2)
塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加した後、水酸化カルシウムを3200mgCa/Lとなるように添加したこと以外は、比較例1−1と同様の条件で試験を行った。比較例1−2の薬品添加量及び排水pHを表3にまとめた。塩化第二鉄及び水酸化カルシウム添加反応後のpHは9.5であった。
【0058】
【表3】
【0059】
(比較例2−1)
模擬排水1000mLに水酸化カルシウムスラリーを2200mgCa/Lとなるように添加し、排水pHを9.2に調整した後、15分間撹拌しながら排水と水酸化カルシウムとを反応させた(アルカリ反応工程)。次に、塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加した後(排水のpHは9.0)、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(鉄塩反応工程)。その後の操作は比較例1−1と同様の条件とした。比較例2−1の薬品添加量及び排水pHを表4にまとめた。
【0060】
(比較例2−2)
模擬排水1000mLに水酸化カルシウムスラリーを5000mgCa/Lとなるように添加し、排水pHを9.4に調整した後、15分間撹拌しながら排水と水酸化カルシウムとを反応させた(アルカリ反応工程)。次に、塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加した後(排水のpHは9.2)、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(鉄塩反応工程)。その後の操作は比較例1−1と同様の条件とした。比較例2−2の薬品添加量及び排水pHを表4にまとめた。
【0061】
【表4】
【0062】
(比較例3−1)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加すると同時に、水酸化カルシウムスラリーを2200mgCa/Lとなるように添加した後(排水のpHは9.2)、30分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄及び水酸化カルシウムとを反応させた(鉄塩アルカリ反応工程)。その後、比較例1−1と同様に、凝集処理及び沈降分離処理を行った。比較例3−1の薬品添加量及び排水pHを表5にまとめた。
【0063】
(比較例3−2)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を1000mgFe/Lとなるように添加したこと以外は、比較例3−1と同様の条件で試験した。比較例3−2の薬品添加量及び排水pHを表5にまとめた。
【0064】
【表5】
【0065】
実施例1及び各比較例の処理水のpH、フッ化物イオン濃度及びセレン濃度、凝集処理後の排水中のSS濃度、固液分離した汚泥の汚泥体積比(処理水量に対する汚泥の体積%)を表6にまとめた。
【0066】
【表6】
【0067】
排水と鉄塩とをpH7.5の条件下で反応させた後、アルカリ剤と反応(pH9.2)させた実施例1では、処理水中のフッ化物イオン濃度は13mg/L、セレン濃度は0.05mg/Lであった。また、累計のCa(OH)添加量は2200mgCa/Lであり、凝集処理後の排水中のSS濃度(発生固形物濃度)は10500mg/Lであり、固液分離した汚泥の汚泥体積比は29%であった。
【0068】
排水とアルカリ剤とをpH9.2の条件下で反応させた後、鉄塩と反応させた比較例1−1及び1−2のうち、累計のCa(OH)添加量が、実施例1と同じである比較例1−1は、処理水中のセレン濃度は実施例1と同程度であったが、フッ化物イオンは31mg/Lであり、実施例1と比較して高かった。また、凝集処理後のSS濃度は実施例1とほぼ同等であったが、固液分離した汚泥の汚泥体積比は46%であり、実施例1と比較して高かった。汚泥体積比が高い値ほど沈降濃縮性の悪い汚泥であると言える。次に、累計のCa(OH)添加量が実施例1の約2倍である比較例1−2は、処理水中のセレン濃度及びフッ化物イオン濃度は実施例1と同程度であった。しかし、凝集処理後のSS濃度は実施例1と比較して約2倍の21700mg/Lとなり、また、固液分離した汚泥の汚泥体積比は60%であり、実施例1と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。
【0069】
排水とアルカリ剤とをpH9.2又は9.4で反応させた後、pH調整せず、鉄塩と反応させた比較例2−1及び2−2のうち、累計のCa(OH)添加量が、実施例1と同じである比較例2−1は、処理水中のセレン濃度は実施例1と同程度であったが、フッ化物イオンは38mg/Lであり、実施例1と比較して高かった。また、凝集処理後のSS濃度は実施例1とほぼ同等であったが、固液分離した汚泥の汚泥体積比は46%であり、実施例1と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。次に、累計のCa(OH)添加量が実施例1の約2倍である比較例2−2は、処理水中のセレン濃度及びフッ化物イオン濃度は実施例1と同程度であった。しかし、凝集処理後のSS濃度は実施例1と比較して2倍以上の24400mg/Lとなり、また、固液分離した汚泥の汚泥体積比は67%であり、実施例1と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。
【0070】
排水に鉄塩及びアルカリ剤を同時に添加し反応させた比較例3−1及び3−2のうち、鉄塩添加量及び累計のCa(OH)添加量が実施例1と同じである比較例3−1は、処理水中のフッ化物イオン濃度は、実施例1と同程度であったが、セレン濃度は0.17mg/Lであり、実施例1と比較して高かった。また、凝集処理後のSS濃度は実施例1とほぼ同等であったが、固液分離した汚泥の汚泥体積比は35%であり、実施例1と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。次に、累計のCa(OH)添加量は実施例1と同じであるが、鉄塩の添加量が2倍である比較例3−2は、処理水中のセレン濃度は実施例1と同程度であったが、フッ化物イオン濃度は24mg/Lであり、実施例1と比較して高かった。また、凝集処理後のSS濃度は実施例1と比較して1.3倍の14400mg/Lとなり、また、固液分離した汚泥の汚泥体積比は42%であり、実施例1と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。
【0071】
以上の結果から、マグネシウムイオン、フッ化物イオン、セレンを含む排水処理においては、実施例1のように、排水と鉄塩とをpH7.5の条件下で反応させた後、アルカリ剤と反応(pH9.2)させることにより、フッ化物イオン及びセレンを安定に処理することが可能となり、また沈降濃縮性の高い汚泥が得られることが確認された。なお、実施例1は、薬品使用量も抑えられるため、少ない汚泥量とすることも可能となった。
【0072】
(実施例2−1)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを350mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを6.5に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1850mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。なお、以下の実施例及び比較例でも、鉄塩添加量は500mgFe/Lであり、累計のCa(OH)添加量は2200mgCa/Lである。
【0073】
次に、高分子凝集剤(オルガノ社製、M−4020)を5mg/L添加し、10分間撹拌し、凝集処理を行った。凝集処理後の排水中のSS濃度を測定した。
【0074】
次に、凝集処理後の排水を固液分離槽で沈降分離させ、30分後、固液分離槽内の処理水を採取し、pH、フッ化物イオン濃度、セレン濃度を測定した。また、固液分離槽内に堆積した汚泥体積比(処理水量に対する汚泥の体積%)を測定した。上記各処理は、排水を40℃に維持した状態で行った。実施例2−1の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。なお、各項目の測定法及び測定機器は実施例1と同じである。
【0075】
(実施例2−2)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを400mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを7.5に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1800mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。その後の操作は実施例2−1と同様の条件とした。実施例2−2の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。
【0076】
(実施例2−3)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを450mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを8.0に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1750mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。その後の操作は実施例2−1と同様の条件とした。実施例2−3の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。
【0077】
(比較例4−1)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加した後(排水pHは5.0)、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを2200mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。その後の操作は実施例2−1と同様の条件とした。比較例4−1の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。
【0078】
(比較例4−2)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを300mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを6.0に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1900mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。その後の操作は実施例2−1と同様の条件とした。比較例4−2の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。
【0079】
(比較例4−3)
模擬排水1000mLに塩化第二鉄を500mgFe/Lとなるように添加し、その後、水酸化カルシウムを500mgCa/Lとなるように添加し、排水のpHを8.5に調整した後、15分間撹拌しながら排水と塩化第二鉄とを反応させた(第1処理工程)。その後、水酸化カルシウムスラリーを1700mgCa/Lとなるように添加し、排水を15分間撹拌して、水酸化カルシウムと排水とを反応させた(第2処理工程)。反応後のpHは9.2であった。その後の操作は実施例2−1と同様の条件とした。比較例4−3の薬品添加量及び排水pHを表7にまとめた。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例2及び比較例4の処理水のpH、フッ化物イオン濃度及びセレン濃度、凝集処理後の排水中のSS濃度、固液分離した汚泥の汚泥体積比(処理水量に対する汚泥の体積%)を表8にまとめた。
【0082】
【表8】
【0083】
実施例2−1〜2−3においては、処理水中のフッ化物イオン濃度はいずれも12〜13mg/Lであり、セレン濃度は0.1mg/L未満であった。また、凝集処理後のSS濃度は、10400〜10700mg/Lであり、固液分離した汚泥の汚泥体積比は29〜32%であった。これに対し、pH6.5未満で排水と鉄塩とを反応させた比較例4−1〜4−2では、処理水中のフッ化物イオン濃度及びセレン濃度は実施例2−1〜2−3と同程度であったが、凝集処理後のSS濃度は実施例2−1〜2−3より高く、また、固液分離した汚泥の汚泥体積濃度は、38〜45%であり、実施例2−1〜2−3と比較して高く、沈降濃縮性の悪い汚泥であった。また、pH8.0超で排水と鉄塩とを反応させた比較例4−3では、処理水中のフッ化物イオン濃度は、実施例2−1〜2−3と同程度であるが、セレン濃度は0.15mg/Lであり、実施例2−1〜2−3と比較して高かった。なお、固液分離した汚泥の汚泥体積濃度は、実施例2−1〜2−3と同程度であった。以上の結果から、pH6.5〜8.0の条件で、排水と鉄塩とを反応させることで、フッ化物イオン及びセレンを安定に処理し、沈降濃縮性の高い汚泥を得ることができることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1〜3 排水処理装置、10 第1処理槽、12 第2処理槽、14 第1凝集剤反応槽、16 第1固液分離槽、18 鉄塩タンク、20 鉄塩供給ライン、22 pH調整剤タンク、24 pH調整剤ライン、26 第1アルカリ剤タンク、28 第1アルカリ剤供給ライン、30 第1凝集剤タンク、32 第1凝集剤供給ライン、34 排水ライン、36 処理水ライン、38 汚泥排出ライン、40 汚泥返送ライン、42 第3処理槽、44 第2凝集剤反応槽、46 第2固液分離槽、48 第2アルカリ剤タンク、50 第2アルカリ剤供給ライン、52 第2凝集剤タンク、54 第2凝集剤供給ライン、56 最終処理水ライン、58 汚泥排出ライン。
図1
図2
図3