(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検出された前記障害物に対し前記車両と反対側である該障害物の後方領域の大きさを検出し、前記前進乗り越しが可能な大きさであって、かつ、前記車両全体が進入不可能な大きさであるか否かを判定するスペース判定部をさらに備え、
前記処理制御部は、前記駆動力判定結果、および、前記スペース判定部の判定結果であるスペース判定結果に基づいて、前記車両の走行制御と、該駆動力判定結果または該スペース判定結果の報知との一方または双方を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
前記後進判定部は、前記後進乗越駆動力、および、前記車両の後進駆動力に加え、前記スペース判定部が検出した前記後方領域の大きさから推定される、前記後進乗り越しにおける前記車両の慣性力に基づいて、前記後進乗り越しが可能であるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の車両制御装置。
前記前進判定部は、前記前進乗越駆動力、および、前記車両の前進駆動力に加え、前記車両の車速から推定される、前記前進乗り越しにおける該車両の慣性力に基づいて、前記前進乗り越しが可能であるか否かを判定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両制御装置。
前記乗越駆動力導出部は、前記障害物のうち、前記車両に対向する表面と反対側の裏面が、該障害物が載置された載置面に対して垂直に延在すると仮定して、前記後進乗越駆動力を導出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、車両100の構成を示す図である。
図1に示すように、車両100は、エンジン102、モータ104、および、発電機106を有する所謂ハイブリッド自動車である。ここでは、車両100としてハイブリッド自動車を例に挙げて説明するが、車両100として、電気自動車やモータ非搭載の自動車を適用してもよい。
【0016】
エンジン102は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンが適応され、不図示の燃料タンクから供給される燃料(ガソリン、ディーゼル等)を燃焼させることで動力を得、得られた動力をダンパ128に出力する。エンジン102は、ECU108(エンジンコントロールユニット)と接続され、ECU108の制御指令に基づいて駆動する。
【0017】
モータ104は、インバータ110を介してバッテリ112に接続され、バッテリ112からの電力を受けてギヤ機構114に動力を伝達する。ギヤ機構114は、モータ104からの動力を前輪シャフト116に伝達するとき、減速してトルクを上げる。前輪120は、前輪シャフト116とともに一体回転する。
【0018】
こうして、モータ104は、エンジン102の駆動力を補助する電動機として機能する。また、モータ104は、車両100の減速時、ブレーキ118の代わりに、または、ブレーキ118とともに車両100に制動力を作用させ、回生によって発電する発電機として機能する。
【0019】
ここでは、車両100は、前輪120が駆動する前輪駆動車である場合を例に挙げて説明したが、車両100として、後輪122が駆動する後輪駆動車であってもよいし、前輪120および後輪122の双方が駆動する四輪駆動車を適用してもよい。
【0020】
発電機106は、インバータ110を介してバッテリ112に接続され、後述する動力分割機構124を介してエンジン102からの動力を受けて発電した電力をバッテリ112に蓄電させる。また、発電機106は、発電した電力をモータ104に供給する場合もある。さらに、発電機106は、発電とは異なるタイミングにおいて電動機としても機能し、インバータ110を介してバッテリ112から供給される電力により駆動する。
【0021】
動力分割機構124は、サンギヤ、リングギヤ、プラネタリギヤ、キャリアからなる遊星歯車機構である。サンギヤは、発電機106の回転軸に接続されている。リングギヤは、ギヤ機構126に接続されている。キャリアは、ダンパ128を介してエンジン102に接続されている。
【0022】
動力分割機構124では、エンジン102からダンパ128を介して伝達された動力を分割し、発電機106およびギヤ機構126に伝達する。ギヤ機構126は、動力分割機構124からの動力を前輪シャフト116に伝達するとき、減速してトルクを上げる。
【0023】
車両制御装置130は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、車両100の各部を統括制御する。車両制御装置130については後に詳述する。
【0024】
車両制御装置130は、アクセルペダルセンサ132、ブレーキペダルセンサ134、車速センサ136、加速度センサ138、回転数センサ140、142とそれぞれ接続され、各センサで検出された値を示す信号が入力される。
【0025】
また、車両制御装置130は、ECU108、インバータ110と接続され、各センサから入力される信号に基づいて、ECU108、インバータ110を介してエンジン102、モータ104、発電機106の駆動または発電を制御する。ECU108は、エンジン102のエンジン回転数を検出し、エンジン回転数を示す信号を車両制御装置130に出力する。
【0026】
アクセルペダルセンサ132は、アクセルペダルの踏込み量(アクセル踏込み量)を検出し、アクセル踏込み量を示す信号を車両制御装置130に出力する。ブレーキペダルセンサ134は、ブレーキペダルの踏込み量(ブレーキ踏込み量)を検出し、ブレーキ踏込み量を示す信号を車両制御装置130に出力する。
【0027】
車速センサ136は、車両100の車速を検出し、車速を示す信号を車両制御装置130に出力する。加速度センサ138は、車両100の加速度を検出し、加速度を示す信号を車両制御装置130に出力する。回転数センサ140、142は、例えばレゾルバでなり、モータ104、発電機106の回転数をそれぞれ検出し、回転数を示す信号を車両制御装置130に出力する。
【0028】
撮像装置144は、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の撮像素子を含んで構成される。車両100には、車両100の進行方向側において2つの撮像装置144それぞれの光軸が略平行になるように、略水平方向に離隔して配置される。
【0029】
そして、撮像装置144は、車両100の前方に相当する環境を撮像し、カラー値によるカラー画像を生成することができる。ここで、カラー値は、1つの輝度(Y)と2つの色差(U、V)からなるYUV形式の色空間、3つの色相(R(赤)、G(緑)、B(青))からなるRGB形式の色空間、または、色相(H)、彩度(S)、明度(B)からなるHSB形式の色空間のいずれかで表される数値群である。
【0030】
図2は、車両制御装置130の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
図2に示すように、車両制御装置130は、撮像装置144が撮像したカラー画像に基づいて、障害物を検出する障害物検出部162として機能する。障害物検出部162は、画像処理部164、3次元位置情報生成部166、立体物特定部168で構成される。以下、障害物検出部162の機能部について、画像処理、立体物特定処理といった順に詳細な動作を説明する。
【0031】
(画像処理)
画像処理部164は、2つの撮像装置144それぞれから画像データを取得し、一方の画像データから任意に抽出したブロック(例えば水平4画素×垂直4画素の配列)に対応するブロックを他方の画像データから検索する、所謂パターンマッチングを用いて視差を導き出す。ここで、「水平」は、撮像したカラー画像の画面横方向を示し、「垂直」は、撮像したカラー画像の画面縦方向を示す。
【0032】
このパターンマッチングとしては、2つの画像データ間において、任意の画像位置を示すブロック単位で輝度(Y色差信号)を比較することが考えられる。例えば、輝度の差分をとるSAD(Sum of Absolute Difference)、差分を2乗して用いるSSD(Sum of Squared intensity Difference)や、各画素の輝度から平均値を引いた分散値の類似度をとるNCC(Normalized Cross Correlation)等の手法がある。画像処理部164は、このようなブロック単位の視差導出処理を検出領域(例えば水平600画素×垂直180画素)に映し出されている全てのブロックについて行う。ここでは、ブロックを水平4画素×垂直4画素としているが、ブロック内の画素数は任意に設定することができる。
【0033】
ただし、画像処理部164では、検出分解能単位であるブロック毎に視差を導出することはできるが、そのブロックがどのような立体物の一部であるかを認識できない。したがって、視差情報は、立体物単位ではなく、検出領域における検出分解能単位(例えばブロック単位)で独立して導出されることとなる。ここでは、このようにして導出された視差情報(後述する相対距離に相当)を画像データに対応付けた画像を距離画像という。
【0034】
図3は、カラー画像170と距離画像172を説明するための説明図である。例えば、2つの撮像装置144を通じ、検出領域174について
図3(a)のようなカラー画像170が生成されたとする。ただし、ここでは、理解を容易にするため、2つのカラー画像170の一方のみを模式的に示している。本実施形態において、画像処理部164は、このようなカラー画像170からブロック毎の視差を求め、
図3(b)のような距離画像172を形成する。距離画像172における各ブロックには、そのブロックの視差が関連付けられている。ここでは、説明の便宜上、視差が導出されたブロックを黒のドットで表している。
【0035】
図2に戻って説明すると、3次元位置情報生成部166は、画像処理部164で生成された距離画像172に基づいて検出領域174内のブロック毎の視差情報を、所謂ステレオ法を用いて、水平距離、高さおよび相対距離を含む3次元の位置情報に変換する。ここで、ステレオ法は、三角測量法を用いることで、立体物の視差からその立体物の撮像装置144に対する相対距離を導出する方法である。このとき、3次元位置情報生成部166は、対象部位の相対距離と、対象部位と同相対距離にある道路表面上の点と対象部位との距離画像172上の検出距離とに基づいて、対象部位の道路表面からの高さを導出する。かかる相対距離の導出処理や3次元位置の特定処理は、様々な公知技術を適用できるので、ここでは、その説明を省略する。
【0036】
(立体物特定処理)
立体物特定部168は、任意の対象部位を基点として、その対象部位と、水平距離の差分および高さの差分(さらに相対距離の差分を含めてもよい)が所定範囲内にある、同一の立体物に対応するとみなされた対象部位をグループ化する。ここで、所定範囲は実空間上の距離で表され、任意の値(例えば、1.0m等)に設定することができる。また、立体物特定部168は、グループ化により新たに追加された対象部位に関しても、その対象部位を基点として、水平距離の差分および高さの差分が所定範囲内にある、立体物が等しい対象部位をグループ化する。結果的に、対象部位同士の距離が所定範囲内であれば、それら全ての対象部位がグループ化されることとなる。
【0037】
そして、立体物特定部168は、3次元位置情報生成部166が導出した3次元の位置情報を用いて、グループ化された対象部位がいずれの立体物に対応するかを特定する。
【0038】
立体物特定処理によって特定された立体物に応じて、前輪120や後輪122の向きを可変とする操舵機構や、ブレーキ118やモータ104の回生による制動機構が制御される。こうして、車両制御装置130は、先行車両との車間距離を安全な距離に保つクルーズコントロールや、道路標識に示される制限速度に基づく速度制御処理などを遂行する。
【0039】
また、本実施形態においては、立体物特定部168は、例えば、車止めブロックなど、高さが所定値(例えば、20cm)以下で、車両100が乗り越し可能な障害物(段差)を立体物として特定する。そして、立体物特定処理によって特定された障害物に基づいて、後述する処理制御部による駆動制御や報知処理が遂行される。
【0040】
図4は、比較例における障害物Bの乗り越しを説明するための説明図である。
図4(a)〜(c)に示すように、例えば、駐車場に前進して停車する際に前輪Taが車止めブロックなどの障害物B(段差)を乗り越してしまったとする。
【0041】
このとき、
図4(d)に示すように、車両Vを後進させても、障害物Bの形状や車両Vの後進駆動力によっては、前輪Taが障害物Bを後進で乗り越すために要する駆動力を出力できないことがある。また、本実施形態の車両100は、動力分割機構124を備えていることから、このような課題が生じやすい。その理由を、
図5を参照しながら説明する。
【0042】
図5は、前進時および後進時の動力伝達を説明するための共線図であり、
図5(a)には、車両100の前進時における動力分割機構124によるエンジン102の動力伝達の一例を示し、
図5(b)には、車両100の後進時における動力分割機構124によるエンジン102の動力伝達の一例を示す。
【0043】
図5(a)、(b)中、0rpmを境として上側は、モータ104が車両100を前進させる向きの回転数を示し、0rpmを境として下側は、モータ104が車両100を後進させる回転数を示す。また、
図5(a)、(b)中、実線の凡例E
0は、エンジン102停止時における発電機106、エンジン102、モータ104の回転数を示す。一方、破線の凡例E
1は、凡例E
0と車速が等しく(すなわち、モータ104の回転数が等しく)、エンジン102稼動時における発電機106、エンジン102、モータ104の回転数を示す。また、
図5(a)、(b)中、白抜き矢印はエンジン102のトルクを示し、黒塗り矢印はモータ104のトルクを示す。
【0044】
車両100の前進時、
図5(a)に白抜き矢印で示すように、エンジン102のトルクは、モータ104および発電機106に分割される。その結果、車両100は、モータ104とエンジン102のトルクを合せた駆動力を発揮することができる。
【0045】
一方、車両100の後進時であっても、
図5(b)に示すように、エンジン102は、車両100を前進させる方向に回転する。その結果、エンジン102のトルクは、モータ104および発電機106に分割されると、モータ104による後進側へのトルクを打ち消す向きに作用してしまう。
【0046】
このように、車両100の後進時においては、エンジン102を停止させた方が後進側への駆動力が大きいことから、バッテリ112の充電が必要であるとき以外は、エンジン102は停止する。
【0047】
すなわち、車両100は、後進時、エンジン102の稼働、停止のいずれ場合であっても、前進時、エンジン102が稼動している場合における、モータ104とエンジン102のトルクを合せた駆動力に比べると、発揮される駆動力が小さくなる。
【0048】
また、一般に、前進側の駆動機構に比べて後進側の駆動機構は、コスト低減のために簡易化されることが多く、後進時の駆動力は、前進時の駆動力よりも小さいことが多い。特に、前輪120と後輪122にトルクを分割して伝達するトルクスプリット型の車両では、この傾向が顕著となる。
【0049】
そのため、上記の比較例のように前進して障害物Bを乗り越した後、後進側の駆動力が不足して、後進して障害物Bを乗り越すことができない事態に陥る可能性がある。
【0050】
このような事態を回避するため、
図2に示す車両制御装置130は、スペース判定部180、乗越駆動力導出部182、出力駆動力導出部184、前進判定部186、後進判定部188、処理制御部190としても機能する。
【0051】
図6は、スペース判定部180の処理を説明するための説明図である。
図6(a)に示すように、車両100の前方に障害物Bがあり、さらに前方に壁Wが設けられているとする。
【0052】
この場合、障害物Bから壁Wまでの距離が十分にあれば、
図6(b)に示すように車両100全体が障害物Bを乗り越した後、
図6(c)に示すように車両100を旋回させて障害物Bから離脱することが可能となる。
【0053】
一方、障害物Bから壁Wまでの距離が不十分である場合など、障害物Bの周囲の広さなどによっては、車両100全体が障害物Bを乗り越して旋回することはできない。このとき、後進側の駆動力が不足すると、比較例の車両Vのように、障害物Bから離脱できなくなってしまう。
【0054】
そこで、スペース判定部180は、障害物検出部162が、車両100の前方にある障害物Bを検出すると、検出された障害物Bに対し車両100と反対側である、障害物Bの後方領域の大きさを検出する。そして、スペース判定部180は、予め設定されたスペース判定条件を満たすか否かを判定する。
【0055】
ここで、スペース判定条件は、障害物Bの後方領域が、車両100の前輪120が障害物Bを前進で乗り越し(以下、前進乗り越しと称す)可能な大きさであって、かつ、車両100全体が進入不可能な大きさであるという条件である。
【0056】
例えば、スペース判定部180は、障害物Bの後方に壁Wが設けられている場合、障害物Bから壁Wまでの距離Xを導出する。この導出処理は、例えば、障害物検出部162によって特定された障害物Bおよび壁Wの3次元の位置情報によって行われる。
【0057】
さらに、スペース判定部180は、障害物Bの高さH、奥行き長さY、前輪120の接地点から障害物Bまでの距離Lも導出する。これらの導出値は、後述する乗越駆動力導出部182、出力駆動力導出部184、前進判定部186、後進判定部188の処理などに用いられる。
【0058】
そして、スペース判定部180は、障害物Bの後方領域が、前進乗り越し可能な大きさであるかを、例えば、距離Xが車両100の全長の半分以上であるかによって判断する。また、スペース判定部180は、障害物Bの後方領域が、車両100全体が進入不可能な大きさであるかを、例えば、車両100の全長未満であるかによって判断する。
【0059】
すなわち、スペース判定部180は、距離Xが所定範囲(例えば、車両100の全長の半分以上、かつ、全長未満)内であると、スペース判定条件を満たすと判定する。
【0060】
スペース判定条件を満たす場合、前進乗り越し後に、後進乗り越し(車両100の前輪120が障害物Bを後進で乗り越すこと)ができず、障害物Bから離脱できなくなるおそれがあることから、乗越駆動力導出部182など、他の機能部による処理が行われる。
【0061】
図7は、乗越駆動力導出部182の処理を説明するための説明図である。
図7(a)には、前進乗り越しに要する駆動力である前進乗越駆動力Faの導出を説明するための図である。また、
図7(b)は、後進乗り越しに要する駆動力である後進乗越駆動力Fbの導出を説明するための図である。
図7(a)、(b)では、乗り越しのとき、初めに障害物Bに当接したときの前輪120を実線で示し、障害物Bに乗り上げたときの前輪120を破線で示す。
【0062】
図7(a)にクロスハッチングで示すように、前輪120には、車両100の自重の一部が分配された軸重Ftが鉛直下方に向かって作用している。軸重Ftのうち、前輪120における障害物Bとの接地点Aにおける接線方向の力の成分Fta(
図7(a)中、黒塗り矢印で示す)は、Ft・sinαとなる。
【0063】
この角αは余弦定理から下記の数式1によって導出される。
【数1】
…(数式1)
ここで、長さbは、前輪120の半径cから障害物Bの高さHを減算した値となり、長さaは、パスカルの定理から長さb、半径cで求められる。すなわち、角αおよび力の成分Ftaは、検出された障害物Bの高さH、および、既知の前輪120の半径cから導出される。
【0064】
また、cosα=b/c、および、b=c−Hの関係式から、下記の数式2が導かれる。数式2を用いても、角αおよび力の成分Ftaは、検出された障害物Bの高さH、および、既知の前輪120の半径cから導出される。
【数2】
…(数式2)
【0065】
この力の成分Ftaが前進乗り越しのときに抵抗となる。角αは、前輪120の障害物Bへの乗り上げに伴って漸減し、力の成分Ftaは、角αの変化に伴って連続的に減少する。
【0066】
また、車速の車両100全体に作用する走行抵抗(例えば、車速の影響を受けない転がり抵抗など)を、走行抵抗Rとする。すなわち、Ft・sinα+Rが抵抗の総和となる。車両100は、少なくとも、この抵抗と等しい駆動力を出せれば、前進乗り越しが可能となる。すなわち、前進乗越駆動力Fa=Ft・sinα+Rとなる。
【0067】
一方、後進乗り越しにおいては、
図7(b)に示すように、前進乗り越しと実質的に同じ力のつり合いが成立するため、後進乗越駆動力Fbは、前進乗越駆動力Faと等しい。ただし、障害物検出部162は、障害物Bを撮像装置144のカラー画像170から検出していることから、障害物Bのうち、車両100に対向する表面Baと反対側の裏面Bb側の形状は、判別できない。
【0068】
そこで、乗越駆動力導出部182は、
図7(b)に示すように、障害物Bの裏面Bbが、障害物Bが載置された載置面S(路面など)に対して垂直に延在すると仮定して、後進乗越駆動力Fbを導出する。
【0069】
その結果、障害物Bの裏面Bbとして想定される形状の中で、後進乗越駆動力Fbが最も大きな値で導出される。そのため、後述する後進乗り越しの可否の判定において、後進乗り越しが不可能であるにもかかわらず、後進乗り越し可能であると誤判定してしまう事態を回避することが可能となる。
【0070】
そして、乗越駆動力導出部182は、障害物Bへの近接を特定するために予め設定された障害物近接条件を満たすか否かを判定する。障害物近接条件は、例えば、車両100の障害物Bへ近接する方向への移動距離が、スペース判定部180が推定した障害物Bまでの距離Lから所定誤差範囲内に到達しているかが挙げられる。車両100の障害物Bへ近接する方向への移動距離は、例えば、前輪120、後輪122の回転数、モータ104の回転数、ODO(ODOmeter)、カラー画像170などから推定される。
【0071】
また、モータ104がトルクを出力している状態で、前輪120や後輪122がロックしていると、障害物Bを乗り越すために前輪120や後輪122の回転が一時的に停止(減速)したものと推定される。そのため、モータ104がトルクを出力している状態で、前輪120や後輪122がロックしているか否かも、障害物近接条件として挙げられる。ここで挙げた2つの条件が満たされると、障害物近接条件が満たされたと判定することとする。
【0072】
障害物近接条件を満たさない場合、乗越駆動力導出部182は、障害物Bからの離隔を特定するために予め設定された障害物離隔条件を満たすか否かを判定する。障害物離隔条件は、例えば、障害物Bを検出してから所定時間が経過しているかが挙げられる。障害物Bを検出してからの時間経過が大きい場合、障害物Bには向かっていないことが推定されるからである。
【0073】
また、車両100の障害物Bへ近接する方向への移動距離が、障害物Bまでの距離Lを超えているか否かも、障害物離隔条件として挙げられる。車両100の障害物Bへ近接する方向への移動距離が、障害物Bまでの距離Lを超えていれば、車両100が障害物Bを避けて走行したと推定されるからである。ここで挙げた2つの条件が満たされると、障害物離隔条件が満たされたと判定することとする。
【0074】
上記の障害物近接条件および障害物離隔条件は一例であって、障害物Bへの近接または離隔が推定できれば、他のどのような条件を設定してもよい。
【0075】
障害物離隔条件を満たす場合、検出された障害物Bについては、乗り越しに関する制御を行わない。障害物離隔条件を満たすまで、乗越駆動力導出部182は、障害物近接条件を満たすか否かを繰り返し判定する。障害物近接条件を満たすと、出力駆動力導出部184の導出処理に処理を移す。
【0076】
出力駆動力導出部184は、前進乗り越しにより障害物を乗り越す際に出力し得る車両100の前進駆動力、および、後進乗り越しにより障害物を乗り越す際に出力し得る車両100の後進駆動力を導出する。
【0077】
ここで、車両100の前進駆動力および後進駆動力は、バッテリ112およびインバータ110などの温度、バッテリ112のSOC(State Of Charge)などの影響で随時変化する。そのため、出力駆動力導出部184は、最新の前進駆動力および後進駆動力を導出することで、前進判定部186および後進判定部188の判定処理の精度を高めている。
【0078】
また、上述したように、前進時においては、車両100は、モータ104とエンジン102のトルクを合せた駆動力を発揮することができる。そこで、出力駆動力導出部184は、エンジン102から出力可能なトルクを導出し、動力分割機構124によって、モータ104側に割り当てられるエンジン102のトルクと、モータ104のトルクを合せて前進駆動力を導出する。
【0079】
前進判定部186は、前進乗越駆動力Faと車両100の前進駆動力を比較して、前進乗り越しが可能であるか否かを判定する。このとき、前進判定部186は、車両100の車速から推定される、前進乗り越しにおける車両100の慣性力を導出する。
【0080】
この車両100の慣性力は、車両100の前進駆動力を補う向きに作用する。すなわち、前進乗り越しに要する前進乗越駆動力Faは、車両100の慣性力によって補正され、慣性力の分だけ減算される。車両100の車速Va、所定の係数Kとすると、慣性力による補正項KVaで表される。
【0081】
そして、補正後の前進乗越駆動力Fa’とすると、前進乗越駆動力Fa’は、Fa’=Ft・sinα+R−KVaの式で導出される。前進判定部186は、車両100の前進駆動力が、補正後の前進乗越駆動力Fa’以上であれば、前進乗り越しが可能であると判定する。
【0082】
このように、前進判定部186は、前進乗越駆動力Fa、および、車両100の前進駆動力に加え、車両100の慣性力に基づいて、前進乗り越しが可能であるか否かを判定する。
【0083】
後進判定部188は、後進乗越駆動力Fb、および、車両100の後進駆動力に加え、スペース判定部180が検出した後方領域の大きさから推定される、後進乗り越しにおける車両100の慣性力に基づいて、後進乗り越しが可能であるか否かを判定する。
【0084】
後進判定部188は、スペース判定部180が検出した後方領域の大きさ(例えば、
図6に示す距離X)から、後進乗り越しにおいて、車両100が後進して加速できる最大の速度Vbを推定する。例えば、距離Xが大きい方が、後進して加速する距離を大きくとれることから、推定される最大の速度Vbは大きくなる。
【0085】
速度Vbを推定した後、後進判定部188は、後進乗り越しにおける車両100の慣性力を導出する。ここでは、後進乗り越しにおける慣性力による補正項は、補正項KVbとなる。
【0086】
そして、補正後の後進乗越駆動力Fb’は、Fb’=Ft・sinα+R−KVbの式で導出される。後進判定部188は、車両100の後進駆動力が、補正後の後進乗越駆動力Fb’以上であれば、後進乗り越しが可能であると判定する。
【0087】
このように、後進判定部188は、後進乗越駆動力Fb、および、車両100の後進駆動力に加え、後進乗り越しにおける車両100の慣性力に基づいて、後進乗り越しが可能であるか否かを判定する。
【0088】
処理制御部190は、前進乗り越しが可能であるか、および、後進乗り越しが可能であるかの駆動力判定結果に基づいて、車両100の制御、または、駆動力判定結果の報知を行う。
【0089】
図8は、本実施形態の障害物Bの乗り越しを説明するための説明図である。
図8(a)に示すように、障害物Bが検出され、スペース判定条件を満たす状況で、車両100が前進乗り越しを試みるとする。
【0090】
このとき、前進乗り越しおよび後進乗り越しのいずれも可能であるとの駆動力判定結果が出ると、
図8(b)に示すように、処理制御部190は、例えば、エンジン102やモータ104の出力を上げて車両100の駆動力を上昇させるなど、前進乗り越しを補助するための制御処理を行う。前進乗り越しを補助する処理としては、その他、例えば、モータ104のモータロックトルク閾値を一時的に変更することなどが挙げられる。
【0091】
また、前進乗り越しまたは後進乗り越しのいずれかが不可能であるとの駆動力判定結果が出ると、
図8(c)に示すように、処理制御部190は、例えば、エンジン102やモータ104の出力を下げたり、ブレーキ118やモータ104の回生による制動機構を制御したりして、車両100を減速し、前進乗り越しの回避を補助するための制御処理を行う。
【0092】
また、処理制御部190は、例えば、カーナビゲーションの表示部、または、車載のディスプレイなどに、前進乗り越しを回避させるための警告文などを表示させたり、車載スピーカから前進乗り越しを回避させるための警告音声などを出力させたりする。
【0093】
このように、処理制御部190は、駆動力判定結果、および、スペース判定条件を満たすか否かを示すスペース判定結果に基づいて、車両100の制御、または、駆動力判定結果もしくはスペース判定結果の報知を行う。
【0094】
図9は、車両制御処理の流れを示すフローチャートである。
図9に示す車両制御処理は、所定間隔で繰り返し実行される。
図9に示すように、障害物検出部162は、車両100の乗り越しの対象となる障害物B(例えば、段差)を検出したか否かを判定する(S200)。乗り越し対象の障害物Bを検出していない場合(S200におけるNO)、当該車両制御処理を終了する。
【0095】
乗り越し対象の障害物Bを検出すると(S200におけるYES)、スペース判定部180は、スペース判定条件を満たすか否かを判定する(S202)。スペース判定条件を満たさない場合(S202におけるNO)、当該車両制御処理を終了する。この場合、当該車両制御処理とは別の制御フローによって、駆動制御や制動制御が行われる。
【0096】
スペース判定条件を満たす場合(S202におけるYES)、乗越駆動力導出部182は、慣性力によって補正された前進乗越駆動力Fa’を導出し(S204)、続いて、慣性力によって補正された後進乗越駆動力Fb’を導出する(S206)。
【0097】
そして、乗越駆動力導出部182は、障害物Bへの近接を特定するために予め設定された障害物近接条件を満たすか否かを判定する(S208)。障害物近接条件を満たさない場合(S208におけるNO)、乗越駆動力導出部182は、障害物Bからの離隔を特定するために予め設定された障害物離隔条件を満たすか否かを判定する(S210)。
【0098】
障害物離隔条件を満たす場合(S210におけるYES)、当該車両制御処理を終了する。障害物離隔条件を満たさない場合(S210におけるNO)、近接判定処理ステップS208に処理を戻す。
【0099】
近接判定処理ステップS208において、障害物近接条件を満たす場合(S208におけるYES)、出力駆動力導出部184は、車両100の前進駆動力、および、車両100の後進駆動力を導出する(S212)。続いて、後進判定部188は、後進乗越駆動力Fb’および後進駆動力に基づいて、後進乗り越しが可能であるか否かを判定する(S214)。後進乗り越しが可能であれば(S214におけるYES)、前進判定部186は、前進乗越駆動力Fa’および前進駆動力に基づいて、前進乗り越しが可能であるか否かを判定する(S216)。
【0100】
前進乗り越しが可能であれば(S216におけるYES)、処理制御部190は、前進乗り越しを補助するための処理を行う(S218)。一方、後進乗り越しが可能でない(S214におけるNO)、または、前進乗り越しが可能でないと判定されると(S216におけるNO)、処理制御部190は、前進乗り越しの回避を補助するための処理を行う(S220)。
【0101】
上述したように、車両制御装置130は、駆動力判定結果に基づいて、車両100の制御や報知を行うことから、前進乗り越しを行った後、駆動力が不足して後進乗り越しができない事態に陥ることを回避することが可能となる。
【0102】
また、車両制御装置130は、スペース判定部180を備えることから、車両100全体が障害物Bを乗り越して障害物Bから離脱できる場合には、前進乗り越しの回避を補助するための制御処理を行わない。そのため、車両100に、無意味に前進乗り越しを回避させてしまう事態を回避することが可能となる。
【0103】
また、前進判定部186および後進判定部188は、車両100の慣性力の影響も加味して、前進乗り越しおよび後進乗り越しの可否を判定することから、判定精度を向上することが可能となる。
【0104】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0105】
例えば、上述した実施形態では、障害物検出部162は、カラー画像170に基づいて障害物Bを検出する場合について説明したが、例えば、赤外線センサなど、他の手段で障害物Bを検出してもよい。
【0106】
また、上述した実施形態では、車両制御装置130は、前進判定部186を備え、乗越駆動力導出部182は、前進乗越駆動力を導出し、出力駆動力導出部184は、前進駆動力を導出し、駆動力判定結果には、前進判定部186の判定結果が含まれる場合について説明した。しかし、前進判定部186は必須の構成ではなく、前進乗越駆動力や前進駆動力を導出せず、駆動力判定結果に前進判定部186の判定結果が含まれずともよい。ただし、前進判定部186による判定処理を行い、その判定結果を駆動力判定結果に含めることで、処理制御部190は、前進乗り越しの可否に基づく走行制御や報知が可能となる。その結果、処理制御部190は、例えば、後進乗り越しが可能であって、かつ、前進乗り越しが不可能である場合に、前進乗り越しの回避を補助するための処理を行い、前進乗り越しの試みに伴う振動などを回避させることが可能となる。
【0107】
また、上述した実施形態では、車両制御装置130は、スペース判定部180を備える場合について説明したが、スペース判定部180は必須の構成ではない。
【0108】
また、上述した実施形態では、前進判定部186および後進判定部188は、車両100の慣性力の影響も加味して、前進乗り越しおよび後進乗り越しの可否を判定する場合について説明したが、慣性力の影響は考慮せずに、前進乗り越しおよび後進乗り越しの可否を判定してもよい。
【0109】
また、上述した実施形態では、乗越駆動力導出部182は、障害物Bの裏面Bbが載置面Sに対して垂直に延在すると仮定して、後進乗越駆動力を導出する場合について説明したが、裏面Bbを他の形状と仮定して後進乗越駆動力を導出してもよい。