(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6329705
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】ポリスルフィド蒸煮液を用いたコスト効率の良いクラフト蒸煮法
(51)【国際特許分類】
D21C 1/06 20060101AFI20180514BHJP
D21H 11/04 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
D21C1/06
D21H11/04
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-531446(P2017-531446)
(86)(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公表番号】特表2017-530270(P2017-530270A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】SE2014050975
(87)【国際公開番号】WO2016032374
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】517064728
【氏名又は名称】ヴァルメト アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100064388
【弁理士】
【氏名又は名称】浜野 孝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100194113
【弁理士】
【氏名又は名称】八木田 智
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】アントンソン,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】オルスソン,クリステル
【審査官】
佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−525519(JP,A)
【文献】
特開平09−003787(JP,A)
【文献】
特開2000−336587(JP,A)
【文献】
特表2005−514535(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0240167(US,A1)
【文献】
特開平07−189153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00 − 1/38
D21C 1/00 − 11/14
D21D 1/00 − 99/00
D21F 1/00 − 13/12
D21G 1/00 − 9/00
D21H 11/00 − 27/42
D21J 1/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルフィド蒸煮液を用いた、リグニン含有のセルロース材料からの高いパルプ収率のクラフトパルプの製造方法であって、
予め蒸気加熱していないリグニン含有のセルロース材料を、垂直の第一容器の頂部に供給し、最大0.2barで、好ましくは最大0.1barで前記容器の頂部に圧力を適用し、そして前記第一容器内のリグニン含有のセルロース材料の上位水準を設定し;
ポリスルフィド液の形態にあるアルカリ蒸煮液の全供給量の少なくとも80%を前記第一容器に供給し、そして前記上位水準の下に蒸煮液の下位水準を設定し、前記ポリスルフィド液から水を蒸発させるために、前記ポリスルフィド液の添加前に、沸点よりも高い温度まで前記ポリスルフィド液を加熱し、そしてこうして、蒸煮液の下位水準の上の容量に保持した前記リグニン含有のセルロース材料を蒸気加熱し;
前記第一容器内の懸濁したリグニン含有のセルロース材料を、少なくとも1の、好ましくは1乃至20のH−ファクターに達する時間の間保持し;
前記懸濁したリグニン含有のセルロース材料を、前記第一容器の底部から垂直の第二容器の頂部に供給し、そこでは、40未満の最終的なカッパー価まで130℃乃至160℃の範囲の最大限の蒸煮温度で前記リグニン含有のセルロース材料を蒸煮する一方で、前記第二容器内へと供給する間中か又は蒸煮する間中、好ましくはポリスルフィド液の形態にあるアルカリ蒸煮液の残りの幾分かを添加する、
ことから成る、製造方法。
【請求項2】
前記蒸煮液の下位水準の上の容量に保持した前記リグニン含有のセルロース材料に対し、さらなる蒸気を加える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第一容器内の蒸煮液容量の一部を前記第一容器の壁面から引き出し、そして第一循環部内のリグニン含有のセルロース材料の容積へと還流させる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第一循環部を、熱源から加熱する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリスルフィド蒸煮液を前記第一循環部に添加する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第一容器に添加する前記ポリスルフィド液を、熱源から加熱する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱したポリスルフィド液を、前記第一循環部に添加する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記熱源は、前記第二容器から引き出した、高温蒸煮廃液である、請求項4乃至6のうちいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記熱源は、蒸気、好ましくは、パルプ工場の低圧蒸気ネットからの蒸気である、請求項4乃至6のうちいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第一容器内の蒸煮液は、前記ポリスルフィド蒸煮液を添加したときに、60g/Lよりも高いアルカリ濃度、及び3g/Lよりも高いか、又は0.09mol/Lよりも高いポリスルフィド濃度を有し、前記第一容器内の液対木材比を2.0乃至3.2の範囲内に設定する、請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、ポリスルフィド蒸煮液を用いた、リグニン含有のセルロース材料からの高いパルプ収率を有するクラフトパルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
連続蒸解器における1960年代から1970年代に実施された従来のクラフト蒸煮においては、蒸解器の頂部に白液の全量が供給されていた。高い蒸煮温度で確立された高アルカリ濃度がパルプ粘度にとって悪影響であることが、やがて明らかとなった。
【0003】
それ故、蒸煮の開始における悪影響のある高アルカリ濃度ピークを低減させるための蒸煮方法が開発され、そしてそれによって、MCC、EMCC、ITC及びLo−Solids蒸煮のような蒸煮方法において行われる蒸煮中には、アルカリ供給量が分けられた。
【0004】
その他の蒸煮方法は、蒸煮段階前に黒液含浸を用いて行われ、ここでは、木材の酸性度を中和するために、且つチップをアルカリスルフィドで含浸するために、黒液中の残存アルカリが用いられた。ヴァルメット(Valmet)により初めて売り込まれたそのような蒸煮方法の一つが、コンパクト蒸煮(Compact Cooking)であり、比較的高い残存アルカリ濃度を有する黒液が、蒸煮の初期局面から引き出され、且つ前の含浸段階に供給される。
【0005】
蒸煮プロセス、即ち、含浸を包含するプロセスの間中のアルカリ消費の一つの局面は、アルカリ消費の大部分が木材酸性度の初期中和に依存しており、そして全アルカリ消費のほぼ50%乃至75%が当該中和及びアルカリ含浸プロセス中に生じている、ということである。それ故、多量のアルカリが、当該初期中和に供給されるために必要である。このことが、従来の蒸煮における蒸解器の頂部に供給された場合に高アルカリ濃度がパルプ粘度に悪影響を及ぼすことが見出されるため、厄介な問題を成立させている。高アルカリ消費及び蒸煮プロセスの初期における蒸解器の頂部のアルカリ濃度を低減させる必要性に見合った一つの解決策が、多量のアルカリ処理液、好ましくは残存アルカリ内容物を有するが低アルカリ濃度を有する黒液であって、木材1kg当り比較的多量の全アルカリであるが依然として低アルカリ濃度の存在中に生じる、黒液を供給することであった。
【0006】
特許文献1(=欧州特許第1458927号明細書)において、ヴァルメットは、黒液処理前にポリスルフィド蒸煮液を用いた前処理段階を開示した。当該プロセスにおいては、当該前処理段階後であって、且つ黒液処理の開始前に、ポリスルフィド処理液が除かれた。当該ポリスルフィド処理段階はまた、好ましくは、2ないし10分間の処理時間で短く保持された。
【0007】
最近登録された、国際的文献である特許文献2において、オレンジ液(orange liquor)としてもまた命名されている、ポリスルフィド液の形態にある蒸煮液の100%が、蒸解器の頂部、つまり含浸段階の開始時に供給される、クラフト蒸煮プロセスの例が示されている。それにはまた、ポリスルフィド処理段階の開始時において、60℃から120℃まで温度が上げられる。しかしながら、実施例1に示されるように、適切な量の水を添加することによる蒸解器の頂部において、およそ3.5の液対木材比が成立する。この液対木材比が、安定したプロセスに必要な連続蒸煮における標準的な液対木材比として、しばしば認識されている。当該提案に従うと、比較的高アルカリ濃度の残存ポリスルフィド処理液の一部が除かれ、そして蒸煮段階の開始時における比較的低アルカリ濃度の蒸煮液で置換され、そして当該除かれた残存ポリスルフィド処理液が、蒸煮の後期の段階で添加される。
【0008】
ヴァルメットの最近の特許出願である特許文献3において、ポリスルフィドクラフト蒸煮プロセス用の最も有益な方法が開示されている。この原理では、2.0乃至3.2の範囲の低い液対木材比のポリスルフィド蒸煮液を有する低温での第一含浸段階が開示されている。そのような条件を有する全ての利点が開示されており、そしてこれら条件を完全に利用する本発明にもまた、参照により包含されている。しかしながら、特許文献3において開示される系は、ポリスルフィド含浸用の含浸容器内をより高温にし得るスルースフィーダー(Slice feeder)に先行する、加圧された含浸容器を用いる。
【0009】
蒸煮条件を記載している一つのモデルは、H−ファクターである。H−ファクターは、クラフトパルプにおける脱リグニン化の速度についての速度論的モデルである。それは、温度(T)と時間(t)とを組み合わせた単一の変化し得るモデルであり、脱リグニン化が一つの単一反応であると仮定している。仮に、活性化エネルギーが134kJ/molに相当すると仮定した場合、H−ファクターは、
【化1】
によって決定され得る。
【0010】
この一つの単一反応モデルは非特許文献1に記載されており、蒸煮対照を定義付けるためにパルプ団体全体で用いられており、そして蒸煮の条件を定義付けるために本発明において使用される。http://www.knowpulp.com/english/demo/english/pulping/cooking/1 process/1 principle/h-tekijan laskenta.htm のインターネットにて利用し得る、上記概略した単一反応モデルを用いた、オンラインH−ファクター計算機がまた存在しており、それによれば、どのように付与された蒸煮段階についても、即ち加熱の間中についても(典型的に含浸の間中)並びに蒸煮の間中についても(最大限の蒸煮温度における)、誰でもH−ファクター、そしてそれらの段階において確率された全H−ファクターを算出し得る。
【0011】
この低いH−ファクターはまた、上記開示のとおり使用されるH−ファクターモデルと共に、特許文献3に開示されており、以下のH−ファクターは、相対的な保持時間及び温度[Time(時間)
★Temp(温度)=H];
【化2】
を要する。
【0012】
僅かに異なるH−ファクター、又は134kJ/molとは異なる活性化エネルギーを蒸煮の間に、即ち初期の、バルクの、及び最終の脱リグニン化の間に適用し得るとしても、公開されている多数の科学的研究の場合でもある比較研究についての含浸及び加熱フェイズを包含する蒸煮全体について同じH−ファクターが用いられる。様々な木材種について、とりわけ一年生植物、硬材及び軟材の間において、様々なH−ファクターが存在するが、本願については、134kJ/molの活性化エネルギーを用いて、全ての種の木材及び全ての蒸煮フェイズについて基本となる参照として、上記特定されたH−ファクターが用いられる。H−ファクターは、脱リグニン活性についてのプロセスパラメータを定義するのに最良のパラメータである。それ故、H−ファクター1は、殆ど脱リグニンされていないことを示しており、蒸煮プロセスにおいて最も頻繁に要求される全H−ファクターは300乃至1500であり、そして典型的には、完全に漂白された品質についてはおよそ700であり、全ての脱リグニン化作業の僅か数%が得られるのみでは、H−ファクターが1となることを示す。仮に、高収率の蒸煮の場合であり得るように、最終パルプについて300だけのH−ファクターが必要である場合には、H−ファクターが1とは、全ての脱リグニン化作業の1/300、即ち0.4%未満が、含浸の間に得られることを示すにすぎない。
【0013】
このように、蒸煮開始における両方のアルカリ濃度が低減され、且つ、蒸煮プロセスからの高い収率がとりわけ炭水化物を安定化するポリスルフィド蒸煮液の添加に求められる、蒸煮法の開発が為されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Gullichsen,Johan;Fogelholm,Carl.Johan(2000),“Chemical Pulping”,Papermaking Science and technology 6A,Tappi Publications,291頁−292頁
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第7270725号
【特許文献2】米国特許第7828930号
【特許文献3】国際公開第2013/032377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の概要
本発明は、ポリスルフィド含浸プロセスにおいて低温条件が成立することを保証する一方で、当該プロセス用の必要な設備を低減する、改良され且つ簡略化された含浸プロセスに基づいている。そのため、例えば、低い液対木材比において低温含浸を有する原理を概略している特許文献3に示されるように、含浸容器内で高圧供給システム及び頂部セパレータを設置する必要が無い。本発明の方法に従うと、ポリスルフィドの熱量を利用し、並びに、最大限の蒸煮温度まで温度を上げるのに必要なその後の蒸煮プロセスにおける加熱の必要性を低減するため、ポリスルフィド含浸プロセスが可能な限り高温で保持されるため、蒸煮プロセス全体の熱効率もまた改良される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、特許文献3に概略されるプロセス条件を完全に利用するが、コンパクト蒸煮(Compact Cooking(登録商標))システムの黒液含浸システムからのlmpBin(登録商標)コンセプト、ヴァルメットABにより開発及び提供される全てのシステムを利用するため、ずっと低い投資コストである。
【0018】
コンパクト蒸煮及びlmpBinのコンセプトは、Chemical Pulping Part 1,Fibre Chemistry and Technology,第2版,2011年,第350頁乃至第356頁に開示されており、チップの蒸気加熱のために必要な蒸気をフラッシュ(flash оff)させる高温黒液の添加と共に、蒸気加熱用の及び含浸用の大気圧(常圧)下含浸容器を用いる。しかしながら、本発明のプロセスについては、使用する含浸液中にメチルメルカプタンのような非凝縮性硫黄を含まないため、悪臭ガスの発生の危険性が最小限に低下されている。
【0019】
このように、lmpBinコンセプトは、蒸気加熱の低温頂部制御から高温頂部へと改変され得、即ち、洗浄等級のテレピンが放出ガスから抽出され得るように、蒸気が含浸容器の頂部を介して吹き出される。lmpBinを用いた慣用の黒液含浸における含浸容器の低温頂部制御は、前記書籍Chemical Pulping Part 1,第2版の第356頁に開示されている。
【0020】
本発明の1つの目的は、ポリスルフィド蒸煮液を用いた、リグニン含有のセルロース材料からの高いパルプ収率のクラフトパルプの製造方法であって、
予め蒸気加熱していないリグニン含有のセルロース材料を、垂直の第一容器の頂部に供給し、最大0.2barで、好ましくは最大0.1barで前記容器の頂部に圧力を適用し、そして前記第一容器内のリグニン含有のセルロース材料の上位水準を設定し;
ポリスルフィド液の形態にあるアルカリ蒸煮液の全供給量の少なくとも80%を前記第一容器に供給し、そして前記上位水準の下に蒸煮液の下位水準を設定し、前記ポリスルフィド液から水を蒸発させるために、前記ポリスルフィド液の添加前に、沸点よりも高い温度まで前記ポリスルフィド液を加熱し、そしてこうして、蒸煮液の下位水準の上の容量に保持した前記リグニン含有のセルロース材料を蒸気加熱し;
前記第一容器内の懸濁したリグニン含有のセルロース材料が、少なくとも1の、好ましくは1乃至20のH−ファクターに達する時間の間保持し;
前記懸濁したリグニン含有のセルロース材料を、前記第一容器の底部から垂直の第二容器の頂部に供給し、そこでは、40未満の最終的なカッパー価まで130℃乃至160℃の範囲の最大限の蒸煮温度で前記リグニン含有のセルロース材料を蒸煮する一方で、前記第二容器内へと供給する間中か又は蒸煮する間中、好ましくはポリスルフィド液の形態にあるアルカリ蒸煮液の残りの幾分かを添加する、
ことから成る、製造方法を提供することである。
【0021】
本プロセスについては、第一容器がセルロース材料用の蒸気加熱容器として、並びにポリスルフィド蒸煮液とセルロース材料の完全な含浸の容器としての両方として用いられるため、プロセスシステムが比較的簡略化されている。第一容器の頂部に、高価な高圧供給システムも、及び附属の頂部セパレータの必要も無く、その代わりに簡素なコンベヤーベルトがセルロース材料を頂部に供給し、そしてセルロース材料を第一容器の頂部内に供給するための低圧スルースフィーダーを用いる。容器が常圧中であるため、蒸煮液表面において温度はおよそ100℃に維持され、そして、全ての過剰温度が蒸煮液表面から水を蒸発させる、即ち自己制御システムのため、発熱反応又は容器底部の高温蒸煮液の過剰供給による制御されていない温度上昇が成立し得ない。生ずる僅かな温度上昇は、好ましくは、容器内の既存の静水頭における沸点に相当する蒸煮液温度を上昇させ得る発熱反応による温度上昇である。このため、液水準の圧力が常圧である場合に、液水準の下10メートルにおいては、液はおよそ120℃の温度と仮定され、そして液水準の下20メートルにおいては、温度は最高で133℃であり得る。それ故、常圧容器において、液表面の温度は100℃を超えず、懸濁液の下方流中に幾らかの発熱加熱が生じ得、そして底部においては、沸騰を引き起こすことなく、液水準20メートルを設定する場合には133℃まで、より高温の液が添加され得る。
【0022】
他の目的は、クラフト蒸煮前のポリスルフィド含浸と黒液含浸との間に、これら2つの蒸煮様式の間の蒸煮液経路における僅かな改変で、改変され得るプロセスシステムを可能とすることである。
【0023】
本方法の1つの好ましい態様によると、さらなる蒸気が、蒸煮液の下位水準の上に保持された容量のリグニン含有のセルロース材料に加えられる。このオプションは、セルロース材料が、現在の周囲条件の温度を有する、即ちおよそ−30℃乃至−40℃にて急速冷凍されてしまうために、寒冷気候におけるパルプ工場に必要である。しかし通常の操作においては、ポリスルフィド蒸煮液の添加から放出される蒸気で完全に十分である。
【0024】
本方法の別の好ましい態様によれば、第一容器内の蒸煮液の容量の一部が第一容器の壁面から引き出され、そして第一循環部において、リグニン含有のセルロース材料の塊へと還流される。当該態様において、好ましくは、第一循環部は熱源から加熱される。
【0025】
択一的に又は付加的には、ポリスルフィド蒸煮液が熱源から加熱された第一容器に添加される。加熱は、蒸気を放出するために必要である一方で、蒸煮液循環において引き出され得る、どのセルロース材料も存在していない蒸煮液による、熱交換の妨害のおそれが低いために、ポリスルフィドの加熱が特に有益である。
【0026】
加熱されたポリスルフィド蒸煮液は、他の蒸煮液とさらに混合することなく容器内に直接に添加され得るが、本発明の好ましい態様においては、ポリスルフィド蒸煮液は第一循環部に添加される。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、循環部及び/又はポリスルフィド蒸煮液を加熱するために、熱源は、第二容器から引き出された高温蒸煮廃液が用いられる。当該蒸煮廃液は、第二蒸煮容器から引き出されたときの最大限の蒸煮温度を保持しており、そのため第一容器内の蒸煮液を加熱する場合に用いられるかなりの量の発熱量を包含している。
【0028】
択一的に、用いられる熱源は、蒸気、好ましくはパルプ工場の低圧蒸気ネットからの蒸気である。加熱は100℃近くの温度に到達するように為されるため、低圧蒸気で十分であり、多くの工場において最も頻繁に利用できる。中圧蒸気はより高価であり、100℃をはるかに超えるプロセス条件をさらに要する場合に利用される。
【0029】
最も好ましい様式の実施によれば、本発明の方法は、ポリスルフィド蒸煮液を添加して、前記第一容器内で2.0乃至3.2の液対木材比が確立する場合に、第一容器内の蒸煮液が、60g/Lを超えるアルカリ濃度及び3g/Lを超えるか又は0.09mol/Lを超えるポリスルフィド濃度を有するところの、特許文献3に概略されている条件に従って実施される。しかしながら、セルロース材料は、含浸容器への供給前はいかなる蒸煮液においても懸濁されないために、この低い液対木材比の成立は、本発明において成立させることがはるかに容易である。セルロース材料は、セルロース材料の天然の水分量以下の液体を含有しているため、添加したポリスルフィド蒸煮液を用いる本方法は、それ故、それより前の供給システムから含浸容器内に運搬される多容量の蒸煮液と競合する必然性が無い。
【0030】
本方法において用いられるリグニン含有のセルロース材料は、好適には、軟材、硬材又は一年生植物である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本方法を実施し得る蒸煮システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の詳細な説明
図1において、本方法を実施し得る、第一常圧含浸用容器A及び第二蒸気/液相蒸解器Bを有する、2容器型蒸煮システムを示す。当該システムの機能を、下記部に記載する。
【0033】
供給
この型のシステムにおいては、最初に、リグニン含有のセルロース材料であるチップは、コンベヤーベルトCBによって、常圧含浸容器Aの頂部に供給され、そして慣用のスルースフィーダーSFを用いた頂部内に流し供給される。当該容器内において、第一のチップの上位水準LE
1が成立する。同時に、第二の液体の下位水準LE
2を確立した当該容器に含浸液が添加される。当該プロセスにおいては、図中のオレンジ液(Orange Liquor)として特定されている、ポリスルフィド蒸煮液として新しい処理液が添加され、当該位置において、蒸煮プロセス全体に対するアルカリの総供給量の80乃至100%が供給される。
図1に示す態様において、ポリスルフィド蒸煮液は、容器壁面の引き出し選別部SC
1、中央パイプCPを用いて引き出された処理蒸煮液を容器の中央へと戻すためのパイプ及びポンプを備えた、容器Aにおいて確立した循環部に添加される。このように、新しいポリスルフィド蒸煮液は、容器の断面全体に分配され得る一方で、循環流を受ける。
【0034】
第二の液体の下位水準LE
2は、チップの上位水準LE
1の下5乃至15メートルほどに成立し、そしてこうして、当該液体水準の上にセルロース材料の容積が供給される。この高密度に充填されたセルロース材料の容積は、セルロース材料の栓を押し下げて、当該容器の底部の蒸煮液のプール内に入れる自重を与える。高密度に充填されたセルロース材料の栓はまた、容器の頂部に供給された木材に対して上方に蒸発し得るどの蒸気をも冷却しそして凝縮する凝縮容積を与え、そしてより低温に、好ましくは大気温度に保持される。
【0035】
蒸気加熱
セルロース材料は、結合した空気を追い出して完全な含浸を可能にするために、蒸気加熱されなければならない。セルロース材料がその浮力を失うような程度にまで、並びに、セルロース全容量が完全に蒸煮され、そして蒸煮後の廃棄物の量を低減させ得るような程度にまで含浸が可能となるように、空気は放出されなければならない。実際のところ、蒸気加熱プロセスは、セルロース材料中に結合した全ての空気の100%を放出し得ないが、大部分のシステムは、木材がその浮力を失い、そして廃棄物を許容量で保持するような程度にまで空気を追い出す。lmpBinコンセプトからの経験によれば、lmpBinにおいて用いられる蒸気加熱コンセプトは、セルロース材料の大きな容積さえも完全に含浸し、そして時として廃棄物容量がゼロに近くなる程度にまで、成果を上げることが証明されている。lmpBinシステムの幾つかの実施においては、第三者コンサルタントによって、工場技師に対して、巨大な廃棄物用箱の設置が推奨されたが、操業数週間後に、その設置にlmpBinを用いたことによる完璧な蒸煮効果を証明する、爪楊枝ほどの寸法の廃棄物すら廃棄物用箱に送られなかったことが明らかとなった。このことは、特化した装置における大規模な蒸気加熱効果を必要とし、チップ用ごみ箱内で最初に蒸気加熱をし、そしてその後にわずかに高圧にて別個の蒸気加熱用容器内で蒸気加熱し、その後に蒸煮液中の蒸気加熱されたチップを懸濁するという、1980年代後半のパルプ産業における幾つかの知見であって、1990年代後半まで慣用の蒸煮において設定された標準と比較されるべきである。
【0036】
開示されるシステムにおいては、蒸気加熱効果の大部分は、又は時として蒸気加熱効果の全ては、100℃を超える温度を有する熱蒸煮液、この場合は容器Aの中心のポリスルフィド蒸煮液を含む熱蒸煮液の添加によって得られ、そして、容器が常圧にあるという事実によって、蒸気はセルロース材料の塊へとフラッシュされる。蒸気は、第二の液体水準LE
2の上に位置するセルロース材料の容積の下位末端に位置した中央パイプCPの出口末端から放出される。幾つかの場合、欧州特許第2467533号に開示される多管システムを用いて、断面に対してより均等にポリスルフィド蒸煮液及び蒸気を分散させるために、複数の中央パイプが用いられ得る。
【0037】
開示されるように、蒸煮液は、好ましくは熱交換器HE
1及びHE
2を用いて加熱された容器に添加される。蒸気凝縮物の稀釈効果によって、ポリスルフィド濃度が低下するという不利を有するが、蒸気は直接注入され得る。また、通常の水道水ですら蒸気循環での使用前に完全且つ高コストの洗浄を必要とするため、清浄な蒸気凝縮物は損じた場合には取り替えが高くつき、そのため、好ましくは、間接的な熱交換器からの清浄な蒸気凝縮物が蒸気循環に送り戻される。
【0038】
第一熱交換器HE
1は、開示される循環に備えられ得、そして第二熱交換機HE
2は、ポリスルフィド蒸煮液の供給パイプに備えられ得、そして、これら熱交換器システムのうち少なくとも1つが備えられ得、そうでない場合は、ポリスルフィド蒸煮液の加熱の必要性及び開始温度に応じて2つとも備えられ得る。
【0039】
最も好ましい態様において、そして
図1に開示されるように、第一熱交換器HE
1は、蒸解器から取り出された高温蒸煮廃液の熱量を用いている。蒸煮廃液は、典型的には取り出し部において、最大限の蒸煮温度、即ち130℃乃至160℃を保持しており、前記温度は、工場の中圧蒸気ネットからのそのままの蒸気を用いた後に得られる。この高熱量は、好ましくは、工場の一部において作られ、そしておよそ70℃乃至80℃の温度に保持している常圧タンクに貯蔵されるポリスルフィド蒸煮液を加熱するのに用いられる。こうして、ポリスルフィド蒸煮液は、熱交換器を用いて、システムへの添加前におよそ110℃乃至130℃の温度にまで容易に加熱され得る。
【0040】
最も好ましい態様において、及び
図1に開示されるように、第二熱交換器HE
2システムは、工場の低圧蒸気ネットからのそのままの蒸気を用いた低圧蒸気の熱量を用いている。中圧蒸気とは対照的に、工場においては低圧蒸気が最も頻繁に大量に使用できるが、100℃乃至130℃の範囲での加熱プロセスに最も適している。好ましくはポリスルフィド蒸煮液の加熱と組み合わせた、第二熱交換器により循環内で発した加熱が、チップがおよそ20℃乃至30℃又はそれ以上の大気温度を保持する暖帯気候におけるセルロース材料の効果的な蒸気加熱には、殆どの場合十分である。
【0041】
特に要求される用途、例えば0℃よりもずっと低い周囲温度の寒冷気候及び対応するセルロース材料の温度においては、工場の低圧蒸気ネットからのそのままの蒸気を用いた低圧蒸気を用いて、さらなる蒸気が、開示される容器Aに直接供給され得る。当該蒸気は、第二の液体水準LE
2の上に位置した、蒸解器の壁面の分配チャンバに供給され得、そして、予めlmpBinにおける黒液含浸に用いられる欧州特許第2591165号に開示されるように好ましく実施され、そして寒冷気候の工場においては最初に実施される。
【0042】
蒸気加熱のためのこれら選択肢については、添加される全ての蒸煮液は黒液を含んでいないため、悪臭を放つ硫黄化合物の放出のリスクに見舞われることはない。このように、本蒸気加熱概念は、所望により、lmpBinを用いた黒液含浸において用いられる前に、低温頂部制御から変化され得る。代わりに高温頂部制御が実施される場合には、第二の液体水準LE
2の上に位置する全セルロース容積を介して蒸気を吹き付け、その後、容器から放出されるガスは、より少量の硫黄含有量でテルペンチンを得るためにテルペンチン回収に送られ得る。
【0043】
使用した蒸煮液は、典型的に、引き出し部において最大限の蒸煮温度、即ち130℃乃至160℃を保持しており、前記温度は、の後に得られる。この高い熱量は、好ましくは、慣用的に工場の一部で作られ、そしておよそ70℃乃至80℃の温度に保持する常圧タンク内に貯蔵されているポリスルフィド蒸煮液を加熱するのに用いられる。
【0044】
第二熱交換システムHE
2は、開示される循環部に備えられ得、そして第二熱交換システムHE
2は、ポリスルフィド蒸煮液の供給パイプに備えられており、これら熱交換器システムの少なくとも1つが備えられており、そうでなければ、ポリスルフィド蒸煮液の加熱の必要性及び開始温度に応じて2つとも備えられる。最も好ましい態様において、及び
図1に開示されるように、第二熱交換器システムは、蒸解器から引き出された取り出された高温蒸煮廃液の熱量を用いている。蒸煮廃液は、典型的に、取り出し部において、最大限の蒸煮温度、即ち130℃乃至160℃を保持しており、前記温度は、工場の中圧蒸気ネットからのそのままの蒸気を用いた後に得られる。この高熱量は、好ましくは、工場の一部において慣用的に作られ、そしておよそ70℃乃至80℃の温度に保持している常圧タンクに貯蔵されるポリスルフィド蒸煮液を加熱するのに用いられる。
【0045】
各々の熱交換器は、示されていないが、加熱媒体の残存熱量が第一熱交換器の最も冷たい流れを加熱し、そして、元々の熱量が、当該第二熱交換器内の、少なくともそれより前の熱交換器を通過した流れを加熱するように、向流モードにあるより高温の加熱媒体を用いた、システム内に配置される多数の熱交換器を有し得る。
【0046】
含浸部から蒸煮容器への供給
こうして、第一の容器内含浸段階が容器Bにおいて実行され、好ましくは、ポリスルフィド蒸煮液、並びに、木材水分、蒸気凝縮物のような、ごく少量のさらなる液体で充填されただけであり、そしてとりわけ、黒液、さらなる水、濾液も無い。確立された、得られた液対木材比は、2.0乃至3.2の範囲にあるべきであり、そして温度は100℃乃至120℃の範囲にあるべきである。
【0047】
1乃至20の範囲のH−ファクターの含浸段階を生ずる保持時間を有するべきである、容器A内の十分な保持時間の後、含浸されたセルロース材料は、残存する処理液と一緒に、蒸気/液相蒸解器Bへと供給される。
図1においては、欧州特許第2268862号及び/又は欧州特許第2268861号に開示されているものに相当する並列した遠心分離ポンプを有する転移システムが開示されるが、慣用のスルースフィーダーもまた用いられ得る。開示されるように、頂部においてより高い圧力が必要とされ、且つより低い蒸煮温度を用いる場合には、過剰な加熱をすることなく、蒸解器頂部の圧力を上げ得る加圧空気CAの形態で、所望によりさらなる空気が、蒸解器の頂部に供給され得る。しかしながら、本発明は、油圧式蒸解器、即ち、頂部の蒸気相が無く、そして蒸煮液で完全に充填された蒸解器を用いても、同様に良く実施され得ることが理解されるべきである。含浸における低いH−ファクターによって、脱リグニンのために実質的に何も消費されないため、残存する処理蒸煮液は、元々のアルカリ供給の大部分を含有している。本明細書には、戻りラインTR
RETを介した、容器Bの頂部の頂部セパレータTSからの引き出し処理蒸煮液を用いた容器Bの底部の稀釈による慣用の転移システムが示される。また、容器B中の蒸煮前に温度を上げるために、選別部SC
2から引き出された高温蒸煮廃液の一部が、戻りラインに添加される。蒸解容器Bの頂部においては、セルロース材料の種類に応じて、セルロース材料が130℃乃至160℃の範囲内の最大限の蒸煮温度まで加熱される。最大限の蒸煮温度までの加熱は、慣用的には工場のMP蒸気ネットからの中圧蒸気を添加することによって為される。この点において、アルカリ濃度を低下させるためにさらなる液体が添加されるが、当該態様においては、引き出された蒸煮廃液の一部が選別部SC
2及びSC
3から引き出される。選別部SC
2及びSC
3から引き出された廃液の大部分は回収部RECに送られるが、開示されるように、熱量は最初に熱交換器HE
1において使用され、そしてその後、好ましくは、フラッシュタンクFT内で周囲圧力まで最終的にフラッシュされる。フラッシュされた蒸気ST
Sは、悪臭を放つガスの処分及び好ましくは燃焼のために、好ましくはLVHC(Low Volume High Concentration(低容量高濃度))の又はHVLC(High Volume Low Concentration(高容量低濃度))のシステムに、後者には当該ガスを希釈した後に、送られる。また開示されるように、フラッシュされた蒸煮廃液は、最初にノッター(knotter)に送られ、そして蒸煮廃液から選別されたノット(knot)は、ノット処理システムに送られ、そしてその後、容器Aの底部内へと再導入される。
【0048】
当該態様においては、1番目が第一選別部SC
2の上の蒸煮ゾーンであり、そして2番目が蒸解器の底部の最終選別部SC
3の上の蒸煮ゾーンである、2つの並列する蒸煮ゾーンを有する蒸解器Bが示されるが、如何なる種類の蒸煮機構も蒸解容器Bにおいて実施され得る。慣用の手法においては、好ましくは最終の対向する洗浄ゾーンは、洗浄水/洗浄の付加によって蒸解器の底部において実施される。40未満のカッパー価を有する最終パルプは、流れP
OUTにおいて底部から排出される。
【0049】
他の態様
本発明は、
図1に開示されたもの以外の多数の方法において実施され得る。幾つかの蒸解器循環に対するアルカリのさらなる供給を伴い又は伴わずに、EAPC、MCC、ITC又はLo−Solids Cookingに従い、蒸解容器Bが操作され得る。低温頂部を用いて含浸容器が操作される場合には、所望の液:木材比に到達するように(ポリスルフィド蒸煮液の供給が十分でない場合)、その後に黒液もまた含浸容器に添加され得る。