特許第6329862号(P6329862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6329862
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20180514BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180514BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20180514BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20180514BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20180514BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
   H01G11/38
   H01G11/86
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-182592(P2014-182592)
(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公開番号】特開2015-88472(P2015-88472A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2017年3月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200637(P2013-200637)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】島本 周
(72)【発明者】
【氏名】岡田 静
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏和
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−192722(JP,A)
【文献】 特開2000−100437(JP,A)
【文献】 特開平08−050922(JP,A)
【文献】 特開2000−306585(JP,A)
【文献】 特開2012−084523(JP,A)
【文献】 特開平04−261401(JP,A)
【文献】 特開平09−077801(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0219840(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01G 11/38
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、該集電体上の電極活物質層とを有する電極であって、
前記電極活物質層が、電極活物質(A)とアセチル基総置換度が0.4〜1.2である酢酸セルロース(B)とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
酢酸セルロース(B)の下記で定義される組成分布指数(CDI)が1.0〜2.0である請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
CDI=(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅の実測値:酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅
【数1】
DS:アセチル基総置換度
DPw:重量平均重合度(酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)
【請求項3】
リチウムイオン電池用電極である請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記電極活物質層がスチレン−ブタジエンゴムを含まない請求項3に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
非水系電気二重層キャパシター用電極である請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の蓄電デバイス用電極を有するリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項5に記載の蓄電デバイス用電極を有する非水系電気二重層キャパシター。
【請求項8】
電極活物質(A)、アセチル基総置換度が0.6〜1.4である酢酸セルロース(B)、および有機溶媒を含む電極形成用組成物を調製する工程と、
前記工程で得られた電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、前記集電体上に電極活物質層を形成する工程とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項9】
電極活物質(A)、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース(B)、および水を含む電極形成用組成物を調製する工程と、
前記工程で得られた電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、前記集電体上に電極活物質層を形成する工程とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池や非水系電解質を使った電気二重層キャパシター(非水系電気二重層キャパシター)等の蓄電デバイスに用いられる電極(蓄電デバイス用電極)およびその製造方法、並びに、上記電極を有する蓄電デバイス(リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシター等)に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池)や非水系電気二重層キャパシター等の蓄電デバイスにおける電極としては、金属箔等の集電体の表面に活物質(電極活物質)が固定された構成を有する電極が知られている。例えば、リチウムイオン電池としては、カーボン材料等の負極活物質が使用された負極と、コバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属酸化物等の正極活物質が使用された正極と、炭酸エチレンや炭酸ジエチル等の有機溶媒およびヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)等のリチウム塩が使用された電解質とを有するものが知られている。また、非水系電気二重層キャパシターとしては、静電容量の拡大のために活性炭が活物質として使用された分極性電極を有するものが知られている。
【0003】
一般に、上述の蓄電デバイスの電極は、活物質と、溶媒と、バインダーとを混合して調製された電極形成用組成物を集電体の上にペーストし、これを乾燥させることで製造される。具体的には、例えば、リチウムイオン電池の負極は、カーボン材料の粉末(負極活物質)と、溶媒と、バインダーとを混合して調製された電極形成用組成物を集電体(銅箔等)の上にペーストし、これを乾燥させることで製造される。
【0004】
リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシターは、非水系の電解液が使用されるため、水系電解液の電気分解電圧を超える高い電圧が得られ、エネルギー密度が高い。しかしながら、エネルギー密度が高いために短絡時には急激に過熱する危険性が大きい。さらに、有機溶剤である電解液が揮発し、発火事故が生じるおそれがある。なお、短絡は、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシターに対して外力が加わることにより電池やキャパシター内部で発生する場合もあり、衝撃に対する保護も必要とされる。このため、上述の蓄電デバイスにおける電極の製造においては、これらの問題に繋がるような欠点を有しないようにする必要があった。
【0005】
従来、上記電極形成用組成物として、溶媒又は分散媒(以下、本明細書において「溶媒」と総称する場合がある)として有機溶媒を使用した「有機溶媒系の組成物」と、溶媒として水を使用した「水系の組成物」とが知られている。有機溶媒系の組成物としては、溶媒としてNMP(N−メチルピロリドン)、バインダーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素含有ポリマーが使用されたものが代表的であり;水系の組成物としては、溶媒として水、バインダーとしてSBR(スチレン−ブタジエンゴム)等のゴム系ポリマーが使用されたものが代表的である(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−074461号公報
【特許文献2】特開2008−181870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のPVDFやPTFE等のバインダーをNMPに溶解させた有機溶媒系の電極形成用組成物は、簡単な工程により良好なスラリーを得やすいが、一方で、溶媒であるNMPが吸湿してPVDFやPTFE等のバインダーの溶解性が低下し、スラリー特性が変化することに留意する必要がある。また、従来の有機溶媒系の電極形成用組成物は、集電体に塗布した後に高温で乾燥させるとPVDFの結晶融解が生じるため、集電体に対する電極活物質層の接着性および活物質同士の結着性(以下、本明細書において「結着性」と総称する場合がある)が低下し、蓄電デバイスの充放電特性が低下するという問題があった。このため、従来の有機溶媒系の電極形成用組成物を使用した電極の製造においては、溶媒の乾燥温度を高くして乾燥時間を短縮し、さらに生産性を向上させることは困難であった。
【0008】
一方、上述のSBRを使用した水系の電極形成用組成物は、SBRのポリマー粒子が水に分散した状態であって、有機溶媒系の組成物とは異なり、バインダーであるSBRが組成物(スラリー)に適度な粘度を付与する効果を有しないため、SBRのみを使用した電極形成用組成物の作製が困難である。このため、水系の電極形成用組成物に対して適切なレオロジー特性を付与するためには、CMC(カルボキシメチルセルロース)といった水溶性増粘剤の併用が必須である。このような水系の電極形成用組成物は、CMC水溶液に対して水を添加して所望の粘度付近に希釈した後、ここにバインダーを加えるという段階を踏んで調製しなければならない点に最も注意すべきである。これは、上述のようにSBRのポリマー粒子が水中に均一分散した状態が剪断力等の機械的な衝撃に対して敏感であり、誤った工程を採用することで電極形成用組成物の増粘やSBRの凝集等の問題が生じる可能性があるためである。従って、従来の水系の電極形成用組成物を使用した負極電極の製造においては、電極形成用組成物の調製プロセスを簡略化し、さらに生産性を向上させることは困難であった。
【0009】
なお、リチウムイオン電池は水系電解液の電気分解電圧よりも電池電圧が高いため、電池内に水分が存在すると電解質塩が加水分解してフッ酸を生じ、このような現象は活物質の溶出の一因となって蓄電デバイスの充放電特性の劣化を招く。このため、電極を作製する工程において十分に水分を除去することが好ましい。
【0010】
従って、本発明の目的は、製造工程に起因する充放電特性(充放電を繰り返しても性能低下が小さく、充放電のサイクル寿命が長い特性)の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れた蓄電デバイス(例えば、リチウムイオン電池、非水系電気二重層キャパシター等)用電極および該電極を有する蓄電デバイスを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、有機溶媒を使用した電極の製造方法(有機溶媒系の製造方法)であって、充放電特性の低下を伴うことなく有機溶媒を除去するための工程の短縮が可能である、生産性の高い蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、水を使用した電極の製造方法(水系の製造方法)であって、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを使用する必要がなく、充放電特性の低下を伴うことなく製造プロセスの簡略化が可能である、生産性の高い蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、集電体と該集電体上の電極活物質層とを有し、該電極活物質層が電極活物質と特定の酢酸セルロースとを必須成分として含む蓄電デバイス用電極が、製造工程に起因する充放電特性の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、集電体と、該集電体上の電極活物質層とを有する電極であって、前記電極活物質層が、電極活物質(A)とアセチル基総置換度が0.4〜1.2である酢酸セルロース(B)とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極を提供する。
【0013】
さらに、酢酸セルロース(B)の下記で定義される組成分布指数(CDI)が1.0〜2.0である前記の蓄電デバイス用電極を提供する。
CDI=(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅の実測値:酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅
【数1】
DS:アセチル基総置換度
DPw:重量平均重合度(酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値)
【0014】
さらに、リチウムイオン電池用電極である前記の蓄電デバイス用電極を提供する。
【0015】
さらに、前記電極活物質層がスチレン−ブタジエンゴムを含まない前記の蓄電デバイス用電極を提供する。
【0016】
さらに、非水系電気二重層キャパシター用電極である前記の蓄電デバイス用電極を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記の蓄電デバイス用電極を有するリチウムイオン電池を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記の蓄電デバイス用電極を有する非水系電気二重層キャパシターを提供する。
【0019】
また、本発明は、電極活物質(A)、酢酸セルロース(B)、および有機溶媒を含む電極形成用組成物を調製する工程と、
前記工程で得られた電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、前記集電体上に電極活物質層を形成する工程とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、電極活物質(A)、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース(B)、および水を含む電極形成用組成物を調製する工程と、
前記工程で得られた電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、前記集電体上に電極活物質層を形成する工程とを含むことを特徴とする蓄電デバイス用電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の蓄電デバイス用電極および該電極を有する蓄電デバイスは上記構成を有するため、製造工程に起因する充放電特性の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れる。また、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法であって、有機溶媒系の製造方法は、有機溶媒を除去し乾燥させるための加熱温度を高くしても充放電特性の低下を伴わないため、乾燥時間を大幅に短縮し、生産性を向上させることができる。一方、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法であって、水系の製造方法は、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを使用する必要がなく、充放電特性の低下を伴うことなく電極の製造プロセスの簡略化が可能であり、製造時間を大幅に短縮し、生産性を向上させることができる。このように、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法は、有機溶媒系および水系ともに、生産性に優れた方法である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<蓄電デバイス用電極>
本発明の蓄電デバイス用電極は、集電体と、該集電体上の電極活物質層とを少なくとも有する蓄電デバイスにおいて用いられる電極である。上記蓄電デバイスとしては、例えば、後述のようにリチウムイオン電池、非水系電気二重層キャパシター等が挙げられる。即ち、本発明の蓄電デバイス用電極としては、例えば、リチウムイオン電池用電極(正極、負極)、非水系電気二重層キャパシター用電極(正極、負極)等が挙げられる。
【0023】
[集電体]
本発明の蓄電デバイス用電極における上記集電体としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシター等の蓄電デバイスにおける集電体として公知乃至慣用のものを使用することができ、特に限定されないが、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム等の導電材料を箔状、膜状、フィルム状、シート状等の形態に成形したもの等が挙げられる。なお、上記集電体は、表面にカーボン、ニッケル、チタン、銅等の付着処理が施されたものであってもよい。また、上記集電体は、エッチング等による粗面化処理が施されたものであってもよい。上記集電体の厚みは、特に限定されず、蓄電デバイスの容量やサイズ等に応じて、例えば、1〜500μmの範囲から適宜選択することができる。中でも、リチウムイオン電池用電極における集電体としては、負極の場合には銅が好ましく使用され、正極の場合にはアルミニウムが好ましく使用される。一方、非水系電気二重層キャパシター用電極における集電体としては、アルミニウムが好ましく使用され、表面が粗面化されたアルミニウム箔が特に好ましく使用される。
【0024】
[電極活物質層]
本発明の蓄電デバイス用電極における上記電極活物質層は、上記集電体上に形成されており、電極活物質(A)と酢酸セルロース(B)とを必須成分として含む電極活物質層である。中でも、蓄電デバイスの充放電特性の観点で、電極活物質(A)と、アセチル基総置換度が0.4〜1.2の酢酸セルロース(B)とを必須成分として含む電極活物質層が好ましい。上記電極活物質層は、一般的に板状、フィルム状等の層状の形状を有するため、便宜上「層」と称しているが、これに類する形状であれば、その他の形状(例えば、層状に類する不定形状等)も包含されるものとする。なお、蓄電デバイスが非水系電気二重層キャパシターの場合、上記電極活物質層は「分極性電極」や「帯電層」等と称される場合がある。
【0025】
上記電極活物質層は、上記集電体の一方の表面のみに形成されていてもよいし、両側の表面に形成されていてもよい。また、上記電極活物質層の厚みは、特に限定されず、例えば、1〜1000μmの厚みから適宜選択することができる。
【0026】
1.電極活物質(A)
本発明の蓄電デバイス用電極における電極活物質(A)としては、リチウムイオン電池における正極活物質や負極活物質、非水系電気二重層キャパシターにおける活物質(分極性電極材料)等として周知慣用の材料を使用することができる。
【0027】
上述のリチウムイオン電池における正極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものを使用でき、特に限定されないが、例えば、二酸化マンガン(MnO2);リチウム−マンガン複合酸化物(例えば、LiMn24、LiMnO2等);リチウム−ニッケル複合酸化物(例えば、LiNiO2等);リチウム−コバルト複合酸化物(例えば、LiCoO2等);リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物(例えば、LiNi1-xCox2等);リチウム−マンガン−コバルト複合酸化物(例えば、LiMnxCo1-x2等);リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物(例えば、LiNixMnyCo1-x-y2);ポリアニオン系リチウム化合物(例えば、LiFePO4、LiCoPO4F、Li2MnSiO4等);バナジウム酸化物(例えば、V25等);導電性ポリマー;ジスルフィド系ポリマー;イオウ化合物(例えば、硫化リチウム等)等が挙げられる。上記正極活物質の形状やサイズは、特に限定されず、リチウムイオン電池における正極活物質として周知の形状やサイズから適宜選択できる。
【0028】
上述のリチウムイオン電池における負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものを使用でき、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、炭素繊維、非晶質カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン等)等の炭素系材料;リチウム−チタン酸複合酸化物(例えば、Li4Ti512等)等のリチウム−遷移金属複合酸化物;ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、亜鉛、水素、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、金、カドミウム、水銀、ガリウム、チタン、炭素、窒素、アンチモン、ビスマス、酸素、硫黄、セレン、テルル、塩素等のリチウムと合金化することができる元素、およびこれら元素を含む化合物;上記元素又はこれら元素を含む化合物と炭素系材料の複合化物;リチウムを含む窒化物等が挙げられる。上記負極活物質の形状やサイズは、特に限定されず、リチウムイオン電池における負極活物質として周知の形状やサイズから適宜選択できる。
【0029】
上述の非水系電気二重層キャパシターにおける活物質(分極性電極材料)としては、例えば、活性炭[例えば、おがくず活性炭、やしがら活性炭、ピッチ・コークス系活性炭、フェノール樹脂系活性炭、ポリアクリロニトリル系活性炭、セルロース系活性炭等]、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素系材料;酸化ルテニウム、酸化マンガン、酸化コバルト等の金属酸化物材料;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)等の導電性高分子材料等が挙げられる。上記活物質の形状やサイズは、特に限定されず、非水系電気二重層キャパシターにおける活物質として周知の形状やサイズから適宜選択できる。
【0030】
本発明の蓄電デバイス用電極の電極活物質層において電極活物質(A)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、電極活物質(A)としては市販品を使用することもできる。
【0031】
上記電極活物質層(100重量%)における電極活物質(A)の含有量は、周知の含有量から適宜選択することができ、特に限定されないが、50〜99.5重量%が好ましく、より好ましくは80〜99重量%である。電極活物質(A)の含有量を上記範囲とすることにより、より優れた充放電特性を有する蓄電デバイス(電池やキャパシター等)を得ることができる傾向がある。
【0032】
2.酢酸セルロース(B)
上記電極活物質層における酢酸セルロース(B)は、セルロースの酢酸エステル(セルロースアセテート)である。酢酸セルロース(B)は、電極活物質層において電極活物質(A)のバインダーとして機能する。また、酢酸セルロース(B)は、本発明の蓄電デバイス用電極を後述の水系の製造方法により製造する場合には、上記電極活物質層を形成するための組成物(電極形成用組成物)における増粘剤としても機能し、上記組成物において電極活物質(A)の分散性を向上させる。
【0033】
(アセチル基総置換度)
酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度(平均置換度;単に「置換度」と称する場合がある)は、特に限定されず、種々のアセチル基総置換度を有する酢酸セルロースを本発明における酢酸セルロース(B)として使用できる。酢酸セルロース(B)としては、例えば、トリアセチルセルロース(例えば、アセチル基総置換度が2.6以上の酢酸セルロース);ジアセチルセルロース(例えば、アセチル基総置換度が2.0以上2.6未満の酢酸セルロース);低置換度酢酸セルロース(例えば、アセチル基総置換度が0を超え2.0未満;特に、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース)等が挙げられる。
【0034】
特に、本発明の蓄電デバイス用電極における酢酸セルロース(B)としては、蓄電デバイスの充放電特性の観点で、アセチル基総置換度が0.4〜1.2の酢酸セルロース(B)が好ましい。
【0035】
中でも、後述の水系の製造方法により電極(電極活物質層)を製造する場合、酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度は、0.5〜1.1が好ましく、より好ましくは0.55〜1.0、さらに好ましくは0.6〜0.95である。酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度が上記範囲にあると水に対する溶解性に優れる傾向がある。一方、上記範囲を外れると水に対する溶解性が低下する傾向がある。水系の製造方法により電極を製造する場合、酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度が0.5〜1.1であると、電極形成用組成物における酢酸セルロース(B)の溶解性が高いためと推測されるが、結着性が向上し、充放電特性に優れた蓄電デバイスが得られる。
【0036】
一方、後述の有機溶媒系の製造方法により電極(電極活物質層)を製造する場合、酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度は0.4〜2.8が好ましく、より好ましくは0.6〜1.4である。有機溶媒に対する溶解性の観点からは、ある程度高いアセチル基総置換度が望ましいが、アセチル基総置換度が高過ぎるとプロピレンカーボネート等の電解質溶媒に対する膨潤度が大きくなり結着性を損なう傾向にある。
【0037】
なお、酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度は、酢酸セルロースを水に溶解させ、酢酸セルロースの置換度を求める公知の滴定法により測定できる。また、上記アセチル基総置換度は、酢酸セルロースの水酸基をプロピオニル化した上で(後述の方法参照)、重クロロホルムに溶解させ、NMRにより測定することもできる。
【0038】
酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度は、ASTM:D−817−96(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的な酢酸セルロースの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052−42.037×AV×0.01)
DS:アセチル基総置換度
AV:酢化度(%)
まず、乾燥した酢酸セルロース(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解させた後、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N−塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液(0.2N−水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式にしたがってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A−B)×F×1.201/試料重量(g)
A:0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N−水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0039】
(組成分布指数:CDI)
酢酸セルロース(B)の組成分布(分子間のアセチル基置換度の分布)は、例えば、その組成分布指数(CDI)としては、1.0〜2.0が好ましく、より好ましくは1.0〜1.8、さらに好ましくは1.0〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.5である。酢酸セルロース(B)の組成分布指数(CDI)が小さいほど(1.0に近づくほど)、組成分布(分子間アセチル基置換度分布)が均一となり、低置換度であっても電極活物質層の強度が非常に高くなる傾向がある。また、電極活物質(A)の含有量が多くても、電極活物質層へのクラックの発生を防止でき、蓄電デバイスの充放電特性が向上する傾向がある。これは、組成分布が均一であることにより、電極活物質層中の欠陥が減少するためである。また、低置換度酢酸セルロースの場合、組成分布が均一であると、アセチル基総置換度が通常よりも広い範囲で水溶性を確保できる傾向がある。
【0040】
ここで、組成分布指数(Compositional Distribution Index, CDI)とは、組成分布半値幅の理論値に対する実測値の比率[(組成分布半値幅の実測値)/(組成分布半値幅の理論値)]で定義される。組成分布半値幅は「分子間アセチル基置換度分布半値幅」又は単に「置換度分布半値幅」ともいう。
【0041】
酢酸セルロース(B)のアセチル基置換度の分子間での均一性(分子間の置換度ゆらぎの程度)を評価するのに、酢酸セルロースの分子間アセチル基置換度分布曲線の最大ピークの半値幅(「半価幅」ともいう)の大きさを指標とすることができる。なお、半値幅は、アセチル基置換度を横軸(x軸)に、この置換度における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。置換度分布半値幅は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めることができる。なお、HPLCにおけるセルロースエステルの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0〜3)に換算する方法については、特開2003−201301号公報(段落0037〜0040)に説明されている。
【0042】
(組成分布半値幅の理論値)
組成分布半値幅(置換度分布半値幅)は確率論的に理論値を算出できる。すなわち、組成分布半値幅の理論値は以下の式(1)で求められる。
【数2】
m:酢酸セルロース1分子中の水酸基とアセチル基の全数
p:酢酸セルロース1分子中の水酸基がアセチル置換されている確率
q=1−p
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0043】
さらに、組成分布半値幅の理論値を置換度と重合度で表すと、以下のように表される。下記式(2)を組成分布半値幅の理論値を求める定義式とする。
【数3】
DS:アセチル基総置換度
DPw:重量平均重合度(GPC−光散乱法による)
重量平均重合度(DPw)の測定法は後述する。
【0044】
(組成分布半値幅の実測値)
上述の組成分布半値幅の実測値とは、酢酸セルロース(試料)を前処理なしにHPLC分析して求めた組成分布半値幅、又は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基(未置換水酸基)をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートをHPLC分析して求めた組成分布半値幅である。
【0045】
一般的に、アセチル基総置換度2.0〜3.0の酢酸セルロースに対しては、前処理なしに高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析を行うことができ、それによって組成分布半値幅を求めることができる。例えば、特開2011−158664号公報には、アセチル基総置換度2.27〜2.56の酢酸セルロースに対する組成分布分析法が記載されている。
【0046】
一方、アセチル基総置換度が2.0未満(特に0.5〜1.4)の酢酸セルロース(低置換度酢酸セルロース)の組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値は、HPLC分析前に前処理として酢酸セルロースの分子内残存水酸基の誘導体化を行い、しかる後にHPLC分析を行って求める。この前処理の目的は、低置換度酢酸セルロースを有機溶剤に溶解しやすい誘導体に変換してHPLC分析を可能とすることである。すなわち、分子内の残存水酸基を完全にプロピオニル化し、その完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)をHPLC分析して組成分布半値幅(実測値)を求める。ここで、誘導体化は完全に行われ、分子内に残存水酸基はなく、アセチル基とプロピオニル基のみ存在していなければいけない。すなわち、アセチル基総置換度(DSac)とプロピオニル基総置換度(DSpr)の和は3である。これは、CAPのHPLC溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル基総置換度(0〜3)に変換するための較正曲線を作成するために関係式:DSac+DSpr=3を使用するためである。以下、低置換度酢酸セルロースの組成分布半値幅の実測値の測定方法について説明する。
【0047】
酢酸セルロースの完全誘導体化は、ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド混合溶媒中でN,N−ジメチルアミノピリジンを触媒とし、無水プロピオン酸を作用させることにより行うことができる。より具体的には、溶媒として混合溶媒[ピリジン/N,N−ジメチルアセトアミド=1/1(v/v)]を酢酸セルロース(試料)に対して20重量部、プロピオニル化剤として無水プロピオン酸を該酢酸セルロースの水酸基に対して6.0〜7.5当量、触媒としてN,N−ジメチルアミノピリジンを該酢酸セルロースの水酸基に対して6.5〜8.0mol%使用し、温度100℃、反応時間1.5〜3.0時間の条件でプロピオニル化を行う。そして、反応後、沈殿溶媒としてメタノールを用い、沈殿させることにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネートを得る。より詳細には、例えば、室温で、反応混合物1重量部をメタノール10重量部に投入して沈澱させ、得られた沈殿物をメタノールで5回洗浄し、60℃で真空乾燥を3時間行うことにより、完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を得ることができる。なお、後述の多分散性(Mw/Mn)および重量平均重合度(DPw)も、酢酸セルロース(試料)をこの方法により完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とし、測定したものである。
【0048】
上記HPLC分析では、異なるアセチル基総置換度を有する複数のセルロースアセテートプロピオネートを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースアセテートプロピオネートの溶出時間とアセチル基総置換度(0〜3)との関係を示す曲線、通常、三次曲線]から、酢酸セルロース(試料)の組成分布半値幅(実測値)を求めることができる。HPLC分析で求められるのは溶出時間とセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基置換度分布の関係である。これは、試料分子内の残存ヒドロキシ基のすべてがプロピオニルオキシ基に変換された物質の溶出時間とアセチル基置換度分布の関係であるから、上述の酢酸セルロース(B)のアセチル基置換度分布を求めていることと本質的には変わらない。
【0049】
上記HPLC分析の条件は以下の通りである。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova−Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度: 30℃
検出: Varian 380−LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/H2O=8/1(v/v),B液:CHCl3/MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
【0050】
較正曲線から求めた置換度分布曲線[セルロースアセテートプロピオネートの存在量を縦軸とし、アセチル基置換度を横軸とするセルロースアセテートプロピオネートの置換度分布曲線](「分子間置換度分布曲線」ともいう)において、アセチル基総置換度に対応する最大ピーク[E]に関し、以下のようにして置換度分布半値幅を求める。ピーク[E]の低置換度側の基部[A]と、高置換度側の基部[B]に接するベースライン[A−B]を引き、このベースラインに対して、最大ピーク[E]から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン[A−B]との交点[C]を決定し、最大ピーク[E]と交点[C]との中間点[D]を求める。中間点[D]を通って、ベースライン[A−B]と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点[A'、B']を求める。二つの交点[A'、B']から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半値幅(すなわち、置換度分布半値幅)とする。
【0051】
このような置換度分布半値幅は、試料中のセルロースアセテートプロピオネートの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度アセチル化されているかにより、保持時間(リテンションタイム)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、HPLCには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。このため、セルロースアセテートプロピオネートの置換度分布半値幅は、通常、下式で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な置換度分布半値幅(実測値)を求めることができる。
Z=(X2−Y21/2
[式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた置換度分布半値幅(未補正値)である。Y=(a−b)x/3+b(0≦x≦3)である。ここで、aは上記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースアセテートの置換度分布半値幅、bは上記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3のセルロースプロピオネートの置換度分布半値幅である。xは測定試料のアセチル基総置換度(0≦x≦3)である]
【0052】
なお、上記総置換度3のセルロースアセテート(もしくはセルロースプロピオネート)とは、セルロースのヒドロキシ基(水酸基)の全てがエステル化されたセルロースエステルを示し、実際には(理想的には)置換度分布半値幅を有しない(すなわち、置換度分布半値幅0の)セルロースエステルである。
【0053】
本発明において、酢酸セルロース(B)の組成分布半値幅(置換度分布半値幅)の実測値は、特に限定されないが、0.12〜0.34が好ましく、より好ましくは0.13〜0.25である。
【0054】
先に説明した置換度分布理論式(組成分布半値幅の理論値を求める式)は、すべてのアセチル化と脱アセチル化が独立かつ均等に進行することを仮定した確率論的計算値である。すなわち、二項分布に従った計算値である。このような理想的な状況は現実的にはあり得ない。酢酸セルロースの加水分解反応あるいは反応後の後処理について特別な工夫をしない限り、セルロースエステルの置換度分布は確率論的に二項分布で定まるものよりも大幅に広くなる。特に、低置換度酢酸セルロースは、その製造工程において部分脱アセチル化の反応数が大きいことから特に置換度分布が広くなりやすい傾向がある。
【0055】
低置換度酢酸セルロースを製造するにあたり、反応の特別な工夫の一つとしては、例えば、脱アセチル化とアセチル化が平衡する条件で系を維持することが考えられる。しかし、この場合には酸触媒によりセルロースの分解が進行するので好ましくない。他の反応の特別な工夫としては、脱アセチル化速度が低置換度物について遅くなる反応条件を採用することである。しかし、従来、そのような具体的な方法は知られていない。つまり、セルロースエステルの置換度分布を反応確率論通り二項分布に従うよう制御するような反応の特別な工夫は知られていない。さらに、酢化過程(セルロースのアセチル化工程)の不均一性や、熟成過程(酢酸セルロースの加水分解工程)で段階的に添加する水による部分的、一時的な沈殿の発生などの様々な事情は、置換度分布を二項分布よりも広くする方向に働き、これらを全て回避し、理想条件を実現することは、現実的には不可能である。これは、理想気体があくまで理想の産物であり、実在する気体の挙動はそれとは多かれ少なかれ異なることと似ている。
【0056】
従来の低置換度酢酸セルロースの合成と後処理においては、このような置換度分布の問題について殆ど関心が払われておらず、置換度分布の測定や検証、考察が行われていなかった。例えば、文献(繊維学会誌、42、p25 (1986))によれば、低置換度酢酸セルロースの溶解性は、グルコース残基2、3、6位へのアセチル基の分配で決まると論じられており、組成分布は全く考慮されていない。
【0057】
本発明者らの検討によれば、後述するように、酢酸セルロースの置換度分布は、驚くべきことに酢酸セルロースの加水分解工程の後の後処理条件の工夫で制御することができる。文献(CiBment, L., and Rivibre, C., Bull. SOC. chim., (5) 1, 1075 (1934)、Sookne, A. M., Rutherford, H. A., Mark, H., and Harris, M. J . Research Natl. Bur. Standards, 29, 123 (1942)、A. J. Rosenthal , B. B. White Ind. Eng. Chem., 1952, 44 (11), pp 2693-2696.)によれば、アセチル基総置換度2.3の酢酸セルロースの沈澱分別では、分子量に依存した分画と置換度(化学組成)に伴う微々たる分画が起こるとされており、本発明者らが見出したような置換度(化学組成)で顕著な分画ができるとの報告はない。さらに、低置換度酢酸セルロースについて、溶解分別や沈澱分別で置換度分布(化学組成)を制御できることは検証されていなかった。
【0058】
本発明者らが見出した置換度分布を狭くするもう1つの工夫は、酢酸セルロースの90℃以上の(又は90℃を超える)高温での加水分解反応(熟成反応)である。従来、高温反応で得られた生成物の重合度について詳細な分析や考察がなされて来なかったにもかかわらず、90℃以上の高温反応ではセルロースの分解が優先するとされてきた。この考えは、粘度に関する考察のみに基づいた思い込み(ステレオタイプ)と言える。本発明者らは、酢酸セルロースを加水分解して低置換度酢酸セルロースを得るに際し、90℃以上の(又は90℃を超える)高温下、好ましくは硫酸等の強酸の存在下、多量の酢酸中で反応させると、重合度の低下は見られない一方で、CDIの減少に伴い粘度が低下することを見出した。すなわち、高温反応に伴う粘度低下は、重合度の低下に起因するものではなく、置換度分布が狭くなることによる構造粘性の減少に基づくものであることを解明した。上記の条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、正反応だけでなく逆反応も起こるため、生成物(低置換度酢酸セルロース)のCDIが極めて小さい値となり、水に対する溶解性も著しく向上する。これに対し、逆反応が起こりにくい条件で酢酸セルロースの加水分解を行うと、置換度分布は様々な要因で広くなり、水に溶けにくいアセチル基総置換度0.4未満の酢酸セルロースおよびアセチル基総置換度1.1を超える酢酸セルロースの含有量が増大し、全体として水に対する溶解性が低下する。
【0059】
(2,3,6位の置換度の標準偏差)
酢酸セルロース(B)のグルコース環の2,3,6位の各アセチル基置換度は、手塚(Tezuka,Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、酢酸セルロース試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C−NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元の酢酸セルロース(B)におけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル基置換度を求めることができる。なお、このように求めた2,3,6位の各アセチル基置換度の和はアセチル基総置換度であり、この方法でアセチル基総置換度を求めることもできる。なお、アセチル基総置換度は、13C−NMRのほか、1H−NMRで分析することもできる。
【0060】
2,3,6位のアセチル基置換度の標準偏差σは、次の式で定義される。
【数4】
【0061】
酢酸セルロース(B)のグルコース環の2,3および6位のアセチル基置換度の標準偏差は、特に限定されないが、0.08以下(0〜0.08)であることが好ましい。該標準偏差が0.08以下である酢酸セルロース(B)は、グルコース環の2,3,6位が均等に置換されており、特に低置換度酢酸セルロースの場合には水に対する溶解性に優れる傾向がある。また、電極活物質層の強度も向上する傾向がある。
【0062】
(多分散性(Mw/Mn))
本発明において、酢酸セルロース(B)の多分散性(分散度;Mw/Mn)は、前処理なしの酢酸セルロース(試料)を用いてGPC−光散乱法により求めた値(例えば、アセチル基総置換度が2.0〜3.0の酢酸セルロースの場合)、又は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値(例えば、アセチル基総置換度が2.0未満(特に、0.5〜1.1)の低置換度酢酸セルロースの場合)である。
【0063】
酢酸セルロース(B)の多分散性(分散度;Mw/Mn)は、特に限定されないが、特に酢酸セルロース(B)が低置換度酢酸セルロースの場合には、1.2〜2.5の範囲であることが好ましい。多分散性Mw/Mnが上記の範囲にある酢酸セルロース(B)は、分子の大きさが揃っており、水に対する溶解性に優れるとともに、電極活物質層の強度も向上する傾向がある。また、特に酢酸セルロース(B)がジアセチルセルロース又はトリアセチルセルロースの場合、その多分散性は、2.0を超え、7.5以下であることが好ましい。多分散性Mw/Mnが上記の範囲にある酢酸セルロース(B)を使用することにより、強度に優れた電極活物質層が得られる傾向がある。
【0064】
酢酸セルロース(B)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および多分散性(Mw/Mn)は、HPLCを用いた公知の方法で求めることができる。本発明において、酢酸セルロース(B)の多分散性(Mw/Mn)は、前処理なしの酢酸セルロース(試料;例えば、アセチル基総置換度が2.0〜3.0の酢酸セルロース)又は酢酸セルロース(試料;例えば、低置換度酢酸セルロース)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めることができる。特に、アセチル基総置換度が2.0未満の酢酸セルロースの多分散性(Mw/Mn)等は、測定試料を有機溶媒に可溶とするため、上記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、酢酸セルロース(試料)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、以下の条件でサイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより決定される(GPC−光散乱法)。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM−21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、同ガードカラム
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN−EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0065】
(重量平均重合度(DPw))
本発明において、酢酸セルロース(B)の重量平均重合度(DPw)は、前処理なしの酢酸セルロース(試料)を用いてGPC−光散乱法により求めた値(例えば、アセチル基総置換度が2.0〜3.0の酢酸セルロースの場合)、又は、酢酸セルロース(試料)の残存水酸基をすべてプロピオニル化して得られるセルロースアセテートプロピオネートを用いてGPC−光散乱法により求めた値(例えば、アセチル基総置換度が2.0未満(特に、0.5〜1.1)の低置換度酢酸セルロースの場合)である。
【0066】
本発明における酢酸セルロース(B)の重量平均重合度(DPw)は、50〜800の範囲であることが好ましい。重量平均重合度(DPw)が低すぎると、電極活物質層の強度が低くなる傾向がある。また、重量平均重合度(DPw)が高すぎると、濾過性が悪くなりやすい。上記重量平均重合度(DPw)は、好ましくは55〜700、さらに好ましくは60〜600である。
【0067】
上記重量平均重合度(DPw)は、上記多分散性(Mw/Mn)と同じく、上記組成分布半値幅の実測値を求める場合と同様の方法で、前処理なしの酢酸セルロース(試料;例えば、アセチル基総置換度が2.0〜3.0の酢酸セルロース)について、又は、酢酸セルロース(試料;例えば、低置換度酢酸セルロース)を完全誘導体化セルロースアセテートプロピオネート(CAP)とした後、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行うことにより求められる(GPC−光散乱法)。
【0068】
上述のように、水溶性の酢酸セルロース(B)(特に、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の低置換度酢酸セルロース)の分子量(重合度)、多分散性(Mw/Mn)はGPC−光散乱法(GPC−MALLS、GPC−LALLSなど)により測定される。なお、光散乱の検出は、一般に水系溶媒では困難である。これは水系溶媒には一般的に異物が多く、一旦精製しても二次汚染されやすいことによる。また、水系溶媒では、微量に存在するイオン性解離基の影響のため分子鎖の広がりが安定しない場合があり、それを抑えるために水溶性無機塩(例えば塩化ナトリウム)を添加したりすると、溶解状態が不安定になり、水溶液中で会合体を形成したりすることがある。この問題を回避するための有効な方法の一つは、低置換度酢酸セルロースを誘導体化し、異物が少なく、二次汚染されにくい有機溶媒に溶解するようにし、有機溶媒でGPC−光散乱測定を行うことである。この目的の低置換度酢酸セルロースの誘導体化としてはプロピオニル化が有効であり、具体的な反応条件および後処理は上記組成分布半値幅の実測値の説明箇所で記載した通りである。
【0069】
(6%粘度)
酢酸セルロース(B)の6%粘度は、特に限定されないが、5〜500mPa・sが好ましく、より好ましくは6〜300mPa・sである。6%粘度が高すぎると濾過性が悪くなる場合がある。また、6%粘度が低すぎると、電極活物質層の強度が低下しやすくなる。
【0070】
酢酸セルロース(B)の6%粘度は、下記の方法で測定できる。
50mlのメスフラスコに乾燥試料3.00gを入れ、蒸留水を加え溶解させる。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温する。計時標線間の流下時間を測定し、次式により6%粘度を算出する。
6%粘度(mPa・s)=C×P×t
C:試料溶液恒数
P:試料溶液密度(0.997g/cm3
t:試料溶液の流下秒数
試料溶液恒数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式より求める。
試料溶液恒数={標準液絶対粘度(mPa・s)}/{標準液の密度(g/cm3)×標準液の流下秒数}
【0071】
酢酸セルロース(B)は、公知乃至慣用の方法により製造できる。例えば、セルロースジアセテートは、特開2009−155555号公報、特開2011−158664号公報等に記載の方法により製造できる。また、酢酸セルロース(B)としては、市販品を使用することもできる。以下では、酢酸セルロース(B)の中でも、低置換度酢酸セルロース(特に、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース(B))の製造方法について詳細に説明する。
【0072】
(低置換度酢酸セルロースの製造)
酢酸セルロース(B)の中でも低置換度酢酸セルロースは、例えば、(a)中乃至高置換度酢酸セルロースの加水分解工程(熟成工程)、(b)沈殿工程、および、必要に応じて行う(c)洗浄、中和工程を含む方法により製造できる。
【0073】
[(a)加水分解工程(熟成工程)]
この工程では、中乃至高置換度酢酸セルロース(以下、「原料酢酸セルロース」と称する場合がある)を加水分解する。原料として用いる中乃至高置換度酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、1.5〜3が好ましく、より好ましくは2〜3である。原料酢酸セルロースとしては、市販のセルロースジアセテート(例えば、アセチル基総置換度が2.0以上2.6未満の酢酸セルロース)やセルローストリアセテート(例えば、アセチル基総置換度が2.6以上の酢酸セルロース)を用いることができる。
【0074】
加水分解反応は、有機溶媒中、触媒(熟成触媒)の存在下、原料酢酸セルロースと水とを反応させることにより行うことができる。有機溶媒としては、例えば、酢酸、アセトン、アルコール(メタノール等)、これらの混合溶媒などが挙げられる。これらの中でも、酢酸を少なくとも含む溶媒が好ましい。触媒としては、一般に脱アセチル化触媒として用いられる触媒を使用できる。触媒としては、特に硫酸が好ましい。
【0075】
有機溶媒(例えば、酢酸)の使用量は、特に限定されないが、原料酢酸セルロース1重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。
【0076】
触媒(例えば、硫酸)の使用量は、原料酢酸セルロース1重量部に対して、0.005〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.02〜0.3重量部である。触媒の量が少なすぎると、加水分解の時間が長くなりすぎ、酢酸セルロースの分子量の低下を引き起こすことがある。一方、触媒の量が多すぎると、加水分解温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、加水分解温度がある程度低くても解重合速度が大きくなり、分子量がある程度大きい酢酸セルロースが得られにくくなる。
【0077】
加水分解工程における水の量は、特に限定されないが、原料酢酸セルロース1重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜7重量部である。また、該水の量は、有機溶媒(例えば、酢酸)1重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜2重量部、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部である。水は、反応開始時において全ての量を系内に存在させてもよいが、酢酸セルロースの沈殿を防止するため、使用する水の一部を反応開始時に系内に存在させ、残りの水を1〜数回に分けて系内に添加してもよい。
【0078】
加水分解工程における反応温度は、特に限定されないが、40〜130℃が好ましく、より好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜110℃である。特に、反応温度を90℃以上(或いは90℃を超える温度)とし、好ましくは、触媒として硫酸等の強酸を用い、且つ反応溶媒として酢酸を過剰に用いる場合には、正反応(加水分解反応)だけでなく逆反応(アセチル化反応)も起こり、その結果、置換度分布が狭くなり、後処理条件を特に工夫しなくとも、組成分布指数CDIの極めて小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。また、反応温度を90℃以下とする場合であっても、後述するように、沈殿工程において、沈殿溶媒として二種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いて沈殿させたり、沈殿分別および/又は溶解分別を行うことにより、組成分布指数CDIが非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0079】
[(b)沈殿工程]
この工程では、加水分解反応終了後、反応系の温度を室温まで冷却し、沈殿溶媒を加えて低置換度酢酸セルロースを沈殿させる。沈殿溶媒としては、水と混和する有機溶剤若しくは水に対する溶解度の大きい有機溶剤を使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;酢酸エチル等のエステル;アセトニトリル等の含窒素化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル;これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0080】
沈殿溶媒として二種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いると、後述する沈殿分別と同様の効果が得られ、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数(CDI)が小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。好ましい混合溶媒として、例えば、アセトンとメタノールの混合溶媒、イソプロピルアルコールとメタノールの混合溶媒等が挙げられる。
【0081】
また、沈殿させて得られた低置換度酢酸セルロースに対して、さらに沈殿分別(分別沈殿)および/又は溶解分別(分別溶解)を行うことにより、組成分布(分子間置換度分布)が狭く、組成分布指数(CDI)が非常に小さい低置換度酢酸セルロースを得ることができる。
【0082】
沈殿分別は、例えば、沈殿して得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)を水に溶解させ、適当な濃度(例えば、2〜10重量%、好ましくは3〜8重量%)の水溶液とし、この水溶液に貧溶媒を加え(又は、貧溶媒に上記水溶液を加え)、適宜な温度(例えば、30℃以下、好ましくは20℃以下)に保持して、低置換度酢酸セルロースを沈殿させ、沈殿物を回収することにより行うことができる。貧溶媒としては、例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトン等が挙げられる。貧溶媒の使用量は、上記水溶液1重量部に対して、例えば1〜10重量部が好ましく、より好ましくは2〜7重量部である。
【0083】
溶解分別は、例えば、上記沈殿させて得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)或いは上記沈殿分別で得られた低置換度酢酸セルロース(固形物)に、水と有機溶媒(例えば、アセトン等のケトン、エタノール等のアルコール等)の混合溶媒を加え、適宜な温度(例えば、20〜80℃、好ましくは25〜60℃)で撹拌後、遠心分離により濃厚相と希薄相とに分離し、希薄相に沈殿溶剤(例えば、アセトン等のケトン、メタノール等のアルコール等)を加え、沈殿物(固形物)を回収することにより行うことができる。上記水と有機溶媒の混合溶媒における有機溶媒の濃度は、例えば、5〜50重量%が好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0084】
[(c)洗浄、中和工程]
上述の(b)沈殿工程で得られた沈殿物(固形物)は、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなどの有機溶媒(貧溶媒)で洗浄することが好ましい。また、塩基性物質を含む有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール、アセトン等のケトンなど)で洗浄、中和することも好ましい。
【0085】
上記塩基性物質としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシド等)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩;マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド等)等を使用できる。これらの中でも、特に、酢酸カリウム等のアルカリ金属化合物が好ましい。
【0086】
洗浄、中和により、加水分解工程で用いた触媒(硫酸等)などの不純物を効率よく除去することができる。
【0087】
本発明の蓄電デバイス用電極の電極活物質層において酢酸セルロース(B)は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0088】
上記電極活物質層における酢酸セルロース(B)の含有量は、特に限定されないが、電極活物質層(100重量%)に対して、0.1〜50重量%が好ましく、より好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%である。酢酸セルロース(B)の含有量を上述の範囲に制御することにより優れた充放電特性を有する蓄電デバイス(電池やキャパシター等)を得ることができる傾向がある。
【0089】
3.その他の成分
上記電極活物質層には、電極活物質(A)および酢酸セルロース(B)以外の成分(「その他の成分」と称する場合がある)が含まれていてもよい。その他の成分としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシターにおける電極に使用される公知乃至慣用の添加剤等を使用でき、特に限定さないが、例えば、導電助材(例えば、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等)、界面活性剤、酢酸セルロース(B)以外の樹脂、充填材[負極活物質(A)を除く]、光安定剤、着色剤、流動改質剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤等が挙げられる。その他の成分の使用量は、特に限定されないが、電極活物質層(100重量%)中の含有量として、それぞれ、30重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。これらの添加剤の総添加量は、電極活物質層(100重量%)中の含有量として、30重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0090】
上記電極活物質層(特に、リチウムイオン電池における負極活物質層)は、スチレン−ブタジエンゴムを含まないものであってもよい。水系の製造方法により上述の負極活物質層を形成する場合、スチレン−ブタジエンゴムを含まないことによって、電極形成用組成物(水系)の安定性が向上し、負極の生産性が向上する傾向がある。
【0091】
本発明の蓄電デバイス用電極は、上述の集電体および電極活物質層以外の部材(部品)を有するものであってもよい。
【0092】
<蓄電デバイス用電極の製造方法>
本発明の蓄電デバイス用電極は、公知乃至慣用の蓄電デバイスの電極の製造方法により製造でき、特に限定されないが、例えば、上記電極における電極活物質層は、乾式法(溶媒を使用しない方法)、湿式法(溶媒を使用する方法)のいずれによっても製造できる。中でも、集電体と電極活物質層との密着性に優れた電極を容易に得ることができる点で、湿式法が好ましい。本発明の蓄電デバイス用電極は、湿式法の中でも、溶媒として有機溶媒を使用する方法(「有機溶媒系の製造方法」と称する場合がある)と、溶媒として水を使用する方法(「水系の製造方法」と称する場合がある)とのいずれの方法によっても製造することもできる。例えば、環境保護や作業環境の安全性向上等の観点で、水系の製造方法を採用することが好ましい場合がある。
【0093】
本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法のうち、有機溶媒系の製造方法としては、具体的には、電極活物質(A)、酢酸セルロース(B)、および有機溶媒を必須成分として含む電極形成用組成物を調製する工程(「工程1」と称する場合がある)と、工程1で得られた上記電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、上記集電体上に電極活物質層を形成する工程(「工程2」と称する場合がある)とを必須の工程として含む方法が挙げられる。
【0094】
[工程1]
上述の有機溶媒系の製造方法の工程1においては、電極活物質(A)と、酢酸セルロース(B)と、有機溶媒とを必須成分として含む電極形成用組成物(「電極形成用組成物(有機溶媒系)」と称する場合がある)を調製する。上記有機溶媒としては、公知乃至慣用の有機溶媒を使用することができ、また、好ましい有機溶媒は酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度等によっても異なり、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテル;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;これらの混合物等が挙げられる。なお、例えば、酢酸セルロース(B)のうち、低置換度酢酸セルロース(例えば、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース)は、特に、水やNMP等に対する溶解性が高く;セルロースジアセテート(例えば、アセチル基総置換度が2以上2.6未満の酢酸セルロース)は、特に、アセトン、THF、DMF等に対する溶解性が高く;セルローストリアセテート(例えば、アセチル基総置換度が2.6以上の酢酸セルロース)は、特に、クロロホルムや塩化メチレン等に対する溶解性が高いため、使用する酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度に応じて適切な溶媒を選択することが好ましい。
【0095】
有機溶媒の使用量は、酢酸セルロース(B)のアセチル基総置換度および使用量等、電極活物質(A)の種類および使用量等に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、酢酸セルロース(B)100重量部に対して、100〜3000重量部が好ましく、より好ましくは200〜2000重量部、さらに好ましくは300〜1000重量部である。
【0096】
工程1において電極形成用組成物(有機溶媒系)を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、電極活物質(A)と、酢酸セルロース(B)と、有機溶媒と、さらに必要に応じてその他の添加剤等を、汎用の混合機に供給して均一に混合する方法等が挙げられる。混合機としては、特に限定されないが、例えば、撹拌機付き容器、ヘンシェルミキサー、ビーズミル、プラストミル、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、押出機等が挙げられる。なお、電極形成用組成物(有機溶媒系)の調製は、例えば、各成分を一括で混合する一段階の混合操作により行うこともできるし、各成分を段階的に(逐次)混合する二段階以上の多段階の混合操作により行うこともできる。中でも、電極活物質(A)の分散性の観点で、電極形成用組成物(有機溶媒系)の調製は、下記の二つの工程(段階)を含む混合操作により行うことが好ましい。
(i)酢酸セルロース(B)を有機溶媒に溶解させて、酢酸セルロース(B)溶液を調製する工程
(ii)酢酸セルロース(B)溶液に電極活物質(A)を配合し、分散させる工程
【0097】
工程1により、電極活物質(A)と、酢酸セルロース(B)と、有機溶媒とを必須成分として含む電極形成用組成物(有機溶媒系)が得られる。
【0098】
[工程2]
上述の有機溶媒系の製造方法の工程2においては、工程1において得られた電極形成用組成物(有機溶媒系)を集電体上に塗布し、乾燥させて、上記集電体上に電極活物質層を形成する。電極形成用組成物(有機溶媒系)を集電体上に塗布する方法としては、公知乃至慣用の方法を適用でき、特に限定されないが、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、刷毛塗り法、ドクターブレード法等が挙げられる。なお、集電体上に塗布する電極形成用組成物(有機溶媒系)の厚みは、乾燥させて形成させる電極活物質層の厚みに応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、1〜1000μmの範囲から選択できる。
【0099】
工程2において、集電体上に塗布した電極形成用組成物(有機溶媒系)を乾燥させる方法としては、公知乃至慣用の方法を適用でき、特に限定されない。中でも、生産性の観点で、加熱による乾燥方法が好ましい。なお、加熱による乾燥は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で実施することもできる。上記乾燥に際しての加熱温度は、特に限定されないが、80〜200℃が好ましく、より好ましくは110〜190℃、さらに好ましくは140〜180℃である。加熱温度を80℃以上とすることにより、乾燥時間の短縮が可能となり生産性がより向上する傾向がある。一方、加熱温度を200℃以下とすることにより、蓄電デバイスの充放電特性の低下が抑制される傾向がある。なお、加熱温度は、乾燥の間、一定となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変動するように制御することもできる。また、加熱時間(総時間)は、特に限定されないが、例えば、0.1〜60分間から適宜選択することができる。
【0100】
本発明の蓄電デバイス用電極は、電極活物質層において酢酸セルロース(B)がバインダーとして機能するため、従来の有機溶媒系の組成物を使用して得られる電極、具体的には、例えば、リチウムイオン電池におけるポリフッ化ビニリデンをバインダーとする電極(特に、負極)と比較して、上述の加熱温度を高く設定でき(例えば、110℃を超える温度に設定でき)、乾燥に要する時間を大幅に短縮することが可能である。従って、本発明の蓄電デバイス用電極は、工程2の短縮によって生産性を著しく向上させることが可能である。また、有機溶媒として吸湿しやすいもの(NMP等)を使用した場合でも、加熱温度を高くすることで水分を高度に除去することができ、水分による電池特性又はキャパシター特性の低下を抑制することができる。これに対して、従来のリチウムイオン電池におけるポリフッ化ビニリデンをバインダーとする電極(特に、負極)は、乾燥の際の加熱温度を高く設定する(例えば、110℃を超える温度とする)と、ポリフッ化ビニリデンの結晶融解が生じて結着性が低下し、電池特性が著しく低下する。このため、乾燥の際の加熱温度を高くすることで乾燥に要する時間を短縮することは困難であった。また、水分の高度な除去が難しく、水分による電池特性の低下を生ずるおそれがあった。従って、本発明の蓄電デバイス用電極が、特に、リチウムイオン電池用電極(特に、負極)である場合に、上述のメリットを効果的に享受できる。
【0101】
工程1および2を経て、集電体と、該集電体上の電極活物質層[電極活物質(A)および酢酸セルロース(B)を必須成分として含む電極活物質層]とを少なくとも有する蓄電デバイス用電極が得られる。なお、上述の有機溶媒系の製造方法は、工程1および2以外の工程(例えば、金型プレスやロールプレス等を使用した、集電体と電極活物質層との密着性を向上させるための加圧処理を施す工程;切断加工を施す工程;電極とその他の部材等を積層する工程等)をさらに含んでいてもよい。
【0102】
一方、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法のうち、水系の製造方法としては、具体的には、電極活物質(A)、アセチル基総置換度が0.5〜1.1の酢酸セルロース(B)(「酢酸セルロース(B')」と称する場合がある)、および水を必須成分として含む電極形成用組成物を調製する工程(「工程3」と称する場合がある)と、工程3で得られた上記電極形成用組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて、上記集電体上に電極活物質層を形成する工程(「工程4」と称する場合がある)とを必須の工程として含む方法が挙げられる。
【0103】
[工程3]
上述の水系の製造方法の工程3においては、電極活物質(A)と、酢酸セルロース(B')と、水とを必須成分として含む電極形成用組成物(「電極形成用組成物(水系)」と称する場合がある)を調製する。
【0104】
工程3において電極形成用組成物(水系)を調製する方法は、特に限定されず、例えば、電極活物質(A)と、酢酸セルロース(B')と、水と、さらに必要に応じてその他の添加剤等を、汎用の混合機に供給して均一に混合する方法等が挙げられる。混合機としては、特に限定されず、工程1において例示した混合機等が挙げられる。なお、電極形成用組成物(水系)の調製は、例えば、各成分を一括で混合する一段階の混合操作により行うこともできるし、各成分を段階的に(逐次)混合する二段階以上の多段階の混合操作により行うこともできる。中でも、生産性の観点から、電極形成用組成物(水系)の調製は、一段階の混合操作により行うことが好ましい。
【0105】
水の使用量は、酢酸セルロース(B')の使用量等、電極活物質(A)の種類および使用量等に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、酢酸セルロース(B)100重量部に対して、100〜10000重量部が好ましく、より好ましくは200〜8000重量部、さらに好ましくは300〜6000重量部である。
【0106】
本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法のうち、水系の製造方法は、電極形成用組成物(水系)を一段階の混合操作により製造できる点で、従来の方法と比べて有用性が高い。従来の水系の組成物を使用して得られる電極、具体的には、例えば、リチウムイオン電池用電極(特に、負極)を形成するための水系の組成物では、スチレン−ブタジエンゴム等のバインダーに加え、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤を併用する必要があり、また、粘度等のレオロジー特性が適切に制御された組成物を調製するためには、水に対する上述のバインダーと増粘剤の配合を逐次的にかつ慎重に行う必要があった。仮に、一段階の混合操作で組成物の調製を行い、該組成物より電極を製造すると、該電極における結着性が不良となるためと推測されるが、蓄電デバイスの充放電特性の著しい低下を生じていた。これに対して、本発明においては、酢酸セルロース(B')がバインダーとしての機能と増粘剤としての機能の両方を兼ね備え、さらに水溶性にも優れるため、従来の方法のような多段階の慎重な混合操作が不要であり、一段階の混合操作によって電極形成用組成物を調製しても蓄電デバイスの充放電特性の低下を生じない。このため、本発明の蓄電デバイス用電極の製造方法のうち、水系の製造方法によると、電極形成用組成物の製造プロセスを簡略化でき、電極および該電極を含む蓄電デバイスの生産性が向上する。また、水系の製造方法は、環境保護や作業環境の安全性向上等にも寄与し得る。
【0107】
[工程4]
上述の水系の製造方法の工程4においては、工程3において得られた電極形成用組成物(水系)を集電体上に塗布し、乾燥させて、上記集電体上に電極活物質層を形成する。電極形成用組成物(水系)を集電体上に塗布する方法としては、例えば、工程2において例示したものと同様の方法が挙げられる。なお、集電体上に塗布する電極形成用組成物(水系)の厚みは、乾燥させて形成させる電極活物質層の厚みに応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、1〜1000μmから適宜選択できる。
【0108】
工程4において、集電体上に塗布した電極形成用組成物(水系)を乾燥させる方法としては、公知乃至慣用の方法を適用でき、特に限定されない。中でも、生産性の観点で、加熱による乾燥方法が好ましい。なお、加熱による乾燥は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で実施することもできる。上記乾燥における加熱温度は、特に限定されないが、50〜180℃が好ましく、より好ましくは55〜160℃、さらに好ましくは60〜140℃である。加熱温度を50℃以上とすることにより、乾燥に要する加熱時間を短縮でき、生産性が向上する傾向がある。一方、加熱温度を180℃以下とすることにより、蓄電デバイスの充放電特性の低下が抑制される傾向がある。なお、乾燥温度は、乾燥の間、一定となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変動するように制御することもできる。また、加熱時間(総時間)は、特に限定されないが、例えば、0.1〜60分から適宜選択することができる。
【0109】
工程3および4を経て、集電体と、該集電体上の電極活物質層[負極活物質(A)および酢酸セルロース(B)を必須成分として含む電極活物質層]とを少なくとも有する蓄電デバイス用電極が得られる。なお、上述の水系の製造方法は、工程3および4以外の工程(例えば、金型プレスやロールプレス等を使用した、集電体と電極活物質層との密着性を向上させるための加圧処理を施す工程;切断加工を施す工程;電極とその他の部材等を積層させる工程等)をさらに含んでいてもよい。
【0110】
上述の有機溶媒系又は水系の製造方法により、本発明の蓄電デバイス用電極が得られる。本発明の蓄電デバイス用電極は、製造工程に起因する充放電特性の低下が生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れる。
【0111】
<蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイス用電極を電極として用いることにより、生産性および充放電特性の両方に優れた蓄電デバイス(「本発明の蓄電デバイス」と称する場合がある)が得られる。本発明の蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン電池、非水系電気二重層キャパシター、ハイブリッドキャパシター等が挙げられる。以下、本発明の蓄電デバイスの代表例としてのリチウムイオン電池および非水系電気二重層キャパシターについて具体的に説明するが、本発明の蓄電デバイスはこれらに限定されない。
【0112】
[リチウムイオン電池]
本発明の蓄電デバイスのうちリチウムイオン電池は、本発明の蓄電デバイス用電極(リチウムイオン電池用電極)を正極および/又は負極(正極および負極のいずれか一方又は両方)として有するリチウムイオン電池(「本発明のリチウムイオン電池」と称する場合がある)である。本発明のリチウムイオン電池は、本発明の蓄電デバイス用電極を正極および/又は負極として有し、さらに、セパレータ、および非水電解液等を有し、必要に応じて本発明の蓄電デバイス用電極以外の電極(正極および負極のいずれか一方が本発明の蓄電デバイス用電極である場合)を有する。本発明の蓄電デバイス用電極以外の電極、セパレータ、および非水電解液等としては、特に限定されず、リチウムイオン電池において周知の部材を使用することができる。
【0113】
本発明のリチウムイオン電池は、公知乃至慣用の方法により製造でき、特に限定されないが、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池の形状に応じて巻いたり折ったりしてから、電池容器に入れ、該電池容器に非水電解液を注入した後、封口(封止)することにより製造できる。本発明のリチウムイオン電池は、例えば、ヒューズやPTC素子等の過電流防止装置、エキスパンドメタル、リード板等のその他の部材を有していてもよい。また、本発明のリチウムイオン電池の形状は、特に限定されず、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等のいずれであってもよい。また、本発明のリチウムイオン電池は、携帯電子機器、電気自動車、電動機器、定置機器等の各種用途におけるリチウムイオン電池として使用することができる。本発明のリチウムイオン電池は、本発明の蓄電デバイス用電極を電極として有することにより、製造工程に起因する充放電特性(電池特性)の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れる。
【0114】
[非水系電気二重層キャパシター]
本発明の蓄電デバイスのうち非水系電気二重層キャパシターは、本発明の蓄電デバイス用電極(非水系電気二重層キャパシター)を正極および/又は負極として有する非水系電気二重層キャパシター(「本発明の非水系電気二重層キャパシター」と称する場合がある)である。本発明の非水系電気二重層キャパシターは、本発明の蓄電デバイス用電極を正極および/又は負極として有し、さらに、セパレータ、および非水電解液等を有し、必要に応じて本発明の蓄電デバイス用電極以外の電極(正極および負極のいずれか一方が本発明の蓄電デバイス用電極である場合)を有する。本発明の蓄電デバイス用電極以外の電極、セパレータ、および非水電解液等としては、特に限定されず、非水系電気二重層キャパシターにおいて周知の部材を使用することができる。具体的には、非水電解質液における溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等が使用される。非水電解質液における電解質を構成する陽イオン(カチオン)としては、例えば、テトラエチルアンモニウム塩等が使用され、陰イオン(アニオン)としては、例えば、四フッ化ホウ酸イオン(BF4-)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド((CF3SO22-)等が使用される。
【0115】
本発明の非水系電気二重層キャパシターは、公知乃至慣用の方法により製造でき、特に限定されないが、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて容器の形状に応じて巻いたり折ったりしてから、容器に入れ、該容器に非水電解液を注入した後、封口(封止)することにより製造できる。本発明の非水系電気二重層キャパシターは、例えば、ヒューズやPTC素子等の過電流防止装置、エキスパンドメタル、リード板等のその他の部材を有していてもよい。また、本発明の非水系電気二重層キャパシターの形状は、特に限定されず、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等のいずれであってもよい。また、本発明の非水系電気二重層キャパシターは、携帯電子機器、電気自動車、電動機器、定置機器等の各種用途における非水系電気二重層キャパシターとして使用することができる。本発明の非水系電気二重層キャパシターは、本発明の蓄電デバイス用電極を電極として有することにより、製造工程に起因する充放電特性(キャパシター特性)の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れる。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0117】
(合成例1)
酢酸セルロース(ダイセル社製、商品名「L−50」、アセチル基総置換度2.43、6%粘度:110mPa・s)1重量部に対して、5.1重量部の酢酸および2.0重量部の水を加え、40℃で5時間撹拌して外観均一な溶液を得た。この溶液に0.13重量部の硫酸を加え、得られた溶液を70℃に保持し、加水分解(部分脱アセチル化反応;熟成)を行った。なお、この熟成過程においては、途中で2回、水を系に添加した。すなわち、反応を開始して1時間後に0.67重量部の水を加え、さらに2時間後、1.67重量部の水を加え、さらに3時間反応させた。合計の加水分解時間は6時間である。なお、反応開始時から1回目の水の添加までを第1熟成、1回目の水の添加から2回目の水の添加までを第2熟成、2回目の水の添加から反応終了(熟成完了)までを第3熟成という。
加水分解を実施した後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に15重量部のアセトン/メタノール=1/2(重量比)混合溶媒(沈殿化剤)を加えて沈殿を生成させた。
固形分15重量%のウェットケーキとして沈殿を回収し、8重量部のメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄した。これを3回繰り返した。洗浄した沈殿物を、酢酸カリウムを0.004重量%含有するメタノール8重量部でさらに2回洗浄して中和し、乾燥して、酢酸セルロース(低置換度酢酸セルロース)を得た。
【0118】
(合成例2〜12)
反応温度、第1熟成時間、第2熟成時間、第3熟成時間、沈殿化剤を表1に示すように変更したこと以外は、合成例1と同様にして酢酸セルロース(低置換度酢酸セルロース)を得た。
【0119】
各合成例で得られた低置換度酢酸セルロースのアセチル基総置換度(DS)、重量平均重合度(DPw)、多分散性(分散度)(Mw/Mn)、および組成分布指数(CDI)を下記の方法で測定した。製造条件および得られた低置換度酢酸セルロースの物性の測定結果(分析値)を表1に示す。なお、表1の「サンプル番号」は、得られた低置換度酢酸セルロースのサンプル番号を意味する。
【0120】
(置換度(DS)の測定)
手塚の方法(Carbohydr. Res. 273, 83(1995))に準じて低置換度酢酸セルロース試料の未置換水酸基をプロピオニル化した。プロピオニル化低置換度酢酸セルロースのアセチル基総置換度は、手塚の方法(同)に準じて13C−NMRにおける169〜171ppmのアセチルカルボニルのシグナルおよび172〜174ppmのプロピオニルカルボニルのシグナルから決定した。
【0121】
(重量平均重合度(DPw)、分散度(Mw/Mn)の測定)
低置換度酢酸セルロースの重量平均重合度および分散度は、プロピオニル化低置換度酢酸セルロースに導いた後に次の条件でGPC−光散乱測定を行うことで決定した。
装置:Shodex製 GPC 「SYSTEM−21H」
溶媒:アセトン
カラム:GMHxl(東ソー)2本、同ガードカラム
流速:0.8ml/min
温度:29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:MALLS(多角度光散乱検出器)(Wyatt製、「DAWN−EOS」)
MALLS補正用標準物質:PMMA(分子量27600)
【0122】
(組成分布指数(CDI)の測定)
低置換度酢酸セルロースのCDIは、プロピオニル化低置換度酢酸セルロースに導いた後に次の条件でHPLC分析を行うことで決定した。
装置: Agilent 1100 Series
カラム: Waters Nova−Pak phenyl 60Å 4μm(150mm×3.9mmΦ)+ガードカラム
カラム温度: 30℃
検出: Varian 380−LC
注入量: 5.0μL(試料濃度:0.1%(wt/vol))
溶離液: A液:MeOH/H2O=8/1(v/v),B液:CHCl3/MeOH=8/1(v/v)
グラジェント:A/B=80/20→0/100(28min);流量:0.7mL/min
まず、アセチルDS(アセチル基総置換度)が0〜3の範囲でDS既知の標品をHPLC分析することで、溶出時間対DSの較正曲線を作成した。較正曲線に基づき、未知試料の溶出曲線(時間対検出強度曲線)をDS対検出強度曲線(組成分布曲線)に変換し、この組成分布曲線の未補正半値幅Xを決定し、次式により組成分布の補正半値幅Zを決定した。
Z=(X2−Y21/2
なお、Yは次式で定義される装置定数である。
Y=(a−b)x/3+b
a: アセチルDS=3の標品のX値
b: アセチルDS=0の標品のX値
x: 未知試料のアセチルDS
補正半値幅Zから、次式により組成分布指数(CDI)を決定した。
CDI=Z/Z0
ここに、Z0は全ての部分置換酢酸セルロースの調製におけるアセチル化および部分脱アセチル化が全ての分子の全ての水酸基(又はアセチル基)に対して等しい確率で生じた場合に生成する組成分布であり、次式で定義される。
【数5】
DPw:重量平均重合度
p:(未知試料のアセチルDS)/3
q:1−p
【0123】
【表1】
【0124】
(合成例13)変性ポリフッ化ビニリデンの製造
ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(KF1000;呉羽化学(株)製、分子量150,000、平均粒径180μm、懸濁重合で得られたもの)のパウダー10gをアセトン50g中に分散し、膨潤させ、ここにγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5gを添加混合し、スラリーとした。このスラリーを室温(約25℃)にて24時間静置後、アセトン溶液層をガスクロマトグラフ法により分析したところ、γ−アミノプロピルトリエトキシシランは検出されなかった。該スラリーを濾過して得た固形分を真空乾燥し、パウダー状の変性ポリフッ化ビニリデンを得た。
【0125】
(実施例1)
[負極の製造]
合成例4で得た酢酸セルロース(WSCA−70−0.9)5.26重量部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)47.37重量部に均一に溶解させた後、室温(約25℃)で24時間静置して、バインダー組成物を調製した。次に、このバインダー組成物にコークス粉末(ピッチコークスを窒素ガス中で100℃で1時間焼成したものを平均粒径10μmに粉砕したもの)47.37重量部を添加して撹拌混合し、電極形成用組成物(負極形成用組成物、スラリー)を調製した。
上記で得た電極形成用組成物を、厚さ10μmの圧延銅箔(面積:100mm×200mm)上に乾燥後の膜厚が80μmとなるように均一に塗布し、その後、温度170℃で3分間乾燥させて、集電体(圧延銅箔)上に負極活物質層を有する電極(負極)を製造した。
【0126】
[リチウムイオン電池の製造]
平均粒径30μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)90重量部と、導電材としてのグラファイト5重量部、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー(KF1000)5重量部、およびNMP100重量部を混合し、ボールミルで分散、混練りした。得られたペーストを20μmのアルミニウム箔に塗布し、乾燥させ、片側膜厚80μm(正極活物質層の厚み)の薄膜状電極を得た。これを200℃の熱ロールでプレスし、リチウムイオン電池の正極を製造した。
また、プロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンの1:1混合溶液(体積比)に、LiPF4を1モル/Lの濃度で溶解させたものを、リチウムイオン電池の電解液として使用した。
さらに、厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンフィルムを、リチウムイオン電池のセパレータとして使用した。
上記で得た正極を直径15mmの円形に加工した。さらに、上記正極の正極活物質層面側に、セパレータ(直径18mmの円形)、負極(直径18mmの円形)、およびエキスパンドメタル(直径18mmの円形)をこの順に積層し、得られた積層体をポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に、空気が残らないように上記電解液を注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して上記外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、このようにして得られた電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmの電池(リチウムイオン電池)を製造した。
【0127】
(比較例1)
酢酸セルロースの代わりに合成例13で得た変性ポリフッ化ビニリデン(変性PVDF)を使用し、圧延銅箔上に塗布した電極形成用組成物を乾燥させる際の温度を110℃に変更し、乾燥時間を10分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、電極(負極)およびリチウムイオン電池を製造した。
【0128】
(実施例2〜5、比較例2)
電極形成用組成物の組成および乾燥条件を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、電極(負極)およびリチウムイオン電池を製造した。
【0129】
(実施例6)
合成例2で得た酢酸セルロース(WSCA−70−1.1)5重量部と、水50重量部と、人造黒鉛(平均粒径24.5μm、黒鉛層間の距離(002面の面間隔)0.354nm)100重量部とを、プラネタリーミキサーで30分間撹拌混合し、電極形成用組成物を調製した。
上記で得た電極形成用組成物を、厚さ10μmの圧延銅箔(面積:100mm×200mm)上に乾燥後の膜厚が80μmとなるように均一に塗布し、その後、60℃で2分間、続いて、120℃で2分間の条件で乾燥させて、電極(負極)を製造した。
また、上記で得た負極を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を製造した。
【0130】
(比較例3)
カルボキシメチルセルロース(セロゲンBSH−12、第一工業製薬製)の2%水溶液25重量部と、人造黒鉛(平均粒径24.5μm、黒鉛層間の距離(002面の面間隔)0.354nm)100重量部とを、プラネタリーミキサーで60分間撹拌混合し、混合物(「混合物1」と称する場合がある)を得た。
次に、上記で得た混合物1に、カルボキシメチルセルロース(セロゲンBSH−12、第一工業製薬製)の2%水溶液25重量部を加え、プラネタリーミキサーで10分間撹拌混合し、混合物(「混合物2」と称する場合がある)を得た。
さらに、上記で得た混合物2に、スチレン−ブタジエンゴムの40%懸濁液(BM−400B、日本ゼオン製)3.75重量部を加え、プラネタリーミキサ−で10分間撹拌混合し、電極形成用組成物を調製した。なお、表2には、このようにして得られた電極形成用組成物の組成(最終組成)を示した。
上記で得た電極形成用組成物を使用したこと以外は実施例6と同様にして、電極(負極)およびリチウムイオン電池を製造した。
【0131】
(比較例4)
カルボキシメチルセルロース(セロゲンBSH−12、第一工業製薬製)の2%水溶液50重量部と、人造黒鉛(平均粒径24.5μm、黒鉛層間の距離(002面の面間隔)0.354nm)100重量部と、スチレン−ブタジエンゴムの40%懸濁液(BM−400B、日本ゼオン製)3.75重量部とを、プラネタリーミキサーで80分間撹拌混合し、電極形成用組成物を調製した。
上記で得た電極形成用組成物を使用したこと以外は実施例6と同様にして、電極(負極)およびリチウムイオン電池を製造した。
【0132】
(実施例7〜15)
電極形成用組成物の組成および乾燥条件を表2に示すように変更したこと以外は実施例6と同様にして、電極(負極)およびリチウムイオン電池を製造した。
【0133】
実施例および比較例で得られた負極における結着性を下記手順で評価した。また、実施例および比較例で得られた電池(リチウムイオン電池)の電池特性(サイクル性)を下記手順で評価した。
【0134】
(結着性の評価)
1.剥離強度による評価
得られた電極(負極)について、JIS K6854−2に準拠して180°剥離試験による剥離強度[接着強度(集電体に対する負極活物質層の接着強度)、単位g/mm]を測定し、結果を表2の「結着性」の欄に示した。
【0135】
2.碁盤目試験による評価
JIS K5400:1990の碁盤目試験の方法に準拠して、得られた電極(負極)における集電体に対する負極活物質層の結着性を10段階で評価した。結果を表2の「結着性」の欄に示した。なお、上記試験において得られた結果が高得点であるほど、結着性が良好であることを示す。
【0136】
(電池特性の評価)
得られた電池を20℃、0.1Cの定電流で4.3Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する操作を繰り返した。
2回目の放電容量を基準として、放電容量が2回目の放電容量の90%となった時点の上記操作の繰り返し数を「サイクル数」として求めた。なお、サイクル数が大きいほど、電池としての特性に優れていることを示す。
【0137】
【表2】
【0138】
表2に示されるように、実施例1〜5の有機溶媒系の製造方法で得られた負極は、集電体に対する負極活物質層の結着性に優れており、上記負極を有する電池はサイクル性(電池特性)に優れていた。また、負極製造時の乾燥を高温・短時間で実施した場合にも電池特性の低下を伴うことなく、高生産性と高品質とが両立されていた。これに対して、比較例1で得られた負極および該負極を有する電池は、結着性および電池特性には優れていたが、負極製造時の乾燥時間を長くとる必要があり、生産性に劣っていた。一方、比較例1において負極製造時の乾燥温度を高くして乾燥時間を短くした場合(比較例2)には、結着性および電池特性が著しく低下した。
【0139】
また、表2に示されるように、実施例6〜15の水系の製造方法で得られた負極は、集電体に対する負極活物質層の結着性に優れており、上記負極を有する電池はサイクル性(電池特性)に優れていた。また、電極形成用組成物を一段階の混合操作により調製した場合にも電池特性の低下を伴うことなく、高生産性と高品質とが両立されていた。これに対して、比較例3で得られた負極および該負極を有する電池は、結着性および電池特性には優れていたが、電極形成用組成物を三段階の混合操作で調製する必要があり、生産性に劣っていた。一方、比較例3において電極形成用組成物を一段階の混合操作で調製した場合(比較例4)には、結着性および電池特性が著しく低下した。
【0140】
(実施例16)
[正極の製造]
表3に示すように、合成例2で得た酢酸セルロース(WSCA−70−1.1)3重量部と、コバルト酸リチウム(商品名「セルシード C−10N」、日本化学工業(株)製)94重量部と、カーボンブラック(商品名「ケッチェンブラックEC300J」、ケッチェン・ブラック・インターナショナル製、200メッシュ・75μmパス98%以上)3重量部と、NMP(電極形成用組成物の固形分が67%となる量)とを、混練機(商品名「AR−250」、(株)シンキー製)に入れ、5分間混合して、電極形成用組成物(正極形成用組成物、正極合剤ペースト)を調製した。
上記で得た電極形成用組成物(ペースト)を厚さ10μmのアルミニウム箔上に広げ、バーコーターでペーストの厚みを整えた後、表3に示す条件(乾燥温度、乾燥時間)で乾燥させた。その後、40MPaでプレスを行い、集電体(アルミニウム箔)上に厚さ80μmの正極活物質層(正極合剤)を有する電極(正極)を製造した。
【0141】
(実施例17、比較例5)
電極形成用組成物の組成および乾燥条件を表3に示すように変更したこと以外は実施例16と同様にして、電極(正極)を製造した。
なお、比較例5においてバインダーとして使用したPVDFは、商品名「KFポリマーL#1120」((株)クレハ製)である。
【0142】
(90°剥離強度の評価)
実施例および比較例で得られた正極における正極活物質層の集電体に対する90°剥離強度を、JIS K6854に準拠して測定した。結果を表3に示す。
なお、上記で測定された剥離強度が高いほど、集電体に対する正極活物質層の結着性に優れることを示す。
【0143】
表3に示されるように、実施例16、17で得られた正極は、集電体に対する正極活物質層の剥離強度が高かった。一方、本発明の規定を満たさない比較例5で得られた正極は、集電体に対する正極活物質層の剥離強度に劣っていた。
【0144】
【表3】
【0145】
(実施例18)
[キャパシター用電極の製造]
表4に示すように、合成例6で得た酢酸セルロース(WSCA−70−0.7)5重量部と、活性炭(商品名「マックスソープ」、MCエバテック製、比表面積1,800m2/g、平均粒径3μm)90重量部と、アセチレンブラック(商品名「デンカブラック」、電気化学工業(株)製)5重量部とを秤量、混合し、純水を加えて、全固形濃度を30重量%に調整した。このようにして得た混合物をプラネタリーミキサーで30分間混合することで、電極形成用組成物(電極ペースト)を調製した。
上記で得た電極形成用組成物(電極ペースト)を、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にコンマコーターを使用して塗布した。次いで、アルミニウム箔上の電極形成用組成物を90℃で乾燥させた。その後、得られたアルミニウム箔上の電極層をロールプレス機を用いてプレス加工して、電極層厚みを10%減じさせ、集電体(アルミニウム箔)の両面にそれぞれ表4に示す厚みの電極層を有するキャパシター用電極を製造した。なお、コンマコーターによる電極形成用組成物の塗布においては、プレス加工後の電極層が所定の厚さとなるように塗布量を調整した。
【0146】
[非水系電気二重層キャパシターの製造]
上記で得たキャパシター用電極を用いて、特開2009−278135号公報に記載の方法に準じて、以下の手順で非水系電気二重層キャパシターを製造した。
上記で得たキャパシター用電極を表4に記載のサイズとなるように裁断した。次に、裁断後のキャパシター用電極におけるアルミニウム箔にアルミニウム製のリード線を取り付けた。このようにリード線を取り付けた電極を2つ作製した。
次に、2つの電極の間に、紙からなるセパレータを挟み、捲回した。捲回した電極とセパレータに対して電解液である1.0Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレイト・プロピレンカーボネート溶液を含浸させた。
最後に、電解液を含浸させた電極とセパレータの捲回体を有底筒状ケースに挿入し、封口して、キャパシター(非水系電気二重層キャパシター)を得た。
【0147】
(実施例19、比較例6、7)
電極形成用組成物の組成および電極仕様(電極層厚さ、電極層サイズ)を表4に示すように変更したこと以外は実施例18と同様にして、キャパシター用電極およびキャパシターを製造した。
なお、比較例6、7においてバインダーとして使用したカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩は、商品名「DN−800H」(ダイセルファインケム(株)製)である。また、比較例6、7においてバインダーとして使用したブタジエン共重合体は、商品名「Nipol LX432M」(日本ゼオン(株)製、変性スチレン−ブタジエン系ラテックス、エマルジョン製品としての固形分41%)である。また、表4におけるブタジエン共重合体の量は、「Nipol LX432X」の固形分換算の量で示した。
【0148】
(充放電特性の評価)
実施例および比較例で得られたキャパシターに対して、60℃の恒温槽内で2.0Vの定電圧で12時間電圧を印加した。その後、キャパシターを放電させた。
次に、キャパシターを25℃に空調した実験室雰囲気に置き、2.0Vの定電圧で5分間充電した後、1A電流で放電させた。
この放電(25℃での放電)における容量と、初期0.5秒の電圧降下より求めた抵抗(直流抵抗)とを測定した。結果を表4に示す。
また、25℃を−30℃に変更したこと以外は、上記と同様にして、−30℃での放電における容量と、初期0.5秒の電圧降下より求めた抵抗(直流抵抗)とを測定した。結果を表4に示す。
【0149】
【表4】
【0150】
表4に示されるように、実施例18、19で得られたキャパシターは、直流抵抗が低いことにおいて優れており、これは特に低温(−30℃)において顕著であった。これは、本発明のキャパシター用電極の電極層においては、炭素材料の分散性と、炭素材料およびアルミニウムの結着性とに優れており、このような特性が低温においても損なわれないためと推測される。比較例6、7で得られたキャパシターは、実施例18、19で得られたキャパシターと比較して直流抵抗が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の蓄電デバイス用電極は、製造工程に起因する充放電特性の低下を生じることなく、充放電特性と生産性の両方に優れているため、例えば、携帯電子機器、電気自動車、電動機器、定置機器等の各種用途に使用される蓄電デバイス(リチウムイオン電池、非水系電気二重層キャパシター等)の電極として有用である。