(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、建設機械の管理システムの構成図である。本実施形態の建設機械の管理システムは、オイル試験装置1〜n(符号101〜103)、各種DB121〜125、表示装置180、これらにネットワークを介して接続された計算機(コンピュータ)114がソフトウェアと協働してオイル診断処理を実現しているオイル診断システム131を備えている。
【0013】
オイル試験装置101,103は、内部に計算機(コンピュータ)111,113を備えており、ネットワークと接続されている。オイル試験装置101,103の試験結果はネットワークを介して試験結果DB121に直接格納される。一方、オイル試験装置102のように計算機が搭載されていない場合には、その試験結果をネットワーク接続された計算機112の入力デバイス(図示せず)で入力することにより、試験結果がネットワークを介して試験結果DB121に格納されるか、または、計算機114の入力デバイス(図示せず)で入力することにより、試験結果DB121に格納される。
【0014】
データベースは試験結果DB121の他、未使用のオイルを意味する新油の試験値の情報を格納する新油情報DB122、オイル試験結果を判定するための管理基準を格納する管理基準DB123、診断ルールを格納する診断ルールDB124、顧客や代理店へ推奨される行動などの推奨情報と診断結果を関係付ける推奨ルールを格納する推奨ルールDB125が備えられている。
【0015】
オイル診断システム131は試験結果DB121からオイル試験結果データを取得するオイル試験結果取得部141を備え、各処理を実行する際に必要となるオイル試験結果を取得できる。さらにオイル診断システム131は、
図1に示したように、(1)管理基準設定処理に関する複数の処理部151〜154と、(2)オイル試験結果判定処理に関する複数の処理部161〜165と、(3)診断処理に関する複数の処理部171〜179と、という3つに分類される複数の処理部を有する。以下、これら各処理部の機能について説明する。
【0016】
管理基準設定処理では、各試験項目についてのオイル試験結果のランク判定に必要となる、ランク毎の閾値、つまり管理基準値を設定する管理基準設定部151が利用される。金属摩耗粉、外部混入物に係る試験結果は固定の値を各ランクの閾値として設定すればよいが、性状、添加剤に係る試験結果は新油においてある定まった試験値(新油値)となり、使用により試験値は変動する。このため、新油値に対する相対値(例えば、新油値との差分または新油値に対する倍率等)で管理基準を設定してもよい。
【0017】
オイルは建設機械の使用時間に応じて劣化する。そこで、オイル使用時間補正設定部152により、オイル使用時間に対して管理基準値を補正する設定が行われる。なお、建設機械の実際の使用時間を正確に測定できない場合、オイルの試験値はオイル交換以後、オイル採取時点までの経過時間と建設機械の実際の使用時間との間には相関があるので、経過時間を使用時間とみなして用いてもよい。
【0018】
また、オイルの劣化原因となる金属摩耗粉、外部混入物は機種、機器に応じて発生態様が異なる。そこで、まず、オイル試験結果取得部141により、特定の機種、機器の過去のオイル試験結果データを取得する。次に、2重対数変換統計モデル化部153により、過去のオイル試験結果データから試験値の発生確率の分布を求める。そして、統計的管理基準値設定部154により、異常となる発生確率に対応する試験値を求め、これを管理基準値として設定する。この設定は予め求めて管理基準値として記憶しておく。
【0019】
より具体的には、2重対数変換統計モデル化部153は、過去に実施されて試験結果DB121に蓄積されているオイル試験結果の試験値をオイル試験結果取得部141で取得して、当該試験値を2重対数変換(すなわち対数変換した後に更に対数変換すること)し、2重対数変換後の試験値の平均と標準偏差を算出し、2重対数変換後の試験値の発生の確率モデルを正規分布として、2重対数正規分布を算出する。そして、統計的管理基準値設定部154は、予め設定された累積確率値(異常となる発生確率)に対する2重対数変換後の試験値を算出し、算出された2重対数変換後の試験値を2重指数変換(すなわち指数変換した後に更に指数変換すること)して、累積確率値に対応する試験値を算出し、算出された累積確率値に対応する試験値を管理基準値として設定する。
【0020】
なお、2重対数変換後の試験値が正規分布に当てはまらない場合もある。その場合にはワイブル分布で発生確率をモデル化する。この場合、2重対数変換統計モデル化部153は、過去に実施されて試験結果DB121に蓄積されているオイル試験結果の試験値をオイル試験結果取得部141で取得して、当該試験値を2重対数変換し、2重対数変換後の試験値の発生の確率モデルをワイブル分布(すなわち2重対数ワイブル分布)とするために、2重対数変換後の試験値を昇順に並べて順位を求め、その順位を全データ数で割ることで、2重対数変換後の試験値の発生の累積確率値を算出し、2重対数変換後の試験値を対数変換した値を説明変数、発生の累積確率値をワイブル累積分布式に基づいて変換した値を目的変数とした、1次式の係数と切片を最小二乗法により算出し、1次式の係数をワイブル分布の形状パラメータとし、1次式の係数と切片よりワイブル分布のスケールパラメータを算出する。このように2重対数変換統計モデル化部153よってモデル化された2重対数ワイブル分布に基づいて、統計的管理基準値設定部154は、予め設定された累積確率値に対する2重対数変換後の試験値を算出し、算出された2重対数変換後の試験値を2重指数変換して、累積確率値に対応する試験値を算出し、算出された累積確率値に対応する試験値を管理基準値として設定する。
【0021】
なお、上記の2重対数変換統計モデル化部153と統計的管理基準値設定部154による管理基準値の設定については、
図9から
図14の具体例を用いて後に詳述する。
【0022】
ところで、オイル試験結果判定処理では、まず判定対象のオイル試験結果をオイル試験結果取得部141により取得する。管理基準取得部161により管理基準DB123から管理基準を取得する。試験項目が性状または添加剤の場合、新油値を参照して管理基準が設定されるので、新油情報取得部162により新油情報DB122から新油情報を取得する。判定閾値設定部163により、判定のランクの範囲を試験値の数値に対応した管理基準値を求める。なお、管理基準が試験値に直接対応した数値で設定されている場合は、判定閾値設定部163は管理基準取得部161で取得した値そのものを直接に判定するための管理基準値とすればよい。そして、判定部164によりオイル試験結果をランク分け判定する。判定結果は判定結果出力部165により、表示装置に出力されるが、診断処理で判定結果を用いるため計算機114のメモリやハードディスクに格納するか、試験結果DB121に試験結果と併せて格納してもよい。
【0023】
診断処理では、まず、診断ルールDB124から、診断ルール取得部171により診断ルールを取得する。本実施形態の診断ルールは、IF−THENの形式で定義され、IF部の条件が満足されるなら、THEN部を結果とする、1階層の論理関係を表現している。診断ルールは、過去の診断実績やノウハウ等に基づいて予め複数作成されており、全て診断ルールDB124に格納されている。各診断ルールのIF部には、1つ以上の判定結果及び/又は1つ以上の診断結果が設定され、THEN部には1つの診断結果が設定される。つまり、診断ルールは、判定結果から新たな診断結果を出すだけでなく、診断結果からも新たな診断結果を出すことができる。
【0024】
診断処理では、次に、判定結果取得部172により、オイル試験結果判定処理に係る1以上の判定結果を取得する。そして、判定結果取得部172が取得した全ての判定結果に対して、診断ルール取得部171が診断ルールDB124から取得した全ての診断ルールを診断部173により1つずつ適用する。診断部173が適用した診断ルールのIF部に設定された条件が満足された場合には、当該診断ルールのTHEN部の診断結果が新たに得られる。その際、診断連鎖関係取得部174は、当該新たに得られた診断結果と、当該診断ルールのIF部に設定された条件(判定結果、診断結果)とを当該診断ルールでリンク付けする。そして、診断部173は、判定結果取得部172が取得した全ての判定結果と当該新たな診断結果に対して再度全ての診断ルールを1つずつ適用し、更に新たな診断結果が得られたら、当該更に新たな診断結果を生み出した診断ルールのIF部とTHEN部のリンク付けを診断連鎖関係取得部174により行う。以下、新たな診断結果が得られなくなるまでこれを繰り返す。これらの処理により、最初の診断ルールの適用から新たな診断結果が得られなくなるまでの間に診断結果を発生した各診断ルールのIF部に設定された1以上の判定結果及び/又は1以上の診断結果と、THEN部に設定された診断結果とがリンク付けされて、判定結果と診断結果をノードとし診断ルールを有向リンク(鎖)とする連鎖構造が得られる。この得られた連鎖構造は、判定結果取得部172が取得した判定結果から最終的な診断結果(最終診断結果)に至るまでの論理構造を示す。得られた連鎖構造は、通常は1以上の有向木構造となり、各構造の終端に位置する診断結果が最終診断結果となる。
【0025】
なお、各診断ルールのTHEN部(結果)に設定される診断結果は1つに限定し、各診断ルールは同一の診断結果を生成しないこと(診断ルールDB124内の診断ルールからは同一の診断結果は複数生成されない)とする。また、連鎖構造はループが無い有向木である。これは或る診断結果を起点として、そこから診断ルールでリンク付けされる診断結果の連鎖を次々に辿ったとき、元の診断結果に戻ることは無いことを示す。よって最終的な診断結果は必ず存在することになる。最終的な診断結果は複数存在することもある。診断ルールを介して各最終診断結果に至るエッジを逆方向に辿ることにより、判定結果からその最終診断結果を導き出した論理構造が特定される。
【0026】
このように得られた最終診断結果に至る論理構造は、建設機械ユーザや代理店などの人に報告するために文章化される。ここでは、最終診断結果に至る論理構造を文章化したものを診断文章と称することがある。
【0027】
具体的には、まず、診断連鎖関係取得部174により取得した最終診断結果に至る論理構造を示す個々の連鎖構造(連鎖関係)から、診断木構造取得部175により木構造(診断木構造と称することもある)を取得する。診断木構造は、連鎖構造から診断ルールを取り除くことで取得でき、当該木構造では、最終診断結果がルートノード、オイル試験結果の判定結果がリーフノード、最終診断結果(ルートノード)と判定結果(リーフノード)の間に位置する診断結果が内部ノードとなる。取得された木構造を診断文章生成部176により文章化する。診断木構造はリーフノードから内部ノードを介してルートノードに至る構造が論理的な関係となっている。そのため木構造を巡回することで論理的な文章を作成することも可能となる。
【0028】
具体的には、まず推奨ルール取得部177により、最終診断結果に対応付けられた推奨ルールを推奨ルールDB125から取得する。次に、推奨部178により、取得した推奨ルールと最終診断結果とに基づき、ユーザ、建設機械メーカまたは代理店が実施することが望ましい行動が記載された文章である推奨文章を作成する。
【0029】
以上の、オイル試験結果の判定結果、診断文章、推奨文章を、レポート出力部179により所定のフォーマットで報告書として表示装置180に出力する。なお、出力方法は、表示装置への表示に限らず、データ(記録媒体またはネットワーク)での提供又は紙での提供などの形式でユーザ、代理店等に通知される。
【0030】
なお、上記システムを構成する各ハードウェアが互いに通信可能に構成されていれば、各ハードウェアの設置場所に特に限定はない。さらに、各計算機の機能を統合して計算機の台数を減少させても良いし、逆に各計算機の機能を分散して計算機の台数を増加させても良い。
【0031】
計算機114は表示装置(ディスプレイ)180、プリンタ、さらに他の計算機又はサーバともネットワーク接続されており、各種のデータの授受が可能である。このデータにはオイル診断の報告書も含まれる。
【0032】
以上のように構成した本実施の形態によれば、オイル試験項目の試験結果の判定(異常度合いのランク付け)に用いる閾値(管理基準値)が最適に設定されるので、各試験結果の異常度合いを適正に判定できる。そして、各試験項目の判定結果の組合せに対して、予め用意しておいた複数の診断ルールを繰り返し適用することで、最終的な診断結果を導き出すことができる。また、最終的な診断結果を取得するまでの間に新たな診断結果を生成した診断ルールのIF部及びTHEN部に基づいて、判定結果からその最終診断結果に至る論理構造を容易に取得でき、これを利用して当該論理構造を文章または木構造で表現できる。つまり、本実施の形態によれば、これまでオイル分析の専門家が行っていた試験結果の異常度合いの判定、その判定結果に基づいた最終的な診断、当該判定結果から当該最終診断に至った論理構造を容易に把握できる。さらに、本実施の形態は、最終診断結果と推奨文章を対応付ける推奨ルールを利用しているので、オイル試験結果を取得するだけで、判定結果、診断文章および推奨文章が記載された報告書を自動的に作成できる。また、判定結果からその最終診断結果に至る論理構造を文章で表現した場合には、オイル分析の専門家以外の者も建設機械に生じた不具合の内容を容易に解釈できる。
【0033】
また、2重対数変換による統計的な計算のモデルを用いることで、実際のデータから管理基準値を算出可能としている。特に、金属摩耗粉、外部混入物の分類に属する試験項目については、機種、機器毎に実際の稼動における発生量、及び試験での検出値に応じて管理基準値が設定されるようにすることで、管理基準値をより適切に自動設定可能となる。
【0034】
以下では、上記の建設機械の管理システムを利用して建設機械及びその機器の状態を診断する場合のさらに詳細な具体例について説明する。
【0035】
<1.オイルの分析>
まず、オイル分析について説明する。建設機械のユーザはオイルを採取するためのサンプリングキットを用いて、建設機械に搭載された各機器のオイルを採取する。機器とは、エンジン、トランスミッションや走行減速機、旋回減速機などの各種ギヤ、また油圧系といった、建設機械に搭載されている潤滑の対象となる構造物である。それぞれの機器ではエンジンオイル、ギヤオイル、作動油が潤滑に用いられる。キットにより採取されたオイルサンプルはオイル分析会社に送付され、オイルの各種試験が実施される。なお、通常、オイルの試験は建設機械メーカと資本的に独立したオイル分析会社が実施するが、建設機械メーカ自身やその資本関係がある会社でもかまわない。
【0036】
各種試験とは、オイルの粘りを意味する動粘度、塩基価/全酸価といった酸性の度合い(中和価)、引火点、燃料分、水分、オイル中の固形的な汚れ分を評価するペンタン不溶解分といったオイルの性状に関する試験、オイル中の鉄や珪素といった元素を検出するICP(Inductive-Coupled Plasma)プラズマ発光分光分析(SOAP:Spectrometric Oil Analysis Program)、またオイル中の分子の量を計測するフーリエ変換赤外(FT-IR:Fourier Transform InRrared)分光分析といった試験である。プラズマ発光分光分析で検出できる元素は、(1)鉄、銅、鉛といった機器の摺動部の摩耗によって発生する金属摩耗粉、(2)珪素、ナトリウムといった機械の外部又は潤滑構造の外部から混入した外部混入物、(3)リン、亜鉛、カルシウムといったオイルの性能を向上するために添加された添加剤に分類される。
【0037】
オイルの試験結果から、オイルの状態、機器の状態が診断される。診断結果は報告書として、建設機械ユーザに通知されると共に、建設機械メーカとその代理店に通知される。代理店は診断の結果に応じた適切なサービスをユーザに提供する。
【0038】
オイル試験結果の判定、診断、報告書の生成の全体の処理の流れを
図2に示す。
図2において、楕円で囲まれた文字は処理、楕円で囲まれていない文字はデータ、矢印はデータの流れ、残りはデータベースを示す。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付す(後の図も同様とする)。
【0039】
まずオイル試験結果の判定214を行う前に、管理基準設定201を行う。管理基準設定201は人がマニュアルで設定し、他の丸囲みの処理は計算機114が実行する。管理基準は管理基準DB123に格納されている。金属摩耗粉、外部混入物は建設機械の機種、機器に応じて発生態様が異なる。そこで、オイル試験結果DB121から取得した過去のオイル試験結果のデータに基づいて管理基準値の統計的設定204が実行され、その管理基準値が管理基準DB123に格納される。
【0040】
オイル試験結果211、オイル使用情報212、管理基準DB123の管理基準、新油情報DB122の新油情報を入力としてオイル試験結果の判定処理214が実行される。オイル使用情報212とは、顧客、機械のシリアルといった情報、オイル採取日を含むオイルサンプリングに関する情報、機種、機器の情報、オイルの銘柄や粘度グレードの情報、オイル使用時間、機械の稼動開始以降の全稼働時間を意味する機械稼働時間である。オイル試験結果の判定処理214では、管理基準DB213の管理基準、必要に応じて、新油情報DB122およびオイル使用情報も参照して、入力されたオイル試験結果211と比較することにより、ランク判定処理を行い、その判定結果215を求める。
【0041】
判定結果215を得たら、これを入力として診断処理222を実行する。診断処理222では、判定結果215に対して、診断ルールDB124から取得した診断ルールを適用することで、新たな診断結果を得る。新たな診断結果が得られたら、これに判定結果215を加えたものに対して診断ルールDB124の診断ルールを再度適用し、以下、新たな診断結果が得られなくなるまで繰り返し、最終的な診断結果223を得る。また、この診断処理222の間に診断結果を生成した診断ルールのIF部とTHEN部に基づいて判定結果215と診断結果を適宜リンク付けし、この診断ルールでリンク付けされた判定結果215と診断結果による連鎖構造を得る。
【0042】
文章生成処理224では、診断処理222で得られた連鎖構造に基づいて、判定結果215から診断結果223に至った論理構造を示す文章を生成する。一方で、推奨処理232では、推奨ルールDB125より取得した推奨ルールを診断結果223に適用し、推奨文章を得る。
【0043】
文章生成処理224及び推奨処理232で得られた診断文章と推奨文章は、判定結果215と併せて報告書241に記載される。なお、
図2中には矢印を描いていないが、システムへの入力であるオイル試験結果211とオイル使用情報212は、診断処理222の前提となる情報として報告書241に記載される。
【0044】
<2.オイル試験結果の判定方法>
オイル試験結果の判定方法について説明する。オイルの試験項目の一覧を
図3に、判定処理のフローチャートを
図4に示す。
【0045】
まずオイル試験項目と判定のための管理基準について説明する。
図3に示すように、オイルの試験項目は、性状、金属摩耗粉、外部混入物、添加剤の4つに分類している。試験項目はオイルや機械の状態を表すので状態指標と呼ばれることもある。
【0046】
本実施の形態では全ての試験結果は定量値化(数値化)されており、ここではその数値を試験値とする。しかし、管理基準と比較する場合に、試験値に所定の変換が必要な場合もある。そこで、本実施形態では、試験値をそのまま用いる場合も、試験値を変換した値を用いる場合も、その値を「評価値」を称することとする。したがって、試験結果の判定とは、試験結果の評価値の異常度合いを判定することである。本実施形態では、各試験項目で試験値の数値範囲を設定し、ランクによる判定を行う例について説明するが、ランク数は各試験項目で統一にする必要はなく、試験項目によってランク数を異ならせても良い。
【0047】
以下、ランク数4、具体的には、Normal(正常)、Alert(注意)、Urgent(緊急)、Critical(致命的)の4段階の状態を示すランクが設定されている場合について説明する。例えば、鉄分の管理基準値が、Normalの上限値40ppm、Alertの上限値70ppm、Urgentの上限値100ppmで、それより大きな範囲をCriticalとした場合には、試験値が50ppmのとき、判定結果はAlertとなる。
【0048】
金属磨耗粉の分類に属する鉄分の試験値は0以上の値に限定されており、判定は0以上の範囲に限られる。試験値の範囲が或る値以上に限定される場合、判定の方向は「上側」であるとする。また、或る値以下に限定される場合、判定の方向は「下側」であり、或る値に対して上にも下にも試験値が発生する場合、判定の方向は「両側」である。
【0049】
性状や添加剤の分類に属する試験項目の試験値は、オイル銘柄や粘度グレードに依存して、未使用の新油の試験値(新油値)を基準に判定する必要がある。オイル銘柄、粘度グレードに依存する試験項目には管理基準値の設定に新油値が必要となる。添加剤については添加されている元素についてのみ新油値で設定する。
図3の例では、オイルにP、Zn、Caは添加されているため新油値が必要である一方、B、Ba、Mg、Moは添加されていないため新油値は不要である。
【0050】
上記の鉄分の例(管理基準値を、Normalの上限値40ppm、Alertの上限値70ppm、Urgentの上限値100ppmとし、それより大きな範囲をCriticalとした例)では、試験結果がいずれのランクに対応するかを、試験値そのものを評価値として判定した。
【0051】
これに対して、新油値を基準として判定する場合には新油値と試験値の差を評価値として判定することとなる。判定の方向は上側、下側または両側となる。判定の方向が分類されているならば、判定においては、新油値と試験値の差の絶対値を評価値として判定しても良い。動粘度40℃を例に判定内容を示す。新油値を100mm
2/sとする。管理基準値のための上限値を±15%とする。つまり上限値115mm
2/s、下限値85mm
2/sとなるが、絶対値で評価するため上限値と新油値との差に基づいて管理基準値を定める。より具体的には上限値と新油値との差の上限値に掛ける倍率で管理基準値を設定する。Normalの上限値を0.5倍、Alertの上限値を0.8倍、Urgentの上限値を1倍とすれば、上限値と新油値の差を評価値とした場合の実際の管理基準値は、Normalの上限値0.5×15=7.5mm
2/s、同様の計算でAlertの上限値12mm
2/s、Urgentの上限値15mm
2/sとなる。例えば、試験値が110mm
2/sだった場合、評価値は110−100=10mm
2/sとなり、これは7.5〜12mm
2/sの間に含まれるので、ランク判定結果はAlertとなる。
【0052】
<2−1.管理基準>
ここで、管理基準値の設定方法、また管理基準値を設定するための管理基準について説明する。まず鉄分のように試験値そのものを判定するための管理基準については、管理基準値としてNormal、Alertといったランクごとに固定の値を設定すればよい。ランク毎の試験値の上限値、下限値として設定した固定値が管理基準値となる。
【0053】
試験値そのものを判定するための管理基準としては、新油値の倍率により管理基準値を設定する場合もある。例えば添加剤は新油に対して一定量が添加されており、増減がある場合には、「添加剤が消耗した」又は「異なる銘柄のオイルが混入した」などと診断できる。よって新油値に対し、上側は2倍までがNormal、3倍までがAlert、4倍までがUrgent、それ以上でCriticalと設定すればよい。下側ならば1倍から0.7倍までがNormal、0.4倍までがAlert、0.2倍までがUrgent、それ以下でCriticalと設定する。リン(P)の新油値が2000ppmならば、上側はNormal上限値4000ppm、Alert上限値6000ppm、Urgent上限値8000ppm、下側はNormal下限値1400ppm、Alert下限値800ppm、Urgent下限値400ppmとする。これにより試験値そのものを判定できる。新油値とその倍率が管理基準となる。
【0054】
上記では新油値を基準として、新油値とその倍率を管理基準としたが、新油値の代わりに任意の数値を基準値として設定しても良い。この場合は、当該基準値とその倍率が管理基準となる。
【0055】
新油値と試験値の差の絶対値を評価値とした場合には、管理基準値を固定値で設定できる。例えば、リン(P)の新油値が2000ppmであって、新油値と試験値の差の絶対値の管理基準値を上側でNormal上限値2000ppm、Alert上限値4000ppm、Urgent上限値6000ppmとする。この場合、試験値が3200ppmであったならば評価値は|2000−3200|=1200ppmとなり、Normal上限値未満であるためNormalと判定されることとなる。
【0056】
また、新油値と試験値の差の絶対値を評価値とする場合でも、倍率により管理基準値を設定することが可能である。そのためには、上側に対しては上限値、下側に対しては下限値が必要となる。上側の場合、上限値と新油値の差を1倍と定め、ランク毎の倍率をかけることにより閾値が得られる。
図5に上限値502と新油値501の差に対してランク毎の倍率により管理基準値を設定した例を示す。Normalの上限値は0.5倍(512)、Alertの上限値は1倍(513)、Urgentの上限値は2倍(514)とした。
【0057】
この場合の具体的な設定の例として、先に示した動粘度40℃の設定がある。新油値に対して上限値は+15%と設定された。ランク毎の倍率はNormal上限値を0.5倍、Alert上限値を0.8倍、Urgent上限値を1倍として、新油値の上限値を求め、上限値と新油値との差に各ランクの倍率をかけて管理基準値が設定された。
【0058】
管理基準値をオイル使用時間に対して補正することが必要になる場合もある。オイルは機器の使用につれ劣化し、また金属摩耗粉も摺動部における接触の量、すなわち摺動距離に応じて増加することが考えられるためである。したがって、オイル使用時間に対して試験値は増加するものとして、管理基準値をオイル使用時間に対して増加させる補正をモデル化する。
図6にオイル使用時間に対する管理基準値の関係を示す。縦軸は試験値であり、横軸はオイル使用時間である。まずランク毎の管理基準は図中の管理基準値611,612,613のように設定されているとする。この管理基準値で管理されるべき時点を基準オイル使用時間601とする。補正のモデルは直線であるとする。直線を決めるためには、その直線が通る2点が定まればよい。そこでオイル使用時間が0時間の時点(オイル交換時)における管理基準値621,622,623を設定すればよい。0時間における管理基準値はその初期値であり、管理基準値の初期値を設定することは、直線モデルとしては切片を設定することである。また、直線モデルの傾きは、単位時間当りの管理基準値の変化量となる。
【0059】
図7に切片の設定方法を示す。まず単純に切片の値α701を設定することができる。次に基準オイル使用時間における管理基準値γ703に対する差分の量β702を設定することでも、切片の値α701を決めることができる。もしくは管理基準値γ703に対する切片の比率、即ちα÷γの値を設定しても切片の値α701を決めることができる。
【0060】
各ランクの管理基準値に対し、直接に各ランクの切片を設定してもよい。各ランクの管理基準値に一定の関係が成立すると仮定するならば、その関係を指定することで各ランクの切片を一つのランクにおける切片の関係から求めることが出来る。管理基準値の間の関係としては各管理基準値の補正の直線モデルの平行関係(shift)、比率一定関係(ratio)がある。
図8に関係に対する切片を示す。(a)管理基準値が平行(shift)な場合について切片の求め方について説明する。基準オイル使用時間に対して管理基準値801,802,803が設定され、また切片b813が設定されているとする。この場合、管理基準値801と切片b813の差を取り、管理基準値801と802から、それぞれ差を差し引くことで切片b811,b812が求まる。(b)比率が一定(ratio)の場合について切片の求め方について説明する。比率が一定とは、各ランクの管理基準値の比率が、切片の比率と等しい、即ちα:α+β:α+β+γ=α’:α’+β’:α’+β’+γ’の関係が成立するということである。切片b833が設定されているとする。よって比率=(α+β+γ)÷(α’+β’+γ’)が決まる。切片b832=比率×(α’+β’)、切片b831=比率×α’としてそれぞれの切片が求まる。
【0061】
オイル使用時間に対して管理基準値を補正した、試験値の判定方法は、まず、試験を行ったサンプルのオイル使用時間で、オイル使用時間に対して補正された管理基準値を求める。具体的には、直線でモデルが決まる場合、傾きにオイル使用時間を掛けて切片を加えればよい。傾きは管理基準値から切片を差し引いて、基準オイル使用時間で割れば得られる。補正された管理基準値に対して評価値をランク判定することにより、判定結果が得られる。
【0062】
<2−2.判定処理>
判定処理を
図4のフローチャートを用いて説明する。以下は計算機114が実行する処理であり、文の主語が無い場合、主語は計算機114である。まず判定対象の機種、機器のオイル情報とオイル試験結果を取得する(ステップ401)。
【0063】
次に判定対象の建設機械、機器の管理基準情報を取得する(ステップ402)。また新油値データを取得する(ステップ403)。管理基準値は鉄分の例のように直接設定されるとは限らず、動粘度40℃の例で示したように、管理基準値を設定するために新油値情報や倍率といった基準となる情報が必要となる。そこでこの管理基準値の設定に必要となる情報を、直接的な管理基準値も含めて、管理基準と呼ぶ。
【0064】
ステップ404からステップ415の範囲は、全ての試験項目についてのループの処理である。この1回のループにおいて、まず試験値の有無を判定する(ステップ405)。試験を実施しなかった場合や、試験が失敗した場合、またオイル自体が通常の汚染などの範囲にはなく試験結果が異常である場合には試験値が無いとして、試験項目に対する判定処理をスキップする。
【0065】
次に管理基準の有無を判定する(ステップ406)。ステップ402で管理基準を取得するが、必ずしも全ての試験項目に対して管理基準がデータベース123に登録されているとは限らない。管理基準が無い場合、試験項目に対する判定処理をスキップする。
【0066】
次に新油データの要否を判定する(ステップ407)。例えば鉄分では新油データは不用なため、判定結果は否となる。動粘度40℃の例では新油値が必要なので、新油データ有無を判定する(ステップ408)。新油データがデータベース122に登録されていない場合、試験項目に対する判定処理をスキップする。
【0067】
そして判定方向を判断し(ステップ409)、判定処理に進む。方向は上側、下側、そして上下の両方を判定する両側に分かれる。各方向において判定処理自体は同様の処理フローであるため、フローチャートでは一つの矢印にまとめて記載している。
【0068】
判定では、まず評価値(試験値)を取得又は算出する(ステップ410)。また基準オイル使用時間の管理基準値を設定する。管理基準値とは各ランクの閾値である。管理基準値は、管理基準に直接に管理基準値が設定されていない場合、管理基準の情報と、必要ならば新油値も用いて求める(ステップ411)。
【0069】
次にオイル使用時間に対する管理基準値の補正、すなわち時間補正の有無を判定する(ステップ412)。ステップ412で時間補正をすると判定されたならば、オイル使用時間補正を設定する(ステップ413)。これは補正のモデルである直線を定めることである。
【0070】
そして評価値に基づいてランク判定して状態を設定する(ステップ414)。全ての試験項目に対してステップ404からステップ415のループ処理を行った後、判定結果を出力する(ステップ416)。
【0071】
<3.過去のオイル試験結果データから管理基準を設定する方法>
金属摩耗粉、外部混入物の管理基準を、過去のオイル試験結果データより、統計的に設定する方法について説明する。金属摩耗粉には、鉄(Fe)、鉛(Pb)、銅(Cu)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)といった摺動部の材料に依存した物質が含まれる。外部混入物には、砂の主成分である珪素(Si)、クーラント(冷却液)に添加されるナトリウム(Na)といった物質が含まれる。金属摩耗粉、外部混入物のランク判定は試験値そのものを評価値とし、新油値は利用しないので、管理基準はランク毎に直接的な閾値として、すなわち管理基準値として設定される。金属摩耗粉、外部混入物のオイルへの混入量、またオイル単位容量当りの混入量は、機種、機器に応じて異なる。そこで機種、機器の別に過去の実際のデータの統計的な発生分布を求め、発生確率に対して管理基準値を算出する。
【0072】
統計的な管理基準値の設定方法のステップは以下の通りである。
(1)1つの指定した機種、機器の管理基準値を定める。
(2)(1)の機種、機器の実際のオイル試験結果のデータより、統計的な発生分布を求める。管理基準値に対する発生確率を求め、管理基準確率値とする。
(3)(1)以外の機種、機器の実際のオイル試験結果のデータより、統計的な発生分布を求める。管理基準確率値より管理基準値を求める。
【0073】
まず、1つの指定した機種、機器の管理基準値を定める。この指定した機種を機種Aとする。機器とはエンジン、油圧系、各種のギヤといった機械の構成要素である。機種としては出荷台数が多く、普及している機種、長期間使用されている機種といった代表となる機種である。機械の故障についても知見が得られているためである。この機種の管理基準値を定めるには、過去の実際の故障といった不具合に対して、その時点の試験値を用いればよい。長期的に試験値と不具合の有無に関するデータが蓄積されている場合、不具合となる確率が高くなる試験値を管理基準値とすればよい。また一般的に公開されている対象とする機種、機器に対応する管理基準値としてもよい。
【0074】
次に機種Aの機器のオイル試験結果のデータより、試験値の統計的な発生分布を求める。
図9に鉄分の(a)オイル使用時間に対するデータの分布、(b)試験値に対するデータの頻度分布を示す。
図9(a)よりほとんどのデータは50ppm以下となっている一方で200ppmを超えるデータも存在することがわかる。
図9(b)より最大頻度は12ppmであり、これより右側でなだらかに減少していく。この右側の分布は頻度0回が200ppmを超える最大値まで続く、非常に裾の広い分布である。この頻度分布を正規分布、指数分布といった既知の確率分布で当てはめることは出来ない。そこでデータを対数変換して分布をモデル化する。
【0075】
データを2回対数変換した結果を
図9に示す。この変換をここでは2重対数変換と呼ぶ。
【0077】
上記式(1)で、xは試験値である。対数変換の際に、試験値にネイピア数eを加える。金属摩耗粉、外部混入物の試験値は最小で0ppmであり、直接対数をとると負の無限大となるためである。2重対数変換するため、0ppmで変換後の値が0となるように、ネイピア数eを加える。
図10より2重対数変換後のデータは1を中心として、0から2の間に均等に裾が広がる分布となることがわかる。
【0078】
2重対数変換後のデータを、正規分布としてモデル化する。このモデルを2重対数正規分布(double−log−normal distribution)と呼ぶ。
【0080】
上記式(2)でzは式(1)の2重対数変換後の試験値であり、μはデータの平均、σは標準偏差である。
図11(a)に当てはめ結果を示す。横軸は2重対数変換後の値、縦軸が累積の発生確率である。実線がモデルによる推定線、破線が実際のデータの累積確率値である。このデータの場合、モデルは良く当てはまっている。
【0081】
図11(b)に試験値に対する累積確率を示す。そこで、管理基準値1101に対する発生確率を求め、管理基準確率値1102とする。累積確率値となる確率変数値を求めることである。2重対数正規分布の累積確率値は次式である。
【0083】
式(1)で管理基準値を2重対数変換し、式(3)に代入することで管理基準確率値を算出する。管理基準値を、Normalの上限値40ppm、Alertの上限値70ppm、Urgentの上限値100ppmとするならば、対応する管理基準確率値は小数点以下切り捨てれば92%、98%、99%と計算された。
【0084】
2重対数変換後の試験値が正規分布に当てはまらない場合もある。例として、
図12に珪素のデータの分布を示す。ばらつきの大きさについては
図9と同様に非常に裾の広い分布であるとわかる。しかし
図12(b)に示されるように、分布は単調減少であり、データを2重対数変換したとしても正規分布のような左右対称の分布とはなり得ない。分布が単調減少とはならなくても、正規分布のように平均値、もしくは最頻値に対して左右対称とはならない可能性もある。そこで様々な確率密度分布の形が得られるワイブル分布(Weibull distribution)で発生確率をモデル化する。ワイブル分布はスケールパラメータλと形状パラメータαに応じて、形の異なる分布とできる。ワイブル分布の確率密度関数は式(4)、累積分布関数は式(5)である。
【0087】
上記式(4)、(5)でzは式(1)に示した2重対数変換後の値である。そこで式(4)の分布を2重対数ワイブル分布(double−log−Weibull distribution)と呼ぶ。
【0088】
ワイブル分布のスケールパラメータと形状パラメータはワイブルプロット法によりデータを用いて算出できる。式(5)は以下のように変形できる。
【0090】
データの累積確率値F(z)は、データを昇順に並べて順位をとり、データ数で割れば得られる。Lnzも数値である。そこで左辺をY、またlnz=X、−αlnλ=Cとおくと式(7)が得られる。
【0092】
最小二乗法で形状パラメータαと切片Cが得られる。スケールパラメータは式(8)で計算できる。
【0094】
図13に、
図12のデータを(a)2重対数正規分布と(b)2重対数ワイブル分布に当てはめた結果を示す。
図13(a)に示すように、2重対数正規分布をモデルとした場合、実際のデータ発生確率に対して、当てはまりは悪い。
図13(b)に示すように、2重対数ワイブル分布をモデルとした場合、モデルは良く当てはまっているとわかる。
【0095】
管理基準確率値の算出については、2重対数正規分布と同様の手順である。管理基準値を2重対数変換した上で、式(5)に代入すれば管理基準確率値が得られる。
【0096】
次に、機種A以外の機種の管理基準値の設定方法を説明する。機種A以外の機種の一つを機種Bとする。機器については機種Aと機種Bについて同じとする。まず機種Bのオイル試験結果のデータより、統計的な発生分布を求める。
図14(a)に機種Bの、鉄分のデータの分布を示す。少数のデータが数百ppmとなっており、非常に裾の広い分布となることがわかる。2重対数正規分布に当てはめた結果である、横軸を試験値とした発生の累積確率を
図14(b)に示す。
図11(b)と比較すると、機種Bは機種Aに比べて小さな試験値の範囲で多くのデータが発生しているとわかる。例えば
図11(b)では累積確率0.9で40ppmだが、
図14(b)では累積確率0.9で20ppmである。統計的な発生分布より管理基準値を求めることは、管理基準確率値1401から管理基準値1402を求めることである。計算処理としては式(3)、もしくは式(5)の左辺の値を管理基準確率値とし、右辺にあるzの値を求める処理である。式(3)、式(5)のいずれも単調増加の関数であるため、ニュートン法といった数値解析計算によりzの値を求めることができる。式(5)に対しては以下の計算で試験値xの管理基準値が算出される。
【0099】
管理基準確率値を、Normalの上限値92%、Alertの上限値98%、Urgentの上限値99%とするならば、対応する管理基準値は小数点以下切捨てで21ppm、37ppm、47ppmと計算された。
【0100】
<4.オイル診断方法>
次にオイル診断方法について説明する。診断処理は、オイル試験結果のランク判定を行った結果を用いて、複数の試験項目の判定結果より診断結果を求める処理となる。最終的に得られる診断結果は、複数の判定結果と診断結果が連鎖関係をもつ、複合的な論理構造となる。
【0101】
診断ルールDB124に格納された診断ルールの種別としては、(1)条件部(後述)に設定された1つ以上の判定結果が存在する場合に、結果部(後述)に設定された診断結果を1つ生成する第1種診断ルールと、(2)条件部に設定された1つ以上の診断結果が存在する場合に、結果部に設定された診断結果を1つ生成する第2種診断ルールと、(3)条件部に設定された1つ以上の判定結果及び1つ以上の診断結果が存在する場合に、結果部に設定された診断結果を1つ生成する第3種診断ルールの3つが存在する。但し、同じ診断結果を生成する診断ルールは存在しないものとする。診断ルールは、過去の診断の実績値や専門家のノウハウに基づいて、あらゆる判定結果の組み合わせパターンを考慮して予め設定されており、あらゆる判定結果の組み合わせに基づく診断に必要な全ての診断ルールは診断ルールDB124に格納されているものとする。なお、第1種、第2種、第3種診断ルールのそれぞれの個数はゼロ以上、すなわち各診断ルールに個数の限定はない。
【0102】
診断処理では、実際に試験を行った試験項目の判定結果に対して診断ルールDB124に格納された全ての診断ルールを順次適用して診断結果を求める。これにより得られた診断結果に当初の判定結果を加えたものが次の診断ルールの適用対象となる。そこで、これらの適用対象に対して、診断ルールDB124に格納された全ての診断ルールを再度適用して、更に診断結果を求める。以下、全ての診断ルールを適用しても新たな診断結果が得られなくなるまでこれを繰り返す。
【0103】
診断ルールDB124に格納された診断ルールは条件部と結果部を備えている。条件部には1以上の判定結果及び/又は1以上の診断結果が設定され、結果部には診断結果が1つだけ設定される。条件部に該当する判定結果、診断結果が既に得られている場合、つまり条件部が満たされる場合、結果部の内容を新たな診断結果とする。診断ルールを式(11)で定式化する。診断ルールはIF−THENルールである。
【0105】
ここで「∧」は論理積、「¬」は否定演算子、「/」は排他を意味する。「B/¬B」とは、B、もしくはBではない、を意味する。IFの部分が条件部でありTHENの部分が結果部である。条件部には1つ以上の条件があり、すなわちnは1以上である。全ての条件が満足する場合に、結果B/¬Bが得られる。或る診断ルールの全ての条件が満足することを「発火する」と言う。
【0106】
条件が満足するとは、得られている試験項目、もしくは診断結果とその状態が、条件として設定されている試験項目、もしくは診断結果とそれについての状態の範囲に該当することである。例えば、試験項目の鉄分の状態がUrgentという判定結果が得られており、条件としては鉄分がAlert以上の範囲、つまりAlert、Urgent、Criticalのいずれかが該当する、となっている場合、条件は満足する。
【0107】
条件の試験項目、もしくは診断結果のことを条件項目と呼ぶ。1つの条件と結果部、また診断結果、判定結果のデータ構成を
図15に示す。試験項目は新油値などに対して上側、下側の範囲で判定されるので、試験項目の場合に方向が設定される。状態の範囲を設定する場合、状態範囲に以上(NOT_LESS)、以下(NOT_MORE)を設定する。引数項目には、項目が診断結果で異常摩耗、添加剤増加、添加剤減少となっている場合、対象となる物質を指定する。
【0108】
結果部には、診断結果が設定される。診断結果が異常摩耗、添加剤増加、添加剤減少である場合、参照項目に対象となる物質を指定する。診断結果も試験項目と同様に現象と対応する区分を設け、診断区分に性状Property、金属摩耗Wear、外部混入Ingress、添加剤Additiveを設定する。
【0109】
診断結果と判定結果はいずれも診断ルールに適用されるため同じデータ構造としている。診断ルールからは診断結果のみが得られ、判定結果が得られることはない。判定結果に特有のことは大/小という方向が存在することと、診断区分が試験Testとなることである。状態は判定結果の場合はランク判定の結果であり、診断結果の場合は条件部を満たした試験項目、診断結果の内、もっとも不具合度合いの大きい状態が設定される。
【0110】
図16、
図17のフローチャートを用いて診断処理を説明する。計算機114の処理であるため、文の主語が特に記載されない場合、主語は計算機114である。
【0111】
まず判定対象の機種、機器の判定結果を取得する(ステップ1601)。また判定対象の機種、機器の診断ルールを取得する(ステップ1602)。そして判定結果を初期の診断結果リストとし、リストバックアップを空とする(ステップ1603)。これは診断処理の初期化に相当する。
【0112】
複合的な論理構造を導くための処理の基本的な考え方は、まず、判定結果(当初の判定結果)に対して全ての診断ルールを適用して診断結果を得て、次に、得られた診断結果及び当初の判定結果に対して再度全ての診断ルールを適用して新たな診断結果を得て、以下これを繰り返して、新たな診断結果が得られなくなったら、最終的な診断結果が出されたとみなして処理を終了とするものである。つまり発火する診断ルールが存在する限り、発火した診断ルールを利用して論理的なつながりを生成し続けるというものである。そこで、本実施の形態では、無限ループで診断ルールを適用して、それにより得られた診断結果をリスト(診断結果リスト)に蓄積し、診断結果リストのバックアップ(リストバックアップ)をループの度に更新して、診断結果リストがリストバックアップリストと一致したら終了する、という方法を利用した。なおここでの無限ループとはループの回数を予め設定せずにループ処理することである。無限ループは
図16においてはステップ1604からステップ1615の範囲が該当する。この無限ループをループ1とする。
【0113】
図18に無限ループにおける診断結果リストとリストバックアップの変化と終了の例を示す。まず初期状態として診断結果リスト1801に判定結果1,2,3が設定される。リストバックアップ1802は空とする。ループの1回目で、まず診断結果リストの内容をリストバックアップにコピーする。診断結果リストの判定結果1,2,3に対して全ての診断ルールを適用し、2つの診断ルールが発火して新たな診断結果1、2(1803)が得られる。ループが終わったら、診断結果リスト1801とリストバックアップ1802の内容を比較する。1回目のループの終了時には、診断結果リスト1801とリストバックアップ1802の内容は一致しないので、2回目のループの実行が決定される。ループ2回目でも、まず診断結果リストの内容をリストバックアップにコピーする。そして、診断結果リストの判定結果1,2,及び診断結果1,2に対して全ての診断ルールを適用し、1つの診断ルールが発火して新たな診断結果3(1804)が得られる。ここでも診断結果リスト1801とリストバックアップ1802の内容は一致しないので、3回目のループの実行が決定される。ループ3回目でも、まず診断結果リストの内容をリストバックアップにコピーする。そして、診断結果リストの対象に対して全ての診断ルールを適用したが、発火する診断ルールは存在せず、新たな診断結果は得られなかった。この場合、診断結果リスト1801とリストバックアップ1802の内容が一致する。これにより、最終的な診断結果が出されたとみなして、無限ループを終了する。
【0114】
なお、ここでは、診断結果リスト1801とリストバックアップ1802の内容の一致/不一致を確認したが、両者にリストアップされている結果(判定結果及び診断結果)の数を対比し、両者が一致する場合(両者にリストアップされている結果の数が一定となる場合とも解釈できる)に無限ループを終了するように構成しても良い。
【0115】
図16のステップ1604からステップ1615の無限ループ処理においては、まず診断結果リストをリストバックアップにコピーする(ステップ1605)。そして、診断結果リストの対象(判定結果及び診断結果)に対して全ての診断ルールを適用するループ処理を行う。ステップ1606からステップ1612の範囲がこれに該当するループである。このループをループ2とする。
【0116】
ループ2の範囲では、ループ2で未適用の診断ルールを1つずつ診断結果リストへ適用し、当該診断ルールが発火した場合には新たな診断結果が取得される(ステップ1608)。なお、
図16における(A)1607から(B)1609の範囲の処理の詳細、すなわちステップ1608の詳細については
図17を用いて後で詳述する。ところで、ステップ1608では、診断ルールを適用しても発火しなければ、新たな診断結果は取得されない。この場合、新診断結果は空の診断結果であると解釈してもよい。
【0117】
ステップ1610では、ステップ1608で取得された新診断結果が診断結果リストに含まれているか否かを判定する。含まれていない場合、新診断結果を診断結果リストに追加する(ステップ1611)。そして、未適用の診断ルールの有無を確認し、未適用のものがある場合にはその診断ルールを診断結果リストに適用し(ステップ1608)、未適用の診断ルールがない場合にはステップ1613に進む。一方、ステップ1610で含まれていると判定された場合には、当該新診断結果を追加することなく、未適用の診断ルールの有無を確認し、その結果に応じてステップ1608又はステップ1613に進む。
【0118】
全ての診断ルールに対するループ処理が完了したら、診断結果リストとリストバックアップが一致するか判定する(ステップ1613)。一致するなら診断結果を出力して、終了する(ステップ1614)。一致しないなら、ステップ1604に戻って、再度ループ1を繰り返す。
【0119】
ここで、
図17を用いて、
図16における(A)1607から(B)1609の範囲の処理の詳細(すなわちステップ1608の詳細)について説明する。この処理は、
図16のループ2で選択中の診断ルール(ここでは「選択診断ルール」と称する)を診断結果リストに適用した際の発火を判定する処理である。
図17では判定結果と診断結果を併せて「結果」と称することがある。
【0120】
まず、ステップ1701からステップ1708の範囲で、選択診断ルールの条件部の全ての条件(条件の数はnとする)について処理を行う。
【0121】
まず、ステップ1702では、全発火判定フラグを初期化する。全発火判定フラグは、条件が満足したか否かを示す情報である、全発火判定フラグの初期値はゼロとする。ゼロは満足しなかったことを意味し、1は条件が満足したことを意味する。
【0122】
ステップ1703からステップ1707の範囲で、リストバックアップの全ての判定結果および診断結果に対して処理を行う。ここでリストバックアップを対象としている理由は、診断結果リストは
図16のループ2の範囲で診断結果が増える可能性があるためである。
【0123】
まず、リストバックアップから未選択の結果を選択し、その結果が条件項目と一致するかを判定する(ステップ1704)。一致しないなら、リストバックアップにおいて未選択の他の結果を選択し、その結果についての処理を進める。
【0124】
ステップ1704で一致すると判定された場合には、次に、その結果の状態が条件の状態範囲を満足するか判定する(ステップ1705)。満足しないなら、リストバックアップにおいて未選択の他の結果を選択し、その結果について処理を進める。満足するなら、条件部のなかの条件に対応する全発火判定フラグに1を設定する。
【0125】
リストバックアップの全ての結果について上記の処理が完了したら、選択診断ルールの条件部に含まれる次の条件について、条件が満足するかを判定する。
【0126】
選択診断ルールの条件部の全ての条件について上記の処理が完了したら、次に、ステップ1709からステップ1712の範囲の処理に移行し、発火を判定する。まずステップ1709からステップ1711の範囲で、全ての条件について、全発火判定フラグが1かを判定する(ステップ1710)。全ての条件に対する全発火判定フラグが1ならば、選択診断ルールの結果部と結果の状態に基づいて新たな結果を生成し、(B)1609に進む。ここで生成される新たな結果は診断結果である。一方、一つでも条件が満足されなかった場合、即ち全発火判定フラグがゼロの条件が含まれている場合には、ただちに(B)1609に進む。
【0127】
次に診断処理の例を示す。オイル試験項目の判定結果(各判定結果は(項目、方向、状態)の組み合わせで構成されるとする)として、(TAN、upper、Urgent)、(TBN、lower、Critical)、(IRON、upper、Critical)、(COPPER、upper、Alert)、(ALUMINIUM、upper、Alert)、(NICKEL、upper、Alert)、(OIL_USE_TIME、lower、Critical)が得られたとする。ここで、TAN(Total Acid Number)は全酸価、TBN(Total Base Number)は塩基価を意味する。IRONは鉄、COPPERは銅、ALUMINIUMはアルミニウム、NICKELはニッケルの金属摩耗粉である。OIL_USE_TIMEはオイル使用時間であり、lower(下側)にCriticalとは、オイル交換後の使用時間が短いことを意味する。
【0128】
図16のフローチャートを開始した場合、上記の全判定結果が診断結果リストに追加される。診断ルールの例を
図19に示す。
図19に示した各診断ルールは、そのIF部(条件部)として、条件が満たされない場合に真と判定する識別子である「否定指示」と、試験項目の名称または診断結果の内容、記号もしくは呼び称を含む「項目」と、当該「項目」が試験項目の名称の場合に、判定の方向が上側または下側であるかを識別するための「方向」と、基準となる異常の度合いを意味する「状態」と、当該「状態」の異常度合いを基準として該当する異常度合いの範囲を指定する「状態範囲」と、「項目」が診断結果の内容のとき、対象とする物質を指定するための「引数項目」とを備えている。また、そのTHEN部(結果部)として、性状、金属摩耗粉、外部混入物、添加剤、さらにオイル試験値の判定結果という診断対象の分類を意味する「診断区分」と、結果が否定されることを意味する識別子である「否定指示」と、診断結果の内容、記号または呼び称である「結果」と、当該「結果」に表現された診断結果について対象とする物質を指定するための「引数項目」とを備えている。なお、
図19に示した診断ルールは一例に過ぎず、上記で列挙した項目の少なくとも1つがIF部またはTHEN部に含まれていれば良く、また上記で列挙した以外の構成を備えていても構わない。
【0129】
図16のループ1の繰り返し1回目で、まず上記の判定結果を対象として
図19の全診断ルールが適用される。これにより、診断ルールのNo.1,2,3,4,5,6が発火して、新たな診断結果(ここでは(診断結果(参照項目)、状態)の組み合わせで構成されるものとする)として、(全酸価上昇、Urgent)、(塩基価低下、Critical)、(異常摩耗(IRON)、Critical)、(異常摩耗(COPPER)、Alert)、(異常摩耗(ALUMINIUM)、Alert)、(異常摩耗(NICKEL)、Alert)が得られる。得られた診断結果は診断結果リストに新たな結果として追加される。
【0130】
ループ1の繰り返し2回目で、1回目終了時点の診断結果リストの各結果に対して、全診断ルールが適用される。1回目で発火した診断ルールについては、既にその診断ルールによる診断結果が得られているため、新たな診断結果は生成されない(つまり、2回目以降は、既に発火した診断ルールを適用対象から除外しても良い)。繰り返し2回目ではNo.7,8の診断ルールが発火し、新たな診断結果として、(熱酸化劣化、Critical)、(“ピストン、ピストンリングの異常摩耗”、Critical)が得られる。得られた診断結果は診断結果リストに追加される。
【0131】
ループ1の繰り返し3回目で、2回目終了時点の診断結果リストの各結果に対して、全診断ルールが適用される。今回はNo.9の診断ルールが発火し、新たな診断結果(ピストンからの燃焼ガス漏れ、Critical)が得られる。得られた診断結果は診断結果リストに追加される。
【0132】
ループ1の繰り返し4回目も同様に全診断ルールが適用されるが、新たな診断結果は得られない。つまり診断結果リストとリストバックアップの内容は同一であるため、ここでループ1は終了することとなる。
【0133】
図21は上記の診断処理の例で登場した判定結果と診断結果を
図19の診断ルールでリンク付けして得られる連鎖構造を示す図である。この図において、最終診断結果には四角の囲みを付し、判定結果には下線を付している。また、図中の丸囲みの数字は
図19の診断ルールのNo(ナンバー)に対応する。この図からも明らかであるが、上記の診断処理により「ピストンからの燃焼ガス漏れ」という診断結果に対して、「熱酸化劣化」と「異常摩耗」を原因とした、複合的な論理構造が得られることが分る。
【0134】
次に診断処理により得られる連鎖構造(連鎖関係)について説明する。上記のように、診断処理では、発火した診断ルールの条件部の結果と結果部の診断結果とを対応付けることができ、これを繋げていくと判定結果と診断結果により連鎖構造を形成できる。1つの診断ルールと診断結果の関係を
図20(a)に示す。診断ルールは1つ以上の条件に対して1つの結果を得ることを定めたものであるため、診断ルールrule2001の条件を1つ以上の診断結果to2002が満足した場合には、診断結果from2003が得られることとなる。
【0135】
診断処理で得られる連鎖関係の例を
図20(b)に示す。診断処理で得られる連鎖関係は、黒塗り四角で示した判定結果2013から必ず始まり、白抜き四角で示したゼロ個以上の診断結果2012を介して、バツ(対角線)入りの四角で示した最終診断結果2011で必ず終わる。そこで最終診断結果を階層0とし、判定結果に向かって階層が増えるものとして階層化することができる。連鎖関係としては最も単純なものは、1つの判定結果から1つの最終診断結果が得られるもの( 1)単純な連鎖)がある。また診断ルールは2つ以上の条件をもつことができるため、2)のように原因となる診断結果を複数有し、これらと診断ルールを介して連鎖する診断結果も存在する。さらに、3)2つの最終診断に対し同一の原因(2014)がある場合の連鎖に示すように、一つの診断結果2014がrule10とrule11の2つの診断ルールの条件となることもある。但し、1つの診断ルールから得られる結果は1つであり、他の診断ルールの結果と重複しない。そのため、2つの診断結果から階層が増える方向に向かっても、同一の診断結果又は判定結果に帰着することはない。このため、最終診断結果が複数存在する場合にも、それら最終診断結果は必ず異なる診断ルールにより得られることとなる。同一の条件を持ち、異なる結果が得られる2つ以上の診断ルールは存在しないので、最終診断結果同士は異なる論理構造となる。
【0136】
<5.最終診断結果に至る論理構造の文章化>
1以上の判定結果から1つの最終診断結果に至る論理構造の文章化について説明する。本実施の形態では、1以上の判定結果からは診断ルールを介して1つの診断結果(最終診断結果も含む)が得られ、1以上の診断結果(対象となる診断結果は、判定結果から得られたものに限らず、診断結果から得られたものも含む)からは診断ルールを介して1つの診断結果(最終診断結果も含む)が得られる。つまり、診断ルールは、1以上の判定結果及び/又は1以上の診断結果の組み合わせ(条件)と、これに対応する1つの診断結果(結果)を結び付ける機能を果たしている。そこで、本実施の形態では、1以上の判定結果から1つの最終診断結果に至るまでに利用した1以上の判定結果及び1以上の診断結果(最終診断結果を含む)を、その際に利用した診断ルールで結び付け、その結果生成される構造を利用して文章を生成している。
【0137】
図22に、1以上の判定結果と1つの最終診断結果を繋ぐ連鎖関係(a)と、その連鎖関係により生成される木構造(b)の例を示す。本実施の形態では、診断ルールは、所定の条件(具体的には、所定の判定結果及び/又は診断結果の組み合わせ)から1つの診断結果(結果)を導き出す。図示の(a)連鎖関係において丸の図形は診断ルールを示し、「条件」となる1以上の判定結果及び/又は1以上の診断結果を、「結果」となる1つの診断結果とを結び付けている。
【0138】
木構造は、連鎖関係において診断ルールを介して関連づけられている条件と結果をリンクで結び付けたものであり、条件と結果となっている判定結果及び診断結果はノードとなる。すなわち、(a)連鎖関係から診断ルールを取り去ってリンクで結合したものが(b)木構造となる。
【0139】
木構造を構成するノードには階層の上下(階層番号の大小)に従って親子関係がある。隣接する階層のノード間では上の階層(階層番号が相対的に小さい階層)のノードが親で、下の階層(階層番号が相対的に大きい階層)のノードが子となる。ある階層のノードに対しては、その階層の上にあるなら親、下にあるなら子となる。例えば、階層2のノードに対して、階層1のノードが親、階層3のノードが子となる。
【0140】
本実施の形態に係る木構造では、最終診断結果は親を持たないノード(根ノード)となり、判定結果は子を持たないノード(葉ノード)となり、最終診断結果(根ノード)と判定結果(葉ノード)の間に存在する診断結果は子と親の双方を持つノード(内部ノード)となる。以下では簡略して、根ノードをルート、葉ノードをリーフ、内部ノードをノードと称することがある。
【0141】
木構造は判定結果と最終診断結果を結び付ける論理構造を表しており、ルートからリーフの方向に対して原因が連なっている。そこで、本実施の形態では、木構造を巡回して、論理構造の最初の原因であるリーフから親に向かって順に句、文をつないでいくことで文章を生成する。なお、ここでは、読点(、)で終わる文字列を句、句点(。)で終わる文字列を文としている。
【0142】
図23に
図22の例を文章化する手順を示す。図中の丸で囲んだ数字は句又は文を出力する順番を示す。まず最終診断結果であるルートからスタートし、動粘度40℃低下、VISCOSITY40へとリーフに向かって巡回する。リーフに着いたら、句「VISCOSITY40がlowerにCriticalで、」を出力する。次に、小さい階層(親ノード)に向かって進み、文「動粘度40℃低下がCriticalです。」を出力する。さらに小さい階層に進むと、他に子ノードを有するノード(分岐点)であるルートに戻る。そこで、他の子ノードに進んで、異種油混入、添加剤増加、MOLYBDENUMと辿ってもう1つのリーフに向かって巡回する。リーフに着いたら、句「MOLYBDENUMがupperにCriticalで、」を出力する。次に、小さい階層に向かって進み、文「添加剤増加がCriticalです。」を出力し、更に文「異種油混入がCriticalです。」と出力する。ここで先ほどの分岐点に戻るが、これ以上の分岐はない。また、その分岐点はルートでもあるので巡回は完了したことになる。そこで最後に「動粘度40℃低下、異種油混入より、よって低粘度油混入がCriticalです。」
以上の出力をまとめると、「VISCOSITY40がlowerにCriticalで、動粘度40℃低下がCriticalです。MOLYBDENUMがupperにCriticalで、添加剤増加がCriticalです。異種油混入がCriticalです。動粘度40℃低下、異種油混入により、よって低粘度油混入がCriticalです。」という文章を生成できた。
【0143】
文章生成は、木構造を巡回し、リーフに到達したら句、文を出力、ルート方向に向かってノード毎に句、文を出力して文章を生成する方法を利用することで、基本的に計算機114で処理可能である。分岐があるルート、ノードの場合には、分岐の全ての子の巡回が完了したら、まとめて文を出力する。これを一般化すると、句、文の出力は
図24に示す6通りとなる。
【0144】
図24中の「括弧付きの数字」は判定結果または診断結果を示し、「Status」は状態を示し、「Dir」は方向を示す。また、親と子の関係が1対1の場合のつながりを単鎖、1対n(n:2以上)の関係を複鎖と呼ぶこととする。
【0145】
(a)単鎖のリーフ(判定結果)2401では、判定結果を示す句「(試験項目)が(方向)に(状態)で、」を出力する。(b)単鎖のノード(連続の単鎖)では、診断結果を示す文「(診断結果)が(状態)です。」を出力する。図の例ではノード2404、2403、2402の順に文を出力する。(c)単鎖のルート(最終診断結果)2405では、まとめの文として「よって(診断結果)が(状態)です。」を出力する。(d)複鎖のノード2406では、複数存在する子(ノード、リーフ)をまとめた文「(子の診断結果1)、(子の診断結果2)、・・・、(子の診断結果n)より、(診断結果)が(状態)です。」を出力する。
図24(d)の文における下線部を「子列挙句」と呼ぶことがある。(e)複鎖のルート2407では、まず、複数存在する子(ノード、リーフ)をまとめ、さらに文章をまとめる文「(子の診断結果1)、(子の診断結果2)、・・・、(子の診断結果n)より、よって(診断結果)が(状態)です。」を出力する。(f)複鎖のリーフ(判定結果)2408では、(a)単鎖のリーフ(判定結果)の場合のように句を出力すると、読点で終わるため、次の出力に文がつながってしまう。そこで句点で終わる句「(試験項目)が(方向)に(状態)です。」を出力する。なお、各ルート、ノード、リーフでの出力は、計算機114では変数(メモリ領域)に格納しておき、最終的に一括して文章としてファイルなどに出力する。
【0146】
以上が木構造のルート、ノード、リーフに対する、句、文の出力内容である。
【0147】
図25のフローチャートを用いて診断結果の文章生成処理を示す。
図25の(a)全体フローチャートは、最終診断結果であるルートが複数存在することを許容しており、全てのルート(最終診断結果)について、ルートごとに文章を生成することを表している。文章は再帰呼出しにより選択したルートに係る木構造のノード(ルート、ノード、リーフ)を巡回しながら生成する。ルート、ノード、リーフの一つ一つに対して句、文をつなげていくので、1回の再帰呼出しを単位診断文章生成処理とした。ステップ2501からステップ2503の範囲で全てのルートに対するループとし、各ルートに対して単位診断文章生成処理2502を呼び出す。
【0148】
図25(b)に単位診断文章生成処理のフローチャートを示す。処理は計算機114が実行する。処理はステップ2511からスタートする。まず呼出し対象となったルート、ノードまたはリーフを親とした場合に対する子の数を判定する。0ならば呼出し対象はリーフであり、1ならば単鎖のルートまたはノード、1より大きいならば複鎖のルートまたはノードである。
【0149】
ステップ2511で子の数が0ならば、呼出し対象を子とした場合における親の子の数を判定する(ステップ2521)。ステップ2521で親の子の数が1ならば、呼出し対象のリーフは単鎖のリーフであるので、単鎖リーフに対応する句を生成し出力文字列とする(ステップ2522)。ステップ2521で1よりも大きいならば、呼出し対象のリーフは複鎖のリーフであるので、複鎖リーフに対応する文を生成し出力文字列とする((ステップ2523)。
【0150】
ステップ2511で子の数が1ならば、まず、子のノード又はリーフに対する単位診断文章生成処理を行う(ステップ2531)。呼出しによりリーフまで木構造を再帰的に巡回する。子への単位診断文章生成処理2531が終了したら、呼出し対象が属する階層の番号を判定する(ステップ2532)。ステップ2532で階層が0ならば呼出し対象はルートである。よって単鎖のルートに対応する文を出力文字列に追加する(ステップ2533)。一方、ステップ2532で階層が0より大きいならば呼出し対象はノードである。よって単鎖のノードに対応する文を出力文字列に追加する(ステップ2534)。
【0151】
ステップ2511で子の数が1より大きいならば、呼出し対象は複鎖の親であるため、ステップ2541からステップ2543のループにより、全ての子に対し単位診断文章生成処理を行う(ステップ2542)。全ての子についての単位診断文章生成処理が終了したら、子の診断結果または判定結果を列挙して句を生成する子列挙句追加処理を行う(ステップ2544)。次に呼び出し対象が存在する階層の番号を判定する(ステップ2545)。ステップ2545で階層が0ならば、複鎖のルートに対応する文を出力文字列に追加する(ステップ2546)。一方、階層が0よりも大きいならば、複鎖のノードに対応する文を出力文字列に追加する(ステップ2547)。
【0152】
最後に出力文字列を呼出し元に返し(リターンし)、単位診断文章生成処理を終了する(ステップ2561)。以上が診断結果の文章生成処理の説明である。
【0153】
なお、上記で示した文章は、各診断結果について、診断結果と状態を助詞などでつないだだけであるが、診断結果と状態の組合せに応じて、句、文を別の表現に割り当てるだけで、より自然な文体に変換することができる。
【0154】
<6.報告書の作成>
表示装置180(モニタ)に表示され、必要に応じてデータ出力又は印刷される報告書の作成について説明する。報告書のフォーマットの例を
図26に示す。報告書には、顧客及び機械を特定するための情報と報告書の識別についての情報が表示されるヘッダ部2601と、オイル使用情報が表示されるオイル使用情報部2602と、オイル試験項目の判定結果が表示される判定結果部2603と、診断結果が表示される診断結果部2604と、診断文章と推奨文章が表示されるコメント欄2605と、コメント欄2605の診断文章を作成する際に利用された、判定結果から最終診断結果に至るまでの論理構造を示す木構造が表示される木構造表示欄2606とが設けられている。
【0155】
判定結果部2603では、各試験項目の判定結果に応じて表示色又はマスク(ハッチング)を変えるフォーマットを利用している。判定結果のランクは、Normal、Caution、Criticalの3段階で示している。
【0156】
なお、先の判定処理の説明では、ランクをNormal、Alert、Urgent、Criticalの4段階としたが、判定処理と報告書のランク分けが一致している必要は無く、例えば、判定処理でAlertとUrgentと判定された項目を、報告書上ではCautionと表示する構成を採用しても良い。判定処理のランク数が報告書のランク数よりも多ければ割り当てることはできる。
【0157】
報告書におけるコメント欄2605の文章の記載内容について
図27を用いて説明する。
図27のフォーマットでは文章を主として冒頭部2701、診断部2702、推奨部2703に分けて配置している。
【0158】
冒頭部2701は、各種データベース121〜125に格納された管理基準値、診断ルール、推奨ルールなど、プログラムでの処理に利用した情報のバージョン情報や、各情報に関連する注意事項を記載する。これらの情報は、データベース121〜125のレコードとしてバージョン情報を登録しておくことで、計算処理で容易に自動的に文章として出力できる。文章は、例えば「管理基準はVer.(バージョン番号)です。診断ルールはVer.(バージョン番号)です。」とすればよい。
【0159】
診断部2702には診断文章が記載される。診断文章は、性状部2711、金属摩耗粉部2712、外部混入物部2713、添加剤部2714に分けて配置されている。複数の最終診断結果が得られた場合には、最終診断結果ごとに診断文章が作成される。その場合の表示例としては、診断文章を最終診断結果毎に段落分けして出力するものがある。
【0160】
また、診断文章は、最終診断結果を導いた診断ルールの結果部にある診断区分のデータ(具体的には、Property(性状)、Wear(金属摩耗粉)、Ingress(外部混入物)、Additive(添加剤))に従って、それぞれの診断区分に対応する部分2711,2712,2713,2714に配置される。計算機114の処理としては性状、金属摩耗粉、外部混入物、添加剤の順序で、最終診断結果に対応する診断文章を一段落毎に出力していくものがある。ただし、これは一例に過ぎず、処理の順序や文小出力の順序は適宜変更が可能であり、一部の診断区分の診断文章を省略することも可能である。
【0161】
推奨部2703には、診断結果に鑑みて、ユーザや建設機械メーカ、代理店が実施することが望ましい行動(推奨対応)を記述した文章(推奨文章)が記載される。
【0162】
推奨文章(推奨対応)は診断結果ごとに存在しており、診断結果と推奨文章は両者を対応づける推奨ルールを介して関連づけられる。推奨ルールの形式としては、診断ルールと同じIF−THENルールを利用し、その「条件部」の条件に診断結果と状態を設定し、「結果部」の結果に推奨文章を設定する。なお、推奨文章は一部の診断結果にだけ割り当てる構成としても良い。
【0163】
図28に推奨ルールの例を示す。推奨ルールの設定については上記の診断ルールと同様である。推奨ルールでは、「条件部」に診断結果しか設定されないため(判定結果は条件とはならない)、方向の設定は不要である。また、「結果部」に推奨文章を直接に設定する。診断ルールの場合、診断結果は結果部より得られたが、推奨ルールの場合も同様に推奨文章は結果部より得られる。推奨文章のデータ構成は
図15に示した診断結果のデータ構成と同様である。
【0164】
図29のフローチャートにより推奨文章を出力する処理を説明する。当該処理は計算機114が行う。まず、判定対象の機種、機器の最終診断結果を取得し(ステップ2901)、判定対象の機種、機器の推奨ルールを取得する(ステップ2902)。推奨文章は、推奨ルールが発火することで最終診断結果に応じて得られる。複数の推奨文章が得られる可能性があるため、推奨文章は推奨文章リストに格納する。その際、初期化処理として、推奨文章リストを空とする(ステップ2903)。
【0165】
ステップ2904からステップ2909までの範囲は、全ての推奨ルールに対してループ処理する。まず、推奨ルールを推奨文章リストへ適用し、発火したら新推奨文章を取得する(ステップ2906)。ステップ2906の処理は
図16のステップ1608の処理に相当し、(A)2905から(B)2907の範囲は
図17記載の各処理に相当する。より具体的には、
図17のステップ1703にある「リストバックアップ」を「推奨文章リスト」と読みかえれば、
図17の各処理は(A)2905から(B)2907の範囲に対応する。
【0166】
ステップ2906が終了したら、推奨文章リストに追加する(ステップ2908)。ただし、新推奨文章が得られなかったならば追加する必要はない。得られた推奨文章を全て出力すれば最終的な推奨文章が得られる。以上が推奨処理の説明である。
【0167】
<7.本実施の形態を利用した仕事の進め方>
診断を自動化した際の、本実施の形態における仕事の進め方について示す。
図30に顧客、建設機械メーカもしくはその現地販売代理店、そしてオイル分析専門会社の、オイル診断サービスについてのやり取りのシーケンス図を示す。ここで顧客とは建設機械のユーザ(具体的には、当該建設機械の所有者、管理者、運転者および整備車等)を意味し、建設機械メーカもしくはその現地販売代理店にはそのサービス部門のサービス担当者及び販売員等が含まれるものとする。
【0168】
建設機械メーカは、
図1の実施の形態に係る計算機114を所有している。DB121,122,123,124,125は、建設機械メーカが所有することが好ましいが、必須ではない。
【0169】
建設機械メーカは、オイル分析専門会社が実施したオイル試験の結果(オイル試験結果)を建設機械メーカにすみやかに提供することを取り決めた契約をオイル分析専門会社との間で締結する。オイル診断を早期に完了するためには、オイル分析専門会社は、オイル試験が終了したら即、試験結果を建設機械メーカに通知することが望ましい。このような取り決めを締結すると、オイル分析専門会社としても、本サービスに関する対象機械のオイル分析を独占的に行う機会が得られる。
【0170】
オイル分析専門会社は、
図1の実施の形態に係るオイル試験装置101、103や、オイル試験装置102、計算機112等の端末を所有する。オイル分析専門会社が実施したオイル試験結果のデータは、これらの端末に一旦格納された後、建設機械メーカの計算機114に出力される。オイル分析専門会社がオイル試験結果を建設機械メーカ又はオイル分析専門会社が所有する試験結果DB121に格納し、その試験結果DB121から建設機械メーカの計算機114がオイル試験結果のデータを取得するようにしても良い。なお、オイル分析専門会社から建設機械メーカへのオイル試験結果のデータ提供の態様は、建設機械メーカの計算機114が当該データを利用可能な態様であれば、いかなる態様でも良い。
【0171】
その一方で、建設機械メーカの顧客は、建設機械メーカ又は現地の代理店とオイル診断サービスの提供を受ける契約を結ぶ。オイル診断サービスの提供の際に必要となるオイルは、建設機械メーカ、当該メーカの現地販売代理店(代理店と称することがある)、または顧客自身等によって採取され、契約を締結しているオイル分析専門会社へ送付される。オイル採取を顧客自身が実施する場合は、オイルサンプリングキットを顧客に提供し、そのキットを用いて建設機械の所有者、管理者、運転者または整備者が行うようにしても良い。また、建設機械メーカまたは現地の代理店がオイル採取を実施する場合には、サービス部門のサービス担当者または販売員が実施しても良い。なお、オイル採取者は特定の者が行う必要は無く、特定の者に限らない場合であってもオイル採取者を一人に限定する必要はない。
【0172】
オイル分析専門会社からオイル試験結果データの提供を受けた建設機械メーカは、計算機114を用いて自動で診断処理を実行する。
【0173】
診断処理の結果は、報告書というかたちで、顧客、建設機械メーカまたはその代理店に提供される。顧客としては、建設機械の所有者、管理者、運転手、整備者等が該当し、建設機械メーカまたはその代理店としては、サービス担当者、販売員等が該当する。それぞれ1名への提供に限定されることはなく、また全員に提供することを限定するものではない。また、報告書は、オイル分析専門会社に提供してもよく、例えばオイル分析専門会社を経由して他の者(例えば顧客)に提供されてもよい。
【0174】
なお、報告書は電子データで提供することも可能である。この場合、報告書を生成した計算機114から、建設機械の所有者、管理者、運転者及び整備者、並びに建設機械のメーカ、当該メーカの現地販売代理店、当該メーカのサービス担当者及び販売員が所有する端末の少なくとも1つに対して間接的または直接的に出力すれば良い。
【0175】
報告書の提供を受けることにより、顧客は、建設機械が故障、破損する前に建設機械を停止する判断が可能となる。建設機械メーカ又は代理店は、診断結果に基づいて不具合が発生する可能性の高いパーツの交換品を準備できる。建設機械メーカ又は代理店のサービス担当者又は販売員は、診断結果(報告書)に応じて建設機械の検査を実施し、修理が必要と判断されたならば建設機械のメンテナンスを実施する。建設機械メーカ又は代理店がパーツを交換し、そのパーツの交換用に新たなパーツの販売を行った場合には、その対価として顧客より代金を得る契約としても良いし、無償交換の保証的なサービス契約としてもよい。パーツ交換の結果、取り外されたパーツは、建設機械メーカ又は代理店が回収できる。回収したパーツは、適宜補修を加えた後にリサイクルしても良く、有償で買取りしても良い。
【0176】
以上が本実施の形態に係るオイル試験結果の判定方法、判定のための管理基準の設定方法、統計的な管理基準値の設定方法、診断方法、診断結果の文章化、報告書自動生成、そしてビジネスモデルである。
【0177】
なお、上記では、試験結果から取得された全ての判定結果と、当該判定結果から特定の診断ルールを介して適宜生成された全ての診断結果とに対して、診断ルールDB124に格納された全ての診断ルールを繰り返し適用し、その間に発火した診断ルールの情報を参照して該当する判定結果と診断結果をリンク付けすることで木構造を取得したが、特定の診断結果の組合せが試験結果に出現した場合には、その組み合わせに対応する最終診断結果をルートとする木構造又は当該木構造に対応する診断文章若しくは推奨文章が自動的に生成・出力されるように構成したものであれば他の構成でも構わない。例えば、あらゆる診断結果の組み合わせに対して当該組み合わせから生成される診断結果、木構造及び診断文章等を予め設定しておくことができれば、そのような構成の管理システムの構築が可能となる。