特許第6330064号(P6330064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6330064ヨウ化水素酸の製造方法及びヨウ化金属水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6330064
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】ヨウ化水素酸の製造方法及びヨウ化金属水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/13 20060101AFI20180514BHJP
   C01D 3/12 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
   C01B7/13
   C01D3/12
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-2088(P2017-2088)
(22)【出願日】2017年1月10日
【審査請求日】2018年2月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】田下 諒
(72)【発明者】
【氏名】柚木崎 航平
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雅也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 彩星
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−151700(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096446(WO,A1)
【文献】 特開平1−261224(JP,A)
【文献】 特開平7−242414(JP,A)
【文献】 特開平8−059205(JP,A)
【文献】 ソ連国特許発明第497233(SU,A)
【文献】 ソ連国特許発明第560826(SU,A)
【文献】 中国特許出願公開第102101683(CN,A)
【文献】 HAMMICK,D.L.,CXLIV.-The rate of reaction between formic acid and iodine in aqueous solution,Journal of the Chemical Society,英国,Gurney & Jackson,1926年,Vol.129,pp.1105-1108
【文献】 DHAR,N.,LXII.-Catalysis. Part IV. Temperature coefficients of catalysed reactions,Journal of the Chemical Society,英国,Gurney & Jackson,1917年,Vol.111,pp.707-762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00 − 11/24
C01D 3/00 − 3/26
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸及びヨウ素を含有すると共にヨウ素及びヨウ化物イオンの濃度の合計が1〜22.5質量%である水溶液を加熱処理してヨウ化水素酸を得る反応工程を備える、ヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液におけるヨウ化物イオンの含有量がヨウ素の含有量に対して0.5当量以上である、請求項1に記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液におけるギ酸の含有量がヨウ素の含有量に対して1.2当量以上である、請求項1又は2記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程の後に、前記水溶液を加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮する第1の濃縮工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項5】
前記第1の濃縮工程の後に、前記水溶液を絶対圧14.4kPa以下の減圧下、加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮し、57質量%以上の濃度のヨウ化水素酸を得る第2の濃縮工程をさらに備える、請求項4に記載のヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたヨウ化水素酸を金属化合物と混合してヨウ化金属水溶液を得る、ヨウ化金属水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化水素酸の製造方法及びヨウ化金属水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ化水素酸はエッチング剤に使われる他、各種ヨウ素化合物の合成原料、医療用中間体合成試薬、還元剤等として用いられる有用な物質である。
【0003】
従来のヨウ化水素酸の製造方法として、水素ガスと昇華させたヨウ素蒸気に白金触媒を用いて、気相反応を行う方法、あるいは硫化水素によりヨウ素を還元する方法が多くの文献に示されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。この方法において、水素ガスを使う反応は危険性が高く、硫化水素を使う方法も毒性の面から問題がある。
【0004】
電気透析によってヨウ素廃液などからヨウ化水素酸を生成する製造方法(例えば、特許文献1及び2参照)も存在するが、このような方法では、ヨウ素に起因するイオン交換膜の劣化や製造に大量の電力を使用するために、工業的な生産をするには製造コストがかかるという問題がある。
【0005】
また、ヨウ素と赤リンを使った反応はヨウ化水素酸の工業的製法として知られている(例えば、特許文献3、非特許文献1及び2参照)。この製造方法は、比較的安価にヨウ化水素酸を製造できるというメリットがあるが、原料である赤リンは消防法の規制があり、大量生産の阻害要因の一つとなっている。また、この製法では、河川等の富栄養化の問題として社会問題化し、現在では水質汚濁防止法によって排水規制の対象のリンを原料として使用するので、リンを含む工場排水等が排出されるリスクがある。また、リンを含む排水の処理方法としては凝集沈殿法、生物処理法、イオン交換法等の方法が知られているが、簡易な方法は少なく、環境負荷低減の観点からリンを使用しない製造方法が望まれていた。
【0006】
また、特許文献4には、ヨウ素をヨウ化水素酸に還元する還元剤としてリン酸系の還元剤を使用した製造例が示されている。リン酸系の還元剤は反応後リン酸として系内に残存し、リン酸の除去操作が必要となる。
【0007】
また、ヨウ素と反応させる還元剤を、取り扱いが簡便であり、製造コストが抑えられ、環境負荷が小さい還元剤であるギ酸に変更するという改善策がある。特許文献5によれば、ヨウ素をヨウ化水素に還元する還元剤として、シュウ酸、ギ酸、又はヒドラジンが挙げられ、反応式(1)〜(3)が示されている。
+ H ⇒ 2HI + 2CO …(1)
+ HCOOH ⇒ 2HI + CO …(2)
2I + N ⇒ 4HI + N …(3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−157237号公報
【特許文献2】特開2009−23847号公報
【特許文献3】中国特許公開第101935021号明細書
【特許文献4】特開平8−59205号公報
【特許文献5】特開2006−151700号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】松岡敬一郎著、 「改訂・増補ヨウ素綜説」霞ヶ関出版、 1974年
【非特許文献2】化学大辞典編集委員会編、 「化学大辞典 縮小版39版」共立出版、 1962年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5において、シュウ酸等の還元剤を用いたヨウ素の還元反応について具体的な反応条件は記載されていない。また、その他文献においても、シュウ酸等の還元剤を使用しヨウ化水素酸を工業的に製造した公知例及び実績は確認されていない。本発明者らが実際に実験したところによると、還元剤としてシュウ酸を用いた場合には、十分な収率が得られないことが明らかとなった。また、実際にギ酸とヨウ素を用い、日本工業規格K8917のヨウ化水素酸(55%)のような濃度を得ようとした反応を試みたが、例えば、特許文献4の実施例等に記載されるような一般的な反応条件で反応させてもギ酸の反応性が悪いため、未反応のヨウ素が大量に残存し、目的の濃度のヨウ化水素酸を得ることができなかった。この点について、特許文献5では、製造されたヨウ化水素酸を水素源として用いており、ヨウ化水素酸は、製造後、熱分解により水素とヨウ素に分解される(特許文献5の段落[0002]〜[0009])。生成したヨウ素は再びヨウ化水素酸の製造に再利用できる。そのため、特許文献5では、反応後の未反応のヨウ素量を低減する必要性に乏しく、残存するヨウ素を低減する方法が示されていない。
【0011】
このように、ヨウ素とギ酸の反応において、ギ酸の反応性が悪く、未反応のヨウ素が大量に残存し、高い収率で得ることができない。ヨウ化水素酸には日本工業規格K8917に示されるように、遊離ヨウ素に関する規格がある。そのため、未反応ヨウ素とヨウ化水素酸とを分ける必要があり、未反応ヨウ素が大量に存在すると除去及び分離操作の工程が増え、ロスを増加させてしまう要因となる。
【0012】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、収率が高く、操作が簡便であり、製造コストが抑えられ、かつ環境負荷が小さいヨウ化水素酸の製造方法を提供することを目的とする。また、当該製造方法で得られたヨウ化水素酸を用いたヨウ化金属水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、ある一定のヨウ素濃度範囲において加熱して反応を進行させることで、効率よくギ酸が反応し、未反応のヨウ素が非常に少なくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明のヨウ化水素酸の製造方法は、ギ酸及びヨウ素を含有すると共にヨウ素及びヨウ化物イオンの濃度の合計が1〜22.5質量%である水溶液を加熱処理してヨウ化水素酸を得る反応工程を備える。
【0015】
上記水溶液におけるヨウ化物イオンの含有量がヨウ素の含有量に対して0.5当量以上であると好ましい。
【0016】
上記水溶液におけるギ酸の含有量がヨウ素の含有量に対して1.2当量以上であると好ましい。
【0017】
上記反応工程の後に、上記水溶液を加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮させる第1の濃縮工程をさらに備えると好ましい。
【0018】
上記第1の濃縮工程の後に、上記水溶液を絶対圧14.4kPa以下の減圧下、加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮させ、57質量%以上の濃度のヨウ化水素酸を得る第2の濃縮工程をさらに備えると好ましい。
【0019】
本発明のヨウ化金属水溶液の製造方法は、上記製造方法によって得られたヨウ化水素酸を金属化合物水溶液と混合してヨウ化金属水溶液を得るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、収率が高く、操作が簡便であり、製造コストが抑えられ、かつ環境負荷が小さいヨウ化水素酸の製造方法を提供することができる。したがって、工業的にヨウ化水素酸を製造する場合には、本発明の製造方法がおおいに役立つ。また、本発明によれば、当該製造方法で得られたヨウ化水素酸を用いたヨウ化金属水溶液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(反応工程)
本実施形態のヨウ化水素酸の製造方法は、ギ酸及びヨウ素を含有すると共にヨウ素及びヨウ化物イオンを含む化合物の濃度の合計が1〜22.5質量%である水溶液を加熱処理してヨウ化水素酸を得る反応工程を備える。水溶液におけるヨウ素及びヨウ化物イオンを含む化合物の濃度の合計は、2〜20質量%であると好ましく、5〜15質量%がより好ましい。なお、反応前の水溶液には、ヨウ化物イオンが含まれていなくてもよい。ヨウ素濃度が22.5質量%よりも大きい場合、反応が完結せず、未反応のヨウ素が大量に残存してしまう。また、ヨウ素濃度が1質量%未満では、濃縮する際に蒸発させる水の量が多くなり、そのための設備も大きくなるため、コストが増大する。
【0022】
本実施形態の製造方法において、水溶液における還元剤であるギ酸の含有量は、反応に用いられるヨウ素の含有量に対し、1.0当量以上であると好ましく、1.2当量以上であるとより好ましく、1.2〜2.0当量の範囲であるとさらに好ましい。ギ酸の含有量が1.0当量以上である場合、反応が円滑に進行するため反応中の残存ヨウ素量を低減することができる。また、ギ酸の含有量が2.0当量より多くても反応を進行させる上で問題はないが、2.0当量以下である場合、未反応のギ酸を低減させることができ、コストを削減できる傾向にあるためより好ましい。なお、ここで言う当量とは、ヨウ素分子1モルに対するギ酸のモル量(モル当量)を言う。
【0023】
本実施形態の製造方法において、水溶液にヨウ化物イオンを含む化合物を添加しても良い。ヨウ化物イオンを含む化合物の添加量としては、ヨウ素の含有量に対するヨウ化物イオンの含有量として0.5当量以上であると好ましく、1当量以上であるとより好ましく、1.5〜2.0当量の範囲であるとさらに好ましい。水溶液におけるヨウ化物イオンの含有量が1当量以上であればヨウ素の溶解性を充分に向上させられるため好ましい。なお、ここで言う当量とは、ヨウ素分子1モルに対するヨウ化物イオンのモル量(モル当量)を言う。また、ヨウ化物イオンを含む化合物としては、特に制限はないが、ヨウ化水素、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化バリウム等が挙げられ、このうち好適な例としてヨウ化水素、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが挙げられ、ヨウ化水素が特に好ましい。
【0024】
水溶液にヨウ化物イオンを添加することで、以下の反応式(4)に従いヨウ素が三ヨウ化物イオンとして溶液中に溶解し、加熱操作によるヨウ素蒸気の発生が抑制され、操作上の危険性が減少する。
+ I ⇒ I …(4)
また、ヨウ素がヨウ素蒸気として系外へ昇華又は飛散することを抑制できるため、ヨウ化物イオンを含む化合物を添加することで反応収率が向上し、効率の良い反応の進行が可能となる。
【0025】
本実施形態における水溶液における調製方法としては、例えば、ヨウ素、ギ酸、ヨウ化物イオンを含む化合物等の反応物を水に添加する方法が挙げられる。添加の仕方としては、反応物の全量を一括して加熱処理の前に(例えば室温(25℃等)で)水に添加して水溶液を調製してもよい。本実施形態では、水溶液におけるヨウ素の濃度が比較的低いため、反応物を一括して添加してもヨウ素蒸気の発生を抑えることができる。また、原料としてヨウ化物イオンを含む化合物を使用する場合、上記(4)式のとおり、ヨウ素が三ヨウ化物イオンとして溶解するため、一括添加してもヨウ素蒸気の発生を抑えることができる。なお、反応物は、反応中に連続的又は間欠的に添加してもよい。
【0026】
上記水溶液に加熱処理を行うことにより、ヨウ素とギ酸を反応させてヨウ化水素酸を得ることができる。加熱処理の温度としては、79〜105℃で十分にヨウ化水素酸を製造することが可能であり、好ましくは81〜105℃であり、より好ましくは90〜99℃である。加熱処理は常圧下で行ってよい。加熱処理の温度が79℃以上である場合、反応が円滑に進行し、105℃以下である場合には、反応液よりヨウ素蒸気が発生することによる収率の低下を抑制することができる。加熱処理の時間としては、特に制限はないが、3〜48時間とすることができる。
【0027】
分子動力学の観点から、通常、反応物の濃度が高ければ高いほど、反応物同士の衝突頻度が増し、反応が発生する確率が高くなり、結果として反応速度が増加し収率が良くなると考えられる。
【0028】
しかしながら、ヨウ素とギ酸の反応では、反応物の濃度が高ければ高いほど収率は悪化した。この理由としては、ヨウ素とギ酸の反応では、何らかの中間生成物を経由して反応しており、また、その中間生成物の生成には、濃度が関係していることから水が関与しているのではないかと考えるに至った。つまり、ギ酸とヨウ素を含む水溶液では、上記式(2)で示されるようなヨウ素とギ酸の直接反応だけでなく、以下の反応式(5)〜(6)で示されるように、ヨウ素が加水分解して発生した次亜ヨウ素酸とギ酸の反応が進行しているためであると考えられる。
+ HO ⇔ HI + HIO …(5)
HIO + HCOOH → HI + CO + HO …(6)
(5)式は可逆反応であるため、系内のヨウ化水素の濃度が高いと平衡は左に傾く。したがって、ヨウ素の濃度が高いと収率が悪化したと考えられる。
また、リン酸等の従来ヨウ素の還元剤として使用されてきた化合物は、HIOとの反応性が高いため、(5)式の正反応が起こった後、速やかにHIOと反応することができる。しかしながら、ギ酸はリン酸等に比べて反応性が低いため、(6)式の反応速度が比較的小さく、(5)式の逆反応の影響が無視できなくなる。そのため、ギ酸を用いた反応では、ヨウ素イオン濃度を低くして生成するヨウ化水素の濃度が高くなり過ぎないように反応を進めることで収率を向上できたものと考えられる。
【0029】
(第1の濃縮工程)
本実施形態の製造方法は、加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮させる第1の濃縮工程をさらに備えてもよい。第1の濃縮工程は、水溶液におけるヨウ化水素の濃度が57質量%未満の範囲となるまで行うことが好ましく、55質量%以下の範囲となるまで行うことがより好ましい。第1の濃縮工程において、ヨウ化水素の濃度が57質量%未満であれば、後述のギ酸熱分解工程においてヨウ化水素酸の蒸発を抑制することができる。また、第1の濃縮工程により、ヨウ化水素の濃度を45質量%以上とすることが好ましく、50質量%以上であるとより好ましい。ヨウ化水素酸の濃度が45質量%以上であると、後述のギ酸熱分解工程の間に未反応のギ酸を効率よく分解できる傾向にある。
【0030】
(ギ酸熱分解工程)
第1の濃縮工程の後、未反応のギ酸を分解するために、ギ酸熱分解工程を備えていてもよい。ギ酸熱分解工程では、第1の濃縮工程よりも高い温度で水溶液を加熱する。上述のとおり、ギ酸熱分解工程を行う際の水溶液におけるヨウ化水素の濃度としては、45質量%以上57質量%未満であると好ましく、50〜56質量%であるとより好ましい。ギ酸熱分解工程の加熱温度としては、ギ酸の熱分解を効率よく行える観点から、105〜135℃であると好ましく、120〜130℃であるとより好ましい。また、ギ酸熱分解工程の時間としては、10時間以上であると好ましい。
(第2の濃縮工程)
第1の濃縮工程又はギ酸熱分解工程の後に第2の濃縮工程を備えていてもよい。第2の濃縮工程では、水溶液を絶対圧14.4kPa以下の減圧下で加熱して溶媒を蒸発させることによって濃縮させ、57質量%以上の濃度のヨウ化水素酸を得る。絶対圧14.4kPa以下の減圧下で濃縮した場合、ヨウ化水素と水の共沸混合物(57質量%)以上の濃度を有するヨウ化水素酸を得ることができ、絶対圧が4.00kPa以下であると好ましく、絶対圧0.133kPa以下であるとより好ましい。
【0031】
本実施形態の製造方法によって得られたヨウ化水素酸は、反応の副生成物が二酸化炭素のみであるため、不純物が非常に少ない。特許文献1及び2では、電気化学的製法によってヨウ化水素酸を得ているが、溶液中に不純物が含まれているため、溶液を全量蒸発させ、ヨウ化水素酸を留分として得る精製及び濃縮操作が必要となる。しかし、本実施形態の製造方法で得られた反応後溶液は、不純物が少ないため水分のみを蒸発させ濃縮することで、純度及び濃度の高いヨウ化水素酸を得ることができる。なお、反応溶液の濃縮は減圧下〜加圧下の広い範囲の条件で可能である。
【0032】
また、副生成物が二酸化炭素のみとなり、不純物が非常に少ないという特徴を利用し、得られた反応溶液を任意の金属化合物に添加することによって、容易にヨウ化金属水溶液を得ることが可能である。金属化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化バナジウム、水酸化クロム、水酸化マンガン、水酸化鉄、水酸化コバルト、水酸化ニッケル、水酸化銅、水酸化亜鉛、水酸化カドミウム、水酸化アルミニウム、水酸化ガリウム、水酸化インジウム、水酸化タリウム、水酸化ゲルマニウム、水酸化スズ、水酸化鉛、水酸化アンチモン、水酸化ビスマス、水酸化ポロニウム等の金属元素の水酸化物や、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸バナジウム、炭酸クロム、炭酸マンガン、炭酸鉄、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸銅、炭酸銀、炭酸亜鉛、炭酸カドミウム、炭酸アルミニウム、炭酸ガリウム、炭酸インジウム、炭酸タリウム、炭酸ゲルマニウム、炭酸スズ、炭酸鉛、炭酸アンチモン、炭酸ビスマス、炭酸ポロニウム等の金属元素の炭酸塩、そして、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化タリウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化ポロニウム等の金属元素の酸化物などが挙げられ、このうち好適な例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【実施例】
【0033】
<実施例1〜6及び比較例1〜3>
実施例1〜6として、それぞれ表1〜6の組成の水溶液を調製し、当該水溶液に加熱処理を行った。加熱温度は、いずれも93〜96℃であった。
また、比較例1〜3として、それぞれ表7〜9の組成の水溶液を調製し、当該水溶液に加熱処理を行った。なお、比較例3ではギ酸に代えてシュウ酸を用いた。加熱温度は、いずれも93〜96℃であった。
表1〜9において、反応工程における組成は各加熱時間における水溶液の組成を示す(質量%)。また、収率は以下の式で計算した。
(収率)=(生成したHI(mol)÷2)/(投入したI(mol))×100
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
【表9】
【0043】
<実施例7>
実施例7として、加熱処理の温度を79℃とした以外は、実施例4と同様の条件で水溶液を調製し、反応工程を行った。結果を表10に示す。
【0044】
【表10】
【0045】
<実施例8>
実施例8として、表11に示すように、実施例4からギ酸の当量のみを変更した以外は実施例4と同様の条件で水溶液を調製し、反応工程を行った。
【0046】
【表11】
【0047】
<実施例9>
実施例9として、表12に示すように、ヨウ化物イオンを含む化合物を水溶液に添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で加熱処理を行った。
【0048】
【表12】
【0049】
<実施例10〜12(ギ酸熱分解工程)>
実施例10として、ギ酸熱分解工程用に調整した水溶液に対してギ酸熱分解工程を行った。ギ酸熱分解工程に供する前の水溶液の組成は、ヨウ素(0.4質量%)、水(42.5質量%)、ギ酸(2.0質量%)、ヨウ化水素(55.1質量%)であった。当該水溶液1000gを2Lフラスコに投入し、品温127℃にて撹拌しながら還流させ、褐色溶液を得た。各時間におけるギ酸濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定した。結果を表13に示す。表13に示されるように、ギ酸濃度が15時間後には定量限界値以下(0.002質量%以下)となっていた。
【0050】
実施例11として、ギ酸熱分解工程用に調整した水溶液に対してギ酸熱分解工程を行った。ギ酸熱分解工程に供する前の水溶液の組成は、ヨウ素(0.4質量%)、水(42.5質量%)、ギ酸(2.0質量%)、ヨウ化水素(55.1質量%)であった。当該水溶液1000gを2Lフラスコに投入し、品温110℃にて撹拌しながら還流させ、褐色溶液を得た。各時間におけるギ酸濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定した。結果を表13に示す。
【0051】
実施例12として、ギ酸熱分解工程用に調整した水溶液に対してギ酸熱分解工程を行った。ギ酸熱分解工程に供する前の水溶液の組成は、ヨウ素(0.4質量%)、水(42.5質量%)、ギ酸(2.0質量%)、ヨウ化水素(45質量%)であった。当該水溶液1000gを2Lフラスコに投入し、品温116℃にて撹拌しながら還流させ、褐色溶液を得た。各時間におけるギ酸濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定した。結果を表13に示す。
【0052】
【表13】
【0053】
<実施例13〜15(第2の濃縮工程)>
それぞれ表14〜16に示す組成の水溶液をそれぞれ2Lフラスコに投入し、真空ポンプで反応容器内を減圧して第2の濃縮工程を行った。実施例13〜15において、減圧時の圧力(絶対圧)はそれぞれ0.133kPa、4.00kPa及び9.33kPaであった。実施例13〜15について、第2の濃縮工程終了後の水溶液の組成を表14〜16に示す。
【0054】
【表14】
【0055】
【表15】
【0056】
【表16】
【0057】
実施例13〜15では、投入した水溶液に対して、得られた57質量%以上のヨウ化水素酸の収率は、それぞれ90.9%、66.4%及び31.8%であった。これらの結果から、減圧時の圧力(絶対圧)と57質量%以上のヨウ化水素酸の収率とは直線関係があり(R=0.99997)、57質量%のヨウ化水素酸を得るには14.4kPa以下の減圧下で濃縮する必要があると考えられる。
【要約】
【課題】
収率が高く、操作が簡便であり、製造コストが抑えられ、かつ環境負荷が小さいヨウ化水素酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】
ギ酸及びヨウ素を含有すると共にヨウ素及びヨウ化物イオンの濃度の合計が1〜22.5質量%である水溶液を加熱処理してヨウ化水素酸を得る反応工程を備える、ヨウ化水素酸の製造方法。
【選択図】なし