特許第6330083号(P6330083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6330083
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】長繊維不織布
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/647 20060101AFI20180514BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20180514BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20180514BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20180514BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20180514BHJP
   A61F 13/513 20060101ALI20180514BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20180514BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20180514BHJP
【FI】
   D06M15/647
   D04H3/14
   D06M15/53
   A61F13/15 140
   A61F13/511 200
   A61F13/513 110
   A61F13/511 100
   D06M13/17
   D06M13/224
【請求項の数】11
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2017-104292(P2017-104292)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2017-214693(P2017-214693A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-109599(P2016-109599)
(32)【優先日】2016年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】湊崎 真行
(72)【発明者】
【氏名】蒲谷 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】寒川 裕太
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−113327(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/186376(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/129163(WO,A1)
【文献】 特開2015−132038(JP,A)
【文献】 特開2004−256935(JP,A)
【文献】 特開2013−063245(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0067118(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/098796(WO,A1)
【文献】 特開2011−153233(JP,A)
【文献】 特開2015−127306(JP,A)
【文献】 特開2008−038277(JP,A)
【文献】 特開2016−065335(JP,A)
【文献】 特開2013−007131(JP,A)
【文献】 反応性・非反応性変性シリコーンオイル,信越化学工業株式会社,2016年 9月,p.7,[オンライン], [検索日 2017.3.1],インターネット:<URL: https://www.silicone.jp/catalog/pdf/modified_
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
A61F 13/15 − 13/84
A61L 15/16 − 15/64
D04H 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化合物(C1)を含有する長繊維不織布。
化合物(C1):下記式[I]、[III]又は[IV]で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオキシアルキレン変性シリコーンよりなり、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上であり、表面張力が21mN/m以上30mN/m以下である化合物
【化1】
【化2】
【化3】
式中、R31は、アルキル基を示す。R32は、単結合又はアルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示す。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]、[III]及び[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【請求項2】
下記化合物(C1−1)を含有する長繊維不織布。
化合物(C1−1):下記式[I]、[III]又は[IV]で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオキシアルキレン変性シリコーンよりなり、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が20mN/m以上であり、表面張力が21mN/m以上である化合物
【化4】
【化5】
【化6】
式中、R31は、アルキル基を示す。R32は、単結合又はアルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示す。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]、[III]及び[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【請求項3】
水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上である化合物(C1−2)、及び、
水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である化合物(C2)、から選ばれる1又は複数を含有する長繊維不織布であって、
前記長繊維不織布が、熱融着性繊維を含み、受液面となる第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の長繊維の親水度が前記第2面側の長繊維の親水度よりも低く、前記第1面側の長繊維の接触角(V1)と前記第2面側の長繊維の接触角(V2)との差(V1−V2)が3°以上であり、第2面側の長繊維の接触角が77°以上である、長繊維不織布。
【請求項4】
下記液膜開裂剤を含有する長繊維不織布。
液膜開裂剤:下記式[I]、[III]又は[IV]で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオキシアルキレン変性シリコーンよりなり、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上であり、表面張力が21mN/m以上30mN/m以下である剤。
【化7】
【化8】
【化9】
式中、R31は、アルキル基を示す。R32は、単結合又はアルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示す。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]、[III]及び[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【請求項5】
下記液膜開裂剤を含有する長繊維不織布。
液膜開裂剤:下記式[I]、[III]又は[IV]で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオキシアルキレン変性シリコーンよりなり、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が20mN/m以上であり、表面張力が21mN/m以上である剤。
【化10】
【化11】
【化12】
式中、R31は、アルキル基を示す。R32は、単結合又はアルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示す。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]、[III]及び[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【請求項6】
下記液膜開裂剤を含有する長繊維不織布であって、
前記長繊維不織布が、熱融着性繊維を含み、受液面となる第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の長繊維の親水度が前記第2面側の長繊維の親水度よりも低く、前記第1面側の長繊維の接触角(V1)と前記第2面側の長繊維の接触角(V2)との差(V1−V2)が3°以上であり、第2面側の長繊維の接触角が77°以上である、長繊維不織布。
液膜開裂剤:水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上である化合物、及び、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である化合物、から選ばれる1又は複数を有する剤
【請求項7】
前記化合物(C1)、(C1−1)、(C1−2)又は前記液膜開裂剤は、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の長繊維不織布
【請求項8】
前記化合物(C2)又は前記液膜開裂剤が、下記の構造Z、Z−Y、及びY−Z−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物を含む、請求項3又は6に記載の長繊維不織布。
構造Zは、>C(A)−<C:炭素原子>、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造の炭化水素鎖を表す。構造Zの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(Rからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
上記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子を示す。A、Bは各々独立に、酸素原子又は窒素原子を含む置換基を示す。構造Z内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項9】
熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、
前記第1面側の繊維の親水度が前記第2面側の繊維の親水度よりも低い、請求項1〜のいずれか1項に記載の長繊維不織布。
【請求項10】
熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、
前記第1面側の繊維が、繊維集合層に固定された基底部と該繊維集合層とは非固定の自由端部とを有し起立する起立性繊維である、請求項1〜のいずれか1項に記載の長繊維不織布。
【請求項11】
請求項又は10に記載の長繊維不織布を、前記第1面を肌当接面側に向けて配する表面シートとして用いた吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品の表面シート等には、従来、短繊維を原料としたエアスルー不織布などが主に用いられてきた。これに対し、近年は、製造コストや生産性の観点から、スパンボンド不織布等の長繊維を原料とした不織布(以下、長繊維不織布という。)を表面シートとして用いる検討が進められている。しかし、長繊維不織布は、短繊維を原料とした不織布に比べて、繊維間距離が短い、厚みが薄い、長繊維を束ねる熱融着部で剛性が高い等の問題があった。そのため、従来の長繊維不織布は、表面シートに求められる液残りや液戻りの抑制、風合い等の点でまだ十分満足できるものではなかった。これに対しいくつかの提案がされている。
例えば、特許文献1には、前記長繊維不織布において、熱融着部で束ねられた長繊維の一部が破断して起立する繊維を備えることが記載されている。該起立する繊維は、破断せずに束ねられた長繊維よりも親水度を低くすることが記載されている。これにより、厚みの薄いスパンボンド不織布にクッション性を与え、通液性、液戻りの防止性の向上をしようとする。
これとは別の技術として、特許文献2には、ドライ感向上のため、表面シートに血液改質剤を含ませた吸収性物品についての記載がある。この血液改質剤は、血液の粘度及び表面張力を低下させ、血球を安定化させて連銭構造を形成しにくくして、吸収体が経血を吸収しやすくしようとするものである。また、特許文献3には、表面シートの体液の流れや逆戻りを発生しにくくする観点から、表面シートの裏面側に表面側よりも高い親水度を付与することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−139359号公報
【特許文献2】特開2013−63245号公報
【特許文献3】特開2005−87659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長繊維不織布においては、特許文献1に記載された起立する自由端部を有する繊維を有していたとしても、それによる繊維間距離の拡幅は一部に限られる。例えば、長繊維が破断無く熱融着部で束ねられた繊維集合部分や熱融着部分周辺では繊維間距離が短い。この繊維間が短い領域には、排泄液(例えば尿や経血。単に液体ともいう。)を透過できる空間があっても、繊維間のメニスカス力や血漿タンパク質による表面活性、また血液の表面粘性が高いことから、繊維間に安定した液膜をつくり、液が留まりやすい。該液膜は、短い繊維間で安定的な膜となる。そのため、一度生じると、親水度勾配や血球を安定化させる血液改質剤であっても解消し難い。たとえ従来の血液改質剤等を用いたとしても、着用者が感じるドライ感はまだ改善の余地があった。すなわち、液残りや液残り部分を経由した吸収体からの液戻りの抑制はまだ改善の余地があった。
また、これは吸収対象液が血液に限定されるものでない。尿においてもリン脂質による表面活性があり、上記と同様に液膜をつくり、液残り及び該液残りを経由した液戻りは十分に抑えられず、ドライ感はまだ改善の余地があった。
このように、不織布中の繊維間が狭い部分にできる液膜を取り除いて、吸収体へと引き抜く技術が求められているが、液膜の高い安定性ゆえに、取り除くことは困難であった。また、液の表面張力を下げて液膜を取り除くべく、水溶性の界面活性剤を塗布することも考えられる。しかし、このような界面活性剤を吸収性物品に用いて液膜除去を可能にしようとすると、液が液防漏性のバックシートをも透過するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、短繊維を原料とする不織布よりも繊維間距離が短い長繊維不織布において、繊維間にできる液膜を低減して、液残りと該液残りを経由した液戻りを抑え、より高いレベルでのドライ感を実現する長繊維不織布に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液膜開裂剤を含有する長繊維不織布を提供する。
また、本発明は、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上である化合物(C1)を含有する長繊維不織布を提供する。
また、本発明は、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である化合物(C2)を含有する長繊維不織布を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の長繊維不織布は、繊維間にできる液膜を低減して、液残りと該液残りを経由した液戻りを抑え、より高いレベルでのドライ感を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の長繊維不織布の好ましい具体例を示す模式図であり、(A)は単層の長繊維不織布を示す図であり、(B)は別の単層の長繊維不織布を示す図であり、(C)は複数層の長繊維不織布を示す図である。
図2】長繊維不織布の繊維間の隙間に形成された液膜を示す模式図である。
図3】(A1)〜(A4)は液膜開裂剤が液膜を開裂していく状態を側面から模式的に示す説明図であり、(B1)〜(B4)は液膜開裂剤が液膜を開裂していく状態を上方から模式的に示す説明図である。
図4】起毛加工工程を示す説明図であり、(A)は部分延伸加工工程を示す模式図であり、(B)は(A)の部分延伸加工工程における一対の凹凸ロールの噛み合わせ状態を部分的に拡大して示す断面図であり、(C)は破断加工工程を示す模式図である。
図5】起毛している繊維の本数を測定する方法を模式的に示した説明図であり、(A)は長繊維不織布を山折りした状態を示す図であり、(B)は(A)の長繊維不織布に窓付きの黒い台紙を重ねた状態を示す図であり、(C)は(B)の黒い台紙の窓を拡大して示し、該窓から起毛している繊維を測定する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の長繊維不織布は、液膜開裂剤を含有する。また、本発明の長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、第1面側の繊維の親水度が第2面側の繊維の親水度よりも低くされていることが好ましい。
【0010】
液膜開裂剤とは、液、例えば、経血等の高粘性の液や尿などの排泄液が長繊維不織布に触れて不織布の繊維間ないしは繊維表面に形成される液膜を開裂させたりして、液膜の形成を阻害する剤のことをいい、形成された液膜を開裂させる作用と、液膜の形成を阻害する作用とを有する。前者は主たる作用、後者は従たる作用ということができる。液膜の開裂は、液膜開裂剤の、液膜の層の一部を押しのけて不安定化せる作用によりなされる。
この液膜開裂剤の作用が、液を繊維間の狭い領域に留まることなく通過しやすくし、前記親水度の勾配による液の引き込み作用と相俟って、本発明の長繊維不織布における液透過性を高め、液残り及び液戻りの低減に貢献する。これにより、長繊維不織布を構成する繊維を細くしてさらに繊維間距離を狭めても、肌触りの柔らかさと液残り抑制とが両立する。このような本発明の長繊維不織布は、例えば、生理用ナプキン、ベビー用おむつ、大人用おむつ等の吸収性物品の表面シートとして用いることができる。
【0011】
(液膜を消失させる性質)
本発明で用いられる液膜開裂剤は、液膜を消失させる性質を有しており、斯かる性質により、該液膜開裂剤を、血漿成分を主体とする試験液又は人工尿に適用した場合に液膜消失効果を発現し得る。人工尿は、尿素1.940質量%、塩化ナトリウム0.795質量%、硫酸マグネシウム0.110質量%、塩化カルシウム0.062質量%、硫酸カリウム0.197質量%、赤色2号(染料)0.010質量%、水(約96.88質量%)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(約0.07質量%)の組成を有する混合物を、表面張力を53±1mN/m(23℃)に調整したものである。ここでいう液膜消失効果には、試験液又は人工尿から形成される液膜によって空気が抱えこまれた構造体について、該構造体の液膜形成を阻害する効果と、形成された該構造体を消失させる効果との双方が含まれ、少なくとも一方の効果を発現する剤は、液膜消失効果を発現し得る性質を有していると言える。
前記試験液は、馬脱繊維血液(株式会社日本バイオテスト製)から抽出された液体成分である。具体的には、100mLの馬脱繊維血液を温度22℃、湿度65%の条件下で1時間静置すると、該馬脱繊維血液は上層と下層とに分離するところ、この上層が前記試験液である。上層は主に血漿成分を含み、下層は主に血球成分を含む。上層と下層とに分離した馬脱繊維血液から上層のみを取り出すには、例えばトランスファーピペット(日本マイクロ株式会社製)を用いることができる。
ある剤が前記の「液膜を消失させる性質」を有するか否かは、当該剤が適用された前記試験液又は人工尿から形成される液膜によって空気が抱えこまれた構造体が発生しやすい状態にした場合の、該構造体即ち液膜の量の多少で判断される。すなわち、前記試験液又は人工尿を、温度25℃に調整し、その後、スクリュー管(株式会社マルエム製 No.5 胴径27mm、全長55mm)に10g入れて、標準サンプルを得る。また、測定サンプルとして、標準サンプルと同じものに、25℃に予め調整した測定対象の剤を0.01g添加したものを得る。標準サンプルと測定サンプルをそれぞれ前記スクリュー管の上下方向に2往復強く振とうした後、水平面上に速やかに載置する。このサンプルの振とうにより、振とう後のスクリュー管の内部には、前記構造体の無い液体層(下層)と、該液体層の上に形成された多数の該構造体からなる構造体層(上層)とが形成される。振とう直後から10秒経過後に、両サンプルの構造体層の高さ(液体層の液面から構造体層上面までの高さ)を測定する。そして、標準サンプルの構造体層の高さに対して、測定サンプルの構造体層の高さが90%以下となった場合、測定対象の剤は液膜開裂効果を有しているとする。
本発明で用いられる液膜開裂剤は、前記の性質に当てはまる単一の化合物若しくは前記の性質に当てはまる単一の化合物を複数組み合わせた混合物、又は複数の化合物の組み合わせによって前記の性質を満たす(液膜の開裂を発現し得る)剤である。つまり液膜開裂剤とは、あくまで前記定義によるところの液膜開裂効果があるものに限定した剤のことである。したがって、吸収性物品中に適用されている化合物に、前記定義に当てはまらない第三成分を含む場合には、液膜開裂剤と区別する。
なお、液膜開裂剤及び第三成分について、「単一の化合物」とは、同じ組成式を有するが、繰り返し単位数が異なることにより、分子量が異なる化合物を含める概念である。
液膜開裂剤としては、国際公開第2016/098796号の明細書の段落[0007]〜[0186]に記載のものから適宜に選んで用いることができる。
【0012】
本発明において、「長繊維不織布」とは、長繊維を熱融着部により間欠的に固定した繊維集合層を具備する不織布のことをいう。「長繊維」とは、30mm以上の繊維長を有する繊維を意味する。特に、繊維長150mm以上のいわゆる連続長繊維であると破断強度が高い長繊維不織布が得られる点で好ましい。このような長繊維不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、スパンボンドの層とメルトブローンの層との複数層からなる不織布、カード法によるヒートロール不織布等が挙げられる。複数層からなる不織布としては、例えば、スパンボンド−スパンボンド積層不織布、スパンボンド−スパンボンド−スパンボンド積層不織布、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド積層不織布、スパンボンド−スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド積層不織布等が挙げられる。また、単層の場合に、一方の面側に、長繊維の一端が繊維集合層とは非固定で起立する繊維(起立性繊維)を有する長繊維不織布が挙げられる。なお、前記「長繊維」における繊維長の上限は特に限定されるものではない。
また、前述した、第1面側の繊維、第2面側の繊維とは、複数層の場合であっても、積層された長繊維不織布における最も外側の面の表面にある繊維を意味する。
【0013】
図1(A)〜(C)は、本発明の長繊維不織布の層構造の具体例を示している。ただし、本発明の長繊維不織布がこれらに限定されるものではなく、種々の形態をとり得る。なお、図1(A)〜(C)に示す第1面5とは、長繊維不織布を吸収性物品の表面シートとして用いた場合に受液面側(すなわち肌当接面側)となる面であり、第2面6とは、吸収体側(すなわち非肌当接面側)となる面である。
図1(A)は、単層の長繊維不織布10を示している。長繊維不織布10は、長繊維1が熱融着部2により間欠的に固定された繊維集合層3からなる。長繊維不織布10の受液面となる第1面5側の繊維11の親水度が、その反対面側である第2面6側の繊維12の親水度よりも低くされ親水度の勾配を有する。ここでいう第1面5側の繊維とは、繊維集合層3の第1面5側の表面にある繊維である。第2面6側の繊維とは、繊維集合層3の第2面6側の表面にある繊維である。
図1(B)は、別の単層の長繊維不織布20を示している。長繊維不織布20は、第1面5側において、一端側が繊維集合層3とは非固定の起立性繊維4を有する長繊維不織布20が挙げられる。起立性繊維4は、繊維集合部3の熱融着部2に固定された基底部41と、繊維集合層3の熱融着部2とは非固定の自由端部42とを有する。この自由端部42が繊維集合層3から第1面5側の上方へと起立することができる。この場合、第1面5側の繊維は、繊維集合層3の第1面5側の表面にある起立性繊維4である。第2面6側の繊維とは、繊維集合層3の第2面6側の表面にある繊維12である。起立性繊維4が第2面6側の繊維よりも親水度を低くされている。
図1(C)は、複数層の長繊維不織布30を示している。長繊維不織布30は、熱融着部2で束ねられた繊維集合層が複数積層されてなる長繊維不織布30が挙げられる。長繊維不織布30は、第1面5側にある第1繊維集合層31と、第2面6側にある第2繊維集合層32とを有する。なお、複数層とは、図1(C)のように2層に限らず、3層以上であってもよい。これら複数の繊維集合層は、積層された状態で、一体化されていることが好ましく、例えば、熱エンボスやホットメルト接着剤などで接合していることが好ましい。ホットメルト接着剤を用いる場合、液透過性の観点から、層間にスパイラル塗工などの間欠的な方法により接合することが好ましい。または、平面方向の周囲のみをホットメルト接着剤で接合して、非接合領域を多くとり層間の界面を残すようにすることがより好ましい。この場合、第1面5側の繊維は、第1繊維層31の第1面5側の表面にある繊維11である。第2面6側の繊維は、第2繊維層32の第2面6側の表面にある繊維12である。なお、図1(C)に示す複数層の長繊維不織布30において、第1面5側の第1繊維集合層31が図1(B)に示す起立性繊維4を有する繊維集合層3であってもよい(図示せず)。
【0014】
本発明の長繊維不織布は、前述した親水度について、前記第1面側から前記第2面側に親水度の勾配を有することが好ましい。
【0015】
前記「親水度の勾配」とは、特に断らない限り、長繊維不織布の厚み方向において、受液面(例えばおむつ等の表面シートとした場合の肌当接面)側よりも、その反対面(例えば前記表面シートにおける非肌当接面)側の親水度が高い状態を意味する。この「勾配」は、前記受液面側とその反対面側との間に、親水度の差がある様々な態様を広く含むものであり、漸次高くなる態様でもよく、段階的に高くなる態様でもよい。段階的というとき、2段階であってもよく、3段階以上であってもよい。前記親水度の勾配は、液の透過方向に沿って第1面側(受液面側)から第2面側への勾配であればよく、厳密に不織布の第1面(受液面)に対して垂直方向における勾配に限定されるものではない。
例えば、複数層からなる場合、層毎に親水度の差を持たせて段階的に高くする態様でもよい。また、各層内で漸次又は段階的に高くなるようにし、かつ、長繊維不織布全体として受液面側から反対面側へ向けて漸次又は段階的に高くする態様であってもよい。あるいは、受液面側(図1(C)における第1面5側)の層のみが他の層よりも親水度の低い、2段階の親水度勾配の態様でもよい。また、受液面側の層の最表面の繊維のみが同層の他の繊維及び他の層の繊維よりも親水度の低い、2段階の親水度勾配の態様であってもよい。一方、単層からなる場合、層内で厚み方向に漸次又は段階的に親水度が高くなる態様でもよい。あるいは、受液面側(図1(A)及び(B)における第1面5側)の表面繊維のみが層内の他の繊維よりも親水度が低い、2段階の親水度勾配の態様でもよい。
【0016】
特に、図1(B)の長繊維不織布20においては、起立性繊維4に沿った液引き込み性を高める観点から、起立性繊維4の親水度が、繊維集合層3の繊維の親水度よりも低くした、少なくとも2段階の親水度勾配があることが好ましい。
【0017】
本発明の長繊維不織布において、前述した液膜開裂剤は、長繊維不織布の少なくとも一部の領域の構成繊維に塗工して含有される。その塗工される少なくとも一部とは、特に液を最も多く受け止める部分であることが好ましい。例えば、本発明の長繊維不織布を生理用ナプキン等の吸収性物品の表面シートとする場合、経血等の排泄液を直接受け止める、着用者の排泄部に対応した領域である。
また、本発明の長繊維不織布の厚み方向に関しては、少なくとも、液を受け取る受液面側(吸収性物品における肌に近い側)に前記液膜開裂剤が含有されることが好ましい。上記の例の表面シートにおいては、着用者の肌に触れる肌当接面側に少なくとも液膜開裂剤が含有されることが好ましい。さらに、液透過性の観点から、できる限り厚み方向にあることがより好ましく、特に複数層からなる場合、できる限り多くの層にあることがより好ましい。
少なくとも受液面側に液膜開裂剤があると、通液後は液膜開裂剤が一部液に分散し、該液の通過に伴って、液膜開裂剤が塗工されていない繊維上にも液膜開裂剤が付着し得る。これにより、2回目以降の通液時も液膜開裂剤の効果が発揮される。
【0018】
本発明において、長繊維不織布が液膜開裂剤を含有する又は含むとは、主に繊維の表面に付着させることをいう。ただし、液膜開裂剤は、繊維の表面に残存する限り、繊維内に内包しているようなものや、内添により繊維内部に存在しているようなものがあってもよい。液膜開裂剤を繊維の表面に付着させる方法としては、通常用いられる各種の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、フレキソ印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、噴霧、刷毛塗布法等が挙げられる。これらの処理は、繊維を各種の方法でウエブ化した後に行ってもよいし、その後、該ウエブを不織布にした後や吸収性物品に組み込んだ後に行ってもよい。液膜開裂剤が表面に付着した繊維は、例えば、熱風送風式の乾燥機により、繊維樹脂の融点より十分に低い温度(例えば120℃以下)で乾燥される。また、前記付着方法を用いて繊維へ付着させる場合、液膜開裂剤を希釈させずに用いてもよく、必要により液膜開裂剤を溶媒に溶解させた液膜開裂剤を含む溶液、ないしは液膜開裂剤の乳化液、分散液を用いてもよい。
本発明に係る液膜開裂剤は、不織布において後述する液膜開裂効果を有するためには、液膜開裂剤が体液に触れた際に液状として存在する必要がある。この点から、本発明に係る液膜開裂剤の融点は40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい。さらに、本発明に係る液膜開裂剤の融点は-220℃以上が好ましく、−180℃以上がさらに好ましい。
【0019】
ここで、本発明の長繊維不織布における液膜開裂剤の前記作用について、図2及び3を参照して具体的に説明する。
図2に示すように、繊維間の狭い領域においては、経血等の粘性の高い液や尿などの排泄液は、液膜7を張りやすい。これに対し、液膜開裂剤は次のようにして液膜を不安定化して破り、形成を阻害して、不織布中からの排液を促す。まず、図3(A1)及び(B1)に示すように、長繊維不織布の繊維1が有する液膜開裂剤8が、液膜7との界面を保ったまま、液膜7の表面上を移行する。次いで、液膜開裂剤8は、図3(A2)及び(B2)に示すように、液膜7の一部を押しのけて厚み方向へと侵入し、図3(A3)及び(B3)に示すように、液膜7を徐々に不均一で薄い膜へと変化させていく。その結果、液膜7は、図3(A4)及び(B4)に示すように、はじけるようにして穴が開き開裂される。開裂された経血等の液は、液滴となってなお長繊維不織布の繊維間を通過しやすくなり、液残りが低減される。また、上記の液膜開裂剤の液膜に対する作用は、繊維間の液膜に対する場合に限らず、繊維表面にまとわりついた液膜に対しても同様に発揮される。すなわち、液膜開裂剤は、繊維表面にまとわりついた液膜上を移行して該液膜の一部を押しのけ、液膜を開裂させることができる。また、液膜開裂剤は、繊維表面にまとわりついた液膜に対しては、繊維に付着した位置で移動せずともその疎水作用によっても液膜を開裂させ、形成を阻害することができる。
【0020】
このように液膜開裂剤は、液膜の表面張力を下げるなどの液改質をするのではなく、繊維間や繊維表面に生じる液膜自体を押しのけながら開裂し、阻害することで長繊維不織布中からの液の排液を促す。これにより、長繊維不織布の液残りを低減することができる。また、このような長繊維不織布を表面シートとして吸収性物品に組み込むと、繊維間での液の滞留が抑えられて、吸収体までの液透過路が確保される。これにより、液の透過性が高まり、シート表面での液流れが抑制され、液の吸収速度が高まる。特に、粘性の高い経血など繊維間に留まりやすい液の吸収速度を高めることができる。そして、表面シートにおける赤み等の汚れが目立ちにくく、吸収力を実感できる、安心で信頼性の高い吸収性物品となる。
【0021】
本発明の長繊維不織布において、上記のとおり液膜開裂剤が、狭い繊維間に生じる微細で安定的な液膜を開裂して不安定化させる駆動力として作用する。同時に、前述した親水度の勾配は、液膜を開裂して不安定化させた液を、繊維表面で再び安定化する前に、親水度の低い繊維層から親水度の高い繊維層へと一方向に引き抜く駆動力として作用する。また、たとえ圧力等で僅かに液戻りがあっても、液膜開裂剤が安定的な液膜形成を阻止して、親水度の高い方へと引き戻す。
このように、前記液膜開裂剤と親水度勾配の両方の駆動力が協働して、繊維間での液の安定化を阻止し、長繊維不織布内での液の厚み方向の液透過性を高めて液残りを抑制する。これにより、新たな受液にも素早く対応できる液透過性を備え、液残りや該液残りを経由した液戻りの低減を可能にする。
【0022】
また、長繊維を束ねる熱融着部2にも液膜開裂剤があると、該熱融着部のフィルム状の繊維表面の液膜をも開裂して、親水度勾配によって確実に繊維間から厚み方向に液を落とし込むことができる。これにより長繊維不織布に特有の熱融着部の液残りやこれによる液戻りまでも低減できる。
【0023】
さらに、図1(B)に示す長繊維不織布20では、液が供給された際に、液膜開裂剤を含有し親水度の低い起立性繊維4が次のような作用をすることが確認されている。
すなわち、起立性繊維4のある第1面5側に液が供給されると、繊維集合層3よりも親水性が低い起立性繊維4は、自由端部42側がフワッと、即ち、浮き上がるように立ち上がる。なお、起立性繊維4は、液と接触していないときにはある程度(繊維集合層3から浮き上がる程度)の起立状態にある。前述した液との接触による「起立性繊維4の立ち上がり」とは、液との接触前の状態よりも起立の程度が大きくなること、すなわち、起立性繊維4と繊維集合層3とのなす角度が大きくなることを言う。起立性繊維4は、液と接触している間は起立の程度が大きくなって立ち上がった状態にある。この状態で、起立性繊維4の表面では液膜開裂剤3の前述した作用により液膜が解消され、液は、起立した繊維を伝って、相対的に親水度の高い繊維集合層3内へと引き込まれる。これにより液残りが低減される。そして、液が引き込まれた後は、親水度の低い起立性繊維4は、起立の程度が緩やかな元の起立状態に戻り、繊維集合部3の第1面5側を上方からある程度覆うようになる。これにより、親水度の低い(疎水的な)起立性繊維4が、第2面6側からの液戻りを防ぐ蓋のように作用し得る。特に、長繊維不織布20を、第1面5側を肌当接面側に向けた吸収性物品の表面シートとして用いる場合に液戻り抑制効果が高い。すなわち、使用者の肌が表面シートに触れた状態で、親水度の低い(疎水的な)起立性繊維4が寝て繊維集合部3の第1面5側を覆うため、液戻り抑制効果が特に発揮できる。なお、起立性繊維4は、繊維集合層3とは完全に離間した状態であるため、押圧下でクッションのようにして肌に優しい感触をあたえる。また、押圧の無い状態では、前述のとおり液と触れていないときにもある程度起立しているため、本来の機能である柔らかい肌触りを提供できる。
【0024】
長繊維不織布20では、液の供給に合わせてこのような現象が繰り返される。これにより、起立性繊維4を有する長繊維不織布20は、前述した液膜開裂剤の含有と親水度の勾配とを有することで、起立性繊維4による肌触りの良さに加え、液残り及び液戻りの低減、通液時間のさらなる短縮がなされる。その結果、長繊維不織布20は、表面シート用の不織布として、これまでにない優れたドライ感を実現できる。
【0025】
上記の起立性繊維4の立ち上がり作動に関し、実験から、親水的な起立性繊維では立ち上がる現象は起こらず、疎水的な起立性繊維では立ち上がる現象が起こることが確認されている。ここでいう疎水的とは、体液との親和性が低く濡れ難いことをいい、後述する接触角が75°以上であることを意味し、80°以上が好ましく、85°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましい。親水的とは、接触角が上記の値よりも小さいことであり、体液との親和性の観点から90°以下をいう。
起立性繊維4の立ち上がりは、おそらく、次のような要因よるものと考えられる。すなわち、第1面5側に液が供給され起立性繊維4と親水的な液が接触している状態下において、疎水的な起立性繊維4同士が集合している状態がエネルギー的に安定となるため、疎水的な起立性繊維4が集合した状態、すなわち、疎水的な起立性繊維4が起立した状態になったものと考えられる。また、起立性繊維4が疎水的な場合、起立性繊維4のある第1面5側に液が供給され起立性繊維4と液が接触した際に、繊維のまわりに薄い空気層を生じ、浮力が働き起立性繊維4の立ち上がりが生じたと考えられる。なお、起立性繊維4の液との接触時の立ち上がりは、液膜開裂剤が極めて低い水溶解度であることも影響していると思われる。
なお、上記の起立作動は比重の違いが要因であるとも考えられるが、しかし、実際に、起立性繊維4のある第1面5側を下向きにした状態でも繊維の立ち上がりが確認されたことから(親水的な起立性繊維では起こらない)、比重より親水度の違いが影響していると推察している。
【0026】
次に、本発明に係る長繊維不織布の好ましい実施形態について説明する。なお、いずれの実施形態においても、長繊維不織布は単層及び複数のいずれであってもよい。例えば図1(A)〜(C)のいずれにも適用することができる。また、親水度の勾配についても前述した種々の態様を以下に示す実施形態に適用することができる。
【0027】
第1実施形態の長繊維不織布は、前述した親水度の勾配に加えて、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上であり、水溶解度が0g以上0.025g以下である液膜開裂剤を含む層を少なくとも1層有する。なお、上記性質を有する化合物を化合物C1と言うことがある。
【0028】
液膜開裂剤が有する「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」とは、上記のような経血や尿等の排泄液を想定した液体に対する拡張係数をいう。該「拡張係数」とは、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で後述の測定方法により得られる測定値から、下記数式(1)に基づいて求められる値である。なお、数式(1)における液膜は「表面張力が50mN/mの液体」の液相を意味し、繊維間や繊維表面で膜を張った状態の液体、膜を張る前の状態の液体の両方を含み、単に液体とも言う。また、数式(1)の表面張力は、液膜及び液膜開裂剤の気相との界面における界面張力を意味し、液相間の、液膜開裂剤の液膜との界面張力とは区別する。この区別は、本明細書の他の記載においても同様である。
S=γ−γ−γwo ・・・・・ (1)
γ:液膜(液体)の表面張力
γ:液膜開裂剤の表面張力
γwo:液膜開裂剤の液膜との界面張力
【0029】
数式(1)から分かるとおり、液膜開裂剤の拡張係数(S)は、液膜開裂剤の表面張力(γ)が小さくなることで大きくなり、液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)が小さくなることで大きくなる。この拡張係数が15mN/m以上であることで、液膜開裂剤は、繊維間の狭小領域で生じる液膜の表面上での移動性、すなわち拡散性の高いものとなる。この観点から、前記液膜開裂剤の拡張係数は、20mN/m以上がより好ましく、25mN/m以上が更に好ましく、30mN/m以上が特に好ましい。一方、その上限は特に制限されるものではないが、数式(1)より表面張力が50mN/mの液体を用いた場合は上限値が50mN/m、表面張力が60mN/mの液体を用いた場合は上限値が60mN/m、表面張力が70mN/mの液体を用いた場合には上限値が70mN/mといったように、液膜を形成する液体の表面張力が上限となる。そこで、本発明では、表面張力が50mN/mの液体を用いている観点から、50mN/m以下である。
【0030】
液膜開裂剤が有する「水溶解度」とは、脱イオン水100gに対する液膜開裂剤の溶解可能質量(g)であり、後述の測定方法に基づいて、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で測定される値である。この水溶解度が0g以上0.025g以下であることで、液膜開裂剤は、溶解しにくく液膜との界面を形成して、上記の拡散性をより効果的なものとする。同様の観点から、液膜開裂剤の水溶解度は、0.0025g以下が好ましく、0.0017g以下がより好ましく、0.0001g未満が更に好ましい。また、前記水溶解度は小さいほどよく、0g以上であり、液膜への拡散性の観点から、1.0×10−9g以上とすることが実際的である。なお、上記の水溶解性は、水分を主成分とする経血や尿等に対しても当てはまるものと考えられる。
【0031】
上記の、液膜(表面張力が50mN/mの液体)の表面張力(γ)、液膜開裂剤の表面張力(γ)、液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)、及び液膜開裂剤の水溶解度は、次の方法により測定される。
なお、測定対象の長繊維不織布が生理用品や使い捨ておむつなどの吸収性物品に組み込まれた部材(例えば、表面シート)である場合は次のように取り出して測定を行う。すなわち、吸収性物品において、測定対象の部材と他の部材との接合に用いられる接着剤などをコールドスプレー等の冷却手段で弱めた後に、測定対象の部材を丁寧に剥がして取り出す。この取り出し方法は、後述する繊維間距離及び繊度の測定など、本発明の長繊維不織布に係る測定において適用される。
また、繊維に付着した液膜開裂剤について測定する場合、まず液膜開裂剤が付着した繊維をヘキサンやメタノール、エタノールなどの洗浄液で洗浄し、その洗浄に用いた溶媒(液膜開裂剤を含む洗浄用溶媒)を乾燥させて取り出す。このときの取り出した物質の質量は、液膜開裂剤の繊維質量に対する含有割合(OPU)を算出するときに適用される。取り出した物質の量が表面張力や界面張力の測定には少ない場合、取り出した物質の構成物に合わせて適切なカラム及び溶媒を選択した上で、それぞれの成分を高速液体クロマトグラフィーで分画し、さらに各画分についてMS測定、NMR測定、元素分析等を行うことで、各画分の構造を同定する。また、液膜開裂剤が高分子化合物を含む場合には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などの手法を併用することで、構成成分の同定を行うことがより容易になる。そして、その物質が市販品であれば調達、市販品でなければ合成することにより十分な量を取得し、表面張力や界面張力を測定する。特に、表面張力と界面張力の測定に関しては、上記のようにして取得した液膜開裂剤が固体である場合、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
【0032】
(液膜(液体)の表面張力(γ)の測定方法)
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、プレート法(Wilhelmy法)により、白金プレートを使用して測定することができる。その際の測定装置としては、自動表面張力計「CBVP−Z」(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いることができる。白金プレートは、純度99.9%、大きさが横25mm、縦10mmのものを用いる。
なお、液膜開裂剤に関する下記測定では、前述した「表面張力が50mN/mの液体」は、上記の測定方法を用いて、脱イオン水にノニオン系界面活性物質であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例えば、花王株式会社製、商品名レオオールスーパーTW−L120)を加えて、表面張力50±1mN/mに調整された溶液を用いる。
【0033】
(液膜開裂剤の表面張力(γ)の測定方法)
液膜の表面張力(γ)の測定と同様に、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、プレート法により、同じ装置を使用して測定することができる。この測定に際し、前述のとおり、取得した液膜開裂剤が固体である場合、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
【0034】
(液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)の測定方法)
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、ペンダントドロップ法により測定できる。その際の測定装置としては、自動界面粘弾性測定装置(TECLIS−ITCONCEPT社製、商品名THE TRACKERや、KRUSS社、商品名DSA25S)を用いることができる。ペンダントドロップ法では、ドロップが形成されると同時に表面張力が50mN/mの液体に含まれたノニオン系界面活性物質の吸着が始まり、時間経過で界面張力が低下していく。そのため、ドロップが形成された時(0秒時)の界面張力を読み取る。また、この測定に際し、前述のとおり、取得した液膜開裂剤が固体である場合、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
また界面張力の測定時に、液膜開裂剤と表面張力が50mN/mの液体の密度差が非常に小さい場合や、粘度が著しく高い場合、界面張力値がペンダントドロップの測定限界以下の場合には、ペンダントドロップ法による界面張力測定が困難になる場合がある。その場合には、温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、スピニングドロップ法により測定することで、測定が可能となる。その際の測定装置としては、スピニングドロップ界面張力計(KRUSS社製、商品名SITE100)を用いることができる。また、この測定についても、ドロップの形状が安定化した時の界面張力を読み取り、取得した液膜開裂剤が固体である場合には、該液膜開裂剤の融点+5℃まで加熱して液体に相転移させ、その温度条件のまま測定を実施する。
尚、双方の測定装置で界面張力を測定可能な場合は、より小さな界面張力値を測定結果として採用する。
【0035】
(液膜開裂剤の水溶解度の測定方法)
温度25℃、相対湿度(RH)65%の環境領域で、100gの脱イオン水をスターラーで撹拌しながら、取得した液膜開裂剤を徐々に溶解していき、溶けなくなった(浮遊や沈殿、析出、白濁が見られた)時点での溶解量を水溶解度とする。具体的には、0.0001g毎に剤を添加して測定する。その結果、0.0001gも溶けないと観察されたものは「0.0001g未満」とし、0.0001gは溶けて、0.0002gは溶けなかったと観察されたものは「0.0001g」とする。なお、液膜開裂剤が界面活性剤の場合、「溶解」とは単分散溶解とミセル分散溶解の両方を意味し、浮遊や沈殿、析出、白濁が見られた時点での溶解量が水溶解度となる。
【0036】
本実施形態の液膜開裂剤は、上記の拡張係数と水溶解度とを有することで、液膜の表面上で、溶解することなく広がり、液膜の中心付近から液膜の層を押しのけることができる。これにより、液膜を不安定化させて開裂する。
【0037】
本実施形態において、前記液膜開裂剤は、さらに、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下であることが好ましい。すなわち、前述した数式(1)における拡張係数(S)の値を定める1変数である「液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)」が20mN/m以下であることが好ましい。「液膜開裂剤の液膜との界面張力(γwo)」を低く抑えることで、液膜開裂剤の拡張係数が上がり、繊維表面から液膜中心付近へ液膜開裂剤が移行しやすくなり、前述の作用がより明確となる。この観点から、液膜開裂剤の「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」は、17mN/m以下がより好ましく、13mN/m以下が更に好ましく、10mN/m以下がより更に好ましく、9mN/m以下が特に好ましく、1mN/m以下がとりわけ好ましい。一方、その下限は特に制限されるものではなく、液膜への不溶性の観点から0mN/mより大きければよい。なお、界面張力が0mN/m、すなわち溶解する場合には、液膜と液膜開裂剤間での界面を形成することができないため、数式(1)は成り立たず、剤の拡張は起きない。
拡張係数はその数式からもわかるように、対象となる液の表面張力により、その数値が変化する。例えば、対象液の表面張力が72mN/m、液膜開裂剤の表面張力が21mN/m、これらの界面張力が0.2mN/mの場合、拡張係数は50.8mN/mとなる。
また、対象液の表面張力が30mN/m、液膜開裂剤の表面張力21mN/m、これらの界面張力が0.2mN/mの場合、拡張係数は8.8mN/mとなる。
いずれの場合においても、拡張係数が大きい剤ほど、液膜開裂効果は大きくなる。
本明細書では、表面張力50mN/mにおける数値を定義したが、表面張力が異なったとしても、その各物質同士の拡張係数の数値の大小関係に変化はないことから、体液の表面張力が仮に、日ごとの体調などで変化したとしても、拡張係数が大きい剤ほど優れた液膜開裂効果を示す。
【0038】
また、本実施形態において、液膜開裂剤の表面張力は、32mN/m以下が好ましく、30mN/m以下がより好ましく、25mN/m以下が更に好ましく、22mN/m以下が特に好ましい。また、前記表面張力は小さいほどよく、その下限は特に限定されるものではない。液膜開裂剤の耐久性の観点から、1mN/m以上が実際的である。
【0039】
次に、第2実施形態の長繊維不織布について説明する。
【0040】
第2実施形態の長繊維不織布は、上記の親水度の勾配に加えて、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きい、すなわち正の値であり、水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である液膜開裂剤を含む層を少なくとも1層有する。なお、上記性質を有する化合物を化合物C2と言うことがある。
【0041】
前記「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」を20mN/m以下とすることは、前述のように液膜開裂剤の液膜上での拡散性が高まることを意味する。これにより、前記「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」が15mN/m未満であるような拡張係数が比較的小さい場合でも、拡散性が高いため繊維表面から多くの液膜開裂剤が液膜内に分散し、多くの位置で液膜を押しのけることにより、第1実施形態の場合と同様の作用を奏し得る。
なお、液膜開裂剤に関する、「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」、「水溶解度」及び「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」とは、第1実施形態で定義したものと同様のものであり、その測定方法も同様である。
【0042】
本実施形態において、液膜開裂剤の前記作用をより効果的なものとする観点から、前記「表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力」は、17mN/m以下が好ましく、13mN/m以下がより好ましく、10mN/m以下が更に好ましく、9mN/m以下がより更に好ましく、1mN/m以下が特に好ましい。下限値については、第1実施形態と同様に特に制限されるものでなく、液膜(表面張力が50mN/mの液体)に溶解しない観点から、0mN/mより大きくするのが実際的である。
また、「表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数」は、液膜開裂剤の前記作用をより効果的なものとする観点から、9mN/m以上が好ましく、10mN/m以上がより好ましく、15mN/m以上が更に好ましい。その上限は特に制限されるものではないが、数式(1)より液膜を形成する液体の表面張力が上限となる観点から、50mN/m以下が実質的である。
また、液膜開裂剤の表面張力及び水溶解度のより好ましい範囲は、第1実施形態と同様である。
【0043】
第1実施形態の長繊維不織布及び第2実施形態の長繊維不織布は、上記の液膜開裂剤に加え、さらにリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を含有することが好ましい。これにより、繊維表面の親水性が高まり、濡れ性が向上することによって、液膜と液膜開裂剤が接する面積が大きくなること、そして、血液や尿は生体由来のリン酸基を有する界面活性物質を有することから、リン酸基を有する界面活性剤を併用することで、活性剤の相溶性に起因して、さらに血液や尿に含まれるリン脂質との親和性もよいため、液膜開裂剤が液膜に移行しやすくなり、液膜の開裂がさらに促進される。液膜開裂剤とリン酸エステル型のアニオン界面活性剤との含有比率は、質量比(液膜開裂剤:リン酸エステル型のアニオン界面活性剤)で、1:1〜19:1が好ましく、2:1〜15:1がより好ましく、3:1〜10:1が更に好ましい。特に、前記含有比率は、質量比で、5:1〜19:1が好ましく、8:1〜16:1がより好ましく、11:1〜13:1が更に好ましい。
【0044】
リン酸エステル型のアニオン界面活性剤としては特に制限なく用いられる。例えば、その具体例としては、アルキルエーテルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、アルキルリン酸エステルなどが挙げられる。その中でも、アルキルリン酸エステルが液膜との親和性を高めると同時に長繊維不織布の加工性を付与する機能の観点から好ましい。
アルキルエーテルリン酸エステルとしては、特に制限なく種々のものを用いることができる。例えば、ポリオキシアルキレンステアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンミリスチルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンパルミチルエーテルリン酸エステルなどの飽和の炭素鎖を持つものや、ポリオキシアルキレンオレイルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンパルミトレイルエーテルリン酸エステルなどの不飽和の炭素鎖及び、これらの炭素鎖に側鎖を有するものが挙げられる。より好ましくは、炭素鎖が16〜18のモノ又はジポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩である。また、ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン及びこれ等の構成モノマーが共重合されたものなどが挙げられる。なお、アルキルエーテルリン酸エステルの塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、アンモニア、各種アミン類などが挙げられる。アルキルエーテルリン酸エステルは、一種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アルキルリン酸エステルの具体例としては、ステアリルリン酸エステル、ミリスチルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステル、パルミチルリン酸エステル等の飽和の炭素鎖を持つものや、オレイルリン酸エステル、パルミトレイルリン酸エステル等の不飽和の炭素鎖及び、これらの炭素鎖に側鎖を有するものが挙げられる。より好ましくは、炭素鎖が16〜18のモノ又はジアルキルリン酸エステルの完全中和又は部分中和塩である。尚、アルキルリン酸エステルの塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属、アンモニア、各種アミン類等が挙げられる。アルキルリン酸エステルは、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
次に、第1実施形態及び第2実施形態における液膜開裂剤の具体例について説明する。これらは前述した特定の数値範囲にあることで水に溶けないか水難溶性の性質を有し、前記液膜開裂の作用をする。これに対し、従来の繊維処理剤として使用される界面活性剤などは実用上、水に対して溶解して使用する基本的には水溶性のものであり、本発明の液膜開裂剤ではない。
【0046】
第1実施形態及び第2実施形態における液膜開裂剤としては、質量平均分子量が500以上の化合物が好ましい。この質量平均分子量は液膜開裂剤の粘度に大きく影響する。液膜開裂剤は、粘度を高く保つことで、液が繊維間を通過する際に流れ落ちにくく、長繊維不織布における液膜開裂効果の持続性を保つことができる。液膜開裂効果を十分に持続させる粘度とする観点から、液膜開裂剤の質量平均分子量は、1000以上がより好ましく、1500以上が更に好ましく、2000以上が特に好ましい。一方、液膜開裂剤が配された繊維から液膜への液膜開裂剤の移行、即ち拡散性を保持する粘度とする観点から、50000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、10000以下が更に好ましい。この質量平均分子量の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)「CCPD」(商品名、東ソー株式会社製)を用いて測定される。測定条件は下記のとおりである。また、換算分子量の計算はポリスチレンで行う。
分離カラム:GMHHR−H+GMHHR−H(カチオン)
溶離液:LファーミンDM20/CHCl3
溶媒流速:1.0ml/min
分離カラム温度:40℃
【0047】
また、第1実施形態における液膜開裂剤としては、後述するように、下記の構造X、X−Y、及びY−X−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物が好ましい。
構造Xは、>C(A)−〈Cは炭素原子を示す。また、<、>及び−は結合手を示す。以下、同様。〉、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<及び、−Si(RO−、−Si(R)(R)O−のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造のシロキサン鎖、又はその混合鎖を表す。構造Xの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(R、また、−OSi(R、−OSi(R(R)、−Si(R、−Si(R(R)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
上記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えば、フェニル基が好ましい。)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)などの各種置換基を示す。A、Bは各々独立に、水酸基やカルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基などの酸素原子や窒素原子を含む置換基を示す。構造X内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。また、連続するC(炭素原子)やSi間の結合は、通常、単結合であるが、二重結合や三重結合を含んでいてもよく、CやSi間の結合には、エーテル基(−O−)、アミド基(−CONR−:Rは水素原子または一価の基)、エステル基(−COO−)、カルボニル基(−CO−)、カーボネート基(−OCOO−)などの連結基を含んでもよい。一つのC及びSiが、他のC又はSiと結合している数は、1つ〜4つで、長鎖のシリコーン鎖(シロキサン鎖)又は混合鎖が分岐していたり、放射状の構造を有している場合があってもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。例えば、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、ポリオキシアルキレン基(オキシアルキレン基の炭素数は1〜4が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン(POE)基、ポリオキシプロピレン(POP)基が好ましい。)、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホベタイン基(これらのベタイン基は、各ベタイン化合物から水素原子を1つ取り除いてなるベタイン残基をいう。)、4級アンモニウム基などの親水基単独、もしくは、その組み合わせからなる親水基などである。これらの他にも、後述するMで挙げた基及び官能基も挙げられる。なお、Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
構造X−Y及びY−X−Yにおいて、Yは、X、又はXの末端の基に結合する。YがXの末端の基に結合する場合、Xの末端の基は、例えばYとの結合数と同数の水素原子等が取り除かれてYと結合する。
この構造において、親水基Y、A、Bを具体的に説明した基から選択して前述の拡張係数、水溶解度、界面張力を満たすことができる。こうして、目的の液膜開裂効果を発現する。
【0048】
上記の液膜開裂剤は、構造Xがシロキサン構造である化合物が好ましい。さらに、液膜開裂剤において、上記の構造X、X−Y、Y−X−Yの具体例として、下記(1)〜(11)式で表される構造を、任意に組み合せたシロキサン鎖からなる化合物が好ましい。さらに、この化合物が前述した範囲の質量平均分子量を有することが液膜開裂作用の観点から好ましい。
【0049】
【化1】
【0050】
式(1)〜(11)において、M、L、R21、及びR22は次の1価又は多価(2価又はそれ以上)の基を示す。R23、及びR24は次の1価若しくは多価(2価又はそれ以上)の基、又は単結合を示す。
は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基を有する基や、エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基もしくはエチレングリコール基などの複数の水酸基を有する親水基(エリスリトール等の複数の水酸基を有する上記化合物から水素原子を1つ取り除いてなる親水基)、水酸基、カルボン酸基、メルカプト基、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えばメトキシ基が好ましい。)、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、スルホン酸基、4級アンモニウム基、スルホベタイン基、ヒドロキシスルホベタイン基、ホスホベタイン基、イミダゾリウムベタイン基、カルボベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、(メタ)アクリル基、又はそれらを組み合わせた官能基を示す。なお、Mが多価の基である場合、Mは、上記各基又は官能基から、さらに1つ以上の水素原子を除いた基を示す。
は、エーテル基、アミノ基(Lとして採りうるアミノ基は、>NR(Rは水素原子または一価の基)で表される。)、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基の結合基を示す。
21、R22、R23、及びR24は、各々独立に、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えばフェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、もしくはアラルキル基、又はそれらを組み合わせた炭化水素基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)を示す。なお、R22及びR23が多価の基である場合、上記炭化水素基から、さらに1つ以上の水素原子又はフッ素原子を除いた多価炭化水素基を示す。
また、R22又はR23がMと結合する場合、R22又はR23として採りうる基は、上記各基、上記炭化水素基又はハロゲン原子の他に、R32として採りうるイミノ基が挙げられる。
液膜開裂剤は、なかでも、Xとして、(1)、(2)、(5)及び(10)式のいずれかで表される構造を有し、Xの末端、又はXの末端とYとからなる基として、これらの式以外の上記式のいずれかで表される構造を有する化合物が好ましい。さらに、X、又はXの末端とYとからなる基が、上記(2)、(4)、(5)、(6)、(8)及び(9)式のいずれかで表される構造を少なくとも1つ有するシロキサン鎖からなる化合物が、好ましい。
【0051】
上記化合物の具体例として、シリコーン系の界面活性剤の有機変性シリコーン(ポリシロキサン)が挙げられる。例えば、反応性の有機基で変性された有機変性シリコーンとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、ジオール変性、カルビノール変性、(メタ)アクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性のものが挙げられる。また、非反応性の有機基で変性された有機変性シリコーンとしては、ポリエーテル変性(ポリオキシアルキレン変性を含む)、メチルスチリル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸変性、フッ素変性のものなどが挙げられる。これらの有機変性の種類に応じて、例えば、シリコーン鎖の分子量、変性率、変性基の付加モル数など適宜変更することで、上記の液膜開裂作用を奏する拡張係数を得ることができる。ここで、「長鎖」とは、炭素数が12以上であるものをいい、好ましくは12〜20であるものをいう。また、「高級」とは、炭素数が6以上であるものをいい、好ましくは6〜20であるものをいう。
その中でも、ポリオキシアルキレン変性シリコーンやエポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、ジオール変性シリコーンなど、変性シリコーンである液膜開裂剤が少なくとも一つの酸素原子を変性基中に有する構造を有する変性シリコーンが好ましく、特にポリオキシアルキレン変性シリコーンが好ましい。ポリオキシアルキレン変性シリコーンは、ポリシロキサン鎖を有することで、繊維の内部に浸透し難く表面に残りやすい。また、親水的なポリオキシアルキレン鎖を付加したことにより、水との親和性が高まり、界面張力が低いため、前述した液膜表面上での移動が起きやすく好ましい。そのため、前述した液膜表面上での移動が起きやすく好ましい。また、ポリオキシアルキレン変性シリコーンは、エンボス等の熱溶融加工が施されても、その部分において繊維の表面に残りやすく液膜開裂作用は低減し難い。特に液が溜まりやすいエンボス部分において液膜開裂作用が十分に発現するので好ましい。
【0052】
ポリオキシアルキレン変性シリコーンとしては、下記式[I]〜[IV]で表されるものが挙げられる。さらに、このポリオキシアルキレン変性シリコーンが前述した範囲の質量平均分子量を有することが液膜開裂作用の観点から好ましい。
【0053】
【化2】
【0054】
【化3】
【0055】
【化4】
【0056】
【化5】
【0057】
式中、R31は、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2エチル−ヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)を示す。R32は、単結合又はアルキレン基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい。)を示し、好ましくは前記アルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示し、ポリオキシアルキレン基が好ましい。上記のポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はこれらの構成モノマーが共重合されたものなどが挙げられる。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式(I)〜(IV)において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0058】
また、ポリオキシアルキレン変性シリコーンは、ポリオキシエチレン変性及びポリオキシプロピレン変性のいずれか又は双方の変性基を有するものであってもよい。また、水に溶けない、かつ低い界面張力を有するにはシリコーン鎖のアルキル基R31にメチル基を有することが望ましい。この変性基、シリコーン鎖をもつものとしては、特に制限するものではないが、例えば特開2002−161474の段落[0006]及び[0012]に記載のものがある。より具体的には、ポリオキシエチレン(POE)ポリオキシプロピレン(POP)変性シリコーンや、ポリオキシエチレン(POE)変性シリコーン、ポリオキシプロピレン(POP)変性シリコーンなどが挙げられる。POE変性シリコーンとしては、POEを3モル付加したPOE(3)変性ジメチルシリコーンなどが挙げられる。POP変性シリコーンとしては、POPを10モル、12モル、又は24モル付加したPOP(10)変性ジメチルシリコーン、POP(12)変性ジメチルシリコーン、POP(24)変性ジメチルシリコーンなどが挙げられる。
【0059】
前述の第1実施形態の拡張係数と水溶解度は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンにおいて例えば、ポリオキシアルキレン基の付加モル数(ポリオキシアルキレン変性シリコーン1モルに対する、ポリオキシアルキレン基を形成するオキシアルキレン基の結合数)、下記変性率等により、所定の範囲にすることができる。この液膜開裂剤において、表面張力及び界面張力も同様にして、それぞれ、所定の範囲にすることができる。
上記観点から、該ポリオキシアルキレン基の付加モル数が1以上であるものが好ましい。1未満では、上記の液膜開裂作用にとって界面張力が高くなることにより、拡張係数が小さくなることから液膜開裂効果が弱くなってしまう。この観点から、付加モル数は3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。一方、付加モル数は多すぎると親水的になって水溶解度が高くなってしまう。この観点から、付加モル数は、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
変性シリコーンの変性率は、低すぎると親水性が損なわれるため、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましい。また、高すぎると水に溶けてしまうため、95%以下が好ましく、70%以下がより好ましく40%以下が更に好ましい。なお、前記変性シリコーンの変性率とは、変性シリコーン1分子中のシロキサン結合部の繰り返し単位の総個数に対する、変性したシロキサン結合部の繰り返し単位の個数の割合である。例えば、上記式[I]及び[IV]では(n/m+n)×100%であり、式[II]では、(2/m)×100%であり、式[III]では(1/m)×100%である。
また、前述の拡張係数及び水溶解度は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンにおいて、それぞれ、上記したもの以外にも、変性基を水可溶性のポリオキシエチレン基と水不溶性のポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基を併用すること、水不溶性のシリコーン鎖の分子量を変化させること、変性基としてポリオキシアルキレン変性に加えてアミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、カルビノール基などを導入すること等により、所定の範囲に設定できる。
【0060】
この液膜開裂剤として用いられるポリアルキレン変性シリコーンは、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.02質量%以上5質量%以下含有されることが好ましい。該ポリアルキレン変性シリコーンの含有割合(OPU)は、1質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が更に好ましい。こうすることで、長繊維不織布の触感が好ましいものになる。また、該ポリアルキレン変性シリコーンによる液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.04質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。
【0061】
第2実施形態における液膜開裂剤としては、後述するように、下記の構造Z、Z−Y、及びY−Z−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物が好ましい。
構造Zは、>C(A)−<C:炭素原子>、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造の炭化水素鎖を表す。構造Zの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(Rからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
上記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2エチル−ヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えば、フェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子などの各種置換基を示す。A、Bは各々独立に、水酸基やカルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基などの酸素原子や窒素原子を含む置換基を示す。構造Z内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。また、連続するC(炭素原子)間の結合は、通常、単結合であるが、二重結合や三重結合を含んでいてもよく、C間の結合には、エーテル基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基などの連結基を含んでも良い。一つのCが、他のCと結合している数は、1つ〜4つで、長鎖の炭化水素鎖が分岐していたり、放射状の構造を有している場合があってもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。例えば、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基; 又は、ポリオキシアルキレン基(オキシアルキレン基の炭素数は1〜4が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基が好ましい。); 又は、 エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基、エチレングリコール基、などの複数の水酸基を有する親水基; 又は、 スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホベタイン基、4級アンモニウム基、イミダゾリウムベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、メタクリル基などの親水基単独; 又は、 その組み合わせからなる親水基などである。なお、Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
構造Z−Y及びY−Z−Yにおいて、Yは、Z、又はZの末端の基に結合する。YがZの末端の基に結合する場合、Zの末端の基は、例えばYとの結合数と同数の水素原子等が取り除かれてYと結合する。
この構造において、親水基Y、A、Bを具体的に説明した基から選択して前述の拡張係数、水溶解度、界面張力を満たすことができる。こうして、目的の液膜開裂効果を発現する。
【0062】
上記の液膜開裂剤は、上記の構造Z、Z−Y、Y−Z−Yの具体例として、下記(12)〜(25)式で表される構造を、任意に組み合せた化合物が好ましい。さらに、この化合物が前述した範囲の質量平均分子量を有することが液膜開裂作用の観点から好ましい。
【0063】
【化6】
【0064】
式(12)〜(25)において、M、L、R41、R42、及びR43は次の1価又は多価の基(2価又はそれ以上)を示す。
は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基を有する基や、エリスリトール基、キシリトール基、ソルビトール基、グリセリン基もしくはエチレングリコール基などの複数の水酸基を有する親水基、水酸基、カルボン酸基、メルカプト基、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えばメトキシ基が好ましい。)、アミノ基、アミド基、イミノ基、フェノール基、スルホン酸基、4級アンモニウム基、スルホベタイン基、ヒドロキシスルホベタイン基、ホスホベタイン基、イミダゾリウムベタイン基、カルボベタイン基、エポキシ基、カルビノール基、(メタ)アクリル基、又はそれらを組み合わせた官能基を示す。
は、エーテル基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基、又は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、もしくはそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基、などの結合基を示す。
41、R42、及びR43は各々独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。)、アリール基(炭素数6〜20が好ましい。例えばフェニル基が好ましい。)、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子が好ましい。)からなる各種置換基を示す。
42が多価の基である場合、R42は、上記各置換基から、さらに1つ以上の水素原子を除いた基を示す。
なお、それぞれの構造に記載されている結合手の先には、任意に他の構造が連結しても、水素原子が導入されてもよい。
【0065】
さらに上記化合物の具体例として、次のような化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
第1に、ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤が挙げられる。具体的には、式(V)のいずれかで表されるポリオキシアルキレンアルキル(POA)エーテルや、式(VI)で表される質量平均分子量1000以上のポリオキシアルキレングリコール、ステアレス、ベヘネス、PPGミリスチルエーテル、PPGステアリルエーテル、PPGベヘニルエーテルなどが挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、POPを3モル以上24モル以下、好ましくは5モル付加したラウリルエーテルなどが好ましい。ポリエーテル化合物としては、ポリプロピレングリコールを17モル以上180モル以下、好ましくは約50モル付加した質量平均分子量1000〜10000、好ましくは3000のポリプロピレングリコールなどが好ましい。なお、上記の質量平均分子量の測定は、前述した測定方法で行うことができる。
【0066】
このポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤は、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.1質量%以上5質量%以下含有されることが好ましい。該ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤の含有割合(OPU)は、1質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が更に好ましい。こうすることで、長繊維不織布の触感が好ましいものになる。また、該ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤による液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.15質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。
【0067】
【化7】
【0068】
【化8】
【0069】
式中、L21は、エーテル基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基、などの結合基を示す。R51は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子からなる各種置換基を示す。また、a、b、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cはアルキル基(n=2m+1)を表し、Cはアルキレン基(a=2b)を表す。なお、これら炭素原子数および水素原子数は、各式(V)及び(VI)において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。以下、式(VII)〜(XV)のm、m’、m’’、n、n’及びn’’においても同様である。なお、−(CO)−の「m」は、1以上の整数である。この繰り返し単位の値は、各式(V)及び(VI)において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0070】
前述の第2実施形態の拡張係数、表面張力及び水溶解度は、ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤において、例えば、ポリオキシアルキレン基のモル数等により、それぞれ、所定の範囲に設定することができる。この観点から、ポリオキシアルキレン基のモル数が1以上70以下であるものが好ましい。1以上とすることで、上記の液膜開裂作用が十分に発揮される。この観点から、モル数は5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。一方、付加モル数は、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。こうすることで、分子鎖のからみが適度に弱くなり、液膜内での拡散性に優れ、好ましい。
また、前述の拡張係数、表面張力、界面張力及び水溶解度は、それぞれ、ポリエーテル化合物やノニオン界面活性剤において、水溶性のポリオキシエチレン基と水不溶性のポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基を併用すること、炭化水素鎖の鎖長を変化させること、炭化水素鎖に分岐鎖を有するものを用いること、炭化水素鎖に二重結合を有するものを用いること、炭化水素鎖にベンゼン環やナフタレン環を有するものを用いること、または上記を適宜組み合わせること等により、所定の範囲に設定できる。
【0071】
第2に、炭素原子数5以上の炭化水素化合物が挙げられる。炭素原子数は、液体の方がより液膜表面に拡張しやすくなる観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。この炭化水素化合物は、ポリオルガノシロキサンを除くもので、直鎖に限らず、分岐鎖であってもよく、その鎖は飽和、不飽和に特に限定されない。また、その中間及び末端には、エステルやエーテルなどの置換基を有していてもよい。その中でも、常温で液体のものが好ましく単独で用いられる。この炭化水素化合物は、繊維質量に対する含有割合として(Oil Per Unit)、0.1質量%以上5質量%以下含有されることが好ましい。該炭化水素化合物の含有割合(OPU)は、1質量%以下が好ましく、0.99質量%以下がより好ましく、0.4質量%以下が更に好ましい。こうすることで、長繊維不織布の触感が好ましいものになる。また、該炭化水素化合物による液膜開裂効果を十分に発揮する観点から、前記含有割合(OPU)は、0.15質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。
【0072】
炭化水素化合物としては、油又は脂肪、例えば天然油もしくは天然脂肪が挙げられる。具体例としては、ヤシ油、ツバキ油、ヒマシ油、ココナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ひまわり油、トール油、及びこれらの混合物などが挙げられる。
また、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、及びこれらの混合物などの式(VII)で表すような脂肪酸が挙げられる。
【0073】
【化9】
【0074】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0075】
直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和、置換又は非置換の多価アルコール脂肪酸エステル又は多価アルコール脂肪酸エステルの混合物の例として、式(VIII−I)又は(VIII−II)で表すような、グリセリン脂肪酸エステルやペンタエリスリトール脂肪酸エステルが挙げられ、具体的にはグリセリルトリカプリレート、グリセリルトリパルミテート及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、グリセリン脂肪酸エステルや、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの混合物には、典型的には多少のモノ、ジ、およびトリエステルが含まれる。グリセリン脂肪酸エステルの好適な例としては、グリセリルトリカプリレート、グリセリルトリカプリエートの混合物などが挙げられる。また、界面張力を低下させ、より高い拡張係数を得る観点から、水不溶性を維持できる程度にポリオキシアルキレン基を導入した多価アルコール脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0076】
【化10】
【0077】
【化11】
【0078】
式中、m、m’、m’’、n、n’及びn’’は各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、C、C’H’及びC’’H’’は、それぞれ、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0079】
直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の脂肪酸が、多数の水酸基を有するポリオールとエステルを形成し、一部の水酸基がエステル化されずに残存している脂肪酸又は脂肪酸混合物の例として、式(IX)のいずれか、式(X)のいずれか、又は式(XI)のいずれかで表すような、グリセリン脂肪酸エステルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの部分エステル化物が挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノミリステート、エチレングリコールジミリステート、エチレングリコールパルミテート、エチレングリコールジパルミテート、グリセリルジミリステート、グリセリルジパルミテート、グリセリルモノオレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、及びこれらの混合物などが挙げられる。なお、グリセリン脂肪酸エステルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどの部分エステル化物からなる混合物には、典型的には多少の完全エステル化された化合物が含まれる。
【0080】
【化12】
【0081】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0082】
【化13】
【0083】
式中、R52は、炭素原子数2以上22以下の、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)を示す。具体的には、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基、オレイル基、リノール基などが挙げられる。
【0084】
【化14】
【0085】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【0086】
また、ステロール、フィトステロール及びステロール誘導体が挙げられる。具体例としては、式(XII)のステロール構造を有する、コレステロール、シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0087】
【化15】
【0088】
アルコールの具体例としては、式(XIII)で表すような、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0089】
【化16】
【0090】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、上記各アルコールの炭化水素基を示す。
【0091】
脂肪酸エステルの具体例としては、式(XIV)で表すような、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、セチルエチルヘキサノエート、トリエチルヘキサノイン、オクチルドデシルミリステート、エチルヘキシルパルミテート、エチルヘキシルステアレート、ブチルステアレート、ミリスチルミリステート、ステアリルステアレート、コレステリルイソステアレート及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0092】
【化17】
【0093】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、2つのCは、同一でも異なっていてもよい。C−COO−のCは上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。−COOCのCはエステルを形成するアルコール由来の炭化水素基を示す。
【0094】
また、ワックスの具体例としては、式(XV)で表すような、セレシン、パラフィン、ワセリン、鉱油、流動イソパラフィンなどが挙げられる。
【0095】
【化18】
【0096】
式中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。
【0097】
前述の第2実施形態の拡張係数、表面張力、水溶解度及び界面張力は、それぞれ、上記の炭素原子数5以上の炭化水素化合物において、例えば、親水的なポリオキシエチレン基を水不溶性が維持できる程度に少量導入すること、疎水的だが界面張力を低下させることができるポリオキシプロピレン基やポリオキシブチレン基を導入すること、炭化水素鎖の鎖長を変化させること、炭化水素鎖に分岐鎖を有するものを用いること、炭化水素鎖に二重結合を有するものを用いること、炭化水素鎖にベンゼン環やナフタレン環を有するものを用いること等により、所定の範囲に設定できる。
【0098】
本発明の長繊維不織布において、上述した液膜開裂剤の他に、必要により他の成分を含有させてもよい。また、第1実施形態の液膜開裂剤、第2実施形態の液膜開裂剤は、別々に用いる形態以外にも、両者の剤を組み合わせて用いてもよい。この点は、第2実施形態の液膜開裂剤における第1の化合物と第2の化合物についても同じである。
【0099】
なお、本発明の長繊維不織布において、含有される液膜開裂剤やリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を同定する場合は、上記の液膜(表面張力が50mN/mの液体)の表面張力(γ)等の測定方法で述べた同定の方法を用いることができる。
また、液膜開裂剤の成分が、主鎖がシロキサン鎖を有する化合物又は炭素原子数1以上20以下の炭化水素化合物である場合、その繊維質量に対する含有割合(OPU)は、上記の分析手法により得た成分質量を基に、その液膜開裂剤の含有量を繊維の質量で割ることにより求めることができる。
【0100】
次に、本発明の長繊維不織布における親水度についてより詳細に説明する。
【0101】
親水度は、構成繊維の親水度であり、構成繊維に対する脱イオン水の接触角を指標として判断することができる。接触角は、繊維状の水滴と繊維表面との角度であり、親水度の低下は接触角の増大と同義である。この接触角は、下記の測定方法によって得ることができる。
【0102】
本発明の長繊維不織布において、受液面側(肌当接面側)となる第1面側から第2面側(非肌当接面側)への厚み方向の親水度勾配を有するときに、前記第1面側の繊維の接触角(V1)は、肌に付着する液量を低減する観点から、80°以上が好ましく、85°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましい。また、前記接触角(V1)は、表面での液流れを防止する観点から、100°以下が好ましく、97°以下がより好ましく、95°以下が更に好ましい。
一方、前記第2面側(非肌当接面側)の繊維の接触角(V2)は、液の引き抜き性を高める観点から、90°以下が好ましく、85°以下がより好ましく、80°以下が更に好ましい。また、前記接触角(V2)は、表面シートとして吸収体に載置した状態で吸収体への液引渡し性を高める観点から、30°以上が好ましく、40°以上がより好ましく、50°以上が更に好ましい。
さらに、前記第1面側の繊維の接触角(V1)と前記第2面側(非肌当接面側)の繊維の接触角(V2)との差(V1−V2)は、厚み方向への液の透過性を高める観点から、3°以上が好ましく、5°がより好ましく、10°が更に好ましい。また、前記接触角の差(V1−V2)は、厚み方向への液の透過性と液の戻り難さを両立させる観点から、5°以上が好ましく、7°がより好ましく、10°が更に好ましい。
【0103】
(接触角の測定方法)
上記の接触角の測定は、次の方法により行うことができる。
すなわち、長繊維不織布の所定の部位から繊維を取り出し、その繊維に対する水の接触角を測定する。測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA−Jを用いる。接触角の測定には脱イオン水を用いる。温度25℃、相対湿度(RH)65%の測定条件で行う。インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー株式会社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC−25)から吐出される液量を20ピコリットルに設定して、水滴を、繊維の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に画像が録画される。録画された映像において、長繊維不織布から取り出した繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と繊維のなす角を算出し、接触角とする。長繊維不織布から取り出した繊維は、繊維長1mmに裁断し、該繊維を接触角計のサンプル台に載せて、水平に維持する。該繊維1本につき異なる2箇所の接触角を測定する。N=5本の接触角を小数点以下1桁まで計測し、合計10箇所の測定値を平均した値(小数点以下第2桁で四捨五入)を接触角と定義する。
【0104】
上記のような接触角を付与する親水化剤としては、この種の物品に用いられるものを特に制限なく採用することができる。具体的には、例えば、アニオン性、カチオン性、両イオン性及びノニオン性の界面活性剤が挙げられ、カルボン酸塩系のアニオン界面活性剤、スルホン酸塩系のアニオン界面活性剤、硫酸エステル塩系のアニオン界面活性剤、リン酸エステル型のアニオン界面活性剤(特にアルキルリン酸エステル塩)等のアニオン界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコールモノオレエート、グリセリルモノステアレート、グリセリルモノオレート、プロピレングリコールモノステアレート等の多価アルコールモノ脂肪酸エステル、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド、N−(3−オレイロキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジエタノールアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット蜜ロウ、ポリオキシエチレンソルビタンセスキステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンセスキステアレート、ポリオキシエチレングリセリルモノオレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等の、非イオン系界面活性剤;第4級アンモニウム塩、アミン塩又はアミン等のカチオン界面活性剤;カルボキシ、スルホネート、サルフェートを含有する第2級若しくは第3級アミンの脂肪族誘導体、又は複素環式第2級若しくは第3級アミンの脂肪族誘導体等の、両性イオン界面活性剤などを使用することができる。これら好ましい界面活性剤及び好ましい界面活性剤の組み合わせは、これらの界面活性剤が含まれていればよく、さらに他の界面活性剤等が含まれていてもよい。なお、ここでいうリン酸エステル型のアニオン界面活性剤は、前述した液膜開裂剤とともに含有してもよいとして挙げたリン酸エステル型のアニオン界面活性剤と実質的には同じ剤である。すなわち、リン酸エステル型のアニオン界面活性剤は、親水性を付与する機能と、血液や尿に含まれるリン脂質との親和性を高めて液膜開裂剤の作用を促進する機能との両方を有する。
【0105】
次に、本発明の長繊維不織布の製造方法について説明する。
【0106】
まず、基本的な長繊維不織布の製造方法は、この種の物品に用いられる方法を特に制限なく採用することができる。例えば、スパンボンド不織布は、(1)原料樹脂を溶融紡出し、長繊維をコンベア上に集積する工程、(2)得られた長繊維のウエブに熱エンボス(エンボス凸ローラとフラットロールなどによる)を施して熱融着部を形成する工程を経て製造される。なお、熱融着部は、熱エンボスの外、超音波融着させたり、間欠的に熱風を加えて部分融着させたりする方法等の種々の方法により形成することができる。
この製造工程において、前述の液膜開裂剤又は該液膜開裂剤及びリン酸エステル型のアニオン界面活性剤や、上記の親水化剤を含有させる方法としては、(A)不織布化した後の原料長繊維不織布に塗工する方法、(B)不織布化する前の繊維表面に塗工する方法、(C)繊維の原料となる樹脂に添加する方法などが挙げられる。その際、前述の液膜開裂剤又は該液膜開裂剤及びリン酸エステル型のアニオン界面活性剤と上記の親水化剤とをすべて混合して希釈させた繊維処理剤として塗工してもよく、それぞれを別々の繊維処理剤として別々に塗工してもよい。繊維処理剤の塗工方法としては、例えば、スプレーによる塗布、スロットコーターによる塗布、グラビア方式、フレキソ方式、ディッピング方式による塗布等が挙げられる。
【0107】
液膜開裂剤、又は液膜開裂剤及びリン酸エステル型のアニオン界面活性剤の繊維への含有は、いずれの工程において行ってもよい。例えば、前記(B)や(C)の工程で、繊維の紡糸時に通常用いられる繊維用紡糸油剤に液膜開裂剤や、液膜開裂剤及びリン酸型アニオン界面活性剤の混合物を配合して塗工してもよく、前記(A)の不織布化後に塗工してもよく、繊維の延伸前後の繊維用仕上げ油剤に液膜開裂剤や、液膜開裂剤及びリン酸型アニオン界面活性剤の混合物を配合して塗布してもよい。また、不織布の製造に通常用いられる繊維処理剤に液膜開裂剤やリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を配合して繊維に塗工してもよく、不織布化後に塗工してもよい。
【0108】
一方、親水化剤に関しては、長繊維不織布に親水度勾配を付与するためには、異なる少なくとも2種類の親水化剤を塗り分ける必要がある。前記(A)の方法で含有させる場合、原料長繊維不織布は、他の短繊維を原料とする不織布よりも厚みが薄い傾向にあるため親水化剤が滲み出しやすく、塗り分けが難しい。また、前記(B)や(C)の方法で含有させる場合、長繊維の溶融紡出から熱融着による不織布化までを同一の製造ラインで連続的に行うため、不織布化前に繊維毎に異なる親水化剤を塗り分けたり、異なる親水化剤を含有する繊維同士を不織布化前に積層したりすることも難しい。そのため、異なる親水化剤を含有させた複数の原料長繊維不織布同士を積層して、複数層からなる本発明の長繊維不織布とする方法がとり得る。すなわち、図1(C)の複数層の長繊維不織布とする方法が挙げられる。また、単層であっても、用いる親水化剤によっては熱風処理による熱量に合わせて親水度を厚み方向に変化させる方法も取り得る。
【0109】
あるいは、単層であっても、図1(B)の長繊維不織布20においては、起立性繊維4の形成のための延伸加工によって、起立性繊維4が繊維集合層3の繊維よりも親水度が低くなる。これにより、第1面5側の起立性繊維4の親水度は第2面6側の繊維集合層3の繊維の親水度よりも低く、厚み方向にみて、起立性繊維4のある層から繊維集合層3へ高まる2段階の親水度勾配がある。これは、親水化剤を塗工した原料長繊維不織布に下記の起毛加工を施す際に、起立性繊維4となる長繊維が、繊維集合層3の繊維よりも延伸されて破断することによる。これは、繊維の延伸に伴い親水化剤も追従し、これに伴って繊維の延伸した部分で親水化剤の濃度が薄れることによると考えられる。また、逆に親水化剤が延伸する繊維への追従性が低い場合、繊維の延伸により親水化剤の一部が破断し、繊維上に油剤が存在する部分と存在しない部分が生じて、親水度の勾配が生じるのではないかと考えられる(不均一表面での濡れは各親水化剤成分の面積分立に依存することから)。
【0110】
(起毛加工)
図4(A)〜(D)は、親水化剤を塗工した原料長繊維不織布200から自由端部42を有する起立性繊維4等を形成して図1(B)の長繊維不織布20を製造する方法を示している。具体的には、図4(C)に示す起毛加工のみからなる製造方法であってもよく、図4(A)及び(B)に示す部分延伸加工(プレ加工)と図4(C)に示す起毛加工とをこの順に行う二段階起毛加工からなる製造方法であってもよい。肌触り良く柔らかい長繊維不織布を得るためには、二段階起毛加工が好ましい。
二段階起毛加工では、図4(A)及び(B)に示す部分延伸加工を行う。具体的には、親水化剤を塗工した原料長繊維不織布200を、凹凸ロール74、75の互いの凹凸の噛み合わせにより原料長繊維不織布200を挟圧する。これにより原料長繊維不織布200の複数個所に部分延伸加工を施してダメージを与える。次いで、図4(C)に示す破断加工において、部分延伸加工された原料長繊維不織布200を搬送ロール76、76で、起毛ロール77に対して角度を付けながら搬送する。起毛ロール77では起毛のための突起部79を有する。この起毛ロール77の回転により、部分延伸加工された原料長繊維不織布200の一方の面の表面の長繊維が一部破断され起毛されて起立性繊維4となる。起立性繊維4は、前記の起毛処理において、起毛していないベース部分である繊維集合層3を構成する繊維よりも延伸される。このように延伸されることにより、起立性繊維4の親水度が、繊維集合層3を構成する繊維の親水度よりも低くなる。
なお、起毛ロール77は、部分延伸加工された原料長繊維不織布200の搬送方向に対して逆方向、順方向のいずれに回転させてもよいが、起立性繊維4を効率よく形成する観点から、逆方向に回転させることが好ましい。
【0111】
長繊維不織布20において、起毛している繊維の本数は、クッション性の向上の観点、肌に接した際に肌触りが良くなる観点から、8本/cm以上であることが好ましく、12本/cm以上であることがより好ましく、15本/cm以上であることが更に好ましい。ここでの起毛している繊維とは、自由端部42を有する起立性繊維4及びループ状の繊維を含んでいる。また、十分な破断強度を確保する観点から、100本/cm以下が好ましく、外観上、毛羽立って見えなくなるのを防止する観点から、40本/cm以下より好ましく、30本/cm以下が更に好ましい。なお、前記起毛している繊維は、以下の測定法により測定する。本願において「起毛している繊維を備えた長繊維不織布」とは、下記の測定法において、起毛している繊維が5本/cm以上である長繊維不織布を言う。
【0112】
(起毛している繊維の本数の測定法)
図5(A)〜(C)は、22℃65%RH環境下にて、長繊維不織布20を構成する繊維の中で起毛している繊維の本数を測定する方法を示した模式図である。先ず、測定する長繊維不織布20から、鋭利なかみそりで、20cm×20cmの測定片を切り出し、図5(A)に示すように、測定片の起毛した面において山折りして測定サンプル104を形成する。次に、この測定サンプル104を、A4サイズの黒い台紙の上に載せ、図5(B)に示すように、さらにその上に、縦1cm×横1cmの穴107をあけたA4サイズの黒い台紙を載せる。このとき、図5(B)に示すように、測定サンプル104の折り目105が、上側の黒い台紙の穴107から見えるように配置する。両台紙には、富士共和製紙株式会社の「ケンラン(黒)連量265g」を用いる。その後、上側の台紙の穴107の両側それぞれから、折り目105に沿って外方に5cmはなれた位置に、50gの錘をそれぞれ載せ、測定サンプル104が完全に折りたたまれた状態を作る。次に、図5(C)に示すように、マイクロスコープ(株式会社KEYENCE製VHX−900)を用いて、30倍の倍率で、台紙の穴107内を観察し、測定サンプル104の折り目105から0.2mm上方に平行移動した位置に形成される仮想線108よりも上方に存在している1cmあたりの繊維の本数を計測する。9箇所計測し、平均値(小数第二位を四捨五入)を起毛している繊維の本数とする。
【0113】
また、起毛している繊維の数を数える際には、例えば、図5(C)に示す繊維106aのように、折り目105から0.2mm上方にある仮想線108を2回横切る繊維がある場合、その繊維は2本と数える。具体的には、図5(C)に示す例では、仮想線108を1回横切る繊維が4本、仮想線108を2回横切る繊維106aが1本存在するが、2回横切る繊維106aは2本と数え、起毛している繊維の本数は6本となる。
【0114】
長繊維不織布20は、肌に接した際の肌触り向上の観点から、起毛している繊維(仮想線108を横切る繊維。ここでは前述のとおり自由端部42を有する起立性繊維4及びループ状の繊維の両方を含む。)の平均繊維径が、同じ面の起毛していない部位の表面繊維(仮想線108を横切らず、仮想線108に至っていない繊維、即ち、繊維集合体3を構成する起毛していない繊維)の平均繊維径より小さいことが好ましい。平均繊維径は、起毛している繊維、及び起毛していない繊維それぞれ12箇所の繊維径を顕微鏡(光学顕微鏡、または走査型電子顕微鏡等)で計測した繊維径のことをいう。起毛している繊維の平均繊維径は、起毛していない繊維の平均繊維径の98%以下40%以上が好ましく、96%以下70%以上であることが、肌触りに優れるのでより好ましい。同様に、自由端部42を有する起立性繊維4の平均繊維径及びループ状の繊維の平均繊維径は、いずれも繊維集合体3を構成する繊維(起毛していない繊維)の平均繊維径よりも小さいことが好ましく、起毛していない繊維の繊維径の98%以下40%以上が好ましく、96%以下70%以上であることが、肌触りに優れるのでより好ましい。
【0115】
さらに、起立性繊維4は、自由端部42の部分で太くなっていることが好ましい。太くなっているものの形状として、自由端部42における断面が扁平状(楕円や潰れた形状)であるものが好ましい。これにより、柔らかな先端の起立性繊維4が得られ、肌への刺激が少ない長繊維不織布20が得られる。
【0116】
また、長繊維不織布20は、上述したように、起毛している繊維(自由端部42を有する起立性繊維4及びループ状の繊維を含んでいる繊維)の本数が8本/cm以上であり且つ起毛している繊維の起毛高さが1.5mm以下であることが好ましい。これにより、クッション性が向上し、肌触りの向上した吸収性物品が得られる。毛玉になりにくい、ケバ抜けし難い観点から、起毛している繊維の起毛高さが、1mm以下であることが更に好ましい。一方、0.2mm以上であれば良好な肌触りのものが得られる。さらに、体液の吸収特性における液戻り量が減る点で、起毛高さは0.5mm以上であることが好ましい。肌に触れる面側に起毛面を用いる場合には、肌にまとわりつきににくく感触が好ましいといった点で、起毛高さは1mm以下が更に好ましい。また、起毛している繊維が15本/cm以上であることが、クッション性の向上、および体液の吸収速度の速いものが得られるといった点でよい。また、毛羽立ち様の外観となったり、使用時に擦れることにより、毛玉になったり、毛羽抜けしたりすることを防ぐため、起毛している繊維の高さが5mm以下であることが好ましい。
ここで、起毛高さとは、繊維の長さと異なり、繊維を測定時に引っ張ることなく、自然状態での繊維の高さのことを意味する。起毛している繊維の長さの値が大きい場合や繊維の剛性が高いと、起毛している繊維の起毛高さが高くなる傾向にある。起毛している繊維の起毛高さは、以下の測定法により測定する。
【0117】
(起毛している繊維の起毛高さの測定法)
起毛している繊維の起毛高さは、起毛している繊維(自由端部42を有する起立性繊維4及びループ状の繊維を含んでいる繊維)の本数を測定する際に、同時に測定する。具体的には、図5(C)に示すように、台紙の穴107内を観察し、折り目105から平行に線を0.05mmごとに起毛している繊維が交わらなくなるところまで引く。次に、上述のように測定した起毛している繊維の本数(0.2mm上方にある仮想線108より判断)に比べて、平行な線に交わる繊維が半分になる平行線を選び、そこから折り目までの距離を起毛高さとする。以上の操作を測定する不織布に対して3枚分計測し、1枚につき3箇所、3枚で計9箇所の平均をとり、起毛している繊維の起毛高さとする。
【0118】
起毛している繊維の起毛高さ、及び起毛している繊維の本数に加えて、長繊維不織布20のバルクソフトネスが8cN以下であることが、肌に接した際に柔軟なものが得られ肌触りに優れる点で好ましい。さらに0.5cN以上3cN以下であることが、乳児や幼児のうぶ着のようなしなやかなものになる点で好ましい。バルクソフトネスは、以下の測定法により測定する。
【0119】
(バルクソフトネスの測定方法)
長繊維不織布20のバルクソフトネスは、長繊維不織布20をMD方向に150mm、CD方向に30mm切り出し、直径45mmのリング状に、ホッチキスを用いて端部を上下2箇所で止める。このときステープラーの芯はMD方向に長くなるようにする。引張試験機(例えば、株式会社オリエンテック製テンシロン引張り試験機「RTA−100」)を用いて、試料台の上に前記リングを筒状に立て、上方から台とほぼ平行な平板にて圧縮速度10mm/分の速度で圧縮していった際の最大荷重を測定し、CD方向のバルクスフトネスとする。次に、MD方向とCD方向を変えてリングを作製し、同様にMD方向のバルクソフトネスを測定する。MD方向及びCD方向それぞれ2本ずつリングを作製して測定し、これらのCD方向とMD方向の平均値を、長繊維不織布20のバルクスフトネスとする。
なお、MD方向とは、不織布の製造段階における機械搬出方向(MD:Machine Direction)を意味し、製造された不織布における長手方向を意味する。不織布が原反としてロール状にされている場合、又はロール状にされた状態から巻き出されている場合は、該不織布が巻き出される方向を意味する。一方、CD方向とは、不織布の製造段階における機械搬出方向に直交する幅方向(CD:Cross Direction)を意味し、製造された不織布における前記長手方向に直交する幅方向を意味する。前記原反の状態においては、ロール軸方向を意味する。さらに、不織布を所定の大きさに裁断して吸収性物品の表面シートとする場合は、MD方向は、前記吸収性物品の長手方向に一致する方向であり、前記CD方向は、吸収性物品の幅方向に一致する方向である。
【0120】
本発明の長繊維不織布は、繊維の太さや繊維間距離に関係なく、液透過性の高いものとなる。しかし、本発明の長繊維不織布は、特に細い繊維を用いた場合に効果的である。通常よりも肌触りの柔らかい長繊維不織布とするために細い繊維を用いると、繊維間距離が小さくなり、繊維間の狭い領域が多くなる。これに対し、本発明の長繊維不織布で繊度を従来よりも下げても、前記液膜開裂剤が、多発する液膜を確実に開裂して液残りを低減する。後述するように、液膜面積率は、長繊維不織布表面からの画像解析により算出する液膜面積率であり、表面材の最表面における液残りの状態と強い相関がある。そのため、液膜面積率が減少すると、肌近傍にある液が取り除かれ、排泄後の快適性が高まり、排泄後も着け心地の良い吸収性物品となる。
一方、後述する液残り量は、長繊維不織布全体に保持されている液量を意味する。液膜面積率が小さくなれば、液膜が開裂されて不安定化された液が増え、該液は、親水度の勾配で親水度の低い繊維層から親水度の高い繊維層へと一方向に引き抜かれ、液残りは低減する。また、表面の白さは、表面の液膜が破れることで、液残り量が低下し、高まる傾向にあり、視覚的に白さが際立ちやすくなる。本発明に係る液膜開裂剤を含む長繊維不織布は、繊維を細くしても液膜面積率及び液残り量を低下させ、表面を白くできるので、ドライ感と繊維を細くすることによる柔らかな肌触りとを高レベルで両立することができる。また、本発明に係る長繊維不織布を吸収性物品の表面材等の構成部材として用いることにより、肌に触れる部分でのドライ感が高く、視覚的な白さにより体液による汚れが目立ち難いため、安心感とつけ心地のよい快適さを実現する吸収性物品を提供できる。
このような液膜開裂剤を含有し、親水度勾配を有する長繊維不織布において、肌触りの柔らかさを高める観点から、長繊維不織布の繊維間距離は、300μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましい。また、その下限は、繊維間が狭くなりすぎることにより通液性が損なわれるのを抑える観点から、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。具体的には、30μm以上300μm以下が好ましく、50μm以上250μm以下がより好ましい。
この場合の上記の繊維の繊度は、3.3dtex以下が好ましく、2.4dtex以下がより好ましい。また、その下限は、0.5dtex以上が好ましく、0.7dtex以上がより好ましい。具体的には、0.5dtex以上3.3dtex以下が好ましく、0.7dtex以上2.4dtex以下がより好ましい。
【0121】
(繊維間距離の測定方法)
繊維間距離は、次のようにして測定対象の長繊維不織布の厚みを測定し、下記数式(2)に当てはめて求める。
まず、測定対象の長繊維不織布を長手方向50mm×幅方向50mmに切断し、該長繊維不織布の切断片を作製する。測定対象の不織布が生理用品や使い捨ておむつなどの吸収性物品に組み込まれている場合など、この大きさの切断片を得られない場合には、得られる最大限の大きさに切断して切断片を作製する。
この切断片の厚みを、49Pa加圧で測定する。測定環境は温度20±2℃、相対湿度65±5%、測定機器にはマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX−1000)を用いる。まず、前記長繊維不織布断面の拡大写真を得る。拡大写真には、既知の寸法のものを同時に写しこむ。前記長繊維不織布断面の拡大写真にスケールを合わせ、長繊維不織布の厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の平均値を乾燥状態の長繊維不織布の厚み[mm]とする。なお積層品の場合は、繊維径からその境界を判別し、厚みを算出する。
次いで、測定対象の長繊維不織布を構成する繊維の繊維間距離は、以下に示す、Wrotnowskiの仮定に基づく式により求められる。Wrotnowskiの仮定に基づく式は、一般に、不織布を構成する繊維の繊維間距離を求める際に用いられる。Wrotnowskiの仮定に基づく式によれば、繊維間距離A(μm)は、長繊維不織布の厚みh(mm)、坪量(目付)e(g/m)、長繊維不織布を構成する繊維の繊維径d(μm)、繊維密度ρ(g/cm)によって、以下の数式(2)で求められる。なお、凹凸を有する場合には、代表値として凸部の長繊維不織布厚みh(mm)を用いて算出する。
繊維径d(μm)は、走査型電子顕微鏡(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて、カットした繊維の繊維断面を10本測定し、その平均値を繊維径とする。
繊維密度ρ(g/cm)は、密度勾配管を使用して、JIS L1015化学繊維ステープル試験方法に記載の密度勾配管法の測定方法に準じて測定する。
坪量e(g/m)は、測定対象の長繊維不織布を所定(0.12m×0.06mなど)の大きさにカットし、質量測定後に、「質量÷所定の大きさから求められる面積=坪量(g/m)」の式で算出して坪量を求める。
【0122】
【数1】
【0123】
(構成繊維の繊度の測定方法)
電子顕微鏡等により繊維の断面形状を計測し、繊維の断面積(複数の樹脂より形成されている繊維では各々の樹脂成分の断面積)を計測するとともに、DSC(示差熱分析装置)により、樹脂の種類(複数樹脂の場合は、おおよその成分比も)を特定して、比重を割り出し、繊度を算出する。例えば、PETのみから構成される短繊維であれば、まず断面を観察し、その断面積を算出する。その後、DSCで測定することで、融点やピーク形状から単成分の樹脂から構成されており、それがPET芯であることを同定する。その後、PET樹脂の密度と断面積を用いて、繊維の質量を算出することで、繊度を算出する。
【0124】
本発明の長繊維不織布を構成する繊維は、熱融着性繊維を主として含み、この種の物品に通常用いられるものを特に制限なく採用することができる。熱融着性繊維としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ビニル系樹脂、ビニリデン系樹脂などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としてはナイロン等が挙げられる。ビニル系樹脂としてはポリ塩化ビニル等が挙げられる。ビニリデン系樹脂としてはポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これら各種樹脂の1種を単独で又は2種以上を混合して用いることもでき、これら各種樹脂の変成物を用いることもできる。また、長繊維として複合繊維を用いることもできる。複合繊維としてサイドバイサイド繊維、芯鞘繊維、偏芯したクリンプを有する芯鞘繊維、分割繊維などを用いることができる。複合繊維を道いる場合には、芯がポリプロピレン、鞘がポリエチレンからなる芯鞘繊維を用いると柔らかな長繊維不織布が得られる点で好ましい。長繊維の繊維径は、後述する加工前において、5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることが更に好ましい。
【0125】
紡糸性の観点からポリオレフィン系樹脂であるポリプロピレン樹脂から形成されていることが好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、滑らかであり、肌に接した際に肌触りが向上する観点、破断のしやすさの観点から、ランダムコポリマー、ホモポリマー、ブロックコポリマーのいずれか1種以上を5質量%以上100質量%以下、より好ましくは25質量%以上80質量%以下含んだ樹脂であることが好ましい。また、これらのコポリマーやホモポリマーを混合してもよいし、他の樹脂を混合してもよいが、成形時に糸切れし難いことから、ポリプロピレンのホモポリマーとランダムコポリマーの混合が好ましい。これにより、繊維の結晶性を低下させて起毛している繊維自体が柔らかくなり、肌に接した際の肌触りが良くなるとともに、不織布破断強度との両立ができ、起毛している繊維がエンボスなどの融着部で切断されやすくなる。そのため、エンボス融着点などの熱融着部3での剥離がなくなり、起毛している繊維が短くなり、毛玉ができにくく、外観も良好なものが得られる。また、融点の分布が広くなるためシール性が良くなる。さらにはプロピレン成分をベースとしてランダムコポリマーとしてエチレンやα−オレフィンと共重合したものが好ましく、エチレンプロピレン共重合体樹脂が特に好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、同様な観点から、エチレンプロピレン共重合体樹脂を5質量%以上含んだ樹脂であることが好ましく、25質量%以上含んだ樹脂であることが更に好ましい。エチレンプロピレン共重合体樹脂中にはエチレン濃度が1質量%以上20質量%以下含まれたものが好ましく、特に、べた付きがなく、しかも、延伸時に伸びやすく、毛羽抜けが少なく、破断強度が維持される点で、エチレン濃度が3%以上8%以下であることがより好ましい。また、ポリプロピレン樹脂としては、環境の観点から、再生ポリプロピレン樹脂を50質量%以上含んだ樹脂であることが好ましく、70質量%以上含んだ樹脂であることが更に好ましい。尚、不織布が、スパンボンドの層とメルトブローンの層との複数層の長繊維不織布を元に形成されている場合も同様である。
【0126】
本発明の長繊維不織布の坪量(目付)は、10g/m以上80g/m以下、特に15g/m以上60g/m以下であることが好ましい。なお、本発明の長繊維不織布が複数層からなる場合は、構成する各層の合計坪量(目付)が上記の好ましい数値範囲にあることが好ましい。
【0127】
本発明の長繊維不織布は、親水度勾配を有し、液膜開裂剤、又はこれにさらにリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を含むことから、様々な繊維構造に対応して、液残り及び液戻り抑制に優れる。そのため長繊維不織布に多量の液がかかっても、繊維間における液の透過通路が常に確保され液透過性に優れる。これにより、繊維間距離と液膜形成の問題に制限されることなく、長繊維不織布に種々の機能を付加することができる。例えば、3層以上の複数層からなるものであってもよい。また、長繊維不織布の形状が平坦なものでもよく、一面側又は両面側が凹凸にされたものでもよく、繊維の坪量又は密度に種々の変化を付けたものであってもよい。さらに、吸収体との組み合わせについても選択肢の幅が広がる。また、複数層からなる場合の液膜開裂剤は、全ての層に含有されてもよく、一部に含有されてもよい。少なくとも、液を直接受け止める側の層に含有されることが好ましい。例えば、本発明の長繊維不織布を吸収性物品の表面シートとする場合、少なくとも肌当接面側の層に液膜開裂剤が含有されることが好ましい。
【0128】
本発明の長繊維不織布は、少なくとも一部の繊維交絡点付近又は繊維融着点付近に液膜開裂剤が局在化していることが好ましい。ここでいう液膜開裂剤の「局在」とは、長繊維不織布を構成する繊維の表面全体に均等に液膜開裂剤が付着した状態ではなく、各繊維の表面よりも繊維交絡点付近又は繊維融着点付近に偏って付着している状態をいう。具体的には、繊維表面(交絡点間あるいは融着点間の繊維表面)に比べて交絡点や融着点付近の液膜開裂剤濃度が高いと定義することができる。その際、繊維交絡点付近又は繊維融着点付近に存在する液膜開裂剤は、繊維交絡点又は繊維融着点を中心に繊維間の空間を部分的に被覆するように付着されていてもよい。交絡点や融着点付近の液膜開裂剤濃度は濃い程良い。該濃度は、用いる液膜開裂剤の種類や使用する繊維の種類、他の剤と混合する場合の有効成分割合等により変わってくるため一義的に定められないが、前述した液膜開裂作用を発揮する観点から適宜定めることができる。
液膜開裂剤の局在によって、液膜開裂作用がより発現しやすくなる。すなわち、繊維交絡点付近又は繊維融着点付近は特に液膜が生じやすい場所であるため、その場所に、より多くの液膜開裂剤があることで液膜に直接的に作用しやすくなる。
このようは液膜開裂剤の局在は、長繊維不織布全体の繊維交絡点付近又は繊維融着点付近の30%以上で生じていることが好ましく、40%以上で生じていることがより好ましく、50%以上で生じていることが更に好ましい。長繊維不織布のなかでも、繊維交絡点または繊維融着点同士の距離が比較的短いところは繊維間の空間が小さく特に液膜が生じやすい。そのため、繊維間の空間が小さいところの繊維交点付近又は繊維融着点付近に選択的に液膜開裂剤が局在していると特に液膜開裂作用が効果的に発現し好ましい。また、上記のような選択的な局在の場合、液膜開裂剤は、比較的小さな繊維間空間に対する被覆率を大きくし、比較的大きな繊維間空間に対する被覆率を小さくすることが好ましい。これにより、長繊維不織布における液透過性を保持しつつ、毛管力が大きく液膜が生じやすい部分での開裂作用を効果的に発現することができ、長繊維不織布全体における液残り低減効果が高くなる。ここで「比較的小さな繊維間空間」とは、前述した(繊維間距離の測定方法)で求めた繊維間距離に対して1/2以下の繊維間距離を有する繊維間空間のことをいう。
【0129】
(液膜開裂剤の局在状態の確認方法)
上記の液膜開裂剤の局在状態は、以下の方法により確認することができる。
まず、長繊維不織布を5mm×5mmにカットし、試料台にカーボンテープを用いて取り付ける。試料台を走査型電子顕微鏡(S4300SE/N、株式会社日立製作所製)に無蒸着の状態で入れ、低真空もしくは真空状態にする。アニュラー形反射電子検出器(付属品)を用いて検出を行うことにより、原子番号の大きいほど反射電子を放出しやすいことから、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)やポリエステル(PET)を主に構成する炭素原子や水素原子より原子番号の大きい酸素原子やケイ素原子を多く含む液膜開裂剤が塗工された部分が白く写るので、白さによって局在の状態を確認できる。なお、その白さは原子番号が大きい、または付着量が多いほど白さが増す。
【0130】
本発明の長繊維不織布の製造方法において、前述のように不織布化後に液膜開裂剤を塗工する場合、液膜開裂剤を含む溶液中に原料不織布を浸漬する方法が挙げられる。前記溶液は、例えば液膜開裂剤を溶媒で希釈した溶液などが挙げられる(以下、この溶液を液膜開裂剤溶液ともいう。)。希釈する溶媒としては、エタノールなどのアルコールが挙げられる。また別の方法としては、原料不織布に対して、液膜開裂剤単体、もしくは前記液膜開裂剤を含む溶液を塗布する方法が挙げられる。なお、前記液膜開裂剤を含む溶液にリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を混合していてもよい。その場合の液膜開裂剤とリン酸エステル型のアニオン界面活性剤との含有比率は前述のとおりであることが好ましい。前記溶媒としては、水溶解度の極めて小さい液膜開裂剤を、不織布に塗工しやすいように溶媒中に適度に溶解または分散させて乳化させることができるものを特に制限なく用いることができる。例えば、溶解させるものとしてエタノール、メタノール、アセトン、ヘキサンなどの有機溶媒、もしくは乳化液とする場合には当然ながら水も溶媒ないしは分散媒体として用いることができ、乳化させる時に使用する乳化剤としてアルキルリン酸エステル、脂肪酸アミド、アルキルベタイン、アルキルスルホコハク酸ナトリウムなどを含む各種界面活性剤が挙げられる。なお、原料不織布とは、液膜開裂剤を塗工する前のものをいい、その製造方法としては、前述のとおり通常用いられる製造方法を特に制限なく用いることができる。
上記の原料不織布に対して塗布する方法としては、この不織布の製造方法に用いられるものを特に制限なく採用することができる。例えば、スプレーによる塗布、スロットコーターによる塗布、グラビア方式、フレキソ方式、ディッピング方式による塗布等などが挙げられる。
前述した繊維交絡点付近又は繊維融着点付近への液膜開裂剤の局在化の観点からは、不織布化後の原料不織布に塗工することが好ましく、浸漬でなく、原料不織布に対して塗布する方法がより好ましい。塗布する方法の中でも、フレキソ方式による塗布方法が、液膜開裂剤の局在化をより明確にする観点から特に好ましい。
また、原料不織布としては、種々の不織布を特に制限なく用いることができる。特に、液膜開裂剤の局在化を保つ観点から繊維交絡点が熱融着又は熱圧着しているものが好ましく、前述したエアスルー処理や熱エンボスにより繊維同士を熱接着して得られた不織布を用いることがより好ましい。
【0131】
液膜開裂剤を繊維に付着させる際には、液膜開裂剤を含む繊維処理剤として用いることが好ましい。ここで説明する「繊維処理剤」とは、すなわち、水溶解度が極めて小さい油状の液膜開裂剤を、水と界面活性剤等で乳化するなどして、原料不織布ないし繊維に塗工処理しやすい状態にしたものをいう。液膜開裂剤を塗工するための繊維処理剤において、液膜開裂剤の含有割合は繊維処理剤の質量に対して50質量%以下であることが好ましい。これにより、繊維処理剤は、油状の成分となる液膜開裂剤を溶媒中に安定的に乳化させた状態とすることができる。安定的な乳化の観点から、液膜開裂剤の含有割合は、繊維処理剤の質量に対して40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。また、塗工後に液膜開裂剤が繊維上を適度な粘度で移動して前述した不織布における液膜開裂剤の局在化を実現する観点から、上記の含有割合とすることが好ましい。液膜開裂剤の含有割合は、十分な液膜開裂効果を発現させる観点から、繊維処理剤の質量に対して5質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。なお、液膜開裂剤を含有する繊維処理剤は、液膜開裂剤の作用を阻害しない範囲で、他の剤を含んでもよい。例えば、前述したリン酸エステル型のアニオン界面活性剤を含んでいてもよい。その場合の液膜開裂剤とリン酸エステル型のアニオン界面活性剤との含有比率は前述のとおりであることが好ましい。その他、繊維加工の際に用いられる静電気防止剤や耐摩擦剤、また長繊維不織布に適度な親水性を付与する親水化剤、乳化安定性を付与する乳化剤などを含んでいてもよい。
【0132】
本発明の長繊維不織布は、その柔らかな肌触りと液残りの低減とを活かして、種々の分野に適用できる。例えば生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ、失禁パッドなどの身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品における表面シート、セカンドシート(表面シートと吸収体との間に配されるシート)、裏面シート、防漏シート、あるいは対人用清拭シート、スキンケア用シート、更に対物用のワイパーなどとして好適に用いられる。本発明の長繊維不織布を吸収性物品の表面シートやセカンドシートとして用いる場合には、該長繊維不織布の第1面側を肌対向面側として用いることが好ましい。
【0133】
身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品は、典型的には、表面シート、裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を具備している。本発明に係る長繊維不織布を表面シートとして用いた場合の吸収体及び裏面シートとしては、当該技術分野において通常用いられている材料を特に制限無く用いることができる。例えば吸収体としては、パルプ繊維等の繊維材料からなる繊維集合体又はこれに吸収性ポリマーを保持させたものを、ティッシュペーパーや不織布等の被覆シートで被覆してなるものを用いることができる。裏面シートとしては、熱可塑性樹脂のフィルムや、該フィルムと不織布とのラミネート等の液不透過性ないし撥水性のシートを用いることができる。裏面シートは水蒸気透過性を有していてもよい。吸収性物品は更に、該吸収性物品の具体的な用途に応じた各種部材を具備していてもよい。そのような部材は当業者に公知である。例えば吸収性物品を使い捨ておむつや生理用ナプキンに適用する場合には、表面シート上の左右両側部に一対又は二対以上の立体ガードを配置することができる。
【0134】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の長繊維不織布を開示する。
【0135】
<1>
液膜開裂剤を含有する長繊維不織布。
<2>
前記液膜開裂剤は、水溶解度が0g以上0.025g以下である、前記<1>に記載の長繊維不織布。
<3>
前記液膜開裂剤は、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上である、前記<2>に記載の長繊維不織布。
<4>
水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が15mN/m以上である化合物(C1)を含有する長繊維不織布。
<5>
前記化合物(C1)又は前記液膜開裂剤は、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である、前記<1>〜<4>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0136】
<6>
前記化合物(C1)又は前記液膜開裂剤が、下記の構造X、X−Y、及びY−X−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物からなる、前記<1>〜<5>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
構造Xは、>C(A)−〈Cは炭素原子を示す。また、<、>及び−は結合手を示す。以下、同様。〉、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<及び、−Si(RO−、−Si(R)(R)O−のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造のシロキサン鎖、又はその混合鎖を表す。構造Xの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(R、また、−OSi(R、−OSi(R(R)、−Si(R、−Si(R(R)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
上記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はハロゲン原子を示す。A、Bは各々独立に、酸素原子又は窒素原子を含む置換基を示す。構造X内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0137】
<7>
前記化合物(C1)又は前記液膜開裂剤が、シリコーン系の界面活性剤の有機変性シリコーンからなり、該有機変性シリコーンとして、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、ジオール変性、カルビノール変性、(メタ)アクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、長鎖アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸変性及びフッ素変性の、シリコーンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記<1>〜<6>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0138】
<8>
前記化合物(C1)又は前記液膜開裂剤が、ポリオキシアルキレン変性シリコーンからなり、該ポリオキシアルキレン変性シリコーンが、下記式[I]〜[IV]で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記<1>〜<7>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
式中、R31は、アルキル基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2エチル−ヘキシル基、ノニル基、デシル基が好ましい。)を示す。R32は、単結合又はアルキレン基(炭素数1〜20が好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい。)を示し、好ましくは前記アルキレン基を示す。複数のR31、複数のR32は各々において、互いに同一でも異なってもよい。M11は、ポリオキシアルキレン基を有する基を示し、ポリオキシアルキレン基が好ましい。上記のポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はこれらの構成モノマーが共重合されたものなどが挙げられる。m、nは各々独立に1以上の整数である。なお、これら繰り返し単位の符号は、各式[I]〜[IV]において別々に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0139】
<9>
前記液膜開裂剤は、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である、前記<2>に記載の長繊維不織布。
【0140】
<10>
水溶解度が0g以上0.025g以下であり、表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数が0mN/mよりも大きく、表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力が20mN/m以下である化合物(C2)を含有する長繊維不織布。
<11>
前記化合物(C2)又は前記液膜開裂剤が、下記の構造Z、Z−Y、及びY−Z−Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する化合物からなる前記<1>、<2>、<9>及び<10>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
構造Zは、>C(A)−<C:炭素原子>、−C(A)−、−C(A)(B)−、>C(A)−C(R)<、>C(R)−、−C(R)(R)−、−C(R−、>C<のいずれかの基本構造が、繰り返されるか、もしくは2種以上が組み合わされた構造の炭化水素鎖を表す。構造Zの末端には、水素原子、又は、−C(A)、−C(A)B、−C(A)(B)2、−C(A)−C(R、−C(RA、−C(Rからなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する。
上記のRやRは各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子を示す。A、Bは各々独立に、酸素原子又は窒素原子を含む置換基を示す。構造Z内にR、R、A、Bが各々複数ある場合は、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
Yは、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子から選ばれる原子を含む、親水性を有する親水基を表す。Yが複数の場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0141】
<12>
前記化合物(C2)又は前記液膜開裂剤が、下記式[V]のいずれかで表されるポリオキシアルキレンアルキル(POA)エーテル、並びに、下記式[VI]で表される質量平均分子量1000以上のポリオキシアルキレングリコール、ステアレス、ベヘネス、PPGミリスチルエーテル、PPGステアリルエーテル及びPPGベヘニルエーテル、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる、前記<1>、<2>及び<9>〜<11>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【化23】
【化24】
式中、L21は、エーテル基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボニル基、カーボネート基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、又はそれらを組み合わせたポリオキシアルキレン基、などの結合基を示す。R51は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、フルオロアルキル基、アラルキル基、もしくはそれらを組み合わせた炭化水素基、又はフッ素原子からなる各種置換基を示す。また、a、b、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cはアルキル基(n=2m+1)を表し、Cはアルキレン基(a=2b)を表す。なお、これら炭素原子数および水素原子数は、各式[V]及び[VI]において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。なお、−(CO)−の「m」は、1以上の整数である。この繰り返し単位の値は、各式[V]及び[VI]において各々独立に決められるものであり、必ずしも同じ整数を示すものではなく異なっていてもよい。
【0142】
<13>
前記化合物(C2)又は前記液膜開裂剤が、下記式[VII]で表される脂肪酸、下記式[VIII−I]又は[VIII−II]で表されるグリセリン脂肪酸エステル及びペンタエリスリトール脂肪酸エステル、下記式[IX]のいずれか、下記式[X]のいずれか、又は下記式[XI]のいずれかで表される、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びペンタエリスリトール脂肪酸エステルの部分エステル化物、下記式[XII]のステロール構造を有する化合物、下記式[XIII]で表されるアルコール、下記式[XIV]で表される脂肪酸エステル、並びに下記式[XV]で表されるワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる、前記<1>、<2>及び<9>〜<12>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【化25】
式[VII]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【化26】
【化27】
式[VIII−I]及び[VIII−II]中、m、m’、m’’、n、n’及びn’’は各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、C、C’H’及びC’’H’’は、それぞれ、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【化28】
式[IX]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【化29】
式[X]中、R52は、炭素原子数2以上22以下の、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等)を示す。具体的には、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基、オレイル基、リノール基などが挙げられる。
【化30】
式[XI]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。複数のm、複数のnは各々において、互いに同一でも異なっていてもよい。ここで、Cは、上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。
【化31】
【化32】
式[XIII]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、Cは、上記各アルコールの炭化水素基を示す。
【化33】
式[XIV]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。ここで、2つのCは、同一でも異なっていてもよい。C−COO−のCは上記各脂肪酸の炭化水素基を示す。−COOCのCはエステルを形成するアルコール由来の炭化水素基を示す。
【化34】
式[XV]中、m及びnは各々独立に1以上の整数である。
【0143】
<14>
前記化合物(C1)、前記化合物(C2)又は前記液膜開裂剤の水溶解度は、0.0025g以下が好ましく、0.0017g以下がより好ましく、0.0001g未満が更に好ましく、0g以上であり、1.0×10−9g以上であることが好ましい、前記<1>〜<13>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<15>
前記長繊維不織布の少なくとも一部の繊維交絡点付近又は繊維融着点付近に前記化合物又は前記液膜開裂剤が局在化している前記<1>〜<14>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0144】
<16>
熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、
前記第1面側の繊維の親水度が前記第2面側の繊維の親水度よりも低い、前記<1>〜<15>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<17>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、長繊維を熱融着部により間欠的に固定した繊維集合層を具備する前記<1>〜<16>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<18>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、該長繊維不織布の長繊維は、繊維長が30mm以上であり、好ましくは繊維長が150mm以上である前記<1>〜<17>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0145】
<19>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の繊維の接触角(V1)は、80°以上が好ましく、85°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましく、100°以下が好ましく、97°以下がより好ましく、95°以下が更に好ましい前記<1>〜<18>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<20>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第2面側の繊維の接触角(V2)は、90°以下が好ましく、85°以下がより好ましく、80°以下が更に好ましく、30°以上が好ましく、40°以上がより好ましく、50°以上が更に好ましい前記<1>〜<19>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<21>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の繊維の接触角(V1)と前記第2面側(非肌当接面側)の繊維の接触角(V2)との差(V1−V2)は、3°以上が好ましく、5°以上がより好ましく、7°が更に好ましく、10°が特に好ましい前記<1>〜<20>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<22>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、親水化剤を含有する前記<1>〜<21>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<23>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、アニオン性、カチオン性、両イオン性及びノニオン性の界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する前記<1>〜<22>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0146】
<24>
前記長繊維不織布は、単層からなり、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の繊維の親水度が、前記第2面側の繊維の親水度よりも低くされ親水度の勾配を有する前記<1>〜<23>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<25>
前記長繊維不織布は、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記第1面側の繊維が、繊維集合層に固定された基底部と該繊維集合層とは非固定の自由端部とを有し起立する起立性繊維である、前記<1>〜<24>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
<26>
前記起立性繊維の親水度が、前記繊維集合層の繊維の親水度よりも低くした、少なくとも2段階の親水度勾配を有する前記<25>に記載の長繊維不織布。
<27>
前記起立性繊維は、接触角が75°以上であり、80°以上が好ましく、85°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましい前記<26>に記載の長繊維不織布。
【0147】
<28>
前記長繊維不織布は、複数層からなり、熱融着性繊維を含み、第1面と該第1面の反対側に位置する第2面を有し、前記複数層の層毎に親水度の差を持たせて段階的に親水度が高くされている前記<1>〜<23>のいずれか1に記載の長繊維不織布。
【0148】
<29>
前記<1>〜<28>のいずれか1に記載の長繊維不織布を用いた吸収性物品用の表面シート。
<30>
前記<14>〜<28>のいずれか1に記載の長繊維不織布を、前記第1面を肌当接面側に向けて配する表面シートとして用いた吸収性物品。
【実施例】
【0149】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」とは特に断らない限りいずれも質量基準である。
下記実施例における、液膜開裂剤の表面張力、水溶解度及び界面張力は、前述の測定方法により行った。
【0150】
(実施例1)
原料長繊維不織布として、ポリプロピレンホモポリマー樹脂からなる長繊維で構成されるスパンボンド不織布を2層積層したスパンボンド−スパンボンド不織布(SS不織布)を作製した。2つの層(第1不織布層及び第2不織布層)はいずれも、長繊維の繊維径16μm、目付10g/mとした。
上記の第1不織布層及び第2不織布層に対し、積層前に、下記の液膜開裂剤及び親水化剤を下記に示す塗工方法により塗工処理を行い、両層をエンボスロールによる熱圧着により接合固定して、実施例1の長繊維不織布試料とした。この長繊維不織布試料において、第1不織布層の両面を第1面側(a)及び第2面側(b)と定め、第2不織布層の両面を第1面側(a’)及び第2面側(b’)と定め、前記長繊維不織布試料全体として、2層を積層した両面を、第1面5側(第1不織層の第1面側)(a)及び第2面6側(第2不織層の第2面側)(b’)と定めて試験を行った(以下、実施例2〜4、比較例1及び2においても同様。)。
<液膜開裂剤>
ポリオキシエチレン(POE)変性ジメチルシリコーン(信越化学工業株式会社製 KF−6015)で、構造X−YにおけるXが−Si(CHO−からなるジメチルシリコーン鎖、Yが−(CO)−からなるPOE鎖からなり、POE鎖の末端基がメチル基(CH)であり、変性率が20%、ポリオキシエチレン付加モル数が3、質量平均分子量が4000の液膜開裂剤。
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数:28.8mN/m
表面張力は21.0mN/m
表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力:0.2mN/m
水溶解度:0.0001g未満
なお、これら4つの数値は、前述の測定方法により測定した。その際、「表面張力が50mN/mの液体」は、100gの脱イオン水にノニオン系界面活性物質であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(花王株式会社製、商品名レオオールスーパーTW−L120)をマイクロピペット(ACURA825、Socorex Isba SA社製)で3.75μL添加し、表面張力を50±1mN/mに調整した溶液を用いた(以下、同様)。また、水溶解度は、0.0001g毎に剤を添加して測定した。その結果、0.0001gも溶けないと観察されたものは「0.0001g未満」とし、0.0001gは溶けて、0.0002gは溶けなかったと観察されたものは「0.0001g」とした。それ以外の数値についても同様の方法により測定した。
<液膜開裂剤及び親水化剤の塗工方法>
前記ポリオキシエチレン(POE)変性ジメチルシリコーンを溶質としてエタノール溶液に溶解させた希釈液と親水化剤の混合溶液を作製し、該希釈液に各不織布を浸漬し、乾燥させた。
【0151】
得られた長繊維不織布試料において、第1不織布層及び第2不織布層のいずれも、液膜開裂剤の繊維質量に対する含有割合(OPU)は、0.1質量%であった。また、第1不織布層の第1面側(a)及び第2面側(b)の繊維の接触角、第2不織布層の第1面側(a’)及び第2面側(b’)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表1のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料全体としての第1面5側(a)の繊維の接触角と第2面6側(b’)の接触角との差は、10°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b’)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b’)への親水度勾配を有していた。
【0152】
(実施例2)
液膜開裂剤として下記の剤を用い、第1不織布層における接触角を下記表1のとおりとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の長繊維不織布試料を作製した。
<液膜開裂剤>
ポリオキシプロピレン(POP)変性ジメチルシリコーン(シリコーンオイルと炭化水度化合物をヒドロキシル化反応させることで取得)で、構造X−YにおけるXが−Si(CHO−から成るジメチルシリコーン鎖、Yが−(CO)−からなるPOP鎖からなり、POP鎖の末端基がメチル基(CH)であり、変性率が10%、ポリオキシプロピレン付加モル数が10、質量平均分子量が4340の液膜開裂剤。
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数:26.9mN/m
表面張力:21.5mN/m
表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力:1.6mN/m
水溶解度:0.0002g
【0153】
得られた長繊維不織布試料において、第1不織布層及び第2不織布層のいずれも、液膜開裂剤の繊維質量に対する含有割合(OPU)は、0.1質量%であった。また、第1不織布層の第1面側(a)及び第2面側(b)の繊維の接触角、第2不織布層の第1面側(a’)及び第2面側(b’)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表1のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料全体としての第1面5側(a)の繊維の接触角と第2面6側(b’)の接触角との差は、11°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b’)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b’)への親水度勾配を有していた。
【0154】
(実施例3)
液膜開裂剤として下記の剤を用い、第2不織布層における接触角を下記表1のとおりとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の長繊維不織布試料を作製した。
<液膜開裂剤>
トリカプリル酸・カプリン酸グリセリン(花王株式会社製 ココナードMT)で、構造Z−YにおけるZが*−O−CH(CHO−*)(*は結合部を示す。)であり、YがC15O−やC1019O−の炭化水素鎖からなるものであり、脂肪酸組成がカプリル酸を82%、カプリン酸を18%からなり、質量平均分子量が550の液膜開裂剤。
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数:8.8mN/m
表面張力:28.9mN/m
表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力:12.3mN/m
水溶解度:0.0001g未満
【0155】
得られた長繊維不織布試料において、第1不織布層及び第2不織布層のいずれも、液膜開裂剤の繊維質量に対する含有割合(OPU)は、0.5質量%であった。また、第1不織布層の第1面側(a)及び第2面側(b)の繊維の接触角、第2不織布層の第1面側(a’)及び第2面側(b’)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表1のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料全体としての第1面5側の繊維(a)の接触角と第2面6側(b’)の接触角との差は、9°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b’)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b’)への親水度勾配を有していた。
【0156】
(実施例4)
液膜開裂剤として下記の剤を用い、第1不織布層及び第2不織布層における接触角を下記表1のとおりとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の長繊維不織布試料を作製した。
<液膜開裂剤>
POPアルキルエーテル(花王株式会社製 消泡剤No.8)で、構造Z−YにおけるZが−CH−からなる炭化水素鎖、Yが−(CO)−からなるPOP鎖からなるものであり、ポリオキシプロピレン付加モル数が5、質量平均分子量が500の液膜開裂剤。
表面張力が50mN/mの液体に対する拡張係数:13.7mN/m
表面張力:30.4mN/m
表面張力が50mN/mの液体に対する界面張力:5.9mN/m
水溶解度:0.0001g未満
【0157】
得られた長繊維不織布試料において、第1不織布層及び第2不織布層のいずれも、液膜開裂剤の繊維質量に対する含有割合(OPU)は、5.0質量%であった。また、第1不織布層の第1面側(a)及び第2面側(b)の繊維の接触角、第2不織布層の第1面側(a’)及び第2面側(b’)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表1のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料全体としての第1面5側(a)の繊維の接触角と第2面6側(b’)の接触角との差は、9°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b’)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b’)への親水度勾配を有していた。
【0158】
(実施例5)
目付を20g/mとし、下記表2に示す接触角とした以外は実施例1と同様にして第1不織布層を作製し、これを原料長繊維不織布とした。
次いで、前記原料長繊維不織布に対して、図4に示した起毛加工処理を実施して第1不織布層の第1面側(a)に自由端部42を有する起立性繊維4を形成し、起立性繊維4と繊維集合層3とからなる、実施例5の長繊維不織布試料とした。この長繊維不織布試料全体における両面は、第1不織布層の両面に相当し、第1面5側(a)及び第2面6側(b)と定めて試験を行った(以下、実施例6〜8、比較例3においても同様。)。
この長繊維不織布試料の起毛している繊維の本数は、図5に示した測定方法により測定して18本/cmであった。すなわち、第1不織布層の第1面側(a)に前記起立性繊維4が形成されていた。
得られた長繊維不織布試料において、第1面5側(a)の繊維(自由端部42を有する起立性繊維4。実施例6〜8、比較例3において同様。)及び第2面6側(b)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表2のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料の第1面5側(a)の繊維の接触角と第2面6側(b)の接触角との差は、10°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b)への親水度勾配を有していた。
【0159】
(実施例6)
目付を20g/mとし、下記表2に示す接触角とした以外は実施例2と同様にして第1不織布層を作製し、これを原料長繊維不織布とした。
次いで、前記原料長繊維不織布に対して、実施例5と同様に起毛加工処理を実施して実施例6の長繊維不織布試料とした。この長繊維不織布試料の起立している繊維の本数は、図5示した測定方法により測定して17本/cmであった。
得られた長繊維不織布試料において、第1面5側(a)及び第2面6側(b)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表2のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料の第1面5側(a)の繊維の接触角と第2面6側(b)の接触角との差は、12°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b)への親水度勾配を有していた。
【0160】
(実施例7)
目付を20g/mとし、下記表2に示す接触角とした以外は実施例3と同様にして第1不織布層を作製し、これを原料長繊維不織布とした。
次いで、前記原料長繊維不織布に対して、実施例5と同様に起毛加工処理を実施して実施例7の長繊維不織布試料とした。この長繊維不織布試料の起立している繊維の本数は、図5示した測定方法により測定して18本/cmであった。
得られた長繊維不織布試料において、第1面5側(a)及び第2面6側(b)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表2のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料の第1面5側の繊維(a)の接触角と第2面6側(b)の接触角との差は、10°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b)側よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b)への親水度勾配を有していた。
【0161】
(実施例8)
目付を20g/mとし、下記表2に示す接触角とした以外は実施例4と同様にして第1不織布層を作製し、これを原料長繊維不織布とした。
次いで、前記原料長繊維不織布に対して、実施例5と同様に起毛加工処理を実施して実施例8の長繊維不織布試料とした。この長繊維不織布試料の起立している繊維の本数は、図5示した測定方法により測定して18本/cmであった。
得られた長繊維不織布試料において、第1面5側(a)及び第2面6側(b)の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表2のとおりであった。したがって、得られた長繊維不織布試料の第1面5側の繊維(a)の接触角と第2面6側(b)の接触角との差は、11°であり、第1面5側(a)側が第2面6側(b)側よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b)への親水度勾配を有していた。
【0162】
(比較例1)
液膜開裂剤、親水化剤を塗工しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1の長繊維不織布試料を作製した。
得られた長繊維不織布試料における各面の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表3のとおりであり、接触角に差はなく親水度の勾配は無かった。
【0163】
(比較例2)
液膜開裂剤を塗工せず、下記表3に示す接触角とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の長繊維不織布試料を作製した。
得られた長繊維不織布試料における各面の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表3のとおりであり、接触角に差はなく親水度の勾配は無かった。
【0164】
(比較例3)
液膜開裂剤を塗工せず、下記表3に示す接触角とした以外は、実施例5と同様にして、比較例3の長繊維不織布試料を作製した。
得られた長繊維不織布試料における各面の繊維の接触角は、前述した接触角の測定方法により測定して、下記表3のとおりであった。得られた長繊維不織布試料の第1面5側の繊維(a)の接触角と第2面6側(b)の接触角との差は、10°であり、第1面5側(a)が第2面6側(b)よりも親水度が低く、第1面5側(a)から第2面6側(b)への親水度勾配を有していた。
【0165】
(評価試験)
下記「1.液残り量試験」、「3.液戻り量試験」及び「4.液吸収時間試験」の評価試験は、吸収性物品の一例として使い捨ておむつ(花王株式会社製:メリーズ(登録商標) メリーズパンツ Lサイズ、2014年製)から表面シートを取り除き、その代わりに各長繊維不織布試料を表面シートとして積層し、その周囲を固定して得た評価用の使い捨ておむつを用いて行った。なお、試験ごとに実施例1〜8、比較例1〜3の評価用の使い捨ておむつを作製した。「2.液流れ長さ試験」については、後述するとおり、各試料を表面シートとして別途評価用試料を作製した。
【0166】
1.液残り量試験
各評価用の使い捨ておむつから胴回りギャザーとレッグギャザーを取り除き、展開状態で表面シートを上に向けて水平面上に固定した。無加圧の状態で、おむつの吸収体を覆っている被覆シートの長手方向腹側部側の端部の先端から125mmの位置の該表面シート上に人工尿を総量160g注入した。人工尿は、10分間隔で40gずつ、注入速度5g/秒で4回に分けて注入した。4回目の注入から10分後、人工尿注入点を中心とする一辺100mmの正方形上に表面シートを切り取り、表面シートの重量(W1)を測定した。次いで、切り取った前記表面シートを乾燥し、乾燥後の表面シートの重量(W2)を測定し、乾燥前後の重量差(W1−W2)を液残り量として算出した。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液残り量(mg)とした。液残り量は、装着者の肌がどの程度濡れるかの指標となるものであり、液残り量が少ないほど、良い結果である。なお、人工尿の組成は、尿素1.94重量%、塩化ナトリウム0.795重量%、硫酸マグネシウム0.11重量%、塩化カルシウム0.062重量%、硫酸カリウム0.197重量%、赤色2号(染料)0.010重量%、水96.88重量%及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(約0.07%)であり、表面張力を53±1dyne/cm(23℃)に調整したものを用いた。
【0167】
2.液流れ長さ試験
試験装置は、試験サンプルの載置面が水平面に対して45°傾斜している載置部を有するものを用いた。この載置部に、各試料を表面シートとし、該表面シートと、2つ折りにしたティッシュペーパーを2枚重ねあわせて吸収体とした試験サンプルを用意し、表面シートが上方を向くように前記各評価用の試験サンプルを載置した。試験液として、着色させた脱イオン水を1g/10secの速度で試験サンプルに滴下させた。初めに不織布が濡れた地点から試験液が吸収体に初めて吸収された地点までの距離を測定した。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液流れ長さ(mm)とした。液流れ長さは、液が試験サンプルに吸収されずに表面上を流れ、装着時にどの程度肌に触れやすく、漏れやすくなるかの指標となるものであり、液流れ長さが短いほど高評価となる。
【0168】
3.液戻り量試験
前記各評価用の使い捨ておむつから胴回りギャザーとレッグギャザーを取り除き、展開状態で表面シートを上にして水平面上に固定した。表面シートの上に円筒状の注入口の付いたアクリル板をのせ、さらにアクリル板上に、おむつの背側部側及び腹側部側にそれぞれ、2kgの錘をのせて荷重を加えた。アクリル板に設けられた注入口は内径36mmの円筒(高さ53mm)状をなしており、アクリル板には、長手方向の1/3の位置で且つ幅方向の中心の位置に、該円筒状の注入口の中心と軸線が一致する、該円筒状注入口の内部とアクリル板の表面シート対向面との間を連通する内径36mmの貫通孔が形成されている。アクリル板を、おむつの吸収体を覆っている被覆シートの長手方向腹側部側の端部の先端から125mmの位置にアクリルの円筒状注入口の中心軸がくるように配置し、人工尿を総量160g注入した。人工尿は、10分間隔で40gずつ、4回に分けて注入した。4回目の注入から10分後、アクリル板を取り外し、人工尿注入点を中心とする一辺100mmの表面シート上にろ紙(Toyo Roshi Kaisha, Ltd.製 5C)を16枚重ね、さらにその上に荷重を2分間加えて人工尿をろ紙に吸収させた。荷重は100mm×100mmの面積に3.5kgが加わるようにした。2分経過後荷重を取り除き、人工尿を吸収したろ紙の重量(W4)を測定し、予め測定しておいた、吸収前のろ紙の重量(W3)との差(W4−W3)を液戻り量として算出した。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液戻り量(g)とし、液戻り量が少ないほど、液戻りが起こり難く高評価となる。
【0169】
4.液吸収時間試験
上述した液戻り量試験の評価時に、160gの全量がおむつに吸収されるまでの時間を計測した。以上の操作を3回行い、3回の平均値を液吸収時間(秒)とし、液吸収時間が短いほど、液の通過性が早く高評価となる。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
上記表1〜3が示すとおり、実施例1〜8はいずれも、液膜開裂剤、親水度勾配及び起毛繊維がない比較例1及び2に比べて、全ての評価項目において優れていた。
また、実施例1〜8はいずれも、液膜開裂剤を有さない比較例3に比べて、液残り量が少なく良好な結果を示した。加えて、実施例1〜8は、液流れ量、液残り量及び液吸収時間において、親水度勾配及び起毛繊維を有する比較例3と同等又はそれ以上の良い結果を示していた。
【符号の説明】
【0174】
1 長繊維
2 熱融着部
3 繊維集合層
4 起立性繊維
41 基端部
42 自由端部
7 液膜
8 液膜開裂剤
10、20、30 長繊維不織布
31 第1繊維層
32 第2繊維層

図1
図2
図3
図4
図5