特許第6330102号(P6330102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6330102インバータ用負荷異常検出回路及びインバータ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6330102
(24)【登録日】2018年4月27日
(45)【発行日】2018年5月23日
(54)【発明の名称】インバータ用負荷異常検出回路及びインバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180514BHJP
【FI】
   H02M7/48 M
   H02M7/48 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-229431(P2017-229431)
(22)【出願日】2017年11月29日
【審査請求日】2017年11月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆彦
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−177757(JP,A)
【文献】 特開平11−235044(JP,A)
【文献】 特開平9−237685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータの運転中に前記負荷の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記スイッチング素子は、前記自己消弧素子と逆並列に接続された還流ダイオードを有するものであり、
前記インバータから前記負荷に与えられる出力電圧と出力電流との位相ずれを検出し、検出した位相ずれに基づき負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備え、
前記位相ずれ検出手段は、
前記出力電流に基づくパルス信号がクロック信号として入力されるクロックポートと、前記出力電圧に基づくパルス信号がデータ信号として入力されるデータポートと、前記クロック信号によって規定されるタイミングで前記データ信号が入力された場合にリセット状態からセット状態に移行し、状態に応じた信号を出力する出力ポートとを含むDフリップフロップと、
前記データポートに入力される前記出力電圧に基づくパルス信号のパルス幅を、前記出力電圧の半周期よりも短いパルス幅に設定するパルス幅変更手段と、
を有し、
前記出力電流の前記出力電圧に対する位相の進み及び位相の遅れを検出するインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項2】
請求項1記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記自己消弧素子のオン抵抗値は前記還流ダイオードの順方向の抵抗値よりも小さいものであるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインバータ用負荷異常検出回路であって、
前記Dフリップフロップは、前記セット状態からリセット状態へ移行させるリセット信号が入力されるリセットポートを含み、
前記負荷に与えられる出力電流の電流値と、予め設定された基準値とを比較し、前記電流値が前記基準値よりも大きくなるまで、前記Dフリップフロップの前記リセットポートに前記リセット信号を入力し続けるマスク手段をさらに備えるインバータ用負荷異常検出回路。
【請求項4】
スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータ装置であって、
前記スイッチング素子は、前記自己消弧素子と逆並列に接続された還流ダイオードを有し、
請求項1から3のいずれか一項記載のインバータ用負荷異常検出回路を備えるインバータ装置。
【請求項5】
請求項4記載のインバータ装置であって、
前記自己消弧素子のオン抵抗値は前記還流ダイオードの順方向の抵抗値よりも小さいインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータが電力を供給している負荷に異常が生じた際に、この負荷の異常による影響からインバータを保護するために設けられるインバータ用負荷異常検出回路、及びこのインバータ用負荷異常検出回路を備えるインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷に交流電力を与える電源装置として、インバータ装置が利用されている。インバータ装置で電力を供給すれば、負荷に与える電圧値および電流値を任意に設定できることから、負荷の特性や必要とする仕事量に応じて電力が供給され、負荷への電力供給に無駄がなくなり、電力供給が効率良く行える。
【0003】
インバータ装置の一例として、図7に示されるように、三相交流電力をダイオード11および平滑コンデンサ12で直流電力に変換する整流回路10と、この整流回路10の出力電圧を所定電圧に整える定電圧回路20と、この定電圧回路20からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路30と、このインバータ回路30から出力される交流電力の周波数を負荷2の共振周波数となるように制御する位相同期ループ回路(以下、「PLL回路」と略す。)40とを備えたインバータ装置1が知られている。このインバータ装置1は、高周波と見なせる高い周波数の交流電力を発生するとともに、出力インピーダンスが小さい電圧型のものとなっている。
【0004】
定電圧回路20は、負荷や入力電圧が変動しても所定の直流電圧を安定して出力側に供給するチョッパ方式のものである。この定電圧回路20には、チョッパ本体となるスイッチング素子である電力制御用のMOSFET21と、電圧・電流平滑用のリアクトル22およびコンデンサ23と、MOSFET21がオフのときの負荷電流通路となるフリーホイリングダイオード24とが設けられている。定電圧回路20は、MOSFET21のゲートに加える周期信号のオン時間の幅を変化させることで、出力電圧が調節可能となっている。
【0005】
インバータ回路30には、ブリッジ状に接続されたスイッチング素子である周波数制御用のMOSFET31が設けられている。各MOSFET31には、誘導負荷の場合の遅れ電流成分を直流回路に帰還させたり、ブリッジ内を環流させるダイオード32が並列に接続されている。また、インバータ回路30には、インダクタンスLおよびキャパシタンスCからなる負荷2が接続され、この負荷2への電流I1および電圧V1を検出するために、変流器33および変圧器34が設けられている。
【0006】
PLL回路40には、負荷2への電流I1および電圧V1の位相ずれを検出する位相比較回路41と、位相比較回路41が検出した電流I1および電圧V1の位相ずれを合せるように、予め設定された周波数設定値を加減するアナログ加減算器42と、このアナログ加減算器42が出力する電圧に応じた周波数の信号を出力する電圧制御発振器43と、電圧制御発振器43の出力する信号の周波数に応じて、インバータ回路30の各MOSFET31が有するゲートA〜Dへ信号を順次送出するゲート信号制御回路44とが設けられている。
【0007】
このようなインバータ装置1によれば、高周波と見なせる高い周波数の交流電力が発生可能となり、鋼材等の高周波焼き入れに利用可能となる。そのうえ、負荷2への電流I1および電圧V1の位相が合うように出力の周波数が制御されるので、出力電力の周波数がインダクタンスLおよびキャパシティCからなる負荷2の共振周波数と一致し、負荷2を効率よく運転させることが可能となる。
【0008】
インバータ装置1の運転中に、負荷2側の回路の一部が短絡し、又は開放される等の異常が発生すると、負荷2のインピーダンスが急激に変化し、共振周波数が大きく変動する。すると、インバータ装置1のPLL回路40は、負荷2の共振周波数に追従するように出力の周波数を制御するが、制御の過渡状態において瞬間的に大きな電流や電圧が発生し、MOSFET31が破壊される可能性がある。特に、負荷2のインピーダンスの変化により、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して進むと、比較的大きなサージ電圧が発生し、このサージ電圧でMOSFET31が破壊されやすいという問題がある。このため、電流I1の位相の進みに対する余裕を確保する観点から、典型的には、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して多少遅れた状態でインバータ装置1は運転される。また、電流I1の電圧V1に対する位相の進みを検出してMOSFET31の保護を強化する技術も知られている。
【0009】
特許文献1に記載されたインバータ用負荷異常検出回路は、上記インバータ装置1に付加され、インバータ装置1から負荷2へ出力される電流I1及び電圧V1の位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき負荷異常信号を送出するものである。この負荷異常検出回路には、PLL回路40と接続された変流器33及び変圧器34の各々から得られる電流I1及び電圧V1が入力される。そして、負荷異常検出回路は、入力された電流I1及び電圧V1をそれぞれ所定の方形波に整えて電流I1及び電圧V1の波形を比較する。
【0010】
負荷共振回路のインダクタンスが消滅する異常が発生し、負荷2の共振周波数がインバータ装置3の作動周波数からずれると、負荷2の共振回路は容量性負荷となり、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して進む。この場合に、負荷異常検出回路は、インバータ回路30のMOSFET31のゲート信号をすべてオフし、チョッパ方式の定電圧回路20に使用しているMOSFET21もオフし、入力側からの電流流入を防ぐ。これにより、負荷2への電力供給が停止されるとともに、MOSFET31が保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3652098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載されたインバータ用負荷異常検出回路によれば、電流I1の電圧V1に対する位相の進みは検出されるが、電流I1の電圧V1に対する位相の遅れは検出されない。電流I1の電圧V1に対する位相の遅れが生じた場合に、電流I1の遅れ電流成分は、MOSFET31と並列に接続されているダイオード32に流れる。なお、電流I1の電圧V1に対する位相の進みが生じた場合も同様であり、電流I1の進み電流成分はダイオード32に流れる。一方、電流I1及び電圧V1の位相が一致している場合には、電流I1はダイオード32には流れない。PLL回路40が行う電流I1及び電圧V1の位相の調整は、電流I1をMOSFET31に流すか又はダイオード32に流すかの調整と言うこともできる。
【0013】
電流I1と電圧V1との位相ずれは、ダイオード32に流れる電流I1の遅れ電流成分又は進み電流成分の増加を招き、ダイオード32による損失の増加が懸念される。ダイオード32は、例えばMOSFET31に組み込まれており、ダイオード32による損失の増加に伴ってMOSFET31が発熱し、MOSFET31が熱的要因で破壊される虞がある。
【0014】
本発明は、インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊を防止可能なインバータ用負荷異常検出回路及びインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様のインバータ用負荷異常検出回路は、スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータの運転中に前記負荷の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路であって、前記スイッチング素子は、前記自己消弧素子と逆並列に接続された還流ダイオードを有するものであり、前記インバータから前記負荷に与えられる出力電圧と出力電流との位相ずれを検出し、検出した位相ずれに基づき負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備え、前記位相ずれ検出手段は、前記出力電流に基づくパルス信号がクロック信号として入力されるクロックポートと、前記出力電圧に基づくパルス信号がデータ信号として入力されるデータポートと、前記クロック信号によって規定されるタイミングで前記データ信号が入力された場合にリセット状態からセット状態に移行し、状態に応じた信号を出力する出力ポートとを含むDフリップフロップと、前記データポートに入力される前記出力電圧に基づくパルス信号のパルス幅を、前記出力電圧の半周期よりも短いパルス幅に設定するパルス幅変更手段と、を有し、前記出力電流の前記出力電圧に対する位相の進み及び位相の遅れを検出する。
【0016】
また、本発明の一態様のインバータ装置は、スイッチング素子として自己消弧素子を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷の共振周波数となるように制御されるインバータ装置であって、前記スイッチング素子は、前記自己消弧素子と逆並列に接続された還流ダイオードを有し、前記インバータ用負荷異常検出回路を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態を説明するための、インバータ装置の一例の回路図である。
図2図1のインバータ用負荷異常検出回路の回路図である。
図3図2のインバータ用負荷異常検出回路の位相ずれ検出動作の一例のタイミングチャートである。
図4図2のインバータ用負荷異常検出回路の位相ずれ検出動作の一例のタイミングチャートである。
図5図2のインバータ用負荷異常検出回路の位相ずれ検出動作の一例のタイミングチャートである。
図6図2のインバータ用負荷異常検出回路の位相ずれ検出動作の一例のタイミングチャートである。
図7】従来例の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、既に説明した素子や回路と同じものには、同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、インバータ装置の一例の回路図である。
【0021】
図1に示すインバータ装置3は、前述したインバータ装置1に負荷異常検出回路50を付加したものである。インバータ回路30のMOSFET31は、そのオン抵抗値がダイオード32の順方向の抵抗値よりも小さいものであり、例えばSiC−MOSFETである。なお、ダイオード32は、MOSFET31に組み込まれていてもよいし、MOSFET31とは別に設けられていてもよい。
【0022】
図2は、負荷異常検出回路50の回路図である。
【0023】
負荷異常検出回路50は、インバータ装置3から負荷2へ出力される電流I1及び電圧V1の位相ずれを検出し、この位相ずれに基づき負荷異常信号をPLL回路40に送出する。負荷異常検出回路50には、変流器33から得られる電流I1及び変圧器34から得られる電圧V1が入力される。
【0024】
負荷異常検出回路50には、図2に示されるように、電圧V1に基づくパルス信号を生成する波形整形器51と、電流I1に基づくパルス信号を生成する波形整形器52と、波形整形器51から出力される電圧V1に基づくパルス信号のパルス幅を変更するパルス幅変更手段53と、Dフリップフロップ54と、Dフリップフロップ54の出力をホールドするラッチ55と、電流I1の大きさが基準値に達したか否かを検出する比較器56と、比較器56の出力信号を反転する反転器57とが設けられている。
【0025】
波形整形器51は、生成するパルス信号の振幅を調整するための抵抗器51A、電圧V1の波形に含まれる不要な高調波分をカットするためのコンデンサ51B等を含み、電圧V1に基づくパルス信号を生成する。なお、パルス信号とは、振幅が最大値(HIGH)及び最小値(LOW)のどちらかの値をとるように周期的に変化するものである。パルス波形は、好ましくは方形波であるが、三角波、のこぎり波等でもよい。
【0026】
波形整形器52は、波形整形器51と同様に、生成するパルス信号の振幅を調整するための抵抗器52A、電流I1の波形に含まれる不要な高調波分をカットするためのコンデンサ52B等を含み、電流I1に基づくパルス信号を生成する。
【0027】
パルス幅変更手段53は、波形整形器51から出力される電圧V1に基づくパルス信号(例えば方形波)のパルス幅を、電圧V1の半周期T/2よりも短いパルス幅PWに変更する。パルス幅変更手段53としては、例えば単安定マルチバイブレータを用いることができる。パルス幅変更手段53が単安定マルチバイブレータであるものとして、パルス幅変更手段53は、電源Vccに接続される抵抗器53A及びコンデンサ53Bを有し、入力ポートAに入力される信号をトリガーとして、抵抗器53Aの抵抗値及びコンデンサ53Bの静電容量によって定まるRC時定数に応じたパルス幅のパルス信号を出力ポートQ1から出力する。
【0028】
Dフリップフロップ54は、波形整形器52から出力される電流I1に基づくパルス信号がクロック信号として入力されるクロックポートCLと、パルス幅変更手段53から出力されるパルス信号、すなわち電圧V1に基づくパルス信号であって電圧V1の半周期T/2よりも短いパルス幅PWを有するパルス信号がデータ信号として入力されるデータポートDと、リセット信号が入力されるリセットポートRと、セット状態となると信号を出力する出力ポートQ2と、出力ポートQ2とは逆にリセット状態となると信号を出力する反転出力ポート#Q2を有する。パルス幅変更手段53とDフリップフロップ54とにより、電流I1の電圧V1に対する位相の進み及び位相の遅れを検出する位相ずれ検出手段58が形成されている。
【0029】
比較器56は、二つの入力ポートにそれぞれ入力される交流信号の大きさを比較する。比較器56の一方の入力ポートには、負荷2への電流I1の値を示す交流信号が入力されている。比較器56の他方の入力ポートには、予め設定された基準値として、所定の交流電圧V2を可変抵抗器59で分圧した交流信号が入力されている。
【0030】
電流I1が基準値よりも大きくなると、比較器56から定常運転信号が出力される。この定常運転信号は、反転器57で反転されてDフリップフロップ54のリセットポートRに入力される。比較器56と反転器57と可変抵抗器59とにより、電流I1の値が基準値よりも大きくなるまで、Dフリップフロップ54のリセットポートRにリセット信号を入力し続けるマスク手段60が形成されている。
【0031】
インバータ装置3の起動後、インバータ装置3の運転が定常状態に達するまで、具体的には、インバータ装置3の作動周波数が負荷2の共振周波数に一致し且つ負荷2への電流I1が基準値よりも大きくなるまで、マスク手段60がDフリップフロップ54のリセットポートRにリセット信号を入力し続け、負荷異常検出回路50による位相ずれ検出動作は休止される。これにより、負荷2への電流I1が不安定であり、電流I1及び電圧V1の位相が一致しないインバータ装置3の起動直後に、インバータ装置3が強制的に停止されるといった不都合が解消される。そして、インバータ装置3の運転が定常状態に達すると、負荷異常検出回路50による位相ずれ検出動作が開始される。
【0032】
図3から図6は、負荷異常検出回路50の位相ずれ検出動作の一例のタイミングチャートである。
【0033】
図3から図6に示す例では、波形整形器51は電圧V1に基づく方形波のパルス信号を生成し、波形整形器52は電流Iに基づく方形波のパルス信号を生成する。また、パルス幅変更手段53は、波形整形器51から出力される電圧V1に基づくパルス信号であって入力ポートAに入力されるパルス信号の立ち上がりのタイミングで立ち上がり、電圧V1の半周期λ/2よりも短いパルス幅PWを有するパルス信号を出力ポートQ1から出力する。また、Dフリップフロップ54は、立ち上がりエッジトリガータイプのDフリップフロップであり、クッロク信号の立ち上がりのタイミングでデータ信号が入力されている場合にセット状態となる。
【0034】
図3に示すとおり、電圧V1及び電流I1の位相が一致している場合に、Dフリップフロップ54のクロックポートCLに入力されるクロック信号(波形整形器52から出力される電流I1に基づくパルス信号)とデータポートD1に入力されるデータ信号(パルス幅変更手段53から出力される電圧V1に基づくパルス信号)との位相は一致しており、クロックポートCL1に入力されるクロック信号の立ち上がりのタイミングで、データポートD1にデータ信号が入力され、Dフリップフロップ54はセット状態となる。セット状態において、Dフリップフロップ54の出力ポートQ1はHIGHとなり、反転出力ポート#Q2はLOWとなる。
【0035】
一方、図4に示すとおり、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して進んだ場合に、Dフリップフロップ54のクロックポートCLに入力されるクロック信号の立ち上がりのタイミングで、データポートD1にデータ信号は入力されておらず、Dフリップフロップ54はリセット状態となる。リセット状態において、Dフリップフロップ54の出力ポートQ1はLOWとなり、反転出力ポート#Q2はHIGHとなる。
【0036】
また、図5に示すとおり、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して遅れ、その遅れΔTがパルス幅変更手段53から出力される電圧V1に基づくパルス信号のパルス幅PW以上である場合に、Dフリップフロップ54のクロックポートCLに入力されるクロック信号の立ち上がりのタイミングで、データポートDにデータ信号は入力されておらず、Dフリップフロップ53はリセット状態となる。リセット状態において、Dフリップフロップ54の出力ポートQ1はLOWとなり、反転出力ポート#Q2はHIGHとなる。
【0037】
例えば、Dフリップフロップ54の出力ポートQ2から出力される信号を用い、出力信号がHIGHである場合を正常、LOWである場合を負荷異常として、電流I1の電圧V1に対する位相の進み及びパルス幅PW以上の位相の遅れを検出することができる。また、Dフリップフロップ54の反転出力ポート#Q2から出力される信号を用い、出力信号がLOWである場合を正常、HIGHである場合を負荷異常として、電流I1の電圧V1に対する位相の進み及びパルス幅PW以上の位相の遅れを検出することもできる。Dフリップフロップ54の出力信号は、ラッチ55を介してインバータ装置3のPLL回路40に入力され、PLL回路40は、負荷異常を示す出力信号(負荷異常信号)が入力された場合に、MOSFET31を適宜オフ状態にして、負荷2への電力供給を停止し、MOSFET31を破壊から保護する。
【0038】
なお、本例では、マスク手段60によってDフリップフロップ54のリセットポートRにリセット信号を入力し続け、これによりインバータ装置3の運転が定常状態に達するまで負荷異常検出回路50による位相ずれ検出動作を休止させていることから、出力信号がLOWである場合を正常、HIGHである場合を負荷異常とし、反転出力ポート#Q2の出力信号が用いられる(図2参照)。
【0039】
ここで、図6に示すように、電流I1の位相が電圧V1の位相に対して遅れた場合にも、その遅れΔTがパルス幅変更手段53から出力される電圧V1に基づくパルス信号のパルス幅PW未満であれば、Dフリップフロップ54のクロックポートCLに入力されるクロック信号の立ち上がりのタイミングで、データポートDにデータ信号が入力されており、Dフリップフロップ54は、図3に示した電圧V1及び電流I1の位相が一致している場合と同様にセット状態となる。換言すれば、パルス幅PW未満の位相の遅れは許容される。パルス幅PWは、パルス幅変更手段53のRC時定数によって変更可能であり、許容する位相の遅れに応じて適宜設定される。
【0040】
上述の実施形態によれば、次のような効果がある。
【0041】
まず、負荷2への電流I1及び電圧V1の位相ずれから負荷2の異常を検出する負荷異常検出回路50を設けたので、事故等によって負荷2のインピーダンスが変化すると、その共振周波数の変動で発生する電流I1と電圧V1との位相ずれから負荷2の異常を迅速に検出可能となり、PLL回路40が負荷2の共振周波数に追従する動作を完了する前に、負荷2の異常を確実に検出することができる。
【0042】
そして、電流I1と電圧V1との位相ずれとして、電流I1の電圧V1に対する位相の進みだけでなく、電流I1の電圧V1に対する位相の遅れも検出するので、電流I1の進み電流成分又は遅れ電流成分がダイオード32に流れることによる損失の増加を抑制できる。そして、ダイオード32がMOSFET31に組み込まれている場合には、ダイオード32による損失の増加に伴うMOSFET31の発熱を要因としたMOSFET31の破壊を未然に防止できる。これは、MOSFET31がSiC−MOSFETであって、そのオン抵抗値がダイオード32の順方向の抵抗値よりも小さい場合に特に有用である。
【0043】
また、電流I1の電圧V1に対する位相の進み及び位相の遅れを検出する位相ずれ検出手段をパルス幅変更手段53とDフリップフロップ54とによって構成し、電流I1に基づくパルス信号をDフリップフロップ54のクロックポートCLに入力し、電圧V1に基づくパルス信号をDフリップフロップ54のデータポートDに入力して、Dフリップフロップ54の状態によって電流I1の電圧V1に対する位相の進み及び位相の遅れを検出するので、電流I1の電圧V1に対する位相の進み及び位相の遅れを簡単な回路構成で検出可能となり、負荷異常検出回路50を著しく簡単なものとできる。
【0044】
また、負荷2に与えられる電流I1の電流値と、予め設定された基準値とを比較し、電流I1の値が基準値よりも大きくなるまで、Dフリップフロップ54へリセット信号を出力し続けるマスク手段60を負荷異常検出回路50に設けたので、負荷2への電流I1が不安定であって電流I1及び電圧V1の位相が一致しないインバータ装置3の起動時に、負荷異常検出回路50の位相ずれ検出動作が一時的に休止され、起動直後にインバータ装置3が強制的に停止されるといった不都合を解消できる。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は、この実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更が可能である。
【0046】
例えば、整流回路の整流方式としては、整流素子としてダイオードを採用したパッシブなものに限らず、SCR等の能動的な整流素子を採用するとともに、能動的な整流素子を位相制御するアクティブなものでもよい。
【0047】
また、定電圧回路のチョッパ方式としては、MOSFETを採用したものに限らず、他のバイポーラトランジスタ等のスイッチング素子を採用したものでもよく、さらに、ダイオード整流回路とパルス幅変調式のインバータ回路とを組み合わせる場合等には、チョッパ方式の定電圧回路を省略してもよい。
【0048】
また、インバータ回路としては、MOSFETを採用したものに限らず、他のバイポーラトランジスタ等のスイッチング素子を採用したものでもよく、要するに、本発明におけるインバータ装置の本体側の電気素子、電子素子および回路構成は、実施にあたり適宜選択できる。
【符号の説明】
【0049】
2 負荷
3 インバータ装置
10 整流回路
11 ダイオード
12 平滑コンデンサ
20 定電圧回路
21 MOSFET
22 リアクトル
23 コンデンサ
24 フリーホイリングダイオード
30 インバータ回路
31 MOSFET
31 自己消弧素子
32 ダイオード
33 変流器
34 変圧器
40 位相同期ループ回路
41 位相比較回路
42 アナログ加減算器
43 電圧制御発振器
44 ゲート信号制御回路
50 インバータ用負荷異常検出回路
51 波形整形器
52 波形整形器
53 パルス幅変更手段
54 Dフリップフロップ
55 ラッチ
56 比較器
57 反転器
58 位相ずれ検出手段
59 可変抵抗器
60 マスク手段
【要約】
【課題】インバータの重要な構成要素であるスイッチング素子の破壊を防止可能なインバータ用負荷異常検出回路及びインバータ装置を提供する。
【解決手段】スイッチング素子として自己消弧素子31を有するとともに位相同期ループで出力周波数が負荷2の共振周波数となるように制御されるインバータ装置3の運転中に負荷2の異常を検出するインバータ用負荷異常検出回路50であって、スイッチング素子は、自己消弧素子31と逆並列に接続された還流ダイオード32を有し、インバータ装置3から負荷2に与えられる出力電圧V1と出力電流I1との位相ずれを検出し、検出した位相ずれに基づき負荷異常信号を送出する位相ずれ検出手段を備え、位相ずれ検出手段は、出力電流I1の出力電圧V1に対する位相の進み及び位相の遅れを検出する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7