(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクティブ領域および前記アクティブ領域の外側に位置する周辺領域を有する基板と、前記基板に支持される電気回路であって前記アクティブ領域上に形成された複数の有機EL素子および前記複数の有機EL素子を駆動するバックプレーン回路を含む電気回路とを備え、前記バックプレーン回路は、それぞれが前記周辺領域上の端子を含む複数の引出し配線を有する、素子基板を用意する工程と、
前記素子基板における前記複数の有機EL素子の上および前記複数の引出し配線の前記アクティブ領域側の部分の上に薄膜封止構造を形成する工程と、
を含み、
前記薄膜封止構造を形成する工程は、
第1無機バリア層を前記素子基板上に形成する工程と、
前記第1無機バリア層上に液状の光硬化性樹脂を凝縮させる工程と、
波長400nm以下のレーザビームによって前記光硬化性樹脂の選択された領域を照射し、前記光硬化性樹脂の少なくとも一部を硬化させて光硬化樹脂層を形成する工程であって、前記複数の引出し配線のそれぞれに前記光硬化樹脂層の開口部を形成する、工程と、
前記光硬化樹脂層の表面の一部をアッシングして、有機バリア層を形成する工程と、
前記有機バリア層を覆う第2無機バリア層を前記第1無機バリア層上に形成する工程と、
を含む、有機ELデバイスの製造方法。
前記液状の光硬化性樹脂を凝縮させる工程において、前記第1無機バリア層の平坦部上に凝縮した前記光硬化性樹脂の厚さは100nm以上500nm以下である、請求項1に記載の製造方法。
前記有機バリア層を形成する工程は、少なくとも1個の半導体レーザ素子が出射したレーザ光から前記レーザビームを生成することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
前記光源装置は、前記少なくとも1個の半導体レーザ素子を含む複数の半導体レーザ素子を備えており、前記複数の半導体レーザ素子から放射された複数のレーザビームで前記基板の選択された前記複数の領域を照射する、請求項8に記載の成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示における「素子基板」は、例示的な実施形態において、アクティブ領域、およびアクティブ領域の外側に位置する周辺領域を有する基板(ベース)と、この基板に支持される電気回路を備える。この電気回路の典型例は、アクティブ領域上に形成された複数の有機EL素子、および複数の有機EL素子を駆動するバックプレーン回路を含み、バックプレーン回路は、それぞれが周辺領域上の端子を含む複数の引出し配線を有している。
【0033】
特許文献2に開示されている有機バリア層を形成するには、従来、第1無機バリア層が形成された素子基板上に光硬化性樹脂を凝縮させた後、素子基板の全面を紫外線で照射して光硬化性樹脂の全体を硬化することが行われてきた。従来の成膜装置によれば、紫外線は高圧UVランプから放射される。
【0034】
これに対して、本発明の実施形態では、平坦部における厚さが例えば500nm以下の比較的薄い液状の光硬化性樹脂が表面に形成された状態にある素子基板の選択された複数の領域をレーザビームで照射する。その結果、選択された複数の領域(露光領域)以外の領域(非露光領域)に凝縮した光硬化性樹脂は硬化することなく、これらの不要な光硬化性樹脂を素子基板上から選択的に除去することが可能になる。このため、有機バリア層の一部が大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路を形成してしまうという課題を解決することができる。
【0035】
本発明の実施形態によれば、薄膜封止構造を構成する第1無機バリア層と第2無機バリア層との間において、有機バリア層(中実部)の存在は選択された領域内に限定されている。このような薄膜封止構造の全体は、実質的に第1無機バリア層および第2無機バリア層の形状によって規定されており、基板の法線方向から薄膜封止構造を視たとき、有機バリア層が存在する領域は、薄膜封止構造の外形(輪郭)よりも内側に位置している。
【0036】
本発明の実施形態によれば、例えば半導体レーザ素子から出射されるコヒーレントなレーザビームを用いるため、光線の直進性が高く、素子基板上にマスクを密着させることなく選択的な露光が実現する。このため、成膜装置内において、表面に液状の光硬化性樹脂が形成された状態で置かれている素子基板であっても、そのままの状態で所望の領域に対する選択露光が実現する。液状の光硬化性樹脂が形成された(濡れた)状態の素子基板を、露光および硬化の前に、移動または振動させると、光硬化性樹脂が凝集位置から移動してしまい、所望の位置に有機バリア層を形成できないという問題があるが、本発明の実施形態によれば、このような問題を回避できる。
【0037】
図1Aは、本発明による有機ELデバイスの製造方法に好適に用いられる成膜装置200の基本構成例を模式的に示す図である。この成膜装置200は、薄膜封止構造を構成する有機バリア層の形成に用いられる。
【0038】
図示されている成膜装置200は、チャンバー210と、チャンバー210の内部を2個の空間に分割する隔壁234とを有している。チャンバー210の内部のうち隔壁234で仕切られた一方の空間には、ステージ212と、シャワープレート220とが配置されている。隔壁234で仕切られた他方の空間には、光源装置(紫外線照射装置)230が配置されている。チャンバー210は、その内部の空間を所定の圧力(真空度)および温度に制御される。
【0039】
ステージ212は、素子基板20を支持する上面を有し、上面を例えば−20℃まで冷却することができる。素子基板20は、後に詳しく説明するように、例えばフレキシブル基板と、フレキシブル基板上に配列された複数の有機ELデバイスとを備える。素子基板20は、薄膜封止構造を構成する第1無機バリア層(
図1において不図示)が素子基板20上に形成された状態でステージ212上に載置される。第1無機バリア層は、有機バリア層の下地層である。
【0040】
シャワープレート220と隔壁234との間には間隙部224が形成されている。間隙部224の鉛直方向サイズは、例えば100mm以上1000mm以下であり得る。シャワープレート220は、複数の貫通孔222を有している。これら複数の貫通孔222は、原料供給ノズルとして機能し、間隙部224に所定の流量で供給される光硬化性樹脂(液状)を蒸気または霧状で、チャンバー210内の素子基板20に供給する。必要に応じて光硬化性樹脂は加熱される。光硬化性樹脂の典型例は、アクリルモノマーである。図示される例において、蒸気または霧状のアクリルモノマー26pは、素子基板20の第1無機バリア層に付着または接触する。アクリルモノマー26は、容器202からチャンバー210内に所定の流量で供給される。容器202には、配管206を介してアクリルモノマー26が供給されるとともに、配管204から窒素ガスが供給される。容器202へのアクリルモノマーの流量は、マスフローコントローラ208によって制御される。シャワープレート222、配管204、およびマスフローコントローラ208などによって原料供給装置が構成されている。
【0041】
光源装置230は、ステージ212に支持された素子基板20の選択された複数の領域をレーザビーム232で照射するように構成されている。
図1Bは、光源装置230からレーザビーム232が出射されている状態を示す模式図である。前述したように、成膜装置200のチャンバー210内において、光源装置230が配置されている空間は、原料ガスが供給される空間から隔壁234によって仕切られている。隔壁234およびシャワープレート220は、レーザビーム232を透過する材料(例えば石英)から形成されている。本開示による成膜装置の構成は、図示される例に限定されない。
【0042】
以下、
図2から
図11Bを参照して、光源装置230の構成例を詳細に説明する。
【0043】
図2は、光源装置230から出射されたレーザビームによって照射される、素子基板20における複数の領域(照射領域)20Sの配置例を示す斜視図である。破線で囲まれた矩形領域が個々の照射領域20Sであり、相互に離間して配列されている。
図2には、一例として、4行6列に配列された24個の照射領域20Sが記載されているが、照射領域20Sの個数および配列は、図示されている例に限定されない。また、個々の照射領域20Sの形状およびサイズも、図示されている例に限定されない。
【0044】
図3は、素子基板20に形成されている1個のOLED表示装置100と、このOLED表示装置100に対応する照射領域20Sとの配置関係の一例を模式的に示す図である。
図3の上段には平面レイアウトが示され、
図3の下段には断面構成が示されている。
【0045】
図3に示す例において、OLED表示装置100は、基板1と、基板1に支持される回路(バックプレーン回路)2と、回路2上に形成されたOLED3とを備えている。
図2に示される素子基板20は、
図3の基板1がOLED表示装置100ごとに分割される前の段階にあり、複数のOLED表示装置100の基板1が連続して素子基板20のベースを構成している。
【0046】
図3に示される回路2およびOLED3の全体は、薄膜封止構造(TFE構造)10によって覆われ、封止されている。
図3に示されるように、1個の照射領域20Sは、回路2およびOLED3が形成される領域よりも広いが、TFE構造10が形成される領域よりは狭い。このため、照射領域20Sの外縁から、TFE構造10が形成される領域の外縁までの中間領域(非露光領域に含まれる)では、仮にアクリルモノマー26などの光硬化性樹脂が凝縮しても、硬化されず、有機バリア層は形成されない。このため、上記の「中間領域」では、TFE構造10を構成する第1無機バリア層と第2無機バリア層とが直接に接触することになる。後述するように、第1無機バリア層と第2無機バリア層とが直接に接触する部分を、本明細書では、「無機バリア層接合部」と呼ぶことがある。
図3の例では、「無機バリア層接合部」は、縦方向に延びる幅Gxを持つ部分と、横方向に延びる幅Gyを持つ部分とを含み、回路2およびOLED3の周りを囲んでいる。
【0047】
図3に示されているOLED表示装置100は、回路2を例えばドライバ集積回路(IC)に接続するための複数の引出し配線30を備えている。本開示では、回路2および複数の引出し配線を総称して「電気回路(electrical circuitry)」と称する。
図3の例では、簡単のため、4本の引出し配線30が記載されているが、現実の引出し配線30の本数は、この例に限定されない。また、引出し配線30は、直線的に延びている必要は無く、屈曲部および/またはブランチを含んでいても良い。
【0048】
引出し配線30は回路2から上述の「中間領域」の外側に延びている。すなわち、引出し配線30の一部はTFE構造10によって覆われているが、引出し配線30の他の部分(少なくともパッド部分として機能する端部、すなわち端子)は、TFE構造10によって覆われていない。引出し配線30のうちTFE構造10によって覆われていない部分が、例えばドライバ集積回路(IC)の端子と電気的に接触して接続され得る。
【0049】
図4は、レーザビーム232で複数の照射領域20Sを照射する様子(マスクレスのプロジェクション露光)を模式的に示す図である。複数の照射領域20Sのそれぞれが、
図3に示したように、個々のOLED表示装置100において有機バリア層の形成が必要な領域をカバーしている。逆に言えば、個々のOLED表示装置100において有機バリア層の形成が不要な領域は、レーザビーム232で照射されない。なお、照射領域20Sの外側の領域(非露光領域)において、レーザビーム232の照射が全く行われないことまでは要求されない。ある領域におけるレーザビーム232の照射量が光硬化性樹脂の硬化に必要なレベルよりも低ければ、その領域は「非露光領域」であり、露光のために選択された領域(照射領域)ではない。厚さが例えば100〜500nmのアクリルモノマーを紫外線(波長が例えば370〜390nm)で硬化するためには、例えば100〜200mJ/cm
2の照射量が必要である。この場合、選択された領域(照射領域20S)以外の領域では、レーザビーム232の照射量を例えば50mJ/cm
2以下に抑制すればよい。
【0050】
図4では、複数の照射領域20がレーザビーム232によって同時に照射されているように記載されているが、複数のレーザビーム232による照射は同時に行われる必要は無い。複数の照射領域20のそれぞれが順次レーザビーム232によって照射されても良い。また、
図4に示されているレーザビーム232は、平行光線の束であるが、現実のレーザビーム232は、収束または拡大していてもよい。レーザビーム232の素子基板20に対する入射角度も垂直に限定されない。斜めから入射する場合、
図3に示される照射領域20Sの形状を実現するように、入射角度に応じてレーザビーム232の断面形状が適切に補正され得る。
【0051】
図5Aは、直線状に配列された複数の照射領域20Sを複数のレーザビーム232で照射する例を模式的に示す斜視図である。図には、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸から構成される座標軸が記載されている。この例における光源装置230は、X軸方向に沿ってライン状に並んだ複数の発光部からそれぞれレーザビーム232を出射するように構成されている。個々の発光部は、1個の半導体レーザ素子、または複数個の半導体レーザ素子のアレイであり得る。
図5の例において、光源装置230は、少なくともY軸方向に移動可能に支持されており、例えば不図示のモータによって駆動される。このようなモータなどの駆動装置によって光源装置230の位置を変え、複数の異なる位置から、順次、複数の照射領域20Sの異なる部分をレーザビーム232で照射することができる。
【0052】
それぞれが
図5Aに示されている構成を備える複数の光源装置230がY軸方向に配列されていても良い。
【0053】
図5Bは、レーザビーム232による1個の照射領域20Sが複数のOLED表示装置100を跨ぐようにX軸方向に延びた形状を有している例である。隣接する照射領域20Sによって挟まれた非露光領域は、X軸方向に沿ってスリット状に延びている。複数の照射領域20Sの配列パターンは、非露光領域が引出し配線30を完全に横切るように設定される。光硬化性樹脂が平坦部では形成されない場合、あるいは、平坦部に形成された有機バリア層がアッシングによって除去される場合、引出し配線30が存在しない平坦部をレーザビームで照射しても良い。そのような平坦部からは最終的に有機バリア層が除去され得るからである。このような場合、
図5Bに示すように1個の照射領域20Sが複数のOLED表示装置100を跨いでいても、個々のOLED表示装置100のアクティブ領域の周囲には不要な有機バリア層は存在しない。
【0054】
図6は、ある典型的な半導体レーザ素子の基本構成を模式的に示す斜視図である。
図6に示されている半導体レーザ素子25は、レーザビーム232を出射する発光領域(エミッタ)256を含む端面(ファセット)254を有している。半導体レーザ素子25の上面には、ストライプ状の電極252が設けられており、半導体レーザ素子25の裏面には、裏面電極(不図示)が設けられている。ストライプ状電極252と裏面電極との間で発振閾値を超える大きさの電流が流れると、レーザ発振が生じ、発光領域256からレーザビーム232が出射される。
【0055】
図6に示される構成は、半導体レーザ素子25の構成の典型的な一例に過ぎず、説明を簡単にするため、単純化されている。
図6の例において、半導体レーザ素子25の端面254がXY面に平行であるので、レーザビーム232は発光領域256からZ軸方向に出射する。レーザビーム232の光軸はZ軸方向に平行である。レーザビーム232のY軸方向の拡がりは角度θf、X軸方向の拡がりは角度θsによって規定される。回折効果のため、通常、角度θfは角度θsよりも大きく、レーザビームの232の断面(強度が所定値以上となる部分)は楕円形状を有している。このため、本実施形態では、半導体レーザ素子25から出射されたレーザビーム232をそのまま光硬化性樹脂の露光に用いるのではなく、レンズまたは光ファイバなどの光学装置によってレーザビーム232の強度分布を調整する。
【0056】
図7は、屈折型の光学装置260を用いて、レーザビーム232の強度分布をトップハット型に変換する構成例を示す図である。この光学装置260は、XZ面内における屈折とYZ面内における屈折とがそれぞれ異なっており、
図3に示される照射領域20Sに整合した強度分布を持つようにレーザビーム232の成形を行うことができる。
図7には、レーザビーム232の光軸(Z軸に平行)に垂直な断面(XY面に平行な断面)における強度分布Lの例が模式的に示されている。この強度分布Lは、位置によらず強度がほぼ一様な部分(平坦部)を有しており、このような分布の形状を「トップハット型」と称することができる。レーザビームの「トップハット型」強度分布を持つ断面形状が、
図3に示したように回路2およびOLED3のアクティブ領域の形状に整合していれば、効率よく選択露光を行うことができる。
【0057】
波長が紫外領域(400nm以下)にあるレーザビームを出射する半導体レーザ素子として、例えば日亜化学工業の製品番号NDU7216のレーザダイオードを用いることができる。このレーザダイオードによれば、連続波(CW)出力が200ミリワット(mW)で波長370〜390nmのレーザビームが得られる。また、日亜化学工業の製品番号NUU102Eのレーザダイオードモジュールによれば、出力が3ワット(W)で波長370〜390nmの連続波レーザビームが得られる。3ワット(W)のCW出力を持つレーザビームを100cm
2の領域に拡大して照射する場合でも、10秒間の照射によって300mJ/cm
2の照射量を達成する。このため、量産に求められる短い時間であっても、比較的薄い光硬化性樹脂(第1無機バリア層の平坦部上における厚さが100〜500nm)の硬化には充分なレベルの照射量を得ることができる。
【0058】
個々の照射領域20Sを1個の半導体レーザ素子25から出射されたレーザビーム232で照射する必要は無い。
図8は、複数の半導体レーザ素子25のアレイから出射された複数のレーザビームを合成して、トップハット型の強度分布を持つ1個のレーザビーム232を形成する例を示している。複数の半導体レーザ素子25のそれぞれは、同一の光出力でレーザビームを出射する必要は無い。また、半導体レーザ素子25の配列も等間隔である必要は無い。素子基板上におけるレーザビーム232の強度分布を最適化するように個々の半導体レーザ素子25の位置、方向、出力、および波長などが適宜調整され得る。なお、
図8では、簡単のため、レンズまたはミラーなどの光学装置の記載が省略されている。所望の強度分布を実現するため、公知の光学装置が適宜使用され得る。光学装置は、レーザビーム232の一部を透過するスリットまたは開口部を有する遮光マスクを備えていても良い。レーザビームは、コヒーレント性が高く、狭いスリットまたは開口部に規定される精密な光照射パターンを形成することができる。
【0059】
図9は、1個の光源装置230が1個の照射領域20Sをレーザビーム232で照射する例を模式的に示している。現実には、すべての照射領域20Sに対向するように複数の光源装置230が配置されていても良い。また、1個または幾つかの光源装置230が移動しつつ、すべての照射領域20Sを、順次、レーザビーム232で照射しても良い。
【0060】
図10は、固定された光源(例えば1個または複数個の半導体レーザ素子25)から出射されたレーザビーム232を、可動ミラー23によって反射して個々の照射領域20Sを順次照射する構成の例を示している。可動ミラー23は、例えばポリゴンミラーまたはガルバノミラーであり得る。可動ミラー23は、レーザビーム232の一部を吸収また散乱する非反射領域23Bを有していても良い。このような非反射領域23Bにより、素子基板20上におけるレーザビーム232の断面形状および強度分布を調整することができる。可動ミラー23は、例えば2軸アクチュエータ(不図示)などによって向きを変えることができ、任意の方向にレーザビーム232を反射することができる。前述したように、可動ミラー23の向きを変えながら、
図3に示される照射領域20Sの形状を実現するには、入射角度に応じてレーザビーム232の断面形状が適切に補正されること(台形補正)が好ましい。このような補正は、不図示の光学素子を光路上に配置してビーム成形を行うことにより、実現可能である。可動ミラー23および光源の個数は、それぞれ、1個に限定されず、複数であっても良い。
【0061】
可動ミラー23は、反射型の空間光変調素子(例えば液晶表示パネル)であってもよい。空間光変調素子であれば、素子基板20上におけるレーザビーム232の断面形状および強度分布を動的に変化させることができる。
【0062】
可動ミラー23の代わりに、反射型または透過型の空間光変調素子を用いて、半導体レーザ素子25から出射されたレーザ光を任意の強度分布を持つレーザビーム232に変換してもよい。このような構成を採用すれば、素子基板20の全体または一部を、任意の強度分布を持つレーザビーム232で照射することも可能になり、台形補正も容易に実現できる。また、素子基板20の種類に応じて、照射領域20Sの形状、サイズ、配置を簡単に変更することも可能になる。透過型の空間光変調素子を用いる場合、例えば
図5A、
図5B、および
図9に示すような光源装置230のレーザ光源と素子基板20との間に空間光変調素子が配置され得る。このような光源装置230は、紫外のレーザ光源を備えるプロジェクタとして機能する。
【0063】
可動ミラー23は、マイクロミラーアレイであってもよい。
図11Aおよび
図11Bは、それぞれ、同一のマイクロミラーアレイ28の異なる状態を模試的に示す斜視図である。マイクロミラーアレイ28は、2次元的に配列された複数の微小ミラー28Mと、個々の微小ミラー28Mの向きを変えるアクチュエータと、アクチュエータを駆動する回路とを備えている。個々の微小ミラー28Mの向きを調整することにより、マイクロミラーアレイ28に入射したレーザビームを空間的に変調し、素子基板20の任意の領域をレーザビームで照射することができる。微小ミラー28Mの向きを変化させることにより、素子基板20の上面をレーザビーム232で走査することも可能である。マイクロミラーアレイ28を用いることにより、素子基板20の種類に応じて、照射領域20Sの形状、サイズ、配置を簡単に変更することも可能になる。
【0064】
上述した光源装置230を備える成膜装置200を採用することにより、素子基板20の第1無機バリア層上に光硬化性樹脂を凝縮させる工程と、レーザビームによって光硬化性樹脂の選択された複数の領域を照射し、光硬化性樹脂の少なくとも一部を硬化させて光硬化樹脂層を形成する工程とを実行することが可能になる。なお、本発明による成膜装置に使用可能な光源装置の構成は、上記の例に限定されない。光硬化性樹脂を硬化することのできる波長域のレーザビームを放射する投影型または走査型の光源装置であれば、本発明の成膜装置に利用可能である。
【0065】
後述する実施形態では、光硬化性樹脂のうち露光されず、硬化しなかった部分を除去する工程を実行した後、基板上に残存する光硬化樹脂層を覆う第2無機バリア層を第1無機バリア層上に形成する工程を実行し、薄膜封止構造を完成することができる。
【0066】
(表示装置の構成例)
以下、本発明の実施形態によって製造され得る表示装置の構成例を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示する実施形態に限定されない。
【0067】
まず、
図12(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態によって製造される表示装置の一例としてOLED表示装置100の基本的な構成を説明する。
図12(a)は、本発明の実施形態によるOLED表示装置100のアクティブ領域の模式的な部分断面図であり、
図12(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。後に説明する実施形態1および実施形態2によるOLED表示装置も基本的に同じ構成を有しており、特に、TFE構造以外の構造はOLED表示装置100と同じであってよい。
【0068】
OLED表示装置100は、複数の画素を有し、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(OLED)を有している。ここでは、簡単のために、1つのOLEDに対応する構造について説明する。
【0069】
図12(a)に示すように、OLED表示装置100は、フレキシブル基板(以下、単に「基板」ということがある。)1と、基板1上に形成されたTFTを含む回路(バックプレーン回路)2と、回路2上に形成されたOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。OLED3は例えばトップエミッションタイプである。OLED3の最上部は、例えば、上部電極またはキャップ層(屈折率調整層)である。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板4が配置されている。
【0070】
基板1は、例えば厚さが15μmのポリイミドフィルムである。TFTを含む回路2の厚さは例えば4μmであり、OLED3の厚さは例えば1μmであり、TFE構造10の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0071】
図12(b)は、OLED3上に形成されたTFE10の部分断面図である。OLED3の直上に第1無機バリア層(例えばSiN層)12が形成されており、第1無機バリア層12の上に有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14が形成されており、有機バリア層14の上に第2無機バリア層(例えばSiN層)16が形成されている。
【0072】
例えば、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば厚さが400nmのSiN層であり、有機バリア層14は厚さが100nm未満のアクリル樹脂層である。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16の厚さはそれぞれ独立に、200nm以上1000nm以下であり、有機バリア層14の厚さは50nm以上200nm未満である。なお、後述するようなパーティクルが第1無機バリア層12上に存在すると、パーティクルの周囲では、有機バリア層14の厚さが局所的に増加し、第2無機バリア層の厚さと同程度になり得る。TFE構造10の厚さは400nm以上2μm未満であることが好ましく、400nm以上1.5μm未満であることがさらに好ましい。
【0073】
TFE構造10は、OLED表示装置100のアクティブ領域(
図13中のアクティブ領域R1参照)を保護するように形成されており、少なくともアクティブ領域には、上述したように、OLED3に近い側から順に、第1無機バリア層12、有機バリア層14、および第2無機バリア層16を有している。なお、有機バリア層14は、アクティブ領域の全面を覆う膜として存在しているのではなく、開口部を有している。有機バリア層14の内、開口部を除く、実際に有機膜が存在する部分を「中実部」ということにする。また、「開口部」(「非中実部」ということもある。)は、中実部で包囲されている必要はなく、切欠きなどを含み、開口部においては、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している。有機バリア層14が有する開口部は、少なくとも、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を含み、アクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している部分(「無機バリア層接合部」)で完全に包囲されている。このような有機バリア層14の平面形状は、光硬化性樹脂が凝縮して存在する領域と、レーザビームによって選択的に露光される領域(照射領域)とが重複する部分によって規定される。すなわち、光硬化性樹脂が存在しない領域をレーザビームで照射しても、その領域に有機バリア層14は生成されない。また、光硬化性樹脂が存在する領域であっても、必要な照射量でレーザビームの照射が行われない領域には、有機バリア層14は生成されない。更に、必要に応じて行う有機バリア層14に対するアッシングにより、有機バリア層14の平面形状は縮小され得る。
【0074】
(実施形態1)
図13から
図15を参照して、本発明の実施形態1によるOLED表示装置の製造方法を説明する。
【0075】
図13に本発明の実施形態1によるOLED表示装置100Aの模式的な平面図を示す。OLED表示装置100Aは、フレキシブル基板1と、フレキシブル基板1上に形成された回路(バックプレーン回路)2と、回路2上に形成された複数のOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10Aとを有している。複数のOLED3が配列されている層をOLED層3ということがある。なお、回路2とOLED3とが一部の構成要素を共有してもよい。TFE構造10Aの上にはオプショナルな偏光板(
図12中の参照符号4を参照)がさらに配置されてもよい。また、例えば、TFE構造10Aと偏光板との間にタッチパネル機能を担う層が配置されてもよい。すなわち、OLED表示装置100Aは、オンセル型のタッチパネル付き表示装置に改変され得る。
【0076】
回路2は、複数のTFT(不図示)と、それぞれが複数のTFT(不図示)のいずれかに接続された複数のゲートバスライン(不図示)および複数のソースバスライン(不図示)とを有している。回路2は、複数のOLED3を駆動するための公知の回路であってよい。複数のOLED3は、回路2が有する複数のTFTのいずれかに接続されている。OLED3も公知のOLEDであってよい。
【0077】
OLED表示装置100Aは、さらに、複数のOLED3が配置されているアクティブ領域(
図13中の破線で囲まれた領域)R1の外側の周辺領域R2に配置された複数の端子38Aと、複数の端子38Aと複数のゲートバスラインまたは複数のソースバスラインのいずれかとを接続する複数の引出し配線30Aを有しており、TFE構造10Aは、複数のOLED3の上および複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上に形成されている。すなわち、TFE構造10Aはアクティブ領域R1の全体を覆い、かつ、複数の引出し配線30Aのアクティブ領域R1側の部分の上に選択的に形成されており、引出し配線30Aの端子38A側および端子38Aは、TFE構造10Aでは覆われていない。
【0078】
以下では、引出し配線30Aと端子38Aとが同じ導電層を用いて一体に形成された例を説明するが、互いに異なる導電層(積層構造を含む)を用いて形成されてもよい。
【0079】
次に、
図14(a)〜(d)を参照して、OLED表示装置100AのTFE構造10Aを説明する。
図14(a)に
図13中の3A−3A’線に沿った断面図を示し、
図14(b)に
図13中の3B−3B’線に沿った断面図を示し、
図14(c)に
図13中の3C−3C’線に沿った断面図を示し、
図14(d)に
図13中の3D−3D’線に沿った断面図を示す。なお、
図14(d)は、TFE構造10Aが形成されていない領域の断面図である。
【0080】
図14(a)に示すように、TFE構造10Aは、OLED3上に形成された第1無機バリア層12Aと、第1無機バリア層12Aに接する有機バリア層14Aと、有機バリア層14Aに接する第2無機バリア層16Aとを有している。第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aは、例えば、SiN層であり、マスクを用いたプラズマCVD法で、アクティブ領域R1を覆うように所定の領域だけに選択的に形成される。
【0081】
有機バリア層14Aは、例えば、上記特許文献2に記載の方法によって形成され得る。例えば、チャンバー内で、蒸気または霧状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマーなどの有機材料)を、室温以下の温度に維持された素子基板上に供給する。素子基板上で凝縮し、液状になった光硬化性樹脂の毛細管現象または表面張力によって、第1無機バリア層12Aの凸部の側面と平坦部との境界部に光硬化性樹脂を偏在させることができる。その後、光硬化性樹脂の選択された領域を例えば紫外線のレーザビームで照射することによって光硬化性樹脂を部分的に硬化し、選択された領域内における凸部の周辺の境界部に有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14Aの中実部を形成する。この方法によって形成される有機バリア層14は、平坦部には中実部が実質的に存在しない。有機バリア層の形成方法に関して、特許文献2の開示内容を参考のために本明細書に援用する。
【0082】
図14(a)は、
図13中の3A−3A’線に沿った断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。パーティクルPは、OLED表示装置の製造プロセス中に発生する微細なゴミで、例えば、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物の粒子である。マスク蒸着法を用いると、特にパーティクルが発生しやすい。
【0083】
図14(a)に示すように、有機バリア層(中実部)14Aは、パーティクルPの周辺にのみ形成され得る。これは、第1無機バリア層12Aを形成した後に付与されたアクリルモノマーが、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aaの表面の周辺に凝縮され、偏在するからである。第1無機バリア層12Aの平坦部上は、有機バリア層14Aの開口部(非中実部)となっている。
【0084】
ここで、
図15(a)および(b)を参照して、パーティクルPを含む部分の構造を説明する。
図15(a)は
図14(a)のパーティクルPを含む部分の拡大図であり、
図15(b)はパーティクルPを覆う第1無機バリア層(例えばSiN層)の模式的な断面図である。
【0085】
図15(b)に示すように、パーティクル(例えば直径が約1μm以上)Pが存在すると、第1無機バリア層にクラック(欠陥)12Acが形成されることがある。これは、後に説明するように、パーティクルPの表面から成長するSiN層12Aaと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12Abとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12Acが存在すると、TFE構造10Aのバリア性が低下する。
【0086】
OLED表示装置100AのTFE構造10Aでは、
図15(a)に示すように、有機バリア層14Aが、第1無機バリア層12Aのクラック12Acを充填するように形成し、かつ、有機バリア層14Aの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aaの表面と、OLED3の平坦部上の第1無機バリア層12Abとの表面を連続的に滑らかに連結する。したがって、パーティクルP上の第1無機バリア層12Aおよび有機バリア層14A上に形成される第2無機バリア層16Aに欠陥が形成されることなく、緻密な膜が形成される。このように、有機バリア層14Aによって、パーティクルが存在しても、TFE構造10Aのバリア性を保持することができる。
【0087】
次に、
図14(b)および(c)を参照して、引出し配線30A上のTFE構造10A具体例を説明する。
図14(b)は、
図13中の3B−3B’線に沿った断面図であり、引出し配線30Aの部分32Aの断面を示している。引出し配線30Aの部分32Aは、レーザビームの照射領域内に位置している。これに対し、
図14(c)は、
図13中の3C−3C’線に沿った断面図であり、引出し配線30Aの部分34Aの断面を示している。引出し配線30Aの部分34Aは、レーザビームの照射領域の外側(非露光領域)に位置している。
【0088】
引出し配線30Aは、例えば、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同じプロセスでパターニングされるので、ここでは、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインも、引出し配線30Aの部分32A、部分34Bと同じ断面構造を有する例を説明する。なお、引出し配線30Aの断面形状は、
図14に示される例に限定されない。
【0089】
本発明の実施形態によるOLED表示装置100Aは、例えば、高精細の中小型のスマートフォンおよびタブレット端末に好適に用いられる。高精細(例えば500ppi)の中小型(例えば5.7型)のOLED表示装置では、限られた線幅で、十分に低抵抗な配線(ゲートバスラインおよびソースバスラインを含む)を形成するために、アクティブ領域R1内における配線の線幅方向に平行な断面の形状は矩形に近いがことが好ましい。一方、OLED表示装置100Aのアクティブ領域R1は、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触する無機バリア層接合部によって実質的に包囲されているので、有機バリア層14Aが水分の侵入経路となって、OLED表示装置のアクティブ領域R1に水分が到達することがない。
【0090】
図14(b)に示した引出し配線30Aの部分32Aの側面部には、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとの間に有機バリア層(中実部)14が存在している。
【0091】
一方、
図14(c)に示した引出し配線30Aの部分34Aの側面部には、有機バリア層(中実部)14が存在せず、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触している(すなわち、無機バリア層接合部が形成されている。)。また、平坦部には、有機バリア層14(中実部)Aが形成されていないので、引出し配線30Aは、
図13中の3C−3C’線に沿った断面において、第1無機バリア層12Aと第2無機バリア層16Aとが直接接触している無機バリア層接合部で覆われている。
【0092】
したがって、上述したように、引出し配線に沿って形成された有機バリア層が大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路となることがない。耐湿信頼性の観点からは、引出し配線30Aの部分34Aの長さ、すなわち、引出し配線30Aが延びる方向に沿って計測される無機バリア層接合部のサイズ(幅)は、少なくとも0.01mmであることが好ましい。無機バリア層接合部の幅に特に上限は無いが、0.1mm超としても耐湿信頼性を向上させる効果はほぼ飽和しており、それ以上長くしても、むしろ、額縁幅を増大させるだけなので、0.1mm以下が好ましく、例えば0.05mm以下とすればよい。インクジェット法で有機バリア層を形成する従来のTFE構造では、有機バリア層の端部が形成される位置のばらつきを考慮して0.5mm〜1.0mm程度の幅の無機バリア層接合部が設けられている。これに対し、本発明の実施形態によると、無機バリア層接合部の幅は0.1mm以下でよいので、有機EL表示装置を狭額縁化できる。
【0093】
次に、
図14(d)を参照する。
図14(d)は、TFE構造10Aが形成されていない領域の断面図である。
図14(d)に示す引出し配線30Aの部分36Aは、レーザビームの照射領域の外側(非露光領域)に位置しているため、その側面の最下部に有機バリア層14Aが形成されていない。したがって、引出し配線30Aの部分34Aおよび端子38Aの側面にも有機バリア層(中実部)14Aが存在しない。また、平坦部上にも有機バリア層(中実部)14Aが存在しない。
【0094】
有機バリア層14Aの形成は、上述したように、蒸気または霧状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)を供給する工程を包含するので、第1無機バリア層12Aおよび第2無機バリア層16Aのように所定の領域にのみ選択的に光硬化性樹脂を凝縮させることができない。したがって、基板の全面を紫外線で露光する従来の方法では、有機バリア層(中実部)14Aが不必要な位置にも形成され得ることになる。しかし、本実施形態によると、選択された複数の領域をレーザビームで照射するため、引出し配線が形成する段差部に有機バリア層(中実部)14Aが形成されるのを抑制することができる。
【0095】
図16A、16B、16Cは、引出し配線30Aを横切る無機バリア層接合部を形成するための「非露光領域S」の例を示す図である。これらの図において、白抜きの部分が「非露光領域S」である。スリット状に延びる非露光領域Sは、引出し配線30Aを完全に横切っておればよく、引出し配線30Aの全体を覆う必要はない。非露光領域Sの形状およびサイズは、図示されている例に限定されない。非露光領域Sは、引出し配線30Aに沿って形成され得る有機バリア層14Aによる水分侵入経路を遮断する種々の形状およびサイズを有し得る。
【0096】
次に、
図17を参照して、OLED表示装置100Aに用いられるTFTの例と、TFTを作製する際のゲートメタル層およびソースメタル層を用いて形成した引出し配線および端子の例を説明する。
【0097】
高精細の中小型用OLED表示装置には、移動度が高い、低温ポリシリコン(「LTPS」と略称する。)TFTまたは酸化物TFT(例えば、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)を含む4元系(In−Ga−Zn−O系)酸化物TFT)が好適に用いられる。LTPS−TFTおよびIn−Ga−Zn−O系TFTの構造および製造方法はよく知られているので、以下では簡単な説明に留める。
【0098】
図17(a)は、LTPS−TFT2
PTの模式的な断面図であり、TFT2
PTはOLED表示装置100Aの回路2に含まれ得る。LTPS−TFT2
PTは、トップゲート型のTFTである。
【0099】
TFT2
PTは、基板(例えばポリイミドフィルム)1上のベースコート2
Pp上に形成されている。上記の説明では省略したが、基板1上には無機絶縁体で形成されたベースコートを形成することが好ましい。
【0100】
TFT2
PTは、ベースコート2
Pp上に形成されたポリシリコン層2
Pseと、ポリシリコン層2
Pse上に形成されたゲート絶縁層2
Pgiと、ゲート絶縁層2
Pgi上に形成されたゲート電極2
Pgと、ゲート電極2
Pg上に形成された層間絶縁層2
Piと、層間絶縁層2
Pi上に形成されたソース電極2
Pssおよびドレイン電極2
Psdとを有している。ソース電極2
Pssおよびドレイン電極2
Psdは、層間絶縁層2
Piおよびゲート絶縁層2
Pgiに形成されたコンタクトホール内で、ポリシリコン層2
Pseのソース領域およびドレイン領域にそれぞれ接続されている。
【0101】
ゲート電極2
Pgはゲートバスラインと同じゲートメタル層に含まれ、ソース電極2
Pssおよびドレイン電極2
Psdはソースバスラインと同じソースメタル層に含まれる。ゲートメタル層およびソースメタル層を用いて、引出し配線および端子が形成される。
【0102】
TFT2
PTは、例えば、以下のようにして作製される。
【0103】
基板1として、例えば、厚さが15μmのポリイミドフィルムを用意する。
【0104】
ベースコート2
Pp(SiO
2膜:250nm/SiN
x膜:50nm/SiO
2膜:500nm(上層/中間層/下層))およびa−Si膜(40nm)をプラズマCVD法で成膜する。
【0105】
a−Si膜の脱水素処理(例えば450℃、180分間アニール)を行う。
【0106】
a−Si膜をエキシマレーザーアニール(ELA)法でポリシリコン化する。
【0107】
フォトリソグラフィ工程でa−Si膜をパターニングすることによって活性層(半導体島)を形成する。
【0108】
ゲート絶縁膜(SiO
2膜:50nm)をプラズマCVD法で成膜する。
【0109】
活性層のチャネル領域にドーピング(B
+)を行う。
【0110】
ゲートメタル(Mo:250nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ゲート電極2
Pgおよびゲートバスライン等を形成する)。
【0111】
活性層のソース領域およびドレイン領域にドーピング(P
+)を行う。
【0112】
活性化アニール(例えば、450℃、45分間アニール)を行う。このようにしてポリシリコン層2
Pseが得られる。
【0113】
層間絶縁膜(例えば、SiO
2膜:300nm/SiN
x膜:300nm(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
【0114】
ゲート絶縁膜および層間絶縁膜にコンタクトホールをドライエッチングで形成する。このように、層間絶縁層2
Piおよびゲート絶縁層2
Pgiが得られる。
【0115】
ソースメタル(Ti膜:100nm/Al膜:300nm/Ti膜:30nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ソース電極2
Pss、ドレイン電極2
Psdおよびソースバスライン等を形成する)。
【0116】
図17(b)は、In−Ga−Zn−O系TFT2
OTの模式的な断面図であり、TFT2
OTはOLED表示装置100Aの回路2に含まれ得る。TFT2
OTは、ボトムゲート型のTFTである。
【0117】
TFT2
OTは、基板(例えばポリイミドフィルム)1上のベースコート2
Op上に形成されている。TFT2
OTは、ベースコート2
Op上に形成されたゲート電極2
Ogと、ゲート電極2
Og上に形成されたゲート絶縁層2
Ogiと、ゲート絶縁層2
Ogi上に形成された酸化物半導体層2
Oseと、酸化物半導体層2
Oseのソース領域上およびドレイン領域上にそれぞれ接続されたソース電極2
Ossおよびドレイン電極2
Osdとを有している。ソース電極2
Ossおよびドレイン電極2
Osdは、層間絶縁層2Oiに覆われている。
【0118】
ゲート電極2
Ogはゲートバスラインと同じゲートメタル層に含まれ、ソース電極2
Ossおよびドレイン電極2
Osdはソースバスラインと同じソースメタル層に含まれる。ゲートメタル層およびソースメタル層を用いて、引出し配線および端子が形成され得る。
【0119】
TFT2
OTは、例えば、以下のようにして作製される。
【0120】
基板1として、例えば、厚さが15μmのポリイミドフィルムを用意する。
【0121】
ベースコート2
Op(SiO
2膜:250nm/SiN
x膜:50nm/SiO
2膜:500nm(上層/中間層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
【0122】
ゲートメタル(Cu膜:300nm/Ti膜:30nm(上層/下層))をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ゲート電極2Ogおよびゲートバスライン等を形成する)。
【0123】
ゲート絶縁膜(SiO
2膜:30nm/SiN
x膜:350nm(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
【0124】
酸化物半導体膜(In−Ga−Zn−O系半導体膜:100nm)をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ウエットエッチング工程を含む)でパターニングすることによって、活性層(半導体島)を形成する。
【0125】
ソースメタル(Ti膜:100nm/Al膜:300nm/Ti膜:30nm(上層/中間層/下層))をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ工程(ドライエッチング工程を含む)でパターニングする(ソース電極2
Oss、ドレイン電極2
Osdおよびソースバスライン等を形成する)。
【0126】
活性化アニール(例えば、300℃、120分間アニール)を行う。このようにして酸化物半導体層2
Oseが得られる。
【0127】
この後、保護膜として、層間絶縁層2Oi(例えば、SiN
x膜:300nm/SiO
2膜:300nm/(上層/下層))をプラズマCVD法で成膜する。
【0128】
(実施形態2)
実施形態1について説明した有機バリア層14Aの形成は、アクリルモノマーなどの光硬化性樹脂を段差部分に偏在させる。以下に説明する実施形態2のOLED表示装置の製造方法は、少なくとも平坦部上の一部にも樹脂層(例えばアクリル樹脂層)を形成し、樹脂層を部分的にアッシングすることによって有機バリア層を形成する工程を包含している。最初に形成する樹脂層の厚さを調整する(例えば、100nm未満とする)、レーザビームの照射領域を選択する、および/または、アッシング条件(時間を含む)を調整することによって、種々の形態の有機バリア層を形成することができる。すなわち、実施形態1で説明したOLED表示装置100Aが有する有機バリア層14Aを形成することもできるし、平坦部の一部または全部を実質的に覆う有機バリア層(中実部)を形成することもできる。なお、有機バリア層の面積が大きいと、耐屈曲性を向上させる効果が得られる。以下では、主に、平坦部の一部または全部を覆う有機バリア層(中実部)を有するTFE構造を有するOLED表示装置およびその製造方法を説明する。なお、TFE構造を形成する前の素子基板の構造、特に、引出し配線および端子の構造ならびにTFTの構造は、実施形態1で説明したいずれであってもよい。
【0129】
図18(a)は、本発明の実施形態2によるOLED表示装置におけるTFE構造10Dの模式的な部分断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。
図15(b)を参照して説明したように、パーティクルPが存在すると、第1無機バリア層12Dにクラック(欠陥)12Dcが形成されることがある。これは、
図19に示す断面SEM像から、パーティクルPの表面から成長するSiN層12Daと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12Dbとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12Dcが存在すると、TFE構造10Dのバリア性が低下する。なお、
図19のSEM像は、ガラス基板上に、パーティクルPとして、直径が1μmの球状シリカを配置した状態で、SiN膜をプラズマCVD法で成膜した試料の断面SEM像である。断面はパーティクルPの中心を通っていない。また、最表面は断面加工時の保護のためのカーボン層(C−depo)である。このように、直径が1μmの比較的小さな球状のシリカが存在するだけで、SiN層12Dにクラック(欠陥)12Dcが形成される。
【0130】
実施形態2のOLED表示装置におけるTFE構造10Dでは、
図18(a)に示すように、有機バリア層14Dcが、第1無機バリア層12Dのクラック12DcおよびパーティクルPのオーバーハング部分を充填するように形成されているので、第2無機バリア層16Dによってバリア性を保持することができる。これは、
図20に示す断面SEM像で確認することができる。
図20においては、第1無機バリア層12D上に第2無機バリア層16Dが直接形成された箇所には界面は観察されていないが、模式図では分かり易さのために、第1無機バリア層12Dと第2無機バリア層16Dとを異なるハッチングで示している。
【0131】
図20に示す断面SEM像は、
図19の断面SEM像と同様に、ガラス基板上に、直径が2.15μmの球状シリカを配置した状態で、TFE構造10Dを成膜した試料の断面SEM像である。
図20と
図19と比較すれば分かるように、
図20に示す直径が約2倍のパーティクルPであっても、アクリル樹脂層の上に形成されたSiN膜は欠陥の無い緻密な膜であることがわかる。また、
図19の場合と同様に、パーティクルP(直径が2.15μmおよび4.6μmの球状シリカ)を覆うようにSiN膜をプラズマCVD法で成膜した後、有機バリア層14Dとしてアクリル樹脂層を形成し、その後、再び、SiN膜をプラズマCVD法で成膜した試料においても、アクリル樹脂層の上に欠陥の無い緻密なSiN膜が形成されていることをSEM観察で確認した。
【0132】
図18(a)に示した有機バリア層14は、後述するように、例えばアクリル樹脂から形成される。特に、室温(例えば25℃)における粘度が、1〜100mPa・s程度のアクリルモノマー(アクリレート)を光硬化(例えば紫外線硬化)することによって形成されたものが好ましい。このように低粘度のアクリルモノマーは、クラック12DcおよびパーティクルPのオーバーハング部分に容易に浸透することができる。また、アクリル樹脂は可視光の透過率が高く、トップエミッションタイプのOLED表示装置に好適に用いられる。アクリルモノマーには必要に応じて、光重合開始剤が混合され得る。光重合開始剤の種類によって感光波長を調節することができる。アクリルモノマーに代えて、他の光硬化性樹脂を用いることもできる。光硬化性樹脂としては、反応性等の観点から紫外線硬化性樹脂が好ましい。照射するレーザビームは、近紫外線(200nm以上400nm以下)の中でも特に波長315nm以上400nm以下のUV−A領域のものが好ましいが、波長300nm以上315nm未満のレーザビームを用いてもよい。また、400nm以上450nm以下の青紫色から青色にかけての可視光レーザビームを照射することによって硬化する光硬化性樹脂を用いることもできる。
【0133】
クラック12DcおよびパーティクルPのオーバーハング部分に充填された有機バリア層14Dcの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Daの表面と、OLED3の表面の平坦部上に形成された有機バリア層14Dbとの表面を連続的に滑らかに連結する。したがって、パーティクルP上の第1無機バリア層12Dおよび有機バリア層14D上に形成される第2無機バリア層(SiN層)16Dに欠陥が形成されることなく、緻密な膜が形成される。
【0134】
また、有機バリア層14Dの表面14Dsは、アッシング処理によって酸化されており、親水性を有しており、第2無機バリア層16Dとの密着性が高い。
【0135】
耐屈曲性を向上させるためには、有機バリア層14Dは、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12Daの凸状部分を除いて、ほぼ全面に有機バリア層14Dが残存するように、アッシングすることが好ましい。平坦部上に存在している有機バリア層14Dbの厚さは10nm以上であることが好ましい。
【0136】
特許文献2、3には、有機バリア層を偏在させた構成が記載されているが、本発明者が種々実験したところ、有機バリア層14Dは平坦部上のほぼ全面、すなわち第1無機バリア層12Daの凸状部分を除いたほぼ全面に形成されていてもよく、耐屈曲性の観点からはその厚さは10nm以上であることが好ましい。
【0137】
有機バリア層14Dが第1無機バリア層12Dと第2無機バリア層16Dとの間に介在すると、TFE構造10D内部での各層間の密着性が高まる。特に、有機バリア層14Dの表面が酸化されているので、第2無機バリア層16Dとの密着性が高い。
【0138】
また、平坦部上の有機バリア層14Dbが全面に形成されていると(有機バリア層14Dが開口部14Daを有しないと)、OLED表示装置に外力が掛かったときに、TFE構造10D内に生じる応力(またはひずみ)が均一に分散される結果、破壊(特に、第1無機バリア層12Dおよび/または第2無機バリア層16Dの破壊)が抑制される。第1無機バリア層12Dと第2無機バリア層16Dと密着してほぼ均一に存在する有機バリア層14Dは、応力を分散および緩和するように作用すると考えられる。このように有機バリア層14Dは、OLED表示装置の耐屈曲性を向上させる効果も奏する。
【0139】
ただし、有機バリア層14Dの厚さが200nm以上になると、かえって耐屈曲性が低下することがあるので、有機バリア層14Dの厚さは200nm未満であることが好ましい。
【0140】
有機バリア層14Dは、アッシング処理を経て形成される。アッシング処理は面内でばらつくことがあるので、平坦部に形成された有機バリア層14Dbの一部が完全に除去され、第1無機バリア層12Dの表面が露出される場合がある。このとき、有機バリア層14Dの内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層(中実部)14Dbは、開口部14Daよりも面積が大きくなるように制御する。すなわち、中実部14Dbの面積は平坦部上の有機バリア層(開口部を含む)14Dの面積の50%超となるように制御する。中実部14Dbの面積は平坦部上の有機バリア層14Dの面積の80%以上であることが好ましい。ただし中実部14Dbの面積は平坦部上の有機バリア層の面積の約90%を超えないことが好ましい。言い換えると、平坦部上の有機バリア層14Dは合計で約10%程度の面積の開口部14Daを有することが好ましい。開口部14Daは、第1無機バリア層12Dと有機バリア層14Dとの界面および有機バリア層14Dと第2無機バリア層16Dとの界面での剥離を抑制する効果を奏する。平坦部上の有機バリア層14Dの面積の80%以上90%以下の面積の開口部14Daを有すると、特に優れた耐屈曲性が得られる。
【0141】
また、平坦部の全面に有機バリア層14Dを形成すると、平坦部の有機バリア層14Dが水分の侵入経路となって、OLED表示装置の耐湿信頼性を低下させることになる。これを防止するために、実施形態2によるOLED表示装置は、
図18(b)に示すように、アクティブ領域を実質的に包囲する無機バリア層接合部3DBを有し、無機バリア層接合部3DBは、レーザビームの非露光領域によって規定される。
【0142】
無機バリア層接合部3DBでは、露光前に存在していた光硬化性樹脂がレーザビームで照射されず、硬化しないで選択的に除去されている。このため、無機バリア層接合部3DBには、有機バリア層14Dの開口部14Daが位置し、中実部14Dbは存在しない。すなわち、無機バリア層接合部3DBでは、第1無機バリア層12Dと第2無機バリア層16Dとが直接接触している。実施形態2のOLED表示装置は、平坦部に有機バリア層14Dを有してはいるが、アクティブ領域は、無機バリア層接合部3DBで完全に包囲されているので、高い耐湿信頼性を有する。
【0143】
図21および
図22を参照して、有機バリア層14Dおよび第2無機バリア層16Dの形成工程、特に、アッシング工程を説明する。
図21に有機バリア層14Dの形成工程を示し、
図22に第2無機バリア層16Dの形成工程を示す。
【0144】
図21(a)に模式的に示すようにOLED3の表面のパーティクルPを覆う第1無機バリア層12Dを形成した後、第1無機バリア層12D上に有機バリア層14Dを形成する。有機バリア層14Dは、例えば、蒸気または霧状のアクリルモノマーを、冷却された素子基板上で凝縮させ、その後、光(例えば紫外線)を照射することによって、アクリルモノマーを硬化させることによって得られる。低粘度のアクリルモノマーを用いることよって、第1無機バリア層12Dに形成されたクラック12Dc内にアクリルモノマーを浸透させることができる。
【0145】
なお、
図21(a)では、パーティクルP上の第1無機バリア層12Da上に有機バリア層14Ddが形成されている例を示しているが、パーティクルPの大きさや形状、およびアクリルモノマーの種類に依存するが、アクリルモノマーがパーティクルP上の第1無機バリア層12Da上に堆積(または付着)しない、あるいは、極微量しか堆積(または付着)しないことがある。有機バリア層14Dは、例えば、後述する
図15に示す成膜装置200を用いて形成され得る。当初の有機バリア層14Dの厚さは平坦部上で100nm以上500nm以下となるように調整される。形成された当初の有機バリア層14Dの表面14Dsaは滑らかに連続しており、疎水性を帯びている。なお、簡単のために、アッシング前の有機バリア層にも同じ参照符号を付す。
【0146】
次に、
図21(b)に示すように、有機バリア層14Dをアッシングする。アッシングは、公知のプラズマアッシング装置、光励起アッシング装置、UVオゾンアッシング装置を用いて行い得る。例えば、N
2O、O
2およびO
3の内の少なくとも1種のガスを用いたプラズマアッシング、または、これらにさらに紫外線照射とを組合せて行われ得る。第1無機バリア層12Dおよび第2無機バリア層16DとしてSiN膜をCVD法で成膜する場合、原料ガスとして、N
2Oを用いるので、N
2Oをアッシングに用いると装置を簡略化できるという利点が得られる。
【0147】
アッシングを行うと、有機バリア層14Dの表面14Dsが酸化され、親水性に改質される。また、表面14Dsがほぼ一様に削られるとともに、極めて微細な凹凸が形成され、表面積が増大する。アッシングを行ったときの表面積増大効果は、無機材料である第1無機バリア層12Dに対してよりも有機バリア層14Dの表面に対しての方が大きい。したがって、有機バリア層14Dの表面14Dsが親水性に改質されることと、表面14Dsの表面積が増大することから、第2無機バリア層16Dとの密着性が向上させられる。
【0148】
さらに、アッシングを進めると、
図21(c)に示すように、有機バリア層14Dの一部に開口部14Daが形成される。
【0149】
さらに、アッシングを進めると、
図15(a)に示した有機バリア層14Aのように、第1無機バリア層12Dのクラック12DcおよびパーティクルPのオーバーハング部分の近傍にだけ有機バリア層14Dcを残すことができる。このとき、有機バリア層14Dcの表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12Daの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結する。
【0150】
なお、第1無機バリア層12Dと有機バリア層14Dとの密着性を改善するために、有機バリア層14Dを形成する前に、第1無機バリア層12Dの表面にアッシング処理を施しておいてもよい。
【0151】
次に、
図22を参照して、有機バリア層14D上に第2無機バリア層16Dを形成した後の構造を説明する。
【0152】
図22(a)は、
図21(a)に示した有機バリア層14Dの表面14Dsaをアッシングすることによって酸化し、親水性を有する表面14Dsに改質した後に、第2無機バリア層16Dを形成した構造を模試的に示している。ここでは、有機バリア層14Dの表面14Dsaをわずかにアッシングした場合を示しており、パーティクルP上の第1無機バリア層12Da上に形成された有機バリア層14Ddも残存している例を示しているが、パーティクルP上の第1無機バリア層12Da上には有機バリア層14Dが形成されない(または残存しない)こともある。
【0153】
図22(a)に示すように、有機バリア層14D上に形成された第2無機バリア層16Dには欠陥が無く、また、有機バリア層14Dとの密着性にも優れる。
【0154】
図22(b)〜(c)に示すように、それぞれ
図21(b)〜(c)に示した有機バリア層14D上に第2無機バリア層16Dを形成すると、欠陥が無く、有機バリア層14Dとの密着性に優れた第2無機バリア層16Dが得られる。OLED3の平坦部上の有機バリア層14Dが完全に除去されても、有機バリア層14Dcの表面が、パーティクルP上の第1無機バリア層12Daの表面と、OLED3の表面の平坦部の表面とを連続的に滑らかに連結していれば、欠陥が無く、有機バリア層14Dとの密着性に優れた第2無機バリア層16Dが得られる。
【0155】
有機バリア層14Dは、
図22(b)に示すように、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12Daの凸状部分を除いて全面に有機バリア層14Dが薄く残存するように、アッシングされてもよい。耐屈曲性の観点から、上述したように、平坦部上の有機バリア層14Dbの厚さは10nm以上200nm未満であることが好ましい。
【0156】
アッシング処理は面内でばらつくので、平坦部に形成された有機バリア層14Dの一部が完全に除去され、第1無機バリア層12Dの表面が露出されることがある。また、パーティクルPの材質、大きさもばらつくので、
図22(c)に示す構造または先の
図15(a)に示した構造を有する箇所が存在し得る。平坦部に形成された有機バリア層14Dの一部が完全に除去される場合でも、有機バリア層14Dの内、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層(中実部)14Dbは、開口部14Daよりも面積が大きくなるように制御することが好ましい。上述したように、中実部14Dbの面積は平坦部上の有機バリア層14Dの面積の80%以上であることが好ましく、約90%を超えないことが好ましい。
【0157】
有機バリア層14Dをアッシングしすぎると
図23に示すように、OLED3の平坦部上に形成された有機バリア層14Dbが完全に除去されるだけでなく、パーティクルPによって形成されたクラック12Dcに充填された有機バリア層14Ddが小さくなり、第2無機バリア層16Dが形成される下地の表面を滑らかな連続的な形状にする作用を有しなくなる。その結果、
図24に示すように、第2無機バリア層16Dに欠陥16Dcが形成され、TFE構造のバリア特性を低下させることになる。たとえ欠陥16Dcが形成されなくとも、第2無機バリア層16Dの表面に鋭角な凹部16Ddが形成されると、その部分に応力が集中しやすく、外力によってクラックが発生しやすい。
【0158】
また、例えば、パーティクルPとして凸レンズ状シリカ(直径4.6μm)を用いた実験では、凸レンズ状シリカの端部において、有機バリア層がエッチングされ過ぎた結果、第2無機バリア層の膜厚が部分的に極端に薄くなることがあった。このような場合、たとえ第2無機バリア層に欠陥が生じなくても、OLED表示装置の製造プロセスにおいて、または製造後に、TFE構造に外力が掛かった際に、第2無機バリア層にクラックが生じるおそれがある。
【0159】
TFE構造10に外力がかけられる場合として、次のような場合を挙げることができる。例えば、OLED表示装置のフレキシブルな基板1を支持基板であるガラス基板から剥離する際、TFE構造10を含むOLED表示装置には曲げ応力が作用する。また、曲面ディスプレイを製造する過程で、所定の曲面形状に沿ってOLED表示装置を曲げる際にも、TFE構造10に曲げ応力が作用する。もちろん、OLED表示装置の最終的な利用形態が、OLED表示装置のフレキシビリティを利用する形態(例えば折り畳む、曲げる、あるいは、丸める)のときは、ユーザーが使用している間に種々の応力がTFE構造10に掛かることになる。
【0160】
これを防止するためには、OLED3の平坦部上に形成されている有機バリア層の50%超が残存するように(有機バリア層(中実部)14Dbが開口部14Daよりも面積が大きくなるように)、アッシング条件を調節することが好ましい。OLED3の平坦部上に残存する有機バリア層(中実部)14Dbは80%以上であることがさらに好ましく、90%程度であることがさらに好ましい。ただし、10%程度は開口部14Daが存在する方が、第1無機バリア層12Dと有機バリア層14Dとの界面および有機バリア層14Dと第2無機バリア層16Dとの界面での剥離を抑制する効果が得られるのでより好ましい。
図22(a)〜(c)に示したように、適度に残存する有機バリア層14D上に形成された第2無機バリア層16Dの表面には90°以下を角度なす部分(
図24の凹部16Dd参照)が存在しないので、外力が掛かっても応力が集中することが抑制される。
【0161】
本発明の実施形態2によるOLED表示装置の製造方法は、第1無機バリア層12Dが形成されたOLED3をチャンバー内に用意する工程と、チャンバー内に蒸気または霧状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)を供給する工程と、第1無機バリア層12D上で光硬化性樹脂を凝縮させ、液状の膜を形成する工程と、光硬化性樹脂の液状の膜に光を照射することによって、光硬化樹脂層(硬化された樹脂の層)を形成する工程と、光硬化樹脂層を部分的にアッシングすることによって、有機バリア層14Dを形成する工程とを包含する。
【0162】
光硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂が好適に用いられるので、以下では、紫外線硬化性樹脂を用いる例を説明するが、光硬化性樹脂を硬化させることができる所定の波長の光を出射する光源を用いれば、可視光硬化性樹脂にも適用できる。
【0163】
図1Aおよび
図1Bに示される成膜装置200を用いて、例えば以下のようにして、有機バリア層14を形成することができる。以下の例は、TFE構造10の試作やSEM写真に示した試料の作製に用いた条件の典型例の1つである。
【0164】
チャンバー210内に、アクリルモノマー26pを供給する。アクリルモノマー26pは、間隙部224に導入された後、シャワープレート220の貫通孔222を通り、ステージ212上の素子基板20に供給される。素子基板20は、ステージ212上で、例えば−15℃に冷却されている。アクリルモノマー26pは素子基板の第1無機バリア層12上で凝縮され液状の膜になる。アクリルモノマー26pの供給量およびチャンバー210内の温度、圧力(真空度)を制御することによって、アクリルモノマー(液状)の堆積速度を調整し得る。例えば、アクリルモノマーは、500nm/minで堆積することができる。したがって、約24秒で厚さが約200nmのアクリルモノマーの層を形成することができる。
【0165】
このときの条件を制御することによって、実施形態1における有機バリア層の形成方法のように、アクリルモノマーを凸部の周囲にだけ偏在させることもできる。
【0166】
アクリルモノマーとして、公知の種々のアクリモノマーを用いることができる。複数のアクリルモノマーを混合してもよい。例えば、2官能モノマーと3官能以上の多官能モノマーを混合してもよい。また、オリゴマーを混合してもよい。ただし、室温(例えば25℃)における粘度を、1〜100mPa・s程度に調整することが好ましい。アクリルモノマーには必要に応じて、光重合開始剤が混合され得る。
【0167】
その後、チャンバー210内を排気し、蒸気または霧状のアクリルモノマー26pを除去した後、
図1Bに示されるように、レーザビーム232による選択的露光を行うことにより、第1無機バリア層12D上のアクリルモノマーを硬化させる。前述した高出力のレーザダイオードモジュールを用いることにより、約10秒の照射時間で選択露光を完了することができる。
【0168】
このように、有機バリア層14Dの形成工程のタクトタイムは約34秒であり、非常に量産性が高い。
【0169】
なお、第1無機バリア層12Dは、例えば、以下のようにして形成される。SiH
4およびN
2Oガスを用いたプラズマCVD法で、例えば、成膜対象の基板(OLED3)の温度を80℃以下に制御した状態で、400nm/minの成膜速度で、厚さ400nmの第1無機バリア層12Dを形成することができる。このようにして得られる第1無機バリア層12Dの屈折率は1.84で、400nmの可視光の透過率は90%(厚さ400nm)である。また、膜応力の絶対値は50MPaである。
【0170】
有機バリア層14Dのアッシングは、例えば、N
2Oガスを用いたプラズマアッシング法で行う。アッシングは、アッシング用のチャンバーで行う。アッシングレートは例えば500nm/minである。上述のように、厚さが200nmの有機バリア層14Dを形成したとき、平坦部上の有機バリア層(中実部)14Dbの厚さ(最大値)が20nm程度となるように、約22秒間、アッシングを行う。
【0171】
このときの条件を調整することによって、
図14(a)、(b)に示した有機バリア層14Aを形成することができる。また、引出し配線上の有機バリア層14Dの厚さは、他の部分よりも小さいので、引出し配線上の有機バリア層14Dを除去し、平坦部上の有機バリア層14Dの面積の50%超を残すこともできる。
【0172】
アッシング後は、N
2Oガスを排気し、第2無機バリア層16Dを形成するためのCVDチャンバーに搬送し、例えば、第1無機バリア層12Dと同じ条件で、第2無機バリア層16Dを形成する。
【0173】
このようにして、TFE構造10DおよびTFE構造10Dを備えるOLED表示装置を作製することができる。本発明の実施形態2によるOLED表示装置の製造方法は、一旦十分な厚さを有する有機バリア層を形成し、それをアッシングすることによって、所望の厚さの有機バリア層を得るものである。したがって、特許文献2、3に記載されている製造方法のように、樹脂材料を偏在させる必要がないので、プロセスマージンが広く、量産性に優れる。
【0174】
また、上述したように、有機バリア層14Dの表面が酸化されているので、第1無機バリア層12Dおよび第2無機バリア層16Dとの密着性が高く、耐湿信頼性に優れている。例えば、上記で具体的に例示したTFE構造10D(ただし
図8のOLED3の代わりに厚さ15μmのポリイミドフィルム)のWVTRを評価したところ、室温換算で測定下限である1×10
-4g/m
2・day未満であった。
【0175】
さらに、平坦部上において、有機バリア層14Dが第1無機バリア層12Dと第2無機バリア層16Dとの間のほぼ全面に存在する構造とすることによって、耐屈曲性に優れる。
【0176】
なお、無機バリア層として、SiN層の他、SiO層、SiON層、SiNO層、Al
2O
3層などを用いることもできる。有機バリア層を形成する樹脂としては、アクリル樹脂の他、ビニル基含有モノマーなどの光硬化性樹脂を用いることができる。光硬化性樹脂として、紫外線硬化型のシリコーン樹脂を用いることもできる。シリコーン樹脂(シリコーンゴムを含む)は可視光透過性および耐候性に優れ、長期間の使用でも黄変しにくいという特徴がある。可視光の照射で硬化する光硬化性樹脂を用いることもできる。本発明の実施形態に用いられる光硬化性樹脂の硬化前の室温(例えば25℃)の粘度は、10Pa・sを超えないことが好ましく、上述したように1〜100mPa・sであることが特に好ましい。
【0177】
上記の各実施形態では、有機ELデバイスの一例として表示装置を製造しているが、本発明は表示装置以外の有機ELデバイス、例えば有機EL照明装置の製造にも適用可能である。また、基板は、フレキシブル基板に限定されず、剛性の高い材料から形成されていてもよい。表示装置のサイズも、中小型に限定されず、大画面テレビジョン用の大型であってもよい。
本開示の有機ELデバイスの製造方法は、基板と、前記基板上に配列された複数の有機ELデバイスとを備える素子基板を用意する工程と、前記素子基板に薄膜封止構造を形成する工程とを含む。薄膜封止構造を形成する工程は、第1無機バリア層を素子基板上に形成する工程と、第1無機バリア層上に光硬化性樹脂を凝縮させる工程と、レーザビームによって光硬化性樹脂の選択された複数の領域を照射し、光硬化性樹脂の少なくとも一部を硬化させて光硬化樹脂層を形成する工程と、光硬化性樹脂の硬化しなかった部分を除去する工程と、光硬化樹脂層を覆う第2無機バリア層を前記第1無機バリア層上に形成する工程とを含む。