【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1を
図1ないし
図7を参照しながら説明する。
図1(a)は、樹脂材3Aを用いて
図1(b)の第1有孔板材10および
図1(c)の第2有孔板材11から成型したインサート成型体1を示す。このインサート成型体1は、
図2に示すインサート成型装置2により成型製造される。
【0024】
インサート成型装置2では、
図1(a)に示すように、インサート成型方法により両有孔板材10、11の全表面を樹脂材3Aで完全埋設したインサート成型体1を完成させる。
第1有孔板材10および第2有孔板材11の双方の一例としては、六角形に穿設形成された多数の孔部10a、11aが蜂の巣状に配列した薄肉な鋼材製のパンチングメタル(例えば、厚み寸法tが0.05mm〜3.0mm)を採用している。
【0025】
パンチングメタルは、磁性体である鋼板や高張力鋼板などの平坦な金属板に孔部10aを高密度に配したものである。第1有孔板材10および第2有孔板材11は補強材として機能する限り、鋼板製のパンチングメタルのみならず、磁性材製のメッシュ板、面状織物、エキスパンドメタル、あるいは磁性が付与された樹脂などの非金属板から形成してもよい。
【0026】
インサート成型装置2は、
図2に示すように、例えば、上型3aと下型3bとを有する成形金型3を備えている。上型3aと下型3bとの間にはキャビティ4aが形成され、キャビティ4aの内面プロフィールに基づいてインサート成型体1の外郭形状が樹脂パネルとして定められる。
【0027】
インサート成型装置2においては、成形金型3のキャビティ4a内に、多数の孔部10a、11aが穿設形成された第1有孔板材10および第2有孔板材11を上下に平行状態で配置する。この状態で、キャビティ4a内に溶融樹脂4を注入充填して溶融樹脂4と第1有孔板材10および第2有孔板材11とが一体となったインサート成型体1を成型する。キャビティ4aの互いに平行状態で図示上下に対向する内側部を第1内面部4cおよび第2内面部4dとする。
【0028】
インサート成型方法において、成形金型3に注入充填する溶融樹脂4としては、一般に熱可能性および熱硬化性の双方の樹脂を含む。インジェクション成型または注入成型可能(樹脂成型可能)であれば、溶融樹脂4は、エンジニアリングプラスチックを含むポリプロピレン、ポリスチレン、エポキシあるいはポリウレタンなどの樹脂群からの一つを選択可能で、成型樹脂の種類は問わない。この場合、比較的的安価な樹脂を選択することで、インサート成型体1の製造コストの低減化に寄与することができる。
【0029】
成形金型3における下型3bの図示左方には、溶融樹脂4の注入ゲート5が形成され、下型3bの中央部近傍には、射出成形終了時にインサート成型体1を取り出すための押出ピン5Aが摺動可能に設けられている。押出ピン5Aを挟む図示左右両側には、後述する支持棒7を挿通させるために、所定の外径を有する挿通孔6が下型3bの内底部を貫通する状態に設けられている。
【0030】
各挿通孔6には、所定の長さおよび外径を有する支持棒7が一対の操作桿を構成し、軸方向に沿って摺動変位可能に挿通されている。この支持棒7の外郭形状は、挿通孔6と同形で同一寸法となっており、後述する駆動手段8によりキャビティ4aに対して前進と後退の双方向に往復駆動されるようになっている(駆動工程)。
これにより、成形金型3の上型3aおよび下型3bの双方には、それぞれ一対の操作桿を構成する支持棒7が駆動手段8によりキャビティ4aに対して前進と後退の双方向に往復駆動されることを意味する。
【0031】
成形金型3における上型3aの図示左右両側には、所定の外径を有する挿通孔6aが上型3aの天井部3eを貫通する状態に設けられている。
各挿通孔6aには、下型3bと同様な支持棒7が一対の操作桿を構成し、下型3bと同様な駆動手段8によりキャビティ4aに対して前進と後退の双方向に往復駆動されるようになっている(駆動工程)。
【0032】
駆動手段8での各支持棒7の先端部には、電磁石コイル15が取り付けられている。電磁石コイル15は、制御装置16aにより、後述するように第1有孔板材10および第2有孔板材11の各位置に応じて通電と無通電を制御するように構成されている。
挿通孔6、6a内には、電導筒15aが緊密に嵌合されており、支持棒7とともに電磁石コイル15が電導筒15aを介して挿通孔6、6aに挿通する状態にある。これにより、電磁石コイル15が電導筒15aを介して制御装置16aに接続された状態となる。
駆動手段8は、例えば、ピストン17とシリンダ18を備えた往復機構を用いており、蓄油タンクTsを有する電動装置あるいは油圧装置Psにより駆動される。
【0033】
ピストン17は、支持棒7の図示下端と一体的に連結されており、例えば圧縮コイルスプリング19により、支持棒7がキャビティ4aの中央部Pxから第1内面部4c(第2内面部4d)の存する第1原点位置U0(第2原点位置V0)に戻る方向に常に付勢している。この際、油圧装置Psによる駆動手段8の起動は、プログラム化したCPU(図示せず)が内蔵されたコントローラ20によって制御される。
【0034】
インサート成型方法において、キャビティ4aに対する溶融樹脂4を溶融流4hとして注入充填する前段階、すなわち、成形金型3の型開き状態で、第2有孔板材11を第2内面部4dの第2原点位置V0に設置するために下型3bにおける電磁石コイル15が通電されている。
【0035】
これにより、
図3(a)に示すように、第2有孔板材11が第2内面部4dに設置された第2原点位置V0で電磁石コイル15に吸着された状態にある。
この状態で、キャビティ4aに対する溶融樹脂4の注入が始まり、溶融樹脂4の注入充填満了に伴う保圧状態となる。この注入充填満了時において、第2有孔板材11(第1有孔板材10)が後述するように、第2原点位置V0(第1原点位置U0)から中央部Pxの方向に所定量だけ往移動した後、第2停止位置P4(第1停止位置P3)への復移動が行われる。充填満了とは、充填終了間際を含む充填最終段階の過程であってもよい。
【0036】
しかして、第2有孔板材11が電磁石コイル15に吸着された状態で、駆動手段8により下型3bの支持棒7が、
図3(b)に示すように、キャビティ4a内に進出する。このため、第2有孔板材11が第2内面部4dに設置された第2原点位置V0からキャビティ4aの中央部Pxの方向に所定量として距離P1だけ往移動で進出(上昇)する(再配置工程)。
この第2有孔板材11の進出(上昇)過程では、溶融流4hが第2有孔板材11の孔部11aを積極的に通過する下降溶融流として生じている(
図3(b)の矢印参照)。
【0037】
第2有孔板材11を中央部Pxの方向に距離P1だけ往移動させた後、復移動で第2内面部4dの近傍にまで後退させて戻した第2停止位置P4で第2有孔板材11を停止させる(
図4(d)参照)。この時、第2有孔板材11から第2内面部4dに至るまでには、距離P2だけ隔てている。つまり、第2有孔板材11は、第2内面部4dから中央部Pxの方向に距離P2だけ離間している。
【0038】
第2有孔板材11が第2停止位置P4に復移動により後退(下降)する過程では、溶融流4hが第2有孔板材11の孔部11aを積極的に通過する上昇溶融流として生じている(
図4(c)の矢印参照)。
この後、下型3bの電磁石コイル15が無通電となり、駆動手段8により下型3bの支持棒7が
図5に示すように、電磁石コイル15と一緒にキャビティ4aから後退移動させられる。
【0039】
この時、第2有孔板材11に対する電磁石コイル15の吸着は解除されているため、第2有孔板材11を第2停止位置P4に残したまま電磁石コイル15が支持棒7と一緒にキャビティ4aから後退移動する。駆動手段8の作動が止まって支持棒7が移動を停止した時には、第1原点位置V0で電磁石コイル15の頭部15cが第2内面部4dと面一になっている(
図5参照)。
【0040】
この過程で、保圧状態でキャビティ4aに対する溶融樹脂4の充満流動が行われてキャビティ4aが樹脂材3Aで充填満了となる。
再配置工程では、キャビティ4aに対する溶融樹脂4の注入後の充填満了の保圧状態で、支持棒7は上型3aでも下型3bと同様な作動を行う。このため、第1有孔板材10の移動変位は、専ら
図1に基づく説明となる。
【0041】
すなわち、上型3aの電磁石コイル15で第1有孔板材10を吸着した支持棒7が第1原点位置U0からキャビティ4aの中央部Pxの方向に往移動で進出する。この後、第1有孔板材10が支持棒7により復移動で第1停止位置P3まで戻る。
第1停止位置P3で、上型3aの電磁石コイル15が無通電となり、支持棒7が第1有孔板材10を第1停止位置P3に残したまま第1原点位置U0に後退して戻る。そして、駆動手段8の作動が止まった時には、上型3の電磁石コイル15の頭部15cが第1内面部4cと面一になっている。
【0042】
第1有孔板材10の進出過程では、第2有孔板材11の場合と同様に、溶融流4hが第1有孔板材10の孔部10aを積極的に通過する上昇溶融流として生じている。
また、第2有孔板材11の場合と同様に、第1有孔板材10が第1停止位置P3に復移動により後退する過程では、溶融流4hが第1有孔板材10の孔部10aを積極的に通過する下降溶融流として生じている。
この過程で、上型3aでも下型3bと同時に、キャビティ4aに対する溶融樹脂4の保圧状態で充満流動が行われてキャビティ4aが樹脂材3Aで充填満了となる。
【0043】
再配置工程完了後の成型が終了すると、タイマー制御(図示せず)により駆動機構(図示せず)を介して成形金型3の型開きを行なう(
図6参照)。
型開き後には、押出ピン5Aを押出駆動してインサート成型体1をロット製品として成形金型3から外部に取り出す。
【0044】
ここで、駆動手段8を
図7に示す駆動ブロック図で説明する。成形金型3の型開き状態で、第1有孔板材10を第1原点位置U0に設置し、第2有孔板材11を第1原点位置U0に設置するに伴い、CPU化されたコントローラ20により上型3aおよび下型3bの電磁コイル15が制御装置16aを介して通電される。これにより、上型3aの電磁コイル15が上型3aの第1有孔板材10を吸着するとともに、下型3bの電磁コイル15が下型3bの第2有孔板材11を吸着する。
ついで、油圧装置Psが駆動され、蓄油タンクTsからの油圧を往復機構のシリンダ
18に圧送し、ピストン17を圧縮コイルスプリング19の付勢力に抗して押し上げる。これにより、支持棒7を前進移動させ、第1有孔板材10および第2有孔板材11を中央部Pxの方向にそれぞれ往移動させる。
【0045】
この移動位置を往移動センサー(図示せず)が検知し、コントローラ20が油圧装置Psを逆方向に作動させる。これにより、シリンダ18から油圧が抜き出されてピストン17を圧縮コイルスプリング19の付勢力に助けられながら引き下げて後退移動させる。これに伴い、支持棒7が後退移動し、第1有孔板材10を第1停止位置P3に復移動で戻し、第2有孔板材11を第2停止位置P4に復移動で戻す。これを復移動センサー(図示せず)が検知して復移動信号をコントローラ20に送る。
【0046】
これにより、上型3および下型3bの電磁コイル15が制御装置16aを介して無通電となる。この際、第1有孔板材10および第2有孔板材11に対する電磁コイル15の吸着が解除されるため、第1有孔板材10および第2有孔板材11がそれぞれ電磁コイル15から解放される。
【0047】
これに伴い、電磁コイル15が第1有孔板材10を第1停止位置P3に残し、第2有孔板材11を第2停止位置P4に残したまま支持棒7と一緒に後退し、電磁コイル15の頭部15aを第1原点位置U0(第2原点位置V0)で第1内面部4c(第2内面部4d)と面一とする元の状態に戻す。
これを復帰センサー(図示せず)が検知し、復帰信号をコントローラ20に送って油圧装置Psの駆動を停止する。
【0048】
なお、上記で用いた上型3aの第1原点位置U0と上型3bの第2原点位置V0とは、「原点位置」という点で共通の概念を有する。第1停止位置P3と第2停止位置P4とは、「停止位置」という点で共通の概念を有する。このため、第1原点位置U0は「上型原点位置U0」とし、第2原点位置V0は「下型原点位置V0」としてもよい。また、同様に、第1停止位置P3を「上型停止位置P3」とし、第2停止位置P4を「下型停止位置P4」としてもよい。
【0049】
〔実施例1の効果〕
実施例1では、第1有孔板材10(第2有孔板材11)を第1内面部4c(第2内面部4d)の第1原点位置U0(第2原点位置V0)からキャビティ4aの中央部Pxの方向に所定量だけ往移動で戻させ、その後に第1内面部4c(第2内面部4d)の近傍に再び復移動させて戻り配置する。
【0050】
これにより、キャビティ4aに対する溶融樹脂4の注入充填の満了の保圧状態時、第1有孔板材10(第2有孔板材11)は、往移動および復移動に伴って各孔部10a、11aに溶融流4hを積極的に通過させるようになる。
すなわち、
図3(b)および
図4(c)に示すように、第1有孔板材10(第2有孔板材11)の進退変位に伴なって、溶融流4hが孔部10a、11aを盛んに通過することにより、溶融樹脂4内で積極的な下降溶融流と上昇溶融流とが交互に発生するようになる。
【0051】
これに伴い、第1有孔板材10(第2有孔板材11)とキャビティ4aの第1内面部4c(第2内面部4d)との間の背面である僅少な隙間Pwに十分な樹脂材3Aの溶融流4hが効果的に回って行き届く。このため、第1有孔板材10(第2有孔板材11)は、成形金型3のキャビティ4a内で溶融樹脂4と満偏なく十分接触して溶融樹脂4との濡れ性が高くなっている。
【0052】
この結果、樹脂材3Aと第1有孔板材10(第2有孔板材11)との接着一体性が強化された稠密充填が可能となって全体の機械的強度が著しく向上する頑強なロット製品(例えば、樹脂パネル)の製作が可能となる。
なお、樹脂材3Aとして熱硬化樹脂を用いた場合、樹脂材3Aが重合収縮により第1有孔板材10(第2有孔板材11)の全面を均等に締め付けるため、さらに接着一体性が強化された稠密充填が可能となる。また、インジェクションモールドを用いた場合にも、樹脂材3Aの熱収縮作用により重合収縮と同様な稠密結合が可能となる。
【実施例2】
【0053】
図8は本発明の実施例2を示す。実施例2では、実施例1における第1有孔板材10の中央部Pxに対面する内側には、予め単線あるいは撚線から成る信号線40を固定手段(図示せず)を介して取付けている。
これにより、キャビティ4aに溶融樹脂4を充填満了に伴い、第1有孔板材10に加えて信号線40をインサート成型により溶融樹脂4(樹脂材3A)と一体に埋設成型することができる(
図8(a)、(b)参照)。
【0054】
インサート成型体1を車両の備品(エンジンの仕切壁、天井、床)などに使用する場合、インサート成型体1(例えば、樹脂パネル)に対する信号線の取付け作業が要らなくなり作業性が向上する。しかも、信号線40の周囲は、樹脂材3Aで電気絶縁体であるため、信号線40は裸線でもよい。
信号線は、インサート成型体1の適用関連品として埋設して用いるので、信号線40は被埋設体として第1有孔板材10や第2有孔板材11と対応する特別な技術的特徴(STF)を有するものである。
【0055】
なお、信号線40は、第1有孔板材10の代わりに、第2有孔板材11に取り付けてもよい。また、信号線40は、複数の電線を束ねて成るワイヤハーネス(図示せず)としてもよい。
【0056】
〔変形例〕
(1)本発明の各実施例1、2では、少ない樹脂の充填量で高強度を確保すべく、強い圧力を負担する射出成型(インジェクションモールド成型)でインサート成型体1を形成可能だが、一般的な注入成型を用いてもよい。
(2)支持棒7の本数については、左右配置型の一対に限らず、単一、あるいは三本、四本などといったように複数であってもよい。
(3)第1有孔板材10(第2有孔板材11)が第1停止位置P3(P4)でそれぞれ停止するタイミングや、電磁コイル15が第1有孔板材10および第2有孔板材11を解放するタイミングは使用状況や適用対象などに応じて所望に設定してもよい。
【0057】
(4)有孔板材10、11の孔部10a、11aは六角形に限らず、円形、矩形、楕円形、五角形、六角形などの多角形に例示されるように使用状況や適用対象に応じて種々の形状に変更してもよい。この場合、挿通孔6、6aの各形状も、孔部10a、11aに応じた外郭形状および内郭形状となる。
【0058】
(5)本発明の各実施例1、2では、第1有孔板材10(第2有孔板材11)として平坦状のパンチングメタルを用いたが、平坦状に限らず、曲面状であってもよく、あるいは、パンチングメタルの強度分布に変化を持たせるため、孔部の密度分布または開口密度を形成箇所ごとに変更させてもよい。
【0059】
(6)また、上記の各実施例1、2では、溶融樹脂4の注入充填満了に伴う保圧状態時、第2有孔板材11(第1有孔板材10)を第2原点位置V0(第1原点位置U0)から中央部Pxの方向に所定量だけ往移動した後、第2停止位置P4(第1停止位置P3)への復移動を行っている。
しかしながら、第2有孔板材11(第1有孔板材10)が中央部Pxの方向に所定量だけ往移動した後、第2停止位置P4(第1停止位置P3)への復移動することを省き、第2有孔板材11(第1有孔板材10)を第2原点位置V0(第1原点位置U0)から直接的に第2停止位置P4(第1停止位置P3)に移動させて停止状態としてもよい。