特許第6330172号(P6330172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6330172
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0426 20170101AFI20180521BHJP
【FI】
   H04B7/0426 100
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-21876(P2014-21876)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-149639(P2015-149639A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年1月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「漏洩同軸ケーブルによる高密度配置リニアセルMIMOシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】侯 亜飛
(72)【発明者】
【氏名】塚本 悟司
(72)【発明者】
【氏名】有吉 正行
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−090044(JP,A)
【文献】 特開2005−086655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02−7/12
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信をするための無線通信システムであって、
前記MIMO通信の信号を受信するための少なくとも1つの移動装置と、
前記MIMO通信の信号を送信するための送信装置とを備え、前記送信装置は、
両端に設けられる第1および第2の給電部と複数の漏洩スロットとを有する漏洩ケーブルと、
前記漏洩ケーブルをアンテナとして前記複数の系統の信号についてMIMO通信を行うための送信部と、
前期送信部と前記漏洩ケーブルの給電部の間にそれぞれ配置され、前記送信部から前記漏洩ケーブルに対して供給される送信信号の強度を調整するための第1および第2の送信電力調整部と、
前記移動装置それぞれの位置に応じて、MIMO伝送路の品質の指標に基づき、前記第1および第2の送信電力調整部による調整量を制御する制御部とを備え
前記制御部は、前記移動装置それぞれの前記位置を検出するための位置検出手段を含み、
前記第1および第2の送信電力調整部による調整量を、前記位置に対して定められた関数値となるように設定する、無線通信システム。
【請求項2】
前記関数値は、予め実施される測定、シミュレーション、または理論式計算のいずれかを含む推定に基づき、
前記第1の給電部から供給される信号と前記第2の給電部から供給される信号の前記位置における受信電力の差が、所定量以下となるように設定する、請求項記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記移動装置は、鉄道車両であって、
前記位置検出手段は、鉄道の運行管理システムからの情報に基づいて、前記位置を検出する、請求項記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記位置検出手段は、前記移動装置から送信され前記漏洩ケーブルを伝達してきた信号の前記第1および第2の給電部での到達時間差または電力差に基づいて、前記位置を検出する、請求項記載の無線通信システム。
【請求項5】
複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信を、少なくとも1つの移動装置との間で行うための無線通信装置であって、
両端に設けられる第1および第2の給電部と複数の漏洩スロットとを有する漏洩ケーブルと、
前記漏洩ケーブルをアンテナとして前記複数の系統の信号についてMIMO通信の信号の送信を行うための送信部と、
前期送信部と前記漏洩ケーブルの給電部の間にそれぞれ配置され、前記送信部から前記漏洩ケーブルに対して供給される送信信号の強度を調整するための第1および第2の送信電力調整部と、
前記移動装置のそれぞれ位置に応じて、MIMO伝送路の品質の指標に基づき、前記第1および第2の送信電力調整部による調整量を制御する制御部とを備え
前記制御部は、前記移動装置の前記位置を検出するための位置検出手段を含み、
前記第1および第2の送信電力調整部による調整量を、前記位置に対して定められた関数値となるように設定する、無線通信装置。
【請求項6】
前記関数値は、予め実施される測定、シミュレーション、または理論式計算のいずれかを含む推定に基づき、
前記第1の給電部から供給される信号と前記第2の給電部から供給される信号の前記位置における受信電力の差が、所定量以下となるように設定する、請求項記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記移動装置は、鉄道車両であって、
前記位置検出手段は、鉄道の運行管理システムからの情報に基づいて、前記位置を検出する、請求項記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記位置検出手段は、前記移動装置から送信され前記漏洩ケーブルを伝達してきた信号の前記第1および第2の給電部での到達時間差または電力差に基づいて、前記位置を検出する、請求項記載の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩ケーブルを介してMIMO(Multiple Input - Multiple Output)通信を行う無線通信システムおよび無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
漏洩同軸ケーブルに代表される漏洩ケーブルは、高周波ケーブルに複数の小アンテナ(スロット)を設けたもので、スロットで送受信される高周波により、ケーブル沿いに連続的な無線エリアを形成可能である。このような漏洩同軸ケーブルによる無線通信は、たとえば、日本の東海道新幹線のデジタル列車無線にも利用されている(たとえば、非特許文献1を参照)。あるいは、屋内を無線LANシステムで面内にカバーするための方法として、漏洩同軸ケーブルを配置する方法も提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、MIMO伝送は送受それぞれ複数のアンテナを用いることによって同一周波数で複数の通信信号を多重伝送する技術である。漏洩ケーブルによる通信とMIMO伝送を組み合わせ、かつ1本の漏洩ケーブルでMIMO伝送を実現する方法が特許文献2に示されている。
【0004】
図4は、特許文献2に開示された、従来の無線システムの構成を示す概念図である。
【0005】
図4では、漏洩ケーブルを用いて2×2(送信側アンテナ2本、受信側アンテナ2本)のMIMO伝送を行う従来の無線システムの構成例を示す。無線通信システム2000において、送信装置2100の一方の系統の送信出力は漏洩ケーブル2110の一方の端点に設けられた給電装置2114−1に接続され、送信装置2100の他方の系統の送信出力は漏洩ケーブル2110の他方の端点に設けられた給電装置2114−2に接続される。ここで、給電装置2114−1および給電装置2114−2は、送信装置2100から漏洩ケーブル2110へ信号を送出するための装置である。一方、MIMO方式の端末装置2200は2本のアンテナ2210−1および2210−2を備える。
【0006】
送信装置2100には、信号S1および信号S2が供給される。送信装置2100に入力された信号S1は、変調、増幅などの後、漏洩ケーブル2110へ給電装置2114−1から入力され、図4の左から右に向かって漏洩ケーブル2110中を進行しながら、途中のスロット2112−1,2112−2,2112−3より順次放射される。
【0007】
一方、送信装置100に入力された信号S2は、同様に変調、増幅などの後、漏洩ケーブル2110へ給電装置114−2から入力され、図4の右から左に向かって漏洩ケーブル2110中を進行しながら、途中のスロット2112−3,2112−2,2112−1より順次放射される。
【0008】
放射された各送信信号は、空間で合成されて端末装置2200のアンテナ2210−1、アンテナ2210−2で受信される。端末装置2200の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号S1,S2を再生し出力する。
【0009】
図5は、漏洩ケーブル2110における信号の伝達状況を、伝達関数によって詳細に示した説明図である。
【0010】
図5では、漏洩ケーブル2110のスロット数が3の場合について示しており、図5(a)はアンテナ2210−1との伝達関数を、図5(b)はアンテナ2210−2との伝達関数を表している。
【0011】
図5(a)に示されるように、給電装置2114−1,2114−2から入力された信号は、漏洩ケーブルのスロット2112−1,2112−2,2112−3を介してアンテナ2210−1に到達する。したがって、伝達関数hnm,kを、漏洩ケーブル2110の給電装置2114−nからスロット2112−mを介してアンテナ2210−kに到達する伝搬路の伝達係数とし、給電装置2114−1からの入力信号をX1、給電装置2114−2からの入力信号をX2とすれば、アンテナ2210−1での受信信号Y1は、式(1)で表される。
【0012】
【数1】
一方、図5(b)に示されるように、アンテナ2210−2での受信信号Y2は式(2)で表される。
【0013】
【数2】
各伝達関数hnm,kは、その伝達経路がそれぞれ異なるため独立な値をとり、その和もまた独立である。したがって、給電装置2114−1,2114−2からアンテナ2210―1,2210−2への伝達関数は、式(3)のチャネル行列によって表現できる。
【0014】
【数3】
ただし、以下のように定義されているものとする。
【0015】
【数4】
H11、H21、H12、H22の各要素は独立であるので、図5の構成により2×2のMIMO伝送が可能である。
【0016】
ところで、式(3)の関係で表されるMIMO伝送路の状態(伝送路としての良否の程度)は、状態数(condition number)という指標により評価できることが知られている(非特許文献2)。状態数は小さいほど良好なMIMO伝搬路であり、状態数が大きいMIMO伝搬路では、信号系列を分離する際に、信号系列間の分離度を高めるために高いS/N比(信号対雑音比)を要し、伝送特性が劣化する。
【0017】
すなわち、「状態数」は、MIMOチャネル行列の最大特異値と最小特異値の比から求められる。チャネル行列係数の小さな推定誤差により、MIMO伝送路からの信号の復号に小さな誤差しか生じない場合は、「コンディションの良い系」ということができる。係数の小さな誤差が信号の復号に大きな影響を与える可能性がある場合は、システムのコンディションは良くない。状態数は、このようなシステムのコンディションの指標であり、通常、dB単位の数値で表される。
【0018】
漏洩ケーブルの給電点から受信点までの信号減衰量は、漏洩ケーブル内の伝送距離に比例(ただしdB表示で)した伝送損失LTと、ケーブルから受信点への距離に依存した結合損失LCの和で表される(非特許文献3)。ここで、給電装置2114−1から給電された信号X1と、給電装置2114−2から給電された信号X2が、端末装置2200で受信されるまでの減衰量をそれぞれ求めると、結合損失LCは共通であるので、両者の間には伝送損失LTに起因した差が生じることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2011-71704号公報
【特許文献2】特開2013-90044号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】岩永伸理、千田晴康、越馬淳、久保博嗣、「東海道新幹線デジタル列車無線システム」、三菱電機技報2009年6月号、pp.367-370
【非特許文献2】塚本悟司、阿野進、前田隆弘、伴弘司、小林聖、「単一漏洩同軸ケーブルによる2×2MIMOシステムの一検討」、2013年電子情報通信学会総合大会予稿集、B-1-220
【非特許文献3】鈴木文生、「2.4GHz無線LAN用細径漏洩同軸ケーブルLCX-5D」、フジクラ技報、No.123、pp.92-95、2012年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図6は、漏洩同軸ケーブルを伝搬して端末装置2200で受信される受信信号電力の減衰を示す図である。
【0022】
図6(a)は、図6(b)のように定めた座標系にて、端末装置2200に到来する信号X1および信号X2の受信電力を、水平位置xに対して模式的に示したものである。端末装置2200が漏洩ケーブル2110の中央付近に位置する場合、信号X1とX2はいずれもほぼ同じ程度の信号電力で端末装置2200に到達するが、端末装置2200が漏洩ケーブル110のいずれかの給電装置側に偏って位置する場合、受信された信号電力間に無視できない差異が生じる。
【0023】
このような場合には、前述の状態数が大きくなり、MIMO伝搬路としては不適となる傾向が知られる。式(8)、(9)は、非特許文献2で実際に計測された伝達関数H11〜H22の二例を示している。
【0024】
【数5】
ここで、信号X1の電力は(H11)2+(H12)2により、信号X2の電力は(H21)2+(H22)2で求められる。 式(8)の場合、信号X1とX2の電力比は0.59dBであり、状態数も4.7dBと小さいが、式(9)の場合、電力比が3.9dBと大きく、状態数も5.8dBと式(8)より大きくなっていることがわかる。このため、MIMO伝送を行う際に、伝送品質が劣化する問題があった。
【0025】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、漏洩ケーブルに対する移動無線装置の位置関係によらず、常に良好なMIMO伝送を可能とする無線通信システムおよび無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この発明の1つの局面に従うと、複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信をするための無線通信システムであって、MIMO通信の信号を受信するための少なくとも1つの移動装置と、MIMO通信の信号を送信するための送信装置とを備え、送信装置は、両端に設けられる第1および第2の給電部と複数の漏洩スロットとを有する漏洩ケーブルと、漏洩ケーブルをアンテナとして複数の系統の信号についてMIMO通信を行うための送信部と、前期送信部と漏洩ケーブルの給電部の間にそれぞれ配置され、送信部から漏洩ケーブルに対して供給される送信信号の強度を調整するための第1および第2の送信電力調整部と、移動装置それぞれの位置に応じて、MIMO伝送路の品質の指標に基づき、第1および第2の送信電力調整部による調整量を制御する制御部とを備える。
【0028】
好ましくは、関数値は、予め実施される測定、シミュレーション、または理論式計算のいずれかを含む推定に基づき、第1の給電部から供給される信号と第2の給電部から供給される信号の位置における受信電力の差が、所定量以下となるように設定する。
【0029】
好ましくは、移動装置は、鉄道車両であって、位置検出手段は、鉄道の運行管理システムからの情報に基づいて、位置を検出する。
【0030】
好ましくは、位置検出手段は、移動装置から送信され漏洩ケーブルを伝達してきた信号の第1および第2の給電部での到達時間差または電力差に基づいて、位置を検出する。
【0031】
この発明の他の局面に従うと、複数の系統の信号について、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信を、少なくとも1つの移動装置との間で行うための無線通信装置であって、両端に設けられる第1および第2の給電部と複数の漏洩スロットとを有する漏洩ケーブルと、漏洩ケーブルをアンテナとして複数の系統の信号についてMIMO通信の信号の送信を行うための送信部と、前期送信部と漏洩ケーブルの給電部の間にそれぞれ配置され、送信部から漏洩ケーブルに対して供給される送信信号の強度を調整するための第1および第2の送信電力調整部と、移動装置のそれぞれ位置に応じて、MIMO伝送路の品質の指標に基づき、第1および第2の送信電力調整部による調整量を制御する制御部とを備える。
【0033】
好ましくは、関数値は、予め実施される測定、シミュレーション、または理論式計算のいずれかを含む推定に基づき、第1の給電部から供給される信号と第2の給電部から供給される信号の位置における受信電力の差が、所定量以下となるように設定する。
【0034】
好ましくは、移動装置は、鉄道車両であって、位置検出手段は、鉄道の運行管理システムからの情報に基づいて、位置を検出する。
【0035】
好ましくは、位置検出手段は、移動装置から送信され漏洩ケーブルを伝達してきた信号の第1および第2の給電部での到達時間差または電力差に基づいて、位置を検出する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、移動する無線装置に対する通信において、漏洩同軸ケーブルの両端給電部からの送信信号について、非対称な伝送損がある場合でも、伝送特性の劣化を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】無線通信システム1000の構成を示すブロック図である。
図2】制御器130により制御される可変減衰器140−1、140−2の減衰量を示した図である。
図3】伝達関数に補正を加えたことによる状態数の変化を示す図である。
図4】従来の無線システムの構成を示す概念図である。
図5】漏洩ケーブル2110における信号の伝達状況を、伝達関数によって詳細に示した説明図である。
図6】漏洩同軸ケーブルを伝搬して端末装置2200で受信される受信信号電力の減衰を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態の無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0039】
なお、以下で説明するようなシステムでの送信装置100と端末装置200との通信は、ダウンリンク(送信装置100から端末装置200)の通信を主として説明する。
【0040】
図1は、無線通信システム1000の構成を示すブロック図である。
【0041】
図1に示したのは、2×2のMIMO伝送を実現するシステムの構成の例である。
【0042】
送信装置100には、信号S1および信号S2が供給される。送信装置100に入力された信号S1は、変調、増幅などの後、信号X1として可変減衰器140−1を介して給電装置114−1から漏洩ケーブル110の一方端へ入力され、図1の左から右に向かって漏洩ケーブル110中を進行しながら、途中のスロット112−1,112−2,112−3より順次放射される。一方、送信装置100に入力された信号S2は、同様に変調、増幅などの後、信号X2として可変減衰器140−2を介して給電装置114−2から漏洩ケーブル110へ他方端へ入力され、図1の右から左に向かって漏洩ケーブル110中を進行しながら、途中のスロット112−3,112−2,112−1より順次放射される。
【0043】
なお、給電装置114−1および114−2の構成は、たとえば、サーキュレータを用いることができ、特許文献2に開示されたのと同様の構成とすることができる。
【0044】
放射された各送信信号は、空間で合成されて端末装置200のアンテナ210−1、アンテナ210−2で受信される。端末装置200の受信部は、受信された信号を系統毎に分離し、信号S1,S2を再生し出力する。
【0045】
一方、端末位置検出器120は、端末装置200の位置を、漏洩ケーブル110によって形成されるサービスエリアに固有の座標系を用いて検出する。
【0046】
図1では、給電装置114−1の位置を原点(x=0)とし、端末装置200の位置(x=D)を一次元の座標系で検出する例を示している。
【0047】
また、具体的な位置の検出方法としては、たとえば、以下のような方法が挙げられる。
【0048】
i)端末装置200に、GPS(Global Positioning System)などの測位装置が搭載されている場合、端末装置200から送信装置100に対して、測位装置で得られる位置情報(たとえば、緯度・経度情報)を送信する。送信装置100では、端末装置200からの位置情報を常時モニタする。あるいは、必要に応じて、送信装置100で、受信した位置情報により、位置をモニタする処理と、所定時間後の端末装置200の位置を推定する処理を組み合わせて、位置のモニタの頻度を低減するようにしてもよい。
【0049】
なお、測位装置としては、GPSに限らず、準天頂衛星、GLONASS、Galileo、Compassのような他の衛星測位システムに対する測位装置であってもよい。また、測位装置は、衛星測位システムに対応するものだけでなく、たとえば、他の無線ビーコン信号などを用いた測位システムであってもよい。
【0050】
ii)鉄道車両のように所定の軌道上を移動する移動体に搭載される端末装置であれば、走行中の移動体の位置(たとえば、車両の位置)を、運行管理システムなどが示すキロ程を検出する方法などを用いてもよい。運行管理システムが移動体の位置を検知する手法については、たとえば、以下の文献に開示がある。この場合、送信装置100は、運行管理システムから位置情報の送信を受ける運行管理システム外の装置であってもよいし、運行管理システムと連携して動作する運行管理システムの管理下の装置であってもよい。
【0051】
文献:特開2013−258847号公報明細書
iii)あるいは、端末装置200から漏洩ケーブル110に向けて信号を送信するシステムであれば、漏洩ケーブル110の両端からそれぞれ得られる受信信号の到達時間差、あるいは電力差を用いて推定する方式であってもよい。この場合、受信信号の到達時間を決定するためには、特に限定されないが、たとえば、給電装置114−1および給電装置114−2における計時装置が、制御器130との間で伝搬時間をキャンセルすることで時刻同期しており、この計時装置によりそれぞれ到達時刻を決定する構成としてもよい。または、給電装置114−1および給電装置114−2に対してブロードキャストされる時刻情報(たとえば、GPS衛星からの時刻情報や、デジタル放送の放送波に重畳される時刻情報など)に基づいて、それぞれ、給電装置114−1および給電装置114−2の計時装置において、時刻が調整されることとしてもよい。
【0052】
端末装置200からは、たとえば、所定の信号(パイロット信号など)が定期的に送信され、給電装置114−1および給電装置114−2は、この所定の信号が受信された時刻情報を、端末位置検出器120に通知する構成としてもよい。あるいは、この所定の信号が受信された時点の信号電力を、端末位置検出器120に通知する構成としてもよい。
【0053】
この場合、たとえば、到達時間差または受信電力差と、端末装置200の位置との関係を、予めテーブルにしておくことで、端末位置検出器120において、端末装置200の位置を検出することができる。
【0054】
以上のようにして、端末装置200の位置が特定されると、次に、制御器130は、端末位置検出器120が検出した端末位置に基づき、可変減衰器140−1、140−2の減衰量を制御する。
【0055】
図2は、図6(a)に示したのと同一の座標系を使用した場合に、制御器130により制御される可変減衰器140−1、140−2の減衰量を示した図である。
【0056】
図2では、座標xに対し図6(a)のような受信信号電力が得られるサービスエリアにおいて、位置xにおける端末装置200での信号X1、X2それぞれの受信電力が互いに等しくなるように制御する場合を示している。
【0057】
たとえば、図2中において、移動する端末装置200がx=Dの位置にある場合は、可変減衰器140−1の減衰量は可変減衰器140−2の減衰量よりも小さく設定される。結果として、給電装置114−1に供給される送信信号の電力は、給電装置114−2に供給される送信信号の電力よりも大きくなり、位置x=Dにおいて、信号X1、X2それぞれの受信電力が互いに等しくなる。
【0058】
なお、制御としては、位置x=Dにおいて、信号X1、X2それぞれの受信電力を完全に互いに等しくする必要まではなく、信号X1、X2それぞれの受信電力の差が所定の値以下となるように、減衰量を制御することとしたのでよい。このような所定の値は、たとえば、上述した状態数のようなMIMO伝送品質の指標が、一定レベル以上の品質を満たすように、事前の測定などにより設定される。
【0059】
なお、図2のような受信信号電力の減衰量についての情報は、漏洩ケーブルの伝送損失および結合損失の特性から計算により求める方法や、事前にサービスエリア内の受信電力分布を測定し、座標xの関数となるように記録しておく方法などを用いても良い。さらに、MIMO伝送品質の指標としては、信号X1、X2それぞれの受信電力が互いに等しくなる、あるいは所定の値の範囲でそろうようにする制御以外にも、直接、状態数というMIMO伝送路の良否を表す指標値が、良好であることを示す所定範囲の値となるような制御も好ましい。
【0060】
また、移動する端末装置200の位置は、1次元で特定される場合だけでなく、たとえば、2次元の位置(x,y)で特定されるものであってもよい。その場合は、端末装置200の位置に応じて、可変減衰器140−1および可変減衰器140−2の減衰量をどのように設定するかは、たとえば、事前にサービスエリア内の受信電力分布(または、状態数分布)を測定し、座標位置(x,y)の関数となるように、各々の減衰量のテーブルを事前に求めておくようにしてもよい。
【0061】
本実施の形態の効果を評価するため、まず、前述の式(8)、式(9)の伝達関数に関し、信号X1とX2の電力が等しくなるよう補正を加えた。この補正は、可変減衰器140−1,140−2による減衰量の付加と等価である。得られた伝達関数を式(10)、(11)に示す。
【0062】
【数6】
式(10)、(11)から求められる状態数はそれぞれ4.6dB、4.2dBであり、補正前(4.7dB、5.8dB)より小さくなっていることがわかる。
【0063】
図3は、伝達関数に補正を加えたことによる状態数の変化を示す図である。
【0064】
次に、図3(a)のように配置した漏洩ケーブルに対し、図3(a)に示すような座標系を定めて伝達関数を実測した。
【0065】
この場合、x=0[m]が漏洩ケーブル110の中央位置にあたる。
【0066】
得られた伝達関数に対し、X1とX2の電力が等しくなるよう補正を加え、この補正を適用する前の状態数γorigと後の状態数γpropの比(γorigprop)を求めた。γorigpropが大きい程、可変減衰器140−1,140−2による減衰量の付加による改善効果が高いと言える。
【0067】
図3(b)、(c)は、それぞれx=0[m](漏洩ケーブル中央位置)、x=5[m](漏洩ケーブル端点付近)での改善効果を示している。図3(b)、(c)からわかるように、本実施の形態の構成を用いると、受信信号電力の差が大きくなる、漏洩ケーブル端点付近にて高い効果が得られている。
【0068】
なお、以上の説明では、可変減衰器140−1,140−2により、減衰量を制御するものとして説明したが、補正のためには、漏洩ケーブル110の両端に可変増幅器を設ける構成としてもよい。そこで、本件明細書では、可変減衰器および可変増幅器を総称して、「可変電力調整器」と呼ぶ。なお、このような「可変電力調整器」は、漏洩ケーブルの給電部に設けられる必要はなく、送信装置100から給電部に至る経路の任意の位置に設ける構成とすることができる。
【0069】
以上のような構成により、移動する端末装置200に対する通信において、漏洩同軸ケーブルの両端給電部からの送信信号について、非対称な伝送損がある場合でも、伝送特性の劣化を改善できる。
【0070】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
100 無線装置、110 漏洩ケーブル、112−1,112−2,112−3,112−4 スロット、114−1,114−2 給電装置、120 端末位置検出器、130 制御器、140−1,140−2 可変減衰器、200 移動端末装置、210−1,210−2 アンテナ、1000 無線通信システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6