(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動力源としてエンジンのほかに電動モータを具え、前記エンジンにより駆動される機動ポンプからの作動媒体で制御される断接要素を介して、前記エンジンおよび無段変速機より成るエンジン駆動系が車輪に切り離し可能に駆動結合され、該断接要素を解放すると共に前記エンジンを停止させることで前記電動モータのみにより前記車輪を駆動する電気走行が可能であるほか、前記エンジンを始動させると共に前記断接要素を締結することで前記電動モータおよびエンジンにより前記車輪を駆動するハイブリッド走行が可能なハイブリッド車両において、
前記電気走行モードでの停車中に前記無段変速機が後退走行レンジにセレクト操作されたのを検知する後退セレクト検知手段と、
該手段による後退走行レンジへのセレクト操作が検知された時、前記エンジンの始動により前記無段変速機を変速可能状態となすエンジン始動手段と、
該変速可能状態の無段変速機を後退発進用の所定変速比に変速させる変速手段と、
該手段による変速の完了後に前記断接要素を締結させる断接要素締結手段と
を具備して成ることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる制御装置を具えたハイブリッド車両の駆動系に係わる全体制御システムを示す概略系統図である。
【0018】
ハイブリッド車両は、エンジン1および電動モータ2を動力源として搭載され、エンジン1は、スタータモータ3により始動する。
エンジン1は、Vベルト式無段変速機4を介して駆動車輪5に適宜切り離し可能に駆動結合し、Vベルト式無段変速機4は、概略を以下に説明するようなものとする。
【0019】
このVベルト式無段変速機4は、プライマリプーリ6と、セカンダリプーリ7と、これらプーリ6,7間に掛け渡したVベルト8とからなる無段変速機構CVTを主たる構成要素とする。
プライマリプーリ6はトルクコンバータT/Cを介してエンジン1のクランクシャフトに結合し、セカンダリプーリ7は副変速機31およびファイナルギヤ組9を順次介して駆動車輪5に結合する。
【0020】
副変速機31は、
図2に基づき後述する構成になり、セカンダリプーリ7の回転をファイナルギヤ組9に伝達しない中立状態と、セカンダリプーリ7の回転を回転方向不変のまま減速下にファイナルギヤ組9へ伝達する前進第1速選択(減速)状態と、セカンダリプーリ7の回転をそのままファイナルギヤ組9へ伝達する前進第2速選択(直結)状態と、セカンダリプーリ7の回転を回転方向逆転下および減速下にファイナルギヤ組9へ伝達する後退変速段選択(逆転)状態との間で状態切り替えされるものとする。
【0021】
かくして副変速機31の前進第1速選択(減速)状態、または前進第2速選択(直結)状態、或いは後退変速段選択(逆転)状態で、エンジン1からの動力はトルクコンバータT/Cを経てプライマリプーリ6へ入力され、その後Vベルト8、副変速機31およびファイナルギヤ組9を順次経て駆動車輪5に達し、ハイブリッド車両の走行に供される。
【0022】
かかるエンジン動力伝達中、プライマリプーリ6のプーリV溝幅を小さくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を大きくすることで、Vベルト8がプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を大きくされると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を小さくされ、Vベルト式無段変速機4はハイ側プーリ比へのアップシフトを行う。
逆にプライマリプーリ6のプーリV溝幅を大きくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を小さくすることで、Vベルト8がプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を小さくされると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を大きくされ、Vベルト式無段変速機4はロー側プーリ比へのダウンシフトを行う。
【0023】
電動モータ2はファイナルギヤ組11を介して駆動車輪5に常時結合し、この電動モータ2は、バッテリ12の電力によりインバータ13を介して駆動する。
インバータ13は、バッテリ12の直流電力を交流電力に変換して電動モータ2へ供給すると共に電動モータ2への供給電力を加減して、電動モータ2を駆動力制御および回転方向制御する。
【0024】
なお電動モータ2は、上記のモータ駆動のほかに発電機としても機能し、回生制動の用にも供する。
この回生制動時はインバータ13が、電動モータ2に回生制動力分の発電負荷をかけてこれを発電機として作用させ、電動モータ2の発電電力をバッテリ12に蓄電する。
【0025】
ところで本実施例における電動モータ2は、その冷却をコスト低減のため水冷式とせず、電動モータ2自身で駆動するファンからの空気により冷却する空冷式モータとするため、そしてファンが電動モータ2の前進走行用正転駆動時にモータ冷却風を発生する向きの傾斜羽根であることから、電動モータ2は、車両前進方向に対応する正転駆動にしか使用しないものとする。
なお本実施例の場合と異なるが、電動モータ2をコスト低減のため直流モータで構成する場合も、電動モータ2は構造上前進方向正回転駆動しかできないため、電動モータ2による後退走行は行われ得ない。
【0026】
図1につき上記した駆動系を具えるハイブリッド車両は、副変速機31を動力伝達不能な中立状態とし、エンジン1を停止させた状態で、電動モータ2を駆動すると、電動モータ2の正転駆動力のみがファイナルギヤ組11を経て駆動車輪5に達し、ハイブリッド車両は電動モータ2のみによる前進方向の電気走行(EV走行)を行うことができる。
この間、副変速機31を中立状態にしていることで、停止状態のエンジン1と無段変速機構CVTとを連れ回すことがなく、EV走行中の電力消費を抑制することができる。
【0027】
上記のEV走行状態においてエンジン1をスタータモータ3により始動させると共に、副変速機31を前進第1速選択(減速)状態または前進第2速選択(直結)状態にすると、エンジン1からの動力がトルクコンバータT/C、プライマリプーリ6、Vベルト8、セカンダリプーリ7、副変速機31およびファイナルギヤ組9を順次経て駆動車輪5に正回転状態で達するようになり、ハイブリッド車両はエンジン1および電動モータ2による前進方向のハイブリッド走行(HEV走行)を行うことができる。
【0028】
副変速機31を後退変速段選択(逆転)状態にすると、エンジン1からの動力がトルクコンバータT/C、プライマリプーリ6、Vベルト8、セカンダリプーリ7、副変速機31およびファイナルギヤ組9を順次経て駆動車輪5に逆回転状態で達するようになり、この後退時は電動モータ2を逆回転故に上記の通り使用せずに停止させておくことから、ハイブリッド車両はエンジン1のみによる後退方向のエンジン走行(CNV走行)を行うことができる。
【0029】
ハイブリッド車両を上記の走行状態から停車させたり、この停車状態に保つに際しては、駆動車輪5と共に回転するブレーキディスク14をキャリパ15により挟圧して制動することで目的を達する。
キャリパ15は、運転者が踏み込むブレーキペダル16の踏力に応動して負圧式ブレーキブースタ17による倍力下でブレーキペダル踏力対応のブレーキ液圧を出力するマスターシリンダ18に接続し、このブレーキ液圧でキャリパ15を作動させてブレーキディスク14の制動を行う。
なお上記のブレーキ液圧は、アンチスキッド制御時に、制動力が過大にならないよう、適宜に減圧される。
【0030】
ハイブリッド車両はEVモードおよびHEVモードのいずれにおいても、運転者がブレーキペダル16を踏み込んで指令する制動力指令またはアクセルペダル19を踏み込んで指令する駆動力指令に応じた制駆動トルクで車輪5を制駆動され、運転者の要求に応じた制駆動力をもって走行される。
【0031】
ハイブリッド車両の走行モード選択と、エンジン1の出力制御と、電動モータ2の出力制御と、無段変速機4の変速制御および副変速機31の状態切り替え制御と、バッテリ12の充放電制御はそれぞれ、ハイブリッドコントローラ21が、対応するエンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25を介して当該制御を遂行する。
【0032】
そのためハイブリッドコントローラ21には、ブレーキペダル16を踏み込む制動時にその踏力Fbrを検出するブレーキペダル踏力センサ26からの信号と、アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ27からの信号と、無段変速機4のシフトレバー28が駐車(P)レンジ、後退走行(R)レンジ、中立(N)レンジ、前進走行(D)レンジのどの位置に操作されているのかを検出する選択レンジセンサ29からの信号と、路面勾配θを検出する勾配センサ30からの信号とを入力する。
ハイブリッドコントローラ21は更に、エンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25との間で、内部情報のやり取りを行って、本発明が狙いとする後述の後退ハイ発進防止制御に資する。
【0033】
エンジンコントローラ22は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答して、エンジン1を出力制御し、
モータコントローラ23は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答してインバータ13を介し電動モータ2の出力制御を行う。
【0034】
変速機コントローラ24は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、エンジン駆動されるオイルポンプO/P(機動ポンプ)からのオイルを媒体として、無段変速機4(Vベルト式無段変速機構CVT)の変速制御および副変速機31の状態切り替え制御を行う。
バッテリコントローラ25は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、バッテリ12の充放電制御を行う。
【0035】
以下、
図1に示すごとくVベルト式無段変速機構CVT(セカンダリプーリ7)と駆動車輪5との間を切り離し可能に結合するため無段変速機4に設けた副変速機31を、
図2(a),(b)に基づき詳述する。
副変速機31は
図2(a)に示すように、複合サンギヤ31s-1および31s-2と、インナピニオン31pinと、アウタピニオン31poutと、リングギヤ31rと、ピニオン31pin, 31poutを回転自在に支持したキャリア31cとからなるラビニョオ型プラネタリギヤセットで構成する。
複合サンギヤ31s-1および31s-2のうち、サンギヤ31s-1は入力回転メンバとして作用するようセカンダリプーリ7に結合し、サンギヤ31s-2はセカンダリプーリ7に対し同軸に配置するが自由に回転し得るように配置する。
【0036】
サンギヤ31s-1にインナピニオン31pinを噛合させ、このインナピニオン31pinおよびサンギヤ31s-2をそれぞれアウタピニオン31poutに噛合させる。
アウタピニオン31poutはリングギヤ31rの内周に噛合させ、キャリア31cを出力回転メンバとして作用するようファイナルギヤ組9に結合する。
【0037】
キャリア31cとリングギヤ31rとをハイクラッチH/C(断接要素)により適宜結合可能となし、リングギヤ31rをリバースブレーキR/B(断接要素)により適宜固定可能となし、サンギヤ31s-2をローブレーキL/B(断接要素)により適宜固定可能となす。
【0038】
副変速機31は、変速摩擦要素であるこれらハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを、
図2(b)に○印により示す組み合わせで締結させ、それ以外を
図2(b)に×印で示すように解放させることにより、前進第1速選択(減速正回転出力)状態、前進第2速選択(直結正回転出力)状態、後退変速段選択(減速逆回転出力)状態にすることができる。
【0039】
ハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを全て解放すると、副変速機31は動力伝達を行わない中立状態であり、
この状態でローブレーキL/Bを締結すると、副変速機31は前進第1速選択(減速正回転出力)状態となり、
ハイクラッチH/Cを締結すると、副変速機31は前進第2速選択(直結正回転出力)状態となり、
リバースブレーキR/Bを締結すると、副変速機31は後退変速段選択(減速逆回転出力)状態となる。
【0040】
図2の無段変速機4は、全ての変速摩擦要素H/C, R/B, L/Bを解放して副変速機31を中立状態にすることで、Vベルト式無段変速機構CVT(セカンダリプーリ7)と駆動車輪5との間を切り離すことができ、これら変速摩擦要素H/C, R/B, L/Bのいずれか1つを締結して副変速機31を対応する動力伝達状態にすることができる。
従って、
図2(a)の無段変速機4内における副変速機31の変速摩擦要素H/C, R/B, L/Bが本発明における断接要素に相当し、これら変速摩擦要素H/C, R/B, L/Bのいずれか1つを適宜締結することにより、Vベルト式無段変速機構CVT(セカンダリプーリ7)と駆動車輪5との間を切り離し可能に結合することができる。
【0041】
図2(a)に示すように無段変速機4は、エンジン駆動されるオイルポンプO/P(機動ポンプ)からのオイルを作動媒体とし、変速機コントローラ24がライン圧ソレノイド35、ロックアップソレノイド36、プライマリプーリ圧ソレノイド37、ローブレーキ圧ソレノイド38、ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39およびスイッチバルブ41を介して、以下のように制御する。
【0042】
なお変速機コントローラ24には、
図1につき前述した信号に加えて、車速VSPを検出する車速センサ32からの信号、および車両加減速度Gを検出する加速度センサ33からの信号を入力する。
【0043】
ライン圧ソレノイド35は、変速機コントローラ24からの指令に応動し、オイルポンプO/Pからのオイルを車両要求駆動力対応のライン圧P
Lに調圧し、このライン圧P
Lを常時セカンダリプーリ7へセカンダリプーリ圧として供給することにより、セカンダリプーリ7がライン圧P
Lに応じた推力でVベルト8を挟圧するようになす。
【0044】
ロックアップソレノイド36は、変速機コントローラ24からのロックアップ指令に応動し、ライン圧P
Lを適宜トルクコンバータT/Cに向かわせることで、トルクコンバータT/Cを適宜入出力要素間が直結されたロックアップ状態にする。
【0045】
プライマリプーリ圧ソレノイド37は、変速機コントローラ24からのCVT変速比指令に応動してライン圧P
Lをプライマリプーリ圧に調圧し、これをプライマリプーリ6へ供給することにより、プライマリプーリ6のV溝幅と、ライン圧P
Lを供給されているセカンダリプーリ7のV溝幅とを、CVT変速比が変速機コントローラ24からの指令に一致するよう制御して変速機コントローラ24からのCVT変速比指令を実現する。
【0046】
ローブレーキ圧ソレノイド38は、変速機コントローラ24が副変速機31の第1速選択指令を発しているとき、ライン圧P
Lをローブレーキ圧としてローブレーキL/Bに供給することによりこれを締結させ、第1速選択指令を実現する。
【0047】
ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39は、変速機コントローラ24が副変速機31の第2速選択指令または後退選択指令を発しているとき、ライン圧P
Lをハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧としてスイッチバルブ41に供給する。
第2速選択指令時はスイッチバルブ41が、ソレノイド39からのライン圧P
Lをハイクラッチ圧としてハイクラッチH/Cに向かわせ、これを締結することで副変速機31の第2速選択指令を実現する。
後退選択指令時はスイッチバルブ41が、ソレノイド39からのライン圧P
Lをリバースブレーキ圧としてリバースブレーキR/Bに向かわせ、これを締結することで副変速機31の後退選択指令を実現する。
【0048】
<Rレンジ(後退)ハイ発進防止制御>
上記ハイブリッド車両を、EVモード(エンジン1を停止し、副変速機31を中立状態にしたモード)で、Rレンジへのセレクト操作により後退発進させるとき、無段変速機4(無段変速機構CVT)が後退時に本来選択されるべき最ロー変速比でない場合における駆動力不足および後退応答遅れの問題を解消するため、
図1,2のハイブリッドコントローラ21は
図3に示す後退ハイ発進防止制御を遂行する。
【0049】
図3に示す後退ハイ発進防止制御を説明する前に、先ず後退ハイ発進状態が発生するシーンの一例を
図4に基づき説明する。
図4は、横軸に車速VSP、縦軸に車両の駆動力を目盛ったハイブリッド車両の運転モード領域線図で、第1座標には、比較的低車速および低駆動力域にEV走行域(EVモードによる前進駆動走行域)が、また比較的高車速および大駆動力域にHEV走行域(HEVモードによる前進駆動走行域)が存在する。
また第3座標は、後退方向への駆動走行域(後退駆動走行域)であり、第4座標は、EV回生域(EVモードによる回生制動走行域)である。
【0050】
運転点A1でのHEV走行中、急制動により運転点がA2に移動すると、要求駆動力がHEV走行域の正トルクからEV回生域の負トルクに切り替わるが、HEV走行域からEV回生域への移行時に無段変速機4(無段変速機構CVT)のダウンシフトが間に合わず、無段変速機4(無段変速機構CVT)が後退走行レンジ用の最ロー変速比に戻る前にEVモードの運転点A2への移行によりエンジン1が停止されると共に副変速機31が中立状態にされ、無段変速機4(無段変速機構CVT)が回転しなくなることで、それ以上ダウンシフトし得ずに、後退走行用の最ロー変速比よりもハイ側の、A1→A2移行時(EVモード移行時)における変速比に保持されたまま、EV回生により車両は減速されて、運転点A3で停車に至る。
【0051】
かかるEVモードの停車状態(運転点A3)で運転者が後退走行を希望して無段変速機4をRレンジにセレクト操作(例えばD→Rセレクト操作)した時、後退走行用にエンジン1を始動し、エンジン駆動されるオイルポンプO/Pからのオイルで副変速機31を中立状態からRレンジに呼応した後退変速段選択状態にするのでは、以下の理由から後退ハイ発進になる。
副変速機31が上記の通り後退変速段選択状態にされると、運転点A3の停車(車速VSP=0)状態であるため、無段変速機4(無段変速機構CVT)内が回転不能であって、無段変速機4(無段変速機構CVT)は変速不能のままであり、上記した最ロー変速比よりもハイ側の変速比に保持される。
【0052】
このため、
図4の運転点A3において車両を後退発進させるべくRレンジにセレクト操作(例えばD→Rセレクト操作)した後、アクセルペダル19の踏み込みにより車両を矢A4で示すように後退発進させたとき、当初は無段変速機4が後退走行レンジ用最ロー変速比よりもハイ側の変速比のままで後退発進する後退ハイ発進を余儀なくされる。
この後退ハイ発進時は、発進用アクセル操作を行っても最ロー変速比で得られるべき規定のトルクを車輪に向かわせることができず、駆動力不足を運転者に感じさせるという問題を生ずる。
なお、当該不足した駆動力での発進により車両が走行を開始すると、無段変速機4(無段変速機構CVT)の内部が回転するため、オイルポンプO/Pからのオイルによる無段変速機4(無段変速機構CVT)の変速が可能となって無段変速機4(無段変速機構CVT)は後退走行レンジ用最ロー変速比に向けダウンシフトされるものの、このダウンシフトが完了するまでの間は上記の駆動力不足が続いて、後発進応答が悪くなるという問題をも生ずる。
これらの問題は、電動モータ2を前記した通りコスト上の観点から逆転不能なモータで構成した本実施例の場合、電動モータ2の駆動力を後退発進時の助勢力(アシストトルク)として利用できないため一層顕著になる。
【0053】
後退ハイ発進によるこれら駆動力不足および後退応答遅れの問題を解消するため
図1,2のハイブリッドコントローラ21が実行する
図3の後退ハイ発進防止制御を以下に説明する。
ステップS11においては、シフトレバー28がRレンジへセレクト操作された状態がRレンジセレクト判定用の規定時間以上に亘って継続したか否かにより、Rレンジへセレクト操作されたか否かをチェックする。
この判定によれば、Rレンジ位置を通過するだけのセレクト操作を、Rレンジへのセレクト操作があったと誤判定するのを防止することができて、後退ハイ発進防止制御が誤って実行される不具合を回避することができる。
従ってステップS11は、本発明における後退セレクト検知手段に相当する。
【0054】
ステップS11でRレンジへのセレクト操作がないと判定した時は、本発明が狙いとする後退ハイ発進防止制御が不要であることから、制御をそのまま終了する。
ステップS11でRレンジへのセレクト操作があったと判定する時は、制御をステップS12以降に進めて、本発明が狙いとする後退ハイ発進防止制御を以下のように遂行する。
ステップS12においては、エンジン1をスタータモータ3により始動させて、無段変速機4(無段変速機構CVT)の内部を回転させることにより、無段変速機4(無段変速機構CVT)を変速可能な状態にする。
従ってステップS12は、本発明におけるエンジン始動手段に相当する。
【0055】
ステップS13においては、変速機コントローラ24の内部情報から無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioを取得する。
ステップS14においては、後退方向路面勾配θから後退発進用CVT要求変速比tRatioを算出する。
【0056】
この後退発進用CVT要求変速比tRatioは、発進時アクセルペダル踏み込み操作によるエンジン出力を受けて無段変速機4(無段変速機構CVT)が、Rレンジでの後退発進時に問題となる駆動力不足や発進応答遅れなく発進可能となすのに必要な後退発進時要求駆動力を出力可能な変速比領域内のできるだけハイ側における後退発進用要求変速比であり、車両後退方向路面勾配θが急であるほど最ロー変速比に近い大きな変速比に定め、車両後退方向路面勾配θが緩やかであるほど最ロー変速比から遠いハイ側の変速比に定めること、勿論である。
【0057】
ステップS15においては、ステップS13で取得した無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioと、ステップS14で算出した後退発進用CVT要求変速比tRatioとを比較し、CVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatio以上のロー側変速比か否かをチェックする。
ステップS15でCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatio未満のハイ側変速比であると判定した場合は、後退発進時の駆動力不足およびこれによる後退発進応答不良が問題になるハイ発進であることから、ステップS16において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioに向かうようダウンシフトさせる。
【0058】
ステップS17においては、上記のダウンシフト(ロー戻し変速制御)により無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioに一致したか否かをチェックし、まだ一致していない間は制御を元に戻してステップS16でのダウンシフトを継続させ、この継続的なダウンシフトによりRatio=tRatioになったとき制御をステップS18に進めて上記ダウンシフトによるロー戻し変速制御を終了する。
従ってステップS16およびステップS17は、本発明における変速手段に相当する。
【0059】
当該ロー戻し変速制御の終了時に制御をステップS15に戻すが、この時ステップS15はRatio=tRatioの判定により制御をステップS19に進める。
このステップS19では、EVモード故に中立状態であった副変速機31をRレンジに呼応した後退変速段選択状態に切り替えるのを許可する。
かかる副変速機31の後退変速段選択状態への切り替えは、ステップS16およびステップS17による上記ダウンシフト(ロー戻し変速制御)の完了まで遅延させていたものであるが、ステップS19での許可を受けて副変速機31の後退変速段選択状態への切り替えは実行されることとなる。
【0060】
かかる副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えにより、セカンダリプーリ7が車輪5に対し駆動結合される。
従って、中立状態の副変速機31を後退変速段選択状態にするためのリバースブレーキR/Bは、本発明における断接要素の用をなし、このリバースブレーキR/Bを締結させて副変速機31を後退変速段選択状態となすステップS19は、本発明における断接要素締結手段に相当する。
【0061】
ステップS19による副変速機31の後退変速段選択状態と、前記ステップS12によるエンジン1の始動と相まって、車両はエンジン1からの動力のみにより後退発進され得る状態となる。
この後退発進時におけるアクセル操作に応じたエンジントルク制御は、ステップS20において以下のごとくに行われる。
【0062】
ステップS20での後退発進時エンジントルク制御は、基本的には、現在のCVT変速比Ratio(=tRatio)と車速VSP(CVT出力回転)とからエンジン回転数Neを求め、このエンジン回転数Neと、アクセル開度APOとから、後退発進時のアクセル操作に応じた目標エンジントルクtTeを求め、この目標エンジントルクtTeをエンジンコントローラ22に指令して、エンジン1をその出力トルクが目標エンジントルクtTeに一致するよう制御する。
但し本実施例のステップS20においては、CVT変速比Ratio(=tRatio)ごとに、アクセル開度APOと、車速VSPと、目標エンジントルクtTeとの関係に係わるマップを予め用意しておき、これらマップのうち、現在のCVT変速比Ratio(=tRatio)に対応するマップを基にアクセル開度APOおよび車速VSPから目標エンジントルクtTeを求め、これをエンジンコントローラ22に指令してエンジン1のトルク制御に資することとする。
【0063】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例の後退ハイ発進防止制御によれば、エンジン1を停止させ、副変速機31を中立状態にしたEVモードでの停車中、Rレンジへのセレクト操作(ステップS11)があったとき、先ずステップS12でエンジン始動を行うが、当初はステップS19による副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えを行わせないことで無段変速機4(無段変速機構CVT)をエンジン1により回転される状態(変速可能状態)となし、この状態でステップS16およびステップS17において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioとなるようダウンシフトさせた後に、ステップS19による副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えを行うよう構成したため、以下の効果を得ることができる。
【0064】
つまり、ステップS20によるエンジントルク制御で車両をエンジン1からの動力のみにより後退発進させる時は既に、ステップS16およびステップS17で無段変速機4(無段変速機構CVT)が後退発進用CVT要求変速比tRatioへダウンシフト(ロー戻し変速)され終えていることとなり、後退発進用CVT要求変速比tRatioよりもハイ側変速比で車両の後発進が行われることがない後退ハイ発進防止作用によって、駆動力不足を運転者に感じさせるという問題や、後発進応答が悪いという問題を回避することができる。
【0065】
なお、ステップS16およびステップS17でのロー戻し変速に際し、無段変速機4(無段変速機構CVT)を後退発進用CVT要求変速比tRatioへダウンシフトさせることとしたが、後退発進用CVT要求変速比tRatioに代えて、Rレンジでの後退走行用の最ロー変速比へダウンシフトさせることでも上記の効果を達成することができる。
ただし後退発進用CVT要求変速比tRatioを前記した通り、Rレンジでの後退発進時に問題となる駆動力不足や発進応答遅れなく発進可能となすのに必要な変速比領域内のできるだけハイ側における後退発進用要求変速比と定めた場合、これが最ロー変速比よりもハイ側であることによってロー戻し変速量が少なく、ロー戻し変速を速やかに完遂させることができて後発進応答の向上を期待できる。
他方、後退発進用CVT要求変速比tRatioに代えて、Rレンジでの後退走行用の最ロー変速比へダウンシフトさせるロー戻し変速では、ロー戻し変速量が大きくて上記後発進応答の向上を期待できないが、後退発進用CVT要求変速比tRatioを演算する必要がなくてハイブリッドコントローラ21の演算負荷を軽減し得るという効果を得ることができる。
【0066】
上記の効果を
図5の動作タイムチャートにより付言するに、この
図5はEVモード(エンジン1が停止され、副変速機31が中立状態)でのブレーキ操作による停車中、運転者が後退走行を希望して無段変速機4(無段変速機構CVT)の選択レンジを現在のDレンジからNレンジを経てRレンジにセレクト操作したのを受け、瞬時t1にエンジン始動指令が発せられた場合の動作タイムチャートである。
【0067】
先ず本実施例における前記したロー戻し変速制御を行わなかった場合の動作を、
図5の下から四番目の以降の欄に示したタイムチャートにより説明する。
瞬時t1のエンジン始動指令に呼応してエンジン1が始動され、瞬時t2に完爆して運転状態に至ることでエンジン回転数Neが実線で示すように時系列変化する。
この時CVTプライマリプーリ6の回転数Npriは、エンジン回転数NeよりもトルクコンバータT/Cのスリップ分だけ低い一点鎖線で示すように時系列変化する。
【0068】
本実施例における前記したロー戻し変速制御を行わない場合、エンジン1が運転状態に至ったら、エンジン駆動されるオイルポンプO/Pからオイルが吐出されるようになった瞬時t3から瞬時t4の間に、当該オイルを媒体として副変速機31のリバースブレーキR/Bを
図5の下から三番目の欄に破線で示したリバースブレーキ圧Prbにより締結進行させ、中立状態の副変速機31を後退変速段選択状態に切り替える。
【0069】
かかる副変速機31の後退変速段選択状態は、停車状態故に副変速機31の出力回転数Noが
図5の下から四番目の欄に破線で示した通り0であることから、CVTプライマリプーリ6の回転数NpriおよびCVTセカンダリプーリ7の回転数Nsecをそれぞれ0にする。
従って無段変速機4(無段変速機構CVT)は、回転していないため、エンジン駆動されるオイルポンプO/Pからオイルが吐出されていても変速不能であり、CVT変速比Ratioが
図5の下から二番目の欄に破線で示した通り停車時のハイ側変速比のままである。
【0070】
無段変速機4(無段変速機構CVT)が回転して変速可能になるのは、車速VSPがVSP>0となる発進開始瞬時t8からであり、この瞬時t8から瞬時t9の間にCVT変速比Ratioが
図5の下から二番目の欄に破線で示した通り、停車時のハイ側変速比から後退発進用に適した変速比(
図5では、後退発進用CVT要求変速比tRatio)に向かうよう、無段変速機4(無段変速機構CVT)がダウンシフトされる。
しかして、CVT変速比Ratioが後退発進用に適した変速比(後退発進用CVT要求変速比tRatio)となるダウンシフトを完了するまでの間は、後退ハイ発進を余儀なくされて駆動力Toが
図5の最下段に破線で示すように小さく、前記した駆動力の不足および後退発進応答の悪化に関する問題を生ずる。
【0071】
これに対し本実施例によれば、EVモード(エンジン1が停止され、副変速機31が中立状態)でのブレーキ操作による停車中、運転者が後退走行を希望してRレンジにセレクト操作したのに呼応し、先ず瞬時t1〜t2においてエンジン1を始動させて運転状態となし、オイルポンプO/Pからの吐出オイルで副変速機31および無段変速機構CVTを制御可能にするのは上記と同様である。
【0072】
しかし、当初は副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替え(リバースブレーキR/Bの締結)を行わせないことで(R/B圧Prb=プリロード相当圧)、無段変速機4(無段変速機構CVT)をエンジン1により回転される状態(変速可能状態)となし、この状態で瞬時t3〜t5において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioとなるようダウンシフト(ロー戻し変速)させた後、瞬時t6〜t7において副変速機31のリバースブレーキR/Bを
図5の下から三番目の欄に実線で示したリバースブレーキ圧Prbにより締結進行させ、中立状態の副変速機31を後退変速段選択状態に切り替える。
【0073】
瞬時t3〜t5における無段変速機4(無段変速機構CVT)のダウンシフト(ロー戻し変速)によりCVT実変速比Ratioが
図5の下から二番目の欄に実線で示した時系列変化をもって後退発進用CVT要求変速比tRatioに向かうことで、
図5の下から五番目の欄に実線で示したエンジン回転数Neに対しプライマリプーリ回転数Npri、セカンダリプーリ回転数Nsecおよび副変速機出力回転数Noはそれぞれ、
図5の下から五番目の欄に一点鎖線、二点鎖線および破線で示したように時系列変化する。
【0074】
ところで本実施例においては、発進瞬時t8の前に無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速が終了しているため、後退発進用CVT要求変速比tRatioでの後退発進が保証され、後退ハイ発進になるのを防止することができる。
よって、
図5の最下段に実線で示す大きな駆動力Toでの後退発進が可能となり、前記した駆動力の不足および後退発進応答の悪化に関する問題を回避することができる。
【0075】
また本実施例では、
図3のステップS11でRレンジへのセレクト操作を検知するに際し、シフトレバー28がRレンジへセレクト操作された状態がRレンジセレクト判定用の規定時間以上に亘って継続した時をもって、Rレンジへのセレクト操作があったと判定するため、
シフトレバー28がRレンジ位置を通過するだけのセレクト操作を、Rレンジへのセレクト操作があったと誤判定するのを防止することができて、
図3の後退ハイ発進防止制御が誤って実行される不具合を回避することができる。
【0076】
本実施例では更に、上記の後退発進用CVT要求変速比tRatioを、発進時アクセルペダル踏み込み操作によるエンジン出力を受けて無段変速機4(無段変速機構CVT)が、Rレンジでの後退発進時に問題となる駆動力不足や発進応答遅れなく発進可能となすのに必要な後退発進時要求駆動力を出力可能な変速比領域内のできるだけハイ側における後退発進用要求変速比に定めたため、
ステップS16およびステップS17による無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速量が、上記の効果を達成するための必要最小限のダウンシフト量となって、当該ロー戻し変速時間を短縮することができ、ロー戻し変速後に開始される後退発進の開始タイミングを早め得て、その分だけ後退発進応答の改善を図ることができる。
【0077】
加えて、上記の後退発進用CVT要求変速比tRatioを、車両後退方向路面勾配θが急であるほど最ロー変速比に近い大きな変速比に定め、車両後退方向路面勾配θが緩やかであるほど最ロー変速比から遠いハイ側の変速比に定めたことで、上記後退発進応答の改善効果を如何なる車両後退方向路面勾配θのもとでも享受することができる。
【0078】
<第2実施例の構成>
図6は、本発明の第2実施例になる制御装置の後退ハイ発進防止制御プログラムを示し、
図3におけると同様なステップには同一符号を付して重複説明を避けた。
【0079】
本実施例でも、ハイブリッド車両の駆動系に係わる全体制御システムは、
図1,2に示したと同様なものとし、これらの
図1,2におけるハイブリッドコントローラ21が、
図3の制御プログラムに代え、
図6の制御プログラムを実行して、本発明が狙いとする後退ハイ発進防止を果たすものとする。
ただし本実施例では、
図1における電動モータ2を、第1実施例のように逆転不能なモータでなく、逆転可能なモータにより構成して、電動モータ2の駆動力を後退発進時の助勢力(アシストトルク)として利用可能なものとする。
【0080】
ステップS11においては、Rレンジのセレクト状態が規定時間以上に亘って継続したか否かにより、Rレンジへセレクト操作されたか否かをチェックし、このRレンジセレクト操作がない間は、本発明が狙いとする後退ハイ発進防止制御が不要であることから、制御をそのまま終了する。
【0081】
ステップS11でRレンジへのセレクト操作があったと判定する時は、ステップS31において、電動モータ2が駆動可能か否かをバッテリ2の蓄電状態SOCや、電動モータ2を含むモータ駆動系の異常判定結果や、電動モータ2自身の温度およびモータ制御系の温度からチェックする。
バッテリ蓄電状態SOCの不足や、電動モータ2を含むモータ駆動系の異常や、電動モータ2自身の温度上昇またはモータ制御系の温度上昇で電動モータ2を駆動させ得ない場合は、電動モータ2から後退発進時の助勢力(アシストトルク)を得られず、エンジン1のみによる後退走行(後退発進)となるため、制御をステップS12〜ステップS20に進めて、第1実施例と同様な後退ハイ発進防止制御を遂行する。
【0082】
ステップS31で電動モータ2が駆動可能であると判定する場合、電動モータ2からの発生可能な駆動力を最大限、後退発進時の助勢力(アシストトルク)として利用しつつ、エンジン1により車両を後退走行(後退発進)させることとし、かかる後退発進のもとで後退ハイ発進が防止されるような以下のロー戻し変速制御を行うべく、制御をステップS32〜ステップS41に進める。
【0083】
ステップS32においては、エンジン1をスタータモータ3により始動させて、無段変速機4(無段変速機構CVT)の内部を回転させることにより、無段変速機4(無段変速機構CVT)を変速可能な状態にする。
従ってステップS32は、本発明におけるエンジン始動手段に相当する。
【0084】
ステップS33においては、変速機コントローラ24の内部情報から無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioを取得する。
ステップS34においては、電動モータ2を含むモータ駆動系が発生可能な最大駆動力および後退方向路面勾配θから後退発進用CVT要求変速比tRatioを算出する。
【0085】
このステップS34における後退発進用CVT要求変速比tRatioは、発進時アクセルペダル踏み込み操作によるエンジン出力と、電動モータ2(モータ駆動系)が発生可能な最大逆転駆動力Tmmaxとの合計トルクを受けて無段変速機4(無段変速機構CVT)が、Rレンジでの後退発進時に問題となる駆動力不足や発進応答遅れなく発進可能となすのに必要な後退発進時要求駆動力を出力可能な変速比領域内のできるだけハイ側における後退発進用要求変速比であり、車両後退方向路面勾配θが急であるほど最ロー変速比に近い大きな変速比に定め、車両後退方向路面勾配θが緩やかであるほど最ロー変速比から遠いハイ側の変速比に定める。
【0086】
ステップS35においては、ステップS33で取得した無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioと、ステップS34で算出した後退発進用CVT要求変速比tRatioとを比較し、CVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatio以上のロー側変速比か否かをチェックする。
ステップS35でCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatio未満のハイ側変速比であると判定した場合は、後退発進時の駆動力不足およびこれによる後退発進応答不良が問題になるハイ発進であることから、ステップS36において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioに向かうようダウンシフトさせる。
【0087】
ステップS37においては、上記のダウンシフト(ロー戻し変速制御)により無段変速機4(無段変速機構CVT)のCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioに一致したか否かをチェックし、まだ一致していない間は制御を元に戻してステップS36でのダウンシフトを継続させ、この継続的なダウンシフトによりRatio=tRatioになったとき制御をステップS38に進めて上記ダウンシフトによるロー戻し変速制御を終了する。
従ってステップS36およびステップS37は、本発明における変速手段に相当する。
【0088】
当該ロー戻し変速制御の終了時に制御をステップS35に戻すが、この時ステップ35はRatio=tRatioの判定により制御をステップS39に進める。
このステップS39では、EVモード故に中立状態であった副変速機31をRレンジに呼応した後退変速段選択状態に切り替えるのを許可する。
かかる副変速機31の後退変速段選択状態への切り替えは、ステップS36およびステップS37による上記ダウンシフト(ロー戻し変速制御)の完了まで遅延させていたものであるが、ステップS39での許可を受けて副変速機31の後退変速段選択状態への切り替えは実行されることとなる。
【0089】
かかる副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えにより、セカンダリプーリ7が車輪5に対し駆動結合される。
従って、中立状態の副変速機31を後退変速段選択状態にするためのリバースブレーキR/Bは、本発明における断接要素の用をなし、このリバースブレーキR/Bを締結させて副変速機31を後退変速段選択状態となすステップS39は、本発明における断接要素締結手段に相当する。
【0090】
ステップS39による副変速機31の後退変速段選択状態と、前記ステップS32によるエンジン1の始動と相まって、エンジン1からの動力により後退発進させ得る状態となり、この後退発進に際しては、先ずステップS40において、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxで後退方向の駆動力アシストを行うべく、電動モータ2の最大逆転駆動力Tmmaxをモータコントローラ23に指令する。
これにより電動モータ2(モータ駆動系)は、最大逆転駆動力Tmmaxを発生するよう逆転駆動され、この最大逆転駆動力Tmmaxで車両の後退発進を助勢する。
従ってステップS40は、本発明における電動モータ駆動手段に相当する。
【0091】
他方で後退発進時におけるアクセル操作に応じたエンジントルク制御は、ステップS41において以下のごとくに行われる。
ステップS41での後退発進時エンジントルク制御は、基本的には、現在のCVT変速比Ratio(=tRatio)と車速VSP(CVT出力回転)とからエンジン回転数Neを求め、このエンジン回転数Neと、アクセル開度APOとから、後退発進時のアクセル操作に応じた要求駆動力tTdを求める。
【0092】
或るエンジン回転数Ne(CVT変速比Ratioと車速VSPとの組み合わせ)について、アクセル開度APOと後退発進時要求駆動力tTdとの関係を示した
図7を基に説明すると、アクセル開度APOが「APO_1」である場合における後退発進時要求駆動力tTdは「tTd_1」である。
なお
図7のエンジンアイドル分Teiは、エンジン1が自立運転するのに必要なトルク分であるため、後退発進時のアシストトルクには使えない。
【0093】
次に、この後退発進時要求駆動力tTd(=tTd_1)から電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxを差し引いて目標エンジントルクtTeを求め、この目標エンジントルクtTeをエンジンコントローラ22に指令して、エンジン1をその出力トルクが目標エンジントルクtTeに一致するよう制御する。
かくして当該エンジン出力トルク(tTe)は、電動モータ2(モータ駆動系)からの最大逆転駆動力Tmmaxとで、後退発進時要求駆動力tTd(=tTd_1)を実現し、車両をアクセル開度APOごとに、問題となる駆動力不足および後退発進応答遅れなしに後退発進させることができる。
【0094】
ただし本実施例のステップS41においては、CVT変速比Ratio(=tRatio)ごとに、アクセル開度APOと、車速VSPと、目標エンジントルクtTeとの関係に係わるマップを予め用意しておき、これらマップのうち、現在のCVT変速比Ratio(=tRatio)に対応するマップを基にアクセル開度APOおよび車速VSPから目標エンジントルクtTeを求め、これをエンジンコントローラ22に指令してエンジン1のトルク制御に資することとする。
【0095】
上記した通り、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト下に行われる後退時エンジントルク制御によれば、
図8のエンジン性能線図において、HP_2等馬力線上の運転点B1を、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト分だけ小さなHP_1等馬力線上の運転点B2に移動でき、更に、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト分だけ後退発進用CVT要求変速比tRatioをハイ側の変速比に設定し得ることから、エンジン回転数Neがその分(ΔNe)だけ低下して運転点をB2からB3へと移動させることができる。
本実施例では、これらエンジン出力の低下(HP_2→HP_1)およびエンジン回転数Neの低下(ΔNe)により、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0096】
<第2実施例の効果>
上記した第2実施例の後退ハイ発進防止制御によれば、エンジン1を停止させ、副変速機31を中立状態にしたEVモードでの停車中、Rレンジへのセレクト操作(ステップS11)があったとき、先ずステップS32でエンジン始動を行うが、当初はステップS39による副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えを行わせないことで無段変速機4(無段変速機構CVT)をエンジン1により回転される状態(変速可能状態)となし、この状態でステップS36およびステップS37において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioとなるようダウンシフトさせた後に、ステップS39による副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替えを行い、その後ステップS40で電動モータ2(モータ駆動系)から最大逆転駆動力Tmmaxが出力されるようにすると共に、ステップS41において当該最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト下で、後退発進時アクセル操作に応じた後退発進時要求駆動力tTdを実現するようエンジン1をトルク制御(エンジントルクを目標エンジントルクtTeとなす制御)する構成としたため、以下の効果を得ることができる。
【0097】
つまり、ステップS40による電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力(Tmmax)出力制御、およびステップS41によるエンジン1のトルク制御(目標エンジントルクtTeを実現する制御)で車両を電動モータ2(モータ駆動系)およびエンジン1からの動力により後退発進させる時は既に、ステップS36およびステップS37で無段変速機4(無段変速機構CVT)が後退発進用CVT要求変速比tRatioへダウンシフト(ロー戻し変速)され終えていることとなり、後退発進用CVT要求変速比tRatioよりもハイ側変速比で車両の後発進が行われることがない後退ハイ発進防止作用によって、駆動力不足を運転者に感じさせるという問題や、後発進応答が悪いという問題を回避することができる。
【0098】
上記の効果を
図9の動作タイムチャートにより付言するに、この
図9は、第1実施例の動作を示す
図5と同様、EVモード(エンジン1が停止され、副変速機31がリバースブレーキ圧Prb=プリロード相当圧により中立状態)でのブレーキ操作による停車中、運転者が後退走行を希望して無段変速機4(無段変速機構CVT)の選択レンジを現在のDレンジからNレンジを経てRレンジにセレクト操作したのを受け、瞬時t1にエンジン始動指令が発せられた場合の動作タイムチャートである。
【0099】
本実施例によれば、EVモード(エンジン1が停止され、副変速機31が中立状態)でのブレーキ操作による停車中、運転者が後退走行を希望してRレンジにセレクト操作したのに呼応し、先ず瞬時t1〜t2においてエンジン1を始動させて運転状態となし、オイルポンプO/Pからの吐出オイルで副変速機31および無段変速機構CVTを制御可能にする。
【0100】
しかして当初は副変速機31の中立状態から後退変速段選択状態への切り替え(リバースブレーキR/Bの締結)を行わせないことで(R/B圧Prb=プリロード相当圧)、無段変速機4(無段変速機構CVT)をエンジン1により回転される状態(変速可能状態)となす。
この状態で瞬時t3〜t5において無段変速機4(無段変速機構CVT)を、そのCVT実変速比Ratioが後退発進用CVT要求変速比tRatioとなるようダウンシフト(ロー戻し変速)させた後、瞬時t6〜t7において副変速機31のリバースブレーキR/Bを
図9の下から三番目の欄に示したリバースブレーキ圧Prbにより締結進行させ、中立状態の副変速機31を後退変速段選択状態に切り替える。
【0101】
瞬時t3〜t5における無段変速機4(無段変速機構CVT)のダウンシフト(ロー戻し変速)によりCVT実変速比Ratioが
図9の最下欄に示した時系列変化をもって後退発進用CVT要求変速比tRatioに向かうことで、
図9の下から四番目の欄に実線で示したエンジン回転数Neに対しプライマリプーリ回転数Npri、セカンダリプーリ回転数Nsecおよび副変速機出力回転数Noはそれぞれ、
図9の下から四番の欄に一点鎖線、二点鎖線および破線で示したように時系列変化する。
【0102】
ところで本実施例においては、発進瞬時t8の前に無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速が終了しているため、後退発進用CVT要求変速比tRatioでの後退発進が保証され、後退ハイ発進になるのを防止することができる。
よって、
図9の最下段に示す大きな駆動力Toでの後退発進が可能となり、前記した駆動力の不足および後退発進応答の悪化に関する問題を、第1実施例におけると同様に回避することができる。
【0103】
そして本実施例では特に、上記の後退発進用CVT要求変速比tRatioを前記したように定めるため、
つまり発進時アクセルペダル踏み込み操作によるエンジン出力と、電動モータ2(モータ駆動系)が発生可能な最大逆転駆動力Tmmaxとの合計トルクを受けて無段変速機4(無段変速機構CVT)が、Rレンジでの後退発進時に問題となる駆動力不足や発進応答遅れなく発進可能となすのに必要な後退発進時要求駆動力を出力可能な変速比領域内のできるだけハイ側における後退発進用要求変速比を後退発進用CVT要求変速比tRatioと定めるため、
この後退発進用CVT要求変速比tRatioが、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによる後退アシストトルク分だけハイ側の変速比となる。
【0104】
このため、
図6のステップS36およびステップS37による本実施例の無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速量が、
図3のステップS16およびステップS17による第1実施例の無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速量よりも、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによる後退アシストトルク分だけ少なくなって、ステップS36およびステップS37による無段変速機4(無段変速機構CVT)のロー戻し変速時間を短縮することができ、ロー戻し変速後に開始される後退発進の開始タイミングを早め得て、その分だけ後退発進応答を第1実施例よりも更に改善することができる。
【0105】
加えて、上記の後退発進用CVT要求変速比tRatioを、車両後退方向路面勾配θが急であるほど最ロー変速比に近い大きな変速比に定め、車両後退方向路面勾配θが緩やかであるほど最ロー変速比から遠いハイ側の変速比に定めたことで、上記後退発進応答の改善効果を如何なる車両後退方向路面勾配θのもとでも享受することができる。
【0106】
更に本実施例では、エンジン1が、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト下に後退発進を行うよう構成したため、
図8を参照しつつ前述した通り、エンジン出力を電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト分だけ低下(HP_2→HP_1)させることができるほか、電動モータ2(モータ駆動系)の最大逆転駆動力Tmmaxによるアシスト分だけ後退発進用CVT要求変速比tRatioをハイ側の変速比に設定し得て、エンジン回転数Neをその分(ΔNe)だけ低下させることができ、これらエンジン出力の低下(HP_2→HP_1)およびエンジン回転数Neの低下(ΔNe)により、エンジンの燃費を向上させることができる。