(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6330495
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】塗装乾燥装置および塗装乾燥方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/06 20060101AFI20180521BHJP
F26B 23/08 20060101ALI20180521BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20180521BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20180521BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20180521BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20180521BHJP
F26B 9/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
H05B6/06 391
F26B23/08 A
B05C9/14
B05C11/00
B05D3/00 D
B05D3/02 F
F26B9/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-120328(P2014-120328)
(22)【出願日】2014年6月11日
(65)【公開番号】特開2016-1519(P2016-1519A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】小松 正
(72)【発明者】
【氏名】宇井 慎弥
【審査官】
宮崎 光治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−281490(JP,A)
【文献】
特開2011−198730(JP,A)
【文献】
特開2002−343544(JP,A)
【文献】
特開2011−181217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B6/00−6/10
H05B6/14−6/44
F26B1/00−25/22
B05D1/00−7/26
B05C7/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の周囲に誘導加熱コイルを移動させ、該被塗装物に塗布された塗料を乾燥する塗装乾燥装置であって、
前記被塗装物の3次元熱容量情報をもとに設定される3次元比例制御定数情報を保持する3次元比例制御定数情報保持部と、
前記誘導加熱コイルによる前記被塗装物の加熱対象位置である3次元位置を検出する位置検出部と、
前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の温度を検出する温度検出部と、
前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の3次元比例制御定数情報に基づき、3次元位置における前記温度検出部が検出した前記被塗装物の温度が設定温度となるように比例制御定数を設定して前記誘導加熱コイルへの通電電力の比例制御を行う温度制御部と、
を備えたことを特徴とする塗装乾燥装置。
【請求項2】
前記誘導加熱コイルが繰り返して移動加熱する同一3次元位置における3次元温度偏差積分値を保持する3次元温度偏差積分値保持部を備え、
前記温度制御部は、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記3次元温度偏差積分値に基づき、設定された前記比例制御定数を積分補償することを特徴とする請求項1に記載の塗装乾燥装置。
【請求項3】
被塗装物の周囲に誘導加熱コイルを移動させ、該被塗装物に塗布された塗料を乾燥する塗装乾燥方法であって、
前記誘導加熱コイルの3次元位置に対応する前記被塗装物の設定温度と、該3次元位置において検出された検出温度との偏差をもとに比例制御定数を算出し、
前記算出された比例制御定数に対し、前記被塗装物の3次元熱容量情報をもとに設定された3次元比例制御定数情報をもとに該3次元位置に対応する比例制御定数を設定し、
前記設定された比例制御定数を用いて前記3次元位置における温度が設定温度となるように前記誘導加熱コイルへの通電電力の比例制御を行うことを特徴とする塗装乾燥方法。
【請求項4】
前記誘導加熱コイルが繰り返して移動加熱する同一3次元位置における3次元温度偏差積分値を更新可能に保持し、前記3次元位置における現在の3次元温度偏差積分値を用いて、前記設定された比例制御定数を積分補償することを特徴とする請求項3に記載の塗装乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複雑な形状を有する被塗装物であっても被塗装物の表面温度を精度高く均一にすることができる塗装乾燥装置および塗装乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボディなどの塗装乾燥を行う場合、熱風乾燥炉が用いられていた。この熱風乾燥炉では、熱容量の大きい箇所の焼付不良を防ぐために熱風温度は標準焼付温度以上に設定されていた。このため、熱容量の小さい箇所は過剰加熱になり、省エネルギー化を阻害していた。また、熱風乾燥炉では間接的な入熱によって被塗装物を加熱するため、被塗装物が所望温度に達するまでに長い時間がかかっていた。一方、塗料の性質上、決められた焼付温度以上の雰囲気中に被塗装物を置くと黄変や炭化が生じる。
【0003】
この省エネルギー化と塗膜品質の向上とを図るため、誘導加熱コイルを用いた誘導加熱方式によって塗装乾燥を行うものがある。誘導加熱方式は、誘導加熱コイルに高周波電流を流すことによって誘導加熱コイルの周囲に磁力線を発生させ、その近くにある導電性の被加熱体はこの磁力線の影響を受けて、被加熱物内に渦電流を生じさせる。そして、被加熱体は、この渦電流によってジュール熱を発生し、内部から直接加熱されるものである。
【0004】
この誘導加熱方式を用いたものとして、例えば、特許文献1では、誘導加熱コイルの形状の変形が可能であり、誘導加熱コイルから発する磁束密度の強さや領域を調整することができる塗装乾燥装置が記載されている。このため、特許文献1では、複雑形状の被塗装物であっても被塗装物の表面温度を均一にすることができる。なお、特許文献1では、被塗装物の表面温度を検出して誘導加熱コイルの出力、加熱位置、加熱時間を調整して被塗装物の表面温度を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−281490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した誘導加熱方式では、一般にPID制御装置を用いて被塗装物の表面温度が均一になるように温度制御されている。しかしながら、誘導加熱コイルによる被塗装物の温度制御対象点は、刻々と移動するため、比例制御に加えた積分制御や微分制御を用いた精度の高い温度制御を行うことが難しい。一方、自動車ボディなどの被塗装物の各温度制御対象点は、被塗装物の形状が複雑であることから熱容量や放熱量が異なる場合が多く、一層、被塗装物の表面温度を精度高く均一にすることが難しい。
【0007】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、複雑な形状を有する被塗装物であっても被塗装物の表面温度を精度高く均一にすることができる塗装乾燥装置および塗装乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる塗装乾燥装置は、被塗装物の周囲に誘導加熱コイルを移動させ、該塗装物に塗布された塗料を乾燥する塗装乾燥装置であって、前記被塗装物の3次元熱容量情報をもとに設定される3次元比例制御定数情報を保持する3次元比例制御定数情報保持部と、前記誘導加熱コイルによる前記被塗装物の加熱対象位置である3次元位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の温度を検出する温度検出部と、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の3次元比例制御定数情報に基づき、3次元位置における前記温度検出部が検出した前記被塗装物の温度が設定温度となるように比例制御定数を設定して前記誘導加熱コイルへの通電電力の比例制御を行う温度制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる塗装乾燥装置は、上記の発明において、前記誘導加熱コイルが繰り返して移動加熱する同一3次元位置における3次元温度偏差積分値を保持する3次元温度偏差積分値保持部を備え、前記温度制御部は、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記3次元温度偏差積分値に基づき、設定された前記比例制御定数を積分補償することを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる塗装乾燥方法は、被塗装物の周囲に誘導加熱コイルを移動させ、該塗装物に塗布された塗料を乾燥する塗装乾燥方法であって、前記誘導加熱コイルの3次元位置に対応する前記被塗装物の設定温度と、該3次元位置において検出された検出温度との偏差をもとに比例制御定数を算出し、前記算出された比例制御定数に対し、前記被塗装物の3次元熱容量情報をもとに設定された3次元比例制御定数情報をもとに該3次元位置に対応する比例制御定数を設定し、前記設定された比例制御定数を用いて前記3次元位置における温度が設定温度となるように前記誘導加熱コイルへの通電電力の比例制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる塗装乾燥方法は、上記の発明において、前記誘導加熱コイルが繰り返して移動加熱する同一3次元位置における3次元温度偏差積分値を更新可能に保持し、前記3次元位置における現在の3次元温度偏差積分値を用いて、前記設定された比例制御定数を積分補償することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、3次元比例制御定数情報保持部が、被塗装物の3次元熱容量情報をもとに設定される3次元比例制御定数情報を保持し、位置検出部が、誘導加熱コイルによる前記被塗装物の加熱対象位置である3次元位置を検出し、温度制御部が、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の温度を検出し、温度制御部が、前記位置検出部が検出した3次元位置に対応する前記被塗装物の3次元比例制御定数情報に基づき、3次元位置における前記温度検出部が検出した前記被塗装物の温度が設定温度となるように比例制御定数を設定して前記誘導加熱コイルへの通電電力の比例制御を行うようにしている。この結果、複雑な形状を有する被塗装物であっても被塗装物の表面温度を精度高く均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、この発明の実施の形態1である塗装乾燥装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した温度制御部の構成を示す詳細ブロック図である。
【
図3】
図3は、3次元比例制御定数情報の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、この発明の実施の形態2である塗装乾燥装置の全体構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、3次元温度偏差積分値の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4に示した温度制御部の構成を示す詳細ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
(実施の形態1)
[全体構成]
図1は、この発明の実施の形態1である塗装乾燥装置の全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、塗装乾燥装置は、制御部1に、温度分布取得部2、先端に誘導加熱コイル3が結合されたロボットアームで実現される誘導加熱部4、記憶部5、表示部6、および操作部7が接続される。
【0016】
温度分布取得部2は、搬入された被塗装物10の温度分布情報を取得する。具体的に、温度分布取得部2は、3次元赤外線サーモグラフィであり、被塗装物10の温度分布情報を取得する。この温度分布情報は、制御部1を介して記憶部5に温度分布情報D2として記憶される。この実施の形態1では、温度分布取得部2は、天井13に設置される。
【0017】
誘導加熱コイル3は、例えば、円状に巻かれたコイルである。誘導加熱コイル3は、制御部1による制御のもと、天井13に取り付けられたロボットアームが駆動されて、位置および姿勢を変えることができる。誘導加熱コイル3は、図示しない電源から供給される高周波電流によって磁界を発生する。被塗装物10は金属であり、誘導加熱コイル3からの磁界を受けて渦電流を発生することによって加熱される。
【0018】
記憶部5は、被塗装物10の3次元形状情報D1を保持する。3次元形状情報D1は、例えば、3次元CADデータである。記憶部5は、上述した温度分布情報D2のほかに、後述するように、被塗装物10をメッシュに分割し、各メッシュ毎の3次元熱容量情報に対応して、各メッシュ毎の3次元比例制御定数情報D3を保持する。
【0019】
表示部6は、3次元形状情報D1、温度分布情報D2、3次元比例制御定数情報D3、誘導加熱コイル3の3次元移動経路RTなどの各種情報を表示出力する。なお、3次元形状情報D1、温度分布情報D2、3次元比例制御定数情報D3、誘導加熱コイル3の3次元移動経路RTは、少なくとも制御部1の制御のもとに、各情報を重ね合せ出力することができる。
【0020】
操作部7は、制御部1に対する制御指示を行う。操作部7は、キーボードやポインティングデバイスによって実現される。
【0021】
床11の上部には、被塗装物10を搬送するコンベア12が配置される。被塗装物10は、たとえば自動車ボディであり、水性塗料が塗布された状態でコンベア12によって所定位置まで搬入される。被塗装物10が搬入されると、制御部1は、被塗装物10に塗布された塗料を焼き付けるために、誘導加熱部4を駆動制御し、誘導加熱コイル3の3次元位置および姿勢を制御しながら、被塗装物10を誘導加熱する。
【0022】
制御部1は、位置検出部1a、温度検出部1b、及び温度制御部1cを有する。位置検出部1aは、ロボットアームの駆動状態をもとに、誘導加熱コイル3による被塗装物10の加熱対象位置である3次元位置を検出する。温度検出部1bは、温度分布取得部2が取得した温度分布情報D2をもとに、位置検出部1aが検出した3次元位置に対応する温度を検出する。温度制御部1cは、位置検出部1aが検出した3次元位置に対応する被塗装物10の3次元比例制御定数情報D3に基づき、3次元位置における温度検出部1bが検出した被塗装物10の温度が設定温度となるように比例制御定数を設定して誘導加熱コイル3への通電電力の比例制御を行う。これによって、誘導加熱コイル3が3次元移動経路RTを移動して被塗装物10を加熱する際、被塗装物10の各部の熱容量に対応した適切な比例制御定数に刻々と設定され、熱容量が異なる複雑な被塗装物10であっても温度分布を精度高く均一にすることができる。
【0023】
なお、制御部1は、誘導加熱コイル3のコイル形成面を被塗装物10の表面に対して平行に維持し、被塗装物10とのギャップを一定にしつつ、移動する。また、誘導加熱コイル3の3次元移動経路RTは、熱容量の大きい領域から熱容量の小さい領域に向けた順序に設定される。例えば、
図1に示した領域E1はロッカー部であり、コンベア12に接触し、かつ厚いために熱容量が大きいので、優先して誘導加熱する。領域E2は、複雑形状を有して誘導加熱困難な部分が存在するため、領域E1の誘導加熱後に誘導加熱を行う。また、領域E3は、板厚が薄く熱容量が小さいため、誘導加熱順序の優先順位を最後にしている。このように、誘導加熱コイル3の移動経路を熱容量の大きい領域から小さい領域に向けて設定することによって、1回の誘導加熱が終わった時点における誘導加熱領域全体の温度差を小さくすることができる。
【0024】
[温度制御部の詳細構成]
つぎに、
図2に示した温度制御部1cの構成を示す詳細ブロック図をもとに、温度制御部1cの温度制御について説明する。
図2に示すように、被塗装物10の平均温度として設定される設定温度は、演算部31に入力される。また、演算部31には、現在の3次元位置において温度検出部1bが検出した検出温度が入力される。演算部31は、設定温度と検出温度との偏差Δtを比例制御定数算出部32に出力する。比例制御定数算出部32は、偏差Δtの値に対応する比例制御定数Pの関係を保持し、入力された偏差Δtに対応する比例制御定数Pを算出し、比例制御定数設定部33に出力する。
【0025】
比例制御定数設定部33には、位置検出部1aによって検出された現在の3次元位置が入力される。比例制御定数設定部33は、入力された現在の3次元位置に対応する3次元比例制御定数情報D3を取得し、比例制御定数Pを比例制御定数P´に修正し、この修正した比例制御定数P´を誘導加熱コイル電源34に出力する。誘導加熱コイル電源34は、入力された比例制御定数P´をもとに誘導加熱コイル3への通電電力を制御する。この通電電力の制御は、例えば、誘導加熱コイル3に流れる高周波電流値の増減制御である。
【0026】
なお、
図3に示すように、3次元比例制御定数情報D3は、3次元形状情報D1をもとに予めメッシュに分割された分割領域毎に、被塗装物10の厚さなどの構造や材質などに起因する3次元熱容量情報を求め、この3次元熱容量情報をもとに各分割領域毎に予め設定されるものである。例えば、3次元比例制御定数情報D3は、熱容量が平均熱容量に比して大きい分割領域では、比例制御定数P´が1を超える値に設定され、熱容量が平均熱容量に比して小さい分割領域では、比例制御定数P´が1未満の値に設定される。なお、誘導加熱コイル3の3次元位置が、ある分割領域に入ったか否かの判断は、例えば、誘導加熱コイル3の加熱温度プロファイルの中心位置が、ある分割領域に入った場合としている。なお、3次元比例制御定数D3は、熱容量のみならず、被塗装物10の構造や材質に基づく放熱量を加味してもよい。
【0027】
この実施の形態1では、温度制御部1cが設定温度と検出温度との偏差Δtによる比例制御定数Pの算出に加え、誘導加熱コイル3の移動に伴う被塗装物10の3次元位置における熱容量や放熱量の変化を加味した3次元比例制御定数情報D3を用いて比例制御定数Pを比例制御定数P´に修正する温度制御を移動とともに刻々と行っているので、被塗装物10の各部における熱容量や放熱量の違いに伴う温度不均一を解消し、被塗装物10の表面温度を精度高く均一にすることができる。特に、被塗装物10の3次元位置間の温度差を小さくすることができるので、塗料が許容する高い温度での制御が可能となり、塗装乾燥時間の短縮を図ることができる。また、この塗装乾燥時間の短縮は、誘導加熱コイル3への通電時間が短縮されるため、塗装乾燥装置全体の省エネルギー化も図ることができる。
【0028】
(実施の形態2)
[全体構成]
図4は、この発明の実施の形態2である塗装乾燥装置の全体構成を示す模式図である。この実施の形態2では、温度制御部1dが実施の形態1の温度制御部1cに対応するが、この温度制御部1dでは、さらに分割領域毎の3次元温度偏差積分を行い、この3次元温度偏差積分値を加味して比例制御定数P´を積分補償するようにしている。なお、記憶部5には、同一3次元位置における偏差Δtの積分値である3次元温度偏差積分値D4が更新可能に保持される。すなわち、
図5に示すように、3次元温度偏差積分値D4は、誘導加熱コイル3が3次元移動経路RTを移動する毎に、各分割領域の積分値が更新される。この3次元温度偏差積分値D4は、前回の移動までの所定回数の偏差Δtの積分値である。塗装乾燥装置のその他の構成は、実施の形態1と同じである。
【0029】
[温度制御部の詳細構成]
つぎに、
図6に示した温度制御部1dの構成を示す詳細ブロック図をもとに、温度制御部1dの温度制御について説明する。
図6に示すように、被塗装物10の平均温度として設定される設定温度は、演算部31に入力される。また、演算部31には、現在の3次元位置において温度検出部1bが検出した検出温度が入力される。演算部31は、設定温度と検出温度との偏差Δtを比例制御定数算出部32及び比例制御定数補償設定部35に出力する。
【0030】
比例制御定数算出部32は、偏差Δtの値に対応する比例制御定数Pの関係を保持し、入力された偏差Δtに対応する比例制御定数Pを算出し、比例制御定数設定部33に出力する。比例制御定数設定部33には、位置検出部1aによって検出された現在の3次元位置が入力される。比例制御定数設定部33は、入力された現在の3次元位置に対応する3次元比例制御定数情報D3を取得し、比例制御定数Pを比例制御定数P´に修正し、この修正した比例制御定数P´を演算部36に出力する。
【0031】
一方、比例制御定数補償設定部35には、位置検出部1aによって検出された現在の3次元位置が入力される。比例制御定数補償設定部35は、今回までの偏差Δtの積分値である3次元温度偏差積分値D4を取得し、この取得した3次元温度偏差積分値D4に今回入力された偏差Δtを加えた積分処理を行い、積分処理された新たな積分値を3次元温度偏差積分値D4として更新するとともに、この更新された3次元温度偏差積分値D4に基づいて比例制御定数の補償値Pαを演算部36に出力する。この3次元温度偏差積分値D4とは、比例制御定数算出部32及び比例制御定数設定部33によって設定された比例制御定数P´を用いた温度制御を行っても、依然として検出温度と設定温度との偏差Δtが生じているか否かを示す指標である。
【0032】
演算部36は、比例制御定数P´に対して補償値Pα分を増減し、この積分補償された比例制御定数P´´を誘導加熱コイル電源34に出力する。誘導加熱コイル電源34は、入力された比例制御定数P´´をもとに誘導加熱コイル3への通電電力を制御する。
【0033】
この実施の形態2では、実施の形態1に加えて、比例制御のみでは解消できない温度偏差を比例制御定数補償設定部35による3次元位置ごとの積分補償を行うようにしているので、さらに被塗装物10の各部における熱容量や放熱量の違いに伴う温度不均一を解消し、被塗装物10の表面温度を精度高く均一にすることができる。特に、被塗装物10の3次元位置間の温度差を小さくすることができるので、塗料が許容する高い温度での制御が可能となり、塗装乾燥時間の短縮を図ることができる。また、この塗装乾燥時間の短縮は、誘導加熱コイル3への通電時間が短縮されるため、塗装乾燥装置全体の省エネルギー化も図ることができる。
【0034】
なお、上述した実施の形態1,2では、1つの誘導加熱コイル3を用いていたが、これに限らず、複数の誘導加熱コイル3を設けてもよい。また、温度分布情報D2を取得するために、複数の温度分布取得部2を設けるようにしてもよい。この場合、各誘導加熱コイル3と各温度分布取得部2とを対とする構成にすることが好ましい。
【0035】
また、上述した実施の形態では、誘導加熱コイル3のコイル径、コイル巻き数、ピッチ間隔などが固定された円状のコイルであることを前提として説明している。しかし、誘導加熱コイル3は、種々の形状、材質などを用いて入熱特性の異なるものを用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 制御部
1a 位置検出部
1b 温度検出部
1c,1d 温度制御部
2 温度分布取得部
3 誘導加熱コイル
4 誘導加熱部
5 記憶部
6 表示部
7 操作部
10 被塗装物
11 床
12 コンベア
13 天井
31,36 演算部
32 比例制御定数算出部
33 比例制御定数設定部
34 誘導加熱コイル電源
35 比例制御定数補償設定部
D1 3次元形状情報
D2 温度分布情報
D3 3次元比例制御定数情報
D4 3次元温度偏差積分値
P,P´,P´´ 比例制御定数
Pα 補償値
RT 3次元移動経路
Δt 偏差