(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホルダ本体に設けられた板状のインサート取付部に、このインサート取付部の先端部に開口して切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が該インサート取付部の板厚方向に貫通するように形成されるとともに、このインサート取付座の後端部には、該インサート取付座に連通して後端側に延びるスリットが形成されており、
上記スリットを間にして対向する上記インサート取付座の2つの内側面のうち、一方の内側面は上記切削インサートが着座させられる着座面とされるとともに、他方の内側面は上記切削インサートを上記着座面側に押圧する押圧面とされ、
上記インサート取付部のうち、上記着座面が形成された側は下顎部とされるとともに、上記押圧面が形成された側は上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形可能な上顎部とされ、
上記上顎部には、上記押圧面よりも後端側の上記スリットの上顎部側内側面に、上記板厚方向から見て、上記スリットが延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして上記上顎部側内側面から凹む上顎部側凹状面が形成されるとともに、
上記下顎部には、上記板厚方向から見て上記上顎部側凹状面に対して弧状をなして凹む複数の下顎部側凹状面が形成されていることを特徴とする刃先交換式バイト用ホルダ。
上記複数の下顎部側凹状面とのうち、1つは上記着座面よりも後端側の上記スリットの下顎部側内側面に形成されるとともに、残りは上記スリットから離れて上記下顎部に形成された弧状溝に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の刃先交換式バイト用ホルダ。
上記複数の下顎部側凹状面は、上記スリットから離れるとともに互いにも離れて上記下顎部に形成された複数の弧状溝にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の刃先交換式バイト用ホルダ。
ホルダ本体に設けられた板状のインサート取付部に、このインサート取付部の先端部に開口して切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が該インサート取付部の板厚方向に貫通するように形成されるとともに、このインサート取付座の後端部には、該インサート取付座に連通して後端側に延びるスリットが形成されて、
上記スリットを間にして対向する上記インサート取付座の2つの内側面のうち、一方の内側面は上記切削インサートが着座させられる着座面とされるとともに、他方の内側面は上記切削インサートを上記着座面側に押圧する押圧面とされ、
上記インサート取付部のうち、上記着座面が形成された側は下顎部とされるとともに、上記押圧面が形成された側は上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形可能な上顎部とされた刃先交換式バイト用ホルダと、
この刃先交換式バイト用ホルダの上記上顎部を上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させる複数のレンチとを備えた刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットであって、
上記上顎部には、上記押圧面よりも後端側に、上記板厚方向から見て、弧状をなして上記スリットに対して凹む上顎部側凹状面を有する凹部が形成されるとともに、
上記下顎部には、上記板厚方向から見て上記上顎部側凹状面に対して弧状をなして凹む複数の下顎部側凹状面が形成され、
上記複数の下顎部側凹状面のうち第1の下顎部側凹状面は、上記複数のレンチのうち第1のレンチの側部に突出するピンの上顎部側摺接部を上記上顎部側凹状面に摺接させるとともに、上記第1のレンチの側部に突出するピンの下顎部側摺接部を上記第1の下顎部側凹状面に摺接させつつ、この第1のレンチを上記第1の下顎部側凹状面に沿って回転させた際に、上記上顎部が上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させられる第1の弾性変形位置に上記第1のレンチを案内し、
上記複数の下顎部側凹状面のうち第2の下顎部側凹状面は、上記複数のレンチのうち第2のレンチの側部に突出するピンの上顎部側摺接部を上記上顎部側凹状面に摺接させるとともに、上記第2のレンチの側部に突出するピンの下顎部側摺接部を上記第2の下顎部側凹状面に摺接させつつ、この第2のレンチを上記第2の下顎部側凹状面に沿って回転させた際に、上記上顎部が上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させられる第2の弾性変形位置に上記第2のレンチを案内し、
上記第1のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Aと、上記上顎部が弾性変形していない状態における上記上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と上記第1の下顎部側凹状面の第1の弾性変形位置との間隔Bとの差である第1の差A−Bと、
上記第2のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Cと、上記上顎部が弾性変形していない状態における上記上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と上記第2の下顎部側凹状面の第2の弾性変形位置との間隔Dとの差である第2の差C−Dとが、A−B≦C−Dであることを特徴とする刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセット。
上記複数の下顎部側凹状面のうち、1つは上記着座面よりも後端側の上記スリットの下顎部側内側面に形成されるとともに、残りは上記スリットから離れて上記下顎部に形成された弧状溝に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセット。
上記複数の下顎部側凹状面は、上記スリットから離れるとともに互いにも離れて上記下顎部に形成された複数の弧状溝にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項4に記載の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような刃先交換式バイト用ホルダでは、切削インサートの交換を行うためにレンチを回転させて上顎部を下顎部に対して弾性変形させる際には、レンチのピンが上顎部の孔や凹部の内周面および下顎部の溝の内壁面、あるいはスリットの内面と摺接することになるので、切削インサートの着脱操作を繰り返すうちには、孔や凹部の内周面および溝の内壁面やスリットの対向する内面に摩滅が生じることが避けられない。
【0008】
そして、この摩滅により、孔や凹部の内周面と溝の内壁面との間の間隔が、2つのピンのうち一方のピンの孔や凹部の内周面と摺接する上顎部側摺接部と他方のピンの溝の内壁面に摺接する下顎部側摺接部との間隔と等しくなったり、スリットの対向する内面の間の間隔がレンチの断面長円状のピンの長円の長手方向を向く縁部同士の間隔と等しくなったりすると、上顎部を下顎部に対して離間するように弾性変形させることができなくなってしまう。従って、そのように摩滅した刃先交換式バイト用ホルダは廃棄せざるを得ず、非効率的かつ非経済的であった。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切削インサートの着脱操作を繰り返すうちにホルダ本体に摩滅が生じても直ぐに廃棄することなく長期に亙って使用可能な刃先交換式バイト用ホルダ、およびこのような刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の刃先交換式バイト用ホルダは、ホルダ本体に設けられた板状のインサート取付部に、このインサート取付部の先端部に開口して切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が該インサート取付部の板厚方向に貫通するように形成されるとともに、このインサート取付座の後端部には、該インサート取付座に連通して後端側に延びるスリットが形成されており、上記スリットを間にして対向する上記インサート取付座の2つの内側面のうち、一方の内側面は上記切削インサートが着座させられる着座面とされるとともに、他方の内側面は上記切削インサートを上記着座面側に押圧する押圧面とされ、上記インサート取付部のうち、上記着座面が形成された側は下顎部とされるとともに、上記押圧面が形成された側は上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形可能な上顎部とされ、上記上顎部には、上記押圧面よりも後端側の上記スリットの上顎部側内側面に、上記板厚方向から見て、上記スリットが延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして上記上顎部側内側面から凹む上顎部側凹状面が形成されるとともに、上記下顎部には、上記板厚方向から見て上記上顎部側凹状面に対して弧状をなして凹む複数の下顎部側凹状面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットは、ホルダ本体に設けられた板状のインサート取付部に、このインサート取付部の先端部に開口して切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が該インサート取付部の板厚方向に貫通するように形成されるとともに、このインサート取付座の後端部には、該インサート取付座に連通して後端側に延びるスリットが形成されて、上記スリットを間にして対向する上記インサート取付座の2つの内側面のうち、一方の内側面は上記切削インサートが着座させられる着座面とされるとともに、他方の内側面は上記切削インサートを上記着座面側に押圧する押圧面とされ、上記インサート取付部のうち、上記着座面が形成された側は下顎部とされるとともに、上記押圧面が形成された側は上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形可能な上顎部とされた刃先交換式バイト用ホルダと、この刃先交換式バイト用ホルダの上記上顎部を上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させる複数のレンチとを備えた刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットであって、上記上顎部には、上記押圧面よりも後端側に、上記板厚方向から見て、弧状をなして上記スリットに対して凹む上顎部側凹状面を有する凹部が形成されるとともに、上記下顎部には、上記板厚方向から見て上記上顎部側凹状面に対して弧状をなして凹む複数の下顎部側凹状面が形成され、上記複数の下顎部側凹状面のうち第1の下顎部側凹状面は、上記複数のレンチのうち第1のレンチの側部に突出するピンの上顎部側摺接部を上記上顎部側凹状面に摺接させるとともに、上記第1のレンチの側部に突出するピンの下顎部側摺接部を上記第1の下顎部側凹状面に摺接させつつ、この第1のレンチを上記第1の下顎部側凹状面に沿って回転させた際に、上記上顎部が上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させられる第1の弾性変形位置に上記第1のレンチを案内し、上記複数の下顎部側凹状面のうち第2の下顎部側凹状面は、上記複数のレンチのうち第2のレンチの側部に突出するピンの上顎部側摺接部を上記上顎部側凹状面に摺接させるとともに、上記第2のレンチの側部に突出するピンの下顎部側摺接部を上記第2の下顎部側凹状面に摺接させつつ、この第2のレンチを上記第2の下顎部側凹状面に沿って回転させた際に、上記上顎部が上記下顎部に対して離間する方向に弾性変形させられる第2の弾性変形位置に上記第2のレンチを案内し、上記第1のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Aと、上記上顎部が弾性変形していない状態における上記上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と上記第1の下顎部側凹状面の第1の弾性変形位置との間隔Bとの差である第1の差A−Bと、上記第2のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Cと、上記上顎部が弾性変形していない状態における上記上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と上記第2の下顎部側凹状面の第2の弾性変形位置との間隔Dとの差である第2の差C−Dとが、A−B≦C−Dであることを特徴とする。
【0012】
本発明の刃先交換式バイト用ホルダにおいては、ホルダ本体の上顎部側凹状面に対して下顎部に複数の下顎部側凹状面が形成されており、本発明の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットのように、上顎部側凹状面の最も凹んだ位置とこれらの下顎部側凹状面(第1、第2の下顎部側凹状面)の弾性変形位置との間隔Aと、上顎部を弾性変形させる複数のレンチ(第1、第2のレンチ)の上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Bとの差である上記第1の差A−Bと、第2のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Cと、上顎部が弾性変形していない状態における上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と上記第2の下顎部側凹状面の第2の弾性変形位置との間隔Dとの差である第2の差C−Dとが、A−B≦C−Dとしておいて、まず初めに刃先交換式バイト用ホルダを使用する際には、第1の差A−Bが第2の差C−D以下の第1のレンチを用いて第1の下顎部側凹状面により案内して切削インサートの着脱操作を行う。そして、この着脱操作を繰り返すうちには、第1のレンチのピンの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部が摺接することにより、ホルダ本体の上顎部側凹状面と第1の下顎部側凹状面が摩滅して、上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面の第1の弾性変形位置との間隔Aが大きくなってゆき、やがて第1のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Bと等しくなって、上顎部を弾性変形させることができなくなる。
【0013】
そこで、このように第1のレンチによって上顎部を弾性変形させることができなくなったなら、次に第2のレンチを用いて切削インサートの着脱操作を行う。そして、この第2のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔Cと、上顎部が弾性変形していない状態における上顎部側凹状面の最も凹んだ位置と第2の下顎部側凹状面の第1の弾性変形位置との間隔との差Dである第2の差C−Dを、上述のように上記第1の差A−B以上とすることにより(例えば、第1のレンチによる摩滅によって上顎部側凹状面の最も凹んだ位置が後退したときの後退量よりも大きくすることにより)、第2のレンチによって上顎部を弾性変形させて切削インサートの着脱操作を続行することが可能となる。
【0014】
従って、上記構成の刃先交換式バイト用ホルダ、および刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットによれば、ホルダ本体をより長期に亙って使用することができ、効率的かつ経済的である。また、本発明の刃先交換式バイト用ホルダでは、上記上顎部側凹状面が、上記板厚方向から見て、上記スリットが延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして上記上顎部側内側面から凹むように形成されており、特許文献4に記載された断面長円状のピンを有するレンチを第1または第2のレンチとして用いる場合でも挿入可能である。なお、本発明の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットにおいては、上顎部側凹状面はこのような半楕円弧状をなして上顎部側内側面から凹むものに限定はされず、例えば特許文献1に記載されているように円筒状の孔の下顎部側を向く内面であってもよく、また特許文献3に記載されているように上顎部側内側面から円弧状に凹むものでもよい。
【0015】
また、本発明においては、上記複数の下顎部側凹状面(第1、第2の下顎部側凹状面)のうち、1つは特許文献4に記載されたように上記着座面よりも後端側の上記スリットの下顎部側内側面に形成されるとともに、他方は特許文献1〜3に記載されたように上記スリットから離れて上記下顎部に形成された弧状溝に形成されていてもよい。この場合に、上記第1の下顎部側凹状面と上記第2の下顎部側凹状面とのうちの一方に摺接する第1または第2のレンチの上記ピンは、特許文献4に記載されたように断面長円形状また断面楕円形状をなして、その長軸方向の一端部が上記下顎部側摺接部として上記第1の下顎部側凹状面と上記第2の下顎部側凹状面とのうちの一方に摺接するとともに、他端部が上記上顎部側摺接部として上記上顎部側凹状面に摺接させられる。さらに、上記複数の下顎部側凹状面(第1、第2の下顎部側凹状面)が、特許文献3に記載されたように上記スリットから離れるとともに、互いにも離れて上記下顎部に形成された複数の弧状溝(第1、第2の弧状溝)にそれぞれ形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ホルダ本体に切削インサートの着脱操作の際の第1のレンチの摺接による摩滅が生じても、直ぐにホルダ本体を廃棄する必要が無くなって、第2のレンチによって着脱操作を行うことが可能となり、長期に亙ってホルダ本体を使用することができるので、効率的かつ経済的である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1ないし
図27は本発明の刃先交換式バイト用ホルダ、および刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットの第1の実施形態を示すものである。本実施形態の刃先交換式バイト用ホルダは、そのホルダ本体1が鋼材等により
図1ないし
図3に示すような略長方形の薄板状に形成されていて、この長方形状をなす2つの側面1Aと、この長方形の長手方向(
図3および
図4において左右方向)を向いて該長方形の短辺に沿う2つの端面1Bと、該長方形の長辺に沿う2つの細長面1Cとを備えている。また、ホルダ本体1は、側面1Aがなす長方形の中心を通ってホルダ本体1の板厚方向(
図2における左右方向。
図3および
図4において図面に直交する方向)に延びる中心線回りに180°回転対称形状とされている。
【0019】
本実施形態のホルダ本体1では、側面1Aがなす長方形の1つの対角線上に位置する2つの角部(
図3において左上と右下の角部)に、ホルダ本体1と同じく薄板状をなすインサート取付部2がそれぞれ形成されている。なお、これらの角部において、上記細長面1Cの先端側(
図4において左側)には、上記板厚方向から見て先端側に向かうに従い凸曲線をなした後に凹曲線をなして切り欠かれた切欠部1Dが形成されている。また、この切欠部1Dから長手方向に僅かに間隔をあけた位置から反対側の後端側(
図4において右側)では、2つの細長面1Cは上記長手方向に直交する断面において凸V字状に形成されている。
【0020】
各インサート取付部2には、それぞれのインサート取付部2の先端部(
図4において左上側部分)に開口するインサート取付座3が、ホルダ本体1の板厚方向と同じインサート取付部2の板厚方向に貫通するように形成されている。インサート取付座3は、ホルダ本体1の長手方向におけるインサート取付部2の後端側に向かうに従い、インサート取付部2が形成された角部が位置するホルダ本体1の細長面1Cから反対側の細長面1Cに向けて傾斜している。また、インサート取付座3の後端部には、該インサート取付座3に連通してインサート取付部2の後端側に延びるスリット4が形成されている。
【0021】
従って、インサート取付座3には、このスリット4を間にして互いに対向する2つの内側面が形成されることになり、このうちインサート取付部2が形成された角部側を向く一方の内側面は切削インサートIが着座させられる着座面3Aとされるとともに、他方の内側面は切削インサートIを着座面3A側に押圧する押圧面3Bとされている。なお、これら着座面3Aと押圧面3Bは、切削インサートIが取り外された状態では
図4に示すように互いに略平行に延びているとともに、この着座面3Aと押圧面3Bが延びる方向に直交する断面においては凸V字状に形成されている。
【0022】
また、これら着座面3Aと押圧面3Bとの間のインサート取付座3の後端部には、着座面3Aに対しては鋭角に交差する方向で、押圧面3Bに対しては鈍角に交差する方向に延びる上記長手方向に略垂直な当接面3Cが、着座面3Aおよび押圧面3Bと間隔をあけて先端側を向くように形成されている。上記スリット4は、この当接面3Cと上記押圧面3Bの間から上記長手方向に略沿って後端側に向けて延びているとともに、このスリット4の後端部は、インサート取付座3に開口する先端部よりも幅広に形成されている。なお、インサート取付座3の着座面3Aと当接面3Cとが交差する部分には、切削インサートIとの干渉を避けるための逃げ部3Dが形成されている。
【0023】
このようなインサート取付座3と上記スリット4によって分けられたインサート取付部2の2つの部分うち、上記押圧面3Bが形成された側は上顎部2Aとされるとともに、着座面3Aが形成された側は下顎部2Bとされる。ここで、上記端面1Bに沿った方向の上顎部2Aの幅は下顎部2Bの幅よりも十分に小さくされており、上顎部2Aはスリット4の後端部を中心に下顎部2Bに対して離間する方向に弾性変形可能とされている。また、スリット4の上記先端部の互いに対向する2つの内側面のうち、上顎部2A側の内側面は上顎部側内側面4Aとされるとともに、下顎部2B側の内側面は下顎部側内側面4Bとされる。
【0024】
そして、これら上顎部側内側面4Aと下顎部側内側面4Bには、インサート取付座3よりも後端側に僅かに離れた位置に、それぞれ該上顎部側内側面4Aと下顎部側内側面4Bから凹む凹部が形成されており、これらの凹部のうち上顎部側内側面4Aから凹む凹部の内面は上顎部側凹状面5Aとされ、下顎部側内側面4Bから凹む凹部の内面は複数の下顎部側凹状面のうちの第1の下顎部側凹状面5Bとされる。これら上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bとは、本実施形態では上記板厚方向から見て
図4に示すように、互いに対向してスリット4が延びる方向に長軸を有する等しい大きさの半楕円弧状をなすように形成されており、上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置に対向する第1の下顎部側凹状面5Bの最も凹んだ位置が第1の弾性変形位置とされる。
【0025】
一方、上記下顎部2Bには、上記板厚方向から見て上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置を略中心とした概略円弧状の弧状溝6が、インサート取付座3と間隔をあけて、ホルダ本体1の上記長手方向先端側において上顎部側凹状面5Aおよび第1の下顎部側凹状面5Bと略等しい位置から後端側に延びるように形成されており、この弧状溝6の両端は半円状に形成されている。そして、この弧状溝6の先端の上記上顎部側凹状面5Aに対向する内面が複数の下顎部側凹状面のうちの第2の下顎部側凹状面6Aとされており、この第2の下顎部側凹状面6Aと、上顎部側凹状面5Aが最も凹んだ位置との間隔は、弧状溝6の後端から先端側に向かうに従い漸次小さくなるように形成されていて、この弧状溝6の先端の位置が第2の弾性変形位置とされる。
【0026】
このような刃先交換式バイト用ホルダに着脱可能に取り付けられる上記切削インサートIは、例えば溝入れ加工や突っ切り加工に用いられるものであって、ホルダ本体1よりも高硬度の超硬合金等の硬質材料により形成された、上記板厚方向から見て
図11ないし
図13に示すような略偏五角形の厚肉板状のインサート本体11を備えている。このインサート本体11の5つの端面のうち、互いに反対側を向く2つの端面のうち、一方はインサート取付座3の着座面3Aに密着させられる取付面11Aとされるとともに、他方は押圧面3Bによって押圧されられる被押圧面11Bとされる。
【0027】
これら取付面11Aと被押圧面11Bとは、それぞれ着座面3Aと押圧面3Bに当接可能な断面凹V字状に形成されるとともに、インサート本体11の後端側に向かうに従い互いの間隔が僅かに広くなるように角度がつけられている。さらに、これらの取付面11Aと被押圧面11Bとの間の間隔は、上顎部2Aが弾性変形していない状態の着座面3Aと押圧面3Bとの間隔よりも僅かに大きくされている。
【0028】
また、こうして取付面11Aを着座面3Aに着座させるとともに被押圧面11Bが押圧面3Bによって押圧されて切削インサートIがインサート取付座3に取り付けられた状態で、インサート取付部2の先端側に向けられるインサート本体11の2つの端面のうち、被押圧面11Bに連なる上顎部2A側の端面はすくい面11Cとされるとともに、取付面11Aに連なる下顎部2B側の端面は逃げ面11Dとされ、これらすくい面11Cと逃げ面11Dとの交差稜線部にはホルダ本体1の板厚よりも長い切刃12が形成されている。さらに、この取付状態において、被押圧面11Bに連なってインサート取付部2の後端側に向けられる端面はインサート取付部2の上記当接面3Cに当接させられる被当接面11Eとされる。
【0029】
このような切削インサートIをホルダ本体1のインサート取付座3に取り付けるための複数のレンチのうちの第1のレンチW1は、ホルダ本体1と等しい硬度、またはホルダ本体1よりも高硬度の鋼材等により形成されて、
図5ないし
図7に示すように円柱軸状のレンチ本体21の長手方向の先端部(
図6および
図7において左側の部分)に、このレンチ本体21の側部に垂直に突出するレンチ本体21より短いピン22がレンチ本体21と一体に形成されたL字状をなしている。ピン22は、その断面が、ホルダ本体1の上顎部2Aが弾性変形していない状態において上記板厚方向から見た上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bとがなす半楕円弧の間に嵌め入れ可能な大きさの、レンチ本体21の長手方向に長軸を有する楕円状に形成されている。
【0030】
そして、このピン22の断面がなす楕円の長軸方向の一端部が第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aとされるとともに、他端部が第1のレンチW1の下顎部側摺接部22Bとされる(本実施形態では、ピン22の長軸方向のレンチ本体21側の端部が上顎部側摺接部22Aとされるとともに、これとは反対側の端部が下顎部側摺接部22Bとされている。)。なお、これら上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bには、ピン22の長手方向(レンチ本体21の長手方向に垂直な方向)に延びる小さな凹溝が形成されていてもよい。
【0031】
ただし、このような場合でも、第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bとの間の上記長軸方向の間隔Aは、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面5Bの最も凹んだ上記弾性変形位置との間隔Bよりも大きくされる。この第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bとの間隔Aと、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面5Bの第1の弾性変形位置との間隔Bの差A−Bが、本実施形態における第1の差となる。
【0032】
このような第1のレンチW1によってホルダ本体1の上顎部2Aを弾性変形させて切削インサートIを取り付けるには、まず
図8ないし
図10に示すように、切削インサートIを取り付けるインサート取付座3よりもホルダ本体1の先端側に延びるようにレンチ本体21を向けて、ピン22を上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bとがなす半楕円弧の間に嵌め入れる。なお、
図8ないし
図10とは反対に、レンチ本体21がホルダ本体1の後端側に延びるようにしてピン22を嵌め入れてもよい。
【0033】
そして、この状態から
図11ないし
図13に示すように、ピン22の上顎部側摺接部22Aを上顎部側凹状面5Aに摺接させるとともに、下顎部側摺接部22Bを第1の下顎部側凹状面5Bに摺接させつつ、第1のレンチW1のレンチ本体21を第1の下顎部側凹状面5Bに沿って上向きに90°回転させて、上顎部側摺接部22Aが上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置に、また下顎部側摺接部22Bが第1の下顎部側凹状面5Bの第1の弾性変形位置に配置されるように、第1のレンチW1を案内して位置決めする。なお、これとは逆にレンチ本体21を下向きに90°回転させてもよく、この場合には上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bも逆になる。
【0034】
このとき、上述のように第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bとの間隔Aは、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面5Bの弾性変形位置との間隔Bよりも大きいので、その上記第1の差A−Bの分だけ上顎部2Aは下顎部2Bに対して離間する方向に弾性変形させられて持ち上げられ、上顎部2Aの押圧面3Bと下顎部2Bの着座面3Aとの間隔が大きくなるようにインサート取付座3が押し拡げられる。そこで、
図14に示すように、この押し拡げられたインサート取付座3に切削インサートIを挿入し、取付面11Aを着座面3Aに密着させるとともに被当接面11Eを当接面3Cに当接させ、切削インサートIをインサート取付座3に着座させる。
【0035】
次いで、
図15に示すように、上顎部2Aを弾性変形させた方向とは反対の方向に第1のレンチW1を回転させると、切削インサートIの取付面11Aと被押圧面11Bとの間隔は、上顎部2Aが弾性変形していない状態のインサート取付座3の着座面3Aと押圧面3Bとの間隔よりも僅かに大きくされているので、切削インサートIは被押圧面11Bが押圧面3Bによって押圧されて、
図16に示すように弾性変形したままの上顎部2Aと下顎部2Bとの間に挟み込まれてインサート取付座3に取り付けられる。
【0036】
このように切削インサートIがインサート取付座3に取り付けられたホルダ本体1は、工作機械の刃物台に取り付けられ、切削インサートIの切刃12が回転する被削材に切り込まれて被削材の溝入れ加工や突っ切り加工等の旋削加工を行う。また、このように旋削加工を行ううちに切削インサートIの切刃12が摩耗して寿命に達したときは、上記と同様の手順で第1のレンチW1によってホルダ本体1の上顎部2Aを弾性変形させて切刃12が摩耗した切削インサートIを取り外し、新規の切削インサートIと交換して旋削加工を続行する。
【0037】
こうして切削インサートIを交換する作業を繰り返すことにより、第1のレンチW1のピン22との摺接によって上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bには摩滅が生じる。そして、この摩滅により、第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bとの間隔Aと、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面5Bの弾性変形位置との間隔Bとが等しくなって上記第1の差A−Bが0になると、第1のレンチW1を回転させても上顎部2Aは弾性変形しなくなり、切削インサートIを着脱することができなくなってしまう。
【0038】
そこで、このように第1のレンチW1によって上顎部2Aを弾性変形させられなくなった場合には、
図17ないし
図19に示す複数のレンチのうちの第2のレンチW2を用いることによって上顎部2Aを弾性変形させる。この第2のレンチW2は、第1のレンチW1と同様にホルダ本体1と等しい硬度、またはホルダ本体1よりも高硬度の鋼材等により形成されて、円柱軸状のレンチ本体31の長手方向の先端部(
図18および
図19において左側の部分)に、このレンチ本体31の側部に垂直に突出するレンチ本体31より短い等しい長さの2つのピン32、33が間隔をあけて互いに平行にレンチ本体31と一体に形成された概略F字状をなしている。
【0039】
これらのピン32、33は、本実施形態では、その断面が互いに等しい直径の円形とされており、このピン32、33の直径は、上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bの最も凹んだ位置同士の間隔と弧状溝6の溝幅よりも小さくされている。また、ピン32、33同士の間隔は、これらのピン32、33の一方を上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bの間に挿入した状態で、他方がホルダ本体1後端側の弧状溝6の後端部に挿入可能な大きさとされている。
【0040】
そして、これらのピン32、33の外周面のうちレンチ本体31の長手方向に背を向けて互いに反対側を向く、レンチ本体21の長手方向先端側に位置するピン32、33のうちの一方の外周面の先端側縁部と、後端側に位置するピン32、33の他方の外周面の後端側縁部とが、この第2のレンチW2の上顎部側摺接部と下顎部側摺接部とされる(本実施形態では、レンチ本体31の長手方向後端側に位置する第1のピン32の外周面の後端側縁部が第2のレンチW2の上顎部側摺接部32Aとされるとともに、これとは反対側の先端側に位置する第2のピン33の外周面の先端側縁部が第2のレンチW2の下顎部側摺接部33Aとされている。)。
【0041】
さらに、レンチ本体31の長手方向における第2のレンチW2の上顎部側摺接部32Aと下顎部側摺接部33Aとの間の間隔Cは、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と弧状溝6の第2の下顎部側凹状面6A先端の第2の弾性変形位置との間隔Dよりも大きくされている。この第2のレンチW2の上顎部側摺接部32Aと下顎部側摺接部33Aとの間隔Cと、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第2の下顎部側凹状面6Aの第2の弾性変形位置との間隔Dの差C−Dが本実施形態における第2の差となる。
【0042】
そして、この第2の差C−Dは上記第1の差A−Bよりも大きくされている。さらに、本実施形態では、この第2の差C−Dは、第1の差A−Bに対して、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置が摩滅によって後退したときの後退量よりも大きくされており、例えば第1のレンチW1による摩滅によって上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bが均等に摩滅した場合には、(A−B)+(A−B)/2=1.5×(A−B)よりも大きくされている。
【0043】
このような第2のレンチW2によって、上顎部側凹状面5Aが摩滅した上顎部2Aを弾性変形させて持ち上げるには、まず
図20ないし
図22に示すように第2のレンチW2の第1のピン32を上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bの間に挿入するとともに、第2のピン33を弧状溝6のホルダ本体1後端部に挿入する。次に、この状態から、
図23ないし
図25に示すように、第1のピン32の上顎部側摺接部32Aを上顎部側凹状面5Aに摺接させるとともに、第2のピン33の下顎部側摺接部33Aを第2の下顎部側凹状面6Aに摺接させつつ、第2のレンチW2のレンチ本体31を回転させて、下顎部側摺接部33Aが弧状溝6の先端における第2の下顎部側凹状面6Aの第2の弾性変形位置に配置されるように、第2のレンチW2を案内して位置決めする。
【0044】
なお、これとは逆に、第2のレンチW2の第2のピン33を上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bの間に挿入するとともに、第1のピン32を弧状溝6のホルダ本体1後端部に挿入し、第2のピン33を上顎部側凹状面5Aに摺接させるとともに、第1のピン32を第2の下顎部側凹状面6Aに摺接させつつ第2のレンチW2を回転させて、第1のピン32が弧状溝6の先端における第2の下顎部側凹状面6Aの第2の弾性変形位置に配置されるように、第2のレンチW2を案内してもよい。この場合には、第2のレンチW2の上顎部側摺接部32Aと下顎部側摺接部33Aも逆になる。
【0045】
上述の通り、
図23ないし
図25に示すように第2のレンチW2を回転させると、弧状溝6の上顎部側凹状面5Aに対向する内面は第2の下顎部側凹状面6Aとされていて、この第2の下顎部側凹状面6Aと、上顎部側凹状面5Aが最も凹んだ位置との間隔は、弧状溝6の後端から先端側に向かうに従い漸次小さくなるように形成されており、この弧状溝6の先端の位置である第2の弾性変形位置と上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置との間隔Dに対して、第2のレンチW2の上顎部側摺接部32Aと下顎部側摺接部33Aとの間の間隔Cが大きく、しかもその差である第2の差C−Dは第1の差A−Bよりも大きいので、第2のレンチW2の下顎部側摺接部33Aが第2の下顎部側凹状面6Aと摺接して上顎部2Aが再び弾性変形可能となって持ち上げられ、下顎部側摺接部33Aが第2の弾性変形位置に達したところで第2のレンチW2は位置決めされ、インサート取付座3の着座面3Aと押圧面3Bとの間隔が拡げられる。
【0046】
そこで、
図26に示すように、こうして再び押し拡げられたインサート取付座3に新規の切削インサートIを着座させた後、第2のレンチW2の第2のピン33が弧状溝6の後端部に位置するように、上顎部2Aを弾性変形させた方向とは逆方向にレンチ本体31を回転することにより、
図27に示すように新規の切削インサートIは被押圧面11Bが押圧面3Bに押圧されてインサート取付座3に取り付けられる。従って、この状態から第2のレンチを取り外して再び新規の切削インサートIにより被削材の旋削加工を行うことができるとともに、第2のレンチW2によって切削インサートIの着脱操作を続行することが可能となる。
【0047】
このように、上記構成の刃先交換式バイト用ホルダ、および刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットによれば、複数のレンチのうちの第1のレンチW1による切削インサートIの着脱操作によってホルダ本体1の上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bに摩滅が生じて、第1のレンチW1によっては切削インサートIの着脱が不可能になっても、ホルダ本体1を廃棄することなく複数のレンチのうちの第2のレンチW2によって新規の切削インサートIの着脱操作を続行することができる。このため、ホルダ本体1の有効利用を図ることができて長期に亙って使用することが可能となり、効率的かつ経済的である。
【0048】
なお、本実施形態では、上述のように第2の差C−Dが第1の差A−Bに対して1.5×(A−B)よりも大きくされていて、第1のレンチW1の上顎部側摺接部22Aと下顎部側摺接部22Bとの間隔Aが、上顎部2Aが弾性変形していない状態での上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1の下顎部側凹状面5Bの弾性変形位置との間隔Bと等しくなるまで摩滅したところで、第2のレンチW2を用いるようにしているが、第2の差C−Dが第1の差A−Bに対してこれよりも小さくて、第1のレンチW1によって上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bがある程度摩滅して切削インサートIを着脱し難くなったところで第2のレンチW2を用いるようにしてもよい。なお、第1の差A−Bと第2の差C−Dは、A−B=C−Dであってもよい。
【0049】
また、本実施形態の刃先交換式バイト用ホルダでは、上顎部側凹状面5Aがホルダ本体1の板厚方向から見て、スリット4が延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして上顎部側内側面4Aから凹むように形成されている。また、この上顎部側凹状面5Aに対向して第1の弾性変形位置を形成する第1の下顎部側凹状面5Bも、スリット4が延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして下顎部側内側面4Bから凹むように形成されているので、レンチ本体21に特許文献4に記載されたような断面長円状あるいは断面楕円状のピン22を有する第1のレンチW1を用いてインサート取付座3を押し拡げることができ、ピン22が1つで済むので一層効率的である。
【0050】
さらに、本実施形態では、第2のレンチW2の下顎部側摺接部33Aが摺接する第2の下顎部側凹状面6Aは、スリット4から離れて下顎部2Bに形成された弧状溝6に形成されている。すなわち、第1のレンチW1が摺接する第1の下顎部側凹状面5Bとは異なる位置に第2の下顎部側凹状面6Aが形成されるので、ホルダ本体1の摩滅を一層抑制することができ、さらに長寿命な刃先交換式バイト用ホルダを提供することが可能となる。なお、このようにスリット4から離れた弧状溝6に第2の下顎部側凹状面6Aを形成して切削インサートIの着脱を行う場合に、本発明の刃先交換式バイト用ホルダとレンチのセットにおいては、上顎部側凹状面5Aは、例えば特許文献1に記載されているように上顎部2Aに形成された円筒状の孔の下顎部2B側を向く内面であってもよく、また特許文献3に記載されているように上顎部側内側面4Aから円弧状に凹むものでもよい。
【0051】
一方、上記第1の実施形態においては、上顎部側凹状面5Aと第1の下顎部側凹状面5Bはスリット4を間にして対向する上顎部側内側面4Aと下顎部側内側面4Bに形成されているが、
図28ないし
図30に刃先交換式バイト用ホルダを示す本発明の第2の実施形態のように、第1の下顎部側凹状面7Aと第2の下顎部側凹状面8Aが、上記スリット4から離れるとともに、互いにも離れて下顎部2Bに形成された第1の弧状溝7と第2の弧状溝8にそれぞれ形成されていてもよい。なお、この第2の実施形態において、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配してある。
【0052】
この第2の実施形態においては、第1の弧状溝7は下顎部2Bのインサート取付座3側に形成されるとともに、第2の弧状溝8は第1の弧状溝7とはインサート取付座3とは反対側に離れて下顎部2Bに形成され、ともに上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置を中心とする略同心円弧状に形成されている。ただし、この上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置を向く第1の下顎部側凹状面7Aと第2の下顎部側凹状面8Aとは、上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置との間隔がホルダ本体1の先端側に向かうに従い漸次小さくなるように形成されていて、ホルダ本体1の先端部の位置において上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置との間隔B、Dが最も小さくなり、第1、第2の弾性変形位置となる。また、上顎部側凹状面5Aは上顎部側内側面4Aから凹む略半円弧形状であり、下顎部側内側面4Bには第1の下顎部側凹状面5Bは形成されていない。
【0053】
このような第2の実施形態の上顎部2Aを弾性変形させる第1、第2のレンチは、図示は略するが
図17ないし
図19に示した第1の実施形態の第2のレンチW2と同様の形状とされており、その第1、第2のピンの大きさと間隔は、第1のピンと第2のピンの一方を上顎部側凹状面5Aに嵌め入れた状態で、他方が、第1のレンチでは第1の弧状溝7の後端部に、第2のレンチでは第2の弧状溝8の後端部に挿入可能とされている。そして、これら第1、第2のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔A、Cは、ホルダ本体1の上顎部側凹状面5Aの最も凹んだ位置と第1、第2の下顎部側凹状面7A、8Aにおける上記第1、第2の弾性変形位置との間隔B、Dよりも大きく、しかも第1の差A−Bよりも第2の差C−Dが大きくなるように設定されている。
【0054】
このような第2の実施形態においても、まず第1のレンチを用いて、第1の実施形態の第2のレンチW2による切削インサートIの着脱操作と同様の操作で、第1の弧状溝7の第1の下顎部側凹状面7Aを用いて切削インサートの着脱を行う。そして、この第1のレンチによる着脱操作によって上顎部側凹状面5Aや第1の下顎部側凹状面7Aが摩滅し、切削インサートの着脱が不可能または困難となった場合には、第2のレンチを使用して第2の弧状溝8の第2の下顎部側凹状面8Aを用いることにより、再び上顎部2Aを弾性変形させて切削インサートの着脱操作を行うことができるので、第1の実施形態と同様に効率的かつ経済的である。
【0055】
また、本実施形態では、上顎部2Aに形成される上顎部側凹状面5Aが半円弧形状であるので、その最も凹んだ位置における曲率半径と上顎部側内側面4Aからの深さが第1の実施形態のような半楕円弧形状の上顎部側凹状面5Aと同じであれば、上顎部2Aが上顎部側凹状面5Aによって切り欠かれる部分を極力少なくすることができる。このため、上顎部2Aの剛性が低下するのを抑えることができ、切削インサートIを十分な弾性力で押圧してインサート取付部2に取り付けて安定した旋削加工を行うことが可能となる。
【0056】
ただし、これとは逆に上顎部2Aが切り欠かれる部分は大きくなるが、本実施形態のように第1、第2の弧状溝7、8に第1、第2の下顎部側凹状面7A、8Aを形成して上顎部2Aを弾性変形させる場合には、上述したように上顎部2Aに円筒状等の孔を形成し、この孔の下顎部2B側を向く内面を上顎部側凹状面5Aとしてもよい。また、下顎部に3つ以上の弧状溝を形成してそれぞれに下顎部側凹状面を形成し、3つ以上のレンチの上顎部側摺接部と下顎部側摺接部との間隔と、各下顎部側凹状面の弾性変形位置と上顎部側凹状面との間隔との差が段階的に大きくなるようにしたり、あるいは第1の実施形態と同様に半楕円形状の上顎部側凹状面と下顎部側凹状面を形成し、その第1の実施形態における第1の差A−Bを、第2の実施形態において第1の差A−Bおよび第2の差C−Dと異なる大きさとしたりすることにより、レンチを交換して切削インサートの着脱操作を3回以上続行することも可能である。
【解決手段】ホルダ本体1のインサート取付部2のうち、インサート取付座3の着座面3Aが形成された側は下顎部2Bとされるとともに、押圧面3Bが形成された側は下顎部2Bに対して離間する方向に弾性変形可能な上顎部2Aとされ、上顎部2Aには、押圧面3Bよりも後端側のホルダ本体1のスリット4の上顎部側内側面4Aに、ホルダ本体1の板厚方向から見て、スリット4が延びる方向に長軸を有する半楕円弧状をなして上顎部側内側面4Aから凹む上顎部側凹状面5Aが形成されるとともに、下顎部2Bには、板厚方向から見て上顎部側凹状面5Aに対して弧状をなして凹む複数の下顎部側凹状面5B、6Aが形成されている。