(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
[第1の実施の形態]
まず、半導体装置について、
図1を用いて説明する。
【0011】
図1は、第1の実施の形態における半導体装置を示す図である。
半導体装置100は、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140とが積層されてケース150に収納されて、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140のおもて面側とが樹脂(図示を省略)で封止されている。
【0012】
半導体チップ110は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の半導体素子を含む。なお、
図1では、半導体チップ110を1個のみ記載しているが、必要に応じて複数配置することも可能である。
【0013】
積層基板120は、絶縁板121と、絶縁板121のおもて面に形成された導電性の回路板122と、前記絶縁板121の裏面に形成された金属板123とを有する。また、積層基板120は、前記導電性の回路板122上に半導体チップ110がはんだ(図示を省略)を介して設けられている。
【0014】
放熱ベース140は、熱伝導性が高い、例えば、アルミニウム、金、銀、銅等の金属により構成されており、めっき処理されて、表面にめっき層(図示を省略)が形成されている。放熱ベース140は、おもて面に積層基板120がはんだ130を介して設けられている。また、放熱ベース140の裏面には、ショットピーニング処理により、複数の窪みが形成され、窪みが複数重なり合った構成に加工されて、加工硬化層(図示を省略)が形成されている。なお、放熱ベース140の裏面の加工硬化層の形成方法の詳細については後述する。また、絶縁板121のおもて面とは、
図1において回路板122が形成される側の面である。放熱ベース140の裏面とは、
図1において積層基板120が形成される側の反対側の面である。
【0015】
なお、半導体チップ110内、また、半導体チップ110の主電極と、ケース150の端子とが、ワイヤ(図示を省略)にて電気的に接続されている。
このような構成を有する半導体装置100は、放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160を介して放熱フィン170が設けられている。放熱フィン170は、熱伝導性が高い、例えば、アルミニウム、金、銀、銅等の金属により構成されており、放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンド160を挟んでネジ(図示を省略)で取り付けられている。前記サーマルコンパウンド160は放熱ベース140と放熱フィン170とを密着させ、放熱ベース140と放熱フィン170との間の熱伝導を良好にするために用いられる。そのため、空隙が無いようにすることが重要である。放熱ベース140が反っていたり、放熱ベース140の裏面が平滑でない場合は、放熱ベース140と放熱フィン170との間に隙間が生じる。そのため、サーマルコンパウンドの膜厚が厚くなったり、空隙が生じたりして、熱伝導が低下してしまうため好ましくない。
【0016】
なお、サーマルコンパウンド160は、例えば、ノンシリコーン系の有機オイルと、当該有機オイルに含有されたフィラーとを含む。なお、フィラーは熱伝導率が高く、絶縁体である酸化アルミニウム等が用いられる。そして、前記フィラーの充填率は80wt%以上、95wt%以下、フィラーの直径は、平均5μmである。また、サーマルコンパウンド160の熱伝導率は1.99W/(m・K)、粘度が542Pa・s(回転速度0.3rpm時)、112Pa・s(回転速度3rpm時)である。このようなサーマルコンパウンド160が、放熱ベース140に対して厚さ100μm程度塗布されている。
【0017】
ここで、ショットピーニング処理による放熱ベース140の裏面に対する加工硬化層の形成方法の詳細については
図2を用いて説明する。
図2は、第1の実施の形態におけるショットピーニング処理を説明するための図である。
【0018】
なお、ショットピーニング処理について、
図2(A)は、超音波振動によりショット材を飛ばす場合を説明する図を表し、
図2(B)は、空気圧によりショット材を飛ばす場合を説明するための図を表している。
【0019】
半導体装置100の放熱ベース140の裏面に対して複数の窪みが重なり合った構成が、ショットピーニング(SP)処理により形成される。
まず、放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を実行するために、例えば、
図2(A)に示されるように、放熱ベース140の裏面のマスク200により指定された複数の窪みの加工領域に対して、ショットピーニング処理装置300が設置される。
【0020】
ショットピーニング処理装置300は、超音波振動装置310と、超音波振動装置310により振動される複数のショット材320とを含む。
このようなショットピーニング処理装置300では、超音波振動装置310を駆動させることにより、ショット材320が振動する。振動するショット材320が放熱ベース140の裏面に打ち付けられることにより、放熱ベース140の裏面に複数の窪みが形成される。すると、この複数の窪みが重なり合って形成された領域は、面積が広がって、硬化することで、加工硬化層が形成される。この加工硬化層は放熱ベース140の板厚方向に数ミクロンから数十ミクロンの厚みを持つ層である。そして、このショットピーニング処理された領域には、加工硬化層によって圧縮応力が働き、放熱ベース140として反りが生じる。より具体的には、加工硬化層を下にして、下に凸の形状となる。また、放熱ベース140の裏面に形成される窪みの深さ、幅、数等は、超音波振動の振幅、ショット材の形状、平均粒径等を変化させることで、制御することができる。
【0021】
または、放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を実行するために、例えば、
図2(B)に示されるように、放熱ベース140の裏面のマスク200により指定された複数の窪みの形成領域に対して、ショットピーニング処理装置400が設置される。
【0022】
ショットピーニング処理装置400は、空気圧により飛ばされる複数のショット材420を含む。
このようなショットピーニング処理装置400では、ショット材420を空気圧で吹き飛ばすことにより、ショット材
420がショットピーニング処理装置400から(図中実線矢印方向に)飛び出す。飛び出したショット材420が放熱ベース140の裏面に打ち付けられることにより、放熱ベース140の裏面に複数の窪みが形成されて、窪みが複数重なり合う構成が形成される。すると、複数の窪みが形成された領域は、面積が広がって、硬化することで、加工硬化層が形成される。ショットピーニング処理装置400でショットピーニング処理が終了すると図中破線矢印方向にショットピーニング処理装置400を移動させて、再び、ショットピーニング処理を行う。このようにしてマスク200により指定された放熱ベース140の裏面全面にショットピーニング処理を行うことができる。また、放熱ベース140の裏面に形成される窪みの深さ、幅、数等は、ショットピーニング処理装置400による空気圧の圧力、ショット材の形状、平均粒径等に基づき、制御することができる。
【0023】
このようにショットピーニング処理は、超音波振動または空気圧によりショット材を放熱ベース140に打ち付けることで、加工硬化層を形成することができる。そして、圧縮応力が働くことで、放熱ベース140を反らせて、初期反りを付与することができる。
【0024】
なお、ショット材がSUS304であって、超音波振動の場合のショット材の平均粒径は、最大4mm程度であり、空気圧の場合のショット材の平均粒径は、最大1.2mm程度である。したがって、超音波振動の場合の方が、空気圧の場合よりも、ショット材の平均粒径が大きい(重い)ものを用いることができる。一方で、超音波振動の場合において、ショット材の平均粒径を小さくし過ぎると、放熱ベース140の裏面が切削されてしまう。一般的に、ショット材が放熱ベース140等の金属板に衝突すると、金属表面に圧縮応力等の残留応力を形成するとともに、金属を削り取る作用も合わせて有する。ショット材の平均粒径が小さすぎると、後者の金属を削り取る作用の方が大きくなる場合がある。したがって、所定の残留応力を得るために、金属が削り取られてしまうので好ましくない場合が生じる。また、空気圧の場合において、ショット材が重すぎると、空気圧によりショット材を飛ばすことができない。
【0025】
次に、ショットピーニング処理で用いられるショット材の例について
図3を用いて説明する。
図3は、第1の実施の形態におけるショットピーニング処理で用いられるショット材の一例を示す図である。
【0026】
ショット材は、主に3種類の形状がある。
このようなショット材は、例えば、
図3(A)に示されるように、球状(球体)である。
【0027】
また、別のショット材としては、例えば、
図3(B)に示されるように、ワイヤをカットしたような円柱状である。
また、別のショット材としては、例えば、
図3(C)に示されるように、表面に尖端部を複数備えるブロック片状である。
【0028】
なお、ショット材が、円柱状、ブロック片状である場合は、表面に尖端部を複数備えているために、球状の場合よりも、被処理材を切削することができる。また、ブロック片状及び円柱状のショット材は球状のショット材よりも安価である。
【0029】
次に、このような半導体装置100の製造方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、第1の実施の形態における半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。なお、
図4の各処理は、それぞれ、半導体装置100の製造者並びに製造者により操作される製造装置によって実行される。
【0030】
[ステップS10] 放熱ベース140を用意する。用意した放熱ベース140の表面にめっき処理を行う。当該めっき処理の前または後に、放熱ベース140の裏面にショットピーニング処理を行って、放熱ベース140に、凹状になるような初期反りを付ける。これは、後に、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140をはんだを介して積層して加熱してはんだ接合する際に、各部材間の熱膨張率係数の差により放熱ベース140が上に凸に反ることを見越して、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140を積層させる前に、予め、放熱ベース140にこのような初期反りを与えておく。放熱ベース140に初期反りを付与しない場合、放熱ベース140に積層基板120や半導体チップ110を実装した時の反り量は半導体装置100の種類により異なる。そのため、予め前記反り量を計測しておく。そして、所定の反り量を放熱ベース140に付与する。なお、初期反りを与える方法としては、所定の形状の金型に挟んで、プレスして変形させる方法がある。しかしながら、前記方法では、半導体装置100の種類ごとに異なる反り量を付与するために、多数の金型を用意する必要がある。また、高精度に反り量を制御することは難しい。そのため、半導体装置100の種類に応じて、高精度に反り量を付与する方法が必要である。
【0031】
なお、後述するように放熱ベース140のおもて面に積層基板120が設けられる場合においても、「上に凸」とは、放熱ベース140のおもて面に対する裏面側が窪んだ状態であって、「下に凸」とは、放熱ベース140のおもて面側が窪んだ状態である。
【0032】
なお、ステップS10の処理の詳細については後述する。
[ステップS11] 放熱ベース140上にはんだ板を介して積層基板120を設け、積層基板120の回路板122上にはんだ板を介して半導体チップ110を設けて、各部材をセットする。
【0033】
[ステップS12] 加熱して、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140との各部材間に配置されたはんだ板を溶融し、溶融したはんだを固化することで、半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140とに対するはんだ付けを行う。
【0034】
この際、下に凸の反りが付けられた放熱ベース140は、加熱により、上に凸になるように反る。これにより放熱ベース140の反りが略水平となって、放熱ベース140の反りが抑制される。
【0035】
[ステップS13] 半導体チップ110に対するワイヤボンディングを行って、配線接続を行う。
[ステップS14] ケース150に端子の取り付けを行う。
【0036】
[ステップS15] ステップS11でセットした半導体チップ110と、積層基板120と、放熱ベース140とをケース150に収納して、これらとケース150とを接着して半導体装置100を組み立てる。
【0037】
なお、この際、ケース150の裏面側には、放熱ベース140の裏面が露出している。
[ステップS16] ケース150内の半導体チップ110と積層基板120と放熱ベース140のおもて面とを樹脂で封止する。
【0038】
[ステップS17] ケース150の端子を曲げて、蓋を取り付ける。
[ステップS18] 放熱ベース140の裏面にサーマルコンパウンドを100μmの厚さになるように塗布する。
【0039】
[ステップS19] サーマルコンパウンド160を塗布した放熱ベース140の裏面に放熱フィン170を取り付け、放熱フィン170を放熱ベース140に対してネジで固定する。なお、ステップS13はステップS15の後に行ってもよい。
【0040】
この際、放熱ベース140の反りが抑制されているために、放熱ベース140とサーマルコンパウンド160を介して取り付けられた放熱フィン170との隙間の発生も抑制されるようになる。このようにして、放熱ベース140に放熱フィン170をサーマルコンパウンド160を介して取り付けると、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性の低下が抑制されるようになる。
【0041】
以上により、放熱フィン170が取り付けられた半導体装置100が製造される。
次に、放熱ベース140の初期反り付けの詳細について、
図5及び
図6を用いて説明する。
【0042】
図5は、第1の実施の形態における半導体装置の放熱ベースの初期反り付けを示すフローチャートである。
図6は、第1の実施の形態における半導体装置の放熱ベースを示す図である。
【0043】
なお、
図6(A)は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140を、
図6(B)は、ショットピーニング処理が行われ、さらに、めっき処理が行われた放熱ベース140をそれぞれ示している。
【0044】
[ステップS101] 放熱ベース140を用意する。
[ステップS102] 放熱ベース140の裏面に対してショットピーニング処理を行う。これにより、放熱ベース140の裏面に複数の窪みが形成されて、窪みが複数重なった構成に加工される。これにより、放熱ベース140は、
図6(A)に示されるように、ショットピーニング処理が行われた裏面側に加工硬化層141が形成されて、圧縮応力が付与されて凹状の初期反りが生じる。
【0045】
[ステップS103] このようにして初期反りが付けられた放熱ベース140に対して、例えば、金属材料としてニッケルを用いためっき処理を行って、
図6(B)に示されるように、放熱ベース140の表面にめっき層142を形成する。なお、めっき層の厚さは、1μm以上、10μm以下程度であって、平均は5μm程度が好ましい。また、めっき処理の方法は、例えば、電解めっき法、または、無電解めっき法のいずれかであってよい。めっき厚さが厚すぎると、めっきのノジュール(異常析出)や欠陥が生じたり、凹凸が大きくなったりするため好ましくない。また、めっき膜厚は面内分布を有するが、膜厚が厚くなると、膜厚差が大きくなり、応力や熱伝導の点から好ましくない。さらに、コストの点からも好ましくない。一方、前記めっき膜厚が薄いと、酸化防止性能や腐食防止性能が低下する可能性がある。そのため、適切なめっき膜厚が必要となる。
【0046】
放熱ベース140は、めっき層142を形成することにより、酸化防止性能、腐食防止性能は向上し、また、積層基板120に対するはんだ接合がしやすくなる。このような機能を有するために、放熱ベース140に対するめっき処理が行われている。
【0047】
上記ステップS101〜S103(ステップS10)の処理により、めっき処理が行われた放熱ベース140の初期反り付けが行われる。
また、めっき処理の前に、放熱ベース140にショットピーニング処理を行っているために、放熱ベース140のめっき層142は損傷を受けることがない。また、ショットピーニング処理により窪みが複数重なり合った構成の形状が形成された放熱ベース140にめっき層142が形成されるため、重なり合った複数の窪みがめっき層142に対してアンカー効果を生じて、放熱ベース140に対するめっき層142の密着性が向上するようになる。また、様々な形状、材質のショット材を用いることができる。
【0048】
次に、様々なショット材を用いてショットピーニング処理を行った場合の放熱ベース140の反り状態及び放熱ベース140に対するめっき層142の密着性について
図7を用いて説明する。
【0049】
図7は、第1の実施の形態におけるショットピーニング処理で様々なショット材を用いた場合の放熱ベースを説明するための図である。
なお、
図7では、「ショット材(形状、平均粒径(mm))」、「SP(ショットピーニング)処理種別」、「(ショットピーニング処理が行われた放熱ベースの裏面の)算術平均粗さRa(μm)」、「反り」、「めっき層の密着性」といった項目が示されている。
【0050】
「ショット材(形状、平均粒径(mm))」は、ショットピーニング処理で用いられたショット材の形状及び平均粒径を表す。
「SP処理種別」は、ショットピーニング処理を行うために用いられた種別(超音波振動または空気圧)を表す。
【0051】
「算術平均粗さRa(μm)」は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の算術平均粗さを表す。
「反り」は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の反り状態を表す。例えば、ショットピーニング処理により放熱ベース140に適切に反りが発生した場合には、「G(Good)」を、十分な反りが発生しなかった場合には、「NG(Not Good)」を付している。
【0052】
「めっき層の密着性」は、放熱ベース140に対するめっき層142の密着性の状態を表す。なお、めっき膜厚は平均5μmとした。例えば、ショットピーニング処理が行われなかった放熱ベース140に対するめっき層142の密着性より、行われた放熱ベース140に対するめっき層の密着性が向上した場合には、「G(Good)」を、密着性が向上しなかった(密着性が悪い)場合には、「N(No)」を付している。密着性の評価はJIS H8504の曲げ試験法に従った。
【0053】
また、「ショット材」としては、SUS304を用いて、その「形状」は、球状、円柱状、ブロック片状が用いられている。
また、これらのショット材を用いたショットピーニング処理では、ショット材の平均粒径が1mm以下のものは空気圧を利用し、ショット材の平均粒径が1mmを超えるものは超音波振動を利用している。
【0054】
なお、空気圧の場合には、その投射圧力を0.5MPa、投射時間を92秒とする。一方、超音波振動の場合には、その振動振幅を70μm、振動時間を20秒とする。
図7によれば、球状の平均粒径が1mmの場合に、また、ブロック片状の平均粒径が0.2mm以上、5mm以下の場合に、放熱ベース140に十分な反りが生じていることが分かる。これは、めっき処理の前に、放熱ベース140の裏面に直接、ショットピーニング処理を行っているために、放熱ベース140の裏面に応力が均一に入ったことが考えられる。仮に、めっき処理を行った放熱ベース140に対して平均粒径が0.2mm以上、5mm以下程度のショット材によりショットピーニング処理を行うと、めっき層の厚さにはばらつきがあるために、放熱ベース140に対して均一にショット材を打ち込むことができなくなる。
【0055】
また、
図7によれば、ショット材がその平均粒径が0.2mmよりも小さい0.1mmの円柱状の場合には、放熱ベース140に十分な反りを与えることができていない。これは、ショット材の平均粒径が小さすぎるために、放熱ベース140に対して十分な窪みを与えることができないことから、放熱ベース140に十分な反りが生じないことが考えられる。そして、ショット材がその平均粒径が5mmよりも大きい8mmのブロック片状の場合にも、上記と同様に、放熱ベース140に十分な反りを与えることができていない。これは、放熱ベース140に対する窪みのバラつきが生じるために、応力が
一様に入らなくなり反りが不均一となることが考えられる。
【0056】
さらに、上記の球状、ブロック片状であって、平均粒径が0.2mm以上、5mm以下におけるショットピーニング処理により、めっき層の密着性が向上していることが分かる。これは、ショットピーニング処理により裏面に複数の窪みが形成され、窪みが複数重なり合った構成(算術平均粗さ:1.04μm以上、10.8μm以下)が形成される。このような放熱ベース140に対してめっき処理が行われることにより、めっき層に対して窪みがアンカー効果を生じるためである。また、球状の平均粒径が1mmの場合のショット材によるショットピーニング処理と比べると、算術平均粗さは同等であっても、密着性のさらなる向上が認められた。これは、表面に尖端部を複数備えているために、アンカー効果が向上しているためと考えられる。このため、放熱ベース140に対するめっき層の密着性が向上することにより、放熱ベース140とめっき層との熱膨張係数の差による熱応力に対する耐性が向上する。なお、ショット材は平均粒径が5mmよりも大きい8mmのブロック片状の場合には、算術平均粗さが大きくなることから、めっき層が均一に形成されなくなり、めっき層に斑が生じてしまうことから、めっき層の密着性が向上しなくなることが考えられる。
【0057】
上記半導体装置100の製造方法では、放熱ベース140を用意する工程と、放熱ベース140の裏面に対してショットピーニング処理を行う工程と、放熱ベース140のおもて面及び裏面を金属材料でめっきするめっき処理工程と、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140と、放熱ベース140のおもて面にはんだ130を介して配置された、絶縁板121と、絶縁板121のおもて面に設けられた回路板122とを有する積層基板120と、回路板122上にはんだを介して配置された半導体チップ110とを加熱によりはんだ接合する工程と、を有する。
【0058】
これにより、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140を組み立てる前に、ショットピーニング処理により放熱ベース140に初期反り(凹状)を付けることができることから、半導体チップ110、はんだ130に損傷を与えることがない。さらに、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140をそれぞれはんだ付けのための加熱により、各部材間の熱膨張係数の差により放熱ベース140が上に凸に反っても、放熱ベース140は初期反り(凹状)が付けられているために、放熱ベース140は略水平になるように反りが矯正される。したがって、放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160の厚さが略均一となり、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性の低下が抑制される。このため、半導体装置100の放熱性の低下が抑制され、半導体装置100の信頼性が維持されるようになる。
【0059】
また、放熱ベース140にショットピーニング処理を行った後で、放熱ベース140にめっき処理を行うことから、放熱ベース140に形成されためっき層142に亀裂、剥離等が生じずに、また、放熱ベース140に対するめっき層の密着性が向上する。
【0060】
特に、ショットピーニング処理のショット材が球状の平均粒径が1mmの場合に、また、ブロック片状の平均粒径が0.2mm以上、5mm以下の場合に、放熱ベース140に十分な反りが生じて、また、放熱ベース140に対するめっき層142の密着性が向上する。
【0061】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、放熱ベース140にめっき処理を行った後で、ショットピーニング処理を行う場合について説明する。
【0062】
第2の実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、
図4に示した半導体装置100の製造方法のフローチャートにより半導体装置100(
図1)を製造する。
ここで、第2の実施の形態における、
図4のフローチャートのステップS10の放熱ベースの初期反り付け処理について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0063】
図8は、第2の実施の形態における半導体装置の放熱ベースの初期反り付けを示すフローチャートである。
図9は、第2の実施の形態における半導体装置の放熱ベースを示す図である。
【0064】
なお、
図9(A)は、めっき処理が行われた放熱ベース140を、
図9(B)は、めっき処理が行われ、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140をそれぞれ示している。
【0065】
[ステップS111] 放熱ベース140を用意する。
[ステップS112] 放熱ベース140に対してめっき処理を行って、
図9(A)に示されるように、放熱ベース140の表面にめっき層
143を形成する。なお、めっき層
143の厚さは、2μm以上、10μm以下程度である。めっき層
143の厚さについては後述する。
【0066】
[ステップS113] めっき層
143が形成された放熱ベース140の裏面に対してショットピーニング処理を行う。これにより、放熱ベース140の裏面に窪みが形成されて、窪みが複数重なり合った構成が形成される。ニッケル等のめっき層
143に比べて、放熱ベース140の母材であるアルミや銅は柔らかいために、前記母材が変形し、母材に加工硬化層が形成される。これにより、放熱ベース140は、
図9(B)に示されるように、ショットピーニング処理が行われた裏面側の面積が増加することで加工硬化層
144が形成されて、凹状の初期反りが生じる。
【0067】
但し、ステップS113のショットピーニング処理は、放熱ベース140に形成されためっき層
143が切削されず、剥がれないようなショット材、処理条件が選択される必要がある。
【0068】
また、このようにめっき層
143に亀裂、剥離等が生じないように、放熱ベース140にショットピーニング処理を行う必要がある。めっき膜厚は上述したように最適な範囲があるが、さらに、めっき層
143には、ある程度の厚さを必要とし、例えば、厚さが2μm以上を要する(第2の実施の形態であれば、2μm以上、10μm以下程度)。すなわち、めっき層
143の厚さが2μmよりも薄い場合には(第1の実施の形態であれば、1μm以上、2μm未満程度)、第1の実施の形態で説明したように、先に放熱ベース140にショットピーニング処理を行った後に、めっき処理を行うことが望まれる。
【0069】
このようなステップS111〜S113(ステップS10)の処理により、放熱ベース140に対する初期反り付けが行われ、第1の実施の形態と同様に、
図4のフローチャートのステップS11の処理が開始される。
【0070】
次に、めっき処理が行われた放熱ベース140に対して、様々なショット材を用いてショットピーニング処理を行った場合の放熱ベース140の反り状態及び放熱ベース140に対するめっき層
143の密着性について
図10を用いて説明する。
【0071】
図10は、第2の実施の形態におけるショットピーニング処理で様々なショット材を用いた場合の放熱ベースを説明するための図である。
なお、
図10では、「ショット材(形状、平均粒径(mm))」、「SP(ショットピーニング)処理種別」、「(ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の)算術平均粗さRa(μm)」、「反り」、「めっき層の密着性」といった項目が示されている。
【0072】
「ショット材(形状、平均粒径(mm))」は、ショットピーニング処理で用いられたショット材の形状及び平均粒径を表す。なお、前記平均粒径は、各ショット材をSEM(Scanning Electron Microscope)によりそれぞれ観察して、その粒径を計測して平均を取ることで得られる。
【0073】
「SP処理種別」は、ショットピーニング処理を行うために用いられた種別(超音波振動または空気圧)を表す。
「算術平均粗さRa(μm)」は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の裏面の算術平均粗さを表し、触針式表面粗さ計で測定した。測定条件は、カットオフ長は、2.5mm、測定長さは、12.5mm、測定速度は、0.3mm/s、カットオフの種別はガウシアンとして測定した。
【0074】
「反り」は、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140の反り状態を表す。例えば、ショットピーニング処理により放熱ベース140に適切に反りが発生した場合には、「G(Good)」を、十分な反りが発生しなかった場合には、「NG(Not Good)
」を付している。
【0075】
「めっき層の密着性」は、放熱ベース140に対するめっき層
143の密着性の状態を表す。なお、めっき膜厚は平均5μmとした。例えば、ショットピーニング処理が行われなかった放熱ベース140に対するめっき層の密着性より、行われた放熱ベース140に対するめっき層の密着性が向上した場合には、「G(Good)」を、
十分に密着性が向上しなかった場合には「NG(Not Good)」を、密着性が向上しなかった(密着性が悪い)場合には、「N(No)」を付している。密着性の評価はJIS H8504の曲げ試験法に従った。
【0076】
また、「ショット材」としては、SUS304が用いられて、その「形状」として、球状、円柱状が用いられている。なお、ショット材の形状として、ブロック片状は、その表面に、尖端部が設けられていることから、放熱ベース140のめっき層
143を切削して、めっき層
143に亀裂、剥離等を生じさせてしまうおそれがある。そこで、ここでは、ブロック片状のショット材を用いていない。
【0077】
これらのショット材を用いたショットピーニング処理では、ショット材の平均粒径が1mm以下のものは空気圧を利用し、ショット材の平均粒径が1mmを超えるものは超音波振動を利用している。
【0078】
なお、空気圧の場合には、その投射圧力を0.5MPa、投射時間を92秒とする。一方、超音波振動の場合には、その振動振幅を70μm、振動時間を20秒とする。
図10によれば、ショット材が球状であって、その平均粒径が0.6mm以上、10mm以下の場合に、(めっき層
143に亀裂、剥離等が生じずに)放熱ベース140に適切な反りが生じていることが分かる。これは、めっき処理された放熱ベース140が、めっき層
143に亀裂、剥離等が生じずにめっき層
143を介して、ショット材が適切に打ち込まれたことが考えられる。
【0079】
球状のショット材の平均粒径が0.2mmの場合には、放熱ベース140に適切な反りが生じなかった。これは、ショット材の平均粒径が小さいために、ショット材が放熱ベース140に対して十分に打ち込められなかったことが考えられる。なお、球状のショット材の平均粒径をより小さくすると、放熱ベース140に反りを生じさせることができなくなるだけではなく、めっき層
143を切削して、めっき層
143に亀裂、剥離等を生じさせてしまうおそれがある。
【0080】
さらに、ショット材が上記の球状であって、上記の0.6mm以上、10mm以下の平均粒径におけるショットピーニング処理により、めっき層
143の密着性が向上していることが分かる。これは、めっき処理された放熱ベース140に対するショットピーニング処理において、めっき層
143に亀裂、剥離等が生じ、密着性が低下するに至るショット材、処理条件ではないことが考えられる。なお、めっき層
143は、反りが生じていない平滑な放熱ベース140に対して形成されたものであるため、放熱ベース140に均一に形成される。
【0081】
なお、ショット材が円柱状で、その平均粒径が0.6mmである場合には、めっき層
143の密着性の向上は認められなかった。これは、円柱状のショット材の角部が、放熱ベース140のめっき層
143を切削し、めっき層
143に亀裂、剥離等を生じさせていることが考えられる。このことは、ブロック片状においても同様であると考えられる。また、ショット材が球状でも、その平均粒径が12mmである場合には、めっき層
143の密着性の向上は認められなかった。これは、球状のショット材によりショットピーニング処理をめっき処理が行われた放熱ベース140に行うと、ショット材がある程度の平均粒径(この場合には12mm)であるために、放熱ベース140に反りを生じさせてはいるものの、ショット材が大きすぎるために、放熱ベース140のめっき層
143に亀裂、剥離等が生じさせて、密着性が低下してしまうことが考えられる。
【0082】
また、ショットピーニング処理により、めっき処理が行われた放熱ベース140に凹状の初期反りが生じると、めっき層
143に応力が生じる。しかし、凹状の初期反りが生じた放熱ベース140が半導体チップ110及び積層基板120と一体化されて、はんだ接合のために加熱されると、放熱ベース140は上に凸になるように反りが発生して、放熱ベース140における反りが抑制されるようになる。この際、放熱ベース140の反りが略水平に矯正されるに伴って、放熱ベース140のめっき層
143に生じた応力は解消される。このため、放熱ベース140を半導体装置100として一体化すると、放熱ベース140からめっき層
143の剥離等が生じにくくなる。
【0083】
上記半導体装置100の製造方法では、放熱ベース140を用意する工程と、放熱ベース140のおもて面及び裏面を金属材料でめっきするめっき処理工程と、放熱ベース140の裏面に対してショットピーニング処理を行う工程と、ショットピーニング処理が行われた放熱ベース140と、放熱ベース140のおもて面にはんだ130を介して配置された、絶縁板121と、絶縁板121のおもて面に設けられた回路板122とを有する積層基板120と、回路板122上にはんだ130を介して配置された半導体チップ110とを加熱によりはんだ接合する工程と、を有する。
【0084】
これにより、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140を組み立てる前に、ショットピーニング処理により放熱ベース140に凹状の初期反りを付けることができることから、半導体チップ110、はんだ130に損傷を与えることがない。さらに、半導体チップ110、積層基板120、放熱ベース140をそれぞれはんだ付けのための加熱により、各部材間の熱膨張係数の差により放熱ベース140が上に凸に反っても、放熱ベース140は凹状の初期反りが付けられているために、放熱ベース140は略水平になるように反りが矯正される。したがって、放熱ベース140と放熱フィン170との間のサーマルコンパウンド160の厚さが略均一となり、放熱ベース140から放熱フィン170に対する放熱性の低下が抑制される。このため、半導体装置100の放熱性の低下が抑制され、半導体装置100の信頼性が維持されるようになる。
【0085】
第1の実施の形態では、ショットピーニング処理の後にめっき処理を行っている。このため、アンカー効果によるめっき層142の密着性を向上することができる。また、様々なショット材を用いることができる。
【0086】
また、第2の実施の形態では、放熱ベース140にめっき処理を行った後で、ショットピーニング処理を行っている。このため、放熱ベース140に形成されためっき層
143に亀裂、剥離等が生じないように、放熱ベース140にショットピーニング処理を行う必要がある。このようなショットピーニング処理は、例えば、ショット材が球状であって、その平均粒径が0.6mm以上、10mm以下とすることが望ましい。この場合において、放熱ベース140に適切な反りが生じて、また、放熱ベース140に対するめっき層
143の密着性が向上する。
【0087】
また、ショットピーニング処理により初期反りが付けられた放熱ベース140のめっき層
143は応力が生じる。しかし、このような放熱ベース140は半導体チップ110と、積層基板120と共にはんだ接合により半導体装置100に一体化する際の加熱により、上に凸の反りが生じ、略水平に反りが矯正される。このため、半導体装置100の放熱ベース140のめっき層
143の応力は解消されてしまい、放熱ベース140からめっき層
143の剥離が抑制されるようになる。また、酸化防止性能や腐食防止性能も満たされる。
【0088】
上記については単に本発明の原理を示すものである。さらに、多数の変形、変更が当業者にとって可能であり、本発明は上記に示し、説明した正確な構成及び応用例に限定されるものではなく、対応するすべての変形例及び均等物は、添付の請求項及びその均等物による本発明の範囲とみなされる。