(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
本発明に係る定着加圧ロールは、画像形成装置の定着部において未定着トナー像を熱と圧力で記録媒体に定着するために用いられるものであり、後述する加圧ロール及び定着ロール等が例示される。本実施形態では、定着加圧ロールの一例として、加圧ロールを例示する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る加圧ロールの横断面図及び縦断面図である。加圧ロール1は、芯体10と、芯体10の周囲に設けられた弾性層11と、弾性層11の周囲に設けられた離型層12とを具備する。
【0020】
本発明に係る弾性層11は、シリコーンゴム原料と、マイクロ樹脂バルーンと、水とを混合した後、シリコーンゴム原料を硬化することにより得られたシリコーンゴムで構成される。かかるシリコーンゴムは、加圧によるマイクロ樹脂バルーンの破壊で形成された空隙と、水の蒸発で形成された空隙とを含む。具体的に、弾性層11は、マイクロ樹脂バルーンと水とが混合されたシリコーンゴム原料を加熱(一次硬化)してシリコーンゴムとし、このシリコーンゴムを加圧して、含有されるマイクロ樹脂バルーンを破壊させ、さらにシリコーンゴムを加熱(二次硬化)することにより得られる。
【0021】
ここで、加圧とは、マイクロ樹脂バルーンを破壊するためにシリコーンゴムに圧力をかけることを言う。破壊とは、通常は、マイクロ樹脂バルーンが割れた状態になることを言うが、例えば、ひび割れる又は収縮する等、加圧によりシリコーンゴムを硬化する前の状態とは異なった状態になることも含む。本発明では、加圧によりマイクロ樹脂バルーンを破壊させることで、マイクロ樹脂バルーンの多くを割れた状態にすることができる。
【0022】
マイクロ樹脂バルーンが破壊すると、マイクロ樹脂バルーンが存在していた部分は空隙となる。即ち、マイクロ樹脂バルーンの破壊で形成された空隙とは、シリコーンゴムを加圧する前にはマイクロ樹脂バルーンが存在し、加圧した後にマイクロ樹脂バルーンが破壊されることで形成される空間をいう。
【0023】
水は、シリコーンゴムを水の蒸発温度以上で加熱(一次硬化、二次硬化)することにより蒸発され、水が存在していた部分は空隙となる。即ち、水の蒸発で形成された空隙とは、水が蒸発してできた空間(気泡)をいう。
【0024】
本発明では、シリコーンゴム原料に水を混合することにより、シリコーンゴムからマイクロ樹脂バルーンが剥がれやすくなり、加圧によりマイクロ樹脂バルーンが割れることによる破壊が一層促進される。即ち、水は、マイクロ樹脂バルーンとシリコーンゴムとの接着力を弱める作用を有する。さらに、水は、シリコーンゴムを二次硬化する際に、加熱により過熱水蒸気となり、破壊されたマイクロ樹脂バルーンの炭化を促進し、このマイクロ樹脂バルーンの炭化により隣接する空隙間を連通化していく。また、水は、加圧によりシリコーンゴム中に均等に分散されるため、マイクロ樹脂バルーンの炭化及び空隙間の連通化は、弾性層全体に亘って均等に生じる。これにより、弾性層11は、弾性層全体に亘って連泡化される。このような連泡化により、弾性層11は低硬度及び低熱容量となり、弾性層11を具備する加圧ロール1は圧縮永久歪が優れたものとなる。
【0025】
加圧ロール1を構成する芯体10は、金属又は樹脂材料からなる。金属又は樹脂材料は、加圧ロール1の芯体として用いることができるものであれば、特に制限はない。また、芯体10の形状についても制限はなく、中空であっても、中空でなくてもよい。
【0026】
弾性層11を構成するシリコーンゴムは、加熱により硬化して弾性体を生成するシリコーンゴムであれば特に制限されない。具体的には、液状シリコーンゴムやミラブル型シリコーンゴムが挙げられるが、液状シリコーンゴムが好ましい。このようなシリコーンゴムは市販されているものを用いることができ、勿論、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
マイクロ樹脂バルーンは、液化ガス又はガスを熱可塑性高分子殻で包み込んだものである。本実施形態で用いるマイクロ樹脂バルーンは、シリコーンゴム原料を一次硬化した後、シリコーンゴムを加圧することにより、マイクロ樹脂バルーンの熱可塑性高分子殻が破壊され、空隙を形成する。
【0028】
加圧の強さは、マイクロ樹脂バルーンを破壊できる強さであれば特に制限はなく、マイクロ樹脂バルーンの種類等により適宜選択することができる。具体的に、加圧力は、5MPa〜30MPaが好ましく、10MPa〜25MPaがより好ましい。加圧方法としては、水、油等の液体による加圧や、空気、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、水素及び酸素等の気体による加圧が挙げられる。これらの中でも液体による加圧が好ましく、特に水圧が好ましい。本実施形態では、水圧によりマイクロ樹脂バルーンを破壊する。
【0029】
マイクロ樹脂バルーンの平均粒径は、未膨張のものは約6μm〜45μm、既膨張のものは、約20μm〜130μmの範囲にある。マイクロ樹脂バルーンの破壊により形成された空隙の内径は、既膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊前の平均粒径と同程度となることが好ましい。例えば、平均粒径40μm〜60μmの既膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊後の空隙の内径は、20μm〜80μmの範囲で分布されることが好ましく、30μm〜70μmの範囲で分布されることがより好ましい。
【0030】
未膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊後の空隙の内径は、通常は破壊前の平均粒径より数倍〜数十倍大きくなる。例えば、平均粒径10μm〜16μmの未膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いた場合、破壊後の空隙の内径は、20μm〜200μmの範囲で分布されることが好ましく、50μm〜100μmの範囲で分布されることがより好ましい。
【0031】
なお、本実施形態におけるマイクロ樹脂バルーンの平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定されたメジアン径(D50)の値のことである。内径の分布とは、電子顕微鏡写真に基づき、マイクロ樹脂バルーン毎の空隙の内径を測定し、算出した範囲をいう。上述したマイクロ樹脂バルーンは、既膨張のものでも未膨張のものでも用いることができる。また、これらのマイクロ樹脂バルーンは、市販されているものを用いることができ、2種類以上を併用してもよい。なお、シリコーンゴム原料として液状シリコーンゴムを用いる場合は既膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いるのが好ましく、ミラブル型シリコーンゴムを用いる場合は混練時にバルーンが破壊しにくい未膨張のマイクロ樹脂バルーンを用いるのが好ましい。
【0032】
マイクロ樹脂バルーンの配合量は、水の配合量に応じて適宜選択することができる。通常、シリコーンゴム100質量部に対して、1質量部〜10質量部が好ましく、1質量部〜3質量部がより好ましい。これは、弾性層11中でマイクロ樹脂バルーンが均一に安定して分散できる量である。なお、マイクロ樹脂バルーンの配合量が少なすぎると十分な耐久性が得られず、多すぎると粘度が上昇し成型が不可能になる。
【0033】
シリコーンゴム原料に含有される水は、特に制限されず、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水及び水道水等を用いることができる。混合時の水の温度についても制限はない。水の配合量は、マイクロ樹脂バルーンの配合量に応じて適宜選択することができる。通常、シリコーンゴム100質量部に対して、5質量部〜100質量部が好ましい。これは、加圧によりマイクロ樹脂バルーンの割れが促進される量である。なお、水の配合量が少なすぎると、加圧によるマイクロ樹脂バルーンの割れや、割れたマイクロ樹脂バルーンの炭化が促進されず、水の配合量が多すぎるとシリコーンゴムが脆くなる原因となる。
【0034】
弾性層11の厚さは、例えば、0.5mm〜20mmであり、好ましくは、2mm〜6mmである。これは、トナーの定着性を向上させ、画像の高画質化を図るためである。
【0035】
離型層12は、高い離型性の合成樹脂材料からなるのが好ましく、フッ素樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂としては、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等を挙げることができ、特にパーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)が好ましい。離型層12の厚さは、定着加圧ロールに高い離型性を付与できる厚さであれば、特に制限はないが、例えば、1μm〜100μmであり、好ましくは、30μm〜70μmである。なお、離型層12は設けなくてもよい。離型層12を設けない場合は、例えば、後述する実施形態3に示すような定着ベルト20の定着ロール30Aとして用いることが好ましい(
図5参照)。
【0036】
本発明によれば、マイクロ樹脂バルーンを加圧により破壊させることで、その多くを割れた状態に破壊させることができる。マイクロ樹脂バルーンの割れた状態への破壊は、シリコーンゴム中に含有される水の存在により、一層促進される。さらに、水は、二次硬化の際、水の加熱で発生する過熱水蒸気により、破壊されたマイクロ樹脂バルーンの炭化を促進し、隣接する空隙間を連通化していく。これにより、弾性層11は、層全体に亘って連泡化され、低硬度及び低熱容量となり、加圧ロール1の圧縮永久歪は優れたものとなる。
【0037】
次に、本実施形態の加圧ロールを製造する方法について以下に説明する。
【0038】
本実施形態では、シリコーンゴム原料として液状シリコーンゴムを用いて加圧ロール1を製造する場合について例示する。まず、液状シリコーンゴムに、マイクロ樹脂バルーンと水とを混合して分散させ、シリコーンゴム組成物を調製する。
【0039】
次に、金型に芯体10を配置し、芯体10の周りにシリコーンゴム組成物を充填し、シリコーンゴム組成物を加熱する(一次硬化)。具体的には、液状シリコーンゴムの硬化温度以上で、マイクロ樹脂バルーン殻、即ち、熱可塑性高分子の軟化温度以下で加熱し、マイクロ樹脂バルーンを破壊させずに、シリコーンゴム組成物を硬化させてシリコーンゴムとする。
【0040】
次いで、シリコーンゴムを圧力容器に入れて水圧をかけて、マイクロ樹脂バルーンの多くを割れた状態に破壊させる。
【0041】
ここで、水圧によるマイクロ樹脂バルーンの破壊工程について説明する。
図2に、マイクロ樹脂バルーンが破壊される工程を説明するための概念図を示す。まず、一次硬化後のシリコーンゴム101を圧力容器102に入れ、圧力容器102を水で満たす(
図2(a))。次に、圧力容器102内を水圧で加圧する。この水圧処理により、シリコーンゴム101は圧縮され、マイクロ樹脂バルーン103の多くが割れて空隙となる(
図2(b))。次に、圧力容器102を大気圧に戻し、水を抜く(
図2(c))。次いで、圧力容器102内からシリコーンゴム101を取り出し、恒温槽104にて加熱することで、圧縮されたシリコーンゴム101を元の状態に戻す(
図2(d))。シリコーンゴム101が元の状態に戻される際、マイクロ樹脂バルーン103が割れてできた空隙105は、膨張し、水圧がかけられる前にマイクロ樹脂バルーン103が存在していた部分は、
図2(b)に示す空隙よりも大きな空隙105となる。(
図2(e))。このようにしてシリコーンゴム101中のマイクロ樹脂バルーン103の多くを割れた状態に破壊させて空隙105を形成する。その後、シリコーンゴム101をさらに加熱する(二次硬化)。
【0042】
次に、弾性層11の周囲に離型層12を形成する。離型層12は、PFAチューブを用いる他、例えばコーティング液の塗布により形成してもよい。なお、一次硬化後のシリコーンゴム上に離型層12を形成した後に、水圧処理及び二次硬化を行ってもよい。
【0043】
水圧処理は、一次硬化後のシリコーンゴムに行うのが好ましいが、シリコーンゴム組成物の硬化(一次硬化)と同時、又は二次硬化後に行っても良い。また、水圧時の加圧条件及び加圧回数を適宜調整することにより、マイクロ樹脂バルーンの破壊のタイミングや破壊の状態を制御することが可能である。このように加圧方法及び加圧回数は制限されない。
【0044】
次に、定着装置について説明する。
図3に、本実施形態に係る定着装置の断面図を示す。
図3に示すように、定着装置2は、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、加圧ロール1に対向する位置で定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧して所定のニップを形成する押圧部材21と、定着ベルト20を所定温度まで加熱する加熱手段22とを具備するものである。
【0045】
定着ベルト20は、対向する加圧ロール1との圧接により所定のニップを形成できるものであればよく、例えば、シームレス電鋳ベルトを少なくとも一層有する金属基体と、金属基体の内周面に形成された摺動層と、金属基体の外周面に形成された弾性層と、弾性層の外周面に形成された離型層とからなる。
【0046】
押圧部材21は、ゴム等の弾性体、樹脂及び金属等から構成される。表面には、必要に応じてフッ素樹脂等からなる層が形成されることや、摺動シートや溝等が設けられることもある。なお、摺動シートの表面に凹凸加工が施されていてもよい。
【0047】
加熱手段22は、定着ベルト20を加熱できるものであればよく、定着ベルト20の外側に設けられていてもよい。加熱手段22としては、ハロゲンヒーター、電熱線ヒーター、赤外線ヒーター、励磁コイル(熱源)による電磁誘導発熱等を挙げることができる。なお、加熱手段22は、押圧部材21に内蔵されていてもよい。
【0048】
本実施形態に係る定着装置2は、圧縮永久歪に優れ、低硬度及び低熱容量の加圧ロール1を具備するものである。これにより、耐久性に優れた信頼性の高い定着装置を実現することができる。
【0049】
(実施形態2)
実施形態2では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図4に、実施形態2に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図4に示すように、定着装置2Aは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、押圧部材の代わりに、定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧する定着ロール30とを具備する。定着ロール30には、図示されない加熱手段が外側に配置されている。本実施形態の定着加圧ロールは、
図4に示す定着ロール30としても、加圧ロール1としても使用することができる。
【0051】
(実施形態3)
実施形態3では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。なお、実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
図5に、実施形態3に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図5に示すように、定着装置2Bは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ベルト20と、定着ベルト20を内側から加圧ロール1に対して押圧する定着ロール30Aと、加熱手段22を内蔵する加熱ロール23とを具備する。定着ベルト20の内側には、定着ロール30Aと加熱ロール23とが配置され、これらの定着ロール30Aと加熱ロール23とで定着ベルト20を回転駆動するものである。本実施形態の定着加圧ロールは、
図5に示す定着ロール30Aとしても、加圧ロール1としても使用することができる。
【0053】
(実施形態4)
実施形態4では、定着加圧ロールの一例として、定着ロール及び加圧ロールを例示する。実施形態1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
図6に、実施形態4に係る定着ロール及び加圧ロールを具備する定着装置の断面図を示す。
図6に示すように、定着装置2Cは、加圧ロール1と、加圧ロール1に対向して配置される定着ロール30Bとを具備する。定着ロール30Bには、図示されない加熱手段が内蔵されている。本実施形態の定着加圧ロールは、
図6に示す定着ロール30Bとしても、加圧ロール1としても使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明を限定するものではない。
(実施例1)
以下の手順で、加圧ロール1を製造した。液状シリコーンゴム(東レダウコーニング製:DY35−796)100質量部に、マイクロ樹脂バルーン(松本油脂製薬製:F−65DE、既膨張、平均粒径40〜60μm)2質量部と、精製水30質量部とを混合し、ホバートミキサーにて3分間×2回攪拌して脱泡し、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0056】
次に、液状シリコーンゴム用プライマー(モメンティブ製:XP81−405)を塗布乾燥した直径18mmの鉄製芯体を下フランジに立て、金型と上フランジを載せ固定した。その後、下フランジ側から注型機にて調製したシリコーンゴム組成物を金型に注ぎ込み、90℃の恒温槽に1.5時間入れて加熱し、シリコーンゴムを作製した(一次硬化)。その後、冷却して脱型した。脱型したシリコーンゴムを圧力容器に入れ、圧力容器を水で満たし、20MPaの水圧で10分間圧縮した後、水を除いて大気圧に戻した。次いで、シリコーンゴムをさらに230℃の恒温槽で8時間加熱した(二次硬化)。その後、シリコーンゴムの表面を研磨して形状を整え、接着剤(信越化学工業製:KE−1880)を押上げ塗装にて塗布し、金型にて拡張したPFAチューブを被覆した後、150℃×30分、200℃×4時間加熱し、寸法カットを行った。これにより、芯体10と、シリコーンゴムからなる弾性層11と、PFAチューブからなる離型層12とを備えた外径φ30mmの加圧ロール1を得た。
【0057】
また、加圧ロール1の作製と共に、以下の手順でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。実施例1と同様の手順で調製したシリコーンゴム組成物を、12mm厚のテストピース型に流し込み、90℃の恒温槽に1.5時間入れて加熱し、テストピースを作製した(一次硬化)。その後、脱型したテストピースを圧力容器に入れ、圧力容器を水で満たし、20MPaの水圧で10分間圧縮した後、水を除いて大気圧に戻した。次いで、230℃の恒温槽で8時間加熱した(二次硬化)。
【0058】
(実施例2)
実施例2では、離型層12を設けない以外は実施例1と同様の工程で定着ロールを作製した。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、精製水50質量部を混合した以外は実施例1と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0060】
(実施例4)
実施例4では、マイクロ樹脂バルーン3質量部を混合した以外は実施例1と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0061】
(実施例5)
実施例5では、マイクロ樹脂バルーン1質量部と精製水10質量部とを混合した以外は実施例1と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0062】
(実施例6)
実施例6では、精製水60質量部を混合した以外は実施例5と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0063】
(比較例1)
比較例1では、水圧処理を行わない以外は実施例4と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0064】
(比較例2)
比較例2では、精製水を混合しない以外は実施例4と同様の工程で加圧ロール1及びシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0065】
(比較例3)
比較例3では、水圧処理を行わず、精製水を混合しない以外は実施例4と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0066】
(比較例4)
比較例4では、水圧処理を行わない以外は実施例5と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0067】
(比較例5)
比較例5では、マイクロ樹脂バルーン5質量部を混合し、水圧処理を行わない以外は実施例4と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0068】
(比較例6)
比較例6では、マイクロ樹脂バルーン5質量部と精製水60質量部を混合し、水圧処理を行わない以外は実施例4と同様の工程でシリコーンゴムからなるテストピースを作製した。
【0069】
(試験例1)
実施例1,3〜6、比較例1〜6に基づき作製したテストピース(以下、「弾性体」と言う。)の圧縮永久歪(C/S)、アスカーC硬度及び比重を測定した。また、弾性体の割れの有無を目視で確認した。
【0070】
圧縮永久歪は、下記式1を使用して、180℃×22時間、25%圧縮した後解放し、30分経過後の寸法変化から算出した。
【0071】
[式1]
(試験片(弾性体)の元の厚さ−試験後の試験片の厚さ)/(試験片の元の厚さ−スペーサの厚さ)
【0072】
アスカーC硬度の測定はアスカーC硬度計(高分子計器社製)を用いて行った。比重の測定は電子比重計MD−200S(A&D製)を用いて行った。弾性体の比重は、液状シリコーンゴム及びマイクロ樹脂バルーンの重量と容積をそれぞれ算出し、単位容積あたりの重量として算出した。
【0073】
表1に、実施例1,3〜6、比較例1〜6の弾性体の構成、圧縮永久歪、アスカーC硬度及び比重の測定結果、弾性体の割れの有無の結果を示す。弾性体の割れは、割れが発生しなかった場合を○、発生した場合を×とした。
【0074】
実施例1,3〜6の弾性体は、いずれも割れが発生せず、加工性に優れたものであることがわかった。また、実施例1,3〜6の弾性体は、いずれも圧縮永久歪及び硬度が低くなった。詳述すると、実施例4と比較例1の比較から、水圧処理を行うことで圧縮永久歪及び硬度が共に低くなった。同様に、実施例5と比較例4の比較から、水圧処理を行うことで硬度が低くなった。これは、水圧処理によりマイクロ樹脂バルーンの多くが割れた状態に破壊されたためである。
【0075】
また、実施例4と比較例2の比較から、精製水を含有することにより、圧縮永久歪及び硬度はより一層低くなることがわかった。具体的には、実施例4の弾性体の圧縮永久歪は、比較例2と比べて、約1/3、硬度は1/2以下に小さくなった。これは、精製水の存在により、マイクロ樹脂バルーンがシリコーンゴムから剥がれやすくなり、割れた状態への破壊が一層促進されたためである。さらに、二次硬化の際に精製水から発生した過熱水蒸気がマイクロ樹脂バルーンの炭化を促進し、隣接する空隙間を連通化した結果、圧縮永久歪及び硬度が一層低下したものと考えられる。なお、マイクロ樹脂バルーンの炭化は、後述する試験例2のマイクロスコープの観察で確認されている。
【0076】
また、実施例1,3,4,6の弾性体の比重については、比較例1〜3,6と比べて、大きな差は認められなかったが、いずれの弾性体も、加圧ロールとしての定着性能を十分に発現できる程、比重が低いことが確認された。実施例5の弾性体については、比重が若干大きくなったが、割れが発生せず、圧縮永久歪(6%)が極めて優れたものとなった。
【0077】
(試験例2)
実施例1及び比較例1の弾性体の断面を観察した。また、実施例1及び比較例3の弾性体については、断面をマイクロスコープで観察した。
図7(a),(b)に、実施例1及び比較例1の弾性体の断面写真を示し、
図8(a),(b)に、実施例1及び比較例3の弾性体の断面写真を示す。
【0078】
図7(a)に示すように、精製水を含有し、且つ水圧処理を行った実施例1の弾性体は、断面の色が均一であり、均質な層が形成されていることが確認された。このような均質な層の形成は、水圧処理により、シリコーンゴム中の精製水が均一に分散され、マイクロ樹脂バルーンの炭化及び空隙間の連通化が均等に生じたことに起因すると考えられる。一方、精製水を含有するが、水圧処理を行わなかった比較例1の弾性体は、
図7(b)に示すように、断面の色がまだらであり、均質な層が形成されていないことがわかった。
【0079】
図8(a)に示すように、実施例1の弾性体は、マイクロ樹脂バルーンの多くが割れた状態に破壊されていることがわかった。また、割れた状態に破壊されてできた空隙は均等に分散され、これらの空隙間が水の蒸発による微細な空隙によって連通化されている様子が確認された。また、黒点が数多く観察出来たことから、マイクロ樹脂バルーンが炭化されていることが確認された。
【0080】
一方、精製水を含有せず、且つ水圧処理を行わなかった比較例3の弾性体は、
図8(b)に示すように、マイクロ樹脂バルーンが破壊されずにそのままの状態で分散され、マイクロ樹脂バルーンの間は連通化されていないことがわかった。また、黒点はほとんど認められなかった。
【0081】
以上の結果から、シリコーンゴムに精製水を含有し、且つ水圧処理を行うことにより、弾性体は連通化され、低硬度及び低熱容量となることがわかった。また、試験例1の結果と併せると、このような連通化により圧縮永久歪を向上できることがわかった。
【0082】
(試験例3)
実施例1、比較例2の加圧ロール及び実施例2の定着ロールについて、初期の熱膨張率を測定した。熱膨張率の測定は、実施例1、比較例2の加圧ロール及び実施例2の定着ロールを評価機に取り付け、圧縮率40%、150℃に加熱した状態で線速300mm/secで、55分間、回転させることにより行った。
図9に、実施例1、比較例2の加圧ロール及び実施例2の定着ロールの熱膨張率と時間との関係を示す。
図9に示すように、離型層を有する実施例1の加圧ロール及び離型層がない実施例2の定着ロールは、どちらも弾性層11中のマイクロ樹脂バルーンの破壊でできた空隙間が連通化しているため、試験開始時の初期の熱膨張率が、実施例1では15%未満、実施例2では10%未満と小さい値となった。一方、精製水を混合せず、空隙間が連通化していない比較例2の加圧ロールでは、僅か20分程で熱膨張が20%と大きくなった。
【0083】
以上の結果から、精製水を混合し、空隙間が連通化している実施例1の加圧ロール及び実施例2の定着ロールは、初期の熱膨張率をそれぞれ15%未満、10%未満に抑制でき、加熱によるロール外径変化を小さくできることがわかった。
【0084】
(試験例4)
実施例1の加圧ロール及び実施例2の定着ロールについて、反力及び熱膨張率を測定した。反力及び熱膨張率の測定は、実施例1では測定時間を420時間とし、実施例2では測定時間を500時間とした以外は試験例3と同様に行った。
図10に、実施例1の加圧ロールの反力及び熱膨張率と時間との関係を示し、
図11に、実施例2の定着ロールの反力及び熱膨張率と時間との関係を示す。
【0085】
離型層を有する実施例1の加圧ロールは、420時間経過後も反力変化が少なかった。また、熱膨張率は、試験開始時の初期から420時間経過後も15%未満のままであった。これにより、加熱によるロール外径変化を長時間小さくできることがわかった。
【0086】
離型層がない実施例2の定着ロールは、実施例1の加圧ロールよりも反力及び熱膨張率がさらに優れたものとなった。具体的には、実施例2の定着ロールは、500時間経過後も反力変化が少なく、熱膨張率は、試験開始時の初期から500時間経過後も僅か10%未満のままであった。
【0087】
以上の結果から、精製水を混合し、空隙間が連通化している加圧ロール及び定着ロールは、長時間経過しても反力が低下せず、加熱による外径変化もないため、高い耐久性を備えた優れた材料からなることがわかった。
【0088】
【表1】