(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
希釈冷凍機は、ヘリウムガスの同位体(
3Heおよび
4He)の物理的性質を利用して、0.1K以下の極低温を得るための装置である。
具体的には、希釈冷凍機内で、
3Heリッチの相(Condense相、以下、「C相」とする)と
4Heリッチの相(dilute相、以下、「d相」とする)との二相が接触した状態をつくり、C相からd相内へ
3Heを希釈することで、外部の熱が吸収され、極低温を得ることができる。
【0003】
図3に従来の一実施形態である希釈冷凍機101の断面模式図を示す。
図3に示すように、希釈冷凍機101は、外層パイプ102と、プランジャ103と、混合室104と、配管106と、分留室107と、熱交換室108と、を有して概略構成されている。
【0004】
混合室104と分留室107とは連通しており、混合室104と分留室107との間の空間には、d相S102を構成する
3Heが
4Heに溶け込んだ混合液(以下、「
3He−
4He混合液」とする)で満たされている。また、配管106を介してC相S101を構成する液体
3Heが、混合室104に供給されている。混合室104では、液体
3Heと
3He−
4He混合液との密度差により、上部にC相S101が設けられ、下部にd相S102が設けられ、C相S101とd相S102との間に接触面S103が安定して形成される。この接触面S103により効率よくC相S101からd相S102内へ
3Heを希釈でき、冷却することが可能となる。
【0005】
このような希釈冷凍機は、様々な要望に応えるために、工夫が施されてきた。例えば、特許文献1には、構造が単純で小型化を可能としたピストンシリンダー型の希釈冷凍機が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、水平方向に設けられた穴に希釈冷凍機を挿入して冷却をするなど、鉛直方向以外に固定した状態で希釈冷凍機を使用する要望が高まっている。
しかしながら、特許文献1に開示されたピストンシリンダー型の希釈冷凍機をはじめとする従来の希釈冷凍機101では、
図4のように横にして使用すると、混合室104はd相S102を構成する
3He−
4He混合液で満たされた状態となり、C相S101とd相S102との接触面S103を極低温の発生に適した状態に安定して保つことができず、効率よく冷却することができなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、鉛直方向以外の任意の傾きでも冷凍が可能なピストンシリンダー型の希釈冷凍機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、
先端が閉じられた外層パイプと、
前記外層パイプの内部に挿入されるプランジャと、
前記外層パイプの先端の内周面と前記プランジャの先端とに囲まれ、上部に
3Heからなる
3Heリッチ相と、下部に
3He−
4He混合液からなる
4Heリッチ相と、を含む混合室と、を有するピストンシリンダー型の希釈冷凍機であって、
前記プランジャは前記外層パイプの内径と同じ外径であり、
前記プランジャの外周面に設けられ、先端が前記
4Heリッチ相に位置し、前記
4Heリッチ相の
3He−
4He混合液を導出する溝と、
前記溝に埋没され、先端が前記
3Heリッチ相に位置し、前記
3Heリッチ相に
3Heを供給する配管と、を有
し、
鉛直方向に対して傾斜している希釈冷凍機であり、
傾斜にあわせて前記溝の先端が前記4Heリッチ相に配置されるとともに、前記配管の先端が前記3Heリッチ相に配置されることを特徴とする希釈冷凍機である。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、
前記溝が螺旋状であることを特徴とする請求項1に記載の希釈冷凍機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の希釈冷凍機は、外層パイプの先端の内周面とプランジャの先端とに囲まれた密閉された混合室が設けられている。そして、希釈冷凍機の本体が傾斜していても、予め、その傾斜に併せて、混合室の上部の
3Heリッチ相に、
3Heを供給する配管の先端を配置することで、混合室の上部に安定して
3Heリッチ相を設けることができる。また、予め、その傾斜に併せて、混合室の下部の
4Heリッチ相に
3He−
4He混合液の導出口を配置することで、
3He−
4He混合液を分留室へ導出することができる。これにより、好ましい位置において
3Heリッチ相と
4Heリッチ相との接触面を適した状態に安定して保つことができる。
その結果、希釈冷凍機を鉛直方向以外の任意の傾きにおいても冷凍することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
先ず、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機の構成について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である希釈冷凍機の断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の希釈冷凍機1は、外層パイプ2と、プランジャ3と、混合室4と、溝5と、配管6と、分留室7と、熱交換室8と、を有し概略構成されている。
本実施形態の希釈冷凍機1は、ヘリウムガスの同位体(
3Heと
4He)の物理的性質を利用して、0.1K以下の極低温を得ることができる装置であり、鉛直方向以外の設置でも使用可能である。
【0015】
本実施形態の希釈冷凍機1は、先端2aが閉じられた形状である外層パイプ2の内側に、プランジャ3を挿入するピストンシリンダー構造となっている。そのため、装置の構成がシンプルとなり、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0016】
外層パイプ2の材質としては、熱伝導が悪く、かつ低温に耐えることができるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)、白銅などを用いることができる。
【0017】
プランジャ3は、外層パイプ2の内部に挿入される。プランジャ3の外径は、外層パイプ2の内径と同じであることが好ましい。これにより、外層パイプ2とプランジャ3との間に隙間がないため、
3He−
4He混合液は漏れない。しかしながら、実際には、プランジャ3を抜き差しする作業が必要となることから、外層パイプ2とプランジャ3との間には僅かな隙間が設けられている。これにより、
3He−
4He混合液がこの隙間に沿って微小量流れることになるが、問題は生じない。
【0018】
プランジャ3の材質としては、低温に耐えることができるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)、白銅などを用いることができる。
【0019】
プランジャ3は、温度変化により熱縮小する。そのため、プランジャ3は、バネ(図示略)により、外層パイプ2の内側の先端2a方向に押さえつけられている。これにより、後述する混合室4の気密性が保たれる。しかしながら、本実施形態においてはバネを用いたが、これに限定されることではなく、その他の押さえつける方法でもよい。
【0020】
混合室4は、外層パイプ2の先端2aの内周面とプランジャ3の先端3aとの間に設けられた空間である。混合室4は、上部に液体
3HeからなるC相S1を含み、下部に
3He−
4He混合液からなるd相S2を含み、C相S1とd相S2との間には接触面S3が形成されている。
【0021】
接触面S3において、C相S1からd相S2内へ
3Heが希釈されることにより、外部の熱が吸収され、極低温を得ることができる。
【0022】
溝5はプランジャ3の外周面に螺旋状に設けられている。溝5の先端5aは、混合室4のd相S2に位置する。溝5により、混合室4と分留室7とをd相S2の
3He−
4He混合液で満たすことができる。
【0023】
配管6は溝5に沿って螺旋状に巻かれ、溝5に埋没されるようにして設けられている。配管6の先端6aは、混合室4のC相S1に位置する。配管6内には液体
3Heが流れる。配管6により液体
3HeをC相S1に供給することができる。配管6の材質としては、低温に耐えることができるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)、白銅などを用いることができる。
【0024】
溝5内において、配管6内を流れる液体
3Heと、配管6の外側に滞留する
3He−
4He混合液との間で熱交換が行われ、混合室4に送られるまでに、液体
3Heは混合室4の温度近くまで冷却される。
【0025】
分留室7は、外層パイプ2の側面上部に設けられた空間である。分留室7と外層パイプ2とは連通しており、分留室7の下部に
3He−
4He混合液が貯留されている。真空ポンプ(図示略)により、
3He−
4He混合液中の
3Heが分留され、後述する熱交換室8に供給される。
【0026】
熱交換室8は、分留室7の上部に設けられた空間である。熱交換室8と分留室7とは連通しており、分留室7で抜き出された
3He(
3Heガス)が供給されている。上述した配管6は、分留室7および熱交換室8を貫通するようにして熱交換室8内に設けられており、配管6内を流れる液体
3Heと、熱交換室8内の
3He−
4He混合液および
3Heガスと、の間で熱交換が行われる。これにより、配管6内を流れる液体
3Heが冷却される。
【0027】
熱交換室8に供給された
3Heガスは上述の真空ポンプ(図示略)により配管6に供給される。これにより、
3Heを希釈冷凍機1内で循環させることができる。
【0028】
次に、実施形態の希釈冷凍機1の動作の概要について、
図1を参照しながら説明する。
冷却に用いられる
3Heは、希釈冷凍機1内を循環し、混合室4に連続的に供給される。具体的には、先ず、真空ポンプ(図示略)により、分留室7内の
3He−
4He混合液から
3Heが分留される。抜き出された
3He(
3Heガス)は、熱交換室8や熱交換器(図示略)などに送られ、配管6内の
3Heを冷却する。これにより、配管6内の
3Heガスは液体状態の
3He(液体
3He)に変化する。その後、熱交換室8の
3Heガスは、配管6に供給される。
【0029】
次に、配管6に供給された
3Heガスは、膨張器(図示略)で断熱膨張されることにより冷却され、さらに、熱交換器(図示略)や上述の熱交換室8で冷却されることにより、液化し、液体
3Heとして配管6内を流れる。
【0030】
その後、配管6内を流れる液体
3Heは、溝5において、配管6の外側の
3He−
4He混合液との間で熱交換が行われる。これにより、配管6内の液体
3Heは混合室4の温度近くまで冷却された後、混合室4内のC相S1に供給される。
【0031】
一方、分留室7で分留された
3He−
4He混合液は、液中の
3Heが減少したことで、
3Heを希釈しやすい状態となる。その結果、混合室4において、接触面S3を介して、C相S1内の
3Heが、d相S2内の
3He−
4He混合液に希釈される。これにより、外部から熱を吸収し、約100mKの極低温を得ることができる。
【0032】
本実施形態の希釈冷凍機1の混合室4は密閉されているので、
図2のように45度下向きの状態で使用する場合でも、その傾きにあわせて、配管6の先端6aをC相S1に配置し、かつ、溝5の先端5aをd相S2に配置することで、安定してC相S1に液体
3Heを供給し、d相S2に
3He−
4He混合液を供給することができる。これにより、希釈冷凍機1を傾けた状態であっても、C相S1とd相S2の間の接触面S3を極低温を得るのに適した状態に安定して保つことができる。その結果、安定して極低温を得ることが可能となる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の希釈冷凍機1によれば、先端2aが閉じられた外層パイプ2と、外層パイプ2の内部に挿入されるプランジャ3と、外層パイプ2の先端2aの内周面とプランジャ3の先端3aとに囲まれ、上部に
3HeからなるC相S1と、下部に
3He−
4He混合液からなるd相S2と、を含む混合室4と、を有するピストンシリンダー型の希釈冷凍機であって、プランジャ3は外層パイプ2の内径と同じ外径であり、プランジャ3の外周面に設けられ、先端5aがd相S2に位置し、d相S2の
3He−
4He混合液を導出する溝5と、溝5に埋没され、先端6aがC相S1に位置し、C相S1に
3Heを供給する配管6と、を有する構成をとる。
【0034】
そのため、希釈冷凍機1の本体が傾斜していても、予め、その傾斜に併せて、混合室4の上部のC相S1に、
3Heを供給する配管6の先端6aを配置することで、混合室4の上部に安定してC相S1を設けることができる。また、予め、その傾斜に併せて、混合室の下部のd相S2に溝5の先端5aを配置することで、
3He−
4He混合液をd相S2へ導出することができる。これにより、C相S1とd相S2との接触面S3を極低温を得るのに適した状態に保つことができる。
その結果、鉛直方向以外の任意の傾きでも冷凍することができる。
【0035】
また、本実施形態の希釈冷凍機1によれば、外層パイプ2内に、溝5に配管6が巻かれたプランジャ3を、混合室4の上部に配管6の先端6aが位置し、混合室4の下部に溝5の先端5aが位置するように挿入する構成をとる。そのため、装置の構成がシンプルとなり、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の希釈冷凍機1によれば、溝5が螺旋状であるため、配管6内を流れる液体
3Heと、配管6の外側の
3He−
4He混合液との間で効率的に熱交換が行われ、液体
3Heを効率的に冷却することができる。