(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化物半導体層を形成する工程では、前記フッ素が前記酸化物半導体層の内部領域であって前記ゲート絶縁層と近接する領域に含有するように、前記酸化物半導体層を形成する
請求項9に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
前記ゲート電極を形成する工程と、前記ゲート絶縁層を形成する工程と、前記酸化物半導体層を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成する工程とは、この順で行われる
請求項9〜16のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
前記酸化物半導体層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート電極を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成する工程とは、この順で行われる
請求項9〜16のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係る薄膜トランジスタは、ゲート電極と、ソース電極及びドレイン電極と、チャネル層として用いられる酸化物半導体層と、前記ゲート電極と前記酸化物半導体層との間に配置されたゲート絶縁層とを備え、前記酸化物半導体層を構成する金属元素には少なくともインジウムが含まれており、前記酸化物半導体層の内部領域であって前記ゲート絶縁層と近接する領域にはフッ素が含有されたものである。
【0012】
本態様によれば、酸化物半導体層の内部領域であってゲート絶縁層と近接する領域にはフッ素が含有されている。
【0013】
フッ素は、酸素よりも金属との結合エネルギーが高い。したがって、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層の酸素欠損によるダングリングボンドや不安定なサイトをフッ素で容易に終端させることができる。つまり、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層の酸素欠損を補完することができる。
【0014】
また、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層に混入する水素が酸化物半導体層に結合できなくなる。これにより、酸化物半導体層に水素が混入することをブロックできるので、酸化物半導体層において酸素と水素が結合してキャリアが放出することを抑制できる。つまり、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層の耐水素性を向上させることができる。
【0015】
また、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層を構成する金属元素がフッ素と化学結合するので、酸化物半導体層の構造を安定化させることができる。
【0016】
このように、本態様によれば、水素や酸素に起因するダメージを受けにくくすることができるとともに、酸化物半導体層の構造を安定化させることができる。これにより、高信頼性及び高ロバスト性を有する薄膜トランジスタを実現することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記酸化物半導体層におけるフッ素が含有されている領域の膜厚は、少なくとも5nm以上であるとよい。
【0018】
本態様によれば、上記のフッ素含有効果を十分に発揮させることができる。
【0019】
さらに、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記酸化物半導体層におけるフッ素が含有されている領域の膜厚は、少なくとも20nm以上であるとよい。
【0020】
酸化物半導体層の特性を安定化させる等を目的としてアニール処理を施す場合があるが、このアニール処理によって水素が拡散して、酸化物半導体層に水素が混入してくる場合がある。そこで、酸化物半導体層におけるフッ素含有領域の膜厚を20nm以上とすることによって、アニール処理等によって水素が拡散する場合であっても、酸化物半導体層のフッ素含有領域によって、酸化物半導体層に水素が混入することをブロックできる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記酸化物半導体層のフッ素含有濃度は、少なくとも前記酸化物半導体層の水素含有濃度よりも高くするとよい。
【0022】
本態様によれば、上記のフッ素含有効果を効果的に発揮させることができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記酸化物半導体層を構成する金属元素には、さらに、ガリウム及び亜鉛の少なくとも一方又は両方が含まれているとよい。
【0024】
本態様によれば、大型量産設備とのターゲット整合性が高くなるので、製造コストを抑えることができる。
【0025】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記ゲート電極、前記ゲート絶縁層及び前記酸化物半導体層は、この順で基板上に積層されており、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、前記酸化物半導体層の上方に形成されているとよい。
【0026】
本態様によれば、液晶ディスプレイ用途等の非晶質アモルファスシリコンTFTライン設備(既存設備)との整合性が高くなるので、製造コストを抑えることができる。
【0027】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、さらに、前記酸化物半導体層上に形成されたチャネル保護層を備えるとよい。
【0028】
本態様によれば、酸化物半導体層(チャネル層)のバックチャネル側のプロセスダメージを低減することができる。
【0029】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタにおいて、前記酸化物半導体層、前記ゲート絶縁層及び前記ゲート電極は、この順で基板上に積層されており、前記ソース電極は、前記ゲート絶縁層に形成されたコンタクトホールを介して前記酸化物半導体層のソース領域に接続されており、前記ドレイン電極は、前記ゲート絶縁層に形成されたコンタクトホールを介して前記酸化物半導体層のドレイン領域に接続されているとよい。
【0030】
本態様によれば、寄生容量の低減を図ることができる。
【0031】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法は、ゲート電極を形成する工程と、ソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、チャネル層として用いられる酸化物半導体層を形成する工程と、前記ゲート電極と前記酸化物半導体層との間に位置するようにゲート絶縁層を形成する工程とを含み、前記酸化物半導体層を構成する金属元素には少なくともインジウムが含まれており、前記酸化物半導体層を形成する工程では、フッ素を導入しながら前記酸化物半導体層を形成する。
【0032】
本態様によれば、水素や酸素に起因するダメージを受けにくく、かつ、構造が安定した酸化物半導体層を有する薄膜トランジスタを得ることができる。したがって、高信頼性及び高ロバスト性を有する薄膜トランジスタを得ることができる。
【0033】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層を形成する工程では、前記フッ素が前記酸化物半導体層の内部領域であって前記ゲート絶縁層と近接する領域に含有するように、前記酸化物半導体層を形成するとよい。
【0034】
これにより、ゲート絶縁層側から酸化物半導体層に混入する水素を、酸化物半導体層におけるゲート絶縁層と近接する領域でブロックすることができる。
【0035】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層を形成する工程では、フッ素を含むターゲット材を用いたスパッタによって前記酸化物半導体層を形成するとよい。
【0036】
本態様によれば、スパッタリングによってフッ素が含有された酸化物半導体層を成膜することができる。
【0037】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層を形成する工程では、フッ素を含むガスを用いて前記酸化物半導体層を形成するとよい。
【0038】
本態様によれば、フッ素を含むガスを供給することによって、フッ素が含有された酸化物半導体層を成膜することができる。
【0039】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層におけるフッ素が含有されている領域の膜厚は、少なくとも5nm以上であるとよい。
【0040】
本態様によれば、上記のフッ素含有効果を十分に発揮できる薄膜トランジスタを得ることができる。
【0041】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層におけるフッ素が含有されている領域の膜厚は、少なくとも20nm以上であるとよい。
【0042】
本態様によれば、アニール処理等によって水素が拡散する場合であっても、酸化物半導体層のフッ素含有領域によって、酸化物半導体層に水素が混入することをブロックできる。また、フッ素含有領域を20nm以上にすることによって、酸化物半導体層のプロセス制御が十分可能となる。
【0043】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層のフッ素含有濃度は、少なくとも前記酸化物半導体層の水素含有濃度よりも高くするとよい。
【0044】
本態様によれば、上記のフッ素含有効果を効果的に発揮させることができる薄膜トランジスタを得ることができる。
【0045】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層を構成する金属元素には、さらに、ガリウム及び亜鉛の少なくとも一方又は両方が含まれているとよい。
【0046】
本態様によれば、大型量産設備とのターゲット整合性が高くなるので、製造コストを抑えることができる。
【0047】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記ゲート電極を形成する工程と、前記ゲート絶縁層を形成する工程と、前記酸化物半導体層を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成する工程とは、この順で行われるとよい。
【0048】
本態様によれば、液晶ディスプレイ用途等の非晶質アモルファスシリコンTFTライン設備(既存設備)との整合性が高くなるので、製造コストを抑えることができる。
【0049】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、さらに、前記酸化物半導体層上にチャネル保護層を形成する工程を含むとよい。
【0050】
本態様によれば、酸化物半導体層のバックチャネル側のプロセスダメージを低減することができるボトムゲート型の薄膜トランジスタを得ることができる。
【0051】
また、本発明の一態様に係る薄膜トランジスタの製造方法において、前記酸化物半導体層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート電極を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極を形成する工程とは、この順で行われるとよい。
【0052】
本態様によれば、寄生容量の低減を図ることができる薄膜トランジスタを得ることができる。
【0053】
また、本発明の一態様に係る有機EL表示装置は、上記いずれかに記載の薄膜トランジスタを備える有機EL表示装置であって、マトリクス状に配置された複数の画素と、前記複数の画素の各々に対応して形成された有機EL素子とを備え、前記薄膜トランジスタは、前記有機EL素子を駆動する駆動トランジスタである。
【0054】
本態様によれば、有機EL素子を駆動する駆動トランジスタとして高信頼性及び高ロバスト性を有する薄膜トランジスタを用いているので、表示性能に優れた有機EL表示装置を実現できる。
【0055】
(実施の形態)
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程(ステップ)、工程の順序等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0056】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0057】
[薄膜トランジスタの構成]
まず、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。なお、
図1には2つの薄膜トランジスタ1が図示されており、2つの薄膜トランジスタ1は同じ構造である。
【0058】
図1に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1は、酸化物半導体層をチャネル層とするボトムゲート型の酸化物半導体TFTである。
【0059】
薄膜トランジスタ1は、基板10と、アンダーコート層20と、ゲート電極30と、ゲート絶縁層40と、酸化物半導体層50と、保護層60と、ソース電極70S及びドレイン電極70Dとを備える。
【0060】
以下、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の各構成要素について詳述する。
【0061】
基板10は、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス又は高耐熱性ガラス等のガラス材料で構成されるガラス基板である。なお、基板10は、ガラス基板に限らず、樹脂基板等であってもよい。また、基板10は、リジッド基板ではなく、ポリミイドやポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のフィルム材料の単層又は積層で構成されるフレキシブル基板であってもよい。
【0062】
アンダーコート層20は、基板10上に形成されている。アンダーコート層20を形成することによって、基板10(ガラス基板)中に含まれるナトリウム及びリン等の不純物又は大気中から透過される水分等が、ゲート電極30、ゲート絶縁層40及び酸化物半導体層50に進入することを抑制できる。
【0063】
アンダーコート層20は、酸化物絶縁層又は窒化物絶縁層を用いた単層絶縁層又は積層絶縁層である。一例として、アンダーコート層20としては、窒化シリコン(SiN
x)、酸化シリコン(SiO
y)、酸窒化シリコン(SiO
yN
x)又は酸化アルミニウム(AlO
x)等の単層膜、あるいは、これらの積層膜を用いることができる。アンダーコート層20の膜厚は、100nm〜500nmに設定することが好ましい。なお、アンダーコート層20は、必ずしも形成する必要はない。
【0064】
ゲート電極30は、基板10の上方に位置し、アンダーコート層20上に所定形状でパターン形成される。ゲート電極30は、金属等の導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造の電極であり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)又はモリブデンタングステン(MoW)等で構成することができる。ゲート電極30の膜厚は、50nm〜300nmに設定することが好ましい。
【0065】
ゲート絶縁層40は、ゲート電極30の上方に位置するように形成される。本実施の形態において、ゲート絶縁層40は、ゲート電極30を覆うようにアンダーコート層20上に形成される。ゲート絶縁層40は、ゲート電極30と酸化物半導体層50との間に配置される。
【0066】
ゲート絶縁層40は、酸化物絶縁層又は窒化物絶縁層を用いた単層絶縁層又は積層絶縁層である。ゲート絶縁層40としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化タンタル又は酸化アルミニウム等の単層膜、あるいは、これらの積層膜等を用いることができる。本実施の形態において、ゲート絶縁層40は、例えば、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜である。ゲート絶縁層40の膜厚は、TFTの耐圧等を考慮して設計することができ、例えば、50nm〜500nmとすることが望ましい。
【0067】
酸化物半導体層50は、チャネル層として用いられる。つまり、酸化物半導体層50は、ゲート絶縁層40を挟んでゲート電極30と対向するチャネル領域を含む半導体層である。酸化物半導体層50は、ゲート絶縁層40上に所定形状で形成されている。
【0068】
酸化物半導体層50の材料には、例えば、透明アモルファス酸化物半導体(TAOS:Transparent Amorphous Oxide Semiconductor)が用いられる。酸化物半導体層50を構成する金属元素には、少なくともインジウム(In)が含まれており、さらに、ガリウム(Ga)及び亜鉛(Zn)の少なくとも一方又は両方が含まれているとよい。
【0069】
本実施の形態における酸化物半導体層50は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)及び亜鉛(Zn)を含む酸化物であるInGaZnO
x(IGZO)によって構成されている。
【0070】
また、酸化物半導体層50はフッ素(F)を含有している。具体的には、酸化物半導体層50の内部領域であってゲート絶縁層40と近接する領域にフッ素が含有されている。つまり、酸化物半導体層50のフロントチャネル側にはフッ素が含有されている。また、酸化物半導体層50において、フッ素は化学的に結合した状態で混入されている。なお、酸化物半導体層50の内部領域であってゲート絶縁層40と近接する領域とは、少なくとも酸化物半導体層50の厚みの半分よりもゲート絶縁層40側の領域のことである。
【0071】
本実施の形態における酸化物半導体層50は、フッ素が含有されている領域である第1領域(フッ素含有領域)51と、フッ素が含有されていない領域である第2領域(フッ素含無領域)52とからなる。第1領域51は、酸化物半導体層50におけるゲート絶縁層40側の領域である。つまり、本実施の形態では、酸化物半導体層50におけるゲート絶縁層40側の領域のみにフッ素が含有されている。例えば、第1領域51は、酸化物半導体層50の膜厚中心を基準にしたときに酸化物半導体層50の膜厚中心から下側の領域(下層)であり、第2領域52は、酸化物半導体層50の膜厚中心から上側の領域(上層)である。
【0072】
なお、本実施の形態では、酸化物半導体層50の一部の領域にフッ素を含有させているが、酸化物半導体層50の全領域にフッ素を含有させてもよい。つまり、第2領域52はなくても構わない。
【0073】
第1領域51の膜厚は、少なくとも5nm以上であり、本実施の形態では、20nm以上としている。また、酸化物半導体層50の膜厚は20nm以上であるとよい。
【0074】
第1領域51の膜厚を5nm以上とすることによって、上記のフッ素含有効果を十分に発揮させることができる。
【0075】
また、第1領域51の膜厚を20nm以上にすることによって、アニール処理等によって酸化物半導体層50に水素が拡散する場合であっても、フッ素を含有する第1領域51によって、拡散する水素をブロックすることができる。本実施の形態では、第1領域51がゲート絶縁層40と近接しているので、ゲート絶縁層40側から酸化物半導体層50に進入する水素を、酸化物半導体層50におけるゲート絶縁層40と近接する領域(第1領域51)でブロックすることができる。
【0076】
また、第1領域51の膜厚を少なくとも20nm以上にすることによって、酸化物半導体層50のプロセス制御が十分可能となる。すなわち、第1領域51の膜厚を少なくとも20nm以上にすることによって、酸化物半導体層50の膜厚を少なくとも20nm以上にすることができる。これにより、酸化物半導体層50のスパッタ等による成膜とフォトリソグラフィ法及びエッチング法等によるパターニングとを容易に行うことができる。
【0077】
また、酸化物半導体層50のフッ素含有濃度は、少なくとも酸化物半導体層50の水素含有濃度よりも高い。本実施の形態において、酸化物半導体層50のフッ素含有濃度は、1×10
22atm/cm
3以上としている。
【0078】
保護層60は、酸化物半導体層50上に形成されている。保護層60は、酸化物半導体層50のチャネル領域を保護するチャネル領域保護層であり、エッチングストッパー層として機能する。これにより、ボトムゲート型TFTにおいて、酸化物半導体層50のバックチャネル側のプロセスダメージを低減することができる。また、本実施の形態において、保護層60は、基板10上の全面に形成された層間絶縁層である。
【0079】
保護層60は、有機物を主成分とする材料によって形成されていてもよいし、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン又は酸化アルミニウム等のような無機物によって形成されていてもよい。本実施の形態において、保護層60は、有機物を主成分とする材料によって構成されている。なお、保護層60は、単層膜であってもよいし、積層膜であってもよい。
【0080】
なお、シリコン酸化膜は、シリコン窒化膜と比べて水素含有量が少ない。したがって、保護層60としてシリコン酸化膜を用いることによって、水素による酸化物半導体層50の性能劣化を抑制できる。さらに、保護層60として酸化アルミニウム膜を用いることによって、上層で発生する水素や酸素を酸化アルミニウム膜によってブロックすることができる。これらのことから、保護層60としては、例えば、シリコン酸化膜、酸化アルミニウム膜及びシリコン酸化膜の3層構造の積層膜を用いるとよい。
【0081】
また、保護層60には、当該保護層60の一部を貫通するように開口部(コンタクトホール)が形成されている。この保護層60の開口部を介して、酸化物半導体層50とソース電極70S及びドレイン電極70Dとが接続されている。
【0082】
ソース電極70S及びドレイン電極70Dは、保護層60上に所定形状で形成されている。ソース電極70Sは、保護層60に形成された開口部を介して酸化物半導体層50に接続されており、ドレイン電極70Dは、保護層60に形成された開口部を介して酸化物半導体層50に接続されている。
【0083】
ソース電極70S及びドレイン電極70Dは、導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造の電極である。ソース電極70S及びドレイン電極70Dの材料としては、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、モリブデンタングステン合金(MoW)又は銅マンガン合金(CuMn)等を用いることができる。ソース電極70S及びドレイン電極70Dの膜厚は、例えば50nm〜300nmに設定することが好ましい。
【0084】
[薄膜トランジスタの製造方法]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の製造方法について、
図2A〜
図2Gを用いて説明する。
図2A〜
図2Gは、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における各工程の断面図である。
【0085】
まず、
図2Aに示すように、基板10を準備する。基板10として、例えばガラス基板を準備する。
【0086】
次に、
図2Bに示すように、基板10上にアンダーコート層20を形成する。プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等によって、基板10上に、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜又は酸化アルミニウム膜等で構成されるアンダーコート層20を形成する。
【0087】
次に、
図2Cに示すように、基板10の上方にゲート電極30を形成する。本実施の形態では、アンダーコート層20上にモリブデンタングステン(MoW)で構成される金属膜(ゲート金属膜)をスパッタによって成膜した後、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いて金属膜をパターニングすることにより、所定形状のゲート電極30を形成した。MoWのウェットエッチングは、例えば、リン酸(HPO
4)、硝酸(HNO
3)、酢酸(CH
3COOH)及び水を所定の配合で混合した薬液を用いて行うことができる。
【0088】
次に、
図2Dに示すように、ゲート電極30の上方にゲート絶縁層40を形成する。例えば、ゲート電極30と酸化物半導体層50との間に位置するようにゲート絶縁層40を形成する。本実施の形態では、ゲート電極30を被覆するようにプラズマCVD等によって、基板10の上方全面にゲート絶縁層40を形成する。ゲート絶縁層40は、例えば、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜、タンタル酸化膜、酸化アルミニウム膜又はそれらの積層膜等である。一例として、プラズマCVD法によってシリコン窒化膜を成膜する場合、シランガス(SiH
4)、アンモニアガス(NH
3)及び窒素ガス(N
2)を導入ガスに用いて成膜する。
【0089】
次に、
図2Eに示すように、少なくともゲート電極30と対向するように、ゲート絶縁層40の上方に所定形状の酸化物半導体層50を形成する。本実施の形態では、フッ素を導入しながら酸化物半導体層50を成膜することによって、第1領域(フッ素含有領域)51と第2領域(フッ素含無領域)52とからなる島状の酸化物半導体層50をゲート絶縁層40上に成膜している。
【0090】
酸化物半導体層50の材料としては、InGaZnO
xの透明アモルファス酸化物半導体を用いている。この場合、スパッタ法やレーザー蒸着法等の気相成膜法によってInGaZnO
xからなる酸化物半導体層50を成膜することができる。
【0091】
具体的には、In、Ga及びZnを含むターゲット材(例えばInGaO
3(ZnO)
4組成を有する多結晶焼結体)を用いて、真空チャンバー内に不活性ガスとしてアルゴン(Ar)ガスを流入するとともに反応性ガスとして酸素(O
2)を含むガスを流入し、所定のパワー密度の電圧をターゲット材に印加する。これにより、InGaZnO
x膜を成膜することができる。
【0092】
このとき、フッ素を導入しながらスパッタを行うことによってフッ素が含有された第1酸化物半導体層(In−Ga−Zn−O:F)を成膜することができる。酸化物半導体層へのフッ素の導入(供給)は、ターゲット中にフッ素を含ませたり、フッ素を含ませたプロセスガス(NF
3ガス等)を導入したりすることで行うことができる。具体的には、フッ素を含むターゲット材を用いたスパッタによってInGaZnO
x膜を成膜することによって、フッ素を含む第1酸化物半導体層を成膜することができる。あるいは、フッ素を含むガス(NF
3ガス等)を用いてInGaZnO
x膜を成膜することによって、フッ素を含む第1酸化物半導体層を成膜することができる。
【0093】
その後、フッ素の導入(供給)をしないでスパッタ等を行うことによって、フッ素を含まない第2酸化物半導体層(In−Ga−Zn−O)を成膜する。なお、本実施の形態において、第1酸化物半導体層と第2の酸化物半導体層とは、同一チャンバー内で連続成膜している。
【0094】
その後、第1酸化物半導体層と第2酸化物半導体層との積層構造からなる酸化物半導体膜を、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いてパターニングすることにより、所定形状の酸化物半導体層50を形成することができる。
【0095】
具体的には、まず、酸化物半導体膜上に所定形状のレジストを形成し、レジストが形成されていない領域の酸化物半導体膜をウェットエッチングによって除去することで、島状の酸化物半導体層50を形成することができる。なお、酸化物半導体膜がInGaZnO
xである場合、エッチング液としては、例えば、リン酸(H
3PO
4)、硝酸(HNO
3)、酢酸(CH
3COOH)及び水を混合した薬液を用いればよい。
【0096】
次に、
図2Fに示すように、酸化物半導体層50を覆うようゲート絶縁層40上に保護層60を形成する。保護層60としては、有機物を主成分したものでもシリコン酸化膜のような無機物でも構わない。
【0097】
その後、酸化物半導体層50の一部を露出させるように、保護層60に開口部(コンタクトホール)を形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によって保護層60の一部をエッチング除去することによって、酸化物半導体層50におけるソース電極70S及びドレイン電極70Dとの接続部分上に開口部を形成する。例えば、保護層60がシリコン酸化膜である場合、反応性イオンエッチング(RIE)法によるドライエッチング法によってシリコン酸化膜に開口部を形成することができる。この場合、エッチングガスとしては、例えば、四フッ化炭素(CF
4)及び酸素ガス(O
2)を用いることができる。
【0098】
次に、
図2Gに示すように、保護層60に形成した開口部を介して酸化物半導体層50に接続するソース電極70S及びドレイン電極70Dを形成する。本実施の形態では、保護層60に形成した開口部を埋めるようにして保護層60上に金属膜(ソースドレイン金属膜)をスパッタによって成膜した後に、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いて金属膜をパターニングすることにより、所定形状のソース電極70S及びドレイン電極70Dを形成している。
【0099】
なお、その後、図示しないが、例えば300℃の熱処理(アニール処理)を行う。この熱処理によって、酸化物半導体層50の酸素欠損を修復することができ、酸化物半導体層50の特性を安定化させることができる。
【0100】
[薄膜トランジスタの作用効果]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1の作用効果について、本発明に至った経緯も含めて説明する。
【0101】
酸化物半導体層を有する酸化物半導体TFTの電気特性は、酸素や水素に対して影響を受けやすい。このため、酸化物半導体TFTは、安定性及び信頼性において課題を有している。
【0102】
特許文献2や非特許文献2に開示されるように、これまでは、絶縁層と酸化物半導体層との界面を改善することによって安定性及び信頼性を向上できるといった報告がなされている。
【0103】
例えば、非特許文献2には、フッ素を混入させたゲート絶縁層を用いて酸化物半導体層(IGZO)との界面を改善することによって酸化物半導体層を構成するInのダングリングボンドサイトにフッ素補完を生じさせ、これにより信頼性の向上に繋がることが報告されている。
【0104】
さらに、非特許文献2によれば、その酸化物半導体層(IGZO)を二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定した結果、IGZOのバルク中にフッ素の混入が観測できなかったことも報告されている。
【0105】
本願発明者も実際にフッ素を混入させた絶縁層を用いて熱等によって酸化物半導体層(IGZO)中にフッ素が拡散するか否かについての検証を行ったところ、昇温脱離法でのフッ素の脱離は500℃以上にならないと確認できなかった。このことは、フッ素が酸化物半導体層の膜中で安定な構造を示しており、非特許文献2で示されるように、フッ素を混入させたゲート絶縁層は、絶縁層と酸化物半導体層との界面での改善効果に終始するものと考えられる。
【0106】
しかしながら、酸化物半導体TFTは、絶縁層と酸化物半導体層との界面だけではなく、製造プロセス中での水素等に起因するプロセスダメージによっても特性のばらつきや信頼性の低下が生じる。したがって、絶縁層と酸化物半導体層との界面を改善させるだけでは十分でない。
【0107】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、本願発明者は、上述のように酸化物半導体層50の内部にフッ素を含有させることによって信頼性の高い薄膜トランジスタが得られるという着想を得た。
【0108】
そして、本願発明者は、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって信頼性の高い薄膜トランジスタが得られることを検証するために、種々の実験を行った。以下、その実験とその分析について説明する。なお、以下の実験では、酸化物半導体層50として、金属元素の主成分が、In、Ga、ZnであるInGaZnO
x膜を用いた。
【0109】
まず、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることで酸素欠損を補完できる点について、
図3を用いて説明する。
図3は、4端子測定法を利用して、酸化物半導体層にフッ素を含有させた場合とフッ素を含有させなかった場合とについて、真空加熱(300℃)でのシート抵抗値を測定した結果を示している。
【0110】
酸化物半導体層50は、酸素欠損(酸素の離脱)によってキャリアが発生し、抵抗値が低下する。
図3に示すように、酸化物半導体層50にフッ素を含有させなかった場合(F含無IGZO)のシート抵抗値は、1×10
5Ω/□程度と低い。
【0111】
一方、酸化物半導体層50にフッ素を含有させた場合(F含有IGZO)のシート抵抗値は、測定限界(>1×10
10Ω/□)であり、フッ素を含有させない場合と比べて抵抗値が上昇している。
【0112】
これは、フッ素は酸素よりも金属との結合エネルギーが高いことから、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層50の酸素欠損によるダングリングボンドや不安定なサイトをフッ素で終端させることができるからである。
【0113】
この結果から、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、キャリアが発生しにくい構造、つまり、酸素欠損を補完して酸素欠損に対して鈍感な構造が得られることが分かる。
【0114】
次に、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって耐水素性を向上できる点について、
図4〜
図6を用いて説明する。
【0115】
図4は、この実験で用いた試料のデバイス構造を示す断面図である。
図4に示すように、本実験では、ガラス基板上に、酸化物半導体層(IGZO)、シリコン酸化層(SiO)及び水素を含むシリコン窒化層(SiN:H)が積層された3層構造の試料を用いた。
【0116】
図5は、
図4に示す構造の試料について、シリコン酸化層の膜厚を変化させたときのμ−PCDのピーク強度及び酸化物半導体層の抵抗値を示す図である。なお、シリコン酸化層の膜厚は、10nm、120nm、240nmに変化させている。また、酸化物半導体層の抵抗値は、非接触抵抗測定装置によって測定した。
【0117】
図5に示すように、酸化物半導体層(IGZO)の抵抗値とμ−PCDのピーク強度とは、正の相関を有していることが分かる。つまり、酸化物半導体層(IGZO)の抵抗値とμ−PCDのピーク強度とは、フッ素導入の有無による水素起因のダメージを判断する一つの目安になることが分かる。
【0118】
図6は、μ−PCDのピーク強度と酸化物半導体層中へのフッ素導入の有無を比較した結果を示している。
【0119】
図6に示すように、酸化物半導体層にフッ素を含有させないと、酸化物半導体層におけるμ−PCDの強度値(SiN:H成膜前のピーク強度値とSiN:H成膜後のピーク強度値との比)が低下することが分かる。つまり、抵抗値が低い場合にフッ素を導入しても抵抗値がほとんど変化しない、つまり、抵抗値が下がらないことが分かる。
【0120】
一般的に、水素が酸化物半導体層中に混入すると、混入した水素が酸化物半導体層中の酸素と結合してキャリアが放出される。
【0121】
そこで、酸化物半導体層にフッ素を含有させてフッ素と酸化物半導体層とを結合させることによって、水素が酸化物半導体層中に混入したとしても、混入した水素が酸化物半導体層に結合しなくなる。これは、フッ素の結合手は一つであることから、水素が入り込んできても結合手が存在しておらず不活性な状態になっているからであると推測している。このように、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって酸化物半導体層におけるキャリアの放出を抑制できる。つまり、酸化物半導体層にフッ素を含有させることによって、耐水素性を向上させることができる。
【0122】
次に、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって構造が安定化する点について、
図7A〜
図7C及び
図8を用いて説明する。
【0123】
図7A〜
図7Cは、それぞれ、酸化物半導体層(IGZO)にフッ素を含有させた場合(F含有IGZO)とフッ素を含有させない場合(F含無IGZO)とにおける、In3d5、Zn1p3、Ga2p3のXPSスペクトルを示している。
【0124】
図7Aに示すように、フッ素を含有させることによって、In3d5のXPSスペクトルのピーク位置が0.5eV以上高バインディングエネルギー側にシフトしていることが分かる。つまり、F含有IGZOにおけるXPSで測定したIn3d5のピーク位置は、F含無IGZOのIn3d5のピーク位置と比較して結合エネルギーが少なくとも0.5eV以上高エネルギー側にシフトしている。
【0125】
また、
図7Bに示すように、フッ素を含有させることによって、Zn2p3のXPSスペクトルのピーク位置が0.4eV以上高バインディングエネルギー側にシフトしていることが分かる。つまり、F含有IGZOにおけるXPSで測定したZn2p3のピーク位置は、F含無IGZOのZn2p3のピーク位置と比較して結合エネルギーが少なくとも0.4eV以上高エネルギー側にシフトしている。
【0126】
また、
図7Cに示すように、フッ素を含有させることによって、Ga2p3のXPSスペクトルのピーク位置が0.5eV以上高バインディングエネルギー側にシフトしていることが分かる。つまり、F含有IGZOにおけるXPSで測定したGa2p3のピーク位置は、F含無IGZOのGa2p3のピーク位置と比較して結合エネルギーが少なくとも0.5eV以上高エネルギー側にシフトしている。
【0127】
図7A〜
図7Cに示す結果から、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、フッ素が単に酸化物半導体層50内に物理的に混入しているのではなく、酸化物半導体層を構成する元素と化学的に結合した状態で混入していることが分かる。この結果、酸化物半導体層50を構成する金属元素が抜け出しにくくなる。
【0128】
このように、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層50を構成する金属元素がフッ素と化学結合するので、酸化物半導体層50の構造を安定な方向に変化させることができる。これにより、信頼性の高い薄膜トランジスタを得ることができる。
【0129】
また、
図8は、酸化物半導体層50(IGZO)にフッ素を含有させた場合(F含有IGZO)とフッ素を含有させない場合(F含無IGZO)とにおける、TDS(Thermal Desorption Spectrometry)法によるZnの昇温脱離スペクトルを示している。なお、
図8において、フッ素を含有させた場合の酸化物半導体層50のフッ素含有濃度は、1×10
22atm/cm
3以上であった。また、
図8において、横軸は、Znが昇温脱離する温度(℃)を示しており、縦軸は、昇温脱離するZnの量(任意単位)を示している。
【0130】
図8に示すように、フッ素を含有させた場合の酸化物半導体層50(F含有IGZO)のZnの昇温脱離は、フッ素を含有させない場合の酸化物半導体層50(F含無IGZO)のZnの昇温脱離に比べて、50℃以上高温から脱離することが分かる。つまり、フッ素含有濃度が少なくとも1×10
22atm/cm
3以上となるように酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、Znが昇温脱離する温度(昇温脱離温度)が50℃上昇することが分かる。
【0131】
これは、Zn−Oの結合から酸素が脱離し、Znが不安定となってZnの脱離が生じるからである。昇温脱離温度については、酸化物半導体層の物性指標として用いることができ、昇温脱離温度の上昇は、構造が安定化していることを示している。
【0132】
このように、Znの昇温脱離温度の観点からも、酸化物半導体層50にフッ素を含有させることによって、酸化物半導体層50を構成する金属元素がフッ素と化学結合するので、酸化物半導体層50の構造を安定化させることができる。
【0133】
以上、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ1によれば、酸化物半導体層50にはフッ素が含有されている。本実施の形態では、特に、酸化物半導体層50の内部領域であってゲート絶縁層40と近接する領域にフッ素が含有されている。
【0134】
これにより、上述のように、酸化物半導体層50の酸素欠損を補完することができるとともに、酸化物半導体層50の耐水素性を向上させることができ、さらには、酸化物半導体層50の構造を安定化させることができる。したがって、高信頼性及び高ロバスト性を有する薄膜トランジスタ1を実現できる。
【0135】
[表示装置]
次に、上記の実施の形態に係る薄膜トランジスタ1を表示装置に適用した例について、
図9及び
図10を用いて説明する。なお、本実施の形態では、有機EL表示装置への適用例について説明する。
【0136】
図9は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。また、
図10は、
図9に示す有機EL表示装置における画素回路の電気回路図である。なお、画素回路は、
図10に示す構成に限定されるものではない。
【0137】
上述の薄膜トランジスタ1は、有機EL表示装置におけるアクティブマトリクス基板のスイッチングトランジスタSwTr及び駆動トランジスタDrTrとして用いることができる。
【0138】
図9に示すように、有機EL表示装置100は、複数個の薄膜トランジスタが配置されたTFT基板(TFTアレイ基板)110と、下部電極(反射電極)である陽極131、EL層(発光層)132及び上部電極(透明電極)である陰極133からなる有機EL素子(発光部)130との積層構造により構成される。
【0139】
本実施の形態におけるTFT基板110には、上記の薄膜トランジスタ1が用いられている。TFT基板110には複数の画素120がマトリクス状に配置されており、各画素120には画素回路が設けられている。
【0140】
有機EL素子130は、複数の画素120の各々に対応して形成されており、各画素120に設けられた画素回路によって各有機EL素子130の発光の制御が行われる。有機EL素子130は、複数の薄膜トランジスタを覆うように形成された層間絶縁層(平坦化膜)の上に形成される。
【0141】
また、有機EL素子130は、陽極131と陰極133との間にEL層132が配置された構成となっている。陽極131とEL層132との間にはさらに正孔輸送層が積層形成され、EL層132と陰極133との間にはさらに電子輸送層が積層形成されている。なお、陽極131と陰極133との間には、その他の機能層が設けられていてもよい。EL層132をはじめ陽極131と陰極133との間に形成される機能層は、有機材料によって構成された有機層である。
【0142】
各画素120は、それぞれの画素回路によって駆動制御される。また、TFT基板110には、画素120の行方向に沿って配置される複数のゲート配線(走査線)140と、ゲート配線140と交差するように画素120の列方向に沿って配置される複数のソース配線(信号配線)150と、ソース配線150と平行に配置される複数の電源配線(
図9では省略)とが形成されている。各画素120は、例えば直交するゲート配線140とソース配線150とによって区画されている。
【0143】
ゲート配線140は、各画素回路に含まれるスイッチングトランジスタのゲート電極と行毎に接続されている。ソース配線150は、スイッチングトランジスタのソース電極と列毎に接続されている。電源配線は、各画素回路に含まれる駆動トランジスタのドレイン電極と列毎に接続されている。
【0144】
図10に示すように、画素回路は、スイッチングトランジスタSwTrと、駆動トランジスタDrTrと、対応する画素120に表示するためのデータを記憶するキャパシタCとで構成される。本実施の形態において、スイッチングトランジスタSwTrは、画素120を選択するためのTFTであり、駆動トランジスタDrTrは、有機EL素子130を駆動するためのTFTである。
【0145】
スイッチングトランジスタSwTrは、ゲート配線140に接続されるゲート電極G1と、ソース配線150に接続されるソース電極S1と、キャパシタC及び第2薄膜トランジスタDrTrのゲート電極G2に接続されるドレイン電極D1と、酸化物半導体層(図示せず)とを備える。スイッチングトランジスタSwTrは、接続されたゲート配線140及びソース配線150に所定の電圧が印加されると、当該ソース配線150に印加された電圧がデータ電圧としてキャパシタCに保存される。
【0146】
駆動トランジスタDrTrは、スイッチングトランジスタSwTrのドレイン電極D1及びキャパシタCに接続されるゲート電極G2と、電源配線160及びキャパシタCに接続されるドレイン電極D2と、有機EL素子130の陽極131に接続されるソース電極S2と、酸化物半導体層(図示せず)とを備える。駆動トランジスタDrTrは、キャパシタCが保持しているデータ電圧に対応する電流を電源配線160からソース電極S2を通じて有機EL素子130の陽極131に供給する。これにより、有機EL素子130では、陽極131から陰極133へと駆動電流が流れてEL層132が発光する。
【0147】
なお、上記構成の有機EL表示装置100では、ゲート配線140とソース配線150との交差点に位置する画素120毎に表示制御を行うアクティブマトリクス方式が採用されている。これにより、各画素120におけるスイッチングトランジスタSwTr及び駆動トランジスタDrTrによって、対応する有機EL素子130が選択的に発光し、所望の画像が表示される。
【0148】
以上、本実施の形態における有機EL表示装置100では、スイッチングトランジスタSwTr及び駆動トランジスタDrTrとして高信頼性及び高ロバスト性を有する薄膜トランジスタ1を用いているので、信頼性に優れた有機EL表示装置を実現できる。特に、薄膜トランジスタ1を、有機EL素子130を駆動する駆動トランジスタDrTrとして用いているので、表示性能に優れた有機EL表示装置を実現できる。
【0149】
(その他変形例等)
以上、薄膜トランジスタ及びその製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0150】
例えば、上記実施の形態では、酸化物半導体層に用いる酸化物半導体として、InGaZnO
x(IGZO)のアモルファス酸化物半導体を用いたが、これに限らず、InGaO等の多結晶酸化物半導体等のInを含む酸化物半導体を用いることができる。
【0151】
また、上記実施の形態では、ゲート電極30、ゲート絶縁層40及び酸化物半導体層50が下から上にこの順で基板10上に積層されたボトムゲート型の薄膜トランジスタについて説明したが、これに限らない。
【0152】
例えば、
図11に示すように、酸化物半導体層50、ゲート絶縁層40及びゲート電極30が下から上にこの順で基板10上に積層されたトップゲート型の薄膜トランジスタであってもよい。この場合、ソース電極70Sは、ゲート絶縁層40に形成されたコンタクトホールを介して酸化物半導体層50のソース領域(低抵抗化領域)50Sに接続される。また、ドレイン電極70Dは、ゲート絶縁層40に形成されたコンタクトホールを介して酸化物半導体層50のドレイン領域(低抵抗化領域)50Dに接続される。
【0153】
このように、トップゲート型の薄膜トランジスタにすることによって、寄生容量の低減を図ることができる。
【0154】
また、上記実施の形態では、薄膜トランジスタを用いた表示装置として有機EL表示装置について説明したが、これに限らない。例えば、上記実施の形態における薄膜トランジスタは、液晶表示装置等の他の表示装置にも適用することもできる。
【0155】
この場合、有機EL表示装置(有機ELパネル)は、フラットパネルディスプレイとして利用することができる。例えば、有機EL表示装置は、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ又は携帯電話等、あらゆる電子機器の表示パネルとして利用することができる。
【0156】
その他、各実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。