(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両用電波透過カバーは、車両のA.C.C(Adaptive Cruise control)を構成する部材の一つである。A.C.C.は、車両前側に搭載されているセンサによって前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定し、この情報を基にスロットルやブレーキを制御して自車を加減速し、車間距離をコントロールする技術である。A.C.C.は、近年、渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術の一つとして注目されている。A.C.C.用のセンサとしては、一般に、レーザレーダやミリ波レーダ等の電波レーダ装置が使用されている。例えばミリ波レーダは、30GHz〜300GHzの周波数を持ち1〜10mmの波長を持つミリ波を送信し、かつ、対象物にあたって反射したミリ波を受信する。そして、この送信波と受信波の差から前方車両と自車との車間距離や相対速度を算出する。以下、必要に応じて、「車両用電波透過カバー」を単に「電波透過カバー」と略する。
【0003】
電波レーダ装置は、一般に、フロントグリル等の外装部材の後側に配置される。当該外装部材には、電波透過カバーを取り付けるための開口が設けられる。一方、電波透過カバーは当該開口を覆うように配置され、係合、嵌合、接着等の方法で外装部材に取り付けられるとともに、当該外装部材の後側に配置されている電波レーダ装置の前面を覆う。電波透過カバーは、エンブレム等の所定の意匠を表示する意匠体として兼用されるのが一般的である。
【0004】
電波レーダ装置は、電波透過カバーを通じて電波を送受信する。電波を送信する際には、電波レーダ装置は電波出射部から車両の前方に向けて水平方向に所定の角度で放射状に電波を出射する。このため、電波レーダ装置における電波出射部と電波透過カバーとの距離は近ければ近い程、電波透過カバーにおける電波透過領域を小さくできるため、電波透過カバーを小型化できる利点がある。
【0005】
一般的な電波透過カバーは、電波透過性を考慮して、肉厚略一定の板状に形成される。そして、電波透過カバーを外装部材に取り付けるための取付部は、電波透過カバーの電波透過性を損なわないために、電波透過カバーの後面側かつ上記した電波透過領域の外側に突設される。このような取付部によって外装部材に電波透過カバーを取り付けると、電波透過カバーの外縁と外装部材との境界部分が意匠体と外装体との見切り部として視認される。フロントグリル等、比較的凹凸の大きな立体形状をなす外装部材に、板状の電波透過カバーを一体感をもって取り付けるためには、両者を寸法精度高く成形する必要がある。しかし、大型の外装部材は寸法誤差が大きいために寸法精度高く成形し難く、この種の外装部材に電波透過カバーを一体感をもって取り付けるのは非常に困難であった。
【0006】
また、上記したように電波透過カバーを外装部材に取り付けるための取付部は、電波透過カバーの後面に設けられるのが一般的であるが、電波透過カバーの後面側には電波レーダ装置が配置される。したがって、取付部が電波レーダ装置に干渉しないよう、電波透過カバーは電波レーダ装置から離間させる必要がある。つまり、電波レーダ装置における電波出射部と電波透過カバーとを近づけ難く、結果的に、電波透過カバーを小型化し難い問題もある。よって、電波透過カバーの更なる改良が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電波透過カバーは、樹脂材からなる第1基材および第2基材を有する。
【0013】
第1基材は透明樹脂材からなる。本発明でいう透明とは、第1基材の後面側にある意匠を第1基材の前面側から人が視認できる程度の光透過性を有することを指す。つまり、第1基材は、このような光透過性を有する透明樹脂材で構成されるものである。透明樹脂材は上記した光透過性を有する透明樹脂のみからなっても良いし、当該透明樹脂に加えて透明性を大きく損なわない量の添加剤を含んでも良い。添加剤としては特に限定はないが、着色顔料やフィラー等が例示される。すなわち、透明樹脂材は無色であっても良いし、有色であっても良い。第1基材用の透明樹脂は透明かつ樹脂であれば良く、特に限定はないが、電波透過性、耐候性等の電波透過カバーに必要な性能を考慮して選択するのが良く、特に、誘電正接の小さい樹脂で構成するのが良い。誘電正接が小さければ、ミリ波等の電波が熱エネルギに変換され難いため、電波の減衰を抑制可能である。具体的には、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、共重合ポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも一種を選択するのが好ましい。
【0014】
一方、第2基材は不透明樹脂材からなる。本発明でいう不透明とは、上記した透明とは逆に、第2基材の後面側にある意匠を第2基材の前面側から人が視認できない程度に光透過性が低いことを指す。不透明樹脂材も同様に、上記した程度の光透過性を有する不透明樹脂のみからなっても良いし、当該不透明樹脂に加えて添加剤を含んでも良い。或いは、透明樹脂に適宜添加剤を配合し光透過性を低下させることで不透明樹脂材を得ても良い。第2基材用の不透明樹脂は特に限定はないが、上記したように電波透過性、耐候性、誘電正接等を考慮して選択するのが好ましい。具体的には、アクリロニトリルーエチレンースチレン樹脂(AES)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン樹脂(ABS)、PCが例示される。第2基材用の透明樹脂としては、上記と同様の透明樹脂を用いることができる。なお、上記した第1基材の前面、および、第2基材における後述する前面被覆部の前面は、耐候性に優れるコート層でさらに覆っても良い。コート層の材料としては、紫外線(UV)硬化型または電子線(EB)硬化型のアクリル系樹脂を主成分とするハードコート塗料またはフィルム、熱硬化型のシリコーン系樹脂を主成分とするハードコート塗料またフィルム等が例示される。これらは1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。第2基材における後述する後面被覆部の後面も同様に、必要に応じて各種のコート層で覆っても良い。
以下、具体例を挙げて、本発明の電波透過カバーを説明する。
【0015】
(実施例)
実施例の電波透過カバーは、車両のフロントグリルに配設されるものであり、エンブレム状の意匠を表示するものである。実施例の電波透過カバーを模式的に表す斜視図を
図1に示し、実施例の電波透過カバーを前面側から見た様子を模式的に表す説明図を
図2に示す。また、実施例の電波透過カバーを車両に配設した様子を模式的に表す断面図を
図3に示す。従来の電波透過カバーの断面を模式的に表す説明図を
図4に示し、当該従来の電波透過カバーを前面側から見た様子を模式的に表す説明図を
図5に示す。さらに、従来の他の電波透過カバーの断面を模式的に表す説明図を
図6に示し、当該他の電波透過カバーを前面側から見た様子を模式的に表す説明図を
図7に示す。以下、前、後とは
図1および
図3に示す前、後を指し、上、下とは
図2および
図3に示す上、下を指す。
【0016】
図1および
図2に示すように、実施例の電波透過カバー1は、意匠部10と、当該意匠部10を取り囲むフレーム部11とを有する。意匠部10はエンブレム状の意匠を表示し、フレーム部11は意匠部10を取り囲む。
【0017】
図3に断面を示すように、車両のフロントグリル100には窓状の開口101が設けられており、当該開口101の後側には電波レーダ装置102が配設されている。実施例の電波透過カバー1は、フロントグリル100の開口101に取り付けられるとともに、電波レーダ装置102の前側に配置される。
実施例の電波透過カバー1は、第1基材2、第2基材3および加飾層5で構成されている。
【0018】
第1基材2は透明樹脂の1種であるPCを材料としてなる。第1基材2は意匠部10の前面を構成し、略円板状をなす。第1基材2の周縁部は、第1基材2の中央部に比べて薄肉かつ平坦な環状のフランジ部20を構成している。第1基材2の中央部は、フランジ部20に比べて前側に向けて隆起した意匠透過部21を構成している。
【0019】
第2基材3は、非透明樹脂の1種であるAESを材料としてなり、後面被覆部31、前面被覆部32および取付部38で構成されている。後面被覆部31は第1基材2の後面を覆い、前面被覆部32は第1基材2の前面における周縁部の全周、つまりフランジ部20の前面を全周にわたって覆っている。
【0020】
取付部38は、後面被覆部31の外縁部31aおよび前面被覆部32の外縁部32aに連続し、後方に延びている。より具体的には、後面被覆部31の外縁部31aと前面被覆部32の外縁部32aとは周方向の全周にわたって一体化されており、取付部38は後面被覆部31の外縁部31aの全周と、前面被覆部32の外縁部32aの全周と、の両方に連続している。したがって取付部38は略筒状をなす。また、
図1および
図3に示すように、第2基材3は、後面被覆部31および前面被覆部32を頂壁とし取付部38を側壁とする略箱状をなす。このため実施例の電波透過カバー1は、
図3に示すように、電波レーダ装置102を内部に収容可能である。
【0021】
図3に示すように、意匠部10は、第1基材2、加飾層5および後面被覆部31で構成されている。第1基材2は意匠部10の最前面を構成し、加飾層5は第1基材2の後面に隣接し、後面被覆部31は加飾層5のさらに後面に隣接している。第1基材2の後面は凹凸形状をなす。詳しくは、第1基材2の後面における周縁部は、第1基材2における後面の全周にわたって環状に陥没した第1意匠領域2aを構成している。第1基材2における後面の中央部は、陥没形状の第1意匠領域2aに比べて相対的に隆起した第2意匠領域2bを構成している。第1意匠領域2aは、第1基材2の表面側、つまり、電波透過カバー1の表面側から見ると隆起しているように見える。第2意匠領域2bは、電波透過カバー1の表面側から見ると陥没しているように見える。つまり電波透過カバー1の表面側から見ると、加飾層5は、第1意匠領域2aにおいては隆起しているように見え、第2意匠領域2bはにおいては陥没しているように見える。
【0022】
加飾層5は、有色加飾部50と金属光沢部51とを有し、第1基材2と後面被覆部31との間に介在している。有色加飾部50は、加飾層5における第1基材2側の部分を主として構成し、金属光沢部51は加飾層5における後面被覆部31側の部分を主として構成している。より具体的には、有色加飾部50は第2意匠領域2b上に印刷形成されている。金属光沢部51は、インジウムを材料とし、有色加飾部50が形成された第1基材2の後面側に蒸着形成されている。したがって、金属光沢部51は有色加飾部50の後面、第1意匠領域2a上、および、フランジ部20の後面にわたって延設されている。
【0023】
第1基材2、加飾層5、第2基材3はインサート成形法により一体に成形されている。インサート成形法の一例を挙げると、先ず、第1基材2を射出成形し、次いで、第1基材2の後面側に上記した手順で加飾層5を形成する。そして、加飾層5の形成された第1基材2をインサート材として、第1基材2および加飾層5の後面側に第2基材3を射出成形する。第1基材2、加飾層5および第2基材3を一体に成形することで、第1基材2、加飾層5および第2基材3は隙間なく密着する。このように、少なくとも意匠部10が厚さ方向において多層構造をなすにもかかわらず各層間が隙間がなく密着するために、実施例の車両用電波透過カバー1は電波透過性に優れる。
【0024】
また、第1基材2、加飾層5および第2基材3を隙間なく密着させるためには、加飾層5と第2基材3との間に熱硬化型の接着材層を設けるのがより好ましい。熱硬化型の接着材層は、インサート成形の際に熱硬化可能である。熱硬化型接着材としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、熱硬化型シリコーンエラストマ等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。誘電正接が低く、インサート成形時、つまり、第2基材3を形成する際の熱で分解され難いことから、エポキシ樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0025】
図1および
図3に示すように、第1基材2との境界部において、前面被覆部32の前面は第1基材2の前端部25よりも後側にある。また、前面被覆部32を含む第2基材3は非透明樹脂材からなり、透明樹脂材からなる第1基材2とは色も質感も異なる。このため、第1基材2のなかで前面被覆部32との見切り部15よりも内周側にある部分は、前面被覆部32に対して独立しつつ前方に突出しているように見える。換言すると、意匠部10はフレーム部11から独立しフレーム部11と別部材であるかの如く視認される。また、意匠部10とフレーム部11とは一体に成形されているため、意匠部10がフレーム部11に対して一体感をもって視認される。また、意匠部10はエンブレムであるかの如く視認され、フレーム部11は外装部材であるかの如く視認される。つまり、実施例の電波透過カバー1は、それぞれ独立した外装部材の一部とエンブレムとが組み合わされたものであるように見え、さらに、両者は寸歩精度高く形成されかつ隙間なく配置されているように見える。
【0026】
さらに、見切り部15において、第1基材2の前面と前面被覆部32の前面とは、鋭角的に接合している。具体的には、見切り部15における第1基材2の前面の接線と、見切り部15における前面被覆部32の前面の接線と、の交差角θは鋭角である。ここで言う交差角とは劣角を指す。当該見切り部15は、前面被覆部32を成形する際の樹脂の流動終端部となり、成形時にバリと呼ばれる不要な突起が形成され易い。しかし、交差角θが鋭角とこうなるように第1基材2と前面被覆部32との見切り部15を構成したことで、バリが発生し難くなり、または、発生したバリが視認され難くなり、意匠性に優れた電波透過カバーが得られる。なお、
図3に示すように、前面被覆部32の前面は湾曲面であるため、例えば屈曲面である場合に比べると、成形時における溶融樹脂の流動性が高まる。このことによっても見切り部15は意匠性良く形成される。
【0027】
さらに、実施例の電波透過カバーはフロントグリル100に取り付けられるために、取付部38はフロントグリルに対応する色、例えば、金属色等に塗装される。この場合、交差角θを鋭角にすることで、塗装しない部分、つまり、取付部38よりも径方向内側の部分に容易にマスク治具を取り付けることができる。このため、取付部38の塗装作業が容易になり、意匠性に優れた電波透過カバーを容易に製造できる。マスク治具を取り付けることを考慮すると、交差角θは90°程度であるのが好ましく、70°以上90°以下であるのが好ましく、80°以上90°以下であるのがより好ましい。
【0028】
また、
図3に示すように、第2基材3の一部である取付部38は、第2基材3の他の一部である後面被覆部31および前面被覆部32の外縁部に連続し、後方、つまり、
図1に示す後方向に向けて延びる。つまり、従来の電波透過カバー1とは異なり、取付部38は第2基材3の後面には設けられない。その代わりに、取付部38自体が電波透過カバー1の外縁を構成し、実質的に、取付部38は第2基材3の後面側には出っ張らない。
【0029】
さらに換言すると、車両の外装部材に取り付けた本発明の電波透過カバー1を、車両進行方向の前側から後側に向けて水平方向に見た投影図において、取付部38が投影された領域は、見切り部15よりも内周側の部分が投影された領域に、重ならない。このようにすることで、取付部38は、電波透過カバー1の後側に配置される電波レーダ装置102に干渉し難く、電波透過カバー1と電波レーダ装置102とを近接して配置できる。よって、電波レーダ装置102における電波出射部102aと電波透過カバー1との距離を近くでき、電波透過カバー1における電波透過領域を小さくでき、ひいては電波透過カバー1を小型化できる。なお、実施例においては、取付部38は見切り部15よりもさらに電波透過カバーの外周側に向けて延びている。したがって、上記した取付部38が投影された領域と、見切り部15よりも内周側の部分が投影された領域と、は互いに離間している。このため、取付部38は大型の電波レーダ装置102にも干渉しない利点がある。
【0030】
特に、
図3に示すように、実施例の電波透過カバー1における第2基材3は箱状であり、かつ第2基材3の内部に電波レーダ装置102を収容したため、電波レーダ装置102における電波出射部102aと電波透過カバー1との距離を可能な限り小さくできる。したがって、実施例の電波透過カバー1は非常に小型である。
【0031】
なお、取付部38は後面被覆部31の外縁部31aの全周および前面被覆部32の外縁部32aの全周にわたって連続する必要はなく、これらの一部を除いて連続しても良い。つまり、第2基材3は、側壁における周方向の一部が切り欠かれた箱状をなしても良い。さらには、箱状の第2基材3は電波レーダ装置102の全体を収容しても良いし、電波レーダ装置102の一部のみを収容しても良い。何れの場合にも、上記と同様に、電波レーダ装置102における電波出射部102aと電波透過カバー1との距離を可能な限り小さくでき、電波透過カバー1を小型化できる。
【0032】
また、
図3に示すように、実施例の電波透過カバー1においては、取付部38の一部が電波レーダ装置102の上側を覆っている。このため、降雨時における上方から電波レーダ装置102に向けた雨水等の侵入を取付部38によって抑制できる。また、取付部38の他の一部は電波レーダ装置102の下側を覆っている。このため、車両走行時において泥や水等が跳ね上げられても、取付部38によって遮断され、電波レーダ装置102に到達し難い。
【0033】
実施例の電波透過カバー1において、取付部38の後端部には外装部材つまりフロントグリル100に係合する係合部が設けられ、取付部38がフロントグリル100に係合することで、電波透過カバー1がフロントグリル100に取り付けられる。しかし、本発明の電波透過カバー1においては、取付部38は如何なる方法で外装部材に取り付けられても良い。例えば、取付部38に両面テープを配設して当該両面テープによって取付部38と外装部材とを接着しても良いし、取付部38と外装部材とを既知の接着剤で接着しても良い。更には、取付部38と外装部材とを振動溶着等の既知の方法で溶着しても良い。何れの場合にも、取付部38が裏面被覆部31の後面に突設されたものでなく、後面被覆部31の外縁部31aおよび前面被覆部32の外縁部32aから延びるために、上記したよう電波透過カバー1と電波レーダ装置102との干渉を抑制し得る点では同じである。
【0034】
本発明の電波透過カバー1における後面被覆部31は、第1基材2の後面を覆えば良い。つまり、実施例のように加飾層5或いはその他の層が介在した状態で後面被覆部31が第1基材2の後面を間接的に覆っても良いし、或いは、後面被覆部31が第1基材2の後面を直接覆っても良い。何れの場合にも、後面被覆部31は第1基材2および加飾層5を覆ってこれらを保護することで電波透過カバー1の耐久性を向上させるとともに、加飾層5の背景として意匠部10に何らかの意匠性を付与し得るものである。
【0035】
実施例の電波透過カバー1は有色加飾部50と金属光沢部51とを含む加飾層5を有する。有色加飾部50は光透過性の低い塗料で構成されているため、第1基材2を表側から視認すると、第2意匠領域2bには有色加飾部50のみが表示され、第1意匠領域2aには金属光沢部51のみが表示される。上記したように、金属光沢部51は第1意匠領域2aのみならずフランジ部20の後面にも延在しているため、金属光沢部51の一部は第1基材2と前面被覆部32との見切り部15、つまり、意匠部10とフレーム部11との見切り部15の真後ろに配置されている。このため、実施例の電波透過カバー1によると、意匠部10とフレーム部11との境界部分、つまり、電波透過カバー1のなかでエンブレムの外縁であるように視認される部分に金属光沢部51を配置でき、当該部分に金属光沢色を表示できる。
【0036】
例えば、
図4および
図5に示すように、第1基材2の一部(周縁被覆部28と呼ぶ)で後面被覆部31の後面周縁部を覆う場合にも、第1基材2と第2基材3とを強固に一体に成形できるとともに第1基材2、加飾層5および後面被覆部31の各層を隙間なく密着させることができると考えられる。しかしこの場合には、電波透過カバー1の前面全体を第1基材2が構成するために、電波透過カバー1の前面全体に統一された質感が付与され、
図5に示すように第1基材2の外縁が意匠部10つまりエンブレムの外縁であるように視認される。このため、この場合には、エンブレムの外縁は透明樹脂材からなる第1基材2で構成され、当該外縁に金属光沢部51を配置することはできない。
【0037】
また、例えば、
図6および
図7に示すように、電波透過カバー1の周縁部において第1基材2の厚さ方向の一部の領域に前面被覆部32を介在させる態様も考えられる。この場合、電波透過カバー1の外縁部は、前側から後側に向けて、第1基材2ー前面被覆部32ー第1基材2ー加飾層5ー後面被覆部31の順で各層が積層された積層構造をとる。この場合にも、第1基材2と第2基材3とを強固に一体化できるとともに各層を隙間なく密着させることができると考えられる。またこの場合には、電波透過カバー1の外縁部には前面被覆部32が配置される。しかしこの場合にも、前面被覆部32がさらに第1基材2によって覆われ、第1基材2によって覆われた前面被覆部32が意匠部10つまりエンブレムの一部であるように視認される。つまり、この場合にも電波透過カバー1の全体がエンブレムであるかのようにみえる。そして、上記した積層構造の一部を構成し前面側および後面側に第1基材2の一部が積層される前面被覆部32には、金属光沢部51を形成できないために、この場合にも、意匠部10の外縁つまりエンブレムの外縁に金属光沢部51を配置することができない。
【0038】
これに対して、実施例の電波透過カバー1によると、
図1〜
図3に示すようにエンブレムの外縁に金属光沢部51を配置できるため、意匠の多様性が著しく向上する。
【0039】
なお、金属光沢部51は見切り部15の真後ろから意匠部10の内周側部分にわたって延在するのが良いが、これに限らず、金属光沢部51の末端の位置が見切り部15近傍であれば、エンブレムの外縁であるように視認される部分に金属光沢色を表示できる。
【0040】
実施例の電波透過カバー1は有色加飾部50と金属光沢部51とを含む加飾層5を有するが、本発明の電波透過カバー1には加飾層5がなくても良い。例えば、第1基材2の後面および/または後面被覆部31の前面に凹凸形状を設け、当該凹凸形状によって意匠を表示しても良い。或いは、本発明の電波透過カバー1には、有色加飾部50または金属光沢部51の一方のみからなる加飾層5を設けても良い。
【0041】
加飾層5は、上記したように意匠を表示するための層であり、第1基材2とは彩度、明度、透明度、光の屈折率の何れかが異なる材料で構成するのが良い。例えば加飾層5は、樹脂製であっても良いし、塗料、金属等で構成しても良い。加飾層5は、第1基材2および/または第2基材3に直接形成しても良い。加飾層5を第1基材2および/または第2基材3に直接形成する方法としては、例えば、印刷、二色成形等の多色成形、蒸着等の方法が挙げられる。金属製の加飾層5を蒸着形成する場合には、電波透過性を考慮して、インジウム、スズ、金等の島状に蒸着される金属材料を選択するのが好ましい。或いは、加飾層5は、第1基材2および第2基材3と別体で形成しても良い。加飾層5は、第1基材2および第2基材3と別体で形成する方法としては、樹脂シート上に印刷、蒸着等の方法により形成した加飾層5を、樹脂シートごとインサート成形や接着等の方法で第1基材2および/または第2基材3に一体化する方法が例示される。
【0042】
また、第1基材2を構成する透明樹脂材および第2基材3を構成する不透明樹脂材の比誘電率は略同じであるのが好ましい。具体的には、これらの比誘電率は、室温、76.5GHzにおいて2.7±1.5であるのが良い。上記のコート層に関しても同様に、比誘電率が上記の範囲内にあるものを選択するのが好ましい。さらに、第1基材2と第2基材3との間、より具体的には第1基材2と後面被覆部31との間に加飾層5を介在させる場合には、当該加飾層5の比誘電率もまた上記した範囲内にあるのが好ましい。
【0043】
本発明の電波透過カバー1においては、第1基材2および後面被覆部31、場合によっては更に加飾層5および/またはコート層で構成される意匠部10が、主として、電波レーダ装置102の前側に配置される。したがって、電波透過性を考慮すると、当該意匠部10の肉厚は一定であるのが好ましい。ここでいう意匠部10の肉厚一定とは、肉厚略一定を含む概念である。具体的には意匠部10の最大肉厚を100%としたときに、−0.2%のバラツキを許容し得る。
【0044】
第1基材2および第2基材3は、上述したインサート成形法以外にも、例えば二色成形法等の方法によって一体に成形し得る。この場合にも、第1基材2および第2基材3、或いは、第1基材2、加飾層5および第2基材3を互いに隙間なく接合させることができ、電波透過カバー1の電波透過性を向上させ得る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電波透過カバー1は、車両に搭載されるものであり、フロントグリル100に限らず、各種の車両用外装部材に取り付けることができる。
【0046】
(備考1)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【0047】
(備考2)
本発明の車両用電波透過カバーは、電波レーダ装置102の前側に配置される車両用電波透過カバー1であって、
透明樹脂材からなる第1基材2と、不透明樹脂材からなり前記第1基材2と一体に成形されている第2基材3と、を有し、
前記第2基材3は、
前記第1基材2の後面側を覆う後面被覆部31と、
前記第1基材2の前面側における周縁部の少なくとも一部を覆う前面被覆部32と、
前記後面被覆部31および前記前面被覆部32の外縁部に連続し後方に延びる取付部38と、を有する。
【0048】
本発明の電波透過カバーは、以下の(1)〜(3)の何れかを備えるのが好ましく、(1)〜(3)の複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記前面被覆部32と前記第1基材2との見切り部15は、前記第1基材2の前端部25よりも後側にある。
(2)前記第2基材3は、前記後面被覆部31および前記前面被覆部32を頂壁とし前記取付部38を側壁とし前記電波レーダ装置102を収容可能な箱状をなす。
(3)さらに、前記第1基材2と前記第2基材3との間に介在する加飾層5を備え、
前記加飾層5は金属光沢を有する金属光沢部51を持ち、
前記金属光沢部51は、前記前面被覆部32と前記第1基材2との見切り部15の少なくとも一部の真後ろに配置されている。