【実施例】
【0034】
以下に、実施例および比較例について説明する。まず、実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)〜(E)と、それらを用いて行ったカーディングおよびエアレイドについて説明する。
【0035】
まずカーディングについて説明するに、
図4に例示するように、炭素繊維束をカーディングするカーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。
【0036】
ベルトコンベアー8に所定長に切断された炭素繊維束9が供給され、炭素繊維束9はフィードロールの外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までである程度炭素繊維束はある程度解され、綿状の炭素繊維束の集合体(炭素繊維集合体)となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、この炭素繊維はストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクイロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により所定の束まで開繊され、ある程度配向される。かかる過程を経て所定の炭素繊維束まで開繊され、炭素繊維集合体の1形態であるシート状のウエブ10としてドッファーロール4の外周面上に移動する。
【0037】
次にエアレイドについて説明するに、エアレイドとは短繊維の不織布シートの製造方法である。一般的なエアレイド法としては、本州製紙法、クロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法などが挙げられる(以上、不織布の基礎と応用(日本繊維機械学会不織布研究会 1993年刊)を参照)。
【0038】
例えば、
図5に示すように、エアレイド装置11は、互いに逆回転する円筒状でかつ細孔を持つドラム12と各ドラム12内に設置されたピンシリンダー13を有し、多量の空気と共に炭素繊維束単体もしくは炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維がドラム12に風送され、ドラム12内のピンシリンダー13によって開繊され、細孔より排出されて、その下を走行するワイヤ14上に落下する。ここで風送に用いた空気はワイヤ14下に設置されたサクションボックス15に吸引され、開繊された炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみワイヤ4上に残り、炭素繊維シートを形成する。
【0039】
次に実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)〜(E)について説明する。
炭素繊維束(A)
繊維径5.5μm、引張弾性率294GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル100%成分(分子量=670)の水系サイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(A)を得た。
【0040】
炭素繊維束(B)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂40%成分(分子量=370)と不飽和物エステル樹脂として、ビスフェノールA型エチレンオキサイドマレイン酸エステル40%成分(分子量=2500)、乳化剤20%を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(B)を得た。
【0041】
炭素繊維束(C)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(C)を得た。
【0042】
炭素繊維束(D)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、サイジング剤を付与せず炭素繊維束(D)を得た。
【0043】
炭素繊維束(E)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、グリセロールトリグリシジルエーテルをジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)で希釈した溶剤系サイジング剤を炭素繊維束に0.5重量%付着させた炭素繊維束(E)を得た。
【0044】
(実施例1)
炭素繊維束(A)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%)を質量比で90:10の割合で混合し、
図4に示したようなカーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m
2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン樹脂メルトブロー不織布(「CM1001」、樹脂粘度ηr=2.3、東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は230%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が3.5×10
-3[(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.018、初期荷重傾きが0.15であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは375本、標準偏差σは192であった。
【0045】
(実施例2)
炭素繊維束(B)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は217%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が8.4×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.028、初期荷重傾きが0.43であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは336本、標準偏差σは245であった。
【0046】
(実施例3)
炭素繊維束(C)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は203%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が12.1×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.062、初期荷重傾きが0.61であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは167本、標準偏差σは63であった。
【0047】
(実施例4)
炭素繊維束(C)を繊維長25mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が27:73となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は185%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が22.1×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.035、初期荷重傾きが0.46であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは151本、標準偏差σは59であった。
【0048】
(
参考実施例5)
炭素繊維束(C)を繊維長50mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が30:70となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は172%と流動性に優れるものであった
が、他の実施例に比べると若干劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が28.2×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.022、初期荷重傾きが0.34であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは141本、標準偏差σは54であった。
【0049】
(実施例6)
炭素繊維束(A)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率17%)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m
2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が35:65となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布(「J1709QG」、MFR=55g/10min、プライムポリマー(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は207%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が18.1×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.031、初期荷重傾きが0.38であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは394本、標準偏差σは202であった。
【0050】
(実施例7)
炭素繊維束(E)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtexの長繊維をカット長5mmとしたもの)を質量比で90:10の割合で混合し、
図5に示したようなエアレイド装置に投入し、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m
2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン610樹脂フィルム(「CM2001」東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、1.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は298%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が2.9×10
-3[(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.016、初期荷重傾きが0.16であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは382本、標準偏差σは303であった。
【0051】
(実施例8)
炭素繊維束(E)を繊維長25mmにカットした以外は、実施例7と同様にして厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は276%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が4.2×10
-3[(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.025、初期荷重傾きが0.19であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは423本、標準偏差σは379であった。
【0052】
(比較例1)
炭素繊維束(A)を繊維長45mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維を実施例6と同様に混合し、カーディング、クロスラップして、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m
2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体を実施例6と同様に積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が40:60となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布をさらに積層した後に、実施例6と同様にホットプレス、冷却して厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は160%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が36.2×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.008、初期荷重傾きが0.81であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは446本、標準偏差σは402であった。
【0053】
(比較例2)
炭素繊維束(D)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は165%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が30.2×10
-3 [(N・mm)/(g/m
2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.12、初期荷重傾きが0.68であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは512本、標準偏差σは360であった。
【0054】
とくに、上記実施例1〜3、比較例1の結果を表す荷重―ひずみ曲線を
図6に示す。
図6に示すように、実施例1〜3では、比較例1に比べ、本発明で目標とした特性が得られていることが分かる。なお、上記各実施例、各比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0055】
【表1】