特許第6331123号(P6331123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331123
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   C08J5/04CER
   C08J5/04CEZ
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-522420(P2013-522420)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2013063520
(87)【国際公開番号】WO2013179891
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-121738(P2012-121738)
(32)【優先日】2012年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵寛
(72)【発明者】
【氏名】三好 且洋
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 剛司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小原 徹也
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105080(WO,A1)
【文献】 特開2010−235779(JP,A)
【文献】 特開2004−043985(JP,A)
【文献】 特開2002−212311(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3152748(JP,U)
【文献】 特開2011−178890(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10、5/24
B29B 11/16、15/08−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10−325×10−3[(N・mm)/(g/m)]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5〜30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10−1(mg/mm)以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10−2≦X≦8.1×10−2(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
【請求項2】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10−325×10−3[(N・mm)/(g/m)]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5〜30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90〜1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50〜500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
【請求項3】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが−0.07〜−0.01の範囲にある、請求項1または2に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項4】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1〜0.5の範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料に関し、とくに、複雑な形状であっても優れた成形性をもってばらつきの少ない高い機械特性を有する成形品を製造可能な炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチックの成形品を製造するために、例えば、成形用素材としてシート状の炭素繊維複合材料を使用し、その炭素繊維複合材料を所定の温度、加圧条件で所定の形状へとプレス成形(スタンピング成形)する技術が知られている。このような成形においては、とくに成形すべき形状が複雑な形状である場合には、その複雑な形状の全部位にわたって所望の炭素繊維補強形態にて成形されるように、成形用素材としての炭素繊維複合材料に高い流動性が求められる。炭素繊維複合材料の流動性が低いと、良好な成形性が得られないばかりか、成形品の機械特性が低くなり、かつ、機械特性のばらつきも大きくなるおそれがある。
【0003】
従来の技術として、特許文献1には、炭素繊維不織布と炭素繊維開繊体をニードルパンチやウォータージェットで交絡積層した、引張強度に優れる炭素繊維シートが開示されているが、このようなシートを上記のように成形用素材としての炭素繊維複合材料として使用しても、繊維同士の交絡が強いため、成形時の流動性は低いものであった。
【0004】
また、特許文献2には、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)を天然高分子で集束し、集束した繊維束を結着剤(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー等)で結合した引張強度に優れる繊維強化プラスチックの補強材が開示されているが、結着剤で繊維同士が結合されているために、成形時の流動性は低いものであった。また、集束剤として澱粉等の天然高分子を使用しているために、熱可塑性樹脂を含浸して複合材料とした際に集束剤が劣化し、高物性の成形品を得ることは難しかった。
【0005】
さらに、特許文献3には、炭素繊維フェルトと炭素繊維ペーパーを積層した、平面平滑性が高く、高引張強度の炭素繊維シートが開示されているが、このようなシートを炭素繊維複合材料として使用しても、炭素繊維ペーパー部分は、炭素繊維の単繊維の分散性は高いものの、炭素繊維同士の交絡が強いため、成形時の流動性は低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−183692号公報
【特許文献2】特開2004−169225号公報
【特許文献3】特開2008−201005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来の炭素繊維複合材料では達成できなかった、成形時に高い流動性を示すことができ、成形品の機械特性が良好で、しかもその機械特性のばらつきも少ない炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10−325×10−3[(N・mm)/(g/m)]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5〜30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10−1(mg/mm)以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10−2≦X≦8.1×10−2(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。ここで、
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
また、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10−325×10−3[(N・mm)/(g/m)]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5〜30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90〜1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50〜500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。
上記目付あたりの仕事量の好ましい範囲は1×10−3〜14×10−3[(N・mm)/(g/m)]であり、さらに好ましくは1×10−3〜10×10−3[(N・mm)/(g/m)]であり、特に好ましくは1×10−3〜5×10−3[(N・mm)/(g/m)]である。
【0009】
このような本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量は、後述の如く、上記引張試験で得られる荷重―ひずみ曲線(以下、「引張曲線」と言うこともある。) の積分値(面積)として求められ、この面積が小さいほど、炭素繊維マット等の炭素繊維シートを引き伸ばすのに必要なエネルギーが小さくて済む。したがって、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を本発明の如く低い値の範囲とすることにより、炭素繊維シートを所望の形態まで引き伸ばすのに必要な仕事量(エネルギー)が小さくて済むので、その炭素繊維シートとマトリックス樹脂からなる炭素繊維複合材料を成形用素材として用い、目標とする成形品を成形する場合に、その成形用素材の流動性が高められ、優れた成形性が実現される。その結果、複雑な形状を有する成形品であっても、高い流動性をもって良好にかつ容易に成形できるようになり、高い流動性によって成形品の全部位にわたって炭素繊維とマトリックス樹脂を所望の形態で(例えば、所望の比率を維持して)良好に分布させることができるため、成形品の高い機械特性を実現でき、かつ、その機械特性のばらつきを少なく抑えることができる。
【0010】
上記本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが−0.1〜−0.01の範囲にあることが好ましい。この傾きは、後述の如く、引張試験における目付あたりの最大荷重に到達後、さらに4〜6%伸張した時の引張曲線の傾きで、引張曲線の最大荷重(頂点)から減少していくときの傾きとして求められる。この傾きの絶対値が小さいほど(傾きが緩やかなほど)、炭素繊維シートがちぎれずにゆっくりと引き伸ばされていくため、炭素繊維複合材料が流動し成形品が成形された後の炭素繊維の分布のばらつき(例えば、繊維体積含有率のばらつき)が小さくなり、成形品の物性が安定する。この最大荷重到達後の傾きのより好ましい範囲は−0.07〜−0.01であり、さらに好ましい範囲は−0.04〜−0.01である。
【0011】
また、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1〜0.7の範囲にあることが好ましい。この傾きは、後述の如く、引張試験において目付あたりの荷重が負荷される際の、引張曲線の初期の立ち上がりの傾きのことであり、この傾きが小さいほど、炭素繊維シートが弱い力で引き伸ばされていくため、炭素繊維複合材料が流動し始める抵抗が小さくなり、高い流動性をもって成形品を成形することが可能となる。この初期荷重時の傾きのより好ましい範囲は0.1〜0.5であり、さらに好ましい範囲は0.1〜0.3である。
【0012】
また、上記炭素繊維シートを形成する炭素繊維の繊維長としては、5〜30mmの範囲にある。炭素繊維シートがこのような繊維長の範囲の炭素繊維で形成されていることにより、炭素繊維を良好に分散させた状態を保ちながら炭素繊維複合材料を流動させることが可能になり、成形品が成形された後の炭素繊維の分布のばらつき(例えば、繊維体積含有率のばらつき)が小さくなり、成形品の機械特性が安定し、その機械特性のばらつきも小さくなる。この炭素繊維の繊維長のより好ましい範囲は10〜25mmであり、さらに好ましい範囲は15〜20mmである。
【0013】
また、本発明においては、前述の如く、上記炭素繊維シートが、所定長さに切断された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなる形態を採る。このような形態においては、本発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎることを容易に抑制でき、それによって炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を確実に本発明で規定した範囲内に収めることができる。
【0014】
上記の形態においては、前述の如く、Mn/(Ln×D)が8.5×10−1(mg/mm)以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10−2≦X≦8.1×10−2(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす。
ここで、
Mn:炭素繊維束重量
Ln:炭素繊維の繊維長
D:炭素繊維の繊維径
【0015】
あるいは、上記の形態においては、前述の如く、炭素繊維シート中の炭素繊維束は、炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90〜1000本の範囲にある。後述する炭素繊維の強度利用率を向上させ、かつ炭素繊維複合材料にした際の成形品の表面外観の観点からは、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xが90〜600本の範囲にあることがより好ましく、更に好ましくは90〜500本の範囲である。炭素繊維複合材料にした際の炭素繊維含有量を増加させ、高い弾性率を得る観点からは、数量平均xが300〜1000本の範囲にあることがより好ましく、更に好ましくは500〜1000本である。炭素繊維束の数量平均xが90本を下回ると繊維同士の交絡数が増加し、流動性が悪化する。1000本を超えると機械特性とリブ等の細かい部位への炭素繊維追従性が悪化し、機械特性のばらつきが大きくなる。
【0016】
そして、炭素繊維シート中の上記炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数xの標準偏差σ50≦σ≦500の範囲であり、炭素繊維束が炭素繊維シート中に分散して分布することで、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維不織布を得ることができる。上記標準偏差σが50を下回ると、流動性が悪化し、上記標準偏差σが500を上回ると、機械特性が悪化し、機械特性のばらつきが大きくなる。上記標準偏差σは、より好ましくは100≦σ≦350の範囲であり、更に好ましくは、150≦σ≦350の範囲であり、より更に好ましくは150≦σ≦300の範囲である。
【0017】
このように特定した範囲を満たすことにより、後述の実施例の結果にも示すように、それを用いた炭素繊維複合材料の成形の際に高い流動性を得ることができるとともに、成形品の高い機械特性を実現することができ、その機械特性のばらつきも少なく、例えばリブ等の細かい部位への優れた炭素繊維追従性を発現できる。
【0018】
また、本発明においては、上記炭素繊維束サイジング剤を付着させたものからなる。サイジング剤が付与されていることにより、炭素繊維シートを形成している所定長さに切断された炭素繊維束は、その炭素繊維が大きくばらけることなく、繊維束の形態が適切に保たれるので、本発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎることがより確実に抑制され、それによって炭素繊維シートの目付あたりの仕事量がより確実に本発明で規定した低い範囲内に収められる。
【0019】
また、本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上述の如く、その炭素繊維複合材料を成形用素材として用いてプレス成形する際に、高い流動性が発現されるが、この流動性は、例えば、後述の如き所定の温度、圧力条件で加圧したときの、加圧前の面積に対する加圧後の面積の比率で表される流動率で表すことが可能である。本発明では、この流動率が、後述の実施例におけるように、170%以上であることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明は、上述したような本発明に係る炭素繊維複合材料をプレス成形(例えば、スタンピング成形)した炭素繊維強化プラスチックについても提供する。この成形品としての炭素繊維強化プラスチックは、たとえ複雑な形状であっても、上記のように成形時に炭素繊維複合材料が高い流動性を示すので、強化繊維としての炭素繊維が成形品の全体にわたって良好に分布されることになり、成形品の良好な機械特性が達成されるとともに、その機械特性のばらつきも少なく抑えられる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に係る炭素繊維複合材料によれば、成形の際の流動性に優れ、複雑な形状への成形にあっても優れた成形性が得られ、成形品の機械特性が高く、かつその機械特性のばらつきを少なく抑えることができる、プレス成形に用いて極めて有用な炭素繊維複合材料を提供できる。したがって、この炭素繊維複合材料を用いて成形することにより、容易にかつ確実に望ましい特性の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の規定に用いた各特性の説明図である。
図2図1に示した各特性の技術的意義の説明図である。
図3】本発明における流動率の説明図である。
図4】実施例で用いたカーディング装置の概略構成図である。
図5】実施例で用いたエアレイド装置の概略構成図である。
図6】実施例1〜3、比較例1の結果を示す荷重―ひずみ曲線を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明について、実施例を主体に詳細に説明する。
本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅15mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10−3〜30×10−3[(N・mm)/(g/m)]である炭素繊維シートを補強材とし、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものであるが、この本発明に係る炭素繊維複合材料の特定には、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線が大きな役割を果たす。また、この本発明に係る炭素繊維複合材料の性能の評価には、所定の温度、圧力条件で加圧したときの、加圧前の面積に対する加圧後の面積の比率で表される流動率が大きな役割を果たす。さらに、前述したように、本発明に係る炭素繊維複合材料では、炭素繊維シートを形成する炭素繊維を、極力、特定の炭素繊維束の形態でかつ特定の条件で残しておくことが好ましく、その炭素繊維束の測定も重要な役割を果たす。したがって、まず、これらについて説明する。
【0024】
<引張試験について>
実施例および比較例で得られた炭素繊維複合材料の平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。得られた炭素繊維マットを幅25mm、長さ250mmに0°方向および90°方向にそれぞれ5点切り出し試験片を得た。得られた試験片をJIS−L−1096−8.14.1−A法(ストリップ法)(2010)に従って、それぞれの試験片5点についてつかみ間隔100mmで定速伸長型引張試験器を用いて、引張速度100mm/分で伸長させた。得られた結果を単純平均して0°方向、90°方向の荷重[N/(g/m)]×10−3―ひずみ[%]曲線である引張曲線をそれぞれ作成した。引張曲線の例を図1図2に示す。
【0025】
(1)仕事量
上記のように得られた引張曲線の値を積分する(図1図2における縦軸(目付当たりの荷重)および横軸(ひずみ)の尺度で表される特性曲線と横軸で囲まれた部分の面積を求めることに相当)ことにより仕事量が求めることができ、0°方向および90°方向の仕事量をそれぞれ求めて、得られた仕事量を単純平均した。上記囲まれた部分の面積が小さいほど、炭素繊維シートを引き伸ばすのに必要なエネルギーが小さくて済み、炭素繊維複合材料としての流動性が高い。
【0026】
(2)最大荷重到達後の傾き
上記の引張曲線において、図1に示すように、最大荷重に到達後、さらに4%〜6%伸長させた区間の傾きを求めた。図2に示すように、この傾きが緩やかなほど、流動性が高く、流動後の炭素繊維体積含有率のばらつきが小さい。
【0027】
(3)初期荷重傾き
上記の引張曲線において、図1に示すように、初期の荷重負荷時から2%〜5%伸長させた区間の傾きを求めた。図2に示すように、この傾きが緩やかなほど、流動初期に流れやすい。
【0028】
(4)流動試験について(プレス成形(例えば、スタンピング成形)における流動性)
[マトリックス樹脂がポリアミドの場合]
図3に示すように、寸法100×100mm×2mmの炭素繊維複合材料101を2枚260℃に予熱後、2枚重ねて120℃に昇温したプレス盤102に配し、20MPaで5秒間加圧し、流動させて成形した。このプレス成形後の炭素繊維強化プラスチック103の圧縮後(流動後)の面積A2と圧縮前(流動前)のシートの面積A1を測定し、A2/A1を流動率(%)として流動性の評価に用いた。
【0029】
[マトリックス樹脂がポリプロピレンPPの場合]
上記と同様に、寸法100×100mm×2mmの炭素繊維複合材料を2枚230℃に予熱後、2枚重ねて80℃に昇温したプレス盤に配し、20MPaで5秒間加圧した。この圧縮後の面積A2と圧縮前のシートの面積A1を測定し、A2/A1を流動率(%)とした。
【0030】
(5)炭素繊維複合材料中の炭素繊維体積含有率(Vf)
上記の流動試験後の炭素繊維複合材料プレス成形品から約2gのサンプルを切り出し、その質量を測定した。その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却してから、残った炭素繊維の質量を測定した。炭素繊維の質量に対する、マトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばす前のサンプルの質量に対する比率を測定し、炭素繊維の含有率とした。
【0031】
(6)炭素繊維束の測定方法
炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し、その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間程度加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却した後に残った炭素繊維集合体の質量を測定した後に、炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。測定後、個々の束に対してMn/Ln、Mn/(Ln×D)、炭素繊維束を構成する炭素繊維単糸本数x=Mn/(Ln×F)を計算する。ここでDとは炭素繊維直径であり、Fとは炭素繊維の単糸繊度であり、xは炭素繊維束の構成単糸本数である。
【0032】
Mn/(Ln×D)の値が8.5×10−1mg/mm以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量をMとし、束総数をNとして、測定する。また、8.5×10−1mg/mm未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量をMとして、測定する。ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(1)に対して(Mn/Ln)/Nを計算し、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xを求める。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合は、
/(MA+)×100
によって求められる。
【0033】
一方、炭素繊維束の構成単糸本数xが90本以上の炭素繊維束を炭素繊維束(3)とし、総重量をMとし、束総数をNとして、測定する。また、構成単糸本数xが90本未満の炭素繊維束を繊維束(4)とし、炭素繊維束(4)の総重量をMとして、測定する。ピンセットで抽出することのできない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(3)に対して束を構成する炭素繊維本数の数量平均x=Σ{Mn/(Ln×F)}/N、炭素繊維束を構成する炭素繊維本数xnの標準偏差σ={1/N×Σ(xn−x)21/2を計算し、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xと炭素繊維束を構成する炭素繊維本数xnの標準偏差σを求める。なお、Nは炭素繊維束(3)の束総数である。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(3)の割合は、
/(M1+)×100
によって求められる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例および比較例について説明する。まず、実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)〜(E)と、それらを用いて行ったカーディングおよびエアレイドについて説明する。
【0035】
まずカーディングについて説明するに、図4に例示するように、炭素繊維束をカーディングするカーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。
【0036】
ベルトコンベアー8に所定長に切断された炭素繊維束9が供給され、炭素繊維束9はフィードロールの外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までである程度炭素繊維束はある程度解され、綿状の炭素繊維束の集合体(炭素繊維集合体)となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、この炭素繊維はストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクイロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により所定の束まで開繊され、ある程度配向される。かかる過程を経て所定の炭素繊維束まで開繊され、炭素繊維集合体の1形態であるシート状のウエブ10としてドッファーロール4の外周面上に移動する。
【0037】
次にエアレイドについて説明するに、エアレイドとは短繊維の不織布シートの製造方法である。一般的なエアレイド法としては、本州製紙法、クロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法などが挙げられる(以上、不織布の基礎と応用(日本繊維機械学会不織布研究会 1993年刊)を参照)。
【0038】
例えば、図5に示すように、エアレイド装置11は、互いに逆回転する円筒状でかつ細孔を持つドラム12と各ドラム12内に設置されたピンシリンダー13を有し、多量の空気と共に炭素繊維束単体もしくは炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維がドラム12に風送され、ドラム12内のピンシリンダー13によって開繊され、細孔より排出されて、その下を走行するワイヤ14上に落下する。ここで風送に用いた空気はワイヤ14下に設置されたサクションボックス15に吸引され、開繊された炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみワイヤ4上に残り、炭素繊維シートを形成する。
【0039】
次に実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)〜(E)について説明する。
炭素繊維束(A)
繊維径5.5μm、引張弾性率294GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル100%成分(分子量=670)の水系サイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(A)を得た。
【0040】
炭素繊維束(B)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂40%成分(分子量=370)と不飽和物エステル樹脂として、ビスフェノールA型エチレンオキサイドマレイン酸エステル40%成分(分子量=2500)、乳化剤20%を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(B)を得た。
【0041】
炭素繊維束(C)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(C)を得た。
【0042】
炭素繊維束(D)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、サイジング剤を付与せず炭素繊維束(D)を得た。
【0043】
炭素繊維束(E)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、グリセロールトリグリシジルエーテルをジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)で希釈した溶剤系サイジング剤を炭素繊維束に0.5重量%付着させた炭素繊維束(E)を得た。
【0044】
(実施例1)
炭素繊維束(A)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%)を質量比で90:10の割合で混合し、図4に示したようなカーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン樹脂メルトブロー不織布(「CM1001」、樹脂粘度ηr=2.3、東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は230%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が3.5×10-3[(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.018、初期荷重傾きが0.15であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは375本、標準偏差σは192であった。
【0045】
(実施例2)
炭素繊維束(B)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は217%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が8.4×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.028、初期荷重傾きが0.43であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは336本、標準偏差σは245であった。
【0046】
(実施例3)
炭素繊維束(C)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は203%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が12.1×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.062、初期荷重傾きが0.61であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは167本、標準偏差σは63であった。
【0047】
(実施例4)
炭素繊維束(C)を繊維長25mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が27:73となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は185%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が22.1×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.035、初期荷重傾きが0.46であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは151本、標準偏差σは59であった。
【0048】
参考実施例5)
炭素繊維束(C)を繊維長50mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が30:70となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は172%と流動性に優れるものであったが、他の実施例に比べると若干劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が28.2×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.022、初期荷重傾きが0.34であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは141本、標準偏差σは54であった。
【0049】
(実施例6)
炭素繊維束(A)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率17%)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が35:65となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布(「J1709QG」、MFR=55g/10min、プライムポリマー(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は207%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が18.1×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.031、初期荷重傾きが0.38であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは394本、標準偏差σは202であった。
【0050】
(実施例7)
炭素繊維束(E)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtexの長繊維をカット長5mmとしたもの)を質量比で90:10の割合で混合し、図5に示したようなエアレイド装置に投入し、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン610樹脂フィルム(「CM2001」東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、1.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は298%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が2.9×10-3[(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.016、初期荷重傾きが0.16であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは382本、標準偏差σは303であった。
【0051】
(実施例8)
炭素繊維束(E)を繊維長25mmにカットした以外は、実施例7と同様にして厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は276%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が4.2×10-3[(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.025、初期荷重傾きが0.19であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは423本、標準偏差σは379であった。
【0052】
(比較例1)
炭素繊維束(A)を繊維長45mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維を実施例6と同様に混合し、カーディング、クロスラップして、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m2のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体を実施例6と同様に積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が40:60となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布をさらに積層した後に、実施例6と同様にホットプレス、冷却して厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は160%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が36.2×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.008、初期荷重傾きが0.81であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは446本、標準偏差σは402であった。
【0053】
(比較例2)
炭素繊維束(D)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は165%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が30.2×10-3 [(N・mm)/(g/m2)]、最大荷重到達後の傾きが-0.12、初期荷重傾きが0.68であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは512本、標準偏差σは360であった。
【0054】
とくに、上記実施例1〜3、比較例1の結果を表す荷重―ひずみ曲線を図6に示す。図6に示すように、実施例1〜3では、比較例1に比べ、本発明で目標とした特性が得られていることが分かる。なお、上記各実施例、各比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、とくに、比較的複雑な形状への成形を、炭素繊維複合材料のプレス成形により行う用途に好適なものである。
【符号の説明】
【0057】
1 カーディング装置
2 シリンダーロール
3 テイクインロール
4 ドッファーロール
5 ワーカーロール
6 ストリッパーロール
7 フィードロール
8 ベルトコンベアー
9 不連続な炭素繊維
10 シート状のウエブ
11 エアレイド装置
12 ドラム
13 ピンシリンダー
14 ワイヤ
15 サクションボックス
101 流動前の炭素繊維複合材料
102 プレス盤
103 プレス成形後の炭素繊維強化プラスチック
図1
図2
図3
図4
図5
図6