特許第6331134号(P6331134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331134
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】電気集塵システム
(51)【国際特許分類】
   B03C 3/68 20060101AFI20180521BHJP
   F22B 37/48 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   B03C3/68 Z
   F22B37/48 Z
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-139966(P2014-139966)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-16352(P2016-16352A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】安田 幸一
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−131758(JP,A)
【文献】 特開2013−244423(JP,A)
【文献】 米国特許第04624685(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00−3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラにおいて発生する燃焼排ガス中に含まれる煤塵を捕集する電気集塵システムであって、
複数の区画が形成され、この区画ごとに放電極と断路器からなる荷電回路がそれぞれ設置される電気集塵器と、
この電気集塵器に設置されて前記区画ごとに前記断路器のON−OFF状態を検出する荷電不良検出手段と、
前記電気集塵器の運転条件に関する情報を記憶する記憶手段と、
この記憶手段に記憶された前記情報及び前記断路器のON−OFF状態のパターンに基づいて前記電気集塵器の出口煤塵量を計算する演算手段と、
この出口煤塵量に基づいて前記ボイラにおける煤塵の発生を抑制する負荷制御手段と、を備え
前記区画は、前記煤塵の流れに対して上流側及び下流側となる箇所にそれぞれ対をなすようにN個ずつ形成され、
この2N個の区画のうち、n個において荷電不良が発生するとともに、n対の区画において上流側と下流側で連続して荷電不良が発生した場合、
前記電気集塵器の入口煤塵量をWinとし、正常運転時の前記放電極の集塵効率をηとして、前記演算手段は、次式に基づいて前記電気集塵器の出口煤塵量Wout2を算出することを特徴とする電気集塵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気集塵器の荷電回路の一部に不良が発生した場合に、発電機の出力を抑制しボイラで発生する煤塵を少なくして煙突出口における煤塵量が規制値を超えないようにする電気集塵システムに係り、特に、荷電不良の発生パターンに応じて適切に煤塵の発生量を制御することにより煙突出口における煤塵量を規制値以下に抑えることが可能な電気集塵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等では、ボイラからの燃焼排ガスに含まれる煤塵を大気へ飛散させないために、電気集塵器が設置される。電気集塵器は、交流電源を高圧直流電源に整流し、放電極へ流すことにより、煤塵にマイナスイオンを付着させ集塵極で捕集する構造であり、荷電回路の一部に短絡等の不良が発生した場合でも該当箇所を荷電回路から切り離すことで、運転を継続できるようになっている。ただし、不良の発生箇所によっては、集塵効率が著しく低下してしまうことがあるため、不良の発生箇所に応じた適切な対策を講じる必要がある。
【0003】
このような課題を解決するものとして、例えば、特許文献1には、「焼結機主排ガス用電気集塵機の運転方法」という名称で、外乱に対応して電気集塵機の運転状態を変更する発明に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、電気集塵機の入力条件(焼結機排ガス性状、電気集塵機の荷電状況)及び出力条件(集塵機出口排ガス中ダスト濃度)と、焼結機操業条件及び電気集塵機運転条件に基づいて、焼結機と電気集塵機を制御する構成となっている。
このような構成によれば、電気集塵機の入側条件の変動に対応して電気集塵機排ガス中の煤塵濃度を低減することができる。
【0004】
また、特許文献2には、「電気集塵機の制御装置」という名称で、電気集塵機の集塵性能が低下した場合に電気集塵機から送出される煤塵を少なくするために、電気集塵機から煤塵を送出する風量を調整する制御装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、アーク放電検出部によるアーク放電の検出に応じて、高圧発生部による発生電圧とファンの風量を低下させる出力・風量低下手段を備えたことを特徴としている。
このような構造の「電気集塵機の制御装置」においては、アーク放電の発生を抑制して安全性を確保した状態で、所定の集塵効率を得ることが可能である。また、従来、非集塵状態で生じていた電気集塵機の内部の汚れも防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−134341号公報
【特許文献2】特開平5−138071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気集塵器は荷電不良が発生した箇所によって集塵効率が著しく低下することがある。しかしながら、上述の従来技術である特許文献1や特許文献2に記載された発明においては、荷電不良の発生箇所を検出し、その発生パターンに応じて煤塵の発生量を制御する構成とはなっていない。したがって、煙突出口における煤塵量が規制値を超えてしまうおそれがある。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであって、荷電不良の発生パターンに応じて煤塵の発生量を適切に抑制し、煙突出口における煤塵量を規制値以下に抑えることが可能な電気集塵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ボイラにおいて発生する燃焼排ガス中に含まれる煤塵を捕集する電気集塵システムであって、複数の区画が形成され、この区画ごとに放電極と断路器からなる荷電回路がそれぞれ設置される電気集塵器と、この電気集塵器に設置されて区画ごとに断路器のON−OFF状態を検出する荷電不良検出手段と、電気集塵器の運転条件に関する情報を記憶する記憶手段と、この記憶手段に記憶された情報及び断路器のON−OFF状態のパターンに基づいて電気集塵器の出口煤塵量を計算する演算手段と、この出口煤塵量に基づいてボイラにおける煤塵の発生を抑制する負荷制御手段と、を備え、区画は、煤塵の流れに対して上流側及び下流側となる箇所にそれぞれ対をなすようにN個ずつ形成され、この2N個の区画のうち、n個において荷電不良が発生するとともに、n対の区画において上流側と下流側で連続して荷電不良が発生した場合、電気集塵器の入口煤塵量をWinとし、正常運転時の放電極の集塵効率をηとして、演算手段は、後述の式(11)に基づいて電気集塵器の出口煤塵量Wout2を算出することを特徴とするものである。
【0009】
既に述べたように、電気集塵器では、放電極等に煤塵が付着して荷電不良が発生すると、集塵効率が低下する。しかし、集塵効率が低下する度合いは、荷電不良の発生パターンによって異なるため、発電設備等において、煤塵の発生量を少なくする目的でボイラの出力を一律に下げると、発電効率が必要以上に抑制されてしまう可能性があり、効率的とは言えない。一方、ボイラの出力を低下させる程度が十分でない場合には、煤塵の発生量が基準値を上回ってしまうおそれがある。
これに対し、上記構造の電気集塵システムにおいては、荷電不良検出手段の検出結果に基づいて荷電不良の発生した箇所が特定され、その発生パターンに基づいて演算手段によって電気集塵器の出口煤塵量が計算される。すなわち、本発明の電気集塵システムにおいては、演算手段が荷電不良の影響を考慮して電気集塵器の集塵効率を算出する構成となっているため、放電極に荷電不良が発生した場合でも、電気集塵器の出口煤塵量を正確に求めるように作用する。
【0010】
また、演算手段が、荷電不良が発生した区画の位置と、その区画が上流側と下流側で連続しているか否かに関する情報に基づいて集塵効率を正確に求めるように作用する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明を発電設備等のボイラに適用した場合、発電効率を必要以上に低下させることなく、ボイラにおける煤塵の発生を適切に抑制し、煙突出口における煤塵量を常に規制値以下に抑えることができる。
【0014】
また、荷電不良の発生パターンに基づいて電気集塵器の出口煤塵量を正確に予測することができる。したがって、発電設備に用いる場合には、発電機の出力の上限値を適切な値に設定して、ボイラにおける煤塵の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る電気集塵システム及び電気集塵器の実施例1の構成を示すブロック図と模式図であり、(c)は同図(b)に示した荷電回路の一部を拡大した図である。
図2図1(b)に示した電気集塵器の一部を拡大した模式図である。
図3図1(b)に示した電気集塵器の一部を拡大した模式図である。
図4】(a)及び(b)はそれぞれ実施例1の電気集塵システムの機能を説明するためのブロック図及びその動作手順を示すフローチャートである。
図5】実施例1の電気集塵システムの演算手段においてなされる演算のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図6図1(b)に示した電気集塵器の一部を拡大した模式図である。
図7】(a)及び(b)はそれぞれ本発明の実施の形態に係る電気集塵システムの実施例2の機能を説明するためのブロック図及びその動作手順を示すフローチャートである。
図8】実施例2の電気集塵システムの演算手段においてなされる演算のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電気集塵システムの構成と、それに基づく作用及び効果について図1図8を用いて具体的に説明する。なお、実施例1及び実施例2では、後述する電気集塵器内の各区画に対して排煙が均等に分配される場合及び均等に分配されない場合をそれぞれ想定している。
【実施例1】
【0019】
本実施例の電気集塵システム1aの構造と、その動作について図1図5を参照しながら説明する。
図1(a)及び図1(b)に示すように、電気集塵システム1aは、荷電不良の発生を検出する検出手段2aを備えた電気集塵器2と、発電機10の出力の上限値を設定することでボイラ11における煤塵の発生を抑制する煤塵発生抑制装置3によって構成されている。
煤塵発生抑制装置3は、電気集塵器2の運転条件等に関する情報を入力するための入力手段5と、負荷抑制値(発電機10の出力の適正な上限値)を算出する演算手段6と、検出手段2aや入力手段5から受け取った情報を演算手段6に送る制御手段4と、負荷抑制値を発電機10の出力の上限値として設定する負荷制御手段7と、負荷抑制値の演算に必要な情報等を記憶する記憶手段8と、演算手段6による演算結果等を画面に表示したり、印刷したりするなど視覚によって確認できる状態に変換する出力手段9を備えている。なお、入力手段5、演算手段6、負荷制御手段7、記憶手段8及び出力手段9は制御手段4によって、その動作を制御されている。
【0020】
図1(b)及び図1(c)に示すように、発電機10に接続された蒸気タービンに使用される蒸気はボイラ11から供給される。ボイラ11において蒸気を発生させる過程で生じた排煙は脱硝装置(図示せず)で有害ガスが除去された後、電気集塵器2に送り込まれる。そして、電気集塵器2の内部において、この排煙は2系統(以下、それぞれA系統及びB系統という。)に分岐し、放電極12によって煤塵にマイナスイオンが付着された後、この煤塵が集塵極(図示せず)で捕集され、最終的に煙突13から大気中に排出される。
【0021】
A系統とB系統は、煤塵の流れに対して上流側及び下流側となる箇所にそれぞれ対をなすように区画が4個ずつ形成されており、各区画内には放電極12や断路器14からなる荷電回路が配置されている。なお、断路器14がON状態の場合、放電極12に対し断路器14を介して整流器15から高圧直流電流が供給されるが、放電極12に煤塵が付着するなどして短絡すると、断路器14がOFF状態に切り替わって整流器15から放電極12への電力の供給が遮断される。
検出手段2aは、OFF状態になった断路器14の位置を検出すると、荷電不良が発生したことを示すOFF信号を発生させる。そして、このOFF信号は、検出された断路器14の位置情報とともに、制御手段4に送られる。
【0022】
図2(a)に示すように、電気集塵器2の内部に形成された区画にはそれぞれA1〜A4及びB1〜B4の記号が付されている。また、上流側入口と下流側出口には手動若しくは自動で開度が調整されるダンパ(図示せず)が各区画に対応するようにそれぞれ設置されており、1区画あたり20列の集塵極(図示せず)が上流側と下流側にそれぞれ9枚ずつ設置されている。なお、上流側と下流側で連続して荷電不良が発生した場合、荷電不良が解消されるまで、その箇所のダンパは全閉状態にされる。
【0023】
一般に、電気集塵器2の集塵効率ηはダストの移動速度をω、単位ガスあたりの集塵面積をfとすると、次の式(1)(ドイチェの式)で表わされる。本実施例の場合、集塵極が上流側と下流側に1/2ずつ設置されているため、単位ガスあたりの集塵面積はf/2となる。したがって、式(1)における集塵効率(計画効率)ηを91%とすると、全てのダンパが全開状態の場合には、上流側の集塵効率ηと下流側の集塵効率ηは次の式(2)に示すように、いずれも70%となる。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
さらに、上流側又は下流側のいずれか一方のN区画(本実施例ではA1〜A4及びB1〜B4の8区画)のうちのn区画(ただし、n≦8)で荷電不良が発生したとすると、上流側及び下流側の集塵効率η及びηは次の式(3)で表わされる。
【0027】
【数3】
【0028】
ここで、電気集塵器2の入口煤塵量をWinとすると、電気集塵器2の出口煤塵量Woutは次の式(4)で表される。このとき、全体の集塵効率η12は式(5)で表されることから、η及びηとη12の間には式(6)の関係が成り立つ。ただし、式(6)において、上流側の集塵効率ηと下流側の集塵効率ηのうち、荷電不良が発生していない方の集塵効率は式(2)で示したη(=0.7)となる。また、下流側出口においてn箇所のダンパが全閉状態の場合、下流側の集塵効率ηは式(3)ではなく、式(7)で表わされる。なお、式(7)では、上流側から流れてきた排煙が、ダンパが全閉状態となっているn区画を除く他の区画内へ均等に分配されることを前提としている。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
【0032】
【数7】
【0033】
さらに、煙突出口における煤塵量の目標値をWとすると、電気集塵器2の出口煤塵量Woutは式(8)に示すようにW以下でなければならない。したがって、電気集塵器2の入口煤塵量Winが発電機6の出力に比例する場合、負荷抑制値Pは発電機10の出力の上限値Pを用いると、式(9)のように表わされる。
【0034】
【数8】
【0035】
【数9】
【0036】
負荷抑制値Pの計算方法について、図2(b)及び図2(c)と表1及び表2を用いて具体的に説明する。なお、図2(b)のハッチングは、上流側のA1〜A3で荷電不良が発生した状態を示し、図2(c)のハッチングはB1の下流側出口のダンパが全閉状態であることを示している。
表1は、図2(b)に示すように上流側のA1〜A3のうちの少なくともいずれかにおいて荷電不良が発生した場合について、式(2),(3),(6)を用いて集塵効率η、η、η12及び電気集塵器2の出口煤塵量Woutを計算した結果である。ここで、nは1〜3、nは1であり、電気集塵器2の入口煤塵量Winは発電機10の出力の上限値Pが500(MW)のときに93(mg/mN)であり、煙突出口煤塵量の目標値Wは17(mg/mN)である。なお、下流側のA1〜A3のうちの少なくともいずれかの区画において荷電不良が発生した場合も表1と同様の結果となる。
【0037】
【表1】
【0038】
表2は、表1の条件に加え、下流側のB1の出口ダンパを全閉状態にした場合について、式(2),(3),(6)〜(9)を用いて集塵効率η、η、η12、電気集塵器2の出口煤塵量Wout及び負荷抑制値Pを計算した結果である。
表1及び表2から、荷電不良が上流側と下流側で連続することなく、2区画以上で発生した場合には、負荷抑制値を500(MW)よりも小さく設定しなければならないことがわかる。
【0039】
【表2】
【0040】
次に、上流側及び下流側の区画において連続して荷電不良が発生した場合について検討する。
まず、上流側又は下流側のいずれか一方のN区画(本実施例ではA1〜A4及びB1〜B4の8区画)のうちのn区画(ただし、n≦8)で荷電不良が発生した場合、電気集塵器2の出口煤塵量Woutは、それぞれの区画ごとにおける出口煤塵量の合計となるため、次の式(10)で表わされる。なお、荷電不良が上流側と下流側の区画において連続することなく、荷電不良が発生した区画数の合計がnの場合も、その電気集塵器2の出口煤塵量Woutは式(10)を用いて同様に求められる。
表3及び表4は図2(b)及び図3(a)で示した場合について、Nを8、nを3として式(10)に基づいて電気集塵器2の出口煤塵量Woutを求めた結果である。これらの表から、式(10)を用いて求めた電気集塵器2の出口煤塵量Woutは15.69(mg)であり、表2においてnを3とした場合の結果と一致していることがわかる。
すなわち、図3(a)に示すように、荷電不良が上流側と下流側で連続することなく、合計3区画で荷電不良が発生した場合、電気集塵器2の出口煤塵量Wout図2(b)の場合と同様の結果となる。
【0041】
【数10】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
一方、荷電不良がn区画(ただし、n≦16)で発生し、かつ、上流側と下流側のn箇所(ただし、n≦8)で荷電不良が連続して発生している場合、電気集塵器2の出口煤塵量Wout2は次の式(11)で表される。なお、式(11)と式(10)を比較することにより、Wout2とWoutの間には次の式(12)で表わす関係があることがわかる。このとき、Wout2は煙突出口煤塵量の目標値W以下でなければならないため、負荷抑制値Pは式(9)ではなく、次の式(13)で表わされる。
【0045】
【数11】
【0046】
【数12】
【0047】
【数13】
【0048】
【表5】
【0049】
ここで、電気集塵システム1aの動作について、図4及び図5を用いて説明する。図4(a)は電気集塵システム1aの機能を説明するためのブロック図であり、図4(b)は電気集塵システム1aの動作手順を示すフローチャートである。また、図5は演算手段6においてなされる演算のアルゴリズムを示すフローチャートである。なお、図1に示した構成要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0050】
図4(a)に示すように、まず、本システムの利用者が入力手段5を用いて、電気集塵器2の運転条件に関する情報として、区画数N、集塵効率η、煙突出口煤塵量の目標値W、電気集塵器2の入口煤塵量Win及び発電機10の出力の上限値Pを発電機出力抑制装置3に入力すると(矢印A)、制御手段4は、これらの情報を記憶手段8に送って記憶させる(矢印B)。
次に、図4(b)に示すように、電気集塵器2に荷電不良が発生すると、検出手段2aはOFF状態となった断路器14を検出してOFF信号を発生させ(ステップS10)、OFF状態の断路器14の位置を示す情報とOFF信号を制御手段4に送る(矢印C)。OFF信号を受け取った制御手段4は、記憶手段8から電気集塵器2の運転条件に関する情報を読み出して(矢印D)、この情報を断路器14の位置情報とともに演算手段6に送り(矢印E)、演算手段6に負荷抑制値の演算をさせる(ステップS20)。
【0051】
演算手段6は、制御手段4から受け取った情報に基づいて負荷抑制値Pを計算する(ステップS30〜ステップS39)。
ここで、演算手段6による負荷抑制値Pの演算方法について、Nを8として、図5を用いて具体的に説明する。なお、BL(i,j)は、上流側(i=1)と下流側(i=2)においてj番目の区画内に設置された断路器14がON状態(0)とOFF状態(1)のいずれの状態にあるかを示すものである。例えば、上流側においてB2の区画内に設置された断路器14がOFF状態の場合、BL(1,6)の値は1となり、下流側においてA3の区画内に設置された断路器14がON状態の場合、BL(2,3)の値は0となる。
【0052】
まず、ステップS30では、制御手段4から受け取った「OFF状態の断路器14の位置情報」に基づいて、BL(i,j)(i=1〜2、j=1〜N)に0又は1が代入される。このとき、n,nの値は0、i,jの値は1とする。
ステップS31では、BL(i,j)の値が1であるとき、すなわち、上流側又は下流側においてj番目の断路器14がOFF状態であると演算手段6が判断すると、ステップS32に進み、BL(i,j)の値が1でないとき、すなわち、上流側又は下流側においてj番目の断路器14がON状態であると演算手段6が判断すると、ステップS35に進む。
【0053】
ステップS32では、iの値が2であり、かつ、BL(1,j)の値が1であるとき、すなわち、下流側においてj番目の断路器14がOFF状態であると演算手段6が判断すると、j番目の断路器14が上流側と下流側で連続してOFF状態になっているとして、ステップS33において、nの値を1増やし、さらに、ステップS34において、nの値を1増やした後、ステップS35に進む。これに対し、ステップS32において、iの値が2でないか、又はBL(1,j)の値が1でないとき、すなわち、j番目の断路器14はOFF状態であるが、それが上流側と下流側において連続しているのではないと演算手段6が判断すると、ステップS34において、nの値を1増やした後、ステップS35に進む。
【0054】
ステップS35では、jの値を1増やし、ステップS36において、jの値がNよりも小さければ、ステップS31に戻り、jの値がN以上であれば、ステップS37に進む。さらに、ステップS37では、jの値を1に戻すとともにiの値を1増やし、ステップS38において、iの値が2よりも小さければ、ステップS31に戻り、ステップS38において、iの値が2以上であれば、ステップS39に進む。
すなわち、ステップS31〜ステップS38では、上流側(i=1)と下流側(i=2)において1番目からN番目までの断路器14それぞれについて、ON状態であるかOFF状態であるかを判断し、OFF状態となった断路器14の数の合計(n)と、上流側と下流側で連続してOFF状態となっている場合の数(n)をカウントしているのである。
このようにして求められたn,nを用いることで、ステップS39では、式(11)に基づいて電気集塵器2の出口煤塵量Wout2が求められ、さらに、式(13)に基づいて負荷抑制値Pが求められる。
【0055】
このようにして求められた負荷抑制値Pは、演算手段6から制御手段4に送られた後(矢印F)、制御手段4から負荷制御手段7に送られる(矢印G)。ステップS40では、負荷抑制値Pが負荷制御手段7から発電機10に送られ(矢印H)、発電機10の出力の上限値がPに設定される。
なお、演算手段6による演算結果は制御手段4を介して、記憶手段8に記憶されるとともに、記憶手段8に記憶された他の情報とともに適宜、出力手段9から出力される(矢印I)。
【0056】
以上説明したように、電気集塵システム1aでは、荷電不良の発生した箇所が検出手段2aの検出結果に基づいて特定され、式(11)を用いて電気集塵器2の出口煤塵量が計算される。すなわち、本発明の電気集塵システム1aにおいては、演算手段6が荷電不良の影響を考慮して電気集塵器2の集塵効率を見積もる構成となっているため、放電極に荷電不良が発生した場合でも、電気集塵器2の出口煤塵量が正確に予測される。
さらに、電気集塵器2の出口煤塵量の計算結果に基づいて式(13)から負荷抑制値が簡単かつ正確に求められる。そして、この負荷抑制値が発電機10の出力の上限値として設定されることから、本発明の電気集塵システム1aによれば、発電機10の発電効率を必要以上に低下させることなく、ボイラ11における煤塵の発生を適切に抑制し、煙突出口における煤塵量を常に規制値以下に抑えることができる。
【実施例2】
【0057】
上流側入口のダンパの開度が異なる場合に負荷抑制値Pを求める手順について図3及び図6を参照しながら説明する。なお、図3及び図6は電気集塵器2の一部を拡大した模式図である。
図6に示した電気集塵器2において、2N区画のうちの数箇所で荷電不良が発生すると、電気集塵器2の出口煤塵量Wout3は、荷電不良の発生箇所が上流側と下流側で連続しているか否かに関わらず、N区画の上流側入口にそれぞれ分配される排煙の割合をα(k≦N)として、次の式(14)で表わされる。
このとき、Wout3は煙突出口煤塵量の目標値W以下でなければならないことから、負荷抑制値Pは式(13)ではなく、次の式(15)で表わされる。なお、式(14)において、荷電不良が発生していないkに対するηk1やηk2の値は0.7であり、荷電不良が発生しているkに対するηk1やηk2の値は0である。
【0058】
【数14】
【0059】
【数15】
【0060】
図6(a)に示すように、上流側入口のダンパの開度がA1〜A1で90度、B1で0度、B2で50度、B3及びB4で60度である場合、排煙は図6(b)に示すように各区画へ分配される。ただし、ダンパを通過する排煙の割合は0度及び90度のときをそれぞれ0%及び100%としてダンパの開度に比例するものとする。すなわち、各区画へ分配される排煙の割合αの値は、例えば、A1〜A4であれば、0.17(=100%/590%)となる。
【0061】
表6にA1〜B4の各区画への排煙の分配率とk及びαの値を示す。また、表7及び表8に、図3(a)及び図3(b)で示した場合について、式(14)に基づいて求めた電気集塵器2の出口煤塵量Wout3を示す。
表7及び表8を見ると、図3(a)及び図3(b)の場合の電気集塵器2の出口煤塵量Wout3はそれぞれ18.33(mg)及び26.08(mg)であり、両者の差は7.75(mg)となっている。
このようにして求めたWout3から式(15)に基づいて、図3(a)及び図3(b)の場合の負荷抑制値Pを算出すると、それぞれ464(MW)及び326(MW)となる。
すなわち、排煙の分配量の多い箇所において上流側と下流側で連続して荷電不良が発生すると、電気集塵器2の集塵性能が著しく低下するため、それに応じて負荷抑制値も大きくなることがわかる。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
既に述べたように、本実施例の電気集塵システム1bは、各区画に対して排煙が均等に分配されない場合に適した構造となっている。以下、電気集塵システム1bの構造と、その動作について図7及び図8を参照しながら説明する。
図7(a)及び図7(b)はそれぞれ電気集塵システム1bの機能を説明するためのブロック図及びその動作手順を示すフローチャートである。また、図8は電気集塵システム1bの演算手段6においてなされる演算のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図7(a)に示すように、本実施例の電気集塵システム1bは、実施例1の電気集塵システム1aにおいて、ダンパの開度を検出する検出手段2bを備えた構造となっている。そして、検出手段2bが検出したダンパの開度に基づいて、演算手段6が、電気集塵器2の各区画に分配される排煙の割合を計算することを特徴とする。
【0066】
まず、本システムの利用者が入力手段5を用いて、電気集塵器2の運転条件に関する情報として、区画数N、集塵効率η、煙突出口煤塵量の目標値W、電気集塵器2の入口煤塵量Win及び発電機10の出力の上限値Pを発電機出力抑制装置3に入力すると(矢印A)、制御手段4は、これらの情報を記憶手段8に送って記憶させる(矢印B)。
次に、図7(b)に示すように、電気集塵器2に荷電不良が発生すると、検出手段2aはOFF状態となった断路器14を検出してOFF信号を発生させるとともに、検出手段2bがダンパの開度を検出し(ステップS10)、OFF状態の断路器14の位置を示す情報とOFF信号及びダンパの開度に関する情報を制御手段4に送る(矢印C)。OFF信号を受け取った制御手段4は、記憶手段8から電気集塵器2の運転条件に関する情報を読み出して(矢印D)、この情報を断路器14の位置情報とダンパの開度に関する情報とともに演算手段6に送り(矢印E)、演算手段6に負荷抑制値の演算をさせる(ステップS20)。
【0067】
演算手段6は、検出手段2bによって検出されたダンパの開度に関する情報に基づいて各区画に分配される排煙の割合α(k≦N)を計算した後、検出手段2aによって検出されたOFF状態の断路器14の位置情報に基づいて負荷抑制値Pを計算する(ステップS30〜ステップS39)。
ここで、演算手段6によって負荷抑制値Pが算出される手法について図8を用いて具体的に説明する。
【0068】
まず、ステップS30では、上述したように、制御手段4から受け取った「ダンパの開度に関する情報」に基づいてαが計算され、AL(j)(j=1〜N)にそれぞれ代入される。
ステップS31では、制御手段4から受け取った「OFF状態の断路器14の位置情報」に基づいてBL(i,j)(i=1〜2、j=1〜N)に0又は1がそれぞれ代入され、EK(i)(i=1〜2)にηが代入される。このとき、Wout3の値は0とし、i,jの値は1とする。
【0069】
ステップS32では、BL(i,j)の値が1であるとき、すなわち、上流側又は下流側においてj番目の断路器14がOFF状態であると演算手段6が判断すると、ステップS33においてEK(i)の値を0にした後、ステップS34に進む。一方、BL(i,j)が1でないとき、すなわち、上流側又は下流側においてj番目の断路器14がON状態であると演算手段6が判断すると、ステップS33を迂回してステップS34に進む。
ステップS34では、iの値を1増やし、ステップS35において、iの値が2よりも小さければ、ステップS32に戻り、iの値が2以上であれば、ステップS36に進む。
【0070】
このようにして求められたEK(1)及びEK(2)を用いて、ステップS36では、式(14)においてkが1の場合について計算を行う。その後、ステップS37において、iの値を1に戻し、EK(1)及びEK(2)の値をηとして、jの値を1増やす。ステップS38では、jの値がNよりも小さければ、ステップS32に戻り、jの値がN以上であれば、ステップS39に進む。このように、ステップS32〜ステップS36をN回繰り返すと、式(14)においてkが1からNまでの場合について計算が行われることになり、電気集塵器2の出口煤塵量Wout3が求められる。
このようにして求められたWout3を用いることで、ステップS39では、式(15)に基づいて負荷抑制値Pが求められる。
【0071】
負荷抑制値Pは、電気集塵システム1aの場合と同様に、演算手段6から制御手段4に送られ(矢印F)、さらに、制御手段4から負荷制御手段7に送られる(矢印G)。そして、ステップS40では、負荷抑制値Pが負荷制御手段7から発電機10に送られ(矢印H)、発電機10の出力の上限値がPに設定される。
なお、演算手段6による演算結果は制御手段4を介して、記憶手段8に記憶されるとともに、記憶手段8に記憶された他の情報とともに適宜、出力手段9から出力される(矢印I)。
【0072】
このように、電気集塵システム1bでは、検出手段2a,2bの検出結果に基づいて荷電不良の発生した箇所と電気集塵器2の各区画に分配される排煙の割合が特定され、式(14)及び式(15)に基づいて荷電不良の発生パターンに応じた負荷抑制値Pが演算手段6によって算出され、負荷制御手段7によって発電機10の出力の上限値が設定される構成となっている。
したがって、本発明の電気集塵システム1bによれば、電気集塵器2の放電極に荷電不良が発生し、かつ、排煙が各区画に均等に分配されない場合であっても発電機10の発電効率を必要以上に低下させることなく、ボイラ11における煤塵の発生を適切に抑制し、煙突出口における煤塵量を常に規制値以下に抑えることができる。
【0073】
なお、本実施例では、検出手段2bによってダンパの開度を検出しているが、本発明の電気集塵システムは、このような構造に限定されるものではない。例えば、検出手段2bを備える代わりに、電気集塵器2の各区画に排煙が分配される割合(式(14)のαに相当)を、予め入力手段5から入力して記憶手段8に記憶させ、演算手段6が電気集塵器2の出口煤塵量の演算をする際に、この情報が記憶手段8から読み出され、制御手段4を介して演算手段6に送られるように構成されていても良い。この場合、演算手段6によって式(14)及び式(15)から負荷抑制値が算出されるため、上述の作用・効果が同様に発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の請求項1に記載された発明は、発電所に限らず、ボイラ等からの燃焼排ガスに含まれる煤塵を捕集する必要がある場所に設置可能である。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b…電気集塵システム 2…電気集塵器 2a,2b…検出手段 3…煤塵発生抑制装置 4…制御手段 5…入力手段 6…演算手段 7…負荷制御手段 8…記憶手段 9…出力手段 10…発電機 11…ボイラ 12…放電極 13…煙突 14…断路器 15…整流器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8