(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誤差磁界成分に起因して前記角度検出値に生じる誤差と前記誤差信号成分に起因して前記角度検出値に生じる誤差の位相差は、90°であることを特徴とする請求項1記載の角度センサシステム。
前記第1の磁気異方性による磁化容易軸方向と、前記第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、同じ方向であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の角度センサシステム。
前記少なくとも1つの第1の磁気検出素子と前記少なくとも1つの第2の磁気検出素子の各々は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の角度センサシステム。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す側面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態における方向と角度の定義を示す説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態における角度センサの構成を示す回路図である。
【
図5】
図4における1つの磁気検出素子の一部を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態における第1および第2の磁界成分の波形の一例を示す波形図である。
【
図7】
図6に示した第1および第2の磁界成分に起因する角度誤差の波形を示す波形図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態において第1および第2の磁界成分の各々が理想磁界成分のみからなる場合における第1および第2の検出信号の波形の一例を示す波形図である。
【
図9】
図8に示した第1および第2の検出信号の誤差信号成分のみに起因する角度誤差の波形を示す波形図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態における角度誤差の波形の一例を示す波形図である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係る角度センサシステムの第1の状態を示す説明図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態に係る角度センサシステムの第2の状態を示す説明図である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係る角度センサシステムの第3の状態を示す説明図である。
【
図14】本発明の第2の実施の形態に係る角度センサシステムの第4の状態を示す説明図である。
【
図15】本発明の第3の実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す説明図である。
【
図16】本発明の第3の実施の形態における角度センサの構成を示す回路図である。
【
図17】本発明の第3の実施の形態における第1および第2の磁界成分に起因する角度誤差の波形を示す波形図である。
【
図18】本発明の第3の実施の形態における第1および第2の検出信号の誤差信号成分のみに起因する角度誤差の波形を示す波形図である。
【
図19】本発明の第3の実施の形態における角度誤差の波形の一例を示す波形図である。
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、
図1および
図2を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す側面図である。
図2は、本実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す平面図である。本実施の形態に係る角度センサシステム1は、磁界発生部と角度センサ2を備えている。
【0027】
本実施の形態における磁界発生部は、回転位置を検出する対象物である回転軸6に取り付けられたリング状の磁石5である。磁石5は、回転軸6に連動し、中心軸Cを中心として回転方向Dに回転する。本実施の形態における検出対象の角度は、回転軸6の回転位置であり、且つ磁石5の回転位置に対応する。以下、検出対象の角度を、対象角度と言い、記号θで表す。
【0028】
磁界発生部である磁石5は、
図2において符号5Mを付した矢印で示した方向の磁化を有している。磁石5は、この磁化により、対象角度θに応じて所定の検出位置PRにおける磁界の方向が変化する回転磁界MFを発生する。以下、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが所定の基準方向DRに対してなす角度を回転磁界角度と言い、記号θMで表す。
【0029】
角度センサ2は、特に、磁気式の角度センサである。角度センサ2は、検出位置PRにおいて回転磁界MFを検出して、対象角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。
【0030】
検出位置PRは、磁石5の一方の端面に平行で且つ中心軸Cに垂直な仮想の平面である基準平面P内に位置する。この基準平面P内において、回転磁界MFの方向DMは、検出位置PRを中心として回転する。基準方向DRは、基準平面P内に位置して、検出位置PRと交差する。以下の説明において、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMとは、基準平面P内に位置する方向を指す。
【0031】
角度センサ2は、検出部10と角度検出部20とを備えている。角度検出部20は、
図1および
図2には示されていないが、後で説明する
図4に示されている。検出部10は、基準平面Pと接するか交差する位置に配置されている。検出部10に対する磁石5の相対的な位置は、中心軸Cを中心として回転方向Dに変化する。
【0032】
ここで、
図1ないし
図3を参照して、本実施の形態における方向と角度の定義について説明する。まず、
図1に示した中心軸Cに平行で、
図1における下から上に向かう方向をZ方向とする。
図2および
図3において、Z方向は奥から手前に向かう方向である。次に、Z方向に垂直な2つの方向であって、互いに直交する2つの方向をX方向とY方向とする。
図1では、X方向は右に向かう方向であり、Y方向は手前から奥に向かう方向である。
図2および
図3では、X方向は右に向かう方向であり、Y方向は上に向かう方向である。また、X方向とは反対の方向を−X方向とし、Y方向とは反対の方向を−Y方向とする。
【0033】
検出位置PRは、角度センサ2が回転磁界MFを検出する位置である。基準方向DRはX方向とする。回転磁界MFの方向DMは、
図3において反時計回り方向に回転するものとする。対象角度θおよび回転磁界角度θMは、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから時計回り方向に見たときに負の値で表す。
【0034】
また、基準平面P内に位置して互いに直交する2つの方向を第1の方向D1と第2の方向D2とする。本実施の形態では、第1の方向D1はX方向であり、第2の方向D2はY方向である。
【0035】
図3に示したように、検出位置PRにおける回転磁界MFは、第1の方向D1の第1の磁界成分MF1と、第2の方向D2の第2の磁界成分MF2とを含んでいる。
【0036】
次に、
図4を参照して、検出部10の構成について詳しく説明する。
図4は、角度センサ2の構成を示す回路図である。検出部10は、第1の検出信号生成部11と第2の検出信号生成部12を有している。
【0037】
第1の検出信号生成部11は、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが第1の方向D1に対してなす角度の余弦と対応関係を有する第1の検出信号S1を生成する。第2の検出信号生成部12は、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが第1の方向D1に対してなす角度の正弦と対応関係を有する第2の検出信号S2を生成する。本実施の形態では、第1の方向D1は、基準方向DRと同じ方向である。そのため、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが第1の方向D1に対してなす角度は、回転磁界角度θMと等しい。
【0038】
第1の検出信号生成部11は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの第1の磁気検出素子を含んでいる。少なくとも1つの第1の磁気検出素子は、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する第1の磁性層を含んでいる。第1の磁性層には、第1の磁気異方性が設定されている。
【0039】
第2の検出信号生成部12は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの第2の磁気検出素子を含んでいる。少なくとも1つの第2の磁気検出素子は、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する第2の磁性層を含んでいる。第2の磁性層には、第2の磁気異方性が設定されている。
【0040】
第1および第2の磁気異方性は、いずれも例えば形状磁気異方性である。第1の磁気異方性による磁化容易軸方向と、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、同じ方向である。
【0041】
少なくとも1つの第1の磁気検出素子と少なくとも1つの第2の磁気検出素子の各々は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を含んでいてもよい。磁気抵抗効果素子は、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子でもよいし、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子でもよいし、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子でもよい。
【0042】
対象角度θが所定の周期で変化することによって回転磁界MFの方向DMが所定の周期で回転すると、第1および第2の検出信号S1,S2は、いずれも、上記所定の周期と等しい信号周期で周期的に変化する。第2の検出信号S2の位相は、第1の検出信号S1の位相に対して90°だけ異なっていることが好ましい。ただし、磁気検出素子の作製の精度等の観点から、第1の検出信号S1と第2の検出信号S2との位相差は、90°から、わずかにずれていてもよい。以下の説明では、第1の検出信号S1と第2の検出信号S2との位相差が90°であるものとする。
【0043】
以下、
図4を参照して、第1および第2の検出信号生成部11,12の具体的な構成の一例について詳しく説明する。この例では、第1の検出信号生成部11は、ホイートストンブリッジ回路14と、差分検出器15とを有している。また、第2の検出信号生成部12は、ホイートストンブリッジ回路16と、差分検出器17とを有している。
【0044】
ホイートストンブリッジ回路14,16の各々は、それぞれ、4つの磁気検出素子R1,R2,R3,R4と、電源ポートVと、グランドポートGと、第1の出力ポートE1と、第2の出力ポートE2とを含んでいる。磁気検出素子R1は、電源ポートVと第1の出力ポートE1との間に設けられている。磁気検出素子R2は、第1の出力ポートE1とグランドポートGとの間に設けられている。磁気検出素子R3は、電源ポートVと第2の出力ポートE2との間に設けられている。磁気検出素子R4は、第2の出力ポートE2とグランドポートGとの間に設けられている。電源ポートVには、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートGはグランドに接続される。
【0045】
磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々は、直列に接続された複数の磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と記す。)を含んでいてもよい。複数のMR素子の各々は、例えばスピンバルブ型のMR素子である。このスピンバルブ型のMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、検出位置PRにおける回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR素子でもよいし、GMR素子でもよい。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。
図4において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。
【0046】
第1の検出信号生成部11では、磁気検出素子R1,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は第1の方向D1(X方向)であり、磁気検出素子R2,R3に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は第1の方向D1とは反対の方向である。この場合、回転磁界角度θMの余弦に応じて、ホイートストンブリッジ回路14の出力ポートE1,E2の電位差が変化する。差分検出器15は、ホイートストンブリッジ回路14の出力ポートE1,E2の電位差に対応する信号を第1の検出信号S1として出力する。従って、第1の検出信号生成部11は、回転磁界角度θMの余弦と対応関係を有する第1の検出信号S1を生成する。
【0047】
第2の検出信号生成部12では、磁気検出素子R1,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は第2の方向D2(Y方向)であり、磁気検出素子R2,R3に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は第2の方向D2とは反対の方向である。この場合、回転磁界角度θMの正弦に応じて、ホイートストンブリッジ回路16の出力ポートE1,E2の電位差が変化する。差分検出器17は、ホイートストンブリッジ回路16の出力ポートE1,E2の電位差に対応する信号を第2の検出信号S2として出力する。従って、第2の検出信号生成部12は、回転磁界角度θMの正弦と対応関係を有する第2の検出信号S2を生成する。
【0048】
なお、検出信号生成部11,12内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
【0049】
第1の検出信号生成部11内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々は、第1の磁気異方性が設定された自由層を含むMR素子を少なくとも1つ含んでいる。第1の磁気異方性が設定された自由層は、第1の磁性層に対応する。本実施の形態では特に、第1の検出信号生成部11に含まれる全てのMR素子の自由層に、第1の磁気異方性が設定されている。
【0050】
第2の検出信号生成部12内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々は、第2の磁気異方性が設定された自由層を含むMR素子を少なくとも1つ含んでいる。第2の磁気異方性が設定された自由層は、第2の磁性層に対応する。本実施の形態では特に、第2の検出信号生成部12に含まれる全てのMR素子の自由層に、第2の磁気異方性が設定されている。
【0051】
次に、第1の磁気異方性による磁化容易軸方向と、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向について説明する。
図4において、第1の検出信号生成部11内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々を表す楕円の長軸方向は、第1の磁気異方性による磁化容易軸方向を表している。また、第2の検出信号生成部12内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々を表す楕円の長軸方向は、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向を表している。
【0052】
第1の磁気異方性による磁化容易軸方向と第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、いずれも、X方向に平行な方向である。第1の磁気異方性による磁化容易軸方向は、第1の検出信号生成部11内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向と平行である。また、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、第2の検出信号生成部12内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向に対して直交している。
【0053】
本実施の形態では、前述の通り、第1および第2の磁気異方性は、いずれも例えば形状磁気異方性である。この場合、自由層と非磁性層の界面に垂直な方向から見たMR素子の形状を、楕円形状等の一方向に長い形状とすることによって、MR素子の長手方向が磁化容易軸方向になるように、第1および第2の磁気異方性を設定することができる。
【0054】
なお、上述の磁化容易軸方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
【0055】
本実施の形態では、前述の第1および第2の磁界成分MF1,MF2の各々に含まれる誤差成分に応じて、第1および第2の磁気異方性の各々の大きさが決定される。これについては、後で詳しく説明する。
【0056】
ここで、
図5を参照して、磁気検出素子の構成の一例について説明する。
図5は、
図4に示した角度センサ2における1つの磁気検出素子の一部を示す斜視図である。この例では、1つの磁気検出素子は、複数の下部電極162と、複数のMR素子150と、複数の上部電極163とを有している。複数の下部電極162は図示しない基板上に配置されている。個々の下部電極162は細長い形状を有している。下部電極162の長手方向に隣接する2つの下部電極162の間には、間隙が形成されている。
図5に示したように、下部電極162の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR素子150が配置されている。MR素子150は、下部電極162側から順に積層された自由層151、非磁性層152、磁化固定層153および反強磁性層154を含んでいる。自由層151は、下部電極162に電気的に接続されている。反強磁性層154は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層153との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層153の磁化の方向を固定する。複数の上部電極163は、複数のMR素子150の上に配置されている。個々の上部電極163は細長い形状を有し、下部電極162の長手方向に隣接する2つの下部電極162上に配置されて隣接する2つのMR素子150の反強磁性層154同士を電気的に接続する。このような構成により、
図5に示した磁気検出素子は、複数の下部電極162と複数の上部電極163とによって直列に接続された複数のMR素子150を有している。なお、MR素子150における層151〜154の配置は、
図5に示した配置とは上下が反対でもよい。
【0057】
図5に示した例では、自由層151に前述の形状磁気異方性を付与するために、自由層151と非磁性層152の界面に垂直な方向から見たMR素子150の形状を楕円形状にしている。
【0058】
次に、角度検出部20について説明する。角度検出部20は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。角度検出部20は、第1および第2の検出信号S1,S2に基づいて角度検出値θsを生成する。具体的には、例えば、角度検出部20は、下記の式(1)によって、θsを算出する。なお、“atan”は、アークタンジェントを表す。
【0059】
θs=atan(S2/S1) …(1)
【0060】
θsが0°以上360°未満の範囲内では、式(1)におけるθsの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、S1,S2の正負の組み合わせにより、θsの真の値が、式(1)におけるθsの2つの解のいずれであるかを判別することができる。角度検出部20は、式(1)と、上記のS1,S2の正負の組み合わせの判定により、0°以上360°未満の範囲内でθsを求める。
【0061】
以下、本実施の形態に係る角度センサシステム1の作用および効果について説明する。本実施の形態において、角度検出値θsに生じる角度誤差には、回転磁界MFに起因するものと、角度センサ2に起因するものとがある。本実施の形態では、角度センサ2に起因する角度誤差は、主に第1および第2の磁気異方性に起因するものである。なお、角度誤差は、角度検出値θsから対象角度θを引いた値である。
【0062】
始めに、回転磁界MFのみに起因して角度検出値θsに生じる角度誤差について説明する。対象角度θが所定の周期で変化する場合、回転磁界MFの第1の磁界成分MF1と第2の磁界成分MF2の各々は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する理想磁界成分と、誤差磁界成分とを含んでいる。本実施の形態では、誤差磁界成分は、理想磁界成分の第3高調波に相当する誤差成分である。以下、第1の磁界成分MF1の理想磁界成分および誤差磁界成分を、それぞれ記号MF10,MF1aで表す。また、第2の磁界成分MF2の理想磁界成分および誤差磁界成分を、それぞれ記号MF20,MF2aで表す。第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aは、角度検出値θsに、所定の周期の1/2で変化する角度誤差Eaを生じさせる。
【0063】
図6は、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の波形の一例を示している。
図6において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は第1および第2の磁界成分MF1,MF2を示している。
図6における縦軸の単位は、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の理想磁界成分MF10,MF20の最大値を1とした任意単位である。
図6において、記号MF1を付した曲線は第1の磁界成分MF1の波形を示し、記号MF2を付した曲線は第2の磁界成分MF2の波形を示している。また、記号MF10を付した曲線は第1の磁界成分MF1の理想磁界成分の波形を示し、記号MF20を付した曲線は第2の磁界成分MF2の理想磁界成分の波形を示している。
【0064】
図7は、
図6に示した第1および第2の磁界成分MF1,MF2に起因する角度誤差Eaの波形を示している。
図7において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Eaを示している。
【0065】
図6に示した第1の磁界成分MF1の理想磁界成分MF10の波形はcosθで表すことができ、
図6に示した第2の磁界成分MF2の理想磁界成分MF20の波形はsinθで表すことができる。
図6に示した第1の磁界成分MF1の誤差磁界成分MF1aの波形はA
1・cos3θで表すことができ、
図6に示した第2の磁界成分MF2の誤差磁界成分MF2aの波形はA
1・sin3θで表すことができる。ここで、A
1は実数である。
図6に示した例では、A
1は正の値である。
【0066】
ここで、検出値θsに生じる角度誤差が角度誤差Eaのみであると仮定すると、第1および第2の検出信号S1,S2は、それぞれ下記の式(2)、(3)で表すことができる。
【0067】
S1=cosθ+A
1・cos3θ …(2)
S2=sinθ+A
1・sin3θ …(3)
【0068】
次に、第1および第2の磁気異方性に起因して角度検出値θsに生じる角度誤差について説明する。まず、対象角度θが所定の周期で変化する場合において、第1および第2の磁界成分MF1,MF2がそれぞれ理想磁界成分MF10,MF20のみからなると仮定する。この場合、第1および第2の検出信号S1,S2の各々は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する理想信号成分と、誤差信号成分とを含む。以下、第1および第2の検出信号S1,S2の理想信号成分を、それぞれ記号S10,S20で表す。第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分は、それぞれ第1および第2の磁気異方性に起因するものである。また、第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分は、角度検出値θsに、所定の周期の1/2で変化する角度誤差Ebを生じさせる。
【0069】
図8は、第1および第2の磁界成分MF1,MF2が理想磁界成分MF10,MF20のみからなると仮定した場合における第1および第2の検出信号S1,S2の波形の一例を示している。
図8において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は第1および第2の検出信号S1,S2を示している。
図8において、記号S1を付した曲線は第1の検出信号S1の波形を示し、記号S2を付した曲線は第2の検出信号S2の波形を示している。また、記号S10を付した曲線は第1の検出信号S1の理想信号成分S10の波形を示し、記号S20を付した曲線は第2の検出信号S2の理想
信号成分S20の波形を示している。
【0070】
図9は、
図8に示した第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分のみに起因する角度誤差Ebの波形を示している。
図9において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Ebを示している。
【0071】
図8に示した第1の検出信号S1の理想信号成分S10の波形はcosθで表すことができ、
図8に示した第2の検出信号S2の理想信号成分S20の波形はsinθで表すことができる。
図8に示した第1の検出信号S1の誤差信号成分は−B
1・cos3θで表すことができ、
図8に示した第2の検出信号S2の誤差信号成分は−B
1・sin3θで表すことができる。ここで、B
1は実数である。
図8に示した例では、B
1は正の値である。
【0072】
図9に示したように、第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分のみに起因する角度誤差Ebは、所定の周期の1/2で変化する。前述のように、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aのみに起因する角度誤差Eaも、所定の周期の1/2で変化する。B
1の正負の符号をA
1の正負の符号と同じにすると、角度誤差Eaと角度誤差Ebの位相差は90°になる。特に、B
1をA
1と等しくすると、角度誤差Eaと角度誤差Ebの位相差は90°になると共に、角度誤差Eaと角度誤差Ebの振幅が等しくなる。角度誤差Eaと角度誤差Ebがこのような関係になるようにすれば、理論的には、角度検出値θsにおける、所定の周期の1/2で変化する角度誤差を完全に0にすることができる。
【0073】
B
1の正負の符号は、第1および第2の磁気異方性の磁化容易軸方向によって変えることができる。例えば、
図4に示した構成ではB
1は正の値になる。B
1を負の値にする構成については、第3の実施の形態で説明する。また、B
1の絶対値は、第1および第2の磁気異方性の大きさによって変えることができる。
【0074】
本実施の形態では、上記の性質を利用して、以下のようにして、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aに起因する角度誤差Eaを、第1および第2の磁気異方性を利用して低減することができる。すなわち、本実施の形態では、角度誤差Eaと角度誤差Ebのいずれと比べても、角度検出値θsにおける、所定の周期の1/2で変化する角度誤差が低減されるように、第1および第2の磁気異方性が設定されている。
【0075】
ここで、角度検出値θsに生じる角度誤差を記号Esで表す。
図10は、角度誤差Esの波形の一例を示している。
図10において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Esを示している。
【0076】
図10に示した角度誤差Esにおいて、所定の周期の1/2で変化する角度誤差成分は、
図7に示した角度誤差Eaと
図9に示した角度誤差Ebのいずれと比べても小さい。このことから、本実施の形態によれば、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aに起因する角度誤差Eaを、第1および第2の磁気異方性を利用して低減することができることが分かる。
【0077】
ここで、B
1と、第1および第2の磁気異方性の磁化容易軸方向および大きさの決定方法の一例について説明する。まず、角度誤差Eaの波形はA
1によって決まる。従って、角度誤差Eaの波形からA
1を求めることができる。
【0078】
角度誤差Eaと角度誤差Ebのいずれと比べても、角度検出値θsにおける、所定の周期の1/2で変化する角度誤差が低減されるようにするためには、B
1の正負の符号をA
1の正負の符号と同じにし、且つA
1−B
1の絶対値がA
1の絶対値よりも小さくなるように、B
1を決定すればよい。A
1−B
1の絶対値は、小さいほど好ましい。A
1−B
1の絶対値は、A
1の絶対値の1/2以下であることが好ましい。
【0079】
前述のように、B
1の正負の符号は、第1および第2の磁気異方性の磁化容易軸方向によって変えることができる。また、B
1の絶対値は、第1および第2の磁気異方性の大きさと相関がある。予め、B
1と、第1および第2の磁気異方性の磁化容易軸方向および大きさとの関係を求めておけば、この関係に基づいて、所望のB
1が得られるように、第1および第2の磁気異方性の磁化容易軸方向および大きさを決定することができる。
【0080】
以上のことから、本実施の形態によれば、磁界発生部が発生する回転磁界MFに起因する角度誤差を低減することができる。また、本実施の形態では、角度センサ2は、検出信号生成部11,12の対を、複数必要とせず、1つだけ含んでいればよい。従って、本実施の形態によれば、簡単な構成で、磁界発生部が発生する回転磁界MFに起因する角度誤差を低減することができる。
【0081】
[第2の実施の形態]
次に、
図11ないし
図14を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図11ないし
図14は、それぞれ本実施の形態に係る角度センサシステム1の第1ないし第4の状態を示している。
【0082】
本実施の形態に係る角度センサシステム1は、以下の点で第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態に係る角度センサシステム1における磁界発生部は、第1の実施の形態における磁石5とは異なり、複数組のN極とS極が交互に第1の方向に配列された磁石8である。第1の方向はX方向である。
【0083】
図11ないし
図14において、X方向は右に向かう方向であり、Y方向は上に向かう方向であり、Z方向は奥から手前に向かう方向である。磁石8は、X方向に平行な側面8aを有している。本実施の形態では、角度センサ2の検出部10は、磁石8の側面8aに対向するように配置されている。
図11ないし
図14において、磁石8の側面8aの近傍に描かれた複数の曲線は、磁力線を表している。
【0084】
角度センサ2と磁石8の一方は、図示しない動作体に連動して、第1の方向(X方向)に平行な方向DLに直線的に移動可能である。すなわち、検出位置PRに対する磁石8の相対的な位置は、第1の方向(X方向)に変化可能である。
図11に示した例では、方向DLは、X方向である。
【0085】
本実施の形態における基準平面は、Z方向に垂直である。検出位置PRに対する磁石8の相対的な位置が方向DLに移動すると、回転磁界MFの方向DMは、
図11において反時計回り方向に回転する。対象角度θおよび回転磁界角度θMは、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから時計回り方向に見たときに負の値で表す。第1の方向D1、第2の方向D2、第1の磁界成分MF1および第2の磁界成分MF2の定義は、第1の実施の形態と同じである。
【0086】
角度センサ2は、検出位置PRにおいて回転磁界MFを検出して、対象角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。本実施の形態では、対象角度θは、磁石8の1ピッチを360°として検出位置PRに対する磁石8の相対的な位置を角度で表したときのその角度である。
【0087】
図11に示した第1の状態は、検出位置PRが、磁石8における隣り合うN極とS極の境界を含む仮想の平面上に位置している状態である。第1の状態は、対象角度θが0°の状態である。
【0088】
図12に示した第2の状態は、第1の状態から磁石8が方向DLに1/4ピッチだけ移動した後の状態である。第2の状態は、対象角度θが90°の状態である。
【0089】
図13に示した第3の状態は、第2の状態から磁石8が方向DLに1/4ピッチだけ移動した後の状態である。第3の状態は、対象角度θが180°の状態である。
【0090】
図14に示した第4の状態は、第3の状態から磁石8が方向DLに1/4ピッチだけ移動した後の状態である。第4の状態は、対象角度θが270°の状態である。
【0091】
第4の状態から磁石8が方向DLに1/4ピッチだけ移動すると、
図11に示した第1の状態になる。
【0092】
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、対象角度θが所定の周期で変化する場合、回転磁界MFの第1の磁界成分MF1と第2の磁界成分MF2の各々は、理想磁界成分と誤差磁界成分とを含んでいる。
【0093】
本実施の形態における角度センサ2の構成は、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0094】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図15は、本実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す説明図である。本実施の形態に係る角度センサシステム1では、角度センサ2は、第2の実施の形態よりも、磁石8の側面8aに近い位置に配置されている。
【0095】
図16は、本実施の形態における角度センサ2の構成を示す回路図である。本実施の形態では、第2の実施の形態(第1の実施の形態)と同様に、第1の検出信号生成部11に含まれる全てのMR素子の自由層に、第1の磁気異方性が設定され、第2の検出信号生成部12に含まれる全てのMR素子の自由層に、第2の磁気異方性が設定されている。
図16において、第1の検出信号生成部11内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々を表す楕円の長軸方向は、第1の磁気異方性による磁化容易軸方向を表している。また、第2の検出信号生成部12内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4の各々を表す楕円の長軸方向は、第2の磁気異方性による磁化容易軸方向を表している。
【0096】
本実施の形態では、第1の磁気異方性による磁化容易軸方向と第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、いずれも、Y方向に平行な方向である。第1の磁気異方性による磁化容易軸方向は、第1の検出信号生成部11内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向に対して直交している。第2の磁気異方性による磁化容易軸方向は、第2の検出信号生成部12内の磁気検出素子R1,R2,R3,R4に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向と平行である。
【0097】
以下、本実施の形態に係る角度センサシステム1の作用および効果について説明する。第1の実施の形態で説明したように、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aは、角度検出値θsに、所定の周期の1/2で変化する角度誤差Eaを生じさせる。第1および第2の磁界成分MF1,MF2の理想磁界成分MF10,MF20の波形が、第1の実施の形態における
図6に示した波形と同じ場合、第1の磁界成分MF1の誤差磁界成分MF1aの波形はA
1・cos3θで表すことができ、第2の磁界成分MF2の誤差磁界成分MF2aの波形はA
1・sin3θで表すことができる。本実施の形態では特に、A
1は負の値である。
【0098】
図17は、上記の第1および第2の磁界成分MF1,MF2に起因する角度誤差Eaの波形を示している。
図17において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Eaを示している。本実施の形態では、角度誤差Eaの位相は、第1の実施の形態における角度誤差Eaの位相とは逆相になる。
【0099】
また、第1の実施の形態で説明したように、第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分は、角度検出値θsに、所定の周期の1/2で変化する角度誤差Ebを生じさせる。第1および第2の磁界成分MF1,MF2が理想磁界成分MF10,MF20のみからなると仮定した場合における第1および第2の検出信号S1,S2の理想信号成分S10,S20の波形が、第1の実施の形態における
図8に示した波形と同じ場合、第1の検出信号S1の誤差信号成分は−B
1・cos3θで表すことができ、第2の検出信号S2の誤差信号成分は−B
1・sin3θで表すことができる。本実施の形態では特に、B
1は負の値である。
【0100】
図18は、上記の場合の第1および第2の検出信号S1,S2の誤差信号成分のみに起因する角度誤差Ebの波形を示している。
図18において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Ebを示している。本実施の形態では、角度誤差Ebの位相は、第1の実施の形態における角度誤差Ebの位相とは逆相になる。
【0101】
図17および
図18に示したように、角度誤差Eaと角度誤差Ebの位相差は90°になる。これにより、第1および第2の実施の形態と同様に、本実施の形態においても、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aに起因する角度誤差Eaを、第1および第2の磁気異方性を利用して低減することができる。
図19は、角度検出値θsに生じる角度誤差Esの波形の一例を示している。
図19において、横軸は対象角度θを示し、縦軸は角度誤差Esを示している。
【0102】
図19に示した角度誤差Esにおいて、所定の周期の1/2で変化する角度誤差成分は、
図17に示した角度誤差Eaと
図18に示した角度誤差Ebのいずれと比べても小さい。このことから、本実施の形態によれば、第1および第2の磁界成分MF1,MF2の誤差磁界成分MF1a,MF2aに起因する角度誤差Eaを、第1および第2の磁気異方性を利用して低減することができることが分かる。
【0103】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第2の実施の形態と同様である。
【0104】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明における磁気検出素子としては、スピンバルブ型のMR素子(GMR素子、TMR素子)やAMR素子に限らず、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する磁性層を有するものであればよい。例えば、磁気検出素子としては、強磁性層を含み、強磁性ホール効果を用いたホール素子を用いてもよい。
【0105】
また、磁性層に設定された磁気異方性は、形状磁気異方性に限らず、例えば、結晶磁気異方性や応力磁気異方性であってもよい。
【解決手段】角度センサシステムは、検出対象の角度に応じて方向が変化する回転磁界を発生する磁界発生部と、回転磁界を検出して角度検出値を生成する角度センサ2を備えている。回転磁界は、互いに直交する第1および第2の磁界成分を含んでいる。検出対象の角度が所定の周期で変化する場合、第1および第2の磁界成分の各々は、理想磁界成分と誤差磁界成分とを含む。誤差磁界成分は、所定の周期の1/2で変化する角度誤差を生じさせる。角度センサ2は、第1および第2の検出信号生成部11,12を含んでいる。第1および第2の検出信号生成部11,12の各々は、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する磁性層を含んでいる。磁性層には、誤差磁界成分に起因する角度誤差が低減されるように、磁気異方性が設定されている。