(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6331206
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】フルボ酸溶液の良否評価方法及びフルボ酸溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 18/00 20180101AFI20180521BHJP
【FI】
A01G1/04 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-224893(P2017-224893)
(22)【出願日】2017年11月22日
【審査請求日】2017年11月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510078757
【氏名又は名称】株式会社日本ソフケン
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】飛田和 義行
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 秀治
【審査官】
田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−162723(JP,A)
【文献】
特開2017−112947(JP,A)
【文献】
特開2004−269484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00−18/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の抽出において、
前記菌床の主成分が木質チップであり、
前記きのこ菌床を容器に封入した後、前記容器底部に溶出した溶液のpHを確認するステップと、
前記溶液の色彩を確認するステップと、
前記pH確認ステップで確認されたpHと前記色彩確認ステップで確認された色彩に基づいて前記溶液をpHが4.0以下であり、色彩がマンセル表色系のマンセル色相環(40色相)において水による溶出のときに色相2.5YR〜10YR、木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液による溶出のときに色相10YR〜10Yの場合に良と判断するステップからなることを特徴とするフルボ酸溶液の良否評価方法。
【請求項2】
培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の製造方法において、
前記菌床の主成分が木質チップであり、前記菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認でき、かつ、脆性が高いと官能評価されたきのこ菌床を良とし、それ以外を否とする第1ステップと、
前記きのこ菌床を容器に封入し、前記容器底部に溶液を溶出させる第2ステップと、
前記第1ステップで良と評価されたきのこ菌床について前記第2ステップの溶出液のpHを確認する第3ステップと、
前記第3ステップで確認されたpHが4.0以下の溶液の色彩と前記1ステップで否と評価されたきのこ菌床の前記第2ステップの溶液の色彩が、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)においていずれか一方の色相を0とし、前記色相に対して右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にあるものを良と判断する第4ステップからなり、前記第4ステップで良と判断されたものをフルボ酸溶液とすることを特徴とするフルボ酸溶液の製造方法。
【請求項3】
培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の製造方法において、
前記菌床の主成分が木質チップであり、前記菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認でき、かつ、脆性が高いと官能評価されたきのこ菌床を良とし、それ以外を否とする第1ステップと、
前記きのこ菌床を木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液とともに容器に封入し、前記容器底部に溶液を溶出させる第2ステップと、
前記第1ステップで良と評価されたきのこ菌床について前記第2ステップの溶出液のpHを確認する第3ステップと、
前記第3ステップで確認されたpHが前記木酢液(又は前記竹酢液、又は前記木酢竹酢混合液)のpHより低い溶液の色彩と前記木酢液(又は前記竹酢液、又は前記木酢竹酢混合液)の色彩が、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)においていずれか一方の色相を0とし、前記色相に対して右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にあるものを良と判断する第4ステップからなり、前記第4ステップで良と判断されたものをフルボ酸溶液とすることを特徴とするフルボ酸溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルボ酸溶液の良否評価方法及びフルボ酸溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルボ酸とは植物が死滅して腐朽した腐植物質の群を総称したものである。フルボ酸については国際腐植物質学会(Internat ional Humic Substances Society、以下IHSSと略記)によって定義が定められている。
【0003】
フルボ酸の利用については、水耕栽培における収穫量増加を目的としたもの(特許文献1)をはじめとし、魚介類飼育を目的としたもの、サプリメント成分や化粧品成分として健康や美容の向上を目的としたもの等様々である。
【0004】
しかしながら、腐植物質の主成分はフミン酸であり、微量成分であるフルボ酸の研究はフミン酸に比べて進んでいないのが現状である。特に、フルボ酸の製造面ではIHSSが示す方法に従うと時間と費用がかかってしまう問題がある。
【0005】
この点に関し、腐植化が進行していない未熟なバーク堆肥、おがくず、稲わら、もみ殻、脱水ケーキ等の有機質資材を酸性溶液に浸透させて製造する製造方法(特許文献2)、低品位炭から高温高圧の空気で腐植物質を酸化分解して高温熱水により抽出する製造方法(特許文献3)、地中から採取した腐植土と水から熟成採取する製造方法(特許文献4)が示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2の発明は硫酸溶液、塩酸、酢酸等の強酸性溶液を必要とする点で費用の問題や取扱いに細心の注意が必要になる問題がある。特許文献3の発明も同様である。特許文献4の発明は腐植土と水を利用しているがビニルハウス内での加熱乾燥や年単位のフルボ酸水溶液熟成工程を必要とする。
【0007】
フルボ酸製造のため安価な原材料としては、きのこ廃菌床(きのこ培養後の菌床)の利用可能性が示されている(非特許文献1)。しかしながら、IHSSが示す方法、又は、これに準じた方法によると前記と同様の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−151706号公報
【特許文献2】特開2010−148398号公報
【特許文献3】特開2004−269484号公報
【特許文献4】特開2014−162723号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】平成28年度 CO2 排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業 廃菌床のバイオマス燃料化技術開発による廃棄物の資源化および地産地消モデルの実証 成果報告書(平成29年3月)(株式会社上野村きのこセンター、明星大学、日本工業大学)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、高価な原料や薬品、複雑な操作を必要とせず、かつ、専門知識がなくても簡易に大量のフルボ酸を得るための評価方法、及び、前記評価方法に基づくフルボ酸溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の抽出において、前記菌床の主成分が木質チップであり
、前記きのこ菌床を容器に封入した後、前記容器底部に溶出した溶液のpHを確認す
るステップと、前記溶液の色彩を確認す
るステップと、前記
pH確認ステップで確認されたpHと前記
色彩確認ステップで確認された色彩に基づいて前記溶液
をpHが4.0以下であり、色彩がマンセル表色系のマンセル色相環(40色相)において水による溶出のときに色相2.5YR〜10YR、木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液による溶出のときに色相10YR〜10Yの場合に良と判断す
るステップからなることを特徴とするフルボ酸溶液の良否評価方法である。また、第2の発明は、
培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の製造方法において、前記菌床の主成分が木質チップであり、前記菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認でき、かつ、脆性が高いと官能評価されたきのこ菌床を良とし、それ以外を否とする第1ステップと、前記きのこ菌床を容器に封入し、前記容器底部に溶液を溶出させる第2ステップと、前記第1ステップで良と評価されたきのこ菌床について前記第2ステップの溶出液のpHを確認する第3ステップと、前記第3ステップで確認されたpHが4.0以下の溶液の色彩と前記1ステップで否と評価されたきのこ菌床の前記第2ステップの溶液の色彩が、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)においていずれか一方の色相を0とし、前記色相に対して右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にあるもの
を良と判断する第4ステップからなり、前記第4ステップで良と判断されたものをフルボ酸溶液とすることを特徴とするフルボ酸溶液の製造方法である。また、第3の発明は、
培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の製造方法において、前記菌床の主成分が木質チップであり、前記菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認でき、かつ、脆性が高いと官能評価されたきのこ菌床を良とし、それ以外を否とする第1ステップと、前記きのこ菌床を木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液とともに容器に封入し、前記容器底部に溶液を溶出させる第2ステップと、前記第1ステップで良と評価されたきのこ菌床について前記第2ステップの溶出液のpHを確認する第3ステップと、前記第3ステップで確認されたpHが前記木酢液(又は前記竹酢液、又は前記木酢竹酢混合液)のpHより低い溶液の色彩と前記木酢液(又は前記竹酢液、又は前記木酢竹酢混合液)の色彩が、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)においていずれか一方の色相を0とし、前記色相に対して右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にあるもの
を良と判断する第4ステップからなり、前記第4ステップで良と判断されたものをフルボ酸溶液とすることを特徴とするフルボ酸溶液の製造方法である。本発明において色彩とは色の構成要素を指すものであり、例えば色相、彩度、明度と呼ばれる三属性が挙げられる。本発明において色彩とは色の構成要素のうち前記良否判断に有用な一つについてのものであっても良いし、総合的なものであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、フルボ酸原料となる培養後きのこ菌
床溶液の良否をpHと色彩から評価するものであるため、安価、かつ、簡易に大量のフルボ酸を得ることが期待できる。特に、廃菌床の酸性化は堆肥化の阻害要因であるとしてこれまで着目されてこなかったが、酸性化が進行した廃菌床の有用性を前記評価によって見出したことで、農作物育成目的や魚介類の飼育目的等にフルボ酸を安価で供給することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1はシイタケ廃菌床からの溶液の3D蛍光スペクトルである(横軸は蛍光波長(nm)、縦軸は励起波長(nm)、以下同様)。
【
図2】
図2はフルボ酸標準液の3D蛍光スペクトルである。
【
図3】
図3はシイタケ育成中の菌床からの溶液の3D蛍光スペクトルである。
【
図4】
図4はシイタケ廃菌床をオートクレーブで処理した後に得られた液の3D蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
(1)菌床
木質チップとしては、主成分の広葉樹オガクズ、その他補助成分としてフスマ、コーンブラン、貝化石等からなるシイタケ菌床を用いた。菌床の木質チップについては構成物を限定するものではなく、例えば、オガクズのみで構成されていてもよい。また、同一菌床におけるシイタケの栽培回数についても限定するものではないが、栽培回数が多いほど溶液中のフルボ酸濃度が大きい傾向にあり望ましい。なお、本発明における廃菌床、菌、以下に記載するフルボ酸の分析方法は非特許文献1の内容と同一である。
【0015】
(2)廃菌床の効果検証
シイタケ廃菌床(非特許文献1の北研式菌床)、及び、シイタケ育成中の菌床からの溶液に含まれる成分をフィルター(ADVANTEC 0.45マイクロフィルター)で濾過した後に3D蛍光スペクトル分析に供した(分析結果は表1:主な溶出成分について)(装置:日立社製F−4500型分光蛍光光度計)。溶液は時間経過とともに菌床から自然としみ出してきたものである。
【表1】
分析の結果、廃菌床溶液は励起波長340nm付近、蛍光波長400nm付近にピークが確認された(
図1:横軸が蛍光波長、縦軸が励起波長、以下同様)。これはフルボ酸に強く見られるピーク(
図2)であることから溶液中にフルボ酸が存在することが示唆された。育成中の菌床からの溶液は蛍光波長530nm付近、励起波長430nm付近にピークが確認され、蛍光位置が前記廃菌床溶液と大きくずれており、フルボ酸に比較して腐植成分の主成分であるフミン酸の存在量が多い可能性が示唆された(
図3)。以上から菌床からの水によるフルボ酸抽出に関し、育成中の菌床からよりも廃菌床から方がより多くのフルボ酸が得られ、かつ、不純物が少ないこと(フルボ酸製造の原料としてより良質であること)が示唆された。また、本実施例ではシイタケ菌床を用いているが、その他のきのこ菌床についても同様の効果が示唆される。
【0016】
(3)廃菌床の良否判断
菌床含有水分中のフルボ酸分析を様々な菌床を用いて繰り返し行った結果、より純度が高く、多量のフルボ酸を得るための良質な菌床は、外観から、すなわち、菌床表面における菌糸の分布状態から目視で判断できることがわかった。具体的には、白色から乳白色をした菌糸が菌床表面に全体的に分布していると視認できる場合はフルボ酸の溶出が認められた。ここで、全体的に分布、とは必ずしも菌糸が菌床表面全体を覆うような状態のものを意味するものではなく、菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認できるものであればよい。また、菌糸の色はきのこの種類によって異なるため、白色から乳白色、というのは、あくまで一例である。また、本分析に供した廃菌床について、良質な菌床そのものの色彩は、そうでない菌床の色彩と比べて濃く見えることがわかっており、色彩で判断することもできる。このように廃菌床の外観情報は良否判断要素として有用であることがわかった。
【0017】
また、菌糸の外観だけでなく、菌床の脆性とともに確認することでフルボ酸を得るために良質な菌床であるか否かの判断ができることがわかった。本発明において、脆性、とは菌床の壊れやすさを意味する。植菌前、又は菌糸育成中の菌床は、菌床上部を片手でつかんで上に持ち上げようとする程度の力により、つかんだ部分が容易に剥がれるほど脆い。一方、フルボ酸を多く得ることができる菌床は表面全体がコーティングされたように固まっており、前記菌床に加えた力と同程度、又はそれ以上の力で菌床をつかんだとしても容易に剥がれることはない。菌床の脆性を厳密に定義するのは困難である。しかしながら、本発明に関して繰り返し行った分析を通じて、厳密な検査をすることなく簡易的に評価するには、菌床表面を直に触り、「かたい(菌床表面が固まっている状態で、テーブル上に置いた菌床側面を菌床が横に動く程度の力で指で押しても指が菌床にめり込まない)」、「やわらかい(菌床表面がやわらかい状態で、前記同様に指で押すと指が菌庄内部に容易にめりこむ)」、「どちらでもない」といった官能的な評価で足りるものである。脆性が低い(脆い)菌床の場合、得られたフルボ酸溶液にはフミン酸やオガクズ等の菌床構成物から溶出した不純物が混じっていることが示唆された。脆性が高い(壊れにくい)菌床の場合、得られたフルボ酸溶液は高さ方向で異なる色彩領域を有していた。ここで、異なる色彩領域を有し、とは例えば、溶液の色相が異なる部分があればよいことを意味するものである(溶液底部には沈殿物が溜まっている場合が多く、必ずしも溶液全体が同一の色相であるわけではない)。すなわち、脆性が高い菌床は不純物が少ないフルボ酸溶液が得られることが示唆された。
【0018】
これらの知見からフルボ酸を得るための菌床の良否判断を下表のように考えることができる(表2)。良と判断された菌床においては、フミン酸は溶出しにくく、フルボ酸は溶出しやすい傾向にある。ここで、本発明における菌床の良否判断は下表の文言を厳密に解釈するべきではなく、実質的に均等である他の指標等によって代替できるものである。
【表2】
【0019】
(4)フルボ酸溶液の良否判断
フルボ酸溶液の採取方法としては菌床を容器に封入し、菌床の水分が時間経過とともに容器底部に流出したものを採取する方法、容器に菌床を水に浸漬した状態で封入し、フルボ酸が流出するのを待って採取する方法がある。ここで容器については限定するものではなく、金属製容器、ガラス製容器、樹脂製容器であってもよいし、容量についても限定するものではない。容器を密閉するか否かについては、溶液の気化を防止するため密閉状態である方が望ましいが、厳密な密閉状態を意味するものではない。溶液採取環境は常温、常圧で問題ないが、微生物の繁殖を避けるため15℃以下であることが望ましい。ここで、細かく砕いた廃菌床約20gに精製水300gを加えて、オートクレーブにより121℃、2気圧で20分間処理したところ、前記フルボ酸溶液とは色相が異なる(黒色の)液が得られた。3Dスペクトル分析結果(
図4)からはフルボ酸とともに多くの不純物が溶出していることが認められ、高温環境による強制的なフルボ酸抽出では純度の高いフルボ酸を得るには適していないことが示唆された。
【0020】
菌床からの溶液、菌床を水に浸漬した場合の浸漬水について3D蛍光スペクトル分析を行い、pHとフルボ酸の存否の関係を確認した。この結果、pHが4.0以下の場合に(pHがより低くなるほど)にフルボ酸の量が多くなること、pHが5.0以上ではフルボ酸の量は少なく、フミン酸の量が多くなることが確認された。前記(3)で良と判断された菌床から得られた溶液は時間経過とともにpHが4.0以下まで低下する傾向にある。
【0021】
同様に、菌床からの溶液、菌床を水に浸漬した場合の浸漬水の色とフルボ酸の存否の関係を確認した。マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)において、前記第3ステップで良と判断されたきのこ菌床からの溶液と否と判断されたきのこ菌床からの溶液についていずれかの色相を0とし、右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、当該色相0を基準に他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にある場合に、良と判断されたきのこ菌床からの溶液にフルボ酸の量が多くなること、それ以外の色相範囲の場合にはフミン酸の量が多くなることが確認された。なお、良と判断された菌床からの溶液の色相は2.5YR〜10YR、明度は5、彩度は5付近を、否と判断された菌床からの溶液の色相は10RP〜10R、明度は2、彩度は2付近を有する傾向にあった。
【0022】
フルボ酸溶液の良否判断は下表のように考えることができる(表3)。良と判断された溶液は、フミン酸は溶出しにくく、フルボ酸は溶出しやすい傾向にある。ここで、本発明における菌床の良否判断は下表のマンセル色相環(40色相)の色相範囲のみを厳密に解釈するべきではなく、実質的に均等である他の指標等によって代替できるものである。
【表3】
【0023】
前記分析に供した菌床の含水率は概ね50〜60(重量)%であった。少なくとも50%以上の含水率があれば十分な量の溶液が回収できた。本分析に供した主な廃菌床は栽培後に風雨、直射日光を避けるべくカバーをかけて保管されていたものである。これらの廃菌床に熟成期間は必要なく、栽培後のものをできるだけ早く溶液回収に供した方が望ましい。破砕する必要はないが、溶液回収容器のサイズに合わせる場合や水に浸漬する場合は破砕してもよい。本発明において、前記の含水とは良否評価に供する菌床が水分を含んでいる場合だけでなく、乾燥状態の菌床に水を投与したものも意味するものとする。水を投与して容器中に菌床を浸漬する場合、投与量の上限を限定するものではない。
【0024】
また水の代わりに木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液を投与してもよい。木酢液としては限定するものではないが、例えば、アラカシから抽出したものを挙げることができる。木酢液、又は竹酢液、又は木酢竹酢混合液を用いた場合、水に比べてフルボ酸の溶出が促進され、より短時間で多量のフルボ酸が得られる利点がある。木酢竹酢混合液は任意の混合割合のものを用いてよい。ここで廃菌床をpH4.0の木酢液に浸漬した場合、少なくともpHが4.0より低くなったことがフルボ酸溶出判断の第1の条件となる。また、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)において、廃菌床に浸漬に使用する前の木酢液の色相とフルボ酸溶出後の色相のいずれかの色相を0とし、右廻り+20、左廻り−20で表示した際に、当該色相0を基準に他方の色相が+4〜+6、又は−4〜−6の色相範囲にあるものがフルボ酸溶出判断の第2の条件となる。前記第1、第2条件のいずれも満たす場合に良と判断される。なお、繰り返し試験においてフルボ酸溶出に用いた木酢液の色相は7.5R〜7.5YR、明度は7、彩度は12、溶出フルボ酸溶液の色相は10YR〜10Y、明度は2、彩度は1が主であった。木酢液のpH、投与量、浸漬時間については制限するものではないが、pHは4.0以下であることが好ましい。なお、竹酢液を用いた場合も木酢液を用いた場合と概ね同様の結果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、培養後きのこ菌床の良否を菌床の外観と脆性から判断し、溶液の良否をpHと色相から判断するものであるため、安価、かつ、簡易に大量のフルボ酸を得る技術として有用である。
【要約】
【課題】
安価、かつ、簡易に大量のフルボ酸を得るための評価方法、及び、フルボ酸溶液の製造方法を提供すること
【解決手段】
菌床の主成分が木質チップである培養後きのこ菌床を用い、前記きのこ菌床の良否を菌床の外観と脆性から判断し、かつ、前記きのこ菌床からの溶液の良否をpHと色彩から判断するフルボ酸溶液の良否評価方法、及び前記評価方法に基づくフルボ酸溶液の製造方法。
【選択図】
図1