特許第6331216号(P6331216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331216
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】紙力増強剤、紙力増強剤の製造方法、紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/41 20060101AFI20180521BHJP
   D21H 21/18 20060101ALI20180521BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20180521BHJP
   D21H 17/37 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   D21H17/41
   D21H21/18
   C08F220/56
   D21H17/37
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-43939(P2014-43939)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2014-196588(P2014-196588A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-43877(P2013-43877)
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水河 哲
(72)【発明者】
【氏名】島本 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】井岡 浩之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 国博
(72)【発明者】
【氏名】津田 五輪夫
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−228641(JP,A)
【文献】 特開2003−073991(JP,A)
【文献】 特開2004−011059(JP,A)
【文献】 特開2005−336647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件〔1〕〜〔3〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する紙力増強剤の製造方法であり、
アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15〜80モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、
アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1〜20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有し、
かつ、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に架橋性モノマー(d)を含み、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕が22モル%以下であり、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含むことを特徴とする、両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤の製造方法。
〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)、架橋性モノマー(d)、及び連鎖移動性ビニルモノマー(e)0.2〜1モル%を含む
〔2〕該構成成分における(b)成分の比率が1〜20モル%である両性ポリアクリルアミドである
〔3〕そのH−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20〜70%である
【請求項2】
前記構成成分における(a)成分の比率が55〜97.8モル%である請求項1の紙力増強剤の製造方法。
【請求項3】
前記(b)成分が第3級アミノ基含有メタクリレート化合物及び第4級塩構造含有メタクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項1又は2の紙力増強剤の製造方法。
【請求項4】
前記構成成分が更にαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含む請求項1〜3のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項5】
前記(b’)成分が第3級アミノ基含有アクリレート化合物及び第4級塩構造含有アクリレート化合物からなる群より選ばれる1種である請求項4の紙力増強剤の製造方法。
【請求項6】
前記構成成分における(b’)成分の比率が2〜3モル%である請求項4又は5の紙力増強剤の製造方法。
【請求項7】
前記(c)成分がαメチル基不含有不飽和カルボン酸である、請求項1〜6のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項8】
前記αメチル基不含有不飽和カルボン酸がイタコン酸及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7の紙力増強剤の製造方法。
【請求項9】
前記構成成分における(c)成分の比率が1〜20モル%である請求項1〜8のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項10】
前記(d)成分がN,N−ジメチルアクリルアミド及びメチレンビスアクリルアミドからなる群より選ばれる1種を含む請求項1〜9のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項11】
前記構成成分における(d)成分の比率が0.01〜1モル%である請求項1〜10のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項12】
前記(e)成分が(メタ)アリルスルホン酸塩である請求項1の紙力増強剤の製造方法。
【請求項13】
前記両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が500,000〜10,000,000である請求項1〜12のいずれかの紙力増強剤の製造方法。
【請求項14】
前記モノマー混合物(I)が更にアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含む請求項1の製造方法。
【請求項15】
前記モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)のいずれか一方又は双方が更に連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含む、請求項1の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙力増強剤、紙力増強剤の製造方法、及び紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙力増強剤として、アクリルアミド、カチオン性ビニルモノマー及びアニオン性ビニルモノマー、並びに必要に応じて架橋性モノマーを共重合して得られる両性ポリアクリルアミドが賞用されてきたが、パルプスラリー(紙料)中の古紙の増加に伴いパルプの短繊維化と劣化が進んでいるため、よりパルプに定着し、かつ高い紙力増強効果を発揮する両性ポリアクリルアミドが要望されている。
【0003】
パルプに対する定着率を高めるためには、例えば両性ポリアクリルアミド中のカチオン性基の量を増やせばよいが、そうした両性ポリアクリルアミドは凝集力が強く、成紙の地合を乱したり、紙力増強効果が寧ろ不十分であったりする。
【0004】
また、紙力増強効果を高めるためには、紙料に対する両性ポリアクリルアミドの添加量を増やせばよいが、ある添加率を超えると紙料のゼータ電位(Zp)が陽転してしまい、紙力増強効果が頭打ちになる。その結果、パルプ未定着の両性ポリアクリルアミドが紙料中で増えてしまい、汚れの発生や紙力低下といった問題が生じる。
【0005】
抄紙系内の環境変化の影響を受けにくい両性ポリアクリルアミドとしては、例えば特許文献1に、アクリルアミド、カチオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマー及び架橋性モノマーを所定量ずつ特定の順序で反応させたものが記載されているが、効果は十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−199965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、パルプに定着しやすく、紙力増強効果にも優れ、かつ成紙の地合を乱さない新規な両性ポリアクリルアミドを含む紙力増強剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、紙力に優れ、かつ地合の乱れも少ない紙を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、アクリルアミド、カチオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマー及び架橋性モノマーを構成成分とする両性ポリアクリルアミドであって、該カチオン性ビニルモノマーとしてαメチル基を有するものを一定量用い、かつこのものに由来するカチオン性部位が分子鎖内で高局在化しているような両性ポリアクリルアミドが前記課題を解決し得る紙力増強剤足り得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記要件〔1〕〜〔3〕を備える両性ポリアクリルアミドを含有する紙力増強剤に関する。
〔1〕その構成成分がアクリルアミド(a)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)、アニオン性ビニルモノマー(c)及び架橋性モノマー(d)を含む
〔2〕該構成成分における(b)成分の比率が1〜20モル%である両性ポリアクリルアミドである
〔3〕そのH−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20%以上である
【0011】
また、本発明は、
アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が10〜75モル%であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、
アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1〜20モル%であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有し、
かつ、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に架橋性モノマー(d)を含むことを特徴とする、
下記要件〔3〕を備える両性ポリアクリルアミド、
を含む紙力増強剤の製造方法、にも関する。
【0012】
〔3〕そのH−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に該(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯Aと低磁場側吸収帯Bがあり、かつ、該吸収帯Aの面積(As)と該吸収帯Bの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20%以上である
【0013】
また、本発明は、前記紙力増強剤を用いて得られる紙、並びに前記製造方法で得られる紙力増強剤を用いて製造される紙、に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る紙力増強剤は、パルプに定着しやすく、その添加率を高めた場合であっても紙料のゼータ電位(ζp)を陽転させ難く、また紙力増強効果も良好であり、かつ成紙の地合の乱れも少ない。
【0015】
また、本発明に係る紙力増強剤を用いて得られる紙、並びに本発明に係る製造方法により得られる紙力増強剤を用いて製造される紙は、紙力(破裂強度、圧縮強度)に優れ、かつ地合の乱れも少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Fig.1とFig.2はいずれもアクリルアミドとαメチル基含有カチオン性ビニルモノマーからなるポリアクリルアミドの模式図であり、前者はαメチル基含有カチオン性ビニルモノマーユニットが偏在化している様子を、後者は当該ユニットが局在化している様子を示す。
図2】アクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートからなるポリアクリルアミドのH−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲において、該ジメチルアミノエチルメタクリレートが有するαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯A(signal A)と低磁場側吸収帯B(signal B)が出現していることを示す模式図である。
図3図2において、Signal Aよりも高磁場側にピークが出現しない場合のH−NMRスペクトルの模式図である。
図4】実施例1の両性ポリアクリルアミドについての実際のH−NMRスペクトルチャートである。
図5】実施例3の両性ポリアクリルアミドについての実際のH−NMRスペクトルチャートである
図6】実施例11の両性ポリアクリルアミドについての実際のH−NMRスペクトルチャートである
図7】比較例1の両性ポリアクリルアミドについての実際のH−NMRスペクトルチャートである
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドは、アクリルアミド(a)(以下、(a)成分ということがある。)、αメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)(以下、(b)成分ということがある。)、アニオン性ビニルモノマー(c)(以下、(c)成分ということがある。)及び架橋性モノマー(d)(以下、(d)成分ということがある。)を必須の構成成分とする(要件[1])。
【0018】
本発明では(a)成分としてアクリルアミドを用いる。これは、メタクリルアミドよりも、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果により寄与するからである。
【0019】
前記構成成分における(a)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果及び成紙の地合乱れ抑制効果を確保する観点より、通常55〜97.8モル%程度、好ましくは70〜97モル%程度、より好ましくは80〜95モル%程度である。
【0020】
(b)成分としては、αメチル基を含有するカチオン性ビニルモノマーであれば特に限定されず、各種公知のものを特に制限なく使用できる。ここに「αメチル基」とは、ビニル基及びカチオン性官能基を有するモノマーにおいて、該ビニル基のα炭素に結合したメチル基を意味する。
【0021】
【化1】
【0022】
(b)成分の具体例としては、例えば、第3級アミノ基含有メタクリレート化合物と四級化剤との反応によって得られる第4級塩構造含有メタクリレート化合物が挙げられる。該第3級アミノ基含有メタクリレート化合物としては、例えば、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド及びジエチルアミノプロピルメタアクリルアミド等が挙げられる。また、該四級化剤としては、例えば、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸及びエピクロロヒドリン等が挙げられる。
【0023】
前記構成成分における(b)成分の比率は1〜20モル%である(要件[2])。1モル%よりも小さいと、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果が不十分となる傾向にある。また、20モル%を超えると、該両性ポリアクリルアミドの凝集性が強くなり過ぎ、成紙の地合いが乱れる傾向にある。かかる観点より、前記構成成分における(b)成分の比率は、好ましくは1〜10モル%程度、より好ましくは2〜6モル%程度である。
【0024】
また、本発明においては、(b)成分とともに、各種公知のαメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を併用できる。具体的には、例えば、第3級アミノ基含有アクリレート化合物と四級化剤との反応によって得られる第4級塩構造含有アクリレート化合物が挙げられる。該第3級アミノ基含有アクリレート化合物としては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びジエチルアミノプロピルアクリルアミド等が挙げられる。また、該四級化剤としては前記したものが挙げられる。
【0025】
前記構成成分における(b’)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの紙力増強効果を主な観点にすると、通常0〜3モル%程度、好ましくは0〜2モル%程度、より好ましくは0〜1モル%程度である。
【0026】
なお、(b’)成分を用いずに(b)成分のみを用いるほうが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や紙力増強効果の点で好ましい。これは、そのようにして得られる両性ポリアクリルアミドが分子間の会合による粒子化を生じやすいことによって、パルプ繊維により定着するためであると考えられる。
【0027】
(c)成分としては、分子内にアニオン性基を有するビニルモノマーであれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えばアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のαメチル基不含有不飽和カルボン酸;メタクリル酸及びクロトン酸のようなαメチル基乃至βメチル基含有不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系ビニルモノマーなどが挙げられる。また、該(c)成分は塩を形成していてもよく、塩を形成する種としては、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属や、トリメチルアミン及びトリブチルアミン等のアミン類、アンモニア等があげられる。これらの中でも、特に紙力増強効果及び地合抑制の観点よりアクリル酸及び/又はイタコン酸が好ましい。
【0028】
前記構成成分における(c)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプ定着性、その紙力増強効果及び成紙の地合乱れ抑制効果を確保する観点より、通常1〜20モル%程度、好ましくは1〜10モル%程度、より好ましくは1〜5モル%程度である。
【0029】
(d)成分としては、ポリアクリルアミドの製造に用い得る架橋性モノマーであれば各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、アリルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート及びN,N−ジメチルアクリルアミド等の1官能モノマー;エチレングリコールジアクリレート、ジアリルアミン、N−メチロールアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等の2官能ビニルモノマー;トリアリルイソシアネート等の3官能ビニルモノマー;テトラアリルオキシエタン等の4官能性ビニルモノマー等が挙げられる。これらの中でも、目的とする両性ポリアクリルアミドに分岐構造及び/又は架橋構造を導入しやすく、その高分子量化を達成し易いことから、前記1官能モノマー及び/又は2官能モノマーが好ましく、特にN,N−ジメチルアクリルアミド及び/又はメチレンビスアクリルアミドが一層好ましく、とりわけN,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。
【0030】
前記構成成分における(d)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化させ、そのパルプ定着性、紙力増強効果及び成紙の地合乱れ抑制効果を確保する観点より、0.01〜1モル%程度、好ましくは0.05〜0.5モル%程度、より好ましくは0.1〜0.3モル%程度である。
【0031】
前記構成成分には必要に応じ、各種公知の連鎖移動性ビニルモノマー(e)(以下、(e)成分ということがある。)を含めることができる。(e)成分を用いることにより、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化させることができるとともに、その水溶液を低粘度化させることができる。また、該両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、地合い抑制効果も良好になる。(e)成分としては、(メタ)アリルスルホン酸塩(即ち、アリルスルホン酸塩及び/又はメタリルスルホン酸塩)が挙げられ、塩を形成する種としては、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属が挙げられる。
【0032】
前記構成成分における(e)成分の比率は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドをゲル化させることなく高分子量化し、かつそのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙の地合い乱れの抑制効果を確保する観点より、通常、0〜2モル%程度、好ましくは0.2〜1モル%程度、より好ましくは0.3〜0.8モル%程度である。
【0033】
なお、前記構成成分には、(a)成分〜(e)成分と反応可能な他のモノマーを含めてよい。具体的には、例えば、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、アクリロニトリル、スチレン類、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル等のノニオン性ビニルモノマーが挙げられる。なお、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は特に限定されないが、通常1〜8程度である。また、前記構成成分におけるノニオン性ビニルモノマーの比率も特に限定されないが、通常は(a)成分、(b’)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分を100モル%とした場合において、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0034】
本発明に係る両性ポリアクリルアミドは、そのH−NMRスペクトルの0.9ppm〜1.35ppmの範囲に前記(b)成分のαメチル基に帰属する高磁場側吸収帯A(以下、シグナルAという。)と低磁場側吸収帯B(以下、シグナルBという。)があり、かつ、シグナルAの面積(As)と該シグナルBの面積(Bs)の面積比[As/(As+Bs)]が20%以上であることを特徴とする(要件〔3〕)。なお、該両性ポリアクリルアミドは高分子化合物であるため、シグナルAとシグナルBはいずれもブロードな裾を有する山形の形状となる。
【0035】
ここに、前記ケミカルシフトの範囲(0.9ppm〜1.35ppm)は、内部標準物質として3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)を使用した場合の数値である。
【0036】
また、前記ケミカルシフトの範囲(0.9ppm〜1.35ppm)は本出願人が自発的に定めた範囲であるが、図2で参照されるように、その上限値(1.35ppm)は、シグナルBの左裾側の極小点(local minimum)を目安に設定した。また、該シグナルBの右裾側の極小点を境として、シグナルAの面積AsとシグナルBの面積Bsとが区画される。また、前記ケミカルシフト範囲の下限値(0.9ppm)は、シグナルAよりも高磁場側に更にピークが出現する場合には(図2参照)は該シグナルAの右裾側の極小点を目安に設定した。但し、シグナルAよりも高磁場側にピークが出現しない場合においても、該下限値は0.9ppmとする。この場合、図3で示すように、該シグナルAの右裾とNMRスペクトルのベースラインとの接点(a point of contact)が概ね0.9ppm付近となる。
【0037】
シグナルAとBはいずれも、本発明に係る両性ポリアクリルアミドを構成する前記(b)成分のαメチル基に固有の吸収帯である。そして、該両性ポリアクリルアミドの分子鎖上で前記(b)成分のユニットがより連続し(局在化し)、そのαメチル基におけるプロトンがより隣り合う環境に置かれると、シグナルAの相対強度は大きくなり、シグナルBの相対強度は小さくなる。逆に、該両性ポリアクリルアミドの分子鎖上で前記(b)成分のユニットがより偏在化し、そのαメチル基におけるプロトンが隣接しないような環境に置かれると、シグナルAの相対強度は小さくなり、シグナルBの相対強度は大きくなる。
【0038】
よって、シグナルAとBの全面積におけるシグナルAの面積の比率[As/(As+Bs)]は、これが大きければ大きいほど本発明に係る両性ポリアクリルアミドの分子鎖上にカチオン性部位が高局在化していることを意味する。本発明においては、該両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙地合の乱れ抑制等の観点より、該面積比[As/(As+Bs)]を20%以上、好ましくは20〜70%程度、より好ましくは20〜50%程度に設定する。
【0039】
また、前記面積比[As/(As+Bs)]は、市販のH−NMR測定機を用いて本発明に係る両性ポリアクリルアミドのH−NMRスペクトルを測定し、前記した区画手順に従いAsとBsの積分比を夫々求めることによって、算出可能である。
【0040】
本発明に係る紙力増強剤の製法は特に限定されないが、前記したように、該紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドがその分子鎖上でカチオン性部位が高局在化したものであるため、そのような両性ポリアクリルアミドを製造できる方法であれば、各種公知の重合方法(滴下重合法、同時重合法、多段階重合法等)を採用できる。
【0041】
例えば、前記両性ポリアクリルアミドに前記要件〔3〕を充足させるには、該両性ポリアクリルアミドを構成する全ビニルモノマーを複数のモノマー混合物に分割し、一部の混合物中の(b)成分の量を多くしてこれらの混合物を順次反応させたり、或いは、該(b)成分を重合反応中のある時点で反応系に多く加えたりすることによって、重合反応に関与する(b)成分の濃度が高まるような操作を行うのがよい。
【0042】
また、本発明に係る紙力増強剤の製造方法の最も好ましい態様は、以下の態様である。この態様によれば、本発明に係るその分子鎖上にカチオン性部位が高局在化した領域を有する両性ポリアクリルアミドをより確実に得ることが可能になる。
【0043】
アクリルアミド(a)及びαメチル基含有カチオン性ビニルモノマー(b)を必須成分として含み、かつ該(b)成分の比率が15〜80モル%(好ましくは20〜70モル%、より好ましくは20〜60モル%)であるモノマー混合物(I)を重合する工程(A)と、
アクリルアミド(a)及びアニオン性ビニルモノマー(c)を必須成分として含み、かつ該アニオン性ビニルモノマー(c)の比率が1〜20モル%(好ましくは1〜10モル%、より好ましくは1〜5モル%)であるモノマー混合物(II)を重合する工程(B)とを有し、
かつ、該モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方が更に架橋性モノマー(d)を含むことを特徴とする、
前記要件〔3〕を備える両性ポリアクリルアミド、
を含む紙力増強剤の製造方法。
【0044】
また、前記モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)のいずれか一方又は双方には、必要に応じて前記αメチル基不含有カチオン性ビニルモノマー(b’)を含めることができる。
【0045】
また、前記モノマー混合物(I)には、目的とする両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙地合の乱れ抑制等の観点より、それぞれに前記アニオン性ビニルモノマー(c)を含めるのが好ましい。
【0046】
また、前記したようにモノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)の一方又は双方には更に前記架橋性モノマー(d)が含まれるが、この(d)成分は別途、工程(A)及び工程(B)の途中で反応系に添加したり、工程(A)及び工程(B)の一方又は双方が完了した後に反応系に添加したりすることもできる。
【0047】
また、前記モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)には、やはり目的とする両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙地合の乱れ抑制等の観点より、その一方又は双方に更に前記連鎖移動性ビニルモノマー(e)を含めるのが好ましい。
【0048】
該モノマー混合物(I)における(b)成分以外の組成は特に限定されないが、目的とする両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙地合の乱れ抑制等の観点より、
通常、(a)成分10〜75モル%程度、(b’)成分0〜35モル%程度、(c)成分0〜50モル%程度、(d)成分0.001〜2モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0〜10モル%程度であり、
好ましくは、(a)成分25〜70モル%程度、(b’)成分0〜25モル%程度、(c)成分1〜20モル%程度、(d)成分0.01〜2モル%又は0モル%程度、及び(e)成分1〜10モル%程度であり、
より好ましくは(a)成分35〜65モル%程度、(b’)成分0〜10モル%程度、(c)成分1〜10モル%程度、(d)成分0.5〜2モル%程度又は0モル%、及び(e)成分2〜6モル%程度である。
【0049】
該モノマー混合物(II)における(c)成分以外の組成は特に限定されないが、目的とする両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙地合の乱れ抑制等の観点より、
通常、(a)成分20〜98.8モル%程度、(b)成分0〜5モル%程度、(b’)成分0〜5モル%程度、(d)成分0.001〜1モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0〜1モル%程度であり、
好ましくは(a)成分50〜98.8モル%程度、(b)成分0〜3モル%程度、(b’)成分0〜2モル%程度、(d)成分0.01〜0.5モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0.1〜0.5モル%程度であり、
より好ましくは(a)成分70〜98.8モル%程度、(b)成分0〜1モル%程度、(b’)成分0〜1モル%程度、(d)成分0.1〜0.4モル%程度又は0モル%、及び(e)成分0.1〜0.4モル%程度である。
【0050】
但し、本態様においては、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)の一方又は双方に(d)成分が含まれている必要があるため、上記規定においては、モノマー混合物(I)における(d)成分とモノマー混合物(II)における(d)成分が共に0モル%である場合が除かれる。
【0051】
また、前記要件〔3〕を充足する両性ポリアクリルアミドを収率良く得るためには、モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)を構成する全モノマーの総モルに対するモノマー混合物(I)のモル比率〔(I)/((I)+(II))〕を通常22モル%以下(好ましくは5〜22モル%程度、より好ましくは10〜15モル%程度)とし、かつ、モノマー混合物(I)に含まれる(b)成分の比率〔(b)/(I)〕を通常10〜100モル%程度、好ましくは30〜90モル%程度、より好ましくは50〜85モル%程度とするのがよい。
【0052】
また、前記モノマー混合物(I)及びモノマー混合物(II)は、いずれも溶液として使用できる。溶媒としては通常、水が好ましく、有機溶剤を助溶剤として併用することもできる。また、モノマー混合物(I)及び/又はモノマー混合物(II)が加水分解し易いモノマーを含む場合には、これを防ぐために硫酸を用いることができる。
【0053】
工程(A)及び工程(B)の重合条件は特に限定されない。例えば、重合温度はいずれも通常50〜100℃程度であり、重合時間はいずれも1〜5時間程度である。また、工程(A)及び/又は工程(B)においては、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムのような従来公知の重合開始剤や、該開始剤と亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤とからなるレドックス系重合開始剤、アゾ系開始剤等の開始剤を使用できる。また、その使用量は特に限定されないが、通常、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの全構成モノマーの総重量に対して通常0.05〜2重量%程度であり、好ましくは0.1〜0.5重量%程度である。
【0054】
なお、工程(A)においては、モノマー混合物(I)を滴下重合させても、同時重合させても、これらを組み合わせてもよい。但し、重合反応を制御しやすいため、滴下重合が好ましい。
【0055】
また、工程(B)においても、モノマー混合物(II)を滴下重合させても、同時重合させても、これらを組み合わせてもよい。但し、重合反応を制御しやすいため、同じく滴下重合が好ましい。
【0056】
また、工程(A)と工程(B)の順序は、両性ポリアクリルアミドの分子鎖上にカチオン性部位が高局在化した領域を形成するという目的を達成できる限りにおいて、特に限定されない。例えば、工程(A)を完了させた後に工程(B)を開始したり、工程(B)を完了させた後に工程(A)を開始したりする方法が挙げられる。また、工程(A)と工程(B)の時間的な間隔は特に制限されず、例えば工程(A)又は工程(B)を完了させた直後にもう一方の工程を開始してもよく、工程(A)又は工程(B)を完了させて一定時間経過した後にもう一方の工程を開始してもよい。また、工程(A)又は工程(B)の開始後、それらが完了する前に同一反応系でもう一方の工程を開始してもよく、この場合にもカチオン性部位が高局在化した両性ポリアクリルアミドを得ることが可能になる。
【0057】
開始剤の利用態様は特に限定されない。例えば、前記モノマー混合物(I)及び/又はモノマー混合物(II)に予め含めても良いし、含めなくてもよい。含めない場合には、例えば、工程(A)及び工程(B)の双方に亘り、外部より前記開始剤を反応系に滴下する態様が挙げられる。この場合、開始剤は水溶液として用いることができる。
【0058】
本発明に係る製造方法の最も好ましい態様は、モノマー混合物(I)を滴下重合させる工程(A)を完了させた後、同一反応系にモノマー混合物(II)を滴下し、重合させる態様である。この態様では、(b)成分を相対的に多く含むモノマー混合物(I)を工程(A)で重合させることによって、カチオン性部位の密度の大きなポリアクリルアミド前駆体を一旦製造する。次いで、該前駆体の存在下、(b)成分の量が相対的に少ないか或いはゼロのモノマー混合物(II)を重合させることによって、カチオン性部位が高局在化した領域を分子鎖上に有する両性ポリアクリルアミドを容易に得ることができる。また、この態様においては、工程(A)と工程(B)の双方に亘り前記開始剤を反応系に滴下するのが好ましい。
【0059】
本発明に係る両性ポリアクリルアミドの他の物性は特に限定されないが、本発明に係る両性ポリアクリルアミドのパルプに対する定着性や、紙力増強効果、成紙の地合い乱れの抑制効果等の観点より、例えば重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリエチレンオキサイド換算値をいう。以下、同様。)が通常500,000〜10,000,000程度、好ましくは1,000,000〜7,000,000程度である。
【0060】
また、同様の観点より、本発明に係る両性ポリアクリルアミドの粘度は通常、3000〜15000mPa・s(25℃、固形分15〜25%水溶液)程度、好ましくは5000〜10000mPa・s(25℃、固形分15〜25%水溶液)程度である。
【0061】
本発明の紙力増強剤は、本発明に係る両性ポリアクリルアミドを含む組成物であり、水溶液として利用するのが好ましい。また、その固形分濃度は特に限定されないが、通常、0.01〜2重量%程度である。
【0062】
本発明の紙力増強剤は、目的とする紙の種類や使用するパルプ繊維スラリーの種類に限定されず、紙の製造に使用することができる。紙の種類としては、ライナー原紙、中芯原紙、紙管原紙、白板紙、クラフト紙、上質紙、新聞紙などが挙げられ、パルプ繊維スラリーとしては、クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒高収率のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙、ダンボール古紙、脱墨古紙等の古紙パルプなどが挙げられる。
【0063】
本発明の紙力増強剤の添加量は特に限定されず、上記紙やパルプ繊維スラリーの種類、抄紙条件によって適宜決定すればよいが、通常は、該紙力増強剤をなす両性ポリアクリルアミドの固形分重量換算で、パルプ繊維スラリーの固形分重量に対し、通常0.1重量%以上であり、好ましくは0.1〜3重量%程度である。また、パルプ繊維スラリーには硫酸アルミニウムやサイズ剤、その他の製紙用添加剤を添加してもよい。
【実施例】
【0064】
以下、参照例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。尚、各例中、部及び%は特記しない限りすべて重量基準である。各例の物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0065】
実施例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管及び3つの滴下ロート(以下、順にロート1、ロート2及びロート3という。)を備えた反応容器にイオン交換水276.2部を仕込み、該イオン交換水に窒素ガスを直接吹き込むことにより該反応容器内の酸素を除去した後、該イオン交換水の温度を90℃に設定した。
次いで、ロート1に、モノマー混合物(I)として、アクリルアミド18.6部、ジメチルアミノエチルメタクリレート39.5部、ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物の60%水溶液23.8部、イタコン酸2.0部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.3部、メチレンビスアクリルアミド0.3部、メタリルスルホン酸ナトリウム3.2部、62.5%硫酸19.3部及びイオン交換水117.0部からなる水溶液を更に硫酸でpH4.5に調整したものを仕込んだ。
次いで、ロート2に、モノマー混合物(II)として、アクリルアミド306.8部、イタコン酸13.1部、N,N−ジメチルアクリルアミド0.3部、メチレンビスアクリルアミド0.3部、メタリルスルホン酸ナトリウム0.8部及びイオン交換水597.0部からなる水溶液を仕込んだ。
次いで、ロート3に、過硫酸アンモニウム0.6部及びイオン交換水180部からなる開始剤溶液を仕込んだ。
次いで、ロート1とロート3のコックを同時に開き、前記モノマー混合物(I)の全量及び前記開始剤溶液の半量をそれぞれ2時間かけて滴下させた。その後直ちにロート2のコックを開き、前記モノマー混合物(II)の全量と、該開始剤溶液の残り半量とを2時間かけて滴下させた。
次いで、反応系を90℃で1時間保温した後、更にイオン交換水400部を仕込むことにより、重量平均分子量300万及び粘度8500mPa・sの両性ポリアクリルアミドの水溶液(固形分濃度20.3%)を得た。
【0066】
実施例2〜8
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)を表1に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同じ方法で実施例2〜8用の両性ポリアクリルアミドの水溶液(いずれも固形分濃度20.3%)を得た。
【0067】
実施例9
実施例1と同様の反応容器にイオン交換水276.2部を仕込み、該イオン交換水に窒素ガスを直接吹き込むことにより該反応容器内の酸素を除去した後、該イオン交換水の温度を90℃に設定した。
次いで、ロート1に表1で示す組成からなるモノマー混合物(II)(pH4.5水溶液)を仕込み、更にロート2に表1で示す組成からなるモノマー混合物(I)(水溶液)を仕込んだ。
次いで、ロート3に、過硫酸アンモニウム0.6部及びイオン交換水180部からなる開始剤溶液を仕込んだ。
次いで、ロート1とロート3のコックを同時に開き、前記モノマー混合物(II)の全量及び前記開始剤溶液の半量をそれぞれ2時間かけて滴下させた。その後直ちにロート2のコックを開き、前記モノマー混合物(I)の全量と、該開始剤溶液の残り半量とを2時間かけて滴下させた。
次いで、反応系を90℃で1時間保温した後、更にイオン交換水400部を仕込むことにより、表4で示す物性の両性ポリアクリルアミドの水溶液(固形分濃度20.3%)を得た。
【0068】
実施例10〜11
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)を表1に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同じ方法で実施例10〜11用の両性ポリアクリルアミドの水溶液(いずれも固形分濃度20.3%)を得た。
【0069】
比較例1〜8
モノマー混合物(I)とモノマー混合物(II)を表2に示す組成のものに変更した以外は実施例1と同じ方法で比較例1〜8用の両性ポリアクリルアミドの水溶液(いずれも固形分濃度20.3%)を得た。
【0070】
表1〜5中の、化合物を表す記号は以下の意味である。
AM:アクリルアミド(分子量71.1)
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート(分子量157.2)
DML:ジメチルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級化物(分子量248.8)
APDM:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(分子量156.2)
DMAEA-BQ:ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物(269.8)
IA:イタコン酸(分子量130.1)
AA:アクリル酸(分子量72.1)
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド(分子量99.1)
MBAA:メチレンビスアクリルアミド(分子量154.2)
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム(分子量158.2)
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
H−NMRスペクトルの測定>
実施例1の両性ポリアクリルアミド水溶液26.7mgと重水(DO)0.8mlとを混合した後、当該混合液に、3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)40.23mgとDO1.0mlとを混合してなる内部標準液を、マイクロシリンジを用いて1μl滴下し、測定用サンプル(濃度:0.5%)を調製した。
【0078】
次いで、当該サンプルを用い、以下の条件下、H−NMRスペクトルを測定した。また、他の実施例及び比較例の両性ポリアクリルアミド水溶液についても同様にしてH−NMRスペクトルを測定した。
【0079】
NMR測定器:400MR AgilentTechnologies製 400MHz
プローブ:AutoX PFG probe(5mm)
プローブ温度:70℃
測定周波数:399.75MHz
測定溶媒:重水(D2O)
パルスシーケンス:presaturation スタンダードパラメーター使用
積算回数:128回
【0080】
<シグナル面積比[As/(As+Bs)]の算出>
前記NMR測定器に付属する解析ソフトvNMRJ(Agilent Technologies製)を用い、<As>及び<Bs>をそれぞれ計算機上で求めたうえで、シグナル面積比[As/(As+Bs)]を算出した。結果を表7に示す。
【0081】
<重量平均分子量>
実施例及び比較例の各両性ポリアクリルアミドについて、以下の条件下、重量平均分子量を測定した。結果を表7に示す。
【0082】
GPC本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムPWXL1本及びGMPWXL2本(カラム温度40℃。)
溶離液:N/2酢酸緩衝液(N/2酢酸(和光純薬工業(株)製)+N/2酢酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)水溶液、pH4.2)
流速:0.8ml/分
検出器:
RALLS法;ビスコテック社製TDA MODEL301(濃度検出器及び90°光散乱検出器及び粘度検出器の温度はそれぞれ40℃に設定)
【0083】
<粘度>
実施例及び比較例の各両性ポリアクリルアミド水溶液について、B型粘度計(製品名「ビストメトロン」、芝浦システム社製)を用い、25℃、回転数6rpm、ローターNo.3の条件で粘度を測定した。結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
[紙料の調成]
段ボ−ル古紙をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)が350mlになるよう調成したスラリーを得た。次いで、当該スラリーに芒硝を添加して、その電気伝導度を1.5mS/cmに調節することにより、紙料1を調成した。なお、当該電気伝導度は、市販の測定器(商品名「pH/COND METER D−54」、(株)堀場製作所製)を用いて測定した。
【0086】
次いで、該紙料1に硫酸バンドを1.0%添加した後、前記実施例1の両性ポリアクリルアミド水溶液を、表4に示す添加率(スラリー中の繊維に対して1.5%(固形分換算))となるよう更に加えてスラリーを得た。次いで、当該スラリーのpHを、5%水酸化ナトリウム水溶液を用いて6.5に調節することによって、紙料2を調成した。
【0087】
[ゼータ電位の測定]
前記紙料2を80メッシュワイヤーで濾過し、ろ液を採取した。次いで、該ろ液のゼータ電位を、市販のゼータ電位計(商品名「LAZER ZEE METER MODEL501」、PEN KEM Inc.社製)を用いて測定した。結果を表8に示す。
【0088】
[破裂強度の測定]
前記成紙2の破裂強度をJIS P 8131に準拠して測定した。結果を表8に示す。
【0089】
[圧縮強度の測定]
前記成紙2の圧縮強度をJIS P 8126に準拠して測定した。結果を表8に示す。
【0090】
[地合変動係数の測定]
前記成紙1からの通過光(輝度)を市販の測定器(商品名「パーソナル画像処理システムHyper−700」、OBS社製)に取り込み、輝度分布を統計解析することにより得られた値を、該成紙1の地合変動係数(変動係数)とした。地合変動係数は、その値が小さい程、地合が良好であることを意味する。結果を表8に示す。
【0091】
[両性ポリアクリルアミドの定着率]
前記成紙1と成紙2それぞれの窒素分を、市販の測定装置(製品名「TN-110」、三菱化学(株)製)を用いて求め、該窒素分の値を以下に示す計算式に代入し、両性ポリアクリルアミドの定着率を算出した。結果を表8に示す。
【0092】
定着率(%)=〔(成紙1の窒素分−成紙2の窒素分)÷(実施例1に係る両性ポリアクリルアミドの理論窒素分×該両性ポリアクリルアミドの添加率)〕×100
【0093】
他の実施例及び比較例の両性ポリアクリルアミド水溶液についても同様にして紙料2を調成し、そのゼータ電位及び定着率を求めるとともに、該紙料より紙を製造し、その破裂強度、圧縮強度及び地合変動係数を求めた。結果を表8に示す。
【0094】
【表8】
【0095】
また、実施例2、実施例6、比較例2及び比較例5に係る両性ポリアクリルアミド水溶液については、添加率を0.3%とした他は同様にして紙料2を調成し、そのゼータ電位と定着率を求めるとともに、該紙料より紙を製造し、その破裂強度、圧縮強度及び地合変動係数を求めた。結果を表9に示す。
【0096】
【表9】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7