【文献】
梅崎健夫・河村隆・西田健吾・早川典・石井大悟・志賀信彦,ゼオライト機能紙とジオシンセティックスを用いた浄化システム,ジオシンセティックス論文集,日本,2012年11月,第27巻,p.25-30,URL,http://www.gdpa.or.jp/download/201212JCIGS_WB.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粒状の放射性物質吸着剤と繊維がシート状に一体化されて形成された放射性物質吸着シートと、該放射性物質吸着シートの片面または両面に設けられた補助シートとからなる放射性物質吸着体であって、前記放射性物質吸着剤が、モルデナイト型ゼオライトを重量比で50%以上含み、かつゼオライト担持量が100g/m2以上であり、該ゼオライトの平均粒径が、1μm以上1000μm以下であり、前記繊維が、主体繊維に補助繊維が混合されており、補助繊維の繊度が0.5〜20デシテックスであって、補助繊維の繊維長が1〜15mmの範囲であり、補助繊維の混合量が主体繊維に対して1〜50重量パーセント含まれる事を特徴とする放射性物質吸着体。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性セシウムなどを含む含水放射性汚染物の処理方法としては水と固形分とを分離して処理を行う方法や、ゼオライトなどの放射性物質吸着剤を散布する方法、またはゼオライトなどの放射性物質吸着剤を担持させた吸着器具やフィルターを使用するのが一般的である。
【0003】
水と固形分との分離方法としては、土のう袋での脱水手法や濁水処理プラントでの固形分の凝集・沈殿処理などが挙げられる。
【0004】
特許文献1に記載された汚染物質分離除去方法は、特に放射性物質で汚染された表土、泥等から汚染物質を分離除去するのに適した汚染物質分離除去方法である。特許文献1に記載された方法は、汚染物質で汚染された土壌から、当該汚染された土壌のある現場またはその近くにおいて汚染物質を分離除去する方法であって、前記現場またはその近くの場所に、凝集浮上分離用容器を配置し、前記現場における汚染物質を含む土壌を掬い取って一時的に集積する工程と、前記土壌を掬い取った後の前記現場またはその近くを所定の形状に掘削し、掘削した側部及び底部に速水側壁及び遮水底壁を形成して隔離槽を形成する工程と、前記一時的に集積された汚染物質を含む土壌に対して水による洗浄及び振動を加えながらスクリーニングを行うことにより複数のサイズにふるい分けを行う工程と、最小のサイズにふるい分けられた土壌成分と、前記洗浄に際して生じた廃水を前記隔離槽に投入して撹拌を行なうことにより、前記最小のサイズにふるい分けられた土壌成分に含まれる土砂成分を沈殿させる分離処理工程と、前記隔離槽内の廃水及び浮上物を抜き取って前記凝集浮上分離用容器に凝集剤と共に投入して撹拌、混合した後、マイクロバブルにてエアレーションを行い、エアレーションにより浮上した浮上物を管理型容器に投入する工程と、を含む汚染物質分離除去方法である。
【0005】
特許文献1に記載された方法は、濁水処理プラントの設置にコストがかかり、小規模な処理には経済的に不向きである。また処理能力の担保も十分とはいい難い。土壌の分級を行ったうえで沈殿手法を必要とし、かつその処理能力も放射線量を約4分の1程度に減少させるもので、方法の簡易さ、処理能力とも十分ではない。
【0006】
また、土のう袋などでの処理は小規模な処理には好適であるが、固形汚染物が水と共に流出する可能性が高い。
【0007】
また、ゼオライトなどの放射性物質吸着剤を土壌に散布する方法は確かに放射性物質の流出防止には有効であるが、均一散布が困難なばかりでなく、吸着後の放射性物質吸着剤を回収することが実際上困難である。
【0008】
特許文献2に記載された放射線物質吸着具は、水槽内の水によって食品や衣料品等の被洗浄物に付着した放射線物質を離脱させることにより、上記水に放出した上記放射線を減少させる放射線吸着具であって、放射線吸着具は、粒状に形成された非水溶性の複数のゼオライト粒と、このゼオライト粒よりも小さい内径とした複数の透孔を有する中空の容器
とを備え、上記容器内の複数の上記ゼオライト粒が上記水槽内の水の流動によって移動可能に構成した放射線物質吸着具である。
【0009】
特許文献2に記載された発明はゼオライトを用いた吸着具であるが、容器に設けた複数の透孔よりもゼオライトの粒径を小さくすることができないため、吸着面積を大きくすることができない。また、ゼオライトと放射性物質との吸着に必要な時間を考慮しておらず、安定した放射性物質吸着性能は得られない。
【0010】
また、ゼオライトなどの放射性物質吸着剤を担持させたフィルターを使用する事は簡単な方法ではあるが、この場合もゼオライトなどの吸着剤に放射性物質を吸着させるには一定時間以上の吸着時間が必要であり、吸着時間を担保する必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る放射性物質吸着体ならびにこれを用いた放射性物質吸着袋について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る放射性物質吸着体(1)の一実施態様を示した断面模式図であり、放射性物質吸収シート(2)の片側に補助シート(3)が設けられた例である。
また、
図2は、本発明に係る放射性物質吸着体(1)の他の実施態様を示した断面模式図であり、放射性物質吸収シート(2)の両側に補助シート(3)が設けられた例である。
【0032】
本発明に係る放射性物質吸着体(1)は、粒状の放射性物質吸着剤(4)と繊維(5)がシート状に一体化されて形成された放射性物質吸着シート(2)と、放射性物質吸着シートの片面または両面に設けられた補助シート(3)とからなることを特徴とする。
【0033】
放射性物質吸収剤(4)としては、活性炭、シリカゲル、カオリン、モンモリロナイト(酸性白土)、クレー、ベントナイト、珪藻土、ゼオライト、キチン、キトサンなど、一般的に無数の微細孔を有し、各種の物質を吸着する性質を持った物質が使用可能であるが、これらの中で、放射性セシウム、放射性ストロンチウムに対する吸着性に着目すると、これらに対するイオン交換作用をも有するゼオライトが最も好ましい。
【0034】
放射性物質吸着剤(4)として、ゼオライトを使用する場合、放射性物質吸着シート(2)におけるゼオライトの担持量は、100g/m
2以上であることが好ましい。ゼオライトの担持量が100g/m
2以上であれば、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなどの放射性物質に対して実用的に十分な吸着能力を発揮することができる。
【0035】
ゼオライトとしては、モルデナイト、クリノプチライト、アナルシン、チャバサイト、エリオナイト、フオジャサイトなどの天然ゼオライト及びA−型ゼオライト、X−型ゼオライト、Y−型ゼオライト等の人工ゼオライトを用いる事ができ、これらのゼオライトの中から一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0036】
放射性物質吸着剤(4)としては、モルデナイト型ゼオライトが最も好適であり、放射性物質吸着剤全重量の内、モルデナイト型ゼオライトが重量比で50%以上であることが好ましい。性物質吸着剤全重量の内、モルデナイト型ゼオライトが重量比で50%以上であると、特にセシウムイオンに対して高い吸着性を発揮する。
【0037】
また、粒状の放射性物質吸着剤(4)の粒径としては、平均粒径が、1μm以上100
0μm以下であることが望ましい。本発明の放射性物質吸着体に用いられる放射性物質吸着シート(2)を湿式抄紙法または乾式抄紙法により製造する場合には、粒状の放射性物質吸着剤(4)の平均粒径が、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、1μm以上500μm以下がより好ましい。放射性物質吸着剤(4)の直径が1μmを下回ると抄造時に抄紙ワイヤーで抜けが生じ、歩留まりが大きく低下するため放射性物質吸着剤(4)を設定した量だけ放射性物質吸着シート(2)に含有させることが困難となる。一方、直径が1000μmを上回ると凝集性が低下し、繊維(5)が放射性物質吸着剤(4)を十分な強度で保持出来ないため、乾燥後に、放射性物質吸着シート(2)から放射性物質吸着剤(4)が脱落するおそれがある。
【0038】
なお、本発明において、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて、レーザ回折散乱法によって算出した値である。
【0039】
繊維(5)は、粒状の放射性物質吸着剤(4)を担持し、放射性物質吸着シート(2)をシート状に形成する役割を担うものである。繊維(5)としては、例えば、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP;N材)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材)、広葉樹末晒クラフトパルプ(LUKP;L材)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP;L材)等の化学パルプ、デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプやセミケミカルパルプ(CP)などの木材パルプが使用できる。
【0040】
また木材以外の天然繊維としては、木綿、わら、竹、エスパルト、バガス、リンタ一、マニラ麻、亜麻、麻、黄麻、雁皮等のパルプ状繊維が使用でき、これら繊維の中から一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。特に、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材)は繊維長が長くシート強度が強くなるため好ましい。
【0041】
また、上述した各種繊維を主体繊維とし、補助繊維として、レーヨン、アセテート、トリアセテート、ナイロン6、ナイロン66、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、アラミド、ポリビニルアルコールなどの有機高分子繊維、ガラス繊維、炭素繊維、活性炭繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維等の無機繊維、ステンレス等の金属繊維等を適宜選択し一種または二種以上混合して用いることができる。
【0042】
例えば、放射性物質吸着シート(2)の強度と耐水性を向上させたい場合は、90〜250℃で熱融着機能を発揮する有機高分子繊維の使用が好適である。なお、ここで熱融着とは、溶融又は軟化による接着機能を意味する。
【0043】
この場合に用いる有機高分子繊維としては、例えば、芯/鞘の二層構造で、PP(ポリプロピレン)/PP、PP/PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)/低融点PET等の複合繊維、低融点PET繊維、あるいはPP繊維等のように構成された芯鞘構造や単一成分構造の熱融着繊維等が挙げられる。
【0044】
主体繊維に混合して使用する補助繊維の繊度は0.5〜20デシテックス(dtex)が好ましく、1〜5dtexがより好ましい。繊維が細過ぎると強度不足となり、太過ぎると繊維強度が強いものの単位重量あたりの繊維本数が少なくなるため、結果として熱融着部分が少なくなりやはり強度不足となる。また、補助繊維の繊維長は1〜15mm程度が好ましく、3〜7mm程度がより好ましい。繊維が短すぎると強度不足となり、長すぎると抄紙困難となる。また、補助繊維の混合量は主体繊維に対して1〜50重量パーセント(wt%)が好ましく、3〜30wt%程度がより好ましい。補助繊維の配合量が少な
すぎると強度不足になり、多すぎると剛直で硬いシートとなり、折り曲げ性や加工性が損なわれる。
【0045】
さらに放射性物質吸着シート(2)の強度と耐水性を向上させたい場合は、上記繊維(5)を複数枚張り合わせても良い。
【0046】
補助シート(3)は、放射性物質吸着シート(2)の裏打ち材あるいは補強材として、放射性物質吸着シート(2)の保形性や強度、剛性等を改善する機能を持ったものであり、放射性物質吸着シート(2)の片面または両面に設けることができる。両面に設ける場合、表裏面の補助シート(3)は、異なる材質、仕様からなるものでも良い。
【0047】
補助シート(3)としては、各種繊維をシート状あるいは板状に加工したシート状物が使用できる。シート状物としては、紙、不織布、織物、編物、フェルト等が用いられる。
【0048】
補助シート(3)に用いる繊維としては、レーヨン、アセテート、トリアセテート、ナイロン6、ナイロン66、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、アラミド、ポリビニルアルコールなどの有機高分子繊維、ガラス繊維、炭素繊維、活性炭繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維等の無機繊維、ステンレス等の金属繊維等及び、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP;N材)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP;N材、NB材)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP;L材)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、L材)等の化学パルプ、デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプやセミケミカルパルプ(CP)などの木材パルプ、また、木材以外の天然繊維としては、木綿、わら、竹、エスパルト、バガス、リンタ一、マニラ麻、亜麻、麻、黄麻、雁皮等のパルプ状繊維を適宜選択し一種または二種以上混合して用いることができる。特に透気性の観点から、レーヨン、アセテート、トリアセテート、ナイロン6、ナイロン66、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、アラミド、ポリビニルアルコールなどの有機高分子繊維が好ましい。
【0049】
本発明に用いられる放射性物質吸着体(1)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、湿式抄紙法または乾式抄紙法を用いて、上述した繊維(5)および放射性物質吸着剤(4)を所定の割合で配合して一体のシート状に構成し、放射性物質吸着シート(2)を得、これに例えば、縫製または貼合にて補助シート(3)を放射性物質吸着シート(2)の少なくとも片面に設置し、放射性物質吸着体(1)を製造することができる。
【0050】
なお、後に説明する放射性物質吸着袋(10)において、補助シート(3)を外袋(11)として用いるような場合には、放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)とを縫合または貼合する必要がなく、単に重ね合わせた状態で、袋状に縫製すれば良い場合もある。
【0051】
放射性物質吸着シート(2)を湿式抄紙法により製造する場合は、配合した材料を水に分散してスラリーを調製し、得られたスラリーを湿式抄紙機で抄造する(抄紙工程)。主体繊維としての繊維(5)は、あらかじめ、叩解しておくのが好ましい。叩解は、シングルディスクリフアイナー(SDR)、ダブルディスクリフアイナー(DDR)、ビーター等の叩解機により適宜行なうことができる。叩解度としては、カナダ標準濾水度(CSF:JIS P8121)で750CSF〜100CSF程度が好ましく、500CSF〜150CSF程度がより好ましい。
【0052】
抄紙工程において、凝集剤を適宜使用することができる。凝集剤は、特に限定されるものではないが、各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の凝集剤を使用可能である。例えば、ポリアクリルアミド系のカチオン性、ノニオン性、アニオン性及び両性の樹脂、ポリエチレンイミン及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリアミン、ポリアミド、ポリアミドポリアミン及びその誘導体、カチオン性及び両性澱粉、酸化澱粉、カルポキシメチル化澱粉、植物ガム、ポリビニルアルコール、尿素ホルマリン樹脂、メラミンホルマリン樹脂、親水性のポリマー粒子等の有機系化合物、及び硫酸バンド、アルミナゾル、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等のアルミ化合物、更に硫酸第一鉄、塩化第一鉄あるいはコロイダルシリカ、ベントナイト等の無機系化合物等を組み合わせて使用することができる。
【0053】
抄紙工程において、凝集剤の添加およびその添加量は任意であるが、凝集剤を添加する場合は、水分散液中の固形分に対して0.001wt%以上が好ましく、0.005wt%以上がより好ましい。添加量が0.001wt%を下回ると、凝集効果が得られない恐れがある。
【0054】
また、抄紙工程においては、必要に応じてサイズ剤、湿潤紙力剤、填料等の抄紙用薬品を適宜用いることができる。サイズ剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸性抄紙用のロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、中性抄紙用にアルキルケテンダイマ一系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤等の各種サイズ剤が挙げられる。
【0055】
湿潤紙力増強剤としては、例えば、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、エポキシ系樹脂、ジアルデヒド澱粉、ポリアクリルアミド及びポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0056】
填料としては、例えば、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、ケイソウ土、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、硫酸マグネシウム、シリカ、アルミノ珪酸塩、ベントナイト等の鉱物質填料やポリスチレン粒子、尿素ホルマリン樹脂粒子等の有機合成填料等が挙げられる。
【0057】
更に、染料、pH調整剤、スライムコントロール剤、消泡剤、粘剤等の抄紙用の各種添加助剤も用途に応じて使用できる。
【0058】
抄紙工程に用いる湿式抄紙機としては、一般の抄紙技術に適用されている長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等、特に限定されるものではない。また、本発明の放射性物質吸着シート(2)は、上記のようにして得られる単層シートのはか、単層シートを重ね合わせた多層の抄き合わせシートとして構成されてもよい。
【0059】
放射性物質吸着シート(2)の厚さ、坪量、強度等は、用途に応じて適宜調整されてよい。放射性物質吸着性能の観点から、坪量100〜2000g/m
2程度で好適な性能を発揮することができる。
【0060】
放射性物質吸着シート(2)が上述の坪量範囲を実現するために必要な放射性物質吸着剤(4)の含有率は、材質によって多少異なるが、例えばゼオライトの場合であれば、繊維(5)(補助繊維を混合する場合は主体繊維および補助繊維の合計)1に対して、ゼオライトは重量比で少なくとも0.25以上であり、0.5以上がより好ましい。
【0061】
放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)とを縫製にて積層化する場合はミシンなどで縫い合わせることが好ましい。また、放射性物質の流出の観点から、縫製穴が問題
になる場合は貼合の手法が望ましい。貼合には例えば粘着剤、接着剤、ホットメルト剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを適宜使用できる。
【0062】
放射性物質吸着体(1)の透気度は、25μm/(Pa・s)以上、600μm/(Pa・s)以下であることが望ましい。透気度が25μm/(Pa・s)未満であると被処理液の浸透性が悪くなり、放射性物質吸着体(1)としての処理能力が低下する恐れがある。また透気度が600μm/(Pa・s)を超えるような場合には、透過性がよ過ぎて処理能力が低下する恐れがある。
【0063】
なお、ここでいう透気度は、JIS P8117「紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法−ガーレー法」に規定される数値である。
【0064】
図3〜5は、本発明に係る放射性物質吸着体(1)を用いた放射性物質吸着袋(10)の実施態様を示した模式図である。
図3に示した放射性物質吸着袋(10)は、1枚の放射性物質吸着シート(2)と、その片面に設けた補助シート(3)からなる放射性物質吸着体(1)を、補助シート(3)を外側になるように縫製して袋状に形成したものである。また
図4に示した放射性物質吸着袋(10)は、
図3の放射性物質吸着袋(10)の外側にメッシュ状の外袋(11)を備えたものである。
図5に示した放射性物質吸着袋(10)は、補助シート(3)が外袋(11)として機能している例である。
【0065】
放射性物質吸着袋(10)は、土砂を土嚢に投入するように、含水放射性物質汚染物を投入するだけの簡単な操作により、清浄な水分のみを分離することができる。これにより、含水放射性物質汚染物を容易に減容化でき、しかも取扱いやすいものにすることが可能となる。
【0066】
放射性物質吸着袋(10)の外袋(11)としては、メッシュ状でかつ開口率が0.5%以上50%以下であることが好ましい。外袋(11)は、放射性物質吸着体(1)の補助シート(3)を補完するものであり、外袋があることにより、放射性物質吸着袋(10)の取扱い性を向上することができる。
【0067】
外袋(11)は、放射性物質吸着体(1)の濾水性を損なわずに、放射性物質吸着袋(10)を保持する能力を発揮するためには、メッシュの開口率が0.5%以上50%以下であることが好ましい。
【0068】
また、
図5に示した実施態様のように、放射性物質吸着体(1)の補助シート(3)をメッシュ状でかつ開口率が0.5%以上50%以下であるものとしておき、これを外袋(11)としてもよい。この場合、放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)を特に予め縫合したり貼合したりせず、単に重ね合わせた状態で、袋状に縫製して、放射性物質吸着袋(10)とすることもできる。
【0069】
本発明に係る放射性物質吸着体(1)の使用方法としては、放射性物質吸着袋(10)として使用する以外にも、様々な使用方法が可能である。例えば、枠体に取り付けて、フィルターとして使用する方法や、間隔を空けて層状に積み重ね、層間に水を流して吸着処理する方法など、さまざまな応用が可能である。
以下実施例に基いて、本発明に係る放射性物質吸着体(1)についてさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0070】
繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを、放射性物質吸着剤(4)として、モルデナイト型ゼオライト(三井金属資源開発社製 商
品名:MGイワミライト−0.5mm、平均粒径131μm)を準備した。繊維(5)を70g/m
2、放射性物質吸着剤(4)を280g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0071】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
補助シート(3)として、不織布(ユニセル株式会社製 商品名B7202W)を使用し、放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)とを縫製にて積層し、放射性物質吸着体(1)を得た。
【0072】
<比較例1>
繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを、放射性物質吸着剤(4)として、モルデナイト型ゼオライト(三井金属資源開発社製 商品名:MGイワミライト−0.5mm)を準備した。繊維(5)を60g/m
2、放射性物質吸着剤(4)を70g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0073】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
補助シート(3)として、不織布(ユニセル株式会社製 商品名B7202W)を使用し、放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)とを縫製にて積層し、放射性物質吸着体(1)を得た。
【0074】
<比較例2>
繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを、放射性物質吸着剤(4)として、モルデナイト型ゼオライト(三井金属資源開発社製 商品名:MGイワミライト−0.5mm)を準備した。繊維(5)を280g/m
2、放射性物質吸着剤(4)を70g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0075】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
補助シート(3)として、不織布(ユニセル株式会社製 商品名B7202W)を使用し、放射性物質吸着シート(2)と補助シート(3)とを縫製にて積層し、放射性物質吸着体(1)を得た。
【0076】
<比較例3>
土のう袋(萩原工業株式会社製 UVブラック土のう)を比較例3とした。
【0077】
上述した実施例1、比較例1〜3の放射性物質吸着体の放射能汚染物除去性能に関して説明する。
<実験1 高含水汚泥のろ過試験>
高含水汚泥のろ過試験においては、高含水汚泥を対象に実施例1及び比較例1、2の放射性物質吸収体及び比較例3の土のう袋をそれぞれ濾過面積が10cm角になるように袋状に加工して、試験を行った。
試験は、各サンプルに高含水汚泥(含水比:95.1%)を入れ、それぞれを吊るし、下に受けた容器にてろ過した水を受けた。尚、高含水汚泥は1kg使用し、ろ過面積は10cm角にて試験を行った。ろ過終了後、水を回収し、それぞれの放射能濃度を測定した。放射能濃度の測定については、NaI(TI)シンチレーションスぺクトロメータにて行った。
【0078】
<実験2 透気度測定>
透気度測定においては、実施例1及び比較例1、2の放射性物質吸収体、及び比較例3の土のうを使用して測定を行った。
測定はガーレ一式デンソメータを用い、JIS P8117に準拠し行った。ガーレ一式デンソメーターにて空気100mlが透過する時間tを測定し、以下の式により透気度Pを算出した。
P=135.3/t
結果を表1に示す。実施例1を用いた場合、ろ過後の水の放射能濃度は100Bq/kg以下となり、ろ過時間も10分以下であり、簡単な方法で放射能汚染物の除去、回収が可能であることが分かった。
【0079】
【表1】
【0080】
次に本発明に係る放射性物質吸着袋(10)について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例2】
【0081】
外袋(11)としてフレキシブルコンテナ(フクナガエンジニアリング製1200KS・BWB)を用いた。繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを用いた。放射性物質吸着剤(4)として、ゼオライト(三井金属資源開発社製 商品名:MGイワミライト−0.5mm)を準備した。
【0082】
繊維(5)を70g/m
2、ゼオライトを280g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0083】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
上記放射性物質吸着シート(2)に縫製処理を行い外袋(11)と同様の形態に加工し、外袋(11)の内側に設置し、実施例2の放射性物質吸着袋(10)を得た。
【0084】
<比較例4>
外袋(11)としてフレキシブルコンテナ(フクナガエンジニアリング製1200KS・BWB)を、繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを、放射性物質吸着剤(4)として、ゼオライト(三井金属資源開発社製 商品名:MGイワミライト−0.5mm)を準備した。繊維(5)を270g/m
2、ゼオライトを80g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0085】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
上記放射性物質吸着シート(2)を縫製処理を行い外袋(11)と同様の形態に加工し、外袋(11)の内側に設置し、比較例4の放射性物質吸着袋を得た。
【0086】
<比較例5>
外袋(11)としてフレキシブルコンテナ(フクナガエンジニアリング製1200KS・BWB)を、繊維(5)として、叩解機(DDR)を使用して450CSFに調整したNBKPを、放射性物質吸着剤(4)として、ゼオライト(三井金属資源開発社製 商品名:MGイワミライト−0.5mm)を準備した。繊維(5)を60g/m
2、ゼオライトを70g/m
2の比率で配合した後に、原料パルプ全量に対して、湿潤紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名WS4024)を0.5wt%、乾燥紙力剤(星光PMC株式会社製 商品名DS4356)を0.5wt%配合し、原料スラリーを得た。
【0087】
この原料スラリーの固形分100重量部に対し、凝集剤(荒川化学社製 商品名ポリテンション)0.005wt%を添加し凝集体分散液を調整した。この凝集体分散液を傾斜式抄紙機で抄造し、坪量350g/m
2の放射性物質吸着シート(2)を得た。
【0088】
上記放射性物質吸着シート(2)を縫製処理を行い外袋(11)と同様の形態に加工し、外袋(11)の内側に設置し、比較例5の放射性物質吸着袋を得た。
【0089】
<比較例6>
土のう袋(萩原工業株式会社製 UVブラック土のう)を比較例6とした。
【0090】
上述した実施例及び比較例の放射性物質吸着袋の放射性汚染物収納性能に関して説明する。
<実験1 高含水汚泥の収納試験>
高含水汚泥の収納試験においては、高含水汚泥を対象に実施例2及び比較例4、5の放射性物質吸着袋(10)の場合と比較例6の土のう袋を使用した場合について行った。
試験は、実施例2の放射性物質吸着袋(10)及び、比較例6の土のう袋に高含水汚泥(含水比:95.1%)を入れ、それぞれを吊るし、下に受けた容器にて脱水した水を受けた。脱水終了後、水を回収し、それぞれの放射能濃度を測定した。放射能濃度の測定については、NaI(TI)シンチレーションスぺクトロメータにて行った。
【0091】
また、高含水汚泥、及び実施例2、比較例4、5の放射性物質吸着袋(10)、比較例6の土のう袋にて脱水を行った汚泥の含水比をJIS A1203に準拠した方法にて測定した。
【0092】
また、実施例2、比較例4、5の放射性物質吸着袋(10)、比較例6の土のう袋の透気度測定はガーレ一式デンソメータを用い、JIS P8117に準拠し行った。ガーレ一式デンソメーターにて空気100mlが透過する時間tを測定し、以下の式により透気度Pを算出した。
P=135.3/t
【0093】
以上の結果を表2に示す。
【表2】
【0094】
実施例2の放射性物質吸着袋を用いて脱水処理を行った結果、外部に流出する放射性汚染物の濃度は0.1%以下となり、特定一般廃棄物処理施設維持管理基準の排水基準を満足した。また、汚染物の含水比も50%以下となり減容性能も発揮した。
【0095】
これに対して比較例として使用した放射性物質吸着袋及び土のう袋では、汚染物の含水比こそ50%以下となり、減容化できたものの、外部に流出する放射性汚染物の濃度は5%以上となり、特定一般廃棄物処理施設維持管理基準の排水基準を満足できず、後処理を必要とする結果となった。
【0096】
以上説明したように、本実施形態の放射性物質吸着袋(10)によれば、取扱い性に優れているため、簡易な手法にて、汚染物を外部流出させず、さらに汚染物を自然脱水し減容化させ、収納することができる。
【0097】
以上説明したように、本実施形態の放射能物質吸収体(1)及び放射性物質吸着袋(10)によれば、ゼオライトと放射性物質との反応時間を考慮し、かつ簡易な手法で放射性物質を除去できる放射性物質吸着体あるいは放射性物質吸着袋を提供することが可能である。
【0098】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。