特許第6331268号(P6331268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331268
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】車両電源装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20180521BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   B60R16/02 645Z
   F02D29/02 321A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-115280(P2013-115280)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234015(P2014-234015A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】谷内 博一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英充
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111913(JP,A)
【文献】 特開2003−237501(JP,A)
【文献】 特開2012−030631(JP,A)
【文献】 特開2010−041800(JP,A)
【文献】 特開2010−058609(JP,A)
【文献】 特開2013−038849(JP,A)
【文献】 特開2000−242342(JP,A)
【文献】 特開2009−166532(JP,A)
【文献】 特開2013−074741(JP,A)
【文献】 特開2010−183755(JP,A)
【文献】 特開2005−218159(JP,A)
【文献】 特許第3826992(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された条件に応じてエンジンの自動停止および再始動を行うアイドリングストップシステムを備える車両においてバッテリの電力を供給する車両用電源装置であって、
前記エンジンの再始動時、前記バッテリからの電流を昇圧して所定の車載電装機器へ供給する電力補助装置と、
前記電力補助装置内の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記所定の車載電装機器群は、少なくとも前記車両の各車輪の制動力を制御して前記車両の挙動をコントロールする制動制御手段のアクチュエータ装置を含み、
前記電力補助装置は、前記電力を昇圧する昇圧回路と、前記バッテリと前記第1電装機器とに対して前記昇圧回路と並列に接続されたリレーと、前記昇圧回路における昇圧電圧および前記リレーの接続状態を切り替える制御回路とを備え、前記制御回路には、デジタルシグナルプロセッサが搭載されており、定格出力電流量が前記アクチュエータ装置の起動時に発生する突入電流量よりも小さく、かつ瞬間的に出力可能な電流量が前記突入電流量を確保可能な量に設定されており、
前記制御回路は、前記電力補助装置内の昇圧回路の温度が所定温度未満の場合には前記昇圧電圧を前記バッテリのバッテリ電圧とし、前記電力補助装置内の昇圧回路の温度が所定温度以上の場合には前記昇圧電圧を前記バッテリ電圧未満かつ前記所定の車載電装機器のリセット電圧より高くする、
ことを特徴とする車両用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された車載電装機器に電力を供給する車両電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジン始動時には、セルモータに大量の電流が流れるため、バッテリの出力電圧が急激に低下する。この時、バッテリに接続しているECU(Engine Control Unit)等の車載電装機器に十分な電力が供給されず、リセットによる再始動や制御の遅れが発生する。これにより、たとえば車載電装機器がカーナビゲーション装置やカーオーディオ装置の場合には、画面の再始動や音切れ等が発生し、ユーザに煩わしさを感じさせる原因となっている。
【0003】
特に、アイドリングストップ機能を有する車両(以下、アイドリングストップ車という)では、走行中もエンジンの停止および再始動が繰り返されるので、上記のような車載機器のリセットが頻繁に生じる。このため、アイドリングストップ車では、DC/DCコンバータ、キャパシタ、電池などによって構成される電源補助装置を用いて、エンジン再始動時の車載電装機器のリセット防止を図っている。
【0004】
たとえば、下記特許文献1では、エンジン停止条件の成立時にエンジンを停止し、エンジン始動条件の成立時にスタータ手段を作動させてエンジンを始動するアイドルストップ車両において、エンジン始動条件が成立してスタータ手段の作動に伴ってバッテリの出力電圧が第1の設定値以下に低下したときに、制御手段により電圧補償手段を作動させてバッテリの出力電圧を補償させるアイドルストップ車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3826992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、アイドリングストップ車において更なる燃費向上を図るため、車両の停止中のみならず車両の減速中にもエンジンを停止させ、エンジン停止時間を延長する技術が開発されている。このような車両では、ドライバの操作によって走行中にエンジンが再始動する可能性があると同時に、当該エンジンの再始動と同じタイミングでABS(Antilock Brake System)やASC(Active Stability Control:横滑り防止機構)など、車両の制動力制御装置が動作する可能性がある。制動力制御装置(ABSやASC等)が動作した場合には、制動力制御に関わるマイコンの他、制動力制御に関わるアクチュエータ装置を動作させる必要がある。このようなアクチュエータ装置は、一般にマイコンよりも多くの電力を必要とする。
【0007】
車両の停止時にのみアイドリングストップをおこなう従来の車両で制動力制御装置の動作を担保するためには、制動力制御装置に関する処理をおこなうマイコンのリセットを防止すればよい。このため、従来技術にかかる電源補助装置では、マイコンの動作を維持する程度の電力補償しかされていない。一方、車両の走行中にもアイドリングストップをおこなう車両で制動力制御装置の動作を担保するためには、マイコンの他、マイコンよりも多くの電力を必要とするアクチュエータ装置が動作可能な程度の電力を補償する必要があり、従来技術にかかる電源補助装置では容量が不十分であるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の走行中にもアイドリングストップをおこなう車両で制動力制御装置の動作に必要な電力を確保することができる車両電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる車両電源装置は、予め設定された条件に応じてエンジンの自動停止および再始動を行うアイドリングストップシステムを備える車両においてバッテリの電力を供給する車両用電源装置であって、前記エンジンの再始動時、前記バッテリからの電流を昇圧して所定の車載電装機器へ供給する電力補助装置と、前記電力補助装置内の温度を検出する温度検出手段と、を備え、前記所定の車載電装機器群は、少なくとも前記車両の各車輪の制動力を制御して前記車両の挙動をコントロールする制動制御手段のアクチュエータ装置を含み、前記電力補助装置は、前記電力を昇圧する昇圧回路と、前記バッテリと前記第1電装機器とに対して前記昇圧回路と並列に接続されたリレーと、前記昇圧回路における昇圧電圧および前記リレーの接続状態を切り替える制御回路とを備え、前記制御回路には、デジタルシグナルプロセッサが搭載されており、定格出力電流量が前記アクチュエータ装置の起動時に発生する突入電流量よりも小さく、かつ瞬間的に出力可能な電流量が前記突入電流量を確保可能な量に設定されており、前記制御回路は、前記電力補助装置内の昇圧回路の温度が所定温度未満の場合には前記昇圧電圧を前記バッテリのバッテリ電圧とし、前記電力補助装置内の昇圧回路の温度が所定温度以上の場合には前記昇圧電圧を前記バッテリ電圧未満かつ前記所定の車載電装機器のリセット電圧より高くする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
発明によれば、エンジンの再始動時において、車両の制動力制御時に動作するアクチュエータ装置に対して電力補助装置で昇圧された電流が供給される。これにより、車両が走行中でもアイドリングストップからのエンジン再始動をおこなう場合でも、常時アクチュエータ装置の動作に必要な電力を供給することができ、制動力制御装置の動作を担保することができる。
発明によれば、制御回路にデジタルシグナルプロセッサが搭載されているので、電力補助装置の制御周期を極めて短くすることが可能となり、電力補助装置の容量を増大させることなく瞬間的な出力電流量を大きくすることができる。
発明によれば、電力補助装置内の温度が所定温度以上の場合には、電力補助装置内の温度が所定温度未満の場合よりも昇圧電圧を低くするので、頻繁にエンジンの再始動がおこなわれて補助電源装置が稼働する場合でも、補助電源装置内の温度上昇を抑えることができ、補助電源装置の温度が稼働温度範囲内に収まる時間を長くすることができる。
発明によれば、電力補助装置内の温度が所定温度未満の場合には昇圧電圧をバッテリのバッテリ電圧とし、電力補助装置内の温度が所定温度以上の場合には昇圧電圧をバッテリのバッテリ電圧未満かつ所定の車載電装機器のリセット電圧より高くするので、制動力制御装置を含む所定の車載電装機器のリセットを発生させることなく、補助電源装置の温度が稼働温度範囲内に収まる時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる車両電源装置10の構成を示す説明図である。
図2】制御回路406の機能的構成を示すブロック図である。
図3】制御回路406による制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる車両電源装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる車両電源装置10の構成を示す説明図である。車両電源装置10は、バッテリ20から車載電装機器群30へと電源を供給する装置であり、本実施の形態ではアイドリングストップ車(以下、単に「車両」という)に搭載されている。本実施の形態では、アイドリングストップ車の更なる燃費向上を図るため、車両の停止中のみならず、車両の走行中(減速中)にもアイドリングストップをおこなうようにしている。
【0014】
バッテリ20は、車両に搭載された12Vバッテリである。より詳細には、バッテリ20は、車両に搭載されたエンジン始動用モータ(セルモータ)50に電力を供給して作動させるとともに、セルモータ(エンジン始動用モータ)50以外の車載電装機器群30に電力を供給する。
セルモータ50はエンジン始動用のモータであり、ECU60の制御によって回転し、エンジン(図示なし)の初期的な回転を発生させ、その回転をもとに、エンジンが燃焼による自力での回転を開始する。より詳細には、ECU60がスイッチ52の開閉を制御することにより、セルモータ50への電力供給がオンオフされ、セルモータ50が回転および停止する。
【0015】
ここで、バッテリ20がセルモータ50に電力を供給する際、すなわち車両のエンジンを始動する際には、バッテリ20からセルモータ50に対して瞬間的に大量の電力が供給されて、バッテリ20の出力電圧が大幅に低下する。このため、セルモータ50以外の他の車載電装機器群30に対する電力供給量が不足し、車載電装機器群30のリセットや動作遅れ等が発生することになる。車両電源装置10が搭載された車両はアイドリングストップ車であるため、走行中もエンジンの再始動(セルモータ50の稼働)が頻繁におこなわれる。
そこで、本実施の形態では、車載電装機器群30の一部である所定の車載電装機器(第1電装機器30A)を電力補助装置であるDC/DCコンバータ40を介してバッテリ20と接続し、エンジン始動時にリセット等が生じないようにしている。
【0016】
車載電装機器群30は、車両に搭載された車載電装装置(たとえばECU60、カーナビゲーション装置、車内灯など)である。車載電装機器群は、少なくとも車両の制動力制御装置のアクチュエータ装置を含む第1電装機器30Aと、第1電装機器30A以外の第2電装機器30Bとに分けられる。第1電装機器30Aは、電力補助装置であるDC/DCコンバータ40を介してバッテリ20と接続されており、アイドリングストップからのエンジンの再始動時において、セルモータ(エンジン始動用モータ)50が作動された時には、DC/DCコンバータ(電力補助装置)40で昇圧された電流が供給される。また、第2電装機器30Bは、電力補助装置を介さずにバッテリ20と接続されている。このため、第2電装機器30Bに関しては、エンジン再始動時であるセルモータ(エンジン始動用モータ)50の作動時には、リセット等が生じる。
【0017】
第1電装機器30Aは、各車輪の制動力を制御して車両の挙動をコントロールする制動力制御装置であるABSやASCなどに関する処理をおこなうマイコンや制動力制御時に動作するアクチュエータ装置など、制動力制御装置の動作に必要な電装機器を含む。また、第1電装機器30Aには、カーナビゲーション装置などリセットが頻繁に生じることによりユーザが煩わしさを感じると考えられる車載電装機器が含まれていてもよい。
【0018】
電力補助装置であるDC/DCコンバータ40は、バッテリ20と第1電装機器30Aとの間に設けられ、バッテリ20から第1電装機器30Aへと供給される電流を昇圧する。DC/DCコンバータ40は、電流を昇圧する昇圧回路402と、バッテリ20と第1電装機器30Aとに対して昇圧回路402と並列に接続されたリレー404と、制御回路406と、を備える。
【0019】
昇圧回路402は、コイル402A、ダイオード402B、トランジスタ402C、コンデンサ402Dからなり、入力された電流を所望の目標電圧(昇圧電圧)へと昇圧する。昇圧電圧は、通常、第1電装機器30Aを正常に作動させるために必要な作動電圧(第1電装機器30Aのリセット電圧)以上、ここでは、バッテリ20のバッテリ電圧(本実施の形態では12V)とされるが、後述のように昇圧回路402内の温度が高い場合は、バッテリ電圧より小さい値とする。
【0020】
昇圧回路402内には、サーミスタ402Eが設けられている。サーミスタ402Eで測定された昇圧回路402内の温度は、制御回路406に入力される。なお、本実施の形態では昇圧回路402内の温度を測定することとするが、これに限らず電力補助装置であるDC/DCコンバータ40内の他の箇所の温度を測定して後述する制御をおこなってもよい。
【0021】
リレー404は、第1固定接点404Aと、第2固定接点404Bと、第1固定接点404Aと第2固定接点404Bとの間で切り替えられてリレー404を開閉する可動接点404Cとを有する。リレー404において、第1固定接点404Aは、リレー404を閉じる接続接点であるNC(Normally Close)端子、第2固定接点404Bは、リレー404を開く接続接点であるNO(Normally Open)端子である。そして、可動接点404Cの接続接点を切り替えてリレー404を開閉することで、電流の経路を第1経路と第2経路とで切り替え可能としている。
【0022】
可動接点404Cが第1固定接点404Aに接続されてリレー404が閉じられると、バッテリ20から第1電装機器30Aへと昇圧回路402を経由せずに電流がリレー404を介して供給される。すなわち、車両が通常走行中であり、バッテリ20の出力電圧の低下が生じない間は可動接点404Cは第1固定接点404Aに接続され、そのときの出力電圧と同電圧で電流が供給される。一方、可動接点404Cが第2固定接点404Bに接続されてリレー404が開かれると、バッテリ20から第1電装機器30Aへと昇圧回路402を経由して電流が供給される。すなわち、アイドリングストップ状態から車両のエンジンが再始動され、バッテリ電圧の低下が生じる間は可動接点404Cは第2固定接点404Bに接続され、低下した出力電圧より高い電圧(例えば、バッテリ20のバッテリ電圧)に昇圧された電流が供給される。
【0023】
制御回路406は、昇圧回路402における昇圧電圧の設定やリレー404の接続状態の切り替えなどをおこなう。制御回路406には、DSP(Digital Signal Processor:デジタルシグナルプロセッサ)4060が搭載されている。これは、制御回路406における処理速度を高速にして、DC/DCコンバータ40の出力を瞬間的に大きくするためである。
【0024】
より詳細には、第1電装機器30Aに含まれるアクチュエータ装置は、モータによって動力を得るが、モータは回転を開始して逆起電力を生じるまでの間の突入電流が非常に大きい。この突入電流は、モータの容量に比例して大きくなる。突入電流が充分確保できない場合、モータの始動遅れが生じる可能性があり、制動力制御装置の動作に支障を与える可能性がある。
【0025】
また一方で、アクチュエータ装置のモータの突入電流を最大値としてDC/DCコンバータ40などの電力補助装置を設計すると、電力補助装置のサイズや重量、そして製造コストが増大してしまう。特に電力補助装置のサイズが大きくなると、搭載スペースの限られた車両では設置が困難となる。すなわち、電力補助装置に要求される機能とサイズとを両立させるためには、瞬間的な大出力と小型化とを同時に成立させる必要がある。
【0026】
ここで、制動力制御装置の動作に伴う突入電流(アクチュエータ装置の動作に伴う突入電流)の発生頻度は低く、発生時間も極めて短時間で瞬間的である。また、昇圧回路402を構成する半導体などの素子も、瞬間的な通電電流は定常的な通電電流よりも非常に大きい特性を備える。すなわち、DC/DCコンバータ40におけるPWM制御において、フィードバック制御の周期を従来より極めて短時間とすることで、瞬間的な出力電流量を大きくすることができる。このため、本実施の形態では、DC/DCコンバータ40におけるPWM制御の制御周期を極めて短時間とする方法として、制御回路406にDSP4060を搭載した。このように、補助電源装置における制御と部品選定の組み合わせを適当におこなうことにより、瞬間的な出力のみを大きくしつつ装置本体の小型化を実現することができる。
【0027】
そして、本実施形態のDC/DCコンバータ40は、定格出力電流量が第1電装機器30Aに含まれる制動力制御装置のアクチュエータ装置の起動時に発生する突入電流量よりも小さく、瞬間的に出力可能な電流量がアクチュエータ装置の起動時に発生する突入電流量を確保可能な量に設定されている。
【0028】
図2は、制御回路406の機能的構成を示すブロック図である。制御回路406は、昇圧電圧設定部406A、スイッチング制御部406B、走行状態取得部406C、リレー制御部406D、電圧測定部406Eによって構成される。
昇圧電圧設定部406Aは、DC/DCコンバータ40による昇圧の目標値である昇圧電圧を設定する。スイッチング制御部406Bは、トランジスタ402Cのスイッチングタイミングを制御して、電流が所望の電圧に昇圧されるようにする。走行状態取得部406Cは、ECU60などから車両の走行状態(走行速度やアイドリングストップ後のエンジン再始動タイミング等)の情報を取得する。
【0029】
また、昇圧電圧設定部406Aは、サーミスタ402Eによって測定された昇圧回路402内の温度が所定温度以上の場合には、昇圧回路402内の温度が所定温度未満の場合よりも昇圧電圧を低くする。より詳細には、昇圧回路内の温度が所定温度未満の場合には昇圧電圧をバッテリ20のバッテリ電圧とし、昇圧回路402内の温度が所定温度以上の場合には昇圧電圧をバッテリ電圧未満かつ第1電装機器30Aのリセット電圧より高くする。
【0030】
アイドリングストップの頻度が多くなると、DC/DCコンバータ40などの電力補助装置の動作間隔も非常に短くなる。動作間隔が短くなると、電力補助装置内で発熱が生じても充分な放熱時間が確保できないので、熱量が蓄積され、電力補助装置の動作温度範囲に収まらなくなってしまう。そこで、電力補助装置では、装置内の温度が高くなると、動作温度範囲に収まる時間を延長するために垂下制御を行う。
【0031】
一般的な垂下制御では、出力電流や出力電圧をモニタして、一定範囲内に出力(パワー)を抑えるように制御を行う。しかし、モータの特性(突入電流と定常電流など)に合せて出力を変化させる場合、出力をモニタして垂下制御をおこなうことは困難である。例えば、出力電力が所定電力量以上となった時に垂下制御を行うようにした場合、モータの突入電流で瞬間的に出力が増大した場合にも出力が抑えられてしまい、必要な電力を供給することができない。
【0032】
そこで、本実施の形態では、昇圧回路402内の温度をモニタして、昇圧回路402の動作温度の限界に近づいた時にのみ定常的な出力(昇圧電圧)を低くするようにした。これにより、電力補助装置(DC/DCコンバータ40)において、突入電流による大幅な出力変化を可能にしつつ、垂下制御によって動作時間の延長を図ることが可能となる。
【0033】
リレー制御部406Dは、リレー404の可動接点404Cの接続接点を第1固定接点404Aと第2固定接点404Bとの間で切り替えることによりリレー404の開閉(接続)状態を切り替えるよう制御する。より詳細には、リレー制御部406Dは、走行状態取得部406Cによって取得された、車両の走行状態に基づいてリレー404の開閉(接続)状態を切り替える。すなわち、上述したように、車両が通常走行中であり、バッテリ20の出力電圧の低下が生じない間は可動接点404Cを第1固定接点404Aに接続してリレー404を閉じ、そのときの出力電圧と同電圧で電流を第1電装機器30Aへ供給する。一方、アイドリングストップ中に車両のエンジンが再始動され、バッテリ電圧の低下が生じる間は可動接点404Cを第2接点404Bに接続してリレー404を開き、低下した出力電圧より高い電圧(バッテリ20のバッテリ電圧と同電圧)に昇圧した電流を第1電装機器30Aへ供給する。
【0034】
電圧測定部406Eは、昇圧回路402の上流に位置する点PAと昇圧回路402の下流に位置する点PBとの間の電位差(電圧)を測定する。より詳細には、電圧測定部406Eは、昇圧回路402よりバッテリ20側の任意の点PAにおける第1電位(以下、電位αという)と、昇圧回路402より第1電装機器30A側の任意の点PBにおける第2電位(以下、電位βという)との電位差を測定する。電圧測定部406Eによって測定された電位差は、DC/DCコンバータ40のフィードバック制御等に用いられる。
【0035】
図3は、制御回路406による制御の手順を示すフローチャートである。図3のフローチャートにおいて、制御回路406は、サーミスタ402Eによって測定された昇圧回路402内の温度が所定温度以上であるか否かを判断する(ステップS301)。所定温度は、たとえば昇圧回路402の動作温度範囲の上限から十分な余裕をもたせた値とする。
【0036】
昇圧回路402内の温度が所定温度未満の場合は(ステップS301:No)、昇圧電圧を通常時の昇圧電圧であるバッテリ電圧と同電圧(12V)に設定する(ステップS302)。一方、昇圧回路402内の温度が所定温度以上の場合は(ステップS301:Yes)、昇圧回路402の温度が動作温度範囲より高くなる可能性があるため、垂下制御をおこなう。すなわち、昇圧電圧を通常時の昇圧電圧であるバッテリ電圧(12V)より低い値(12V未満)かつ第1電装機器30Aのリセット電圧より高い値に設定する(ステップS303)。これにより、昇圧電圧を下げて昇圧回路402内の温度上昇を抑えつつ、第1電装機器30AのうちECU60など定常的に動作する電装機器の動作に必要な電力を確保することができる。また、アクチュエータ装置のように瞬間的に大量の電力を消費する電装機器が動作した場合でも、DC/DCコンバータ40の制御周期をごく短時間とすることにより、要求される電力を供給することができる。
【0037】
つぎに、制御回路406は、ECU60から走行状態情報を取得して、エンジンの再始動、すなわちセルモータ50の稼働がおこなわれるか否かを判断する(ステップS304)。エンジンの再始動がおこなわれない場合は(ステップS304:No)、ステップS301に戻り、以降の処理を継続する。
【0038】
一方、エンジンの再始動がおこなわれる場合は(ステップS304:Yes)、リレー404の可動接点404Cを第2固定接点404Bに接続してリレー404を開き、バッテリ20から第1電装機器30Aへと昇圧回路402を経由して電流が供給されるようにして、供給電流の昇圧をおこなう(ステップS305)。エンジンの再始動が完了するまでは(ステップS306:No)、ステップS305に戻り昇圧を継続する。エンジンの再始動が完了したか否かは、たとえばDC/DCコンバータ40への入力電圧が所定電圧以上となったか否かによって判断する。
【0039】
そして、エンジンの再始動が完了すると(ステップS306:Yes)、リレー404の可動接点404Cを第1固定接点404Aに接続してリレー404を閉じ、バッテリ20から第1電装機器30Aへと昇圧回路402を経由せずに電流が供給されるようにする。すなわち、昇圧制御を停止して(ステップS307)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0040】
以上説明したように、実施の形態にかかる車両電源装置10は、第1電装機器30Aである車両の制動力制御時に動作するアクチュエータ装置に対して、セルモータ50(エンジン始動用モータ)の作動時には電力補助装置であるDC/DCコンバータ40で昇圧された電流を供給する。これにより、車両が通常の走行中でもアイドリングストップからのエンジン再始動時でも、常時アクチュエータ装置の動作に必要な電力を供給することができ、ABSやASCといった制動力制御装置の動作を担保することができる。
【0041】
また、車両電源装置10は、制御回路406にデジタルシグナルプロセッサ4060が搭載されているので、DC/DCコンバータ40(電力補助装置)の制御周期を極めて短くすることが可能となり、電力補助装置の容量を増大させることなく瞬間的な出力電流量を大きくすることができる。
【0042】
また、車両電源装置10は、DC/DCコンバータ40(本実施の形態では昇圧回路402)内の温度が所定温度以上の場合には、DC/DCコンバータ40内の温度が所定温度未満の場合よりも昇圧電圧を低くするので、頻繁にエンジンの再始動がおこなわれてDC/DCコンバータ40が稼働する場合でも、DC/DCコンバータ40(昇圧回路402)内の温度上昇を抑えることができ、DC/DCコンバータ40の温度が稼働温度範囲内に収まる時間を長くすることができる。
【0043】
また、車両電源装置10は、DC/DCコンバータ40内の温度が所定温度未満の場合には昇圧電圧をバッテリ電圧と同電圧とし、DC/DCコンバータ40内の温度が所定温度以上の場合には昇圧電圧をバッテリ電圧未満かつ第1電装機器30Aのリセット電圧より高くするので、第1電装機器30Aのリセットを発生させることなく、DC/DCコンバータ40の温度が稼働温度範囲内に収まる時間を長くすることができる。
【符号の説明】
【0044】
10……車両電源装置、20……バッテリ、30……車載電装機器群、30A……第1電装機器、30B……第2電装機器、40……DC/DCコンバータ、50……セルモータ、52……スイッチ、402……昇圧回路、402A……コイル、402B……ダイオード、402C……トランジスタ、402D……コンデンサ、402E……サーミスタ、404……リレー、404A……第1固定接点、404B……第2固定接点、404C……可動接点、406……制御回路、406A……昇圧電圧設定部、406B……スイッチング制御部、406C……走行状態取得部、406D……リレー制御部、406E……電圧測定部、4060……デジタルシグナルプロセッサ
図1
図2
図3