(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、エンジンのクランク軸(出力軸)の回転に連動して走行するベルトの張力を調整するためのものである。本実施形態では、複数のプーリ(ベルト車)に巻き掛けられたベルトの張力を調整するための機構(ベルト張力調整機構)と、この機構を用いてベルトに作用する張力を制御するシステム(ベルト張力調整システム)とについて説明する。
【0018】
この実施形態では、エンジンとして、車両に搭載されたものを例に挙げて説明する。また、ベルトが走行する方向(走行方向)を基準に上流および下流を定める。なお、ベルトが走行するとは、ベルトが回転するように各プーリを順次経由して循環しながら進行することを意味する。すなわち、ベルトの走行方向において、ベルトの任意の箇所が移動していく側が下流側であり、その逆側が上流側である。
【0019】
〔一実施形態〕
[1.構成]
[1−1.車両の基本構成]
はじめに、車両の基本構成について説明する。
図2に示すように、車両にはエンジン1が搭載されている。エンジン1は、シリンダ(図示略)内で燃料を燃焼させてピストン(図示略)を往復動させる所謂レシプロエンジンである。このエンジン1は、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸1a(一部を破線で示す)を備えている。なお、エンジン1は、後述する制御装置70によって制御される。
【0020】
エンジン1には、これを冷却する冷却水の温度(水温)を検出する水温センサ91が設けられている。また、エンジン1には、そのクランク軸1aの回転数を検出する回転数センサ(回転数検出手段)92が設けられている。なお、クランク軸1aの回転数を検出する回転数センサ92に替えて、変速機3の出力軸や車輪5の回転数などの車速に対応する回転数を検出するもの(回転数検出手段)を用いてもよい。この場合、検出された回転数や変速機3のギヤ段などからクランク軸1aの回転数を算出することができる。これらのセンサ91,92により検出された各情報は、後述する制御装置70に伝達される。
【0021】
クランク軸1aには、二系統の動力伝達系9,10が連結されている。ここでは、クランク軸1aにおいて、その一端に一方の動力伝達系9が連結され、その他端に他方の動力伝達系10が連結されている。
一方の動力伝達系9は、駆動輪として機能する車輪5(一箇所のみに符号を付す)とエンジン1との間の動力を伝達するためのものである。この動力伝達系9は、シャフトやギヤなどを介して動力を伝達するものであり、エンジン1から車輪5に向けて、クラッチ2,変速機3,シャフトやディファレンシャルなどのギヤシャフト機構4を備えている。なお、
図2にはプロペラシャフトを備えたFR方式の車両を例示するが、一方の動力伝達系9は、プロペラシャフトの有無に関わらず、FF方式,MR方式,RR方式の車両や四輪駆動の車両に用いられるものであってもよい。
【0022】
[1−2.ベルトドライブ系]
他方の動力伝達系(以下、「ベルトドライブ系」という)10は、エンジン1とその補機との間の動力を伝達するものである。具体的には、エンジン1のクランク軸1aに連結されたクランクプーリ(第1プーリ)21および各種補機の回転軸といった軸周りの部位に連結されたプーリ22,23と、これらのプーリ21,22,23に巻き掛けられた一本のベルト11とを備え、ベルト11を介して動力を伝達するものである。すなわち、ベルトドライブ系10は、一本のベルト11で複数の補機を駆動するサーペンタイン式の動力伝達系である。言い換えれば、ベルト11は、クランクプーリ21から各種補機のプーリ22,23へと動力を伝達する。なお、ベルトドライブ系10において動力を伝達するプーリ21,22,23のそれぞれの中心位置は、エンジン1または各種補機に対して固定されており、可動なものではない。
【0023】
さらに、ベルトドライブ系10は、ベルト11の張力(以下、「ベルト張力」という)を電動で調整し制御する張力調整装置80(
図1参照)を備える。この張力調整装置80については、その詳細を後述する。
ここでは、補機として電動発電機(回転電機,ベルトスタータジェネレータ〈Belt Starter Generator〉或いはインテグレーテッドスタータジェネレータ〈Integrated Starter Generator〉などとも称される。以下、「ベルトスタータジェネレータ」という)12とコンプレッサ13とを例に挙げて説明する。ベルトスタータジェネレータ12の回転軸12aにはベルトスタータジェネレータプーリ(第2プーリ)22が連結され、コンプレッサ13の回転軸13aにはコンプレッサプーリ23が連結されている。
【0024】
以下、ベルト11,ベルトスタータジェネレータ12およびコンプレッサ13の順に各構成を説明する。
ベルト11は、無端状であり、ゴムおよびこれを補強する心線などを有して構成されている。ベルト11としては、平ベルト,VベルトおよびVリブドベルトといった種々のタイプのものを用いることができる。
【0025】
図1に矢印で示すように、ベルト11は、その任意の箇所がクランクプーリ21,ベルトスタータジェネレータプーリ22,コンプレッサプーリ23の順に経由する方向に走行する。
ベルトスタータジェネレータ12は、電動機としての機能と発電機としての機能とを併せもつものである。このベルトスタータジェネレータ12には、
図2に示すように、電力線を介してバッテリ6が接続されている。ベルトスタータジェネレータ12が電動機として機能するときには、バッテリ6からベルトスタータジェネレータ12に給電され、回転軸(出力軸)12aから動力が出力される。一方、ベルトスタータジェネレータ12が発電機として機能するときには、回転軸12aが入力軸として機能し、ベルトスタータジェネレータ12からバッテリ6への給電によりバッテリ6が充電される。
【0026】
詳細に言えば、ベルトスタータジェネレータ12は、エンジン1を始動させる電動機としての機能(モータ機能)を有する。具体的には、エンジン1が停止状態であるとともにクラッチ2が遮断状態であるときに、ベルトスタータジェネレータ12を電動機(電動モータ)として作動させることで、クランク軸1aを回転駆動してエンジン1を始動させる。このとき、クランク軸1aは、ベルトドライブ系10からの回転駆動力が入力される入力軸として機能する。
【0027】
また、ベルトスタータジェネレータ12は、車両の走行駆動源としての機能を有する。具体的には、エンジン1が停止しているとともにクラッチ2および変速機3が動力伝達可能な状態であるときに、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させることで、停止しているエンジン1のクランク軸1aを連れ回し、これに連結された他方の動力伝達系9を介して車輪5を回転させる。このとき、クランク軸1aは、一方の動力伝達系9に回転駆動力を出力する出力軸して機能する。
【0028】
なお、ベルトスタータジェネレータ12は、エンジン1をアシストする補助的な走行駆動源としての機能も有する。具体的には、エンジン1が作動しているとともにクラッチ2および変速機3が動力伝達可能な状態、即ち、車両が走行状態であるときに、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させることで、エンジン1がアシストされた状態で車両が走行する。
【0029】
一方、ベルトスタータジェネレータ12は、エンジン1により駆動されて発電作動する発電機能を有する。エンジン1が作動しているとき、即ちクランク軸1aが出力軸として機能しているときに、ベルトスタータジェネレータ12を発電機として作動させることで、発電した電力がバッテリ6に供給され、バッテリ6が充電される。
なお、ベルトスタータジェネレータ12は、後述する制御装置70によって制御される。
【0030】
コンプレッサ13は、車両の空調システムに用いられる冷媒を圧縮するものである。このコンプレッサ13は、回転軸13aが入力軸として機能し、コンプレッサプーリ23から入力される回転駆動力で冷媒を圧縮する。
【0031】
[1−3.張力調整装置]
次に、
図1を参照して、張力調整装置80について説明する。
張力調整装置80は、ベルト張力を調整するテンション調整機構90と、テンション調整機構90を作動させるアクチュエータ(調整手段)60と、アクチュエータ60の作動を制御する制御装置70とを有する。
このテンション調整機構90は、一対のテンションプーリ30と、一対のテンションプーリ30のそれぞれを軸支する一対のアーム40と、一対のアーム40を互いに連結するスプリング(付勢手段)49と、一対のアーム40を互いに結合する結合部50と、を有する。
【0032】
以下、張力調整装置80の各要素について、テンション調整機構90を構成する一対のテンションプーリ30,一対のアーム40,スプリング49および結合部50を説明し、その次にアクチュエータ60および制御装置70を説明する。
一対のテンションプーリ30は、第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32とから構成されている。
【0033】
第1テンションプーリ31は、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側に設けられている。ここでは、第1テンションプーリ31がクランクプーリ21とベルトスタータジェネレータプーリ22との間に配置されている。
一方、第2テンションプーリ32は、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の下流側に設けられている。この第2テンションプーリ32は、第1テンションプーリ31と向き合って設けられている。ここでは、第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32との間には、他のプーリが設けられていない。また、第2テンションプーリ32がコンプレッサプーリ23とベルトスタータジェネレータプーリ22との間に配置されている。
【0034】
テンションプーリ31,32のそれぞれは、ベルト11に接して設けられている。すなわち、各テンションプーリ31,32は、ベルト11を押圧する。ここでは、テンションプーリ31,32のそれぞれが、ベルト11が形成しているループ(環)の外側から内側に向かってベルト11を押圧している。
テンションプーリ31,32は、それぞれの回転軸31a,32aを中心に回転するように設けられている。言い換えれば、テンションプーリ31,32は、それぞれが押圧するベルト11が走行すると、回転軸31a,32aを中心に回転するように設けられている。
【0035】
一対のアーム40は、第1アーム41と第2アーム42とから構成されている。これらのアーム41,42はV字型をなす。
第1アーム41は、第1テンションプーリ31の回転軸31aを支持している。ここでは、第1アーム41の一端部41aに回転軸31aが結合されている。
同様に、第2アーム42は、第2テンションプーリ32の回転軸32aを支持している。ここでは、第2アーム42の一端部42aに回転軸32aが結合されている。
【0036】
これらのアーム41,42は、所定平面に投影したときに互いに重複する箇所Pを有する。ここでは、重複する箇所Pに、第1アーム41の他端部41bと第2アーム42の他端部42bとが位置する。なお、所定平面とは、ベルト11,クランクプーリ21,ベルトスタータジェネレータプーリ22,コンプレッサプーリ23が設けられた平面である。言い換えれば、所定平面は、クランク軸1aや回転軸12a,13aの軸方向に直交する平面である。
【0037】
スプリング49は、第1アーム41と第2アーム42とを連結するバネである。このスプリング49は、第1アーム41と第2アーム42とを対向する方向へ付勢する。具体的にいえば、スプリング49は、第1アーム41と第2アーム42とを接近させる方向へ付勢力を作用させる引張バネである。
図1では、第1アーム41における一端部41aと他端部41bとの間と、第2アーム42における一端部42aと他端部42bとの間とのそれぞれにスプリング49が結合されたものを例示する。ただし、スプリング49は、アーム41,42が重複する箇所P以外であれば、アーム41,42の何れの箇所に結合されていてもよい。例えば、第1アーム41の一端部41aと第2アーム42の一端部42aとにスプリング49が結合されていてもよい。なお、スプリング49に替えて、第1アーム41と第2アーム42とを対向する方向に付勢するゴム部材(付勢手段)を用いてもよい。
【0038】
結合部50は、上記の重複する箇所Pを結合している。すなわち、結合部50は、第1アーム41と第2アーム42とがV字型をなすように、第1アーム41と第2アーム42を結合している。ここでは、第1アーム41の他端部41bと第2アーム42の他端部42bとが結合されている。
【0039】
この結合部50は、第1アーム41と第2アーム42とのなす角度が変更自在となるように、第1アーム41と第2アーム42とを結合している。詳細は図示省略するが、例えば結合部50は、アーム41,42のそれぞれに設けられた孔を重ね合わせ、重ね合わせた孔にこの内径よりも微小に小さい外径のピンを挿入し、ピンの抜け止めを施して形成することができる。なお、結合部50は、一対のアーム40が互いになす角度を変更自在に結合していれば、上記のピン接合に限らず、例えばボールや対応する凹凸形状を用いた機構などの種々の型式のものを用いることができる。
また、結合部50は、エンジン1に対して移動可能(可動)である。言い換えれば、結合部50はエンジン1に固定されていない。
【0040】
アクチュエータ60は、電動であり、
図1に両矢印で示すように、その作動軸60aを進退駆動(出没駆動)するものである。この作動軸60aの先端部には、結合部50が結合されている。ここでは、作動軸60aとアーム41,42のそれぞれとのなす角度が変更自在に、作動軸60aの先端部と結合部50とが結合されている。すなわち、アクチュエータ60は、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近させる方向へ変位(移動)させて第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32とを移動させ、ベルト張力を調整するものである。このため、アクチュエータ60は、結合部50を介してこれを含むテンション調整機構90を作動させるものいえる。
図1では、結合部50がベルトスタータジェネレータプーリ22に対して真っ直ぐに離反または接近されるものを例示するが、結合部50の変位方向は、少なくともベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近する方向のベクトル成分を有していればよい。なお、アクチュエータ60は、エンジン1に対して固定されている。
このアクチュエータ60は、その作動が下記の制御装置70によって制御され、エンジン1の運転状態やベルトスタータジェネレータ12の作動状態などに合わせて結合部50を変位させる。
【0041】
[1−4.制御装置]
制御装置70は、少なくともエンジン1,ベルトスタータジェネレータ12およびアクチュエータ60を制御する機能を持った電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM,RAMなどを集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。
【0042】
[1−4−1.エンジンおよびベルトスタータジェネレータの制御]
はじめに、エンジン1の制御について説明する。
制御装置70は、エンジン1に関する点火系,燃料系,吸排気系および動弁系といった広汎なシステムを制御する。なお、制御装置70は、制御対象であるエンジン1が作動しているか停止しているかなどの運転状態を判別可能である。
ここでは、制御装置70について、エンジン1を自動停止(アイドルストップ)させる制御と、自動停止されたエンジン1を再始動(アイドルスタート)させる制御との二つの制御に着目して説明する。
【0043】
制御装置70の入力側には、ブレーキスイッチやアクセルポジションセンサなどのエンジン1の自動停止および再始動にかかる各種センサ(何れも図示略)が接続されている。かかる各種センサの情報に基づいて、制御装置70はエンジン1の自動停止および再始動を制御する。
【0044】
制御装置70は、所定の自動停止条件が成立したことを判定すると、エンジン1を自動停止させる。自動停止条件としては、ブレーキ操作がされていることやアクセル操作がされていないこと,車速が所定速度以下であることなどが挙げられる。なお、制御装置70は、エンジン1が自動停止しているときに、エンジン1の作動中から継続して起動しており各制御を継続して実施する。一方、制御装置70は、エンジン1が手動で停止されたときに停止し、これに伴い各制御も実施しない。
【0045】
また、制御装置70は、エンジン1が自動停止されているときに所定の再始動条件が成立したことを判定すると、エンジン1を再始動させる。再始動条件としては、後述する電動単独走行条件が不成立であって、ブレーキ操作が解除されたことやアクセル操作がされたことなどが挙げられる。
なお、再始動条件は、エンジン1が実際に再始動される直前に成立する。これは、再始動条件が成立してからエンジン1を実際に再始動させるからである。制御装置70は、再始動条件の成立を判定すると、アクチュエータ60を制御してベルト張力を調整した後に、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させる。
【0046】
次に、ベルトスタータジェネレータ12の制御について説明する。
制御装置70の入力側には、イグニッションスイッチやバッテリ蓄電量センサなどのベルトスタータジェネレータ12の制御にかかる各種センサ(何れも図示略)が接続されており、かかる各種センサの情報に基づいて、ベルトスタータジェネレータ12の作動を制御する。
【0047】
この制御装置70は、所定の電動機条件が成立したことを判定すると、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させる。この電動機条件は、例えば下記の(A1)〜(A4)の何れかが満たされたときに成立する。
(A1)イグニッション操作がされたこと。
(A2)再始動条件が成立したこと。
(A3)電動単独走行条件が成立したこと。
(A4)電動アシスト走行条件が成立したこと。
【0048】
上記(A1)は、手動でエンジン1が始動操作されることと同義である。
上記(A2)が満たされて電動機条件が成立したときは、上述したように、アクチュエータ60が制御されてからベルトスタータジェネレータ12が電動機として作動する。
上記(A3)の電動単独走行条件とは、ベルトスタータジェネレータ12単独で車両を走行させるための条件である。この電動単独走行条件としては、バッテリ6(
図2参照)の蓄電量が第1所定量以上であることや発車時であることなどが挙げられる。ここでいう第1所定量とは、ベルトスタータジェネレータ12単独で車両を走行させたとしてもバッテリ6の蓄電量に余裕がある電力量として、予め実験的または経験的に設定されたものである。
【0049】
上記(A4)の電動アシスト走行条件は、ベルトスタータジェネレータ12がエンジン1をアシストするための条件である。この電動アシスト走行条件としては、バッテリ6(
図2参照)の蓄電量が第2所定量以上であることや発進時であることなどが挙げられる。ここでいう第2所定量とは、ベルトスタータジェネレータ12で車両走行をアシストしたとしてもバッテリ6の蓄電量に余裕がある電力量として、予め実験的または経験的に設定されたものである。なお、第2所定量は第1所定量よりも小さく設定することが好ましい。これは、ベルトスタータジェネレータ12で車両走行をアシストするときの方が、ベルトスタータジェネレータ12単独で車両を走行させるときよりも電力消費量が少なく、ベルトスタータジェネレータ12で車両走行をアシストする機会を確保することができるからである。
【0050】
また、制御装置70は、エンジン1が作動しているときに所定の発電機条件が成立したことを判定すると、ベルトスタータジェネレータ12を発電機として作動させる。この発電機条件は、例えば下記の(B1)または(B2)が満たされたときに成立する。
(B1)ベルトスタータジェネレータ12による発電が必要なこと。
(B2)ベルトスタータジェネレータ12による回生制動が必要なこと。
【0051】
上記(B1)は、バッテリ6の蓄電量が第3所定量以下であるときや電力消費量が多いときに満たされる。ここでいう第3所定量とは、コンプレッサ13をはじめとした各種補機を駆動させるのに余裕のある電力量として、予め実験的または経験的に設定されたものである。なお、第3所定量は、第1所定量よりも小さく設定することができる。
【0052】
上記(B2)は、車両の制動が要求されているときにバッテリ6の蓄電量が第4所定量以下であると満たされる。車両の制動が要求されているときとしては、ブレーキ操作がされていることが挙げられる。また、第4所定量は、バッテリ6の蓄電量の上限よりも所定のマージン分だけ少ない電力量として、予め実験的または経験的に設定されている。
なお、上記(B1)と(B2)とは、バッテリ6の蓄電量にかかる判定が異なるだけでなく、上記(B1)は加速時および減速時の何れでも満たされるのに対し、上記(B2)はおもに減速時に満たされる点で異なる。
【0053】
制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12を作動させるときに、その入出力トルクの大きさを取得可能に構成されている。具体的にいえば、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させるときの出力トルクの大きさと、ベルトスタータジェネレータ12が発電機として作動させるときの入力トルクの大きさとを取得可能である。例えば、制御装置70は、バッテリ6からベルトスタータジェネレータ12への給電量やベルトスタータジェネレータ12からバッテリ6への給電量の情報を取得し、各給電量に対応するベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクの大きさを取得することができる。
【0054】
[1−4−2.アクチュエータの制御]
次に、アクチュエータ60の制御について説明する。
制御装置70は、アクチュエータ60を制御することでベルト張力を制御する。具体的にいえば、制御装置70は、作動軸60aが没入する方向にアクチュエータ60の作動を制御することで、ベルト張力を増加させ、逆に、作動軸60aが進出する方向にアクチュエータ60の作動を制御することで、ベルト張力を減少させる。言い換えれば、制御装置70は、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反させる方向へ変位させてテンションプーリ31,32を移動させることでベルト張力を増加させ、逆に、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して接近させる方向へ変位させてテンションプーリ31,32を移動させることでベルト張力を減少させる。このようにして、ベルト張力が調整される。
【0055】
この制御装置70は、エンジン1の作動状態(運転状態)と、各種センサ91,92からの情報と、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクおよび作動状態とに基づいて、ベルト張力を調整する。ここでは、制御装置70が、アクチュエータ60を制御する際に、エンジン1およびベルトスタータジェネレータ12の各作動状態に応じてベルト張力を設定し、設定されたベルト張力(以下、「ベルト張力T」ともいう)を各種センサ91,92からの情報とベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクとに応じて補正するものを例に挙げて説明する。
【0056】
はじめに、ベルト張力の設定について説明する。ここでは、設定される張力の大きさの範囲が、昇順に並ぶ第1張力範囲,第2張力範囲および第3張力範囲の三段階に設定されるものを説明する。各張力範囲に、昇順に並ぶ張力1,2,3,4,5および6の六段階の張力を割り振れば、第1張力範囲に張力1および2が含まれ、第2張力範囲に張力3および4が含まれ、第3張力範囲に張力5および6が含まれる。
【0057】
第1張力範囲内のベルト張力は、ベルトドライブ系9の各要素にかかる負担が極めて小さく、また、ベルト11の動力伝達が困難な大きさである。
第2張力範囲内のベルト張力は、ベルトスタータジェネレータ12が発電機として機能するときや電動機として機能してアシスト走行するときに動力を十分に伝達することができる大きさであり、また、コンプレッサ13を駆動する動力を十分に伝達することができる大きさである。
【0058】
第3張力範囲内のベルト張力は、ベルトスタータジェネレータ12が単独で車両を走行駆動するときやエンジン1を始動するときに動力を十分に伝達することができる大きさである。なお、第2張力範囲内のベルト張力では、ベルトスタータジェネレータ12が走行駆動源として機能するときやエンジン1の始動時には動力を十分に伝達することが困難である。
【0059】
制御装置70は、エンジン1の停止時にベルト張力を第1張力範囲内または第3張力範囲内で設定する。具体的には、エンジン1が自動停止されたときにベルト張力が第1張力範囲内で設定され、エンジン1が始動されるとき(エンジン1を始動させる直前)にベルト張力が第3張力範囲内で設定される。一方、制御装置70は、エンジン1の作動時にベルト張力を第2張力範囲内で設定する。すなわち、制御装置70は、エンジン1が自動停止した場合にベルト張力を減少させ、この後のエンジン1が再始動するときにベルト張力を増加させるように設定する。言い換えれば、制御装置70は、エンジン1が自動停止した場合にベルト張力を減少させ、この自動停止後かつエンジン1が再始動するときにベルト張力を増加させるようにアクチュエータ60を制御する。
【0060】
以下、制御装置70によるベルト張力の設定を詳細に説明する。
まず、エンジン1の停止時におけるベルト張力について説明する。
制御装置70は、エンジン1が自動停止されたときにベルト張力の大きさを第1張力範囲内で設定する。このときのベルト張力としては、張力1または2を採用することができる。なお、エンジン1が手動で停止されたときには制御装置70も停止するため、ベルト張力は設定されない。この場合、アクチュエータ60は作動せず、ベルト張力は最も小さくなる。
【0061】
一方、制御装置70は、エンジン1が始動されるときにベルト張力を第3張力範囲内で設定する。言い換えれば、上記(A1)および(A2)が満たされることで電動機条件が成立したときに、ベルト張力が第3張力範囲内で設定される。このときのベルト張力としては、張力6を採用することができる。
また、電動単独走行条件が成立したとき、即ち上記(A3)が満たされたときに、制御装置70はベルト張力を第3張力範囲内で設定する。このときのベルト張力としては、張力5を採用することができる。例えば、ベルトスタータジェネレータ12単独で車両を走行させている最中に再始動条件が成立したときには、ベルト張力が張力5から張力6に設定変更される。
【0062】
次に、エンジン1の作動時におけるベルト張力について説明する。
制御装置70は、上述したように、エンジン1の作動時にはベルト張力を第2張力範囲内で設定する。この第2張力範囲内において、制御装置70は、電動機条件または発電機条件が成立したときのベルト張力よりも、電動機条件および発電機条件の何れもが不成立のときにベルト張力を小さく設定する。言い換えれば、ベルトスタータジェネレータ12が電動機または発電機として機能するときのベルト張力よりも、ベルトスタータジェネレータ12が電動機および発電機の何れとしても機能しないときのベルト張力が小さく設定される。すなわち、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12の作動時におけるベルト張力よりも、ベルトスタータジェネレータ12の非作動時におけるベルト張力を小さくなるようにアクチュエータ60を制御する。
【0063】
例えば、エンジン1の作動時に電動機条件および発電機条件の何れもが不成立のときのベルト張力が張力3に設定され、電動機条件または発電機条件が成立したときのベルト張力が張力4に設定される。
なお、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12による発電が必要なとき(例えば加速中の発電時)のベルト張力と回生制動が必要なとき(例えば減速中の発電時)のそれとを異なる大きさに設定してもよい。例えば、確実な減速を重視する場合には、ベルトスタータジェネレータ12による発電が必要なときのベルト張力よりも回生制動が必要なときのそれを大きく設定することができる。逆に、加速性能を重視する場合には、回生制動が必要なときのベルト張力よりも発電が必要なときのそれを小さくすることができる。
制御装置70によって設定されたベルト張力Tをまとめると、下記の表1に示すようになる。
【0065】
以下、設定されたベルト張力Tの補正について説明する。
制御装置70は、水温センサ91により検出された温度(以下、「冷却水温」という)に応じてベルト張力Tを補正する。言い換えれば、制御装置70は、水温センサ91で検出された温度に応じてベルト張力が増減するようにアクチュエータ60を制御する。具体的にいえば、制御装置70は、冷却水温が高くなるほどベルト張力Tを減少させる。逆に言えば、ベルト張力Tは、冷却水温が低くなるほど増加補正される。この補正としては、例えば下記の(a)または(b)の手法を採用することができる。
(a)冷却水温が低くなるほど1よりも大きくなるように予め設定された係数αをベルト張力Tに乗算する。
(b)冷却水温が所定水温よりも低いときにベルト張力Tを増加補正する。
【0066】
上記(a)の係数αは、冷却水温に対して線形に設定されたものを用いてもよいし、これに替えて、冷却水温が低くなるほど係数αの減少度合が変化するなどの非線形に設定されたものを用いてもよい。
上記(b)の具体的な手法としては、冷却水温が所定水温よりも低いときに、設定されたベルト張力Tを段階的に減少させることが挙げられる。この所定水温は、エンジン1の温度状態を判定する閾値として予め実験的または経験的に設定されたものである。この所定温度としては、エンジン1の冷態を判定する冷態閾値温度やこれに加えてエンジン1の温態を判定する温態閾値温度などを用いることができる。冷態閾値温度は例えば10℃や15℃といった温度に設定され、温態閾値温度は例えば65℃や70℃といった温度に設定される。
【0067】
なお、所定温度に冷態閾値温度と温態閾値温度との二つが設定される場合には、設定されたベルト張力Tに二段階の補正がされるため、ベルト張力Tを補正するための大きさ(補正代)を確保すべく、エンジンが自動停止されたときに設定されるベルト張力Tは張力2であることが好ましい。
【0068】
また、制御装置70は、回転数センサ92により検出された回転数(以下、「クランク回転数」という)に応じてベルト張力Tを補正する。言い換えれば、制御装置70は、クランク回転数に応じてベルト張力が増減するようにアクチュエータ60を制御する。具体的にいえば、制御装置70は、クランク回転数が高くなるほどベルト張力Tを増加させる。逆に言えば、ベルト張力Tは、クランク回転数が低くなるほど減少補正される。この補正としては、上記(a)のように、クランク回転数が高くなるほど1よりも大きくなるように予め設定された係数βをベルト張力Tに乗算する手法を採用することができる。
【0069】
また、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクに応じてベルト張力Tを補正する。言い換えれば、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクに応じてベルト張力が増減するようにアクチュエータ60を制御する。具体的にいえば、制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクが大きくなるほどベルト張力Tを増加させる。この補正としては、上記(a)のように、入出力トルクが大きくなるほど1よりも大きくなるように予め設定された係数γをベルト張力Tに乗算する手法を採用することができる。
【0070】
さらに、制御装置70は、ベルト張力Tの増加補正および減少補正の何れかを優先してもよい。例えば、ベルト11の動力伝達を重視する場合には、制御装置70がベルト張力Tを増加させる補正を優先してもよい。具体的には、冷却水温は低く且つクランク回転数が低いときに、冷却水温に応じてベルト張力Tを増加させる補正度合が大きくされ、クランク回転数に応じてベルト張力Tを減少させる補正度合が小さくされる。また、冷却水温が高く且つベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクが大きいときには、冷却水温に応じてベルト張力Tを減少させる補正度合が小さくされ、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクに応じてベルト張力Tを増加させる補正度合が大きくされる。逆に、エンジン1の出力確保や燃費を重視する場合には、制御装置70がベルト張力Tを減少させる補正を優先してもよい。
【0071】
なお、制御装置70は、マップに基づいてベルト張力Tを補正してもよい。ここでいうマップとは、冷却水温,クランク回転数およびベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクとベルト張力Tの補正度合との対応関係が予め設定されたもの(テーブルや数式)である。
【0072】
[2.フローチャート]
次に、
図3のフローチャートを用いて、制御装置70により実施されるベルト張力の設定および補正の手順について説明する。このフローチャートは、手動でイグニッション操作がされてエンジン1の始動が完了すると所定の制御周期で実施され、エンジン1が手動で停止されると終了する。また、フローチャート中の各ステップは、制御装置70のハードウェアに割り当てられた各機能がソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することで実施される。
なお、手動でイグニッション操作がされると、制御装置70は、アクチュエータ60を制御してベルト張力を張力6に設定し、ベルトスタータジェネレータ12を電動機として作動させて、エンジン1を始動させる。
【0073】
ステップS10では、エンジン1が作動しているか否かを判定する。エンジン1が作動していればステップS12へ移行し、エンジン1が作動していなければ、即ちエンジン1が自動停止されていれば、ステップS20へ移行する。
【0074】
ステップS12では、電動機条件が成否を判定する。このステップS12は、エンジン1が作動しているもとで電動機条件の成否を判定しているため、上記(A4)の電動アシスト走行条件の成否を判定しているのと同義である。電動アシスト走行条件が成立していればステップS14へ移行し、そうでなければステップS16へ移行する。
ステップS14では、ベルト張力Tを第2張力範囲内の張力4に設定する。そして、ステップS30へ移行する。
【0075】
また、ステップS16では、発電機条件の成否を判定する。発電機条件が成立していればステップS18へ移行し、そうでなければステップS19へ移行する。このステップ16において、肯定判定されるのはベルトスタータジェネレータ12による発電または回生制動が必要なときであり、また、否定判定されるのは電動機条件および発電機条件の何れもが不成立のときである。
【0076】
ステップS18では、ベルト張力Tを第2張力範囲内の張力4に設定する。なお、ステップS18においては、ベルトスタータジェネレータ12による発電が必要なときと回生制動が必要なときとでベルト張力Tの大きさを変えてもよい。そして、ステップS30へ移行する。
ステップS19では、ベルト張力Tを第2張力範囲内の張力3に設定する。そして、ステップS30へ移行する。
【0077】
また、ステップS20では、電動単独走行条件の成否を判定する。電動単独走行条件が成立していればステップS22へ移行し、そうでなければステップS24へ移行する。
ステップS22では、ベルト張力Tを第3張力範囲内の張力5に設定する。そして、ステップS30へ移行する。
【0078】
また、ステップS24では、再始動条件の成否を判定する。再始動条件が成立していればステップS26へ移行し、そうでなければステップS28へ移行する。
ステップS26では、ベルト張力Tを第3張力範囲内の張力6に設定する。そして、ステップS30へ移行する。
【0079】
また、ステップS28では、ベルト張力Tを第1張力範囲内の張力1または2に設定する。そして、ステップS30へ移行する。
ステップS30では、ベルト張力Tを冷却水温,クランク回転数,ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクに応じて補正する。そして、本制御周期を終了(以下、「リターン」という)する。
【0080】
[3.作用および効果]
本実施形態のベルト張力調整機構およびベルト張力調整システムは上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
まず、ベルト張力調整機構についての作用および効果について述べる。
結合部50が第1アーム41と第2アーム42とを結合するため、一対のアームがそれぞれエンジンに支持されるものに比較して、簡素な構成とすることができる。具体的には、アーム41,42において所定平面に投影したときに互いに重複する箇所Pを、エンジン1に対して可動に設けられた結合部50が結合するため、上述した課題で挙げた技術のように一対のアームがそれぞれエンジンに支持されるものに比較して、簡素な構成とすることができる。これにより、製造コストや組立コストの上昇を抑制することができる。
【0081】
また、上述した課題で挙げた技術では、ベルトの二箇所を押圧するのに二つのアクチュエータを必要とする。一方、本発明のベルト張力調整機構では、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側および下流側の箇所、即ちベルト11の二箇所を押圧するのに、一箇所の結合部50を移動させる一つのアクチュエータ60で足りる。したがって、簡素な構成とすることができる。
【0082】
一般に、電動機として機能するときのベルトスタータジェネレータに対して下流側のベルト張力は上流側のそれよりも小さく、逆に、発電機として機能するときのベルトスタータジェネレータに対して上流側のベルト張力は下流側のそれよりも大きくなる。ベルト張力の小さい側ではベルトが弛むおそれがあり、この弛み側は、ベルトスタータジェネレータが発電機として機能するときと電動機として機能するときとで上流側と下流側とに入れ替わる。これに対し、本実施形態のベルト張力調整機構によれば、第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32とがベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側および下流側のベルト11をそれぞれ押圧するため、張力が小さい方のベルト11を常に押圧することができる。したがって、ベルト11の弛みが常に抑制され、ベルト11の滑りを防止することができる。
【0083】
言い換えれば、アクチュエータ60は、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近させる方向へ変位させ、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側に設けられた第1テンションプーリ31とベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の下流側に設けられた第2テンションプーリ32とを移動させ、ベルト11の張力を調整するため、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側および下流側のそれぞれにおいて、ベルト11の張力を調整することができる。つまり、ベルトスタータジェネレータプーリ22に対してベルト11の走行方向の上流側および下流側のそれぞれにおいてベルト11を常に押圧することができる。したがって、ベルト11の弛みが常に抑制され、ベルト11の滑りを防止することができる。
これらより、簡素な構成で、ベルト11の滑りを防止することができる。
【0084】
結合部50は、第1アーム41と第2アーム42とのなす角度が変更自在になるように、第1アーム41と第2アーム42とを結合しているため、各アーム41,42に軸支される各テンションプーリ31,32のそれぞれが、押圧するベルト11に円滑に追従することができる。これにより、ベルト張力を円滑に調整することができる。
さらに、ベルト11の弛み側とその反対側(張り側)のベルト張力が過大になることを回避することができる。これにより、ベルト11や各軸1a,12a,13aをはじめとしたベルトドライブ系10の各部品の耐久性を確保することができる。
【0085】
第1アーム41と第2アーム42とを互いに連結し、第1アーム41と第2アーム42とを対向する方向へ付勢するスプリング49を備えているため、張り側に配置されたテンションプーリ31,32の一方と弛み側に配置されたテンションプーリ31,32の他方とを接近させるように付勢力を作用させることで、張り側のベルト反力の大きさに応じた力が弛み側のアームに伝達されるため、張り側のベルト張力を弛み側に伝達して、張り側におけるベルト張力の大きさと弛み側のそれとの差を小さくすることができる。このように、張り側と弛み側とのベルト張力を適切にバランスすることができる。
【0086】
また、スプリング49は、ベルト張力の脈動成分を吸収するダンパとしても機能するため、テンションプーリ31,32のベルト11への追従性を向上させることができる。延いては、ベルト11の滑り防止や耐久性の向上に寄与する。
【0087】
第1アーム41と第2アーム42とはV字型をなすため、各アーム41,42の長さを変更して結合部50の位置を変更すれば、結合部50を移動させるアクチュエータ60の位置を変更することができ、レイアウトの自由度を向上させることができる。
アーム41,42は、各一端部41a,42aにテンションプーリ31,32のそれぞれを軸支し、各他端部41b,42bが結合部50により結合されているため、テンションプーリ31,32が各アームの端部以外の箇所に軸支されたものや結合部50が各アームの端部以外の箇所に結合されたものに比較して、材料コストの上昇を抑制することができる。
【0088】
アクチュエータ60は、エンジン1の運転状態に合わせてベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近させる方向へ結合部50を変位させることにより、エンジン1の運転状態に合わせてベルト張力の大きさを適切に調整することができる。また、アクチュエータ60は、ベルトスタータジェネレータ12の作動状態に合わせてベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近させる方向へ結合部50を変位させるため、ベルトスタータジェネレータ12の作動状態に合わせてベルト張力の大きさを適切に調整することができる。
【0089】
次に、ベルト張力調整システムについての作用および効果について述べる。
制御装置70が、エンジン1が自動停止した場合にベルト張力を減少させるように、ベルト張力を調整するテンション調整機構90を作動させるアクチュエータ60を制御するため、ベルト11を介して動力伝達がなされていないときに、アクチュエータ60のエネルギー消費、即ち電力消費を抑制することができる。延いては、燃費の抑制に寄与する。また、ベルト張力が小さくなる機会を確保して、ベルト11や各軸1a,12a,13aをはじめとしたベルトドライブ系10にかかる各部品の耐久性を向上させることができる。
【0090】
一方、制御装置70は、エンジン1の自動停止後かつエンジン1が再始動するときにベルト張力を増加させるようにアクチュエータ60を制御するため、ベルト11の滑りを防止して、エンジン1を確実に再始動させることができる。
これらのように、エンジン1の作動状態に応じて、ベルト張力の大きさを適切に調整することができる。
【0091】
一般に、ゴムを有するベルトは、その温度が低くなるほど硬化する。これにより、ベルトの温度が低くなるほど、ベルトのプーリへの追従性が低下するおそれがある。ベルトはエンジンの周辺に設けられているため、エンジンの冷却水の温度が低くなると、ベルトの温度も低くなる傾向にある。また、冷却水の温度が低くなるとエンジン内の潤滑材(エンジンオイル)の粘度が高くなり、エンジンフリクションも大きくなりなり、始動に際しクランクプーリにより大きな負荷(トルク)が必要となるためベルト滑りが発生し易い状況となる。
【0092】
これに対し、本実施形態のベルト張力調整システムでは、制御装置70が、冷却水温が低くなるほどベルト張力を増加補正する。すなわち、制御装置70は、ベルト張力が増加するようにアクチュエータ60を制御する。このため、ベルト11の各プーリ21,22,23への追従性を確保することができ、ベルト11の滑りを防止することができる。延いては、ベルトスタータジェネレータ12,コンプレッサ13を確実に作動させることができる。逆に、制御装置70は、冷却水温が高くなるほどベルト張力を減少補正する。すなわち、制御装置70は、ベルト張力が減少するようにアクチュエータ60を制御する。このため、フリクションロスを低減させることで、燃費を向上させることができる。つまり、ベルト11の動力伝達効率を向上させることができる。また、ベルト11などのベルトドライブ系10にかかる各部品の耐久性を向上させることができる。
【0093】
一般に、ベルト張力が一定のもとでは、クランク軸の回転数が高くなるとベルトの走行速度が上昇することで、ベルトがばたつく傾向にある。ベルトがばたつくと、ベルトの動力伝達に支障をきたすおそれがある。
これに対し、本実施形態のベルト張力調整システムでは、制御装置70が、クランク回転数が高くなるほどベルト張力を増加補正する。すなわち、制御装置70は、ベルト張力が増加するようにアクチュエータ60を制御する。このため、ベルト11のばたつきが抑制される。したがって、ベルト11が動力を確実に伝達することができる。逆に、制御装置70は、クランク回転数が低くなるほどベルト張力を減少補正する。つまり、制御装置70は、ベルト張力が減少するようにアクチュエータ60を制御する。このため、ベルト11のばたつきが抑えられた状況において、ベルト11の動力伝達効率を向上させることができる。
【0094】
制御装置70は、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクが大きくなるほどベルト張力を増加補正する。すなわち、制御装置70は、ベルト張力が増加するようにアクチュエータ60を制御する。このため、ベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクの大きさに応じて、適切なベルト張力を設定することができる。
【0095】
制御装置70は、エンジン1が作動しているもとでは、ベルトスタータジェネレータ12が電動機または発電機として機能するときのベルト張力よりも、ベルトスタータジェネレータ12が電動機および発電機の何れとしても機能しないときのベルト張力を小さく設定なるようにアクチュエータ60を制御する。したがって、ベルトスタータジェネレータ12にかかる動力伝達が不要なときのベルト張力が抑制され、フリクションロスを低減することができる。これにより、燃費を向上させ、動力伝達効率を向上させることができる。また、ベルト11などのベルトドライブ系10にかかる各部品の耐久性を向上させることができる。
【0096】
ベルトスタータジェネレータ12およびコンプレッサ13が作動しているエンジン1の作動時にベルト張力が第2張力範囲内で設定され、ベルトスタータジェネレータ12およびコンプレッサ13が作動していないエンジン1が自動停止されたときにベルト張力が第2張力範囲よりも小さい第1張力範囲内で設定されるため、ベルトスタータジェネレータ12およびコンプレッサ13にかかる動力伝達を確保するとともに、電力消費を抑制することができる。
【0097】
エンジン1をベルトスタータジェネレータ12がアシストするときにベルト張力が第2張力範囲内で設定され、エンジン1を再始動するときのベルト張力が第2張力範囲よりも大きい第3張力範囲内で設定されるため、エンジン1をベルトスタータジェネレータ12がアシストすることができるとともに、エンジン1を確実に再始動させることができる。
エンジン1が自動停止されたときにベルト張力が第1張力範囲内で設定され、エンジン1が自動停止後であってエンジン1が再始動するときにベルト張力が第1張力範囲よりも大きい第3張力範囲内で設定されるため、エンジン1を確実に再始動させることができるとともに、電力消費を抑制することができる。
【0098】
エンジン1が自動停止されたときにベルト張力が第1張力範囲内で設定され、エンジン1をベルトスタータジェネレータ12がアシストするときにベルト張力が第2張力範囲内で設定され、ベルトスタータジェネレータ12が単独で車両を走行させるときのベルト張力が第1張力範囲および第2張力範囲の何れよりも大きい第3張力範囲内で設定されるため、エンジン1をベルトスタータジェネレータ12がアシストすることができ、また、電力消費を抑制することができるとともに、車両をベルトスタータジェネレータ12単独で確実に走行させることができる。
【0099】
〔変形例〕
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明のベルト張力調整機構およびベルト張力調整システムは上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
以下の説明では、結合部の変形例について説明する。なお、ここでいう異なる点を除いては上述の一実施形態の構成と同様の構成になっている。
【0100】
本変形例の結合部は、第1アーム41と第2アーム42とのなす角度を固定している。言い換えれば、結合部が、一対のアーム40を互いに固定している。例えば結合部は、溶接,接着および加締めといった公知の固定手法で第1アーム41と第2アーム42とを固定して形成することができる。また、第1アーム41と第2アーム42とを一体形成して結合部を形成してもよい。
【0101】
この結合部は、アクチュエータ60の作動軸60aに対して、一対のアーム40のなす角度が変更自在に結合されている。具体的には、第1アーム41と第2アーム42とのなす角度は固定されたまま、作動軸60aとアーム41,42それぞれとのなす角度が変更自在に結合されている。なお、結合部で互いに固定された一対のアーム40には、上述したスプリング49が設けられていない。
本変形例によれば、上述の一実施形態にかかる効果に加えて、スプリング49を要せず、簡素な構成とすることができる。また、結合部の構造が簡素となり、製造コストの低減に寄与する。
【0102】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、上述した一実施形態および変形例の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
上述の一実施形態では、一対のアーム40を互いに連結するスプリング49が設けられたものを示したが、このスプリング49は省略してもよい。敷衍して言えば、テンション調整機構90は、少なくともベルト11の張力を調整するための機構であればよく、スプリング49は必須ではない。この場合、テンションプーリ31,32のベルト11への追従性が低下するものの、簡素な構成とすることができる。
【0103】
また、一対のアーム40を所定平面に投影したときにV字型をなすものを説明したが、一対のアーム40の互いになす角度が変更自在であれば、一対のアーム40を所定平面に投影したときにI字型であってもよい。この場合、レイアウトの自由度は低下するものの、一対のアーム40のそれぞれを短くすることができ、材料コストの低減に寄与する。
【0104】
また、第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32との間には、他のプーリが設けられていないものを説明したが、例えば第1テンションプーリ31と第2テンションプーリ32との間にベルトスタータジェネレータプーリ22が配置されていてもよい。このように、各プーリ21,22,23,31,32は、種々のレイアウトで配置することができる。
【0105】
上述の一実施形態では、テンションプーリ31,32がベルト11のループの外側から内側に押圧するものを示したが、これに限らず、
図1に一点鎖線で示すように、第1テンションプーリ31とクランクプーリ21およびベルトスタータジェネレータプーリ22それぞれとの間にアイドラプーリが設けられ、第2テンションプーリ32とベルトスタータジェネレータプーリ22およびコンプレッサプーリ23それぞれとの間にアイドラプーリが設けられていれば、テンションプーリ31,32がベルト11のループの内側から外側に押圧して、ベルトの張力が調整される。この場合、スプリング49を設けるときには、第1アーム41と第2アーム42とを離反させる方向(対向する方向)へ付勢する圧縮バネを用いる。また、制御装置70は、作動軸60aが没入する方向にアクチュエータ60の作動を制御することで、ベルト張力を減少させ、逆に、作動軸60aが進出する方向にアクチュエータ60の作動を制御することで、ベルト張力を増加させる。言い換えれば、制御装置70は、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して接近させる方向へ変位させてテンションプーリ31,32を移動させることでベルト張力を増加させ、逆に、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反させる方向へ変位させてテンションプーリ31,32を移動させることでベルト張力を減少させる。このようにして、ベルト張力が調整される。
【0106】
また、ベルトドライブ系10の補機として、ベルトスタータジェネレータ12とコンプレッサ13を例に挙げて説明したが、コンプレッサ13に替えてまたは加えて、エンジン1を冷却する冷却水を圧送するウォータポンプや、ステアリング操舵力を補助(アシスト)するオイルを圧送するステアリングポンプなどを用いてもよい。この場合、各補機の回転軸にそれぞれプーリが連結され、各プーリにベルト11が巻き掛けられる。
【0107】
さらに言えば、テンションプーリ31,32は、ベルトスタータジェネレータ12に限らずその他の補機に連結されたプーリの上流側および下流側のそれぞれに配置されてもよい。この場合、補機の負荷が変動することで、ベルト11の弛みを抑制するのに必要なベルト張力が、補機の上流側と下流側とで変動する。これに対して、本発明のベルト張力調整機構によれば、簡素な構成で、ベルトの滑りを防止することができる。
【0108】
上述の一実施形態では、アクチュエータ60と制御装置70とが別体のものを示したが、これに替えて、これらを一体に設けた電制アクチュエータを用いてもよい。この場合、装置数が低減され、簡素な構成とすることができる。
また、制御装置70がエンジン1を制御するものを示したが、これに替えて、制御装置70とは別の制御装置(エンジンECU)がエンジン1を制御する構成としてもよい。この場合、制御装置70は、別の制御装置からエンジン1の自動停止および再始動の情報を取得し、取得情報に基づいてアクチュエータ60の作動を制御する。
【0109】
一方、アクチュエータ60に替えて、結合部50をベルトスタータジェネレータプーリ22に対して離反または接近させる方向へ変位させるバネやおもり(調整手段)を用いてもよい。この場合、エンジン1の運転状況やベルトスタータジェネレータ12の作動状況に合わせてベルト張力を調整することはできないものの、アクチュエータ60の制御が不要となり、簡素な構成とすることができる。
【0110】
上述の一実施形態では、冷却水温,クランク回転数およびベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクに基づいてベルト張力Tを補正するものを示したが、冷却水温,クランク回転数およびベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクの何れかに基づいてベルト張力Tを補正してもよい。さらに言えば、ベルト張力Tの補正を省略してもよい。かかる場合、制御装置70の演算負荷を軽減させることができる。
【0111】
また、制御装置70は、ベルト張力Tを設定し補正するのに替えて、予め記憶されたマップに基づいてベルト張力Tを設定してもよい。このマップには、エンジン1の作動状態,ベルトスタータジェネレータ12の作動状態,冷却水温,クランク回転数およびベルトスタータジェネレータ12の入出力トルクとベルト張力Tとの対応関係が予め記憶されている。この場合、制御装置70の演算負荷を軽減させることができる。