(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331311
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】ラテラルフロー用テストストリップ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/542 20060101AFI20180521BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20180521BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20180521BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
G01N33/542 A
G01N33/543 521
G01N33/543 541Z
G01N33/543 575
C12Q1/68 A
C12Q1/00 C
C12Q1/00 Z
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-204855(P2013-204855)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68764(P2015-68764A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】勝亦 優
(72)【発明者】
【氏名】土屋 真紀子
【審査官】
西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−012816(JP,A)
【文献】
特開2012−189453(JP,A)
【文献】
特開2013−120120(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0084017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象物と第一物質の反応によって形成された複合物と第二物質とを反応させることで発生する検出可能なシグナルを測定し、測定した前記シグナルの強度から所定時間におけるシグナル増加率を算出し、算出した前記シグナル増加率を予め設定したシグナル増加率の基準値と比較することで前記分析対象物の濃度を判断し、
前記第二物質は、化学結合または物理結合によって第二支持体に固定化されることを特徴とするラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項2】
前記所定時間は、前記複合物と前記第二物質との反応が飽和するまでの時間よりも短く、
前記シグナル増加率は、前記分析対象物と前記第一物質との反応開始時から前記所定時間までの前記シグナル強度の時間変化率を利用して算出されることを特徴とする請求項1に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項3】
前記シグナル増加率は、予め設定した単位時間での前記シグナル強度の時間変化量を利用して算出されることを特徴とする請求項1に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項4】
前記シグナルは、光学的、電気化学的、磁気化学的手法のうちいずれか1つによって検出可能なものであり、
前記測定は、光学的、電気化学的、磁気化学的手法のうちいずれか1つを用いた測定であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項5】
前記第二物質は、メンブレンの所定の位置に固定化されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項6】
前記分析対象物と前記第一物質との反応は、前記分析対象物と前記第一物質とを混合する手段によって行われることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項7】
前記複合物と前記第二物質との反応は、前記分析対象物と前記第二物質とを混合する手段によって行われることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項8】
前記分析対象物と前記第一物質との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項9】
前記複合物と前記第二物質との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項10】
前記第一物質は、化学結合または物理結合によって第一支持体に固定化されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項11】
前記第一物質と前記第二物質のそれぞれは、アミノ酸、核酸、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、リン脂質、糖質、多糖、低分子化合物、無機物質及びこれらの融合体のいずれか1つであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項12】
前記アミノ酸と前記ポリペプチドのそれぞれは、タンパク質、タンパク質断片、結合ドメイン、標的結合ドメイン、結合タンパク質、結合タンパク質断片、抗体、抗体断片、抗体重鎖、抗体軽鎖、1本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab抗体断片、Fc抗体断片、Fv抗体断片、F(ab’)2抗体断片、Fab’抗体断片、1本鎖Fv(scFv)抗体断片、抗体結合ドメイン、抗原、抗原決定基、エピトープ、ハプテン、免疫原、免疫原断片、ビオチン、ビオチン誘導体、アビジン、ストレプトアビジン、基質、酵素、抗体酵素、補因子、受容体、受容体断片、受容体サブユニット、受容体サブユニット断片、ホルモン、レクチン、ポリヒスチジンのいずれか1つであることを特徴とする請求項11に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項13】
前記核酸は、mRNA、総RNA、ゲノムDNA、プラスミドDNA、植物DNAのいずれか1つであることを特徴とする請求項11に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項14】
前記分析対象物は、脂質、炭水化物、タンパク質、抗体、抗原、代謝産物、ホルモン、核酸のいずれか1つであることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項15】
前記第一および第二支持体は、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、ニトロセルロース、シリコンの樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、セラミックス及びその複合体のいずれか1つによって構成されることを特徴とする請求項10に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項16】
前記第一支持体は、金コロイド、銀コロイド、鉄コロイド、アルミニウムコロイド、または白金コロイドを含む金属コロイド粒子、または高分子化合物を材料とする粒子であることを特徴とする請求項10に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項17】
前記高分子化合物を材料とする粒子は、蛍光色素内包粒子または可視色素内包粒子であることを特徴とする請求項16に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項18】
前記蛍光色素内包粒子に内包された蛍光色素は、二価のマンガン、鉛、アンチモン、セリウム、三価のセリウム、三価のクロム、二価または三価の鉄、三価または四価のチタン、銅、銀、二価のサマリウム、二価または三価のユーロピウム、三価のテルビウム、三価のジスプロシウム、三価のホルミウム、三価のエルビウム、ウラニル化合物、ルテニウム化合物、錫化合物、タリウム化合物、ビスマス化合物、タングステン酸化合物、モリブデン酸化合物、硫黄、バナジウム化合物、ランタン化合物、プラセオジム化合物、ネオジム化合物、プロメチウム化合物、ガドリニウム化合物、ツリウム化合物、イッテルビウム化合物、ルテチウム化合物の群から選ばれる少なくとも1つの物質を含んだ色素であることを特徴とする請求項17に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【請求項19】
前記免疫学的方法は、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫検定法(FIA)、細胞免疫染色法、組織免疫染色法、免疫沈降法、フローサイトメトリー法、蛍光標示式細胞分取法(FACS)、イムノクロマトグラフィー法、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)、表面プラズモン共鳴法(SPR)、二面偏波式干渉法(DPI)、エリプソメトリー法、ELISPOT法、ウェスタンブロッティング法のいずれか1つを用いて測定可能な方法であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のラテラルフロー用テストストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、ラテラルフロー用テストストリップに関し、特に、試料中の分析対象物の濃度を定量的且つ迅速的に測定する方
法を用いたラテラルフロー用テストストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
基礎医学の目覚しい進歩により優れた治療薬や先進医療技術が開発されているものの、食生活・生活環境等の様々な要因により、がんや自己免疫疾患、感染症、循環器系疾患等の多種多様な疾患による不安は極めて大きい。こうした不安の解消には疾患の早期発見が重要である。近年、臨床検査においてベッドサイド検査やポイントオブケアテスティング(POCT)とよばれる、迅速且つ簡易なシステムでの検査が求められている。
【0003】
ラテラルフロー用テストストリップは、迅速且つ簡易に試料中の分析対象物を検出できるため、例えば、臨床分野、食品分野、環境検査等において広く応用されており、特に妊娠検査薬におけるホルモン検出、インフルエンザ検査におけるウイルス検出、ウイルス感染おける抗体検出等で利用されている。このラテラルフロー用テストストリップの一般的な構造は、滴下した試料を一定量保持可能なサンプルパッドと、その下流に配置され、試料に含まれる分析対象物である抗原に特異的な抗体が感作された粒子が乾燥状態で保持されている結合パッドと、その抗原を検出する抗体が固相化された部位(所謂、テストライン)及び粒子表面に備わる抗体を認識する抗体が固相化された部位(所謂、コントロールライン)を持つ展開膜(所謂、メンブレン)と、更にその下流に配置され、毛細管現象によって浸潤してきた試料を吸収する吸収パッドとの4種の特性を持った部材が一体化したものである。サンプルパッドに滴下された試料は、毛細管現象によりテストストリップ内を展開し、抗原抗体反応によりテストライン部分及びコントロールライン部分で粒子が検出される。一般的には、目視で確認できるようにテストストリップ幅は、5mmに設定されており、使用試料量は、100μl以上に設定されている。
【0004】
通常用いられるラテラルフロー用テストストリップでは、試料滴下後、その試料を一定時間展開させた後、所定経過時間におけるシグナルを検出する。例えは、上記5mm幅のテストストリップであって、試料を100μl使用するものであれば、20分程度展開させた後にライン強度(シグナル強度)を測定する。このような技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−271341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法で試料中に含まれた分析対象物(例えば、抗原)の濃度を測定する際、シグナルを十分に検出するまで待機を要する等、実働における時間制限を要し、感染症等の迅速な診断においては大きな障害となることがある。このため、簡易であり、より迅速な方法で分析対象物の定量が可能な方法(つまり、分析対象物の濃度測定方法)が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みて、従来技術と比較して、より迅速に分析対象物の濃度を測定することができる方
法を用いたラテラルフロー用テストストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、分析対象物と第一物質の反応によって形成された複合物と第二物質とを反応させることで発生する検出可能なシグナルを測定し、測定した前記シグナルの強度から所定時間におけるシグナル増加率を算出し、算出した前記シグナル増加率を予め設定したシグナル増加率の基準値と比較することで前記分析対象物の濃度を判断することを特徴とする分析対象物の濃度測定方法である。
【0009】
また、上記濃度測定方法において、前記所定時間は、前記複合物と前記第二物質との反応が飽和するまでの時間よりも短く、前記シグナル増加率は、前記分析対象物と前記第一物質との反応開始時から前記所定時間までの前記シグナル強度の時間変化率を利用して算出されることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記シグナル増加率は、予め設定した単位時間での前記シグナル強度の時間変化量を利用して算出されることとしてもよい。
【0010】
また、上記濃度測定方法において、前記シグナルは、光学的、電気化学的、磁気化学的手法のうちいずれか1つによって検出可能なものであり、前記測定は、光学的、電気化学的、磁気化学的手法のうちいずれか1つを用いた測定であることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、ラテラルフロー用テストストリップに用いることとしてもよい。
【0011】
また、上記濃度測定方法において、前記第二物質は、前記ラテラルフロー用テストストリップを構成するメンブレンの所定の位置に固定化されていることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記分析対象物と前記第一物質との反応は、前記分析対象物と前記第一物質とを混合する手段によって行われることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記複合物と前記第二物質との反応は、前記分析対象物と前記第二物質とを混合する手段によって行われることとしてもよい。
【0012】
また、上記濃度測定方法において、前記分析対象物と前記第一物質との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記複合物と前記第二物質との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われることとしてもよい。
【0013】
また、上記濃度測定方法において、前記第一物質は、化学結合または物理結合によって第一支持体に固定化されていることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記第二物質は、化学結合または物理結合によって第二支持体に固定化されることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記第一物質と前記第二物質のそれぞれは、アミノ酸、核酸、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、リン脂質、糖質、多糖、低分子化合物、無機物質及びこれらの融合体のいずれか1つであることとしてもよい。
【0014】
また、上記濃度測定方法において、前記アミノ酸と前記ポリペプチドのそれぞれは、タンパク質、タンパク質断片、結合ドメイン、標的結合ドメイン、結合タンパク質、結合タンパク質断片、抗体、抗体断片、抗体重鎖、抗体軽鎖、1本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab抗体断片、Fc抗体断片、Fv抗体断片、F(ab’)2抗体断片、Fab’抗体断片、1本鎖Fv(scFv)抗体断片、抗体結合ドメイン、抗原、抗原決定基、エピトープ、ハプテン、免疫原、免疫原断片、ビオチン、ビオチン誘導体、アビジン、ストレプトアビジン、基質、酵素、抗体酵素、補因子、受容体、受容体断片、受容体サブユニット、受容体サブユニット断片、ホルモン、レクチン、ポリヒスチジンのいずれか1つであることとしてもよい。
【0015】
また、上記濃度測定方法において、前記核酸は、mRNA、総RNA、ゲノムDNA、プラスミドDNA、植物DNAのいずれか1つであることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記分析対象物は、脂質、炭水化物、タンパク質、抗体、抗原、代謝産物、ホルモン、ウイルス、微生物、細胞、末梢血、血清、血漿、腹水、尿、脳脊髄液、痰、唾液、骨髄、滑液、眼房水、羊水、耳垢、母乳、気管支肺胞洗浄液、精液、前立腺液、カウパー液若しくは射精前液、汗、糞便、毛髪、涙、嚢胞液、胸水若しくは腹水、囲心腔液、リンパ液、糜粥、乳糜、胆汁、間質液、月経分泌物、膿、皮脂、嘔吐物、膣分泌物、粘膜からの分泌物、水便、膵液、鼻腔からの洗浄液、気管支肺吸引物、胚盤胞腔液、臍帯血のいずれか1つであることとしてもよい。
【0016】
また、上記濃度測定方法において、前記第一および第二支持体は、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、ニトロセルロース、シリコンの樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、セラミックス及びその複合体のいずれか1つによって構成されることとしてもよい。
【0017】
また、上記濃度測定方法において、前記第一支持体は、金コロイド、銀コロイド、鉄コロイド、アルミニウムコロイド、または白金コロイドを含む金属コロイド粒子、または高分子化合物を材料とする粒子であることとしてもよい。
また、上記濃度測定方法において、前記高分子化合物を材料とする粒子は、蛍光色素内包粒子または可視色素内包粒子であることとしてもよい。
【0018】
また、上記濃度測定方法において、前記蛍光色素内包粒子に内包された蛍光色素は、二価のマンガン、鉛、アンチモン、セリウム、三価のセリウム、三価のクロム、二価または三価の鉄、三価または四価のチタン、銅、銀、二価のサマリウム、二価または三価のユーロピウム、三価のテルビウム、三価のジスプロシウム、三価のホルミウム、三価のエルビウム、ウラニル化合物、ルテニウム化合物、錫化合物、タリウム化合物、ビスマス化合物、タングステン酸化合物、モリブデン酸化合物、硫黄、バナジウム化合物、ランタン化合物、プラセオジム化合物、ネオジム化合物、プロメチウム化合物、ガドリニウム化合物、ツリウム化合物、イッテルビウム化合物、ルテチウム化合物の群から選ばれる少なくとも1つの物質を含んだ色素であることとしてもよい。
【0019】
また、上記濃度測定方法において、前記免疫学的方法は、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫検定法(FIA)、細胞免疫染色法、組織免疫染色法、免疫沈降法、フローサイトメトリー法、蛍光標示式細胞分取法(FACS)、イムノクロマトグラフィー法、水晶振動子マイクロバランス法(QCM)、表面プラズモン共鳴法(SPR)、二面偏波式干渉法(DPI)、エリプソメトリー法、ELISPOT法、ウェスタンブロッティング法のいずれか1つを用いて測定可能な方法であることとしてもよい。
また、本発明の別の態様は、上記記載の分析対象物の濃度測定方法を用いたことを特徴とするラテラルフロー用テストストリップである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様であれば、試料の反応開始後、所定時間における検出シグナルの強度変化の傾き(つまり、時間変化率)を算出する。そして、その算出した値を、予め算出しておいた各設定濃度における分析対象物のシグナル強度変化の傾きと比較する。こうして、測定試料に含まれる分析対象物の濃度の決定を行う。
このため、本発明の一態様によれば、シグナルが十分に検出されるまで(シグナル強度が飽和するまで)待機する必要がないので、従来技術と比較して、より迅速に分析対象物の濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る濃度測定方法の基本概念を示す図である。
【
図2】本実施例において測定された、各抗原濃度に対するシグナル強度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本実施形態で使用される試料と、本実施形態で測定される分析対象物について、具体例を挙げつつ説明する。
(試料について)
本発明の実施形態で使用される試料は、生体試料であって液状のものが好ましい。上記試料としては、例えば、末梢血、血清、血漿、腹水、尿、脳脊髄液、痰、唾液、骨髄、滑液、眼房水、羊水、耳垢、母乳、気管支肺胞洗浄液、精液、前立腺液、カウパー液若しくは射精前液、汗、糞便、毛髪、涙、嚢胞液、胸水若しくは腹水、囲心腔液、リンパ液、糜粥、乳糜、胆汁、間質液、月経分泌物、膿、皮脂、嘔吐物、膣分泌物、粘膜からの分泌物、水便、膵液、鼻腔からの洗浄液、気管支肺吸引物、胚盤胞腔液、臍帯血等である。
【0023】
(分析対象物について)
本発明の実施形態における分析対象物は、例えば、脂質、炭水化物、タンパク質、抗体、抗原、代謝産物、ホルモン、ウイルス、微生物、細胞、末梢血、血清、血漿、腹水、尿、脳脊髄液、痰、唾液、骨髄、滑液、眼房水、羊水、耳垢、母乳、気管支肺胞洗浄液、精液、前立腺液、カウパー液若しくは射精前液、汗、糞便、毛髪、涙、嚢胞液、胸水若しくは腹水、囲心腔液、リンパ液、糜粥、乳糜、胆汁、間質液、月経分泌物、膿、皮脂、嘔吐物、膣分泌物、粘膜からの分泌物、水便、膵液、鼻腔からの洗浄液、気管支肺吸引物、胚盤胞腔液、臍帯血のいずれか1つである。より詳しくは、例えば、核酸、脂質、炭水化物、タンパク質等であって、特に、DNA、RNA、抗体、抗原、代謝産物、ホルモン、ウイルス、微生物、細胞、腫瘍マーカー、心疾患マーカーである。以下、これらの分析対象物の具体例について説明する。
【0024】
上述のタンパク質としては、例えば、血漿タンパク質、血清タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、腫瘍マーカー、アポタンパク質、ウイルス抗原、自己抗体等が挙げられる。
また、上述の血漿タンパク質や血清タンパク質としては、例えば、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)、補体成分(C3、C4、C5、C1q)、CRP、α1−アンチトリプシン、α1−マイクログロブリン、β2−マイクログロブリン、ハプトグロビン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン等が挙げられる。
【0025】
また、上述の腫瘍マーカーとしては、例えば、α−フェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、CA19−9、CA125、CA15−3、SCC抗原、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、PIVKA−II、γ−セミノプロテイン、TPA、エラスターゼI、神経特異エノラーゼ(NSE)、免疫抑制酸性タンパク(IAP)等が挙げられる。
【0026】
また、上述のアポタンパク質としては、例えば、アポA−I、アポA−II、アポB、アポC−II、アポC−III、アポE等が挙げられる。
また、上述のウイルス抗原としては、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)関連抗原、C型肝炎ウイルス(HVC)関連抗原、HTLV−I、HIV、狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルス、風疹ウイルス等が挙げられる。より詳しくは、HCV関連抗原としては、例えば、HCVc100−3リコビナント抗原、pHCV−31リコビナント抗原、pHCV−34リコビナント抗原等が挙げられ、それらの混合物が好ましく使用できる。また、HIV関連抗原としては、ウイルス表面抗原等が挙げられ、例えば、HIV−I env.gp41リコビナント抗原、HIV−I env.gp120リコビナント抗原、HIV−Igag.p24リコビナント抗原、HIV−II env.p36リコビナント抗原等が挙げられる。また、ウイルス以外の感染症としては、MRSA、ASO、トキソプラズマ、マイコプラズマ、STD等が挙げられる。
【0027】
また、上述の自己抗体としては、例えば、抗マイクロゾーム抗体、抗サイログロブリン抗体、抗核抗体、リュウマチ因子、抗ミトコンドリア抗体、ミエリン抗体等が挙げられる。
また、上述のホルモンとしては、例えば、下垂体ホルモン(LH、FSH、GH、ACTH、TSH、プロラクチン)、甲状腺ホルモン(T3、T4、サイログロブリン)、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、副腎皮質ホルモン(アルドステロン、コルチゾール)、性腺ホルモン(hCG、エストロゲン、テストステロン、hPL)、膵・消化管ホルモン(インスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ガストリン)、その他(レニン、アンジオテンシンI,II、エンケファリン、エリスロポエチン)等が挙げられる。
【0028】
また、上述の心疾患マーカーとしては、例えば、クレアチニンキナーゼ(CK)、CKのアイソザイムであるCK−MB、ミオグロビン、心臓型脂肪酸結合蛋白(H−FABP)、ミオシン軽鎖(MLC)、心筋トロポニンT(TnT)、心筋トロポニンI(TnI)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)等が挙げられる。
【0029】
以下、本実施形態に係る分析対象物の濃度測定方法で用いられるラテラルフロー用テストストリップについて説明する。
本実施形態に係るラテラルフロー用テストストリップは、試料に含まれる分析対象物を検出して定量するものであって、試料滴下部材であるサンプルパッド、試料が流れる方向に分析対象物に特異的親和性のある第一物質が標識された粒子が乾燥固化されている結合パッド、そして分析対象物に特異的親和性のある第二物質が固相化された部位(テストライン)と粒子表面の第一物質を認識する第二物質が固相化された部位(コントロールライン)を持つ展開膜(メンブレン)、更にその下流に毛細管現象により浸潤してきた試料を吸収する吸収パッドの4種の部材が直列に連結されたものである。なお、上述の分析対象物に特異的親和性のある第一物質が標識された粒子は、例えば、平均粒径20〜100nmの金コロイド粒子である。また、分析対象物を検出するための第二物質は、例えば、メンブレンにおいては線状に固定化されている。また、ラテラルフロー用テストストリップの幅は、例えば、1.5mm〜5mmであり、サンプルパッドに滴下する分析対象物を含む試料の体積は、例えば25μl〜100μlである。
【0030】
本実施形態に係るラテラルフロー用テストストリップは、テストラインにおいては分析対象物と第一物質と第二物質との複合体が形成されることにより、検出強度が分析対象物の濃度依存的に上昇し、コントロールラインにおいては第一物質標識粒子が毛細管現象にて流れてきたものを検出するものである。より詳しくは、サンプルパッドに試料を滴下した時点から、光学的手法を用いて、第二物質が固定化された部位のシグナルを経時的に検出するものである。
【0031】
以下、本実施形態に係るラテラルフロー用テストストリップを構成する部材の材料及び構成について、詳細に説明する。
(部材の材料について)
上述の第一物質と第二物質のそれぞれは、例えば、アミノ酸、核酸、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、リン脂質、糖質、多糖、低分子化合物、無機物質及びこれらの融合体のいずれか1つである。
【0032】
また、上述のアミノ酸とポリペプチドのそれぞれは、例えば、タンパク質、タンパク質断片、結合ドメイン、標的結合ドメイン、結合タンパク質、結合タンパク質断片、抗体、抗体断片、抗体重鎖、抗体軽鎖、1本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab抗体断片、Fc抗体断片、Fv抗体断片、F(ab’)2抗体断片、Fab’抗体断片、1本鎖Fv(scFv)抗体断片、抗体結合ドメイン、抗原、抗原決定基、エピトープ、ハプテン、免疫原、免疫原断片、ビオチン、ビオチン誘導体、アビジン、ストレプトアビジン、基質、酵素、抗体酵素、補因子、受容体、受容体断片、受容体サブユニット、受容体サブユニット断片、ホルモン、レクチン、ポリヒスチジンのいずれか1つである。
【0033】
また、上述の核酸は、例えば、mRNA、総RNA、ゲノムDNA、プラスミドDNA、植物DNAのいずれか1つである。
また、上述の第一物質が標識された粒子(第一支持体)は、例えば、金コロイド、銀コロイド、鉄コロイド、アルミニウムコロイド、または白金コロイドを含む金属コロイド粒子、または高分子化合物を材料とする粒子である。より詳しくは、高分子化合物を材料とする粒子は、蛍光色素内包粒子または可視色素内包粒子である。また、蛍光色素内包粒子に内包される蛍光色素は、例えば、二価のマンガン、鉛、アンチモン、セリウム、三価のセリウム、三価のクロム、二価または三価の鉄、三価または四価のチタン、銅、銀、二価のサマリウム、二価または三価のユーロピウム、三価のテルビウム、三価のジスプロシウム、三価のホルミウム、三価のエルビウム、ウラニル化合物、ルテニウム化合物、錫化合物、タリウム化合物、ビスマス化合物、タングステン酸化合物、モリブデン酸化合物、硫黄、バナジウム化合物、ランタン化合物、プラセオジム化合物、ネオジム化合物、プロメチウム化合物、ガドリニウム化合物、ツリウム化合物、イッテルビウム化合物、ルテチウム化合物の群から選ばれる少なくとも1つの物質を含んだ色素である。
【0034】
また、上述の第二物質が固定化されたメンブレン(第二支持体)は、例えば、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、ニトロセルロース、シリコンの樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、セラミックス及びその複合体のいずれか1つによって構成される。
なお、上述の第一物質は、化学結合または物理結合によって第一支持体に固定化されている。また、上述の第二物質は、化学結合または物理結合によって第二支持体に固定化されている。
【0035】
(構造について)
ラテラルフロー用テストストリップの形状は、滴下する試料がテストストリップ中を毛細管現象により移動することができる限り、特に制限を受けない。例えば、サンプルパッド、結合パッド、メンブレン、吸水パッドの4部材が、基板となるバッキングシート上にこの順番で一方向に直列連結して固定化された構造が代表的である。各部材をバッキングシートに固定化した後、そのバッキングシートを裁断機で2mm〜5mm幅に裁断してテストストリップとするのが好ましい。
【0036】
以下、ラテラルフロー用テストストリップを構成する上記4部材の詳細について説明する。
(1)サンプルパッド
サンプルパッドは、滴下された、分析対象物を含む液体試料を一定時間保持する部材である。サンプルパッドとしては、セルロースを素材としたものを使用するのが好ましく、より詳しくは、例えばCellulose Absorbent Pad(Pall社製)等が挙げられる。また、滴下された試料によりpHが異なることを鑑み、サンプルパッドに緩衝液を浸潤させて乾燥させた後に、そのサンプルパッドを使用するのが好ましい。
【0037】
(2)結合パッド
結合パッドは、分析対象物に対する標識粒子が乾燥固化された部材であり、サンプルパッドから毛細管現象により移動してきた試料に含まれる分析対象物が抗原抗体反応等の特異的認識反応で上記標識粒子と結合される部分である。結合パッドの材質は、ガラス繊維で不織状のものが好ましく、より詳しくは、例えばGlass Fiber Pad(Millipore社製)等が挙げられる。なお、上述の分析対象物と標識粒子に備わる抗体(第一物質)との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われるものである。
【0038】
結合パッドにおける単位面積(cm
2)当たりの上記標識粒子の含有量は、特に制限はないが、1μg〜4μgであることが好ましい。また、結合パッドへの上記標識粒子の浸潤方法としては、例えば、標識粒子を懸濁させ分散させた液体を、結合パッドに塗布、滴下又は噴霧した後に、その結合パッドを乾燥させる方法が好ましい。
また、上記標識粒子は、上述の材料の中でも、金属コロイド粒子、蛍光色素粒子、着色ラテックス粒子、アップコンバージョン燐光体粒子、量子ドット粒子等が好ましい。また、上記標識粒子の粒子径は、20nm〜1000nmであることが好ましい。
また、上記標識粒子に備わる抗体としては、上述の抗体の中でも、マウスIgG、ヤギIgGの他、例えば、ウサギIgG、ニワトリIgY、マウスIgE、ヒトIgG、ヒトIgE等が好ましい。
【0039】
(3)メンブレン
メンブレンは、上記標識粒子と分析対象物との複合体、上記標識粒子及び試料が毛細管現象によって移動する部材であり、固定化抗体−分析対象物−標識粒子からなる免疫反応が行われる抗体固定化部(テストライン)と、固定化抗体−標識粒子からなる免疫反応が行われる抗体固定化部(コントロールライン)とを有している。上述の分析対象物と固定化抗体(第二物質)との反応は、物理的親和性、化学的親和性、化学結合、免疫学的方法のいずれか1つを利用して行われるものである。
【0040】
メンブレンは、タンパク質を物理吸着可能な素材で構成されたもの、特にニトロセルロースで構成されたものが好ましく、より詳しくは、例えばHi−Flow Plus120メンブレン(Millipore社製)等が挙げられる。
上記メンブレンにおける抗体固定化部(判定部)の形状としては、局所的に捕捉用抗体が固定化されている限り特に制限はなく、例えば、ライン状、円状、帯状等が挙げられる。その形状の中でも、幅0.5〜2.0mmのライン状であることが好ましく、また、1cmあたりの抗体量が0.1〜2μgであることが好ましい。
【0041】
メンブレンに備わる抗体としては、上述の抗体の中でも、マウスIgG、ヤギIgGの他、例えば、ウサギIgG、ニワトリIgY、マウスIgE、ヒトIgG、ヒトIgE等が好ましい。例えば、標識粒子にマウスIgGが表面修飾されている場合は、ヤギ抗マウスIgG抗体が固定化された抗体固定化部をコントロールラインとして用いることができる。また、抗体をメンブレンに固定化した後、タンパク質の非特異的吸着を防ぐために、例えば、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等のブロッキング剤の溶液でそのメンブレンを浸潤させた後に乾燥させるのが好ましい。
【0042】
テストラインにおいては、固定化抗体−分析対象物−標識粒子からなる免疫反応により、形成された複合体(分析対象物−標識粒子)が捕捉される。そして、このテストラインで、捕捉された標識粒子に由来する発色又は蛍光等(具体的には、蛍光、発光、呈色、着色等)の強度(シグナル)の程度により分析対象物の有無を判定、すなわち陽性・陰性を判定する。一方、コントロールラインにおいては、固定化抗体−標識粒子からなる免疫反応により、試料の移動を確認できる。こうして、抗体固定化部に標識粒子が濃縮され、シグナルを目視的に又は検出機器を用いて検出、判定できる。
【0043】
(4)吸水パッド
吸水パッドは、毛細管現象でメンブレンを移動してきた試料及び標識粒子を吸収し、常に一定の流れを生じさせるための部材である。吸水パッドの材質としては、セルロース素材の繊維状のものが好ましく、より詳しくは、例えばCellulose Fiber Sample Pad(Millipore社製)等が挙げられる。
(5)バッキングシート
バッキングシートは、上記のサンプルパッド、結合パッド、メンブレン、吸収パッドの4部材を固定化させるための粘着性を有したシートである。バッキングシートとしては、例えばバッキングシートAR9020(Adhesives Research社製)等が挙げられる。
【0044】
以下、上記テストラインで、捕捉された標識粒子に由来するシグナルの検出方法について説明する。
上記テストストリップにおいて、分析対象物と、対象物特異的物質が標識された粒子との反応で生じるシグナル(検出シグナル)は、光学的な方法で検出するのが好ましい。光学的な方法としては、例えば反射光度又は蛍光検出、発光検出、あるいは電気化学発光等が挙げられる。より詳しくは、赤色系/青色系を経時的に検出できる装置としては、イムノクロマトリーダC10066−10(浜松ホトニクス社製)等が挙げられる。
【0045】
次に、シグナルに対する時間変化率である傾きの算出方法について説明する。
上記の通り、分析対象物と分析対象物特異的物質とは、免疫学的反応を利用したテストストリップで検出される。本実施形態に係る算出方法は、テストストリップにて分析対象物が既知濃度の試料を滴下し、シグナル検出装置を用いてシグナル強度の測定を開始する。既知濃度の種類は、既知濃度がゼロを含め5段階以上あるのが好ましい。シグナルは、10秒〜60秒の間隔で検出(測定)し、経過時間に対し各時間におけるシグナル強度を記録する。各既知濃度試料に対するシグナル強度変化の傾きを算出するために、各既知濃度試料を30分程度テストストリップにて展開させ、30分間のデータを解析するのが好ましい。
【0046】
測定対象により傾きが異なるため、最初に定量値が求められる傾きを決定する必要がある。各既知濃度におけるシグナル強度変化の傾きを測定開始後から1分間隔で算出する。各経過時間での傾きに対し、測定開始30分後における各既知濃度のシグナル強度との相関を求める。相関が最も高い経過時間での傾きが最短で測定可能な時間と決定され、反応が飽和に達する30分の反応を待たず、迅速測定が可能となる(
図1)。この時の分析対象物の濃度と傾きとで散布図を作成し、検量線も算出する。
【0047】
この決定した経過時間を利用し、分析対象物が未知濃度の試料をテストストリップで測定する。分析対象物濃度未知試料をテストストリップに滴下し、経時的な測定を開始する。次に、上記で決定された経過時間における傾きを算出し、検量線を利用し分析対象物の濃度を算出する。
換言すると、本実施形態に係る分析対象物の濃度測定方法は、分析対象物と第一物質の反応によって形成された複合物と第二物質とを反応させることで発生する検出可能なシグナルを測定し、測定した前記シグナルの強度から所定時間におけるシグナル増加率を算出し、算出した前記シグナル増加率を予め設定したシグナル増加率の基準値と比較することで前記分析対象物の濃度を判断するものである。
【0048】
また、前記所定時間は、前記複合物と前記第二物質との反応が飽和するまでの時間よりも短く、前記シグナル増加率は、前記分析対象物と前記第一物質との反応開始時から前記所定時間までの前記シグナル強度の時間変化率を利用して算出されるものである。または、前記シグナル増加率は、予め設定した単位時間での前記シグナル強度の時間変化率を利用して算出されるものである。
【0049】
(変形例)
上述の実施形態では、分析対象物と第一物質との反応は、結合パッドで開始される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、上述の実施形態では、複合物と第二物質との反応は、メンブレンで開始される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
(1)抗体調製
分析対象物をPSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)とし、このPSAを検出するため、メンブレン固相化抗体にはマウスモノクローナル抗PSA抗体1H12(HyTest社製)を使用した。また、コントロールラインには、抗マウスイムノグロブリン抗体(Dako社製)を使用した。この2種の抗体を50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で透析カートリッジSlide−A−Lyzer 10,000MWCO(Pierce社製)を用いて4℃で透析した。透析後の抗体濃度を測定し、抗PSA抗体は1mg/ml、抗マウスイムノグロブリンは0.5mg/mlにそれぞれ調製した。
【0051】
(2)金コロイド溶液の調製
マウスモノクローナル抗PSA抗体(5A6)を透析し、リン酸緩衝液(pH7.4)で60μg/mlに調製した。次に、1ODになるよう調製した金コロイド(粒子径40nm、田中貴金属工業社製)溶液9mlとリン酸二水素カリウム溶液(pH8.0)1mlとの混合液に本抗体溶液を加えピペッティング後、室温で15分間静置し、1%PEG20,000溶液及び10%BSA溶液を加えて混合した。この混合溶液を8000×gで15分遠心分離した後に上清を廃棄し、結合パッド塗布液を加えて攪拌・超音波処理し、再び遠心分離した後に上清を廃棄した。この操作を計2回繰り返し金コロイド溶液とした。
【0052】
(3)サンプルパッドの作製
セルロースを素材としたサンプルパッド(Cellulose Absorbent Pad #111、Pall社製)を1.8mm×150mmに裁断し、50mM Tris−HCl(pH7.4)を1ml滴下して、50℃で1時間乾燥させた。
(4)結合パッドの作製
1.5mlエッペンドルフチューブに塗布液と金コロイド溶液とを加え、28kHzで超音波処理した後、計900μlの金コロイド塗布溶液を10mm×150mmのガラスファイバーパッド(glass fiber Pad、Millipore社製)に滴下し、そのガラスファイバーパッドを真空減圧ポンプで減圧した環境下で18時間乾燥させた。
【0053】
(5)メンブレンの作製
メンブレン(HiFlow Plus HF120、Millipore社製)に抗体塗布機XYZ3060(BioDot社製)で、上記(1)で調整した抗体(固相化抗体)を1μl/cmで塗布した。塗布後、0.5%乳性カゼイン溶液でブロッキングし、スクロースや界面活性剤を含む洗浄液で洗浄・安定化して、一晩室温で乾燥させた。
【0054】
(6)テストストリップの作製
乾燥させたメンブレン、吸収パッド(CFSP203000、Millipore社製)、結合パッド、サンプルパッドのそれぞれをバッキングシート(Adhesive Research社製)に貼り付け、そのバッキングシートをカッティング機器CM4000(BioDot社製)にて5mm幅で裁断した後、ハウジングケースに収めてテストストリップキットとした。
【0055】
(7)抗原濃度既知溶液の調製
検出標的であるPSA(抗原)は、Recombinant PSA(HyTest社製)を使用した。この抗原溶液を1×PBS、5%BSA溶液にて、抗原濃度0、0.16、0.8、4、20ng/mlに希釈して測定用抗原溶液とした。
(8)テストストリップでの対象物既知濃度試料の測定
上記(6)で作製したテストストリップを水平に置き、上記(7)の抗原濃度既知溶液を1枚のテストストリップあたり100μl滴下した。滴下開始後、イムノクロマトリーダC10066−10(浜松ホトニクス社製)内の測定位置に設置し、1分間隔で30分間継続して測定した。こうして測定して結果を
図2に示す。測定データは、テストストリップの展開方向にスキャニングし、テストライン、コントロールラインにおけるピーク中心(Height:ピークトップ)におけるシグナル強度を測定データとした。また、30分間の測定において傾きがゼロになる時間を反応が飽和に達した時間とした。
【0056】
(9)対象物既知濃度による反応最適時間の決定
上記(8)の結果から、傾きがゼロとなる30分後でのシグナル強度を各抗原濃度での反応飽和におけるシグナル強度とした。測定開始(0分)から1分間隔で経過時間でのシグナル強度を経過時間におけるシグナル強度とし、反応が飽和に達するまでの時間にて、一定時間でのシグナル強度を所定時間におけるシグナル強度とした。0〜20ng/mlの各既知濃度の反応飽和におけるシグナル強度に対し、経過時間におけるシグナル強度、所定時間におけるシグナル強度の相関を算出し、相関が最も高い経過時間又は所定時間を傾きによる定量測定に最適な時間とした。測定開始(0分)から所定時間までの相関係数を表1に、また、1分間隔での所定時間の相関係数を表2に示した。
【0057】
表1は、測定開始時間(0分)から、2分、3分、4分、5分経過におけるシグナル強度の傾きと、30分後のシグナル強度との相関係数を算出した結果である。なお、傾きは、0分におけるシグナル強度と算出終点時間におけるシグナル強度の2点から算出したものである。
【0058】
【表1】
【0059】
表2は、測定開始時間(0分)からの所定経過時間を経過算出始点時間とし、1分間隔で算出終点時間を設定し、シグナル強度の傾きと30分後のシグナル強度との相関係数を算出した結果である。なお、傾きは、各算出始点時間から1分後の算出終点時間までの2点間におけるシグナル強度から算出したものである。
【0060】
【表2】
【0061】
図2に示すように、反応開始後5分で、抗原濃度4ng/mlと20ng/mlで反応増加率が低下する傾向が確認された。このため、反応開始後5分までを傾き算出時間の目安とした。また、表1に示すように、測定開始(0分)から5分まで所定時間の傾きと30分後のシグナル強度との相関は高く、30分後のシグナル強度を利用した場合と同等の検量線作成が可能である。ただし、テストストリップの特性上、毛細管現象の影響により測定開始時は展開のムラがあるため、測定開始後1〜2分は傾き算出に利用しないのが好ましい。また、表2に示すように、測定開始(0分)からの所定時間における算出始点時間から1分間隔での傾きと30分後のシグナル強度の相関は高く、30分後のシグナル強度を利用した場合と同等の検量線作成が可能である。こうして、本実施例における最適な時間は、4分から6分の時間と算出した。
【0062】
分析対象物の濃度が未知である試料に対しては、上記のようにして決定された経過時間におけるシグナル強度変化の傾きを算出し、予め作製しておいた検量線を利用して、分析対象物の濃度を判断する。
以上のように、本実施例であれば、一般的なラテラルフロー用テストストリップでの測定時間である20分よりも時間短縮ができ、5分程度で定量的な測定が可能となった。よって、本発明の実施形態に係る測定方法は、より緊急を要す疾患に関し、迅速な診断を可能とすることが明らかとなった。
なお、本実施例は本発明の一実施例であり、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。