【実施例】
【0027】
(1) 本発明に係る結合型RFeB系磁石の一実施例
図1に、本発明に係る結合型RFeB系磁石の一実施例であるリング状結合型RFeB系磁石10、及びリング状結合型RFeB系磁石10における単位磁石11を示す。単位磁石11は、本実施例では軽希土類元素R
Lとして主にNdを含有する焼結磁石を用いている。リング状結合型RFeB系磁石10は断面がリング状(
図1(b))である筒型の磁石である。単位磁石11は、リング状の筒型磁石をその中心軸の方向に延びる面111で、周方向に90°単位で4分割した部分形状を有する。面111は平面であり、この面111が上述の接合面となる。接合面111は、本実施例では前記中心軸を含む面としたが、中心軸方向に延びる面であれば当該中心軸を含んでいなくてもよい。リング状結合型RFeB系磁石10は、リングの周方向に隣接する単位磁石11同士が接合面111において境界面材12により接合された構成を有する。境界面材12は、軽希土類元素R
LであるNdの酸化物を含有する。なお、本実施例では、単位磁石11には、後述の粒界拡散処理を行う前の組成がNd:23.3質量%、Pr:5.0質量%、Dy:3.8質量%、B:0.99質量%、Co:0.9質量%、Cu:0.1質量%、Al:0.1質量%、Fe:残部であるものを用いた。また、単位磁石11には、後述の粒界拡散処理により、重希土類元素R
LであるTbの原子が拡散している。
【0028】
(2) 本発明に係る結合型RFeB系磁石の製造方法の一実施例
次に、
図2を用いて、リング状結合型RFeB系磁石10の製造方法を説明する。
まず、特許文献4に記載の方法を用いて、以下の方法により単位磁石11を作製した。特許文献4に記載の方法は、原料の合金粉末を圧縮成形を行うことなく焼結磁石を製造するものであり、PLP(Press-less Process)法と呼ばれている。PLP法は、圧縮成形を行わないことにより、残留磁束密度の低下を抑えつつ保磁力を向上させることができると共に、非平面を有する複雑な形状の焼結磁石を容易に作製することができるという特長を有している。具体的には、始めに、作製しようとする単位磁石11と同じ組成を有するストリップキャスト合金を水素解砕した後にジェットミルで微粉砕することにより、レーザ法で測定された値で平均粒径が0.1μm〜10μm、望ましくは3〜5μmである合金粉末41を作製した。次に、この合金粉末を、単位磁石11と同じ形状であって該単位磁石11よりも大きい、モールド42のキャビティ421に充填し(a-1)、キャビティ421内の合金粉末41を圧縮することなく磁界中で配向させた(a-2)。その後、合金粉末41をキャビティ421内に充填させた状態のまま、圧縮することなく加熱する(加熱温度は典型的には950〜1050℃)ことにより合金粉末41を焼結させた(a-3)。これにより、単位磁石11が得られた。
【0029】
単位磁石11の作製とは別に、単位磁石11同士を接合するためのR
H含有ペースト43を、重希土類元素R
Hを含有するR
H含有金属粉末431と、有機物としてシリコーングリース432を混合することにより作製した(b)。
R
H含有金属粉末431には、Tb:92質量%、Ni:4.3質量%、Al:3.7質量%の含有率を有するTbNiAl合金の粉末を使用した。R
H含有金属粉末431の粒径は、単位磁石11内にできるだけ均一に拡散させるためには小さい方が望ましいが、小さ過ぎると微細化のための手間やコストが大きくなる。そのため、該粒径は2〜100μmとすることが望ましい。シリコーンは珪素原子と酸素原子が結合したシロキサン結合による主骨格を持つ高分子化合物であることから、シリコーングリース432は粒界拡散処理時にペースト中のR
Hの原子を酸化させる役割を有する。R
H含有金属粉末431とシリコーングリース432の重量混合比は所望のペースト粘度に調整すべく任意に選択できるが、R
H含有金属粉末431の比率が低ければ、粒界拡散処理の際にR
Hの原子が単位磁石11内に侵入する量も低下してしまう。そのため、R
H含有金属粉末431の比率は70質量%以上が望ましく、より望ましくは80質量%以上、更に望ましくは90質量%以上とする。なお、シリコーングリース432の量が5質量%未満になると十分にペースト化できないため、シリコーングリース432の量は5質量%以上が望ましい。また、R
H含有ペースト43の粘度を調整するために、シリコーングリース432に加えて、シリコーン系の有機溶媒を添加してもよい。
【0030】
以上のように得られた単位磁石11を4個、それぞれ接合面111にR
H含有ペースト43を塗布したうえでリングの周方向に並べ、隣接する単位磁石11の接合面111同士を、R
H含有ペースト43を介して接触させる(c-1)。この状態でこれら4個の単位磁石11及びR
H含有ペースト43を真空雰囲気中で900℃に加熱する(c-2)。これにより、R
H含有ペースト43中のTb原子が粒界を通して単位磁石11内に拡散してゆく。また、後述の組成分析の結果から分かるように、単位磁石11においてTb原子に置換されたNd原子が単位磁石11の間に析出し、R
H含有ペースト43に含まれるシリコーン中の酸素原子と反応して酸化する。これらの酸化作用により、単位磁石11の間には、Ndの酸化物を含有する境界面材12が形成される。こうして、隣接する単位磁石11同士が境界面材12により強固に接合されたリング状結合型RFeB系磁石10が得られる。
【0031】
本実施例のリング状結合型RFeB系磁石10では、R
H含有ペースト43中のTb原子が単位磁石11内に拡散することにより、保磁力が向上する。それと共に、境界面材12に形成されるNdの酸化物により電気抵抗率が高くなるため、モータ等のように外部磁界が変動する環境下で使用されたときに渦電流が発生することを抑制することができる。また、リング状結合型RFeB系磁石10の外面にはR
H含有ペースト43を付着させる必要がないため、非平面であるこの外面からR
H含有ペースト43の残渣を除去する必要がない。そのため、工程数を少なくすることができるうえに、R
H含有ペースト43の残渣によって非平面の形状の精度が低下することを防ぐことができる。
【0032】
(3) 本発明に係る結合型RFeB系磁石の他の実施例
図3〜
図8を用いて、本発明に係る結合型RFeB系磁石の他の実施例を説明する。
図3及び
図4に、リング状結合型RFeB系磁石の他の実施例を示す。
図3に示したリング状結合型RFeB系磁石10Aは、1個のリングを周方向に120°単位で3分割した形状の単位磁石11Aを3個用いたものである。単位磁石11Aは、形状を除いて、上記の例の単位磁石11と同様の構成を有する。また、境界面材12Aは上記の例の境界面材12と同様である。
図4に示したリング状結合型RFeB系磁石10Bは、上記のリング状結合型RFeB系磁石10を2個、中心軸方向に積層して境界面材12Bで接合したものである。これら2個のリング状結合型RFeB系磁石10は、境界面材12が周方向に互いに45°ずれるように配置した。境界面材12Bは、平面形状がリング状結合型RFeB系磁石10と同じリング状である。境界面材12Bの組成は境界面材12と同様である。
【0033】
図5に、ドーム型形状結合型磁石の一実施例を示す。ドーム型形状結合型磁石20は、直方体のうちの上面212のみが弧面であるドーム型形状を有する。本実施例における上面212は、1方向の断面では円弧状であって、その断面に垂直な断面では直線状である。ドーム型形状結合型磁石20の単位磁石は、上面(弧面)212の反対面である下面213に平行な平面で該ドーム型形状結合型磁石20を3個に分割した第1単位磁石21A、第2単位磁石21B及び第3単位磁石21Cである。このように分割した平面が接合面211となる。第1単位磁石21Aは弧面212を有しており、第2単位磁石21B及び第3単位磁石21Cは平板状である。第1単位磁石21Aと第2単位磁石21Bの間、及び第2単位磁石21Bと第3単位磁石21Cの間にはそれぞれ、境界面材22が設けられている。境界面材22の材料は、リング状結合型RFeB系磁石10における境界面材12の材料と同じである。
【0034】
ドーム型形状結合型磁石20は、リング状結合型RFeB系磁石10と同様の方法により作製される。すなわち、各単位磁石21A〜21Cの形状に対応したキャビティを有するモールドを用いてPLP法により各単位磁石21A〜21Cを作製すると共に、R
H含有ペーストを作製し、接合面211にR
H含有ペーストを塗布したうえで3個の単位磁石21A〜21Cを重ね合わせた状態で900℃に加熱することにより、ドーム型形状結合型磁石20を作製することができる。
【0035】
なお、
図5では平板状の単位磁石を2個(第2単位磁石21B及び第3単位磁石21C)用いた例を示したが、平板状の単位磁石を1個のみ用いてもよいし、あるいは3個以上積層してもよい。
【0036】
図6に、ドーム型形状結合型磁石の他の実施例を示す。本実施例のドーム型形状結合型磁石20Aは前述のドーム型形状結合型磁石20と比較すると、外形は同じであるが、単位磁石及び境界面材の形状が相違する。ドーム型形状結合型磁石20Aの単位磁石21D〜21Gは、当該ドーム型形状結合型磁石20Aの上面(弧面)212の両端付近をそれぞれ下面213に垂直な面211Aで分割すると共に、中央部を下面213に平行な面211Bで分割した部分形状のものである。従って、面211Aは上面(弧面)212と交差している。これら面211A及び211Bは接合面となる。境界面材22Aはこれら接合面に設けられている。
【0037】
図7に、ドーム型形状結合型磁石のさらに他の実施例を示す。本実施例のドーム型形状結合型磁石20Bは、前述のドーム型形状結合型磁石20を3個(従って、ドーム型形状結合型磁石20Bは単位磁石を合計9個有する)、上面212が円弧状となる断面において境界面材22Bで接合したものである。なお、接合するドーム型形状結合型磁石20の個数は3個には限られず、2個であってもよいし、4個以上であってもよい。
【0038】
図8に、扇面体の結合型磁石の一実施例を示す。扇面体結合型磁石30は、第1弧面331と、該第1弧面331の反対面である第2弧面332と、を有する扇面体である。扇面体結合型磁石30の単位磁石は、第1弧面331と第2弧面332の間に位置する第3弧面333で扇面体を分割した第1単位磁石31Aと第2単位磁石31Bから成る。第1弧面331、第2弧面332及び第3弧面は、断面において同心であって異径の円弧形状を有する。第1単位磁石31Aと第2単位磁石31Bは、これまでに述べた実施例と同じ材料から成り、同じ方法で作製することができる。この第3弧面333が接合面となり、当該接合面に境界面材32が設けられている。従って、本実施例では、接合面は、扇面体結合型磁石30の表面に存在する非平面である第1弧面331及び第2弧面332とは交差していない。境界面材32の材料は、これまでに述べた実施例における境界面材の材料と同じである。なお、前記断面において、第1弧面331と第2弧面332は同心円弧でなくてもよく、第3円弧333も第1弧面331及び/又は第2弧面332と同心円弧でなくてもよい。また、接合面は第1弧面331及び第2弧面332と交差しない平面であってもよい。
【0039】
(4) 本実施例で作製した結合型RFeB系磁石の磁気特性測定の結果
以下、本実施例で作製したドーム型形状結合型磁石について、磁気特性(残留磁束密度、保磁力)の測定を行った結果を示す。ここでは、ドーム型形状結合型磁石は、
図9に示すように、弧面を有する1個の単位磁石と、(a)1個又は(b)3個の平板状の単位磁石を接合したものを用いた。各単位磁石の厚みは、(a)では4mm、(b)では2mmとした。ここで、弧面を有する単位磁石の厚みは、弧面の頂点と下面の距離で定義した。各実施例ではいずれも、単位磁石の厚みの合計は8mmである。これらのドーム型形状結合型磁石から、平板状の単位磁石に平行な面に7mm×7mm、及び上下面を0.5mmずつ研削して厚さ7mmとした試験片51を切り出し、上記測定を行った。ここで、(a)では境界面材が、(b)では3枚の境界面材の内の中央のものが、それぞれ試験片の厚さ方向の中央に配置されるようにした。比較のために、本実施例における単位磁石と同じ材料から作製した板状の焼結磁石基材の上下2面に、本実施例で用いたR
H含有ペーストを塗布したうえで、本実施例と同様の方法により粒界拡散処理を行った比較例(
図9(c))の試料を用意した。本実施例、比較例共に、R
H含有ペーストの面密度ρが異なる複数の試料を作製した。
【0040】
各試料の作製条件、及び得られた試料の磁気特性の測定結果を表1に示す。ここで比較例3及び4では上下面を0.25mmずつ研削して厚さを3.5mmとした平板状単位磁石を2枚重ね、比較例5では上下面を0.35mmずつ研削して厚さを1.4mmとした平板状単位磁石を5枚重ねることにより、実施例1〜5の試験片51と同じ厚みで測定を行った。
【表1】
【0041】
表1より、各実施例の試料は、比較例1と対比すると、R
H含有ペースト(表中では「ペースト」と略記)の使用量が比較例1の12.5%(5/40)〜50%(20/40)という少ない量でありながら、比較例1と同等又はそれ以上の保磁力が得られている。また、各実施例の試料は、R
H含有ペーストの使用量が比較例2及び3の試料よりも少ないにも関わらず、比較例2の試料よりも保磁力が高く、比較例3の試料と同等又はそれ以上の保磁力を有する。また、比較例4及び5との対比では、実施例1はR
H含有ペーストの使用量が同程度であって保磁力がより高く、実施例2〜5はR
H含有ペーストの使用量がより少なく保磁力が同等又はそれ以上である。これらの実験結果は、比較例では磁石の外表面にR
H含有ペーストを塗布していることから、塗布されたR
H含有ペーストの層のうち前記外表面から離れた部分からはR
H(およそ全量の1/2)が磁石内に拡散しないうえに、前記外表面近傍から拡散するR
Hも磁石が厚いと拡散し難いのに対して、本実施例ではR
H含有ペーストの層の両側にある2つの単位磁石に同時にR
Hが拡散するため、短時間で効率良く処理を行うことができることによる。また、本実施例では、比較例における磁石の外表面への塗布の場合よりもR
Hが酸化し難いため、より少ないR
H含有ペーストの塗布量で十分処理を行うことができる。以上のように、各実施例の試料は比較例と対比すると、R
H含有ペーストの使用量を抑えつつ、保磁力を高めることができる。
【0042】
(5) 本実施例で作製した結合型RFeB系磁石の組成分析の結果
実施例4の試料につき、EPMA(electron probe microanalysis:電子プローブ微小分析)法を用いて、O(酸素), Fe, Nd, Dy及びTb原子を検出する実験を行った。その結果を
図10及び
図11に示す。この図では、画像上で暗く(黒に近い色で)示された部分よりも、明るく(白に近い色で)示された方が、原子の含有量が多いことを示す。いずれの元素においても、画像の中央付近において縦方向に、周囲とは色が異なる筋状の領域が見られる。この筋状領域が境界面材62に該当し、それ以外の領域が単位磁石61に該当する。
【0043】
図10から、以下のことが言える。まず、Tbの含有量を示す画像では、境界面材62が周囲よりも明るく示されており、Tbが境界面材62により多く含有されていることが示されている。また、単位磁石61内では境界面材62に近いほど明るく示されている。これは、R
H含有ペーストから単位磁石61内にTb原子が拡散し、R
H含有ペースト(境界面材62)に近いほどより多くのTb原子が存在していることを意味している。
図11では、
図10中のTbの含有量を示す画像のうち、境界面材62に垂直な方向にTbの含有量の分布をグラフで示している。このグラフからも、Tb原子が単位磁石61内に拡散していることがわかる。
【0044】
R
H含有ペーストには含まれていないFe原子及びDy原子は、境界面材62にはほとんど存在しないが、同じくR
H含有ペーストには含まれていないNd原子は境界面材62に存在する。これは、Tb原子が単位磁石61内に拡散したことにより置換されたNd原子が境界面材62に析出したことを意味する。そして、O(酸素)原子は、単位磁石61内にはほとんど存在しないのに対して、境界面材62には多く存在している。
【0045】
また、
図11に示すように、境界面材62の中央付近では単位磁石61との境界付近よりもTbの含有量が少なくなっている。この中央付近では、Tbの代わりにO及びNdが増加していると考えられる。
【0046】
これらEPMAの実験結果より、(i)Tb原子がR
H含有ペースト(境界面材62)から単位磁石61内に拡散しており、(ii)境界面材62にはNdの酸化物が形成されている、と考えられる。従って、本実施例の結合型RFeB系磁石では、粒界拡散処理によって保磁力が高められ、且つ、酸化物により電気抵抗率が高められた境界面材62によって、渦電流の影響を抑えることができる。
【0047】
本発明は上記実施例には限定されない。
例えば、ここまでは、PLP法により作製した焼結磁石を用いた例を示したが、従来より広く用いられているプレス法により作製した焼結磁石を用いてもよいし、非特許文献1に記載の熱間塑性加工磁石を用いてもよい。
【0048】
また、R
H含有ペーストは上記のTbNiAl合金を粉末にしたTb含有粉末とシリコーングリースを混合したものには限られない。例えば、DyやHoを含有する粉末を用いてもよいし、合金以外のR
Hの単体や化合物(フッ化物等)を用いてもよい。また、有機溶剤には、上記実施例で用いたシリコーングリース以外に、流動パラフィン、ヘキサンあるいはシクロヘキサン等の液状炭化水素等を用いることができる。