特許第6331322号(P6331322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331322Li2O−Al2O3−SiO2系結晶化ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331322
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】Li2O−Al2O3−SiO2系結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   C03C10/12
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-213390(P2013-213390)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74596(P2015-74596A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−254277(JP,A)
【文献】 特開2001−354446(JP,A)
【文献】 特開2012−056829(JP,A)
【文献】 特開2004−251615(JP,A)
【文献】 特開2006−076871(JP,A)
【文献】 特開2010−248046(JP,A)
【文献】 特開2006−225215(JP,A)
【文献】 特開平11−228180(JP,A)
【文献】 特開平11−228181(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/089220(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/124240(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/124373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/10 − 10/12
C03C 3/076 − 3/093
C03B 5/00 − 5/44
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として質量%で、LiO 3〜4%、MgO 0〜0.8%、BaO 0.5〜1.5%、SnOを0.1〜0.5%を含有するLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであって、ガラス組成中のRh含有量が0.1〜10ppmであることを特徴とするLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【請求項2】
ガラス組成中のPt含有量が0.01〜10ppmであることを特徴とする請求項1に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【請求項3】
さらに、ガラス組成として質量%で、SiO 55〜75%、Al 5〜25%、NaO 0〜1%、KO 0〜1%、TiO 1〜3%、ZrO 0〜3%、TiO+ZrO 3〜5%、P 0〜3%、Fe 0.003〜0.02%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【請求項4】
厚み3mm、波長400nmにおける透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【請求項5】
厚み3mmにおける透過光の色調が、CIE規格のL表示のb値で0〜5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【請求項6】
主結晶としてβ─石英固溶体が析出していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス
【請求項7】
30〜380℃における熱膨張係数が、−3×10−7/℃〜3×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLiO−Al−SiO系結晶化ガラスに関する。詳細には、例えば石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の材料として好適なLiO−Al−SiO系透明結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の材料として、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスが用いられている。例えば特許文献1〜3には、主結晶としてβ−石英固溶体(LiO・Al・nSiO[ただし2≦n≦4])やβ−スポジュメン固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧4])等のLiO−Al−SiO系結晶を析出してなるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスが開示されている。
【0003】
LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、熱膨張係数が低く、機械的強度も高いため、優れた耐熱衝撃性を有している。また結晶化工程における熱処理条件を適宜調整して析出結晶の種類を調整することにより、異なる特性の結晶化ガラスを得ることが可能である。例えばβ−石英固溶体を主結晶として析出させると、透明な結晶化ガラスを作製することができ、β−スポジュメン固溶体を析出させると、白色不透明の結晶化ガラスを作製することができる。
【0004】
ところで、この種の結晶化ガラスを製造する場合、ガラスの粘性が高いことから、1400℃を超える高温で溶融する必要がある。このため、ガラスバッチに添加される清澄剤には、高温域で清澄ガスを多量に発生させることができるAsやSbが使用されている。しかしながら、AsやSbは毒性が強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性がある。
【0005】
そこで、AsやSbの代替清澄剤として、SnOが提案されている(例えば、特許文献1、2)。ところがSnOはTiOやFe等に起因する不純物着色を強める作用を有するため、透明結晶化ガラスの黄色味が強くなり、外観上問題好ましくないという問題がある。そのため、SnOを用いる際は、ガラスバッチにおけるTiOを少なくするとともに、不純物であるFeの混入量を低減させることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−228180号公報
【特許文献2】特開平11−228181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、LiO−Al−SiO系の透明結晶化ガラスにおいて、核形成成分であるTiOの含有量を低減すると、最適焼成温度域が狭くなり、結晶核の生成量が少なくなりやすい。結晶核が少ない状態で結晶化が進むと、粗大結晶が多くなることから、結晶化ガラスが白濁して透明性を損ないやすいという問題がある。
【0008】
また、不純物として混入するFeは高純度の原料を使用することによって低減可能であるが、高純度の原料は一般に高価であり、これらの使用により製造コストが高くなることが多い。
【0009】
本発明の目的は、As、Sbの代替清澄剤としてSnOを用いたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスにおいて、FeやTiO等に起因する不純物着色を抑制可能な結晶化ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等の検討の結果、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスの組成中には、金属製の内壁やスターラーから溶出したRh等の貴金属成分が含まれていること、これら貴金属成分は、SnOとともに、FeやTiO等に起因する黄色の着色を助長していること、及び貴金属成分、特にRhの含有量を制限すれば、SnO、Fe及びTiOの含有量を制限しなくても結晶化ガラスの着色を低減できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0011】
即ち、本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス組成として質量%で、SnOを0.1〜0.5%を含有するLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであって、ガラス組成中のRh含有量が0.01〜10ppmであることを特徴とする。ここでLiO−Al−SiO系結晶化ガラスとは、ガラス組成としてLiO、Al及びSiOを含有し、LiO−Al−SiO系結晶が主結晶として析出した結晶化ガラスを意味する。
【0012】
上記構成によれば、TiOやFeに起因する不純物着色が助長されず、透明性の高い結晶化ガラスを得ることが可能になる。
【0013】
本発明においては、ガラス組成中のPt含有量が0.01〜10ppmであることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、TiOやFeに起因する不純物着色が助長されず、より透明性の高い結晶化ガラスを得ることが可能になる。
【0015】
本発明においては、ガラス組成として質量%で、SiO 55〜75%、Al 5〜25%、LiO 3〜4%、NaO 0〜1%、KO 0〜1%、MgO 0〜3%、BaO 0.5〜2%、TiO 1〜3%、ZrO 0〜3%、TiO+ZrO 3〜5%、P 0〜3%、SnO 0.1〜0.5%、Fe 0.003〜0.02%を含有することが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、主結晶としてβ−石英固溶体やβ−スポジュメン固溶体が析出し易くなり、低膨張且つ機械的強度の高い結晶化ガラスが容易に得られる。しかも結晶化条件を調整することによって析出結晶の種類を制御することが可能であり、β−石英固溶体が析出した透明結晶化ガラスを容易に作製することができる。
【0017】
本発明においては、厚み3mm、波長400nmにおける透過率が60%以上であることが好ましい。なお「厚み3mm、波長400nmにおける透過率」とは、厚み3mmに換算したときの、或いは厚み3mmに調製した試料を測定したときの波長400nmにおける分透過率を意味する。当然ながら、厚み3mm未満、或いは厚み3mm超のガラスを本発明から排除するものではない。
【0018】
上記構成によれば、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0019】
本発明においては、厚み3mmにおける透過光の色調が、CIE規格のL表示のb値で0〜5であることが好ましい。なお「厚み3mmにおける透過光の色調」とは、厚み3mmに換算したときの、或いは厚み3mmに調製した試料を測定したときの色調(b値)を意味する。当然ながら、厚み3mm未満、或いは厚み3mm超のガラスを本発明から排除するものではない。
【0020】
上記構成によれば、透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0021】
本発明においては、主結晶としてβ─石英固溶体が析出していることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、低膨張且つ機械的強度の高い透明結晶化ガラスを得ることができる。
【0023】
本発明においては、30〜380℃における熱膨張係数が、−3×10−7/℃〜3×10−7/℃であることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスについて説明する。なお、以下の説明において特に断りのない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0026】
Pt−Rh合金等の貴金属は、耐侵食性に優れることから、装置内壁、特にガラス生地による溶融炉の侵食が激しい高温域の装置内壁に使用されることが多い。またPt−Rh合金等は、ガラス生地を攪拌するスターラー用の材料としても広く用いられる。Rhは、これらのPt−Rh合金製装置をガラス生地が侵食することによってガラス中に混入する。Rhの吸収帯は波長450nmにあることから、TiOやFeに起因する不純物黄色を助長する作用がある。よってRh含有量が多いほど結晶化ガラスが黄色味を帯びやすくなり、ガラスの透明性が低下する。それゆえRh含有量を制限することにより、黄色味を帯びた不純物着色を低減することが可能になる。
【0027】
Rh含有量を抑制するには、例えばガラスを低い温度で溶融すればよい。ただしガラスの溶融温度を下げると、ガラスの溶融性や清澄性が低下する傾向がある。溶融温度の調整によってRh含有量を0.01ppmより少なくしようとすれば、極端に低温で操業する必要が生じることから、溶融性や清澄性が大幅に低下する。
【0028】
そこで本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス中のRhの含有量を、0.01〜10ppm、好ましくは0.01〜5ppm、より好ましくは0.01〜3ppmに制限している。Rh含有量を上記範囲内に制御すれば、ガラスの着色を抑制できるとともに、ガラスの溶融性や清澄性の低下といったデメリットを回避することが可能である。なおRhは、ガラス原料に添加するガラスカレットから混入することもある。この場合には、カレットを選別したり、使用割合を調整したりすることにより、Rh含有量を所定範囲に調整することができる。
【0029】
PtはRhと同様に、Pt−Rh合金がガラス生地に侵食されることによってガラス中に混入する成分である。Ptは吸収帯を360nmに有し、Rhほどではないがガラスの黄色味を強めるため、その含有量を制限することが望ましい。Pt含有量が多過ぎると結晶化ガラスが黄色味を帯びやすくなり、ガラスの透明性が低下する。それゆえPt含有量は少ないほど好ましい。ただし、Pt含有量を極端に制限しようとすると、Rhの場合と同様の問題が生じるおそれがある。そこで本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス中のPtの含有量を、0.01〜10ppm、0.01〜5ppm、特に0.01〜3ppmに制限することが好ましい。Pt含有量を上記範囲内に制御すれば、ガラスの着色を抑制できるとともに、ガラスの溶融性や清澄性の低下といったデメリットを回避することが容易になる。なおPtは、ガラス原料に添加するガラスカレットから混入することもある。この場合には、カレットを選別したり、使用割合を調整したりすることにより、Pt含有量を所定範囲に調整することができる。
【0030】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、SnOの含有量が0.1〜0.5%、好ましくは0.1〜0.4%、より好ましくは0.15〜0.35%である。SnOは清澄剤として作用する成分であると同時に、TiO及びFeに起因する不純物着色を助長する作用がある。またSnOは、ガラスの失透を促進する成分でもある。SnOの含有量が少な過ぎると、清澄剤としての効果を得難くなる。一方、SnOの含有量が多過ぎると結晶化ガラスが黄色味を帯びやすくなる。またSnOの含有量が多過ぎると、失透しやすくなる。
【0031】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス組成として、SiO 55〜75%、Al 15〜25%、LiO 3〜4%、NaO 0〜1%、KO 0〜1%、MgO 0〜3%、BaO 0.5〜2%、TiO 1〜3%、ZrO 0〜3%、TiO+ZrO 3〜5%、P 0〜3%、SnO 0.1〜0.5%、Fe 0.003〜0.02%を含有することが好ましい。なお「TiO+ZrO」とは、TiOとZrOの含有量の合量を意味する。
【0032】
以下、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスの各成分の含有量を上記のように規定した理由を以下に説明する。
【0033】
SiOはガラスの骨格を形成するとともに、LiO−Al−SiO系結晶を構成する成分である。SiOの含有量は好ましくは55〜75%、より好ましくは58〜70%、さらに好ましくは60〜68%である。SiOの含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多過ぎると、ガラスの溶融性が低下する。またガラス融液の粘度が高くなることから、清澄しにくくなったり、ガラスの成形が困難になったりする。
【0034】
Alはガラスの骨格を形成するとともに、LiO−Al−SiO系結晶を構成する成分である。Alの含有量は好ましくは15〜25%、より好ましくは18〜25%、さらに好ましくは20〜24%である。Alの含有量が少な過ぎると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスが得られにくくなる。また、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスの溶融性が低下する。またガラス融液の粘度が高くなることから、清澄しにくくなったり、ガラスの成形が難しくなったりする。また、ムライトの結晶が析出してガラスが失透する傾向にあり、ガラスが破損しやすくなる。
【0035】
LiOはLiO−Al−SiO系結晶を構成する成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘度を低下させて、ガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。LiOの含有量は好ましくは3〜4%、より好ましくは3.5〜4%である。LiOの含有量が少な過ぎると、ムライトの結晶が析出してガラスが失透する傾向がある。また、ガラスを結晶化させる際に、LiO−Al−SiO系結晶が析出しにくくなり、耐熱衝撃性に優れた結晶化ガラスを得ることが困難になる。さらに、ガラスの溶融性が低下する。またガラス融液の粘度が高くなって、清澄しにくくなったり、ガラスの成形が難しくなったりする。一方、LiOの含有量が多過ぎると、結晶性が強くなりすぎてガラスが容易に失透する。その結果、ガラスが破損しやすくなる。
【0036】
NaOはLiO−Al−SiO系結晶に固溶する成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘度を低下させて、ガラス溶融性および成形性を向上させる成分である。NaOの含有量は好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.8%である。NaOの含有量が多過ぎると、結晶性が強くなりすぎて、ガラスの容易に失透する。その結果、ガラスが破損しやすくなる。
【0037】
OはLiO−Al−SiO系結晶に固溶する成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘度を低下させて、ガラス溶融性および成形性を向上させる成分である。KOの含有量は好ましくは0〜1%、より好ましくは0〜0.8%である。KOの含有量が多過ぎると、結晶性が強くなりすぎて、ガラスが容易に失透する。その結果、ガラスが破損しやすくなる。
【0038】
MgOはLiO−Al−SiO系結晶に固溶し、LiO−Al−SiO系結晶の熱膨張係数を高くする効果を有する成分である。MgOの含有量は好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。MgOの含有量が多過ぎると、結晶性が強くなりすぎて、ガラスが容易に失透する。その結果、ガラスが破損しやすくなる。
【0039】
BaOはガラスの粘度を低下させて、ガラスの溶融性および成形性を向上させる成分である。BaOの含有量は好ましくは0.5〜2%、より好ましくは0.8〜1.8%、さらに好ましくは1〜1.5%である。BaOの含有量が多過ぎると、Baを含む結晶が析出しやすくなり、ガラスが容易に失透する。
【0040】
TiOは結晶化工程で結晶を析出させるための核形成剤となる成分である。TiOの含有量は好ましくは1〜3%、より好ましくは1.5〜3%、さらに好ましくは1.5〜2.5%である。TiOの含有量が多過ぎると、ガラスの着色が強まる傾向がある。また、ガラスが失透しやすくなり、破損しやすくなる。一方、TiOの含有量が少な過ぎると、結晶核が十分に形成されず、粗大な結晶が析出してガラスが白濁したり、破損したりするおそれがある。
【0041】
ZrOはTiOと同様に、結晶化工程で結晶を析出させるための核形成成分である。ZrOの含有量は好ましくは0〜3%、より好ましくは0.5〜2.5%、さらに好ましくは1〜2.5%である。ZrOの含有量が多過ぎると、ガラスを溶融する際に失透しやすくなり、ガラスの成形が難しくなる。
【0042】
TiOとZrOの含有量の合量(TiO+ZrO)は好ましくは3〜5%、より好ましくは3.5〜5%、さらに好ましくは4〜5%である。TiO+ZrOが少な過ぎると、結晶核が十分に形成されず、粗大な結晶が析出してガラスが白濁したり、破損したりするおそれがある。TiO+ZrOが5%より多いと、ガラスが失透しやすくなり、破損しやすくなる。
【0043】
はガラスの分相を促進して結晶核の形成を助ける成分である。Pの含有量は好ましくは0〜3%、より好ましくは0.5〜3%、さらに好ましくは1〜2%である。Pの含有量が多過ぎると、溶融工程においてガラスが分相しやすくなり、ガラスの均質性が低下するとともに、不透明となる傾向がある。
【0044】
SnOは清澄剤として作用する成分である。SnOの含有量、組成範囲の限定理由等については既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0045】
Feは不純物として混入する成分であり、ガラスの着色を強める成分である。Feの含有量は好ましくは0.003〜0.02%、より好ましくは0.003〜0.018%、さらに好ましくは0.003〜0.015%である。Feの含有量が多過ぎると、ガラスの着色が強くなりすぎる。Feの含有量は少ないほど着色を抑制できるため好ましいが、例えば0.003%を下回るような範囲にするには高価な高純度原料を使用する必要があり、製造コストが高くなってしまう。
【0046】
本発明のLiO−Al−SiO系透明結晶化ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を含有可能である。例えばH、CO、CO、HO、He、Ne、Ar、N等の微量成分をそれぞれ0.1%まで含有してもよい。また、ガラス中にAg、Au、Pd、Ir等の貴金属元素をそれぞれ10ppmまで添加してもよい。
【0047】
さらに着色に悪影響が無い限り、本発明のLiO−Al−SiO系透明結晶化ガラスは、B、CaO、SrO、ZnO、Cr、Sb、SO、MnO、CeO、Cl、La、WO、Nd、Nb、Y等を合量で2%まで含有してもよい。
【0048】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、厚み3mm、波長400nmにおける透過率が好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。厚み3mm、波長400nmにおける透過率が60%よりも低いと、ガラスの黄色の着色が強くなりすぎるとともに、ガラスの透明性が低下する。なお透過率を高めるには、TiO、Fe、SnO、貴金属(Rh、Pt等)の含有量を低下させればよい。
【0049】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、厚み3mmにおける透過光の色調が、CIE規格のL表示のb値で好ましくは0〜5、より好ましくは0〜4.8、さらに好ましくは0〜4.5である。b値が4.5より高いと、ガラスの黄色の着色が強くなりすぎる。b値が0よりも低いと、ガラスが青色に着色し、色調が大きく変化してしまう。なおb値を低下させるには、TiO、Fe、SnO、貴金属(Rh、Pt等)の含有量を低下させればよい。
【0050】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、主結晶としてβ─石英固溶体が析出していることが好ましい。β─石英固溶体を主結晶として析出させれば、結晶化ガラスが可視光を透過しやすく、透明性が高まりやすい。さらに低膨張、且つ高強度の結晶化ガラスとすることができる。β─石英固溶体を主結晶として析出させるには、後述する温度及び時間の範囲内で結晶化することが好ましい。
【0051】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、30〜380℃における熱膨張係数が、好ましくは−3×10−7/℃〜3×10−7/℃、より好ましくは−2.5×10−7/℃〜2.5×10−7/℃である。30〜380℃における熱膨張係数が、大きすぎる場合及び小さすぎる場合、ガラスの耐熱衝撃性が低下し、ガラスの温度変化時に破損しやすくなる。なお熱膨張係数を調整するには、SiO、Al、LiO、NaO、KO、MgO、TiO、ZrO等の成分の含有量を前述の範囲に調節するとともに、後述する温度及び時間の範囲内で結晶化すればよい。
【0052】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、以下のようにして作製することができる。
【0053】
まず所望の組成となるようにガラス原料を調合し、原料バッチを作製する。なお好ましいガラス組成については既述の通りであり、ここでは説明を割愛する。また原料バッチにガラスカレットを混合して使用する場合には、ガラスカレットに含まれるRh量やPt量を考慮して、ガラスカレットの使用割合を決定することが好ましい。
【0054】
次に原料バッチをガラス溶融炉に投入し、溶融、均質化する。ガラスの溶融温度が高いほど溶融ガラスによる貴金属製の内壁やスターラーの侵食が激しくなり、溶融ガラスへの貴金属の混入量が多くなる。しかもガラスの溶融温度が高いほど、同じ不純物量であっても、これらに起因するガラスの着色は強くなる傾向がある。一方で、ガラスの溶融温度が低いとガラスの溶融性や清澄性が低下してガラスの品質を損ねてしまう。そこで本発明においては1500〜1750℃、1550〜1730℃、特に1600〜1730℃で溶融することが好ましい。ガラスの溶融温度がこの範囲内であれば、溶融ガラスへの貴金属の混入量及びガラスの着色を一定範囲内に抑制できるとともに、ガラスの溶融性や清澄性の低下を回避できる。
【0055】
続いて溶融ガラスを所望の形状に成形する。成形方法は特に制限がなく、例えばロール成形、プレス成形、管引き成形等を適宜選択して採用することができる。
【0056】
その後、得られた結晶性ガラス(結晶化可能なガラス)を熱処理し、結晶化させて本発明の結晶化ガラスを得る。なお結晶化は、700〜950℃で0.5〜8時間、特に750〜900℃で2〜5時間の条件で行うことが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。表1は本発明の実施例(試料No.1〜3)及び比較例(試料No.4)を示している。
【0058】
【表1】
【0059】
まず表1に記載の組成を有するガラスとなるように、各原料を酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の形態で調合し、ガラスバッチを得た。得られたガラス原料バッチを酸素燃焼による耐火物窯に投入し、表に示す条件で溶融した。溶融中、白金スターラーによりガラス融液を攪拌した後、4mmの厚さにロール成形し、さらに徐冷炉を用いて室温まで冷却することにより結晶性ガラス試料を得た。
【0060】
各結晶性ガラス試料に対して、760〜780℃で3時間熱処理して核形成を行った後、さらに870℃〜890℃で1時間の熱処理を行い結晶化させた。得られた結晶化ガラス試料について、Rh、Ptの含有量、透過率、透過光の色調、熱膨張係数を測定した。
【0061】
Rh及びPtの含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)により分析した。
【0062】
透過率は、肉厚3mmに両面光学研磨した結晶化ガラス板について、分光光度計を用いて測定した波長400nmでの透過率により評価した。測定には日本分光製 分光光度計 V−670を用いた。
【0063】
透過光の色調は、肉厚3mmに両面光学研磨した結晶化ガラス板について、分光光度計を用いて波長380〜780nmの透過率を測定し、当該透過率からCIE規格のL値を算出することにより評価した。測定には日本分光製 分光光度計V−670を用いた。
【0064】
熱膨張係数は、20mm×3.8mmφに加工した結晶化ガラス試料を用いて、30〜380℃の温度域で測定した平均線熱膨張係数により評価した。測定にはNETZSCH製Dilatometerを用いた。
【0065】
表1から明らかなように、Rh、Ptの含有量が0.01〜10ppmの範囲内にある実施例の各試料は、透過率が60%以上、b値が0〜5の範囲内であった。また目視にて外観を観察したところ、肉眼では黄色の着色が認められなかった。これに対して、Rh、Ptの含有量がともに10ppmより多い試料No.4は、透過率が60%未満であり、b値が5よりも高かった。また目視観察したところ、試料No.4は、黄色味を帯びていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等に好適である。