(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331327
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】D−乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/56 20060101AFI20180521BHJP
C12N 1/22 20060101ALI20180521BHJP
C12N 9/42 20060101ALI20180521BHJP
C12R 1/225 20060101ALN20180521BHJP
【FI】
C12P7/56
C12N1/22
C12N9/42
C12P7/56
C12R1:225
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-218917(P2013-218917)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-80429(P2015-80429A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】池水 昭一
(72)【発明者】
【氏名】河津 哲
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕二
【審査官】
藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−036394(JP,A)
【文献】
特開2004−097136(JP,A)
【文献】
特開2007−215427(JP,A)
【文献】
特開2008−161137(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/113849(WO,A1)
【文献】
特開2010−279332(JP,A)
【文献】
Biotechnology Letters (2004) Vol.26, pp.71-74
【文献】
Biotechnology and Bioengineering (1991) Vol.37, pp.93-96
【文献】
J. Chem. Technol. Biotechnol. (2001) Vol.76, pp.279-284
【文献】
Bioprocess Engineering (2000) Vol.22, pp.175-180
【文献】
Biotechnology Letters (2003) Vol.25, pp.1161-1164
【文献】
Biochemical Engineering Journal (2008) Vol.41, pp.210-216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1〜30質量%の懸濁濃度の広葉樹漂白クラフトパルプをセルラーゼでpH3.5〜7.5および温度25〜60℃において糖化することによりグルコースを含む酵素糖化液を得る工程:
及び
(b)前記工程(a)で得た酵素糖化液をラクトバシラス・デルブルキに属する乳酸菌を用いてpH3.0〜7.0および温度30〜55℃において撹拌して、嫌気的に発酵することによりD−乳酸を生産する工程:
を含むD−乳酸の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)における発酵をpH4.0〜7.0、温度30℃〜50℃で撹拌して行う、請求項1に記載のD−乳酸の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)における糖化処理のpHが3.5〜5.0である、請求項1又は2に記載のD−乳酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプを原料として使用し、D−乳酸生産菌を用いてD−乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを含む木質系バイオマスを原料とし、酵素や微生物を添加して、糖化や糖化発酵を行って糖液や発酵液を得る方法は多く実施されている。また、乳酸は、生物の解糖系によりグルコースなどの糖分が分解されて生産される有機酸であり、さらにTCA回路に誘導されて生体エネルギー産生の起点になる重要な化合物である。
【0003】
非特許文献1には、セルロースを並行糖化発酵することによって乳酸を生産することが記載されている。非特許文献2及び3には、木片を粉砕及び化学処理してから、セルラーゼと乳酸菌とを使用して併行糖化発酵を行うことによって乳酸を生産することが記載されている。非特許文献4には、Entetococcus faecalismによる木材加水分解物の発酵によってL−乳酸を生産することが記載されている。非特許文献5には、セルラーゼとLactobacillus coryniformis とを使用して併行糖化発酵によってD−乳酸を生産することが記載されている。非特許文献6には、ペーパースラッジを原料として併行糖化発酵によって乳酸を生産することが記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、キャッサバパルプから高収率かつ安価に乳酸を生産する方法が記載されている。しかし、この方法は、乳酸を生産する方法であるが、D−乳酸のみを生産する方法ではない。
【0005】
さらに、特許文献2には、ラクトバシラス・デルブルキ(Lactobacillus delbrueckii)に属する乳酸菌を用いてD−乳酸を発酵することが記載されている。この文献は、グルコースを基質としてD−乳酸を発酵するものであり、グルコース以外の原料を基質とすることについての記載はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shin-ichiro Abe and Motoyoshi Takagi, Simultaneous Saccharification and Fermentation of Cellulose to Lactic Acid, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 37, Pp. 93-96 (1991)
【非特許文献2】Moldes, A. B., Alonso, J. L. and Parajo, J. C, Strategies to improve the bioconversion of processed wood into lactic acid by simultaneous saccharification and fermentation., J. Chem. Technol. Biotechnol., 76: 279-284 (2001)
【非特許文献3】Moldes, A. B., Alonso, J. L. and Parajo, J. C., Multi-step feeding systems for lactic acid production by simultaneous saccharification and fermentation of processed wood, Bioprocess Engineering, Volume 22, Issue 2, pp 175-180 (2000)
【非特許文献4】Young-Jung Wee, Jong-Sun Yun, Don-Hee Park, Hwa-Won Ryu, Biotechnological production of l(+)-lactic acid from wood hydrolyzate by batch fermentation of Enterococcus faecalis, Biotechnology Letters, Volume 26, Issue 1, pp 71-74 (2004)
【非特許文献5】R Yanez, A Belen Moldes, JL Alonso, JC Parajo, Production of D (-)-lactic acid from cellulose by simultaneous saccharification and fermentation using Lactobacillus coryniformis subsp. torquens, Biotechnology letters, Volume 25, Issue 14, pp 1161-1164 (2003)
【非特許文献6】S Marques, JAL Santos, FM Girio, JC Roseiro, Lactic acid production from recycled paper sludge by simultaneous saccharification and fermentation, Biochemical Engineering Journal, Volume 41, Issue 3, pp 210-216 (2008)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−097136号公報
【特許文献2】特開2010−279332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、木質バイオマス・パルプを原料として使用し、D−乳酸生産菌を用いてD−乳酸を高い生産量かつ高い生成速度で製造する方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、木質バイオマスとして広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を原料として使用し、酵素による糖化工程と、D−乳酸生産菌による発酵工程とを順次行うことによって、D−乳酸を高い生産量かつ高い生成速度で製造できることを見出した。これにより本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(a)広葉樹漂白クラフトパルプを酵素で糖化することにより酵素糖化液を得る工程:及び
(b)前記工程(a)で得た酵素糖化液をD−乳酸生産菌を用いて発酵することによりD−乳酸を生産する工程:
を含むD−乳酸の製造方法。
【0011】
(2) 前記工程(a)で得た酵素糖化液が、グルコースを含む液である、(1)に記載のD−乳酸の製造方法。
(3) 前記D−乳酸生産菌が、ラクトバシラス属乳酸菌である、(1)又は(2)に記載のD−乳酸の製造方法。
【0012】
(4) 前記D−乳酸生産菌が、ラクトバシラス・デルブルキに属する乳酸菌である、(1)から(3)の何れか1項に記載のD−乳酸の製造方法。
(5) 前記工程(b)における発酵をpH5〜7、温度30℃〜50℃で撹拌して行う、(1)から(4)の何れか1項に記載のD−乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、木質バイオマス・パルプを原料として使用し、D−乳酸生産菌を用いてD−乳酸を高い生産量かつ高い生成速度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、LBKP酵素糖化液(本発明)及びグルコース(比較例)からD−乳酸を製造した場合における、D−乳酸生成量及びグルコース量の推移を示す。黒丸はLBKP酵素糖化液(本発明)の場合を示し、白三角はグルコース(比較例)の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
<原料>
本発明において、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を原料として使用する。LBKPを製造するための原料として使用する木材チップとしては、ユーカリ、オーク、アカシア、ビーチ、タンオーク、オルダー等の広葉樹材であれば特に限定されない。また、使用する広葉樹材に多少の針葉樹材を含まれていても構わない。
【0016】
上記した木材チップをクラフト蒸解処理に供し、次いで漂白処理に供することによって、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を得ることができる。
クラフト蒸解は公知の方法により行うことができる。例えば、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは20〜35%であり、有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当たり5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%であり、蒸解温度は140〜170℃である。しかし、クラフト蒸解の条件はこれらに限定されるものではない。また、クラフト蒸解方式は、連続蒸解法あるいはバッチ蒸解法のどちらでもよく、連続蒸解釜を用いる場合は、蒸解白液を分割で添加する蒸解法でもよく、その方式は特に限定されない。
【0017】
蒸解に際して使用する蒸解液には、蒸解助剤として公知の環状ケト化合物を使用することができる。例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、或いは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種又は2種以上が添加されてもよい。添加率は特に限定されないが、一般的には、木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0質量%である。
【0018】
クラフト蒸解法により得られた未漂白化学パルプは、所望により、洗浄工程を経て、公知の酸素脱リグニン法により脱リグニンすることができる。酸素脱リグニン法に用いるアルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができる。酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(PRESSURE Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0019】
酸素脱リグニン工程では、前記酸素ガスとアルカリが中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され、混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素ガスの添加率は特に限定されないが、絶乾パルプ質量当たり0.5〜3質量%であり、アルカリ添加率は0.5〜4質量%である。また、反応温度は80〜120℃で、反応時間は15〜100分であり、パルプ濃度は8〜15質量%であるが、これらの条件は特に限定されない。
【0020】
酸素脱リグニンを施されたパルプは洗浄工程へ送ることができる。酸素脱リグニン後の洗浄工程で使用する洗浄機、及び多段漂白工程中の洗浄に使用する洗浄機は、特に限定されるものではない。例えば、プレッシャーディフューザー、ディフュージョンウオッシャー、加圧型ドラムウオッシャー、水平長網型ウオッシャー、プレス洗浄機等を挙げることができる。
【0021】
上記の通り脱リグニン処理されたパルプは多段漂白工程へ供することができる。多段漂白工程は、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)といった公知のECF漂白法を組合せて行うことができる。また、多段漂白工程中に、高温酸処理段(A)や酸洗浄段、酵素処理段、高温二酸化塩素漂白段、過硫酸や過酢酸等による過酸漂白段を導入することもできる。多段漂白工程中には、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)やジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段等を導入することもできる。
【0022】
上記により、本発明において原料として使用する広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を得ることができる。
【0023】
また、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)に対しては、LBKP懸濁液の調製に使用する前に、殺菌処理を行うこともできる。LBKP原料中に雑菌が混入していると、酵素による糖化を行う際に雑菌が糖を消費して生成物の収量が低下してしまうという問題が発生する。殺菌処理は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化・発酵工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温高圧殺菌した場合も、室温もしくは糖化工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
【0024】
<糖化処理>
本発明においては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を、発酵処理に先立って、糖化処理する。
【0025】
糖化処理においては、LBKPは、適量の水と酵素と混合され、糖化発酵工程に供給される。LBKPの懸濁濃度は、1〜30質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、最終的に生産物の濃度が低すぎて生産物の濃縮のコストが高くなるという問題が発生する。また、30質量%を超えて高濃度となるにしたがって原料の攪拌が困難になり、生産性が低下するという問題が発生する。
【0026】
糖化で使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素である。各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤は、上記の各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多いので市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
【0027】
市販のセルラーゼ製剤としては、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス(Trametes)属、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤がある。このようなセルラーゼ製剤の市販品としては、全て商品名で、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、GC220(ジェネンコア社製)等が挙げられる。
【0028】
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
【0029】
糖化処理でのpHは3.5〜10.0の範囲にすることが好ましく、4.0〜7.5の範囲に維持することがより好ましい。
【0030】
糖化処理の温度は、酵素の至適温度の範囲内であれば特に制限はなく、通例25〜60℃が好ましく、45〜55℃がさらに好ましい。反応は、連続式が好ましいが、バッチ方式でも良い。反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜120時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。
【0031】
<発酵処理>
上記した糖化工程により得られた酵素糖化液は、発酵処理に供される。
発酵処理に用いられる微生物としては、糖類(六炭糖、五炭糖)を発酵して、D−乳酸を製造できるD−乳酸生産菌であれば特に限定はされない。D−乳酸生産菌としては、例えば、ラクトバシラス属 (Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、エンテロコッカス属 (Enterococcus)、ラクトコッカス属 (Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ロイコノストック属 (Leuconostoc)、又はスポロラクトバシラス属(Spololactobacillus属)に属する細菌を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、ラクトバシラス・デルブルキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)などを挙げることができるが、特にこれらに限定されない。また、遺伝子組換え技術を用いて作製した遺伝子組換え微生物(細菌等)を用いることもできる。遺伝子組換え微生物としては、六炭糖又は五炭糖を発酵してD−乳酸を生産できる微生物を特に制限なく用いることができる。
【0032】
微生物は固定化しておいても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収するという工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。
【0033】
発酵処理でのpHは3.0〜10.0の範囲にすることが好ましく、3.5〜7.5の範囲に維持することがより好ましく、4.0〜7.0の範囲に維持することがさらに好ましい。
【0034】
発酵処理の温度は、酵素の至適温度の範囲内であれば特に制限はなく、通例25〜60℃が好ましく、30〜55℃がさらに好ましい。反応は、連続式が好ましいが、バッチ方式でも良い。反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜160時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。
【0035】
<D−乳酸の回収>
上記した発酵により生産されたD−乳酸は、発酵液から公知の方法により分離・精製することにより回収することができる。例えば、発酵液を、遠心分離や濾過等によって不溶な物質(菌体など)を除去した後、イオン交換樹脂などで脱塩し、その溶液から、結晶化やカラムクロマトグラフィー等の常法に従って所望の乳酸を分離・精製することができる。
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:
本実施例で用いた糖化発酵は、(1)パルプを酵素による糖化処理を行って酵素糖化液を得た後に、(2)D−乳酸生産菌(
Lactobacillus delbrueckii)による乳酸発酵を行う2工程から成る。
【0037】
(1)酵素糖化液の調製
本発明においては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を発酵処理に先立って、糖化処理するため、LBKPを製造した。
<LBKP製造方法>
広葉樹混合木材チップ(ユーカリ70%、アカシア30%)を用い、液比4、硫化度28%、有効アルカリ添加率17%(Na
2Oとして)となるように調製した蒸解白液に木材チップに加えた後、蒸解温度160℃にて2時間クラフト蒸解を行なった。クラフト蒸解終了後、黒液を分離し、得られたチップを解繊後、遠心脱水と水洗浄を3回繰り返し、次いでスクリーンにより未蒸解物を除き、蒸解未漂白パルプを得た。この未漂白パルプ絶乾質量に対して、NaOHを2.0質量%添加し、酸素ガスを注入し、100℃で60分間酸素脱リグニン処理を行なった。続いて、酸素脱リグニンパルプを、D−E−P−Dの4段漂白処理に供した。漂白時のパルプ濃度は全て10質量%に調製し、最初の二酸化塩素処理(D)は、対絶乾パルプの二酸化塩素添加率1.0質量%、70℃、40分間処理を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対してNaOH添加率を1質量%として、70℃、90分間のアルカリ抽出処理(E)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対して過酸化水素添加率を0.2質量%、NaOH添加率を0.5質量%とし、70℃、120分間の過酸化水素処理(P)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対して二酸化塩素添加率を0.2質量%とし、70℃、120分間の二酸化塩素処理(D)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水後、白色度85%の漂白パルプ(LBKP)を得た。
【0038】
<LBKPの糖化処理>
所定量の水が入れられている容量300mLの培養容器に、LBKP絶乾10%と終濃度10mMとなるように酢酸緩衝液(pH5.0)を加えて、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)した。次に、0.22μmのディスクフィルター(DISMIC 13HP020AN、ADVANTEC社製)で無菌ろ過したセルラーゼ製剤GC220(ジェネンコア社製)を、反応液に対して10質量%添加して、全量100mLの反応液を調製した。反応液は、処理温度を50℃として、回転振とう培養機の回転数120rpmで24時間、糖化反応を行った。
【0039】
得られた糖化反応液のグルコース濃度は、糖化反応液を適量採取し、遠心分離後、上清を0.22μmのディスクフィルター(DISMIC 13HP020AN、ADVANTEC社製)でろ過し、脱イオン水で希釈して測定用試料とした。この測定用試料について、グルコース電極(EDO05-0003/王子計測機器社製)を使用して、バイオセンサー(BF-5/王子計測機器社製)で測定した。
【0040】
(2)D−乳酸発酵
<前培養>
−80℃で凍結保存したLactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NBRC3202株[独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)から入手可能]を解凍した。オートクレーブにより滅菌した前培養培地(1体積%ポリペプトン(日本製薬社製)、1体積%酵母エキス(BD社製)、1体積%グルコース(和光純薬社製)、0.02体積%硫酸マグネシウム七水和物(和光純薬社製)pH6.6−7.0)10mlに植菌した。37℃、48-72時間静置培養を行ない、前々培養液を調製した。さらに、滅菌処理した前培養培地30mlに、前々培養液を0.9ml接種する。これを37℃、48時間静置培養を行ない、前培養液を調製した。
【0041】
<本培養>
本培養培地(1体積%ポリペプトン(日本製薬社製)、1体積%酵母エキス(BD社製)、0.02体積%硫酸マグネシウム七水和物(和光純薬社製) pH6.6−7.0)を500mL容の培養容器に入れてオートクレーブ滅菌した。これにグルコース濃度を最終30g/Lになるように上記糖化反応液を添加して、容量を200mLに調製した。上記前培養液を4ml接種し、37℃にて培養した。この際、培養開始後24時間はpHの制御は行わずに嫌気的に培養し、24時間後から5M アンモニア水を添加することにより、pH6.0に制御して攪拌培養した。培養液のグルコース濃度は、糖化反応液のグルコース濃度測定と同様に行った。
【0042】
培養液のD-乳酸およびL-乳酸濃度は、培養液を適量採取し、遠心分離後、上清を0.22μmのディスクフィルターでろ過し、脱イオン水で希釈した測定用試料を、次の条件でHPLC法により測定した。
カラム:住化分析センター製 Sumichiral OA−5000(内径:4.6mm、カラム長:15.0cm)
溶媒: 2mM 硫酸銅水溶液/2−プロパノール 98/2
流速: 1mL/分
検出器:UV(紫外線吸収、波長:254nm)
カラム温度:30℃
【0043】
また、D-乳酸の光学純度は次式で計算した。
D-乳酸の光学純度(%ee)={(D−乳酸濃度)−(L−乳酸濃度)}/[(D−乳酸濃度)+(L−乳酸濃度)}×100
【0044】
比較例1:
LBKPの酵素糖化液(糖化処理後、本培養のグルコース濃度 30g/Lに調製)の代わりにグルコース(和光純薬社製)溶液(30g/L)を用いる以外は実施例1と同様に実験を行った。これによりD−乳酸生産菌 Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NBRC3202株を用いてD−乳酸の生成を確認した。
【0045】
実施例1及び比較例1の結果を
図1に示す。LBKP酵素糖化液(グルコース30g/L含有)からは、2日間でグルコースを全量消費して、D−乳酸48.5g/Lが生成した。一方、グルコース溶液(30g/L)からは、5日間でグルコースを全量消費して、D−乳酸44.2g/Lが生成した。上記の結果から、LBKP酵素糖化液の方がグルコースより早く発酵が進行することが示された。