特許第6331331号(P6331331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331331
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20180521BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180521BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C09J11/06
   C09J163/02
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-222283(P2013-222283)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83638(P2015-83638A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】上西 和也
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−306221(JP,A)
【文献】 特表平08−508533(JP,A)
【文献】 特表2002−504602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される化合物(A)とを含有し、
前記化合物(A)の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して5〜35質量部である、エポキシ樹脂接着剤組成物であって、
前記エポキシ樹脂接着剤組成物中に存在する下記式(1)中の全てのL12のうち、下記式(1a)で表される2価の基の割合が、20%超75%未満である、エポキシ樹脂接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、L11は、n−ヘプチレン基を表す。L12は、下記式(1a)または(1b)で表される2価の基を表す。L13は、n−オクチル基を表す。複数あるL11、L12およびL13は、それぞれ同一であっても異なってもよい。)
【化2】
(式(1a)および式(1b)中、*は、結合位置を表す。)
【請求項2】
前記化合物(A)が、オレイン酸トリグリセライドをエポキシ化することで得られるエポキシ化オレイン酸トリグリセライドである、請求項1に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【請求項4】
さらにアミン系硬化剤を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【請求項5】
前記オレイン酸トリグリセライドが、オレイン酸トリグリセライドを80質量%以上含有する油脂中のオレイン酸トリグリセライドである、請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【請求項6】
前記油脂が、ハイオレイックひまわり油または椿油である、請求項に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のルーフレールやピラー等の部位において、車体剛性や強度の確保等を目的として、スポット溶接と接着剤を併用した工法(ウェルドボンド工法)が採用されている。ここで、安全面やスポット溶接におけるスポット数を減らす観点などから、ウェルドボンド工法に用いられる接着剤には鋼板に対する高い接着力が求められる。また、自動車の走行時においてルーフレールやピラー等の部位は高温になるため、硬化後に優れた耐熱性(例えば、Tgが80℃以上)を示すことが求められる。
【0003】
上記ウェルドボンド工法に用いられる接着剤として、例えば、特許文献1には、「ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)65〜98重量部、ブロックイソシアネートを含有するウレタン変性エポキシ樹脂(B)35〜2重量部(ここでエポキシ樹脂(A)と変性エポキシ樹脂(B)との合計量は100重量部となるようにする)、カルボキシル基含有ブタジエン・アクリロニトリル液状ゴム(C)5〜50重量部および硬化剤(D)からなる構造用接着剤に適したエポキシ樹脂組成物。」が開示されている(請求項1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−148337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、自動車に対するさらなる安全性向上が望まれる中、ウェルドボンド工法に用いられる接着剤にはより一層の接着力が求められている。
このようななか、本発明者らが、特許文献1を参考に、エポキシ樹脂および硬化剤を含有するエポキシ樹脂接着剤組成物を製造したところ、その接着力は昨今求められているレベルを満たすものではないことが明らかとなった。
【0006】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、高い接着力および硬化後に優れた耐熱性を示すエポキシ樹脂接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、エポキシ樹脂にグリセリン脂肪酸エステル誘導体である特定の化合物を所定量配合することで、高い接着力および硬化後に優れた耐熱性を示すことを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
(1) エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される化合物(A)とを含有し、
上記化合物(A)の含有量が、上記エポキシ樹脂100質量部に対して5〜35質量部である、エポキシ樹脂接着剤組成物であって、
上記エポキシ樹脂接着剤組成物中に存在する下記式(1)中の全てのL12のうち、下記式(1a)で表される2価の基の割合が、20%超75%未満である、エポキシ樹脂接着剤組成物。
【化1】
(式(1)中、L11は、単結合またはアルキレン基を表す。L12は、下記式(1a)または(1b)で表される2価の基を表す。L13は、水素原子またはアルキル基を表す。複数あるL11、L12およびL13は、それぞれ同一であっても異なってもよい。)
【化2】
(式(1a)および式(1b)中、*は、結合位置を表す。)
(2) 上記L11が、n−ヘプチレン基であり、上記L13が、n−オクチル基である、上記(1)に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
(3) 上記化合物(A)が、オレイン酸トリグリセライドをエポキシ化することで得られるエポキシ化オレイン酸トリグリセライドである、上記(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
(4) 上記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
(5) さらにアミン系硬化剤を含有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
(6) 上記オレイン酸トリグリセライドが、オレイン酸トリグリセライドを80質量%以上含有する油脂中のオレイン酸トリグリセライドである、上記(3)〜(5)のいずれかに記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
(7) 上記油脂が、ハイオレイックひまわり油または椿油である、上記(6)に記載のエポキシ樹脂接着剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
以下に示すように、本発明によれば、高い接着力および硬化後に優れた耐熱性を示すエポキシ樹脂接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のエポキシ樹脂接着剤組成物について説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂接着剤組成物(以下、単に本発明の組成物とも言う)は、エポキシ樹脂と、後述する式(1)で表される化合物(A)とを含有し、上記化合物(A)の含有量が、上記エポキシ樹脂100質量部に対して5〜35質量部である。
ここで、エポキシ樹脂接着剤組成物中に存在する後述する式(1)中の全てのL12のうち、後述する式(1a)で表される2価の基の割合は、20%超75%未満である。
本発明の組成物はこのような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。
【0012】
その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
上述のとおり、本発明の組成物は、エポキシ樹脂とグリセリン脂肪酸エステル誘導体である後述する式(1)で表される化合物(A)とを含有する。
ここで、化合物(A)は、組成物全体の平均として所定量のエポキシ構造(後述する式(1a)で表される2価の基)を有する。そのため、本発明の組成物において、エポキシ樹脂と化合物(A)は極めて高い相溶状態にある。
そして、このような本発明の組成物を硬化させた場合、エポキシ樹脂同士の反応に加えて、エポキシ樹脂と化合物(A)の有するエポキシ構造とが反応し、結果として、エポキシ樹脂中に化合物(A)が均一に取り込まれた三次元架橋構造が形成されるものと考えられる。すなわち、エポキシ樹脂に由来するリジッドな構造(耐熱性に優れる構造)と化合物(A)に由来する柔軟性に富む構造(靭性に優れる構造)とが均一に繋がった三次元架橋構造が形成されるものと考えられる。結果として、本発明の組成物は、高い接着力を示し、また、硬化後には優れた耐熱性を示すものと考えられる。
このことは、後述する比較例が示すように、化合物(A)を含有しない場合(比較例1および8)や、化合物(A)を含有するがエポキシ構造の量が所定の範囲にない場合(比較例2〜7および9〜11)には、接着力および/または硬化後の耐熱性が不十分となることからも推測される。
【0013】
以下、本発明の組成物に含有される各成分について説明する。
【0014】
<エポキシ樹脂>
本発明の組成物に含有されるエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物からなる樹脂であれば特に制限されない。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型などのビスフェニル基を有するエポキシ樹脂;ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ樹脂;ナフタレン環を有するエポキシ樹脂;フルオレン基を有するエポキシ樹脂;などの二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
その他に、上記エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型などの多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸などの合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N−ジグリシジルアニリンなどのグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;トリシクロデカン環を有するエポキシ樹脂(例えば、ジシクロペンタジエンと、m−クレゾールなどのクレゾール類またはフェノール類とを重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ樹脂);などが挙げられる。
【0016】
エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されないが、170〜300g/eqであることが好ましい。
また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量も特に制限されないが、150〜200g/eqであることが好ましい。
【0017】
本明細書において、エポキシ樹脂には後述する化合物(A)は含まれない。
本発明の組成物に含有されるエポキシ樹脂はエステル結合を有さないのが好ましい。
【0018】
<化合物(A)>
化合物(A)は、下記式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化3】
【0020】
上記式(1)中、L11は、単結合またはアルキレン基を表す。
アルキレン基としては特に制限されないが、炭素数5〜10のアルキレン基であることが好ましく、n−へプレチレン基であることがより好ましい。
【0021】
上記式(1)中、L12は、下記式(1a)または(1b)で表される2価の基を表す。
【0022】
【化4】
【0023】
上記式(1a)および式(1b)中、*は、結合位置を表す。
【0024】
上記式(1)中、L13は、水素原子またはアルキル基を表す。
アルキル基としては特に制限されないが、炭素数5〜10アルキル基であることが好ましく、n−オクチル基であることがより好ましい。
【0025】
複数あるL11、L12およびL13は、それぞれ同一であっても異なってもよい。
【0026】
上記式(1)中、全てのL11がn−ヘプチレン基であり、かつ、全てのL13がn−オクチル基であることが好ましい。すなわち、化合物(A)は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化5】
【0028】
上記式(2)中のL12の定義は上述した式(1)中のL12と同じである。
複数あるL12は、同一であっても異なってもよい。
【0029】
(割合P)
本発明の組成物中に存在する上記式(1)中の全てのL12のうち、上記式(1a)で表される2価の基の割合(以下、割合Pとも言う)は、20%超75%未満である。すなわち、上記式(1)中のL12のうち、上記式(1a)で表される2価の基の割合は、組成物全体の平均として20%超75%未満である。
割合Pは30%以上70%以下であることが好ましい。
【0030】
割合Pは、例えば以下のように算出される。
組成物中に化合物(A)である下記式(1−1)で表される化合物が1つ存在し、他に化合物(A)が存在しない場合、組成物中に存在するL12は3つであり、そのうち、上記式(1a)で表される2価の基は1つであるため、割合Pは33%(=1/3)となる。
また、組成物中に下記式(1−2)で表される化合物が1つ存在し、他に化合物(A)が存在しない場合、組成物中に存在するL12は3つであり、そのうち、上記式(1a)で表される2価の基は2つであるため、割合Pは67%(=2/3)となる。
また、組成物中に下記式(1−3)で表される化合物が1つ存在し、他に化合物(A)が存在しない場合、組成物中に存在するL12は3つであり、そのうち、上記式(1a)で表される2価の基は3つであるため、割合Pは100%(=3/3)となる。
また、組成物中に下記式(1−1)〜(1−3)で表される化合物が1つずつ存在し、他に化合物(A)が存在しない場合、組成物中に存在するL12は9つであり、そのうち、上記式(1a)で表される2価の基は6つであるため、割合Pは67%(=6/9)となる。
【0031】
【化6】
【0032】
割合Pが20%以下または75%以上であると、接着力および/または硬化後の耐熱性が不十分となる。
【0033】
(好適な態様)
化合物(A)は、オレイン酸トリグリセライドをエポキシ化することで得られるエポキシ化オレイン酸トリグリセライドであることが好ましい。
化合物(A)が、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドである場合、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドのエポキシ化率(以下、単にエポキシ化率とも言う)は、20%超75%未満であることが好ましい。
ここで、エポキシ化率は、オレイン酸トリグリセライドが有する3つの炭素−炭素二重結合(上記式(1b)で表される2価の基)のうち、エポキシ化により上記式(1a)で表される2価の基に変化した割合を表す。例えば、以下の合成スキームに示されるように、オレイン酸トリグリセライドの3つの炭素−炭素二重結合のうち1つが、エポキシ化により上記式(1a)で表される2価の基に変化した場合、エポキシ化率は33%(=1/3)である。
【0034】
【化7】
【0035】
上記エポキシ化率は、平均値を表す。すなわち、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドが1種のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドから構成される場合、エポキシ化率は、上記1種のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドのエポキシ化率を表し、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドがエポキシ化率の異なる複数種のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドから構成される場合、エポキシ化率は、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドを構成する各エポキシ化オレイン酸トリグリセライドのエポキシ化率のモル平均値を表す。例えば、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドがエポキシ化率33%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライド(0.8モル)およびエポキシ化率67%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライド(0.2モル)から構成される場合、エポキシ化率は40%(=33%×0.8+67%×0.2)である。
エポキシ化率は、NMRスペクトルにおける二重結合に由来するピークの減少した割合などから算出することができる。
なお、エポキシ化オレイン酸トリグリセライドはオレイン酸トリグリセライドを含有してもよい。エポキシ化オレイン酸トリグリセライドがオレイン酸トリグリセライドを含有する場合、含有されるオレイン酸トリグリセライドをエポキシ化率が0%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドとして、エポキシ化率を算出する。
【0036】
組成物中に含有される化合物(A)が全てエポキシ化オレイン酸トリグリセライドである場合、割合Pは、組成物中に含有されるエポキシ化オレイン酸トリグリセライドのエポキシ化率と等しくなる。
【0037】
化合物(A)が、オレイン酸トリグリセライドをエポキシ化することで得られるエポキシ化オレイン酸トリグリセライドである場合、上記オレイン酸トリグリセライドは、オレイン酸トリグリセライドを80質量%以上含有する油脂中のオレイン酸トリグリセライドであることが好ましい。
また、上記油脂は、ハイオレイックひまわり油(ハイオレイン酸ひまわり油)または椿油であることが好ましい。
【0038】
本発明の組成物において、化合物(A)の含有量は上記エポキシ樹脂100質量部に対して5〜35質量部である。化合物(A)の含有量は、より高い接着力を示す理由から、上記エポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、25質量部超であることがより好ましく、なかでも、35質量部未満であることがさらに好ましい。
化合物(A)の含有量が上記エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部未満または35質量部超であると接着力が不十分となる。
【0039】
<任意成分>
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含むことができる。
そのような他の成分としては、例えば、可塑剤、充填剤、反応性希釈剤、硬化剤、硬化触媒、チクソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、乾性油、接着性付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤、溶剤などが挙げられる。
【0040】
(硬化剤)
本発明の組成物は、硬化剤を含有するのが好ましい。
硬化剤としては特に制限されないが、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物などのカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタンなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
硬化剤は、芳香族アミンや脂肪族アミンなどのアミン系硬化剤であることが好ましく、アミンアダクト系硬化剤であることがより好ましい。
本発明の組成物において、硬化剤の含有量は特に制限されないが、エポキシ樹脂100質量部に対して、10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。
【0041】
(シリカ)
本発明の組成物は、硬化物の強度が向上する理由から、シリカを含有するのが好ましい。
シリカとしては特に制限されないが、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、親水性フュームドシリカ、珪藻土などが挙げられる。
本発明の組成物において、シリカの含有量は特に制限されないが、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0042】
<本発明の組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した各成分を、従来公知の装置を用いて、均質に混合する方法などが挙げられる。
【0043】
<本発明の組成物の硬化方法>
本発明の組成物の硬化方法は特に限定されず、例えば、任意の被着体に塗布して、100〜200℃で10分〜2時間加熱する方法などが挙げられる。
【0044】
<用途>
本発明の組成物は、高い接着力および硬化後に優れた耐熱性を示すことから、例えば、構造用接着剤として好ましく使用できる。ここで「構造用接着剤」とは、長時間大きな荷重がかかっても接着特性の低下が少なく、信頼性の高い接着剤(JIS K6800)である。例えば、自動車や車両(新幹線、電車)、土木、建築、エレクトロニクス、航空機、宇宙産業分野の構造部材の接着剤として使用できる。本発明の組成物は、特に自動車や車両(新幹線、電車)などの自動車構造用接着剤や車両構造用接着剤として好適に使用できる。
また、本発明の組成物は、構造用接着剤のほか、一般事務用、医療用、炭素繊維、電子材料用などの接着剤としても使用できる。電子材料用の接着剤としては、例えば、ビルドアップ基板などの多層基板の層間接着剤、光学部品接合用接着剤、光ディスク貼り合わせ用接着剤、プリント配線板実装用接着剤、ダイボンディング接着剤、アンダーフィルなどの半導体用接着剤、BGA補強用アンダーフィル、異方性導電性フィルム(ACF)、異方性導電性ペースト(ACP)などの実装用接着剤などが挙げられる。
また、本発明の組成物は、接着剤として使用するほかに、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が使用される一般用途向けの物品にも使用できる。例えば、塗料、コーティング剤、成形材料(シート、フィルム、FRPなどを含む)、絶縁材料(プリント基板、電線被覆などを含む)、封止剤、フラットパネルディスプレー用シール剤、繊維の結束剤などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<合成例1:化合物1>
200mlナスフラスコにハイオレイックひまわり油(オレイン酸トリグリセライドの含有量:80質量%)20.0gとギ酸9.4gを仕込み、氷浴下で攪拌した。ここに過酸化水素水(過酸化水素濃度:35質量%)13.3gを15分かけてゆっくりと滴下した。ゆっくりと室温まで昇温しながら20時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlを加え反応をクエンチし、ヘキサンで抽出した。ヘキサンを留去し、アセトンで再結晶することで、エポキシ化オレイン酸トリグリセライド(白色の固体、13.1g、収率62%、融点42℃)を得た。得られたエポキシ化オレイン酸トリグリセライドを化合物1とする。化合物1は、ハイオレイックひまわり油中のオレイン酸トリグリセライドが有する炭素−炭素二重結合をエポキシ化することで得られたものである。
NMRを用いて化合物1を同定したところ、化合物1は、エポキシ化率が100%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドであった。以下に合成スキームを示す。
【0047】
【化8】
【0048】
<合成例2:化合物2>
200mlナスフラスコにハイオレイックひまわり油(オレイン酸トリグリセライドの含有量:80質量%)22.0gとギ酸6.0gを仕込み、氷浴下で攪拌した。ここに過酸化水素水(過酸化水素濃度:35質量%)8.9gを15分かけてゆっくりと滴下した。ゆっくりと室温まで昇温しながら20時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlを加え反応をクエンチし、ヘキサンで抽出した。ヘキサンを留去し、エポキシ化オレイン酸トリグリセライド(無色液体と白色固体の混合物、21.5g、収率96%)を得た。得られたエポキシ化オレイン酸トリグリセライドを化合物2とする。化合物2は、ハイオレイックひまわり油中のオレイン酸トリグリセライドが有する炭素−炭素二重結合をエポキシ化することで得られたものである。
NMRを用いて化合物2を同定したところ、化合物2は、エポキシ化率が67%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドであった。
【0049】
<合成例3:化合物3>
200mlナスフラスコにハイオレイックひまわり油(オレイン酸トリグリセライドの含有量:80質量%)100.0gとギ酸7.9gを仕込み、氷浴下で攪拌した。ここに過酸化水素水(過酸化水素濃度:35質量%)10.4gを15分かけてゆっくりと滴下した。ゆっくりと室温まで昇温しながら20時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlを加え反応をクエンチし、ヘキサンで抽出した。ヘキサンを留去し、エポキシ化オレイン酸トリグリセライド(無色液体、98.4g、収率97%)を得た。得られたエポキシ化オレイン酸トリグリセライドを化合物3とする。化合物3は、ハイオレイックひまわり油中のオレイン酸トリグリセライドが有する炭素−炭素二重結合をエポキシ化することで得られたものである。
NMRを用いて化合物3を同定したところ、化合物3は、エポキシ化率が33%のエポキシ化オレイン酸トリグリセライドであった。
【0050】
<化合物4>
オレイン酸トリグリセライドを化合物4とする。化合物4のエポキシ化率は0%である。
【0051】
<化合物X1>
ハイリノール酸ひまわりオイル(リノール酸トリグリセライドの含有率:50質量%)を化合物X1とする。
【0052】
<合成例X2:化合物X2>
200mlナスフラスコにハイリノール酸ひまわりオイル(リノール酸トリグリセライドの含有率:50質量%)9.76gとギ酸5.58gを仕込み、氷浴下で攪拌した。ここに過酸化水素水(過酸化水素濃度:35質量%)8.54gを60分かけてゆっくりと滴下した。ゆっくりと室温まで昇温しながら20時間攪拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlを加え反応をクエンチし、ヘキサンで抽出した。ヘキサンを留去し、エポキシ化リノール酸トリグリセライド(無色液体と白色固体の混合物、9.57g、収率93%)を得た。得られたエポキシ化リノール酸トリグリセライドを化合物X2とする。化合物X2は、ハイリノール酸ひまわりオイル中のリノール酸トリグリセライドが有する炭素−炭素二重結合をエポキシ化することで得られたものである。
NMRを用いて化合物X2を同定したところ、化合物X2は、リノール酸トリグリセライドが有する6つの炭素−炭素二重結合のうち平均して3つが、エポキシ化により上述した式(1a)で表される2価の基に変化した化合物であった。
【0053】
<化合物A1〜A11の調製>
下記第1表に示される成分を同表に示される割合(質量部)で配合し、あわとり練太郎ARE−310(シンキー社製)を用いて混合して、化合物A1〜A11を調製した。
【0054】
第1表に記載の化合物1〜4は上述した化合物1〜4を表す。また、第1表に記載のエポキシ化率は化合物A1〜A11のエポキシ化率を表す。なお、第1表中、化合物1〜4の直下に記載の数値(100%、67%、33%、0%)はそれぞれ化合物1〜4のエポキシ化率を表す。
【0055】
【表1】
【0056】
<実施例1〜14および比較例1〜15>
下記第2表に示される成分を同表に示される割合(質量部)で配合し、あわとり練太郎ARE−310(シンキー社製)を用いて混合して、エポキシ樹脂接着剤組成物を調製した。得られた各エポキシ樹脂接着剤組成物について以下の評価を行った。
【0057】
<接着力の評価>
SPCC鋼板(0.8mm×25mm×100mm)をMEK(メチルエチルケトン)に浸漬して、その表面を洗浄した。このようなSPCC鋼板を2枚用意した。片方のSPCC鋼板の表面にエポキシ樹脂接着剤組成物を塗布し、さらに、塗布したエポキシ樹脂接着剤組成物の上に他方のSPCC鋼板を重ね合わせた(重ね長さ:12.5mm)。その後、150℃のオーブンで30分加熱して硬化させ、接着力を評価するためのサンプルとした。
得られたサンプルについて、JIS K 6850:1999に基づき、引張速度10mm/分の条件で接着力(引張せん断接着力)を評価した。結果を第2表に示す。ここで、比較例2〜7、比較例14〜15、実施例1〜5、および、実施例11〜14については、比較例1の引張せん断接着力を100とする指数で表した。また、比較例9〜13、および、実施例6〜10については、比較例8の引張せん断接着力を100とする指数で表した。
なお、比較例13は硬化しなかったため、引張せん断接着力を評価しなかった。
<耐熱性の評価>
接着力の評価と同様の手順でエポキシ樹脂接着剤組成物を硬化させた。得られた硬化物について、強制振動型動的粘弾性測定装置(DVE−4)を用いて、10Hz、振幅0.5〜1%の条件でTg(ガラス転移温度)を測定した。結果を第2表に示す。
Tgが高いほど耐熱性に優れる。
なお、比較例13は硬化しなかったため、Tgを評価しなかった。
【0058】
第2表に記載の割合Pは上述した割合Pを表す。また、第2表中、化合物A1〜A11の右に記載のカッコ内の数値は各化合物のエポキシ化率を表す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
上記第2表に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
・エポキシ樹脂:YD−128(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学社製)
・シリカ:アエロジル200(親水性フュームドシリカ、日本アエロジル社製)
・化合物A1〜A11:上述した化合物A1〜A11
・化合物X1〜X2:上述した化合物X1〜X2
・硬化剤1:アミキュアPN−40(アミンアダクト系硬化剤、味の素ファインテクノ社製)
・硬化剤2:EH3615S(ジシアンジアミド系、ADEKA社製)
【0063】
第2表から分かるように、化合物(A)を含有しない比較例1、化合物(A)を含有するが割合Pが20%以下である比較例2〜4、化合物(A)を含有するが割合Pが75%以上である比較例5〜7、化合物(A)を含有し、かつ、割合Pが20%超75%未満であるが、化合物(A)の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対して5質量部未満である比較例14、および、化合物(A)を含有し、かつ、割合Pが20%超75%未満であるが、化合物(A)の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対して35質量部超である比較例15と比較して、所定量の化合物(A)を含有し、かつ、割合Pが20%超75%未満である実施例1〜5および11〜14は高い接着力を示した。
また、化合物(A)を含有しない比較例8、化合物(A)を含有するが割合Pが20%以下である比較例9〜10、化合物(A)を含有するが割合Pが75%以上である比較例11、および、化合物(A)を含有せずにリノール酸トリグリセライドを含有する比較例12と比較して、所定量の化合物(A)を含有する実施例6〜10は高い接着力を示した。
また、実施例1〜14はいずれも優れた耐熱性(Tgが80℃以上)を示した。
【0064】
実施例1〜5の対比、および、実施例6〜10の対比から、割合Pが35%以上である、実施例3〜5、および、実施例8〜10の方がより高い接着力を示した。
実施例11〜14の対比から、化合物(A)の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以上である実施例12〜14の方がより高い接着力を示した。なかでも、化合物(A)の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対して25質量部超である実施例13〜14はさらに高い接着力を示した。そのなかでも、化合物(A)の含有量がエポキシ樹脂100質量部に対して35質量部未満である実施例13は特に高い接着力を示した。
【0065】
化合物(A)を含有せずにリノール酸トリグリセライドが有する炭素−炭素二重結合をエポキシ化することで得られたエポキシ化リノール酸トリグリセライドを含有する比較例13は加熱しても硬化しなかった。