(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331352
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】交差穴加工装置および交差穴の稜線加工方法
(51)【国際特許分類】
B24C 1/00 20060101AFI20180521BHJP
B24C 5/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
B24C1/00 B
B24C5/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-240857(P2013-240857)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-100854(P2015-100854A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】三辻 寛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 毅
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−009292(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0063386(US,A1)
【文献】
実開平01−129063(JP,U)
【文献】
特開2003−285268(JP,A)
【文献】
特開2004−017228(JP,A)
【文献】
特開平07−285074(JP,A)
【文献】
特開2014−208386(JP,A)
【文献】
特開平11−320277(JP,A)
【文献】
米国特許第3476323(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00
B24C 5/02
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の穴と、前記第1の穴に交差する第2の穴を有する工作物の、前記第1の穴と前記第2の穴の開口の少なくとも1つの前記開口へ、液体と硬質粒子を混合した加工液を注入する加工液注入装置を備え、前記第1の穴と前記第2の穴の交差部の稜線に発生したバリのバリ取りと、前記稜線を面取りする交差穴加工装置において、
前記加工液を注入する前記開口以外の前記開口からノズルの先端部を挿入して前記交差部に配置し、前記ノズルの先端部は、挿入される穴の内径よりも小径の外径を有するとともに、前記加工液の注入される穴に対する流入口と、前記稜線に対向する流出口を備え、前記ノズルの先端部は、前記稜線側に隙間ができるように、挿入される前記穴に対して偏心して配置される交差穴加工装置。
【請求項2】
前記ノズルを運動させるノズル駆動装置と、
前記加工液を前記ノズルから前記稜線に噴出させるように、前記加工液注入装置とノズル駆動装置を制御する制御装置を備える請求項1に記載の交差穴加工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の交差穴加工装置を用いて、第1の穴と前記第1の穴に交差する第2の穴を有する工作物の、前記第1の穴と前記第2の穴の交差部の稜線のバリ取り、または前記稜線の面取りを行なう交差穴の稜線加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物に2つの穴が交差して形成される交差穴の、交差部の稜線に発生したバリの除去や、稜線の面取り加工などを行う、交差穴加工装置および交差穴の稜線加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に複数の管路を連通して流体に所望の作用を行わせる部材において、管路を穴で形成する場合に、交差穴の交差部にバリが発生する。バリが発生すると流体の流れが乱されたり、剥離したバリ片が管路内部で詰まったりするため、バリを除去することが重要である。交差穴の交差部のバリ取りと面取り加工の方法として、穴の開口部から液体と硬質粒子の混合した加工液を穴に注入して、交差部を通過させることで、交差部のバリを除去し、面取りを行う技術がある。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−285268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術で交差部の稜線の加工を効率よく行うためには、加工液の流量を多くして交差部での流速を速くすることが行われている。この場合、交差部以外の管路部でも流速が速くなるため、管路内壁も除去される恐れがある。特に、流量を精密に管理する必要のある場合は、管路の内径寸法にも高精度が要求されるため、流速を早くすることができなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加工液の流量を多くすることなく、交差穴の交差部のバリ取りと面取り加工を効率よくできる、交差穴の稜線加工方法および交差穴加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明の特徴は、第1の穴と、前記第1の穴に交差する第2の穴を有する工作物の、前記第1の穴と前記第2の穴の開口の少なくとも1つの前記開口へ、液体と硬質粒子を混合した加工液を注入する加工液注入装置を備え、前記第1の穴と前記第2の穴の交差部の稜線に発生したバリのバリ取りと、前記稜線を面取りする交差穴加工装置において、
前記加工液を注入する前記開口以外の前記開口からノズルの先端部を挿入して前記交差部に配置し、前記ノズルの先端部は、挿入される穴の内径よりも小径の外径を有するとともに、前記加工液の注入される穴に対する流入口と、前記稜線に対向する流出口を備え
、前記ノズルの先端部は、前記稜線側に隙間ができるように、挿入される前記穴に対して偏心して配置されることである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記ノズルを運動させるノズル駆動装置と、前記加工液を前記ノズルから前記稜線に噴出させるように、前記加工液注入装置とノズル駆動装置を制御する制御装置を備えることである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に記載の交差穴加工装置を用いて、第1の穴と前記第1の穴に交差する第2の穴を有する工作物の、前記第1の穴と前記第2の穴の交差部の稜線のバリ取り、または前記稜線の面取りを行うことである。
【0008】
請求項1に係る発明によれば、ノズルにより交差穴の稜線に流速の速い加工液を噴射することが可能で、稜線に発生するバリの除去や、稜線の面取りを効率よく行い、他の部位の除去を少なくできる交差穴加工装置を実現できる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、ノズルを運動させて所望の稜線に加工液を噴出させることが可能で、稜線の状態に最適なバリの除去や、稜線の面取りを効率よく行うことができる交差穴加工装置を実現できる。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、請求項1ないし請求項2に記載の交差穴加工装置を用いることで、稜線に発生するバリの除去や、稜線の面取りを効率よく行い、他の部位の除去を少なくできる交差穴の稜線加工方法を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工液の流量を多くすることなく、交差穴の交差部のバリ取りと面取り加工を効率よくできる、交差穴加工装置および交差穴の稜線加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における交差穴加工装置の全体概念図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるノズルと交差部における配置状態を示す断面図である。
【
図5】本発明のバリ取りの工程を示す工程図である。
【
図6】本発明の実施形態におけるノズルの動作を示す図である。
【
図7】本発明の変形態様におけるノズルと交差部における配置状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する。
図1に示す交差穴加工装置1は、加工液注入装置を構成するタンク2、ポンプ3、管路4、注入口5を備え、工作物Wを保持する保持台6を備えている。タンク2内の加工液は、ポンプ3により管路4を経由して、工作物Wに装着された注入口5に供給され、工作部Wの内部を加工する。加工終了後の加工液は、保持台6からタンク2に連通する回収管路7によりタンク2に回収される。加工液は、水や油の液体と、アルミナや炭化ケイ素粉末等の硬質粒子の混合物であり、分離するのを防止するため、タンク2内の加工液を撹拌する撹拌装置8をタンク2の上部に備えている。保持台6上には、ノズル9を移動するノズル駆動装置10が固定されている。ノズル駆動装置10は、ノズル9を、図示しないモータにより前後進および回転運動させて、所望の位置に位置決めできる。
交差穴加工装置1は、所定の操作を実行することで工作物Wの交差穴の稜線を加工する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、加工液の供給を制御する加工液制御部31、ノズル駆動装置10の運動を制御するノズル駆動装置制御部32などを具備している。
【0014】
ここで、工作部Wの交差穴の種類について説明する。
図2の(a)図に示すように、貫通穴W2a(第1の穴)を形成後に上部側からドリルで貫通穴W1a(第2の穴)を形成して交差穴を構成し場合、バリWbは、上側の貫通穴W1aの周囲の稜線に発生する。
図2の(b)図に示す、貫通穴W2aを形成後に上部側からドリルで止まり穴W1bを形成した場合は、バリWbは、上側の止まり穴W1bの周囲の稜線に発生する。
図2の(c)図に示す、止まり穴W2bを形成後に上部側からドリルで貫通穴W1aを形成した場合にも、バリWbは、上側の貫通穴W1aの周囲の稜線に発生する。
【0015】
図3において、バリWbは、上側の貫通穴W1aの周囲の稜線に発生している。注入口5は貫通穴W2aの一端に装着され、ノズル9は貫通穴W2aの他端から挿入される。ノズル9のノズル軸9bに支持された先端部9aは貫通穴W2aの内径よりわずかに小さい外径を有し、注入口5に対向した先端9eに開口を備える流入口9cが設けられている。流入口9cにはスリット状の流出口9dが連通し、流出口9dは先端部9aの外周面9fに開口を備えている。
【0016】
図4に示すように、加工液は流入口9cから流出口9dに流れるが、流入口9cの流れに直角な断面積に比べて、流出口9dの流れに直角な断面積は小さく設定されている。このため、流出口9dの絞り効果により加工液は増速されて流出口9dから噴射する。
【0017】
以下に、交差穴加工装置1の作動を
図3、
図5および
図6に基づき説明する。
工作物Wを保持台6に取り付ける(S1)。注入口5を貫通穴W2aの開口部の一端に装着する。ここでは、磁力により工作部Wに吸着する(S2)。
図3に示すように、ノズル9をノズル駆動装置10により貫通穴W2aの他端の開口から、貫通穴W2aと貫通穴W1aの交差部まで挿入した後、ノズル9を回転させて第1位置へ位置決めする。第1位置は、
図6の(a)図に示す貫通穴W2aと貫通穴W1aのバリWbの発生している交差部の最下端の稜線に流出口9dが対向する位置である(S3)。ポンプ3を起動して加工液を、注入口5を経由して貫通穴W2a内部に注入する。加工液は貫通穴W2aからノズル9の流入口9cを経由して流出口9dから稜線に向かって噴出する(S4)。つぎに、ノズル9をノズル駆動装置10により
図6の(b)図に示す位置を経由して
図6の(c)図に示す位置まで所定の回転速度で回転させる。この間に貫通穴W1aの周囲の稜線のバリWbや、稜線の先端部を効率よく除去する(S5)。ポンプ3を停止して加工液の供給を停止する(S6)。ノズル9を後退させ、貫通穴W2aから抜く(S7)。注入口5を貫通穴W2aの開口部から取り外す(S8)。工作物Wを保持台6から取り外す(S9)。
【0018】
以上のように、本実施形態によれば、ノズル9の流出口9dから交差部の稜線に高速の加工液を噴出することができ、稜線のバリ除去や稜線先端の面取り加工の効率を向上することができる。交差部以外では加工液の流速が遅いので、穴の壁面を除去する作用は小さいため、穴の内径精度を低下させることがない。また、ノズル9への加工液の供給は、工作物の穴を利用して行うので、ノズルまで専用の管路で供給する方式に比較して、小型化や低コスト化が容易である。
【0019】
上記の実施形態では、ノズル9の流入口9cを先端9eに設けたが、
図7、
図8に示すように、流入口90cを先端部90aの外周面90fに設け、流出口90dを反対の外周面90fに設けてもよい。この場合、加工液は、貫通穴W1aのバリの発生している稜線と反対の稜線側の開口から注入される。こうすることで、交差する穴W2bが止まり穴の場合にもバリの除去が可能となる。
【符号の説明】
【0020】
W:工作物 W1a:貫通穴 W2a:貫通穴 W1b:止まり穴 W2b:止まり穴 Wb:バリ 1:交差穴加工装置 2:タンク 3:ポンプ 4:管路 5:注入口 6:保持台 7:回収管路 8:撹拌装置 9:ノズル 9a:先端部 9b:ノズル軸 9c:流入口 9d:流出口 10:ノズル駆動装置 30:制御装置 31:加工液制御部 32:ノズル駆動装置制御部