特許第6331395号(P6331395)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6331395蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6331395
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20180521BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180521BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20180521BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 B
   H01G11/06
   H01G11/46
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-554741(P2013-554741)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2013082413
(87)【国際公開番号】WO2014091962
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-271290(P2012-271290)
(32)【優先日】2012年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第12/029373(WO,A1)
【文献】 特開2012−169300(JP,A)
【文献】 特開2012−178224(JP,A)
【文献】 特開2009−070825(JP,A)
【文献】 特開平10−097874(JP,A)
【文献】 特開2005−243640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01G 11/06,11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを含有する酸化物材料と、Si、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種を含有する非酸化物材料と、高導電性カーボンブラックと、を含む原料をメカニカルミリング処理する工程を含むことを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物材料が、質量%で、SiO 30%以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記酸化物材料として、ガラスを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記原料が、質量%で酸化物材料 5〜95%、非酸化物材料 5〜95%、高導電性カーボンブラック 0〜20%(但し、0%を除く)を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記メカニカルミリング処理は、非酸化性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法によって製造された蓄電デバイス用負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器や電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスに用いられる負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、電池の小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、高電位型のLiCoO、LiCo1−xNi、LiNiO、LiMn等が広く用いられている。一方、負極活物質には、一般に炭素材料が用いられている。これらの材料は、充放電によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する電極活物質として機能し、非水電解液または固体電解質によって電気化学的に連結された、いわゆるロッキングチェア型の二次電池を構成する。これらの電極活物質には、例えば結着剤や導電助剤が添加され、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで電極として使用される。
【0004】
負極活物質に用いられる炭素材料には、黒鉛質炭素材料、ピッチコークス、繊維状カーボン、ソフトカーボンなどがある。しかしながら、炭素材料は、炭素1原子当たり0.17個しかリチウムを吸蔵および放出することができないため、電池の高容量化が困難であるという問題がある。具体的には、化学量論量のリチウム挿入容量を実現できたとしても、炭素材料の電池容量は約372mAh/gが限界である。
【0005】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、炭素材料からなる負極活物質を上回る高容量密度を有する負極活物質として、SiやSnを含有する負極活物質が存在する。しかしながら、SiやSnを含有する負極活物質は、充放電時におけるリチウムイオンの吸蔵および放出反応に起因する体積変化が著しく大きいため、繰り返し充放電した際に負極活物質が構造劣化して亀裂が生じやすくなる。亀裂が進行すると、場合によっては負極活物質中に空洞が形成され、微粉化してしまうこともある。その結果、電子伝導網が分断されるため、繰り返し充放電した後の放電容量(サイクル特性)の低下が問題となっていた。
【0006】
そこで、特許文献1では、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、SiやSnを含有する負極活物質と比較してサイクル特性に優れた負極活物質として、SiOを含有する負極活物質が提案されている。
【0007】
この負極活物質は、次の手順で示される気相合成法により製造される。まず、予めSi粉末とSiO粉末を混合造粒し、これを真空中で1250〜1350℃で加熱して気化させることにより、真空容器内に設けた析出基体にSiOを析出させ、SiOの固形物を得る。次に、この固形物を真空容器内から取り出し、粉砕、分級することで粉末状のSiOを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2006/011290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この製造方法で製造したSiOからなる負極活物質では、サイクル特性は向上したものの、放電容量が低くなる(例えば、400〜501mAh/g)という問題があった。
【0010】
この原因は明らかにはなっていないが、SiOを析出させる際に一部のSiOが不均化反応を引き起こし、Si成分とSiO成分に分相することによるものと推察される。このとき、SiO成分は充放電反応に寄与しない成分であるため、この負極活物質の放電容量は低くなると考えられる。
【0011】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、良好なサイクル特性と高い放電容量を有する蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、SiOを含有する酸化物材料と、Si、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種を含有する非酸化物材料と、を含む原料をメカニカルミリング処理する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
また、前記酸化物材料が、質量%で、SiO 30%以上を含有することが好ましい。酸化物材料として、ガラスを用いてもよい。
さらに、前記原料が、炭素材料を含有することが好ましい。
【0014】
さらに、前記原料が、質量%で酸化物材料 5〜95%、非酸化物材料 5〜95%、炭素材料 0〜20%を含有することが好ましい。
さらに、前記メカニカルミリング処理は、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0015】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、前記製造方法によって製造されることが好ましい。
【0016】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、一般式SiM(0<x<4、MはSi、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種)で表される材料を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、炭素材料を含むことが好ましい。
さらに、一般式SiMで表される材料中に炭素材料が分散してなることが好ましい。
【0018】
Siの結晶子サイズは、100nm以下であることが好ましい。
また、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、SiO以外のガラス成分を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好なサイクル特性と高い放電容量を有する蓄電デバイス用負極活物質を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、SiOを含有する酸化物材料と、Si、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種(以下、M成分という。)を含有する非酸化物材料と、を含む原料をメカニカルミリング処理する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
前記原料にメカニカルミリング処理することにより、原料に高い衝撃エネルギーを与えることができる。その高い衝撃エネルギーにより、酸化物材料に含有されるSiO成分と非酸化物材料に含まれるM成分が反応し、SiO成分が効率的に還元されて、SiO成分とMO成分を含む負極活物質が形成される。この負極活物質中のSiO成分が、Liイオンと電子を吸蔵・放出する役割を担い、MO成分は、SiO成分のLiイオンと電子の吸蔵・放出に伴う体積変化を緩和する役割を担う。結果として、SiO成分は、非常に高い割合でSiO成分に還元され、残存するSiO2成分とM成分が少なくなるので、良好なサイクル特性と高い放電容量を有する負極活物質が得られるようになる。
【0022】
前記非酸化物原料に含まれるMをSi、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種とすることにより、SiOを還元することが可能となる。より好ましくは、取り扱いが容易であるSi、Al、Mg、Zrであり、最も好ましくは安価であるSiである。
【0023】
メカニカルミリング処理には、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミルなどの一般的な粉砕機を用いることができる。特に、遊星型ボールミルを使用するのが好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら、台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。
【0024】
酸化物材料中のSiOの含有量は、質量%で、30%以上、50%以上、60%以上であることが好ましく、特に95%以上であることが好ましい。SiO含有量が少なすぎると、負極活物質中に形成されるSiO成分が少なくなり、高い放電容量を有する負極活物質が得られ難くなる。
【0025】
酸化物材料中のSiOは結晶、非晶質のどちらでもよい。結晶の方が安価であるため好ましい。
【0026】
また、酸化物材料としてガラスを用いてもよい。ガラスとしては、SiOの含有量が多いガラスが好ましい。具体的には、ガラス中のSiOの含有量は、質量%で、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましい。ガラスの具体例としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、リンケイ酸塩ガラス、スズケイ酸塩ガラスなどが挙げられる。
【0027】
前記酸化物材料、および前記非酸化物材料の形状は特に限定されないが、バルク状、フィルム状、粉末状等が挙げられる。好ましくは、粉末状である。
【0028】
さらに、前記原料が、炭素材料を含有することが好ましい。炭素材料を含有することにより、より短時間で酸化物材料中のSiOを還元することが可能となる。
【0029】
前記の炭素材料は、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維などを用いることができる。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0030】
また、前記原料が、質量%で酸化物材料 5〜95%、非酸化物材料 5〜95%、炭素材料 0〜20%を含有することが好ましい。より好ましくは酸化物材料 25〜90%、非酸化物材料 5〜74%、炭素材料 1〜10%である。上記構成にすることにより、良好なサイクル特性と高い放電容量を有する負極活物質が得られるようになる。
【0031】
前記メカニカルミリング処理は、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とすることにより、メカニカルミリング処理によって形成されたSiOの酸化を抑制することができる。なお、非酸化性雰囲気は、還元性雰囲気と不活性雰囲気を含む。
【0032】
還元雰囲気とするためには、メカニカルミリング処理中に還元性ガスを供給することが好ましい。還元性ガスは、体積%で、N 90〜99.5%、H 0.5〜10%、特にN 92〜99%、Hが1〜4%が好ましい。
【0033】
不活性雰囲気とするためには、メカニカルミリング処理中に不活性ガスを供給することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを用いることが好ましい。
【0034】
前記の製造方法により製造された蓄電デバイス用負極活物質は、非晶質相を含有することが好ましい。この場合、酸化物材料の結晶化度は95%以下、80%以下、70%以下、50%以下、特に30%以下であることが好ましい。結晶化度が小さい(非晶質相の割合が大きい)ほど、繰り返し充放電時の体積変化を緩和でき、良好なサイクル特性が得られやすい。
【0035】
結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルから求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出される各結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIcとした場合、結晶化度Xcは次式から求められる。
Xc=[Ic/(Ic+Ia)]×100(%)
【0036】
CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって、Siの結晶子サイズを測定することができる。Siの結晶子サイズは、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。Siの結晶子サイズを小さくすることにより、サイクル特性が向上する。Siの結晶子サイズの下限値は、特に限定されるものではないが、一般には0.3nm以上であることが好ましい。
【0037】
前記蓄電デバイス用負極活物質の形状は特に限定されないが、粉末状であることが好ましい。粉末状である場合、平均粒子径は、0.1〜20μm、0.3〜15μm、0.5〜10μm、特に1〜5μmであることが好ましい。また、最大粒子径は、150μm以下、100μm以下、75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、充放電した際にリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、集電体から剥れやすくなる。その結果、繰り返し充放電を行うと、放電容量が著しく低下する傾向がある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態に劣り、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。
【0038】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD99(99%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0039】
なお、酸化物材料、非酸化物材料を含んだ原料を用いて、前記の製造方法により製造された蓄電デバイス用負極活物質は、一般式SiM(0<x<4、MはSi、Al、Ti、Li、Mg、Zr、Caから選ばれる少なくとも1種)で表される材料を含む構成となる。
【0040】
また、前記原料が、炭素材料を含むことにより、前記の製造方法により製造された蓄電デバイス用負極活物質は、炭素材料を含む構成となる。
また、前記蓄電デバイス用負極活物質は、一般式SiMで表される材料中に炭素材料が分散した構成となりやすい。
【0041】
また、酸化物材料としてガラスを用いることにより、得られる負極活物質には、SiO以外のガラス成分が含まれる。SiO以外のガラス成分としては、例えば、Al、P、B、Bi、MgO、CaO、SrO、BaO、TiO、ZrO、LiO、NaO、KO、SnO、MnO、ZnOなどが挙げられる。負極活物質中のSiO以外のガラス成分の含有量は、質量%で、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることが特に好ましい。負極活物質中のSiO以外のガラス成分の含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、一般には5%以上である。
【0042】
本発明の製造方法により得られた蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤や導電助剤を添加することにより蓄電デバイス用負極が得られる。
【0043】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0044】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維などが挙げられる。
蓄電デバイス用負極活物質を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0045】
なお、本発明の負極活物質を用いて作製した蓄電デバイスを充放電した後は、負極活物質中に金属リチウムやリチウム酸化物(ケイ酸、リン酸、ホウ酸等の酸化物とリチウム原子が複合化されたリチウム複合酸化物も含む)等の酸化物、Si金属等、Si−Li合金等を含有する場合がある。
【0046】
本発明の方法により製造される負極活物質は、リチウムイオン二次電池だけでなく、他の非水系二次電池や、さらには、リチウムイオン二次電池用の負極活物質と非水系電気二重層キャパシタ用の正極活物質とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0047】
ハイブリットキャパシタであるリチウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの1種である。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極は既述のリチウムイオン二次電池と同様にリチウムイオンの化学反応(吸蔵および放出)により充放電する。
【0048】
リチウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボンなどの高比表面積の炭素質粉末などからなる正極活物質が用いられる。一方、負極には、本発明の方法により製造される負極活物質を用いることができる。
【0049】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
(1)負極活物質の作製
実施例1〜3の負極活物質は、SiOを含有する酸化物材料、非酸化物材料、炭素材料であるアセチレンブラックからなる原料を表1に記載の質量%になるように秤量し、その原料30gとφ5mmZrOボールを1kgとを500mL ZrOポットに入れ、遊星型ボールミル(Fritch社製P6)を用いて表1に記載の処理条件でメカノミリング処理することにより作製した。
【0051】
比較例1〜3の負極活物質は、それぞれ、結晶性Si粉末、金属Sn粉末、気相合成法で製造されたSiO粉末とした。
【0052】
得られた負極活物質について、上記の粉末X線回折測定によって、負極活物質の結晶化度及び結晶子サイズを測定し、結果を表1に示した。なお、結晶子サイズは、Siの結晶子サイズである。
【0053】
(2)負極の作製
得られた負極活物質と導電助剤と結着剤を重量パーセントで80:5:15の割合になるように秤量し、脱水したN−メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。ここで、導電助剤としてはSuperC65(Timcal社製)、結着剤としては熱硬化性ポリイミド樹脂を用いた。
【0054】
次に、隙間75μmのドクターブレードを用いて、得られたスラリーを負極集電体である厚さ20μmの銅箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度200℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の作用極(非水二次電池用負極)を得た。
【0055】
(3)試験電池の作製
コインセルの下蓋に、前記作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、および対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−40℃以下の環境で行った。
【0056】
(4)充放電試験
前記試験電池に対し、0.2Cレートで1Vから0VまでCC(定電流)充電(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)を行い、負極活物質の単位重量中に充電された電気量を求め充電容量(mAh/g)を求めた。次に、0.2Cレートの定電流で0Vから1Vまで放電(負極活物質からのリチウムイオンの放出)させ、負極活物質の単位重量中に放電された電気量を求め放電容量(mAh/g)を求めた。表2に、充放電特性の結果を示す。なお、放電容量維持率は初回放電容量と50サイクル目の放電容量の割合をいう。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
以上のように、実施例1〜3において作製された負極活物質は、初回放電容量が670〜752mAh/gと高く、放電容量維持率94〜96%と良好であった。一方、比較例1および2の負極活物質は、初回放電容量は高かったが、放電容量維持率が21〜31%と著しく低下した。比較例3の負極活物質は、放電容量維持率が79%と低く、さらに初回放電容量も483mAh/gと低かった。
【0060】
(実施例4〜9及び比較例4〜5)
SiOを含有する酸化物材料、非酸化物材料、炭素材料であるアセチレンブラックからなる原料を、表3に記載の組成になるように秤量し、上記実施例1〜3と同様にして、負極活物質を製造した。なお、実施例4及び5においては、酸化物材料として、上記実施例1〜3と同様の株式会社ニッチツ製の高純度珪石粉(商品名ワコムジル:品番HS6−3000,平均粒径11μm)を用いた。実施例6〜9においては、酸化物材料として、ガラスを用いた。
【0061】
比較例4では、実施例4と同じ原料を用い、メカニカルミリング処理を行わずに、混合物である原料を負極活物質として用いた。比較例5では、酸化物材料として、Al粉末を用いた。
得られた負極活物質について、上記の粉末X線回折測定によって、負極活物質の結晶化度及び結晶子サイズを測定し、結果を表3に示した。
【0062】
【表3】
【0063】
得られた負極活物質を用いて、上記実施例1〜3と同様にして、試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
以上のように、実施例4〜9において作製された負極活物質は、Siの結晶子サイズが、100nm以下であり、初回放電容量が708〜1466mAh/gと高く、放電容量維持率85〜99%と良好であった。一方、比較例4の負極活物質は、放電容量維持率が5%と低く、さらに初回放電容量も506mAh/gと低かった。また、比較例5の負極活物質は、初回放電容量は高かったが、放電容量維持率が53%と著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により得られる蓄電デバイス用負極活物質は、例えば、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源等の用途に利用することが可能である。